投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

オフ会に行こう!


「厳島に行こう!(前編)」

◇午前10時◇


私と靖也君とアリサさんは、陰鬱な空気を纏いながら目的の場所にたどり着いた。

こんな空気を纏う理由は簡単。

乗り物酔いである。

確かに、ごく普通の乗り物だったら私だって酔ったりはしない。

だけど私らが乗った乗り物というのがなんと、音速を超えるジェット機だったのだ。

確かに早くに広島へとたどり着くことは出来たのだが、あの何Gだったかわからないけど加速度の影響から、私たちは全身に痛みが残り、しかも酔いまで回るという始末。

「……ふぅ、何とか回復はしてきたけど」

私はミネラルウォーターを口に含んで、靖也君とアリサさんの様子を見る。

靖也君はまだ大丈夫そうに見えるけど、アリサさんは見た目が華奢で深窓の令嬢っぽいこともあり、まだきつそうだ。

「ウチはまだきつい〜。ウチかて、ジェットがきついじゃのんて思わんて」

ぶつぶつと、アリサさんは愚痴をこぼすけど、その言葉が私の耳に届くことはなかった。

何故なら私の目に、今回のオフ会のリーダーと言うべき存在である、鷹木先生がいたからだ。

「お久しぶりです、鷹木先生〜」

私はぶんぶんと手を振り、鷹木先生はそれに応えてくれた。


もう読者の皆は知ってるかと思うけど、説明はしておこう。

私の名前は森嶋久美(もりしま くみ)。

何処にでもいる、ごく普通のパンピーである。

……そこで、顔に疑問符をつけた奴、前に出ろ。

ひんむいて、どつきまわしたる。

……こほん。

続きだけど、発端は鷹木が建てたHP。

そこで、鷹木先生の作品を愛する読者の皆様方が集う、いわゆるオフ会だ。

前のオフ会は『木下隆一』こと私。

小説書きとしての実力は相当なものなのに、その割には想像以上に若く、スタイルもいいというパーフェクトな『鷹木きめら』先生。

見かけだけなら軽そうに見えるけど、思いのほか博識(ほとんど無駄だけど)な『深紅の格闘王』さん。

他の面子は用事が重なった影響もあって、この三人でのオフ会だった。

……あんまり思い出したくは無いけど、第一話を参照して欲しい。

そして今回は、ゲストを含め、はっきりいって大人数。

挨拶なしでは、私たちには彼らが誰なのかわからないだろう。

「えーと……これで全員ですか?」

「あ、いえ。まだ『シングルマックス』さんと『ピカの孫』さんが来てません」

「あ、その点は心配しなくていいですよ。ピカさんは私と一緒に来ましたから」

ちらりと視線をアリサさんに移し、そんな彼女はにこやかに手を振る。

そこで初めて、鷹木先生はアリサさんに気づいたのか、驚いたような表情を浮かべていた。

「……外人だったのですか」

「……私も昨日、初めて知ったのですけど」

早めに自己紹介をしといた方がいいのだろうけど、まだ『シングルマックス』さんが来ていないようなので、ぐっと意見を押し込むことにした。

誰が誰だかわからないけど、とりあえず辺りを見回し、今回のメンバーを確認することにした。

美人でスタイルよくてメガネっ子、これは鷹木先生。

ぼさぼさの茶髪という髪型で、赤を基調とした服で統一してるのは格闘王さん。

それ以外の面子を見てみる。

まずは鷹木先生の知り合いらしく、鷹木先生と会話を弾ませている、赤毛の女の子……アンとかいう名前じゃないわよね?

格闘王さんと同じくお調子者っぽい男性。

その彼の友人で、鷹木先生のことを時々じーっと見る男性……ストーカー?

それに私と靖也君とアリサさんで現在8人。

マックスさんは連れがいるとか言っていたから、10人以上は確定かな。

辺りを見渡した私だったが、その出来事はあまりにも唐突だった。

どこかで聞いたことのある声で、遠くから「はっはっは……」と笑う男の声。

私の役に立たない、非日常レーダーが赤く点滅していたのだが、それは時既に遅かった。

「誰が呼んだかポセイドン。タンスに入れるはタンスにゴ○……」

「……ってどこかで聞いたことあるー!!」

謎の男の声に、真っ先に反応したのは謎知識が豊富な格闘王さんだった。

……確かこの入り方、150巻を軽く越える某少年誌の漫画で、よくスペシャルで登場するキャラの台詞だったよーな……。

「それは置いといてダス、愛と正義のツープラトンを奏でる戦士、極悪怪盗『シングルマックス』ダス!」

「同じく……わたしは本名でいいですね。大鳥蘭(おおとり らん)、参上!!」

二人の登場と同時に、ご丁寧に火薬を爆発させたような音と、名乗りを上げた二人の横から炭酸ガスまで噴射する始末。

しかも二人はいかにも「決まった……」という満足げな顔をしている分、性質が悪い。

つーか、正義を奏でているのに極悪って、矛盾してるし。

「とぅっ!」

ちなみに、二人がいたところは三階建てくらいの屋根の上で、二人ともそこから飛び降りた。

格好良く飛び降りれば御の字だったのかもしれないが、二人ともその辺は、お約束というのを心得ていた。

「ぐおっ! ぎゅむっ!」

晶さんの、一回目の声は着地に失敗したのか足をつぴぃぃぃんとさせ、二回目はそんな彼の上に蘭と名乗った女の子と犬が加速度を従えてのしかかって来たときの音である。

ちなみに普通なら大怪我のレベルだと思うんだけど。

「ぐははははは、落下ダメージ如きでやらせはせん、やらせはせんぞーっ!!」

「晶さん……素敵……(はぁと)」

頭から血を流しながらだから、晶さん、空元気だと思うんだけどー。

ていうか、その台詞じゃすぐ駄目になりそうな気がする。

何故か、彼の連れである犬も、ため息をついたように見えた。

ともあれその辺りから、私たちの思考はクリアになり始めたのだと思う。

この特徴的な、語尾に「ダス」をつけ、三つ編みおさげにチョビ髭……。

「「って、『シングルマックス』って晶さんですかーっ!!?」」

「お久しぶりダス。きめらちゃん、木下ちゃん、格闘王君」

私と鷹木先生の叫びを、晶さんはあっさりと受け流す。

相変わらず晶さん、テンション高いなー。

「いや、実はダスな。オフ会に参加させてもらって、活動内容が気になってダスな、きめらちゃんのサイトを見せてもらったんダスが結構はまって……。大河君も「趣味を見つけることは悪くない」って言ってくれたダスし」

『シングルマックス』さんが晶さんだというのは予想外だけど、ともかくメンバー全員が揃った訳だ。

一部メンバーは、晶さんの強烈すぎる個性に目を疑っているようだけど、このテンションを知っている私と鷹木先生、格闘王さんは、少しだけ懐かしさすら感じる。

「で、では、まだ自己紹介がまだですし、私から……」

「ストップ、鷹木先生。やっぱり主催者なんですから、トリでお願いします。というわけで私からさせていただきます」

やっぱり、メインはトリっしょ。

というわけで、自称鷹木先生のファン第一号(自称)である私から、自己紹介を始めることにした。

何話せばいいかなー、って考え、一瞬靖也君やアリサさんを横目でちらりと見て、決めた。

「ハンドルネーム『木下隆一(きのした りゅういち)』、本名は森嶋久美です。高校一年生で、趣味は小説書き、得意スポーツは水泳、特技はドラムを叩けることです」

ごく一部のメンバーは、私が女性であることを知ったためか、驚きを隠せないでいる。

ていうかこの反応、前回のオフでの鷹木先生と格闘王さんと一緒だし……。

……鷹木先生も格闘王さんも、私がまだ高校一年生であることに驚いてるみたいだし……。

「あ、ちなみにコレは勝手についてきた猫の、弓月宏(ゆみづき ひろし)ね」

「にゃぁ」

私は、器用に私の肩に乗った宏を指して言った。

少々スケベな猫ではあるが(実際、鷹木先生やアリサさんや蘭さんを好色そうな目で見てるし)、これが結構賢い。

私が宏を警戒しているのが見えたからか、肩を落としたような仕草を見せた後、晶さんが連れてきた犬の背中に飛び乗って、そこで丸くなる。

猫と犬は仲が悪いと良く聞くが、晶さんの犬は嫌な顔一つ見せず、反応もしないでなすがままであった。

「瞳に木下さんのこと伝えたら、勧誘しそうだな……」

これは、鷹木先生のつれである、赤毛のアンな子の発言である。

そしてこのことに、鷹木先生も頷いていた。

「ボブカットで名前が久美……木下さんってもしかして、フリッカージャブを使える強面(こわもて)のお兄さんとかいない?」

「……格闘王さん。確かに兄はいますけど、妹の私から見ても美形ですよ……まあ色々と問題はありますけど」

そう、妹である私の胃をキリキリと痛めつけるような事象がね。

一瞬だけ私はナイーブな状態で、背景にオドロ線が浮き上がったような感覚に見舞われたが、それも一瞬にこと。

「それより、私は別にナースとかやってませんからっ! お兄ちゃんはボクシング選手じゃありませんからっ!」

ええ、決して私の苗字は間柴(ましば)とか 呼 ば れ て ま せ ん か ら!!

