投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

異伝


「姉妹」

◇0◇


それは朝。

どこにでもある、朝。

今日も彼女の朝は早い。

美奈は、少々気だるい朝を気合で目覚めることに成功した。

秋に突入した朝は、寒気が僅かに入り込んで、少々寒い。

パジャマのままでは寒いと判断した美奈は、いつもより厚めに服を着込み、家を後にした。

柔軟体操を軽々とこなし、ある程度身体が暖まったころ、家の扉が開かれる。

そして、そこにいたのは……。

「おはよ、美奈」

「おはよう。お姉ちゃん」

ちょっと癖のある、肩に掛かるセミロングの髪をした少女。

美奈と同じ顔の少女。

その名は本多美亜子。

美奈の双子の姉であった。



◇1◇


美奈は、いつも姉の背中を追って生きてきた。

勉強以外のことなら、常に自信満々の姉は、美奈にとっては疎ましくも、自分が誇れる姉である。

うらやましくも思ったことはあるが、それ以上に妹である自分を手助けしてくれていることの方が嬉しかった。

だから、美奈は美亜子のことが嫌いではなかった。

「さあて、行くわよ美奈」

「……お姉ちゃん。前々から言おうと思ってたんだけど」

「……何よ?」

「その『ドラゴンフライ号』っていう名前はどうかと思う」

自転車をこぎだして、美奈はその最中に美亜子の乗る自転車を指差した。

気に入っているのに関しては文句はないのだが、やはり身内として恥ずかしいらしい。

「あんたの『血塗られた林檎号』よりはマシだと思う」

「……ごめん、お姉ちゃん。私が悪かったです」

……結局は似た者同士なのかもしれない。


「おはよ」

「おはようございます」

美亜子と美奈は登校してすぐ知り合いと会ったため、会釈を交わす。

「ああ」

「おはよ、美亜子ちゃん、美奈ちゃん」

一人は、容姿端麗の美青年で、この超人揃いの函館白楊高校の中でも、群を抜いて運動神経抜群でかつ頭脳明晰な青年、直江輪。

そして背はそれほど高くはないが、まぁそこそこハンサムでそこそこ精悍、そしてなにより、愛嬌があって人なつっこい、そんな青年、真田淳二が憐と肩を並べて立っていた。

さらに、その二人の後ろに立つのは……。

「よう」

「……」

憐とは良く似てはいるが、少々女性的な顔と、少し荒い言葉遣いの青年、直江憐。

そして淳二と良く似てはいるが、無口で無愛想だが、クールな雰囲気が漂う青年、真田修一であった。

美奈は、憐の顔を見るや否や、顔を真っ赤にさせて、口ごもってしまう。

「あ、あ、そ、その……お、おはよう、憐君!」

「? ああ」

明らかに動揺する美奈も美奈だが、それにまったく気づかない憐が、ここにいる。

そんな二人を見て、美亜子、淳二、修一の三人がひそひそと憐と美奈の恋の行方を語るのも、いつもの光景である。

「にしても、ここって妙に双子が多くねぇ、兄貴?」

「確かにな。俺たち、美亜子たちに淳二たち、それに武田と伊達もそうだったな」

「そういえば、アキんとこの下宿にも、双子の女の子がいるって言ってたな」

会話の中で出てきた武田と伊達というのは、輪たちのクラスメートにいる人物だ。

武田広奈と武田麗奈。

そして伊達春樹と伊達秋彦である。

輪や美亜子、それに淳二は広奈と春樹と同じクラス。

そして憐、美奈、修一は麗奈と秋彦と同じクラスだ。

特に武田姉妹は、この函館白楊高校では有名である。

姉である広奈は、その類稀なる美貌と美声は当然として、親の七光りということもあって、恐らくは全クラスの人が知っていること間違いなしなほどの少女だ。

対する妹は、才能豊かな姉に比べると一線劣るが、その高慢な性格とその特徴的な髪型故に……まあ広奈とは違った意味で有名だ。

「まさかマラソン大会で、美亜子ちゃんにいきなり宣戦布告して、オーバーペースでぶっ倒れるなんて、思わなかったし」

「あれは、あたしもちょっと驚いちゃったわね」

まあ、淳二の言うとおり、負けず嫌いで目立ちたがりだし。

結局、優勝は美亜子でもなかったのだが。

「そのように、麗奈殿を言うこともないだろう。麗奈殿は、常に広奈殿と比べられてきた故、がむしゃらにするしかないのだから」

「あら修一。わたくしはお姉さまに対してコンプレックスなど、抱いてはおりませんわよ」

颯爽と、一同の前に現れたのは、縦ロールが特徴的な、類稀なる美人だった。

ただその性格が、才能と美貌の全てをチャラにして、おつりがくるくらいだというのが、他からの見解である。

「ふむ、左様か。いらぬことを申した」

「麗奈さんは、素直な人とは言えませんからね」

続いて、修一に口を出したのは、麗奈と同じ顔の美人だ。

ただこちらは特徴的なところがない……いや、美人というだけで特徴的ではあるのだが……清楚な美人である。

「おはようございますわ、輪さん、憐さん、美亜子さん、美奈さん、淳二さん、修一さん」

「……お姉さまの後というのが気に食わないですけど、おはようございます」

広奈と麗奈の美人姉妹の挨拶に、思わず声をかけられていない通行人たちですら、足を止めてしまう。

まあ見慣れてしまった、輪たち一同は、各々が会釈を交わすくらいだ。

もっとも淳二だけは「眼福、眼福」とか言って、しっかりと美亜子のスリッパを食らっていたが。

「憐、おはよっ!」

「あ、おはようございます」

広奈、麗奈の二人に続き、もう一組の双子が登場した。

「なあ憐。聞いてくれよ。今日のあいちゃんあゆちゃんのタッグの技が進化してさ、ツインボディプレスに捻りが加わったんだぜ。オレも春樹も、意識が飛びそうになっちまって、二度寝しそうになっちまったんだよ」

