投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第十二話


「イクサクニヨロズ意思」

◇前回までのあらすじ◇


チサト「前説を担当させていただく、黒川千里です」

大河「同じく、地鳥大河です」

チサト「よかった……。何か今日はまっとうにあらすじを説明できそうですね」

大河「俺は黒川たちのやりとりは良くは知らんが……。まあ、玲のことだ。容易に想像はつく。あいつも今は怪我が影響して寝込んでいるがな」

チサト「ええと……辛うじて、自分たちと同じ偽者たちを払いのけることに成功した彼ら。だけどそれは、彼らを死の運命に導くレールにしか過ぎなかった」

大河「死の運命に直面したとき、彼らが歩む道とは?」

チサト「画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧ください」



◇1◇


憐たち一行は、先日の襲撃以降、覇気が失われたような様子だった。

生きるということに気力を使っていない、そんな様子は周りの心配を買うだけであったが、憐たち五人はまるで気に留めていなかった。

麗奈や海里、それに元々敵であったはずの“黒薔薇”ですら彼らを心配するほどに。

しかしそれも仕方の無いことなのかもしれない。

自分たちの命が、数え切れる程の時間しか残されていないと、彼らは知っていたから。

「みーなーちゃん! 『もす! バーガー』食べに行こう!」

美奈が始めて出来た友人、北条美里(ほうじょう みさと)が美奈を気遣ってか、声をかけてきてくれた。

美里の友人たちもまた、美奈を気遣ってくれているのか、愛想笑いを浮かべている。

しかしそんな彼女たちに対し、気遣えるような余力は、今の美奈には存在しない。

「ご、ごめんなさい。私……本当に……」

自らの運命を思うと、友人たちに色よい返事をすることは、美奈には叶わなかった。

どうせ、すぐ自分がいなくなるのだから。

どうせ、自分がいなくなることが普通になるのだから。

どうせ……自分は存在すべき存在ではないのだから。

美奈は振り返らずに、美里たちに背を向けて走り去っていった。

(何で、何で! 折角、美亜子みたいな生活を送れたと思ったのに!)