「では次は俺。ハンドルネームは無いけど……一応久美さんにならって『二ノ宮瑞穂(にのみや みずほ)』ってことにしとく。本名は佐々木靖也(ささき せいや)。久美さんと同じ学校で同学年、趣味は久美さんとの他愛もない会話、得意スポーツは……全般で得意だ。特技はギター。本当はクラシックなギターが得意だけど、久美さんや茜(あかね)さんたちと一緒にアマチュアバンド組んでエレキギター弾いてる」

「って言っても、仲間内でのみのお遊びなんだけどね」

ちなみにこの仲間メンバーは『転生団』の裏会員のメンバー全員(つってもたった四人……じゃなくて三人と一匹なんだけど)で構成されている。

といっても茜さんの趣味でバンドやってるんだけどね。

まあ聞かせる相手もいないし、ただ全員が揃って音楽活動をしてるだけなんだけど。

「一つ質問、いいですか?」

「はぁ、構いませんが……えーと、鷹木……さんでしたっけ?」

「そのハンドルネームの元は? わざわざ女性名を名乗るのも気になりますし」

「15年程前、強盗殺人で犠牲になった主婦の名前からとってます。久美さんだって、友人の叔父……故人ですけど、そこから名前取ってますし」

一応、靖也君はけろりと答えるけど……引くって、その答え。

もっとも、私としてもこの件に関してはツッコんでほしくないなー。

「は、はぁ……」

よかった。鷹木先生は追及してこないみたい。

「次はウチじゃのう。ハンドルネーム『ピカの孫』。本名はアリサ・ジョゼフィーヌ・カタリナ・サンタマルタ・エリス・ジェリカ・ジェシカ・マグダレーナ・アンジェリカ・エレンディア・アガタ・モニカ・ナンシー・クロエ・クリスティーナ・クローディア・マリア・ラ・ルグリアっちゅー、えらい長い名前なんじゃが、アリサでええよ。23歳で現在結婚相手募集中。趣味は野球観戦、得意スポーツはやっぱ野球。特技は政治?」

「名前、長っ!!」

お調子者っぽい人のツッコミには、私も内心同意した。

初めて会ったときから、アリサという名前を使っていたのは知っていたけど、こんな名前だったのね……。

スペインの方では、苗字をどれだけ言えるか、というので会話が成り立つらしいし、海外では長い名前はそうそう珍しいものじゃないのかなぁ?

「次は俺ダスな。ハンドルネーム『シングルマックス』、本名は最上晶(もがみ あきら)というダス。元高校生で、趣味は学業に勤しむこと、特技はジャグリング、ピッキング、料理、トラップ作成、説得、変装、声真似、歌、怪しげな副作用のある薬品作成とか色々あるダス」

「マックスさん、多才じゃね。ウチの知り合いにもそんな女の子がおるけぇ、親しみがわくっちゅうもんや」

「……流石、『全てを知る者』ですね、晶さん」

「ふ、違うダスよ、木下ちゃん。俺は『全てを汁物、味噌汁化計画の会』会長ダス!!」

「訳わからん……」

というか、わかる人を見てみたいような気がする。

彼の連れっぽい人も、少し苦笑気味にしているみたいだし。

「ちなみに俺が連れてる犬の名前はタイガー君ダス。俺の親友の名前から取ってるダスよ」

ぺこりと頭を下げるタイガー。

……宏並みに賢い犬だ。

「ではわたしですね。ハンドルネームはありません。大鳥蘭、蘭とお呼びくださって構いません。とある高校の三年生をさせてもらってます。趣味はわたしの友人、明日香さんたちとのお喋りに興じること、特技は射的です」

大鳥さんは、この面子の中では一番おとなしそうな人だった。

大人びてるというか何というか、妙に落ち着き払っている。

ウェーブのかかった黒髪は肩まで流れるように落ち、お嬢様を彷彿とさせるような純白のワンピースで、しかも丈は長め。

私じゃあこんな雰囲気、逆立ちしても出せない。

少し羨望の混ざった視線で見ていた私に対し、同性でも出しえない色っぽい感じで、ミステリアスに笑う蘭さんだった。

「うにゅ、次は俺か。ハンドルネームは『深紅の格闘王』で、本名は真田淳二(さなだ じゅんじ)。高校二年生で、趣味は……何でもいけるぜ」

……格闘王さんはああ言ってるけど、前回のオフ会で結構マニアックな言葉を並べられてたから、多分アニメ、ゲームってとこだと思う。 どうして男の子って、こうも見栄を張るかなぁ……。

「特技は……一子相伝の暗殺拳とか?」

「……ケンシ○ウ?」

「お前はもう、死んでいる」

「あべしっ!!」

ちなみに台詞の順は、靖也君、晶さん、アンちゃんの順である。

てーか、皆さんノリよすぎ。

そしてそんな中で、私の腕をちょこちょこっと引っ張ってくる人も。

「ね、ね、クミ。ケンシロ○って誰のことじゃの?」

「……日本が生み出した、漫画のキャラです」

「ウチが知っとるんは、バ○と巨人の○くらいじゃけど……。あ、何で○キを知っとるんかゆーんは、ウチがちっこい頃にウチの国で、女ハンマユウジロウとかゆーんが一人で殴りこみかけてきたことがあってな、そのハンマユウジロウとかゆー名前の語源を調べたことで知ったんのんじゃ」

……北○を知らず、バ○を知ってる外人がいますか。

「……それにしても、その話、なんか一度父さんから聞かされたような気がするなぁ。レディオーガとか、女ハンマユウジロウとか」

「本名はサチコクスノキ言うてたらしいんじゃけど」

「名前までは覚えてないよ」

……何でこんな話で盛り上がってるんだろ、私たち。

「じゃあ次は俺〜。ハンドルネームは『まさよLOVE』で本名は野田右馬之介(のだ うまのすけ)。紫英館高校の高校生。趣味と特技は秘密ってことで許してつかぁさい」

……ああ言うのは、お調子者っぽい感じの男性だ。

まささんがそのように、趣味や特技を隠すのはまあごく普通の行為だろう。

だけど……アレって実際は……。

「絶対、この作者が設定を知らないからやむを得ず、だよな?」

……靖也君、それ言っちゃ駄目です。

「では私が。ハンドルネームはありません。名前は長倉平八(ながくら へいはち)。野田と同じく、紫英館高校の高校生です」

「愛するカノジョが心配でついてきたんだよな」

「の、野田っ!!」

長倉さんはまささんを顔を真っ赤に染めながら叱咤する。

その後、ちらりと鷹木先生の方を見て、そして彼女も長倉さんと同様に顔を赤くしてうつむいてしまう。

長倉さんが鷹木先生のストーカーかと最初は思ったんだけど、そうではなくて恋人が心配だったんだ。

うらやましいねぇ、若い恋ってぇのは(←ちなみに私は、鷹木先生と同学年である)。

まささんも、長倉さんに対して同じように思ったのか、楽しそうに笑っていた。

「じゃあ今度はオレ。ハンドルネームは『炎のスケバンU世』で本名は名越みずえ(なごし みずえ)。聖ガブリエル女学院っていう女子高の一年生だ。趣味はアニメとかゲームだな。特技はベーゴマとかヨーヨーとかそういうホビー系。格ゲーなんかもイケるぜ」

