投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『地球警備ヲルスバン』外伝?


「デパート屋上でお留守番!」
空は絶好ともいえる晴天。

少し暑く感じるかもしれないくらいの直射日光だが、風の影響、時期は初春ということもあって、それほどでもないようだ。

そんな日、デパートの屋上で、とあるイベントが行われていた。


じゃかじゃかじゃっじゃかじゃかじゃっ♪
ずんぼこすこぼこべんべんべん♪(主題歌前奏)


地球警備ヲルスバン


作詞・作曲:直江雨続

うた:留守守


戸締りィ用心ンン! 火ィ〜の用〜心ぃん!!(やたら伸ばす)

スーパーヒールォォォ〜!(巻き舌) 我らがゥヲルスバァァァン!!!(シャウトぽく)

輝くボデー(ボディとは発音しない)は強さの証ぃぃ!!

ヲルスブァァァーンヌアァァックォォォォ!! 岩をも砕きぃぃ!!(声でも砕けるくらいの気合で)

ヲルスブァァァルカァァァン!! 弾幕薄いぞ!!(某艦長風に)

地球の平和を守るたむぇぇぇぇっ(うなるように)

命をかけてぇぇお・留・守・番〜!!

おお、正義の味方ぁっ

地球警備ぃ! 地球警備ぃぃ〜!!

ゥヲルゥゥゥスヴァァァン!!!(最後は絶叫)



ナレーション:「宇宙空き巣の地球侵略に気づいた巨大企業HECOMがその技術の粋を集めて変身超人スーツを作り出した。普段は警備員として働く青年留守守。実は彼こそがそのスーツを身にまとい、地球を守るために戦う『ヲルスバン』なのだ!」


……という前奏などが流れて、数瞬後。

「はーい、こんにちは〜。キィちゃんで〜す♪」

特設ステージに現れたのは、子どもたちに大人気、我らがヲルスバンの恋人、キィちゃんであった。

当然、そのステージを眺める子どもたちは、彼女の登場に歓声を上げる。

しかし、全員が全員、ばらばらに叫んでいるので、誰が何を言っているのかは不明瞭だ。

「ありがとう〜。それじゃあ、みんなのお待ちかねのヲルスバンを呼ぶんだけど、みんな、ヲルスバンは好きかな?」

ここで、キィちゃんは、耳を観客席の方に傾ける。

やはり、ばらばらに叫んでいるのでわからないが、恐らくは肯定の意味合いなのだろう。

「うん、みんな大好きみたいだね。それじゃあ、呼びましょう、ヲルスバーン!!」

「ヲルスバーンーーーーッ!!」

そんな、子どもの期待に応えるべく、少なくとも子どもたちの感性では、自分達の呼びかけと同時にヲルスバンが登場するはずだった。

しかし……。

「おーっほっほっほっほ!!」

子どもたちが予想した、あの熱く燃え滾(たぎ)る声色とは大きく異なり、高飛車な女性の声が、その場に響き渡った。

ヲルスバンの声ではない、とわかった瞬間、残念そうな表情と戸惑いの表情が、観客席に広がる。

そんな中、その高飛車な声の持ち主である女性は、どこからともなく飛び降り、その姿を子どもたちに見せつけた。

その姿は、メドューサを模した作りの兜、そして表情を隠す金属製のマスク、だが表情を隠すマスクとは裏腹に、身体を覆う衣装は、まるで水着のようなセクシーさを現している。

