投稿小説だぜ

火山十三さま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

天国なんて待たせておけ!

明日よりも友を選んだ男(+女一人)たち

第六話


◇真昼の決闘◇


◇1◇


「あの者どもを屠るとは……ハッハッハッハ!気に入った!我に下れぃ!」

聞くものを畏怖させるようなおどろおどろしい声で、チーム『戦国婆娑羅』のリーダー、尾田信永(おだ のぶなが)は自軍の本拠地へ悠然と歩いてきた、我らがチーム『OK牧場の血統』の面々たちに向かっていった。

「……ようするに、自分の部下になれってことね?…お断りだわ。私たちは!『OK牧場の血統』は!貴様のような奴に下るなどと言う殊勝な心は持ち合わせてないわ!」

尾田信永(以下、尾田)の言葉に、『OK牧場の血統』の紅一点、ドク・ホリディ五世(以下、ドク)が叫んだ。……これでもかと言うほど、メンチを切りながら。

ドクは本名を“ドク”・ケイト・ホリディと言い、アメリカ西部開拓時代に活躍した伝説の保安官、ワイアット・アープの親友であるドク・ホリディの子孫である。

1まばゆいほどのブロンドの髪を持ち、薄茶色の瞳を持つ。プロのモデルのような美貌に、180センチに達しようとする長身と見事なプロポーションをクラシックな紳士服で包んでいる。

しかし、その容姿に反して性格は皮肉屋で毒舌家、喧嘩っ早くおまけにギャンブルが大好きと言うじゃじゃ馬娘である。

「フッ、勇猛と愚かは別物よ、小娘」

ドクの啖呵とメンチに臆することなく、尾田は悠然と言い放った。

「だが、そちらは二人、こちらは四人、勝負は見えていると思うが?」

と、『OK牧場の血統』のリーダー、ワイアット・アープ五世(以下、ワイアット)が言った。

「アープ」と言う名前からお気づきの方もいるだろう。彼はアメリカ西部開拓時代の伝説的な保安官、ワイアット・アープの子孫なのである。

185センチと言う長身に、鷹の目のような鋭いアイスブルーの瞳、流れるようなブラウンの髪が印象的な青年である。

一見すると優男風の容姿だが、性格はドライ。しかし、真面目で几帳面、それでいて友人想いという一面も持っている。

「ワイアットの言うとおりだぜ、魔王のおっさん。そろそろ幕引きと行こうぜ、ジャパニーズ?」

「ランチェスターの第二法則から見てもこちらが圧倒的に有利な状況にあるしね」

と、ジョニー・リンゴ五世(以下、ジョニー)と“バット”・バーソロミュー・マスターソン五世(以下、バット)である。

ジョニーは、アメリカ西部開拓時代、西部一の早撃ちと恐れられたガン・スリンガー、ジョニー・リンゴの子孫である。

ブロンドの髪にグレーの瞳、181センチという長身と細身な体型から抜き身のナイフのような印象を与える。

性格はクールでニヒル、それでいて冷酷非情。女性に良くモテ、常に何人かをはべらせている。また、先祖から遺伝か早撃ちに天才的な才能を発揮、それをサバイバルゲームでも応用している。

バットは、ワイアット・アープの親友として知られ、ダッジ・シティの保安官、新聞記者、政治家と波乱に満ちた人生を送ったバット・マスターソンの子孫である。

180センチの長身に引き締まった体躯、温和そうな黒いに近いダークブラウンの瞳を持つ。

性格も、容姿の通り温和そのもので、多くの人から慕われている。そのためか、彼らの母校私立ワイルドウエスト高校では生徒会長をしている。

このほか、『OK牧場の血統』は先に撃墜された“カーリー”・ビル・ブローシアス五世(以下、ビル)とアイク・クラントン五世(以下、アイク)の二人が居る。

ビルは、アメリカ最初のギャング団『カウボーイズ』の首領だったカーリー・ビルの子孫で、巻き毛が特徴的な黒髪に同じく黒い瞳を持つ、長身で細身の体つきの男である。

性格は気さくで明るく、学校でも人気者である。しかし、サバイバルゲームともなると弱い相手をいたぶってから倒すと言うかなりのサディスト的な性格を現す。

アイクは、カーリー・ビルの子分で、映画『OK牧場の血統』でも有名な大悪党アイク・クラントンの子孫である。

実家はアメリカ西部で農場を経営しており、そこで鍛え上げられた体は「頑丈」と言う言葉が似合う、長身でがっしりとした体躯が印象的である。

またお約束と言うか、体が体だけに脳みそまで筋肉で出来ているかのように、豪快だが単純で怒りっぽい単細胞な性格である。

「下総介(しもさのすけ)様と私を甘く見るな!」

と、ワイアット達に対し、信永の隣に控えていた農姫(のうひめ)が言い放った。

「予の前に人は無く、予の後にも人はなし。我が恐怖、魂に刻んでくれるわ」

そう言うと信永は腰のホルスターからSPAS12オートマチックショットガンを抜き放った。それを見て農姫も着物の裾から二丁のコルトM1911A1ガバメントを抜き、ハリウッドのアクション映画のように銃を水平に構えた。

「『戦国婆娑羅』、『魔王』、なるほどまだまだ世界は狂気に満ちている…」

ワイアットはそう言うと愛銃――コルトS.A.A.バントラインスペシャルを構えた。

「さぁ行くぞ、歌い踊れ、魔王。豚のような悲鳴を上げろ」

ワイアットの言葉に第三回戦の最後の戦いの火蓋が切って落とされた。



◇2◇


その頃、観客席の最前列ではワイアット達の親友、清水哲雄(しみず てつお 以下、哲雄)が一枚の紙を手にしたままわなわなと震えていた。

「な、な、な、なんじゃあこりゃー!」

と、どこかで聞いた様な叫び声を上げた。

哲雄は本来、このように取り乱すことはめったに無い。

中背だが柔道家を思わせるがっしりとした体躯を持ち、髪は短く刈っている。

生まれも育ちも東京浅草。性格も明るく豪快で情に厚くて涙もろいが喧嘩っ早いと言う、絵に描いたような江戸っ子。

そして、彼は東海から関東一帯を仕切る任侠集団「清水一家」の若頭なのである。先祖は海道一の大親分として知られる清水次郎長(しみずのじろちょう)で、哲雄で五代目である。