「うにゅ、何かオレと気が合うっぽい?」

「格闘王さんとは、一度格ゲーで勝負したかったんですよー」

「愛ちゃんのような人種は、どこにでもいるんダスな」

妙に、ゲームやら何やらの会話が横行していた。

私自身はそれほどゲームをやる、って訳じゃあないけどまあ人並み程度にはたしなんでるつもりだ。

実際身体を動かすほうが好きなヨーコやメグというメンバーじゃ、あんましそういう方面に娯楽を求めないだけ。

それに私は古いゲームの方が、知識があったりする。

マッハで殴ったり蹴ったりするヤンキーアクションだったり、戦場の女将さんだったり……訳わからん。

インベーダーとかは極めようと試みて、ナゴヤ打ちとかマスターしたっけ……。

「久美さん。流石にそこまで行くと、ついていける奴はいないと思うけど……」

「……靖也君、人の心を読まないでよね」

「でも、段差使っての無限1UPとか、やってみなかった?」

「そうそう。微調整しないとズレて失敗するのよね!」

「へー、木下さんたちって、結構……。じゃあ二人が一番難しいと思うレトロゲーって、何ですか?」

「「パシフィックの謎?」」

「そうそう、あれって、無敵とらないとマトモにクリアできる気がしないし」

「それに、一気に進もうとすると、必ず雑魚に触れてアウトだし」

「制限時間もシビアだし」

「攻撃手段もヘボいよな」

「他には……北野の挑戦状とか?」

「そうそう、あれは……」

スケさんの言葉に思わず反応して、私と靖也君はレトロゲーについて思わず互いに熱く語ってしまう。

その後、ちょっとの段差で即死のヘボ主人公で有名なゲームを何週してクリアしただとかを語ったりして、無意味に格闘王さんやスけさんの注目を浴びることとなった。

……私ら、ホントに高校生かよって思う、今日この頃。

「え、ええっとでは私が最後ですね。ハンドルネーム『鷹木きめら』で、ホームページの主催者です。名前は赤橋園美(あかはし そのみ)でみずえさんと同じ学校に通ってます。趣味は読書と散歩、特技は料理です」

前回のオフ会でも思ったけど、まっとうな女の子だよねぇ。

趣味が読書で(まぁ、いわゆる漫画好きを隠したような言い方かもしれないけど)特技が料理。

なんつーか、バリバリの女の子って感じ?

……まあ問題があるとすれば、鷹木先生の趣味と特技は、実は私もほとんどが同じってことか。

もっとも、私の特技の所以は、家事をしない母さんにあるわけですけど。

それに……鷹木先生はごく普通の女の子というには……ちょっと……。

そこらへん、私は前回のがトラウマになってるらしい。

とりあえず、このデコボコかどうかは知らないけど、10人のメンバーで構成されたオフ会が始まろうとしていた。

まさかこれが、ドタバタコメディの始まりだとは誰も知らず……いや、誰かは知ってたかも。



◇午前10時半◇


ちなみに、今回のオフ会の目的は、厳島の神社である。

日本三景の一つ、松島、天橋立と並ぶ、安芸の宮島と呼ばれる場所だ。

一応、知らない人には教えとくけど、海に浮かぶ赤い鳥居で有名な場所。

この場所を提案したのは、ピカさんことアリサさん。

昨日会話した際に聞いた話だけど、祖母が広島出身にも関わらず、アリサさんは一度たりとも広島に行ったことがないのが理由らしい。

で、その祖母から聞かされた宮島の話がとても印象的だったのか、興味をそそられたそうな。

そんなわけで、私たちは駅から少し歩いたところにあるフェリー乗り場に来ている。

一応島なだけあって、交通手段は船なわけだ。

「……」

そんな中、私は早くもグロッキー状態だった。

多分理由はツッコミ疲れ。

いきなりツッコミが多かったような気がするし……例えば晶さんとか。

「あの……大丈夫ですか、木下さん?」

「……まあ、ね。ちょっと気疲れしちゃっただけですよ、鷹木先生」

「木下さん。本当に大丈夫ですか? オレ、流石に心配で……」

「私も、スケさんにみっともないところを見せちゃったみたいだし……ごめんなさい」

やっぱり、同じ学校出身なだけあって、鷹木先生もスケさんもいい人だなぁ。校風かな?

まっとうな人ってのはこうでなきゃ。

「それより、スケさんって?」

「あ、名前が長いので、私の中で略してみました。駄目ですか?」

「じゃあ園美がご老公で、長倉がカクさん、格闘王さんとかまさLさんあたりがうっかりハチベエとか?」

「それだと私がカゲロウおギンになりませんか?」

私、お色気役は嫌なんですけど……。

他の人から見たら、結構スタイルよくて引き締まっているらしいんだけど。

けどそれとこれとは関係なしに、そういうのは嫌です。

靖也君から言わせると「そんなスタイルを隠すなんて、贅沢な」とか言われるのがオチなんだろうけど。

余談だけど、私は前回のオフ会同様のパンツルックである。

正直、スカートなんて制服以外では着たくない。

「ところで、皆さんは?」

「楽しそうに会話してます。皆、それだけ小説が好きなのでしょうね……」

「それを集わせたのは、鷹木先生ですよ」

くくくっと笑いながら言った私の発言に、鷹木先生は面白いように顔を真っ赤にさせた。

うーん、真面目でからかいがいのある女の子だ。

「あ、木下さんで思い出しましたけど、『クロスナイツ』の最新巻ようやく出ましたよね」

……あのー、鷹木先生。

ナンデソレヲワタクシノメノナマエデオモイダスノデショウカ。

「それオレも見たぜ。オレはOVAで出てから見始めたんだけど、何か作風変わったよな」

「そう、そうなんですよ! 以前まではリアリティと言えば聞こえはいいのですが、妙に生々しい描写が多かったのですけど、さっぱりして見やすくなったんです。ラセツとルースの教官二人が織り成すラブコメも、私好みで好い出来になってます」

「は、はぁ……」

「それでふと思ったのですけど、近作から妙に木下さんの文章に似始めてるんです。もしかして……」

「もしかして……?」

「木下さんって、弓削先生の娘さんとか?」

「違います」

よかったぁぁぁぁ……。

そういう風に間違えてくれるとは……まあ納得もしないんだけど。

まだしばらくは、ただの女子高生でいたいし。

「それは置いといて、スケさん。クラリスの絵、ありがとうございました。メールにも書きましたが、すっごいよかったです」

「へへへ……オレも描いたかいがあるってもんだぜ」

ふぅ、上手くごまかせた。

「あ、見えましたよ、みずえさん。あれが有名な……」

鷹木先生の言葉に、私とスケさんは振り返り、鷹木先生の視線の先にあるものを見た。

それは真紅というよりは朱色に塗られた大きな鳥居である。

私らが知るのは海の上に浮かぶ鳥居なのだが、今は時間帯的に引き潮らしく、砂地が露出している。

ちょっと残念がっている間に、鷹木先生はデジカメを引っ張り出してその光景を焼き付けていた。

「私も撮ろうっと」

私はデジカメなんて高尚な物は持っていないので、携帯電話の写真で代用である。

どーせ私は二流市民の出ですよーだ。

……ってまあこうやってごく普通の一般人を装って、はしゃいで見せているけど、私はその実、周囲を警戒していた。

いや、正確には少し前から私たちを尾けている三人。

一人は角刈りに着流しっていう、今では考えられない時代錯誤男。

だけどその強面からは想像できないかもしれないが、顔にはまだ瑞々しさがあるため、見かけより若いのかもしれない。

そんな彼に寄りそうのはこれまた今では想像できない、着物を着た女性。

女性らしいラインとはお世辞を抜けば、到底言えるレベルじゃないんだけど、だからこそより着物が似合う美女だ。

いや、美女というには可憐でかわいらしく、それでいて美少女と言うには妖艶という、美少女と美女の中間といった感じの人。

少々目立つけどお似合いのカップル、ってところかな?

そんな二人の保護者なのか、二十代くらいの男性が二人に話しかけていた。

こちらはイケメンであり、なおかつ人懐っこい感じのする陽気なにーちゃんって感じ。

先ほどの二人とは違い、彼だけは洋服だ。

……あの人たちが、もしかしたらアリサさんを狙う暗殺者かもしれない、と思うとどうしても身体がこわばってしまう。

「木下ちゃん、顔が怖いダスよ」

「はぇ!?」

唐突に声をかけてこられたから、びっくりして格闘王さんみたいな奇声を発してしまった。

心臓が喉から飛び出るくらいびっくりした私は、どきどきした心を深呼吸して落ち着かせると、声のした方を見る。

そこには靖也君、晶さん、それに……えーっと、確か長倉さんだったっけ?