なお、全身を黒で統一させているため、悪役にはまさにピッタリの衣装であった。

「坊やたち、残念ね。生憎だけど、ヲルスバンはこないわよ」

その瞬間、子どもたちは「ええ〜っ!!」と奇声を上げた。

もちろん、悪女に対する憎しみも込めて。

だが、そんなんばかりじゃ話が進むはずもない。

そこで。

「あなたは一体誰なの!?」

しっかりとキィちゃんが、フォローを入れてくれた。

まあこの辺のスキルがあって、進行役ができるのだが。

「私の名前は、宇宙空き巣の怪人が一人、ヒャッキ・ヤ・コー!! さあ、私の下僕たち。サッキュバス、ウィッチ・レイズ。やぁっておしまい!!」

その言葉にあわせ、どこからともなく、サッキュバスとウィッチ・レイズが登場する。

サッキュバスは、その名にふさわしく、どこか怪しい色気を帯びた、緑髪の女性だ。

蝙蝠の柄のストッキングなどをつけてることから、某ゲームキャラを意識して作られたのは間違いないだろう。

だが、その色気とは相反して、あまり胸は大きくない。

そしてウィッチ・レイズは、やはりその名にふさわしい、だぼだぼした黒いローブを身に纏っている人物だ。

さらに、フードで顔を覆っているため、体格や表情は見えない。

「大人のお姉さんが、冥界へといざなって、ア・ゲ・ル♪」

「ふふ。子どもというのは、我が実験台にちょうどいい」

が、そのとき…。

「どーせ、むねにじしんがないんだろー! ひっこめえぐれむねー!!」

子どもの一人が、その手の女性には限りなく胸に突き刺さるような発言を容赦なくかました。

なお、ヒャッキ・ヤ・コーはそこそこのスタイルなので、けろりとしているのだが。

「「何ですってー!? このクソガキャーッ!!」」

サッキュバスとウィッチ・レイズには禁句もいいところであった。

「胸がないのは、この女だけよ! あたしも一緒にしないで!!」

と、サッキュバスは、ウィッチ・レイズを指して言う。

「はぁぁ!? あんただって、さして私と変わりないじゃない? 人のことをどうこう言えるレベルなの?」

「あんですって!?」

「何よ!!」

いつの間にか、サッキュバスvsウィッチ・レイズの構図が出来上がっていたり。

二人の背後には竜と虎が浮かび上がり、二人の視線の間には火花が散る。

というか、ウィッチ・レイズのキャラが変わっているぞ。

もちろんこんなことは、台本にあるわけがなく、台本どおりに進めていたキィちゃんはおどおどとするしかない。

しかし、そんな二人は、唐突に頭を押し出される感覚に見舞われた……と思った矢先、頭と頭がごっつんこ。

二人の不毛な戦いを止めたのは、上官であるヒャッキ・ヤ・コーであった。

二人の頭を掴んで、それを互いにぶつけたのである。

もちろん、目は冷徹なようで、その実、燃え滾る炎が舞い踊っている。

「あんなガキ相手の挑発に乗るバカがいるか! サッキュバス、ウィッチ・レイズ!」

「「ご、ごめんなさい……」」

ここで、一旦ヒャッキ・ヤ・コーが咳をして、区切る。

「……ふ、ふん。流石はヲルスバンの恋人ね。我々を仲間割れさせるとは、中々の策士。敵ながら見事というべきかしら」

「あ、あの〜……?」

力なく疑問詞を投げかけるキィちゃんだったが、そんな彼女を無視するように、ヒャッキ・ヤ・コーは話を続ける。

どうやら、これはアドリブが混じっているようだ。

「だが、貴様のような下策に乗る私ではない! 私を敗れさせるのは、策そのものを打ち破れる力のみよ!!」

ここで、ヒャッキ・ヤ・コーの口上に黙っていられなくなったのか、子どもたちが一斉に騒ぎ出した。

悪口だけならいいのだが、たまに、子どもたちが物を投げる始末。

ペットボトルやゴミを投げるのなら、まだ許容範囲内だ。

だが流石に、石を投げつけるのはやりすぎだ。

