投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第十話


「イクサクニヨロズ強襲(中編)」

◇前回までのあらすじ◇


愛「やっほー、読者の皆さん。私がチサトの友人、佐藤愛(さとう あい)です」

翔子「チサトの一番の友人、五十嵐翔子(いがらし しょうこ)です」

愛「ほほー……相変わらず可愛げがないわねぇ。あんたは二番、あたしが一番だってこと、忘れたの?」

翔子「愛こそ、何か勘違いしてない? 私が一番チサトの信頼を得てるのは、一目瞭然じゃあなくって?」

愛「……」

翔子「……」

愛「やっぱやめよう。多分このままじゃ、あらすじを言う前に前説が終わっちゃう」

翔子「愛の意見にしては、悪くない意見ね。乗るわ」

愛「ええと何々? (資料を見て)前回『イクサクニヨロズ』こと直江憐、本多美奈、真田修一、武田麗奈、伊達秋彦、明智瑠璃華の六名は、一枚の果たし状……じゃなくて練習試合の要望書が届いた。それで彼らは、その意見に合意し、『ITACO』の待つ恐山へと向かうのであった。……前説にしては簡単すぎない? これ」

翔子「(資料を見て)しかし彼らの中にもぐりこむ少女、海里は実は“怪人作成怪人”だった。修一と麗奈は彼女を仲間と認めるが、彼女が本当に味方なのであろうか? 彼らを見張る人物とは? そして瑠璃華に殺気を向けた人物とは? ……こっちが補足みたいね」

愛「ちなみに今回は、チサトと玲(ユキメの名前)は出張に行ってるから、あたしたちが前説を担当してます」

翔子「次回も出張してるし、後編も私たちが担当だと思います」

愛「じゃあ……画面を見るときは部屋を明るくして、離れて御覧下さい!」

翔子「中編を、どうぞ!」



◇1◇


「父。荷物は問題ない」

「そうか、海里。だったら皆さん、乗りなさい」

今日は、『ITACO』との練習試合当日。

恐山へと行くのに、貸しアパート『むつ』の管理人さんこと、来栖浩二(くるす こうじ)の発案により、ワゴンで行く事となっていた。

これなら荷物をいちいち持って移動しなくて済む。

意外とエアガンは重いし、着替えなんかも必須とくれば、当然荷物がかさばるのは必然だ。

そう考えると、この浩二の提案は渡りに船といわんばかりであった。

もっとも、浩二が送ってくれるのは、ひとえに海里のおかげだ。

海里がサバイバルゲームに興味を抱き、『ITACO』との練習試合にも参加すると言わなければ、このようなことにはならなかっただろう。

てなわけで、約一名を除き、海里に感謝の気持ちを抱いていた。

「さて、席分けだけど……」

ここで、憐が呟いた瞬間に、骨肉の争いが勃発する。


結局、運転席に浩二、助手席に憐。

二列目は、左から美奈、瑠璃華、秋彦。

そして三列目は、左から麗奈、修一、海里という形となった。

「麗奈先輩。窓側が著しく開きがあるようですが、詰めなくていいのですか?」

「海里さんこそ、窓側が開けているのではありません? 修一が窮屈してますわよ」

互いに一歩も引かない、見苦しい乙女の戦いであった。

互いに修一の身体に、自分の身体を摺り寄せてアピールをしているが、修一はまるで意に介していない。

「……暑いな」

「ほら。修一先輩もこう言っているのですから、離れてあげるべきでは?」

「だったら海里さんがなさってはいかが?」

修一はまさに、キング・オブ・にぶちんであった。

「れいちゃんって、シュウのことが好きだったんだ。そういう様子は見せなかったけどなー」

「オレも知らなかった。でも、シュウの奴、意外と女子に人気あるんだぜ」

秋彦と瑠璃華の二人は、そんな三角関係をよそに、二人の世界を作っていた。

瑠璃華は、先日の一件以来、精神的に不安定な時期が続いたが、今は落ち着いている。 その反動からか、瑠璃華はより一層秋彦に依存するようになっていったのだが。

しかし狭い車内で、修一、麗奈、海里の三人ほどではないが、秋彦と瑠璃華が身体をすり寄せ合っている様は、他人である美奈にとっては暑苦しいだけだった。

もっとも、美奈自身はスペースがたくさん余っていたため幅には余裕があって、物理的には涼しいのだが。

「憐君……」

憐の位置が、彼らを見ているととても遠く感じ、なんだか涙が出てきそうだった。

そして彼らが向かう恐山が、運命の分岐点になることを、彼らは知らない。



◇2◇


「やっほー」

一同は、いきなりで何だが、地面に向けてヘッドスライディングをかましていた。

憐は少し痛む顔を何とか引き上げ、視線を、声をかけてきた女性へと向ける。

「いきなり、野球熱心よね。普通のスライディングでもいいのに」

「って違うっ!! 何でユキメさんとチサトさんがここにいるんですかっ!?」

そう、何故かここ恐山にユキメとチサトが突っ立っていたのだ。

『ITACO』との練習試合のため、待ち合わせ場所にしていた、ここで。

ユキメの行動パターンからいって、別段人の行動を先読みしているのは異常でないのだが、やっぱり一同は動揺を隠せない。

というか、そんなことを出来るのが普通だと思われている時点で、ユキメは如何に変人であるかの証明となっていたりする。

「確かに、憐君たちがここに来ることは知ってたけど、今日は別の用件でーす」

「私用ですけどね」

ユキメに変わって、にこやかな表情を見せるチサトが補足する。

いつもユキメの行動にぴりぴりしているチサトを考えると、少し珍しい光景だ。

もっとも、チサト自身非常に温厚な人物なので、ユキメ以外に対してはやんわりとした態度で臨んでいるのだが。

「来栖さんも、かいちゃんも、おひさー」

「……」

「数日前に会ったばかりだがな、“双剣”のユキメ」

浩二はユキメの姿を見るや否や、険しい表情をし、海里は薄く笑う。

対するユキメはそんな二人に分け隔て無く、にっこりと微笑む。

「あ、あれはユキメさんの得意技の一つ、堕天使の微笑み! 傍目には邪な心のない無垢な微笑みのように見えるけどその実、相手に好印象を持たせることを第一とし、有利な交渉を行うという腹黒い意思が隠されているという大技ですわっ!!」

