Mituyaさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
番外編
| 「オフ会に行こう!」 |
|---|
|
私はかの有名な、交通の要である東京駅に降り立った。 朝早くから東北新幹線を使ったこともあって、眠気は少々ある。 けど、普段から早起きを強制されている身としては、別段大したことは無かった。 第一、新幹線の中で少し寝たし。 私の名前は森嶋久美。 分類は、ごく普通の小市民。 周りが変人ばっかりだけど、私は一般人よ。……いや、信じて。 私の友人であるヨーコは今頃、強い不良と戦いに明け暮れて……っていかんいかん。 一般市民である私が、変な友人のことを考えるのはやめよう。 今日、この地に降り立ったのには、訳がある。 先日、私が敬愛する……って言いすぎかも。 ともかく昨日、私が惹かれる作品を執筆するネット小説家、『鷹木きめら』先生の掲示板にて、『深紅の格闘王』さんがオフ会を持ちかけてきたのだ。 だから私は、ちょうど今日は暇だったし、すぐにOKを出したのである。 もっとも、これにOKを出したのは、提案した本人と私を除けば鷹木先生だけ。 『まさよLOVE』さんやら『ピカの孫』さんやら……まあ何はともあれ、ここに集うのは三人だけだ。 私は、東京駅の待ち合わせ場所近くの壁に、背を預けた。 ひんやりとした壁が、私には少し心地よい。 思えば、私がこんな平穏を手に入れたのはすごい久しぶりのことだ。 三歳の頃から家事を手伝い、手のかからない子として私は育ってきた。 まあこれには色々と複雑な事情が絡んでくるのだけど、それを考えるのはやめよう。 最初の頃は、多分どこにでもある平穏な家庭だった。 MIB(メンインブラック)を地で行くような格好でSPの仕事をする、娘の目から見ても格好いい父。 他を魅了するような美貌と若さを持ちながらも、父一筋で行き続けてきた母。 いつ何時でも、理想とも言える優しさを持った、私と四つ違いの双子の兄と姉。 互いに甘え合い続けた、私と二つ違いの双子の姉たち。 そして弟。 だけどこれが一変したのは、多分私が四年生くらいのころだったと思う。 母は、父の仕事についていくほど父に入れ込み、家事をおろそかにする始末。 仲の良いふう……それはともかく、私ら子どものことはどーでもいいんかい。 んで、百合姉妹の悪名を持つ姉たち。 私まで同類だと思われるのは、とてつもなく心外です。 最後に、女装癖のある弟。 これで、性格はしっかり男のそれと変わらないって言うんだから、ふざけてるわよね。 そして何より、私の通う学校は来る者拒まず、去るもの追わず、をモットーにした格闘家養成学校ときたもんだ。 ちなみにこの学校の偏差値は、軽く30を切っていたりする。 ……私の平穏って、何よ? だがしかーし、駄菓子菓子。 今日は私が名も無い一般市民として溶け込める日なのだ。 これを喜ばずにはいられまい。 ただぺちゃくちゃ喋って、買い物をして、遊んで、そして楽しいまま終わるという、平穏でありきたりな休日。 うーん、ビバ平穏。 平和のために戦う正義の勇者様の気持ちが良くわかる、今日この頃。 と、そんなことを考えているとき、一人の少年が、私の目に飛び込んできた。 少々小柄な彼は、深紅の帽子を見せ付けるようにかぶり、カジュアルな服装を見事に着こなしている。 とはいえ、女の私から見たら、とっつき易そうではあるけど、恋人としてはどうかって言われたら……難しいわね。 だって、軽薄そうなんだもん。 でもあの人、どこかで見たことあるような気がするんだけど……気のせいよね。 格闘王さんは、フェラーリ帽をかぶってくると言っていたのを、私はふと思い出した。 けど正直な話、私はフェラーリ帽というのをどういうものか知らないので、帽子の彼に声をかけるのはためらわれた。 ならば私の狙いは鷹木先生。 眼鏡をかけて、手帳を見つめているのが、鷹木先生その人だと、本人は言っていた。 「うにゅ、初めまして。オレが『深紅の格闘王』っす」 一瞬だけ、私はびくっと身体を振るわせた。 私に声をかけてきた、と思ったからだ。 だけど声の主は、別の人に声をかけていたと気づくと、少しだけ私はほっと胸をなでおろす。 声の主は、先ほどの男性。 かけられた側は、平均女性くらいの身長の、眼鏡をかけた女性だった。 セミロングの黒髪は、彼女の魅力を引き上げるのには十分すぎる。 さらに、服の上からでもわかる、その均衡のとれたスタイルは、並みの女性じゃあ比べるのもおこがましい。 私、少しだけ自己嫌悪。 だって、だって私……腹筋割れてるもん……。 あと、鷹木先生の服は、キャミソールにデニムのスカート。 余談だけど、私はノースリーブの黒服にスリムジーンズって、ちょっと格好よく決めてる感じ。 控えめな胸を強調させる、ちょっときつめの服だ。 「貴方が……。初めまして、『鷹木きめら』です。『深紅の格闘王』様」 「あ、オレのこと、そんな堅苦しく言わなくてもいいぜ。オレもきめらちゃん、って呼ぶし」 私も、二人に続くように近づいていった。 ちなみに私を『木下隆一』として認識させるためのアイテムは、黒いバッグだ。 私は一旦深呼吸をして心を落ち着かせ、それから二人に声をかけた。 「あの……」 「はい?」 「うにゅ?」 二人は、二人の前に突然現れた私の存在に首をかしげた。 「初めまして。『木下隆一』です」 だけど、私の言葉と同時に、二人が固まった。 ……何で? そう思った矢先、二人は悲鳴に似た怒号を発した。 「ええええええええっ!!?」 「うにょああああああああっ!??」 ……失礼な反応。 「わ、私。てっきり木下さんって、男の人だと……」 「お、オレも。しかも、20代後半くらいかなーって……」 ……どーせ私は男っぽいですよ。おっさん臭いですよ。 確かに、掲示板に一度、あたりめが好きだって書いたことはあったわよ。 だけどビールは飲まないで、それ単体で好きなの! ……ついでに言えば、塩辛とかししゃもなんかのおつまみも好きです、はい。 ちなみにお酒は飲みません。 だって、私、未成年だもん。 少しだけいじけた私は、壁に「の」の字を書いたりした。 