投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

オフ会に行こう!


「庶民の家に行こう!」

◇午後3時◇


私はいつもどーりの、非日常を繰り広げていた。

今日のイベントは、町内の掃除。

ただ掃除っつっても、一般から言われる掃除とは大きく趣がことなってくる。

「……ふー、これで最後かな?」

「疲れたー! でも最高ーっ!」

私が安堵のため息をつくと同時に、私の友人であるヨーコこと皆瀬葉子(みなせ ようこ)が身体を伸ばして笑顔を作った。

ヨーコの笑顔は万人受けするくらいの美人だし、胸だって外人並みだし、スタイルも抜群なんだけど……バカなんだよねぇ。

「自分は23、だが貴様は21……。自分の勝ちだ、宿敵よ」

「そーだそーだ! 姫様を敬いやがれ!」

「……はいはい」

この、私をライバル視する女性は、私の同級生で自称ライバルの三島文江(みしま ふみえ)さん。

そしてそんな三島さんに仕えるようにいる、この腰巾着っぽいのは佐々木烈人(ささき れっと)君。

三島さんとは小学校の高学年の頃に知り合ってから、ずーっと私のことをライバル視しているけど、別に私は三島さんに対して敵意みたいなものを抱いているわけではないし、ちょっとうざったいかなー、ってな感じ。

でも株とか為替とかのノウハウなんかは教えてくれたりするから、そんなに無下にもできないんだけど。

佐々木君は……三島さんはともかく私とはあんまし関係している訳じゃないから省略。

あ、そうそう。

この場にいる人物は私とヨーコ、それに私の友人の一人であるメグこと矢島恵美(やしま めぐみ)、それに三島さんに佐々木君、そして佐々木君の双子の弟である佐々木靖也(ささき せいや)君。

他にもたくさんいるにはいるんだけど……。

「相変わらず、血を血で洗う抗争だよな、久美さん」

「……同感」

このメンバーの中では比較的まっとうな人物である靖也君の言葉に、私は半ば虚ろな感じで同意した。

だって私たちの傍には、気を失った多くの不良、レディース、不良少女、ヤクザ、マフィアなんかが大量に転がっているんだもん。

これが我が武侠学園の娯楽掃除。

つまり、地域の不良を始末することである。

……ホント、フツーの日常が欲しいわよ。



◇午後5時◇


修羅の道をずんずんと突き進んでいる私だけど、家に帰れば修羅とはまったく無縁の暮らしが待っている。

私ん家は、どこにでもある二階建ての二流階級の家だ。

父さんも母さんも働いているし、卓(すぐる)お兄ちゃんや日名(ひな)お姉ちゃん(正式名称は、森嶋日名子)はバイトをしている。

私だって非公式ながらも小説の印税が入っているし、この前晶さんに教えてもらった株の儲けもあって、それらを全て家計につぎ込んでいる。

だけど二流なのは、やっぱり家族が多いのと、食費が異常にかかるからだと思う。

……つーか、家族を支えているのが母親じゃなくて四女ってのはいかがなものよ。

でも今日は、所謂特異日であった。

父さんと母さんは仕事。

卓お兄ちゃんも日名お姉ちゃんも、大学から帰らないとの連絡があった。

百合(ゆり)姉と瑠璃(るり)姉も帰ってこないって言っていた。

……どこから帰ってこないかっていうのは知りたくもないけど。

そして弟の信夫(しのぶ)は友人の家に泊まるって言っていた。

つまり、私だけがこの家で過ごすことになる。そう、我が家の唯一の常識人である私だけが。

ビバ、平穏!

ってコラソコ。私が常識人かよ、って顔するんじゃない!

