Mituyaさま作
『偽りのものたち』外伝
『ユキメとチサトのスパイ紛争記』
第二話
| 「聖女(かみ)と悪女(あくま)と」 | ||
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一人は、類希なる身体能力を駆使し、敵を肉体的に滅する女性。 もう一人は、幅広い交友関係を持ち、それに加えて、高い行動力を用いて敵を精神的に滅する女性。 その、裏の世界で恐れられた二人組は今日も歩む……ボケの道を。
「で、『月刊種子島増刊号関東版』の巻頭特集、「ガブリエルの聖女達、その素顔に迫る。6人のプライベートショット満載、インタビュー記事を中心に、彼女達の学園生活に密着取材」でね……」 もちろん、そんな用件を切り出す相手は、少女たちの中ではただ一人しかいない。 城戸玲(じょうと れい)、青森ではユキメと呼ばれる人物だ。 そんな彼女の言葉を、馬耳東風の様子で聴く少女と、呆れ半分に聞いている少女。 前者は、玲の友人である佐藤愛(さとう あい)。 後者は、そんな二人の友人で、青森ではチサトと呼ばれる、黒川千里(くろかわ ちさと)である。 「……ほとんど『月刊種子島』のスタッフの中に女性がいないわけよ。ほら、聖ガブリエル女学院って女子高だからさ。だから、今度の仕事は私に白羽の矢が立てられたってわけ」 自分の自慢のようで、玲は嬉々として会話を続ける。 もちろんそんな自慢話を聞いても面白くない二人は、表情をまるで変えないで、右耳から左耳という様子だ。 「ま、あんたなら、その手の交渉は得意だもんね」 「お仕事、頑張ってくださいね」 で、さりげなく二人は、話題をすりかえようと、会話に一段落をつかせた、はずだったが。 「何言ってるの? 千里ちゃんも来るに決まってるじゃない」 「……玲。あんた、何の理由で」 「私は、行くつもりは毛頭ありませんよ。奥様のお手伝いや、愛さんの家の家事も残ってますし」 「まあ千里ちゃんの危惧している点に関しては、愛ちゃんの家族に許可は得てるし、問題はないわ。それに……今回は交渉が難航しそうだから、協力者が欲しかったの」 そんな玲の言葉が珍しかったのか、愛は感心したかのような声をあげる。 「へぇ……。玲でも交渉が難航することってあるんだ。だから今日、翔子に占ってもらってたの?」 「うん。魔法学の基礎、予知に関わる能力の練習中って聞いたからね。当たるも八卦、当たらぬも八卦だけど」 玲は、明らかにそんじょそこらの女子高生とは違う能力の持ち主だということを、愛も知っている。 しかし、そんな玲が占いに頼るのかと、愛は少しだけ玲の評価を変えた。 「だったら……」 千里は何とか自分以外を協力者にする方針で断ろうとした。 しかし玲は、そんな千里の言葉をまるで聞いていないかのように、言葉を続けようとした千里を無視して話を続ける。 「それで、その協力者として、千里ちゃんが適任だったわけ。まあもちろん他にも理由があるんだけどね」 「何ですか……?」 「それはね……」 玲は雰囲気を出すために声を潜め、ためを作る。 見事にそれに乗っかった千里と愛は、先ほどまでとは態度を180度変え、玲を注視した。 「この小説のタイトルが、『ユキメとチサトのスパイ紛争記』だからよ!!」 「関係あるかぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!」 愛の盛大なツッコミは、晴天へと吸い込まれていくだけだった。
通常の生徒会室は、会議室のような造りになっているのが普通である。 しかしここは、どちらかというと、どこぞのセレブが客を向かい入れるかのようなイメージを持たせてならない。 長い机にはテーブルクロスが敷かれていて、椅子一つ一つもアンティークな物としか思えない、趣がある造りだ。 そんな、どこか場違いな感を覚えさせる場所に、玲と千里、そして三壺様方が沈黙を守りながら、椅子に座っていた。 とはいえ、沈黙は玲の望んでいるものではない。 「……『月刊種子島』の取材には、頑として応じない、と?」 表情こそ変えないが、玲の声は少しけんのある感じがする。 予想していた返答だったのだが、やはり多少の苛立ちは隠せない。 「そうです」 きっぱりと応えたのは、斯波真理亜。 オスカルという渾名にふさわしく、女性でありながら、威厳を兼ね備えた女性である。 「ですが、私たちにも私たちの理由があります。『月刊種子島』で一躍有名となった、貴校を取材できないとなると、私たちは大損害。いいえ、過去400年の歴史に傷がつきますので、こちらとしては……」 「それはそちらの理由でしょう? こちらには関係のない話。お引取り願おう」 内心、玲は舌打ちをする。 実際、このような話をするのは、学校の理事長クラスの人間のはずだ。 しかし、その人は、「生徒たちへの取材ですから、本人に了承を得てください」と言うだけであった。 そしてその生徒というのが、生徒会でもやり手との専(もっぱ)らの噂である、あの三壺様なのだ。 とはいえ、玲もそれだけで諦められるほど、人ができていなかった。 邪悪な笑みを浮かべ、玲は語る。 「では、そちらの言い分を聞かせてもらいましょう。納得のいく理由を、お願いいたします」 天使のような悪魔の笑顔で、玲は催促するように真理亜を見つめた。 対する真理亜は、女性だけど、並みの男性すらも凌駕する美男子っぷりを見せつけて、口を開いた。 「貴女の話を聞いたところ、我らの、30ページに及ぶ特集記事を組むようですが、私(わたくし)たちは、とても歓迎できるものではありません。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という言葉があるように、我々のことを、他校に知られたくないのです」 「そうですか。ですけど、今回の件はサバイバルゲームと関係あるようで、ないのです」 「と言いますと?」 「我々、『月刊種子島』はサバイバルゲームに関わる雑誌として名を売っていますが、実は必ずしもサバイバルゲームの件だけを書くとは限らないのです。もちろん、創刊している以上、最大の目的は利益。そして二つ目は、その利益の源を増やすため、サバイバルゲームのファンを増やすこと。これが、我々の目的と言えましょう」 ここで玲は一旦区切りをつけるように、ため息を一つついた。 「ですから、女性だけで構成されながら、粒揃いの貴校には、サバイバルゲームを抜きにして、私生活に密着した取材を受けて欲しいのです。もちろん貴校、当然取材を引き受けてくださる生徒方にも、それなりの報酬を用意しましょう」 しかし、相手はお嬢様校の生徒で、大手総合商社“久地紅(くちべに)”の会長の娘。 無論、多少の報酬など、雀の涙ほどだ。 もちろん玲は、そのことを知らないはずが無い。 「それに、この件はそちらのチームのメリットにもなります。貴女方のチームは、多数のギャラリーを味方につけて、プレッシャーを相手に与え、さらにそれを利用して勝利を得てきたチームだということは知っています。当然、このことはまだ記事にしていませんので、口止めをすることも可能です。……少し話が逸れましたね」 やり手の生徒会長ということもあって、話が読めないわけではないが、真理亜は遠まわしな言い方の玲に、眉をひそめた。 別に不機嫌だというわけではなく、玲の言葉の一字一句を聞き逃さないでいるのだ。 「先ほど、女性だけで構成されている、と言いましたが、これは男性が多数を占めるこのサバイバルゲーム界においては、非常に重要なファクターになります。……単刀直入に申し上げますと、貴女方のファンは確実に増えるでしょう。それでいて、貴女のチームと対戦するチームは、ギャラリーからのプレッシャーを受け、戦いにくくなることは自明の理。