Mituyaさま作
『偽りのものたち』外伝
『ユキメとチサトのスパイ紛争記』
第三話
| 「T・S・C青汁」 |
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一人は、類希なる身体能力を駆使し、敵を肉体的に滅する女性。 もう一人は、幅広い交友関係を持ち、それに加えて、高い行動力を用いて敵を精神的に滅する女性。 その、裏の世界で恐れられた二人組は今日も歩む……ボケの道を。
「……猪狩、何でそんなに初っ端から説明口調なんだ?」 ここは『T・S・C』がよく使用しているサバゲーのフィールドだ。 一般的な大会などで使用するフィールドに比べたらどうしても狭くなり、短期決戦に持ち込むことは多いが、そのような場所そのものがあまり多くないため、サバゲーマーとしては貴重なフィールドだ。 とはいえこの場所を使えるサバゲーマーはさほど多くはないだろう。 何故ならここは、猪狩が所有する私有地なのだから。 フィールドにいるのは、猪狩、五十嵐、四十間、宮本、悠木、雛姫、上杉の七人。 そんなフィールドの一角で、五十嵐が、相変わらずの古くからの友人に呆れつつ、手をぱたぱたと振って猪狩の様子を見る。 もちろん猪狩はそんな五十嵐の行動を見ているが、反応は返さなかった。 「そういえば、去年も似たような取材を受けたっけ……」 「そうだ、四十間。もっとも一昨年も取材の依頼があったのだが、その時は丁重に断りを入れておいた。サバゲーというのは、情報を手にした者が勝つ確率95%だからな」 一瞬、猪狩以外の一同は残りの5%が気になったが、すぐに思い至り、一斉に雛姫へと視線を移した。 彼女のようなポテンシャルの高い人物は、情報を覆すケースが多々あるからだ。 「ふふ……」 雛姫は妖艶に笑みを浮かべる。 そんな雛姫の動作は美人である本人にはよく似合い、なおかつ恐怖を与えるのには十分すぎる。 「しかしその年の大会で好成績を残した我々は、次の年の取材は受けなくてはならなくなった。それは何故か!」 「坊やだからさ」 悠木はさりげなく呟いたが、誰もが聞かなかったことにしたのでその場は流れるように進行する。 とはいえ心の中では。 (その台詞は浅野の十八番だな) と思っていたとかいないとか。 「それは、俺たちが力を見せすぎたが故である。しかし力を見せずして勝利は得られない。だか……ごふぇ!!」 「長いわよ、猪狩。誰もそんな長話は聞きたくないのだから、要点をまとめて話して」 裏拳一発で猪狩の長話を止め、雛姫は猪狩の前に仁王立ちする。 雛姫の一撃を受けた猪狩はというと、ダメージが大きかったようで眼鏡のフレームが変形し、鼻血を垂れ流しながら立ち上がる様子はない。 そんな猪狩にも雛姫は容赦なく、頬に一発、二発と平手を食らわせて目を覚まさないとわかると、襟元を掴んでぶんぶんとゆすった。 「……んぁ?」 「じゃ、要点をまとめて説明して」 猪狩は朦朧とした意識を次第に取り戻すのだが、意識が戻った彼の目の前には雛姫のアップが飛び込んでくる。 普通の男性なら役得だと思うところだが、彼に関しては少々異なってくる。 「……!」 現在の状況を確認するや否や、猪狩は迅速すぎるスピードで雛姫の掴んでいる手を払いのけ、雛姫との間合いをとった。 普段は冷静であるはずの猪狩の、そんな明らかな動揺する仕草を何となしに見つめていた。 「……そ、そうだな。では……これから来る『月刊種子島』のスタッフは二人の女性だそうだ。一人目は城戸玲という、ポニーテールと中性的な顔立ちが特徴の女性。一見すると俺らよりも年下に見えるが、その実とんでもなく破天荒な性格の持ち主だ。なお、本業は上杉さんと同じような仕事をこなしていて、通り名は“双剣”のユキメと呼ばれているが……それは今回関係ないだろう」 一瞬だけ、猪狩は雛姫に視線を移す。 (……雛姫のブラックとどっちが性格悪いかと言われたら微妙だ。ただ言える事は、2人を足して割ると最凶な女性が誕生することだ) 無論そんなことを口にすれば、雛姫の攻撃にあい、今度こそ立ち上がれなくなってしまう。 だから意味ありげな視線だけを残して、次へと進む。 「二人目は黒川千里。一つに纏め上げた三つ編みと、瑞々しいほどの漆黒の髪が特徴的だな。この人物は優等生気質だから、下手に刺激さえ与えなければ問題はない。彼女もまたユキメと同様に裏で仕事をしているらしく、通り名は“神殺し”のチサトと呼ばれている。こちらも関係ないが」 「私は要点をまとめて、って言ったのよ。話が長いわよ」 「最後まで聞け、雛姫。一癖も二癖もある二人組だが優秀で、彼女らは俺ですら知らないデータを保持しているんだ。だから今回の取材は、公的に敵のデータを入手できるチャンスとなる。だから一同、上手く言葉を使いまわし、スタッフしか知らない情報を入手してくれ。なおかつ、巧みな言葉にだまされず、俺らの情報は流さないように」 こうして、『T・S・C』緊急ミーティングは終了した。 ようやく私語が飛び交えるようになった頃、悠木がふと思い、疑問を口にした。 「そういえば、慎一は?」 「……ユキメと千里のナンパだと」 猪狩は、前日から思っていたことだが、慎一に二人のことを話したことを今、改めて後悔していた。
「遠山(富山)の銀さんですね」 「ぶー、最高のギャグなのにツッコミが甘いわよ、千里ちゃん」 富山に舞い降りた天使……いや堕天使二人は、富山のインターチェンジを下りて早々にくだらない会話を交わす。 バイクに乗っているので、エンジンの音、ヘルメットによる音の漏れにくさ、風がヘルメットを叩きつける音という三つの妨害があるにも関わらず、その会話は淀みない。 元々ユキメの声は澄んでいるし、千里だって思いのほかはっきりと喋るからなのだろう。 「どうしましょう。やっぱり、目的地にバイクを止める場所なんてありませんか?」 「どうだったかな? 確か今回の取材相手のうちの、メンバーの一人の所有地だったはずだから、バイクくらいなら止める場所あるんじゃない?」 「だったらいいのですけど……ほら、私って運がないですから、下手に停めると大概は警察のお世話になりますし……」 「被害妄想、相変わらず激しいわね、千里ちゃん。……もっともそれが事実になるから困るんだけど」 そんなくだらない会話を続け、時間はあっという間に過ぎていく。 そうなると目的地へとつくのも思いのほか早い。 猪狩の家が所有するその土地は、見かけでは公園と勘違いするくらい大きく広い。 元々サバゲーを練習するためにあるような場所だからそれは当然なのだが、やはり一般市民にとってはそんな土地を持っている時点でやはり感覚が違うのを思い知らされる。 しかし。 「……翔子さんの家じゃないんですから」 千里もまた、身近にお金持ちがいる人物だった。 そんな千里はバイクを私有地の中に入れ、適当なところで停めると、ユキメが二人乗りをするときに敷いていた怪しげなダンボール箱を取り出した。 高さこそそれほどでもないのだが、横に広く、千里が運ぶ際にがちゃがちゃと音をたてる代物だ。 そんな物を持っていても文句の一つも言わないのは、ユキメも千里もその中身を知っているからである。 「お嬢さん方、どうしたのかな?」 そんなとき、一人の青年……いや年齢か見てもまだ少年だが、彼が声をかけてきた。 顔は悪くないし、それどころか一見ではそこそこの好青年だろう。 だがその姿は、この場にはまったくそぐわないタキシードだった。 蝶ネクタイを片手でいじりながら、また薔薇の花を持ちながら気障っぽい仕草で声をかける様は、奇妙を通り越して失笑すら買うだろう。 実際千里は苦笑いを浮かべている。 「これは、私のほんの気持ちです。お受け取りください」 そして彼は薔薇を、ユキメに差し出した。 本来なら千里にも差し出したいところなのだろうが、そこまで考えが行き着いていなかったらしい。 「痛っ!」 そんなとき、薔薇の棘に触れたらしく、ユキメは細い指に赤い液体を滲ませた。 顔を僅かにしかめて、その指を口に含む。 「あはは……失敗、しっぱ……」 だがここでユキメの言葉が、身体の動きとリンクして止まった。 