「……麗奈ちゃん。そこ、怒ってもいいとこよね?」

流石のユキメも、いつもの笑顔が微妙に引きつっている。

「それより、ユキメさん。管理人さんのお知り合いですの?」

「一応、仕事の関係とかいちゃんの養子縁組で、色々とお世話したからね」

浩二の様子を見る限りでは、あまりいい関係ではないようだが、海里は割とユキメと親しくしているので、一概に来栖一家と仲が悪い、というわけではないようだ。

とはいえ深く考えてもわからないものはわからないし、第一ユキメや浩二のプライベートまで足を踏み入れるつもりもない憐たちは、心の奥に押し込むことにした。

一同は改めて、辺りを見渡す。

原生林が生い茂り、日光を遮断するほど高くて広い木々が立ち並ぶここは、サバイバルゲームには持ってこいの場所だ。

だがここにはまだ『ITACO』のメンバーはいない。

「んじゃ、先に自主練でもして待ってるか」

憐の一声で、一同は各々の武器を取り出し、軽くメンテナンスを行った。

もちろんエアガンを持たないユキメ、チサト、浩二の三人は見学だ。

まだサバイバルゲームに慣れていない海里だったが、中々動きが良く、憐たちにとっても満足のいく相手となり、十分に楽しめていた。



◇3◇


軽い準備運動がてらこなした自主練を終え、気だるい身体で休憩を堪能している一同であった。

憐と美奈は、世間話をしながらまったりと時を過ごす。

修一と麗奈は、サバゲーをする上でのサインを海里に教授していた。

普段なら麗奈と海里は、修一をめぐって争っているのだが、その実、恋敵(ライバル)というだけではないらしい。

「ですから、手首を指したときは時間を表すのですわ。1から5は普通の数字を現すようにすればいいのですけど、6から9は親指から小指にかけて広げていきますの。10はグッパッって手を閉じて開けばいいですわ。11、12は1を指してから一旦閉じて、1なり2なりを現せばよろしいですわよ」

「数字を表した後、手首を指せばそれが示す方向となる。主に、敵がどの位置にいるのかを示すのに有効であろう」

「わかりました、先輩方」

熱心にメモを取る海里の熱心さにつられ、修一も麗奈も軽く微笑んでいた。

そして秋彦と瑠璃華なのだが、この二人は楽しそうな憐たちに比べると、どこか暗鬱とした雰囲気が漂っている。

秋彦と瑠璃華がいつもどおり引っ付いているのは変わらないのだが、その際の表情がまるで違っていた。

秋彦は心配そうに瑠璃華を見つめ、対する瑠璃華はただ何かに脅えるように秋彦の腕にしがみついている。

「……何か、嫌な予感がする。……秋彦。あたし……」

「前にも言っただろ? オレは死ぬまでお前の味方だ。何があっても、オレはお前の傍にいる」

「……うん」

瑠璃華は以前に起こった謎の恐怖が今でも根を持っているのか、ただ秋彦にしがみついてその恐怖を打ち消そうとしていた。

そんなとき、ユキメは手をパンパンと叩き、一同の視線を自分に集中させた。

「はいはーい、皆さん注目〜。あちらに見えるのが、チーム『ITACO』と『OSYO』、チーム『ITACO』と『OSYO』でございま〜す♪」

現在各地への観光旅行で欠かせない存在となっている“たかバス”のような口調でユキメは、まだ憐たちからはまだ遠くの人を説明した。

遠目からだが、視力は皆悪くないのか、少なくとも『ITACO』がいることはわかった。

まあ、今回もイタコ風――約一名は巫女さん――の服装なので、当然なのかもしれない。

「あ、お手元の乗車口は右側です♪」

「「ってそれは電車ですよっ!!」」

「オウシット!」

絶対にわざとだろうと思われるユキメのボケは、熟練の漫才師にも真似出来ないような絶妙のタイミングで憐と秋彦にツッコまれていた。

ユキメもユキメで、二人のツッコミの後で塩少々くらいの絶妙な軽いボケを加えるあたり、抜け目がないのかもしれない。

「ならば……アテンションプリ……」

「それは飛行機です!」

今度のツッコミはチサトだった。

この面子では、飛行機に乗った経験があるのがチサトのみだったので、憐と秋彦が反応できないのは当然なのだ。

とはいえ、チサトも飛行機に乗った経験はたったの二回、しかも行きと帰りの二回だけなので、それほど経験があるわけではないのだが。

余談だが、チサトは飛行機にはあまりいい思い出がない。

何故なら宝クジより低い確率とまで言われているテ……。

「お久しぶりですな。『イクサクニヨロズ』の皆さん。私は『ITACO』のリーダー、『I』こと赤木郁夫(あかぎ いくお)と申します」

ボケツッコミをしている間に『ITACO』と『OSYO』は既に憐たちの前に現れており、リーダーである体格の良い角刈りの少年、郁夫が軽い会釈をした。

唐突というな登場という訳ではないが、やはりユキメのボケにより気が逸れていた一同は、少々同様した面持ちだ。

とはいえそのまま棒立ちなのは失礼だと思ったのか、憐はにこりと笑いかけ、郁夫に手を差し出した。

「こちらこそよろしく。俺は『イクサクニヨロズ』の直江……」

「「「「「「きりタン!?」」」」」」

見事に、『ITACO』の面々はハモった。

「すごいな……。あれが噂のきりタンか……」

「角田(かくた)の言うとおり、すげー美人」

「お持ち帰りしたい……」

「サイン欲しい……」

「俺の彼女になってください!!」

「シミ一つない綺麗な顔、透き通るような白い肌、ツヤもハリもあって……うー、完全に負けてる……」

ちなみに角田とは、『ITACO』のスパイ役をしていた少年である。

その少年はスパイをすると同時に、霧華の生ライブを見て……要するに霧華のライブを見ながらスパイをやっていたのであった。

なお、ほとんどの観客は霧華のライブに釘付けだったので、その角田という少年はとてつもない意志力を持ち合わせているのかもしれない。

もっとも、彼の努力はユキメの情報力によって無駄に終わったのだが。

というわけで、角田から直江霧華に関しての話は聞いていたのであった。

「ちょっと待ていっ!!」

「ほんと、すげー綺麗な人だ……」

リーダーである郁夫を筆頭に、誰も憐の言葉を聞いていない。

というか、『ITACO』一同は、レンジでチンをしなくても確実にとろけている、いやとろききった顔だ。

(ありがとーっ!! ボクのファンがここにもいてくれたんだね♪)

(くぅ、否定が出来ないところが痛い)

(否定しようだなんて、酷いよ♪ 二次曲線のxマイナスa括弧二乗プラスbのbが0のときの、二次曲線とx軸の関係が、儚く悲しいの♪)

(……何だその例え)

霧華は、近づきはするけど接する機会はたったの一度しかないから悲しい、と言いたいようだが、この例えは一般的な市民には難しすぎた。

きっと読者も、この説明がないとわからないであろう。

何はともかく、憐は腹をくくった。

「もう、好きに呼んで……」

「はいっ!! では我々はきりタンと呼ばせて頂きますっ!!」

一同を代表して、軍隊のような元気一杯さで叫んだのは、やっぱりリーダーの郁夫であった。

対する憐はというと、投げやりな口調からもわかるように、脱力しきった様子で深く俯いていた。

(じゃあボクは、ゴンベエさん♪)

(……俺は名前がないわけじゃないぞ)

(んー、ヒジカタ=リンとか?)

(輪はやめろ)

(ネコイ=アヤセ?)

(あのな……)

(リア=ライチェ?)

(だからな……)

(レイピア=プリムローズとかは?)

(だから、パクリはやめろって言ってるだろ!!)