この双子、春樹の方は輪たちとつかず離れずの関係ではあるが、秋彦の方は憐と二度同じクラスになったこともあって、特に憐と仲が良い。

「あり? 今日は瑠璃華ちゃんと一緒じゃないの?」

「うんにゃ。今日は瑠璃華、瑠華ちゃんと真夜ちゃん、それに立花先生と一緒に行くようなことを言ってたよ」

「……残念なり」

「淳二ぃ……。お前って、本当にかわいい女の子好きな」

こんな風景が、彼らの登校時の常であった。



◇2◇


サッカーの時間、輪の組と憐の組が戦っていた。

ここで、いつもなら広奈FC四天王とかが来るところではあるが、組が違うので、それはない。

が、広奈を慕う人は予想以上に多く、やっぱり広奈と同じ学級委員長である春樹に向ける冷たい視線は数知れず。

てなわけで、キーパーである春樹に突っ込むフォワードは多かった。

「皆の者、続け、続けぇぃ!!」

ずどどどどど……。

「ふん」

だがあっさりとボールを奪い取る輪。

辛うじてディフェンスに回った憐、修一の活躍で失点は免れたのだが、まあそれは後の話。


注:全力で走って急に止まれる人はいない。


春樹は正面衝突にあって、見事に沈んだ。

そして秋彦は突撃に否応なしに参加させられたおかげもあって、人の雪崩にあって、やっぱり春樹と同様に沈んだ。

不幸な兄弟の図も、いつもの展開であった。


「あたしもサッカーしたかったなぁ」

同時刻、女子はバレーボールの授業であった。

美亜子は体育館の外に見えるサッカーの光景に、指をくわえて見ているだけである。

しかし今は試合中だった。

ずどん、という重々しい振動が、美亜子のすぐ傍から響き渡る。

「あら美亜子さん。わたくしのスパイクを取ろうともしないなんて、わたくしの実力に恐れをなして戦意喪失なさったのですの?」

中々の嫌味っぷりが堂に入っている麗奈。

元々、わがままなお嬢様、という烙印が押されていることもあってか、周りは「またか」の一言で済ましている。

だがそんなことはお構いなし、美亜子はかちんときて、すぐさま麗奈の挑発にのってしまう。

「はぁ? あたしが麗奈ごときに戦意喪失すると思ってるの? 今から実力の差、ってのを思い知らせてあげるわ!!」

「弱い犬ほどよく吠える。この子猫ちゃんは、どれだけかわいく鳴くのかしら?」

「ふんっ! そっちこそ、ほえ面かかないでよ!!」

こちらも、いつもの美亜子vs麗奈の構図が出来上がっていた。

もっとも美亜子は非常に楽しそうに、麗奈は少し苛立った様子であったが。

まあ美亜子にとっては、体育の授業で、まともにぶつかってくる麗奈が嬉しいからであるし、麗奈の方は一番を取りたがるのに、美亜子という存在が大きく立ちはだかっているからなのだが。