決して、不利な条件ではないと思いますが、いかがですか?」 ここで、玲はにこりと微笑んだ。 美人揃いの聖ガブリエルからしてみたら、玲の容貌はさほどでもないのだが、その笑顔は好感の持てるものだった。 対する真理亜は、顎に手を当てて「ふむ」と一言。 この、オスカル考える図、を彼女のファンが見たら、卒倒するかも知れない。 ……あくまで、かも、ですよ。 「確かに、そのように考えると、断る理由はありません。しかし……」 「しかし?」 「これを、私だけの一存で決める訳には参りません。私の同士、千歳さん、アン……みずえさん、おち……千恵子さんの許可を貰い、そのうちの一人でも許可しなければ、この話はなかったことにしてもらいたい」 「それは、一年生の方たちのことですね? わかりました」 なお、ここまで玲と真理亜だけで話してきたが、千里と直子と美華は何をしていたのだろうか? 千里は、何も聞かされずにこの場に連れてこられたので、いくら彼女が聡明であっても、困惑するだけだ。 直子は、本物の取材の交渉ということだけあって、メモ帳片手にペンを動かし続けている。 で、美華はオスカルの勇ましさに、目が真理亜に釘付けとなっていたのである。 「斯波さんは一年生の方々を、本当に信頼してらっしゃるのですね。うらやましいです」 玲には珍しく、何も考えずに、真理亜にそう言ってしまった。 しまった、とは考えなかったが、過去を思い出して、少しだけ真理亜に嫉妬を覚えた玲であった。
「どうしたのよ、千里ちゃん。そんな顔してると、若くして皺が増えるわよ」 「……私が来る必要なんて、なかったじゃないですか。交渉は全部全てまるごとどこまでも玲さんがやってしまいますし」 「友情パワーって奴よ」 「私がいなくても、問題ないくせに……」 千里の言うとおり、ほとんどの交渉、いや全ての交渉は彼女一人で、何一つ問題なくこなしている。 だから千里が交渉で活躍するケースは皆無である。 むしろ千里の役割は、玲の命を狙う輩から、玲の命を守ることだ。 「……だって、千里ちゃんが必要なのはこれからだし」 「……何かいいましたか?」 「別にぃ。私の独り言なんて、いつものことよ、いつものこと」 多少いぶかしむ千里だったが、聞き取れなかったことを話すほど、玲はいい人ではないので諦めた。 「ここが、聖ガブリエル女学院よ。もうちっと詳しく説明させてもらうと……」 東京都豊島区にある聖ガブリエル女学院は、「お嬢様女子校」との評判が高い、中高一貫の私立女子校である。 創立は明治40年。それから激動の大正・昭和時代を経て今日に至り、その間、政財界の大物の夫人を始めとして、華道・茶道の大流派の会長、料理学校やインテリアデザインの会社を興して成功している者、また、官僚や議員として活躍している者を多数輩出している。 およそ12ヘクタールある敷地の中には、創立当初に建設され、現在では明治期の洋館建築の好例として都の重要文化財に指定されている本館、中等部と高等部の校舎、聖堂、グラウンド、体育館、温水プール、武道場、そして生徒会室とサークル棟を兼ねている『百合の館』と呼ばれる洋館が建てられている。 「……って、コピーして、貼り付けてるだけじゃないですか!」 「あはは、やっぱしわかった?」 そりゃあ、原作者さんに懺悔モノな程である。 下手したら、著作権の問題で訴えられてもおかしくもない。 そのときは、この小説が日の目をみないだけであるが。 「あと、私の出身校である、聖ルシファー女子高等学校とは姉妹校の関係にある……というのはまったくの余談よ」 「これは、原作者さんに許可を得た結果、つけられた設定ですけどね」 「というか元々、私が1年のころに通っていた高校は、女子高がいいって作者が考えていたから、それに便乗しただけなんだけど」 裏設定というか、楽屋ネタな話してないで、そろそろサバゲー参加者の説明をして欲しいものである。 「まあその話は置いといて、今度は参加者の予備知識に入りましょう」 「そういうことは、先に教えてくださいっ!!」 まず一人目。 金沢千歳(かなざわ ちとせ)、1年生。 現在、祖父、兄と一緒に、学校から徒歩15分ほどの場所に位置するマンションで暮らしている。 父親は生物の研究者、母親は……不明。 「描写がないからしゃーないといえばしゃーないんだけど、千歳って子が家事を切り盛りしてる点から考えてみれば、何となく想像はつくけど」 いくら、凄腕の情報屋といえど、作者が知りようもないことを知っているはずがない。 そこらへんが、小説の悲しさなのだ。 とりあえず、その話は置いておく。 千歳の性格は、冷静で寡黙。 極度の方向音痴という欠点を持つ。 さらなる欠点としては、他人の間違っていることには黙っていられないようである。 「かわいそうに……。今の日本、これじゃあ出世は望めないわね……」 「意外と、すばらしい男性を見つけて、専業主婦でもするのではないですか? 実際に家事をこなしているみたいですし」 「もしかしたら千歳お姉さまとして、女性の方が寄ってくるかも……」 もし、彼女が猫を被りきれず、素の顔を露にした場合、そうなる可能性は決してゼロではない。 むしろ、女子高という花園に入り込んだ場合、男に飢えるあまり、下手な男性よりカッコイイ同性に対して手を出す可能性は十分にあるのだ! そこらへんが、女子高の恐ろしいところである(偏見)。 「東京都大会女子中学生の部、準優勝。剣道部期待のエース……か。ね、千里ちゃん。一度対決してみない?」 「嫌です」 そりゃあもう、竹を割ったような清涼感あふれるくらいさわやかに、そしてにこやかに千里は返答した。 安穏とした日常を求める彼女の性格からしてみれば、当然か。 「……少しは興味はありますけど」 千里は、玲に聞こえない程度の声で、ぼそっとつぶやく。 玲の耳はそれなりにいいが、幸いにも聞き取られなかったようだ。 もし聞かれてたら、間違いなくそのことを追及するに違いないだろう。 ま、それはおいておくことにする。 「では続いて二人目!」 名越みずえ(なごし みずえ)、1年生。 家族は、下町の町工場を経営している父がいる以外、やっぱし不明。 「描写がありませんからね」 もう、そのへんは無視の方針で。 性格は、お転婆で楽観的で大雑把。 だがその性格とは裏腹に、(ムダ)知識は豊富だ。 特に、ホビーや漫画、ゲーム、アニメといったものの知識は絶大。 一言で言えば、活動的なオタクである。 「でも、ホビーに強い、ってことはNゲージとかもやるのかな?」 「何でビュッフェ(食堂車)が廃止になったのよ! とか言いそうですね」 「そこまでホビーに強いとは思わないけど、1/144サイズのGP−03デン○ロビウムでもプレゼントしたら、喜ぶかな?」 「どんなサイズになるんですか……」 そんな会話をしている二人も、十分オタクである。 「んでもって、三人目!」 佐々木千恵子(ささき ちえこ)、1年生。 両親と姉との4人暮らしである。 某企業で働いているサラリーマンである父親は、他のお嬢様方とは違ってもろいが、間違いなく大黒柱。 そして特に姉である由利子は、千恵子と良く似ながらも、高校で『姉御』とまで謳われる兵(つわもの)である。 性格は、冷静かつ現実主義。 ただ、小柄な体格故か、身体を動かすことは嫌いなようである。 他にも、軍略やコンピューターといった知識に長けるようだ。 「あ……この人」 「ん、どしたの、千里ちゃん?」 「模試で全国一位になった人じゃありませんか? ほら、御堂さんが言ってた……」 「そういえば、ゆきめちゃんはそんなこと言ってたわね」 千恵子は本来、“ゴージャス高一統一模試”の全国1位である。 だが同時に、一般の全国模試でも1位だったのだ。 それがどれだけ難しいものかは、あえて言うまい。 