「まあ、きめらちゃんも、木下さんも揃ったことだし、どこ行こっか?」 私だけ、さん付けなのは、やっぱり私のことを年上の男性だと思ってたからなんだろう。 ま、ハンドルネームの下の名前が隆一じゃあ、しょうがないけどね。 もしかしたら格闘王さん、私が男だったら、私のことを隆一って呼びたかったのかもしれない。 ともかく、格闘王さんが私たちを引っ張ろうとしてくれるその気配りは、鷹木先生は知らないけど、私には嬉しかった。 でも、本当にどこに行こう? オフ会なんて正直初めてだし、何をすればいいのかなんてわからない。 順当に行けば、カラオケ、居酒屋ってところなのかもしれない。 けど見た感じ、鷹木先生も格闘王さんも、未成年だから後者は却下でしょ。 だからって、前者はやだなぁ。 ヨーコやメグと、カラオケ行ったことくらいはあるけど、ヨーコって音痴だから聞くに耐えないし、メグはアニソンばっかりだし。 単刀直入に言えば、最近のポップスを知らない、ってこと。 だからこそ、私は先んじて人を制すことにした。 「失礼だけど、私お腹空いちゃった。ちょっと早いけど、お昼にしない?」 「あ、オレも」 鷹木先生は難色を示したらしく、ちょっとだけ顔をしかめたけど、格闘王さんは私の提案に乗ってくれた。 まあ確かに、11時じゃあお昼には早いよね。 でも、私が朝御飯食べたのって、6時だからなぁ。 「……わかりました。では何を食べましょうか?」 「ラーメン!!」 別に、福島のラーメンがまずい、ってわけじゃあないけど、東京がラーメンの激戦区だってことは調査済みだ。 きっとおいしいに違いない。 「え〜」 でも、今度は格闘王さんの方が難色を示した。 ……そういえば、格闘王さんの出身は北海道だったっけ。 北海道と言えば、札幌ラーメン、旭川ラーメン、函館ラーメンと種類は豊富。 これじゃあ難色を示すよね。 こういうときこそ、私が経験故に身につけた知恵が役に立つとき! 「そういえば、北海道って醤油、塩、味噌は有名だけど、とんこつってないですよね。でも東京の主流は醤油とんこつなんですよ。食べに行きません?」 あえて、返答を待つような質問をしないで、私の望む答えを促すようなことを言う。 以前私が出会った、説得が上手な女性から教えてもらった手法だ。 その人はとても綺麗な人で、深窓の令嬢、という言葉がよく似合う人だったけど、気が強くて聡明で、女の人なら憧れてしまうような人だった。 名前は確か……麗奈さん。 あの人から学んだ説得術は、こんな場所でも役に立ったみたい。 「うにゅ、確かに。じゃあ行こっか、木下さん」 「私も、東京の地理は詳しくないんだけど……」 「では、新宿にでも行きます? あそこなら、中央線一本で行けますし」 「その案、賛成です。鷹木先生」 「木下さんに同じッスよ」 この選択が、私たちのオフ会をドタバタしたものに変えるとは、今になっては思いもよらなかった。
流石に、切磋琢磨しあえるラーメン激戦区なだけあって、味は相当なもの。 「何か、肉を食べたのって、久しぶりのような気がする……」 「木下さんは、ベジタリアンなのですか?」 「ん、違う違う。ウチは肉類を多く作っても、お父さん、お母さん、卓(すぐる)お兄ちゃんに日名(ひな)お姉ちゃんっていった家族にみんな食べられるから、私は野菜しか食べられないの」 「……すごい家庭ですね」 「わかってくれますか、鷹木先生?」 私と鷹木先生は、食事の合間にも会話を挟み、濃厚なスープに舌鼓を打ち、楽しくおいしい食事を満喫した。 格闘王さんは、出会ったときとはうって変わって、黙々と食事を続ける。 会話しながらの食事が出来ない、この辺の不器用さはやっぱり男の子なんだなー、って思う。 当然食事が終わるのは、黙々と食べていた格闘王さんな訳で、食事を終えたら私たちの会話の中にもぐりこんでくる。 私たちはまだ一杯目なのに、格闘王さんは替え玉まで頼んで、しかもそれも食べ終えていた。 成長期の男の子は、よく食べるもんね。 スープも残さず飲み干して、私の昼食は終了する。 鷹木先生はそれほど空腹ではなかったようで、スープは残していた。 勘定を終えて外に出ると、外はむわっと湿気を帯びた熱気が身体を覆ってくる。 ヒートアイランドとは聞いたものだけど、都会は想像以上に暑い。 特に東北地方出身の私としては、とりわけ暑く感じてしまう。 「さて、どこに行こうか? きめらちゃん、木下さん」 格闘王さんが、私たちに意見を求めてきた、そんなときだった。 一人の人物が、私たちに向かって突進してくるではないか。 だが私たちを通り過ごしたり、もしくは体当たりをすることもなく、その人は私たちの目の前でブレーキをした。 「お願いダスーっ!! 俺をちょっとの間でいいダスから、かくまわせて欲しいんダスよ!!」 変わった口調の男性だった。 顔を上げると、その容貌がはっきりとしてくる。 太腿までもある三つ編み、少女ではないが少年とも言い切れない端整な顔立ち。 そして髭。 そう、アニメとかでよくある嫌味な貴族がしているようなチョビ髭。 身長も私くらいという、男性としては低い身長だし、ちっこいおっさんという形容がよく似合うのかもしれない。 これで右手と左足がなくて、髭を剃れば、少しは某錬金術師っぽくなるんだけどね。 その男性は、私たちが返答する前に格闘王さんの後ろに回りこみ、内気な少女ヨロシク、彼の背中に隠れる。 その直後、警察官の二人組が私たちの前へと現れた。 「あー、君、君。身長160前後で、髭を生やした、小さいおじさんを見なかったかい?」 ……思いっきり、格闘王さんの後ろに隠れている人物その人だった。 「あのー。その人が、何をしたんです?」 鷹木先生は、メモ帳片手に、逆に警察に質問を返す。 確かにいち文芸家である私としても好奇心をくすぐられるシーンではあるけど、流石にそこまでする勇気はない。 そこらへんが、私と鷹木先生の才能の差なのかなぁ……。 「まぁ……その……何だ。指名手配犯ですよ」 妙に曖昧な形で、警察官は返事を返した。 二人して、小声で相談したり、こちらを向いて愛想笑いを浮かべている。 ……あの警察官、怪しい。 