「お姉ちゃん……麗奈さん……また熱くなってるし……」

「しょうがないんじゃない、みーなちゃん。いつものこと、いつものこと」

「……」

美奈の言葉に、瑠璃華が相槌を打ち、真夜が無言でこくこくと頷く。

向こうを見ると、広奈は「まぁ」と一言言うだけで笑顔を崩さず、瑠華は相変わらずの鉄仮面である。

「姉さんも愛想がないなぁ。そんなんじゃ、春樹に誤解されるって、いつも言ってるのに……っと!」

瑠華が、綺麗な黒髪をなびかせて、華麗なバックアタックを瑠璃華に向けてかましていた。

瑠璃華は割と目がいいので、辛うじてスパイクを受け流し、セッターに向けてボールを回す。

良く見ると、瑠華の顔が少し赤い。

「にひひ。図星だったみたいだね」

「……」

瑠璃華がいやらしく笑みを浮かべる様子を見て、真夜はこう思った。

あんたのその表情を見たら秋彦はどう思うんだろうね、と。



◇3◇


「いただきまーす!!」

昼休みとなると、輪たち一同十二人は保健室で昼食を取ることとなっている。

ちなみに瑠華は、一人で食事をとっているため、この場にはいない。

真夜は、保健室に常備してある冷蔵庫を漁ると、一本の缶を取り出した。

そしてその缶のプルを開け、その中にある黄金色の液体を口に……。

する前に、見事に保健室教諭であるなつめに、脳天への一撃を食らい、その行為はとめられた。

「……!」

無言で抗議する真夜だが、姉は読唇術が使えるわけでもないため、なびくことはない。

なつめは怒り心頭の妹の腕から、強引にビールをもぎとった。

「未成年が酒を飲んじゃ駄目でしょうが」

「……って立花先生、保健室の教師が仕事中に酒を飲むのもまずいんじゃぁ……」

無論、そんな常識的な秋彦のツッコミも、なつめの耳には届くわけがなかった。

幾度目かの嚥下が終わったあと「くぅ〜〜〜っ♪」という一言は、見事なほど親父臭い。

まあそこの不良教師は置いておくことにして、輪たち一同はそこにある大量の弁当に箸を進めることにした。

ちなみに20人強分の、大量の弁当である。

「どうせ、お姉さまに10人分以上は食べられるのですから、10も20も一緒ですわ」

製作者は麗奈。

麗奈自身も結構食べる量は多いのだが、その味覚を活かして作る方も中々の腕前だった。

食べる広奈、作る麗奈で、意外とバランスのとれた姉妹である。

「食堂でもよろしいのですけど、やっぱり麗奈さんの作るお弁当はおいしいですから」

にっこりと微笑んで麗奈を褒める広奈に、麗奈は顔を赤くしてそっぽを向く。

「ふ、ふん! おだてても、何も出てきませんわよ!! ……そうですわね、デザートくらいは出ますけど」

「いつもすまないな、麗奈殿」

「べ、べ、べ、別に修一のためなんかに作ってるわけじゃあないのですわよ!! 皆で食べた方がおいしいって、お姉さまが言い張るものだから……」

「まぁ」

輪(りん、じゃなくて、わ、だよ)を囲んでの食事は、楽しげに続く。

例えば、秋彦と瑠璃華が。

「はい秋彦、あーん♪」

「もぐもぐ……」

とか。

「……お姉さま、まだ春樹さんが寝ておられるのですから、少しは残しておきませんと」

「まぁ。確かにそうですわね、麗奈さん」

とか。

「どっちが先に食べられるか、勝負よ淳二!」

「おう、臨むところだぜ、美亜子ちゃん!」

「やれやれ。どうせ武田に負けてるのだから、意味はないだろう」

とか。

今日の函館白楊高校の昼食風景は、いつもの如く平和であった。

余談だが、春樹のために残しておいた弁当は、見事に真理姐さんについばまれ、ほとんど食べられなかったそうな。