「あと、関西出身で、虎党らしいわね」 「虎……。何ですか、それ?」 「虎党。いわゆる半身タイガースのファンってこと。ま、あっちで黄泉瓜ジャイアンツのファンだ、なんて言った時点で殺されると思ってもいいんだけど」 「あ、そういうことですか。私、あんまし野球詳しくないからなぁ……」 「私も詳しくないなぁ」 むぅ、と悩む二人。 詳しくない分、やっぱし話が続かないようである。 だからこそ、話の内容を変えるのは自明の理と言えよう。 「それはさておき、この子の友人である、ってさっき説明した金沢千歳。彼女の外祖父である、勝本信義(かつもと のぶよし)と佐々木千恵子って、師弟関係にあるようね」 「「この馬鹿弟子がぁぁぁぁ!!」とか「だからお前はアホなのだぁぁぁぁ!!」とか言いそう……」 「……モビルスーツを素手で倒すってーの、千里ちゃん?」 というか、この世界にモビルスーツがある訳がない。 だが、その年齢を感じさせない、たくましい姿を見る限り、本当に出来そうで怖いのだが。 この世界に、マスターガンダ○がないだけ、幸せだと思おう。 「あと、前述の三人の友人である赤橋園美や二階堂瞳に関するデータもあるけど……これ以上言ってもしょーもないし、省略ってことで」 というわけで、ちゃきちゃき進みましょう。 「四人目っ!」 細川直子(ほそかわ なおこ)、2年生。 別名『三壺様』の一人“梨壺女御”の通り名を持つ女性である。 “突撃ねーちゃん”という、影の渾名もあることはあるのだが。 父親が大新聞社の一角である、太平洋新聞の社長なので、不自由ない暮らしをしている。 性格は、考える前に行動するという、典型的な直情タイプ。 その性格から、後輩たちは苦労が絶えないそうな。 他にも、新聞部ということもあって、情報収集は欠かさないらしい。 「口癖は「何か事件は御座いませんかしら?」……ねぇ。どこぞのトラブルメイカーじゃあるまいし……」 「へぇ……。どこぞ、ね」 すぐ傍に、生粋のトラブルメイカーがいるのは、誰もが(?)知ってることだ。 だからこそ、まるで人事のように言う玲に対して、千里の返事と表情は冷たかった。 だが実は、千里自身もトラブルメイカーである。 玲とは違い、天然のトラブルメイカーなので、あまり自覚はないようだ。 まあそんなトラブルメイカーが二人そろえば、事件が起こらないはずも無い。 実際、彼女たちは怪人だの変人だのに巻き込まれっぱなしだ。 と、閑話休題。 「趣味は……制服集めぇ!? そんなの、ブルセラショップにでも寄れば一発でしょーに」 と、玲は言うが、それは違う。 確かに、ブルセラショップに行けば、幾つかの制服は手に入る。 だが、それ以外にも、女性看護士、バニーガール、体操服にブルマーなどといった、余計なものもあるのだ。 もちろん、そんなのは細川直子の望みではない。 しかも、そこで売られているような制服は、大抵のものは手に入れているため、なおさらそこに行く必要はないのである。 仕事上、たくさんの衣服を持つ玲だが、その辺のマニアの考えまでは理解できないようであった。 「最後までもうちょっと。五人目っ!」 斯波真理亜(しば まりあ)、2年生。 「……読めません」 千里と作者にはとてもじゃないが、この漢字は読めなかった。 辛うじて、添削者から読み方を教えてもらい、ふりがなをふることはできたのだが。 それは無視して、彼女の通り名は“梅壺大将”、もしくは“オスカル様”。 その名にふさわしい、いや、そのままの容貌なのだ。 彼女と対面した人は、誰彼構わず、宝塚に足を踏み入れたかのような錯覚を覚えさせるのである。 家族は、父親が大手総合商社“久地紅(くちべに)”の会長で、母親がフランス人。 性格は、お嬢様ながらも、割と熱血漢なようである。 もちろん、漢(おとこ)と書いても女性であるのだが。 「そして軍服マニア……何で、女御さんたちってこんなにも服のマニアばっかなの? 後述する畠山美華もメイド服に凝ってるそうだし」 「私が知るわけないじゃないですか」 言ってしまえば、金持ちの道楽なのだ。 貧乏人二人には、一生かかってもわかるまい。 「それにしても、何の格好なの? それにオスカルって……何よ?」 「さあ? 私も良く知りません。ベル……何とかっていう漫画だとかヅカがどうとかとは聞いたことはありますが……」 ……世代が違っていた。 それ以上に、二人とも幼い頃に、テレビをあまり見なかったことも原因の一つなのだが。 つまり。
「最後の一人っ!」 畠山美華(はたけやま みか)、2年生。 通り名は“桐壺姫”。 他にも、“姫さん”だの“天使のみかちゃん”だの“聖ガブリエルの聖女様”などという呼び名もある。 父親は全国に店舗を展開する喫茶店「カフェ・ド・リリアン」、通称「リリー」を経営しているシャッチョさん。 そして母親は、大財閥花菱(はなびし)コンツェルンの創設者一族。 父親の実力、母親の後ろ楯という二重の防波堤があって、彼女は内外共に、お嬢様の地位を確立しているのだ。 性格はおとなしい。 だがそのおとなしさと、雅な立ち振る舞いは、異性だけでなく同性すらも魅了する美しさを秘めている。 言ってみれば『キング・オブ・お嬢様』の代名詞みたいな人なのだ。 しかし、そんな美華に対して、玲の評価は違っていた。 「私の経験上は、こんな出来すぎた女性はいないんだけどねぇ……」 以前、ここ聖ガブリエル女学院の姉妹校にあたる、聖ルシファー女子高等学校に所属していた玲だったが、美華のような完璧な人は存在しなかった。 あまり美人でなかったり、立ち振る舞いが悪かったり、社会的に弱い立場だったり、もしくは性格に問題があったり……と。 もちろん玲も(都合により、玲の情報屋権限で削除)なのだが、彼女は完璧なお嬢様になるつもりは毛頭ない。 少し話がそれたが、どんな女性、いや人でもアラは存在するのだ。 「……まぁいいわ。今は……ね」
『百合の館』には、現在千歳、みずえ、千恵子の3名がだらけ……もとい、待機中。 「へへーん。オレの勝ち〜」 「また負けたぁ。……やっぱ、格闘ゲームになると、戦術だけで何とかなるっちゅうもんでもないわな」 みずえ、千恵子の二人は、格闘ゲーム「陰陽五行戦記」をやっていた。 近々、「陰陽五行戦記2」が発売するというので、練習がてらにプレイしていたのである。 なお、「陰陽五行戦記」とは、直江雨続氏が書いた、超有名なファンタジー小説(?)である。 そしてそれを原作として、どこぞのゲーム会社が、格闘ゲームにしてくれたのだ。 ……とまあ、どうでも良い話は置いておき。 椅子の上で胡坐をかき、満足げな表情で、机の上にある冷めた紅茶をぐいっと飲むみずえ。 逆に、難しい顔で思考の海の中へと入り込み、微動だにしない千恵子。 んでもって、その様子をいつもの表情で眺める千歳。 「『ナツメ』の技の出終わりん所に、うちの超必を入れられんかったんが敗因やなー」 「でも、千恵子の使う『マサカド』がいくら強いっていっても、ぴょんぴょん飛び跳ねるだけじゃ、オレには勝てないぜ」 「せやけど、『ナツメ』は対空があんまし強(つよ)うないし、いけるおもってん……」 やや、尻下がり気味に、言葉が縮こまっていく千恵子。 普段、「対戦戦国」でボロボロに負かし、薀蓄をみずえに言っていただけに、千恵子は弱気だ。 「全然、進歩してへんな……ってね」 にやにやとした表情を浮かべながら、過去に自分に向けて言われた言葉を、みずえは千恵子に言い放つ。 「……あー悔し! もっかい頼むわ!」 と。 「来る……」 不意に、千歳が呟いた。 みずえと千恵子に緊張が走る。 千歳さんは、気配を読むのが得意なのである。 これも長年にわたる剣の修行の賜物だった。 「何っ」 「何人や?」 慌てる二人に、手で静かにするよう合図してから、千歳さんは集中し、気配を更に探る。 