投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

オフ会に行こう!


「厳島に行こう!(後編)」

◇午後12時◇


私と靖也君は、驚きを通り越してあきれ果てていた。

いや、確かにそういう訓練をされているということは聞いたことあるけどさ。

現在、私たちは厳島のとある店の前にいる。

そこで私と靖也君を除いたメンバーで、アリサさんが持っている殻を見る限り、牡蠣を食べていたところらしい。

だが今現在、呆然としているらしく、それに口をつける者はいない。

そして目の前に倒れているのは、二人のメン・イン・ブラック。

その手に持っていたはずの小口径の銃は、今は晶さんの手の中だ。

一人は、まるでSMクラブもM男よろしく、不思議な縛り方で拘束され、もう一人は手首を噛まれたらしく手首に出血があり、だがそれに気づくことなく、顔への引っかき傷でうめいていた。

そんな男の足元で、胸を張っているように見えるのは、私たちと一緒に来た猫、弓月宏(ゆみづき ひろし)と晶さんと一緒に来た犬、タイガーの二匹であった。


改めて自己紹介をしておこう。

私の名前は森嶋久美。ごく普通の一般人である。

はいそこ、鼻で笑った奴。後で折檻ね。

本来なら、鷹木先生主催のオフ会となるはずだったのに、何故かついでにルグリア王国女王『ピカの孫』ことアリサさんの護衛をすることとなってしまったのだ。

そして、アリサさんを狙っていると思い込み、ヤーさんと戦ったりしたけど、それは誤解だった。

……で、今現在このような状況になっているのだが……何がどうなってるのよ?

「……えーと、この状況は如何ほどに?」

私も混乱しているらしく、言葉遣いが何か変だ。

一般人である鷹木先生とその友人であるスケさん、恋人の長倉さん、そしてその長倉さんの友人であるまささんは混乱しててもまあ仕方ないかな?

格闘王さんは、そんな四人とは違って結構冷静に見える。

私と同じでトラブルにでも巻き込まれやすいのかなぁ?

まあ予想通りだけど、暗殺者が来ることを予期できるアリサさんと、自称『全てを汁物味噌汁化計画の会』会長の晶さんは、その目に生気が宿っている。

……てーか、『全てを汁物味噌汁化計画の会』って何?

「俺とタイガー君、それに宏君が倒したんダスよ。えっへん」

それに合わせて、宏も胸を張って威張るのだが、猫の背骨がまっすぐという図も滑稽ね。

タイガーは、晶さんが原因か、それとも宏が原因かは知らないけど、大きなため息をついたように見える。

まあ気持ちはわからないでもないけど。

「でも事実じゃよ。まさか、犬と猫に助けられるとは思わんが」

……ふぅ、一応宏に言っておいた甲斐はあったか。

これでアリサさんが殺されてたら、本来依頼を頼まれていた父さんの面目が立たないし。

私はほっと胸を撫で下ろす。

「晶さん。今回も助けてくださって、ありがとうございます」

「気にしたら負けダス。困っている人がいるなら、助けるのが義を重んじる者の務めダスから」

「は、はぁ……」

「俺とタイガー君のペアは、黄金タッグダスから、泥舟に乗った気で構えるダスよ」

……つまり、油断はするなってこと?

まあ確かに、一人と一匹だけじゃ何も出来る気はしないだろうし。

もしかして暗に、もうアリサさんから目を逸らさないようにしろ、って言ってるのかな?

……っと、晶さんで思い出した。

「そういえば……」

「『清水一家』の件ダスな? その話は、大鳥さんが来てからダス。お、噂をすればダス」

大鳥さんは相変わらず優雅に……って、後ろについてきてるのってあの噂の『清水一家』!?

先ほど、私と靖也君とで部下を総なめにしてきたこともあり、私たち二人は思わず目を逸らしてしまう。

な、な、な、何で大鳥さんが『清水一家』と仲良しこよしな訳!?

とか思っていたのだけど、私たち以上に驚く顔がなんと三つも存在した。

「え……!?」

「哲っちゃん!?」

「なぜ貴方がここに?」

鷹木先生、スケさん、長倉さんの三人が揃って声をあげた。

それに対して、哲っちゃんと呼ばれた『清水一家』の若は、ばつが悪そうにして視線を逸らし、頬を人差し指で掻く。

その口から漏れるのは、乾いた笑い。

……知り合いなのかな?

「みずえちゃ〜ん。久しぶり〜」

「お蝶! 奇遇じゃん」

……えーと、ちょっと頭の中で整理してみよう。

まず私たちのオフ会で、鷹木先生とスケさんや私たちといったメンバーが揃ったでしょ。

それで晶さんを追って、『清水一家』がここにやってきた。

で、私が『清水一家』と戦ったはいいけど、『清水一家』は鷹木先生たちと知り合いだった。

……何、この偶然?

某漫画で、偶然なんてこの世に存在はせず、全ては必然で成り立っている、とかいう言葉があった。

つまり……この邂逅は必然?

だとすれば多分、この邂逅を成し遂げた人は……。

と、思い至り、私は晶さんと大鳥さんの方に視線を移した。

晶さんは相変わらずの様子で、私の視線を感じたと同時に「いやぁ、褒めるなダス」とか呟いている。

褒めてねぇって。

大鳥さんも相変わらずで、優雅に微笑んでいる。

……なんか、謎の人物が一人増えたよー。

とか思っているとき、大鳥さんは唐突に手をぱんぱんと叩いて注目を浴びる。

一部、意識がどっかに飛んでいた人もいたのだけど、その音により意識は取り戻したようだ。

「皆さんに言わなければならないこともありますので、場所を変えます。ご不満の方もおられるかと存じますが、命が惜しいのであればついてきてください」

……なんか大鳥さん、さりげなく恐ろしいこと言ってる。

とはいえ、彼女の言うことは事実だ。

アリサさんという爆弾を抱えているのに、そのことを知らないオフ会一同。

もし何も知らないままに人質にでも取られたら、たまったものじゃないからだ。

何もなければ、私だって話す気はなかったけど、こんな状況じゃあ話さざるを得ないだろう。

先ほど捕らえたメン・イン・ブラックだって生きているし、連れて行ったところで足手まといにしかならないのは必然。

つまり私たちの情報が漏れるのは仕方のないことなのだ。

大鳥さんはそれを恐れて、私たちを匿おうというのか……。

ともあれ、目の前で見せ付けられた事実故に、オフ会メンバー+『清水一家』の総計十三人という大所帯は、大鳥さんの指示に従いなれない土地を進むのであった。


大鳥さんに連れてこられた場所は、ただの空き家のはずなんだけど、私たちが来る以前から、人が出入りがある様子が見受けられる。

外見だけなら、不法侵入をしづらい様子もあるし、何より鍵もかけられているのだから、普通人が入るのには無理があるのに……。

「こっちです」

そう、大鳥さんが言ったと同時に、地下への階段が音を立てて、全自動で出来上がっていく。

まるでその様子は、ヒーローモノの秘密基地。

私や靖也君だけじゃなく、アリサさん、鷹木先生、以下略、といった人たちが目を見開いていて驚く。

驚かなかったのって『清水一家』の洋服を着たお兄さんと晶さん、それに格闘王さんくらいだ。

……なーんか、変わったメンバーが驚かないなぁ。

ともあれ、大鳥さんに連れられてさらにその道を進んでいった。

だがそこにあったのは、更衣室やトイレなどといったものだけだ。

これだけ大掛かりな装置がある割には、しょぼいものしかない。

「まずは、木下ちゃんと二ノ宮君ダスな」

……私と靖也君?

靖也君は、ハンドルネームを一度しか名乗ってないし、私が靖也君のことを靖也君って呼んでるから、他の人には自覚ないと思ったけど。

微妙に、私と靖也君はそんな晶さんに関心したが、何故私たちの名前があがるのかがわからない。

私たちは自分たちを指さして、目をぱちくりとさせた。

と思ったら、晶さんは私の右手を手に取り、手首の辺りをじろじろ見、続いて靖也君の左足を見た。

この場所、私たちが『清水一家』と戦ったときに負傷した場所……。

晶さんが、靖也君の足を触れる程度で触診をしながら見ていた、そんなときだった。

「ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」

「これでよし、ダス」

私たちから見れば、少し足首を動かしただけなのだが、足を負傷している靖也君にとってはとんでもない激痛になったらしい。

左足を押さえて、ごろごろともだえている靖也君の様子は尋常ではないのだが、晶さんは「術式終了」とか呟いた後、近くにあるソファーに横たわって、ぐがーぐがーといびきを……これって。

「……ブラック・○ャック?」

……私がそれを言おうとしたときに、スケさんが言ってくれた。

「って何するんだよ!!」

「まだ痛むダスか?」

「そりゃもう……ってあれ?」

靖也君は、足を軽く動かしてみるのだが、痛がる様子はない。

それどころか、今までと同じように、無傷の状態のように見える。

「木下ちゃんの方は骨にヒビが入っているダスから、無理に動かさないほうがいいダスよ。しっかり固定するのが理想ダスが、まだアリサ姫の護衛が残っている以上、そういう弱みを見せるのはいいとは思えないダス」

「お姫……様……ですか?」

あーあ、バレちゃった……。

私としては、何も知らないまま終わればそれでよかったのに。

私は、皆がアリサさんに注目している間に、ため息をついた。

「事情はかくかくしかじかダス。わかったダスか?」

「わかりませんよ!!」

「うにゅ。いくら何でも、俺たちにそんな呪文みたいな言葉を理解しろって言われてもよ……」

ちなみに、晶さんは本当に「かくかくしかじか」としか言っていない。

「では、かくかくしかじか……」

今度こそ、晶さんは現在の事情を、この事件の原因であるアリサさんや、護衛である私以上に詳しく説明した。

……だから何で晶さんはそんなに詳しいのよ?

