投稿小説だぜ

火山十三さま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

天国なんて待たせておけ!

明日よりも友を選んだ男(+女一人)たち

第三話


◇レジェンド・オブ・トチギ◇


◇1◇


「ここはどこだ?」

と、その男は呟いた。その男は丸刈りに眼鏡、そして旧日本陸軍の将校服を着ていた。階級章は大将だった。

「はい。一体全体どうなっているのでしょう?」

と、隣の男が言った。やや肥満気味の男で、同じく旧日本陸軍の将校服を着、階級章は中将だ。

「どうやら、どこかの倉庫のような雰囲気ですが薄暗く、まったくわけが分かりません」

今度は2人の後ろにいた男が言った。丸刈りで眼鏡をかけているが、なかなかの美形で、旧日本陸軍の将校服に中佐の階級だった。

3人の後ろには彼らに付き添うように旧日本陸軍の将校服を着た男が3人、階級章は3人とも中将だった。

彼らはつい先ほど、「全国高等学校サバイバルゲーム選手権栃木予選大会」で、西部劇サバゲーチーム『OK牧場の血統』に敗れた『大栃木陸軍』の面々である。

彼らは『OK牧場の血統』に敗れ、控えテントに戻った後、突如としてこの場所に瞬間移動してしまったのだ。

『良くいらっしゃいました、「大栃木陸軍」の皆さん』

と、礼儀正しいが、まったく感情が入っていない声が響いた。

「だ、だれだ!」

『大栃木陸軍』のリーダーで大将の階級をつけた、南條英機(なんじょうひでき)が叫んだ。しかし、辺りを見回しても声だけが聞こえ、声の主の姿はまったく見えなかった。

『姿を見せず、失礼の限りをお許しください。私は魔王クラーマ様の臣にて、北関東支部の環境破壊怪人、と申します』

「魔王クラーマ? 環境破壊怪人」

と、『大栃木陸軍』の作戦参謀でスナイパーの辻木政信(つじきまさのぶ)中佐が環境破壊怪人に問いかけた。

『左様。私の使命は魔王クラーマ様のために、この栃木の自然を破壊し、魔王クラーマ様ご自身の御手で新秩序を築くための足がかりを作ることなのです』

「で、それと俺達の関係は?」

今度は肥満気味の無田口廉也が問いかけた。

『あなた方が敗れた『OK牧場の血統』、彼らはサバイバルゲームをする一方、環境保護の活動をしているのです。おかげで我々の仕事がやりづらくなっているのです』

環境破壊怪人が『OK牧場の血統』の名を出すと、『大栃木陸軍』の面々は先ほどの敗戦を思い出し、恨みの思いが再び込みあがってきた。

『OK牧場の血統』のワイアット達は生まれも育ちもアメリカ西部。今だ、アメリカフロンティア時代の自然がそのまま残っている場所で生まれ育った彼らは、自然をとても愛していた。そして、日本に来てからも栃木の四季折々の自然を愛し、その美しい自然を守ろうとする活動も行っている。

環境破壊怪人にとっては目障りな存在と言えた。

『そこで、あなた方に復讐の機会と復讐するための力をお貸ししようと思い、ぶしつけながら来て頂いたと言う訳です。私は『OK牧場の血統』に居られては困る。あなた方は『OK牧場の血統』に復讐したい…お互いが双方を必要としているのですよ』

環境破壊怪人はそう説明した。その説明を聞き、『大栃木陸軍』の面々に異質な光を携えた。

「…本当に『OK牧場の血統』に復讐することができるのか? 『OK牧場の血統』に二度と立ち上がれないほどの屈辱を与えることが出来るのか?」

『はい。魔王クラーマ様のお力は偉大です。必ずや、あなた方のご期待に沿えるでしょう』

そう、環境破壊怪人は南條に言った。

「…わかった、やろうではないか」

『交渉成立ですね。では…』

そう言って、環境破壊怪人は何やら術らしきものを唱え始めた。

すると、『大栃木陸軍』は光に包まれたかと思うと、瞬時にその場所から姿を消した…。



◇2◇


栃木予選大会第一回戦を勝ち進んだ『OK牧場の血統』の姿は、予選会場の観客席の中にあった。

「さて、次の戦いは『デスペラード』対『SIX AMIGOS』か…」

と、『OK牧場の血統』のリーダー、ワイアット・アープ五世が呟いた。

流れるブラウンの髪に、鷹の目を思わせる鋭いスカイブルーの瞳を持つ長身の男。彼こそ、アメリカフロンティア時代の英雄、ワイアット・アープの子孫である。

彼は3年前に日本に留学してきた留学生で、現在、栃木県日光市にある私立ワイルド・ウエスト高校に通う高校3年生。同級生にはパット・ギャレット五世、ジェシー・ジェイムズ五世などアメリカフロンティア時代を代表する、ガンマン、保安官、アウトローの子孫達がいる。

性格は冷静沈着、それでいて結構ドライで冷たい印象を与えるが、その半面、真面目で几帳面、そして友人想い、家族想いと言った一面も持っている。

「たしか、『デスペラード』って哲ちゃんの情報だと要注意なチームよね」

「ああ。この試合を見りゃあ、やつらの戦い方がちったぁ、わかるんじゃねぇか?」

と、ブロンドの美少女がべらんめぇ調の角刈りの男に話しかけた。

このブロンドの美少女はケイト・ホリディ、通称ドク・ホリディ五世。

まばゆいほどのブロンドの髪を持ち、薄茶色の瞳、そして恵まれすぎていると言っても過言ではないプロポーションを持つ。彼女は、ワイアット・アープ(以下、ワイアット)の親友として名高い、ガンマンにしてギャンブラー、ドク・ホリディの子孫なのである。

性格は皮肉屋で毒舌家、さらには喧嘩っ早くギャンブル好きと言うかなりのじゃじゃ馬娘である。しかし、一度受けた恩は必ず返さなければ気がすまないという、義理堅い一面も持っている。

ワイアットとは2歳違いの16歳で、アメリカに住んでいるときからワイアットに好意を抱いていた。日本に留学して来たのも愛するワイアットと一緒にいたい、と言う思いからなのだ。

しかし、当のワイアット自身はドクの好意に気づいてはいるのであるが、どう受け止めて良いかわからず、未だ、友達以上恋人以下と言う微妙な関係にとどまっている。そのため、ドク・ホリディ五世(以下、ドク)はそんな関係に歯がゆい思いをしていた。

そして、ドクに相槌を打った男は清水哲雄(しみずてつお)。

中背だががっちりとした体躯を持ち、髪は短く角刈りにしている。彼は日本一有名な侠客、清水次郎長の玄孫で、東海から関東一帯を仕切る任侠集団「清水一家」の跡取りなのである。