「……1……2人だ。今階段の登り口にさしかかった」 「みずえ!」 「あいよっ!」 みずえは慌ててテレビとプレステの電源を落とした。 プレステはコードを外して、テレビの下の戸棚に隠す。 (あれ? なんや、このパターンって前にも……) ……作者の腕がないからって、そんなところまで反応して欲しくない。 三人とも素早く制服の乱れを正し、お嬢様という偽りの仮面を被って準備万端である。 (でも、今日は女御さんと大将さんと姫さんだけで、裏の林にいる言(ゆ)ーてたはず……。あ、客人がおるって言ーてたな。それなら、そこにおるわけないわな) 裏の林とは、学校側の意向で急遽作られることとなった『戦乙女の花園』と呼ばれる、急ごしらえで作られたサバゲーのフィールドのことだ。 『戦乙女の花園』という名が付いているのだが、千恵子はどうしても、そのおかしな名前を使いたくなかったのである。 (だけど、何の用だよ? 突撃ねーちゃんが、変なパンフレットでも見つけたんじゃないだろーな?) しかし扉から出てきたのは、みずえが予想していた人たちとは大きく違っている、二人組の女性であった。 「おハロー、皆様」 あまりにもあっさりとしすぎた、見慣れない女性の登場のこのなれなれしい発言に、一同は固まった。 「他者に良く見られようとし、他者に嫌われないようにする。しかし、それは偽りにしか過ぎず、本性を現せないことに対し、後悔を抱く。人、それを仮面という」 「な、何者!」 よくわからない前説に、芸人としてのサガなのか、思わず千恵子は声を上げてしまう。 「貴様に名乗る名前はない! ……じゃなくて、私の名前は城戸玲。夜露死苦ね」 (何で、よろしくが漢字やねん……) 今回だけのゲストキャラ、ということもあって、作者のノリについていけていないようだ。 ……発言が漢字だとわかるくらいでも、十分ついていっているのかもしれないが。 「申し遅れましたが、私は千里と申します」 千歳とは違ったアップテール気味のポニーテールに姉妹校にあたる聖ルシファー女子高等学校の制服を着た女性と、ブレザーを着ている三つ編みに黒ブチ眼鏡の少女の突然の登場に、三人は戸惑いを隠せない。 千歳は表情こそほとんど変わらないが、その僅かで十分だ。 みずえはぽかんと口を開けたまま。 そして千恵子は心の中でツッコミというツッコミを入れまくっている。 だがそれは僅かな間のことであって、反応の早い三人は、すぐさま正気を取り戻し、全員が再び偽りの仮面をつけた。 「ご機嫌よう。私は金沢千歳と申します」 「ゴキゲンよう。ワタクシ、名越みずえと申します」 「ごきげんよう。わたくし、佐々木千恵子と申します」 三人は、見た目だけは完璧な礼儀作法で会釈を交わす。 もちろん、偽りの笑顔も完璧だ。 「ごきげんよう」 それに対し、玲はにこりと微笑むことによって、会釈を返す。 その時の玲の笑顔は、確かに綺麗なものだったが、こちらもどこか嘘のある笑顔だった。 しかし、その場でそれに気づいた者はいない。 「私たちは、こんなナリですが、『月刊種子島』というサバイバルゲームの雑誌の記者なのですわよ……って、いちいちこんな言葉遣いするの面倒だし、普通に喋らせてもらうわね」 そう言うや否や、玲はいつもの表情に戻した。 こっちの方が、先ほどの笑みより遥かに自然だ。 「それで、『月刊種子島増刊号関東版』の巻頭特集、「ガブリエルの聖女達、その素顔に迫る。6人のプライベートショット満載、インタビュー記事を中心に、彼女達の学園生活に密着取材」という企画を立案して、斯波さんから「一年生から許可を得て欲しい」と言われて」 「「「お断りします」」」 しかし、返ってきた返事はNO。 しかも即答であった。 彼女たちの素を知らない千里は、これまた面食らう一言である。 「へぇ。それはどういう理由で断るというの? きちんとした説明が欲しいわ、お姉さん」 千里とは真逆で、全てを知り尽くしている玲は、いたずらっぽく笑みを浮かべて問いただしにきた。 「え……。そ、それは……」 三人が三人、困惑した表情を露にする。 「では、逆にお聞きしたい。何故、サバイバルゲームの雑誌だというにも関わらず、プライベートに密着する必要があるのですか?」 困惑からいち早く抜け出したのは、千歳さん。 確かに千歳の言うとおり、これは正論だ。 矛盾に黙ってられない千歳らしい質問である。 「そんなの簡単よ。そっちの方が、雑誌の売り上げがいいと判断したから」 と、そんな正論をあっさりと切り返す玲。 はっきり言って、玲のは屁理屈としか言いようがないので、千里としては、内心千歳に同意した。 「で、でもそれでは、逆にサバイバルゲームと関わりがなくなるのではございませんか?」 「あら、関係はあるわよ。貴女たちがサバイバルゲーム全国大会の出場選手じゃない」 ようやく混乱から立ち直った千恵子だったが、これまたあっさりと玲は切り返す。 「でしたら、何故私たちに括る必要があるのですか!?」 「美人だから、購入者を増やせると思ったからよ」 威嚇の意味を込めて、千歳は激昂して見せたのだが、対する玲はまるでなびかず、けろりと答える。 玲の言葉は褒め言葉でもあったので、千歳はそれに即座に反論することも出来ず、言葉に詰まった。 そしてその隙を、みすみす見逃す玲ではなかった。 「で、何で依頼を断るの? 明確な理由が欲しいな、私」 「玲さん……。その言い方、すごくいやらしい」 そう、玲はまるで何もかもを知っているという言い方なのだ。 千里の言葉は、彼女の率直な感想である。 とはいえ、千里は事情を何一つ知らないので。 (でも、玲さんは何を知っているんだろう。弱みでも握ってる? ……まぁ脅迫は玲さんの常套手段だし、そういう風にしか考え付かない自分が情けないかも) と、こういう風にしか考えられない。 「それとも、答えられない理由でもあるの?」 邪悪な笑みを浮かべる玲だったが、流石に誰でも、彼女の意図を読み取ることができる。 玲の、公開処刑のような言い回しに、みずえや千恵子はともかく、千歳は黙ってられなかった。 「何故貴様のような輩に、それを話さなければならん!! 人は誰しも、話したくない事情がある!! それを、私利私欲のためだけに、根掘り葉掘り聞くような者に話すことなど、何一つも無い!! お引取り願おう!!」 千歳は、激情に身を任せ、つい本音を玲にぶつけてしまった。 普段は冷静で寡黙な彼女なだけあって、身近にいるみずえと千恵子の両名は、目を白黒させる。 千里も、お嬢様だと思い込んでいたうちの一人に、こんな一面があるのかと納得しつつ、突然の出来事で身体を一瞬だけ震えさせた。 そして玲は……笑っていた。 般若のような千歳の表情は、そんな玲を見て一変させた。 紅潮させた顔はみるみるうちに青ざめていき、憤怒の表情は後悔のそれへと変化する。 だがそれを見て、玲の過去に行った交渉の手筈を思い出し、千里はふと自分の役割を悟ったのだ。 (相変わらず、玲さんって策士) そして千里は口を開いた。 「大丈夫ですよ。私たちは、話したくないことは、決して他に漏らしはしません。玲さんはともかく、私が保証します」 自らの過ちに気落ちした千歳と、母性で包み込むような笑顔の千里の目があった。 千里はその時点で(信じてもらえたかな?)と内心不安ながら、笑顔を絶やすことは無い。 対する千歳だが、玲の仲間ということで、信頼のしの字もなかったのだが、千里の目を見て、おかしなほどに信頼できると思ってしまった。 理由は無く、勘、としか言い様がない。 そう、武術家の……。 「すまない、みずえ、千恵。私が至らぬばかりに……」 「別に、気にすんなよ。そんなこと言ったら、オレの方が失敗なんて多いぜ」 「そうやな。うちかて失敗くらいはするもん。