目をかっと見開き、全身を振るわせる。 そして次の瞬間、口から赤い液体を勢いよく噴出した。 手で押さえはしたものの、その勢いは手では押さえきれずに、指と指との間から噴出している。 膝からは力が抜け、力なく正座したと思ったら、真横へと受身もとらずに倒れた。 そんな一挙一動を、千里は驚きのあまり呆然として見てるだけだった。 男性の方も、訳がわからないと言わんばかりに立ち尽くす。 千里はそんな男性に、普段では考えられないほど冷たい視線……いや、殺気を向けた。 「……よくも」 そして千里の殺気は、殺意へと変貌する。 千里が誰にも見せたことのない、冷たい怒りを男性に向け……。 男性は状況を察知できないのか、妙なほどに狼狽を見せ、そして千里に気圧され動けない。 ここで男性はハッと気づいた。 千里の髪がほどけ、美しくも恐ろしい、触れれば自らが消え去るような薔薇の棘のような感覚を覚える、そんな美しいストレートヘアーが露になっていることに。 「……はへ?」 ここで男性は、自分が今どんな状況に置かれているか気づいた。 棘に触れただけで激しく吐血をし、ぴくりとも動かないポニーテールの少女。 そして怜悧な怒りを発散させている少女。 怪しげな格好の自分。 確かこの二人は、危険な仕事をしていると、兄から聞いている。 つまり……。 「ち、違うっ! 俺は何もやってないんだ!!」 「やましいことをしている人は、皆そう言うんですよね」 千里は冷たく微笑んだ。 とはいえ、目は笑いのわの字も見せていない。 次の瞬間に、千里は間合いを一瞬で詰め、体重の乗った拳を下から上にかけて思いっきり振り上げた。 一見すればテレフォンパンチ(大振りの一撃)だが、その実小さく鋭い振りから見ても、一般人ならよけるのが困難だったかもしれない。 だが男性はそれを寸前でかわし、ばっと激しく後退する。 僅かに頬を掠めていたが、その掠めた一撃ですら頬を僅かに焦がしている。 かすかにだが、全身がしびれるような感覚も覚えていた。 男性はその瞬間だけ、自らに宿った反射神経に感謝した。 「次は……殺します」 千里はクラウチングスタイルをとって構えた。 見た目だけならレスリングの選手を覚えるところだが、男性の感がそうではないと告げる。 むしろ男性が感じたのは、野生の生き物のような感覚。 (やばい!! マジで殺されるって!! 猪狩慎一、富山に死すってか!? 彼女も出来ないまま、しかも女にやられて死ぬなんて本望? んなわけねー!!) 「よーし、そこだー、やれー」 何だかよくわからない歓声が外野から響くが、二人は無視することにす……ることはできなかった。 ポニーテールの少女……というかユキメが悠々と壁によりかかりながら、片手にトマトジュースをすすりながら見ているのだから。 「……ユキメさん。何してるんですか?」 「ああ千里ちゃん。トマトジュースを飲んでるのよ。これ、アンナちゃんの推薦してくれたトマトジュースなんだけど、結構イケるわね。さっきはむせちゃったけど。読者向けの説明だけど、アンナちゃんってのは御堂ゆきめちゃんの友人だから」 次の瞬間、千里は飛んだ。 ユキメの方へと飛来したと思ったら、片方の足で相手の膝に飛び乗り、その勢いでもう片方の膝を見事にユキメの頬に当て、壁と千里の膝とのサンドイッチ状態にし、そのまま地へと沈ませる。 「しゃ、シャイニングウィザード……」 ユキメの最期の台詞を言い終え、彼女は意識を失った。 千里も、怒りを放出する際の疲労が濃いのか、ぜぇぜぇと息を切らしてユキメを睨みつけてる。 (い、今の一撃は雛姫以上……) 千里の一撃は戦慄を覚えるのには十分で、その一撃をまともに受けたユキメは心配するに足るほどの状態だ。 「だ、大丈夫ですか……」 「あんたは何してんのよー!!」 心配になって、ユキメに声をかけにきた男性だったが、彼もまた突然飛来してきた金髪少女の膝を側頭部に直撃し、彼もまた同じく地に伏せた。 何故か金髪少女の腕にはエアガンを所持していたりする。 「……俺、何もしてないんだけ……」 「ノリよ。フフフ」 その冷たすぎる金髪少女の言葉でショックを受けたのか、それとも聞きたくなかったから意識を手放したのか、彼はそのまま深い眠りへと誘われた。
「城戸玲よ。一応ユキメって呼ばれてるけど、好きなほうで呼んでもらって結構です」 「黒川千里です。ユキメさんのお手伝いで来ました。よろしくお願いします」 なお、ユキメはあれだけの一撃を受けながらも復活は異常に早く、ピンピンした様子でみんなの前に顔を出していた。 ……常々作者も思うが、トリックスターという人物は懲りないものである。 千里はユキメのことをじろりと睨みつけているが、まるで効果はないようだ。 対して、二人のファーストコンタクトに失敗した男性、猪狩慎一は千里の恐怖が根付いているのか知らないが、借りて来た猫のようにおとなしい。 一瞬だけだが、雛姫以上の恐怖を感じ取ってしまったがために、二人をナンパするという当初の目的はとうに姿を消している。 まあそもそもまともに動ける状態じゃあないのだが。 「城戸玲。二つ名は“双剣”のユキメで本名は西条玲(さいじょう れい)。上杉さんと同じく情報の方面で強いエージェントで、現在は清水という一家の子飼いとなっている。開道高校三年一組で、特に同級生である地鳥大河(ちとり たいが)、そして後輩である円覚寺櫻(えんかくじ さくら)、最上綾(もがみ あや)と仲がいい。身長161cm、体重49kg。最近では刑事である円覚寺櫻の父親に情報を無料で流していたり、普段お金にうるさいユキメにしては不明瞭な点も多く、お金を大量に有しているはずなのにも関わらず、慎み深い生活を送っていたりと、俺から見ても謎の多い人物だ」 猪狩は2人に得意のデータを披露する。 「カップはたしか…AA。お隣はCカップ」 慎一は途中で兄のデータに割り込み、自分のプライドで捕捉を加える。 この辺り、性格は正反対なのに兄弟を感じるところでもある。 いつもはここで雛姫の攻撃もといツッコミがくるのだが。 「……今回の取材、私たちの説明関係ないアルね」 雛姫が慎一に、一部ではカリオストロクラッチとも呼ばれる某アニメで有名な固め技を決行しようかと判断しとときに、何故か似非中国人風にツッコミを入れるユキメ。 というか、ユキメがツッコミというケースも珍しい。 「あと、一応ぎりぎりでAカップだし」 ほんの一瞬だけ、いつもなら行動のたびに表情を変えるユキメであるのだが、その一瞬だけ表情を消していた。 「ていうか、慎一復活早っ!!」 「ふっふっふ、甘いな五十嵐。俺は幾度となく雛姫の攻撃を受け続けている身なんでな!!」 「ふっふっふ。私も大河君や千里ちゃんのツッコミを受け続けている身なのでね!!」 「自慢になるか!!」 「威張らないでくださいっ!!」 もちろん、猪狩やチサトのツッコミ通り、自慢になるわけもないのだが、慎一とユキメの二人は親指と人差し指の間に顎を挟んで不敵に微笑み続けていた。 ギャグキャラというのは、大怪我を負った次の瞬間には治っているものらしい。 そんな二人に呆れてため息をつきつつも、データマンこと猪狩慎也は説明を続ける。 「黒川千里。二つ名は“神殺し”のチサト。主にユキメ専門のガードを担当しているが、本来は喫茶<ランデヴー>のパティシエ補佐を勤めている。そもそも<ランデヴー>そのものも、ただの喫茶店とは思えないほど謎の行動が多いのだがな。開道高校三年一組。佐藤愛(さとう あい)、五十嵐翔子(いがらし しょうこ)と友人関係にある。身長165cm、体重51kg。俺としては、調査できなかった“神殺し”という二つ名の由縁を聞きたいところだがね」 「あー、それはゼウスとヘラとアテネを……もがっ」 真顔で口を滑らす……というよりは千里の困った顔を見たいからだと思うが、そんなユキメの口を、千里は慌てて塞いだ。 口を塞いでほっと胸を撫で下ろすが、そんな様子は傍目には十分すぎるくらい怪しい行動である。 「……あ、あははは」 力ない笑いでごまかした千里は、そのままその説明を続けた。 「あ、あの、えーと……ゼウスとかヘラとかアテネとかっていう、オリンポスの神々の名前がコードネームの人たちが悪人でして、私がこらしめたというか……何というか……」 そんな千里の奥歯に物が挟まったような言葉に、猪狩はともかく、他の人たちはこれ以上詮索しない方が無難だと思い、とりあえず苦笑を見せただけであった。 宮本だけはいつものように無表情だったが。 「そ、それよりも、今回は『T・S・C』の皆様方のプロフィールや練習方法、それとその他雑記等をお聞きしたいのですから、私たちのことはどうだっていいんです」 少し話を逸らすように、慌てて千里が付け加えた程度の言い訳であったが、言ってみて自分自身、自分で言ったことが正論であることに気づいた。 正論であるが故に、一同は了承の意を示し、そのまま取材という状況になるのであった。