生まれも育ちも東京浅草。性格も江戸っ子をそのまま絵にしたような、明るく豪快で義理人情に厚く、喧嘩っ早くて涙もろい。座右の銘は「火事と喧嘩は江戸の華」

彼は『OK牧場の血統』のチームメイトではなく、言わばスポンサーで、裏社会に通じていることから他のサバイバルゲームチームの情報などを調べ、ワイアット達に提供しているのである。

ワイアット達とは去年の浅草三社祭で知り合い、それ以来交流を深めてきた。

清水哲雄(以下、哲)が調べた情報によると、今試合をしようとしている『デスペラード』は栃木予選大会に出場するチームの中でもかなりの実力を有している優勝候補2チームの内の一つである。今一つは一回戦第五試合に出場する『三国志演義』である。

「うん。昔、東洋の兵法家がこう言ってるしね。『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』ってね」

そう言ったのは『OK牧場の血統』の参謀長、バット・マスターソン五世こと、バーソロミュー・マスターソン五世。

身長180センチの長身で引き締まった体躯。黒に近いダークブラウンの髪にグレーの瞳を持つ。温厚そうな顔立ちで、年齢の割には落ち着いた印象を与える。彼は西部劇で有名なアメリカフロンティア時代の名保安官、バット・マスターソンの子孫である。

温厚で常に相手のことを考えて行動する彼は、その人柄から多くの人に慕われていて、彼らの母校ワイルド・ウエスト高校で生徒会長を務めている。

また、彼はワイアットとドクをくっつけると言う、密かな野望(?)を抱いている。そのため彼は、栃木予選会場近くのデートスポットを調べたり、サバイバルゲームでワイアットとドクが共同して戦う作戦を考えたりと、涙ぐましい努力をしているのである。

「そうだな。たまには他の連中の試合を見るって言うのもいいぜ。なぁジョニー?」

「ああ。そうだな」

と、巻き毛が特徴的な男が隣で美女を数人はべらせているブロンドの男に話しかけた。

巻き毛の男の名はカーリー・ビル五世こと、ビル・ブローシアス五世。

巻き毛が特徴的な黒い髪に同じく黒い瞳を持つ長身で細身の男。彼はアメリカ最初のギャング団「カウボーイズ」の首領として名高い、カーリー・ビルの子孫である。彼の配下にはOK牧場でワイアット・アープ兄弟とドク・ホリディと対決したアイク・クラントンや西部一の早撃ちと恐れられたリンゴ・キッドことジョニー・リンゴがいた。

気さくで明るい性格で学校内でも人気があり、休みの日には公園で子供達相手にサッカーを教えたりと無類の子供好きという一面も持つ。しかし、サバイバルゲームとなると自分より弱い相手をいたぶってから倒すと言うかなりのサディストで、フリーズコールをされても相手を油断させて逆に倒すと言う、かなりの卑怯者である。

そして、美女を数人はべらせているブロンドの髪の男はジョニー・リンゴ五世。

ブロンドの髪にグレーの瞳を持ち、長身でかなりの美形。彼が、カーリー・ビルやアイク・クラントンと共にアメリカフロンティア時代、悪名を轟かせたジョニー・リンゴの子孫なのである。

性格はクールでニヒル、絵に描いたような二枚目の男であるが、その反面、冷酷非情の策略家。サバイバルゲームでは、“カーリー”・ビル・ブローシアス五世(以下、ビル)と組んで卑怯な策をいくつも弄する。しかし、その美形ゆえ女の子からいつもモテモテで、このようにいつも美女を何人かはべらせている。

「だがよ〜、見てるだけって言うのはつまんねぇよ。やっぱ、体動かさなきゃな〜」

と、早く自分も戦いたい、とうずうずしているこの男はアイク・クラントン五世。

頑丈そうな長身でがっちりとした体を持つ。彼はビル、ジョニー・リンゴ五世(以下、ジョニー)と同じく「カウボーイズ」のアウトローで、「OK牧場の決闘」などで有名なアイク・クラントンの子孫である。

怒りっぽく、単純な性格なので、学友からは「アメリカ版@ャイアン」と揶揄されている。

頭も決して良くは無く、何で日本に来れたのか疑問に思う者も多い。一説には、アメリカで大農場を経営している彼の父親、オールドマン・クラントン三世が裏で大金を回した、とでは無いかと言われているが真意のほどは定かではない。しかし、アイク・クラントン五世(以下、アイク)自身は悪いやつではないことをここに明記しておく。

「まぁ、いいじゃねぇかアイク。とにかく、見てみようぜ」

「うんむ〜、わかったよ」

と、哲がアイクをなだめた。

「若、さっきロイ・ビーン三世っつう方がワイアットさん達に差し入れを持ってきやした」

その時、清水一家の若衆で哲の舎弟である大政(おおまさ)が、なにやら大きな包みを持って観客席に現れた。

「ロイ・ビーン三世?」

「あたし達がいつもお世話になっているディスコの親父さんよ」

と、ドクが哲に説明した。

ロイ・ビーン三世(以下、ロイ・ビーン)はワイアット達の学校の近くでディスコ「ジャージー・リリー」を経営している今年70歳になる老人である。70歳にしては元気溌剌で「雷親父」と揶揄されている。しかし、ロイ・ビーンは日本に不慣れだったワイアットらアメリカからの留学生達の世話を良く見てくれるやさしいおじさんでもある。

「お! クラブハウスサンドに、コーラだ!」

目ざとく、真っ先に包みを開けたアイクが喜びながら叫んだ。包みの中には一つのバスケットが入っており、その中にはクラブハウスサンドとコーラがワイアット達の人数分入っていた。

「さすが、ロイ・ビーンのおっさんだな。うまそうだ」

と、今度はビルがクラブハウスサンドを一つ持ち上げ呟いた。

「ところで、ロイ・ビーンの親父さんは?」

ワイアットがそう大政に問いかけた。ワイアットは差し入れのお礼が言いたかったのだ。

「いや、それがですね。なんでも店の開店準備をしなくちゃなんねぇらしくて、それをあっしに渡した後すぐ帰っちまったんですよ」

「そうですか…」

ワイアットはそう言われ、いささか落胆したが、ロイ・ビーンのことだから自分達の優勝を信じて待っていてくれる、と思いそれ以上は何も言わなかった。

「じゃ、早速いただきま〜す♪」

と、ドクが大口を開けてクラブハウスサンドをほおばった。

「あ! おいし〜♪」

「…お前、あまり食うと太るぞ」

「大丈夫! 私の太らない遺伝子には自信があるから♪」

ワイアットは呆れ顔で言ったがドクはまったく意に反さず、うれしそうにロイ・ビーン特製のクラブハウスサンドを食べ続けた。それを見たバット、ビル達も食べ始め、ロイ・ビーンの作ったクラブハウスサンドに舌鼓を打った。