正直、ちっこいおっさんの方が、一見したら明らかに怪しいんだけど。 実際あの男が何をしたかはしらないけど、こんなに曖昧に返事をされては、警察を信じろ、というのも難しい。 鷹木先生も格闘王さんも、私と同じように感じたのか、自然とアイコンタクトがされていた。 「……見てませんよ」 「そうですか。失礼しました」 私の嘘を信じ、警察の二人組は敬礼をして、私たちの前から姿を消した。 「ふぅー、助かったダス。感謝しても、しきれねぇダスな」 「それより貴方、警察の人に追われるなんて、何をしたんですか? その辺り、説明が欲しいんですけど」 笑顔で感謝を言う男に、鷹木先生の声は冷たかった。 説明が欲しいのは私もだけど、鷹木先生のように切羽詰っているほどのことではない。 もっとも鷹木先生が切羽詰っているかどうかはしらないけど、そこまで冷たい口調で言わなくてもいいと思う。 もしかしたらただの皮肉屋なのかもしれないけど。 「彼らは仕事をまっとうしているだけダスよ。あ、俺の名前は最上晶(もがみ あきら)。2月に捕まったあの怪盗一家の三男坊ダス!!」 悪人はあんたかぁい! つまり私たちは、犯罪者に手を貸したってことよね……。 私は考える間もなく、ポケットから携帯電話をとりだし、110をプッシュしようとした。 「ちょ、ちょっと待ってダス!! 警察になんて行きたくねぇダス! 俺にだって、色々事情があるんダスよー!!」 晶と名乗った男性は、恥も外聞もなくコンクリートに額をすり付け、顔には涙やら鼻水やらを垂れ流してまでも、私の行動を阻止しようとする。 というか、私の足に擦り寄るな、しがみつくな、鼻水つけるな、汚いじゃない。 「いいから、離してよ!」 「靴を舐めろ、と言われたら満遍なく唾液をつけてあげるダス。足を舐めろ、と言われたら指の間まで俺の舌で綺麗にして差し上げるダス。だからお願ぇダスよ〜!」 「わかったから、離してーっ!」 最上君は、プライドをまるでゴミのような気分で、軽々と捨て去っている。 正直、犯罪者なら犯罪者らしく、それなりのプライドというのを持って欲しい。 彼……というか、彼の家族は2月に捕まったというニュースを、確かに私は覚えていた。 数々の美術品やら何やらを盗み続け、警察をあざ笑い続けた怪盗一家、最上。 父親と母親、それに息子が二人捕まったのは知っているし、最後の一人は未成年ということもあって、一般人からの情報を得られないため、警察内部で指名手配になっているらしい。 その最後の一人が彼だったとは……。 っていうか、未成年? 「……ところで、最上さんっていくつ?」 「17ダス。あ、一応俺は、親とは縁を切ったダスから、晶、でいいダスよ」 ちっこいおっさんというイメージがあっただけに、この年齢は意外だ。 にしても、彼の扱いをどうしよう……。 一番いい選択肢だったら間違いなく、彼を警察に引き渡すことだ。 これなら後腐れなく、オフ会を続けられる。 だけどこの選択肢には問題があって……。 「うわーん! 警察はやめてーダス!」 何故か、私がそう思った瞬間に、彼は私たちにしがみついてお願いするのだ。 一度だけなら偶然と片付けるのだが、二度も三度も続くとなるともう……。 仕方ないので、ここは鷹木先生と格闘王さんにも意見を聞くことにした。 小声での会話なので、晶さんには聞き取れないと思うけど……読心術が使えるっぽいからなぁ。 「……どーしましょう、鷹木先生、格闘王さん」 「私に言われましても……」 「オレに聞かれても……」 かといって、私に聞かれても答えようはないんですけど。 「なんていうか、和製ル○ンだよなー。晶って」 「ルパ○ほど、気持ちのいい怪盗じゃあねぇダスがなー」 やっぱり晶さん、聞こえてやんの……。 ていうか、格闘王さんいきなり晶さんを呼び捨てだし……。 物怖じしない性格なのかなぁ……。 「でも、小説のネタにはなりますよね」 と、鷹木先生。 「オレも、怪盗が友達になるなんて、そうそう経験のないことだと思う」 と、格闘王さん。 そんな経験があったら、むしろ嫌です。 正直、私としてはこんな、明らかにトラブルを持ち込むような人間と関わりたくない。 今日日まで、トラブルに巻き込まれ続けた私だからこそ、そう思う。 今日こそは、ごく一般的な女子高生としての一日を過ごせるのに、と思っただけに苦渋の決断ではあった。 「仕方ありませんね」 ……てか何で私が二人を統率してるんだろう。 ……もしかして二人とも、私のことを女子大生……もしくはOLさんくらいに思ってるのかも。 精神年齢はともかく、両親に似て、結構童顔のつもりなんだけど。 「ありがとーダス。お礼に、東京の表と裏を網羅する全てを知る者こと、この最上晶がお宅ら三人を案内してあげるダスよ! 東京の名所、穴場、コカインヘロインなどのヤクの売人、人を殺害した場合でも絶対にばれない隠し場所まで、何でもOKダス」 晶さんは小さい身体を駆使して、おおげさに私たちに自分のすごさをアピールする。 最後の二つはともかく、東京の全てを網羅しているのは嬉しい。 まあ何だかんだ言って、彼の好意は私たちにとっては渡りに船であった。 「じゃあ、お願いさせてもらおうかな」 「了解ダス!」 私の言葉に、素直に(?)軍人風敬礼をして見せる晶さん。 彼のにやりと笑う様は、確かに17歳くらいの少年のそれだった。 でもこうして見ると、髭が生えているだけで、結構童顔だ。 そんな風に私が思っているとき、格闘王さんが口を挟んできた。 「全てを知る者? だったら今日、美亜子ちゃんがはいている下着の色は何ダスか?」 格闘王さん、口調が写ってる……。 第一、美亜子って誰? それにいくらなんでもその質問に、答えられるはずがないと思うんだけど……。 「上下共に白ダス。胴衣の上の色と重なり、目立たないための乙女の努力ダスな」 ……答えられるんかぁい!! 「なら私からも質問させてもらってもいいですか? 弓削先生の作品『クロスナイツ』の最新作は、いつ頃になるのですか?」 私は、その鷹木先生の質問に、息を呑んだ。 ……晶さん、気づいているの? 「編集長からのOKも出てるダス。ダスから、そろそろ出ると思うダスよ。