Mituyaさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
偽りのものたち
第十一話
| 「イクサクニヨロズ強襲(後編)」 |
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翔子「同じく、五十嵐翔子です」 愛「いやはや、とうとう後編に入りましたな、翔子さんや」 翔子「まったくですな、愛さんや」 愛「……」 翔子「……何、私たち二人でアホなやりとりしてんのよ」 愛「……まったくね」 翔子「ほらほら。さっさと前回のあらすじをする!」 愛「わかったわよ! えーと、『イクサクニヨロズ』と海里は、恐山に乗り込み、平穏な遊びを楽しむはずだった。しかしそんな彼らに立ちはだかるのは、自分たちと同じ顔の者たちだった」 翔子「そしてユキメとチサトに襲い掛かる魔の手。彼らは果たして生きて恐山から抜け出すことが出来るのであろうか?」 愛「……なーんか、前回より短い説明だよね」 翔子「ま、作者が面倒になって、考えるのを放棄したんじゃない?」 愛「それ以上言うと、作者が泣くから止めとこう」 翔子「じゃあ……画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さい」 愛「シーン13カット1。後編、アクション!!」
憐の相手は偽輪、美奈の相手は偽美亜子……といったように、各自相手をする。 瑠璃華は未だに頭を抱えて、身体を震わせているので、海里が護衛をする形と相成った。 ただ戦うとなると、例えば美奈が偽輪を相手にすると、やはり仲間と同じ顔だということで、刃先が鈍る可能性があることを、憐は懸念せざるをえない。 よって憐は、これが一番いい形での対決だと、最初は思っていた。 「くっ!!」 だがそれは浅はかだった。 偽輪の一撃は、憐の急所を外すことなく狙い、なおかつその捌きにくい連撃は、長く実戦から離れて久しい憐にとってはかわすのは至難とも言えた。 しかもそれは憐だけではなかった。 修一は、得物である短刀“真田角”を取り出し、偽淳二と相対してはいたものの、その手数に苦戦を強いられている。 麗奈も、矢を矢で射るという超絶的な技術を見せ付ける偽広奈に、綺麗な表情が歪んでいた。 互角なのは、普段から朝連を欠かしていない美奈と、サバゲーで技術を積んでいた秋彦の二人だけだったが彼らにも、自分自身と戦うということと強敵と全力で相対するという二つの要因で、精神的には序々に押されているようだった。 周りの状況が把握出来ているとはいえ、今の憐は偽輪を振り払う力はなく、状況は打破出来ない。 「直江家直伝、愛と正義のぉ!」 『ラァァブラブ、ビィィィィィィィィィムッッッ!!!』 元々輪とは違い、憐にはこの技を発動することに対する躊躇はない。 ……というより、もっと恥ずかしいことがあって、恥ずかしいという感覚が麻痺したのかもしれないが。 普通の相手なら、この一撃で全てが決まっていたはずだった。 しかし。 「直江家直伝、愛と正義のぉ!」 『ラァァブラブ、ビィィィィィィィィィムッッッ!!!』 二つの「愛」が互いにぶつかり合った瞬間、光が辺りを包み込んだ。 思わず目を腕で覆う憐だったが、これであの偽輪が負けたとは思えず、前方に意識を集中させていた。 あまり思いたくない推測ではあったが、実際それは事実だった。 『氷刃投射!』 「っ!!」 光の中から見える氷の刃に、警戒していた憐はすかさず反応する。 『護身氷壁!!』 憐の生み出した氷の壁は、並みの一撃なら通さないほどの硬度を持ち、炎すら遮断する堅固な盾だ。 ましてや偽輪の放ったのは、憐と同じ属性の刃。 本来なら、どうとでもなる一撃だったはずだ。 だが。 「つっ……!」 偽輪が生み出した刃は、憐の作り出した盾をいとも簡単に貫き、憐の肌を僅かに掠める。 ただ幸か不幸か、氷の刃だったおかげで傷口は瞬時に凍りつき、出血は抑えることが出来た。 痛みも、冷気のおかげで感覚がなくなり、打撃を受けたときのような痛みは抑えられていた。 しかしそれが、憐の状況を良くするものとはなることはない。 偽輪はラブラブビームの相殺により発生した光が収まると同時に、憐に向けて身体ごと弾丸にした突撃を仕掛けてきた。 全体重の乗った一撃は、憐の想像していたものよりも遥かに重く、“吉祥天”で何とか斬撃を受けたものの、憐の身体は後方へと吹っ飛んだ。
偽淳二は、一撃必殺の手甲に覆われた両手の拳と、それに勝るとも劣らない両足がある。 それに対し、修一が使えるのはいくら強力だとはいえ、短刀一本だけ。 リーチの点では修一に多少の分があったとしても、この状況はあまりよろしくない。 ぶぉん!! 修一の鼻先を掠めるように、小さく鋭いフックが空気を切り裂く。 一瞬修一の前髪がちりっと焦げ臭い匂いを漂わせた。 が、それは決して錯覚というわけではないだろう。 その証拠に、偽淳二の拳は炎に覆われていたから。 「……むぅ」 いつもは表情を崩さない修一だったが、このときばかりは眉間に皺を寄せ、感情を露にさせていた。 ともかく、偽淳二の一撃に、修一は返す刀をお見舞いさせる。 が、それは手甲に覆われた偽淳二の腕によって、あっさりといなされた。 偽淳二には最強の武器であり、盾である手甲が存在する。 それが修一が不利になる理由の二つ目の理由だった。 それでも修一は愛刀“真田角”を再び偽淳二に向ける。 修一はただ、活路が開かれることをひたすらに信じ、偽淳二との戦いを再開させる。
元々自信過剰なきらいがある麗奈だっただけあって、矢を矢で射るその挑発に、麗奈のプライドが刺激されていたからだ。 頭に血が上った麗奈は、怒りに任せて“虎爪弓”の弦をリズムよくはじき続ける。 が、その単調な攻撃は、偽広奈にとっては脅威ではないらしく、妖気が詰まった矢を一本一本確実に、しかも麗奈よりも速く打ち落としていた。 しかも、麗奈よりも速く撃っていたため、二人のリズムに差が出始め、偽広奈の余分な一本が、麗奈の顔の横を掠めた。 「!!」 麗奈がかわした訳ではなかった。 そう、わざと外した。 麗奈の縦ロールは、その矢の一撃によって左側の部分が解け、偽広奈と同じさらさらでストレートの髪がぱさっと背中に流れ落ちた。 その麗奈の一瞬だけの油断が、偽広奈の一撃を許すこととなる。 今度、麗奈を襲った一撃は、右肩だった。 痛みこそ掠めただけだったので大したものではなかったが、その一撃も、右側の縦ロールを解かせ、麗奈本来の髪型に戻させた。 麗奈は、思わず偽広奈の顔を見た。 ……にこやかに笑っていた。 まるで本物の広奈が、他人に向ける儀礼的ながらも優雅な笑みだった。 だけど、麗奈が広奈だったころに考えると、全然違う。 ……無邪気なのに邪悪な笑み。 麗奈は奥歯を噛み砕く勢いで、強く歯を歯で押しつぶす。 (本当に、嫌な女ですわね……) 昔の自分自身を見ているようだったが、それ以上に今、麗奈の目の前にいる女は醜かった。 それを今の広奈と、わざと重ねてはいるが、どうしてもズレが生じてくる。 だから麗奈にとっては、この相手は広奈であって、広奈ではない。 (でも、わたくしがあの女に勝つためにはどうしたらよろしいかしら? 恐らく、わたくしの持ち技は全て、あの女が所持していますし……。今のあの女に勝てる唯一の要因といったら、料理の腕くらいかしら) 想像してみたら、えらく庶民的な勝負になってしまう。 それにそんな勝負になるはずもないため、麗奈は頭を振り、その訳のわからない考えを振りほどいた。 (わたくしがあの女に勝つためには……) 麗奈は思わず、偽淳二と相対している修一を、ちらりと横目で見つめていた。