しかし、ここで珍事が勃発した。

子どもの投げつけた物全てが、ヒャッキ・ヤ・コーに向かって来たのだ。

子どもからすれば、適当に物を投げたつもりだったのだろうが、全てが全て、ヒャッキ・ヤ・コー目掛け、もしくは彼女の逃げ場を奪うようなコースで飛んでくる。

全部が直撃すれば、大怪我はともかく、小さな怪我は免れないだろう。

だが、ヒャッキ・ヤ・コーはこのような展開に慣れていた。

一旦、ヒャッキ・ヤ・コーは全身の力を抜いて、両手をぶらりとさせる構えを取ると。

「返すぜッ!!」

との言葉を言うと同時に、両手を振り上げて掌に物を吸い付ける。

そしてそのまま手に吸い付いている物を、投げつけるように振り下ろした。

幸い、その全弾が子どもに当たるのを免れていたが、ほとんどの弾が、子どもに当たる寸前を目掛けていたのであった。

この出来事に、調子に乗って石を投げていた子どもだけでなく、親たちですら、戦慄を覚えるのには十分であった。

押し黙る子どもたちを見て、ヒャッキ・ヤ・コーは安心して演技を続ける。

「まあそもそも、ヲルスバンのいないあんたたちなんか、軽ーく捻ってあげられるんだけどね、きゃはははははは!!」

だがその発言は、彼女の奮闘むなしく、物を投げる量を増やす結果となってしまっていたり。

しかし、先ほどの出来事が怖かったのか、今度はヒャッキ・ヤ・コーから狙いを外すように投げていたり。

「み、みんな。物を投げないで! こ、こんな時は、あの人を呼びましょう」

キィちゃんの発言もあって、子どもたちの投げる物は治まった。

「キャハハハ……。無駄よ無駄。アイツのバイクのタイヤはキリで空気を抜いておいたし、ヲルスウイングは現在修理中。さらに、ハコテンダー(C)の戦いを教訓に、キィの小娘、お前を先に狙うことにしたのよ! この天才の私の力を持ってしたら、アイツが来るのは不可能!」

「ううん、そんなことないわ! あの人への思いが通じれば、必ずここへ来る!」

「ヲルスバーーン!!」

「キャハハハ……! いくら言ってもわからないなんて、お馬鹿さん」

「もう一度! みんな、声を合わせて! せーの……」

「ヲルスバーーン!!」

そこで、勇ましい音楽が流れる。

「何ッ!?」

そう、ヒャッキ・ヤ・コーが叫んだときだった。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。留守を守れと俺を呼ぶ」

これまた、ヒャッキ・ヤ・コー登場時よりも高いところで名乗りを上げる人物がいた。

まあ、キャラの設定上、バカと煙は高いところが……ぐぼへっ!!(都合により、中断されました)

「サービス残業、ボーナスカット、左遷、リストラ、媚び諂い。お腹を痛めて、平日戦う父親たち。重い身体を無理して持ち上げ、家族サービスする父親の苦労を知らんのか!! 地球警備ヲルスバン、子を思う父親のため、只今推参!!」

HECOMのマークがまぶしく輝く。

ちなみに、演出上、HECOMマークに小さな電球をつけているのだが。

……さらに、なんか台詞がアレですが、とりあえず来てくれたようだ。

もちろん、子どもは意味がわからないので、ヲルスバンが来てくれたことに、素直に喜んでいる。

しかし父親たちは、お日様の元、暗い影に沈んでいったそうな。

と、そんな人たちは気にも留めず、ヲルスバンはヒャッキ・ヤ・コーの傍に降り立った。

「何だと!? 貴様に、ここまで来る手段は、全て断ったはず……」

「甘いな。人類が発明した移動手段、地下鉄が我らにはある!!」

「くぅっ!! まさか、そんな恥ずかしい格好で地下鉄に乗るとは……。天才と言われた、このヒャッキ・ヤ・コーでも見抜けなかったわ!! 然らば……サッキュバス、ウィッチ・レイズ、やあっておしまい!」