それはさておき、明日はまた鷹木先生たちとオフ会をすることになっている。

今度は晶さんやセンゴクレッドみたいな特異な存在はいないだろうし、今度こそ平和なオフ会が出来るに違いない。

今回は『まさよLOVE』さんや『ピカの孫』さん、そして最近の常連さん『シングルマックス』さんなんかも参加するみたいだし、楽しみ、楽しみ♪

しかしそんな思いは、そう思った直後に打ち消されることとなったのであった。

がちゃりと扉の開く音が、私の耳に聞こえた。

一瞬だけ、不良どものお礼参りかなー、なんて思ったけど、それはありえない。

だって、この家の皆、とんでもなく強いもん。

お礼参りに来た不良どもは、例外なく酷い有様で放置プレイをする羽目となったんだし。

「久美、いるか?」

この声は、父さんだ。

予期しない出来事に、私はちょっとむっとしながら、玄関へと歩いていった。

「父さん? 今日は仕事が忙しいからって言ったじゃ……」

だけど、私は玄関に到達した直後、足と口を止めた。

父さんと一緒にいた、一人の人物に目を奪われたからだ。

少し幼げに見える女性で、髪はとても綺麗な銀髪、そして瞳は灰色。

肌の色も透けるような白で、血色が悪いというよりは神秘的な美しさが際立っている。

スレンダーな体つきは、正直私も嫉妬するくらいの、そんな美女。

日本人ではないのは即座に理解したが、これほどの美女は、私は見たことがない。

……でも、どっかで見たことあるような気がするんだけどなぁ。

「久美は明日、安芸の宮島に行く、と言っていたな」

ぼーっと女性を見ていた私に、こほんと咳をついて注意を向けさせ、説明を始める父さん。

その間も、銀髪の美女は飼われている猫のようにおとなしくしていた。

「あ……うん、そうだけど……」

「この子も、明日宮島に行きたいと言ってな……。つまり、その、なんだ、連れて行って欲しい」

「はぁ!?」

確かに、私は明日宮島へと行く。

だけどそれはオフ会で、であって、だから当然『木下隆一』としてであって、森嶋久美として行くわけじゃあない。

正直厄介ごとを任されたな、と思った矢先のことだった。

「ウチはアリサいうんじゃ。久美ちゃんじゃよね? 日本旅行は初めてじゃし、頼まれてもらえん?」

が、外人が広島弁……?

こーん、という音が何処からともなく響き渡り、私は見事に硬直した。

……ぶっちゃけ、こうまでもイメージを崩されたのは、生まれて初めての出来事でした。


父さんは、少し呆然としている私に、アリサさんに関する情報を教えてくれた。

アリサさんは、何処にでもいる「HAHAHA」とか笑うちょっと下品な外人さんとは違って、超がつくほどのお偉いさん。

小国ながらも、一国の女王だそうだ。

一見、幼い容貌からは想像できないが、もう成人を過ぎているそうだ。

失礼だけど年齢を聞いてみたら、何と23歳。

いやはや、うちの両親のような童顔はいるものね。

で、そのアリサさんは、非公式で広島を訪れたいと言うのだ。

だけどSPを連れて歩くわけにもいかず、なおかつ護衛なしで行くのも却下。

よって、実力があって、かつこういう仕事に登録していない私に白羽の矢がたったそうだ。

「父さん……。じゃあさ、父さんが私服で女王の護衛をしたらどうよ?」

「いや、そういうわけにもいかないだろう。父さんはアリサ様の護衛として、既に周りに認知されている。だから私は影武者の護衛という形を取るしかない」

「じゃあ、母さんにさせれば……」

「葉月が、父さんと離れ離れになることを承認すると思うか?」

……思いません。

母さんって、父さんがいないと生きていけない、とか言いそうな感じだしなぁ。

「それにグレンも久美のことを推薦している」

「グレンさん? あの傭兵の?」

グレンさんは、父さんの友人で傭兵をやっているアメリカ人。

元は大佐クラスの軍人だったけど、年齢を重ねすぎたからって今は傭兵の教官をしている。

けど現役バリバリで、しかも底抜けに明るい人だ。

グレンさんには、2年前、病気で動けない父さんの代わりにSPをしたこともあって(ちなみに年齢を詐称して仕事してた)私の実力はバレちゃっている。

結局、私に逃げ場はないらしい。

……仕方ない、家族のためよ、腹括ってやろうじゃない。

「わかった。頼まれてやろうじゃない」

「そ、そうか。……いつもすまない」

父さんって、いつも私にすまなそうにしてるよねぇ。

母さんや姉さんたちは、小遣いを請求しない、家事をしてくれる、いつも気を遣ってくれるていう風に、ありがたがっているけど。

やっぱり、娘としては、親に甘えたりした方がいいのかな?