彼が見ているのは携帯FAXに浅草の実家から送られてきたFAXである。

「だぁー!ちくしょー!ユキメのやつ〜!」

彼が手にしている紙には「領収書 清水哲雄様」と書かれていた。金額は…PS3が一度に三台ほど買える金額である(爆)。

「……ん、まぁうちのことだから、これくらいは払えるだろう、って思ったんじゃない?それにさ、ドクちゃんの命の危機だったんだからさ」

と、哲雄をなだめているのは、哲雄の許婚のお蝶(江戸時代風に“おてふ”と発音するのがポイント)。

本名を江尻帰蝶(えじり きちょう)と言い、哲雄とは又従兄妹。年齢は16歳で、哲雄と同じ東京水道橋にある私立北洋高校に通う高校1年生。

スレンダーな体型に端整な顔立ち、少し長めの髪は後ろでひねってまとめている。

豪快で男勝り、自由奔放、明朗活発な性格、粋でおきゃんな江戸っ娘。「清水一家」の若衆からも「お嬢」と慕われている。

哲雄とは相思相愛でところかまわずイチャついている。

「……まぁな。それにお袋もお袋だよなぁ〜。これくれぇ、組の金から出してくれてもいいだろうに……」

と、哲雄は自分の母親に毒付いた。

FAXには領収書の写しのほかに、哲雄の母、江万子(えまこ)の字で『てめぇのことなんだから、てめぇの金で払え!』と書かれていたのだ。

「おばちゃんはそう言う所、厳しいしね。……もう、そんなに落ち込まないの!又いつもみたいに“慰め”てあ・げ・る、からさ♪」

と、お蝶がウィンクをしながら言った。

「……今からでもいいんだぜ?」

ニヤリ、と笑いながら哲雄が言った。

「イヤン♪もう、この色ボケ狼♪」

お蝶はそういうと哲雄の首に抱きつき、哲雄もお蝶を抱きしめた。

二人は全身から「ラブラブビーム」を放っていた(笑)。

「あ、あの……お嬢、お取り込み中、申しわけねぇんですが……」

と、イチャイチャしている二人に恐る恐る声をかけたのは「清水一家」の若衆の一人、大瀬半五郎(おおせ はんごろう)である。

中背だが肉付きは薄い。服は趣味の悪い極道スーツで固めている。

半五郎は清水一家一の銃の使い手でヒットマンである。親分の謙次郎は裏社会では銃嫌いの珍しい極道として知られているが、その謙次郎が認めるほどの腕前である。

「おう、なんでぃ半五郎?」

と、お蝶とのイチャつきを邪魔された哲雄がやや不機嫌な声で言った。

「い、いえ!お嬢に頼まれてた品ができあがったんで、見てもらおうと思いやして」

半五郎は額に汗を滲ませながら言った。

「え!?あれができたの?見せて見せて〜」

と、お蝶はまるで誕生日にほしかったおもちゃをプレゼントされた子供のように目を輝かせながら半五郎に言った。

「へ、へい!こちらです」

そう言って半五郎が取り出したのは、黒檀で作られた重厚な木箱である。

そしてその中身を見るなり、お蝶は感嘆の声を上げた。

「はは…これは…」

箱の中身におさめられていたのは鈍い金属特有の光を放つ、一丁のサブマシンガンであった。

お蝶はそれを手にとって構えてみた。

「対抗争戦闘用45口径サブマシンガン『トンプソンM1928A1』」

と、半五郎は銃の説明を続ける。

「全長85センチ、重量4.9キログラム、装弾数100発…お嬢がお好きなマシンガン・ケリーが愛用したマシンガンを再現いたしやした」

半五郎の言葉に、お蝶の口元が半月型にゆがんだ。

「弾はマンストッピングパワーが強い.45ACP弾」

それまで半五郎の説明を聞いていたお蝶がはじめて口を開いた。

「発射速度は?」

「約毎分700発」

「初速は?」

「約260m/s」

「弾頭は?」

「ウィンチェスター社製フルメタルジャケット」

「弾はフルメタルジャケットだけか?」

「本日はフルメタルジャケットのほかに、暴徒鎮圧用硬質ゴム弾も用意しておりやす」

半五郎の説明を聞いてお蝶の口元はこれでもかと言うくらい愉悦にゆがんだ。

「パーフェクトよ、半五郎ちゃん」

「感謝の極み」

お蝶からの賞賛の言葉に、半五郎は恭しく頭を下げた。

「ほぉ、なかなかスゴそうなマシンガンじゃねぇか?」

と、哲雄がお蝶の持つ銃に興味津々、と言った感じに覗き込んだ。

「あげないわよ」

と、お蝶はまるでおもちゃを取り上げられそうになる子供のように、銃を小脇に隠そうとした。

「つれねぇなぁ……ま、俺はじいちゃんとおんなじでこっちのほうが好きだけどな」

そういうと哲雄は、腰にさした一振りの長ドスに視線を落とした。

その長ドスは、一見すると一本差し拵えの所謂時代劇に出てくるヤクザ刀である。しかし、その中身はそんじょそこらの極道が持つ鈍刀ではない。

その刀は、実戦本位の豪壮な造りと鋭い斬れ味で戦国武将に愛された刀、胴田貫である。

初代清水次郎長から清水一家の跡取りに代々受け継がれて来た由緒ある刀で、元をたどると、初代清水次郎長が清水一家を旗揚げするさい、叔父貴分である和田嶋太左衛門(わたじまのたざえもん)から餞別として送られた刀なのである。

初代清水次郎長もこの刀を愛用し、かなりの量の血を飲み干してきた。

「じいちゃんからこれを譲られたときゃあ、しびれたもんなぁ」

と、哲雄は感慨深げに言った。

するとお蝶が急に真顔になり呟いた。

「……でも、あたしたち、いくら極道だからって、こんな凶器を普通に持ち歩いてよく銃刀法違反で捕まらないわね」



◇3◇


「フハ、フハハハハハ!我一人で十分よ!」

信永はSPS12を乱射しながら絶叫した。

ここまで、『OK牧場の血統』は『戦国婆娑羅』の二人に完全に押さえ込まれている。

まず、信永がSPAS12オートマチックショットガンを絶え間なく連射する。弾が切れるとすぐさまバリケードに隠れ、間をおかず今度は農姫が前に出てコルトM1911A1ガバメントの二丁拳銃を乱射する。そして、弾が切れたらバリケードに隠れ、次弾の装填を終えた信永が再びSPAS12を乱射する……これを幾度と無く繰り返し、『OK牧場の血統』に疲労を誘い、冷静な判断力を奪おうと言う作戦だった。