ヒャッキ・ヤ・コーの、女幹部という役にふさわしい台詞に合わせ、サッキュバスとウィッチ・レイズの二人組が向かっていく。

「うふふ、お姉さまとイイコトしましょう……」

サッキュバスはしなを作りながら不敵に笑いを浮かべ、ウインクを観客とヲルスバンに向けた。

まあ一部の観客は、それで十分にメロメロになったのだが、やっぱり胸の関係上、色気は少し足りないらしい。

「受けなさい。ソウルフィ……」

「その技はダメ。版権に関わるから」

腕をヲルスバンに突き出すサッキュバスだったが、頭をヒャッキ・ヤ・コーに掴まれ、その行為を制止させられる。

「じゃあ仕方ないわね。ソウルイレイ……」

「それもダメよ」

「えーっ!? じゃあベクタードレイ……しかないじゃない!?」

「せめて、技の名前を変えて。例えばペガサスローリングスラッシュとか……」

「うう、しょうがないなぁ……」

まずは、サッキュバスが後ろから羽交い絞めにしようとするが。

「喰らえ、ヲルス打!掌打! オラオラオラオラ!!」

「ヤァァァァァァッ!!」

サッキュバス撃沈。

「あのむかつく女を倒したのは、感謝するがな……」

続いて正面から、魔法の薬を構えたウィッチ・レイズ。

そしてその小瓶を地面に叩き割る。

するとどうだ、割れた小瓶から、明らかに怪しげな薬が吹き出すではないか。

実は、ただ色のついている煙なだけなのだが、見るからに怪しい色なので、観客には効果覿面だ。

「あははは……。この薬は貴様に対抗するために作り出した毒煙だ。ごほごほ……なにぃ!? 効かないだと!!」

毒煙を吸い、苦しんでいるフリをするウィッチ・レイズに対し。

「ヲルスヴァァァァァルカァァァン!!」

ばばばばばばばばばばばばばばばばば。

もちろん、舞台に仕掛けがしてあるのはお約束である。

「馬鹿な……」

ウィッチ・レイズも撃沈。

なお、サッキュバスとウィッチ・レイズは、武術のたしなみがあるのか、やられ方は見事なもので、二人とも怪我などはないようだ。

「うふふ……。流石は、ミスター・シーゲオが宣伝している、HECOMの技術を集めて作られたヲルスバンなだけあって、見事なものね」

「そ、そうかな? 俺も、女性にそう言われるのはちょっと恥ずかしいかな……」

どこか、照れくさそうな仕草を見せるヲルスバンだったが。

「守さん!!」

当然、不機嫌そうな様相を見せるキィちゃん。

「こんなおばさんなんかの言葉なんか信じるな〜!!」

そして、ヲルスバンの事を思うあまり、とんでもなく失礼な台詞を言い放つ少年たち。

だがそう言ってしまってから、子どもたちは気がついた。

先ほど感じた、あの戦慄が、子どもたちの脳裏をよぎる。

子どもたちの命のピーンチ!!

