Mituyaさま作
『偽りのものたち』外伝
『ユキメとチサトのスパイ紛争記』
| 「函館突撃取材」 |
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一人は、類希なる身体能力を駆使し、敵を肉体的に滅する女性。 もう一人は、幅広い交友関係を持ち、それに加えて、高い行動力を用いて敵を精神的に滅する女性。 その、裏の世界で恐れられた二人組は今日も歩む……ボケの道を。
ここは都立開道高等学校。 都立と言っても、東京の郊外にある学校故、地方の高校とさして変わらない。 そこの、3年1組のクラスの出来事である。 「千里ちゃん。今度、函館に仕事があってね……」 そう切り出したのは、白のベストに長袖のブラウス、チェック柄の赤いスカートといういでたちの女性、城戸玲(じょうと れい)。 『いつわりのものたち』シリーズを見てる方は御存知かもしれないが、彼女こそ、ユキメと名乗る情報屋である。 とはいえど、表の顔は女子高生。 受験期に迎え、勉学も怠ってはいない。 「……またですか、玲さん?」 対して答えたのは、学校指定の紺色のブレザーを着用し、長い黒髪を三つ編みにして下ろしている、眼鏡の女性、黒川千里(くろかわ ちさと)。 ユキメのパートナー(本人否定)であり、『イクサクニヨロズ』からは、チサトと呼ばれている女性だ。 『黒い稲妻』という二つ名を持っていたりもするのだが、実際は極めて真面目な女子高生である。 それが反映してか、彼女の格好もおさげに眼鏡と、どこぞの気弱な図書委員のようだ。 なお、眼鏡は伊達で、見ず知らずの人の前に出るとき以外はつけてはおらず、実際彼女と親しい『イクサクニヨロズ』の皆の前に出るときはつけていない。 それに、実際の視力は2.0という高水準をマークしているのは余談である。 「お断りします。経費として、飛行機を使えばいいじゃないですか?」 あらかじめ、自分に函館まで運転をさせないよう、釘をさす千里。 「それに私、今日から“あの日”が始まりましたから……つらいんですよ、明日から」 千里は、“あの日”の二日目が一番辛いのだ。 ちなみに“あの日”とは、いくらかの年を経た女性にとって、当たり前なアレである。 男性の方々は、わからない人もいるかもしれない。 「でも、もうオーナーから、千里ちゃんを借りる許可は得たし、それに私って、飛行機使えるような人間じゃないのよねー」 そう言って、ナオえもんのように、玲がどこからともなく取り出したのは、バリソン・ナイフと呼ばれる代物だ。 他にも、盗聴器、携帯電話、<治癒>が2本、<媚薬>、<豊饒>、<中和>、<筋力>、メモ帳、ピッキングツール、デザートイーグル……。 「って、これって……」 「もちろん本物よ♪」 「……うぉい」 押し問答の末、千里の恩人である、喫茶<ランデヴー>のオーナーの説得もあり、千里の意思とは裏腹に、玲と千里は函館へ行く事となりましたとさ。
「サヴちゃんですか?」 と、意気揚々に(千里は憂鬱気味で)北海道の地を踏みしめた二人。 ちなみに、玲のことは、これからユキメと呼ぶことにする。 なぜかって? それは……。 「だって、ユキメって、北海道や東北地方で通る、私の渾名だし〜」 だそうだ。 「……誰に言ってるんですか?」 千里のツッコミも、本人のいらいらした気分とは裏腹に、力が入っていない。 それもそのはず、二日目の上、夜通しで北海道まで運転して寝不足なのがたたってか、アレがいつも以上につらいのだ。 ちなみに“アレ”とは、いくらかの年を経た女性にとって、当たり前なアレである。 そのことは置いておき、ここで今日の彼女らの仕事を説明しよう。 それは、函館白楊高校在住のある人たちに突撃取材を試みようということだ。 どうしてそんなことをするか、というのは訳がある。 それはユキメが、かの有名な雑誌『月刊種子島』の増刊号の記事の手伝いを了承したからなのだ。 で、今回取材をするのは、同じ学校から二チーム輩出している『FANG GUNNERS』と『チーム風林火山』である。 なおこれは余談だが、ここに来るまでに、対戦した(させられた)走り屋は数知れず、ということを追記しておく。 「さて、細かい説明はここまでにして、さっさと敵陣へと乗り込みましょう」 「敵陣って……」 唐突で悪いが、もうここは、函館白楊高校の正門前なのだ。 格好も、潜入取材をしやすいように、自分たち所有の制服を着用済みだ。 描写は済んでいるが、一応確認しておこう。 ユキメは白のベストに長袖のブラウス、それに赤を基調としたチェック柄のスカート。 それに加えて下にスパッツを着用。 千里は紺のブレザーに同色のプリーツスカートである。 こちらもスパッツ着用である。 ちなみに、お色気がないじゃないか、という文句は受け付けませんので、御了承ください。