『『真空烈波斬!!』』 ゴゥッ……シュパァッ!! 二人の生み出す真空波は、互いが互いを打ち消しあい、結果として空中で相殺される。 遠距離攻撃も互いに決め手が欠如して、膠着状態が続いてしまうのであった。 肉体的な戦いは、互角の二人。 しかし、精神的には美奈に分が悪かった。 「つっ……!」 美奈の耳に、憐の悲鳴にならない悲鳴が響き渡る。 その僅かな隙を狙い、偽美亜子の一撃が襲い掛かるのだが、美奈も即座に意識を戦闘へと戻し、間一髪防御に成功する。 そんなやりとりの応酬だ。 「……」 無言で、偽美亜子は“蜻蛉切”を構えた。 対する美奈も、腰を落として“林檎切”を庇うようにして構える。 「……美亜子さん?」 「……」 「何故、先ほどの来栖さんとのやりとりのような口調ではないのですか?」 ふと、美奈は疑問に思ったことを口にした。 深い意味はなく、ただ本当に疑問に思ったことだった。 「あたしは魔王クラーマ様のためにある。美亜子の真似をしろと言われればそうするし、やめろと言われればそうする」 美奈の疑問に、あっさりと偽美亜子は答えた。 (つまり、あのときは来栖さんが「真似はやめろ」と言ったから、急に性格が変わったわけですか……) 正直な話、美奈は偽者とはいえ、美亜子と戦えるのが少し嬉しかった。 彼女は美奈のオリジナルであり、美奈が最大の目標としている人物だったから。 光の美亜子、影の美奈。 影でいいと思っていた美奈だったが、その実、光である美亜子がうらやましかった。疎ましかった。 だから美奈は、より戦意を高揚させるため、偽者でもいいから美亜子と戦いたかった。 「なら、美亜子の真似をしてください」 だから美奈は、ためらうことなくこう言った。 それに応じ、偽美亜子は急に性格を変え、本物と同様の不敵な笑みを浮かべる。 「ま、あんたごときの出来損ないじゃ、あたしの相手をするのは無理よ」 そう……この感覚。 死闘なのにも関わらず、美奈は口の端がつりあがることを止められなかった。
確かに、秋彦と偽春樹の応酬は、想像に難しくない、“霊気銃”と“妖気銃”の撃ち合いだった。 マシンガンの如く打ち続ける二人の戦いは、まさにサバイバルゲームのそれと同じだ。 ただ一つ、二人に展開するモノ以外は。 偽春樹はオリジナルと同様に風が取り巻き、秋彦の攻撃を寄せ付けない。 対する秋彦の周りには雷が迸り、偽春樹の攻撃を全て打ち落としていく。 風と雷の対決。 まさに二人の様子は、風神と雷神の対決そのものだ。 偽春樹は植物を活性化させ、その蔓を秋彦の足へと絡めようとするが、秋彦に纏う雷がそれを焼く。 秋彦が作り出した雷で出来た鞭を偽春樹に絡めようとするが、偽春樹が展開した風がそれをなぎ払う。 見事なほどの膠着だった。 (瑠璃華……) しかしそんな停滞した戦いは、秋彦にとってはもどかしいだけ。 今すぐ瑠璃華の元へと駆け寄りたい、その意思を何とか押し殺し、ただ春樹へと決定打を決めるために“妖気銃”を撃ち続ける。 だが一対一は、美奈と秋彦以外は不利な状況と言ってもいい。 なんとか事態が一変するような出来事が、秋彦には欲しかった。 ……一つ、思い浮かんだ。 しかし、それを思い浮かんだのは、何も秋彦だけではなかった。
「ぅあ!!」 「あうっ!!」 偽輪、偽淳二、偽春樹の声が、一斉に上がった。 偽輪には妖気の弾丸が。 偽淳二には妖気の矢が。 そして偽春樹には実弾が、それぞれに直撃した。 もっとも、偽淳二に一撃を加える際に、麗奈は偽広奈の一撃を左肩に受けていたが。 何事かと、一瞬動きが止まる偽美亜子と偽広奈。 その一瞬の隙を使い、全員が一斉に瑠璃華と海里がいる場所へと集まった。 戦いを初期化させるために。 「くそっ、あいつら強いぞ」 くやしそうに呟くのは憐だった。 「麗奈殿、その左肩の傷は……」 「気にしないでもいいですわよ。あの淳二に一撃加えるためにして負った、名誉の負傷、といったところかしら?」 「……すまぬ」 修一と麗奈は、緊張こそしていないのか、世間話のように軽口を叩き合った。 もっとも軽口だったのは麗奈で、修一は少し重かったが。 美奈は静かに押し黙り、秋彦は心配そうに震える瑠璃華を見つめていた。 「憐先輩……」 「来栖。アキを助けてくれて、サンキュな」 少し明るめに、憐は海里に向けて礼を言ったが、少しずつ憐の元気が失われていく。 「……悪い」 「……憐先輩?」 「俺な。お前のこと、少し前まで敵だと思ってたんだ。だけどさっきのお前はずっと瑠璃華を守ってくれて、その上しっかりアキの援護をしてくれてた。ちょっとでもお前を疑った俺だ。……謝らせてくれ」 確かに、憐の言葉には誠実さが漂っていた。 本当に申し訳なさそうに謝る憐に、海里はこう言った。 「気にするな。修一先輩も麗奈先輩も、私のことを信じてくれた。そして今は、憐先輩たちも私を信じてくれる。それだけでも私はうれしい」 笑みを浮かべ、それを憐に向ける。 話している間に、偽者たちは態勢を整え、今にも攻撃してきそうだ。 美奈たちも身構え、それに対処しようとする。 いや、対処できなかった。 偽輪、偽美亜子、偽淳二の壁で影になっていたところから、一本の霊気で出来た矢が、ほぼ直線を描いて、瑠璃華の頭へと向かっていった。 予想外の展開だった故、憐たち全員が棒立ちのまま動けず、瑠璃華への侵攻を許してしまう。 たった一人、反応できた人を除いては。 その者は憐や美奈のような超人的な武術を身につけているわけではない。 五行の力を行使することもできるかもしれないが、その者の能力は相手を限定させることが難しく、使えなかった。 だから……秋彦は自分を盾にするしかなかった。 「ぐっ……」 幸い、秋彦に刺さった矢は急所を避け、重傷こそ負ったが致命傷は避けられた。 だがそんなことでほっとした人物は、ここにはいない。 特に瑠璃華は、以前に起こった秋彦の出血のときと重なり、ただ怯えていただけの表情が変わり始めていた。 そして瑠璃華が堪えていたモノは、秋彦が横倒れになると同時に吐き出された。 「嫌ァァァァァァァァァァァァァッッ!!! 秋彦、秋彦!!」 秋彦が倒れると同時に、秋彦の傷口からコプッと血が勢い良く流れ落ちる。 それを見て、さらに瑠璃華は冷静ではいられなくなっていた。 『護身氷壁!!』 『金剛障壁!!』 『アースシールド!!』 憐、美奈、麗奈の三人は、一時しのぎながらもなるべく強固な盾を、全員を守るように作り出した。 とはいえ、本当に気休め程度にしかならないだろう。 「アキっ!」 「秋彦君!」 「秋彦殿……」 「秋彦さん!」 「秋彦先輩!」 「痛っ……」 秋彦に意識はあるようで、皆の言葉にしっかりと返事をしたが、身体を起こす速度はゆっくりだった。 “妖気銃”を杖代わりに立ち上がりはしたが、今までのような戦いは恐らく出来ないだろう。 『矢傷治癒・急急如律令!』 瑠璃華は、かつての出来事がトラウマとなってはいたが、再び同じ過ちを繰り返すつもりはなかった。 今度こそ、という確固たる意志を持ちながら、瑠璃華は陰陽術を用いる。 赤々と流れ落ちる血は、徐々にその勢いを衰えさせた。 多少傷が塞がると、痛みも和らぎ、身体の自由が戻ってくる。 瑠璃華は秋彦の表情が少し和らいだことで、軽くため息をついた。 しかしそんな一時の安堵感を、麗奈は許さなかった。 「ルリーさん。何を喜んでいらっしゃいますの?」 麗奈の言葉に優しさはなく、ただ冷たさだけが残る。 麗奈は今まで、熱く激しく怒る傾向にあったため、一同はそんな新たな麗奈の一面に、少しだけ動揺した。 「貴女ががしっかり秋彦さんの援護をなさっていたら、貴女がそんなところで腐っていなければ、秋彦さんはこんな目には合わなかったのではありません!?」 瑠璃華には、麗奈が本気で怒っているのに気が付いた。 仲間が傷ついたのは、麗奈の言うとおり、憐でも美奈でも修一でも麗奈でも、ましてや海里でもない。 自分が動かなかったから。 自分がただ怯えていたから。 だからこそ、瑠璃華は涙目になりながら謝る他無かった。 「ごめん……。あたし……あたし、あいつらがあたしたちを殺そう、って強く思ってることがわかっちゃって……。死ぬのが怖い。殺されるのが怖い。秋彦と離れ離れになるのが怖い。……だから……ごめんね、秋彦」 「だからって!!」 「麗奈殿!!」 瑠璃華に掴みかかろうという勢いで詰めかかる麗奈を、修一は諫めようとし、修一の手が麗奈の肩にかかったそのときだった。 土が、僅かだが赤く光って隆起した。 だがそれは、ここにいるほとんどが気づかずに、たった一人を除いて修一と麗奈を注視していた。 それほどの、ごくごく小さな変化だったから。 (……) (やっぱり憐にもわかったんだ♪) (……お前もかよ、霧華) (だってボクは憐と一心同体だよ♪ 憐が考えていることは、ボクだってわかるに決まってるよ♪) (……俺、お前と一心同体だなんて、嫌だ) (だからボクの考えを否定する? 他に手段がある? ボクだって、ユキメさんを助けたい♪) (別に、お前の考えを否定するつもりはねえよ。それに……) (うんわかってる♪ だって憐はボクだもんね♪ まっかせなさいっ、泥舟に乗ったつもりでね♪) (……せめて大船と言えんのか。ともかく決まりだな。三つの勝機、試してみるか) まだ混乱の中にいる全員だったが、そんな全員に、一つの策を授けるために、憐は口を開いた。 「作戦がある。心して聞けよ」 そして作戦を全て言い切った直後、憐たちを守っていた盾は全て砕け散った。 彼らの戦いは、間もなく第二ラウンドを迎えることとなった。 希望を胸に秘め……。