猪狩慎也(いかり しんや)、正義学園三年十二組。 両親と弟との四人家族。 父親である猪狩仙一氏は建設関係の社長で忙しい。 性格は理路整然と行動するタイプで頑固。 「なんつーか、思いっきりA型で感じよね」 「でもデータではAB型ってなってますけど」 「……まあそれも納得」 歴史オタクで、読書量も多く、某マスターの如く活字中毒なのかもしれない。 そして何より目につくのは、やはりデータ。 自他共に認めるデータマン。 好きな食べ物はナポリタン、趣味は野菜汁作りもとい研究。 「……って、初対面なのに何で知ってるんだ!! 特に好物を」 「あらぁ、慎也君。取材の相手の情報は知ってて然るべきじゃない? それに、データを集めるのはともかく、許可なく他人にひけらかすのは犯罪なんだから、駄目駄目、ですね」 「うわ、そのどこかで聞いたことのあるメガネっ娘チャイナ風格闘家的な喋り、萌え〜」 少しアキバ系のきらいがある慎一は、ユキメの少し媚の入った一挙一動に、手首から肘までをくっつけ、それを上下に動かした。 先ほどまではチサトに対して怯えている様子だったが、ここでいつものテンションに戻る。 (それのゲームって、慎一の年齢制限上できないんじゃ……) 猪狩は持ち前のデータでそれを把握していたが、あえて口に出してのツッコミはやめた。 その知識を知っている自分もまた、その年齢制限には届いていないからである。 「ふん、雌狐が(ボソ)」 あまりにもドス黒い発言がどこからか聞こえた一同は、その発信源に一斉に振り向く。 そしてそこにいるのは当然……。 「何? どうしたの、皆?」 ……いや、あえてツッコむまい。 一同も深追いをするのは、逆に命が危ないと察したのか、誰も口出しする者はいなかった。 「でも最近解説役になってるらしいじゃない?」 「……俺も、それを見返そうとしてるんだが……」 「じゃあお仲間に聞くけど、慎也君が解説役だと思う人、挙手を」 『はーい』 見事に『T・S・C』の面子全員が手を一斉に挙げた。 その動作に、誰一人淀みはない。 悲痛な現実に打ちのめされた猪狩はorzな姿勢で、深く現実を受け止める羽目となった。 宮本にまで挙手されたのがとどめとなったらしい。 「じゃあ次は五十嵐レイ君……って、今年はほとんど公式試合には出なかったみたいだけど」 「……ウチら側の作者の都合ですが」 「試合に中々出ないから、スルーしていい?」 「……勘弁してください」 五十嵐レイ(いがらし れい)、正義学園三年十二組。 両親と祖父、そして東京で働いている兄の五人家族。 基本的に熱い男だが、それが暴走したり空回りすることもしばしば。 得意教科は英語、趣味は食後の筋トレ。 「アメリカに留学したんだってね。かわいそうに……。結局、原作者にも存在を忘れられて、気がつけば慎一君にその座を譲り、仕舞には某マスターが全国大会で間違えて「あれ、慎一がメンバーじゃないの?」って勘違いされて、結局日の目を見ることなく、静かに去っていく羽目になるのね……うっうっ」 「ってちょっと待ってください、ユキメさん!! 俺ここにいるから!! 全国大会に出るから!!」 「でもね、しばらく戦線復帰してないレイ君に、慎也君が許可を与えると思う?」 「思うよ!! ……だろ、猪狩?」 「……これからの努力次第だな」 リーダーからの無情な通告は、二人目のorzを生み出すこととなった。 「四十間輝羅(しじま きら)君ね。……キラ君」 何故か、四十間と会話し始めると、ユキメの声が三石琴○風になっていた。 流石に大人っぽい口調なので、某くの一のリーダーを連想させる人はいなかったが。 「その声は、函館白楊高校の保険医、立花なつめ(たちばな なつめ)だな。校内では『なっちゃん』の愛称で知られているが、その実、走り屋の界隈では『堕天使なっちゃん』の愛称で、死神ZことフェアレディZを走らせる……」 「堕天使なっちゃんは嫌ーーーっ!!」 「……データに追加だな。『黒い稲妻』は『堕天使なっちゃん』が苦手、と」 「……やっぱり猪狩って、解説役よね」 何だかよくわからないところで盛り上がっていた。 それはともかく。 四十間輝羅、正義学園三年十一組。 両親との三人家族で一人っ子の核家族。 自らを普通と豪語しているが、その実お金には厳しい。 「それって、十分普通じゃないような……」 「四十間ってそういう奴なんですよ、黒川さん。アイツの家に行ったとき、お菓子やジュースはもちろん、水すらでないんですよ」 「悠木っ!! 水だって今のご時勢、タダじゃないんだぞ!!」 (というか、水すらもてなさない事を言ったことに怒るんじゃなくて、水の価値観で怒るのかよ……) 四十間の、本人曰く普通だが、全然普通じゃない反応に、上杉は呆れてしまう。 ユキメも上杉と似たような反応を示しており、一通り苦笑した後、データの確認をする。 「情報によると、トランペットが吹けるそうだけど……」 「あ、はい」 「ハイゲーとか、吹ける?」 「ハイゲー!? 無理ですよ、そんなの!! 僕が吹けるのは、せいぜいハイデーが精一杯ですよ。ユキメさんは?」 「ああ私? 私はそもそも楽器が駄目だから、マトモに吹けもしないわ」 ……これ以上は、作者の音楽知識のなさから会話を文章化することはできなかった。 読者の皆様、申し訳ありません。 「じゃあ次は涼二キュン?」 「キュン、って何ですか、ユキメさん……?」 「まあお約束、ってことで」 気がつけば、ユキメの声は元に戻っていたが、まあどうでもいい。 宮本涼二(みやもと りょうじ)、正義学園三年十組。 両親と妹との四人家族だが、養子であるがために血のつながりはない。 性格は冷静沈着で無口。 「……何かさ、この設定ってだけでギャルゲーの主人公って感じよね。例えば、一年中桜が咲く島の話とか、十二人の妹とか……」 「うーん、どちらかと言うと、学校内で女装する仕事を任されてる内の一人の境遇のような……」 千里の言葉に深く頷いたのは、やっぱり慎一だった。 「千里さん。そうだとしたら、宮本の貞操が危なくない?」 「というより、宮本さんの彼女が危ない?」 「そんな奴がいたら、この私がヌッ殺す(ぼそ)……じゃなくて、宮本のこと守るから」 裏表を見せる雛姫はいつものこととして、とりあえず置いておこう。 宮本は、そんなよくわからないまでも、明らかに不穏な会話を目の前でされながらも表情を変えることもなく、また口を出すような真似もしなかった。 そこらへん、我慢強いのか図太いのか、判断はつきにくい。 「捕捉だが宮本の趣味はバイク。たまにツーリングに行くみたいだな」 猪狩は突然、データを引き出して捕捉する。 この辺りでも、データマンを自称する解説役は健在である。 「そうなのですか。私もよく、奥様から頂いたバイクでツーリングするんですよ」 「そうか……」 「あの、風を感じる感覚っていいですよね」 「エンジンの音もいい。それに運転していて、自分の身体と一体になっている感じがするところとか」 「その気持ち、わかりますよ宮本さん」 意外なところで、千里は会話を弾ませる。 対する宮本も、ほとんど表情を変えないものの、僅かに嬉しそうな表情を見せた。 こんな宮本にしては饒舌なところも、その表情も、普段の宮本から考えても意外なことだ。 宮本と千里の二人が僅かながらにいい関係にあることに、雛姫はむっとした表情を覗かせていた。 