「はいはい。あ、そうだ。今日忘れてたでしょ?」

私が台所に取りに行き、父さんに渡したのは、見た目は何の変哲もない調味料。

でもそれは、私特製のブレンドを施した、栄養満点の調味料。

ちなみに、中身はヒ・ミ・ツ♪

問題があるといえば、栄養満点すぎて父さん以外の人間には食べさせられないのが問題かも。

「じゃ、母さんとグレンさんによろしくって、伝えといて」

「ああ」

そして、父さんは家を後にした。

玄関に残るのは、私とアリサさん。

私としては気まずい雰囲気が漂っていた、と思っていたんだけど、アリサさんはそうではなかったらしい。

アリサさんはきょろきょろと玄関を見渡して、感嘆のため息をつく。

「へー……。ハポネスの家って、こうなっとるんじゃねえ」

「見苦しい所ですが、どうぞ。アリサ様」

「あ、ウチのことはアリサでええよ。ウチもクミって呼ぶけえ」

「は、はい……」

「それと、無理して敬語つかわんでもええよ。クミとはええ友人になりたい思うとるし」

アリサさんは、見た目の神秘さ、神々しさとはまったく噛み合わず、さっぱりとした人みたい。

さっきは猫を被っていた訳ね。

とはいえ、私がアリサさんを呼び捨てにするのは気が引けるし……。

私はしばらく悩んだ末、こう呼ぶことにした。

「じゃあ、アリサさん。こちらこそ、よろしく」

「ほうよ。それでええ」

広島弁には驚いたけど、アリサさんは笑うととってもかわいかった。

23歳だから、私よりはるかに年上なんだけど、アリサさんはかわいい、という言い方がしっくりくる。

本人がどう思ってるかは知らないけどね。

「えーと、アリサさん。夕食は何がいいですか?」

「スシ、スキヤキ、テンプラ……ヤキトリなんかもええねぇ。じゃけど、余りモンでも文句は言わん」

いや、お客様相手に余り物じゃあ問題でしょ。

そうなるとやっぱり、日本特有の奴かなぁ?

でもそこらの料理人みたいに料理が上手い訳じゃないし……。

それに女王様って言うんだから、それらは食べ飽きてる可能性だってあるし。

「じゃあ親子丼なんてどう?」

「オヤコドン?」

「鶏と卵とタレに絡めて、それをご飯の上に乗っける食べ物です。おいしいですよ」

「想像できゃあせん……」

「あはは……。確かに外国の方にはわからないかも」

牛丼とか豚丼みたいな食べ方をする国って、日本以外じゃああんまり見ないしね。

でも世界各国でも、鶏肉を食べることを禁止している国はないし、日本に来ても親子丼に目を向ける外国人を見たことないし、それに何より親子丼はおいしいから、多分アリサさんには受け入れられるんじゃないかな?

「アリサさん。嫌いなものとかあります」

「ほうじゃねぇ……。ピクルスは駄目かな? 鶏肉と卵は好きじゃけえ、問題はないと思うよ」

「お酒は?」

「ビール!! 日本のビールは、ウチの国と比べると格別じゃけえ、ウチは日本に来るたびに頼むんよ。クミも、一緒にどうよ?」

「未成年にお酒を勧めないでください」

「ウチの国やと、子どもでも飲めるんじゃけどね」

あはは、と私たちは笑いあった。

中々、アリサさんの会話は面白く、非常に話しやすい。

少なくとも我が友人たちよりは、数十倍話しやすいと思う。

会話も適当なところで終わらせて、私は財布を持って買い物に行こうとした、そんなときだった。

再び我が家のインターホンが鳴り響く。

父さん、何か忘れ物でもしたかな?