クラブハウスサンドとコーラでひとしきり、腹を満たしたころ、ちょうど一回戦第二試合が始まった。

最初にタイガーゲートから登場したのは『SIX AMIGOS』であった。だが、登場した『SIX AMIGOS』を見て、ワイアット達、そして哲は言葉を失った。

「な、なんじゃありゃ?」

最初に声を出したのは哲であった。

「アレは完全に西部劇を勘違いしているな」

と、今度はワイアットが解説するように言った。

『SIX AMIGOS』の面々もワイアット達と同じ西部劇サバイバルゲームチームであったが、その衣装はワイアットも言った様に完璧に西部劇を勘違いしていた。いや、逆に“西部劇”には忠実であった、と言うべきかも知れない。ワイアットが言う西部劇は時代考証のちゃんとした正統的なもののを言い、『SIX AMIGOS』はと言うと…

「ありゃ、あれか? どっかの安酒場で演奏しているやつらか?」

ビルがそういったのも無理は無い。『SIX AMIGOS』はド派手な金銀鮮やかな装飾を施した巨大なソンブレロに、これまたド派手な装飾を施したタキシードで衣装を統一していたのだ。まさに、一昔前の西部劇に登場する酒場のミュージシャンである。

唖然とその姿を見ていたギャラリーであったが、耐え切れず笑い声を上げた。

しかし、『SIX AMIGOS』の面々はまったく意に返さず、それどころかギャラリーに向かって奇妙な踊りをしながら奇妙な歌を歌い始めたので、ギャラリーの笑いはさらに大きくなった。

「こ、こりゃあ意外な伏兵がいたな…くっくっく、がっはっはっはっは!」

哲も堪えきれず大声で笑い始めた。ちなみに彼は笑い上戸である。哲に釣られて清水一家の若衆も大声で笑い始めた。

「た、たしかにね…あっはっはっは!」

ドクまでもが笑い始めてしまった。ちなみに彼女も笑い上戸である。

ギャラリーの余韻も冷めぬうちに、ドラゴンゲートより『デスペラード』が登場した。

が、『デスペラード』の登場は『SIX AMIGOS』とはまったく正反対に、重苦しい雰囲気で登場した。『デスペラード』の面々はそれぞれギターケースを持っていた。メンバーの構成は男五人に女一人と『OK牧場の血統』に似ている。しかもその女の子はドクに勝さぬとも劣らないグラマラスな美少女だ。

「なんだ? あいつらもミュージシャンか?」

ジョニーの疑問はすぐに解消された。

『デスペラード』の面々はギターを取り出すと、曲を奏で始めた。

テンテクテンテンテンテンテンテンテンテン、テンテクテンテンテンテンテンテンテンテン♪テンテクテンテンテンテンテンテンテンテン、テンテクテンテンテンテンテンテンテンテン♪テンテンテーン…♪

乗りの良いエレキギターによる演奏が終わると、ギャラリーから溢れんばかりの歓声と拍手が『デスペラード』の面々に送られた。

「いや〜、やるねぇ〜。それにあのべっぴんさん、是非ともお近づきになりたいねぇ〜♪」

と、哲は鼻の下を伸ばした。しかし、突如、背中に冷たいものが流れるのを感じた。

「わ、若! う、後ろ…」

と、大政が驚きながらも哲の後ろを指差した。

「ま、まさか…」

哲は恐る恐る後ろを振り向いたが、そこには予想した人物が青筋を立てて立っていた。

「て〜っ〜ちゃ〜ん〜(怒)」

「お、おてふ(お蝶)!」

「何鼻の下伸ばしてんのよー! あたしっつうのがありながらー!」

と、言うが早いかお蝶(おてふ)は哲にスリーパーホールドを決めていた。

「あら、おてふ(お蝶)ちゃん。いつ来たの?」

「ついさっきよ。本当は哲ちゃんたち一緒に来るはずだったんだけど学校の部活が長引いちゃって。後から電車で追いかけてきたんだけど…それなのに、あんたー!分かってんのー!」

と、ドクに言いながらも相変わらず哲にがっちりと、スリーパーホールドを決めていた。

お蝶(お蝶と書いて、おてふと発音する)は哲の母親、清水江万子(しみずえまこ)の遠縁の娘で、哲の許嫁(!)なのである。

年齢はドクと同じ16歳。顔立ちはなかなかの美少女で、少し長めの髪は後ろでひねってまとめている。スタイルもなかなかなのであるが、本人は胸の無いことをかなり気にしている。衣装は黒字に白い染め抜きの桜、と言う着物を着ている。

自由奔放で明朗活発、粋でおきゃんなちゃきちゃきの江戸っ娘。子供が哲一人だけだった清水江万子(以下、江万子)は、自分の子供のように可愛がり、お陰で性格も江万子譲りのかなり豪快で男勝りな性格になってしまった(笑)。若衆からも「お嬢」と呼ばれ慕われている。

年齢も同じで性格も似ていることもあり、ドクとはかなり仲が良く、一緒に買い物に出かけたりすることもある。

ちなみに、お蝶と哲は、ドクとワイアットと違い、相思相愛、所かまわずイチャイチャしている。しかし、このようにすでに哲はお蝶の尻に敷かれている(笑)。

「お、おてふ(お蝶)! く、くるじぃ…」

と、哲は顔を真っ赤にして必死にタップしている。それを見ていた若衆は内心で「若、可哀相…」と思いながらお蝶のとばっちりを受けたくないので知らぬ顔を決め込んでいる。

お蝶はその可愛い外見に似合わず、怒ると大の大人が10人がかりで止めに入らなければならないほどの怪力の持ち主で、喧嘩も滅法強く、レディース相手に大立回りを演じたり、学校間の抗争ではしばしば助っ人を頼まれるほどである。まさに、「触らぬ神に、祟りなし」である。

「お、俺が悪かった! だから許してくれー!」

「ほんっとーに、反省してる?」

「してるしてる! 反省してっからよ〜(涙)」

「ん〜、しょうがないわね。でも、次やったら殺すわよ」

物騒なことを言いながらお蝶は哲の首を絞めていた腕を放してやった。

それを見ていた若衆は「お嬢を怒らせたら本当に殺される…」と本気で思っていた。お蝶にとっては冗談のつもりであったが、ドスの利いたハスキーボイスで言ったため聞いている方は冗談には聞こえなかった。

「げほげほ! おてふ(お蝶)よぉ〜、もうちっと手加減してくれたって、いいじゃねぇか〜」

「だってさ、哲ちゃん、他の女見て鼻の下伸ばしてんだもん…」

と、お蝶は手のひらを返すように今度は泣き落としにかかった。哲はお蝶の泣き顔に弱かった。

「そんな顔すんじゃねぇよ。俺が悪かったからさ、泣くな」

と、哲はそう言ってお蝶をやさしく抱きしめた。そしてお蝶はと言うと…

「もう♪ 哲ちゃ〜ん(はぁと)」

そう言うとお蝶は勢い良く哲に抱きつき、二人だけの世界に入ってしまった。

若衆はホッとしたとも、「またか」と思ったとも、どちらともつかない盛大なため息をついた。

二人のイチャつきぶりを見ていたドクは内心「私もワイアットとああいう風になりたいなぁ〜」と思い、視線をワイアットに向けた。ワイアットはドクの視線にまったく気づいておらず、ドクを幻滅させた。