「よーく考えてみたら、今日って土曜日なのよね」 今、ほとんどの学校が週休二日を実施している。 もちろん、函館白楊高校も例外ではない。 ユキメと千里が通う開道高等学校も、それを実施しているからこそ、彼女たちはここにいる。 「うーん……じゃあ、休日の彼らの生活を探ることになるのかな?」 と、ユキメがそういうので、二人は直江輪の自宅へ向かうこととなった。 「えーと、直江輪に関する情報は、と」 父親と母親、そして直江輪の三人暮らし。 もちろん、父親や母親の親類に関しての資料もあるのだが、ここでは省略する。 お隣の、上杉家との仲は良い。 その上杉家は、母親が他界し、現在は父とその娘の二人で暮らしている。 だが、その父親の多忙さと、直江家の母親の入院もあって、現在、その娘は直江家にちょくちょくお邪魔しているそうだ。 「えーと……その女の子の名前は……上杉綾瀬さん、ですか。綺麗な子ですね」 綾瀬の写真を見て、素直にそうつぶやく千里。 「実際、直江輪さんと上杉綾瀬さんの父親に上下関係がありますから、この二人も上下の関係にあって、直江輪さんが上杉綾瀬さんに頭が上がらなかったりして」 千里のつぶやきに、ユキメは失笑した。 ちなみに千里の推測は、ほぼ完璧に当たっていたりもする。 「性格は、聡明で慎重でモラリスト。恥をかくのが嫌いみたいだけど、結構面白いデータが彼にはあるのよね」 くすりとユキメは笑みを漏らす。 彼女が持つデータの一部には、せぇらぁ服を着た直江輪、ス○ールの格好をした直江輪、『愛ーん』ポーズを取る直江輪、そしてあの『愛』のビームを放つ直江輪などというものがあるのだ。 彼女にしてみれば、この程度の情報収集は朝飯を通り越して、寝起き前なのだ。 「ま、赤っ恥な運命にあるのは、コピーの存在である憐君も同じなんだけどね」 そんな会話をしているときだ。 がちゃ。 扉を開ける音が、あたりに響く。 その音に、二人は咄嗟に電柱の影に隠れた。 「じゃあ行こっか、輪君」 「ああ」 「輪君と一緒にお買い物に行くの、なんか久しぶりだね」 にこにこ笑いながら、綾瀬が実に嬉しそうに言う。 「そうだったか?」 つい先週も行ったんだがなぁ、一週間ぶりは久しぶりなのか。 そんな事を考える輪君である。 そんな、仲睦まじい二人を、影で隠し撮りしているユキメ。 だが直江輪と上杉綾瀬は、そのことを知らずに、バカップルっぷりを遺憾なく発揮していたり。 「直江輪、女の子とデート。学園内では“ろりこん”との噂があるが、実際年下の女の子との逢引から、噂は真実のようである、と」 ユキメは、メモ帳にこりこりとボールペンで書き込む。 「……ユキメさぁん。それって犯罪じゃぁ……」 「大丈夫。公表するのはさっき書いた文だけ。相手の名前は伏せるし、写真の方は私の脅迫手帳の方に載せるだけだから」 それでも、やっていることは犯罪である。 しかも、何が大丈夫なのかは謎だ。 「でも、デートを邪魔するのって野暮だし、突撃取材は無理ね。デートが終わってから聞き出すのにも、時間がかかりすぎるし。でも、こんなおいしいデートを逃す手はないわよねー」 すると、ユキメの懐から取り出すのは、一つの携帯電話。 とぅるるるるるる、がちゃ。 『はい、こちら北海道函館情報局<ハイ>ですが』 「もしもし。私は東京中央情報局に登録しています、ユキメ(源氏名)と申します。登録NOは06328」 『06328ですね……はい、確かに確認いたしました。して、御用件は?』 「人員を貸していただけないでしょうか? 依頼料五千円から二万円くらいの簡単な仕事だから、素人に毛が生えた程度のレベルでも構いません。ただし、即座に依頼を応じてくれる人のみ」 『了解致しました。それではしばらくお待ちください』 そこで、ユキメの携帯電話に保留の音楽が流れ始めた。 ぱっぱらぱらぱら、ぱっぱ。 しかもなぜか「○点」の音楽である。 『もしもし、お電話代わりました。俺……じゃなくて私、サブロー(源氏名)と言います』 「初めまして、ユキメです」 『単刀直入に言いますが、依頼の内容の方は……?』 「北海道函館に在住している一組の男女の尾行。そして、写真、発言を適当なレベルで入手すること。ターゲットは直江輪、上杉綾瀬。目的地は……そうね、函館の繁華街など、カップルが行きそうな場所にいると思うわ」 『はい……。では、依頼料の方は?』 「Dランクという低級な依頼内容、そして尾行相手の力量から推測するに……一万八千円ってところかしら?」 ちなみにDランクは、命の危険がまるでなさそうなレベルである。 信頼性も、やや薄いところがあるが、思わぬ掘り出し物がある可能性もないわけではない。 とはいえ大抵の人物は、情報屋としてのレベルが低い。 でも、その程度の以来で一万八千円は結構高めだ。 なおユキメは、実績こそ少なく、料金も高めに設定してあるが、情報の信頼性は随一だし、割と危険な依頼も軽々とこなしている。 よって、クラスとしてはA〜Sランクに分類される。 そのランクまでいけば、一回の仕事でウン百万を稼ぐこともたやすい。 だが当然危険性は高く、政府やマフィア相手に、命をいつ取られてもおかしくないくらいだ。 それでも無事なのは、やはり優秀なボディーガードが傍にいるからかもしれない。 『わかりました。その依頼、引き受けます』 「任せたわ」 にやりと笑い、ユキメはぴっ、と電話を切った。 そして千里の方に振り向き、こう告げた。 「直江輪の方に関しては、知り合いに尾行を依頼したから、他の人から調査しましょう」