チサトが相対するのは、サバイバルゲームの古参チーム『OSYO』のリーダー、『DAIKOKU−TEN』。 しかし彼の目は血走りながらもどこか虚ろで、動きはどこか非人間的だ。 しかも先ほどの言葉は、まるで『DAIKOKU−TEN』から発せられているようだが、彼の口はまるで動いてはいなかった。 そしてそんな『DAIKOKU−TEN』が持つのは、一本の御神刀……の鞘と柄を身につけた怪人であった。 「今まで、我らが主の邪魔をよくもしてくれたな! 今日、貴様の命をもって、その罪を償うがいい!!」 チサトはそんな言葉に、そんな非常識な状況にも、微動だにしなかった。 社の隙間から吹き込む風が、彼女のすらりとまっすぐ伸びた髪をなびかせても。 ただチサトは“黒薔薇”の言葉を無言で聞くだけ。 「もっとも貴様だけではなく、不良品どもと“双剣”のユキメもだがな。はははは……」 “黒薔薇”のその言葉に、チサトは今まで変化させなかった表情を、険しいものへと変化させた。 全身がぴくりと反応してしまう。 が、その反応は“黒薔薇”にはお見通しであった。 「おっと動くなよ。こいつの命、それとあいつらの命が惜しければな」 “黒薔薇”は、『DAIKOKU−TEN』を自らの刀身の先端で首元を指し、続いて同様に『OSYO』のメンバーである『EBI−SU』、『HUKUROKU−JU』、『JUROU−ZIN』を指した。 さらに続けて、“黒薔薇”は「ひひひ」といやらしい笑みを漏らす。 正義の味方は、この状況下では手出しが出来ない、というのがお約束。 こんな人質作戦というメジャーな手を使うあたり、“黒薔薇”は悪の中の悪かもしれない。 ……しかし、チサトは正義の味方というわけではなかった。 チサトは躊躇せずに“黒薔薇”に背を向け、これまた躊躇せずに社の扉へと向かう。 これには逆に“黒薔薇”の方が驚いてしまった。 「お、おい、貴様!! おれの言葉が聞こえなかったのか!?」 「聞こえましたよ。ただ、従うつもりはないですけど」 チサトははっきりと、『OSYO』たちを見捨てる選択を、口にした。 その言葉にはためらいも躊躇もない。 見捨てられたことを知った『DAIKOKU−TEN』以外のメンバーは、言葉を失った。 「……き、貴様、本気か? 本当に、こいつらがどうなってもいいと思ってるのか?」 あまりにも予想外だった展開に、“黒薔薇”の声は少し震えている。 フィクションによくある自己犠牲など、ほとんどがただの臭い演技でしかない。 実際、危機に陥った『OSYO』の面々も「私の命はどうでもいい」などと言わず、チサトを恨み、自らが助かりたいと思っていた。 いや、むしろチサトを犠牲にしてまでも助かりたかった。 そんなチサトは、“黒薔薇”が言った言葉に足を止める。 『OSYO』の面々は、チサトが歩みを止めたことによる、ほんの僅かな希望にすがった。 しかしそれは、チサト以外の全員が予想しなかった、あまりにも意外な行動と言葉の前触れでしかなかった。 チサトは……笑った。 まるでおもしろいギャグを見て吹き出したかのような、そんなあどけない笑み。 くすっ、という声とともに出たその笑いは、年頃の、そして日常的な笑いだった。 ……こんな常識はずれな状態で。 「随分と優しいことを仰るのですね」 確かにチサトの言葉通り、悪人が優しい言葉を言うのは滑稽かもしれない。 だが状況が状況で、しかもこんな言葉を吐ける女子高生は、恐らく世界でチサトただ一人だろう。 「……ではそちらの方に質問させてもらいます。私が『DAIKOKU−TEN』さんを殺してもいいですか?」 チサトは『EBI−SU』たちを見つめながら、あくまで冷静な表情を変えたりはしなかった。 冷徹な仮面を身につけたチサトの言葉は突飛だが、言っている意味がわからないわけではない。 『EBI−SU』はその言葉の意味を知り、ただぶんぶんと首を横に振る。 そんな『EBI−SU』の返答に、チサトは他人の弱みを握った悪人のような笑みを浮かべた。 「でしょう? 私が『DAIKOKU−TEN』さんを殺しても駄目。かといって『EBI−SU』さんたちを見殺しにしても駄目。ならば私に死ね、と? 私はそんな選択、死んでも選びません。ならば、ここにいる皆を見殺しにしてまでも、私はユキメさんや憐さんたちを救う道を選ぶ」 チサトの瞳には、確固たる意思が存在した。 彼女が、初めての友と最後に交わした約束が、今の彼女の全て。 ただ、生きる、と。 そのためには、他人の命なぞ、チサトにとってはただの踏み台にしかなかった。 彼女はその友と会うまで、他人は敵だったから……。 そして今は……。 「私は生きる。そう……龍くんと約束したから……」 そうチサトが呟くと、チサトは再び社の外へと歩き出した。 もう、『EBI−SU』たちに彼女を止めることは出来なかった。 チサトの言葉は、『OSYO』らの意思を遠からず当てていた。 死者の魂と交わり続けるのにも関わらず、自らがそれになることを拒んだ彼ら。 他人の命を犠牲にして、自分たちが生き残ろうとした彼ら。 引き止める権利なぞ、なかった。 が、ただ一人ここにそれを止める権利を持つモノが存在する。 「行かせるかよ! 死ね“神殺し”!!」 『DAIKOKU−TEN』が“黒薔薇”を、突きの構えのまま、チサトに突進した。 足袋と床板が鳴らす音とともに、素早くチサトと『DAIKOKU−TEN』の間合いを詰めていく。 そして……小太刀が貫いた。 ……。 ……。 ……。 チサトの……頬を掠める。 同時にチサトの拳がカウンター気味に、『DAIKOKU−TEN』の顔の真芯を貫く。 鈍い音とともに、『DAIKOKU−TEN』の鼻の骨を捻じ曲げ、チサトの拳の勢いそのままに吹っ飛んだ。 しかし操られたままで意識がないのか、痛みをまるで感じさせずに、ゾンビみたく『DAIKOKU−TEN』は起き上がった。 本体は、やはり“黒薔薇”らしい。 「ふ……はははは……。これで貴様も犯罪者だ。何の罪もない人間に大怪我を負わせた貴様は、人間世界の警察という場所で過ごす羽目になる。その間に我らが再び、関東の地区を取り戻すのだ!!」 言いたいことを言い切ると“黒薔薇”は、未来を思い高笑いをした。 そしてそれが、“神殺し”のチサトを戦闘不能に陥らせたことと同義となると思い、さらに高笑いを継続させる。 だがそんな高笑いを、チサトは意も介せずに、頬を人差し指で叩いた。 「ははははは……はは……何のつもりだ?」 そんな、“黒薔薇”の質問にも返事をせず、ただチサトは頬を人差し指で叩く。 「……何だ?」 「貴方、私の血がついた武器」 「?」 「『DAIKOKU−TEN』さん、殺人未遂の容疑者」 「??」 「これって……正当防衛ですよね?」 確かに、この状況を見れば十人中十人が、狂気に襲われたイタコのおじいさんが若い女性に刃物を構えその女性が精一杯抵抗した、という状況を想像するのが大半だろう。 そのことに気づいた“黒薔薇”は、一瞬だけそれを思い出して、動きが止まった。 チサトには、それだけの隙と戦う理由で十分だった。 陸上部で鍛え上げた瞬発力でチサトは間合いをゼロとし、その勢いのまま『DAIKOKU−TEN』の手首に肘打ちをかます。 