「はいはーい」

がちゃ、と開けて、扉から見えた人物は、昼に一緒だった靖也君だった。

私の仲間の一人で、同じ苦労人の道を歩む一人だったりする。

「どうしたの?」

「……悪いけど、休みの間匿わせてくれ」

私にとっては晴天の霹靂というやつだった。

あまりにも唐突な発言に、一瞬私の頭は真っ白となる。

「何で?」

「あのバカ女が突然、青森にいるっているルグリア王国っていう小国の女王に対談するって言い出してな。いちいち姫さんの命令を聞いてたらこっちの身がもたん」

「……自分の後ろ盾に、その発言はちょっと……」

靖也君の言う、バカ女だの姫さんだのっていう人は、冒頭にも出てきた三島さんのことだ。

一応説明しとくけど、靖也君は彼女の親に引き取られた孤児なのだ。

「まさかライバルの家にいるとは思わないだろうし、休みの間だけでいい。頼む!!」

靖也君の苦しみは、私にも少しはわかる。

三島さんは『転生団』っていう怪しげな宗教団体の経営者で、経済のプロなのでかなりのやり手だ。

『転生団』っていうのは、前世がどーとかっていう話で電波な女子高生をたぶらかして信じさせて、費用をしっかり頂く、同級生の私が言うのも何だが、悪徳事業みたいなものである。

