投稿小説だぜ

火山十三さま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

天国なんて待たせておけ!

明日よりも友を選んだ男(+女一人)たち

第二話


◇馬上の決闘◇


◇1◇


一週間後、『OK牧場の血統』の面々は「全国高等学校サバイバルゲーム選手権栃木予選会場」にいた。

しかし、そこは彼らにとってかなり意外な場所であった。

「はぁ〜、まさかここでサバゲーをやることになるとはなぁ〜」

と、バット―“バット”・バーソロミュー・マスターソン五世は感慨深げに呟いた。

黒に近いダークブラウンの髪にグレーの瞳、温厚そうな顔立ちだが年齢の割に落ち着いていて渋い印象を与える。身長180センチで引き締まった体躯の持ち主。

彼こそ、西部劇で有名なダッジ・シティの保安官、バット・マスターソンの子孫なのである。

彼は言わば、この『OK牧場の血統』の潤滑剤で、温厚で常に仲間のことを第一に考える彼がいるからこそ『OK牧場の血統』が組織としての働きが出来るのである。

その人柄から彼は、チームの作戦参謀やチームの運営などをこなす、『OK牧場の血統』の陰のリーダーと言っても過言ではない。

また、彼にはサバイバルゲームとは別に、大きな目的がある。それはこの後紹介する二人の人物に関することである。

「たしかにね〜。でも、言ってみればここは私達にホームグラウンドだし、良いこと尽くめじゃない?」

バットに同調するようにドク―“ドク”・ケイト・ホリディは言った。

まばゆいほどのブロンドの髪に薄茶色の瞳、そして「銀河鉄道999」の@ーテル、ロシアの妖精@ャラポアも真っ青な恵まれたプロポーションを持つグラマラス美少女。

彼女らの母校「私立ワイルドウエスト高校」に「ドク・ホリディ・ファンクラブ」なる物が存在するほどの彼女は、映画「荒野の決闘」「OK牧場の決闘」「トゥーム・ストン」などで有名なワイアット・アープの親友、ドク・ホリディの子孫である。

だがこの娘、見かけによらず皮肉屋で毒舌家、さらに喧嘩っ早いと3拍子そろったじゃじゃ馬。しかし、受けた恩は必ず返さなきゃ気がすまないと言う義理堅い一面も持っている。

また、勝負になると熱くなってしまうのが玉に瑕、と言うか先祖の血のせいと言うか、無類のギャンブル好きで、しかもかなりの腕前を誇り、特にポーカーでは今や彼女にかなうものはいないとまで言われている。

サバイバルゲームでも重度の喘息持ちであることなどすっかり忘れて突撃してしまうこともしばしばで、そのたびに発作を起こしてしまう。

ちなみに、彼女の「ドク」というあだ名は、彼女の実家が医者であることからついたものである。

「そうだな。俺たちはここで何度もショーをやっているからな。建物の配置から、内部の間取りまでわかっているからな。しかし、あまり油断していると足元をすくわれるかもしれないが…」

そのように苦言を言うのは『OK牧場の血統』のリーダーである、ワイアット・アープ五世である。

一見優男風であるが鷹の目のように鋭いスカイブルーの瞳と、流れるブラウンの髪が印象的な男である。

そして彼こそ、アメリカフロンティア時代の英雄であり、多くの西部劇の主人公にもなった、ワイアット・アープの子孫、その人なのである。

性格はけっして悪くないのだが、そのドライな性格から、「冷たい男」と言う印象を受けてしまう。

しかし、几帳面でそれでいて友人思い、兄弟思いのナイスガイ。また、常に冷静で彼らの学校に在学する生徒、職員でワイアットが驚いたところ見た者は誰もいない。

唯一の例外とすれば、チームメイトのドクやバット、それと本国アメリカにいる彼の兄弟達のみであろう。

バットの大きな目的、それはこのドクとワイアットをゴールインさせる、と言うことである。

バットはドクがワイアットに好意を抱いていることを本国アメリカにいたときから知っており、ドクは大好きなワイアットを追いかけてはるばる日本にやってきたようなものである。

しかし、その肝心のワイアットのほうはと言うと、ドクの好意を気づいてはいるのだが、どう受け止めてよいか分からず、今でも友達以上恋人以下と言う微妙な関係を続けているのである。

バットは、なんとかワイアットにドクの好意を受け入れさせ、何とかゴールに導こうと必死なのである。そのためバットは、これまでいろいろと作戦を練ってきた。サバイバルゲームでワイアットとドクが二人連携して行える作戦を考えたり、大会会場近くのデートスポットを調べ上げそれをドクに教えるなど、傍から見ると涙ぐましい努力を行ってきたのである。

少し話しがずれてしまったので本題に戻ろう。彼らが来ているこの場所と言うのは、彼らのアルバイト先、「日光ウエスタン村」であったのだ。

彼らはここで、「日光ウエスタン村」最大のアトラクション、ワイルド・ウエストショーに出演しているのだ。

ワイルド・ウエストショーは、教会や噴水、酒場など西部の町並みを再現した、「日光ウエスタン村」の内部を、馬で縦横無尽に駆け抜け、OK牧場の決闘のごとく、激しい撃ち合い、派手なスタント、そしてちょっぴりのコントを含めたディズニーランドも真っ青なショーなのである。

そして、栃木予選はこの西部の町並みの中で行われるのだ。

ルールでは建物の中には入れないが、テラスや教会の鐘楼に登ることは出来るようになっている。そのため、このフィールドではスナイパーがかなりの威力を発揮する、と考えれられる。

「どうこう言っても始まらねぇだろう? さっさと、雑魚共を血祭りに上げて全国大会に出場しようぜ!」

この、ちょっと荒っぽい言葉遣いの男はカーリー・ビル―“カーリー”・ビル・ブローシアス五世。

巻き毛が特徴的な黒い髪と同じく黒い瞳を持つ、長身で細身の体つきの男である。

彼は、アメリカ最初のギャング団「カウボーイズ」の首領として名高い、映画「OK牧場の決闘」の悪役、アイク・クラントンをその配下におさめていた、カーリー・ビルの子孫なのである。

ちなみに、彼のあだ名「カーリー」とはその自慢の巻き毛から由来する。決して、@屋崎省吾から由来するものではないことをここに明記しておく。

気さくで明るい性格で、学校内でもかなり人気がある。また、彼は無類の子供好きで、休みの日などは公園で小さい子供のお守りをしたり、サッカーを教えたりしている。

しかし、いざサバイバルゲームとなると、その性格は一変。自分より弱い相手はいたぶってから倒すと言うかなりのサディストで、フリーズコールをされても油断させておいて騙まし討ちするというかなりの卑怯者である。