「たのもー!」 と、ユキメはまるで道場破りのようなずうずうしさで、道場の中へと入っていった。 何が起こったのか把握し切れていない道場の人は、当然ながら困惑の表情を見せ付ける。 というより、あきれ果てて、ものが言えないようだ。 だが、ユキメの行動が誤解を招いたのか、それとも単に勘違いしたのか、一人の女性が嬉々とした表情でユキメと千里を見つめていた。 もちろん、袴を身に着けているその女性こそが、本多美亜子その人である。 「最近、骨のない人たちばかりで、身体がなまっていたところなのよね!」 久しぶりの相手に、嬉々とした表情を浮かべる美亜子。 そんな美亜子が取り出すのは、もちろん得物である“蜻蛉切”……でなく、練習用の棍である。 得物ではないにしろ、もうすでに彼女のやる気はマンマンだ。 「美亜子ちゃんに挑むバカが、まだこの世にいるとはね〜」 そう言うのは、深紅のフェラーリ帽子&Tシャツというスタイルの男性だ。 この、ややお調子者気質がある男性こそ、目的の人物の一人、真田淳二である。 「よし乗った! かかってきなさい!」 で、もちろん、トリックスターなユキメは、無謀にもその提案に乗るのであった。
「参りました〜」 ボコボコにされたユキメは、ユキメの形をした穴の中に埋もれながら、白旗を振っていた。 ちなみに、どうやったらそうなるのかは、誰にもわからない。 「自分の実力に、いくら自信があるからって、時と場合を考えましょうよ……」 呆れた声を出しながら、千里はゆっくりとユキメを起こしにかかる。 「そりゃ、私は千里ちゃんとは違って、非力で、人の弱みに付け込むような弱者ですよーだ」 頬を膨らましながら、満身創痍の身体を何とか引きずり、無理矢理に身体を起こすユキメ。 だがその動きは、痛みからか、さび付いたロボットのように、とてもぎこちない。 「で、そっちの子は、あたしとやらないの?」 「いいえ。私はユキメさんとは違い、平和主義ですから」 千里にしては珍しく、きっぱりと断った。 “あの日”の影響もあって、イライラしていたのと、戦闘なんて出来る余裕がまるでないのとが合わさった結果、この行動である。 普段なら、やんわりと断っていたところだ。 ちなみに“あの日”とは、いくらかの年を経た(省略) 「それより、ユキメさん。本題、本題」 「あ、そうだったわね」 すると、ユキメの表情がきりっとしたものへと豹変する。 その、今までのケーハクな雰囲気と違うユキメに、それを初めて見る美亜子と淳二は、多少ながら気圧された。 (なんで!? あたしがこんな、何の変哲もない女に戦慄を覚えるなんて!!)←美亜子 (うにゅぅ……。明るい彼女もいいけど、ショムニみたいにきつい、そんな彼女もいいかも)←淳二 同時に、美亜子にやられた怪我も、一瞬で治っていたりする。 まあこれに関しては、隠れて<治癒>を使っていたこともあるのだが。 「私はユキメ。源氏名だから、本名に関しては秘密。高校の制服を着てるのは、私たちの趣……」 そう言いかけた瞬間、重力を活かした肘落とし(仮)が、見事にユキメの後頭部を捉えた。 その、電撃のように駆け抜ける激痛に、ユキメは後頭部を抑えながら悶絶する。 「もしかして、コマンドを変えたら、台詞が変わったりする?」 淳二は、よくわからない謎知識をひけらかした。 知識のない美亜子は怪訝そうな表情をし、ユキメは悶絶中なので、対応すらできない。 ただ、千里だけはわかったようである。 「別に、名前を募集しているわけでもありません」 このネタ、わかる人がいるのだろうか……? 「仕事をしやすくするため、ユキメさんの意向で、制服を着させていただいているのです。ちなみに私は千里。苗字は訳あって、秘密です」 「ち、千里ちゃん……。今日、いつもの“アレ”以上にピリピリしてない?」 「気のせいです!!」 痛みに耐え、良く頑張った。感動した!! ……ではなく、後頭部の痛みに耐えて、辛うじて疑問を口にするユキメに対し、千里はそっけない。 ちなみに“アレ”とは(省略) 「それで、ですね。私たちは『FANG GUNNERS』の人たちに取材を試みていて、だから本多美奈……美亜子さん、そしてそこにいる真田修一……淳二さんに幾つかの質問を、と思いまして」 「ふーん」 しどろもどろに言葉を発する千里に、美亜子はそっけない返事を返す。 「ま、いいわよ」 「オレも問題無いけど〜」 しかし、返ってきた返事は了承であった。 思わず千里は、ほっと胸をなでおろした。
「……ん、ありがとう。これで、いい記事が作れるわ」 「いえいえ〜。お礼より、オレにメールアドレスと電話番号を……」 だが、淳二はその先の台詞は口にはしなかった、というかできなかった。 居合い斬りの如き神速で、淳二の脳天にスリッパがヒットしていたからだ。 ただ、そうされるのが慣れているのか、淳二は痛みがあるはずなのに、平然としていた。 「それでは、残りのメンバーの取材もありますので、これにて失礼つかまつりましたり」 「ユキメさん。日本語、変」 と、ツッコミながら会釈をし、そのまま立ち去ろうとしたそのとき。 二人の前に、美亜子が威風堂々と立ちふさがった。 九頭龍クエストの『にげる』のコマンドの失敗時のセリフ、「しかし、まわりこまれてしまった」がよく似合いそうな状況である。 「千里……って言ったっけ? あんたもかなり強いんじゃない?」 そのセリフが言い終わった直後、美亜子から、歴戦の兵のみが発せられる、超一流の殺気が無尽蔵に放出され、二人に突き刺さる。 とはいえ、無尽蔵に放出されているから、周りの被害も絶大なものだった。 淳二は、いくら美亜子との付き合いがあったとしても、その威圧感から鳥肌モノ。 道場の生徒は、その恐怖から、怯え、狂気、失神と、チェルノブイリで起きた事件のような大惨事である。 その中で、ユキメは身構えて、殺気になんとか対抗する。 だが千里はというと、膨大な殺気を、構えることなく平然と受け流していた。 