「へぇ。宮本ってそんな趣味があったのか。今度乗せてよ」 悠木は猪狩の捕捉を聞き、宮本と千里の会話に割り込むようにして、宮本に向かって言う。 「……俺のバイクはシートを付ければ二人乗りはできるが、したくない」 宮本は首を振り、悠木の提案を冷静な口調で却下する。 同時に睨みつけるような視線を猪狩に向けた。 (宮本はあの事の発覚を恐れて否定したな) (男を乗せる趣味はない、とか言ってくれたら面白いのにね〜。いや、逆に女を乗せる趣味はない、とか言って腐女子に大人気! 涼二×騏のネタは、ウチの漫研や芽衣さんに持っていけばネタにピッタシ!) 猪狩とユキメはこの様子をみておもしろがる。 どうやら二人とも(ユキメは不明だが)、宮本の知られたくない事を握っているようだ。 T・S・C作者から読者にヒント。連想してください。『バイク』、『宮本の妹』、『2人乗り』以上。 「で、騏君」 「はいはーい」 悠木騏(ゆうき はやと)、正義学園十組。 祖父母と両親、それに姉の六人家族。 その中でも、姉には頭が上がらないらしい。 性格は直情で、考えなしに行動する結果、後悔することも多いらしい。 「ふ、大丈夫大丈夫。後悔って、後に悔いるって書くものよ!」 「おー、それは盲点」 まったく解決になっていないのだが、悠木はユキメの言葉を真に受け、思わず拍手をしていた。 ふふん、と胸を張るユキメだが、まったく自慢にならない。 他の面々は、ユキメのキャラというのが見えてきた影響か、怪訝な表情をする者はおらず、苦笑いを浮かべるだけだ。 「お姉さんもサバゲーのプレイヤーで、ドラグノフ装備のスナイパーね……。もしかして、ロシアンマーシャルアーツことコマンドサンボとか使えたりする?」 「ユキメさん。そのネタ、誰もついて来ませんって。同時にモナコのお嬢様やプロレスのお師匠さんが出るっていう捕捉をつけてもわかりずらいですって」 「え〜? 有名な格ゲーの新キャラじゃん」 ぶー、と文句を垂れるユキメであったが、千里の予想通りに、ほとんどの人物がついてこれていない。 実際、ユキメもこの格闘ゲームをしたことはないのだが、千里や彼女の友人である佐藤愛(さとう あい)の影響から、知識だけはあった。 ……作者も思うが、本当にムダな知識だと思う。 「まあともかく、お姉さんは応援してるわよん♪」 「はぁ……」 何となく腑に落ちないユキメの台詞に、悠木は曇った表情を浮かべた。 そんな悠木にさりげなく近づき、耳元でそっとささやいた。 「恋の行方をね。私は恋する男女を見守ってるから」 だが、その台詞には見事に裏が存在していた。 あくまで見守るだけで、決して上手くいってほしいなどと思っていないのである。 ただ面白い方に転がって、自分を楽しませて欲しいだけなのだ。 本当にトリックスターなユキメである。 「……っていうか、私やユキメさんって、『T・S・C』メンバーのほとんどと同い年ですけど、自分でお姉さんって……」 「そーいうことは言わなくていいのっ!」 ……ちなみに生年月日から言えば、悠木の方が早く生まれているというのは、限りない余談である。 「では、彩夏ちゃん」 雛姫彩夏(ひなき あやか)、愛恋女子三年六組 両親と弟という四人家族だけど、現在父親はアメリカで仕事をしているため、三人で暮らしている。 弟さんはショタが少し入って、ドジッ子属性があるとかいないとか。 性格は腹黒く、その素顔はサバゲーでよく垣間見せるらしい。 「腹黒い? 何のこと?」 「まー、貴女ってこれだけの才色兼備でしょ? 欠点くらいないと、女性サバゲーマーから非難を浴びちゃうから、こっちで適当に見繕ったんだけど」 「うーん、できれば私は良く見られたいんだけど……」 「ん、OK。じゃあ完全無敵の才女ってことで、武田広奈に並ぶ注目株として売り出しておくけど、それでいい」 「いいわよ」 (……腹黒いのは嘘じゃないけどな) 『T・S・C』の全員が、心を通じ合わせた瞬間その2であった。 「あ、あの、雛姫さん。データによりますと、味覚や嗅覚が他の人より鈍いらしいですけど……」 「そうみたい。紅茶とかの香りってあまり楽しめないし……。あ、でも猪狩が作る健康飲料だけは、ぴりっとして何かを口に入れたって感じがするのよね」 雛姫の何気ない言葉だったが、その言葉でユキメ、千里、猪狩、宮本、そして雛姫を除く全員がびくっと身体を震わせた。 その表情はどこか青ざめて、心なしか首を小刻みに震わせている。 宮本は傍目から見れば極道の妻の如く、どしんと構えてはいたが、ほんの一瞬、いつものポーカーフェイスが崩れかけていた。 猪狩は何かを思い出したかのような表情を浮かべると、さりげなくその場を後にした。 一同は、彼がその場を後にしたことに気を回す余裕がないようで、顔中に大汗を垂らしている。 「じゃあ次は……慎一君ね」 猪狩慎一(いかり しんいち)、正義学園生徒。 「……ごめんなさい。何年何組かまでは調べる余裕がなかったの」 「いやいや、ウチの兄貴じゃないんですし、ユキメさんにストーカーまがいのことをさせられませんよ〜」 「ほほう、慎一。俺に対してそのように思っていたのか。仕方ないなぁ」 「あ、いや、兄貴……その……わ、悪かった!! 頼むからその恥ずかしいデータをばらまくのだけはやめてくれ!! というか、それ以上にその手に持っている怪しげな液体を俺に向けないで……」 だが猪狩の手際はよく、慎一が一瞬だけ油断した隙を狙い、その怪しげな液体を慎一の口の端に流し込むことに成功していた。 そして、眼鏡は怪しく逆光していた。 思わず怪しげな液体を嚥下した慎一は、最初の内こそ普通にして、飲んじまった、という表情だけを残している。 が、次第に顔が真っ赤になり、真っ赤になったと思ったら顔色が悪くなって青に急変。 そして紫になって、糸が切れた人形のように倒れた。 流石の事態に、あの液体を飲めばどうなるかわかっている『T・S・C』のメンバーはともかくとして、千里は戦慄を覚えた。 「ちょ、ちょっとやばいんじゃないですか!?」 「大丈夫だ。慎一はああ見えて身体が頑丈だからな。それに、身体に害を及ぼす物は入れてない」 と、猪狩は言うものの、千里は先ほどの無礼な振る舞いもあり、慎一に罪悪感があったせいか、的確な指示のもとで屋敷に運ばれていく慎一を心配そうに見つめていた。 これだけでも、慎一は報われたかもしれないが、肝心な当の本人はこの場にはいなかった。 しかし、彼の説明だけはしておこう。 猪狩慎一、正義学園生徒(クラスは猪狩と五十嵐と同じ)。 両親と兄との四人家族。 性格は兄とは正反対で、あまり考えずに行動する直情タイプ。 考えるより身体を動かす方が好きである。 そして何より女性好きなのだが、本人の容姿が悪いのか、性格が軽すぎるのか、それとも運命なのか、未だに彼女は出来ていない。 いや、兄曰く容姿は悪くないと言っていたのだから、性格か運命なのだろう。 「本人は今グロッキーだし、細かいことは後で聞くことにしましょう。そして最後に、水口七瀬(みずぐち ななせ)ちゃんなんだけど……鷹見(たかみ)くぅん、彼女の居場所は知ってるのよねぇ」 にやりとユキメは、上杉に笑みを浮かべた。ちなみに鷹見っというのは現在上杉が名乗っている偽名である。 はっきり言って、その含みのある笑顔は恐怖すら感じるのだが、上杉はその程度で物怖じはしない。 それよりも、上杉自身もこれはチャンスだった。 カタギである猪狩たちの手前、スパイの仕事を触れさせたくはないからだ。 「わかったわかった。ユキメ、あっちでその話はつけよう。あと、ここでは鷹見と呼ばず、上杉と呼べ」 「もちろん、わかっててその名を口にしておりますがな」 二人は、表面上だけはにこりと微笑みあった。 「鷹見……ね。上杉さん、俺もご一緒してもいいですか?」 「別にいいんじゃない?」 上杉が答える前に、猪狩の質問にユキメが答えた。 ユキメ本人は、別に情報屋としてのプライドなんて持たないし、その件で勝手に首を突っ込むことに関しては何とも思っていない。 もしそれで、その人が危険な目にあったとしても、所詮は他人。 自己責任も出来ない人が危ない橋を渡って、そして命を落とすというのは悲しいかな、ユキメは見慣れていた。 上杉はそんなユキメの態度には少しながら不満を覚えたが、猪狩の情報網を信頼していることもあり、素直にあきらめることにした。 「そうだ、言い忘れていた。今日、地区大会でのオールスターを集め、練習試合を行い、それを『月刊種子島』スタッフである黒川さんが見学することになっている。そして今回は俺が参加しないから、各自で判断して動く訓練として試合を行ってくれ。なお、負けたチームには俺特製の野菜汁を飲んでもらうこととする」 「うっ」(←五十嵐) 「えっ!?」(←四十間) 「……むぅ」(←宮本) 「げ……」(←悠木) 「ふふ、面白いじゃない」(←雛姫) 「だ、大丈夫なんですか?」(←千里) 約一名を除く不安げな表情を尻目に、猪狩と上杉の二人はユキメを拉致……じゃなく館の一室へと案内するのであった。