「しかし、ビル。戦いの中では何が起こるかわからないだろう? 油断は禁物だ」

ワイアットはそのようにビルをたしなめたが、横から別の男が発言した。

「ワイアット、ビルの言うとおりだ。俺達の目標はあくまでも全国、予選なんかで足踏みしていられないんだぜ」

彼はジョニー―ジョニー・リンゴ五世。

ブロンドの髪にグレーの瞳を持ち、長身でかなり美形なハンサムガイ。かれは、西部一の早撃ちと恐れられたリンゴ・キッド―ジョニー・リンゴの子孫である。

クールでニヒル、絵に描いたような二枚目キャラであるが、性格は冷酷非情。サバイバルゲームでは、ビルと組んで、卑怯な策を弄するかなりの策士である。しかし、その美形ゆえ女の子からはモテモテのモテお君で、常に何人かの女の子をはべらせている。

また、彼は西部劇で良く見かける「ガン・スピン」が得意で、いつも取り巻きの女の子達に見せてはいちゃついている。

そのため、ドクなどからは良く皮肉られることもしばしばで、さらにサバイバルゲームでも敵を倒した後にガン・スピンなんかやるものだか始末が悪く、そこを狙撃されるという失態を犯すこともしばしば。

「そのためにも予選が重要なんだ。予選を通れなきゃ全国にだって行きゃしないんだぜ?」

そう言って、ワイアットはジョニーに語りかけた。ジョニーも「それはそうだが…」と口をつぐんでしまう。

「おめぇら〜、そんな回りくどいこと考えるのはよそうぜ! ようは、敵を皆殺しにするか、フラッグを奪えばいい話じゃねぇか!」

と、鼻息荒くいきまいているのは、長身でごつい体つきの男、アイク―アイク・クラントン五世である。

その名も高き悪党、西部一の牛泥棒として、アープ兄弟、ドク・ホリディと血で血を洗う戦いを起こした張本人、アイク・クラントンの子孫である。

豪快で怒りっぽく単細胞な性格で、日本に来てからは「アメリカ版@ャイアン」と陰口を叩かれている。頭も決して良くは無く、学友達はなぜ日本に留学できたのか不思議がっている。

一説には、彼の父親が大農場を経営しており、その父親が裏で手を回したのではないかと言われているが、真相は定かではない。

だが、サバイバルゲームでは農場で鍛えた体が役に立ち、足を生かしてのアタッカーからディフェンダーまでをこなすマルチプレーヤーである。しかし、頭が悪いのは相変わらずで、ビルやジョニーに囮にされることもしばしば。

アイクの物言いは粗野であるが、時として的確に的を射ていていることもある。今回も、もっとも単純な意見を言った割には、ワイアットらの慎重論、ビルらの積極論を丸く治めてしまった。

「…アイク、お前たまにはいいこと言うな」

と、半ば呆れ顔でビルが言った。言われた本人のアイクはそんなビルの表情に気づかず、胸をはり、いかにも「エッヘン!」と言う顔をした。

「ともかくも、まずは俺達の控えテントに行こうぜ」

と、ここでバットが話を変えた。これ以上もつれると後々面倒になってくると考えたからである。このあたりのタイミングも悪くなかった。



◇2◇


彼らが控えテントに行くと、これまた意外な人物が彼らを待っていた。

それほど長身と言うわけではないが、がっちりとした体躯の男であった。強面で剃り込みもばっちり入った角刈りが、着ている着流しともあいまって、どう見ても堅気の人とは思えなかった。

「哲ちゃん!」

「おう! 待ちくたびれちまったぜぃ!」

と、ドクが哲ちゃんと呼び、粋な江戸弁―べらんめぇ調を喋るこの男の名は、清水哲雄(しみずてつお)。

年はワイアットらと同じ18歳。生まれも育ちも東京浅草、「火事と喧嘩は江戸の華」を地で行くちゃきちゃきの江戸っ子である。

じつは彼、日本一有名な侠客、清水次郎長の玄孫(!)に当たり、次郎長の曾孫で彼の祖父、清水謙次郎(しみず けんじろう)は東海から関東一帯を仕切る任侠集団「清水一家」の大親分なのである。

哲雄(以下、哲)はその跡取り、つまり本物のヤクザの若様なのである。

なぜ、孫の哲が跡取りなのかと言うと、健次郎には女3人、男1人の4人の子供がいる。長女は歌舞伎の世界に、長男はサラリーマン、次女は建築家の嫁に、それぞれ道に向かっていったため、婿を取った三女江万子(えまこ)の息子である哲が跡取りになったのである。