「木下ちゃんみたいな美女でも、こーやって顔に皺を寄せてると癖になるダス。リラックス、リラックス」

「は、はぁ……」

相変わらずだけど、晶さんと応対してると毒気が抜かれるのよね。

マイペースというか何というか、じゃなくて本人曰くトリックスターなんだからトリックスターか。

「え……と。アリサさんとまささんと大鳥さんは?」

「アリサさんはトイレだってさ」

「野田は別の場所で鳥居を撮ってる。何でも写真をメールに添付して送りたいそうだ」

「大鳥さんは電話ダス。ああ見えて、色々忙しい人ダスからな」

ふーん、三人ともいないのか……。

「でも、皆すぐ来るって言っていたダス」

確かに、もうすぐ上陸だもんね。

私は、皆が上陸を楽しみにしているのを尻目に、例の三人組をちらりと見た。

三人組は私たちを見ていたらしいけど、私の視線に気づいたのか、私たちから目をそらした。

あからさまな仕草を見て、私は確信する。

そして私は、靖也君にこっそり耳打ちをした。


同時期。

「あ、危ねぇ……。あの姉ちゃん、俺たちのことを見てやがるぜぃ」

「哲っちゃん。どう考えてもあたしらの姿、目立つって」

「そ、そうだな……。みずえやみずえのダチもいるみてぇだしな」

うかつに目立てないのだけど、この場にそぐわない……いやそぐわなくはないかもしれないが、今のご時勢では明らかに浮くこの二人の服装では、明らかに注目を浴びてしまう。

しかも近くに、二人の幼馴染であるみずえ、それに知人である園美の存在もあって、積極的にはなれるはずもなかった。

まあ彼らにとって幸いだったのが、みずえと園美の二人がまったく尾行に気づいていないことだった。

「はぁ……だから言っただろうが! お前らのその服じゃ目立つって!!」

「いや、だけどよ上杉さん。この着流しは俺の先祖である初代清水次郎長が、よそ者にシマを荒らされたときの討ち入りに着ていたとされている、由緒ある着流しなんでぇ!」

(いや、それって本当に由緒ある、っていう言葉が適応されるものなのか?)

思わず心の中そうツッコんだ、上杉と呼ばれる男の人は、内心はともかく外だけは苦笑して見せた。

「それに相手は、俺たちを小馬鹿にしやがった、あの最上一家の三男坊でぃ。あの野郎をふん捕まえて、ケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせてやる!!」

(お前、いつの人だ?!)

普段は『T・S・C』の面子相手に、捉えどころのない人物として振舞っている上杉だが、普段とは違ってツッコミが冴え渡っていた。

もっとも心の中でのツッコミだけど。

「……なあ、江尻(えじり)。あの血気盛んな坊やを何とか止めて……」

「哲っちゃんの敵はあたしの敵!! あたしが力になるから!!」

「……俺、スパイ向いてないのかもしれない」

裏の世界の人物というのは、そろいも揃って一癖ある人ばかりらしい。

癖のある人物たちにもまれている上杉と呼ばれる男性は、一瞬本気で転職を考えていた……というのは限りない余談である。

「それよりも、最上の三男坊を捕まえるにあたって、これだけじゃ不安じゃないか?」

「そいつは心配ご無用でぃ。俺の部下を集結させておいたから、一時間もしないうちに来るはずだぜぃ」

「ならいいんだがな……」

上杉は、今までの経験上、修羅場を多くくぐってきたため、わかる。

そこにある危機の度合いというものを。

それを頼るとすると、今回の件はかなり危険度が高いと警告を鳴らしていた。

値段の割には危険な仕事になるという想像から、上杉はため息をつくしかなかった。


で、また何故か一人称に戻るんだよね。

……正直な話、私が主軸になるのってあんまし好きじゃないんだけど……まあ仕様って奴ですかねぇ?

そんな事務的な話はさておき、私たちは厳島へと降り立った。

そして即座に思った。

あんまし口には出したくないんだけど……。

「……鹿の糞ばかりね」

……言っちゃいました。

だって、本当に鹿と鹿の糞ばかりなんだもん。

腐臭というか、獣臭い匂いが辺りを立ちこめ、鹿は放し飼い。

奈良とかでもあるんだけど、鹿煎餅まで売ってる始末。

だからこそ、卑しく鹿たちがそれを買った人、売ってる人に群がっている。

「じゃけど、クミ。戦時中は、この鹿を食っとった輩もおったんじゃ。今でこそ多いかもしれんけど、それは日本っちゅう国が豊かになりよったからこそ、こうして文句の一つも言えるんじゃて……って、ばっちゃんが言っとった」

「ふーん……」

そういえば、アリサさんのお婆さんって戦争と原爆の恐怖から生き延びたんだっけ。

と、視線をアリサさんに合わせていた間に、格闘王さん、晶さん、まささんが鹿煎餅を購入していた。

正直、お金の無駄だと思うのは……やっぱり私がけちなのかな?

「ふはははははは……。さあ食え、畜生共よダス」

……まあ晶さんは阿呆な優越感に浸ってるみたいだけど。

格闘王さんもまささんも、予想以上に群がってくる鹿たちに困惑していたり。

「ちょ、ちょっ……! おーい長倉さんよぉ、助けてくれ!」

「あのな。自業自得って言うんだぞ、こういうの」

長倉さんの大きなため息とともに無情な宣告を受け、情けない顔をしたまささん。

皆はそんな二人の様子を見て、吹き出してしまう。

「うふふ……」

その中でも、大鳥さんはとりわけ優雅に笑う。

彼女だけはいいところの出なのか、物腰が何かにつけて優雅なのだ。

……何でこんな人が晶さんみたいな犯罪者と一緒なのかが不思議。

もっとも晶さんも犯罪者らしくない、滑稽な容貌と性格なんだけど。

もしかして、ル@ンと@ラリスの関係だったりして……んな訳ないか。

本当は鷹木先生やスケさんもお嬢様学校の出なんだけど、私は聞かされてないのだからわからなかったりする。

「にしても……」

靖也君がきょろきょろと辺りを見渡すが、彼の気持ちもわからないでもない。

ついでに言えば、靖也君以外の面々も辺りをきょろきょろと見渡している。

「うにゅ、眼福だけど、何故にこんな場所でコスプレを……」

格闘王さんの言うとおり、辺りは妙にコスプレイヤーが多い。

本来、彼らは有明とかにいるのが普通で、こんな場所にいるはずもない。

場所にはまったくそぐわない人たちであるにもかかわらず、彼らコスプレ好きの人々はこの場を占領していた。

「それは今日この日、超大手のコスプレ愛好家によるHPのオフ会が重なっているからダス。いやぁ、タイミングの悪い」

……だそうだ。

相変わらず、よくわからない情報だけは仕入れてますね、晶さん。

「ともあれ、まずどこ行こっか? オレとしては早く例の鳥居を見たいんだけど」

「私も格闘王さんの意見には賛成ですけど、ここってそこしか見所ないじゃないですか。ですから、その後暇になるのが問題ですけど」

「じゃあ午前はここを回るとして……午後は広島市内に行きますか、木下さん? あっちなら平和記念公園とかありますし」

「タカギ。なら、ウチ宏縞市民球場行きたい!! 今日は宏縞と巨神の三戦目があるんじゃし、立ち見でもええから」

「でもお金はあるんダスか、ピカちゃん? このメンバーのほとんどがお金を持たない学生さんダスよ」

「ふ、マックス。ウチがおごるけぇ、心配せんでええよ」

何かトントン拍子で進むんだけど……大丈夫なのかな……終電。

私たちはまた音速機に乗せてもらえばいいかもしれないけど、他の人たちは全員電車なり飛行機だよねぇ。

特に鷹木先生、スケさん、大鳥さんあたりは年頃の女性なんだから、色々と問題がありそうな気がする。

しかも大鳥さんは、男である晶さんと一緒だし。

そんな心配をよそに、私たちは例の鳥居の近くにたどり着いた。

だが、境内に入るのにお金を取られるのはちょっと辟易したかも。

確かに重要文化財なんだから、それを維持するのにお金が必要なのかもしれないけどさ、それでも税金でなんとかしろって思うわけよ。

さらに市民からお金をむさぼろうなど、言語道断……って話が逸れた。

……いつかうちの学校が「今の日本政府は悪だから倒すぞ!」とか言い出さなければいいんだけど。

「うひょぉぉぉぉぉぉ!! 生巫女だ!!」

「巫女巫女ですな」

「ああ、巫女巫女ですな」

「巫女巫女ダスな」

……またお調子者三人組(格闘王さん、まささん、晶さん)が同調してるよ。

てーか、何故復唱する?