次の最新作は、現在添削中ダス」 ちらりと、晶さんは私を見た。 ……やっぱり気づいてる。 そう、この『クロスナイツ』は現在私が、弓削先生の代わりに書いているのだ。 今はゴーストライターとしてでのバイト代わりだ。 けど、弓削先生は私を公に出そうと画策しているそうだ。 元々、この作品は弓削先生のオリジナルでなく、弓削先生の親友で、メグの叔父である木下隆一という人物の作品が元。 親友の死を悔やみ、弓削先生は『クロスナイツ』を彼への弔い代わりに、公に出したのだ。 そしてそれが大当たりし、ライトノベルの世界では、弓削先生は重鎮となったのである。 このことは、その作品のあとがきにも書かれていたことだ。 しかし親友の書き残したネタ以上のことを、弓削先生は書けない。 かと言ってこのまま終わらすことも出来なくなった。 そのとき、目をつけられたのがこの私。 元々小説を書くのが好きだったし、幼い頃から木下隆一の小説は彼の姪であるメグから見せてもらっていた。 だからこそ、私が最も木下隆一の思考に近かったのだ。 そんな訳で、私はゴーストライターをやることとなった。 ……ちなみにこのバイトは、サバゲーのことで弓削先生が私の学校を訪ねてきたときに、頼まれたことだったりする。 「二代目、木下隆一かぁ……」 「どうしたのですか、木下さん?」 私は、目の前で私の顔を覗き込んでいる鷹木先生の姿を見て、どきっと心臓が跳ねた。 「な、なんでもないっ!」 そうは言ったものの、顔は真っ青、心臓はバクバクと高鳴っていて、額には脂汗がたらたらと流れていた。 私はごまかすように、晶さんに質問をする。 「そ、それなら晶さん。い、今オススメの株は何処ですか?」 「んー、大手は高いし、上昇が見込めねぇダスから、やっぱり……水鏡興行がオススメダス。あそこは明日の夕方、花菱の傘下に入ると公式に発表されるダスから、グーンと上がること間違いないダス」 ……いくら元怪盗とはいえ、この知識は永遠の謎だと思う。
人が多い通りはもちろん、裏の裏まで知る晶さんの説明で、裏路地の全てまで教えてくれた。 もっとも私や格闘王さんは、北国の出身なので、使うことはまずないだろうけど。 あと、麻薬の取引を盛んにしている場所を教えてもらったことには、ちょっと辟易。 「口止め料ダスよ。この情報を警察に売り渡せば、それなりの報酬になるダスからなぁ」 とか晶さんは言っていたけど、別にお金が欲しい訳じゃあないし。 でも晶さんの情報は、少しだけだけど役には立った。 今じゃあ中々手に入らない古本や、欲しかった服なんかも見つかったし、満足満足♪ あらかたやりたいことも終え、そろそろ夕方になるであろうというそんなときだった。 「まさか私、あそこでシャーリーンがゾンビを食べよう、だなんて言い出すとは思わなかった。ホント、鷹木先生の発想ってすごいと思う」 「でも私は木下さんみたく、あんなにキャラを生き生きさせることは出来ませんから……。特に、堕天使クラリスの動きっぷりは驚愕の一言に尽きます」 「オレ的には咲(さき)ちゃんだなぁ。もう彼女のいじられっぷりは秀逸でしょ」 「格闘王さんも、よくぞあそこまでギャグに持っていけた、って感じ。本当に笑わせてもらってますよ」 「そうですね。ホームページの更新の度に、笑わせてもらってますから」 私たちは、山手線に揺られながら、互いの作品の感想を言いつつ会話を堪能していた。 鷹木先生の突飛で予想できない展開だったり、格闘王さんの類稀なるギャグセンスには、私も正直脱帽だ。 私もまだまだ物書きとしての修行が足りないね。 必然的に仲間はずれとなる晶さんは、嫌な顔せず、私たちの会話に耳を傾けていた。 「よーし、それじゃあカラオケでも行くダスよ! オフ会の定番とも言える場所ダスからな」 ぱん、と手を叩くと同時に発した晶さんの言葉に私は、げ、と言葉を漏らした。 奇声を挙げて喜ぶ格闘王さんを横目にしながらも、私は乗り気じゃなかった。 鷹木先生は……まあごく普通の人の反応だと思う。 うう、腹を括るしかないのかなぁ。 私の持ち歌って、超がつくほどのネガティブな歌ばっかりだし、多分全員がドン引きするのは請け合いだ。 多分、カラオケから出たら、皆に数本の縦線が出るのは間違いない。 ……どーせ私は山崎葉子(やまざき はこ)とか好きですよ!! と、否応なしに腹を括ったそんなときだった。 休日だというのに、電車の中は人がまばら。 まあだからこそなのだが、私たちは酔っ払いに囲まれている、理知的な女性を見つけてしまった。 周りはそんな光景を見ないフリをして、傍観を決めている。 東京って、世知辛いところよね。 無論私は、そんな光景を見逃すほど冷たい人間じゃあない。 鷹木先生と晶さんは非戦闘員だから参加はさせないことにして、私と格闘王さんは女性の方へと急いで歩み寄った。 だけど。 「やめろっ!」 どこにでもいると思われる男性が、女性に付きまとう酔っ払いたちを振り払う。 「この子がかわいそうじゃあないか!」 男性はたんかを切って酔っ払いを睨みつけ、それに物怖じしたのか、酔っ払いたちはそそくさと退散していった。 東京にも、こんな正義感の強い男性がいるのか、と少しだけ感心した。 周りもそのように感じたのか、一斉に男性にむけて拍手を送る。 「大丈夫かい、お嬢さん」 ……うわー、歯の浮くような台詞。しかもすっごいベタ。 まあ世間一般では正義の味方、って感じだけど、私はあんまりいい感想を抱かなかった。 私の警戒心が強すぎと言ってしまえばそうかもしれないけど……女性を口説くための口実にしか過ぎないんじゃないかな、って。 「あ、ありがとうございます。何てお礼を言えば……」 「いえいえ、いいのですよ。……我らの僕となってくれればね」 「もちろんです。トレインマン様……」 は? 今何と? ここで私は、周りに理知的な女性ばかり、いや、理知的な女性しかいないことに気が付いた。 誰もが誰も、理知的ながらいい育ちのお嬢様っぽい、華やかな格好だ。 中には、清楚な女学生すらいる。 そんな中、突如男性が高笑いをしてみせた。 「ふはははは……。僕の名は怪人トレインマン! 