まあ私たちですら知らない情報があるとすれば、このアリサさん暗殺事件の発端となったのは、アリサさんの母方の弟、つまり叔父が自らを王位継承に立候補したことにあるそうだ。

アリサさんの父親が、若くして病気で死んだことから、アリサさんも早くに死んでしまうかもしれないということを理由に挙げたそうな。

だが国民がそれを許すはずもなく、実際にルグリア王国の血筋をひいていないこともあり、アリサさんが若くして女王になった。

「で、アリサ姫が邪魔になったから、アリサ姫を暗殺。自らが王になろうと画策したんダス」

追記しておくと、こうやってアリサさんを厳島に、影武者を青森に残しておいたこともあり、暗殺者を二手に分断させることに成功したそうな。

「……えっと、鷹木先生。切れないでくださいね」

以前もそうだったけど、こんな非常識な状態で怖いのは鷹木先生。

前回のオフ会のときも、変な男と女たちが私たちに襲い掛かってきて、釘バットとか使ったんだけど……。

恐る恐る鷹木先生を見てみるが、そんな彼女の肩は震えており……。

「面白いっ!!」

そうそう、こうやってブチ切れて……ってええええええっ!?

「確かに非常識です。ですが非日常でありながらも、これは私たちに舞い降りたネタです。天啓です! 私たちが王女様の暗殺劇に巻き込まれるなんて、まさに事実は小説よりも奇なり、です!!」

な、な、な、な、な、何でよりにもよって、鷹木先生がこんなに悦に浸ってるの!?

あの人のことだから、絶対にブチ切れモードになると思ってたのに……。

「俺も、王女様とお近づきになれるなんて、すげーラッキーだぜ!! いっそ、俺の彼女にならない?」

「構わんて。ウチは恋人募集中じゃけえ。あ、けど男の子を孕ませてくれることが条件じゃよ。ウチみたいに後継者争いの原因にさせとうない」

「……すみません。俺にはそんな自信はありません」

軽く始まった格闘王さんの冗談だが、真面目に答えるアリサさんに呑まれて、格闘王さんは何故か正座でアリサさんに謝った。

アリサさんも何で謝るのかがわからず、顔に疑問符を浮かべていたけど。

……にしても、自分の命が危ういかもしれない状況で、何でこうも余裕なのかなぁ、皆。

むしろ、私がこうやって動揺している方が異常?

そんな不思議な状況に、四つん這いの形で嘆いている間にも、大鳥さんの説明が続く。

余談だけど、そんな姿勢になっていることもあり、私の右手首は痛い。

「私たちの行動により、ルグリア王国女王、アリサ姫の存在が相手にばれてしまい、このままではアリサ姫が殺されてしまう可能性が大きいでしょう。だがこれを見過ごせますか?」

「あえて言おう。そんなことをする奴はカスであると!!」

「そんなことをする奴は、坊やだからさ」

はいそこ〜、ちょっと黙っててね〜。

「ちょっとは黙っててください、みずえさん、格闘王さん」

冷静な対応、ありがとうございます鷹木先生。

「ですが、ここで対抗していたら私たちが加害者となります。ではどうするか。どのようにして私たちが加害者にならず、また相手の追撃を避けることができるのか。それは簡単。アリサ姫がアリサ姫と認識されなければいいのです」

「で、どうするんだ、大鳥?」

「優輝さん。それはですね……」

『清水一家』の連れ、上杉さんが大鳥さんに尋ねるのに対し、大鳥さんはにやりと微笑んで答えた。

「木の隠すのには、森の中、です」



◇正午◇


私は、そんな会話をした数分後には着替えも終わり、適当な椅子に座って晶さんから貰った薬を飲んでいた。

何でも<接合>とかいう、特注の薬らしいんだけど、折れた骨を即座につなげてくれる効果のある薬らしい。

何とも胡散臭さが漂う薬な上に、洋服のお兄さんこと上杉さんがその薬を見て表情を苦々しく歪ませたのが非常に気になったんだけど。

まあ一抹の不安はあるものの、別に飲んでみても大した影響はない。

強いて言えば、少し苦味が強いのと、手首の痛みがすぅっと和らいでくる感覚があるくらい。

一応動かせるレベルらしいけど、晶さん曰く、安静にしている方がいいらしい。

私は、この部屋にある姿見を見た。

私のボブカットは変わらないし、その肉体的な変化はまったく変化はない。

が、問題はその格好だ。

どこか見たことのあるセーラー服で、私たち武侠学園の女生徒が着る黒いセーラーとは違い、白い部分の多い制服だ。

特徴があるとすれば、腕章があって、スカーフはオレンジ、ソックスは襟やスカートと同じ色で白十字の模様が存在していること。

そして、鼻頭につけたシールで、傷跡を再現。

極めつけは、太ももに装着した小型の処刑鎌。

……ため息をつくしかなかった。

「……っ!」

「○貴子さんっ!」

私に続いて着替え終わったのは、靖也君と格闘王さん。

靖也君はシンプルに黒い学ラン。

いつもと違うところは、髪が中分けになっているところくらい。

……何のコスプレなんだろ?

格闘王さんも同じく黒い学ランなんだけど、赤いTシャツが見えるように上着の前は開けてある。

あと、私と同じ腕章をつけている。

にしても、あのバカでかいランスはなんなのよ……。

「……どうでもいいですけど。私、このキャラよく知らないですよ」

「ああ大丈夫だよ斗○子さん」

誰が斗貴○さんやねん。

「いざというときに……」

と、格闘王さんは私の耳に近づき、ぼそぼそっと教えてくれる。

私はその言葉に一瞬眉をひそめたけど……やるしかないよねぇ。

ここでしっかり説明しておくけど、大鳥さんの出した案はコスプレをしてかく乱することだった。

当然普段なら真っ先に異論を出したいところなんだけど、今日ここ厳島はちょっと状況が違った。

なんと、同時期にコスプレ愛好家によるオフ会が重なっていたのである。

しかもそのHPは超大手らしく、その数なんと数百人。

……はっきり言って、普通の人の方が目立ちます。

それに、アリサさんの目立つ銀髪も上手く隠せるということから、私たちは渋々了解をしたってわけ。

にしても、靖也君の様子が何かおかしい……。

「か……」

「か?」

「かわいいっ!!」

靖也君が、弾丸のような勢いで私に突進してくるかと思ったら、私に熱烈な抱擁をかましてくれた。

しかも頬同士を擦り合わせるときたものだ。

どうみても男女の抱擁とは違うそれは、まるで小動物をかわいがるかのようにしか見えない。

「やっぱりいいわぁ〜。久美ちゃん、かわいいっ!!」

「……やっぱり瑞穂さんですか」

今まで息を潜めていたけど、靖也君にはもう一つの人格が存在する。

どちらかというと、靖也君に比べてお茶目で女性らしい性格の彼女(あえてそう言わせてもらう)の名前は二ノ宮瑞穂(にのみや みずほ)。

私の事をよくからかう、自称29歳。

もっともその年齢は、私と靖也君が始めてであった五年前くらいから同じだったような気もするけど。

彼女と別の人格である靖也君も、瑞穂さんのことを熟知していて、苦労しているそうな。

「やめてください、瑞穂さん!」

「え〜、いいじゃん。女の子同士なんだし〜」

「肉体は異性です! 大体、私のセーラー服は見慣れてるでしょう?!」

「女の子は着飾るものなの! 久美ちゃんはいつもいつも、着る物に無頓着なんだから。あーん、やっぱり久美ちゃんのスカートは似合うっ!」

「うぐ……」

……確かに否定はできない。

「うふふ、今、靖也は非常に恥ずかしがってるわよ」

「真面目な青年をからかわないでくださいよ、瑞穂さん」

……ん?