だが、ヒャッキ・ヤ・コーは、別段、怒ることも無く、心の中で苦笑、そして実際の表情は不敵な笑みを浮かべているだけだ。

これには、やられたフリをしているサッキュバス、ウィッチ・レイズも、心の中でほっと、安堵のため息をついた。

実際のヒャッキ・ヤ・コーの年齢は……後で明らかになるだろう。

「そうか! ありがとう、少年たち! 俺はこんな、ブサイクかもしれない女性の言葉なんかに騙されようとしていた。だが……俺は君たちの声で、正気を取り戻した!!」

実は、この台詞は打ち合わせにはない。

だから、少々過激な発言があったのだが、今この場で気にした人物は、幸いにもいなかった。

「ふん! 貴様なんかに見せるのにはもったいなすぎる顔なのよ!!」

「どうかな? 口だけでは何とでも言えるのさ」

「きぃぃぃーーーーっ!! こうなったら、私が直々に引導を渡してあげるわ!!」

アドリブがいつまでも続きそうに懸念していたヲルスバン。

しかしヒャッキ・ヤ・コーのアドリブのおかげで、なんとか本線に戻すことはできた。

割と、この手の修羅場はくぐり抜けているようだ。

それは置いておき、ヒャッキ・ヤ・コーは、ヲルスバンの目の前で構えを取った。

先ほどと同じ、両手をぶらりと下げている。

わかるひとならわかるのだが、これは『明日のジュン』に出て来る主人公矢吹ジュンの構えと酷似している。

「ま、まさか貴様は『空き巣拳・改“ステンノー退魔拳”』の使い手だと言うのか!?」

「ええ。ヲルスバンの『警備拳・改“HECOM金剛拳”』とは相対する存在よ。勝負は互角、といったところかしら?」

一瞬の間。

そして、ヒャッキ・ヤ・コーはにやりと笑い。

「行くぞ、ヲルスバン!! スネーク・ナッコォォォォォォ!!」

「なんのっ! ヲルスバーーン・ナッコォォォォォッ!!!」

フリッカージャブみたく、鞭のようにしなるパンチと、渾身の右ストレートが衝突した。

互いに光る、拳と拳のぶつかり合い。

実際には、衣装の分だけヲルスバンの方が痛みはない。

対してヒャッキ・ヤ・コーは、指を出せるタイプの皮手袋なので、痛みは相当なもののはずだ。

しかし、僅かに顔をしかめるだけ。

顔のほとんどは、衣装……というか仮面に覆われているため、それだけでは表情なんて読めるはずもない。

「ふ、やるわね」

「おまえこそな」

明らかに無理をしているヒャッキ・ヤ・コーだったりする。

もちろん、ヲルスバンの顔も、ヘルメットに覆われているため、表情がわかるはずなんかない。

「しかし、俺は貴様とは違い、武器を持っている。ヲルスブレードッ!!」

荷電粒子の剣が、彼の手に納められる。

なお、この剣はカンペキに演出用で、もちろん殺傷能力などあるはずもない。

とはいえ、実体のない光の剣なので、技術力は相当なものだろうが。

「フッ、『警備拳・改“HECOM金剛拳”』は体術のみに適応される技。武器を使う時点で、貴様の負けは決まっているのだ! あははははは……!!」

「……確かに、ヒャッキ・ヤ・コー。貴様の言うことは真実だ。だが、武器を持たない者が、武器を持つ者と対峙するとき、3倍の力量を要するのだ!」

「だったら、私の方が3倍も4倍も強いってこと! 簡単な図式よ」

「その強がりが何処まで持つかな? ヒャッキ・ヤ・コー!」

その言葉を合図に、自身を突貫させるヲルスバン。

だがそれも当然、打ち合わせどおりだ。

ヲルスバンは、ヲルスブレード(舞台用)を横薙ぎ、袈裟懸け、から竹割りと勢い良く振るが、ヒャッキ・ヤ・コーには当たらない。

いや、実際光だけなので、当たってもダメージは皆無なのだが、それでもヒャッキ・ヤ・コーはよけ続ける。

それどころか、ブレード(舞台用)を持つ手を捌いたところに、アッパー、打ち下ろしフック、とどめに先ほどのスネークナックルを当てるではないか。

そして、その衝撃で(といっても、手加減しているのでダメージはないのだが)ヲルスバンは地面に尻をつけてしまう。

「ああっ、ヲルスバン!!」

心配そうなキィちゃんの声。

そんなキィちゃんに追い討ちをかけるかのように、ヒャッキ・ヤ・コーは口を開く。

「あははは……! 所詮はその程度の奴って訳ね。いいわ、とどめをさしてあげる」

ゆっくりとにじり寄る、ヒャッキ・ヤ・コー。

「ああっ、ヲルスバン!!」

一人の子どもの言葉を合図に、一斉に騒ぎ出す観客席。

もちろん、子ども限定だが、彼らの表情はすぐにでも泣き出しそうな顔だ。