他の、広々とした部屋とは違い、この一室は物置として利用していたのかどうかはわからないものの、狭かった。 そしてそこのぽつんと存在するのは一つの大きな机と対面するように置かれた椅子二つ、もう一つの小さな机と椅子、そして部屋の明かりが存在しないのかわからないがスタンドが一つ立っていた。 部屋から光が漏れる窓は、何と格子がついている。 ここまで説明すればわかると思うが、この光景は警察が被疑者に尋問をする様子そのものだ。 もちろん被疑者はユキメである。 「カツ丼でないの? あ、そうだ慎也君。翔子ちゃんから渡すように言われた、例の薬。渡しとくね」 だがそんな光景でも一向にペースを変えることなく、ユキメはがちゃがちゃ音をたてているダンボール箱を猪狩に手渡した。 「使用するのはいいんだけど、用量を守らないと中毒になるから気をつけてって、翔子ちゃんが言ってたわよ。使用方法は中にある紙に書いてあるから、熟読すること、だそうよ」 無言で猪狩はユキメからダンボールを貰うと、一旦それを隅に置き、小さな机の前の椅子へと腰掛けた。 ユキメに対するは、やはり同業者とも言うべき存在である上杉だ。 「で、七瀬ちゃんに関してなんだけど……」 「おっと、それはこちらの質問に答えてからにしてもらうぞ、ユキメ」 「嫌ぷー」 「生憎だが、お前に拒否権はない」 「私は黙秘権を行使するっ!!」 「わ、ワガママ娘が……」 「I am my mother.私は我がママです。ぷーっ!!」 「つまらないんだよ!!」 「えー、面白いじゃん。ワガママと我がママとかけてるんだよー。日本に古くから伝わる言葉遊びじゃない」 のらりくらりとかわす、というよりは問題を直視しないで通り過ぎるようなユキメの対応は、まるで子どもの言い訳のように思えてきて、上杉の頭はずきずき痛むような錯覚すら覚えてしまう。 こんなのが、情報屋の若きエースだと思うと、情報屋の未来そのものが危うくも感じてくる。 だが同時に、そうやって相手の油断を誘うような話術を得意とするのも、またユキメだった。 だから一旦呼吸を整えて、気分を落ち着かせることにした。 「そういえば、まだ鷹見君、もとい上杉君にお金貸しっぱだったよね」 「げ、げふんげふん!!」 が、ユキメの一言であっさりと、冷静を保とうとする気持ちは崩れ去っていく。 「別に今すぐ返して、とは言わないよ〜。ちょっと鷹見君、もとい上杉君が苦労するだけだし〜」 どこからともなく取り出したのは、一枚の写真だった。 上杉の生着替えのシーンらしく、際どいところこそ隠してはあるが、その細身の肉体に引き締まった筋肉と、その手の人には生唾ものと言ってもいい。 (ど、何処でそれを仕入れたんだ? 借りたお金の事すっかり忘れてた……。早く払おう。絶対に払おう) この瞬間、自分の中の危険視ランクが二階級特進、敵に回してはいけないと今更ながら悟る。 「じょーだんよ、じょーだん。けど早く返さないと大変よ。利息はトイチ(十日で一割のこと)だしね。まあ単利ってのが幸いってことで」 そう言うと、ユキメは写真を再び懐へとしまった。 ユキメは冗談と言ってけらけらと笑っていたが、上杉を脅迫するだけのネタは持っているのは事実であり、いつでも脅迫できるような状況にあるという状態を示すあたりは、性格が悪い。 というかわざわざその手の仕事の人間を脅迫するあたり、トリックスターの本領発揮といったところか。 「……ともあれ、聞きたいことは山ほどある。まず、貴様と最上一家との繋がりは……」 「師匠と弟子」 あっさりと、しかも即答で答えられた。 先ほどの嫌という意思表示をあっさりと覆したことと、出鼻をくじかれた感覚から、上杉は二の句を告げることが出来なかった。 「最上晶と一兄……あ、最上一義のことね。彼らは私の師匠。綾は晶から守るように頼まれた相手……ってことにしといてくれれば、私も嬉しいな」 「って、明らかに嘘じゃねーか!!」 「そりゃそーよ。私は一度、警察に晶を売ったんだし、もう師匠と呼べないじゃん。それに綾は私の友達だしね。ま、もっとも晶をあそこまで追い詰めといて逃げられるのは、警察の怠慢というか何というか……。勝本のとっつぁんが現役ならよかったのにって、つくづく思うわけでありますのよ」 上杉は、ユキメの言葉が嘘半分、本音半分と何となしに思った。 前々からユキメの言葉は嘘偽りはあまり話さないものの、裏にイチモツがあることはしょっちゅうだ。 しかし言葉に嘘が混じるように感じるのは、ユキメ相手では結構珍しい。 直感でだが、上杉はユキメがまだ晶と通じる点が残されているかのように思えてくる。 「上杉さん。俺にも質問させてもらってもいいですか?」 「あ、ああ」 先ほどの質問の記録をノートに書き終え、さらに記録を続けながら、猪狩は言った。 なお、質問をするにも関わらず、彼は一度たりともユキメの顔を見ようとはしていない。 表情の変化を見るのは、上杉の役回りなのだろう。 「俺が聞きたいのは、ライダースーツの女性、チサトの実の父親。ユキメがかくまっているというサバゲー全国大会青森代表『イクサクニヨロズ』についての二つ」 「……あのさぁ、慎也君」 猪狩からは表情を見ていないのだが、ユキメの方からため息をついたような音が聞こえてきた。 そしてユキメは、呆れているのかどうかは知らないが、猪狩を諭すような口調で語る。 「情報ってのは、大概が人の知られたくない秘密なのよ。些細なことであれ、話したくない、自分の中に閉まっておきたい、そしてそれを無理矢理暴き出すのが、私や上杉君の仕事なの。もっとも、別の用件であることも多いけどね。その中で私が思ったのは、情報ってのは人の人生そのものだってこと。情報を扱うということは、人の人生そのものを握るということにもなるわけよ。だから言葉一つでその人の人生は狂う。そしてそれを取り返すのにも、犯罪を厭わなくなる。だからこの仕事は常に命がけ。……貴方は自分の命、そして相手の命を背負う自信はある?」 一瞬、猪狩は言葉に詰まった。 今まで自分は、情報を集めることで、大好きだったサバゲーでの勝利をもぎ取ってきた。 そして今でも、それは変わらない。 だがその情報というのが、肥大しすぎてはいないのだろうか? サバゲーに勝つためなら、それに関わることだけを調べればいい。 だが今ではプライバシーにまで踏み込んでいる。 ……ユキメの言うとおり、ほんの僅かな行動だけで人が破滅する、そんなレベルまで。 「……貴女はどうなのですか?」 「私? 私は、私の行動によって人生が狂った人たちを知ってる。だからその人たちのことを忘れないように生きてるつもりだし、そんな彼らが私を許せないのだとしたら、私が全てをやり遂げた後、全てを償うつもり」 その言葉に、猪狩も上杉も、ユキメの覚悟というものを垣間見た。 声も、表情も、雰囲気も、彼女がそれなりの覚悟をした上で言っているものだということが感情で理解できる。 そしてだからこそ、ユキメが若くして情報屋として働いているということも……。 そんなシリアスの雰囲気は、ユキメが唐突に変えた雰囲気のよってぶち壊される。 「……だー、こんなシリアスな言葉言うためにこんな場所来た訳じゃないのに。そう、私はギャグキャラよ、ギャグキャラ……。