(パクリをやめろだなんて、ボクは一言も聞いてないよ♪)

(うぐぅ)

(じゃあゴンザレス山本さんに決まりだね♪)

(どっからそんな名前が出るっ!!?)

(えへ♪)

(えへ♪ じゃねーっ!)

憐の苦労は、何も霧華のファンだけではなく、その当人も原因の一つであった。

いや、原因だけではなくて元凶でもあるのだが。

と、胃をキリキリと痛ませるやりとりの最中、美奈が口を開いた。

「あ、あの……失礼かもしれませんけど、一つよろしいでしょうか?」

「何ですか? コードネーム『スカート』?」

一瞬、美奈は首を傾げたが、今は気にしないでおくことにした。

ついでに言えば、その仕草がどこかおどおどとして小動物を思わせるものだったので、男性一同が庇護欲をかきたてられたというのは、限りない余談である。

「何で、憐……霧華の顔を知っているのですか? 貴方方の試合のとき、彼……女は試合には顔を出さなかったはずなのに……」

「「「「「「だって、ビデオ見たし」」」」」」

『ITACO』の面々は口を揃えて言った。

次の瞬間には、美奈が首を素早くユキメの方に向け、目で彼女に質問を投げかける。

それに対し、ユキメは首を横に振る。

(私だって、対応出来ないことくらいはあるってーの)

という意味を込めて。

最初はその仕草に、美奈が睨みを効かせたが、ユキメが両手の掌を肩の横で水平に広げ、肩をすくめる仕草を見せると、美奈の態度は軟化していった。

美奈は一旦ため息をついてから、気を取り直す。

「私は『イクサクニヨロズ』の本多美奈です」

すると、美奈に牽引されるかのように、修一たちも動き出した。

「我は真田修一」

「わたくしは武田麗奈ですわ」

「オレは伊達秋彦」

「明智瑠璃華です」

『イクサクニヨロズ』の自己紹介が終わったら、次に動き出したのは海里だった。

「私は来栖海里だ。先輩方に強引についてきた故、迷惑になるかもしれないが、よろしく頼む」

「私は城戸玲。今回は観客その1」

「黒川千里です。観客その2」

「来栖浩二です。観客その3」

実名で名乗ったユキメとチサトに、憐たちは怪訝に思ったが、彼女らの不可解なことは、幸か不幸かいつものことであった。

そもそも、ユキメとチサトがここに来た理由は別にある、と当の本人たちが言っていたので、不思議なことではない。

実名を出さなければ不都合があるのだろう、と憐は思った。

(ボクたちにも知る権利があるしね♪)

(本人たちにプライバシーの保護という権利もあるだろーが!)

そもそも、知る権利はマスコミを介されなければ意味はないが。

「それではこちらの自己紹介でしたな。『T』こと木暮武(こぐれ たけし)です」

少し華奢だが、メガネをかけていることもあって、理知的な雰囲気が漂う少年だ。

「『A』こと、宮城明人(みやぎ あきと)です」

明人は、背が低めの少年だ。

「『C』こと、桜木千春(さくらぎ ちはる)だ」

坊主ということもあって、ある意味一番チーム名にふさわしいのかもしれない、そんな感じの少年である。

「『O』こと、流川治(るかわ おさむ)」

このチームの中での、一番のイケメンである。

「……三井美紀(みつい みき)です」

「おい『TARAC○』。我々のコードネームを何故話さな……」

「そんな訳わからない上、恥ずかしいコードネーム勝手につけるなーっ!!」

郁夫の言葉にあるコードネームに反応して、美紀は大声を上げた。

ちなみに美紀は、長い黒髪の魅力的な美少女である。

彼女だけイタコの服でなく、巫女衣装を着ている。

まあもっとも、男に巫女衣装を着せても、うれしい人間はいないだろうが。

そんな、終止和やかな雰囲気が漂う自己紹介であったが、その雰囲気は重鎮の一言によって、一変した。

「そろそろ、わしらの自己紹介もさせていただけないかね?」

「「あ……」」

両チームのリーダーが、揃って口に手を当てた。

当然、忘れてた、と言えるはずも無く、二人は、これから教えをいただけるであろう重鎮チーム『OSYO』の発言を促せるように、低姿勢で彼らの言葉を待つ。

「わしは『OSYO』のリーダー、『DAIKOKU−TEN』じゃ」

「わしは『EBI−SU』。チームのムードメイカーじゃのう」

「わしは『HUKUROKU−JU』。チーム1の長寿じゃぞい」

「わしは『JUROU−ZIN』。メンバーの良心じゃ」

「六人揃って」

「「「「チーム『OSYO』!!」」」」

しっかりと四人でポーズをとる、チーム『OSYO』。

ここでどこぞの特撮なら、背景に爆発かなんかが混じって、格好がつくのかもしれないが、これを行っているのはいい年したおじいさん方である。

まあ確かにこれを見ているのが老人であれば、この光景に「わしもまだまだ現役じゃ!」とか勇気づけられるかもしれないが、生憎ここにいるメンバーの大半は若人だった。

だから勇気を与えるどころか、一同の失笑を買ってしまっていた。

「……毘沙門天と布袋と弁財天は? 六人揃ったら、一つ余るし。それに二人足りないよ?」

ユキメが、一観客として思惑呟いたが、それは地雷だった。

『OSYO』の四人はユキメの言葉に打ちひしがれて、ただ滂沱の涙を地面へと垂れ流す。

「……『HO−TEI』と『BISYAMON−TEN』はもう……。弁財天の名を受け継ぐ者もおらん……」

「どうせわしらは、未だに独身じゃよ……」

「その点、『BISYAMON−TEN』は孫にも恵まれて……」

「わしなんか未だに……」

あまりにも哀愁が漂う『OSYO』の方々の背中は、誰もが余計なことを漏らすことすら出来ないほどの悲しさに満ち溢れていた。

唯一つ、浩二を除くこの場にいる全員が思ったことは共通していた。

(こんな人生を送るのだけはやめよう)

結婚は人生の墓場だという格言は存在するが、一同は結婚しないほうが人生の墓場だということを確信して止まなかった。



◇4◇


展開が早いが、憐たちは『OSYO』による充実な講習を受け、非常に満足していた。

憐が今まで学んでいた歴史的な戦術だけでなく、近代的な戦術に加え、サバイバルゲームで通用する戦術の講習もあったので、興味も湧くというものだ。

無論、個々の戦術や、基本的なプレイヤーのパターンなどといった老練した戦士ならではの、プレイヤーの特徴なども教えてもらい、老獪(ろうかい)な戦い方が出来るようにもなった。