ただ全力で走りながら、運命を嘆く美奈。

涙を拭っても拭っても、止まることを知らない。

「美奈!」

だけど彼女の心の安らぎを担う人物は存在する。

その男性の声を聞くと、くしゃくしゃの表情は一変し、目が赤いのはそのままだが顔は明るいそれへと変化した。

「帰るぞ」

修一、秋彦、瑠璃華、そして憐が少しさみしそうに微笑み、そして前へと歩いていく。

美奈はそんな彼らの後を急いで追って行った。

彼らは自分と同じ運命を背負った仲間だから。

だから……互いの心の傷を舐めあっていたかった。



◇2◇


何もなく、ただ住宅地が続く道。

妙に乾いた風が、憐たちの頬を撫でる。

そんな彼らは、無言でただ道を歩いていた。

「「「「「……」」」」」

空気にひびを入れるような、冷たく重い沈黙が、彼らを包む。

いつもなら明るく振舞う瑠璃華ですら、この様子なのだから、一同が明るくできるはずがない。

無機質な足音だけが、この場にある、唯一の音だった。

湿っぽくない、乾いた悲しみ。

そんな表現が良く似合う。

誰かが泣ければ、こんなカラカラの状態にはならなかったのかもしれない。

だけど憐たちは泣かなかった。

「……労働まで、まだ時間はあるな」

「ああ……」

修一が、雰囲気に負けないように、寡黙な性格を押し込めて言ったのだが、その言葉はただ一言の相槌で一蹴された。

再び彼らを包み込む、痛々しい沈黙。

そんな最中、彼らの目に一人の女性が飛び込んだ。

公園を無邪気に走り回る少年少女に何かを話しかけ、それを聞いた少年少女が笑顔で再び走り出す、そんな何気ない出来事だ。

少年少女はすぐにこの場を後にしたが、女性はゆったりとした動きで近くにあるベンチへと座り込んだ。

女性は、今時着る人がいないのではないかと思われる、着物を着ていた。

もっともそれを着ている人は、京都とかでは良く見るのだが、ここでは珍しい。

しかも、憐たちは新参者ではあったが、彼らは女性に見覚えがない。

つまり、この辺りに住む人ではないのだ。

「あの……」

憐の意識では関わらないと思っていたが、思わず声をかけていた。

何故かは、本人にもわからない。

見る人が見れば、その女性の儚げな容貌と色香に惑わされたとも思う人がいるかもしれない。

しかし本当に「なんとなく」だった。

「はい?」

この辺りでは聞かないなまりで、女性は返事をした。

「あ……その……ええと……」

思わず、しどろもどろになる憐。

目的もなく、ただ声をかけただけなのだから、どう答えればいいのかわからなくなるのは当然なのかもしれない。

「私をナンパしにきはったの? なら、それはお断りします」

痛切な一言に、憐は困ったように頬を掻く。

そんな仕草が面白かったのか、女性はくつくつと笑いを漏らした。

「冗談やさかい、気になさらなくてもええです。……自己紹介がまだやったね。私は紗智子いいます」

「あ……憐です」

「み、美奈です」

「我は修一」

「オレは秋彦です」

「瑠璃華です」

皆の自己紹介が終わると同時に、紗智子と名乗った女性は、にこりと憐たちに微笑んだ。

箱入り、という言葉が良く似合う、清楚で優雅な仕草な彼女。

肌は病的なまでに白く、まるで日の光を浴びていないかのようだ。

不健康さは抜けないが、それでも儚げな容貌は、世の男性を魅了するほどの美しさである。

もっともこの場にいる男性陣は、その程度で魅入られるほど恋愛事に鋭くないのだが。

ちなみに秋彦は瑠璃華一筋なので、あんまり関係ないようだ。

紗智子は、突き抜ける青空を見上げ、頬を撫でる風をその身で堪能する。

しばしの間、その感覚に酔いしれた後、再び憐たちを見つめる。

続いて起こした行動は、自分が座るベンチをぽんぽんと叩くこと。

一同は一瞬だけ怪訝そうな表情となったが、紗智子の有無を言わさぬその微笑に魅入られてか、憐と美奈が紗智子と同じベンチ、そして修一、秋彦、瑠璃華が隣のベンチへと座ることにしたのであった。