そうすることで、相手に実力を測らせないようにするという、無意識下での判断である。 とはいえ、多少の恐怖があったのか、千里の目つきは、武士(もののふ)のそれへと変貌していた。 これこそが、千里の戦闘状態へのスイッチなのだ。 美亜子の方も、戦闘スタイルに入ったことに満足して、得物を取り出して構えた。 対する千里も、腰を深く落とし、レスリングの選手のような構えをとる。 互いに構えてから数秒。 両者、動かない。 いや、動けない。 (地味な格好して……やるわね!) ちなみに、千里の格好は、文学少女そのものである。 (うう、タダですら体調悪いのに、何でこんなことに……) 千里は、痛みに耐えながら、相変わらず、自分の運命に対して、泣き言を心の中でこぼしていた。 だがそんなときであった。 「美亜子〜!! パパは、美亜子に危ない真似なんてしてほしくないぞ〜!!」 その気の抜ける声と同時に、二人の戦意は途端に萎えた。 で、その声の主が、突如現れ、美亜子を抱きしめ、ほお擦りまでして見せた。 「ち、ちょっとパパ!?」 そう、彼こそが、本多流槍術の道場を開くほどの実力の持ち主にして、娘バカというスキルの持ち主、美亜子パパこと本多常勝氏である。 「パパが見ている前で、美亜子に危ない真似はさせないぞ!!」 抱きしめられて、窮屈そうにしている美亜子。 しかし、そんな愛娘の意を解せず、さらに強く抱きしめる美亜子パパ。 そんな仲の良い親子を見て、寂しそうな笑みを浮かべながら、千里はこう言った。 「……両親を大切にしてくださいね、本多美亜子さん。さ、行きましょう、ユキメさん」 「え、ちょ、ちょっと!」 美亜子が呼び止めるが、聞こえていないフリを貫き通す千里であった。
「……」 美亜子は、せっかく、久しぶりに骨のありそうな人物との対戦が出来そうだったのに、お預けをくらっただけでなく、みすみす逃してしまったことに腹を立てていた。 「娘はやらんぞ。淳二くん」 そんな娘の気持ちをまるで知らず、的外れな発言をする、美亜子パパ。 美亜子は、いつものことと考え、とりあえず無視を決め込むことにした。 「……あの二人、もう一度会いたいわね」 「うにゅ、二人? あの、千里ちゃんっていう人だけじゃないの?」 「ユキメっていう女は、わざと負けたみたいだったわ。ま、あたしには敵わないけどね」 「ふぅん」 「多分あの子は淳二と同じくらいの実力の持ち主ね。でも、千里っていう女は、下手したら輪でも手を焼くんじゃないかしら?」 もしかしたら、あたしでも……という言葉は押し殺しておいた。 そんなことがあってはならないからである。 「そ、それは、なまらすげぇ」 と、二人で会話をしていたのだが。 「美亜子〜〜〜〜!!! パパの事を無視して、パパが嫌いになったのか〜〜〜?! もうパパは生きていけない〜〜〜!!」 先程、千里と対峙したときの緊張感は抜け、美亜子は子煩悩な父親に脱力していたのであった。
などと、千里は苦笑いしながら言った。 いくら強者同士の対決とはいえ、絶好調と絶不調の対決なら、結果はおのずと見えてくる。 千里のほうも、美亜子の技量を一目で理解していたようである。 「今時、千里ちゃん並みの実力を持つ女子高生がいるなんて……」 ユキメは、殺気が未だまとわりついているのか、恐怖心を拭えず、鳥肌が未だに消えない。 割と修羅場というものを経験しているユキメにとって、これは始めての事であった。 「それに対して、千里ちゃんはすごいわ」 今更ながら、相棒である千里の偉大さに気づいたユキメであった。 望みもしない褒め言葉に、千里も苦笑気味だ。 そんな、他愛もない会話をしている間に、武田家の前につくが……。 「うわ、でかっ!」 ユキメの言葉どおり、でかくて広いのだ。 何人たりとも近寄らせない、高い塀。 しかもそれが、延々と続いている。 「隣の家に塀ができたんだってね。へー」 そう、ユキメがつぶやく。 そしてそのとき、この世全てが凍てついた。 ……。 ……。 ……。 「そして刻は動き出す!」 「アホーーッ!」 凍てついた時が動いたその瞬間、千里の拳は見事にユキメの顎を貫いていた。 そしてユキメはお星様となり……。 「ふー、すっきりした」 以前と同じように、ハンカチで手を拭いて、最寄の女子トイレから出てきたのであった。 まあ、この件に関しては、説明は不要であろう。 「それにしても、固定資産税、高そうですね」 「千里ちゃん。そのセリフもどうかと……」 どうも、貧乏性のきらいがある千里は、お金の心配をしてしまうようである。 「そんな世間話は置いといて、武田広奈の説明っ! ついでに、さっきは説明し損ねたから、本多美亜子、真田淳二の説明もね」 「はーい」 「まずは、本多美亜子」 本多流槍術の使い手にして、世界最強の女子高生。 家族は、父、母の三人暮らし。 本来なら兄がいるはずだったらしいけど、病により死別。 性格は豪胆にして我が儘である。 「それは、キャラクターシートの方を見ればわかりますけどね」 「で、その美貌と男らしさから、男女問わず人気があるみたい。高校では、“美亜子お姉さまを守る会”っていうのが、非公式ながら設立されているようね」 「いわゆる、ゆりぃでれずぅな人たちの集まりですよね?」 「……まぁ否定はしないけど。続いて、真田淳二ね」 真田流古武術っていうマイナーな武術の使い手。 父、母の三人暮らしで、今は関東の方に兄が一人。 