ちょっと待って。

靖也君なら今まであんな真似やこんな真似をしないはずだし……もしかして。

「瑞穂さん。もしかして、とっくに瑞穂さんになってたとか……?」

「あ、ばれちゃった?」

「そりゃあ、靖也君は瑞穂さんみたいな真似はしないし」

多分だけど、靖也君から瑞穂さんに変わった時期を考えると、赤い鳥居に来た辺りかな?

靖也君は、私の背骨をつつーとなぞったりはしないはず。

「ま、靖也もうるさいし、変わるね」

そう言うと瑞穂さんは目を閉じ、少し過ぎた後に靖也君が首をかくっと落とす。

二人の人格が変わる際に、一瞬だけ意識がなくなると、靖也君や茜さん談。

靖也君はそのままその表情を真っ赤にして、小さく「悪い……」と私に向かって呟いた。

別に、靖也君が悪いわけじゃないし、私もそんなに気にしてないんだけどな。

そんな様子を見ていた唯一の人物である格闘王さんだけが、目を丸くしていた。

「にゅう……。どういうこと、木下さん?」

「靖也君って二重人格だから、ああなるの。驚かせちゃった?」

「そりゃあ……」

まあ、そのことを格闘王さんにしか知られていないのは幸いだったかな?

そんな会話をしていると、続々と着替え終えた人たちが更衣室を出る。

まささんは赤い鉢巻をして、白の上下を着ているのだが前をはだけているという格好だ。

腹部はサラシで覆っている。

長倉さんはまささんと同じ作品のキャラらしく、昔風の警官の格好で、髪型はオールバック。

刀も質感バッチリ。

……どこぞの優男風抜刀斎のライバルたちっすね。

スケさんは二人とは違い、セーラー服だ。

髪を三つ編みに纏め、伊達だと思うけど眼鏡をかけている様はごく普通の女子生徒……だよね?

というか、そうだと言って!

「いいんちょ!!」

「藤田君、何やの?」

靖也君が何か訳のわからないことを叫ぶし、スケさんはスケさんでどこぞの地方の言葉を使ってるし……何?

にしてもスケさんの様子が、少し不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか?

「くっ! 委員長と絡めない俺が憎いっ!」

……結論、そういうキャラである。

やっぱりキャラなのね。

「な、なあみずえ。これでいいのか?」

「せやなぁ哲ちゃん……。うん、ええのと違う?」

続いてやってきたのは『清水一家』の三人組……だよね?

一人は袖をまくった警官服の清水さん。

サンダルに角刈りに……ってことはアレしかない。

お蝶さんはおなじく女性警官の格好だけど、その制服は紫色。

纏めていた髪は下ろしてストレートロングに。

上杉さんはというと、二人に合わせて黄色の警官服という格好だ。

……初めて相対したときも思ったけど、やっぱりこのネタか。

「哲様ー。カッコイイですわ!」

「先輩! 中々いいじゃないですか!」

お蝶さんも上杉さんもノリノリじゃん……。

にしてもお蝶さん、元があのキャラなんだしもうちょっと胸があったら似合う……あ、何かこっち見てる。

「今、何考えてた?」

お蝶さん、にっこりと笑ってるけどその目は笑ってない。

ちょっとその雰囲気に押されつつ、私は必死に表情を変えないように取り繕い、愛想よく笑みを見せる。

「な、何にも……」

一応白を切る真似は見せ、私は視線を逸らしてなんとかごまかそうとした。

するとお蝶さんは話題を進めはしなかった。

ただ恨みがましい目を私に見せるだけで。

「あ、あの……。これでいいのでしょうか? 巫女服は初めてで……」

「ええのと違う? ウチかて犬耳じゃけぇ、似合うかどうかなんてわからんのんじゃ……」

二人一遍に出てきた鷹木先生とアリサさん。

二人の格好は、まず鷹木先生が髪をうなじ辺りで束ねた巫女さん。

弓を持っている姿は、巫女さんなのにどこか勇ましい。

それにしても、鷹木先生って眼鏡かけないとすっごい美人だなぁ……。

古臭い表現を使うとすれば、私が男だったら絶対に惚れてたね……ってとこ?

「長倉さんが園美に惚れた理由が、ようわかったわ」

……スケさん、関西弁はもういいです。

「それよりも私、今日初めてコンタクトレンズをつけたのですけど、目が……」

「目が?」

「奥に挟まっているという感覚がありまして、慣れません」

ごしごしと鷹木先生は目をこする真似をした。

まるで猫が顔を洗うかのような仕草は、ちょっとかわいい。

「きめらちゃんは、眼鏡でいいと思うぜ! 眼鏡っ子萌え!」

「萌え!」

「萌え!」

格闘王さんの意見に賛同し、サムズアップしてみせるのはスケさんとまささん。

若い女の子が「萌え」なんて単語使うなよ……。

それはともかく、アリサさんは銀髪をそのままに犬耳カチューシャをつけ、赤い衣を身にまとった姿。

成る程、鷹木先生とアリサさんは同じ、あの漫画のキャラってことか。

これなら大鳥さんが誤魔化せると言った訳がわかる。

それにしても当の二人はいずこに行ったのだろう?

気がつけばいなかった……は、もしかして二人とも逃げたんじゃあ……。

「あらあら。あの方はすごすごと引き下がるような方ではありませんわ」

……っていたし。

ただのコスプレとは思えない、二人の美女が……二人の美女?

ええとちょっと待ってよ、私、靖也君、アリサさん、格闘王さん、鷹木先生、スケさん、長倉さん、まささん、『清水一家』の三人組。

そして残ってるのは晶さんと大鳥さん……だよね?

一人は髪を編んでその長い髪を下ろしているところまでは、まあどこにでもある女性の髪形だ。

で、服装はというと白を基調としたもので、スカートの部分はロングでスリットがセクシー。

帽子も被っており、そこに「ARIA」と書かれているのが特徴。

こっちは大鳥さんらしい。

で、もう一人の美女は、基本は大鳥さんと変わらない白を基調とした服なのだが、大鳥さんのは細部が青なのに対し、こっちは赤い色。

しかもスリットも大鳥さんのそれより深く、よりセクシーである。

帽子の形もちょっと違うし、赤いイヤリングをつけ、腕や帽子に「姫」の字が書かれている。

この美女はお尻にまでかかる黒い髪を下ろしている。

どこか中性的ながらも、女性としての魅力が十分で……ええっと、どなたですか?

「……なあ大鳥さん。やっぱりやめない?」

「あら晶さん。よくお似合いですよ」

……ちょっと待てい。

今、聞き捨てならない名前が……。

「声が皆川○子だーーーっ!!」

そうそう、格闘王さんが言うように、どこか少年のような、大人の女性のような声で、って違ーーーーーう!!

私のつっこみは皆が思っていることらしく、一同はただただ目を丸くさせていた。

だってあのちっこいおっさんが、ちょっといじくって美女となるだなんて誰が思います?

美人、という点だけで言えばそりゃあ鷹木先生には負けるだろうが、それでも容貌以上にその雰囲気が彼女……じゃなくて彼の魅力を引き出しているんだもん。

「ほ、本当に晶さん……ですか? どこからどう見ても女……」

うん、私も鷹木先生と同意見。

「すわっ! 私は今も昔も女だ」

……ヱ?

「マジでそっくり……。だろ、スケさん?」

「ああ。モロに水の三大妖精の二人が勢ぞろい。これであのドジっ子先輩がいたら……」

……あ、ああキャラの台詞なのね。

一瞬だけ真に受けてしまいましたよ、私。

「あらあら」

「あらあら禁止ーーっ!」

「うふふ」

「うふふも禁止ーーっ!!」

っつーか、スケさんといい晶さんといい、キャラ変わりすぎ。

晶さんが大鳥さんへツッコむ姿なんて、想像もしてなかったんですが。

『清水一家』の皆様も、晶さんの変化で顎ががっくんと落ちているのが見て取れる。

そりゃ、倒そうとしていた憎き相手がこうまで変わるんだもんねぇ。

前回のオフ会のとき、男装美女だとか言われてたけど……強(あなが)ち嘘じゃなかったのね。

本当に、髭とって髪ほどいただけ……ってわけでもなく、化粧もしてるけど、それでも変わりすぎ。

うーん、でもこれってナチュラルメイクよね?