「かつては、鬼○米英とも戦ったものじゃからのう。がっはっはっはっはっはっは……」

多少過激な発言は混じったが、やはり元軍人だっただけはある。

実戦でそれを実践し、『OSYO』のスキルは見事に『イクサクニヨロズ』と『ITACO』に受け継がれたのであった。

もし『ITACO』がしっかりと、かつ早く『OSYO』の教えを受け継いでいたら、青森代表決定戦では、憐たちに勝ち目は無かったのかもしれない。

「それではご老人方。こちらの用も終わりましたようですから、私たちの依頼の方、よろしくお願いいたします」

「よ、よろしくお願いします」

あらかた講習が終わったところで、ユキメは『DAIKOKU−TEN』に業務用の口調で話しかけた。

同時に頭を下げたチサトは、ユキメとは違い、そのような態度は慣れていないのか、口ごもる。

ユキメの仕草もどこか仰々しい。

憐たちは、いつも底抜けに明るくいたずらっ子なユキメを見ていることもあって、彼女の生真面目な様子というのは目新しく思う。

子どもというのは、プライベートの親しか見れず、仕事のときの親の姿というのは見れないものだ。

憐たちにとっては、今のユキメがそのようなものなのかもしれない。

「と、言うわけだから、楽しんでてね」

「それでは、お先に失礼します」

ユキメはいつもの口調に戻り、にっこりと微笑んで、手を憐たちに振った。

チサトはそれにならい、軽く会釈をする。

こうして、ユキメとチサト、それに『OSYO』の全員は憐たちに見送られ、恐山の奥へと進むのであった。

そして取り残された憐たちは休憩モードに入る。

修一と麗奈は、何かを『ITACO』の面々と話し込んでおり、憐と美奈と秋彦、それに瑠璃華は割り込めない。

ふと憐は辺りを見渡した。

辺りは緑に覆われ、山の名前とは程遠い自然の優美さを憐たちに照らしている。

新緑に息づく葉の数々は生命に満ち溢れ、この場にいるイタコという職業とは遠くかけはなれていた。

だがそんな対極は見られても、たった一人の人物が見当たらない。

「管理人さん。娘さんの姿が見えないようですが……」

「おや、本当だ」

秋彦の言葉に、浩二はきょろきょろと辺りを見渡すが、憐たちが確認したように、その姿はない。

「……ではわしはあっちの方を探そう」

「じゃあオレたちはあっちですね」

海里が行く可能性があるのは、さらに奥へと進む道と、戻る道のみ。

だから憐たちと浩二で分かれるだけで十分だった。

四人は、浩二と別れた後、戻る道の方を延々と進む。

「気持ちいいね……」

北国で、しかも少し標高があるため、ここは少し寒い。

でもそんな涼しげな風が運ぶのは、木々の匂いと葉がこすれあう「ざぁっ」というどこか小気味いい音。

美奈は少しだけ、そんな情緒あふれる風景に違和感を感じたが、それ以上の落ち着いた雰囲気に心奪われていた。

「ああ」

憐の返事に、美奈ははにかんで俯いた。

顔をほのかに染めて、視線を憐へと戻す。

「……」

「……」

二人はその言葉以降は沈黙したが、温かみのある雰囲気は、秋彦と瑠璃華にとっては微笑ましかった。

「いい雰囲気だね、秋彦」

「そうだな」

「にしても、相変わらず憐って鈍いよね」

「シュウほどじゃないけどね。でも、美奈ちゃんがかわいそうだよ」

どれだけ温かみのある雰囲気だとしても、憐の意識はあくまで「仲間」として、だ。

憐がそう思い込んでいる以上は、美奈に入り込む余地などないのだ。

悲しいが、これが事実だった。

「あ」

秋彦の視線に、一人の少女のシルエットが入り込んだ。

「おー……い……」

それが海里だとわかってすぐさま声をかけようとしたが、海里の不審な行動から、言葉が尻すぼみに小さくなっていく。

最初の声は割と大きめであったが、海里は気づいてはいないようだ。

「……来栖さん」

「うそ……」

秋彦と同じ光景を覗き見ている美奈と瑠璃華は絶句した。

よく見ると憐の方も、視線は海里の方に釘付けで、唇を固く結んでいる。

秋彦は改めて視線を海里の方へと戻すと、先ほどと変わらない、明らかに人とは違う存在と、何かを話していた。

海里が話していた人物、それは……刀だった。

遠目なので大きさははっきりとはしないが、海里との大きさとの比較から、小太刀程度の大きさだということはわかる。

鞘や柄といった部分部分が、妙に派手な造りだった。

対する海里はというと、後姿なので表情は読めなかった。

ただ少しだけ、憐たちと話しかけるときより言葉に冷たさが感じられる。

内容こそ聞き取れないが、憐たち四人には海里の言葉の冷たさが何となしにわかってしまった。

しばらくすると、刀がまるで鳥のように空に浮き、空高く、海里の元を離れて行った。

それと同時に、海里は憐たちの方に歩いていく。

当然そうなれば憐たちの姿がはっきりとするもので、海里は当然のように憐たちの姿に気づいた。

「……先輩方、どうしました?」

憐たちは、言葉を選ぶことが出来なかった。

言いたいことはたくさんあった。

だけど……何て言えばいいのかまるでわからない。

「早くしないと、『ITACO』の皆さんを待たせることになります。急ぎましょう」

海里はそれだけ言うと、憐たちに背中を向けて歩き出した。

やがて、海里の姿が見えなくなると、憐たちは誰となく、海里に言いたかった本音を呟いた。

「……魔王クラーマの仲間だったのか」

この世界に、魔王クラーマ関連以外で、あんな超常的な正体不明の物体が存在することはありえない。

いや、あったとしても所謂UFOだったりUMAだったりというもので、一介の少女が気軽に話しかけられるようなモノではない。

すると、結論はただ一つだ。

「……憐殿? 如何したか?」

「そうですわよ。海里が見かけた、と言ってましたけどわたくし、遅くて待ちくたびれましたわ」

呆然としていた四人に、修一と麗奈が後ろから唐突に話しかけてきた。

二人にとっては、少し様子のおかしい四人にただ声をかけただけだったが、四人にとっては喉から心臓が飛び出すほどびっくりさせられる出来事であった。

四人が四人、心臓がバクバクと速いリズムで音を立て、耳まで届くほどだった。

「ったく、驚かすんじゃねえよ……」

普段冷静……といっても霧華やユキメの前ではただのツッコミ役と化す憐であったが、この状況下では、お化け屋敷に驚かされているような、ただの人であった。

「我は驚かしたつもりはないのだが」

「……って、そんな世間話してる場合じゃなかったな。シュウ、麗奈」

「何ですの? やぶからぼうに?」

「来栖……海里の方な。そいつに警戒しとけ」

「何故?」

「あいつは、魔王クラーマの手先だからだ」

憐は正直、修一と麗奈の反応は、驚愕を期待した。

が、二人はまるで、それがさも当然のように反応したのだ。

ただ一言、「ふーん」と。

それと同時に、修一と麗奈の二人には持論が存在した。

「了解した。だが、警戒は憐殿たちに任せる」

「わたくしたちが、海里のそんなことをしている所を見た訳ではないですもの。裏切ったと判断するには早計すぎますわ」

修一と麗奈だけが、海里が元怪人だったことを知っている。

それに、彼女はそれを明かしつつ、友になりたいと、修一と麗奈に話していた。

ただ信頼を得たければ、元怪人であることなんか話さなければいい。

だけど彼女はそれを明かした。

それに……修一と麗奈が友となると言ったときに見せた笑顔だけでも、二人には十分だった。

「……」

(二人とも、仲間思いだもんね♪)