「ちっ!これじゃあ切がない!」

「あいつら一体何発のBB弾を持ってきてんだぁ!?」

ワイアットとジョニーが同時に毒付いた。

彼らは知らなかったが、信永はこれある、を予測、つまり『OK牧場の血統』に舘正宗(たて まさむね)や武多真玄(たけた しんげん)らが敗れることを計算していたのだ。そして、BB弾1000発入りのBBボトルを10個(半分は農姫にも)も持ち込んでいたのだ。

元々戦略眼の鋭い信永である。『戦国婆娑羅』の戦術、そして個々の力量から各個撃破されることは分かっていた。

しかし、なぜか信永はそれを試合前の作戦会議において述べなかった。

あるいはこの状況を望んでいたのか?ワイアット達には分からなかった。

「ええい!もう、じれったいわね!もうこうなったらバンザイ突撃よ!」

突然ドクが非常に危険な言葉を口走った。

「ば、バンザイ突撃って……ドク、お前どこでそんな言葉を覚えてきた!?」

「そ、そんなことしたら自ら死地に赴いて全滅した旧日本陸軍のインパール作戦じゃないか! ……まてよ。今俺たちは敵軍の二倍、突撃によって乱戦状態を作り出すことによって数的有利を最大限に活かすことができれば……」

と、ワイアットは幼稚園で変な言葉を覚えてきた園児の父親のようなツッコミを、バットはドクの大雑把で危険な作戦を真剣に考え始めた。

「でしょでしょ!もうみんなで『ジーク・カイザー!』って叫んで突撃よ!それにほら『奴らは二万隻、我らは両艦隊合わせて三万隻。敵軍ことごとく葬って、なお一万隻残るではないか!』って言葉もあるし」

バットが真剣に考えてるのを見てドクはここぞとばかりに、某スペースオペラの傑作に登場するオレンジ色の髪を持つ猛将の言葉を引用し畳み掛けようとした。

ドクの言は粗野なものに聞こえるが戦略の本質を的確についていた。戦略的勝利の第一歩は敵より多数の兵力をそろえることにあるからである。

「……というか、俺たちの場合『ビバ・デモグラシー!』じゃないか?」

「いや、それよりも『くたばれ、カイザー!』じゃない?」

と、ジョニーとバットがツッコミになっているのか、なっていないのかわからないツッコミを入れた。

それを聞いてワイアットが『そういうものでもあるまいが』と小声で二人にツッコんだが幸い二人の耳には届かなかった。

「どっちだっていいでしょうが!文句言ってる暇があったら突撃しなさい!突撃しない奴はあたしのピースメーカーで吹き飛ばしてやるわ!卑怯者として死ぬより、遥かに武人の本懐でしょうよ!」

体調が全快したドクがいい感じ(?)に暴走し始めた。

その目は冗談とも本気とも取れなかった。

「いやいや、死ぬなんて大げさな。それに、俺たち武人じゃなくてガンマンだし……」

と、控えめにバットがツッコミを入れる。

「だが、ほかに目ぼしい案が無いのも事実だ……それに、この作戦、面白そうで、危険だ」

と、ワイアットは獰猛な猛禽類の目をしながら言った。

ワイアットの言葉に他のメンバーも大きく頷き賛同の意を示した。

数分のやり取りで、新たにバットが二、三作戦を追加し、こうしてドク・ホリディ五世作曲、バット・マスターソン五世編曲の組曲の幕が上がった。

「フハハハハハ!どうした、メリケン(アメリカ)のガンマン共よ!うぬらの腰に付いているのはただの飾りか!」

「そいつはどうかな?」

「なにぃ!」

相変わらずSPAS12を連射しつつ、信永は叫んだ。するとワイアットがふてぶてしく言い放つと信永は怒りの形相で再び叫んだ。

その時、信永の攻撃が一瞬、止まった。その瞬間を見逃さず、ワイアット達がバリケードから躍り出た。

「ジーク・カイザー!」

「くたばれ、カイザー!」

「ビバ・デモグラシー!」

「……こまったものだ」

……思い思いの鬨を挙げて。

一瞬の出来事であった。信永がSPAS12の銃口をワイアット達に向けるより早く、ワイアットのバントラインスペシャルの銃口が信永の眉間にピタリと合わせられていたのだ。

その時である。

「下総介様!伏せてくださいまし!」

魔王の妻(?)、農姫が信永に叫んだ。

信永はハッとしてすばやく身を伏せた。ワイアット達は何事か、と一瞬驚いたがそれも一瞬に過ぎなかった。

改めてワイアットがバントラインスペシャルの引き金を引こうとした時、再びワイアット達に衝撃が走った。それは農姫がとんでもない行動をとったからだ。

なんと、農姫は着ている着物を捲し上げ、股間に手を突っ込んからだ。

「「「「!!?」」」」

何をするのか?一瞬判断が付かなかった。

と、ドクは思ったが他の3人は違った。

程度の差こそあれ、3人とも下腹部の強張りを感じていた。

「女だとて、侮るな!くらえ!」

と、農姫は股間から巨大なガトリングガンを取り出したのだ。

「!!に、逃げろ!」

バットがやや上ずりながら叫んだ。

すばやくワイアット達はバリケードに隠れようとしたが、それよりも早く農姫のガトリングガンが襲った。

キュイーン、ダラララララララララララララララララララララララララララララララ!

「いってぇー!」

毎分3000発ものBB弾の攻撃にジョニーは逃げ切れなかった。それも当然、一番農姫に悩殺されていたのは他ならぬ女ったらしのジョニーであったからだ。

「あの馬鹿……女神がちらつかせた下着に目を奪われやがって」

と、ワイアットははき捨てた。

ワイアット、バット、ドクは何とかバリケードに到達できた。……というか、ジョニーが囮になった感じで助かったのだ。

「っていうかどうやってあそこに入れてたのよ?」

と、ドクは同じ女性として素朴な疑問を口にした。

「仕方ないよ。だってオリジナルがああなんだもの」

バットは元ネタの仕様だからと言う事でドクに思考停止を呼びかけた。

ちなみに、元ネタのゲームも非常に艶っぽい(笑)