「ええ天気どすなぁ……」

ほんわかとした雰囲気が、一同を包み込む。

今までずっと、ギスギスとした雰囲気があっただけに、こんなに和むのは久しぶりだった。

「理由は知りやしませんけど、そないに刺々しい雰囲気しはると、皺が増えますえ」

「……」

「もっとも、私も憐さんたちと同じ時期がありましたさかい、わからはるんですけどね」

随時、微笑を浮かべていた紗智子の表情に、一瞬だけ影が浮かぶ。

が、それはほんの一瞬であったため、憐たちにはわからず、すぐさま微笑に戻っていた。

だから憐たちは、表情が変わったことはわからない。

「あ……私、飲み物買ってきます」

美奈が唐突に言い出す。

微妙に声が上ずっていたのは、見知らぬ相手への会話が出来ないことへの居た堪れなさなのかもしれない。

憐たちは、美奈は顔見知りが激しいことを知っているので、それをあえて言及するつもりはなかった。

美奈は憐たちに背を向け、この場を去っていった。

「ええ子やなぁ」

「はい。アイツは少し引っ込み思案なところがあるけど、悪い奴じゃあないよ。いや、いい奴と言っても過言じゃあない」

憐は仲間を褒められ、それに対し、自信満々に言った。

そしてその言葉に、一点の曇りもなかった。

「……憐さんへの愛がなせる業と思うんやけど」

もっとも紗智子の言った言葉は、小さすぎて憐の耳には届かなかったのだけど。

修一たちの耳には届いており、紗智子の言葉に深く頷いていた。

そして再び、憐たちの周りを沈黙が包み込んだ。

話したいことは、ないわけではない。

だが、赤の他人に、自分たちの境遇を話せるほど、憐たちはあけっぴろげな性格はしていないのだ。

しかし紗智子は、そんな憐たちの思いとは違い、まるで心を見透かすかのように、少し険しくした表情で憐たちに向けてこう言った。

「生きることを諦めたらあきまへんえ。その時点で、試合終了やさかい」

「「「「!!」」」」

憐たちは息を呑む。

心臓はバクバクと激しい鼓動を打ちつけ、目は大きく開く。

手からは汗が噴き出し、憐たちの身体がまるで自分の身体ではないような錯覚すら覚えるほどだ。

と、そこで紗智子は何かに気づいたのか、すっと立ち上がり、姿勢良く、憐たちの前を通り過ぎていった。

憐たちは紗智子を凝視していたので、彼女の一挙一動は確認できていたが、その目的まではすぐにはわからなかった。

しかし紗智子がある程度歩くとともに頭の回転が戻り、紗智子の目的がだんだんとはっきりしていった。

美奈が、ガラの悪そうな男性二人にからまれていたのだ。

美奈は身内には滅法強いが、赤の他人には強く当たることが出来ない。

内弁慶というわけではないのだが、やはりその辺に彼女の性格が現れてしまう。

さらに言えば、美奈はそれほど徒手空拳で強い、というわけでもないので反抗できないのだ。

憐たちは美奈の様子に気づくのが遅れ、気づいたときにはもう紗智子がガラの悪い男性二人の目の前に立っていた。

「……」

「……!」

中肉中背の男性と大柄で筋肉質の男性が、なにやら紗智子に言っているようだが、距離があって憐たちには聞こえない。

「ちょ、ちょっと、急いだほうがいいんじゃない!?」

瑠璃華の言葉に、ハッとする一同。

片や色白で儚げな女性、片やガラの悪い男性二人。

この組み合わせじゃあ、結果は火を見るより明らかだ。

憐、修一、そして秋彦は急いで美奈と紗智子の方へとかけよった。

だが、それは杞憂に終わった。

……筋肉質の男性が、まるで自らがわざと転ぶかのように転倒したのだ。

秋彦と瑠璃華にとっては、ただのマヌケな男にしか見えなかった。

だが武術をかじっている憐と美奈、そして修一にはまるで違って見えていた。

空気投げ。

通常、柔道や合気道では相手の体重や重心を利用して投げ飛ばすものである。

どんな投げ技でも、相手の力は利用するものの、自分の力も必要不可欠なのだ。

だが空気投げという技は、自分の力をまったく使わずに投げ飛ばす技なのだ。

無論、並みの武術家が使える訳がなかった。

筋肉質の男は打ち所が悪かったのか、そのまま動くことはなかった。

「お、覚えてやがれ!!」

気絶した筋肉質の男を抱え、中肉中背の男は去っていった。

美奈はそのことに安堵し、ほっと胸をなでおろす。

「大丈夫か、美奈?」

「う、うん。私は平気だよ、憐君」

適度に身体を動かしてアピールする美奈。

外傷はなく、衣服にも乱れた様子はないので、憐は少し安堵したような表情をしてみせた。

そんな様子すら、美奈のツボをついたみたいで、美奈の顔は茹蛸のように赤くなっていった。