当然、「はぅ」との一言を残し、次の授業を空腹で臨む羽目となってしまったのであった。

不幸の度合いでは、どうやら春樹の方が強いらしい。



◇4◇


放課後。

学校が終わると同時に、蜘蛛の子を散らすかの如き様子で学校を後にする様子は、昔も今も変わらない。

まあ部活を行う人という例外はあるのだが、輪たち一行は大概が例に漏れることはなかった。

「あ、お姉ちゃん。今日、ちょっと買い物につきあってくれない?」

「何を買うのよ? ま、別に暇だからいいけど」

えへへと笑みをこぼして、美亜子の方を向く美奈。

いつもの内気な美奈らしくない光景に、美亜子は一瞬だけ眉をひそめた。

「……で、輪はどうすんの?」

「俺が行く必要はないだろう」

「俺も兄貴と同じ。それに、今日は警察で剣道の練習の約束があるし」

「な」と同意を求める憐に、輪は少し曖昧にうなずいた。

「淳二は?」

「オレもパス」

「我も用がある」

輪が断るのは別に不思議ではなかったが、淳二と修一が断ったのを見て、美亜子は少しだけ怪訝そうに二人を見た。

淳二も修一も、性格こそ正反対だが、他人を思いやる気持ちは群を抜いている。

だからこそ、他人の誘いに対し、滅多に断ることがない。

美亜子はそんな、いつもの違う行動に、少しだけ二人に疑念を抱いていた。

しかし、その思いは秋彦の一言によって、見事に打ち消された。

「じゃ、オレと春樹は帰った後、そっち行くんでよろしく」

「おっけー」

淳二と修一、そして春樹と秋彦が遊ぶ約束をしているようなので納得し、美亜子は一旦ため息をついて、美奈に向き合った。

「あたしと美奈だけって訳ね。ま、久しぶりだし、いいんじゃない?」

ここで、美亜子を除いた全員が、小さくほくそえんだことに、彼女は気づいていなかった。


数十分後。

「お姉ちゃん、遅ーい!」

「あーもう、何なのよ!」

ゆっくりと歩く美亜子に、美奈が口を膨らませて文句を漏らす。

美亜子の方はというと、美奈が何故そんなに急ぐのかということに対し、少しだけ嫌な表情を見せていた。

だがそんな姉の気持ちはお構いなしに、美奈はデパートの一角を歩いていった。

ここは、二人の家に程近い、ちょっと大きめのデパートだ。

足りないものがあるならここに行けばいいというほど、多くのものが仕入れてある、そんなデパート。

美奈が先行して、アクセサリーを売っているエリアで探し回っていた。

なるほど、と美亜子は思う。

美亜子もそうだが、美奈はもう年頃の娘だ。

当然おしゃれというものには気を使うのが普通だ。

美亜子自身は、ファッションに気を使わないこともないのだが、やはり年頃の娘の平均と比べると劣りがちである。

美奈も美奈で、かわいいもの好きという特徴があるものの、引っ込み思案な性格もあって、服装は少し地味だ。

そんな美奈が今、アクセサリーを探し回っているのである。

「お姉ちゃん。これなんてどう?」

「うーん……美奈にはちょっとラフすぎない? どっちかっていうと、あたしの方が似合いそう」

「んー、じゃあこれは?」

「あ、これなら美奈には似合うんじゃない?」

「じゃあこれ」

「……それはちょっとセンスを疑う」

あーだこーだと言っていると、店員が二人に試着を勧めてきた。

美奈はそれに応じ、色々とつけてみる。

だが、美奈は鏡の前に立つや否や、いつもより鋭い眼差しで鏡を見つめていた。

ときどき、髪を持ち上げたり掻き分けたりと、色々してもいる。

美亜子は、美奈が自身の髪型が気に入らないのか、と思いながら、美奈の動向を見つめていた。

結局美奈は、最初のラフな感じのする腕輪を購入した。