霧華の言葉にも反応せず、憐は軽く俯きながら、二人を睨みつけていた。


場所は変わって、ここは恐山の一角にある屋敷。

いや、屋敷と言っても中はまるで神社のような造りとなっていた。

部屋の中央では、髪を下ろした状態の清楚で可憐なチサトが、そんな容貌と相反する活動的なライダースーツを着てびしっと正座している。

薄暗い部屋の中にぽつんと存在する美少女を、傍から見ているユキメは、神秘的だと思った。

元々真面目で、あまり派手な服を好まなかったり、化粧なんかもしないですっぴんでいることが主だが、チサトは素材だけでも一級品だ。

普段は野暮ったい格好をするのが、かえってチサトの美しさを引き出しているだけのような気もしてならない。

そんな様子を、ほんの僅かな嫉妬の混じった視線でユキメは見つめていた。

しかし神秘的な情景とは違い、周りはドタバタし、神秘のかけらも感じられなかったりする。

「もうしばらくお待ちください。儀式で使う御神刀が見つからないもので……」

『DAIKOKU−TEN』が、慌てた様子で二人に言い訳をした。

その言葉に、ユキメはため息混じりに、頭をポリポリと掻く。

「ま、私には関係ないことだし、ちょっと散歩でもしてくるわ」

どうせ、今回に関してはユキメは部外者だ。

ここまでチサトに付き合ってきたが、一蓮托生する必要性もない。

チサトに手を振り、ユキメは外に出ることにした。

とはいえ、外に出てもすることはないので、嘘から出た真。

ユキメは外を歩くことにした。

外に出たユキメは、まず始めに伸びをする。

若いのでそれほど疲れが溜まるということはないのだが、それでも徹夜で仕事をすることはちらほらある。

やはり細身のこの身体では、疲れは溜まるのだ。

「ふぅ……」

吸い込んだ新鮮な空気を吐き出したら、後はぶらぶらするだけ。

思えばユキメは、各地を転々として仕事をしてきたが、観光といった娯楽にはしたことがない。

暇も興味もないのでしょうがないと言えばしょうがない。

でも、こんな他愛もない散歩だけでも、ユキメの心は洗われるようだった。

もっともユキメの心は洗ってもドス黒いという意見はちらほら存在するのだが。

「ん?」

おそらく一般の人だろうと思う人が、一本の刀を持って社(やしろ)の中へと向かってくる。

刀としてはやや小ぶりの、小太刀くらいの大きさの刀だ。

「どうしたのですか? 刀なんて持ち歩いていたら、警察の職務質問にあって、銃刀法違反で逮捕されて、臭い飯を食べる羽目になって、刑務所を出た後も後ろ指を指される生活を送る羽目になりますよ?」

経験があるのか、嫌なほどリアルなたとえ話を聞かされ、一般の人がどこか脅えた様子でユキメの方を向く。

「は、はい……」

(何が「はい」なんだか……)

思わずユキメは、考えなしの返答に、呆れた様相を見せた。

「じ、実は、御神刀が見つからず……ええと、その……今さっき、道に放置してあったのを持ってきたのです。そ、それでは失礼しました……」

一見すると、まあ神々しさが感じられない……というのはユキメにその手の力がないからなのだけど、やっぱり少し派手な、普通の小太刀に見える。

だけどユキメには、それに何かの悪意が秘められているような、そんな気がしてならなかった。

(私のトリックスターの勘が、何かありそうな事を告げてるような気がする……)

けどそれを口に出すことなく、彼女は一般の人を見送る。

しばらくすると、今度は怒号のような悲鳴がした。

これもユキメには予想がついた。

以前から、チサトの運の悪さを何とかしようと思い、前に力のある神主さんにお払いを頼んでみたことがあったのだ。

そのときに、神主さんもこのような悲鳴を上げていたのだ。

その神主さんはチサトに脅え、「ワタシハナニモミテイマセン」とうわ言のようにつぶやきつづけていたり

正直、何が起こったのか気にはなったが、チサトが何も無いと言ったから、詮索は諦めることにした。

チサトはそんなことでは滅多に嘘を吐かない人だから

それから、色々なお払いを試してみたが、平然としていた神主はまるで効果があらわれず、脅えていた神主はお払いするのを断っていたのであった。

だからこそ、今回こそと思ってのお払いなのだが、ユキメはもうお払いは成功しないと諦めていた。

だったら、ユキメのやるべきことは唯一つ。 暇つぶしである。 「しゃーない。皆の所に行って、茶化してこようかな?」

その時、周りの空気が変わった。

霧が……立ち込めてきた。



◇5◇


再び場所を戻し、『イクサクニヨロズ』と『ITACO』と海里と浩二が集まるフィールドへと視点を戻す。

「さて、これから我々『ITACO』と『イクサクニヨロズ』で練習試合を行うのだが……」

妙に含みのある言い方で、郁夫が両チームに向けて話を進める。

「普通にやるなら、やはり我々と『イクサクニヨロズ』が分かれて試合をするのが無難だ。もっとも、ランダムでメンバーを決めて、ごちゃまぜにして試合をしてもいいと、私は思っている。だがここで、私はもっと面白い戦闘を希望する」