「それより!アレをどうにかする方法を考えろ!」

と、ワイアットが二人を一喝した。

「そうは言っても、バット、又あのシルクハット作戦は?」

「いや、同じ手は二度も使えない。孫子の兵法にも書いてあるし」

「じゃあ、どうするのよ!」

「そ、そんなこと言われても……」

と、バットはドクの勢いに押され気味に言った。

「でも、元はといえばドクが無理な突撃なんかしようっていったからだろ!」

「な、なによ!あんときはバットだって賛成したじゃない!」

……なにやら雲行きが怪しくなってきたな。と、ワイアットは思った。はぁ、と一つため息をつくと、ワイアットは二人に叫んだ。

「二人ともいい加減にしろ!戦闘中だぞ!」

ワイアットの一喝に、ドクもバットも顔を伏せ己の不見識を恥じ入った。

まったく、こういう役目はバットのはずなのにな……と、ワイアットは心の中で呟いたが、口に出してはこう言った。

「どうにかしてあの女を止めないとな……お、そうだ!」

ワイアットはそう言うと、ドクとバットにすばやくハンドシグナルを送った。

ドクとバットは一瞬、考えるような表情を出したがすぐに頷いてワイアットの意見に賛同した。

三人はすぐさま行動に移した。まず、ワイアット、バット、ドクが立て続けに信永に攻撃を加えた。もっとも、バリケードから銃だけ出してのことなので狙いは正確ではない。

この行動はあくまでも牽制で、信永に行動の自由を与えないためであった。この作戦は成功し、信永は慌ててバリケードに隠れた。

『今だ!』

ワイアットが心の中で叫んだ。と、同時に三人は一斉にバリケードから飛び出し、三人が別々の方向に走った。

これは『戦国婆娑羅』の猛将、武多真玄に使った手である。あえて全員が飛び出し、相手に的を絞らせないようにするのと純軍事的に反応を遅らせるのである。さきほど、バットがシルクハットを囮とした作戦は二度も使えない、といったが今回はそれの応用といったところである。

一瞬、農姫の反応が鈍った。しかし『OK牧場の血統』には一瞬で十分であった。

走りながらバリケードに飛び込む直前、無理な体勢からまるでアクション映画俳優バリにBB弾を放った。

パチッ!

乾いた音がフィールドに響いた。

「ま、まさか……」

農姫が唖然とした表情で自分に当たって落ちたBB弾を見つめた。

「父上……農は……下総介を……」

農姫はそう呟くと肩を落としてセーフティーゾーンへと向かった。

「……愚かな女よ、哀れとは思わん」

セーフティーゾーンへ進む農姫の背中に向け信永が言った。言葉の内容とは裏腹に、その声はやや震えていた。

「さぁ、あとはあんただけだぜ、信永さん」

信永が振り返ると、ワイアット、ドク、バットの三人がそれぞれ銃を自分に向け、立っていた。

「もう終わりよ、観念なさい!」

と、ドクがフリーズコール代わりに言った。

帯電したような空気が四人の間に流れた。

それを破ったのは、信永の笑い声だった。

「フ、フハ、フハハハハハハハ!」

一瞬、まさか、まだやる気なのか?とワイアット達は思った。その笑い声は三人を戦慄させるに十分な迫力を有していたからだ。

ワイアット達が身構えていると、唐突に信永は笑うのをやめた。すると懐から扇子を取り出し、いきなり歌を歌い始めた。

「人間、50年。下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなりぃ。一度生を享け、滅せぬ者のあるべきかぁ……」

戦国武将、織田信長(おだ のぶなが)が愛した幸若『敦盛』の一節である。

一節歌うと信永はマントを翻し、悠然とした足取りでセーフティーゾーンへと向かっていった。

「ま、待て!どこにいくつもだ!」

ワイアットが慌てて信永を呼び止めた。

信永はワイアットの問いに一瞬足を止め振り返らず言った。

「この勝負、うぬらにくれてやるわぁ」

ワイアット達が唖然としている中、信永はそう言い切ると、再び歩き出した。

フィールドから『戦国婆娑羅』のメンバー全てが消えた時、試合終了の笛が響いた。

余談ではあるがこれより10年後、栃木県選出の国会議員として国会に登庁する者に尾田信永と言う青年がいたのであるが、それは又別のお話である(爆)

「……なんか拍子抜けしちゃったなぁ」

控えテントに戻る途中、ポツリとバットが漏らした。

「まぁね。でも、これで準々決勝進出……」

ドクは続きを言おうとしたが自分の背後に異様な気配に気づいた。

「!?!?」

ドクが後ろに振りかえようとした時、何者かにいきなり後ろから抱きすくめられた。

「「!ドク!」」

ワイアットとバットがドクの様子に気づき、思わず声を上げた。

「クックック、こうして見ると、ああ、なんと美しい方なのでしょう。……あなたの骨もさぞ美しいでしょ……」

と、ドクを羽交い絞めにしている男が言った。

男は肩にかかるほどの長髪で、髪の色は真っ白。肌の色はまるで死人のように青白く、その髪の色とあいまって幽鬼のような雰囲気をかもし出していた。

「なに者だ!」

ワイアットが男に向け叫び、ドクを助けようと男に向かっていった。

「おおっと、それ以上前に出ると、この美しいお嬢さんの髑髏(しゃれこうべ)が宙を舞いますよ……クックック」

そう言うと男は死神が持つような巨大な鎌の刃をドクの首筋に当てた。

「……くっ!」

それ見たワイアットも歩みを止めざるを得なかった。

その様子を見ていたバットはいち早く観客席に駆け出した。この場で一番頼りになるであろう、清水哲雄たちを呼ぶためである。

「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私、武智明秀(たけち あきひで以下、武智)と申します。以後、お見知りおきを……」

丁寧な言葉遣いなのであるが、顔には薄ら笑いを浮かべ、ワイアットを蔑む気持ちを隠そうともしていなかった。

「今日、伺いましたのはあなた方を楽しい宴にご招待しようと思いましてね。ただでは来ていただけないと思い、この通り人質をとりに参ったのですよ」

ずうずうしくも自分の来た目的を語った。

「それでは、あまり長いすると宴の準備が出来なくなってしまいます。ああ、そう言えば場所をご存じなかったですね。それなら……ほら、こちらにやってくるあの方に教えてもらえばよいでしょう」

