Mituyaさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
偽りのものたち
第八話
| 「イクサクニヨロズ日常」 |
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愛「一人の少女は、父を殺されてまでも、少年とともに生きようとした!」 ユキメ「そんな彼らは、自らの国を捨て、異国へと旅立った!」 愛「そこで出会うは外道王!」 ユキメ「可変型の肉体を持つ、自称外道王の娘!」 愛「耳長釣り好き青年!」 ユキメ「無準備ピックを使うドワーフ!!」 愛「そして彼らは、彼らの前から姿を消した外道王を探しに旅に出る」 ユキメ「そんな彼らに待ち受ける運命とは!」 愛「請うご期待!」 チサト「……」 ユキメ「あれ? ツッコミがない」 チサト「一応PRですから。これならあの方も満足していただけるでしょう」 愛「いぇーい!!」 ユキメ「やったぁ! 大・成・功♪」 チサト「ええと……画面を見るときは部屋を明るくして、なるべく離れて御覧ください」
彼らの、日常の中の非日常、そして人生という名の“せんとう”をとくと御覧あれ。
ここは貸しアパート『むつ』の203号室こと、美奈、麗奈、瑠璃華が寝起きする部屋。 「ふわぁ〜〜っ……」 間の抜けた欠伸とともに、まず目を覚ましたのは美奈。 東北大会から数日、美奈は早朝の朝練を日課としていて、今日もそのためだ。 早朝だから人通りも少ない道路を、身だしなみはお座なり程度に仕上げ、得物を虚空に振り続ける。 その姿は戦乙女というより、踊り子というべきだろう。 そんな、華やかで鋭い美しさを誇っていた。 日本海から流れ込む寒気が、運動によりほてり始めた美奈の肌には心地よい。 「おはよ。朝から熱心だな、美奈」 「うむ」 美奈の背後から聞こえた声は、彼女には聞き慣れた声だった。 「憐君、修一君……」 美奈は一応、声だけはかけておくが、得物を振り続けることはやめていない。 普段なら、憐と一緒にいるだけで顔を真っ赤にすることすらある美奈なので、彼女を知るものがいたら、少し驚きを見せることだろう。 とはいえ憐と修一は、彼女の元となる本多美亜子の存在を知っているからこそ、むしろ今の美奈の行動のほうが普通なのだが。 しかし美奈の性格から考えると、少々の驚きはある。 「それほど、チサト殿に勝ちたいのか?」 「うん」 修一の質問に対し、それはもうキッパリという言葉がこれほど似合うのかという程、はっきりと答えた。 憐と修一は、思わず閉口してしまう。 そして閉口した後、憐と修一は目を合わせて苦笑してしまった。 「ったく、俺たちが手合わせしてやるよ」 「一人で鍛錬するよりは、効率がよかろう」
「あ、あいつ、強すぎだろ……」 「乙女の一念、岩をも……という奴であろう」 アスファルトに倒れ伏せる二人の姿があったという。
憐、修一、秋彦側である202号室のキッチンで、鼻歌混じりに朝食を作る少女がいた。 オリジナルより目つきが鋭くなっていて、その特徴的な縦ロールという髪型の少女といえば、ご存知(?)武田麗奈である。 ちなみに、目つきが鋭くなっているのは、修一、麗奈、秋彦の三人。 残りの三人は、オリジナルより目が優しげになっている。 「こんなものですわね」 昆布と鰹節でダシをとった味噌汁をすこしすすり、麗奈は満足そうに口の端を吊り上げた。 その後も、麗奈は修一と共にてきぱきと朝食作りをこなす。 「れいちゃん。あたしたちも手伝うことはない?」 「いいえ、お断りしておきますわ」 このメンバーの中で、調理をこなせるのは麗奈だけである。 とはいえ麗奈も、食事作りをこなせるようになったのは、ここ最近のことだ。 元々天才肌だし、本人がお金を節約したかったので、彼女が担当することになったのだ。 実は節約のために料理をすることを考えたのは、麗奈が初めてなわけではない。 しかし、一見料理が作れそうな女性陣の美奈や瑠璃華は、男性陣に劣るほどの料理下手であった。 二人とも、料理を作れば調味料がなくなるのは当然。 時には、フライパンが消失することすらあるくらいなのだ。 彼女らが作る料理は、結局微生物も分解しない、産業廃棄物と成り下がっていたりする。 一度、試しに食べてみた秋彦は、一週間意識不明だったそうな。 それはともかく、麗奈は料理の見栄えを良くするために、綺麗に盛り付け、机へと運んだ。 それにならい、修一も御飯をよそってくばる。 二人が席についたところを見計らい、全員は一斉に口を開いた。 「「「「「「いただきます!!」」」」」」 その言葉さえ言ってしまえば、各々が自分の意思で好きなものを箸で取ったりする。 「あっ、それは俺が狙ってた奴!」 「ふっ、憐殿。そのような意識では、戦場は生き延びられぬぞ」 「はい秋彦。あーん」 「ああ。もぐもぐ」 箸でのバトルをこなす憐と修一と、新婚夫婦みたいな事をやらかす秋彦と瑠璃華。 そして一人で静かに納豆を回し続ける美奈。 