「な、なぁ。コスプレなんて絵師さんが大変だし、やめないか?」

あ、晶さんがささやかな抵抗をしてる。

「うふふ。こんな作品のイラストを書いてくださる高尚な絵師さんはおりませんわ」

しかもずんばらりっとあっさり切り捨てる大鳥さん。

けっこうエグいね、大鳥さん。

……あれ、みんなは晶さんに注目してるのにお蝶さんだけはまだ私を見てる。

いや、そう思っていたのもつかの間、彼女はいきなり私の前にずんずんと近寄り、がしっと私の胸を鷲掴みにした。

一瞬の出来事はあまりにも私の想像を凌駕しており、私は一瞬頭の中が真っ白になる。

「……いくつ?」

「はぁ?」

「だからいくつなのよ!! サイズ!!」

えーとですね、女は胸だけでその人の魅力が左右されるわけじゃないんだよ。

……って前にメグを諭そうとしたときに、バーサクモードになったっけ。

うう仕方ない、素直に教えるかぁ……。

しぶしぶ私はお蝶さんに自分の胸のサイズを教えることにした。

「……は、83の……D」

だがこれもまた、彼女にとっては地雷だったらしく、サイズを聞いた途端に物凄い目つきで睨まれた。

「ふ、普通サイズです……よ?」

「どこがじゃあっ!!」

私の同級生たちのサイズと比べても、このくらいだったはずだけど……。

まあメグや三島さんは例外としてだけど。

「何よそのアルファベットまでお椀型!!」

「お蝶。どうなんだよ?」

「Dだって……」

言うなや。

しかも、アリサさんやスケさんまで凄い目つきで見るし。

男どもも私の胸を食い入るように見つめるものだから、私は恥ずかしくなって、慌てて胸を庇うようにして腕をクロスさせる。

鷹木先生は興味なさそうなのが救いだ。

大鳥さんと晶さんは一旦俯いてから、大鳥さんはため息をつき、晶さんはそんな大鳥さんの背中をポンと叩いた。

続いて晶さんは、お蝶さんの背中を軽く叩いて、姉が妹に諭すような慈愛の笑顔でこう言った。

「胸なんて所詮は飾りのようなものだ。確かに魅力的には見えるけど、それで全ての魅力が決まるわけじゃないぞ」

……それ、禁句。

だと私は思っていたのだが、お蝶さんはまるで天からの光が差し込んだかのような晴れやかな笑みに変わっていた。

男が言ったから救われたのか、それとも(少なくとも見た目が)微乳の女に言われたからなのか知らないけど、何か理不尽だーっ!!

「みんな。そろそろ昼メシにせん? ウチ、腹減ってしゃあないんじゃけど……」

アリサさんに言われて気づいたけど、そういえば今って昼過ぎか。

確かに、お腹こそ鳴らないけど、空腹のときのお腹を締め付けるような感覚がある。

「そうですね。ご飯にしましょうか」

「なあクミ。ウチお好み焼きがええんじゃけど!」

私たちはそんな会話をしながら、このよくわからない更衣室を後にするのであった。

鷹木先生、スケさん、私……といった順番で出て行くのだが、最後に残った清水さんと晶さんが何かを話していたが、私たちは気づくことなく、すぐに合流してお好み焼きを食べに行くのであった。



◇午後1時◇


私たちは適当な店を見つけて、一室を借りて席に着く。

あまりにも違和感がありすぎるコスプレでの食事なのだが、他の客たちのほとんどもコスプレのため、浮いてはいない。

私はスカートを撫で付けるようにして席に着く。

……この作業も面倒くさいからスカートって嫌なんだけど。

同様にして晶さんも……ってヱ……?

しかも、正座に見せかけているけどとんび座り……。

前者はスカートを履かない男がやる仕草じゃありえないし、後者は骨格上男には出来ないって聞いたことあるけど……。

あんた、本当に男っすか?

それにしても、さっきから晶さんの様子が何やらおかしいな。

身体を震わせて、何かを我慢しているみたいなんだけど……。

「すわっ!!」

「「はひっ!!」」

突如、晶さんが叫ぶとそれに反応するかのように格闘王さんとスケさんが気をつけの姿勢をとって固まった。

晶さんも腕を組んで怖い顔をしている。

やっぱり晶さん、キャラ変わってるよ……。

「駄目だ、駄目だ!! 平八君」

「な、何なんですか、藪からぼうに」

「何故、きめらちゃんのことを褒めてやらない!? 清水の舞台から飛び降りる覚悟で、このような恥ずかしい格好をしているというのに、彼氏の褒め言葉の一つないとは何事だ! 似合っているの一言もないのか!? 女の子というのは褒めて欲しい、自分と同調して欲しいと思うものなのに、彼氏がそれでどうするんだ!」

晶さんは言いたいことだけ言って、長倉さんの反論を待たずに、今度は鷹木先生の方を向く。

「きめらちゃんも! 男という生き物は、五感の中で最も視覚を重視するもの。男は目で感じる、という言葉もあるように、見た目というのは本人が否定していても重要なもの。それなのにファッションの一つも気を遣わずにいるのはどういう了見だ!!」

「で、でも……」

「すわっ!!」

「「はひっ!!」」

再び、晶さんが腕を組みながら叫ぶことによって、今度は鷹木先生と長倉さんが直立不動で固まってしまう。

晶さんは、今までの飄々とした様子はまるで見せず、そこにいるのはどう見ても厳しいお姉さんといった様子だ。

声も声だから、特にそう感じるのよね……。

「……ふぅ。説教はこのくらいにしておかなきゃ、昼メシも上手くない。すみませーん、豚玉大盛りを三人前で。で、皆はどうするんだ?」

滅茶苦茶多っ!!

「じゃあ私は海老玉イカ抜き」

晶さん、私をいう順で注文を頼み、それに倣って皆も思い思いに注文を頼む。

少し気まずかった雰囲気も少し和らぎ、皆にも笑みが次第にこぼれていく。

特に鷹木先生と長倉さんは、晶さんが言葉に倣って、長倉さんがその姿を褒め、そして鷹木先生がはにかむという、見ている側もアツアツだということが痛いほど理解ができるほどのラブラブっぷり。

そんな様子を見て、晶さんも微笑を見せる。

「ビール!! あと赤ヘル風お好み焼きっちゅうのを」

あー、そういえばアリサさんってビール好きだって言ってたっけ。

「あのー。残念なんですけど、赤ヘル風お好み焼きっちゅうのは宏縞カープのファンクラブ会員やないと注文できんのですよ」

「それなら問題ない。ウチは宏縞のファンクラブ会員No.0930831じゃけえ」

色々とツッコミを入れたいところはあるのだけど、アリサさんは淀みなく懐から一枚のプラスチック製のカードを取り出した。

確かにそこにはアリサさんの顔写真と名前、そしてアリサさんの言う番号が書かれていた。

「お、姉ちゃん。あんたも宏縞好きか?」

「当然じゃ!! 他に何を応援するんよ!?」

何か、熱い会話を気合入れてしてるなぁ、店員さんとアリサさん。

とか思っていたら、私たちの近くの席に座っている常連さんらしい人たちが、そんなアリサさんに呼応するかのように、やれ何が好きだとか、やれどのプレーがいいだとか話し始める。

仕舞には、新春の宏縞選手のゴルフ大会がどうとかなんてものまで会話から飛び出している。

んなローカル番組、私らは知らん。

「「「カープ〜、カープ〜、カープ宏縞〜、宏縞カープ〜♪」」」

ビールを、地元のファンたちと酌み交わしながら、宏縞の応援歌「それいけカープ」を熱唱してるよ、アリサさん。

私は一つため息をついて、事が勝手に暴走する様を見ていた。

ぱっと見では、会話についていけないのか、大鳥さんが上杉さんの携帯電話を奪って何か会話をしているくらいで、大きな変化はないように見える。

ほっと一安心、と思ったのはつかの間、アリサさんの宏縞談義に我慢できない人がいたらしい。

「何を言ってやがるんでぃ! やっぱり黄泉瓜巨神兵に決まってらあ!!」

言葉遣いからも予想は簡単につくけど、ちゃきちゃきの江戸っ子……だよね?

まあそう思わせる、清水さんが主張するかのように声を上げた。

「はあ? あんたこそ何いうとるん? 金ばっかし使うたチームなんかどこがええのんじゃ!? しかも今年からBチームの仲間入りじゃ」

「おお姉ちゃん、ええこと言うやないか! あんな渡邊ちゅうクソ生意気なオーナーに従うとる連中なんぞ、宏縞の敵じゃあない!」

「なんだってぃ!? 巨神を馬鹿にしやがって!! てめぇらこそ、万年Bチームじゃねえか。偉そうなことほざきやがって!!」

「そうよそうよ! 日本人の半分は巨神のファンなんだから」

お蝶さんも油を注してるぅ……。

「そのほとんどが強い巨神だった頃のんが好きなんじゃろ? そんなんファンとはいわんが」

「そうじゃそうじゃ! 姉ちゃん。わしはアンタが気に入った!! 店長っ、ビール一本、この姉ちゃんにつけといてな!!」

「ところで残りの面子は何が好きなん?」

突然、アリサさんが私たちに話を振り、皆が目を丸くした。

「へっ? 私は……」

そりゃあ私の出身から言っても……。

「やっぱり東北地方の希望、落天ですね」

「俺は久美ちゃんと同じ」

私と靖也君は、ね、と顔を合わせて頷きあった。

「オレはやっぱり北海道だし、二本ハム」

と、格闘王さん。

「私はあまり野球に詳しくないのですけど、千恵さんの影響で半身の選手とかは知ってますが……」

鷹木先生の言う、千恵さんという人は何となく予想はつく。

鷹木先生のサイトで、作品こそ作らないけど、よく私や格闘王さんの感想を言ってくる人の一人……だと思う。

確か、鷹木先生とは友人関係だとか言ってたし、どこかで半身ファンだ、って言ってたと思うし。

その人は、やっぱりオフ会には来ないのかな?