性格は陽気でお気楽極楽で、謎知識の持ち主である。 「『武田広奈FC』に所属している、っていう疑いがあるのよね、実は。でも……」 「でも……?」 「この件に、武田広奈自身が関わっているから、情報が機密扱いになっていて、調査するにはちょっち面倒なのよ。流石はお嬢様なだけあって、プライバシーに関わることは、洗うのが大変だわ。ってなわけで、疑惑であって、確信ではないわけよ」 ほー、と千里は感嘆の声を漏らす。 「それは置いておいて、真田淳二のお兄さんは、噂によると、天気を操る怠け者らしいわよ。何でも、ある大会では27人中21位という好成績を残したとか」 「……どういう説明ですか、それ?」 もちろん、最近では嵐を呼ぶアルトワークスでサーキットを走っているどっかの誰かとは、口が裂けても言えない。 「で、最後に武田広奈」 父は指揮者、母は劇作家、そして本人は多芸の持ち主という、芸術家一家の一人娘。 ただ、普段から両親は忙しいようで、身の回りの世話はほとんど、執事の板垣という人物に任せているようだ。 性格は超マイペースなお人である。 「どうやら、数少ない資料から推測するに、とんでもない大食らいで甘党らしいわね。午後の加糖茶1.5リットルを一気飲みできるとか、バイキングの店の売り上げを大幅に赤字にさせたとか……」 「う。私も午後ティーには挑戦してみたのですが、あれは甘すぎで、全部飲むのに苦労しましたよ」 千里は、友人に勧められて、一度だけ、午後の加糖茶(500ml)を飲んだことがある。 辛うじて飲み干したが、結果は上記の通り。 「それはそれですごいわよ。私なんか、甘すぎて吹き出したし……」 むしろユキメの反応の方が、一般的である。 実際に、あれを飲み干せる人物を数える方が少ないのだ。 「ただね、彼女って、実は同性の友人がいないのよ。ちょっと不思議に思って調査してみたんだけど、やっぱり嫉妬の対象なのよね、彼女って。運動神経は悪くない、聡明、類希なる美人、歌手顔負けの歌唱力、音楽の才覚……てな感じで、欠点なんて見当たらない。だからこそ、そのお高くすましている性格を槍玉にあげた、ってとこかしら?」 イジメに発展しないのは、両親が有名すぎること。 そしてやはり、函館白楊高校の男子の大半が加入しているという『武田広奈FC』の存在が大きいのだろう。 このように、全ての男性に守られているからこそ、広奈は自らを高めることに専念できるのだ。 「……確かに、私みたいな下賎な人とは、縁が遠い人物ですよね」 「……って千里ちゃんは、社長令嬢の翔子ちゃんの友人じゃん」 ため息交じりで、ユキメは珍しくツッコんだ。 「後……」 一旦改めて言うユキメは、どこか脱力している。 そんな様子に、千里は怪訝そうな表情を浮かべた 「何ですか、ユキメさん?」 「実は、武田広奈のお宅を訪問する理由ってないのよね」 「へ?」 突然の発言に、千里は気の抜けた返事を返した。 その対応に、ユキメもちょっと困った顔をし、ため息混じりに答える。 「『月刊種子島』の方から頼まれたのは、『FANG GUNNERS』全員と、『チーム風林火山』の武田広奈を除く全員の記事の資料なの。そして『月刊種子島』の担当はほとんど男性。そして武田広奈は絶世の美女。……わかるでしょ?」 なぁんとなくわかってしまった千里は、高笑いをしている麗奈に仕える愚男を想像してしまう。 「……オトコノヒトって」 「バカだよね……」 そんな会話をしていると、一台のリムジンが颯爽と二人の横を横切って……いや、横切らずに止まった。 きょとんとしている二人。 そんな二人の反応は気にせず、窓を開け、顔を出したのは……。 「麗奈さん?」 丁寧にカットされたさらさらのショートヘア、儚げな美貌。 まさに世の男を虜にすること間違いなしの、最凶最悪の美少女であった。 「いいえ、わたくしは武田広奈と申します……えっと」 「あ……すみません。私の名前は千里です。苗字は訳あって言えませんが」 「私は……」 と、ユキメも名前を言おうと思った矢先。 「ユキメさん、ですね? 父の一番信頼している仲介役、と聞いております」 「……そんなに信頼されてても、私は困るんだけど」 ユキメは目を細め、頬をポリポリと掻く。 そんな、明らかに違う世界の会話についていけず、千里はぽかんと口を開けたまま、立ち尽くした。 思わず、千里はユキメに対し、目で「知り合い?」と尋ねてしまう。 「父は、あなたに会いたがっておりましたわ。わたくしの家の前ですし、上がってお茶でもいかがですか?」 にっこりと微笑む広奈は、まさに天使の生まれ変わり、と言っても遜色ないほど綺麗であった。 (あはは……。こりゃあ男どもが、我先にこの子と面会をしようとするわけだわ)←ユキメ (すごい美人……。しかも綺麗な声……。麗奈さんや瑠璃華さんもすっごく綺麗だったけど、この人は別格。……それに引き換え、私は地味だし、いじめられっ子だし、修羅の道を嫌でも歩まされてるし……)←千里 とか、二人は考えていた。 「でも、私は広奈さんのお父様との件とは別件で、ここ函館に来ています。ですから……」 「『月刊種子島』の取材なのですけどね」 と、二人はやんわりと断ろうとする。 だが。 「と仰いますと、わたくしへの取材もなのでしょうか?」 天使の微笑みをしながら、首をかしげる広奈。 恐らく、並みの男がいたら、メロメロになっていたことだろう。 だが、二人は男ではなく、並みでもなかった。 「いいえ。『月刊種子島』の方で、貴女を取材する人間を現在決めているそうです」 「でしたら、わたくしがユキメさんたちに取材を受ければいいことです。そうすれば、父の依頼内容を説明できますし、あなた方の仕事も解決できて、一石二鳥ですわ」 にっこりと広奈は笑った。 一応、ユキメもそれにつられて笑いを見せたが、心の内では叫び声をあげていた。 (だーかーらーっ、私は男たちに恨まれるのが嫌なのよーっ!!) ……とはいえ、無下に断ることも出来ず、広奈パパの依頼を受け、広奈への取材を済まし(一応、後に取材が来ることを説明し、「面倒ですが、その人の取材以来も受けてください」と言った)、何とか武田家の脱出に成功したのであった。