哲が成人した暁には、清水一家の家督を継ぎ、五代目清水次郎長を名乗ることになる。

そんな彼がワイアットらと親しいのにはわけがある。

去年5月、ワイアットらは東京浅草に観光に来ていた。その目的は江戸三大祭の一つである三社祭を見学するためである。

ワイアット達は初めて見る日本の巨大な神輿に圧倒されていた。そんな時、声をかけてきたのが哲であった。

『おう、おめぇら三社(三社祭)に来るのは初めてけぃ?』

『あ、はい。そうなんです』

と、急に話しかけられたワイアットは吃驚したが、ねじり巻に背中に町会名の入ったハッピを着た、見たところ三社祭に詳しそうな人だったので素直に答えた。

正直、ワイアット達は三社祭、と言うか浅草について限りなく無知であったためいろいろと話を聞きたいと思っていたのだ。

『あの、地元の方ですか?』

『おうよ! こちとら、生まれも育ちも東京浅草でぃ! 何でも聞いてくんねぇ』

なんとも威勢の言いしゃべり方にワイアット達はまたも圧倒された。彼らの学校では日本語も教えているが、さすがに江戸弁の授業は無かったのである(笑)。

この後ワイアット達は、哲の口利きで神輿も担がせてもらったり、浅草をいろいろと案内してもらったりと楽しい一日を過ごすことが出来た。

哲がワイアット達と同い年と聞いたときは彼らも驚いたが、ヤクザの若だと聞いたときはさらに吃驚した。

しかし、清水一家では銃、麻薬の密売、人身売買と言った任侠道に外れるようなことは一切やっておらず、仁義を第一に考える昔気質のヤクザなのである。

彼自身も仁義をもっとも大切にする男で、曲がったことが大嫌いな“漢”である。

その哲曰く

「そんなことに手ぇだすなんざ、ご先祖さんに申し訳がたたねぇだろうが!」

らしい。

と、それ以来、メールのやり取りなどですっかり仲良くなったのである。

ちなみに、どちらも子孫がアウトローと言うことで、ビルやジョニーとは妙に馬が合うらしい。

「ところで、哲ちゃんは何しに来たの?」

その道の人にこれだけなれなれしく聞ける人もいないであろう。ドクは躊躇無く哲に話しかけた。

哲としても同い年の“友”に敬語を話してもらうなどと考えたことも無かったのでまったく気にも留めていなかった。

「おお、そうだそうだ、バットに頼まれてたんでぃ。あいつらの情報をな」

と、哲はそう言って控えテントの外へあごをクイッと動かした。そこには、他の参加チームが同じように控えテントで作戦会議やらエアガンの整備などをやっていた。

「情報を?」

と、ワイアットが首をかしげて聞いた。

「こういう商売やってぇとな、情報つぅもんが一番ていせつ(大切)なんでぇ。だっからよ、そういう情報で喰いていくやつのことも知ってる、ってぇわけでぃ」

「つまり、哲ちゃんのところで使っている情報屋に対戦相手を調べさせたってこと?」

「っつぅわけでぃ。ついでに、全国のほかのチームのことも調べてやってるぜぃ」

と、哲は胸を張り、まかせろ!と言わんばかりにドーンと胸を叩いた。

「それで、哲さん。栃木予選で気になるチームは何かあるかい?」

と、早速バットが現在、彼らが戦うことになるであろう栃木予選大会の出場チームについて質問した。

「そうだな…気になる、っつぅのは『デスペラード』、『三国志演義』くれぇじゃねぇか」

と、哲が事前に調べてきた中で、気になるチームをあげ、説明していった。

『デスペラード』はチーム構成が『OK牧場の血統』に似て男五人、女一人と言うチームである。彼らは全員メキシコからの留学生で、生粋のメキシカンである。

基本的に戦い方も『OK牧場の血統』同様、個人の技量のみを頼りに戦うと言った感があり、ワイアット達にとっては戦術展開が分かりやすいチームと言える。

『三国志演義』は全員中国からの留学生で構成されているらしい。

高度に意思統一されたチームで、集団戦法をもっとも得意とする。また、彼らは様々な兵法に通じており、戦略・戦術をとってもかなりの用兵をすると言う情報であり、ワイアット達にとってはもっとも厄介な相手かもしれない。

「…と、まぁこんなもんでぃ。『三国志演義』はともかく、『デスペラード』とは情報が正しけりゃ、二回戦で早々と当たるかも知れねぇな」

と、哲は予想を立てた。

この栃木予選大会は、土地に恵まれているせいかかなりの数のチームが出場する。そのため、大会形式はトーナメント制で行われ、『三国志演義』はトーナメント表を見ても『OK牧場の血統』とは、双方とも勝ち進んだとしても準決勝までは当たらない。

しかし、『デスペラード』は『OK牧場の血統』の次の試合、一回戦第二試合であるため、双方が一回戦を勝てば二回戦で早々と当たるのである。

「そうか…ひとまず、この2チームは要注意、と言うことだな」

ワイアットはそう言って顎に手を当てた。

「ところで哲さん、『イクサクニヨロズ』については何か分かったかい?」

と、再びバットが質問した。この時すでに青森予選は終わり、『イクサクニヨロズ』の東北大会出場が決まっていた。

『イクサクニヨロズ』は『月刊種子島』を見ても、チーム名しか載っていない謎のチームなのである。『イクサクニヨロズ』も『OK牧場の血統』も全国大会はおろか、地区大会すら終わっておらずお互い全国へ行けるかもわかっていないが、バットはどうしても『イクサクニヨロズ』のことが気になってしょうがなかった。

「ああ、そんことなんだが…」

なぜか、哲の歯切れが悪い。

「いやな、青森にユキメっつぅ、腕利きの情報屋がいるんだが、なかなか情報を送ってこねぇんだ」

“清水哲雄&ワイアット”イメージイラスト
Mituyaさま画。

と言って、哲は青森にいるであろうユキメを罵るかのように、つばを吐き捨てた。この時、哲はユキメが『イクサクニヨロズ』と深い関係にあり、『月刊種子島』の臨時記者となっていることをまだ知らない。

「そうかぁ〜、哲さんでもわかんなかったか」

「すまねぇな、バット。情報が入り次第、おめぇらに連絡すっからよ」

本当にすまなかった、と言う風に謝る哲雄だったが、その時哲の携帯に電話が入った。ちなみに着信メロディは「五行戦隊美亜子」であった。

「ん、俺だ。…ユキメか! 情報はどうなってんだ!…うむ、ああ、そうけぃ。わかった。じゃあ、引き続き探りを入れてくんねぇ。…じゃあ、また後でな…」

「例の情報屋?」

「ああ、ユキメは特上の情報屋なんだが、そいつでもかなりめんどくせぇ(難しい)つぅことは…かなり手ごわそうだな」

皆黙り込んでしまった。まさか青森にそこまで強いやつがいたとは微塵も思っていなかったのだ。実際には、ただ単にユキメが『イクサクニヨロズ』の情報を故意に隠匿しているだけなのであるが…。

「ところで、哲さんは俺達の試合、見て行ってくれるんですか?」

と、バットが話題を変えた。

「てやんでぃ! あたぼうよ! ダチが命を懸けて、でいり(喧嘩)に行くっつぅのに、それを見ねぇとあっちゃあ、男がすたるってもんでぃ!」

「いやいや、喧嘩じゃないし、命は懸けないから…」

と、バットが苦笑しながら言った。

「ところで哲ちゃん。哲ちゃんはサバゲーやらないの? 哲ちゃんだったら全国へ行けると思うんだけど」

これはドクである。ヤクザである哲は、“その手の方面”にも熟知している。それを、サバゲーで活かせば良いのに、とドクは言っているのである。

「そうだな。悪くねぇな。ちっと考えてみっか」

哲はまんざらでもない様子で頷いた。

「哲よ、それで俺達の最初の対戦相手の情報は持ってきてくれたのか?」

と、ビルが話しかけてきた。ビルとしても初戦と言うことで、やはり気になっているようである。

「おう、忘れてたぜぃ。おめぇらの初戦の相手は『大栃木陸軍』っつぅ、チームらしい」

「『大栃木陸軍』? あの弱っちいあのチームか?」

これまで、ワイアット達は栃木の名だたるサバイバルゲームチームを撃破してきた。その中に、彼らを侮って惨敗した「大栃木陸軍」と言う名のチームがあったのをビルは思い出したのだ。

しかし、ビルの言はいささか酷と言うものであろう。たしかに、『大栃木陸軍」は『OK牧場の血統』に破れたが、技量は並みのサバイバルチームよりは遥かに優れているのだ。

余談だが、『大栃木陸軍』の栃木第二高校と東東京予選大会で『聖ガブリエル女学院高等学校サバイバルゲーム愛好会』に敗れた『大東京海軍』の東京東高校は姉妹校である。しかし、その仲は決して良いとは言えない。