よし、というわけで七瀬ちゃんを早く呼んで来なさーい!!」 「お前な……」 「何言っているの!? 竜君、もとい上杉君、今こそ読者サービスのいい機会じゃない!! 最近慎也君にキャラ食われっぱなしなんだから、むしろ女装しろっ!!」 「確かに、猪狩の奴の方がよっぽどスパイっぽいことしてるけどよ……。それから昔の名前をモロに使うな! ていうか、読者って何だよ!!」 「メタ情報よ、メタ情報」 上杉はよくユキメと顔を合わせたりもしているのだが、相変わらずの電波っぷりに改めてため息をつく。 少しばかり、懐に隠し持っている暴徒鎮圧用の銃で脅しをかけたい衝動にも駆られたが、相手は脅しに屈するような繊細な性格なわけでもないため、即座にその選択肢は却下される。 一般人なら、この狭い空間、光量の少ない部屋、そして脅しにも似たプレッシャーであっさりと屈するところなのだが、ユキメはまったく意に介していないのだから。 とはいえちょっとむかついた上杉は、スタンドを手に取りその光をユキメに向けた。 「うぎゃぁぁぁぁっ、目が、目がぁ!! と、ムス○ごっこをしてみるわ・た・し♪」 で、あっさり流されるので、やっぱり上杉は気疲れからユキメを攻撃する手を止める。 「あ、そうそう慎也君。さっきの、前の質問は答えられないけど、最後の一つは、はい」 はい、という言葉と同時に、ユキメは懐からフラッシュメモリーを取り出し、それをぽいっと無造作に猪狩へと投げつけた。 咄嗟にそれを受けとる猪狩だが、ユキメの不可解な行動に一瞬だけ呆然とした。 「そん中に『イクサクニヨロズ』の公式試合の映像があるから、そっちで分析しちゃっていいわよ」 「……は? どうして……」 疑問が脳内を飛び交う猪狩だが、そんな彼を無視するかのように、あらぬ方向を向くユキメ。 「ごめんね、皆。苦難を乗り越えない力は本物じゃないもの……というのは半分冗談で」 (てことは、半分は本気だったのか……) 的確に、ユキメの言葉を分析する猪狩。 まったくもって、その通りなのだが。 「『男子三日会わざれば、刮目して合見えるべし』って言葉、知ってる? もっとも、メンバーのほとんどが女性なんだけどね。三日どころか、試合までの間は思いのほかある。その間、どれだけ人って成長すると思う、慎也君?」 「成る程」 ユキメの言葉の真意を掴み取り、猪狩は思わず笑みをこぼした。 そして同時に、長年サバゲーをやってきた者としてのプライドがこみ上げてくる。 (もっとも、勝つのは俺たちだがな) 猪狩は内心で、不敵に微笑んだ。 (正直、女装面倒なんだよな…。メイクがあれだし……) 上杉は影でぶつぶつ言っていた。 「いっそのこと、性転換手術でも受けたら? 面倒じゃなくなるよ」 「そういう問題じゃねぇ!」
千里と『T・S・C』メンバーは、猪狩の言う今日の対戦相手と相対していた。 彼らは一様に、広すぎる猪狩家の敷地を関心しながら見渡していた。 「はじめまして。俺は田中章吾(たなか しょうご)って言います。名字で呼ばずに章吾と呼んでください」 「阿部綾香(あべ あやか)です。いっつも雛姫のチームにいいとこ取られてるからリベンジしに来ました」 「如月裕美(きさらぎ ゆみ)です」 三人の美男美女は、地区予選、地区大会と順調にコマを進めたが、惜しくも敗れ去った『Fin@l F@nt@sy』のチームメンバーである。 千里はユキメとは違い、その辺りの情報を保持していないのだが、二人からそのことを聞かされ曖昧に頷く。 試合中にずっとコスプレをしていたことも聞くと、さすがに愛想を崩さざるを得なかったが、苦笑だけで済んだのは、オタクが身近な友人として存在していたからかもしれない。 そして今回もこの三人はコスプレである。 章吾はバッ@。 綾香はレ@。 裕美はクル@である。 どうやら今回はXで統一されているらしい。 ふと千里は、裕美がちらちらと四十間に視線を向けるのに気づいた。 四十間は気づかないようだが、その視線は間違いなく四十間に向ける感情が入り混じった視線。 その二人の様子は、かつて自分が背中を預けた仲間、最上晶(もがみ あきら)とその従妹の関係を思い出させる。 (そういえば、晶さんはまったく気づかなかったっけ……) そしてもう一つ。 (晶さんは、ああいうときって必ず綾(あや)さんを褒めてたっけ……。「似合うダスよ」って……。そういうとこは敏感なのに、好意には鈍感でしたからね) まあ今はまったく関係ないことなので、ちらっと思い出した程度で済ませておくことにした。 (でもやっぱり如月さんは、敵キャラだけどマギ@あたりが似合うかも。阿部さんもメリュ@ーヌあたりがいいと思う……) ……マニアックな知識に毒されている千里であった。 「……と、何故にコスプレ?」 今になって気づいたが、取材が重なっているとはいえたかが練習試合なのに、まるでどこぞの大会のような衣装なのだ。 うすうすおかしいとは感じていたが、思い返してみるとやっぱりおかしい。 首をかしげた千里が何となしに聞いてみたが、その返答は綾香から返ってきた。 「実は裕美が……」 「わあああああぁぁぁぁぁっ!!」 慌てて叫んで、綾香の口を押さえる裕美。 不明瞭な返答だったために眉をひそめた千里だったが、裕美の敏感すぎる反応に誰が原因なのかは判断できた。 とはいえ、綾香は気づいていないようで、軽く首をかしげていたが。 (多分、四十間さん絡みなんだろうな。でも恥ずかしいならやめればいいのに……) 「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものは」 どこかで聞いたことのある台詞を言ったのは、髪を金髪に染め、グラサンをした兄ちゃん。 そしてあの有名な台詞とくれば……。 「4の人!?」 そう、あのスペイン語で4という意味の人である。 また、彼のバッグにエアガンを入れているのだがそれは赤い色のスペツナズではなく無駄に豪華な金色塗装のスペツナズであった。 (赤いザ@の連想からリック・@ィアスに一転させると思ったが百@か) 田中は銃を見て、興味津々に思う。 (最終的には、オールバックにして@イチンゲール仕様に……) 千里も千里でマニアックな想像をしていたり。 「今回特別参戦ということで急遽、衣装と銃を知り合いの先輩に頼んで借りた。チーム名に関係無くなったけど気にするなよ!」 PC画面の読者に向かって言うと同時に本音を思った。 傍からみれば、何処を見て誰に話しかけているか謎である。 「貴方も何でそんな格好を……」 「坊やだからさ」 「……」 何でこんなにもこの大会出場者は「濃い」んだろうか、と常々千里は思う。 彼女の仲間であるあのチームも、ヒーローの偽者だし、その対戦相手も全て「濃い」人間ばかりだった。 仲良くなれることは、長らく友のいなかったチサトにとってはうれしいことだが、もうちょっと普通でもいいのではないか、と思ってしまう。 「では改めて自己紹介を行おう。私は浅野翔(あさの しょう)。『チーム☆ジオン公国』のリーダーを務めている。もともとは先輩(大学生)のサークルなのだがな」 「……その☆って、つの@☆ひろみたいなものですか?」 「それは企業秘密だよ」 次第に脱力し始めてくる千里であった。 だが残り二人は、前の四人に比べると比較的普通の格好であり、何かどこかで見たことあるような気もしないでもないが、普通の人たちだ。 それだけが千里の救いであった。 「わいは『帝王学院高校サバゲー部』の忍(しのぶ)ちゅうモンや。わいらのチームは、ホンマやと『T・S・C』と仲悪いんやけど、あっちがリベンジの機会をくれたから、わいも参加する次第っちゅうことで」 「私は夏@。『地球防衛ケ@@分隊』っていうチームに所属してます」 忍は普通の迷彩服で、夏@はサバゲーをするにはふさわしくないかもしれないが、緑を基調とした服であるため、アンブッシュは出来なくもないだろう。 むしろ服装の点では、上記の四人の方がおかしい。 「あ、俺らは試合では服替えますんで」 と言ったのは章吾らFFチームのメンバー。 よく見るとバッグが大きく膨らんでおり、服が入っているのが一目瞭然であった。 ただし約一名、浅野だけはそのような様子はなく、コスプレ衣装での戦闘は必然のようである。 今回は公式ルールではない部分もある為か、フルフェイスゴーグルを付けずにサングラスのままである。 本人に聞いてみたところ、一般的に売られているゴーグルと同じ強度があるから大丈夫という返答がきた。 (……戦場でヘルメットとスーツを着ないシャ@みたいなもの?) 千里の考えが正しいかどうかは、本編の作者にしかわからなかった。