まあ私だって、こんなゴタゴタがあると知ってたら行きたくはないけど。

「オレは哲ちゃんと同じで巨神」

あ、スケさん地元の人たちから睨まれた。

「駐日だよな、長倉さん」

「ああ」

まささんたちは駐日ファンか。

「私は、愛ちゃんが宏縞ファンだから、その影響で宏縞は結構好きだが」

晶さんは、そう言うとアリサさんたちから「じゃろ、じゃろ?」と言われて歓待ムードである。

にしても晶さんが宏縞ファンってのは意外よね。

で、その当人は、未成年だからという理由でビールをきっぱりと断っていた。

あの晶さんらしからぬ真面目っぷりに、やっぱり私は驚きを覚える。

その一方で、アリサさんはぶーと頬を膨らませていた。

「ウチ、リューイチとビール飲もう思うとったのに、リューイチはクミじゃし……」

……そ、そっか。私って、年上の男って思われていたんだった……。

「おっしゃ、じゃあオレにも一杯頂戴!」

「格闘王さん、オレもオレも」

「んじゃ俺もな」

格闘王さん、スケさん、まささんが次々と空のグラスに黄金色の炭酸水こと泡麦茶を注ぎいれる。

あんたら、全員未成年だろーが!!

「みずえさん……」

「いーじゃねーか、園美。無礼講、無礼講」

「無礼講は関係ないですよ」

鷹木先生の冷たい目も何のその、スケさんはビールの入ったグラスを一気に傾ける。

嚥下と共にその量を一気に減らし、すぐにその液体は泡のみの存在となった。

あ、ちなみに言っておきますが、これは未成年に酒を勧める作品ではありませんので、厳っ重に注意をしていてくださいね!!

未成年が酒とか煙草とかしちゃいけないよ。

私、木下隆一兼森嶋久美との約束だよ。

まあそれはともかくとして、あんたら、今そこにある危機は無視!?

アリサさんも、命を狙われているという自覚があってもいいのに、ねぇ。

とか呆れながら思っていると、生地を入れる容器と具が来る。

そうそう、広島風お好み焼きってのは、生地をひいてから具を乗っけるのよね。

とか思っていると、何故かスケさんや清水さんが焼く前の生地の中に具を入れようとしていた。

「ストップ、ストーップ!! 二人とも、何やってるんですか!?」

「へ、木下さん? そりゃあお好み焼きを……」

「大阪風と広島風とは違います!!」

「そうじゃ。クミの言うとおりじゃ、スケバン。あんなごちゃごちゃにしとるんはお好み焼きやのうてごちゃまぜ焼きじゃ。お好み焼き言うたら生地ひいて、具乗っけて……」

外人さんなのに、生粋の広島出身と思わせるほど、アリサさんは手際よく広島風お好み焼きを作っていく。

それにしても、ここに大阪の人がいなくてよかった……。

野球のときもそうだけど、アリサさんって外人なのに県民性が強すぎるきらいがあるからなぁ。

どうせいたらいたで、やれ大阪風が一番だとか、やれ広島風が最高だとかで議論されるんだろう。

にしたって、東京出身の二人が知らないんだから、やっぱりお好み焼きは関西が主流なのかな?

まささんやお蝶さんなんかも知らないみたいだし。

ともあれアリサさんの広島風お好み焼き作りのレクチャーを横目に、私、靖也君、格闘王さん、晶さん、大鳥さん、それに上杉さんの六人は同じ席で広島風お好み焼きを焼き、順に食べていた。

「はい、タイガー君」

作ったうちの二枚半をタイガーのお皿に乗っけて、目の前に置いた。

自身はお好み焼きの半分だけで済ましていることから、小食らしい。

しかも、小さく分けて小口で食べてるし。

……あんた、本当は女だろ、とツッコミを入れたい今日この頃。

かく言う私も、晶さん同様に宏にイカ抜きのを四分の一ほどに切って宏の目の前に置く。

猫って、運動しても痩せないからこういう体重コントロールが重要なのよねー。

食事の時間はあっという間に過ぎ、食べ終わった私たちは食休みに出されたお茶をすする。

一同はそのボリュームのある広島風お好み焼きに大満足のようだ。

そんなとき、晶さんは手を上げて店員さんを呼ぶ。

「申し訳ありませんが、個室をお貸しください」

食べ終わって満足しているはずなのに、なぜそのような真似をするのかを一同は懸念に思ったみたい。

私も晶さんの行動を不審に思うが、そんな私たちを尻目に晶さんは手際よく個室をゲットし、皆をそちらへと誘った。

晶さんが食べた量は確かに、男性が食べる量としては少なすぎるし、満足してないのかもしれないけど、私らは十分食べましたよ?

晶さんはそのまま座布団に足をそろえて腰を落とす。

隣にはさも当然のように、大鳥さんが晶さんと同様に腰を落とした。

「五代目。こちらへ」

晶さんは自分の目の前へと、清水さんを誘う。

晶さんの表情は、最初出会った頃、そして今日初めて会ったときとはうってかわって、非常に視線は鋭く、また口元に緩みは見られない。

大鳥さんもにこやかなのは相変わらずなのだが、目はというと笑っていない。

そんな雰囲気に気圧される一同であり、清水さんはそんな雰囲気に飲まれまいと晶さんを睨みつけていた。

晶さんと清水さんの睨みあいは数秒ほど続いたのち、清水さんは晶さんの誘いどおりに晶さんの正面へと座った。

皆も、先ほどのような和気藹々モードとは違って、僅かにピリピリした空気を察知したのか、おずおずと適当に着座した。

「本当なら、自分一人でこのような場を作りたかったのですが、事情によりこういう形となってしまいました。まずはそのことを五代目、及びこのオフ会参加者にお詫びしたい」

晶さんはそう言うと、机の上に手をついて頭を下げた。

「まずはご挨拶をしましょう。自分は、今年二月に捕まった怪盗一家、最上の三子にして次期頭首を任命された、最上晶と申します」

ざわざわ、と辺りを包むのは晶さんの正体を知っての事。

私や鷹木先生、格闘王さんはその事情を知っているから驚きはしないものの、今までのノリとは大きく違う晶さんにやっぱり驚きを隠せない。

ざわつく個室で、晶さんは懐から取り出したのは、桐の箱。

中を開けると、丁寧に保存してあるが、古さを滲ませる十手だった。

それを見た清水さんは目を開き、それを自分の手元に引き寄せ十手を注視する。

隣で見ているお蝶さん、上杉さんもそれを見つめていた。

「三年前、私たち一家が清水本家から盗み出したものです。それが本物かどうかを、まず確認して頂きたい」

「……本物みたいだな」

上杉さんがぽつりと漏らした言葉に、晶さんは男性の笑い、というよりは女性的な笑みを浮かべた。

淫靡、というには色気が足りなすぎるが妖艶……いや、含みのある笑みなだけあって、真意は測れない。

どこか混乱している清水さんをよそに、晶さんは自らの家の事情を説明しだした。

「そもそも私たち最上の一族は、代々窃盗行為を生業としてきて、現在に至ります。貴方方、清水一家から盗み出した十手もその一部なのです。ですが事情が変わったのは、今年二月……」

「一家が現行犯でお縄になった……」

「そうです、五代目。もっとも二番目の兄である一義と母の二人は、現行犯ではありませんが。しかし、私たち一家の逮捕の決め手を与えたのは私なのです」

「……!」

「私は家族を裏切り、警察に尻尾を振った蝙蝠。ふふっ、そう言うと真の悪は私でしょうか?」

楽しそうに笑う晶さんの姿は、今まで見てきた晶さんに類似していた。

コスプレをしてから、晶さんっぽさが見受けられなかったこともあり、今になってこの女装をしている人物が晶さんだということを再認識できた。

「ちょっと待てよ最上! でもお前は警察に追われる身だろ?」

上杉さんの言ったことを聞き、改めて思い直すと確かにおかしい。

晶さんは実名でこそ指名手配されていないとはいえ、間違いなく警察の敵だ。

しかし先ほどの晶さんの言葉を聞く限りだと、警察に寝返っている。

警察に何らかの見返りを求めてもおかしくない。

例えばそれが、自分の安全だという可能性だって……。

そんな難しい顔をしている一同に対し、晶さんはにやりと不敵に微笑んだ。

だがそんな中急に、大鳥さんが突然とても楽しそうに噴出した。

「あは、あははははははははははははははは……。あ、晶さん。からかうのはそれくらいにしておきましょう」

「私の性分。ほっといて」

「わたしの方から説明しますわ、五代目。理由は後ほど説明いたしますが、晶さんはある人物を介して、最上一家を牢獄に繋ぎ止めようと考えたのですわ」

「その人物とは……?」

「上杉さんもご存知の方が一人、上杉さんの知り合いの知り合いが一人……。西条玲(さいじょう れい)と五十嵐翔子(いがらし しょうこ)です。もっとも玲さんに関しては、ユキメ、と言った方がわかり易いでしょうが」