神速とチサトの体重移動、それに肘の硬さという威力の相乗によって、『DAIKOKU−TEN』の手首は鈍い音とともに折れ、痛みがないにしても、力をなくした腕では“黒薔薇”を支えることは不可能となる。 『DAIKOKU−TEN』の手から離れた“黒薔薇”は重力に従って、床板へと落ち……ずに、柄をチサトに掴まれた。 そして“黒薔薇”の支えを失った『DAIKOKU−TEN』は、力なく床へと崩れ落ちた。 だが逆に、これは“黒薔薇”にとってはチャンスだった。 確かに『DAIKOKU−TEN』にチサトを襲わせる作戦は失敗した。 が、今ここには『DAIKOKU−TEN』を遥かに勝る、最強の肉体が存在する。 しかも“黒薔薇”たちが殺害を命じられている、あの出来損ないたちの知人だ。 迷わず“黒薔薇”は、チサトを取り込もうと試みた。 (おれに従え) チサトは、じっと“黒薔薇”を見据える。 (おれに従え) チサトは、握ってる“黒薔薇”に力を込める。 (おれに従え) チサトは、“黒薔薇”を自分へと引き寄せた。 (おれに従……) が、チサトは急に険しい顔をすると、“黒薔薇”を持っていない左手で、刀身をデコピンした。 普通の人間では耐えられない誘惑を、まるで何事もないかのように。 ……実際には、常日頃誘惑に耐えてきた、いや耐えざるをえなかったチサトだからなのかもしれない。 「い、痛ってー!!」 「何を勘違いしているのですか!? 大体、私が貴方なんかに従うと思っているのですか? 私が貴方に従うのではなく、貴方が私に従うのです。どんな国でも、敗戦国に意思は皆無なんですから。どぅーゆーあんだーすたん?」 チサトはそのまま“黒薔薇”を強引に連れて行き、社を後にした。
ユキメは自嘲気味に苦笑した。 どこからともなく、自らの得物である二本のナイフを取り出しているが、やはりそれだけでは気休めにもならない。 その思考は、ごく普通の一般人ならもっともだろう。 片や、多少の戦い方を知っている程度の非力な一般人。 片や、戦いに特化した改造人間で、一発で致命傷になるであろう遠距離攻撃に加えて、相手より長いリーチを持つ刃物。 例えてみれば、蟻と巨象、月とスッポン、明智瑠華の歌と武田広奈の歌ほどの差がある対決だ。 これでは勝負になるはずもない。 「やあやあ我こそは、極東が国、日の国の生まれにて、関東情報局に務め……っておわぁ!!」 仕方なく、鎌倉時代までは確かに存在したという名乗りを延々として時間を稼ごうとしてはみたが、あっさりと偽なつめによってそれは妨害された。 「な、何をする!! 卑怯者め、恥を……ってきゃあっ!!」 一応続けてみるが、偽なつめの追撃を受けて、あっさりと魂胆はおしゃかとなってしまう。 「……ちょっとくらいは聞いてくれてもいいじゃない」 ユキメはおどけてみせてはいるが、内心には余裕のかけらもなかった。 言わば、こういうおどけたやりとりは、ユキメにとっては精神安定法の一つだ。 相手のペースを惑わし、自らが落ち着く一石二鳥のやりとりであったが、やはり感情が欠如した相手には効果はない。 仕方なく、相手を牽制する意味も兼ねて、ユキメはナイフを手元でくるくると回す。 これもユキメの精神安定法の一つ……というかこれはただの癖だった。 「んじゃ、少し落ち着いてきたし、行くとしますか」 ユキメはさっきいった言葉の最後の方、「ま」と同時に突撃をした。 一般人の癖として、最後の言葉で構えるのが常であることをユキメは知っている。 だからこその、ユキメのトリックプレーだ。 大抵の相手なら、これで相手はペースを崩す。 偽なつめはユキメの思惑通り、慌てて刀“雷切”を繰り出すが、体重の乗っていない一撃ならばユキメでも片手で対処できる。 左手のナイフでそれをいなすと、次の瞬間には右手のナイフが首に襲い掛かる。 (やった!?) 手ごたえはあった。 確かに、あった。 が、まるで硬い金属にナイフを叩きつけるかのような感触だ。 本当に僅かに、偽なつめの皮膚に傷を負わせてはいるが、それは薄皮一枚を僅かに切り裂いているだけ。 かすかな出血こそあれど、頚動脈にすら届かない。 無論、そんな一撃で偽なつめはひるむわけがなかった。 “雷切”を横薙ぎに振るう偽なつめ。 それを慌ててバックステップでかわすユキメ。 さけてこそいたが、間違いなく当たれば、上半身と下半身は離れ離れになるであろう、そんな一撃。 圧倒的な力の差。 ユキメは内心だけでなく、冷や汗をたらりと流した。 だがここで、トリックスター故の諦めの悪さが、彼女を突き動かす。 (接近戦が駄目なら、遠距離!!) 両手のナイフを一旦袖へと戻し、ユキメが手品のように取り出すのは、両手一杯の小型ナイフ。 まるで指全部に吸い付くように、指先から見える刃はさしずめ鋭い鉤爪のようだ。 「シューティングダガーッ!!」 投げつけられた数本のナイフは、狙い違わず偽なつめを襲ったが。 かちんかちんかちんかちんかちんかちんかちん……。 (あ、ありゃ?) 五行の力で守られた偽なつめの身体に、非力な一般人のナイフが通るはずもなかった。 ナイフを投げた後の、ユキメの体勢の崩れを見てか、偽なつめの“雷切”に稲妻が迸る。 『雷王射光撃!!』 「やばっ!」 そのまま偽なつめは刀を振り回し、雷をユキメに向けて放った。 電撃が空を裂き、ユキメすらも飲み込もうとする。 だがそれをユキメは辛うじて、上体を横へと反らすことで避けることが出来た。 無論、偽なつめの弾はそれで尽きることなく、雷をさらに放ち続ける。 回避の点では、ユキメはチサトほどの才能はない。 だが心理面では卓越したユキメなので、相手の行動を予測することは出来る。 さらに言えば、相手が予測しにくい回避の術も知っていた。 動きに緩急をつけながらも、ユキメ自身は必死で、時にはわざと体勢を崩して倒れ、また次の瞬間には起き上がるかのようにかわした。 (くぅっ! 遠距離じゃあこっちはノーダメージ、相手は一気に致命傷か……。接近戦の方がまだマシかもね) 幸い、偽なつめが焦れてきたのか、雷による攻撃を一旦止め、“雷切”による直接攻撃を仕掛けてきた。 とはいえユキメも今までよけるので精一杯だったのか、僅かに体勢を崩していた。 受け流すことは出来なかった。 が、受け止めることは、その限りではない。 ユキメは両手のナイフを交差して重ね、両手のナイフで“雷切”を止めた。 金属と金属のぶつかる音が、霧が立ち込めたユキメらの周りを響かせ、二人の間には火花が散る。 ……偽なつめがにやりと笑った。 『電刃!!』 「っああああああああああ!!!」 突如、ユキメは声にならない悲鳴を上げた。 ユキメの腕は、ナイフで“雷切”を止めたまま痙攣を起こし、全身を不自然に震わせる。 静電気を帯電させた下敷きで髪を引き寄せるのとは訳の違うほど、ユキメの長い髪は逆立つ。 偽なつめが“雷切”を再び引き戻したときに、その痙攣は止んだが、ユキメの身体からは時折パチパチと火花が散り、服の一部からは煙が発生していた。 しかし偽なつめには慈悲はなく、ユキメには厄を逃れる術はないと言っても過言ではなかった。 偽なつめは、容赦なくその刃をユキメに向けて振り下ろした。 「……っくぅ」 だがその一撃を、ユキメは精一杯の力を振り絞り、全身の体勢を大きく崩すことによって、辛うじて避けることが出来た。 そのままユキメは地面を転がって距離を取り、そしてその勢いで立ち上がる。 とはいえ、ユキメの身体は限界がもう近かった。 両腕に力が入らず、両足は立っていられるのがやっとで、もう動かすのもつらい。 それどころか膝がユキメの言うことを聞かずに笑い、今にも倒れそうなほどの満身創痍っぷりだった。 「とどめだ」 偽なつめにもユキメの限界がわかるらしく、容赦なく殺害宣言をすると、“雷切”に雷を帯電させていた。 もう回避も出来ず、一般人並みの防御力しか持たないユキメにとっては、まさにそれは必殺の一撃と呼べるものだった。 『雷王咆哮撃!!』 (綾! 大河君!) ユキメが最も信頼を置く、二人の人物を脳裏に浮かべ、ユキメは目を瞑った。 最上綾(もがみ あや)は、本人こそ知らないだろうが、ユキメにとって一生をかけて守るべき存在で、彼女の親友。 地鳥大河(ちとり たいが)は、ユキメの全てを知りながら、ユキメに対していつも通り接してくれた、無二とも言える親友。 祈りをするかのように、強く二人のことを思った。 そしてその思いは……微妙に捻じ曲がってはいたが、かなえられた。 (……風?) ユキメの頬を撫でる、優しき風の精霊が祝福を与えたかのような風が、辺りを包み込んだ。 一向にこない雷。 恐る恐るユキメが目を開けてみると、そこには第三者がユキメの盾になるように立っていた。 偽なつめもその存在に、僅かに眉をひそめる。 顔を見せないように作られた黒頭巾と、同色で出来た黒装束に黒手袋。 靴と靴下すら黒という、黒子な人物。 その中で、その人物が持つ刀だけが華やかに見える。 このときユキメは、ちょっとだけ運命というものに感謝をした。 「へへ……。遅いわよ、真夜(まや)ちゃん……」