今日もエルメスたんに感謝をさせ、僕の味方にさせてやったぞ! 今は滅び去った関東支部。だが僕の力で再び再興を果たし、主、魔王クラーマ様からの寵愛を受けてみせる!」 ……うわー、自分で自分の名前を言って、しかも目的まで丁寧に教えてくれて。 何か、アニメとかにある頭の悪い悪役みたい……。 ナレーション:「説明しよう! 怪人トレインマンは酔っ払いを召喚し、女を襲わせてそれを助け、そして感謝を言われると、トレインマンの僕となってしまうのだ!」 何か、天から声が聞こえたような気がするけど、鷹木先生や格闘王さんに電波女って思われたくないから、その件は気のせいにしておいた。(晶さんは、どうせ今日限りの出会いだろうし、気にしていない) ……そういえば、格闘王さんの姿が見えないような。 とそんなとき、トレインマンの目が、鷹木先生を捕らえた。 「おおっ! 彼女も高学歴で美人! 彼女もエルメスたんにふさわしい!!」 ナレーション:「説明しよう! 怪人トレインマンは目をつけた女性全てをエルメスたんと呼ぶのだ!」 また厄介ごとに巻き込まれてしまったと思うのと同時に、鷹木先生って高学歴なんだ、って思った。 確かによく見れば、鷹木先生は美人でスタイルもいい。 これで高学歴と言うんだから……もう人生勝ったも同じよね。 私は美しさの点では、人並みより上かな、って自信くらいはあるけど、学歴が、ねぇ。 でも私自身の偏差値は60ちょっとなんだけど。 レベルが最低の学校での事だけど、全学年トップの成績は、ちょっと自慢。 「……あんな変な学校に行ってることが、イコール高学歴ってことに、本当になるんですか?」 そう、鷹木先生は小さく皮肉っていたのだが、私の耳には届くことはなかった。 そんなことはさておき、トレインマンはエルメスた……じゃなくて鷹木先生のことを食い入るように見つめている。 その視線に、鷹木先生の表情はより一層硬いものとなってしまう。 て言っても、トレインマンのような人物は何を言っても聞かず、鷹木先生になんらかのちょっかいを出すだろう。 「行け! 戦闘員ヨッパライー↑(「イー」の部分を強調するように言う)」 そう言うと、トレインマンの周りから、数人の酔っ払いが現れた。 何も無いところから、超常的に現れたので、正直目を疑った。 一般人の私たちからすれば、絶対にありえないことだ……だから一般人というところを疑うのはやめて。 なりたくてなったわけではないが、歴戦の兵である私。 そんな私の足がすくんだほどの出来事だったが、今は鷹木先生の貞操の危機。 彼女を見捨てたら、女がすたるってモンよ! 「へっへっへ姉ちゃん」 「いい尻してまんな〜」 「俺っちにお酌してくれよ〜」 「王様ゲームしよう〜」 ……うわ、無茶苦茶タチの悪い酔っ払い。 高学歴故に男との交わりがないのか、一歩も二歩も引く鷹木先生。 晶さんも、軽蔑するような目で酔っ払いたちを見ていた。 そんな二人を、私はかばうようにして酔っ払いたちに立ち向かう。 私は無用心に近づく酔っ払いたちに素早く一発ずつ、腹部に掌底を食らわせた。 酔っ払いに対し、腹部に攻撃を食らわせればどうなるか? 答えは簡単、反撃が返ってくる。 それも、お花見などで使われる一撃必殺の技が。 別名、もんじゃストーム。 酒を一気に飲み、それを勢いにアルコール中毒になった人物が胃の中に含まれた物質を全て口から放出するという大技である。 私は素早くその場を退いたので、その反撃は避けることは出来たのだが、辺りに酸っぱい臭いが漂ってくる。 でもそれは一瞬の事で、私が一撃を与えた酔っ払いたちは消え去り、彼らが放ったゲ……じゃなかった、もんじゃストームは彼らと同時に消え去ってくれた。 「何っ! 低学歴の分際で生意気な!」 はいはい、どーせ私は低学歴ですよーだ。 エスカレーター式じゃなかったら、私だって良い高校選んでたよーだ。 そんな叫びは私の心の内に押し込め、私は構えをとってトレインマンと相対する。 にしても、格闘王さんはこんな肝心なときに何やってるのよ! だあっ、役立たず! か弱い女の子がここにいるってーのに、男が逃げ出しちゃあどうしようもないじゃない。 ……あ、ちなみにか弱い女の子ってのは、鷹木先生のことよ。 私なんて、どう逆立ちしても「か弱い」とは言わないもんね……悲しいけど。 「行けっ、僕のエルメスたんたち!」 全員が全員エルメスなのね、っていうツッコミはあるにはあるけど、そうこう言ってられる状況じゃあないことは明白だった。 いかにも一般人って感じの大量の女性が、まるで何かに乗っ取られたかのように、ただ私たちに襲い掛かろうとする。 まあ素人相手に気後れする私じゃあないんだけど、彼女らに手を出すのはやっぱり気が引ける。 ……ちなみにそう思ったのは、数人の女性の心臓目掛けてハートブレイクをかけた後だったりする。 ちょっと罪悪感が私の胸の内をよぎった、そんなときだった。 「はっはっは……」 「誰だっ! ……このプレッシャー、シャ○かっ!」 そこで、どうしてキャスバ○兄さんが出てくるんでしょうかねぇ? それはともかく、怪しげな男の笑い声が、何故か狭い車内の中で響き渡った。 そして一人の人物が、私たちの前に舞い降りる。
ナレーション:「深紅の格闘王(ファイター)、センゴクレッド!」 すちゃっ。 ナレーション:「センゴクレッド、一人だけで登場である」
「東京に来て早々に怪人と出会うか……。私は運がいい……」 ……この人絶対、シ○アを意識してるわね。 もう、見た感じ明らかに芝居がかっているし。 つまり、センゴクレッドとかいういかにもヒーローっぽい、こっぱずかしい男の人もそうとうマニアックな人みたい。 と、ふと私の視線に、山手線のある液晶が目に映った。 何かが私の視線に入ったからだ。 それは……。
ヒーローキタ━━━(゜∀゜)━━━!!! 46 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:46
来たよ来ましたよ!! 47 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:46 赤いヒーロー萌えーーーっ!!