でも案外人ってそういうのに弱いらしくて、全国規模にもなる宗教団体だ。

ちなみに告発すれば有罪に出来る自信はあるんだけど、『転生団』の裏のトップと私、そして靖也君は交流が深くてするつもりは毛頭ない。

本当は、裏の重要ポストに私の名があったりするのだが、私も知らないことである。

……つくづく思うけど、私の交流って「濃い」人が多いなぁ。

それはともかく、三島さんは強引な手法を使ったり、思いつきで行動をしたりするから、付き添いがやってられないのだ。

ちなみに、靖也君の双子のお兄さんは別。

佐々木君(靖也君じゃなくて烈人君の方)って三島さんのこと、心酔してるからなぁ。

「ん? クミ。誰かおるん?」

私が思い切って断ろうとした矢先、私の後ろで首を伸ばすアリサさん。

「お客さんがいるのか?」

と、靖也君。

アリサさんは靖也君の顔を確認すると、じーっと靖也君のことを見る。

これがヨーコ、メグ、三島さんや佐々木君だったら喧嘩の一つも買ったところだけど、靖也君はその辺は出来ている。

突然アリサさんは、私を見ると、その表情をにまーっとさせた。

「ああ、クミのカレシじゃね」

「ち、違うっ!」

「……」

私は慌てて否定し、靖也君は私の否定を聞いて少しがっかりした表情を見せる。

けど私はしっかりアリサさんの方を見て、靖也君の表情は見てないんだけど。

でもにやにやして見るアリサさん。

……絶対勘違いしてる。

まあ否定しても信じてもらえないだろうし、私は話を逸らすように、話を続けた。

多分私の顔は、真っ赤だったのだろう。

「……てな訳だから、うちは駄目。ごめんね、靖也君」

「ウチは別にええよ。クミとカレシで愛を確かめ合っても」

「……っ! だから違うっ!!」

「どうせ、ムツキとハヅキはダブルベッドじゃよね? 譲るわ」

「だーかーら、私の靖也君はそういう仲じゃなーい!!」

……確かに靖也君は結構カッコイイけどさ。

結局、靖也君は私の家でお泊りすることとなり、しかも何故か明日の厳島行きまで同行することとなってしまっていた。

私がいないときの会話だが……。


「ウチ、明日クミと一緒に厳島行くんよ」

「はぁ……。まあ久美さんが何処へ行こうが関係な……」

「男も一緒じゃよ」

「な、な、な……それは本当か!?」

「本当じゃよ。やっぱりカレシとしては気になるとこなんじゃね」

「……」

「ウチが旅行費払ったげるけえ、ついてく?」

「行きます!!」

……勝手に話を進めないでよね。



◇午後8時◇


幸い、アリサさんは私の作る物に満足してくれた。

海外の物とは違うから、口に合うかなーと思っていただけに、ちょっとうれしい。

狭い場所だけど、私と靖也君と一緒に食事出来たことも満足だったみたい。

本人曰く、弟と妹が出来たみたい、とのことだけど、何でも尽くしてくれる妹なんていないと思う。

どっちかっていうと私って、歳の近いメイド?

そんなことはさておき、今はゴールデンタイム。

食事の後すぐにお風呂に入ったアリサさんは、シャツに短パンというラフな格好で、少し濡れている銀髪が色っぽい。

もっともテレビに釘付けで、黄泉瓜ジャイアンツと宏縞カープの試合を観戦している美女という光景は、少々閉口してしまう。

さらに片手にはビール、そしておつまみをしっかり頂きながらだから、少し幼い容貌も台無しで、幼いを通り越してむしろ親父臭く感じてしまう。

「よっしゃあああああっ!! ナイスじゃ、荒井っ!! 今年こそは三冠王目指したれっ!」

テレビの中では、赤いヘルメットの男性がホームランを打っていた。

そしてアリサさんの喜び方と言ったら、現地で応援している宏縞ファン並みだ。

私は明日の準備をこなしながら、ふと思ったことをアリサさんに聞くことにした。

「アリサさん。そっちの国で、野球ってやってるんですか?」

「んー、衛星放送でやっとるよ。流石にあそこじゃ、ニュースくらいでしか野球は見れんのんじゃ」

「で、何でよりによって宏縞のファンなのです?」

「ウチのばっちゃんが広島の出身じゃけえ。あ、ウチはハポネスの血は四分の一混じっとるんよ」

「へー……」

「ウチの父ちゃんもじゃけど、この銀髪はばっちゃんからの遺伝。何でも、ピカにやられてから髪の色が変わったんじゃと」

……なんか、微妙に悪いこと聞いちゃったかも。

話を聞くからに、アリサさんって原爆三世って奴?