「「ユキメぇ!?」」

とんでもない人物の名前が出てきたことに、デッサンが狂うくらいに清水さんと上杉さんの二人は驚いた。

そのユキメという人物がどんな人なのかは知らないけど、二人の知り合いなのは間違いない。

さらに言えば、二人の苦々しい表情からみても、あまりよろしくない知り合いなのだろう。

「もしかして、その五十嵐って、あのCMなんかでよく見る、あの五十嵐?」

「ええ、そうですわ江尻さん。元々、五十嵐のご令嬢は晶さん個人とそれなりに交友がありましたから」

「で、でもだ。何故コイツが家族をわざわざ裏切るんだ? 理由がないだろ」

「上杉君。それは私が持ち出した約束を、父が反故にしたからなのです。あのまま、父が電車ですりを、一人目の兄が女をたらしこみ、二人目の兄が電子マネーで、そして私が<ランデヴー>のバイトで生計を立て、チャンスに大きなものを盗んでいれば私だって文句なんて言わなかった。だけど……」

「けど……?」

「父は、綾……従妹をこちらの世界に引きずり込もうとした」

……それは、私にはどれだけ重大なことかはわからない。

だけど晶さんにとってはそれがどれだけ大きいことなのかは痛いほどにわかる。

晶さんの目は据わっており、まだ発散し切れていない怒りの色がにじみ出ている。

「二人目の兄も、私の従妹がこちらの世界に入るのをよしとはしていませんでしたから、私の意見に乗ってくれましてね、私の家の情報を即座に公開しました。その兄も捕まりましたが、大鳥さんの手腕で、父、一番上の兄とは違い、禁固一年ちょっとの刑で済みましたし」

「……最上。じゃあおめぇはなんで、俺たちに盗んだものを返そうと思ったんでぃ?」

「……償いですよ」

「償い?」

「ええ。ですので今現在、父が個人で隠した盗品を探し、それを返却することが現在頭首代理を務めている私の仕事。幸い、その品は父が売らなかったようでしたし」

沈黙が辺りを包む。

加害者と被害者の会話は、聞いていると加害者である晶さんもかわいそうになってくる。

コスプレをしての会話は滑稽というのが難点だが、そんなことも感じさせないほどにこの場は静まり返っていた。

「では再びになりますが、貴方の家を貶め、また大事なものを奪ってしまった行為、機会が遅れてこの時期となってしまいましたが、次期党首、最上晶として謝罪させて頂きます」

再び机に手をついてふかぶかと謝った晶さん。

だがそんなシリアスな雰囲気は、所詮はつかの間であった。

「……だー、こんなシリアスな会話、続けてたらふやけちゃうよ!」

「うふふ、わたしはシリアスな晶さんは好きですよ」

「あれは私のペルソナの一つ!」

「そしてこれも晶さんのペルソナなのですよね?」

「オペラ座の怪人みたく、素顔は出さないものよ」

ちちち、と人差し指を振る晶さんの姿は、どこか陽気な女の子のような様子だった。

とはいえ、今までの厳かな雰囲気は台無しとなり、僅かなりとも同情しかけていた清水さんと江尻さんの二人は怒りを通り越して唖然とした様子だ。

いやいやお二人さん、相手は晶さんデスよ?

この人相手にまじめに考えるだけ無駄ですって。

「まあそれは否定しないわよ、木下たん」

「たん、って言うな。それに人の心を読むな」

ツッコミのタイミングを計るかのように、先んじて晶さんが私の心を読んだのは内心びっくりしたものの、表面上ではさも当然のように取り繕う私。

こんなんだから、いいようにツッコミ役として利用されるんだろうなー。

「て言うことは、マックスさんは形の上では哲ちゃんに謝罪して、その証として盗んだ物を返したんだろ。いーじゃん、許してやれよ」

「あのなぁ、みずえ……。それじゃあウチの組に示しがつかねぇだろうが。清水一家が舐められたとあっちゃ、ご先祖様に顔を合わせられねぇんでぃ」

「要するにですね、第三者から言わせて貰うと、組としての面子がたたなくなるんです」

ふーん、とフォローを入れてくれた長倉さんに、納得がいったのかいかなかったのか、どっちともつかない返事をスケさんは返した。

まあカタギの人から見れば、面子で人の命をやり取りするような真似は、遠い世界の話だろう。

私もカタギ……って言い張りたいんだけど、実際に組の面子をつぶし続けたような人間だから、カタギとは言い切れないっぽい。

つーか、晶さんの気持ちもわからないでもないような気がする。

「それで、ピカさん。これからどうすんの?」

スケさんが急に晶さんの話から現状の話に戻したのに反応して、アリサさんはいつの間にか頼んでいたアイスクリームをおいしそうに口に含みつつ、犬耳を揺らせて振り向いた。

その犬耳の動きが、なんかかわいい。

「なんじゃの、いいんちょ?」

……まー、確かにスケさんの格好は委員長だけどさぁ。

「だから……」

「聞いとりますよ。……んー、出たとこ勝負?」

自分の命がかかっているのに、何ていい加減な……。

呆れて頭を抱えている私をフォローしてくれたのか、晶さんが口を開いた。

「一応、暗殺者の集団がフェリーを封鎖したのはいいんだけど、なるべく人にはばれたくない。けど時間いっぱいには私たちを見つけることが出来ず、結局フェリーは再開。逃げるなら今ってとこねー」

「だったらさっさと……」

「まああせらないあせらない。知ってる? 人の集中力ってのはそう長続きはしないものよ」

「だからって……」

「じゃあ質問。人は砂漠に落としたコンタクトレンズを見つけられるでしょーか?」

「話をはぐらかすな!!」

「もー、木下ちゃんは交渉の機微というのがわかってないなー」

ぷー、と頬膨らます晶さんは、男ということを忘れて、とってもかわいく見えた。

「でも言いたいことはわかるでしょ? そんなに焦らなくても、脱出の可能性は大して変わんないってこと」

ずずー、と晶さんはお茶をすする。

私も叫び過ぎたのか喉が渇いていたことを思い出し、晶さん同様にお茶をすすった。

「んで、俺らはどうするよ?」

上杉さんが、肩をすくめながら腕を組み、清水さんと江尻さんの二人に目を向けた。

「俺らはこの一件とは何ら関わりがなく、目的の最上の三男坊も……まあ長女にしか見えないけど……それなりのケジメを見せてるみたいだし……」

「あ、上杉君。清水一家から見たら、この程度のケジメじゃ示しは決してついてないわよ」

「……何でお前は女言葉なんだ?」

「おっと、女装時の癖で普通の女言葉になってた。えーと……この程度じゃ、私のケジメにはなっていないな」

やっぱり、と私は思う。

素でこんなにかわいい女の子にしか見えないのだから、逃げ回るのには普段女性の格好をしているのだろう。

七色の声色を使い分けることを考えても、まあ無難な一手だし。

「すわっ!! いつもは男の格好してるっ!」

……さよかー。

まあトリックスターと名乗っているだけあって、わざわざ目立つ格好をするのかもしれない。

気持ちはわかるはずもないが。

「それで、清水一家は私をどうする気だ? 指でも詰める? 幽閉? 打ち首獄門? まあそれでもいいけど」

いや、よくないでしょ。

「ただその場合、一つだけ約束をして欲しい。最上綾の全てにおいて、生活の保障をする。これだけ守ってくれるなら私の全てをささげてもいい。衆道の趣味があるっていうなら、夜伽の相手をしてもかまわないけど」

「それはきっぱりとお断りさせてもらう!」

……ま、そりゃそーだ。

いくら清水さんが健全な男の子だったとしても、というか健全な男の子だからそんな趣味はない。

しかも、晶さんって下手な女の子よりかわいいし、その手の趣味がなくても……まあそっちの道に走る可能性だってあるかもしれない。

……うーむ、このネタはこれ以上進むとピーの文字がかかるかもしれん。

「ダメですよ、清水さん。晶さんの(ピー)を奪うのはわたしなのですから」

あ、鳴った。

ぷち。

……ん、この擬音、どこかで?