「へぇ、そいつらと戦ったことがあるのけぃ? そいじゃぁ、楽なでいり(喧嘩)じゃねぇか?」

「いや、彼らとしても俺達のことを研究してきているだろう。今回は前回みたいに楽には戦えないだろう…」

と、哲の楽観論にワイアットが釘を打つ。そして、自分達のことを良く知っているチームと戦うと言うことは、ある意味手の内を知られていると言うことであり、苦戦するのは免れないだろうと考えたのだ。

「ふぅ〜ん、そういうもんかねぇ〜。まっ、いいか。そいじゃぁ、俺はおめぇらの戦いぶりを観客席で観戦するとすっか」

そう言うと哲は手を振りながら控えテントを後にした。



◇3◇


開会式のデモンストレーションも終わり、ギャラリーは試合開始を今か今かと待っていた。

しかし、それと同時に観客席の一角が異様な雰囲気をかもし出していた。 観客席のほぼ中央、絶好の観覧場所を趣味の悪いスーツや着流しを着た強面のお兄さん達が確保していたからである。

そこに、つい先ほどまでワイアットたちと話していた哲が現れると、強面のお兄さん達はいっせいに道を開け、「若!どうぞこちらへ!」と、異口同音にドスの聞いた声で哲を招きいれたのである。

そんな様子を見ていた一般のギャラリーは一部を除き、冷や汗をたらたら流しながら観客席にじっと座っていた。

「おい、大政。ちっと、やりすぎなんじゃねぇか? あいつら、恐がってるじゃねぇか」

と、哲は席に着くなり、笑いながら隣の大男に話しかけた。

「すんません、若。でも、こいつらだって若のためと思って、やったことですけぃ、勘弁してやってくだせぃ」

と、大政と呼ばれた男は強面の若衆を振り返り、哲に言った。

「そうか、すまねぇな。まぁ、堅気の連中に手ぇ出さなきゃ、俺は何も言わねぇ」

哲はそう言って、自分のために席を確保してくれた若衆に詫びた。

若衆はまたも異口同音に「滅相もねぇ! 若のためなら、たとえ火の中、水の中ですぜぃ!」と言って、胸を張った。

そうこうしているうちに、ついに「全国高等学校サバイバルゲーム選手権栃木予選会場」がスタートした。

一回戦第一試合は、ワイアットらの『OK牧場の血統』対『大栃木陸軍』の試合であった。

最初に、タイガーゲートから『大栃木陸軍』の面々が、行進しながらある歌を歌い、登場してきた。

『貴様と俺〜と〜は、同期の桜〜♪ 同じ航空隊の〜、庭に咲く〜♪』

ギャラリーの一部、ミリタリーファンから歓声上がった。

『大栃木陸軍』が歌っているのは軍歌『同期の桜』である。この歌は神風特攻隊に行く同期を思う、兵士の歌である。

いくらサバイバルとは言え、軍歌を流すのはいかがなものか、と大会本部役員が苦言を呈したのであるが、『大栃木陸軍』は、これは歌手鶴@浩二が歌っている歌だからいいんだ!と言う理由で強引に認めさせたのである。鶴@浩二さんにとっては至極、迷惑な話であるが。

このあたりの強欲さと言うか非常識さが姉妹校、東京東高校と折り合いが悪いゆえんでもある。

『咲いた花な〜ら、散〜るの〜は覚悟〜♪ み〜ごと散〜り〜ま〜しょう、国〜の〜た〜め〜♪』

一番が歌い終わると、『大栃木陸軍』の面々は行進をやめ、整列した。『大栃木陸軍』はその名称のとおり、旧日本陸軍の装備で固めていた。

三八式歩兵銃、九九式短小銃、九九式軽機関銃、八九式擲弾筒、南部十四年式拳銃―かなり細部までこだわっている。

そして、彼らの衣装は一般兵のものではなく、将官、左官の将校服を着込んでいた。

ギャラリーのミリタリーファン達は、一斉にカメラのシャッターを切り、『大栃木陸軍』の面々も思い思いのポーズを取りミリタリーファン達の期待にこたえた。

「「「「「「鬼畜米帝!鬼畜英帝!やつらはことごとく我ら皇軍の前にひれ伏すであろう!」」」」」」

と、『大栃木陸軍』の面々は異口同音に叫んだ。

「そうだ! アメリカを倒せ!」

「欲しがりません、勝つまでは!(?)」

と、ギャラリーのミリタリーファン達もつられて歓声を上げた。

「ふん!あいつらそのまま戦争映画に出れるぜ」

と、ステージ脇からビルが『大栃木陸軍』の面々を皮肉った。

「ほんとね。あいつら出るところ間違えてんじゃない?」

と、ドクがビルへの相槌は辛辣を極めた。

「おい、そろそろ俺達の番だぞ。準備しろ」

ここでワイアットが二人の会話をさえぎった。

ついに、『OK牧場の血統』出陣の時である。

しかも、その登場方法は他の者の予想をはるかに覆すものであった。

ファファーン♪ ジャンジャン♪ ファンファファファファ、ファーン♪ ジャンジャン♪ ジャンジャジャン♪

まるで、必殺仕事人のようなトランペットとギターによる、いかにもこれから決闘が起こる、と言ったような音楽が流れた。しかしその後、

ジャンジャージャジャン、ジャンジャジャジャジャン♪ ジャンジャージャジャン、ジャンジャジャジャジャン♪ ジャンジャージャジャン、ジャンジャジャジャジャン♪ ジャンジャージャジャン、ジャンジャジャジャジャン♪ チャラ〜、チャラチャ〜ラ〜♪ チ、チャラチャ〜ラ〜♪

そう、これこそ西部劇の最高峰として名高い「荒野の七人」のメインテーマなのである。

そして、ドラゴンゲートより、ギターと笛による軽やかな音楽に乗って、ワイアットら『OK牧場の血統』がなんと!馬で駆けながら登場したのである。

この演出にギャラリーから歓声が沸き、さながら西部劇を実際に見ているような感覚に陥った。

彼らにとって、ここ「日光ウエスタン村」のワイルド・ウエストショーで馬を乗りこなしているだけあって、その乗り方も映画俳優張りにとても格好良いものであった。

余談ではあるが、今回ワイアットはハイヨーシルバーではなく、ジョージーと言う馬に乗っている。ハイヨーシルバ―はワイアットの代わりにドクが乗っているのであるが、ドクは落馬せず普通に乗っている。ワイアットはハイヨーシルバーとどういうわけか相性が悪く、いつも落馬してばかりいるのだ。

「俺が地獄へ送ってやるぜ」

と、颯爽と馬から下りつつ、かっこよく、愛銃バントラインスペシャルを構えてポーズをとった。隣にいたドクもそれに習って、自慢の金髪をなびかせて馬から下りた。

ちなみに、ワイアットはジョニーほどではないが容姿はかなり良いほうで、ギャラリーの女の子達からは

「きゃ〜!ワイアット様〜!」

「その銃で私のハートを撃ち抜いて〜!」

と言った黄色い声援が飛んでいた。そのような中、ドクは眉を吊り上げワイアットの足をヒールの高いウエスタンブーツで思いっきり踏み潰した。

「いってー! なにすんだ、ドク!」

「ふん!」

どうやらドクは、自分以外の女がワイアットに好意を送ることが気に入らないらしい。

(ワイアットは絶対、渡さないんだから!)