そう言われてワイアットが後ろを振りかえようとすると、武智とドクの姿が急速に消えてゆくのがわかった。

「ドク!」

「お待ちしておりますよ……クックック」

武智はそう言葉を残し、消えていった。

消える直前、ドクの声で『どうしてあたしばかりこんな役なのよー!』と言う声が聞こえた気がするが、消えてしまった今となっては確認する術がなかった。



◇4◇


「なにぃ〜!?またドクが誘拐されたってぇ〜!!」

バットから手短に事態を説明された哲雄は思わず叫んだ。

控えテント前にはワイアット、バット、ジョニー、ビル、アイク、そして哲雄ら『清水一家』の面々が集まっていた。

「それでやつは、哲ちゃんに聞けば分かるって言って……」

ワイアットはそう言うと俯いてしまった。ドクを守れなかった、と言う罪悪感だけがワイアットの心を支配していた。

そんな様子をみて、哲雄はやさしくワイアットの肩を叩いた。

「落ち込むんじゃねぇよ。ああいう状況じゃ、俺がお前の立場だったとしても何も出来なかったと思うぜ。ここは、俺たちに任せねぇ!」

そう言って哲雄はどーんと自分の胸をたたいた。

「……ありがとう、哲ちゃん。でも、今度は俺たちも連れて行ってくれないか?」

と、ワイアットはなにか決心したように哲雄に言った。バット、ビルらもワイアットの言葉に賛同するように大きく頷いた。

「……覚悟はあるんだな?これから起きるこたぁ、サバゲーみたいな遊びじゃねぇんだぜぃ?」

哲雄はワイアット達の意志の固さを確認するように言った。

ワイアット達は哲雄の言葉に大きく頷いた。

「……おっしゃ!それじゃあ、おめぇら行くぜぃ!場所は前にドクが『大栃木陸軍』に監禁されたあの倉庫にちげぇねぇ。野郎共、車回せ!次の試合までにドクを助け出すぜぃ!」

『おう!』

ワイアットは心の中で硬く誓うと、車中の人となった。

15分ほどで、以前ドクが『大栃木陸軍』に監禁され、哲雄たちが大立回りを演じた廃倉庫に到着した。

哲雄は最初に来た時と同様、廃倉庫のドアを思いっきり蹴破った。

「……思ったより、早かったですねぇ。悪くないですが、あまり面白くありませんねぇ。これからこのお嬢さんの生皮を剥ごうと思ったところなんですが……」

武智はそう言って到着したワイアット達を見回した。武智の顔は相変わらず薄ら笑いを浮かべている。

ドクは武智の横の椅子に座らせられ、逃げられないように縄で椅子に縛られていた。

「ドク!」

「遅いじゃないのよ!さっさと助けなさい!」

と、ワイアットが心配そうに叫ぶとドクは自分のおかれた状況に省みず、やれ救出が遅いだの、やれ縄が痛いの、やれ腹が減ったのと、大声で喚いていた。

どうやら、2回目ということで多少、心に余裕が出来たらしい。

ドクの元気そうな様子にホッと一安心したワイアットであったが、武智の隣に見慣れぬ男が立っているのに気づいた。

「ああ、この方のご紹介がまだでしたね。この方は環境破壊怪人さんと言いまして、魔王クラーマ様の下僕だそうです」

武智は環境破壊怪人のことを手短に説明した。環境破壊怪人はその名前に相反する容貌で、某女と酒が大好きなイギリス諜報部員が着る様なタキシードを着ており、ヨーロッパの地方貴族のような感じである。

「……ちなみに、魔王クラーマ様とは……こんな能力をくれるお方です」

そう言うと武智は、手に持った巨大な鎌をワイアット達に向け振った。

しかし、距離は30メートルほど離れており、届くはずが無い、そう思っていたワイアット達は目を疑った。彼の振った鎌から鋭い棘のようなものが飛び出し、ワイアット達に向かってきたからだ。

「あぶねぇ!」

危険に気づいた哲雄がワイアットを突き飛ばし、自身も後ろに飛び跳ねた。

次の瞬間、棘がワイアットの居た床に数発、集中して突き刺さった。

「クックック、面白いでしょう?……さぁ、楽しい宴の始まりですよ!」

そう言って武智が腕を振り上げた。

すると、ぞろぞろと「私立戦国婆娑羅学園」の制服を着た男たちが現れた。数は100人ほどと思われた。

皆鎧を着込み、手に刀やら槍などを持ち、背中には家紋入りの旗を背負っている。……さしずめ足軽衆と言ったところか。

どうやら『大栃木陸軍』に操られた「栃木第二高校」の生徒たちと同じ術にやられているようである。

そうとはまだ気づいていないワイアット達である。死人のような目をしている彼らに、哲雄達が最初に見たときと同じ、“クスリ”をやっている、と思わざるを得なかった。

哲雄が一歩前に出た。怒りに体を震わせている。

「吠え面かくなよてめぇら!……ワイアット、おめぇらはちっと下ってろ」

哲雄はそう言いながら手で「下がれ」と指示した。

「哲ちゃん、これ!」

と、お蝶が哲雄になにやら長細いものを投げ渡した。

「?こいつぁ、おめぇの濡れ燕じゃねぇか?」

投げ渡したのはお蝶の愛刀濡れ燕であった。

「ええ、あたしは半五郎ちゃんに作ってもらった、これ、つかうから。それに哲ちゃん、二刀流の方が得意でしょ?」

お蝶はそう言って、半五郎に作ってもらったトンプソンM1928A1サブマシンガンを掲げた。

なるほど、と哲雄は心の中で呟き、濡れ燕を鞘から抜いた。

細身の、しかし優雅な大湾れ波紋が特徴的な刀である。

哲雄はそれを左手に持ち変えると、右手で自分の愛刀同田貫を抜いた。

哲雄は祖父謙次郎と義兄弟の契りを交わした三河の大親分、吉良の武一(きらのぶいち)から幼いころより剣術を教わっていたのだ。 吉良の武一(以下、武一)は、極道界では右が出るものが居ないと言われる剣術の達人である。そんな武一から教わった剣術を哲雄は、高校でやっている柔道や合気道の動きを取り入れ、我流の二刀流へと昇華させたのだ。

そして、その二つの刀を自分の顔の前で交差させ、刃で十字を作った。

「……この俺の眼前で中毒者が歩き、常習者が軍団を成し、戦列を組み前進をする。唯一の理法を外れ、外道の法理をもって通過を企てるものを、我々が!清水一家が!この俺が許しておけるものけぃ!てめぇらは震えながらじゃねぇ、藁のように死ぬんでぃ!」