もちろん、ここには伊達春樹、片倉真理が住んでいる場所である。 土曜日、ということもあって、二人がここにいる可能性は十分ある。 「伊達春樹。彼は……」 一話一不幸という、欲しくもない名誉を受けた、苗字そのままの伊達男。 家族は両親に弟。 だが、離婚寸前まで冷え切った両親といると心が痛むのか、実家から高校に通うのをやめ、ここ『最上荘』から通っている。 性格は、誠実にして真面目。 自信過小な傾向にあるが、それを改善しようとする努力家だ。 「はっきり言って、面白い写真はあるんだけど……多すぎて却下!」 それだけ、彼が不幸なのである。 「ま、強いて言えばコレかな?」 そう言って取り出すのは、とある車内での写真。 それには、春樹が瑠華の手を握り締め、瑠華は顔を赤らめている、そんなシーンであった。 「……私たちには見慣れた光景ですよね」 「……それもそうね」 ユキメと千里にとっては、無理もない。 同じ顔の人間が、もっと身近でいちゃついているからだ。 「まあそれは置いておいて、片倉真理ね。彼女は……」 ミリタリーマニア、マッチョ好き(!)、防衛大希望の変わったおねーさん。 家族に関しては……。 「ちょっと資料不足なのよね」 家族に関しての描写がまるでないから書けない、とは口が裂けてもいえない。 「まあ、そんな作者の愚痴は放っておいて。伊達春樹と同じ『最上荘』に在宅している女性ね。まあ暮らしっぷりを見ている限りでは、(からかう人間がいて)楽しそう……」 「楽しい?」 「あ、いや、こっちの話」 幸い、括弧で括っている部分を、口には出さなかったので、千里からの叱責は回避した。 ピリピリしている千里を怒らすのは、得策ではないと思ったからだ。 いくら脱出技術や<治癒>があるとしても、毎度毎度強烈なツッコミを食らってはたまったものではない。 「そして、私たちがいる、この森林こそ、『FANG GUNNERS』を生んだ戦場なのよ。片倉真理が、伊達春樹をサバゲーの世界へと引きずり込んだこの場所こそ、『FANG GUNNERS』のメッカとも言うべき場所なのよ!」 と、熱く語るユキメだが、返ってきた対応はとーっても冷たいものであった。 「はいはい。で、肝心の取材相手は?」 「うう。千里ちゃんが冷たいよぅ」 よよよ、と泣くユキメだが、そんな光景を見慣れている千里にとっては、非常にどうでもいいことであった。 そして千里の予想通り、数秒もしないうちに、ユキメはけろっとした表情で千里に向き合う。 「二人とも、ここで訓練してるはずだけど」 ここ、とは『最上荘』の裏山に位置する森だ。 山といっても標高は高くなく、子どもたちの遊び場となっていることが多い。 だが、その開拓されていない自然のフィールドこそ、伊達春樹、片倉真理の両名を鍛え上げたのだ! 「さてと、どこかな?」 もちろん、取材のために、二人はそのフィールドへと侵入する。 「千里ちゃんの、ムウ・ラ・○ラガも身につけたニュータイプの勘で、何とかならない?」 「なるわけがありません」 「……ほんと、今日の千里ちゃんって、冷たいね」 「わかるでしょう? 同じ女性なのですから」 「まあね。でも、私は千里ちゃんほど酷くないし」 もう、この辺りまで来ると、女性にしかわからない会話である。 「私なんて、毎月レバー状の……」 だーかーら、女性にしかわからないんだから、そういう生生しい会話やめい! 「愚痴なんて、後でいくらでも聞いてあげるから、今は二人を探しましょう」 作者の願いを聞き入れたのか、それとも本心なのか、ユキメは会話を打ち切って二人の捜索を続行した。 だが、そのときだった。 「誰か……いる!」 “あの日”でも、ニュータイプの勘は働くようで、千里は気配を嗅ぎ取っていた。 ちなみに”あの日”(省略)。 ユキメも千里とほぼ同時に感づき、即座に気配のする方へと向いた。 二人に緊張が走る。 だが、茂みからガサッと出てきたのは、とても高校生とは思えない二人組だった。 もうちょっと具体的に言えば、小学生低学年くらいの双子の娘である。 「あれー、春樹にいちゃんじゃないよー」 「真理ねえちゃんでもないねー」 二人は、ヘッケラー&コック MP5K A4“クルツ”というエアガンを持ち、迷彩服を纏っている。 つまり、そこから推測するに、彼女らもサバゲーというものをやっているらしい。 「私はね、あい、ってゆーの」 「私はね、あゆ、ってゆーの」 流石双子。 ほぼ同時に、同じような自己紹介をした。 「初めまして。私はユキメ」 「私は千里です」 「泣く子と地頭には勝てない」という言葉があるためか、子どもに対しては柔和な態度のユキメ。 で、相変わらずくそ真面目な千里。 