「一体、何なんですかーっ!!」

激しい叫び声が私たちの耳を貫いた。

私は彼女から少し離れていたからよかったものの、間近で聞いたスケさんと長倉さんの二人はきっと、頭がぐわんぐわん言っていることだろう。

あ、そっかー。

どっかできいたことがあるとおもったらたかぎせんせいのぶちぎれるおとだったんだねー。

そりゃあきいたことのあるぎおんだよー。

ぎおんまつりというまつりがあるくらいだからぎおんってじゅうようだねー。

……現実逃避すんな、私。

「何なのですか? その腐女子全開でその手の腐女子がきゃあきゃあ喜びそうなネタは? テツ×アキのつもりですか? でもテツだと「なんでだろう〜」のネタでお馴染みの彼、アキだとこれの作者のキャラの一人と間違えてしまいます」

……うわ、懐かしい芸人。

後者は私ら知らないはずなんだけど……メタ情報? 電波?

どっかで聞いたことがあるような名前よねぇ。

その後も赤い彗星の如きプレッシャーを一同に与えつつ饒舌に語る鷹木先生。

反論をしたい者もいるだろうが、その間髪入れない物言いと圧倒的な威圧感でそれを封殺している。

しかし私はそんな鷹木先生の行動を知っている。

だからこそ誰よりも速く、暴走モードに突入した鷹木先生を止められるのは私くらいなのだ。

あ、ちなみにスケさんと長倉さんの二人はまだ朦朧状態から回復してないので除外ね。

私は音もなく鷹木先生の背後へと回り、片腕で首を絞め、そのまま絞め落とした。

もうちょっと具体的に言うと、血流が脳に行き渡らないように首を押さえつけ、血流が行き渡らなくなった脳は酸素が足りなくなり、酸欠状態となった脳は機能を停止させ、鷹木先生は気を失った。

うん、的確な表現だ。

「あ、アノヲ……木下さん?」

戦々恐々と私に言葉をかけるのはまささん。

へーへー、言いたいことはわかりますよ。

一般人全員が私の見る目が変わったのはわかる。

……だけど私は一般人……多分。

視線が痛い。

それでもそんなえも言われぬ雰囲気が嫌で、ちょっぴりお茶目に振舞うことにした私。

「……エロスは程々にな」

やっぱり視線は痛かった。

血が混じりそうな涙を流す私に、ぽんと肩を叩いて慰めてくれる格闘王さんの優しさが妙に胸に染みる、今日この頃であった。



◇午後2時◇


数秒後、意識を取り戻した鷹木先生は暴走をしかけたが、今度は朦朧としてない長倉さんのフォローにより、大事には至らなかった。

とはいえ、鷹木先生と長倉さんのラヴラヴというのは見ててもあんまり面白くはない。

そりゃあ確かに恋愛モノだったらお約束よ。

だけどそれは起伏、つまり山や谷があってこそ面白いのであって、ただいちゃいちゃされているだけなんてのは見てて面白いわけ、ないでしょ?

起承転結のない物語なんてのは、やっぱし……。

というわけで、ちょびっとだけ不仲になるように、なんて念を送っとく。

……シットジャナイヨ?

談笑も終わったところで、私たちはようやくお好み焼き屋を後にした。

相変わらずコスプレな私たちなのだが、やっぱり厳島にコスプレイヤーが大量に存在するために私たちは決して目立つ方ではない。

……いや、目立たないというのは嘘か。

なんせ、このメンバー、実は美男美女ばっかりだからなぁ。

鷹木先生を筆頭に、長倉さん、江尻さん、上杉さん、靖也君も見た目だけなら美男子か。

他にもアリサさん、実は男だけど美女な晶さん、大鳥さん、ちょっと毛色は違うけどたくましい清水さん、スケさん……あれ?

スケさんの服が変わってる?

さっきは赤っぽいセーラー服だったのに色が違うし、微細なところが違う。

何より……ごっついコートに日本刀?

「「炎髪灼眼!!?」」

微妙に鷹木先生とツッコミの波長が合ってしまう。

そりゃあ私らはライトノベル大好きだし、この手のネタは結構知識があったりする。

「やっぱりスケさんのイメージCVがアレだから、某ツンデレの方が合うかなーって」

「うふふ。晶さんと一緒に相談したのですが、やはり本人に聞いたほうがよろしいかと思いました。それで、スケさんにこの話を持ちかけましたら……」

見事に乗ったわけね……。

ていうか、いつの間に……。

「べ、別にこの格好もかわいいだなんて思ってないんだからねっ!!」

……ツンデレだーっ!!

ま、まあ確かに声優ネタならしょうがないような、しょうがなくないような……。

となると、靖也君が同じネタで学生服を着ていて、あっちの相方も学生服だから……なるほど、だから靖也君は変わってないわけだ。

でも靖也君がネタに走ることはないだろうな……と思っていたのは一瞬だけだった。

そういえば私、前に靖也君にその小説貸したんだった。

最近、靖也君もライトノベルに興味を持ち始めたんだっけ。

といえど、そんな一抹の不安は杞憂みたい。

「……てなわけで、今は保留しといてやる。だけど、てめぇが怪しげな事をしやがったらただじゃおかねぇぜ、最上!」

「酷い! 乙女に向かってただじゃおかない、って。きっと私はその衣服を剥かれ、シミ一つない柔肌を脂ぎったごつい掌で蹂躙され、大事に大事に守り続けてきた操を、その人が正視するのを躊躇うほど醜い獣欲をさらけだしてお奪いになられるのね! うっうっ……」

「おいたわしや、晶さん。うっうっ……」

「もうそのエロスネタはえーっちゅーねん」

なぜか関西弁でツッコむ私。

ていうかそんな微妙に想像が出来てしまう陵辱モノの描写を言うな。

しかもあんた、男だろ。

「マックスさんが何だろうがいいだろ? さっさと広島市内へ行こうぜー」

「ほうよ。ウチも荒井の活躍みとうてしゃーない」

話し合いが嫌いそうなまささんと、宏縞の活躍を見たいアリサさんが意見を主張した。

確かにここに釘付け、というわけにもいくまい。

慎重派の最右翼……なんか微妙に描写が悪いんだけど……である私としてはもっと慎重に行動すべきと思うが、周りはやはりそうは思っていないだろう。

とりわけ行動派である面々は、動ける機会さえあれば即座に行動に移したい、とそのうずうずとした仕草が物語っている。

もっともそんな悩みなんて、結局のところは杞憂だったのだが……いろんな意味で。

「「見つけたぞ! 女王アリサ」」

「違うよ。ウチはアリサ様の影武者をしとる、森嶋久美言うんじゃよ」

くおら、勝手に人の名前を使っているんじゃない。

とかいうツッコミはあるにはあるけど、とりあえず置いておくことにする。

私たちの目の前に現れた男二人は、堂々とアリサさんを指でびしぃっと指し、声高々に言うのだが、アリサさんに一蹴されている……んだけど……。

真顔で嘘つくなよ、女王様。

とか思っているとこっそりとアリサさんは私の耳元でささやいた。

「ウチは皇務で政治もやっとるから、この手の嘘は割りと得意なんよ」

嘘を自慢すんな。あとウインクも。

「そんなことはどうでもいい! 僕たちは影武者である貴様らを倒し、依頼主に送り届ける!」

「そして本物だと嘘をつき、成功報酬バーン!!」

「「完壁!!」」

……おーい、何が完壁やねーん。

しかも完璧の“璧”が“壁”になってるし。

あともっと言ってしまえば、この二人は非常によく似た男たちだった。

口ひげがトレンドマーク、っていった感じで鼻が大きめ。

もっともそれらの特徴は姿で完全に埋もれていたんだけど。

なんつーか、二人ともオーバーオールでお揃いなのはいいんだけど、背の低い方が赤で高い方が緑の服。

んでもって、帽子も同色のものを使用していて……。

「僕の名前は毬男(まりお)!」

「僕の名前は類似(るいじ)!」

「「ミスターニンテンドー兄弟だーーーっ!!」」

……まあそんな感じである。

ちなみに私たちも、謎知識の探求者二人である格闘王さん、スケさんと同意見である。

「ふふん。私たちも負けてないぞ」

「って、あんたもあおるなやーーっ!!」

晶さん……あんた、本当に引っ掻き回すの好きやな。

ちなみに私は標準語を使ってますよ。

ホントデスヨ。

晶さんは言葉を放つと同時に、どこからともなく、剣というには短く、ナイフと言うには長い、二本のショートソードを取り出した。

「双剣!」

で、晶さんに続いたのは意外にもスケさんと清水さんの二人だった。

「「太刀!」」

さらに二人に続くのは江尻さんで、やっぱりどこから取り出したのかわからない……銃の種類は知らないけど銃。

「ライトボウガン?」

で、まささん。

「大剣!」

格闘王さん。

「ランス!」

「「「「「「我ら、魔物を狩る者たち!!」」」」」」

六人はそれぞれが思い思いのポーズをとって、毬男と類似の二人に見せ付けた。

どかーん、と六人の後ろで爆発音と炭酸ガスの演出があったのだが、これは最初に晶さんと大鳥さんの二人が登場したときの使いまわしだろう……多分。

で、その大鳥さんは手を頬に当てて「あらあら」と笑顔で呟いている。

あらあらじゃないっ!!