「ふむ、何だ?」

相槌を加えたのは、海里だった。

「それはバトルロイヤルだ」

ルールを要約するとこうだ。

まず全員でジャンケンをして、勝った順に隠れる場所を探す。

次に、浩二の試合開始の合図とともに、自分以外の敵を全て倒すために行動する。

そして、最後まで生き残った人物が勝者となる。

追加としては、試合開始から20分が経過した時点で、浩二がフィールドに行き、フラッグを設置する。

それを取っても勝者となるのだ。

ジャンケンの結果は、勝った順から美奈、明人、郁夫、瑠璃華、武、千春、修一、海里、麗奈、治、美紀、憐、秋彦だった。

憐と秋彦は、こんなところでも運がなかったようだ。

とはいえ、運にぶつくさ文句を言っても仕方ない。

美奈、明人……と順番に林へと入って行き、最後に憐、秋彦と入っていく。

試合開始は、あと僅か。

なるべく、試合開始と同時にヒットとならないように、浩二は時間をとる。

そうすれば開始前に、後から入ってきた人物が先に待っている人物にぶつかる前に相手に気づき、対処が可能となるだろう。

したがって、いきなりエンカウント、撃沈という流れを防ぐことが可能になる。

時間になった。

浩二は、郁夫から借りた合図を使い、笛の音を高々と鳴らした。

と、次の瞬間。

とぱぱぱぱぱぱぱぱぱ……。

「……」

エアガンの発射音が鳴り響いてしばらく後、やっぱり後から林に侵入するのは不利だったらしく、憐と秋彦がとぼとぼと浩二の下へと歩いていく。

「いきなり、『T』に背後からフルオート射撃食らったちまったよ……」

「憐はまだいい方だよ。オレなんて、美奈ちゃんだよ」

「あ〜あ。シュウに秘密兵器を持たせといたんだけど、アイツ上手く使えるかな?」

「前々から聞きたかったけど、アレで何をするつもりなんだよ?」

「それは、後でのお楽しみって奴だ。それより……」

今は、海里がフリーになっている最中だ。

彼女が何かをやらかすには絶好の機会である。

瑠璃華の陰陽術を使って警戒こそしているが、悪事を完全に阻止することは少々難しい。

憐自身も、いつでも飛び出せるように警戒を怠ってはいなかった。



◇5−修一(1)◇


ふむ、設置は完了か。

憐殿も、中々面白いことを考えるものだ。

流石は我らが軍師にして、参謀。

後は、これの成果を記録しておけばいいのか。

さて、後の問題は憐殿か……。

早まらなければいいのだが……。



◇5−瑠璃華◇


あたしは敵の位置を把握し、海里を警戒しながら絶妙な位置を探して動き回っていた。

秋彦がいつも、あたしの傍にいてくれているから感じなかったけど、一人の今は違う。

さみしい。

怖い。

心細い。

秋彦が傍にいてくれるときだけ、そういう負の感情が姿を消し、前向きな考えだけが残ってくれる。

やっぱり、あたしには秋彦が必要だ。

以前にも、ユキメさんの策略であたしと秋彦が離れ離れになったことがあったけど、そのときも今と同様だった。

……秋彦はあたしを必要としてくれてるかな?

もし秋彦が、あたしではなく他の女を必要としたら……。

そんなの、やだな。

ううん、こんなマイナス思考じゃあ、秋彦に嫌われちゃう。

秋彦はどうだか知らないけど、あたしは秋彦がいないと生きてはいけない。

そう、誇張抜きにして。

だから今は、秋彦に好かれる女性に――サバイバルゲームが強い女にならなきゃいけないの。

あたしは、あたしに背後を見せている……多分あれは『A』だと思う。

彼の背後を完璧にとり、ウージーの照準にあわせる。

ふとそのとき、あたしを恐怖に陥れた、あの声を思い出した。

あれは暗く、無機質で、嫉ましさと殺気であふれていた。

あのとき初めて、恐怖で胃の中のものをすべてぶちまけそうだった。

今、その感覚にとらわれたら、あたしは無事でいられるのだろうか?

秋彦のいない今、その感覚に耐えられるのか?

あたしのその逡巡が命取りとなっていた。

「フリーズ」

まったく意識していなかった状態ゆえ、あたしの背後を『C』がとっていたのだ。

暴れることも出来るけど、これは一人一人のフェアプレーが成すゲーム。

あたしは抵抗することなく、管理人さんのところへととぼとぼと歩いていった。

そこには、あたしの運命の人が待っていてくれた。

「惜しかったな、瑠璃華」

あたしは恥も外聞も関係なく、秋彦の胸へと飛び込んでいった。

こんな、ネガティブなあたしでも受け入れてくれる、あたしの命よりも大事な彼。

やっぱり、あたしには秋彦が必要だ。



◇5−修一(2)◇


……ふむ、来たのは三人か。

あれは……麗奈殿と赤木殿と木暮殿か。

我は隠れながら、銃を構え、獲物が罠にかかるのを待ちわびる。

我がこなすのは隠密、諜報活動が主な役目。

遭遇戦は、実戦ではない限り、あまり得意とは言えない。

確か麗奈殿曰く、遭遇戦をエゲレス語で言うと「えんかうんと」とか言っていたな。

そもそも、サーバゲィとやらはエゲレス語が多くて、我には理解できぬ点が多い。

麗奈殿に教わりながら調べてみたが、どれも日本語で対処できるものも多いだろうに。

……む、我としたことが、文句など言っても、何も始まらないというのに。

我が思案をしてる間に、三つ巴の三人が打ち合いをし始めた。

三者が三者、中々に実力者で、上手く遮蔽物を使い、びぃびぃ弾をかわす。

ただ弾を遮蔽物でやりすごすだけではなく、隠れる場所を随時変え続け、銃弾の的にさせない点も見事だと、我は思う。

しかし、今の我には強力な支援が存在する。

我はにやりと笑い(少なくとも、我はそのようにしたのだが、周りはあまり表情が変わっていないと言っていたが)、一本の糸を思いっきり引いた。

次の瞬間、数百にも及ぶびぃびぃ弾が、雨のように彼らのいる辺りに降りそそいだ。

「な、何ですのー!!」

「ひ、ヒット……」

「ちくしょー、誰だよー!!」

憐殿が購入した秘密兵器とは、強力な大型散弾銃であった。

以前の大会で、憐殿たちと分かれた際に対決したティムも、似たような兵器を使用していたが、今回は少々赴きが違う。

銃器というのは、やはり何回も撃てるのが強みである故、このような兵器でも二、三回は撃てなければ厳しい。

一発屋、というわけにはいかないのだ。

しかし、これはまさに一発屋専用の……確か憐殿が「ばずぅか」とか言っていたな。

我が上手くこれを設置し、離れたところから手動で設置させられるように、迷彩色の糸で仕掛けをつくる。

あとは、ここを離れて人が来たときに放つだけだ。

罠というのは、二度も三度も通用する代物ではない故、一発で大きい効果が得られればいい。

憐殿が説明書を熟読し、武器を放置することが反則でないことを知り、憐殿が考え出した凶悪な策略だ。

……まあいつ禁止になるやも知れぬが、上手く規定の網を抜ける策略を考えたものだ。

我は、憐殿が用意してくれた秘密兵器を使用し、それの効果も調べ終わり、安堵していた。

が、それは大きな油断と繋がっていた。

「フリーズ!」

むぅ、油断した。

このように、近距離で言われた時点で対処できぬと判断したら、もうこの場にはいられぬ。

そう、秋彦殿に教わったので、我は銃から手を離し、両手を上げた。

一応、我の背後を取った人物に興味が湧いたので、後ろを振り返ってみる。

「……来栖殿」

「……」

来栖殿は迷彩服を着こなし、隙の無い目で見つめる。

そして、来栖殿はにやりと笑みを浮かべた。

「来栖殿?」

その時……。



◇5−美奈◇


私は、ジャンケンで一番で、最良のポイントでアンブッシュしていたのにも関わらず、最初の秋彦君以外は誰も私のところに来なかった。

ずっと待っていても、多分問題ない。

基本的に、サバイバルゲームって根気のゲームだって考えてる。

槍術だってそうだ。

得物が互いに長い戦いなだけあって、迂闊な動きは即敗北につながる。

大胆な動きが出来るのは、相手がよっぽどの素人か、手がどうしても詰まってしまう達人クラスの相手だけ。

私のオリジナルである美亜子は、言わば光。

対して私は影。

性格も、明るい美亜子に対し、私は根暗で内気。

全てを持っている美亜子に対し、全てを失った私。

常に、私は美亜子の影に隠れていた。

……でも、表に出ることが本当にいいことなの?