哲雄の啖呵に、「清水一家」の若衆たちの士気が大いに上がったのはいうまでもない。

「あ、おめぇら、一応、峰打ちにしとけよ。いくら中毒者どもでも堅気みてぇだからな。堅気を殺したとあっちゃあ、『清水一家』のなおれでぃ!」

哲雄は一応、若衆たちに注意を喚起した。

「……よし、小政(こまさ)!」

「へいっ!」

哲雄に小政と呼ばれた小柄な男が哲雄の前に飛んで来た。

小政は若衆のリーダー格である大政(おおまさ)の弟で、清水一家一の居合い抜きの達人である。しかし、兄である大政は身長2メートルになんなんとする大男であるが、弟の小政は150センチ位しかなく、小政にとって大きなコンプレックスとなっていた。

「おめぇは右翼でぃ!ほかにも鬼吉、常八、敬次郎、鳥羽熊、鶴吉、松五郎、岡吉、おめぇらでぃ!」

『おう!』

右翼部隊は上の七人。

順番に、桶屋の吉五郎(おけや きちごろう)、相撲の常(すもうのつね)、田中の敬次郎(たなかのけいじろう)、伊勢の鳥羽熊(いせのとばくま)、大野の鶴吉(おおののつるきち)、由比の松五郎(ゆいのまつごろう)、清水の岡吉(しみずのおかきち)である。

「次は左翼!石、七五郎、大五郎、三五郎、金五郎、富五郎、盛之介、てめぇらでぃ!」

『合点でぃ!』

左翼部隊は順番に、森の石松(もりのいしまつ)、小松村の七五郎(こまつむらのしちごろう)、法印の大五郎(ほういんのだいごろう)、追分の三五郎(おいわけのさんごろう)、国定の金五郎(くにさだのきんごろう)、舞阪の富五郎(まいさかのとみごろう)、興津の盛之介(おきつのもりのすけ)である。

「中央は俺のほかに、大政、仁吉、仙右衛門、松五郎(もう一人居る!)、五郎、敬太郎!」

『合点承知の介!』

中央は哲雄を筆頭に、大政、吉良の仁吉(きらのにきち)、増川の仙右衛門(ますかわのせんえもん)、三保の松五郎(みほのまつごろう)、伊達の五郎(だてのごろう)、四日市の敬太郎(よっかいちのけいたろう)である。

「残りはお蝶、半五郎を中心にハジキで俺らを援護しつつ、ワイアット達を守れ!」

『おう!』

後方支援は、お蝶、半五郎、問屋場の大熊(といやばのおおくま)、寺津の勘五郎(てらづのかんごろう)、吉良の勘蔵(きらのかんぞう)、辻の勝五郎(つじのかつごろう)である。

これが、極道界最強と言われる戦闘集団「清水一家二十八人衆」である。二十八人衆筆頭である清水哲雄が五代目清水次郎長を襲名した暁には、伝統ある名である「次郎長二十八人衆」と改名されるであろう。

「おう、石、おめぇこれ呑め」

と、哲雄は何か思い出したように言うと子分の森の石松に一升瓶を投げて渡した。

「え?い、い、い、いいんでやすか?」

と、石松は吃もりながら答えた。この石松は清水次郎長の子分で「江戸っ子だってねぇ〜、寿司食いねぇ〜」の台詞でおなじみの森の石松の子孫である。

清水一家一の暴れん坊であるが飲むとさらにやばくなる。哲雄はそのことに目をつけたのだ。

「へ、へい。そ、そ、そう言われんなら……」

そう言うと、石松は渡された一升瓶の中身をぐびぐび飲み始めた。

「……プッハァー!……ヒック!おうおう、てめぇら!この石松様がじきじきに相手になってやるんでぃ!ありがたく思え〜!……ヒック!」

いい感じで酔っ払ってきたようである。余談ではあるが、石松は酒を飲むと吃音が直ると言う妙なくせがあるのだ。

「ああ、面白くなってきましたよ。それでは皆さん、がんばって殺してください」

と言う武智の言葉が戦闘開始の合図であった。

武智の言葉に足軽衆が猛然と哲雄達に襲い掛かってきたのだ。

哲雄達は左翼、右翼、中央がその鋭鋒を受け止めると、後方からお蝶、半五郎が正確極まる狙撃で足軽衆の隊列を崩しにかかった。

ズババババババババババババババババババババババ!

「うう〜ん、カ・イ・カ・ン!」

お蝶は今年リメイクされる某ドラマのヒロインの台詞を真似て言った。

もちろん銃弾は暴徒鎮圧用の硬質ゴム弾である。

「お嬢!ハジキの扱い、上手くなりやしたね!」

と、半五郎がお蝶の腕を褒めた。

半五郎は望遠スコープをつけたM16アサルトライフルを使用している。

本人曰く、尊敬するヒットマンはゴ○ゴ13。

「そりゃあ、先生がいいからね♪」

と、お蝶はからかうようにウィンクして見せた。

「い、いや〜。お嬢の筋がいいんですよ」

半五郎は若干照れながら言った。そして照れを隠す様に愛銃を撃ちまくった。

その頃、前線の哲雄たちは激戦の渦中にあった。

「うぉりゃー!」

哲雄は上段から切りかかってきた足軽の刀を濡れ燕で受け流し、相手の体勢を崩すと胴田貫で強烈な一撃を加えた。

切りかかった足軽はこの一撃で昏倒してしまった。

だがすぐさま次の相手が襲ってきた。今度は槍を持った足軽兵である。

哲雄は二本の刀で槍をクロスするように受け止めると、巻き込むように掬い上げた。

槍が足軽兵の手からはなれ宙に舞う。唖然とする足軽兵の顔面に、哲雄の右ストレートが炸裂した。

「ふぅ、これで十人か……おう、大政。おめぇは何人片付けた」

と、殴り倒した足軽兵を見やりつつ、哲雄は大政に聞いた。

「へぇ、さすがは若!あっしはまだ五人てぇとこでさぁ……いや、六人ってぇとこです」

大政は矛を外した槍で戦っていた。

哲雄に言いながら、また一人、足軽兵を倒した。

上段から切りかかって来たところに、鳩尾へ一撃を加えたのだ。

「やるじゃねぇか……おおっと、十一人目ぇ!」

大政と話しながら哲雄は、もう一人、足軽を地に伏せさせた。

斬りかかって来た所を入り身転換でかわすと、そのまま相手の背中に胴田貫を振り下ろしたのだ。

左翼、右翼でも清水一家が圧していた。

居合い抜きの達人である小政は、まるで蒟蒻だけ斬れない剣豪のごとく、相手の鎧や制服だけ斬った後、峰打ちで着実に打ち倒していた。

清水一家一の怪力の持ち主である尾張弁の大男、桶屋吉五郎――通称鬼吉は、一人の足軽兵を殴り倒した後、そいつの両足を片手で持ち上げ、まるで棍棒のように振り回していた。