靖也君と長倉さんの二人は、珍しいだけだったのか、ちらりと見ただけだ。

ま、巫女衣装を着ただけで、大して美人じゃなかったこともあるのかもしれない。

「晶さんは、あのような衣装がお好きなのでしょうか?」

「ただのノリダス」

生真面目に聞く大鳥さんと、あっけらかんと率直に返事をする晶さん。

そんな様子を見ていたタイガーは、宏を背中に乗っけながら、飼い主である晶さんを見てため息をついたように見えた。

……本当に賢い犬だ。

それにしても、どこか世間離れした大鳥さんの言葉を聞くと、やっぱり大鳥さんはお嬢様なのかもしれない。

ともあれ境内は、昨今起こった台風による被害の影響からか、痛々しかった。

所々で修繕の後が見られたり、現在工事中という感じで防壁が立てられたりしているからだ。

「何かイメージ違うよな。そう思わない、木下さん?」

スケさんの言葉に私は同感し、二回こくこくと頷いた。

やっぱりこの場所で有名なのは、水に浮かぶ神社というイメージで、例の赤い鳥居も水の上に建っているイメージだ。

だが今は干潮時で、しっかりと砂場に建っている鳥居が境内から見える。

来た時間が悪すぎたみたい。

「けど、違った一面を見られたというのもまた一興ですよ、スケさん」

「それもそうだな」

ぼーっと赤い鳥居を眺めている私は、突然背中の背骨を沿うようにして優しく指の腹で撫でられた感触を覚え、驚いた。

ぞくぞくっと身体から電流を感じたかのように、私は身体を震わせて声を発してしまう。

「わひゃぁぁぁぁっっ!!」

当然そうなると一斉に不特定多数の視線が私に集まるわけで、我に返った私は力のない笑いを残してごまかす。

興味を失った不特定多数が、厳島の景色へと視線を戻すあたりで、私はその原因となる人物をにらみつけた。

「ちょっと何するの、靖也君!!」

「感じた?」

「なっ……!」

私は顔中が真っ赤になるのを感じた。

「俺だってあんな反応をするのは予想外だったよ。久美さんって、背中が弱いんだ」

「そっ、そっ、そんなことはどうだっていいでしょ!!」

火照った身体は中々冷めることしらず、どうしても感情的になってしまう私。

普段は冷静沈着にしてるつもりなんだけど、こうして感情の制御が利かなくなってヒステリックになる所を改めて考えると、やっぱり私は女なんだなーって思ってしまう今日この頃。

男らしいを通り越して、親父臭いとまで言われる私なのにね。

だがそんな私でも、あまりにも真剣な目をする靖也君を目の前にして、熱が急激に冷えていく。

「何か、黒服の奴らがうろついてる。あいつら、あの三人組の仲間かもしれない。あとよくわかんないが、フェリーの運行が止まったらしい。そんな話を聞いた」

それを聞き、私は境内を観察する風に見せかけ、辺りを見渡した。

確かによく見るとちらほらと黒い服の男たちが目に入る。

まあ2、3人程度だけど。

だが某黒い虫も、一匹見たら百匹って言うくらいだし、人数はもっと多く見積もるのが正しいだろう。

「どうしようか?」

「やっぱり、あの三人の誰かがリーダーだろ。あとはセオリーに乗っ取って……」

「敵のタマを取る、って訳ね。OK。じゃあ私があいつらを叩くから、靖也君は引き続きアリサさんの護衛をお願い」

「嫌だね」

「了解……ってえええええええっ!?」

「俺は久美さんとアリサさんのどちらを守るか、って言われたら断然前者だ。一人危険な思いはさせない」

「……困ったな。……まあアテがあると言えばあるんだけど。ほら、晶さんいるでしょ。あの人って、何でも知ってるかのように思えるんだよね。前に『全てを知る者』とか名乗ってたし」

「ホントに信頼できるのかよ?」

「できないねぇ」

「おいおい……」

「けどあの人とは今日で会うのは二回目だけど、こんな大事を知らないはずはない。というかそう言い切れる。だから予防線の一つや二つ引いてるんじゃないかなぁ?」

前回のオフ会で、鷹木先生の彼……長倉さんの電話番号とか知ってたしね。

「私は、このオフ会を出来る限り大事の無いオフ会にしたいって思うし、早めに面倒事は終わらせたい」

靖也君は私の言葉に頷いてくれる。

それだけで私はうれしく、思わず笑みをこぼした。

鷹木先生たちは皆、先へ行ったみたい。

見所はここしかないらしいけど、穴場があるのかもしれないと思ったようだ。

チャンスは今しかなかった。

……だけど私は、大きな勘違いを起こしていたのだった。

あの三人組が狙っているのは、アリサさんではなく晶さんだったということに。



◇午後11時◇


私たちは、赤い鳥居の前で彼らと相対した。

傍から言わせて貰えば、きっと不意打ちの一つや二つかけるべきと仰る方も多いだろう。

けどそれをしない理由は……一応存在する。

それは私たちの高校、私立武侠学園の掟として「相手と戦う際に、正面からぶつからなければならない」というのが存在するためである。

これに違反したものは、良くて停学、悪くて退学。

しかもどんな相手と戦う場合も、そしてどんな状況でもこれを実践しないといけないのが困り者である。

ちなみに、元々作戦等で戦うようなサバゲーとかは例外である。

そういうのは、戦術とか戦略として認められるらしい。

ともかく、私たちは自由があるとはいえこの年で高校中退とかしたくないため、否応なしに実践している訳である。

相手は、先ほどの三人組だけでなく、体格が大きいヤーさん、小柄なのだが帯刀している銃刀法違反男……とはいえほとんどの面子が懐にドスの一本でも身につけていると思うけど。

総勢は31人。

普通なら2対31では諦めたくもなるような絶望的な数字なんだけど、お生憎様、私たちはこのような状況には慣れていた。

「覚悟しなさい、暴力で人々を虐げる極道ども!!」

ちなみにこういう口上は、私としてはあんまり使いたくないのだけれど、今回は使うことにしている。

相手は見るからにカタギとは言い難い格好だし、人数が人数だから必要ないのかもしれないけど、やはり他人が見ている中での戦いだ。

中には私たちが悪と誤解する恐れもあるので、使わざるを得ない。

というか、武侠学園の常套句だ。

「ん、みずえたちと一緒にいた姉さんたちじゃねぇか……」

「野望のために他者の命を弄ぶ行為、断じて許しがたい!!」

何か、リーダーっぽい角刈りの男が言ったような気がするが、私に続けてくれた靖也君の言葉で私の耳には届かない。

ともかく、相手は妙に混乱した……というか私たちの言葉が理解できないようで、揃って首をかしげている。

だが31人の内の一人が、何かに気づいたのか、むっとしたような表情で私たちの方を睨みつけていた。

「何おう!! てめぇらガキが、何言ってやがる!! 俺らが誰なのか知ってて言ってやがるのか? ならば教えてやるぜ。この方は生まれも育ちも東京浅草、任侠集団『清水一家』の五代目、清水哲雄(しみず てつお)なんでぃ!! そして俺はその舎弟の一人、森の石松(もりのいしまつ)!!」

「別に、私はあんたみたいな三下には用はないわ」

「なっ!!」

私の挑発に我を失ったのか、石松と名乗った三下は私に向かって突撃をしかけようとした。

だがそれを止めたのは、仲間の一人らしい大柄なヤクザであった。

彼は何とか大柄な男を振り払おうとしているのだが、やはり体格差による力勝負では勝てないみたいだ。

その間にリーダーっぽい男……角刈りに着流し、中背ながらも体格はがっちりしている……なんつうか某ご長寿連載漫画の主人公みたいなイメージのあるヤクザがずいっと前に出る。

「あんたがこいつらのリーダーね。ぶしつけだけど言わせて貰うわよ。アリサさんを付け狙うのを止めて、さっさと帰りなさい!!」

私はびしぃっと人差し指を相手に向けて言い切った。

ぶっちゃけ、私的には無茶苦茶恥ずかしい立ち振る舞いなんだけど、こういうのは毅然としていたほうが格好がつく。

あ、余談だけどこんな奴らに私たちは気後れするはずもないので、怯えるようなことはない。

「は、アリサ? てめぇら、何か勘違いしてねぇか?」

「え……!?」

……で、結局決まらなかった。

うわ、無茶苦茶恥ずかしい。

そう思ったら最後で、私の顔に熱が溜まるかのような感覚を覚え、今にも逃げ出したくなる。

そんな私を尻目に、リーダー、清水哲雄は言葉を続けた。

「俺は最上の三男坊、最上晶の野郎をふん捕まえて、あの野郎を後悔させに行くだけでぃ」

「晶……さん?」

アリサさんが狙いじゃない……?