気にせんでもええよ」 一年ズの麗しい友情劇は、観客こそ少なかったが、千里の心を暖かな気持ちにさせた。 「う〜ん。友情とはすばらしきかな」 だが、玲の言葉は余計だった。 この場にいる全員の冷たく鋭い視線の集中砲火を浴び、流石の玲もたじろぎ、思わず視線を逸らす。 だが千里が冷たい視線をしたのはほんの一瞬だけで、次の瞬間には目での会話モードとなった。 「……そういうことなら、言ってくださいよ。ていうか、もっと別の方法があったでしょうに」 「いいのいいの。目的のためなら、相手にいくら嫌われようが構わないわ。これぞ『カツ丼食うか作戦』。相手を凹ませて、そこに優しい言葉をかけてたぶらかす、警察もやってる手口よ!」 「……警察への信頼を失わせる言葉ですこと」 以上、視線会話でした。 だがそんな視線会話をし終えた直後、千里は自らに向けられる殺気を感じた。 思わずそちらを振り返っても、一年ズしかいない。 怪訝に思う千里だが、彼女が危機を感じるのは、悲しいかな日常茶飯事であった。 こういうこともしょっちゅうなので、別に不思議でも何でもない。 玲はそんな千里の様子を知ることなく、事務的に取材の話を再開した。 「千里ちゃんの言うとおり、話したくないことは話さなくても結構よ。もちろん思わず口が滑っても、そちらの権限で修正ができるわ。もちろん口調もね。幸い、写真で口調が写ることもないんだし。だから、地で話してくれて結構よ。というか話せ」 「ホンマに、失礼な人ですね……」 「それは、褒め言葉として受け取っておくわ」 千恵子の露骨な悪口をも、軽々と受け流し、笑顔で答える玲は、千恵子の女の勘でも信頼にはおけない。 けど、気軽に話しかけてくれて、なおかつ話しかけやすい雰囲気を作ってくれることは、一年ズは嬉しかった。 「まあそれに、この取材が成功したら、貴女たちの応援団が増えるのは確実。いざとなれば、私に嘘の記事を書かせて情報を流し、敵を油断させることも出来る! そして私は会社から印税の一部を受け取りウッハウハ! 双方に利点があるこの依頼、信頼して受けて貰いたいの」 何故かあさっての方向を向いて、手を大きく広げて話す玲。 「うわ。これが業界で言う、カメラ目線ってやつだ」 「って、カメラもないのに、何でカメラ目線をする必要があるん?」 そんな漫才を見て、千里は思わず苦笑をしてしまう。 そしてそんな千里を見つめる千歳。 「せやな。確かに、玲さんの言うとおり、勝つためには受けるべきやな。けど……ホンマに信頼できるんですか?」 「無理(はぁと)」 「自分で言うなぁぁぁっ!!」 千恵子が懐から取り出したハリセンの、乾いた炸裂音が、玲の頭から響いた。 「酷い! 親にも殴られたこと無いのに!!」 「私、しょっちゅう殴ってるような気がするのですけど……」 思わず千里が茶々を入れる。 「ふっふっふ、あれは私の双子の妹よ。そして今ここにいるのは私の双子の妹」 「何で自分が他人やねん……」 先ほどの緊迫した状況が嘘のように、和やかな雰囲気が流れ始めた。 が、一人その雰囲気から外れる人物が、何かを思い切ったかのように、千里に話しかけた。 「千里……さんでしたね?」 「はい?」 名指しで呼ばれた千里は、当然ながら困惑する。 元々、玲とは比べ物にならないほどの交渉下手で、実際に、彼女の友人は数えるほどだ。 さらに、人を立てる方に偏る傾向があるので、どうしても自分の方が妥協してしまう。 そんな自分を呼ばれれば、失敗の恐怖から、脅えが出るのは当然だ。 とはいえ、アメの役割をする以上、交渉は自分でやるしかないと、千里は腹を括ることにした。 しかし、そんな恐怖以上の返答が帰ってこようとは、そのときの千里は知らなかった。 「……私と試合して頂きたい。そうすれば、貴女方を信頼し、取材に応じることにします」 「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!??」 千里が奇声を発していて、思考回路が低迷しているのをいいことに、玲はさらに人の悪い笑みを浮かべる。 「それで取材を受けてくれるというなら、よろこんで!!」 「勝手に許可しないでくださぁぁぁい!!」 しかし、反論した相手は、その手の人格操作(せっとく)のプロフェッショナルであった。
で、結局、千里は説得されたのでありましたとさ。
しかしこの状況下で、千里はテンションをより一層下げていく。 なぜそんな状況になるのか? 「金沢お姉さま、素敵ですわ〜」 「何と凛々しいのでしょう」 とかいう野次馬の声が聞こえてきたり。 ♪ちゃっちゃっちゃ〜ん ♪ちゃーんちゃーんちゃーんちゃ〜〜ん 突如会場内に鳴り響くファンファーレチックなメロディー。 「……え゛?」 「上さま?」 玲と千里の顔が、別々の場所で、二人して凍りつく。 その顔に張り付いている多数の疑問符を全て無視し、 ♪ちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃーんちゃーんちゃーんちゃちゃーん 聖ガブリエルのブラスバンド部は、応援曲の演奏を開始した。 高校野球の応援の定番の一つ、時代劇の帝王・松健三馬(まつけん・さんば)が主演する人気時代劇『慌てん坊将軍』のテーマである。 「「「金沢姉さま!」」」 大応援団によるエールも合間にしっかり入っている。 ♪ちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃーんちゃちゃちゃーんちゃちゃーん 「「「金沢姉さま!」」」 ♪ちゃちゃん ♪ちゃちゃん ♪ちゃちゃーん 「「「撃墜あそばせ!」」」 ♪ちゃちゃん ♪ちゃちゃん ♪ちゃちゃーん 「「「撃墜あそばせ!」」」 ♪ちゃちゃんちゃーん 「「「Hey!」」」 ♪ちゃちゃんちゃーん 「「「Hey!」」」 ♪ちゃーんちゃーん ちゃーんちゃちゃーん 「「「HeyHeyHey!」」」 ♪ちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃーんちゃちゃちゃーんちゃちゃーん 「「「金沢姉さま!」」」 (……何で、毎回毎回コピーして、貼り付けてるんだろう) そりゃあ作者の腕前が……って、千里め、何を言わせるか! 大体、ちょっとくらいは変えてあるわい。 ……と、状況を説明せねばなるまい。 あれから、一年ズを連れて、玲と千里は武道場に向かったのであった。 しかし、どこでどう情報が漏れたのか、千里と千歳の決闘が行われるのを聞きつけた生徒が、武道場に集まってしまったのだ。 その数、総勢……いや、言うまい。 もちろんのこと、三壺様もこのことを聞きつけ、しっかりと観客席の一角を占領済みだ。 まあ情報が漏れた原因となったのは……これもあえて言うまい。 だって、にやけた自称情報屋がいるんですもの。 ぶつぶつと文句を言っている千里だったが、既に面以外の防具は装着済みだ。 しかし、千里は一度たりとも、この手の防具を着用したことがなかったので、そこにいる剣道部員に聞きながらだったが。 (もしかして、私をここに呼び寄せたのは、これの為!? ……まさか玲さんでも、そこまで考え付く人なんているはずが……翔子さん!! でも、私も占ってもらったことあったけど、一度たりとも当たった試しはないのに……。まさか、まさかね)
千里がふと思い浮かんだことは、現実では到底ありえないことだった。 とはいえ深く考えていても、答えが得られる問題ではない。 ともかく、こんな理不尽な環境で、千里はより一層落胆の色を見せていた。