っつーか、見られてるの?
眼鏡っ娘ハァハァ(;´Д`) 49 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:47 漏れも文学少女は私的に萌え 50 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:48
あれ? けも耳…… (._. ≡ ._.) 51 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:48 チョビ髭なのに、背が低い男キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! 52 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:49 漏れは男装した美少女と見た 53 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:49 男装美女グッジョブd(´ー` )
ただその事に、センゴクレッドやトレインマンを始めとし、晶さんまで気が付いていない。 にしても、私だけ感想を言われてないような気がする……。 それにしても、山手線まで某掲示板がはびこっているの? 色々と考えている間に、センゴクレッドの活劇は始まっていた。 ……何でだろう? 明らかにセンゴクレッドとトレインマンの戦いって、非常識極まりない人外の戦いなのに、まったくもって驚かない。 火は何も無いところから飛び交い、周りからは「きゃあっ、トレインマン様が!」とか「……んです……」とか「弁当、キャラメル、ポップコーンはいかがダスか〜」とか言っているのに。 ……マアキョウダケデイロイロトアリマシタカラ、アハハ……。 しばらく世の無常に対して嘆いている最中に、センゴクレッドは押され始めていた。 取り巻きの美女……一応トレインマンはエルメスたんと言っているけど、全部がエルメスじゃあ何だし、ビットとでも名づけておく。 で、そのビットがトレインマンに加勢し始めてから、レッドは目に見えて攻撃をためらい始めたのだ。 酒と女にゃあ滅法弱いが、喧嘩は滅法強い……ってやつだったっけ?(うろ覚え) 「しょうがない。私も手を貸します。センゴクレッド!」 レッドに向けて放った言葉と同時に、私はビットたちに向けて攻撃をしかけた。 攻撃が素人なら、防御も素人。 ビットたちはあっさりと私の攻撃を食らい、地に伏せた。 ちなみに私は、女性に対して暴力をふるうことには、抵抗感はあまりない。 ヨーコやメグを始めとして、百合姉や瑠璃姉、地域のレディースとかヤマンバメイクの女性とかにも手をあげたことがあるし。 ……だからって、私が暴力女だって思わないでよね。 どれもこれも仕方なく、だったんだから。 「木下ちゃん。これを使えダス!!」 後ろで待機していた晶さんが、私に向けて何かを放り投げた。 思わずキャッチした私だったけど、それを見て私は目を丸くした。 ……釘バット? なお、晶さんはそんなものを持っていた様子はまるでなかったし、ヨッパライー↑やビット、トレインマンもこんなものを持っていない。 しかも、何故よりにもよって釘バット?
釘バット少女萌えーっ!! 60 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:52 撲殺天使降臨! ははぁ〜m(_ _)m 61 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:52 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜
ぶっちゃけ、心の中で強く思ったことだったが、誰も掲示板のことに気が付いていないようなので、心の内に押しとどめておいた。 大体、ヒーロー、眼鏡っ娘、男装少女(晶さんは髭を生やしているけど、それを綺麗に剃れば三つ編み少女に見えなくも無いと思う)とそれなりの反応を示しているのに、何故故私は釘バット少女? 私だけ何でイロモノ? 色々と混乱はあるけど、私は釘バットを思いっきり振るって、ビットたちをなぎ払う。 ビットに当たる度、釘が肉を貫き(自主検閲)血が面白いように飛び散(当然自主検閲)自らの命が惜しくなったのか、ビットたちは私たちに突貫するのをためらっていた。
血塗られた堕天使ハァハァ(;´Д`) 65 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:53 赤いシミが全身にいきわたっているところが漏れとしてはグッジョブd(´ー` ) 66 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:54 ( ゜Д゜)マテリア穴がない! 67 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:54 クラウ○子ハァハァ(;´Д`) 68 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:55 ていうか逝ってよし! 69 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 04:56 オマエモナー!