公平になるように、一応は十分という時間は設けられているものの、今日初めてこの戦闘が行われると知った『T・S・C』と、逆にこのことを知らされて、連携を取る練習まで作った『地区大会オールスターズ』の面々とではつりあわないだろう。 さらに言えば、『T・S・C』のブレーンとも言える猪狩の存在がないのも、両チームの実力差を引き伸ばしている要因となる。 一応、作戦会議の様子もビデオに撮る為に千里は会議の様子を見たのだが、予想通り、『T・S・C』はまごついており、『地区大会オールスターズ』は、猪狩がいない、という事実だけを修正すればよく、しかも作戦を練れるメンバーが多いことからよどみなく進んでいるようだった。 (あとは、一人一人のポテンシャルの違いですが……) 戦場を見渡せる場所で考え事をする千里だったが、結論はすでに出ていた。 『T・S・C』圧倒的に不利、と。 「やっほー千里ちゃん。様子はどお?」 「……そういうユキメさんこそ、どうだったのですか?」 「いやー、鷹見君と慎也君の二人に根掘り葉掘り聞かれて、私のプライバシーは皆無って感じ? ああ、何て私って薄幸の美女なのかしら」 とはいえ、千里はわざとらしくよよよと泣くユキメに同情はなかった。 そもそもユキメの口の端は面白そうに釣りあがっているし、逆に当の二人(一人は、千里にとっては見たことのない少女だったが)はユキメの後ろでむすっとしている様子から、上手くいかなかったことが明らかだ。 さらに言えば、ユキメにこそ「薄幸の美女」という単語が似合わない人物はいない。 もっと言えば、自分で美女と言うのもどうかと。 「それより猪狩さん。明らかに『T・S・C』が不利ですけど、大丈夫なのですか……?」 「問題ない。これは五十嵐たちが、俺の健康飲料を恐れて現状況でポテンシャルを如何に引き出せるかを調べることでもあり、俺がいないことで個々の判断力を高める訓練であり、なおかつ不利な状況で戦うことによってさらに経験を積み重ねる訓練だからだ。俺の計算に狂いはない」 中指で眼鏡の位置を直す猪狩に、千里は僅かながら苦笑を浮かべた。 元々、千里が大丈夫と聞いたのは、猪狩の作った怪しい飲み物の事だからだ。 先ほどの会議を見ても、慎一の様子はまだ悪そうだった。 さらに言えば、健康にいいものを重ねたからって、それが悪い意味で化学反応を起こしたりでもしたら元も子もない。 「確かにそうようねー。カルシウムと食物繊維を同時に取ったところで、カルシウムが食物繊維とともに排出されちゃうんだし」 「……ユキメさん。心を読まないでください」 千里はユキメの行動にあきれ果てながらも、用意したビデオカメラを起動させた。 その直後、試合開始となる。 両チームは指定された点にフラッグを設置し、自軍のフラッグの位置から動き出した。 最初のうちは、ただ広がっていくようにしか見えないが、次第に互いがどのような戦術をもってフォーメーションを組んでいるのかがわかってくる。 『T・S・C』は、突撃が主な武器とも言える攻撃的な五十嵐、悠木、慎一が前面に出ている、長所を伸ばすように構成されている。 そんな三人をフォローするのは、援護を得意とするオールラウンダー四十間、長距離での戦いを主とする宮本、そしてエースとも言える雛姫。 後衛三人の援護が届くような位置を離れないように、じわりじわりと進んでいった。 「恐らく、四十間か雛姫の策だろう。五十嵐たちの手綱を引っ張りつつ、いざとなったら突撃をしかけるような、長所を活かすような手でくるか」 対する『地区大会オールスターズ』は間隔を狭めて動いている『T・S・C』とは違い、広く展開している。 中央に火力を集めているのか、章吾、浅野、忍の三人が一列になり、さながらそれはBB弾による壁が出来上がるようになるだろう。 そして綾香、裕美、@海の三人は、男三人と分かれて、『T・S・C』の横を取るように、綾香と裕美がペアで、そして夏@が逆サイドで両側を動く。 「成る程。章吾たちは包囲してあらゆる方向から攻撃する作戦で行くか……いや、もしかしたらフラッグを奪取する策かもしれない」 「……猪狩、やっぱり貴方は解説役よ」 ぼそりと言った上杉(七瀬ver)の声は、聞かれてたら文句の一つも言われるはずだが、幸いにも試合に集中している猪狩には聞こえていなかった。 しばらくは互いの音足音や葉の擦れる音を聞き取ろうと動きは緩慢で、様子見が続く。 制限時間は設けていないものの、その流れる緊張感に、見ている猪狩たちも思わず息を呑む。 「……まずいわね。五十嵐たちが包囲されてる」 『地区大会オールスターズ』を見てみると、中央の三人が一列から扇形へと変化し、まるで『T・S・C』を包み込むような形となってきた。 「突撃を抑えようとしているのに対して裏をついたか……」 ユキメも千里も、戦術に関しては多少の知識はあるものの、サバゲーに関しての戦術は無きに等しい。 それ以上に、『T・S・C』の戦術の定石を知らないこともあり、猪狩と上杉に対し、少し怪訝な表情を見せた。 そしてユキメと千里が再び視線をフィールドに向けたとこで、戦況は動いた。 雛姫が突然、綾香と裕美の方向へと発砲したのだ。 僅かな物音を聞き逃さなかった雛姫は、即座にそれが人が発した音だと理解し、相手が反応する前にニーリング(膝撃)でフルオート射撃をしてみせたのだ。 しかし咄嗟のことだったので雛姫もスコープで狙いがついておらず、ヒットコールはされなかった。 敵が近くにいることを知り、雛姫以外の『T・S・C』メンバーはぞっとする。 だがそんな暇がないことは、経験上承知の上で、即座に全員が周囲の警戒に走った。 対する、攻撃を受けた綾香と裕美の二人はすぐさま近くの木に隠れ、難を逃れた。 だが雛姫が気づいている以上は、場所が割れているのは自明の理なので、二人は作戦のプランBへと移行する。 「ちいっ! 慎一行くわよ! 四十間、援護お願い! 宮本はまだ伏兵がいるかもしれないから周囲を警戒、五十嵐と悠木はそのままで」 即座に策を練るのは雛姫だった。 一同はそれを了承し、雛姫の言うとおりに動く。 そんな様子を見て、猪狩は納得したような、嬉しいような、そんな表情を浮かべていた。 「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……」 小競り合いの最中、慎一は虚ろな表情でぶつぶつと呟きながら、適度に五十嵐のファマスで牽制を繰り返す。 その様は、まるで幽鬼にでも取り付かれたかのようで、雛姫ですら戦慄を覚えてしまう。 「ちょ、ちょっとどうしたのよ、慎一」 戦闘中に声をかけるのは危険なのは百も承知だが、慎一の、どこか違う様子にどうしても声をかけざるをえない。 「アス@、どうしたの?」 「それはこっちの台詞よ。ていうか@スカって誰よ?」 「@スカじゃない……! カ@ル君、僕を裏切ったな!」 「……あんたバカ?」 ア@カだのカヲ@だのという聞きなれない言葉が続いている慎一に対し、思わず雛姫は慎一の頭を疑った。 だが何故慎一の様子がこんなにもおかしいのか、という理由については容易に想像ができた。 「猪狩のアレが効いてるのはわかるけど、しっかりやんなさいよ」 「……見たこと聞いたこともないのに、そんなの出来るわけないよ!!」 「いいからやれ!」 もちろん、そんなことをやれば命取りになるのは、もはや常識だった。 僅かどころか大きすぎる隙を、綾香と裕美の二人が見逃すはずもなく、多数のBB弾を受ける羽目となった。 「まったく、宮本に何て顔すればいいのよ……ヒット」 「笑えばいいと思うよ」 もちろんその直後、慎一が雛姫のスクリューアッパーによって、宙を舞ったというのは言うまでもない。 