「何でブラスバンド部がいるんだよ」 「……瞳がブラスバンド部の部長にこの決闘のこと話したら、部長が喜んで部員かき集めたんやて。ブラスバンド、大会で出番が殆どなかったから、これで完全燃焼できるーって部長が喜んでたらしいわ」 「ていうか、その不完全燃焼の原因を作ったのはお前だろ。瞳と一緒にブラスバンド部に手を回してさ」 「ま、それは言わないお約束ってやつや。勝つためにはあらゆる手段を使わんとあかんのや」 「はいはい……それにしても、早いよな、噂が回るのって」 「そやねえ……瞳も、ここにたまたま来てた聖ルシファーの生徒に聞いた、て言うてたわ。バンドの練習があるからもう帰ってしもたけど……。それよりも、うちは千歳のこれからの学園生活が心配や。何か、どんどんオスカル様状態になってってるのは、気のせいやろか?」 「オスカルな千歳……そんな千歳、嫌だぜ?」 「それは、うちも同意見や」 などなど、ヒソヒソ声で、言いたいことを言い放題であった。 「しっかし、驚いたよな。まさかあの千歳が勝手にあんなこと言うなんて」 「ホンマや。後で聞いてみたら「一武術家として、剣を交えてみたい」なんて、言うんやもん。いつもの千歳ならそないなこと言うはずはあらへんよ」 「まるで、格闘ゲームの金字塔『路上ファイター』のユウみたいな状態だぜ」 なお『路上ファイター』とは、一昔前に発売された、格闘ゲームの基盤とも言えるゲームである。 そのゲームのユウというキャラの口癖は「俺より強い奴に会いに行く」。 まさに、今の千歳の状態にはピッタリだ。 「そのゲームのことは知らんねんけど、ホンマに今日の千歳の様子はどこか変や。千里っちゅう人に、何かインスピレーションでも感じたんかなぁ?」 「それにしても、あんなに嬉しそうな千歳の顔、オレ、始めて見たような気がするんだけど……」
つまり、この喧騒の的となっているため、必然的に集団の中心となっている。 千歳の友人ということもあり、みずえと千恵子も、千歳のすぐ傍だ。 三壺様はというと、生徒会役員権限で、ベストポジションを得ている。 では、玲はどうなのか、というと。 千歳のファンに押し出され、あまりよろこばしくない場所まで運ばれてしまったのだ。 「まいったなぁ……」 頭をポリポリと掻きながら、途方にくれる玲。 集団に突っ込んでもいいのだが、そのファンたちの熱は、韓流ブームに乗ったおばさまの如く熱い。 つまり、下手に行ったら怪我はほぼ確定なのだ。 「いや、諦めたらダメよ! 私にはまだ、この身体は滅びていないっ!」 しかし、玲はリスクジャンキーであった。 「不肖ながらこの私、城戸玲、参ります!!」 そして散った(笑)。 どこぞの名シーンのように、のけぞりながら空中に浮いているが、やけにスローに見える。 いや、見ているのは読者であって、彼女の姿を見ているものはいないのだが。 そして、地面にたたきつけられるのだが、その音にもエコーがかかっているかのように錯覚を覚える。 城戸玲、『千歳様LOVE』な後輩たちの手にかかり、死亡。 享年17歳(自称)であった。 ……なわけないですね。 「相変わらず、面白いことしてるなー」 いや、倒れている玲のことを見ていた人物が、一人だけいた。 かなり大胆なベリーショートで、少し褐色の肌の色をしているあたり、活発さをうかがえる少女だ。 制服から見ても、聖ガブリエルの生徒には違いない。 そしてその人物に、玲は見覚えがあったのだ。 「……もしかして、亜紀ちゃん?」 「やっぱり玲だったか」 亜紀と呼ばれた少女は、聖ガブリエルの生徒の割には口調がお嬢様ではなく、こざっぱりとした口調だ。 「にしても、少しお変わりになったのではございません? あたくしがお会いしたときには、クールなお姉さまの節が強かったように思えますが……」 「それはそちらも、でございません? わたくしが貴女にお会いしたときの、おしとやかな亜紀様の言葉とは思えませんわ」 先ほどとは一変して、亜紀はおしとやかな振る舞いをするのに対し、玲はにこりと、亜紀と同じように応対をする。 少しの間、玲と亜紀は互いの目を見つめていたが、耐えられなくなってか、二人は笑いを漏らした。 「あははは……久しぶり、亜紀ちゃん」 「あはは……1年とちょっとかな?」 再び、言葉遣いを戻す二人。 聖ルシファーを転校した玲の方が女性らしく、現在聖ガブリエルに在籍している亜紀の方が男らしい口調だ。 そう考えてみると、少々滑稽に感じる。 亜紀と呼ばれた少女の名は、犬飼亜紀(いぬかい あき)。 今でこそ、生徒会から一線を引いているが、かつては『三壺様』と同様の立場にいた『三宮様』のうちの一人なのだ。 雪ノ宮、月ノ宮とあり、彼女は最後の一つ、花ノ宮と呼ばれていた。 「最後に会ったのが、総合で委員会を開いたときだったっけ? あのときは、聖ルシファーには教師も二、三年もいないんで、予算をもぎ取れるチャンスだったのに、玲がそれを全部ひっくり返したんだよな?」 「そうそう。そんなこともあったよねぇ」 「あのときは、ウチの先生方が泣いてたよ。「新年会の費用がぁぁぁ〜〜」って」 他愛のない(?)思い出話に、玲と亜紀の二人は浸る。 そんな過去を思い出し、玲は笑顔が絶えないし、亜紀も楽しそうだ。 特に玲は、普通の人物とは一風変わった人生を送ってきただけあって、そのごく普通の生活を過ごしてきた高校一年生の時期は、何者にも変えられない珠玉の宝石のようなものだ。 色褪せない思い出に浸る玲だったが、今日はその時ではない。 「……っと、長々と思い出話に浸っている場合じゃなかった。実は『月刊種子島』っていう、サバイバルゲームの雑誌のバイトをやってて、その取材に来たんだけど」 「あ、もしかして細川と斯波と畠山、あと剣道準優勝者の子と、思いっきり赤毛のアンの女の子と、“ゴージャス高一統一模試”の全国1位の子たちのこと?」 「そうそう。まあ色々と訳あって、私の友人が、その準優勝者の子の相手をすることになって……んで」 そこで玲は、武道場の方へと目を見やる。 そこは、千歳様見たさに、ミーハーな女学生たちがおしくらまんじゅう状態だ。 亜紀もそっちを見るが、嘆息気味だ。 「どーせ、玲が変なことでも言ったんだろ?」 「えへへ、当たり。でも、面白そうじゃない?」 「まあな」 どこか、玲と亜紀の表情はにやけ気味だ。 この二人を見ると、どうしても悪代官と越後屋を思い出すのは、作者の気のせいだろうか。 「だから、花ノ宮様の権限で、ね♪」 「アリーナ席を用意してさしあげようじゃあないか」
思いもよらない珍客に、お嬢様らしからぬすっとんきょうな声を上げるのは直子。 だが驚きの感情を持つのは直子だけでなく、真理亜と美華も同じようで、二人も目を見開いている。 「ここが、二人の試合を見るのに絶好なポイントですわ、玲様」 先ほどとはうって変わって、亜紀はおしとやかーな口調で玲に席を勧める。 ちなみに何故このような言葉遣いを選ぶのかというと、後輩へのしめしをつけるためである。 もちろん後輩である三壺様は、その偉大なる先輩の前では頭が上がらない。 「ありがと、亜紀ちゃん」 「どういたしまして」 どこか、仲の良さげな二人を見て、不意に三壺様は怪訝に思った。 「あ、あの、花ノ宮様。城戸様とはお知り合いなのでしょうか?」 「……城戸? 玲様の苗字は、西城ですわよ」 「ああ、違う違う。確かに昔は西城って名乗ってたけど、今の姓は城戸」 玲は、聖ルシファー時代の名前は、西城玲と名乗っていたのである。 なお、現在も戸籍上は西城玲となっているが、城戸と名乗る理由は、彼女以外は誰も知らない。 「ま、色々あってね」 玲の言葉に、ふぅんと納得する亜紀。 だが“梨壺女御”こと直子は、西城玲という名前を聞いた途端、その表情を一変させ、驚き、というよりは畏怖の表情で玲のことを見ていたのだ。 「ま、ま、まさか……貴女が“聖ルシファーの悪女”と呼ばれた、西城玲さま?!」 「確かに、“聖女”とは言いがたいですわ」 「亜紀ちゃぁ〜〜ん……。