と、ドクは心の中でギャラリーの女の子達に毒づき、想いっきり眼を飛ばした。しかし…

「ケイトちゃ〜ん!」

「か〜っこいい〜」

「○×□▽(以下、自粛)」

と、「ドク・ホリディファンクラブ」だけでなく一般のギャラリーからも声援を送られ、自分のことを棚にあげて手を振って声援にこたえた。

「ジョニー! ジョニー! ジョニー! ワ〜!!」

と、今度は観客席にいるジョニーファンクラブの女の子達がチアダンスでジョニーに声援を送っている。

ジョニーもそれに答えて、かっこよくガン・スピンをするとその声援は一層激しくなった。

バット、ビル、アイクも馬から下りるとポーズを取り、『OK牧場の血統』への声援はさらに激しさを増した。

ギャラリーには多くの映画ファンもいたようで、彼らの登場シーンを一部始終ビデオに録画している者もいた。

登場で明らかに負けた『大栃木陸軍』は苦虫を噛み潰したような顔をしてワイアットたちを見やった。

「久しぶりだな」

馬から下りたワイアットは開口一番、彼らに言った。

「ああ、今度はこの間のようには行かないぞ」

と、『大栃木陸軍』のリーダー、南條英機(なんじょう ひでき)が答えた。

「へっへっへ、今度もあっという間にやっつけてやるぜ!」

と、アイクが大言壮語を吐いた。『大栃木陸軍』の面々は一様に肩をすくめた。

「ふっ、それはどうかな」

南條は余裕綽々といった風に答えた。他の面々も同じような表情をした。

そしてお互い、それ以上やりあうことは無く、それぞれの陣地へと向かった。



◇4◇


栃木県予選会場

『OK牧場の血統』の陣地は教会の入り口前である。鐘楼に登ればフィールドのほぼすべてを見渡せるため、狙撃にはもってこいの場所であった。また、このフィールドにはいくつかバリケードが置かれているが、森とは違い道の上からでもかなりの範囲を見渡せる。

ちなみに、『大栃木陸軍』は給水塔の下で、こちらもほぼ教会の鐘楼と同じ高さの、給水塔の上に登り、狙撃することも出来る。

バットは自分達の陣地に着くと開口一番、発言した。

「みんな、聞いてくれ。このフィールドと双方の装備を考えると、俺たちがやられて一番嫌な作戦は何だと思う?」

バットのみんなへの質問に最初に答えたのはドクである。

「前回、やつらと戦った時は森だったわよね? その時、やつらは私達を見くびって、塹壕戦を挑んできたわね」

と、ドクは前回の戦いを思い出しながら話した。

以前、彼らが『大栃木陸軍』と戦った時、『大栃木陸軍』は『OK牧場の血統』の主装備がシングルアクションリボルバーとレバーアクションライフルと言うこととワイアット達の技量を過小評価して、火力にものを言わせた塹壕戦で挑んできたのである。

その結果がどうなったかは前記したとおり、『大栃木陸軍』の敗北に終わった。逆にワイアット達『OK牧場の血統』は非撃墜数0と圧勝したのである。

『大栃木陸軍』は300発同時発射可能のグレネード弾を発射できる擲弾筒を持っていたにもかかわらず、火力に劣る『OK牧場の血統』に負けた。

なぜか?

それは至極簡単である。

塹壕戦を行う場合、火力は確かに強力であるが、機動力は0と言ってよいほどない。

それに対しワイアット達は、バット、ビル、アイクが火力の一点集中によって『大栃木陸軍』の動きをけん制し、俊足のドク、ジョニーに両側面を攻撃させたのだ。

浮き足立った『大栃木陸軍』はドクとジョニーに次々と撃墜され、二人の攻撃を避けようと身を起こそうとしたところを遠距離からワイアットに狙撃され、全滅したのである。

ワイアット達は図らずも、用兵の大原則である兵力の集中と機動性の両点を完璧に実践したわけである。

「そう。ただ単に火力で優位に立っているだけでは我々に勝てないとわかった。つまり…」

バットの次の言葉を、ワイアットもいつも騒がしくしているアイクも固唾を呑んで待っている。

「つまり、火力に物を言わせて中央突破を図られると一番やりにくい。彼らの火力にスピードまで加わったら、さすがにシングルアクションリボルバーとレバーアクションライフルじゃ対処できない」

と、バットは予想を立てた。火力の集中と機動性、この2点で優位に立てられると『OK牧場の血統』にとってはただでさえ火力で負けているのにさらに差が開くことになる。『大栃木陸軍』もそれに気がついているはずだ、とバットは言うのである。

「たしか彼らは装備の内訳は、九九式短小銃を持ったのが二人、八九式擲弾筒を持ったのが二人、恐らくこの4人が突撃を担当するだろう。そして、九九式軽機関銃を持ったやつが間接支援、三八式歩兵銃を持ったやつが狙撃、と役割分担だろう」

皆、バットの話をじっと聞き入っていた。

『OK牧場の血統』は他のサバゲーチームと少し変わっていて、メンバー全員が作戦参謀的な役割を持っている。

これは、彼らが全員で討論し、その中で最も良い案を多数決で決めると言う、アメリカらしい民主的な考え方を皆持っているからである。

その中で、バットは参謀長的な役を任じている。彼はその温厚な性格、知識の豊富さから「私立ワイルドウエスト高校」の生徒会長に選ばれ、立派にかなりの重責を担う生徒会長を二年、務めている。

そのため、会議の議事運営などはお手の物で、『OK牧場の血統』でもその手腕を活かしているのである。

ややあってジョニーが口を開いた。

「…だろう、な。確かに俺達の装備じゃ、突撃されると厳しいな。それに、突撃してくるやつを倒そうにもマシンガンによる援護と狙撃をされると手も足も出ないな」

そう言ってジョニーはうなった。

「問題は、どうやって敵の突撃をかわしつつ、フラッグを守るか、だが…」

と、ワイアットが言った。『大栃木陸軍』の突撃をもろに受ければひとたまりもなく、あっという間に蹂躙されるであろう。また、うまく突撃をかわしたとしても、今度はフラッグを奪われてしまう。