それなら、アリサさんのような若い人が女王なんてやってる理由にもなるか。

原爆二世って、何かしらの影響を受けてる、って聞いたことがあるから……。

「あ、確かに父ちゃんは早くにあっち逝きよったけど、ウチは気にしとらん。じゃけえ、そんな顔せんでええよ」

私は、いつの間にか怖い顔をしていたみたい。

うん、そうよね。私がアリサさんを色眼鏡で見る訳にもいかないもんね。

「あーーーっ!! 何しとるんの!? あんなでくの坊相手に打たれよって、ワレぇ!! さっさと黒やん出しとけばエエのに、あの監督、出し惜しみしよる」

テレビを良く見てみたら、今の結果は2対2の同点の7回表。

ま、今が白熱時よね。

「明日の午前に広島につかなきゃいけませんから、私がお風呂から出たら行きますよ?」

一応アリサさんとは目的が少々違うから、私はオフ会としての集合時間を守らなきゃならない。

明日の10時に広島駅前集合ということになっているので、新幹線を使っていこうと思ってる。

けどここは福島県だから、出るなら朝一に出なきゃ間に合わないので、今日中に移動して泊まりで行こうかなーって考えてた。

しかしその辺、アリサさんは見越していたらしい。

「それは、明日の早朝に変更。グレンが部下を貸してくれよって、ジェットで行くことになったけえね」

「……そーゆーことは早く言ってください」

急いで準備した私が馬鹿みたいじゃない……。

こんなざっくばらんなお姉さんだったから忘れてたけど、やっぱり一国の女王って感じた瞬間だった。

「……って!!」

「で、その部下はウチらを送り届けたらその場で待機じゃと。移動に一緒やとばれるけぇね」

私は、護衛の必要がないじゃない、と言おうと思ったんだけど、アリサさんは矢継ぎ早に説明したせいで反論を封じられた。

私が護衛するのは、もう確定事項って訳ね……。

昔、腕利き傭兵のグレンさんから絶大な信頼を得てしまったことを、激しく後悔した私でした。

「久美さん。風呂まで使わせてもらって悪いな……どうした?」

そのときの私は、顔を両手で覆ってえぐえぐと、世の不条理を嘆いているところだったので、靖也君が心配するのも無理はない。

「何でもないの。何でも」

私は、心配そうな目で見ている靖也君にそう言った。

まあこんな強がりで安心を買おうだなんて甘い話で、靖也君はその表情を変えなかったけど。

だから私は話を変えることにする。

急に話は変わるけど、靖也君ってここだけの話だけど、二重人格なの。

靖也君はまあ私の味方であり、かけがえのない友人なんだけど、彼のもう一人の人格は私をおちょくるのが好きだから。

今は出てきてないみたいだけど、神出鬼没だから……彼女。

「私ん家って、歯ブラシとかないけど大丈夫?」

「ん、ああ。一応身の回りの物は持ってる。元々、バカ姫のところから離れるつもりだったし」

抜け目がないなぁ、靖也君。

私はそのすぐ後、靖也君とアリサさんに使っていい部屋を教えて(靖也君は卓お兄ちゃんのベッド、アリサさんは客間の布団)、ゆっくりと風呂に入ることにした。


お風呂から出て、私は手早く着替えを済まし、再び客人のおもてなしにかかる。

一応、二人には寝室を用意したし、あとは就寝だけなんだけど。

とにもかくにも、二人の様子を見ることにした。

「靖也君。卓お兄ちゃんのベッドはどう? 三段ベッドだから狭いかも……」

「いや……それよりも……」

「え、えーと……とりあえず、ゴメン。靖也君には話したでしょ、ウチの事」

……読者の皆様から何のことか聞かれるかと思うけど、つっこまないで。

私ん家の沽券に関わるし。

「日名お姉ちゃんも似たようなモノだし、信夫のベッド使う? ちょっと小さいけど」

私は、三段ベッドの一番上を指す。

「いやいいよ。多少、シーツが汚れてるくらい、俺は気にしない」

「ん、助かる」

やっぱり、靖也君は阿吽の呼吸で、私に合わせてくれて助かる。

これがヨーコやメグなら大雑把な対応だけど、靖也君は人の気持ちをわかってくれる。

靖也君は頭もいいし、博識で、色んなことができて、それでいて性格もいいし、ハンサムだ。

ホント、非の打ち所のない男性と言っていい。

これで、二重人格でなければ惚れてたかもしれないんだけどねぇ。

……いや、まだ私が心の準備ができてないか。

「あ、そうそう。説明し忘れてたけど、アリサさんって小国の女王なんだって。私、父さんに彼女の護衛を頼まれたから……だからさ、手伝ってくれない」

「……相変わらずトラブルがつきないね」

「……同感」

「とはいえ、その答えは結局のところ、手伝う以外の選択肢は俺にはない。喜んで手伝おう」

やっぱり、靖也君はいい人だなぁ。

靖也君の答えにほっと胸を撫で下ろし、部屋を後にしようとした、そんなときだった。

「……俺は、どんなことがあっても久美さんの味方だから」

私と靖也君の間に流れる空気は、いつもの私たちとは違ってとても厳かなもの。

ふ、と私たちの間に風が沸き起こる錯覚すら覚えてしまう。

「靖也君……」

私は靖也君の名前を思わず呟く。

だけど……。

「……って、どうせ瑞穂さんでしょ? 相変わらず、私をからかうの、そんなに面白いですか? いつもいつも、隙を見計らって靖也君の意識を乗っ取るの止めたらどうですか?」