流石に悪役を演じているとはいえ、ヒャッキ・ヤ・コーも心が痛む光景だった。

「みんな! ヲルスバンを信じましょう! あの人は、必ず立ち上がる。そして必ず私たちを守ってくれる!」

「ヲルスバーン!」

「ヲルスバーン!」

「立って、お願い!」

キィちゃんの言葉が通じたのか、子どもたちの目から、脅えの色が消え、希望を一途に信じる、光を帯びた目となっていた。

そして彼らの声は、次第にまとまり、一つになる。

それが鍵となり……。

「みんなの声が俺に聞こえた。俺は、まだ……戦える!」

よろけながらも立ち上がるヲルスバンに、観客は一斉に湧いた。

「くっ! 半死半生の分際で生意気な!! この私が、そんな儚い思いを打ち砕いてあげる!」

ヲルスバンは最後の賭けに出るべく、最大最後の超必殺技の準備に入った。

びしっ、びしっと両手両足を忙しく動かし、技の名前を叫ぶ。

「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー!!」

なお、ヒャッキ・ヤ・コーはこの台詞を言い終わるまでじっとしていた。

まあ、それがお約束、ってやつであろう。

そしてその言葉と同時に、ステージ上で大爆発が起こった。

もちろん人的被害はないが、客への演出としては効果絶大である。

煙も出たのだが、これも演出のうちの一つ。

煙が晴れた頃には、ブレード(舞台用)を突きつけているヲルスバンと、片膝ついてヲルスバンを睨みつけているヒャッキ・ヤ・コーがいた。

「……クッ、まあいいわ。今日はこの辺にしておいてあげる!」

そこまで、ヒャッキ・ヤ・コーが言うと、舞台から炭酸ガスが噴出した。

もちろんその白い煙は、目隠しとしては十分だ。

次の瞬間には、ヒャッキ・ヤ・コー、サッキュバス、ウィッチ・レイズの三人は姿を消していた。

そして。

ナレーション:「こうして、ヲルスバンの活躍により、今日も地球の平和は守られた。だが、宇宙空き巣がいる限り、ヲルスバンの戦いは続く。頑張れ、負けるなヲルスバン」

子供達の大歓声の中、ヲルスバンとキィちゃんが挨拶を済まして、イベントは終了した。


数分後の楽屋。

「ご苦労様。本物の役者との共演の感想は?」

少し、悪戯っぽく微笑みながら、ヒャッキ・ヤ・コーとサッキュバスとウィッチ・レイズの役者に感想を聞くキィちゃん。

ナレーション:「説明しよう! 今回出演したヲルスバンとキィちゃんは、本物の役者なのだ!!」

もちろん、悪役三人はバイトをしているだけであって……。

「そりゃあ緊張しましたよ。あ、二人とも、サイン下さいね♪」

先ほどの妖艶な美女はどこへやら、サッキュバスはミーハーっぽく、満面の笑顔でサインペンと色紙を、ヲルスバンとキィちゃんに渡す。

「まったく……。これだから、オタク女は……」

嫌味っぽく、ウィッチ・レイズがつぶやく。

しかし、そのつぶやきを、見事地獄耳で聞き取ったサッキュバスはというと。

「……ま、ペチャパイ女の戯言として受け取っておくわ」

「……なんですって」

「あら、気に障ったかしら? マッドアルケミストのペチャパイ女さん?」

特に、ペチャパイを強調しているようだ。

ウィッチ・レイズの気にしている箇所なだけあって、こめかみを反応させるには十分過ぎた。

「……ふん。それだけ妖艶な格好してるくせに、限りなくAに近いBの女に言われたくはないわ」

「あァん!? 何ですって!! このペチャパイ!!」

「オタク! 淫乱! それでもって、ただのバカ!!」

「何よ、ペチャパイ!」

「オタク女!!」

どうやら、このサッキュバスとウィッチ・レイズは犬猿の仲らしい。

その口げんかも、手馴れたものである。

だが。

「やめてください、愛さん、翔子さん!! 人前ですよ!!」

先ほどは、見事な悪役っぷりを遺憾なく発揮していたヒャッキ・ヤ・コーだったが、表に出てみたら、ごく普通の優しい女性なのだ!

重くて、息苦しいのか、二人を一喝しながら、重い兜と鋼鉄のマスクをはがすヒャッキ・ヤ・コー。

その表情は、ブサイクとまで言われていたヒャッキ・ヤ・コーだったが……美人だ。

しかも、すっぴんでこれだから、並の女性より遥かに美人と言えよう。

「あ、うん。ごめん。千里」

ここで、配役を説明しよう。

ヒャッキ・ヤ・コー:黒川千里(もちろん、チサトその人)
サッキュバス   :佐藤愛(千里の友人)
ウィッチ・レイズ :五十嵐翔子(マッドアルケミストの人)