「いい? 多分、次の一撃で決めなきゃジリ貧よ。なつめが油断している今だけがチャンスなんだから」 真夜は無言で、こくりと頷いた。 まだ少しだけ目を丸くさせている偽なつめ。 きっと、自分たちのことをまだ理解していないだろうから。 ユキメの方も、勝機が出来たことに、苦しそうながらもいつもの不敵な笑みを浮かべていた。 「私も、ちーっとばかし頑張るから、とどめは任せたわ」 ユキメはそこまで言うと、自らポニーテールを解いた。 ユキメから流れる髪は、僅かに重力に反するかのように、少しだけ外に跳ねている。 ユキメの髪は、かなり長いチサトの髪と比べてもさらに長い。 恐らく臀部まで届き、もう少し伸ばせば太腿まで届くだろう。 そして自らの髪に手を入れると、そこから一本の大型ナイフを取り出した。 それは片刃で、もう片側には妙な凹凸がついている、変わった形のナイフだ。 ソードブレイカーと呼ばれる、相手の武器を無力化させるための武器である。 「親父の言いなりになるようで、使うのが嫌だったんだけど、背に腹は代えられないよね」 「……」 ユキメと真夜の二人は、互いにソードブレイカー、そして日本刀を持ち、偽なつめにそれを向けた。 偽なつめは、身体中に電気を帯電させながら“雷切”を構え、今にも仕掛けそうな雰囲気だった。 その中で、ユキメは真夜に、本人たちにしか聞こえないような小さな声でぼそぼそと話しかける。 「……ってことよ。一発勝負、いいわね」 真夜は表情こそ見えないが、逡巡しているかのようだった。 僅かにためらった後、意を決して真夜はこくりと頷いた。 そして……山は動いた。 真っ先に動いたのは、真夜だった。 刀を構えながら、人あらざる者へと無謀とも言える突撃。 左手は腰だめに構え、右手は突きの姿勢という、少し不自然とも言える体勢。 そして真夜は、偽なつめの目の前で足を止めた。 先ほどの構えで、足を大きく広げて。 「死ね」 そんな真夜に、偽なつめは容赦なく刀を振り下ろした。 そして偽なつめの目は、刀を振り下ろしながら、目を大きく開かせる。 何故なら彼女の目の前に現れたのは、ユキメその人だったから。 ユキメは真夜の股の間を低い姿勢で潜り抜け、そのままアッパーカットの要領でソードブレイカーを振り上げた。 偽なつめの“雷切”、ユキメのソードブレイカー。 この二つがぶつかろうとしていた……矢先、ユキメはソードブレイカーの刃を返した。 “雷切”は勢いをとめられず、それはソードブレイカーの凹凸部分へと挟まった。 偽なつめは急いで抜こうとするも、ユキメもそうはさせじと力を込める。 だが偽なつめの武器は、なにも“雷切”だけではない。 自らに宿る、雷の力が、彼女にはある。 『電刃!!』 「んああああああっ!!」 再び、ユキメの体内を強烈な電気が迸った。 筋肉はユキメの意思を離れて勝手に動こうと暴れ回り、ユキメ自身も発生する熱と痛みで苦しみもがく。 だけども彼女は、ソードブレイカーに挟んだ“雷切”を抜こうとはしなかった。 状況は同じだが、ユキメの持つ意気込みが大きく違っていた。 今のユキメには、失敗することは許されなかったから。 そして強い意志に、勝利の女神は微笑んだ。 「一般人、なめるなぁぁぁぁぁっ!!」 その瞬間だけ、ユキメの腕には全身全霊の力がこもった。 きぃぃぃぃぃん……。 火事場のバカ力は偽なつめの力を上回り、その力は“雷切”へと伝わり、その金属をかち割ったのだ。 辺りに乾いた金属音が響き渡り、折れた“雷切”はくるくると回転し、地面へと突き刺さる。 ユキメはそのままにやりと笑うと、雷のダメージが蓄積しすぎたのか、次の瞬間には力を失い、地面へと倒れ伏せた。 しかし彼女の成した行動は、次の行動への布石にしか過ぎなかった。 「……!」 ユキメが倒れるのと同時に現れたのは、真夜の刀。 まるでユキメを狙ったかのような一撃にも見えたが、それはユキメの倒れることを見越してのこと。 ユキメと真夜のタイミングがばっちりだったのだ。 だが、偽なつめの反射神経は二人の想像を超えるほどのもので、偽なつめは使えなくなった“雷切”を放り出すと、次の瞬間には刀を持っていたほうの手に雷を作り出し、それを真夜の刀へと繰り出した。 『雷王咆哮撃!!』 「……」(この刀は回避用。そうよね、ユキメさん) 真夜の刀は、偽なつめの一撃に耐え切れず、亀裂が生じた。 みしみしと悲鳴を上げる刀。 そして限界はすぐだった。 ぱき、という“雷切”のときと同じような、乾いた金属音が鳴り響くと同時に、偽なつめの一撃が真夜を襲う。 が、真夜の刀によって、その一撃は僅かにベクトルを変えられていて、真夜の顔の横の空気と、真夜の被る黒頭巾を焼き切るだけで終わってしまう。 黒頭巾は支えを失い、そのまま地面へと落ちていく。 そのとき、偽なつめは今日一番の動揺を見せた。 肩にかかるほどの艶やかな黒髪。 はかなげなイメージを植えつける泣き黒子。 そして偽なつめが一番印象に残る顔。 ……まるで自分が若返ったような、そんな顔だったから。 同時に偽なつめは、自分の次なる運命を知った。 真夜の左手にには、小さいながら、荒れ狂う風が存在していたから。 そして……自分の相手が他でもない、自分自身だったから。 『……(風王咆哮撃)!!』 風の顎(あぎと)が偽なつめを飲み込み、そして……彼女は塵へと消えていった。
偽なつめを倒してほっとするのも束の間、真夜は倒れ伏せたユキメに慌てて駆け寄った。 ユキメはうつぶせに倒れ、僅かな痙攣を起こすだけで、一向に起き上がろうとはしない。 せめてと思い、真夜はユキメを仰向けにさせた。 それでもユキメは四肢を痙攣させ、表情は予断を許さないほど険しいものだった。 「……!」(ユキメさん、ユキメさん!) 彼女はユキメの身体をゆさゆさとゆすり、懸命に呼びかけるが、返事はない。 元々声が出せないので、呼びかけに応じる訳がないのだが、それでも遮二無二ゆすり続けた。 ザッ、という足音が、真夜の耳に届く。 慌てて振り返る真夜。 そしてそこに立つのは、十人中九人はカッコイイと称するだろう、優男風でありながら意思の強い目を持ち、それでいてかつワイルドな雰囲気の漂う、大学生くらいの男だった。 街なんかでばったり出会う程度なら、真夜も目で追う程度のものだろうが、今はただの正体不明の男性。 警戒心を解かず、自らがユキメを庇うように、男をにらみつけた。 「……」 男は、真夜に何ら関心を抱かず、ただ後ろで苦しそうに息を荒げているユキメを見つめていた。 それが一層、真夜の敵愾心を煽る。 「……」 真夜と男の、無言の応酬。 それは、男が起こした行動によって、終結した。 男は懐から数本の、白色の液体が入ったビンを取り出す。 ラベルには、真夜からは良く見えないが、彼女にわかったのはでかでかと『魔』と書かれていたことだけ。 それだけでも、ファンシーすぎて毒々しい。 そしてそれを、無造作に真夜へと向けて放り投げる。 慌てて真夜はそれをキャッチすると、男は口を開いた。 「それをコイツにぶっかけてやれ。本当は飲んだほうがいいけど、一応傷口にかけるだけでも効果はあるからな」 「……?」(え?) 「警戒するな、っていう方が無理かも知れないけど、安心しろ。