こんな冗談を言うのは、靖也君のもう一つの人格、瑞穂さん以外にありえない。

だから私は少し苦笑気味に手をぱたぱたとふって、ごまかした。

本当に靖也君から言われたなら、私もドキッとするかもしれないけどね。

そんなわけで、私は一瞥を残して、この部屋を後にした。

「……俺、靖也なのに」

もちろん、そんな台詞は私に聞こえてなかったりする。


続いて向かったのは、客間を使ってもらっているアリサさん。

アリサさんは妙にはしゃいでいる様を見る限り、野球の方は勝ったみたい。

一応その部屋は和室なんだけど、そこで先ほどと同じようなラフな格好でノートパソコンをいじっている。

「アリサさん。質素な部屋で申し訳ありませんね」

「いやいや、ええ部屋や。ウチが寝るんはほとんどベッドじゃし、和室いうんは、実は始めてなんよ」

そんな会話をしながらも、私は旅館の女将よろしく、押入れから客用の布団を取り出して敷いた。

しばらく使っていなかったとはいえ、しっかり清潔にしてはいたから問題はないと思う。

アリサさんの表情を見る限り、不平を漏らす様子は見受けられないから、何とかなったみたい。

流石に部屋にはテレビとかは置いてないけど、リビングは自由に使っていいって言ったし。

そもそも、今のご時勢、ノートパソコンでテレビを見るのはわけないこと。

とはいえアリサさんは、パソコンで何かを打ち込んでる様子なんだけど。

一心不乱に何かに集中する様子を妨害するつもりもなかったし、私はこの部屋を後にした。




◇午後10時過ぎ◇


「……てな訳で、ゲストが来るのでよろしくお願いします、と」

私は、鷹木先生の運営しているサイトの掲示板に、私の知り合いが同行する趣を伝えた。

皆が皆、熱心に見るとは思えないけど、伝えないで文句を言われるよりはマシでしょ。

「ん?」

よく見ると、まささん(私は『まさよLOVE』さんをこう呼んでる)やマックスさんやピカさんもゲストが来るようなことを言ってる。

よかった、私だけじゃなくて。

ほっと胸を撫で下ろした私は、寝る前に小説をちょっと書き進めておくことにした。

次元巫女咲(さき)と格闘魔道師フラムと堕天使クラリスまでの設定は出来たんだけど、中々新キャラの設定が出来ないので、ちょっと現在遅筆気味。

咲の同居人(人じゃないけど)、妖精の光(こう)とフラムの師匠、大魔道師カレン、クラリスの親友、ハーピーのエメラダとかいるけど、こーいうんじゃないのよね。

そもそも、カレンは私がゴーストライターしている作品「クロスナイツ」のキャラの中で、教官であるラセツとルースのチームメイトが元ネタでしょ、ってしっかり鷹木先生にツッコまれてるしなー。

……まったくそのとおりなんですけど。

と、私が悩みに悩んでいる最中、一通のメールが来た。

差出人は『炎のスケバンU世』さん。

「クラリスの絵だ……」

感謝感激雨霰……ってちと古いか。

銀髪は美しいの一言に尽きるし、小悪魔めいた表情もいい。

何より、仕事用の露出度の高い鎧にポニーテールは私のイメージどおり。

ちょっとスケさん(私は『炎のスケバンU世』さんをこう呼んでる)には多めに注文をしたから罪悪感はあったけど、感謝!

しかも今度はリラックス時の、神秘性もかけらもないクラリスを書いてくれるそうだ。

う〜ん、ありがたいですねぇ。

一気にやる気が出た私は、再び小説書きを再開した。

するとどうだろうか、私は先ほどとはうって変わって、筆が進む進む。

もっとも筆を実際に使っている訳ではないので、指が進む、って言うべきかな。

「そういえば、スケさんも参加するって言ってたよねぇ……」

そう考えると今回のオフ会は私、鷹木先生、格闘王さんの三人だけだった前回とは違って大所帯よね。

……もっとも前回は珍入者が約一名いたんだけど。

で、今回は上記の三人に加えてまささんとそのゲスト、マックスさんとそのゲスト、ピカさんとそのゲスト、スケさん、靖也君、アリサさんってことで、総勢十二人。

……これがオフ会ってものよね!!