「お、驚いたな。まさかこんな美人……痛ててて!!」

だらしなく、鼻の下が伸びてしまったヲルスバンは、見事にキィちゃんに尻をつねられる。

どうやら、二人はプライベートでも恋人同士らしい。

「それにしても、あたし感激です! あのヲルスバンの人たちと共演できるなんて……。こりゃあ一生の思い出になるわ!」

まあ、サインを貰った上、共演まで出来、説明がなかったが握手までしてくれたとなれば、一生モノだろう。

アニメ、漫画、特撮、ゲームに精通しているヲタク少女だからこそ「もう一生手を洗わない!」とかも言い出しそうである。

そんな愛の感極まった声に、千里も翔子も苦笑せざるをえない。

と、そんなときだった。

ばたん、と大きな音を立てて、楽屋に入ってきた人物が二人。

まず一人は、ポニーテールがトレードマークの少女、城戸玲。

もう一人は、仕事をしているのかも微妙なほど、ラフな格好の人物だ。

「「「玲(さん)!」」」

「「監督!!」」

千里、愛、翔子、ヲルスバン、キィちゃんが叫んだのは、ほぼ同時だった。

一斉に、こちらを向いたことが嬉しかったのか、玲はにこりと微笑んだ。

「ありがと〜、玲。玲のおかげで、今までずーっと欲しかった、ヲルスバンのサインもらっちゃった〜」

愛は、本当に嬉しかったようで、玲にまでその報告をする。

ちなみに何故、愛が玲に感謝するのかというと、顛末はこうである。

愛の母親にして、千里の恩人、翔子にとっても仲の良い人物である、佐藤聖子(さとう せいこ)の誕生日が近かった。

そして、彼女にプレゼントを作るため、仕事を探していた三人だった。

裏の仕事をこなす彼女らだったのだが、それだと、聖子にばれる可能性がある。

てなわけで、仕事の斡旋もこなせる玲に、このことを相談し、今のバイトを手に入れたのだ。

そして今日が、バイトの最終日なのだ。

もちろんこれで、無事プレゼントを買えると、皆が意気揚々としていたのだが……。

「と、ハッピーエンドで終わらせたいところなんだけど、そうは問屋がおろしませんぜ……ってね♪」

まるで、千里たちの心を読んでいるかのような発言で、一同は警戒心を露にしてみせる。

千里だけでなく、愛も翔子も、玲の行動には手を焼いているのだ。

閑話休題。

そんな玲の次の台詞を奪うかのように、監督が口を開いた。

「ヲルスバンも区切りがつき、詐欺怪人ヲーレヲレとの対決も終結を迎えようとしているのは、御存知ですよね? そこで、新シリーズには、予想以上に人気だったハコテンダー(C)以上の敵役を作らなければならない!」

「はぁ……」

「そこで君たちが、バイトとは思えない演技力で、悪役を演じている、という噂を耳にし、実際試したのだが……予想以上だ!」

「はは……」

ここで、千里は思わず苦笑してしまった。

千里が、悪役を演じるために引用したのは、玲の口上そのものだったからだ。

著作権こそないが、パクリではあるので、文句の一つもあろうが、玲はそんな大まかなことは気にしないタチである。

よーするに、笑って許してくれたのである。

「さらには、あの黒川君のすばらしい身のこなしには感服したのだ。あれなら、通常の役だけでなく、スタントもこなせるはずだ!」

一人で感極まっている監督さん。

だが。

「つまり君たちに、新シリーズ『ヲルスバンvsヒャッキ・ヤ・コー』の悪役として抜擢したいのだ! いいかね?」

「「「はい?」」」

思わず聞き返す三人だったが……。

「そうか! 引き受けてくれるか!! 連絡先は、城戸さんに聞いたから安心してくれ。では、追って連絡する!」

疑問の意味での「はい」だったのだが、運悪く、肯定の意味合いで取られてしまった。

しかも、それを否定しようとした矢先に、監督、ヲルスバン、キィちゃんの三名は、スタコラサッサと退出していたり。

もちろん、今更否定なぞ、出来るはずもない。

「……千里ちゃん。悪の幹部確定だね」

「……玲さん。それを言わないで下さい」

千里の受難は、まだまだ続く。


これは余談だが、新シリーズが始まり、ヒャッキ・ヤ・コーが予想以上の大人気。

顔を見せず、スタッフロールも偽名だったため、彼女の正体を知ろうと紛争する輩が異常に増えたという。

そして、開道高校3年1組の教室で。

「おい、見たか? 地球警備ヲルスバンをさ?」

「モチ見たさ。ヒャッキ・ヤ・コー様最高!!」

だがその正体が、このクラスのいじめられっ子にして地味な女の子、黒川千里であることを、彼らは知らない。

ヒャッキ・ヤ・コーの素顔は放送されていないので、当然と言えば当然なのだが。

で、当の本人は。

「……ねむい……身体痛い……疲れた……」

昼間がどうしても忙しく、夜通し撮影しているので、睡眠時間が一気に減った千里である。

明日には玲の命令で、早朝から青森に行くことを考えると、憂鬱にならざるをえなかった。


後日談。

「おーっほっほっほ……すー……私の名前はヒャッキ・ヤ・コー……すー……バイクでも貴様に勝つ……すー」

「千里ちゃぁぁぁぁん!! お願いだから、寝ながら運転しないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


そのとき、『黒い稲妻』と戦った走り屋は「神を見た……」と言ったそうな。




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