「それにしても、紗智子殿。その技は……?」

「昔取った杵柄……やねぇ」

修一の言葉に、紗智子の表情が、途端に暗くなった。

鈍感たちが集う、憐たちにわかるくらいに……。

「私、こう見えても昔、武術家やったさかい」

茶目っ気たっぷりにウインクをして見せるが、それはどう見ても空元気にしか見えなかった。

紗智子も見栄を張るのに失敗したのに気づいて、静かに近くのベンチへと腰を下ろす。

それにならい、憐たちも紗智子の近くに集まった。

「せやけど、もう運動できひん身体になってしもうて……ウチ……ウチ……」

次第に紗智子の声に、湿気が漂ってきた。

その紗智子の、感情をあふれさせるような言葉に同情して、紗智子の一人称が変わっていることには誰一人として気がつかなかった。

ともあれ、紗智子はあふれる感情を抑え、細くなめらかな指で自らの目を拭った。

「ホンマに見苦しゅうて、かんにんしておくれやす」

「いえ……」

目の前にいる女性の大技に、そしてその女性の突然の涙に、憐たちは動揺をさけられず、次の言葉が出なかった。

紗智子はそんな憐たちの様子にも気づかずに、ただ遠くを寂しそうに見ていた。

彼女にとって、昔の思い出はかけがえのない宝物であり、今彼女が一番欲しているものだから。

思い出に浸っていた時間に、憐たちは心を落ち着かせる。

そして、本当に言いたかったことを、秋彦は言った。

「紗智子さん……。一つ、聞いてもよろしいですか?」

「ええよ」

秋彦の方を向く紗智子に、先ほどのような憂いは見えない。

いや……見えないだけかも知れない。

「何故、オレたちが生きることを諦めてる、と思ったのです?」

「……昔私、武術ができひん身体って知って、自殺しよう思うたことがあるさかい、その時の私の目によう似はったからなぁ……」

一同はその言葉に、声を失った。

ただ最初は、秋彦の勧誘で始まったサバイバルゲーム。

やるからには勝ちたいと願い、少ない期間を使って、彼らは練習に明け暮れた。

ユキメもそんな彼らに協力して、色々と手を貸してもくれた。

センゴクマンが、憐たち同様にサバイバルゲームの大会に出ると知ったときは、歓喜もした。

決着をつけられる……と。

だが事実は、そんな彼等を助けはしなかった。

センゴクマンと戦えば死ぬ……。

だが、彼等に戦わないという選択肢は存在しなかった。

故に……。

「ん……?」

そのとき、何かを閃いたのか、瑠璃華が鼻を鳴らして上向きに悩む。

一同は、そんな瑠璃華の行動を不審に思いつつも、彼女をじぃっと見つめていた。

「あっ……あーーーーーーっ!!」

「な、何ですか、急に大声なんか上げちゃって……」

美奈の苦情も、瑠璃華の耳には届いていないらしく、わなわなと震えていた。

だが瑠璃華の次に発した言葉に、さらに一同は眉をひそめた。

「あたしたち、生きてるじゃない……」

「何を戯言を……。我らはすでに屍、とでも言うつもりか?」

「違うよ、シュウ。あたしたち、偽者とはいえセンゴクマンと戦って、今こうして生きてる」

「しかし……それは、相手が偽者だったからでは……?」

「じゃあ、何であの偽者たちは消えていったの?」

「ぐっ……」

修一はぐっと、息を詰まらせた。

確かに、瑠璃華の方に理はあった。

この事は、普通の人なら真っ先に思い浮かんでもいいはずだ。

「あたしたち、センゴクマンに勝ちさえすれば生き延びられる! これから何日も、何ヶ月も、何十年も秋彦と一緒にいられる!」

だが、この言葉を美奈、修一、秋彦は、蜘蛛の糸と知りつつも、信じるのをためらってしまう。

理屈じゃなく、本能で。

蜘蛛の糸を差し出した当人でである瑠璃華さえも、何故か懐疑的な様子だけはあるが、今は生きられることへの気持ちが先走っている。

「……なるほど」

ただ一人、瑠璃華の意見に賛同したのは憐だった。

「確かに俺たちが思っているのだとすると、矛盾が生じるな。それに、希望のない未来よりも明日への扉が存在する未来の方が、ずっと魅力的だ。だけど、それはあくまで「偽者と戦っても死なないから、本物と戦っても死なない」という仮定であって……」

「それもおかしいって思うよ、憐」

「……なんだよ、瑠璃華」

むすっとする憐だが、瑠璃華はあえて憐の言葉を遮った。

「どうしてあたしたち「センゴクマンと戦ったら死ぬ」って決め付けようとするの? これって、反対意見が絶対あるはずなのに、それがない。今までないんだよ、おかしいよ。それに、戦ったら死ぬなら、闘わなきゃいいだけの話。こんな当たり前のことが発想として出てこないんだよ。これって、絶対変……」