『OK牧場の血統』にとってはもっともいやな展開だった。

「だったら、俺たちが先にフラッグを取ったらいいんじゃねぇか?」

と、ここまで沈黙を守っていたアイクが発言した。

普段、アイクは作戦にはほとんど関与しないので、皆驚いたようにアイクを見つめた。そしてアイクの作戦は『OK牧場の血統』を勝利に導く一筋の方向を示すものであった。

「アイク! お前たまにはいいこと言うな!」

と、ビルが顔を破顔させて言った。

「うん! いい作戦だよ。敵が中央突破に来るのであれば我々はその脇から急進して速攻でフラッグを奪えばいいんだ。そうか、なるほど!」

バットは意外な作戦に驚いたが、すぐにその有効性を認めた。

「これは迅速をもって第一にしなくてはならないだろう。フラッグを奪うのは俺とドクに任せろ。ワイアットは敵のスナイパーと援護の機関銃のやつを殺れ。ビル、バット、アイクは敵の突撃を抑えてくれ。だが、無理をする必要は無い。あくまでも突撃を遅延させればいい」

と、ジョニーも頭の中で編成を組み立て、早口で説明して言った。その説明に皆納得し、戦いに向かう戦士と言った獰猛な笑みを浮かべた。

「じゃあジョニー。私とあんた、どっちが先にフラッグを取るか賭けない?」

先祖の遺伝子はちゃんとドクにも遺伝していた。ドクは勝負事になるとなんでも賭け事へ持っていこうとする悪い癖があるのだ。

「いいぜ。まっ、どうせ俺が勝つがな」

「あら、それはどうかしらね」

と、それぞれ相手へ対抗意識を燃やした。『OK牧場の血統』が強いのはひとえにこの二人が、お互いの対抗意識からおびただしい戦果を上げることにある。

「よし! じゃあこの作戦で依存は無いな!」

と、ワイアットが皆を鼓舞するかのように言った。一秒の間もおかず皆「yeah!」とそれぞれの銃を掲げて、自分自身を鼓舞するように叫んだ。

「よし! じゃあいくぞ! Follow me!!」

ワイアットの号令に皆それぞれの配置へと走っていった。

同じころ、『大栃木陸軍』の面々も同じように配置についた。



◇5◇


試合の展開はバットが予想したとおり、『大栃木陸軍』の突撃で始まった。

「全軍、突撃―!」

突撃部隊はリーダーの南條が自ら率い、無田口廉也(むだぐち れんや)、岩村均(いわむら ひとし)、安達二三(あだち ふたぞう)の4人である。

そして、突撃部隊の間接支援である九九式軽機関銃を装備する山上奉文(やまがみ ともゆき)が彼らに続く。

突撃部隊は、巨大なL字状のフィールドを全速力で駆けていた。そして、何の抵抗も受けずにL字の頂点、丁度『大栃木陸軍』と『OK牧場の血統』との陣地の中間点にある噴水までたどり着いていた。

「よし、今だ! FIRE!」

バットの号令にビル、アイクの守備隊が反撃に出た。彼らは噴水の左右、保安官事務所と電信所の陰に潜んでいたのだ。

「いかん! 全員、一旦後退し、バリケードに隠れるんだ!」

南條は左右からの攻撃に危機を覚え、フィールドのいたるところに設置されている馬車や樽を模したバリケードに隠れるように指示した。

彼自身、『OK牧場の血統』の面々の射撃技術を一目も二目もおいていたのである。

マシンガンではないので、散発的な射撃であったがその狙いは正確で、突撃部隊の一人、岩村にBB弾が命中した。

「しまった! …ヒットだ」

岩村は自分を撃墜した男の射撃の腕に忌々しさを感じながら、それを表に出さずセーフティーゾーンへと向かっていった。

岩村を撃墜したのはビルであった。マシンガンほどではないにしても、一丁ずつハンマーをはじくように撃つ―ファニングで連射し、岩村を撃墜したのである。

「まずは一人だな」

真っ先に、撃墜したのが自分とあってビルは得意げであった。しかし、自己陶酔に浸る時間は長くは与えられなかった。『大栃木陸軍』は突撃を断念していたが、バリケードから散発的に銃撃を加えてくるため、なかなか反撃の機会を与えられなかったのだ。

また、噴水の陰から九九式軽機関銃で援護射撃してくる山上の存在があった。

彼は、ビル達が隠れている保安官事務所と電信所に、南條達と呼応して猛烈な射撃を加えていたのだ。

九九式軽機関銃はもともと、M60やM249MINIMIのように後方からの援護射撃のために開発された軽機関銃である。

そのため、連射力、射程距離、命中率とも戦車などに搭載されている重機関銃に順ずる性能を有している。

それはエアガンとなっても同様で、九九式短小銃、またビルたちのコルトSAA、ウインチェスターの射程外から猛烈な連射が出来るのである。

この連係プレイにより、ビル達は効果的な反撃できず、もっぱら腕だけを建物の陰から出して、あてずっぽうに射撃するしか出来なくなっていた。

それでも、一応の足止めになっていたらしいが、『大栃木陸軍』の突撃が再開されるのも時間の問題と言えた。

予選試合経過1

(くそ! ワイアット、早くやつを黙らせてくれ!)

と、鐘楼にいるであろうワイアットに心の中で罵った。

戦いは双方の思惑とはまったく違ったほうに向かっていた。

『大栃木陸軍』としては火力に物を言わせた突撃により、『OK牧場の血統』のフラッグを速攻で奪取する作戦であったが、これはビル、バット、アイクの攻撃により頓挫し、『OK牧場の血統』の作戦も、『大栃木陸軍』の突撃を抑えたところまでは成功したが、予想に反し、九九式軽機関銃による援護射撃により、フラッグ奪取のため両翼に待機しているドク、ジョニーはタイミングをつかめずにいた。

そしてワイアットはと言うと…

「ちっ! 辻木め! 腕を上げたな!」

と、『大栃木陸軍』スナイパーである辻木政信(つじき まさのぶ)をなじった。

当初、辻木はこれ見よがしに給水塔に登り、狙撃する構えを見せた。これを見たワイアットも教会の鐘楼に登り同じく狙撃する態勢を整えた。

教会の鐘楼と給水塔は直線距離で150メートルほどあるので、カスタムしたエアガンであっても双方とも射程距離外である。

ワイアットは自分が狙撃される危険が無いことを確認して、悠々と突撃部隊や援護の山上を狙撃しようと考えていた。

しかし、辻木はワイアットが鐘楼に登るのを見ると、自らは見つからないように給水塔を降り、フィールドのほぼ中央、噴水の後ろにある酒場からワイアットを狙撃していたのである。

距離は50メートル弱。ワイアットには及ばないものの、並以上の射撃技術と、違法ぎりぎりの極限までカスタムされた三八式歩兵銃を持つ彼にとっては難しいが命中できない距離ではない。