と、哲とお蝶が夫婦漫才(?)をやっている間、『デスペラード』と『SIX AMIGOS』の試合はすでに始まっていた。

『SIX AMIGOS』は全員、本陣近くのバリケードに張り付き、防御の構えを見せた。『デスペラード』はなぜかエアガンを持たず、ギターケースを持ち、ゆっくりと『SIX AMIGOS』の本陣へと近づいていった。

「あいつらどういうつもりだ?」

ビルが疑問を投げかけた。エアガンも持たずにどうやって戦うのか? 『OK牧場の血統』の関心はその一点に絞られていた。

試合が急転した。『SIX AMIGOS』が近づいてきた『デスペラード』の面々に攻撃しようとバリケードから身を乗り出したとき、突如、『デスペラード』からの攻撃が始まった。エアガンを持たずにどうやって攻撃したのか?

それは彼らが持つギターケースにあった。なんと、彼らはギターケースを改造し、ギターケース自体をエアガンにしていたのだ!

しかも、その種類もマシンガン、ショットガン、グレネードランチャーと火力も強力で、あっという間に『SIX AMIGOS』は全滅し、『デスペラード』が勝利した。試合開始からわずか3分の出来事だった。

その強さは『OK牧場の血統』が戦った『大栃木陸軍』と比べ物にならなかった。

「う〜む、強い…」

バットは唸った。『デスペラード』の戦い方は、単純ではあるが非常に洗練されていた。特に、ギターケース型マシンガンを二つ持つ男とギターケース型グレネードランチャーを持つ男の火力は要注意と言えた。

「あの二人も強いがリーダーのあの男、一体何丁の銃を持っているんだ?」

と、ワイアットが首をかしげながら言った。

『デスペラード』のリーダーの男はギターケースを一つ持っていたが、他のメンバーとは違い、ギターケースの中に何丁ものエアガンを収納していた。

今の試合だけでも、銃身を短く切り詰めたダブルバレルショットガンに、M4A1カービン、最後はスターム・ルガーKP85の二丁拳銃、とまるでマカロニ・ウエスタンに登場する、武器を満載した棺桶を背負うさすらいのガンマン、のようである。

「まさに“歩く武器庫”だな」

と、ジョニーがワイアットに相槌を打った。

『デスペラード』の面々は勝った割にはあまり嬉しがらず、淡々と控えテントへと戻っていた。

一方、負けた『SIX AMIGOS』はと言うと…

「う〜ん、くやしい〜!」

「ラッキー、ここは一つ踊って気分を変えよう!」

「おお! ネッド、さすがだな! ダスティ、アレを弾いてくれ」

「アレを弾くのかい? う〜ん、ちょっとだけだよん」

と、ラッキーと呼ばれた高校生にしてはすでに髪の毛が寂しくなった少年とネッドと呼ばれた小柄の美少年が社交ダンスをするように抱き合うと、ダスティと呼ばれた長身の馬顔の少年が小さい子供用のピアノを取り出し、曲を弾こうとした。

「それでは、皆さん。一発ぶちかましますが、お聞き苦しい点はご勘弁を」

と、ラッキーがそう言うと、ダスティがおもむろに曲を奏で始めた。

すると、ラッキーとネッドが歌を歌いながら踊り始めたではないか。

それを見たギャラリーは唖然とし、『SIX AMIGOS』のほかの3人は黙ってラッキーたちの醜態を見ていた。

ラッキーとネッドの踊りも佳境に入ってきた。ギャラリーは男同士の気持ち悪い踊りに白けきっていた。

『はいはい、踊りはそのへんにしてさっさとフィールドから退場してください』

見かねた大会運営委員がマイクを使って『SIX AMIGOS』の面々に退場を促した。彼らのお陰でかなりの時間をロスしていたのだ。

ラッキー達は踊りに満足したのか、退場勧告に素直に従い、ようやく試合を再開できるようになった。

「やれやれだな。えーと、次の試合は…」

と、バットがトーナメント表を見ながら言った。

「あ、私ちょっとお手洗いに行って来るわ」

「付いて行こうか?」

「いいわよ。場所は分かるから…まさか襲う気?」

「ち、違う! ただ心配しただけだ!」

そうドクが心配するワイアットに軽口を言うと席を立ち、観客席の裏にあるトイレへと向かった。

「おお、そうでぃ。おてふ(お蝶)よ、お袋達はいつ来るんでぃ?」

「うん、なんか野暮用があるって言ってたけど、決勝には間に合うようにするって」

「え!? 江万子さん達も来てくれるの?」

と、バットがお蝶に聞き返した。

「ええ。おばちゃん、張り切ってたわよ。あと、『おめぇら決勝まで行かねぇとただじゃおかねぇぞ!』って息巻いてたわ」

「はっはっは、それじゃあなんとしても決勝まで行かなきゃな」

と、バットは笑いながら言った。

去年の三社祭以来、ワイアット達は何度か哲の実家にご厄介になったことがあった。その時、妙にワイアット達を気に入ってくれたのが、哲の母、江万子と祖父の謙次郎であった。

元々、江戸下町文化と言うのは、様々な地域から人が集まって出来た、言わば“ごった煮文化”である。いろいろな者が江戸に来て一つの長屋に集まる。そこには見栄も気取りも無い。長屋の形からみんな「お隣さん」であるからすぐに親しくなれるのである。

謙次郎も江万子も哲もお蝶もそんな江戸下町文化が染み付いているため、異文化も抵抗無く受け入れられるのである。

「お袋のことでぃ、寿司かなんか持ってきてくれっだろうよ」

「そいつは楽しみだな」

「寿司か♪ 楽しみだなぁ〜」

哲がそう言うとジョニーとアイクは異口同音に言った。特にアイクは寿司に目が無かったのである。

そんなこんなであったが、試合のほうは順調に進んでいった。すでに一回戦第四試合が始まろうとしていた。

「ん? そういやぁ、ドクのやつ、遅ぇじゃねぇか? どうしたんでぃ?」

「あ、じゃああたしが見てくるわ」

そう言ってお蝶が席を立ったが、すぐに戻ってきた。その顔は蒼白で、何か恐いものでも見たかのようであった。

「どうしたんでぃ、居なかったんけぃ?」

お蝶に恐いものなど無いことを知っている哲は訝しんだ。

「そ、それが…これを見て」

トイレから戻ってきたお蝶が一つの手紙のようなものをワイアットに渡した。

それにはこう書かれていた。


『ドク・ホリディ五世は預かった。帰してほしくば、試合を棄権しろ』


「な、なんだって!?」

ワイアットは驚いた。哲は驚いているワイアットの手から手紙をもぎ取り、読んでみた。

「なに!? ドクが! どういうことでぃ!」

哲の疑問に答えられるものは居なかった。

この時、彼らはドクが誘拐されたことに気がついた。



◇3◇


「う、う〜ん…」

ドクは今だ、朦朧とする頭を無理にでも持ち上げ、周りを見た。

薄暗い、どこかの倉庫のようであった。

(私、何でこんなところに居るんだっけ…)