その言い方はないんじゃない? せめて、レジスタンスのリーダーとかさ」 「というよりは、一国を侵攻する魔王、と言うべきかしら?」 「むー。亜紀ちゃんのいじわる」 ぷー、とかわいらしく顔を膨らませる玲に対し、そのような仕草が珍しいのか、亜紀は面白そうに玲の表情を見つめながらにやにやと笑っていた。 しかしそんな二人のやりとりを、三壺様方は気にはなさらなかったようだ。 というよりは、真理亜、美華の二人は事情通というわけでないから、ルシファーの事件のことを知らない。 そして直子は、驚きのあまり、声を出す機会を逃しただけであった。 そんなとき、急に美華が声を上げた。 「そうですわ! 先ほど、報酬をいただけるとおっしゃってましたよね? それでしたら、カフェ・ド・リリアンの宣伝をしていただけますかしら?」 ここで、玲はちょっと考えた。 (カフェ・ド・リリアンって、オーナー(千里の恩人)の店のライバル店じゃない……。また、千里ちゃんから文句言われるかな? 下手したら、あそこのフルーツサンド、食べられなくなるかも……) そして天秤にかけ……。 「わかりました。お引き受けします」 「よかったわね、美華」 「よかったですわ」 ぽんと手を胸の前で合わせる美華のそのさりげない仕草は、聖女様と言うよりは女神様という方が相応しいほどの美しさである。 ここで男性がいたならば、間違いなく見とれていたに違いない。 そうでなくても、同性が見とれているのだから。 ここでふと我に返った直子は、その動揺をなんとか立て直して、改めて玲へと視線を移し、嬉々として玲に詰め寄った。 「本物の西城玲さまに出会えるなんて、思いもよりませんでしたわ!! 現在の聖ルシファーが存続しているのも、玲さまのおかげだと聞いています!!」 「……と、直子。そろそろ試合が始まりますわよ」 亜紀が、興奮冷めやらぬ直子を制止した。 騒ぎが起きているうちに、相当の時間が経過していたようだ。 剣道部に所属している真理亜は、興味津々という御様子で、真剣な目をしながら、戦いの舞台となる場所を見つめていた。 そんな様子が勇ましく、オスカルのファンが黄色い悲鳴をあげたとか、あげてないとか。
千歳も、千里も僅かながら足を進めただけで、ほぼ静止状態といってもいい。 千歳はすり足で。 対する千里は、大胆な足運びで接近する。 (この者、私の殺気に反応できる故、相当の手練(てだれ)と見たのだが……気のせいか?) そう、千里の接近方法は、剣道では考えられない、よく言えば大胆、悪く言えば素人染みた歩法なのだ。 素人でない限り、このような歩き方はすることはない。 それに気落ちしてか、千歳は僅かに構えを解いた、そんなときだった。 「!!」 ビュンッッ!! 青眼の構えを取る千里だったのだが、千歳の油断とほぼ同時に、竹刀が唸った。 面を狙って打ったその一撃を、辛うじて千歳はかわしたのだが、それが精一杯。 一瞬の動揺のせいもあるのだが、それ以上に千里の剣速は速く、反撃する隙は一分としてなかったのだ。 もう油断はできない。 東京都大会の決勝戦のとき以上の集中力を持って、千里に臨む、そう千歳は決心した。 再びの静寂。 静かながらも、その二人の間には、常人が入り込めない威圧感らしきものが渦巻いている。 千歳ですら、その威圧感に気圧されて、足を進めていない。 だが千里はというと、まるで気後れすることなく、さらにじわりじわりと間合いを詰めていく。 それならば、と千歳は千里が一歩を踏み出すタイミングを狙っての一撃を放つ。 しかしその瞬間には、千歳の狙い済ました一撃の根元を払うかのように、竹刀で竹刀を捌く。 それと同時に、神速のカウンターの一撃を放つが、これは千歳の予想する攻撃だ。 とはいえ、先ほどと同様の小さく鋭い一撃であるため、これに攻撃をあわせることはできなかった。 一瞬舌打ちをする千歳。 とはいえ、この程度で諦めるほどの女性ではない。 隙を作るために、千歳は竹刀を叩き割るかのような、怒涛の連続攻撃を仕掛けてみる。 千里はその一発一発を、綺麗にいなし、かわしていく。 とはいえ、千歳も小さく鋭い攻撃なので、千里のカウンターは散発的となる。 結果、二人は火の出るような打ち合いをすることになっていた。 この光景に、千歳さんのファンや彼女の友人、そして先輩方といった面々も驚きを隠せない。 とはいえ、ざわつくわけではなく、驚きのあまり、誰もが声を出せないようだ。 それもそうだろう。 千歳は、東京都大会で準優勝、東京都高校生剣道大会の新人戦で入賞と、輝かしい成績を残してきた、期待の新人と言うべき存在だ。 対する千里の方はというと、名前すらあがること無い、得体の知れない存在だ。 誰もが千歳の勝利を想像できるだろう。 だが実際は、その千歳に対して、千里は互角の戦いを演じているではないか。 (くっ……!)←千歳 (これなら、もう少しギアを上げられるかも……)←千里 千里がそう思った瞬間、次第に剣速が上がっていく。 それに従って、当然回転も速くなるし、よりシャープに、より緻密な攻撃を繰り出す。 もちろんそれらに対応するのは難しいのだが、流石は好成績を残す剣士なだけあって、辛うじてだが千歳は捌いていく。 だが千歳が受けだけで手一杯なのだから、当然ながら反撃はお座なりになるのは自明の理。 生徒たちの、当初の予想を大きく裏切り、千歳は防戦一方となっていた。 「ああっ、千歳お姉さま!!」 中等部の後輩の一人が、悲痛な叫びを放つ。 その瞬間、千里の攻撃が僅かに緩み、その隙に千歳は一旦間合いを離した。 (うう、やりにくい……) そう、千里には、多くの千歳のファンたちの痛い眼差しにさらされていたのだ。 もはやそれは、怨念、いや生霊と言っても過言ではないほどのものだ。 ここまで来ると、勝ってはいけないような気さえしてくる。 (あ、そうか。別に勝たなくてもいいんですよね。金沢さんは「試合していただきたい」と言っていたわけですし) そう思ったら後の行動は、いかに上手く負けるか、だ。 小、中、高といじめられっ子だった千里は、相手を立てる技術は達人級だったのが、不幸中の幸いだ。 千里は青眼の構えを解き、両手で持った竹刀を、自分の右斜め下に構える。 (狙いは……逆胴、それとも左切上!?) ちなみに逆胴とは、相手の右手側中央から狙った攻撃のこと。 そして左切上とは、相手の右手側斜め下から切り上げる攻撃のことである。 利き腕とは逆だが、通常鞘が自動的に防御する部分ゆえ、剣術の使い手ならあまり打たない部位である。 だが、剣道なら話は別。 十分に、必殺の一撃となり得る。 だが、千里はそれをわかりやすく構えているから、防御してくださいと言っているようなものだ。 とはいえ先ほどの打ち合いのこともあり、千歳は油断せず、青眼の構えを継続して、面越しに千里を睨みつける。 一陣の風が吹き、外から入り込んだ一枚の木の葉が、二人の間をひらひらと舞い降りる。 そして、地面についた。 「ハァァァァッ!!」 動いたのは千里の方からだった。 剣道をやっている人以上の踏み込みスピードで一気に間合いを詰める。 そしてタイミングを計るかのように、千歳も腕の力をこめる。 一歩。 二……で、それは起こった。 「えっ!? きゃっ!!」 慣れない防具を着ていた千里なだけあって、本気で下に着ていた袴を踏んでしまったのだ。 バランスを崩した千里に支えるものは何もなく、そのまま顔面から地上へのヘッドバットをかましてしまったのであった。 そんな様子を見ていた千歳も、半ば放心状態だったのだが、無意識的に竹刀を千里の面へと、ぽこりと叩いていた。 「面あり! 一本!」 今までが緊迫していた戦いなだけあって、終わりは味気ないものであった。 人、これを竜頭蛇尾と言う。 (あうう……格好悪い) わざと失敗するのと、故意で失敗するのとでは、千里にとっては大違い。 自分の情けなさに涙を流す千里であった。 とはいえ、一応願いは聞き入れたので、取材は受けられることになったのである。