これまで、ワイアットの至近まで来たBB弾は少ないが、ワイアットの動きを抑え込むには十分であった。

「このままではまずい…。何とかやつの注意を反らさなければ…」

ワイアットは鐘楼に身を隠しながら呟いた。この時、最前線である噴水周辺で新たな動きがあった。

「このままでは当初予定していた中央突破戦法ができん…無田口君、君はどう思う?」

と、リーダーの南條がメガネをかけなおすと無田口に意見を求めた。

「はい、現在全戦域にわたり完全なこう着状態です。敵の狙撃手は辻木が抑えていますが、同様に辻木もこちらへの援護にまで手が回りません。さらにこちらは一人少なく、このままこう着状態が続けば時間切れで我が方の負けとなってしまいます」

と、無田口は現在の状況を解説した。このサバイバルゲーム大会は試合を円滑に進めるため、一試合15分と言う時間制限を設けている。

制限時間終了時点でフラッグの奪取、及びどちらかのチームの全滅がなく、勝負がつかなかった場合は、残存兵数で勝負が決まる。

現在まで、一人を撃墜された『大栃木陸軍』はこのまま時間切れとなれば、その時点で負けが決定してしまうのだ。

「うむ…ここはもう一度戦局を挽回するために攻勢に出ればなるまい。そこで私が考えた作戦だが…」

と、南條は自分が考えた作戦案を無田口、安達に説明した。無田口も安達もその案に賛成し、援護の山上、狙撃の辻木にもハンドシグナルでその旨を知らせた。

「よし! では作戦名『インパール』を開始する!」

南條が宣言するとすぐさま作戦は実行された。

まず、九九式小銃を持つ南條と無田口、そして九九式軽機関銃の山上が相次いでバット、ビル、アイクが立てこもる保安官事務所と電信所に連続して攻撃を開始した。

「やつら、また派手に撃ってきやがったぜ!」

と、ビルがバットに話しかけた。ビルもバットも、そして電信所の陰に潜んでいるアイクも『大栃木陸軍』の猛烈な弾幕のため建物の陰から出ることが出来ずひたすら耐えるしかなかった。

「ああ、次のリロードの時が勝負だ」

バットはそう結論付けた。『大栃木陸軍』は間をおかずに弾切れを起こすだろう、そこを狙って今度が自分達が攻勢に出ようと考えたのだ。

そのことをビルとアイクにも伝えその時をひたすら待った。

その瞬間はすぐに訪れた。『大栃木陸軍』は弾切れを起こし、再装填のため銃撃が一時的ながら止まった。

「今だ! 行くぞ!」

バットはこの瞬間を待っていたように、一気に飛び出し瞬時に間合いをつめていった。ビルもアイクもそれに習う。

だが、彼らはある伏兵の存在を失念していた。

バシュー!

突如、噴水の裏から白いガスが勢い良く噴射されると、何百発のBB弾がバットたちに降り注いでいた。

そう、『大栃木陸軍』はここまで温存していた八九式擲弾筒をここに来て使用したのである。

当初、『大栃木陸軍』は岩村と安達の両名が八九式擲弾筒を装備していた。そして、突撃の際九九式軽機関銃の山上と共に後方から『OK牧場の血統』の上にBB弾を雨霰の様に降り注ぎ、一気に決着をつけようとしていた。

しかし、その作戦を実行する前にバットたちの奇襲を受け、八九式擲弾筒を持つ岩村が撃墜されその火力が減殺されてしまった。

そのため、南條は残り一つの八九式擲弾筒を温存し、自分達の弾切れに付け込み攻勢に出てきた『OK牧場の血統』を砲撃させたのだ。

人間は車と同様に、速度が乗っているときは急には止まれない。危険に気づいたときにはもう遅かった。発射されたBB弾は容赦なくバットたちに降り注いだ。

予選試合経過2

「くそっ! …ヒットだ」

「Snobbish(げす野郎)!」

「! くそ〜! ヒットだ〜!」

あっという間だった。観客席からはバット、ビル、アイクはちょうどBB弾が降り注ぐ中に自ら突っ込んでいったように見えた。

これで『OK牧場の血統』は一気に戦力がダウンした。

ただダウンしたのではない。火力の面においてBB弾を散弾状に複数発発射できるバットのダブルバレルショットガン、かなりの連射力を誇るアイクのウインチェスターM73、この双方を同時に失ったことは『OK牧場の血統』は火力の面でさらに『大栃木陸軍』との差を広げられたことになる。

(俺としたことが…擲弾筒のやつを忘れていたとは。焼きが回ったとはこういうことを言うのかな…)

バットはそう心の中で呟いた。ビルもアイクも自分のうかつさに恥じ入り、怒りがこみ上げてきた。しかし、撃墜されその吐き気口もなく、彼らは不満が残る中フィールドを後にした。

その様子を見ていたドクは危機感を感じ、急いで教会の下に戻ってきた。

「ワイアット、どう?」

と、ドクが聞いてきた。

「まずいな。噴水の向こうの酒場にスナイパーがいる。腕は中の上程度だが、おかげでこっちは銃を構える隙もない」

と、ワイアットは答えた。『大栃木陸軍』の面々からはかなり離れているので、やや低い声で喋れば相手に聞かれることは無かった。

「それにバットたちがやられた。このままだと中央突破を許すことになる…」

ワイアットは歯噛みしつつ呟いた。

「わかったわ。私が囮になる。その隙に、ワイアットは敵のスナイパーを撃墜して」

「待て! 危険だ!噴水周辺は完全にやつらに制圧されている! その中をどうやっていくと言うんだ!」

ワイアットはドクを囮にすることを潔としなかった。もともと、誰かを犠牲にして自分だけが助かる、と言う発想はワイアットには無く、逆に忌避すべき発想だった。それがドクとあればなおさらだ。

「でも、このままじゃ座して待っていたら敵に突撃する時間を与えてしまうわ! 時間がないのよ! まかせて! 私はこれでもチーム一の俊足よ!」

ドクは任せて! と言わんばかりに胸を張った。ワイアットはなおも引き止めようとしたが、ドクの意志は固かった。

「…わかった。気をつけろ、俺が後ろから守ってやる」

ワイアットはついに折れ、ドクの囮役を認めた。

「ええ、わかってるわ。じゃあ、行ってくるね」

ドクはいつもの冷笑ではなく、心の底からの笑みを浮かべた。そして、丁度教会の向かい側の建物の脇に待機しているジョニーに、たった今のことをハンドシグナルで知らせた。

ジョニーは頷いて「了解」の意を表した。

第一試合は第二の展開を迎えた。



◇6◇


同じころ、観客席で双方の試合を見守っていた哲はワイアット達の意外な苦戦に驚いた。

「驚いたな。ワイアット達が押されてやがる…」

う〜む、といった表情で哲は自分の頭をなでた。

「確かに。このまんまだと、ワイアットさん達、敵に突破されやすよ」

と、大政は相槌を打った。

「こっから見てるだけだとヤキモキしていけねぇなぁ」

待つのが嫌いな哲はだいぶ苛立っていた。だが、この膠着は思いもかけない形で終止符を打つ。

「若! ドクの嬢さんが突撃しやすぜ!」

若衆の一人がそう叫んだ。哲は急いでフィールドに目を移した。『大栃木陸軍』が猛烈な射撃をたった一人の女に浴びせていた。

バシュ! バシュ! バシュ!