大体、○ラウド子って何? 確かにこの釘バットに穴はないし、そういう武器はあのゲームにあるのは知ってる。 けど、ねぇ……。 「残るはお前だけだ!! 火星に代わって摂関政治! 妖魔、退さーーーーん!!」 ……ほとんどの戦隊モノで、リーダーであるレッドはお調子者なんだけど、この人も例に漏れないみたい。 「甘い、甘いぞセンゴクレッド。そのように愚かな振る舞いで、我らに勝てると思っているのか!」 「だがそれでもオレは貴様を超えてみせるぞ! シュバル○・ブルーダー!」 ……もうネタが満載で、会話すら成り立ってないような気がするんですけど。 と心の中でツッコミを入れていた、そんなときだった。 ぞくっ。 ここで、私の背筋から激しい悪寒が漂ってきた。 背中に当てられる、強烈な思念。 その色は漆黒を通り越して、無そのものだ。 私が恐る恐る振り返るのと、ほぼ同時にそれは起こった。 ぷち(何かが切れる音) 「一体、何なんですかーっ!!」 山手線の車両に、かわいらしい叫びだったけど万感の思いが込められた声が響き渡った。 叫びに鷹木先生を除いた一同が、びくっと身体を震わせる。 だが鷹木先生はそんなことを意に介せず、動きが止まったトレインマンの元へと歩み寄ると……。 ずがっ! 鷹木先生のファールキック(男性同士の戦いでの暗黙の了解となっている、所謂禁じ手)がトレインマンへと突き刺さった。 ……まあ一つくらいつぶれたって問題ないらしいからいーんだけどさぁ。 続いて鷹木先生、視線で私たちを捕える。 鷹木先生の威圧に負けたのか、私たち一同はおずおずと慎ましく直立するしかない。 もっとも急所を蹴られたトレインマンは非常につらそうにして、だけど。 鷹木先生は、にこにことしながら口を開いた。 はっきり言って、その表情の方がかえって怖い。 「何なんですか一体? 晶さんは何も持っていないはずなのに、釘バットなんて取り出して」 鷹木先生は無造作に、私の落とした釘バットを拾うと、ぽんぽんと軽く釘バットで自分の手を叩く。 もちろん釘がついていない所でだ。 「きっと不思議力が働いたんダスよ。不思議だね〜」 次の瞬間には、釘バットが晶さんの脳天を閃き、血まみれの頭のまま、彼は倒れ伏せた。 怒っている相手に、よくもぬけぬけとそんな台詞が吐けるわね、晶さん。 ともあれ……死して屍、拾うものなし。 屍と化した晶さんに一瞥を残して、続いて私の方を見る鷹木先生。 「どういうことですか? 他人の為に戦うのはいいとして、晶さんから素直に釘バットを受け取って。しかもそれを躊躇なく使うなんて……。過剰防衛です、銃刀法違反です、暴行致傷です。さあ、話してもらいましょうか。このような犯罪行為を起こすに至った経緯を、ね」 「あ、あう……」 言いたいことはいっぱいあるんだけど、この鷹木先生の有無を言わさないオーラが、私の言葉を押し込める。 確かに、鷹木先生の言葉には、私の胸に突き刺さる要因となることはたくさんあった。 私だって、本来ならそれくらいわかってる。 だけど不良相手に大立ち回りをし続けた結果、釘バットくらいでは動じないし、それを武器として戦ったこともある。 要するに、何をするにしろ倫理観がなくなってきているのだ。 それを考えると、私って変人なのかな……。 思考の海のおかげで、私は少々鬱となり、私の顔には縦線が数本引かれていたと思う。 うう……反省。 その思いが通じたのかは知らないけど、私の態度に満足して、鷹木先生は視線を次へと移した。
あの文学少女に蹴られてぇ……(;´Д`) 75 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 05:04 武器は鞭と蝋燭希望(._. ≡ ._.) あれ、漏れだけ? 76 :Mr.名無しさん :xx/0x/xx 05:04 もっとなじってぇ……_| ̄|○ (;´Д`)
見ないで放った鷹木先生の一撃が、山手線の液晶画面を見事に砕く。 ……鷹木先生もあのスレに気づいてたんだ。 私もあのスレには色々と思うことがあったので、鷹木先生の器物破損罪については押し込むことにした。 で、視線はセンゴクレッドへと移した。 「何なんですか一体? いきなり現れて、私たちを助けるのはいいとして、何で、相手と楽しくお話してるんですか? 好敵手と書いてライバルとでも? それに、そのありえない格好は一体どこから? もう、ついていけません。……さあ、説明してもらいましょうか。その電車な人との関係をね」 センゴクレッドは、どこか脅えたような様相を見せる。 女性に折檻された経験があるのか、その様子は尋常ではない。 でも電車のど真ん中で正座をするのはどうかと思うんだけど。 「うにょ、ちょっと待ってよ。この状況では輪もそうだけど熟考して考えなくちゃいけないよな。ええと、とりあえず今日起きた出来事を考えることにしよう。まず東京駅に降り立ったときにかわいい女性二人でラッキーって考えたんだよな。それで余計な男がついてきて面倒くさいなーって思って、そして見物して、それで怪人の奴を見つけた。見つけちゃったんだよな。いつもなら輪の奴が「やれやれ」とか言って、美亜子ちゃんが「あたしの獲物よ!」とか言うんだよ。えものはえーものとかいう下らないギャグを言えば、美亜子ちゃんからのツッコミもこないし、オレの駄洒落じゃあ美亜子ちゃんのツッコミ魂を刺激することは出来ないのか……。認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものは……。じゃなくて、それで今は彼女に尋問されてるんだ。別にオレはマゾじゃあないし、鞭でも蝋燭でも、もちろん拷問器具である三角木馬なんかも使いたくない。ホワイトベ○スは木馬で、○ークエンジェルは足つき。……混乱してるなぁ、オレ」 その後もセンゴクレッドはぶつぶつと独り言を話し続けていた。 それにしても、センゴクレッドの話って、何か聞いたことのあるような話ね……。 ともあれ鷹木先生は、そんな彼を見事に無視して、最後の一人、トレインマンへと移る。 だけど……。 「そ、そんな、エルメスたんが……、僕は、取り返しのつかないことを……、取り返しのつかないことをしてしまった……」 ナレーション:「説明しよう! 怪人トレインマンはエルメスたんに嫌われてしまうと死んでしまうのだ!」 