「「「「……」」」」

一同は押し黙った。

最初から、状況が飲み込めていない紗智子はともかくとして、他の面子は理論では納得するが、感情では納得していない状態だ。

でも、瑠璃華の言葉が正しいのはもう明白そのもの。

疑う理由さえない。

「……刷り込み」

「な、何だよアキ。急に」

「だからさ、憐。もしかしたら魔王クラーマがオレたちの深層心理に、何かを植えつけたんじゃないかなーって」

「……何のために?」

「センゴクマンに対する妄執的な敵対心は、敵前逃亡を防ぐため。「戦ったら死ぬ」という思いは、敵対心と合わせて、死ぬ気の覚悟をつけるため、とかな」

憐は秋彦の説明を聞き、顎に手を当てて、思考の海へと飛び込んだ。

とはいえ、まだ感情に「戦ったら死ぬ」という思いが抜け切れておらず、それが思考を阻んでいたため、成果は上げられずじまいだったが。

「憐。こんなことも思い浮かばないようじゃ、軍師失格よ。参謀に格下げっ!」

「瑠璃華……軍師も参謀も、同じじゃあないか?」

今の彼らに、先ほどのようなピリピリと張り詰めた雰囲気はなかった。

いつもの彼ら。

そんな他愛もないこの雰囲気に、美奈は大きな声で笑った。

皆はその美奈の行動に対し、怪訝に思ったが、次の瞬間には皆も笑っていた。

その笑いは、今まで落ち込んでいた分を取り戻すかのようだった。

ひとしきり笑い終えた、そんなときだった。

「あっ! おーい、瑠璃華ぁ」

少女の声が一同の耳に届き、顔をそちらへと向ける。

そこに立っていたのは、憐たちにとっては少々意外と言える人物であった。

髪を頭の上でまとめ、派手であるが清楚に見える着物を着こなす少女。

憐や美奈といった面々は、一度しか会った事ないが、未だに彼女とやりとりを続けている瑠璃華は別だった。

「あ、師匠!!」

瑠璃華は元気よく、瑠璃華の師匠こと、五十嵐翔子へと手を振った。

翔子もそれに応え、軽くだが手を振る。

ここで反応を示したのは、意外な人物だった。

「あらあら翔子さん。そないに荒い言葉遣いをしてはったら、男の方に好かれまへんえ」

「げっ……お母様」

紗智子の姿を確認するや否や、途端に翔子の表情がぎこちないものと変化する。

が、それも束の間、いつの間にやら忍び寄った紗智子に背後を取られた翔子は、紗智子に口を横に大きく広げられた。

「翔子さん。実の母親に対し「げっ」はないんと違います?」

「ほ、ほへんははーひ……(ご、ごめんなさーい)」

何を言っているかはわからなかったが、涙目で懇願している様子を見て満足したのか、紗智子は翔子の口の端に入れていた指を取り出す。

翔子は小さく唸りながら、恨みがましい目で紗智子を睨みつけていた。

もっともそれも、紗智子の一瞥であっさり終わったが。

「大体、お母様は身体が弱いんだし、こんなところにいる自体がおかしいのよ」

「翔子さーん?」

「……申し訳ありません、お母様」

いまいち状況をつかめていないので、瑠璃華が代表で、おずおずと翔子に対し尋ねてみることにした。

「ええと……つかぬことお伺いいたしますが、お二人のご関係は?」

「親子よ」

「親子どす」

これには一同が、怪訝に思った。

紗智子の方は、病的なまでの肌の白さで、それによる儚さをかもしだす女性だ。