確かに勘違いではあった。

父さんからアリサさんの護衛を依頼され、私はその気になりすぎていたのかもしれない。

殺気を感じてはいたから、この人たちがアリサさんを狙っていたものとばかり思っていたのだけど、狙いは晶さん。

しかし、だからといって、いや、だからこそ私は引けなかった。

私たちを無視して『清水一家』は晶さんを追おうとしたのだが、私はそれを邪魔するかのように、両手を大きく広げて立ちはだかる。

「どういうつもりでぇ?」

「……通しません」

私は精一杯強気で睨みつける。

私は……その……結構かわいい部類に入るからそういう視線に攻撃的な意味合いは薄いのかもしれないけど、だからといってその意を見せ付けない手はない。

「確かに、あの人はふざけた方です。いつも私たちの考えの斜め前を進むような人で、今日もまた胃を痛くさせられました。ですけど、そんな彼に恩があるのも事実。前のオフ会で、晶さんは飄々としてはいましたが、私たちを助けてくれた……」

「……たった一回の恩義で、命を粗末にするつもり?」

『清水一家』の紅一点である女性が、リーダーの強さを知って言っているのかどうかは知らないけど、表情を消したような顔で私に尋ねる。

そして私の答えは……。

「はい。たった一度、されど一度。私を助けてくれた恩はたった一度でも、私が命を賭けるに値すると私は思う。だから……」

私は貴方たちを邪魔する……。

その意味合いを込めて、私は戦闘態勢を取り、『清水一家』に立ちはだかる。

靖也君も私と同じように構えてくれたのは、私の心情を理解してくれたからなのかは知らないけど。

「武侠学園一年二組、ハンドルネームは『木下隆一』、将来の夢はごく普通のお嫁さんになること!!」

「同じく武侠学園一年六組、ハンドルネームは『二ノ宮瑞穂』、将来の夢は久美さんの旦那になること!!」

……今さりげなく凄い事言われたような気がするけど、聞き流すことにした。

「「参る!!」」

今までの経験上、ヤクザと何度か戦ったことあるけど、喧嘩を売られて買わない奴はいなかった。

例え相手の気性が荒くとも、温厚でも。

『清水一家』も任侠がどうとかと言っていたけど、彼らとて例に漏れることはなかった。

「喧嘩を売られちゃ仕方ねぇ!! いけ、野郎ども!!」

「へぃ、若!!」


どかばきぐしゃ。


「すいやせん若!! あのガキども強すぎます!!」

「って数行も書かれないうちにやられてくるんじゃねぇ!!」

やっぱり三下らしく、ほとんどの奴らは私の靖也君の相手じゃなかった。

「なぁ、清水の坊や。その数行ってのは何だよ……?」

「ん、知らねぇのか、上杉さん。メタ情報でぃ」

……メタ情報かよ。

そんなことを私が思っていると、女性がいらだってきたのか、こめかみを痙攣させてきた。

あまりにもふがいない『清水一家』の三下たちを情けなく思っているのだろうか。

「ええい次だ! 次の刺客を放てい!!」

えらそうに命令こそしているが、そんな彼は先ほど、「どかばきぐしゃ」のたった七文字でボコボコにされた、三下の一人である。

彼の顔には私たちがつけた青あざが目立っている。

えらそうな発言をする三下の頭をどつくのは、若と呼ばれた角刈りの男の部下たち。

『清水一家』の中でも強者と見える。

そんな彼らがずずっと前に出て、私たちを威嚇した。

もっともそんな威嚇に驚く私たちじゃないけど。

「その強力(ごうりき)は天下無双、大政(おおまさ)!」

……でっか。

「光速の抜刀術、小政(こまさ)!」

……ちっさ。

「頭と強さの反比例は随一、森の石松!」

……それでいいのか?

「銃を使わせれば清水一、大瀬半五郎(おおせ はんごろう)!」

……規模、小さくない?

「不動の巨人、相撲常(すもう つね)!」

……まあ巨人と言っても主に横に大きいしねぇ。

「「「「「五人揃って、任侠戦隊、清水連者!!!」」」」」

「って、陰陽五行戦記かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!」

思わずツッコんでしまったが、もしかしたら言わないほうがよかったかな?

しかしこの五人組は、良くも悪くも個性的で、戦隊モノをやらせるには調度いいと思う。

とはいえ脳内で、決め台詞を聞いた瞬間に爆発音が響いたように錯覚したから、ツッコまざるをえなかった感はあるけど。

だいぶ気が萎えてしまったが、隣で構えている靖也君は、油断する気配はない。

そんな彼を見習い、萎えてしまった気合を再び高めることにした。

「ふははははは……。この勝負、もらったぞよ!!」

また、先ほどの三下がえらそうな台詞を吐くが、そんな彼を止めたのは上杉という男性だった。

しっかり首筋を強く打ちつけ、気絶させる様は中々様になっている。

多分あの人も相当の熟練者、下手したら父さんや母さんくらい強いかもしれない。

「おい、お前ら!!」

突如、若と呼ばれた男が力強く叫んだ。

その大声は距離がある私たちの耳にも届き、声が通り過ぎた後も耳の奥がピリピリと痛い。

「あいつらはカタギなんで、普段なら手ぇ出すな、って言ったところだろう。だけど向こうからふっかけてきた喧嘩だ。思う存分やりやがれ!」

「「「「「へい、若!!」」」」」

……何か、すっごい藪蛇だった気がするのは気のせいでしょうか。

本当は向こうから退いて欲しかったのに、何でこんな目に……。

と、心の中では嘆いておく。

実際には表情を変えずに、構えを取ったままじわりじわりと距離を詰めていた。

「久美さん……」

「何?」

「強い奴二人と、ちょっと強い奴三人相手、どっちがいい?」

「んー、じゃあ強い奴二人で」

「OK」

一応私たちは、見ただけで相手の実力くらいはわかる。

多分だけど、あの大政と小政という二人はこの五人の中でも一歩上にいる。

私は軽く唾を飲んだ。

対する五人は、各々が自由行動を起こすが、ほとんどが私たちに向けての威圧だ。

ガンつけたり、脅しをかけたり、刃物抜いたり、指をポキポキと鳴らしたり……。

ちなみに私は、指を鳴らす行為が指に負担をかけることを知ってるし、指が太くなるのでやったりはしない。

数瞬の間、私たちの間に張り詰めた空気が漂う。

そしてそれを破るのは、また私たちでもある。

動いたのは、私と靖也君、そして相手の五人がほぼ同時だった。

相手が上手く、自分たちの思う相手に来るとは思えないけど、まあやってみる。

まず私が最初に狙いをつけたのは、小政という刀使い。

彼の攻撃が一番リーチがありそうだし、元々ガタイのいい方じゃないから走りも速いだろう。

接敵が一番近いだろうから、私と彼とが当たるのは必然。

抜き身の刀の一撃は確かに速かった。

しかし、戦闘慣れしている私から見れば、さほどでもない。というか三島さんの方がよっぽど速い。

やはり女を攻撃するのは気が引けるのか、刀を返して峰の部分で攻撃しようとしているのもある。

私はその無造作な攻撃を蹴り飛ばし、小政の刀を弾いた。

いくら男と女との筋力差があったとしても、拳より格段に威力が高いとされている蹴り。

そう簡単には負けはしない。

返す刀で後ろ回し蹴りを脳天にぶつけようと思ったが、相手も流石というべきか、ダッキングしてかわされた。

とか思ってたら巨木のような腕が私向かって飛んでくる。 だがこれも、私を舐めきっているとしか思えないテレフォンパンチだから、難なく捌いて二人から距離をとる。

幸い、靖也君の言うとおりの相手になったようで、私vs大政&小政タッグという形になった。

大政という人物は、見た目の通りのパワータイプだろう。

小政という人物は、パワーはないだろうがスピード重視で、攻撃力を武器で補うタイプかな?

我が武侠学園でも、二人に似たタイプは非常に多い。

そしてその筆頭が私の友人であるヨーコ、そして三島さんだろう。

あの二人にかかってこられたら、私もただじゃ済まないだろうけど、この二人なら……多分。

「なあ兄貴。俺、この世界に入って初めて女に手ぇ上げちまった……」

「そうけぃ……」

大政と小政が何か会話をしているのだが、私と彼らの距離はそこそこ長く、聞き取るには至らない。

「俺はなぁ、小政。おめぇには極道の道に入らねぇで、まっとうな暮らしをして欲しかった。そうすれば、女を殴るなんて真似もしねぇしな」

「兄貴……」

「だからおめぇには俺の感じた嫌な感じを覚えて欲しくねぇ。だからよ、小政。俺にやらせてくれねぇか?!」

「悪ぃ、兄貴……」

「それに、仲間をコテンパンにしてくれたお礼もしてやりてぇしな」

「何でぃ、結局それかぃ。まぁいい。兄貴、頼りにしてるぜぃ」

構えを解いた小政に対し、大政が彼を押しやるかのように制し、前に出る。

「てめぇの相手はこの俺だ!!」

よし!

大政は今、頭に血が上っているみたいだし、何より重要なのは二対一の状態じゃなくなったことだ。

二人がかりなら少し危うかったけど、これならいける!