ドクは朦朧とする意識の中、必死に思い出そうとしていた。

(そうだ…私、トイレから出ようとしたら…後ろから何かを嗅がされて…)

30分前、ドクはトイレに行くため観客席を立ち、トイレがある観客席の裏へと歩いていった。

用を足し、ワイアット達が待つ観客席へ戻ろうとした。

その時である。

『なに!? キャ!…』

ドクは常人とは比べ物にならないほどの研ぎ澄まされた感覚を有している。しかし、トイレへ行った直後ということでホッとしたことが、後ろへの警戒心を低下させた。ドクは後ろからいきなりクロロフォルムを嗅がされ昏倒したのである。

「とにかく、急いで戻んなきゃ…キャ!」

ドクは勢い良く起とうしたが逆に前のめりに倒れこんでしまった。良く見ると、自分の体が椅子に厳重に拘束されていた。

「一体誰が…」

「私だよ」

「誰!」

ドクは声の主に向かって叫んだ。しかし、そこに居たのはドクの良く知る人物達だった。

「あなた達…『大栃木陸軍』!」

「そう、覚えていて頂けて光栄ですな」

と、『大栃木陸軍』のリーダー、南條は紳士ぶって答えた。

「私にこんなことして、どうなるかわかってんの!」

「あなたは自分の立場をわかっていないようですね…フン!」

南條は腕をドクに突き出し、手を握りつぶす動作をした。

するとどうだろう。ドクの首がまるで、見えない手に絞め付けられているかのように、ぐっ、と絞め付けられた。

「ぐはっ…く、苦しい…」

「どうだ、わかったか。魔王クラーマ様からいただいた“力”を持つ俺たちは無敵だ」

そう言うと、南條は見えない力でドクの首を締め付けていた。

「く…かはぁ…」

「ふ、これ以上やると本当に死んでしまうな」

と、南條は締め付けていた力を緩めた。力から解放されたドクは、激しく咳き込み、喘息を誘発させてしまった。

南条たちは、環境破壊怪人を通じて魔王クラーマの魔力を授かっていた。魔力と言うのは非科学的ではあるが、ヨーロッパではつい2〜300年ほど前まで、本気で魔女の存在が信じられており、日本にも陰陽道や“気”など、魔力、と言えなくも無い物が存在した。

南條の力はその“気”が言わば、特化したものでる。

“気”は古来より、天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられる物、とされてきた。そして、その“気”は我々の中にも存在し、普通の人間はその存在に気づかずに一生を終える。

しかし、気功などを習得した者は自分の体内にある“気”を自由自在に使い、難病を治療したり、どんな攻撃にも耐えられる、と言ったことができると言われている。

この力は南條だけではなく、『大栃木陸軍』のメンバー全員に与えられている。

本来“気”はその人に見合った強さと言うものがあり、それを強制的に増幅させた南条たちは、その“気”の力に体が付いてこず、その力を使いすぎれば彼らの身を滅ぼす、言わば諸刃の剣と言えた。

「お前はまだ殺さん。大事な人質だからな。フフフ、フハハハハ!」

南條はそう言い、不気味に笑った。

(ワイアット、助けて…)

ドクは心の中でワイアットに問いかけた。だが、すぐに再びクロロフォルムを嗅がされ、意識を失った。



◇4◇


「ドクの行方はまだわかんねぇのか!」

哲は観客席で咆哮していた。あの手紙を見つけてから1時間、若衆を総動員してドクの行方を捜査させていたのであるが、まったく進展が無かった。

「ワイアット、どうする! 俺達の次の試合まで後30分しか無いぞ!」

と、ビルが鬼気迫る形相でワイアットに言った。ワイアット達も清水一家の若衆に混じって、他の参加者から聞き込みを行っていたのだ。

「…メンバーが足りないんじゃ試合に出れん。どこからか助っ人を連れてきたとしてもドクと同じ働きは出来ないだろう…最悪、棄権するしか無い…」

ワイアットは消え入りそうな声で答えた。

「すまねぇ、ワイアット。俺達がついて居ながら…こんなことになっちまって」

哲が落ち込むワイアットに語りかけた。いつものべらんめぇ調にも覇気が無かった。

「哲ちゃん達のせいじゃないよ。あの時俺がドクについてってやれば…」

ワイアットはそう言って頭を抱え込んでしまった。この時哲は思った。ワイアットもドクの事が好きなのだ。それを自分じゃ気づいていないだけなんだ、と。

「若ー! わかりましたぜ! ドクの嬢さんが誰に誘拐されたのか!」

そう、大声で言いながら大政の弟で清水一家の若衆の一人、小政が駆け寄ってきた。小政は兄の大政と比べ、身長がすごく低く、150センチくらいしかない。そのため、皆は兄と対比して小政、と呼んでいるのである。

「なに!? それで、どこでぃ!」

「へい! それが、ドクが旧日本陸軍の将校服を着た男達に抱きかかえられ、車に乗せられたってのぉ、見たってやつが居たんです!」

小政の説明に、哲、そしてワイアット達は即座に犯人が分かった。旧日本陸軍の将校服を着、ワイアット達『OK牧場の血統』に恨みを持っていそうな人物…

「『大栃木陸軍』!」

ワイアットは犯人の名前を叫んだ。

「あんの野郎…」

ビルが歯噛みして言った。

「どうすんだよ! 犯人が分かったとこでやつらの行き先がわかんなきゃ、意味が無いじゃねぇか!」

と、アイクが顔を真っ赤にして怒った。

その時、哲の携帯が鳴った。

「誰でぃ! こんの忙しい時に! …ユキメか! どうしたんでぃ! …なんで、おめぇが、ドクが誘拐されたことを知ってるんでぃ! いや、そんなことはどうでもいい、それでなんなんでぃ! …ん…なに! ほんとか! …わかった、恩に着るぜぃ!」