俺は玲の味方だからな」 「……」(玲? それって、ユキメさんの……) 良く考えてみると、真夜にはこの液体に見覚えがある。 瑠璃華が学校で、保健室にこれを自慢しに持ってきたことがあるからだ。 白色の液体なぞ、そうそうあるものではないから、わりと容易に思い出すことが出来た。 ならばやるべきことは、ただ一つ。 真夜はビンを空けると、その液体をユキメが受けた火傷へとぶちまけた。 すると傷口は、早送りを見るようにみるみる塞がっていき、特に大量にぶちまけた部分に至っては、痕すら残らず白い陶磁器のような滑らかな肌へと戻っていった。 ただ、気は失われている。 「火傷が酷いから、服は脱がせない方がいい」 男の言葉に、真夜は素直に頷き、男の言葉どおりに、服の上から薬をぶちまける作業を続けていった。 終わる頃には、ユキメの表情も安らかなものへと変化して、火傷の跡は一つも残らなかった。 ほっと胸をなでおろした真夜だったが、反して男の表情は硬い。 「ちっ……。予想以上に酷い怪我だったか。恐らく内臓もやられてる……。やっぱり、経口摂取させないと……」 だが、ここで男は硬い表情をより一層硬くさせ、眉間に皺が寄った。 これは真夜も呆れたことで、口をぽかんと開けていた。 ユキメは両手を、何かを受け入れるように前へと差出し、自ら気道を確保して、唇を突き出している。 「……玲。お前、何をしてる」 「ん……。やっぱり眠り続けるお姫様には、王子様のキスで目覚めるのが、お約束じゃない?」 目を瞑ったまま、ユキメは男の質問に答えた。 「だから、口移しってのはどお?」 「どお? じゃないっ!! ったく、そんな元気があるなら、心配はないな」 「両腕両足に力が入らない程度だもん。平気、平気♪」 「……それ、普通は駄目、と言うな」 より一層、魂を放出させるようなため息を、男は吐いた。 「……?」(ユキメさん。この人、知ってるの?) 真夜は二人の関係を疑問には思ったが、喋れないため、その言葉は二人の耳には届かない。 このときばかりは、何故か自分の言いたいことを大雑把には理解出来ている憐たちがいないことを、残念に思った。 ここには書くものもなく……まあ言ってみればどうしようもない。 一応ユキメが起きているので、読唇術をさせればいいのだが、生憎真夜にはユキメがそんな特技を持っていることを知らなかった。 「……で、自分の状況は?」 「うーん……。腕は動くけど、箸一本持てないかな? 握力なんか全滅よ。足は力が入らないから、立てない。呼吸はまあ問題なく出来る。それから……」 「いや、大まかにはわかった。要するに、自分はもう何も出来ない、って言いたいんだな」 「さっすが大河君。頼りになるなあ」 「で、病院は嫌。看病は俺が見ろ、と?」 「翔子ちゃんの魔法薬があるんだし、問題ないんじゃない? それにかわいい女の子と一緒にいられるのよ。役得、役得♪」 「かわいい女の子、ねぇ……。自分で言うか?」 どこかジト目で見る大河。 対してそんな大河を気にすることなく、軽く笑うユキメ。 が、そんなユキメが突然、真夜の方を向くと表情が一変し、真面目なそれとなる。 「あと、真夜ちゃん。貴女は憐君たちの監視、護衛の仕事を放棄し、今はそのまま家へと帰ること。いい?」 「……!!」(な、何でよ!?) 「黒頭巾がないんだし、今憐君たちに会ったら、真夜ちゃんの正体バレちゃうよ」 「……」 「真夜ちゃんは、自ら自分の正体を偽って、憐君たちを監視、護衛することを決めたのよ。憐君たちが、魔王クラーマの魔の手にかからないように、ね」 「……」(うん……) 「真夜ちゃんが普通の女の子になれるときは、センゴクマンが魔王クラーマを倒したとき。それまでは、我慢しなさい」 「……」(……わかったわよ。ユキメさんがそこまで言うなら) ユキメはそう言うと、大河に背負われながら、二人一緒に真夜の下を去っていった。 立花真夜(たちばな まや)、学校では男子高校生、太刀華真夜(たちばな まよ)。 精神年齢25歳、肉体年齢17歳。 彼女は自らの存在を隠しながら、今日も、そしてこれからも『イクサクニヨロズ』を監視し続ける。 でも、今日だけは一人の女の子として、休息することを心に決めていた。
「……何だよ?」 「眠る前に、一つお願いしてもいいかな?」 「……?」 「……でさ……って、翔子ちゃんにお願い。多分、気づくだろうし」 「わかった」 「ふわぁぁぁぁ……。眠くなってきちゃった」 「別に、寝てもいいぞ」 「それにしても、大河君の背中って暖かいね」 「……」 「おやすみ……」 「ああ、今日くらいはゆっくり寝てろ。……ら」 その顔は、ユキメが他人に初めて見せる、安らかで無防備な寝顔だった。
同時に戦闘不能にて、戦線離脱。
最初は、戦力と精神的なことを考慮して、自分自身を各個撃破の策だった。 言ってみれば、あまりにも突然の出来事だったので、各自柔軟な思考を維持しつつ、臨機応変に対応することしか出来なかった。 が、今回は陣形を組んでいるので、多少状況は違うだろう。 最前線は憐、修一、秋彦といった男性陣。 そして後方で待機しているのが美奈、麗奈、瑠璃華、海里の女性陣。 後方支援があるとはいえ、実質は3対5。 普通に考えてみれば、一人の相手でもつらかったのに、この状態ではジリ貧どころか一気に崩される心配すらある。 しかしこうすることによって、勝機が出来ると、憐は信じて止まなかった。 「いいか、美奈、麗奈!! 俺たちが何とかこいつを抑える。だから、その間に完成させろよ!!」 「うん、わかった!」 「任せておきなさい!」 憐の檄に、美奈は素直に頷き、麗奈は自信たっぷりに応えた。 続いて、瑠璃華と海里の方を向く。 「瑠璃華は美奈と麗奈のサポート。海里は俺たちの援護だ!」 「わ、わかった……」 「任せろ、憐先輩」 それ以上の言葉は、相手の方が仕掛けてきたのでかけられなかった。 憐にとっては予想通りと言うべきか、相手の方もフォーメーションを即席で組んでくる。 偽輪、偽美亜子、偽淳二は接近戦が苦手であろう秋彦に。 秋彦は先ほどの矢傷が癒えきっていないのもあって、真っ先に標的となったのだろう。 偽広奈、偽春樹は憐と修一の足止めだ。 だがその陣形も予想通りだった。 「アキ!」 『雷神の舞っ!!』 秋彦は憐の言葉を合図に、踊るようにして回転すると、そこから雷が同心円状に広がった。 接近状態なら間違いなく、相手を粉砕できる力強さを持つ稲妻が辺りを迸る。 しかし相手もさるもの、秋彦の攻撃をいち早く予想した偽者三人は、多少の手傷を負ったとはいえ、早めに後退をしたのが功を奏し、傷は浅かった。 が、接近できない状態になったのも事実。 そして回転が止まった今でも、自らの周りが帯電している秋彦は、逡巡した三人に向けて“妖気銃”を連射した。 雷に守られた状態での遠距離攻撃は、接近戦タイプには嫌なものだ。 否応なしに、彼らはひるんだ。 こうして秋彦は、自分の守りを確立しつつ、援護に徹した。 無論その状態ならば、軽い足止めを食らってはいるが、その隙を狙わないわけにはいかなかった。 「いくぞ、霧華!」 (おう♪) 「直江家直伝!」 (愛と正義のぉ♪) 『『ラァァブラブ、ビィィィィィィィィィムッッッ!!!』』 まるで二人の少年少女が言葉を合わせるかのように、憐の声が二重に聞こえた。 憐が霧華と意思をあわせた状態のラブラブビームは、本来の比ではない。 火と火が合わされば強大な炎となるように、そのラブラブビームも、威力を数段アップさせている。 最強の技へと昇華されたこの技は、偽美亜子、偽淳二にはかわされこそしたが、位置が悪かった偽輪は自らも同じ技を繰り出す他なかった。 しかしその一撃の威力の差は、先ほどのように相殺できる威力ではなかった。 ビームはその威力にあっさりと飲まれ、もう偽輪に回避する術はない。 愛の光線に飲み込まれ、もう一人の愛の人は、光の彼方へと消え去っていった。 「「!」」 それを良しとしなかったのは、偽美亜子と偽淳二。 二人は、憐を強敵とふんで、狙いを秋彦から憐へと変えた。 しかしそれは、もう一人の最前線が良しとはしない。 「お主の相手は、我だ」