大政がその自慢のパワーで私を粉砕しようと突進してくるのにあわせて私も突撃をする。

そして私は接近と同時に身を屈め、丸太のように太い足を思いっきり払った。

「くっ!」

手ごたえはあったけど、この一撃じゃあ相手は倒れそうにない。

すぐさま姿勢を戻すのだが、そこに飛んでくるのは重すぎるパンチ。

体重も十分に乗っており、まともに受けたら骨は粉々になるだろうと思えるほどだ。

もちろん当たるわけにはいかないので、捌く私。

それに対し、私の攻撃はやはり体重の関係上少し軽く、当たるものの決定打に欠けていた。

そんな攻防が、超接近戦の状態で延々と続く。

だがその差は次第に明らかになってきた。

空振りは非常に疲労しやすく、またメンタル面であせりが生じてくるのは必定。

対する私は一撃が軽いものの、人体を破壊する上で重要な急所のありかを知っているため、そこを、主に正中線を狙って放っていた。

「ぐうっ!」

大政は積もりに積もったダメージがとうとう膝にまで達したのか、崩れて膝立ちとなった。

チャンスと思い、そのままラッシュに向かおうとする私。

だがそれは間違いだった。

少しの油断だったのだが、そんな油断は命取りだったようで、大政が伸ばした腕は私を捕らえてしまったのだ。

アイアンクローの形で捕らわれた私は、そのまま宙吊りにされてしまう。

指に込められた力が、私の顔を締め付ける。

激しい痛みが私の意識を侵食する。

それと同時に、空いた方の手が私の腹を貫く。

その巨大すぎる手故に、ダメージは拡散されるのだが質量そのものが大きいため、私は胃の中にあるものを吐き出しそうになった。

辛うじてそれは抑えたものの、肺をつぶされるような感覚とともに息がつまる。

苦しい……痛い。

痛い……確かに痛い……けどっ!

私は大政の手首を掴み、そのまま抱きつくように大政の腕に全身でしがみついた。

一瞬だけゆるむ指。

今っ!

私は手首を掴んだ手、そして腕にしがみつく足をそのままに、上半身と下半身を逆側に、瞬間的にひねりあげた。

ゴギッという嫌な音とともに、私の腰あたりに鈍い振動が伝わってくる。

私の顔を掴んでいた指の力は完全に抜け、その瞬間にアイアンクローから離脱し、素早く態勢を整える。

大政は嫌な方向に曲がってしまった右腕を、激しい絶叫とともに押さえていた。

が、そんな隙も私の格好の的だった。

「お生憎だけど、私は貴方以上の怪力女を知ってるんでね」

呼吸を一旦整え、私は構えをとり、こう叫ぶ。

「ちぇすとぉぉぉぉぉぉ!!」

がら空きになった水月に、私は全身の間接を固定し、正拳突きを繰り出した。

剛体法と呼ばれるパンチの打ち方で、上手く繰り出せば私の全体重がとんでもないスピードで急所を貫く技だ。

隙のない相手には怖くて打てないけど、代わりにどんな筋肉自慢だって一発で気絶させることが可能なのだ。

2メートルを超える巨体が、力なくズゥゥゥゥゥンと砂の上に倒れた。

私は息吹で外功と内功を整え、もう一人の敵に視線を向けた。

だがそんな彼は、既に私の目の前で、鞘から刀を抜き放とうとしている最中だった。

「やばっ!!」

辛うじて、私は後退しながら身体をくの字に折り曲げ、その神速ともいえる斬撃をかわすことができた。

いや、私のお腹をかすめていたようで、服は真横に切り裂かれ、腹筋で覆われたお腹も横一文字に血が滲んでいる。

先ほどは峰打ちだったが、今度は刃のある方で攻撃をしかけていた。

……今度は殺す気マンマンらしい。

いや、それでも私はそんな殺気とは、常に身近に存在しているから怖くない。

……違うな。怖いけど、それで身体がすくんだりはしない。

「よくも兄貴を……」

小政は多くを語らないが、目は怒りに満ち溢れているのが手に取るようにわかる。

怒りで我を忘れてくれるなら、いくらでも対処の仕様があるのだが、うかつに仕掛けてこないところを見ると、至極冷静のようだ。

先ほどの大政のように、仲間を傷つけられて少しでもカッカしてくれるくらいならば苦労はしないんだけどなー。

とはいえ私も手負いで、まだ締め付けられていた頭や思いっきり殴られた腹がじんじんと痛む。

「……ふぅ」

某漫画でもそうだけど、呼吸を整えることにより痛みや体調を改善させることが出来る。

えーと、たしか「お前は今まで食べたパンの数を覚えているか?」……ってこれは敵の台詞だったっけ。

ともかく私もそれを実践し、大政にやられた痛みを和らげる。

……といっても向こうはそんな余裕を与えてくれそうにない。

大政のパワーとは違い、小政はスピードを重視した居合いを得意とするのだろう。

だがこれが一番怖い。

物理とかでも習うことだけど、エネルギーというのは質量以上に速さが重要となってくる要素だからだ。

しかも刀(ちなみに私は刀と長ドスの見分けがついてない)というブツなだけあって、その殺傷能力は拳とは比較にならないだろう。

……多分居合いは、攻撃を度外視しなければかわせない。

かわせないならっ!!

私はおもむろにバッグを開き、がちゃがちゃと金属音のするモノをとりだした。

小政がそれを見ると、その目が驚きのあまり点となっているのが見て取れる。

そりゃそうだろう。

一介の女子高生が持つものじゃあないからだ。

私はそれを、右手に装着した。

……これは、俗に言う『ガントレット』という、西洋の甲冑などに使われる小手だ。

ごくまれに、拳を壊したくないからって理由で使うけど、あんまり使いたくない一品である。

……だって私はごく普通の女子高生だから。

あ、そこで疑問符浮かべた奴、今度ヌッ殺してあげるから覚悟してね。

私はそのまま、右手を腰溜めに構えた。

まるで小政と同じ、居合いの構え。

相手は何事かと思案する素振りを見せたけど、私はそんなことを考えさせる暇は与えない。

いや、考えさせてはならない。

私は砂を思いっきり蹴って、小政の制空権へと突撃をしかけた。

あまりにも無造作な突撃だが、それに驚く素振りをこの小政は見せなかった。

躊躇なく鞘から放たれる刀。

その一瞬が、私が狙っていた瞬間。

刀に速度が乗る前に私の右手が刀へと閃く。

ほんの僅かな速度だが、私の方が速い。

トップスピードを保持できた私と、速度が完全に乗らなかった小政。

その結果、小政の刀は私の手首を切り裂くことなく、その鋼鉄の身を砕かせた。

だがそれは私の手首に激しい痛みを伴わせてのこと。

しかし、小政は唯一の武器を失ったが、私にはまだ一本の腕と二本の足が存在した。

それに、右手はまだ死んでない!!

呆然と立ち尽くす小政の背後を取り、相手がそれに気づいたときにはもう遅い。

私は小政の首を抱えると、それを捻り切るかのように首をひねる。

森嶋流総合格闘術「絞首」。

父さんや母さんほど上手くはないかもしれないが、人一人を気絶させるには十分すぎる大技だ。

瞬間的だが、小政の血が脳へと届くことなく酸欠状態に陥り、気絶する。

「ふぅっ」

ため息をつき、視線を靖也君や若の方へと向ける。

靖也君は、突進してくる相撲常と呼ばれた巨漢に向けてカウ・ロイ(跳び膝蹴り)をかけていた。

あれって、食らうと気絶するほど痛いのよね。

相撲常は私の想像通り、その一撃を顎に受けて倒れた。

「さあ、あとはあんたたちだけ」

私は若に向けてタンカをきった。

多分この人はさっきの二人以上に強いだろう。

はっきり言って、万全の状態の私ですら勝てるかどうか危ういところだ。

私の右手は、激しい痛みが常に襲ってくるような状態だ。

多分折れてる。

とはいえ手首が失われる可能性すらあったのだから、この程度の傷なら問題はない。

靖也君の方も、一見は平気そうに見えるけど、左足を庇っているようだ。

そのくせに二対三。

しかも若は長刀を取り出し(どこから取り出したのよ!)、その付き添いの女性は『トンプソンM1928A1』と呼ばれるサブマシンガンを取り出している。

対する私たちは徒手空拳。

まあ全身が凶器みたいなものだから、その言葉は間違っているかもしれないけど、まずいことには変わらない。

互いに緊迫した空気が漂う。

もっとも私は後悔だけが頭を漂い、今にも逃げたい気分だったが。

しかし、事態は突如として変転を迎えた。

「待ちなさい!!」

突如として聞こえた甲高い声に、私と靖也君、それに向こうの三人組も思わずそちらへと顔を向けた。

その甲高い声の主は、砂を一歩一歩踏みしめ、こちらへと向かってきた。

私と靖也君は、その声の主を見て目を疑った。

決して私たちを止めるとは思えない華奢な身体の持ち主、大鳥さんだからだ。

「森嶋さん、佐々木さん。貴方たちは何をしているのですか……。貴方方二人が任された仕事は、アリサ姫の護衛のはずですよ。それが、こんな所で油を売っていてどういうつもりですか……」