◇5◇


「……お姉ちゃん。何も買わなかったね」

「まーね。別に欲しい物もないし」

帰り道。

美奈は美亜子のその発言を聞くと、少し沈んだ表情を見せた。

だが一瞬の出来事だったため、すぐに美亜子に向けて笑顔を見せる。

「……そーだよね」

「何か、さっきから美奈、様子が変よ。何かあったの?」

「いや、何かあった、じゃなくて、何かがある、なんだけど……」

「はぁ?」

うわずって声をあげる美亜子。

そんな彼女を尻目に、美奈は自宅の戸を開けた。

それと同時だった。

何かを破裂させたような音が、玄関から複数響き渡る。

一瞬だけ目を白黒させる美亜子。

そんな彼女が呆然としているところに、細長くて柔らかな色紙が美亜子の髪に複数かかる。

美奈も同様に、色紙が髪にかかるのだが、それを予想していたのか、表情は美亜子と違って平然としていた。

『お誕生日、おめでとう!!』

十数人の声が一斉にハモり、美亜子と美奈の耳に響いた。

「は、へ?」

輪、憐、淳二、修一、広奈、麗奈、春樹、秋彦、瑠華、瑠璃華、真夜、そして綾瀬に美亜子たちの父親と母親の、計十三名が、一様に二人の顔を見る。

ある者は笑顔で、ある者は表情を消しているがうれしそうに。

その中で、憐は小さく呟いた。

「ち。美奈は気づいてたか」

「当然です。最近、憐君たちが怪しげに動いていることなんてお見通しですよ。それに……」

美奈は少し溜めた後、顔をほのかに赤らめて、恥ずかしそうに言った。

「私はともかく、大切な、世界にたった一人のお姉ちゃんの誕生日、忘れるわけありませんから」

「……恥ずかしい台詞禁止」

美亜子は、聞いている方も恥ずかしかったのか、そっぽを向いて美奈に言った。

美奈の方も、美亜子のそんな仕草を微笑ましく思い、終止笑顔だった。

「大体、あたしは美奈に何もしてあげられないじゃないの」

「ううん。お姉ちゃんが傍にいてくれるだけで、私は幸せだもん」

暖かな雰囲気が包み込むこの場。

皆が幸せそうだった。

誰もが、何もかもが。

美奈は心底幸せそうにして、懐から包装紙で包んだプレゼントを取り出し、美亜子を向いてこう言った。

「お姉ちゃん。お誕生日、おめでとう」



◇エピローグ◇


……

………

…………

……………

………………

…………………

……………………

………………………

…………………………

「……」

寝ぼけ眼で、美奈は手身近にある時計を見た。

今の時間は六時。

いつも五時には起きて、トレーニングをしている美奈にとっては、信じられないほどの寝坊だ。

「みーなさん。今日はわたくしの方が起きるのが早いですわよ。珍しいですわね」

「あ……うん」

美奈は、麗奈の言葉に少しだけ曖昧に答えた。

これから急いで起きてトレーニングしなきゃ、という思いもあるが、このままぼーっとしていたいような気もしてくる。

夢を見ていたような気もするが、内容は美奈の頭の中には入ってこない。

考えても無駄なことだとわかっていても、それを反芻したかった。

何故かは知らないが、今の美奈は幸せの絶頂だったから。

「まだ食事の時間までは余裕がありますわ。軽く汗を流してきてはいかがかしら?」

「うん!」

やることが決まれば、美奈の行動は早い。

てきぱきと着替えを終えると、靴に足を通した。

「お姉ちゃんに負けないように頑張りますか」

美奈の呟きは、麗奈の耳にも、美奈自身の耳にも届かなかった。



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