いや、もともと気を逸らすのが目的だったため、奇襲はオマケみたいなものだったが。 「……」 偽淳二は、オリジナルとは違って無言に構えを取る。 オリジナルなら、軽口を叩きながら自分のペースを作り、いつも通りの戦いをこなすのが主流だが、偽者の場合はその必要がないようだ。 修一も元々寡黙なので、やはりオリジナルとは違うが。 「……出来損ないが、勝てると思うか?」 本物とは違う、冷たくて思いやりのかけらもない、重苦しい声。 「確かに、今の我では勝てぬな。しかし……それは下手な自尊心を守ればの話」 ならば、という台詞を体言するかのように、偽淳二は修一に仕掛け始めた。 先ほどと同様、やはり手数では偽淳二の方が上だ。 四方八方から襲い掛かる両腕両足に、守りを固めながら修一は待ち続けた。 (……やはり、武器による防御を恐れている傾向にあるようだな。武器を持たぬ方から仕掛けてくる) すなわち、修一には相手の攻撃の場所を、ある程度予測できるのだ。 無論それでも変則的な攻撃ではあるが、修一も真田流古武術の経験が存在するし、自身が淳二だったこともあり、相手の行動が手に取るようにわかってしまう。 あとは、それに合わせればよかった。 カウンター気味、修一の裏拳が偽淳二の頬骨を砕いた。 「我も、出し惜しみをする訳にもいかぬからな」 先ほどまでは、短刀による攻撃のみだった。 無論、並みの相手ならばこれだけでも十分だったと自負していたし、それだけの実力が修一にはあった。 しかしこれでは、本当の強者には限界だった。 だからこそ修一は戦いをさらに進化させる。 短刀+真田流古武術という、手数を持ちながらも、刃物による一撃必殺を持つ戦士へと……。 「真田家直伝、秘奥義『表裏比興拳・六文銭気弾』」 「っ! 『表裏比興拳・六文銭気弾!』」 修一の気弾に、偽淳二はよけられないと思ったのか、自らも同じ技を繰り出し、それを相殺させる。 しかしそれは、互いに六つの弾。 修一はただ、上下左右表裏に攻撃を仕掛ければいいだけなのに対し、偽淳二の方はというとそれに加えて小さい玉にそれを当てるための集中力が必要だった。 だからこそ、偽淳二には気を回すほどの余力は存在しなかった。 修一はそんな隙を逃すほど、甘い人種ではない。 『爆炎』 炎に覆われた左手の拳が、偽淳二の腹部を捉えていた。 相手は多少ひるみはしたが、その一撃は戦況を変える程の威力ではない。 二人の戦いは、まだまだ終わらないようだ。
有利に運ぶのは憐、顔を歪めて戦っているのは偽美亜子。 実際にはありえない構図である。 確かに技量では、偽美亜子の方が上だ。 憐にしたって、そんな偽美亜子ほど強くはない。 だがこれは、一対一であって、一対一ではない戦いだ。 そう、霧華の存在である。 (憐! 右舷後方、蜻蛉が襲い掛かってくるであります♪) 戦いというのは、せわしなく動くもの。 そんなに動けば、相手が視界に入っていたとしても、相手を見失うことだってある。 だがそのミスを、今の霧華は帳消しにしてくれているのだ。 まるで自分の攻撃全てを見切っているかのような憐の動きに、偽美亜子には焦りが生じてしまう。 「はぁっ!」 憐の渾身の一撃は、偽美亜子の手に強い衝撃を響かせた。 これに関しても、霧華の恩恵が存在した。 憐が切りつけようとする意思と、霧華が切りつけようとする意思がまざりあったその瞬間、力が倍増するのだ。 故に、人間外の力を憐は放出し、偽美亜子は攻撃を受けるたびに手の痺れが増してくる羽目となる。 このままではいけないと察したのか、偽美亜子は一旦“蜻蛉切”を構えなおし、自らの必殺技を試みた。 「破っ! 破ぁっ! 覇ぁぁぁぁっ!!!」 一撃は左腕、二撃は右腕、そして最後はとどめと言わんばかりの首狙いの突き。 しかもとてつもなく速い攻撃なので、どれもが同時に襲い掛かってくるかのようだった。 (憐! ボクに左手を貸して!) 霧華のしたいことは、タイムラグなしに、憐の意思に伝わってくる。 だからこそ、こんな切羽詰った状況でも、一人が二人のように行動できるのだ。 『『護身氷壁!』』 まるで別々の意思を持つかのような両手の動きを、憐はしてみせた。 右手は、一発と三発の僅かな時間差を利用して、右手でいなす。 そして左手は小さいながら強固な盾を作り出し、槍を軽々と受け止めていた。 そのまま左手は氷の盾を、霧華の意思で砕かせると、次の瞬間には指先をチョイチョイと動かし、氷の刃を作り出す。 『『氷刃投射!』』 氷の刃が、攻撃直後で避け切れない偽美亜子を襲う。 しかも右手はそんな左手とはまったく別の意思を持つ。 氷の刃と時を同じくして、右手の“吉祥天”が閃いた。
援護とはいえ、一発一発が致命傷になるやもしれない攻撃だ。 秋彦を主軸として、海里が秋彦を援護。 そして瑠璃華は二人の守り手となりながら支援を試みていた。 「くっ!」 「……海里!」 流石に、援護の妨害に焦れてきたのか、偽広奈と偽春樹の攻撃は矛先を変え、援護組へと向かってくる。 さらには、ただ待機しているだけの美奈と麗奈を不気味に思ったのか、彼女らも標的へと加えている。 その中で、海里に一本の矢が腕を掠めた。 『五行障壁・急急如律令』 震える足をそのままに、瑠璃華は勇気を振り絞って自らと海里、そして後ろで勝利への布石となるべき二人を守るように、障壁を作った。 その障壁は、瑠璃華の体力が許す限り機能する、最強の盾。 恐らく憐、美奈、麗奈、秋彦の作り出すどの属性の盾よりも強力だ。 例えて言うならこの盾は、憐の最強の技ですら撥ね返してしまう。 「くそっ! 美奈ちゃん、麗奈ちゃん。まだかよ!?」 秋彦は舌を打った。 だがその間にも、秋彦の手は休まることを知らず、ただ無意識に自らの得物を放ち続ける。 先ほどの、偽広奈の一撃を受けた腹部から、血がにじみ出てくる。 意識ははっきりとしているが、痛みは間違いなく彼の脳に響いてきていた。 (……!) その瞬間、秋彦は目を見開いた。 そして次に、秋彦はにやりと笑う。 秋彦の目は、しっかりと偽広奈と偽春樹を見据えていたにも関わらず、秋彦は全てを理解していた。 「お待たせいたしました!」 「ヒロインというのは、遅れてやってくるものですわ!」
続いて憐も、力で思いっきり美亜子を弾き飛ばすと、秋彦の近くへと後退する。 『五行障壁・急急如律令』 互角ゆえに振り切れない修一だったが、それは瑠璃華が修一の全身を覆う結界を作り出すことによって、彼の安全圏を作り出した。 そして……美奈と麗奈の目が変わった。 「土は押しつぶされ、金を生む!」 「麗奈さんの土は、私が生み出す金を暴れさせる糧となる!」 二人は同時に、地面へと片手をついた。 そして土と金の力が合わさったとき、新たなる力が生まれる。 『『ダイヤミサイル!!!』』 土から生まれるのは、地球上で最も硬いと言われるダイヤモンド。 衝撃には弱く、金槌によって叩かれるだけで砕かれる、脆い物質でもある。 だが……それを刃物として使えば最強の矛と化す。 地面から飛び出す無数の鋭いダイヤは、腕を、足を、腹部を、そして心臓までもをいとも簡単に貫いていく。 偽春樹は範囲外だったので、ダメージはない。 偽淳二はというと、炎を自らに纏うことによって、ダメージを軽減させていた。 実はダイヤという物質は、焼かれると黒鉛へと変化する物質なので、偽淳二へと放たれたダイヤは致命傷とはなりえないのだ。 だが、偽美亜子と偽広奈は違う。 偽美亜子は最前線であり、かつ憐によってバランスを崩されていた真っ最中だったので、防ぐこともままならず、その身に全ての攻撃を受ける羽目となり、もう動くことも出来ないだろう。 そして偽広奈は、ただ運が悪かった。 心臓を、一本のダイヤが貫いた。 「続けますわよ、修一!」 「任せろ」 理解したのは、何も美奈と麗奈だけではない。 憐も、修一も、秋彦も、この掛け合わせの極意を身に着けていた。 それを可能にしたのは、瑠璃華。 瑠璃華には、実は精神感応という特殊能力が備わっていた。 無論全ての人間に対応するわけではないが、センゴクマンに深く関わる人間となら繋がることが出来る。 実はこの技能、無意識のうちに日常に応用されていた。 それが真夜だ。 