余談だが、一応未亡人なので、人妻ではない。

対する翔子は、紗智子のような不健康さは垣間見えず、肌の色は標準的な日本人と大差なく、健康的な何処にでもいる少女だ。

要するに、雰囲気も容貌も、あまり似ていないのだ。

「……どーせ私は父親似ですよーだ。お母様みたいに美人じゃありませんよーだ」

無意識的に、目でそのことを語っていたらしく、それを悟った翔子はいじいじと地面に「の」の時を書いていた。

「そないなことはさておき、翔子さんの様子を見はる限り、私を連れ戻しに来た、言う訳やないんやね?」

「はい、そうです、お母様。っつーわけだから、瑠璃華」

「?」

「これから瑠璃華の他に、憐、美奈、修一、麗奈、秋彦、海里、それに……真夜(まや)って子を連れて、私と一緒に来ること」

一部、聞き慣れない名前が出てきたので、一同は眉をひそめた。

が、翔子は皆が一部の人物について知らないとわかると、一旦ため息をついて、再び皆に向きあう。

「別に知らないなら、知ってる人物だけ集めてくればいいわよ」



◇3◇


何坪あるのかわからないような、純和風の豪邸の一室に、憐、美奈、修一、麗奈、秋彦、瑠璃華、そして海里が待機していた。

翔子によって集められ、白衣を着た研究員に身体を調べられ、そして何かをいじられたのを、彼らは覚えている。

不快じゃなかった、といえば嘘になるが、やはり知り合いが起こした行動なので、不満は彼らの心の中に押しとどめられた。

それに、翔子が一言付け加えていたこともあって、なすがままにするのが得策と判断したのだ。

嫌なくらいの沈黙が、彼らのいる一室を包み込む。

部屋は豪勢で、かつ憐たちのもてなしとして、色々な食事などのサービスも満点にしてあるのだが、それらがすべて台無しになるくらい、重い沈黙だった。

特に、麗奈と海里の二人は、この雰囲気にあてられてか、落ち着きがなかった。

そんな状況がしばらく続いた後、数枚の紙を持った翔子が、障子を礼儀作法にのっとって、優雅に開けた。

部屋に、張り詰めた糸の如き緊張が包み込む。

「……」

「「「「「「「……」」」」」」」

中々口を開かない翔子に、一同も黙り込む。

憐たちにとっては、一生続くのではないかという錯覚すら覚えるほど、それは長い時間だった。

そして、翔子は小さな口を開いた。

「……成功よ。魔王クラーマが残した死亡条件は完璧に消えたわ」

大事なことを溜めて、引っ張っていた影響か、翔子は一転、笑顔で応対した。

その笑顔につられてか、それとも言葉の意味を知ってか、憐たちから歓喜の表情が沸き起こった。

いまいち状況をつかめていない麗奈と海里は、頭の上にクエスチョンマークが点滅しているが。

「本当にですか、翔子さん?」

「本当よ、瑠璃華」

「本当の本当に?」

「本当の本当に」

「本当の本当の本当に?」

「えーい、しつこい!! 他のクラーマの怪人を調査してわかったことだけど、死亡条件をつけることによって、僅かながら肉体を強化できるっていう、よくわからないモノが埋め込まれていたの。で、前々から玲に、そのことに関する調査を依頼されてた訳だけど、ようやく見つけたから、あんたたちのそれを取り除いたってわけ。あーゆーおーけー?」