「ふはははははは!! 俺は、お嬢様萌え怪人! 世界の人間たちに『お嬢様萌え』の属性を身につけさせ、世界中が腑抜けになったところを、我が主、魔王クラーマ様が制圧するという、我ながらすばらしい怪人なの……おおっ、あの子はなかなか萌えるな!」 ナレーション「実は、現在東京にはいないと思われている、魔王クラーマの怪人の生き残りがいたのである!」 「我が組織は、あの“神殺し”のチサトと“双剣”のユキメというやつの仲間に滅ぼされ……おおっ、あの子もいいな!!」 まあ詳細を少し語ってくれたが、彼自身も『お嬢様萌え』の属性を持っているが故、所々で台詞がとぎれていたり。 しかし、それでも彼は熱く語ってくれた……のだが、その台詞は省略させていただく。 そんな、読者への親切な台詞をしていると、数人の女学生たちが並木道を歩いてきた。 そのうちの3人は、聖ガブリエル女学院の制服を着ているのだが、そのうち二人は別の学校の制服のようだ。 その二人を見て……怪人の目が変わった。 「あいつは!! 噂に名高い“神殺し”と“双剣”!! ふふふ、ちょうど良い。あの二人をクラーマ様に捧げ、幹部昇格支部長就任良い感じ♪」 まだ先の展開を夢見ながら、襲撃するために息を潜めるお嬢様萌え怪人であった。
「それにしても、千里さんって、城戸さんのことを「玲さん」って言うんでしょ?」 「へ? ……はい、そうですが」 「惜しいよなぁ。この髪型で、隣に立っているのが玲という女性っしょ? だったら、その黒ブチ眼鏡を外して、剣客小説が好きで、おまけに城戸さんのことを「玲ちゃん」って呼べば……」 と、そこまでみずえが論じたのだが、大阪伝統の強烈なツッコミがみずえの頭を見事にどついていた。 「アホ、何言(ゆ)ーてんねん!」 「何するんだよ、千恵子!」 「……何のネタ?」 みずえと千恵子の口論がなされてる間、玲は千里に耳打ちして尋ねる。 「あー、アレですね。○リ見て。多分、由○っていう、ロサ・フェティダ・アンブゥトン・プティスールの……」 「……ごめん、さっぱりわからない」 ケンカの最中だったが、玲と千里の言葉を拾ってか、みずえが嬉々とした表情で語ってくれた。 「そうそう。前に、朝早くから放送されてたんだよな。だけどもっと面白いことに、あの『陰陽五行戦記』の著者である、直江雨続先生が、それのパロディ小説を書いてて、それがまた大人気なんだよ。やっぱり、あの先生はマルチな才能を持ってる、って痛感させられるよなー。オレとしては、やっぱり瑠華と春子のやりとりが好きかな。それで……」 流石に長くなるので省略。 そのまま話は代わり、先輩たちの話へと移っていった。 「……でさ〜、オスカルのやつがヅカモードに入るっしょ? しかも、それにつられて、オスカルのファンたちが、オスカルの言うことを妄信的に信じるっしょ? おかげで、オレと千恵子が大変だった、ってわけ」 『百合の館』へと向かう道中でも、玲と千里による取材が続いていた。 よほど先輩たちに言いにくかったのであろうか、みずえは嬉々として、玲や千里に愚痴を漏らしていたのである。 もちろん二人とも、メモを取ることは忘れていない。 「……あ、そこんとこ、載せないでくださいね」 そんな和やかな雰囲気が流れる並木道であった。 しかし、その雰囲気はすぐに壊れることとなった。 まず反応したのは千里。 いつもの気弱な少女の雰囲気は姿を消し、その表情は誰も見ていないものの、先ほどの試合の千里のそれと同じである。 続いて、玲、千歳もそれに気づいたのか、玲はいつものとおりだが、雰囲気はとげとげしくなり、千歳も、慣れない殺気に身をこわばらせる。 殺気は感じないようだが、3人の物々しい雰囲気に感化されたのか、千恵子も穏やかな表情はない。 ただ一人、まるで気づいていないみずえは、未だに先輩たちに対する愚痴をこぼしていた。 「でさ〜。“突撃ねーちゃん”のおかげで、オレたちは……」
物々しい警戒をしていた面々だったが、いつの間にやらその怪人は絶命していた。 ナレーション「説明しよう! お嬢様萌え怪人は、お嬢様校の生徒なのに、お嬢様らしく振舞わない人を見ると、死んでしまうのだ!」 こうして、一人の勇気ある行動で、学園の平和は保たれたのであった。
「そのようです」 「だね」 千里、千歳、玲の順番に、つぶやいた。 もちろん、殺気に気づいてない人たちは。 「どないしたんや、千歳?」 「でさ〜。“天使のみかちゃん”がさ〜」 こんな感じであった。
もちろんほとんどの人の目当ては、6人の聖女たちである。 その中でも、聖ガブリエルの生徒ですらも知りえない、千歳、みずえ、千恵子の素の笑顔は、特に一般人に受け入れられ、直子、真理亜、美華に決して負けない人気を誇っていたという。 しかし……。 「きゃぁぁぁぁっ!! 千歳お姉さまのお顔、とても素敵ですわーーっ!!」 「ああ……アンちゃん……キレイ……ぽっ」 「私の猫にしてあげたいよ、千恵子さん……うふふっ」 怪しげな生徒が、聖ガブリエルに増えてしまったというのは、また別の話。
「いいですか、現在、喫茶<ランデヴー>は非常に苦しい情勢に立たされています。それもこれも、あのにっくきカフェ・ド・リリアンの存在です。あの店に客が取られっぱなし。それもこれも、先日販売された、『月刊種子島』の増刊号にカフェ・ド・リリアンの紹介があったからです!」 千里は熱弁しているのだが、聞いている二人の女性はリラックスモードで、のんべんだらりと聞いているだけである。 「……って、奥様。旦那様と淳一さんは!?」 ここで千里は気づいた。 この場には、恩人である佐藤聖子(さとう せいこ)、その娘、佐藤愛しかいないことを。 聖子の夫と息子がいないのだ。 「どうせ、女の尻でも追っかけに行ったんでしょ?」 夫たちの凶行に、のんびり構える妻っていうのも、大きく問題があるが、机に突っ伏しながら聖子は答えた。 「旦那様ぁぁぁぁぁっ!!!」 カフェ・ド・リリアンに勝つ日まで、戦え、千里!!
いつもなら、思い出したくも無いことばかりが反芻される、悪夢ばかり見るはずだ。 だけど、その日は違っていた。 とある一日の思い出。 朝に目を覚まし、家族の誰もがほとんどしない家事を、玲がこなす。 そして登校直後の、友人の温かみのある挨拶。 授業も、玲にとっては退屈なものでなく、とても面白いものだから、熱心だ。 昼は昼で、友人と他愛も無い会話をしながら、食事を堪能する。 そして放課後も、彼女は友人たちと繁華街へと赴き、また楽しい時間を過ごす。 そんな、どこにでもある一日の夢だった。 だけど彼女にとっては、そんな他愛もない平穏が、珠玉の宝石にも勝る思い出であった。 そして、目覚めた。 別に低血圧、というわけではないのだが、やはり朝というのは本調子ではないので、玲はゆっくりとした動作で頭を掻く。 (あの頃の夢を見るなんてね……) 昨日、聖ガブリエルに行ったのが原因だというのは、玲にでもわかる。 珍しく夢見がとてもよかったので、その表情を僅かにほころばせた。 布団から出ると、髪の手入れ、洗顔、食事の準備と、あわただしく動く。 でもそんな一人暮らしも手馴れたもので、数分と経たない内に全てを済ました。 今日も、女子高生としての平穏な日が始まる。 昔の、そんな暮らしもよかったが、彼女は現在の生活も非常に好きだ。 だからこそ玲は、今という日を笑顔でいられるのだ。 「さて、今日も頑張りますか」 そんな幸せな玲を、さんさんと輝く太陽も祝福しているかのように、彼女の顔を照らしていた。
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