「どうしたの?」

「例の情報屋からでぃ。どこで情報仕入れたのかかんねぇんだが、やつらが行った先が分かったぜぃ!」

「ほんと!?」

ユキメからの電話に状況は急展開した。

ユキメ曰く、ドクはここから20キロほど離れた廃倉庫に連れて行かれたらしい。

『大栃木陸軍』はユキメが今追っているある組織にそそのかされ、ドクを誘拐したらしい。その組織関連からドクの誘拐を知り、哲に連絡を入れて来たのだ。

「じゃあ、早く行って救出しなきゃ!」

「いや、待て。ユキメの情報じゃあ、その組織はかなり危険なやつららしいんでぃ。おめぇらは試合を控えている身でぃ。ここは、俺たちに任せな!」

と、哲は胸を張り、バットに言った。

「…哲ちゃん、本当にドクを助けてきてくれるのか?」

「あったりめぇだろ! …おてふ(お蝶)! 野郎共! 行くぜぃ!」

『おお!』

哲はワイアットに言うが早いか、お蝶、そして若衆を引き連れ、ユキメの情報にあった廃倉庫へと向かった。

「ドク、無事でいてくれ…」

ワイアットは必死の思いで祈った。

二回戦第一試合まで、あと27分…



◇5◇


哲たち清水一家は、6台の車で制限速度を100キロ近く、オーバーし、15分ほどでドクの監禁場所である廃倉庫へと到着した。

「ドーク! どこでーぃ!」

哲は廃倉庫のドアを蹴破り、ドクの名前を大声で呼んだ。すると、倉庫の奥のほうで、かすかに身じろぐ音が聞こえた。

「ドク! 無事けぃ!」

哲は椅子に厳重に拘束されたドクを見つけた。口にはしっかりと猿轡が噛まされ、声を出させなくさせていた。額には汗が滴り落ち、体力をかなり消耗しているのが見て取れた。

「今行くぜぃ!」

そう言って、哲は走り寄ろうとしたが、突如、前方から強烈な衝撃波を受け、後ろへ跳ね飛ばされた。

「いってぇー! 誰でぃ!」

哲は勇躍してそう叫んだ。すると、ドクの後ろから6人の旧日本陸軍の将校服を着込んだ男達が現れた。

「てめぇらは…『大栃木陸軍』!」

「! 貴様らは何者だ!」

哲が叫ぶと、『大栃木陸軍』の南條は驚きつつ聞き返した。南條は哲達、清水一家のことは知らず、てっきり『OK牧場の血統』の5人が助けに来ると思っていたのである。

『大栃木陸軍』は、『OK牧場の血統』が助けに来た時を考え、いくつかのパターンを用意していた。

1:試合開始までにドクを助けに来なければ、メンバーが足りずに不戦敗。それで復讐成就。

2:仮に助けに来たら、返り討ちでボコボコにして、復讐成就。

3:不戦敗にさせた挙句助けに来たところをボコボコにするのが最良の復讐。

「生まれも育ちも東京浅草。任侠集団『清水一家』五代目、清水哲雄でぃ!」

哲は大声で名乗った。すると、哲の隣にいたお蝶が一歩前に出て、南条たちに向かって啖呵を切った。

「てめぇら! あたしのダチになんつうことしてくれたんでぃ! さっさと、ケイトを返しな! あたしらはおめぇらが束になってもかないっこねぇぜ!」

「ふ、ふん! ヤクザがなんだ! こっちはお前達より多いんだぞ!」

完全にキレモードであるお蝶のドスの聞いた声に怯んだ『大栃木陸軍』であったが、素直にドクを返すつもりは無いようだ。

どこからとも無く、旧日本陸軍の一般兵の軍服を来た男達がわらわらと現れ、その数はおよそ50人はいると思われた。それぞれ、真剣と思われる軍刀を手にしていた。それは、栃木第二高校の生徒達で、南条たちの術により、従順な兵士と化していたのだ。その目はまるで死人の目のようにうつろな目で、意識が無いのは明らかであった。

「さぁ、どうする! お前達の2倍の人数はいるぞ!」

そう言って南條は高笑いを上げた。だが、規模の大きな喧嘩ほど江戸っ子の闘争心を書き立てるものは無い。哲達は不敵な笑みを浮かべていた。

「へん! こりゃあ、面白そうなでいり(喧嘩)だぜぃ。野郎共! 準備はいいか!」

『おう!』

哲がそう言うと、若衆達は雄叫びを上げ、必殺の長ドスを鞘から抜き放った。

「若、あいつら、なんかクスリでもやってるんですかね? 目が死人見てぇですぜ」

と、長ドスを抜き放ちながら小政が言った。

「クスリなんぞに手ぇ出しやがって。挙句の果てにドクを攫うなんざぁ許しちゃおけねぇ!」

南條たちの術を知らなかった哲は、南条たちの従順な兵士と化した栃木第二高校の生徒たちに、哲は「クスリ」を使っている、と思わざるを得なかった。

哲は昔気質のヤクザであるため、所謂「クスリ」と言うものに嫌悪感を持っていた。そして、それは清水一家の者、全員同じ気持ちで、ドクを誘拐したこともあって、『大栃木陸軍』に対し、正義の怒りに燃えていた。

「野郎共! 雑魚は殺すんじゃねぇ!どうやら、クスリで操られてる見てぇだしな! だが、足腰立たなくなるまでぶっ飛ばしてもかまわん! やっちめぇ!」

『おお!』 哲はそう宣言し、自らも長ドスを抜き、刃を返して峰打ちに構えた。そして、自ら真っ先に敵に突撃し、若衆も刃を返して峰打ちに構えると哲に遅れまいと突撃して行った。

もちろんその中には大政も小政もお蝶もいた。並みのヤクザが百人束になっても敵わない、一騎当千の猛者たち、清水一家が誇る『清水一家二十八人衆』、それが彼らであった。

ここからはかなり過激な表現となるため、音声のみでお楽しみください。


「おりゃ!」

バキッ!

「てめぇ!」

ボキッ!

「おらっ!」

ドコッ!

「ふん!」

メキメキ!

「なめんじゃねぇ!」

ゴフッ!

「どりゃー!」

ドカァ!

「おらおらどしたー!」

ドスッ!


ものの3分の間に、50人の哀れな生徒達は『清水一家二十八人衆』の前に完膚なきまで叩きのめされていた。

「さぁ〜て、残るはおめぇら6人だけだな」

壮絶な笑みを口元に貼り付けながら、哲は一歩一歩、『大栃木陸軍』の6人に近づいていった。

哲が一歩一歩近づくにつれ、『大栃木陸軍』もその雰囲気に圧倒され、後退りしていった。

「おうおう、どうしたんでぇ? さっきの勢いはどこへいったんでぃ?」

「く、くそー!」

南條は耐え切れず、“気”を最大限まで増幅し、それを衝撃波のように哲に叩きつけた。それは、常人なら軽く吹き飛ばされ、悪ければ死に至るほどの衝撃であったが、身構えていなかった先ほどとは違い、哲は少し後ろに後退しただけで、その力を受け止めたのである。

「そ、そんな…」

南條は茫然自失とした。まさか受け止められるとは思っていなかったのである。それを見ていた『大栃木陸軍』の無田口、辻木、安達、山上、岩村の5人も同じように哲にすべての力をぶつけたが、結果は同じだった。