「ぼくじょー」

「……そのネタ、もう使われてるわよ」

一旦区切ると、翔子は手身近にある水を引っつかむや否や、それを喉へと流し込む。

叫んだ後だったから、その水は身体の奥底まで浸透するような錯覚すら覚えた。

「……ふぅ。チサトと玲に感謝するのね。玲から依頼されてたのは前々からだったけど、チサトに急かされたから、これが見つかったようなものだったんだし」

ふと翔子の目に、憐と修一が手をぐっぱっと、開いたり閉じたりする仕草が目に入る。

身体を動かしている作業と言えばその通りなのだが、翔子はその行動に関してもわかっていた。

「ま、火事場の馬鹿力を封印したようなものだし、しばらくは身体を動かしづらいと思うけど、すぐ慣れるわよ」

「……師匠」

「何、瑠璃華?」

「私たち、生き延びてもいいんですよね? 普通の人と同じように、生きててもいいんですよね?」

一瞬、きょとんとした翔子だったが、周りを見渡すと、美奈や修一といった面々も、翔子の言葉を不安げに待っていた。

翔子はそんな場所で、冗談を言うような人ではない。

「当たり前じゃない。生きる価値のない人なんて、いないわよ」

にこりと笑って答えた翔子の何気ない一言が、憐たちの心を打つ改心の一撃となっていた。

憐は小さくガッツポーズを取り、美奈は涙を流して喜んでいる。

修一はいつも通りに寡黙ながらも笑みがこぼれ、秋彦と瑠璃華は抱き合いながら喜びを噛み締めていた。

この日から、彼らは本当に、一人の人間となったのだ。

めでたしめでたし。


「……何がどうなってますの?」

「さあ?」

「……」

「……」

「何でわたくしだけのけ者なのですのーっ!!!!」

麗奈の嘆きと海里の疑問は、喜びで胸が一杯の一同には届くことはなかったそうな。



◇4◇


「……ん」

「気づいたか?」

目を覚ましてみると、そこは見慣れた自分の部屋だった。

低いながらに綺麗な男性の声が、自分の耳に届いていたが、寝ぼけ気味の頭では理解は難しい。

しかし、時間は放っといても過ぎるものである。

そして時間が経つにつれ、自分の頭は次第にはっきりとしたものとなっていく。

「……大河君」

自分の身体を見てみると、眠りについたときとまったく変わらない、いつもの制服だった。

所々に黒い焦げがあるのも、眠りにつく前と変わらない。

ただ変わっていた点といえば、腕や足といったところに包帯が巻いてあるくらいだ。

「……女の子の一人暮らしに上がりこんでくるなんて、エッチ」

「お前な、面倒みてやるだけありがたく思え」

こういうやりとりも、いつもと変わらない。

自分が大河をからかい、そしてその大河の反応を見る。

周りからはよく、夫婦漫才とはやしたてられるか、もしくは自分が大河を誘惑する悪女と取られるかのどっちかだ。

実際、こうやって大河が自分の家に上がりこんでくる時点で、そう思われても仕方ないのかもしれない。

「大体、一週間も寝込みやがって、面倒見るの大変だったんだぞ」

「一週間も、か」

思い返してみれば、あれだけ電気を身体に流し込まれれば、それくらい倒れててもおかしくないかもしれない。

まあ一般市民が、戦闘に特化した怪人と戦って、命が無事なだけマシ、というのが彼女の見解であるが。

「うー、身体がずきずきするぅ。それに、一週間も同じ服じゃあ臭ぁい」

「……お前、俺にそんな犯罪者めいた行為させるつもりだったのか? どうせ、したらしたで、後々までからかいのネタにするつもりだっただろう?」

「イエス、アイドゥ」

本当にからかいがいのある人だ、と彼女は思う。

彼女と大河が出会った頃から、このような関係ではあるが、未だに飽きることなくこういう関係を続けている。

大河はうんざりとする表情をよく見せはするが、それでも大河にとって唯一の親友なのだ。

だからこそ、こんな馬鹿なやりとりも、彼女にとって、そして大河にとっても大切な一時だった。

「ああそうそう。お前から頼まれてた件だがな、五十嵐がしっかりと研究を終えて、七人に治療を施したそうだ。もう一人は今度の日曜日に来るらしい。この件は、黒川も口を挟んだから、五十嵐ががぜんやる気になったからな」

「そっか。よかった、間に合ったんだ」

彼女は、ほっと胸をなでおろす。

僅かな時間ではあるが、一緒に過ごした仲間たち。

それが、無事に生き延びられると知ると、いくら鉄の心臓を持つ彼女とはいえ、やっぱり安心する。

「それと、七人の内の一人から預かったんだが、これに署名して欲しいんだとさ」

大河は懐から一つの書類を取り出した。

彼女はまだ不自由な身体を無理矢理起こして、その書類に目を通す。

それは、サバイバルゲーム全国大会の出場の書類だった。

だがそこに書いてあるものを見て、彼女は少しだけ目を見開いた。

そして続いて、彼女は微笑みを浮かべてつぶやいた。

「あらあら」


参加者:直江憐、本多美奈、真田修一、武田麗奈、伊達秋彦、明智瑠璃華、来栖海里


ユキメはそこに自分の名前をつけたし、ハンコを押した。

つづく


次回予告

「少年たちは、彼らが疎ましかった。
夢を手に入れた者を、自分では手に入らなかったものを手に入れて。
だからこそ、少年たちは自らの力でそれを奪い取ろうと決心する。
彼らに襲い掛かるのは、人か、世間か、それとも友人か?
しかしここで、一人の人物が名乗りを上げた。
次回いつわりのものたち第十二話「イクサクニヨロズ変装」

未知なる素顔を解き放て『イクサクニヨロズ』」


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