怪人トレインマンは、鷹木先生の文句を聞くことなく、やがてその身体は塵となり、風に吹かれて消えていく……。 ちなみに窓が開いてもいないのに、何で風が吹くのかって? それはね、鷹木先生の怒りの矛先が消えちゃったから、それを窓に全てぶつけたからよ。 しかし彼女の怒りは治まることを知らず、血走った目つきで私とセンゴクレッドを睨みつけていた。 経験上、その視線に覚えがある私は戦慄せざるをえない。 「あ、あの……鷹木先生? お、落ち着いて……」 「そ、そうだよきめらちゃん。クール、ソークール……」 私たちの必死の説得はまるで効いていないようで、恐ろしいまでの笑顔で私たちを見つめている鷹木先生。 ……やばい、本当にやばい。 やばいを通り越して、ヤヴァイ。 う……私もセンゴクレッドみたいに混乱してるみたい。 実際、センゴクレッドが鷹木先生のことを名前で呼んでいることにも、私は気づいていなかった。 私と同じ常識人の関節を極めるわけにも、もちろん絞め落とすわけにもいかないしなぁ。 ……だからそこで、私のことを常識人じゃないだなんて思わないで。 「はっはっは、面白い展開になってるダスなぁ」 いつの間にやら復活している晶さんが、私たちの後ろに立って、笑いながら声をかけた。 「生きてたんかい……」 どこか、呆れたようにセンゴクレッドが呟く。 そんな反応も、晶さんは非常に楽しそうな様子だ。 「もちろんダスよ。真のやられ役たるもの、この程度のダメージなんて一瞬で回復出来るものダスからな」 絶対に違う、そう私は確信した。 同じことを思っているのか、センゴクレッドも似たような表情だ。 大体、晶さんの右手には「ちゆ」ってでかでかと書かれた空ビンを握り締めているし、私たちの耳に「ふー、俺の見栄はばれなかったみてぇダスな」とかいう大声(本人にとっては呟きなのかもしれないけど)が聞こえているんだもん。 それに晶さん、そんなことを言ってると、また鷹木先生を怒らせる羽目になっちゃうって。 そんな彼女は、徐々に迫力を増しているのに、笑顔を保っている。 くどいようだけど、はっきし言ってそっちの方が怖い。 こういう状況だったら、むしろがーって怒られる方が楽よ。 ……まあ待て。冷静になれ、私。 今この場にいるのは、エクスキューショナーの二つ名を与えられた薄幸の少女、ネタに走る正義のヒーロー、全てを汁物……じゃなくて知る者と自称している怪盗……全てを知る? そうよ、それよ! それこそが勝利の鍵だっ! 「晶さんっ! この場を解決する知識でも知恵でもいいから、教えてくださいっ!」 「えー? こんな面白い状況を立て直すんダスかー?」 晶さんは私の言葉に対し、本当に嫌そうに口を尖らせる。 こ、この男は……。 「だって俺、トリックスターダスし」 私の心を読むように、晶さんは胸を張って宣言をした。 っつーか、胸を張って言えるような性格じゃあないし。 ただ、一つだけわかったことがある。 晶さんは、この状況を立て直す方法を知っている。 「命が惜しくば、やってください!!」 「ぶー。仕方ねぇダスな。ならば今から立案するダス。その1、諦める」 「「却下だぁぁぁっ!!」」 私とセンゴクレッドが、思いもがけずハモる。 まあ確かに魅力的な案かもしれないけど……。 「オレは正義の味方だぜ!? ここで美女を諦めて「レッドよ、天に帰る時が来たのだ」とか言われたくないナリ」 ……そこで、何故にコ○助風に話すの? つーか、どっちもネタが古すぎて、わかる読者の方が少ないわよ! 「その2、逃げる」 「……見事な戦略的撤退ね」 あまりにも脱力する案が飛ぶので、深いため息をついてツッコミを返す私。 「いや、違うぞ木下さん! 逃げると言っているんじゃなくて、後ろを向いて全力で走れ、って取ればいいんだ!」 「……それ、正義の味方の言う台詞ですか? 正義の味方なら、もっと前向きな発言をしてください」 「確かに正面は後ろ向きかもしれないけど、背中とお尻は前向きだぞ」 なんか、気がつけば私、センゴクレッドとコントやってるし……。 もっとマシな案はないんですか、晶さん? そんなことを考えていると、それを見越したかのように、少し悩むそぶりを見せて答えた。 「んー、案その39くらいに、彼氏に電話をして、きめらちゃんを説得するって方法があるんダスが、面白くないし却下……」 それをさっさと言わんかい。 っていうか、鷹木先生、彼氏いたんだ。 「今時の学生って、進んでるよね」 ちょっとだけうらやましく思いながら、私は呟いた。 うらやましい、って言っても私の周りにはロクな男がいないから、彼氏を作るつもりなんてないんだけど。 ここで、私の頭の中に一人の男性が思い浮かぶ。 だけどそれを振り払うかのように、私は頭を横に大きく振った。 誰が……あんな人を好きに……。 「がっかりなり……」 折角知り合いになれた美女が、彼氏持ちだということ知った途端、センゴクレッドは傍目から見てもわかるように、深く沈みこんだ。 結局、一番被害を被ったのは、休日なのに怪人と戦う羽目になった彼なのかもしれない。 ちなみに追記しておくけど、鷹木先生とその彼氏の電話は、非常に初々しくて甘々だった。
「俺も久しぶりダスなぁ。綾、大河君、櫻ちゃんと一緒に行ったっきりダスから」 鷹木先生は鬱憤を晴らして少しすっきりしたのか、私たちが最初に見た鷹木先生に戻っていた。 とはいえ鷹木先生が残したものは大きく、私はどうしても鷹木先生に対して頭があがらない。 あの場にいなかった格闘王さんも、どこか鷹木先生には遠慮気味だ。 ちなみに晶さんは、いつのまにか復活して、今では怪我一つない様子で、まさにけろりという形容がふさわしい状態。 それにしてもあんな恐ろしい目にあって、晶さんはまるで変わらず鷹木先生と相手をしていた。 ぶっちゃけ、すげぇ。 ちなみにあんな騒ぎを起こしたのだから、警察の厄介になると思っていたが、そこはそれ。 晶さんがもみ消してくれていた。 感謝はするけど、あんた一体何者よ? 大体、人の彼氏の電話番号知っている時点で、何かが違う。 私は濃厚なため息をつき、格闘王さんにこう言った。 「今日はとっても変な一日だったね。今度はきっと今日よりはまともな日になるよね、ハム衛門」 「へけっ」 歌は私の番となり、それにも私の万感の思いを込めて、熱唱することにした。
|