そしてそれを思わず見とれてしまう綾香と裕美だったが、そんな些細なことでも隙となる。 僅かに目を逸らしたその瞬間を四十間は狙っていた。 (もらった!) 無数の弾丸を、反応が遅れた二人がよけられるはずもない。 綾香は肩に、裕美は心臓の位置にBB弾が当たってしまう。 「ヒット……(やっぱり、コスプレの方がいいのかなぁ……)」 「ヒット……(輝羅にハートを射止められちゃった……なーんて、キャーーーッ!)」 約一名が妄想に突っ走りつつも、二人が退場した。 四十間はそんな二人の足音を利用し、移動して次なる戦闘に備える。 適当なところで綾香と裕美の二人から離れ、そのまま宮本のところに近づいていった。 「どう、そっちの様子は?」 「女が来た」 宮本はいつもと変わらぬ表情で、ただ事実を報告する。 先ほど綾香と裕美の二人が退場したことから、その人物が夏@であることは容易の想像がついた。 「まだ潜伏している可能性があるから、俺は容易には動けない」 「わかった」 と、そんなとき、五十嵐と悠木の方で撃ち合う音が、二人の耳に飛び込んできた。 二人は即座に顔を見合わせ、頷きあうと宮本はその場に残り、四十間は二人の方へと急いだ。 多少物音はしても、撃ち合う音で打ち消されているので、予想以上に早く戦場にたどり着ける。 「そっちは大丈夫、五十嵐?」 「あ、ああ一応な。ただ弾幕がすごすぎて、手が出せない。どうやら浅野と章吾の野郎、ドラムマガジン装備してきたみたいだ」 とか言っている間に、四十間の頭のすぐ上をBB弾が通りすぎる。 慌てて身を屈め、草の合間からプローン(伏射)の状態で様子を見るが、弾幕が止むことはなく木や草の陰に隠れるので精一杯だ。 「どうしよう、四十間?」 「どうする、四十間?」 「うーん……そうだな。僕が隠れながら攻撃するから、その間に五十嵐と悠木は両サイドに回りこんで。そして合図で一気にしとめよう」 五十嵐の悠木の二人は四十間のサインにこくりと頷き、物音を立てないように静かに両サイドへと回り込む。 四十間は、命中率を重視する必要のない囮なので、木から出ずに、銃を肩で担ぐかのようにして攻撃を適当にする。 そして、二人が回りこんだのを見計らい、四十間は木からダッシュで駆け抜けた。 思わず反応した相手の意表をつき、五十嵐と悠木が挟み撃ちの形で銃撃を何発も打ち込んだ。 「「ヒット」」 ヒットコールをしたのは、浅野と忍の二人。浅野に関しては金色塗装のスペツナズと普通のAK−47が握られていた。 「え……?」 綾香と裕美はヒット済み、浅野と忍もここでヒット、@海は宮本が警戒しているので簡単には動けない。 では最後の一人である章吾は…… それを四十間が理解して自軍の椿事を振り向き、さあっと血の気が引いたと時を同じくして、猪狩の声がフィールドに響いた。 「そこまで! 『地区大会オールスターズ』の勝ちだ!!」 それと同時に、フラッグを手にしていた章吾がサイドアームを片手に立ち上がった。
「流石だな、浅野、章吾。いい囮作戦だった」 「なあに、状況に応じた作戦をいくつか考えた結果、その作戦にたどり着いただけさ」 猪狩は相手チームを笑顔で褒め称え、相手チームの各員が各々で反応を返す。 喜んだり、誇らしげだったり、ある者は苦笑いだったり、不安そうに見たり……。 「五十嵐たちも悪くはなかった。だが、章吾たちのように状況に応じた策を練ることも重要だ。試合早々に俺がヒットされる可能性もあるのだから、その辺を臨機応変にするように」 「そうだな…」 「「「「「はぁ〜い」」」」」 猪狩の叱咤に、一同は元気なく答えた。 雛姫は確かに、試合に負けたショックかもしれない。 だが他の面々には落ち込んでいるというよりは、その表情は恐怖に彩られているのが明らかだ。 「ユキメ。貴女たちが撮ったそのビデオは、あくまで記事の資料として使うだけにしてください」 「おっけ〜。けどいいの? それでも戦力分析としては十分過ぎるけど?」 「『男子三日会わざれば、刮目して合見えるべし』、ですよね?」 「ええ、そうね」 二人して、にやりと笑みを浮かべた。 その様は、まるで無言の応酬のようにも見える恐ろしい雰囲気を纏ったやり取りに、千里は見えた。 少し怯えた千里は、『T・S・C』のメンバーに出された、ジョッキに入った、緑を通り越して濃緑とも言うべき怪しげで、気泡がぽこぽこと湧き出た怪しい液体に視線を移す。 匂いだけでもかなりきついのだが、それを飲むとなると相当勇気がいるんだろうなぁと想像をめぐらした。 「さてチサトちゃん。これは『T・S・C』が強くなる秘訣の飲み物。そうは思わない?」 ……確かにこんなもので脅迫されれば、強くならざるをえないかもしれない。 とかそんな他人事で見ていた千里だが、ユキメの台詞を一端を理解してしまった千里は唐突に息を呑んだ。 「ま、まさか……」 「そう。資料のために、一緒に飲みましょう」 ぐっ、と親指を立てて、満面の笑みで千里に重い一言を言い放った。 即座に否定したいところだが、しっかりユキメは「資料のため」と公言しているだけあって、否定することができず、千里は言葉に詰まった。 と思った矢先、千里に差し出されたのは、五十嵐たちに出された猪狩汁と同じもの。 「……わかりました」 チサトは貧乏性のきらいがあるため、食べ物や飲み物の無駄はなるべく避ける傾向にある。 故に千里は、諦めににた胸中でそれを手に取った。 「では、いただきまーす」 まるでいつもの食事をしているかのような、日常的な台詞とともにユキメは猪狩汁を傾ける。 腹を括った千里や五十嵐たちもユキメにならって、思い切って猪狩汁を飲む。 「お、おいおい冗談だろ!? やめっ!!」 上杉は普段の格好に戻ってきたところで2人の様子を見て止めようと、彼女らに向かって走りながら言うが間に合わない。 彼は実際に飲んだ事がないものの、何回もその後の悲惨な光景を見てきたからこその行動だ。 (今回はこの日の為に作った新作だからな。フフフ) 猪狩はこの様子をみて不適にこう思った。 再び、猪狩の眼鏡は逆光した。 そんなものをユキメ達にも飲ませるとは、あんた鬼だ……。
「父さんとの?」 「皆との」 「強いんだな、@波は」 五十嵐と慎一は二人の世界に入り込み、 「真、マッハスペシャル!!」 もんじゃストームを撒き散らしながら高速で動き回る悠木だったり。 「あんたって人は。あなただけは!!!」 保志@一郎風の声で四十間は猪狩に対して叫ぶとその場で倒れた。 「……」 「……」 声にならずもだえ、苦しんでいるユキメと宮本がいたりした。 あまりにも燦々たる状況故に、『地区大会オールスターズ』の面々は戦々恐々とせざるをえなかった。 「あー、やっぱり猪狩のジュースは舌がぴりっとして、何か口にしてるって気になるわ。前回より味は1.5倍パワーアップ(当社比)してるわね。うん、より食べている感じになって……」 「……あの、雛姫さん? これってものすごく苦くて辛くて酸っぱくてまずいんですけど……」 雛姫は猪狩汁は味覚が鈍い故に大丈夫で、千里は過去の経験上悪食であるため、無事なのは二人だけだった。 二年前にサバイバル経験をして、まずい食べ物くらいなら食べられる千里ですら、顔面蒼白で決して無事とは言いがたい。 しかし健気にも、千里は倒れて痙攣しているユキメを抱えて起こすと、口を押させての荒い呼吸で会釈をした。 「今回の取材に協力していただき、ありがとうございました。記事は増刊号に載りますので、見ていただけたら幸いです」 次第に調子を取り戻してきた千里は、ヘルメットをかぶり、そしてまだ意識が朦朧として危ういユキメにもヘルメットをかぶせて、猪狩の家を後にした。 ぐるる……。 「?」 お腹の違和感と共に。
「……何でしょうか?」 「いつまでこのサービスエリアに寄ってるんだろ?」 「……さあ?」 「確かに、最近悩んでたからいいけどさ」 「……」 「だからって……」 「……」 「出すぎだあーーーーーーーーっっ!!!」
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