とそんなことを考えていた私の思考を遮るかのように、扉がノックもなしに開かれた。

「クミ。ウチ、ホットミルクが飲みたいんじゃけど……ほらウチってこう見えて箱入り娘じゃけえ、レンジの使い方がようわからんで……それに砂糖も入れて甘くしてほしいんじゃけど、人様の家を荒らすのんも……」

「はいはい。わかりました。じゃあそこで待っててください」

少し投げやり気味に応える私。

折角執筆にブーストがかかった状態なのに、水を差された感じだ。

この勢いで、新たに課題を出された「クロスナイツ」の最新作の執筆も進められるかなーって思ってたのに……。

ぶつぶつ文句を垂らしながらも、てきぱきとホットミルクを作る私がいるのは、家族に似たようなことをされたことがあるから。

私は相対的には我慢強いのである。

……ちなみに比較対象は私の知り合い。

「できましたよ、アリサさん……アリサさん?」

アリサさんは、私の部屋でじーっと、鷹木先生のサイトに送るネット小説の製作途中を見ている。

アリサさんって日本語は達者だけど、見る方は大丈夫なのかな?

日本語は、外人には最難関の語学の一つだって言う話だし。

「……クミ」

「何ですか、アリサさん? あ、熱いですので気をつけてください」

「ありがと。……これ、「次元管理巫女サキ」の最新作じゃろ?」

そこでJAROに訴えられちゃうよ、とか言ったら駄目ですよアリサさん。

って私、現実逃避すんな。

……何でアリサさんがこの作品を知ってるの?

「……ほうよ。ほんなら納得するわ」

「……」

私はアリサさんの独り言を沈黙で返す。

私もアリサさんと同様に、何となくアリサさんが言いたいことを理解していた。

そういえばあの人は、掲示板でも広島弁だった。

しかも私とタイミングを計ったかのように、広島へと行きたがる。

既に結論は出ていたのだ。

もしかしたら、私自身が認めたくなかったのかもしれない。

「……もしかして、ピカさん?」

「正解。初めまして、『木下隆一』さん」

思えばこれが、第二回オフ会の、波乱の幕開けだったのかもしれない。


「……おめぇが」

「いや、挨拶はさておこう。明日、広島に最上晶が来るというのは、確かなスジなのか?」

「そうでぃ。しかも、本人からの直筆でも、広島に行くってことをいってやがった。相変わらずふざけた野郎でぃ」

「それで、何で俺に依頼を?」

「ユキメの奴は、用事があるとか言いやがって。でも、俺たちだけだと晶の野郎を取り逃がしそうなんでぇ、スパイとしての力を貸して欲しいんでぃ」

「そうだな……。ユキメは、最上晶とのつながりは切れたとか言ってるが、妙に情報を渋る傾向にあるみたいだ。本人が本当に知らないのか、それとも……」

「すまねぇが、憶測は後にしてくんねぇか。それより、あのふざけた野郎をふん捕まえて、簀巻きにして海に沈めてやるぜ!」

「……あー、君らの家から、先祖の強敵(とも)から譲り受けた、銭形平次の十手の一本が最上一家から盗まれたんだっけ」

「ああ。サツに圧力をかけて、最上真琴、最上誠二の奴らにその所在を吐かせようと思ってんだけど、中々吐きやがらねぇ」

「ともかく俺が、君らが最上晶を捕まえる手助けをすればいいってことだろ?」

「頼むぜぃ」


つづく。


次回予告

「森嶋久美はどこへ行っても不幸だった。
右に行けば非日常、左に行けば非日常。
常におかしなところがついてくる、それが久美の運命。
さらにまた、多くのゲストたちの中に、ジョーカーは存在した。
そして不幸はそこから起因するのか?

次回オフ会へ行こう!「厳島へ行こう!」

ジョーカーと共にあるのはハートのエース」


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