影に隠れていても、いつか花開くことだってある。

影にいるからこそ、見えてこないものだって見えてくる。

だから私は、美亜子とは違って隠れて敵を待つ。

ただ敵と真っ向からぶつかる猪突猛進の美亜子とは違うから……。

「!」

私は、後ろから近づいてくる敵の気配を察知した。

もしかしたら来栖さん、もしくはその仲間の怪人かとも思ったけど、一般の人みたい。

気配を弱めて近づいてはいるけど、消しきれてはいない。

これが修一君やユキメさんなら、完璧に消しきって、攻撃の瞬間までよけられないかもしれない。

……と、他人と比べてもしょうがないよね。

私は即座に敵の方を向き、コルトを構えた。

向こうも私が反応したのに気づいたようで、少し私との距離はあるけどエアガンを乱射する。

……相手は三井さんね。

やっぱりあの独特とも言える巫女衣装は目立つ。

私も迷彩服とはいえスカートだから、似たようなものだけど。

当然私も応戦するけど相手もさるもの、中々隙を見せてはくれない。

互いに打つ手がないものと知ると、今度は今までのドンパチとは真反対に、静けさが漂ってくる。

所謂、千日手(サウザントウォーズ)というやつだ。

実力が拮抗したもの同士だと、互いに手を出せず、千日以上続くことからその名がついた……かどうかは定かじゃないけど。

だけど、千日手は拮抗した状態で発動するものであって、ちょっとでもそれが崩れたならば話は別。

そう、第三者の介入があったのだ。

『O』が、私たちに向けて銃を乱射すると、私たちは互いに間合いを計りながら、適当な遮蔽物へと身を潜めた。

しばらくすると、銃撃も止む。

そうなったら先ほどと同じ千日手だ。

下手に動けば、私が的になるだけ。

果報は寝て待て、という諺が示すように、こういうときはただ待つのが一番。

……まあ美亜子ならここは突撃するかもしれないけど。

膠着状態から約一分が過ぎたとき、三井さんと『O』が妙な動きを見せ始めた。

先ほどから二人は妙に足をトントンと踏んでいるんだけど、今さっきそれが一定のリズムを刻んでいることに気が付いたのだ。

ととととんとんとんとと……。

とんとんとととん……。

憐君なら、きっとこれは何かの暗号だ、とか言うんだろうなぁ……。

……暗号?

……もしかして?

……結託デスカ?

悲しいかな、女の勘ってこういうときには当たるものなんだよね……。



◇6◇


「……結局」

「……全滅だね」

「……」

「わたくしだけが生き残る予定でしたのに……」

「いきなり相手が美奈ちゃんだもんなぁ……」

「やっぱ、秋彦と一緒がいい……」

「サバゲーとは、難しいものだな」

青森県代表の座を勝ち抜いたにも関わらず、一同は勝ち残ることが出来なかった。

憐と秋彦は、試合開始数秒で散った。

美奈は相手に結託されて撃沈。

修一は海里にフリーズコールをされ、その海里もその直後撃たれて倒れた。

麗奈は修一の罠にかかり、瑠璃華はフリーズコールで敗北。

何と言うか、課題が大量に残る試合であった。

「……?」

ここで急に、麗奈が辺りを見渡し、眉をひそめた。

「如何した、麗奈殿?」

「……『ITACO』の方たちも、いくらかは撃墜されたと思いましたけど、姿が見えませんわね」

麗奈の言葉を不審に思い、一同は麗奈につられて辺りを見渡した。

確かに麗奈の言葉どおり、『ITACO』のメンバーの誰もがいない。

それに加え、ずっとその場にいたはずの浩二すら、ここにはいなかった。

山の天気は変わりやすい、という言葉があるように、辺りには霧が立ち込めてき始め、視界が悪くなったのも原因の一つだろうと、最初は誰もが思った。

しかし、霧が発生し始めたのは、皆の記憶では僅か数秒前の出来事であるにも関わらず、今では僅か数メートル先までしか視界が存在しなかった。


コロス……。


「嫌ァァァァァァァァァァァッ!!」

「瑠璃華っ!!」

この前に続き、瑠璃華に「あの言葉」が瑠璃華の心を蝕む。

まるで瑠璃華にだけ向けられたような、耐え難い殺気。

瑠璃華は殺気に、信じられないような鋭敏さで反応してしまう。

瑠璃華は力を失い、とんび座りで頭を抱え、大粒の涙をとめどなく流して身体を震わせる。

「またかよ!」

憐は瑠璃華の狂態に、思わず舌打ちをした。

彼に、そして瑠璃華を除く皆にも、瑠璃華が何故このような状態になるのか理由がわからないから、当然なのかもしれない。

とはいえ全員の仲間意識か、憐たちは瑠璃華にかけより、心配そうに彼女を見ていた。

……一人を除いて。

かちゃりという、重々しい金属の音が、憐たちの鼓膜を響かせた。

音源の方を振り向いたその先にいたのは……。

「来栖……貴様……」

憐は思わず呟く。

「悪いな。これが私の選んだ道だ」

エアガンに似てはいるが、それより遥かに重々しいモノを憐たちに向け、海里はにやりと笑った。

片手で本物のデザートイーグルを構え、冷徹でありながら確固たる意思を宿した瞳で、憐たちを見据える。

左手は、腰の辺りで握り拳を作り、親指だけが立てられている。

そんな海里の反乱を、憐は一笑に伏した。

「お前こそ、自分のしていることがわかってるのか? 俺たちは六人。対してお前は一人。しかも俺たちはお前が思ってるほど弱い存在じゃあないぜ」

海里との距離は多少存在し、憐や美奈のような近接攻撃をするには距離が開いている。

とはいえ遠距離型である秋彦は瑠璃華を抑えるので手一杯。

しかし憐だって、遠距離がまるで駄目、というわけでもないのだ。

憐は海里に見えないように、自らの愛刀“吉祥天”の存在率を引き上げ、それを手に収めた。

そしてそれを鞘から引き抜き、自らの必殺技の一つである『氷刃投射』を放とうとした、そのときだった。

修一と麗奈が無言で前に出、憐の動作を中途で止めさせた。

「お、おい。シュウ、麗奈!」

憐が二人の行動を諫めようとするが、二人は聞く耳を持たない。

修一はいつもの仏頂面で海里を注視し、麗奈はどことなく不敵な笑みを浮かべていた。

「……修一先輩、麗奈先輩」

二人が前に出たとき、海里の目がどこか悲しげなものへと変化する。

すると一旦、憐たちに狙いを定めていたデザートイーグルを狙いから外し、それを持っていた腕を、自分のもう片方の手首へと移して、その手首を銃を持ちながら掴んだ。

視線は、二人を見ることが出来ないのか、逸らす。

一般的に見れば好機と言い切れるタイミングで、今自由に動ける憐と美奈は飛び出そうとしたが、先ほどと同様に修一と麗奈に諫められた。

「……これが私の出した答えだ」

海里の言葉と同時に、視線を再び憐たちへと戻し、彼女の持つデザートイーグルの照準を彼へと合わせた。

それとほぼ同時に、空いた手で自らを親指で指した。

そして人差し指は、修一と麗奈を向いている。

これに修一と麗奈の眉が、ぴくりと動いた。


ここで憐は気づいた。

一人で俺たちに立ち向かうなんて、わざわざ俺たちに殺されに行くようなものだ。

そういえば、アイツには仲間が……。

彼は戦略的に考えるが故、危機に気づいた。


ここで美奈は気づいた。

……殺気?