酒を飲んでその暴れ方が半端じゃない石松は、「どりゃー!」「おらおらどうしたぁー!」などと雄たけびを上げならが、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……ではないが、素手で刀や槍を持った相手を何人もノックアウトしていた。

「す、すげぇ……」

ビルは「清水一家」の戦いぶりに感嘆の声を上げた。

「すごい……これが所謂「ヤッチマイナー!」状態か……」

と、妙な感想をワイアットが口にした。

『OK牧場の血統』のメンバーだけでなく、一緒に居たお蝶、半五郎たちもズッコケたのは言うまでもない。

そうこうしている内に武智の兵たちは見る見る数を減らし、ついに残るは武智と環境破壊怪人の二人だけとなった。

「クックック……横たわるは味方ばかり……それもまた一興」

と、自分達が圧倒的に不利な状況にあるにもかかわらず、武智はまるで人事のように言った。

「残るはてめぇだけでぃ!」

哲雄が叫んだ。

それを聞いた武智は一瞬身震いするような動作をした。

「おお、怖い怖い……震えが止まりませんよ」

その言葉とは裏腹に、武智は一向に畏れ入るようには見えなかった。

「では、そろそろ私がお相手しましょうか……」

「待て」

ついに武智自身が出陣しようとした時、それを呼び止める声が上がった。

全員がその声がした方向に向くと、一同が信じられない人物が廃倉庫の入り口に立っていた。

『尾田信永!?』

そう、現れたのはチーム『戦国婆娑羅』のリーダー、尾田信永であった。

おどろく、『OK牧場の血統』、「清水一家」の面々を無視するように、信永は武智の元へと真紅のマントをはためかせながら歩いていった。

そして、武智も信永のほうへ歩いてゆき、両者はおよそ5メートルの距離を置いて相対した。

「これはこれは、信永公。来て頂けたのですね」

最初に口を開いたのは武智のほうであった。

「明秀……!」

「クックック、アッハッハッハッハ!ああ、信永公、貴方の赤い血が見たい……クックック!」

「たわけが……是非に及ばず!」

信永の言葉を合図に両者は一気に間合いを詰めた。

最初の一撃を放ったのは信永であった。

腰から巨大なハリセンを抜くと、武智に向け猛然と振り下ろした。

武智はその攻撃を間半髪でかわすと、信永の足元を狙い、巨大な鎌を薙いだ。

「ぬん!」

信永はジャンプしてそれをかわすと、再びハリセンを振り下ろした。

「これですよこれ!殺し合いですよ!」

武智は華麗なバックステップでかわす。

しかし今度は最初の攻撃とは違った。

「我がすべて滅ぼす!」

信永はそう叫ぶとそのままハリセンを床にたたきつけた。

するとどうであろう、武智に向かって床から鋭い棘がいくつも飛び出したのだ。

武智は体をひねってかわそうとしたが、全てを避けきれず、棘の一つが胸を掠めた。

掠めたところから薄っすら血が滴り落ちた。

武智は傷を指でさわり、血の付いた指を自分の口元へと運んだ。そして、自分の血を舐めた。

「ああ、なんて愉しい、殺したくない!」

武智は萎縮するどころか、心底愉しそうに叫ぶと、お返しとばかりにワイアット達に見せた技を信永にはなった。

信永は避けようとせず、マントを翻した。

するとどうであろう。まるで鋼鉄の布にでも当たったかのように棘を全て叩き落したのだ。

「フハ、フハハハハハハ!」

「クーックックック、アーッハッハッハ!」

二人はまるで地獄の悪鬼のような笑い声を上げ、幾対もの斬激を打ち合った。

そんな二人の人外バトルに、ワイアットや哲雄達は唖然とするほかが無かった。

「い、いってぇ、なんでぇ、ありゃ?」

「……信永とあった時、いやな殺気を感じたがこう言う事だったのか」

と、哲雄とワイアットがそれぞれ感想を漏らした。

「つまり、信永もあいつらの仲間だったってことか?」

「でも、仲間で殺し合いするかな?」

前者がビルで後者がバットである。

「するってぇと、あいつら仲たがいしたってこと?」

と、アイクが言った。

「だろうね。そうじゃなきゃ、あの殺気もそしてあの技も説明できないもの」

バットが冷静に分析して言った。

「でも、どうして信永は仲たがいしたんだろうか?」

と、バットが疑問に思ったことを呟いた。

それは哲雄達やワイアットにも共通の疑問であった。

考えている間にも、信永と武智のバトルは白熱を帯びてきた。

だが、徐々に信永が武智を圧し始めた。

武智はスピードでは信永を上回っているようであるが、体力、パワーは信永に一日の長があるようであった。

そしてついに、信永のハリセンが武智を捕らえた。

「ぬっはぁ!」

信永のハリセンはどうやら鋼鉄で出来ているらしく、武智の顔に命中した途端、武智の体はおよそ5メートルの距離を空中浮遊し、倉庫にうずたかく積まれていたドラム缶の群に沈んだ。

「ク、クハハハ……座興ですよ、全て……ね」

という言葉を残し、武智は動かなくなった。慌てて哲雄が駆け寄り、脈を確認したところ、ちゃんと脈はあった。どうやら気絶したらしい。

信永はそんな武智に一瞥を向けると、出口のほうへと歩き出した。

「ま、待って!信永君!」

と、バットが信永を呼び止めた。

信永は歩みを止め振り返った。

「勘違いするな。予とあやつとの間のことだ」

「でも、一応、礼だけは言わせてくれ……ありがとう」

と、ワイアットは信永に礼を言った。

そんなワイアットに信永は興味を持ったような目で見つめた。

「……このまま帰るつもりであったが気が変わった……小僧、貴様に教えてやる。やつらのことを」

そう言って信永は魔王クラーマの野望とその配下の怪人、そして信永や武智の能力について語った。

曰く、魔王クラーマは日本を征服するという野望の元、自分の手足となる怪人を作り出し、それを全国に放っている。

その怪人たちはさらに自分の手足となる人間たち――主に精神的に弱い人間――を虜にし、魔王クラーマの許可を得て能力を分け与え、コントロールし、魔王クラーマの野望を着々と実行に移しあるということ。