とはいえ、彼女らの任務は、子どもの応対ではない。 「さっき、春樹にいちゃんとか真理ねえちゃんとか言ったよね? 二人がどこにいるのかって、知ってる?」 「「知らないよー」」 やっぱり、この双子は息がぴったりである。 「でも、呼べば来るよ」 「春樹にいちゃん、真理ねえちゃん、お客さんだよー」 すると、絶妙な位置に隠れていた二人が、茂みの中から顔を出した。 「え……誰?」 と、春樹。 「あいちゃん、あゆちゃん。お客さんって?」 と、真理。 「えっと……」 二人の自己紹介は、二度もやる必要はないので、省略させていただく。 「それで、リーダーである片倉真理さん、そしてエースである伊達春樹さんにお話をお伺いしたい所存でございまして……」 そのユキメの言葉に、真理は快く了承してくれた。 春樹はというと、エースと言われ、ちょっと恥ずかしいようだ。 とはいえ、あいちゃんやあゆちゃんに「すごーい」と褒められて、笑顔が漏れる。 そしてそのまま、二人に取材をし、MISSION―4は終了となった。 ちなみに、このあいちゃんとあゆちゃんが、約十年後、新生『FANG GUNNERS』の精神感応姉妹としてサバゲー界に名を残す、というのはまだ先の話である。
ちなみに、この面々に関しての描写がないのは、彼らの個性が少ないからだ(爆)。 恨むなら、一発ネタとして登場させられたことを恨むがいい。 合掌。 合掌も済んだところで、時間は午後の8時を割っていた。 当然二人の疲労もピークなわけで、流石のユキメもへろへろである。 だが、もっとひどい事となっているのは千里の方だ。 最後に取材をした、山県聡士の家から出るか出ないかくらいの時間から、急激に体調を崩したのだ。 顔は青白く、脂汗はだらだらと流れ、下腹部の痛みは激しくなる一方。 おかげで、ユキメのボケには対応なぞ出来るはずもない。 それゆえ、山県聡士の仕事は非常に真面目に対応せざるをえなかった。 「ほら、次で最後なんだから、もうちょっとだけ頑張って」 ユキメは精一杯励まそうとするも、限界寸前の千里には、それを聞く余力すらないのだ。 もう、唸ることしか出来やしない。 それでも気力を振り絞り、函館白楊高校に程近いマンションへとやってきた。 そこの入り口に着くや否や、ロックがかかっている自動ドアを開けるべく、急いで明智瑠華が住んでいるであろう部屋の番号を入力し、本人に取り次ごうとしたのだが。 ……。 ……。 応答がなかった。 そして、そこで千里の、限界まで張り詰めていた糸も、ぷっつりと切れてしまった。 そのまま気を失い、その場に倒れこむ。 「ちょっ……。非力な私に、千里ちゃんを担げってーの!?」 だがそんな文句も、気を失っている千里の耳には届かない。 依然、千里は顔面蒼白で倒れたままだ。 介抱しようものも、こんな公衆の場では出来やしない。 かといって、他の場所まで連れて行こうものも、ユキメは非力なので、移動できる距離なんかたかが知れている。 どうしようかと、ユキメが手をこまねいているときだった。 彼女の前に、『堕』天使が舞い降りた。
目を覚ました千里の目に飛び込んだのは、見知らぬ天井。 ふかふかとした背中の感触。 (ええと、確か山県聡士さんの家に行ってから……覚えてませんね) ぼーっと、見知らぬ天井を眺めながら、過去を探ってみるが、一部の場所から靄がかかっているかのようなのだ。 「気が付いたか?」 突然、声をかけられたことにビクッと肩を震えさせる千里。 慌てて振り返ってみると、そこには何処かで見慣れた女性の顔が、そこにはあった。 「瑠璃華さん……なわけないですね。と、いうことは明智瑠華さん……ですね?」 その言葉に、瑠華はこくりと頷いた。 そして、千里は唐突に、自分がベッドで寝ていたことに気づいた。 「あ、あ、あの、その、何ですか、わ、私……“あの日”の真っ最中でして、その、いくら体調が悪いとはいえ、ええと、も、申し訳ありません!!」 急いで千里は、その場で土下座をした。 ちな(省略)。 一瞬、瑠華はきょとんとした表情を見せたが、すぐさまいつもの鉄仮面に戻す。 「気にするな」 と、一言。 瑠華の事務的な応答のおかげで、気まずい空気が、二人の間を駆け巡る。 「あの、その、ええと、私と一緒にいた、ポニーテールの女の人、見ませんでした、か?」 「隣の部屋で、なつめと話し合っている」 「なつめ……さん?」 「ああ」 再び、二人の間が気まずくなる。 千里は本来、それほど他人との付き合いがそうあるわけではないので、こういう会話はちょっと苦手なのだ。 もちろん、瑠華は無口なので、言わずもがな。 当然、こんな空気になったら、話せることも話せるわけがない。 長い沈黙が、この部屋を包み込んだ。 「……」 「……」 やっぱり、沈黙。 そんな重い雰囲気の中、それを解さない、一匹の犬がとことこと瑠華の元へとやってきた。 するとどうだろう。 今までむつっとしっぱなしだった瑠華の表情が崩れるではないか。 「へぇ〜。明智瑠華さんって、犬が好きなのですか?」 これを好機と踏んだ千里は、すかさずその話題に引きずり込もうとした。 瑠華は、それに応対こそしないが、崩れた表情からは悪い話題ではないようだ。 「私も好きですよ」 だが、次に付け加えた言葉はまずかった。 「特に、赤毛がおいしいんですよね」 この言葉には、瑠華だけではなく、彼女の愛犬ルシリスも凍りついた。 「あれ?」 自らの非常識を理解していないのか、千里は困惑する一方だった。 良く見ると、ルシリスは千里から離れるように、瑠華の影に隠れていたり。 瑠華も、ルシリスを守ろうと、千里に対して敵対心をむき出しにする。 「ちわ〜、と。あれ? 千里ちゃん、起きてたの?」 「ユキメさん……」 突如、部屋の中に入り込んできたユキメの方を向く千里。 「起きてたんならちょうどいいや。なつめさんにお礼を言いに行こう」 「え……はい」 部屋に残った瑠華とルシリスは、嫌な汗が小一時間止まらなかったというのは、まったくの余談である。