南條たちは再び力を哲にぶつけようとした。が、それは叶わなかった。

すでに、彼らの体は限界に来ており、力も出せず、立っているのがやっとの状態だった。

「化け物め…」

「てめぇらとは体の鍛え方が違うぜ…それに、俺にはこいつがあるしな」

と、哲は遠山の銀さんのように、着流しの上半身を勢い良く脱いだ。そして、哲の背中には荒れ狂う九頭竜の刺青が彫られていた。その禍々しい、九つの顔は南条たちを射すくめるに十分だった。

「ま、こいつはお守り見てぇなもんだ…そんじゃあ、お寝んねしてな」

哲はそう言うが早いか、南條に強烈なボディーブローをかましていた。南條は一発で気絶し、他の5人も『清水一家二十八人衆』の面々に袋叩きにあい、気絶した。

『大栃木陸軍』の面々を始末した哲は急いで、ドクに駆け寄り、拘束を解いてやった。

「ドク! 大丈夫けぃ?」

哲が心配するように言い、お蝶達も駆け寄って、ふらつくドクを支えてやった。

「哲ちゃん…それにおてふ(お蝶)ちゃん…大丈夫よ。それより、試合が…」

「ああ、わかってる。急いで会場に戻るぜぃ!」

「ええ…」

哲は体力が消耗し、立つことさえ困難なドクを優しく抱きかかえ、車へと連れて行った。このことに関して、お蝶は何も言わなかった。

清水一家の面々が倉庫を後にすると、男が一人現れた。あの、環境破壊怪人だ。

そして、清水一家の面々に叩きのめされた『大栃木陸軍』を蔑む様な目で見ていった。

『役に立たないやつらめ…まぁいい。「OK牧場の血統」を消す手はまだいくらでもある。それにしてもあのヤクザ共は計算外だった。別の作戦を考えねば…』

そう呟くと、環境破壊怪人は一瞬にして消え去った。

環境破壊怪人が消えた後、その倉庫には救急車が呼ばれ、重傷を負い、気絶している『大栃木陸軍』と栃木第二高校の生徒達を収容していった。その救急車は哲が呼んだものであった。

敵とはいえども元はただの高校生。それは敵に対しての、哲の最大限の温情であった。

また、栃木にいる知り合いを通じて、警察には学校同士の抗争と言う風に伝えた。いくらなんでも、魔術めいた物を使うとは信じてもらえないだろうと思ったからである。



◇6◇


そのころ、すでに一回戦は終わり、二回戦第一試合が始まろうとしていた。

すでに、『デスペラード』の面々はステージに登場し、先ほどと同様の登場方法でギャラリーを沸かせていた。

「ええい! 哲はまだか!」

ビルがなかなか戻ってこない哲達に苛立ちを隠せなかった。

「あの〜『OK牧場の血統』の皆さん、メンバーが集まらないのなら失格になりますよ」

と、司会が『OK牧場の血統』の控えテントにやってきた。メンバーが足りなければその時点で失格となってしまうのだ。

「あと、少し! もう少し、待ってください!」

ワイアットは必死に司会を説得しようとした。

「しかし、もうすでに『デスペラード』の皆さんは登場していますし、対戦相手のあなた方が全員揃わないと…」

「全員揃わないとどうなるんでぃ?」

と、司会が「失格」と言おうとしたその時、哲がドクを戻ってきた。

「哲さん! ドク!」

バットがそう言うと、ワイアットは勢い良く立ち上がり、ドクに駆け寄った。

「ドク! 大丈夫か!?」

「ええ、大丈夫よ、ワイアット。試合に出れるわ」

と、ドクは気丈に行ったがその顔は蒼白で、脂汗が滲み出ていた。

「…わかった。よし! 皆、行くぞ!」

『おう!』

ワイアットはドクの決心が固いことがわかり、自ら折れた。そして、バット達と共に、ステージへと向かった。

「哲ちゃん…ありがとう」

ワイアットはステージのほうへ歩きながら、哲に礼を言った。

「礼なんかいらねぇよ。俺はダチとして当然のことをしたまででぃ…なぁ、おてふ(お蝶)?」

「そうよ。礼を言うんなら試合に勝ってから言って頂戴」

と、哲とお蝶に発破をかけられたワイアット達は、勢い勇んでステージへと上がっていった。

『タイガーゲートより、『OK牧場の血統』の登場だ!』

司会者がマイクで『OK牧場の血統』の登場を宣言した。そして、登場の音楽はと言うと…

ジャーンジャジャジャジャジャジャーン♪ジャーンジャジャジャジャジャジャーン♪チャラ〜、チャラララ〜♪チャラ〜チャラララ〜♪…

ギターとトランペットによる演奏、そう、これこそジョン・ウェイン主演の西部劇「リオ・ブラボー」のメインテーマなのである。

まさに、これからいかにも殺しに行くぞ、と言った感じの曲である。

ワイアット達がステージの上に集合すると、『デスペラード』の面々が自己紹介を始めた。

再びになるが、彼らは日本人学校に通うメキシコからの留学生である。

「リーダーのエルだ。どうして遅れたんだ?」

「ちょっとしたトラブルがあってな、すまなかった」

「…まぁいいさ。こうして戦えるんだからな」

と、エルと名乗った、健康そうな浅黒い肌に引き締まった体躯を持つ『デスペラード』のリーダーは、遅れてきたワイアット達に対し、懐の深いところを見せた。

次に、隣にいた例の美少女が一歩前に出た。

「カロリーナよ、よろしくね」

「こちらこそ」

と、身長はドクよりも低いもののかなりのプロポーションを持ち、魅力的な黒い髪を持つカロリーナが言った。どうやら、ドクに対抗心を抱いているようである。

他の4人はそれぞれ、カンパ、キーノ、ロレンソ、フィデオと名乗った。

カロリーナは踊り子のようなドレスを着、他の5人はメキシコの安酒場にいるマリアッチ(スペイン語でミュージシャンの意味)のような古いタキシードを着ていた。

「俺たちは、全国で絶対倒さなければならないやつがいる。そのためにも、お前らには負けられん!」

「どういうことだ?」

エルの言葉にワイアットは質問した。エルは説明していった。

去年の『全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会』栃木予選、『デスペラード』の面々は順調に勝ち進み、準決勝まで来ていた。

準決勝の相手は『サンタ・セシリア』。

顔合わせも終わり、いざ試合が開始されようとした時事件が起こった。エル達自慢のギターケース型エアガンが盗まれたのだ。

盗まれたと分かったのはお互いが射程内に入り、銃撃戦を行おうとした時だった。

エル達が撃とうとするが、ギターケース型エアガンからは一発もBB弾が発射されない。

訝しんでギターケースを開けるとそこには普通にギターが収められていた。

つまり、エル達のギターケース型エアガンとただのギターケースを何者かが入れ替えたのだ。恐らく、試合直前、大会本部役員に呼ばれ皆が控えテントを離れた時、すり替えられたのだろう。

エル達が愕然としている時、『サンタ・セシリア』の面々がゆっくりとエル達の前に歩いてきた。その顔はエル達のギターケースが、ただのギターケースだと知っているかのようだった。