そして、その能力の中には人間を思いのままに操る術や、殺傷能力のある術などが含まれるという。

「そして、この栃木県に派遣された怪人というのが、ほれ、そこにおる、いけ好かない紳士面をした男だ」

そう言って信永は環境破壊怪人を指差した。

「予はどうやら、あやつが思っているほど弱い人間ではなかったようだ。予はあやつから能力をもらった後、あやつの軛(くびき)から脱した……」

信永の話を聞いたワイアット達は憎悪の思いを目に宿らせ、環境破壊怪人を睨んだ。

『あ、ああー。私はちょっと用事を思い出しました……それでは失礼』

と、環境破壊怪人はまるで逃げるように姿を消した。

「あの野郎!今度見つけたら簀巻きにして東京湾に沈めてやる!」

哲雄は消えた環境破壊怪人に向け吼えた。

「あいつが……どうやら敵が増えた様だな、ワイアット」

「ああ、だが面白くなってきそうだ」

ジョニーの言葉にワイアットはまるで、西部の荒野で正義の銃を掲げた先祖の霊が乗り移ったかのように、更なる敵への欲望をむき出しにした。

その時、未だ椅子に縛られていたドクがワイアット達に向け怒鳴った。

「あんたらー!早く、あたしを助けなさーい!!」



◇5◇


そのころ、栃木予選会上の一角、あるチームの控えテント前に人だかりが出来ていた。

彼らは『OK牧場の血統』の準々決勝の対戦相手、チーム『地獄は歌う』と彼らの母校『公立減瑠真愚高校』の生徒たちであった。

群衆の中に、一本の道が出来た。

一人の男が控え室テントから出てきたのだ。

その男は眼鏡をかけ、純白ダブルスーツをキザに着込んだ小太りの男だ。いや、小太りと言うよりは完全な肥満で、ジーパンにTシャツでも着ていれば秋葉原にいてもおかしくないような容貌である。

「諸君、私はサバゲーが好きだ」

その眼鏡の男は、人だかりの中央に立つと唐突に演説を始めた。

その声はまるで魔界の軍団長のような響きを帯びていた。

「諸君、私はサバゲーが好きだ」

「諸君、私はサバゲーが大好きだ」

「フラッグ戦が好きだ」

「バトルロイヤル戦が好きだ」

「要人警護戦が好きだ」

「衛生兵戦が好きだ」

「弾数制限戦が好きだ」

「ヒストリカル戦が好きだ」

「リアルダメージ戦が好きだ」

「武器制限戦が好きだ」

「捕虜奪還戦が好きだ」

「平原で。街道で」

「塹壕で。草原で」

「凍土で。砂漠で」

「海上で。空中で」

「泥中で。湿原で」

「この地上で行われるありとあらゆるサバゲーが好きだ」

「輪の長ったらしい作戦の解説を聞くのが好きだ」

「美亜子が神速の早撃ちでザ・ガンマン達を全滅させた時など心が躍る」

「春樹が操るAPS-2の6ミリBB弾が敵スナイパーを撃破するのが好きだ」

「悲鳴を上げてバリケードから飛び出してきた敵兵を真理姐がMP5Kクルツの二丁拳銃で薙ぎ倒れした時など胸のすくような気持ちだった」

「明智瑠華がその魅惑の純白パンティーで春樹を悩殺するのが好きだ」

「オープニングセレモニーでは活躍した淳二がサバゲーではめっきり活躍できない時など感動すら覚える」

「泣き叫ぶ敵兵共を輪が叫んだ『愛ーん!』によって沈黙させ、時間を止めるのも最高だ」

「哀れな帰ってきたカラオケ怪人を春樹の『撫で斬り』によって悲鳴を上げる暇も無くバラバラに粉砕した時など絶頂すら覚える」

「『風林火山』のAK備えによって滅茶苦茶にされるのが好きだ」

「必死に守るはずだった本陣が蹂躙されフラッグを奪われ、犯されていく様はとてもとても悲しいものだ」

「『ガブサバ会』『T・S・C』の物量に押しつぶされて殲滅されるのが好きだ」

「『イクサクニヨロズ』に追い回され、害虫のように地べたを這い回るのは屈辱の極みだ」

「諸君、私はサバゲーを、地獄のようなサバゲーを望んでいる」

「諸君、私につき従う大隊戦友諸君、君たちは一体何を望んでいる?」

「更なるサバゲーを望むか?」

「情け容赦の無い糞のようなサバゲーを望むか?」

「鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐のようなサバゲーを望むか?」

一度、眼鏡の男が口を閉じた。すると、群集の中から次々と声があがった。

『サバゲー!』『サバゲー!』『サバゲー!』

その声聞いて、眼鏡の男は再び口を開けた。

「よろしい。ならばサバゲーだ」

「我々は満身の力を込めて、今まさに振り下ろさんとする握りこぶしだ」

「だが、この暗い闇の底で一年間もの間耐え続けてきた我々にただのサバゲーではもはや足りない!!」

「大サバゲーを!!一心不乱の大サバゲーを!!」

「我らはわずか一チーム、6人の敗残兵に過ぎない」

眼鏡の男がそう言うと、チームのメンバーらしき六人がニヤリと笑った。

「だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している」

「ならば我らは諸君と私とで総兵力6000と一人のサバゲーチームとなる」

「我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中をたたき起こそう」

「髪の毛を掴んで引き摺り下ろし、眼を開けさせ、思い出させよう」

「連中に恐怖の味を思い出させてやる」

「連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる」

「地区大会と全国大会のはざまには奴らの哲学では思いもよらないことがあることを思い出させてやる」

「6人のサバゲーマーの戦闘団で、全国大会を制覇してやる」

「第二次鬼怒川温泉作戦、状況を開始せよ」

「征くぞ、諸君」

現在の撃墜数

ワイアット:7
ドク:4
バット:2
ビル:1
ジョニー:1
アイク:0

次回予告

「ついに、『OK牧場の決闘』の真の敵が判明した!
その名は魔王クラーマ。そしてクラーマ配下の環境破壊怪人。
そして『OK牧場の血統』は第三回戦へと駒を進める。
新たな敵の出現に西部のガンマンたちはどう戦ってゆくのか?
だが、そんな彼らの前に地獄よりの使者が現れる。
目で見ろ、絶望の深遠を。耳で聞け、地獄からの挽歌を。闇に住む魔物たち……
次回、天国なんて待たせておけ!明日よりも友を選んだ男(+女一人)たち第七話『殺しが静かにやってくる』

さあ、戦争の時間だ」


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