おかげで私たちツッコミ組(私、靖也君、鷹木先生、上杉さん)はシンクロしてため息をつくしかなかった。

こんな展開に慣れた、というととても悲しくなる。

「僕たちに邪魔をするというのであれば、容赦はしないぞハンターたちよ!」

「僕たちの息の合ったコンビネーションを見せてやる!!」

いやいや、ハンターじゃないですよ、私たち。

とはいえ宣戦布告をされている以上は対応しない訳にもいかないだろう。

私たちは誰もが誰も、身毬男と類似の二人がどのような行動を起こしても大丈夫なように腰を落として身構える。

某ハンターズは各々の武器を構えるのは当然として、徒手空拳の靖也君や、鷹木先生、長倉さんのバカップル二人も身構える。

大鳥さんは小口径の拳銃を一応携帯、上杉さんは二丁の大口径の拳銃を掌でくるりと回して身構えた。

おお、上杉さんカッコイイ!!

と、そんなとき私の耳に長倉さんの息を呑む音が聞こえてきた。

そうだよね、彼女の危機でもあるもんね。

彼氏としては、彼女の命は自分の命を賭して守るものだもんね。

……多分、私にはそういう人は一生出来ないんだろうな。

無意識的に靖也君を呆れるような目で見て、軽いため息をついた。

少しだけ垣間見る私の未来に苦笑しつつ、毬男と類似の二人の行動を見続ける。

「食らえっ!」

「必殺の!」

二人は腕を引き、腰溜めに構えた。

それに対し、私はあえて力を抜く。

「ファイヤー、ボォォォォォル!!」

ふ、ふぁいやーぼーる!?

この魔法のない世界で魔法みたいなことを?

とか思っていたら、毬男と類似は溜めていた腕を私たちに突き出すようにしてあるものを放り出す。

それは確かに名の通りの炎だった。

本当に予想外であったが炎である以上、どうしたものか。

そしてその炎は私たちに向けて突き進む……んだけど。

それは放物線を描いて地面にポトリと落っこちた。

原作のそれとは違って、バウンドすることもなく、その小さな炎はささやかな明かりを照らすのみ。

よく見るとそれには黄色っぽい細長いものが、炎からにゅっと伸びているようだ。

それが何であるかわかったところで、私は呆れかえった。

「……何でマッチを?」

長倉さんが仰る事もよおおおおおおおおおくわかります。

私だって、知りたい。

「くうっ、まさか僕たち兄弟の最大必殺技が敗れるとは!!」

「兄さん。どうしよう!!」

こんなの敗れない奴なんて、子どもでもいないわよ……。

「フラワーの力で炎を使ったというのに……何故だっ!!」

「兄さん……」

よく見てみると、この人たちの手にはマッチ箱が握られているみたいだ。

目を凝らしてみてみると、そのマッチ箱には派手な文字で「キャバレー『フラワー』」と書かれていた。

「何の! 僕たちにはまだスターの力がある!」

「これできっと無敵だよ、兄さん!!」

……またキャバレー『スター』とかいうオチじゃないよね?

と、少し鋭い目で見ていた私だったが、懐から取り出したのはマッチ箱というわけではなかった。

手に持っていたのはスター……じゃなくて星の形をした生き物、ヒトデだった。

うねうねとヒトデは動き、手袋の上から毬男の手に絡みつく。

それに慌てた毬男は、ぶんぶんと手を振ってヒトデを振り払おうと試みるのだが、やはり絡みついたヒトデはなかなか上手く離れない。

「彼らは、暗殺者。もっともその腕前は下の下。虫一匹倒すことも出来ないと言われるお馬鹿な暗殺者です。わたしもはじめて見させていただきましたけど」

大鳥さんは最後に「うふふ」と付け加えて、二人の説明をしてくれた。

おおよその見解はついた。

多分彼らは暗殺者としては仕事にならないため、格安で仕事を探し、それに食いついたのがアリサさんを殺そうとする連中なのだろう。

確実にアリサさんを殺すために、青森はもちろん、こっちにも人員を派遣した、という所までは晶さんとアニマルズが捕らえた暗殺者から予想できる。

けどどこかで、青森の偽アリサさんが本物なのだという偽情報が流れ、青森に人員を集中させたのだろう。

でも毬男と類似はあくまでこちらのアリサさんが本物だと思い込み、また青森の偽アリサさんが殺せなかった場合も考えてこっちが本物だということにして、首を差し出す、という魂胆なのだろう。

こっちが本当は本物なので結果オーライだとは思うけど、はっきり言って拙い、拙すぎる……。

暗殺騒ぎでゴタゴタとなったが、結局はこんなオチだった。

スケさんと清水さんの二人が峰打ちであっさりと二人を仕留め、晶さんが手際よく二人を縛っていく。

任務完了……のはずなのに、全然仕事をしてないような気がするのは気のせいだろうか?


ナレーション:「こうして森嶋久美の活躍により、今日もまた悪の芽が摘み取られた。だが、非日常がある限り森嶋久美の戦いは続く。頑張れ、負けるな森嶋久美。読者の笑いは君にかかっているのだ!」


そんなの私にかけるなーーーーーっ!!



◇午後8時◇


その後、暗殺者どもを無視して私たちは封鎖が解けた厳島を去ることに成功した。

ちなみに暗殺者どもを無視した理由としては非常に簡単。

殺す意思としても成り立っていないからだ。

つーか、こんなのを告訴したところで時間の無駄極まりないって。

まあ流石に途中で着替えを済まし、私たちは広島市民球場へと向かった。

晶さんと清水さんの対立関係もどこか和らいだようで、慣れ慣れしく接する晶さんに諦めたのか、清水さんたちは次第に打ち解けているようだった。

道中、携帯電話で見るテレビから、青森で起きたクーデターが終結したことがニュースとなっていた。

その詳細を見て、死者の中に父さんと母さんの名前がなかったことに、娘としてはほっと胸をなでおろすところだった。

しかし助け出された影武者さん、えらくアリサさんに似てたし、アリサさんより大人びた口調で、さらに言えばなまりすら感じさせない様子だった。

むしろアリサさんより本物の女王っぽい。

ちょっとだけ気になったこともあった。

まずそれを見て、格闘王さんがアリサさんと影武者を見比べて、こう言ったことだ。

「う〜〜〜ん。ピカさんといい、この美女といい、どこかで見たことあるような気がするんだよな」

私も、何故か格闘王さんと同様の意見もあったことだし、内心で頷いていた。

それと、格闘王さんだけでなく、晶さん、大鳥さん、上杉さんの三人もどこかほっとした様子だった。

ともあれ私たちはこの事件の関係者でもあるため、下手したらクーデターに巻き込まれていた可能性もあったし……まあ実際巻き込まれたんだけど。

結局は、大したことがなくてよかった……。

と思っていたのは途中までだった。

現在、宏縞対巨神、四回裏、0対0で残塁なし、ワンストライクツーボール。

「なんじゃて、もう一回言うてみい!! 黒田がそないなことすると思うとるん!?」

「うるせえ!! あれのどこがわざとじゃないって言うんでぃ!! 低橋(ひくはし)の肩に当てやがって!!」

「ああん!? そない言うたら、さっきの判定はなんよ!? 金で審判買収しとるんと違う!?」

「てめぇ!!」

「やるんか!?」

「てやんでぃ! こちとら江戸っ子でぃ!! 売られた喧嘩は買うのが任侠ってモンよ!!」

現在、アリサさんと清水さんがとてつもないオーラを放ちながら睨み合っていた。

アリサさんは赤いオーラの背景に、ごっつい顔の鯉が見える……ような気がする。

対する清水さんは黒いオーラの背景に、これまたごっつい顔の変わった兎が……見えるような気がする。

「「スタンド出したァァァァ!!??」」

こら、格闘王さん、スケさん、顔がジョジ○風になるな!

鷹木先生と長倉さんも、ラブラブオーラを放ちながら現実逃避しないで!

まささんも、笑ってないで二人を止めて!

靖也君と上杉さんも、ため息ついて普通に野球観戦してないで!

江尻さんも、清水さんをあおらないで!

晶さん、乱闘チケット売るなーっ!

大鳥さんも「あらあら」で済まさないっ!

周りの観客も、選手たちも二人の乱闘に乗っからないで!

ホントに、ホントに……。

「私の平穏を返せーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」


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