彼女もまた、センゴクマンの遊軍であるなつめのクローンである。 だからこそ、真夜の意志は瑠璃華に伝わっていた。 そしてそれをさらに無意識のうちに、秋彦たちに送っていたのだ。 偽者たちの殺意が、彼女へとダイレクトに伝わったのも、精神感応能力が原因だ。 そしてもう一つ、瑠璃華は五行をまとめあげる能力を保持していた。 彼女が力を貸すことにより、五行は力を増し、新たなる力を作り出すことが出来たのだ。 もっともこの力の原因が瑠璃華にあることを、憐は知ってはいないのだが。 とはいえだからこそ、美奈と麗奈が身につけたコツは、瑠璃華へと伝わり、そして憐たち全員に伝わることが出来た。 「火は燃え、土を育む灰を残す!」 「土が保有する火。火の加護を受けた土。貴方に耐えられるかしら?」 修一と麗奈は、美奈のときと同様に、二人で地面へと片手をつく。 『『火山噴火』』 偽淳二の足元が熱しられ、溶岩が生み出され始める。 足がジュッと音を立てて、表面が溶かされはじめる。 無論そんな状況に立ち、じっとしている人間はいない。 当然感情がないとはいえ、彼も例外ではない。 だが。 『物質障壁・急急如律令』 瑠璃華が印を切り、偽淳二の逃げ場を完全に失わせた。 最強の盾を変形させ、それを牢屋の代わりにさせたのだ。 無論強度は変わらない。 だから逃げ場を失った偽淳二は、ただ……死刑を待つだけの囚人のように。 「爆裂」 「ですわ」 修一と麗奈は、親指と中指を使って、二人同時に指を鳴らした。 次の瞬間に偽淳二を覆うのは、地面から吹き出した、沸点近くまで熱せられたマグマ。 もちろんそのマグマは障壁に覆われているので、マグマの逃げ場はなく、ただ偽淳二を焼くだけ。 偽淳二は、声にならない悲鳴を上げながら、消えていった。 もう、戦況は五分ではなかった。 片や、全員が五体満足で生き延びる七人。 片や、満足に立っていられるのがたった一人で、二人は消滅、一人は全身をダイヤに貫かれ、最後の一人は心臓を貫かれ、四肢が微弱に痙攣を起こしているだけだけ。 もう勝負はついた、そう憐たちは思っていた。 しかし……残っているのはセンゴクブルーの偽者。 すなわち、最も戦闘能力が未知数の存在。 彼が……目覚めた。 地の奥から響くような、そんな低い声で。 『撫で斬り!』 それは、センゴクブルー最強の必殺技。 それは、風の刃を使い、相手を切り裂きし技。 それは……全てを飲み込む殺人の技。 それを理解している憐たちは、一斉に技の範囲外へと後退した。 その技は、憐たちの前方にある空気を切り裂き、地面を抉る。 ほっとしたのも束の間で、偽春樹は風の刃を展開させながらじわりじわりと憐たちに歩み寄っていった。 「はっ!」 「やあっ!」 秋彦と麗奈が、“妖気銃”、“虎爪弓”を放つが、それは風の壁に遮られ、偽春樹へと届くことはない。 「直江家直伝!」 (愛と正義のぉ♪) 『『ラァァブラブ、ビィィィィィィィィィムッッッ!!!』』 『表裏比興拳・六文銭気弾』 威力重視、命中重視の二つの技が、偽春樹を襲った。 しかし目覚めた独眼竜は、その力を自らの荒れ狂う風で、あっさりと弾き飛ばした。 「マジかよ……」 特に、これには渾身の力を込めた憐が、動揺を隠せなかった。 最強の矛であり、盾である風を身に纏う偽春樹。 誰もが、絶望を脳裏に浮かべた、そんなときだった。 彼らが見るのは黒い影。 偽春樹の首をそのまま狙うかの如く、偽春樹の頭上から飛び込んでくる。 風で作られた刃が荒れ狂う嵐へと、自分を弾丸に代えて。 「ち、チサトさん!!?」 「な、“黒薔薇”!?」 思わず、美奈と海里が叫んでいた。 風の刃はチサトの頬を切り裂き、艶やかな黒髪を無残にばっさりと切り刻む。 それでも風の刃はチサトの重要器官を切り刻むことなく、偽春樹の背後へと着地した。 もっとも、風の刃一本一本を見切り、動きにくい空中で僅かに身体をそらすことにより、致命傷を避けるというとんでもないことをやらかしたせいで、なのだが。 五体満足で偽春樹へと届いたチサトは次の瞬間、脊髄を断ち切るかのような一閃を彼へとかました。 チサトと“黒薔薇”に、偽春樹の鮮血が飛び散る。 そして、風が止んだ。 「今だ、アキっ!!」 「うわああああああああっ!!」 秋彦は、自らの銃に力を込めた。 秋彦の力が込められた銃は、雷の力を持つ。 まるでレールガンのような一撃でそれは、盾を失い、裸同然となった偽春樹のわき腹を直撃した。 偽春樹は力なく地面へと倒れ、それ以降彼が立つことはなかった。
他の人物たちは、戦い直後の疲労からか、ぐったりと倒れたり、倦怠感に耐えながら仲間と話し合ったりしていた。 瑠璃華も、燃費の悪い陰陽術の連続で、体力は限界ギリギリといったところであり、今すぐ倒れておきたかったが、そうはいかない。 瑠璃華の精神感応能力は、まだ偽者たちが生きていることを告げていたからだ。 だから、大怪我を負ったとはいえ、油断はしなかった。 「……伊達」 「……」 瑠璃華の呼びかけに返事はなく、偽春樹はただ力なく口をパクパクさせるのみ。 そしてその無機質な表情のまま、偽春樹は身体を塵と変え、散っていった。 これに、瑠璃華の目が、大きく開かれた。 瑠璃華は慌てて、偽美亜子、偽広奈を見やる。 偽広奈は、急所を貫かれ、即死でもおかしくない。 その瑠璃華の想像は当たっており、すでに偽広奈の姿はなかった。 だが偽美亜子は重傷ではあるが、今すぐに死ぬような怪我ではなかったはずだ。 しかし……偽美亜子は偽広奈と同様、その姿はもう既になかった。 瑠璃華の表情は無機質なものとなり、その姿は瑠華そのものだった。
「ふふ。まさか私を魔王クラーマに引き入れようとした“黒薔薇”が、こっちに寝返ることになるとはな」 「お前とも、腐れ縁なのかねー? ま、おれも命は惜しいし、これからもヨロシク頼むわ、怪人作成怪人よぉ」 「ああ。そうそう。私の今の名前は来栖海里だ」 「へーへー、わかったよ。来栖」
憐、美奈、修一、秋彦の四人は、瑠璃華に『むつ』の203号室に呼び出された。 なお、麗奈はこの場にはいない。 普段は美奈たち女性陣が寝たり着替えたりに使う部屋で、食事や娯楽といったものは202号室を使うため、こちらを使うのは珍しい。 憐たちは、疲れがたまっている今呼び出されて、瑠璃華に文句の一つもつけたいところだが、瑠璃華の表情は固い。 これほど表情が固いのは、瑠璃華の不登校時以来だ。 「……重大な話なんだな?」 「うん……」 瑠璃華の、これから話される内容の重要さに気づいた秋彦は、先んじて瑠璃華の言葉を言った。 それは憐たちも同様だったようで、一斉に口を紡ぐ。 コチコチ、という時計の音がやけに大きく聞こえる、沈黙。 今の状況なら、どんなに小さな音でも反応できてしまうだろう。 皆は沈黙に耐え、瑠璃華の言葉を待つ。 「偽者の輪たちとの戦いのとき、何とも思わなかった?」 もちろんことの答えは、思った、である。 だがそれはあまりにも多すぎて、何を何と思ったか、と聞かれると、答えは出ない。 憐たちも、そうであった。 沈黙を維持する憐たちに対して、瑠璃華は何も言わずに話を進めた。 「他の人はともかく、美亜子の偽者と春樹の偽者は、重傷は負ったけど、決して致命傷なんかじゃなかったの。だけど……二人は消えた」 「え……?」 憐たちにとっては、瑠璃華の言葉は晴天の霹靂だった。 あまりにも突然のことで、一同は頭を真っ白にさせる。 それでも瑠璃華は、白痴となった一同に話を続けていた。 「思い返してみると、輪の偽者は憐、美亜子の偽者はみーなちゃん……って具合に、彼らを倒してたの。そしてその結果……彼らは塵へと消えていった。そう、怪人みたく……。輪の偽者たちは、確かに即死だったからかもしれない。だけど、美亜子も春樹は、これ以外に塵になって消えた理由が思い浮かばない。だから、彼らと立場の同じあたしたちは、こうなるんだろうって、そう思った」 憐たちは、これ以上瑠璃華の話を耳に入れたくなかった。 本能が、今まで以上の警告を発している。 だけど身体は意思を離れ、動くことは無かった。 そして……。 彼らは絶望した……。
「少年たちに課せられたのは、自らの生と死。 |