自分たちにある強烈な殺気に。

彼女は戦乙女であるが故、殺気に敏感であるが故に気づいた。


ここで秋彦は気づいた。

瑠璃華は、海里がいたときにはこれほど強烈に反応しなかった。

大体、海里が殺気を放っていたと仮定すると、“武器屋”の反応は明らかにおかしい。

では第三者が存在する?

彼は瑠璃華を思うが故、推測できて気づいた。


ここで瑠璃華は気づいた。

海里と一緒にいても、こんな殺気は存在しなかった。

そして自らの心に、ダイレクトに伝わる殺気。

この感覚は、覚えがあった。

感じたことがあるが故、その正体も彼女には理解出来た。

彼女が彼女であるが故、気づいた。


そして修一と麗奈は……。

海里を最後まで信じたが故、彼女の意図に気が付いた。



◇7◇


海里が引き金を引くと同時に、全員が横っ飛びにして動いた。

それと同時に。

『火遁!!』

「虎爪弓!!」

修一と麗奈は、自分たちの真後ろにいる“本当に海里が狙いをつけていた相手”に向けて、自らの技と武器を放った。

しかし。

『金剛障壁』

海里が放った銃弾も、修一が放った火球も、麗奈が放った矢も全て、縦にせり上がるようにして出来た金属の盾によって防がれてしまう。

聞きなれた声で、見慣れた技で……。

憐をはじめとし、一同が驚いた目で美奈を見つめたが、彼女も目を丸くさせて驚いていた。

金属の盾で見えないが、その先にいるであろう相手に対抗するため、各々が自らの武器を取り出す。

瑠璃華は未だに脅えたままだ。

まだ金属の盾によって視界が阻まれ、相手を見ることは出来ない。

だけど彼らにはその相手は容易に予想が出来た。

想像したくなかった。

出来ればここを早々に立ち去りたかった。

だけど、怖いもの見たさというやつか、彼らの足は地面に縫い付けられているように、動かなかった。

金属の盾が、唐突に、粉々となって消えた。

そこにいたのは……。

「直江輪……」

「本多……美亜子……なの?」

「淳二……か」

「広奈……ですのね」

「……春樹」

瑠璃華と海里を除いた五人が、各々呟いた。

否、呟くことしかできなかった。

「あはははは……!! 愚かね、怪人作成怪人。あたしたちに泣きついて、あたしたちの主様に許しを請えば見逃したものを」

本多美亜子が、タカビーな雰囲気を纏いながら海里に“蜻蛉切”を向けながら語りかける。

対する海里は、かわいい顔が台無しになるくらいに強く、歯をぎりっと鳴らす。

「ふざけるなっ!! さっきも言ったように私は、一度私を裏切った奴に尻尾を振る気はない!! それに、私の居場所はここだ!! 人形風情が、いい気になるな!!!」

普段は、見かけのかわいさとは裏腹に冷静そのものの海里だが、このときは激しく激昂しているのが明らかだった。

憐たちにとっては珍しい光景に驚きを隠せない。

「来栖殿、こ奴等の説明を頼む」

「……わかりました、修一先輩。奴らは魔王クラーマの作り出した……貴方方とは違う、完成された偽者です」

「この子の言う通りよ、淳二」

ふふん、と笑みを浮かべながら、偽美亜子は修一を見下した。

「……我をその名で呼ぶな」

修一も普段は仏頂面で寡黙なのだが、このときは状況が違ったのか、修一の表情にいつもの鉄仮面は存在しない。

「ふん。人形が修一先輩を挑発とは、滑稽もいいとこだな。本性を現したらどうだ?」

修一を見下されたのが相当海里のカンに触ったのか、海里が偽美亜子を見下すように話しかけると、先ほどまで表情が高笑いしていた偽美亜子の表情が変わった。

まるでプログラムにインプットされているかのように、急に偽美亜子の表情が消え、まるでロボットのように無表情となった。

この変貌ぶりに、何も知らない憐たちは驚かされるばかりだ。

「……クラーマ様の命令により、お前らを殺す」

「お前らに成り代わるため、お前らを殺す」

「成り代わり、センゴクマンを殺すため、お前らを殺す」

「失敗作は排除する」

まるで感情のこもっていない声。

ただ無機質に響き渡る、偽者たちの声。

でも自分たちと同じ声なだけあって、憐たち全員がしかめっつらをせざるを得なかった。

「我々と仇なす“双剣”のユキメ、“神殺し”のチサトも排除する」

「「「「「「「!!」」」」」」」

憐たちは、恩人二人の名前が出た時点で、思いは統一されていた。

負けられない……。


チサトはただ、薄暗い部屋の中で仁王立ちしていた。

部屋の隅では、怪我を負った『EBI−SU』と『HUKUROKU−JU』と『JUROU−ZIN』が、何かを言いたそうに口をぱくぱくさせているが、結局何も言うことが出来ていない。

そしてチサトと相対している人物は『DAIKOKU−TEN』。

彼は御神刀を抜き身で持ち、目を血走らせている。

「くくく、“神殺し”のチサトよ。今まで我が同胞にしてきた仕打ち、今ここで晴らさせてもらう」

『DAIKOKU−TEN』の口から発せられた言葉だったが、まるで別人が喋ったかのようなしゃがれた声で、チサトに話しかけた。

まるで、御神刀が『DAIKOKU−TEN』を操っているかのように……。

そんな様子を、チサトはどこか懐かしさと寂しさを秘めた目で見つめていた。


ユキメはただ、その状況を理解していただけだった。

いや、それだけしか行動を起こせないのだから、本当は理解できていないのかもしれない。

彼女の前に立つのは、黒い髪の、泣き黒子(なきぼくろ)が特徴的な妙齢の女性。

ユキメ自身も、彼女によく似た女性と対面したことがあるだけに、苦笑せざるを得なかった。

「……最低」

ユキメの前に立っていたのは、偽者とはいえ、立花なつめその人だったから。


後編に続く


次回予告

「全てを捨ててでも、負けるわけにはいかなかった。
全てを捨ててでも、彼らに何かを残さねばならなかった。
圧倒的な力の前に、救いの手が差し出される。
そして彼らは未来への希望のために戦う。
例え後に絶望が待ち構えていたとしても。
次回いつわりのものたち第十一話「イクサクニヨロズ強襲(後編)」

未知なる力を引き出し戦え『イクサクニヨロズ』」


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