そんな彼女の目に、一人の女性の姿が写りこんでいる。 「ほらほら、千里ちゃん。お礼、お礼」 「ひゃ、ひゃい!! わたくしのことをかいほうしてくれたりもしながらそういうこともなきにしもあらずんばこじをえずってこともありおりはべりいまそがりにしてすいへーりーべ、ぼくのふね。ななまがりしっぷすくらーくか……」 「……千里ちゃん。芸風変えた?」 そんな二人の漫才を見ながら、笑っている女性こそ、函館白楊高校の保健室の天使(自称)立花なつめである。 そして、そのなつめに対し、何故千里が怯えているのかというと。 千里のもう一つの顔である『黒い稲妻』として、なつめに追われたことがあるからだ。 そのときに感じた恐怖は、そう簡単に拭い去れるほど甘いものではない。 だがなつめは、目の前にいる文学少女風の女性が『黒い稲妻』だということに気づいていない。 ヘルメットをかぶっていたことで、顔が割れなかったのだ。 だからこそ、なるべく『黒い稲妻』だと思われないようにするため、緊張していることも、彼女の怯えを増大させているのだ。 「それよりも、ユキメさん。私が眠っている間に、明智瑠華さんの取材は終えたのでしょう!? 終えましたよね!?」 「え? あ、うん。まぁ一応」 矢継ぎ早に言葉を並べる千里に気圧されて、ユキメはしどろもどろになりながら答えた。 珍しく強気に千里相手に、ユキメも少々動揺が隠せない。 「ならば、これ以上ここにいるのは迷惑です。さあ早く帰りましょう!」 「ちょ、ちょっと千里ちゃん……」 そんなユキメの様子を無視して、手を引く千里。 「私のことを介抱していただいて、どうもありがとうございます。これ以上、御迷惑をおかけするのは恐縮なので、私たちはこれで、失礼いたします」 と、会釈を交わし、ユキメと千里はマンションを後にした。 そして、慌しい二人が去ってから、なつめはつぶやいた。 「あの子の声。どっかで聞いたことのあるような……。それにあのオーラ……」 なつめは既視感を感じていた。 だが、三つ編みの文学少女なんか、彼女の交友関係を洗ってみても、一人も思い浮かばない。 それでも、あの声、あのオーラ。 間違いなく、どこかしらで会っていたはずだ。 「しかも、ものすごく忘れたくない相手だったような……」 特に、千里の特徴的なオーラから、正体を探ってみる。 千里のオーラは、対外から放出されるオーラは、比較的人間染みている。 というか、そこらにいる人間そのものなのだ。 だが奥底を探ってみると、ものすごく禍々しい、言うなれば、比較的魔王クラーマの怪人に近い感覚だ。 とはいえ、それとも違う。 それに、もし魔王クラーマの怪人だったとしても、ユキメと名乗った少女は、間違いなく人間のオーラだった。 それでも、その『寄らば斬る』オーラと、慈愛に満ちた人間のオーラが混ざりあった彼女とは確かに面識があるのだ。 「……ってまさか!?」 なつめの頭の上に、電球がぴろりんと光った。 思い当たった人物かどうかを確かめるべく、急いで二人を追いかけたのだが、二人の存在が見つかることはなかった。 「まさかあの子が……『黒い稲妻』!?」 その後、予約を取っていた宿舎で、千里となつめの関係について、千里がユキメに尋問を受けたのであったとさ。
ユキメの携帯電話に一通のメールが届いてきた。
『愛に……愛にやられた……』 任務は失敗だったらしい。 「あ〜あ。前金分はパーか……」 3日目ということもあって、多少元気を取り戻した千里と一緒に、直江家に突撃取材を試みることとなったという。
完成した『月刊種子島 北海道増刊号』の売れ行きは、雑誌の中でも特に売れ行きが良かったそうな。 めでたしめでたし。 「めでたくなーい!!」 土、日を使って取材、函館観光と費やして、帰ってきてから真夜中中、学校の宿題に追われるユキメと千里であった。 めでたくなしめでたくなし。
貸しアパート『むつ』での出来事である。 「秋彦、醤油取ってくれ」 「はいはい」 「みーなちゃーん、麦茶頂戴」 「はい」 と、『イクサクニヨロズ』のいつもの朝食の出来事だった。 だが、そんな平穏な朝食は、画面の映像によって打ち消されたのであった。 「続いてのニュースです。五十嵐コンツェルンが所有する音楽団『フェアリーズハーモニー』の指揮を、世界の武田がこれを行うこととなりました。これによって、夢の楽団が誕生したといえるでしょう。そして、この夢の競演により、各国が注目……」 だが、そんなニュースキャスターの言葉など聞いてはいない。 彼らは画面の一部分に釘付けとなっていたのだ。 そこには、武田氏と五十嵐氏(ちなみに女社長)が握手している。 だが、その奥には……。 「ユキメさん……?」 びちっと正装しているユキメが立っていたという。
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