そのときは、ただ返す言葉がなく、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

後々、何でこの人はそんな事を知っているのだろうかと思ったけど、最後までわかることはなかった。

まあ、晶さんの知り合いだというだけど十分なのかもしれないけど。

「清水哲雄。貴方も、まだ晶さんを恨んでいるのですか……。確かにあれは最上という一家がした行動かもしれませんが、そこには晶さんの意思はありません。それに、晶さんは罪を償おうと努力しておられるのに、貴方はそれを踏みにじるのですか?」

少し、話を聞きたいところでもあるけど、申し訳ない気持ちだった私と靖也君は、急いでその場を後にした。

「大鳥さん、皆は!?」

「現在はフェリー乗り場近くで牡蠣を食べています。急いで!!」

私はこくりと蘭さんに向けて頷くと、痛む右手を押さえながら思いっきり走る。

ちらりと後ろを振り向くと、やはり靖也君は足を痛めているようで、どうも遅れが生じてくる。

仕方ないので私は靖也君を肩で担いで走り出した。

「お、おい、久美さん!!」

聞く耳は持たない。

怪我人を待っている時間はないからだ。

私と靖也君は、こうしてアリサさんの護衛を再開しに走るのであった。


「……おめぇは誰なんでぃ」

哲雄とお蝶は構えを解かなかった。

それだけの威圧感、存在感が彼女にはある。

多少だが、久美や靖也の気迫に血が滾ったということもあったが。

「わたし? わたしは聖ルシファー女子高等学校三年、大鳥蘭です。どうぞ、お見知りおきを」

蘭は優雅にワンピースの端をつまんで、深々と頭を下げた。

はっきり言って、哲雄のような極道と、深窓の令嬢という様子の蘭とでは美女と野獣といった様相である。

「そうじゃねぇ! 何でアイツのことを知っているような口ぶりなんでぃ!!」

「おい!!」

今にもいきり立ちそうな哲雄だったが、それを止めたのは上杉。

肩を掴んで制止させると、哲雄も不承不承抑えるしかない。

「お前、もしかして東京中央情報局<TCI>局長の……」

「ええ。お分かりになる方がいて下さって、助かります」

「……清水の坊や。お前が飼っているユキメが登録している情報屋のお偉いさんだ」

「あら上杉さん。玲さんを飼いならすことなんて、どなたにも出来ませんわ」

にこにこと、某トリックスターな女子高生情報屋のことを自慢する蘭。

顔を赤らめながら話すその様は、まるで恋する乙女である。

……このことを園美が知ったらどうなることやら。

「その話は、まだまだ全然言い足りないですが、今は置いておきましょう。それよりも、貴方方『清水一家』ともあろう者達が、カタギを攻撃するなどとの愚の骨頂。極道とは道を極めし者のことを指す言葉。さらに、罪滅ぼしをしようとしている方を一方的に攻撃しようなどと、義を重んじる貴方方の行動とは思えません」

「……何がいいたいんでぃ」

「わたしは晶さんたっての願いで、貴方方と晶さんとの会合を求めます。そこで、晶さん本人から謝罪の言葉を受け取ってくだされば、わたしはそれで結構です」

「……」

「わたし、沈黙は了承と受け取る性分ですので、了承ととってもよろしいでしょうか?」

それにも、哲雄は応じないで沈黙を守ったままだ。

恐らく、答えかねているのか、それとも素直に頷けないのかのどちらかだろう。

「では、参りましょう。そちらの怪我人たちも、晶さんが教えてくださった場所に向かうようにして頂ければ、治療をして頂けるそうです」

蘭は、三人にだけ晶との面会を許し、三人にこちらについてくるよう指示を出した。

しかしそれでも晶は『清水一家』にとって要注意人物であることには変わりない。

満身創痍になっても、従うべき主たる哲雄についていこうとする様は流石と言える。

だがそんな彼らに、蘭は冷たくあしらった。

「貴方たちは邪魔です。今、足手まといは必要ありませんから」

確かに、女子供に負けた極道など、足手まといにしかならない。

そう思った彼らは、激しい絶望とともに、哲雄の力になれないことを深く悔やむ。

もっとも久美と靖也は女子供と言えど、例外中の例外なのだが。

「おめぇらは、この姉さんの言うことに従って、医者んとこに行きな」

「大丈夫。哲っちゃんは私が守るから」

『へい、若、お嬢!!』

こうして『清水一家二十八人衆』はリタイアと相成った。

二十八人の応援を背に、蘭の指示に従って走り出す四人。

「……ところで、大鳥。その信頼できる治療って……?」

「長巻飛鳥(ながまき あすか)。日本医療の限界を知り、医師学会から身を引いた世界最高クラスの裏医師……」

「ここ最近、噂をまったく聞かなかったけど、あの長巻先生がここに……」

「ええ。今日は連れ添いと観光に来ていると聞いています」

「よかったな、清水の坊や。お前んとこの部下はこれで安全だ……治療費高いけど」

後顧の憂いを絶ち、四人はオフ会メンバーとの合流を図るのであった。


同時刻。

「……」

何のつもりだ、とも言い出せない状況に、飛鳥はこめかみを揉み解した。

折角取れた休日なのだから、伸び伸びと過ごせたはずなのに、今目の前にいるのは……。

しかも見た目が極道バリバリなのに、誰もが誰も、痛みで弱音を吐いている様は見苦しいの一言に尽きる。

「……」(怪我人がたくさん……。どうする、飛鳥?)

「ええい、でかいナリして何だその女の子みたいな悲鳴は!! 言っておくがいい迷惑だ! だから勝手に治療をするが、私の医療は保険が効かないから高いぞ!! 嫌な奴は我慢しろ!! 真夜(まや)、オペの準備!!」

「……」(……アッチョンブリケ、って奴?)


そしてさらに同時刻。

「うん、美味い!! 流石に海のミルクって言われているだけのことはあるよな」

「そうじゃろ、スケバン!! この瀬戸内海で生まれる牡蠣は格別じゃけえ、醤油やバターで食うんが最高じゃ!」

一部、こういう海鮮類が苦手な人はいるが、それ以外の面々はおいしそうに、牡蠣をほおばっている。

さらに一般で売られている牡蠣とは大きさも異なり、それでいてかつ非常においしい。

非常にのんきな一同だが、影は忍び寄っている。

じわり、じわりと接近し、影が狙う相手との距離はもう数メートルという距離だ。

懐から取り出した物を、本物と思う人はいない。

そしてその引き金を……。

だがそれは、金属同士がぶつかり合う音とともに、手からこぼれ落ちて地面を滑った。

地面に落ちるはナイフと拳銃。

自分が使った物が拳銃であるから、ナイフを拳銃にぶつけたということか。

そう理解して、そのナイフが飛んできた方向に視線を移す。

日本人の見分けは、この者にはわからない。

だがそうだとしてもこの日本人は特異な存在そのものだった。

女性みたいに長い黒髪を三つ編みにして束ね、それと相反するかのように整えられた髭。

女性的であり男性的であるという、中性的な魅力を持った男。

そんな男が、ナイフを投げた後の綺麗なフォームでこちらを睨みつけている。

そう思ったのもつかの間。

その男は懐からもう一本のナイフを取り出して逆手で持つと、姿勢を低くして突進をしかけてくる。

思わずそれに気圧されて、後退したのが間違いだった。

ついバランスを崩してしまい、尻餅をついて倒れてしまったのだ。

畳み掛けるように、男はナイフを首元へとつきたてる。

「貴方、ルグリア王国の暗殺者?」

男はそう、英語で聞いてきた。

暗殺者は答えない。

それが答えの代わりだったとしても、答えることは出来ない。

男は懐から、小柄な身体で何処に隠していたんだ、とツッコミを入れたくなるようなロープを懐から取り出すと、器用に男へとまきつけた。

その結び方は、人間の身体の構造を熟知しているかのような結び方で、あっという間に暗殺者は身体を動かせなくなってしまう。

だが暗殺者はそんな状態でありながらにやりと笑った。

彼の仲間の銃口が、しっかりアリサに狙いをつけていたから。


つづく


次回予告

「厳島、そこは日本三景。
厳島、そこは逃げ場のない孤島。
久美たちは逃げ場を失った孤島で、ただ逃げ惑うしかないのか?
久美たちはアリサを守りきれるのか?
そして、平穏なオフ会はどこへ行く!?

次回オフ会へ行こう!「厳島へ行こう!(後編)」

人間は、幸福よりも不幸の方が二倍多い(by ホメロス)」


戻る