ドクは愛銃コルトSAAシビリアンをファニングで連射しながらBB弾が飛び交う中、臆せず突撃していった。

「弾丸は勇者を避けて通る」古来より、勇者を賞賛するために使われた言葉であるが、今のドクにはこの言葉が良く当てはまった。

ドクはBB弾が飛び交う中を一発も当てられることなく、噴水を飛び越えていった。

唖然とその姿を見送っていた『大栃木陸軍』であったが、はじかれるように再び射撃を開始した。

ドクの武運もここで尽きた。

ドクは背中から何百発と言うBB弾を受け、正面から正確極まりない射撃を同時に受けたが、最後まであきらめず、体をひねり、神業とも思える連続的な射撃を正面と背後に放った。

正面にいたスナイパーの辻木はすぐにバリケードに隠れ難を逃れたが、バリケードを背にしてドクを狙った安達は丁度心臓のところに吸い込まれるようにBB弾が命中した。

そしてドクは、ここまで全速で走り回ったため持病である喘息の発作に見舞われた。一発はなんとか避けることができたが、一発を胸に受けてしまった。

「くっ! ヒットだ」

「ぐっは! ゴホッ、ゴホッ…発作が」

安達はドクに一瞥を投げたが、すぐにセーフティーゾーンへ向かった。だが、ドクは喘息の発作が続き、その場にうずくまったままだった。

「ドクー! …おのれぇ、きさまらー!」

ドクがその身を挺して作った一瞬の隙を、ワイアットは見逃さなかった。ワイアットは鐘楼から身を起こすと、ボルトを引いて次弾を装填しようとしている辻木に怒りをこめて狙撃した。

バシュン!

「! …ヒットだ」

50メートル強と言う遠距離からわずか一発で、ワイアットは命中させた。さらに、今だ状況がつかめていない山上を立て続けに撃墜したのである。

「今だ!」

ジョニーはこの瞬間を待っていたように一気に噴水を抜けようとした。

それに気づいた南條と無田口はとっさにジョニーを撃とうとしたが、ワイアットの正確極まりない狙撃に行動を封じられ、ジョニーの突破を許してしまった。

『大栃木陸軍』はメンバー全員を攻撃に使っているため、陣地の守備は皆無である。そして、ジョニーは悠々と『大栃木陸軍』のフラッグを奪取した。

予選試合経過3

ピーッ!

フィールドに試合終了を示す笛が鳴らされた。結果は『OK牧場の血統』の勝利。観客席は沸きかえった。そして哲も―。

「よっしゃー! 勝ったー!」

哲は拳を振り上げ、まるで自分のことのように喜んだ。若衆も皆大喜びし、すでに祝い酒の用意までしてあった。

「しかし、若。まだ予選は始まったばかりですぜぃ?」

と、大政は一応哲に注意を喚起した。哲も「そうだった」と相槌を打った。

(ワイアット、ドク、まだ戦は始まったばかりだぜぃ。つれぇだろうが、がんばれ!)

哲は心の中で、フィールドにいる友に語りかけた…。

「ドク、大丈夫か?」

ワイアットはドクを抱き起こしながら言った。

「ええ、ちょっと無茶しちゃった。でも大丈夫よ。少し休めば、また次の試合に出れるわ」

と、ドクは茶目っけたっぷりに答えた。だがその額には脂汗がにじみ出ていた。

「無茶をするな。俺達はチームなんだ。お前一人の体じゃないんだぞ」

と、ワイアットはやさしくドクを諭した。

「あら? それって心配してくれてるの?」

ドクは半分からかうように笑いながら言った。

「そ、そんなんじゃないぞ! お前がいないと全国に行けないと思ったからだ!」

ワイアットはやや赤面しながら語調を荒めて言った。

「自分の気持ちに素直にならなくてはいけませんなぁ、ワイアットさん?」

と、今度はビルがワイアットをからかいはじめた。

「ビル!」

ワイアットは慌てて言い返したが、ビルはすでに控えテントの方に向かっていた。

「あいつ…」

と、ワイアットはやや忌々しげにビルの後姿を睨んでいた。

「おい、ドク。賭けの件だが…」

と、今度はジョニーがドクに話しかけた。

「あ、そんな物もあったわね。で、なにがほしい?」

と、ドクはそれほど悔しそうでなく答えた。

「そのことなんだが、今の試合でお前が一番目立っていたから俺がフラッグを奪った劇的瞬間が霞んじまった。だからこの賭けはドローってことにしといてやる」

ジョニーは発作が起こったドクに気遣う風に言った。普段のドクなら「私を見くびらないでよ!」と怒鳴るところであったが、意外にもジョニーに礼を言い、ジョニーは予想がはずれ吃驚した。

「だが、次はちゃんと払ってもらうからな」

「あら、次こそは私のほうがいただくわ」

と、いつものパターンとなり、ジョニーも言葉とは裏腹に安堵していた。

彼らが控えテントに戻ると、すでに哲が来ており、勝利したワイアット達を祝してくれた。

だが、すぐさま次の試合の観戦のためにワイアット達『OK牧場の血統』と哲は観客席へと歩いて行った。

同じころ負けた『大栃木陸軍』の控えテントでは異様な殺気が漂っていた。

「おのれ…『OK牧場の血統』」めぇ」

リーダーの南條は忌々しげに呟いた。

「くそ…あの女さえ居なければ俺達は勝っていたのに…」

その声は、低く、不気味に響き、目には黒い炎が吹き上げているようにも見えた。

「あの女さえ居なければ…」



現在の撃墜数

ワイアット:2
ドク:1
バット:0
ビル:1
ジョニー:0
アイク:0


次回予告

「ついに始まった、栃木予選。初戦を辛勝とはいえ勝つことが出来たワイアット達は、次の対戦に向け、意気揚々!
だが、そんな彼らの前に立ちふさがったのは、「復讐」という曲を奏でる悲しき男達。
しかし! 決戦を目の前に『OK牧場の血統』に予期せぬ危機が訪れる!
次回、天国なんて待たせておけ!明日よりも友を選んだ男(+女一人)たち第三話『レジェンド・オブ・トチギ』

歴史が終わり、伝説が始まる…」


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