エルはこの時悟った。ギターケースをすり替えたのはこいつらだ。エル達の心に憎しみの感情が沸沸と湧いてきた。

しかし、エアガンを持たない彼らは無力だった。『サンタ・セシリア』の面々は至近距離からまるで、なぶり殺すように笑みを浮かべ、エル達を撃った。

試合終了後、エル達は大会本部に『サンタ・セシリア』の非道を訴えたが、むげに追い返された。どうやら、大会本部役員も『サンタ・セシリア』が買収していたらしい。エル達は絶望し、そのまま予選会場を後にした。そして、来年、必ずややつらを打ち倒し恨みを晴らそうと誓った。

だが、『サンタ・セシリア』は今年から県外の高校に全員転校し、別の地区予選へと出場することになった。このため、エル達が『サンタ・セシリア』と戦うためには必然的に全国まで行かなければならなかった。

もっとも、『サンタ・セシリア』が地区予選で敗退すれば全国へ行っても戦えないのだが、それでも全国に行くことで『サンタ・セシリア』に間接的ながら勝ったことになり、エル達の復讐は果たせる。

「…こういう事だ。だから、こんなところで足踏みをしている暇は無いんだ!」

エルはそう言ってこぶしを握り締めた。これまで黙って聞いていたワイアットであったが、おもむろに口を開いた。

「…だが、憎しみから、復讐からは何も生まれない。そのことを分かっているのか?」

「そんなことは分かっている! だが、こうでもしない限り、俺達の気持ちが治まらないんだ!」

「私達はそのためにもこの大会へ出場したのよ。もう後戻りは出来ないわ」

ワイアットの正論に、エルとカロリーナはそう答えた。

「復讐なんかよりも大切なものがあるはずよ。それを思い出して」

「…どういうこと?」

ドクの言った言葉にカロリーナが聞き返した。

「あなた達、愛し合ってるでしょ?」

と、ドクが言った。女の勘と言うやつか、ドクの言葉にエルとカロリーナは図星のようで、お互い顔を見合わせ、顔を赤くした。

「復讐なんかより、あなた達の未来のことを考えて!」

もしかしたらドクは、エルとカロリーナを自分とワイアットと重ねあわしたのかもしれない。

そして、つい先ほどまで復讐と言う醜い物のために危険にさらされたことを思い出していた。

憎しみからは何も生み出さない。それをドク自身が自らの体で良く分かっていた。

「…未来を見つめるのは復讐が終わってからだ。他にも言いたいことがあれば、フィールドで聞く」

エルはそう言って自分達の本陣へと歩いていった。それを見た『デスペラード』の面々もエルに付いて行った。

ワイアット達もそれぞれ本陣へと歩いていった。歩きつつ、先ほどの彼らの話を反芻していた。

「…まさか、去年そんなことがあったなんてな」

と、ビルが最初に口を開いた。

「ああ、どこの世界にもそう言った、奴らがいるんだな…」

ビルの言葉にジョニーも同意した。ビルもジョニーもサバイバルゲームではどんな手を使ってでも相手を倒す、といった考え方の持ち主であるが、それはフィールドの中だけのことだ。裏で手を回すと言うような事までして勝ちたいとは思っていない。

「…だが、負けてやる義理は無い…そうだな?」

と、ワイアットが何か、決心したような顔をして言った。バットやドクも無言でそれを肯定するかのように、頷いた。

そう言ったことを話しながら、本陣へと歩いて行った。本陣についてから最初に口を開いたのはやはりバットだった。

「今回の作戦だが、ドクがこの状態だし、あまり複雑なものはやりたくない」

「そうだな。今回はドクには本陣の守備についてもらおう…それでいいな、ドク?」

と、バットが言い、ワイアットが相槌を打った。本来ならアタッカーのドクであるが、衰弱が激しい状態での攻撃は、ドクの体にかなりの負担になる。ワイアット達はドクに無理をさせたくなかった。

「…わかったわ」

ドクは、渋りながらも同意した。ドク自身、前線に出ても皆の脚を引っ張ることになると思ったからでもある。

「じゃあ、ドク抜きでどういう風に戦うんだ?」

と、ビルが言い、同意するようにジョニー、アイクが頷いた。

「うん、前の『デスペラード』の戦いを見ていて分かったことがあるんだ。それは、全員が横一線に前進し、敵の目前に来ると散開して思い思いに突撃する、と言う戦い方をするんだ。本来ならば、こういう戦い方を相手にするときは遠距離からの狙撃がもっとも有効なんだけど、今回は敢えて敵と同じ土俵に立つ」

「つまり、フォーメーション『OK牧場』だな?」

バットが言わんとすることをワイアットは正確に理解した。

フォーメーション『OK牧場』は『デスペラード』の戦術同様、全員が横一線に並び、そのまま前進する。そして、敵の目前に来たら散開し、近距離戦を行う、と言うものである。

まさに、西部劇の戦いをそのまま再現するような戦術である。

そしてそれは、ワイアット達『OK牧場の血統』のもっとも得意とするところなのだ。

『デスペラード』の戦術についてバットは「敵と同じ土俵に立つ」と言ったが、ある意味、『デスペラード』がワイアット達の土俵に上がってきたと言える。

ただ、この戦術を行うには幾つか条件がある。まず、敵にスナイパーが存在しない、と言う条件である。

全員が横一線で進むため、遠距離からの狙撃には非常に弱いのだ。また、遠距離攻撃に関連して、敵の武器と自分達の武器の射程距離がほぼ同じでなければならない。しかし、『デスペラード』にはスナイパーはおらず、使用するエアガンも火力が『デスペラード』のほうが若干上、と言うだけで射程は自分達よりあまり変わらないため、この作戦が使えるのだ。

「おもしれぇ。久しぶりにやるか!」

と、ビルが喜び勇んで言った。ようやく、彼らが求めていた戦が出来るのだ。

「ふっ、また俺の華麗なるガン捌きを見せることになるぜ」

「腕が鳴るぜ〜!」

と、ジョニーとアイクが思い思いに口を開いた。

「…じゃあ、みんな。よろしくね」

「ああ、任せておけ」

弱弱しいながら、はっきりとした口調でドクがワイアットに言った。

『OK牧場の血統』はそれぞれの想いを胸に、配置へと付いた。

この戦いが、栃木予選史上、最大の戦いになることになろうとはこの時点では誰も予想していなかった…


次回予告

「それぞれの思いを胸に、『OK牧場の決闘』、そして『デスペラード』は戦いの地へと立った。
想像を絶する激しい銃撃戦、行き詰まる攻防、その先に待つものとは一体何か?
そして、満身創痍のドクは決死の覚悟で戦いに臨む!
次回、天国なんて待たせておけ!明日よりも友を選んだ男(+女一人)たち第四話『さらば、愛の戦士達』

愛するもののために、彼らは戦う!」


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