「はぁ……マナーもくそもありませんですわね」 とは言ったが、麗奈はこんな、騒がしいけど楽しい食事が大好きだった。 かつて、麗奈が広奈であった頃のことを思い出すと、こんな光景は考えられない。 そんな感慨に浸りつつ、呆れながらも麗奈は表情をくずす。 「にしても、麗奈殿の食事はうまいな。これなら、良き嫁になるであろう」 ごふっ……。 修一の思いもよらぬ発言に、麗奈はごはんを吹き出した。 ちなみに御飯の粒は、彼女の真正面に位置する秋彦に、全弾ヒットしていたりする。 「な、な、な、何を急に言い出すの!!」 「言葉のとおりの意味だが? さぞかし、結婚相手は幸せであろうな」 「そ、そんなこと、修一に言われなくてもわかってますわ!!」 「ふむそうか。いらぬことを申した」 「……別にいいですわよ。おーっほっほっほ……」 ちなみに、麗奈に彼氏はいない。 彼女の威圧的な態度と、露骨に性格の悪そうな髪型が影響して、男性からの注目度が低いのである。 麗奈は、そのことを知りながら、縦ロールをやめようとはしない。 彼女の美点は、彼女が慕っている人にだけ通じればいいのだから。
そう、真田修一には天敵とも言える授業であった。 初めのうちは、訳せと言われれば、意味のわからない発言ばかりが先行するし、普通に呼んでも、発音などがボロクソと言えるレベルであった。 彼という意味を持つheという単語を、火と訳すことは日常茶飯事。 何と言うか、中学生が覚えるような単語すら使えないのだ。 読むだけでも、これまた駄目。 『Which do you like tea or coffee』とかいう単純なものでも、彼は。 「イッチードウヨウリーク、テーオゥワカッピー」 こうである。 当然意味なんか、わかってるはずもない。 もう、何の言葉なのかも不明なレベルである。 他の成績は平均以上をたたき出していることだけが、唯一の救いかもしれない。 ちなみに小テストは、英語だけならダントツのビリであった。 この学校は成績による留年は、補習を受けることによって免れるのが幸いだろう。 ……まあどうであれ、英語教師たちは修一の英語力のなさに、ため息がつきないのだが。 だがそんな英語教師でも、楽しみが一つだけある。 「ではここ、修一に訳してもらおう」 無論、断る理由がない修一は、無言で席から立ち上がり、こう言った。 「我は……名探偵コーナンのコスプリャーをしたいと思い……生地等の材料を集めに走る羽目になった。……しかし出来てしまったのは……未来少年コーナンとやらのコスプリャーであった。……しからばと思い……念のために着てみたのだがこれが我に良く似合う。……それゆえ……有明の海へと旅立とうと申した? ……申したのだが……そこは兵たちの戦場であったのだ。……右を向けば「師匠ぅぅぅぅぅ!!」と言う青年がおり……左を向けば「この、馬鹿弟子がぁぁぁぁ!!」と語る老人あり。……我も負けぬと「犯人はこの中にいる!」と言ってみたのだが……未来少年コーナンのコスプリャーでは意味をなさぬ。……だがその言葉は虫を三つ書いてオムー……そんな名前のコスプリャーが大量に押し寄せて……我は「森が、森が怒っている……」と呟かざるを得なかった。……それを見たとある青年はこう語る。……「そのほうがいいんじゃよ」……我には何の笑い話だかはわからなかった……」 この、大きく内容の違う翻訳を聞くのが、英語教師には唯一の楽しみだった。 「そしてここで……視点は移る。……青い姿の青年が「な、何の冗談だ!?」と語り……の○太のコスプリャーをした……青年に文句を言っていた。……の○太の不当な命令に……拒絶反応があったのだろうか……ハルカですら顔をしかめたのであった。……ジュンアンは「の○太のくせに生意気だぞ〜!」といいながら……ハルカのスカットをめくり、それなのにハルカは「の○太さんのエッチ!」と言ったのであった。確かに青い姿であるナオえもんのコスプリャーをした青年が言った台詞も……我にはよくわかる……」 修一は、英語が苦手だ。
古今東西……ではなく、日本中のいつでもどこでも、学生たちがグループごとに集まって実験をする光景はまったく変わらないであろう。 そして、真面目に積極的に率先して取り組む者、真面目にやりたいながらも積極的には取り組めない者、授業の一環なのでしぶしぶ取り組む者、そしてまったく真面目に取り組まない者と、人間に関しても同様だ。 その中で、秋彦は間違いなく真面目に取り組む部類に入っていた。 秋彦は根が生真面目で、麗奈ほどではないが努力家だ。 というわけで、器具を片手に観察をしている秋彦なのであった。 一応彼のグループである人たちは、そんな秋彦に従って行動し、観察していたが、そんな中でつまらなそうにしている人物が一人いた。 明智瑠璃華、その人である。 文系だというわけではないし、むしろ理系に関しては天才的な彼女である。 だが天才であるがゆえ、このような初歩的なことに関しては赤子の手を捻るより簡単なので、非常に退屈なのである。 だから瑠璃華は、少しの手伝いだけして、ただじっと秋彦の行動を観察する。 恋人が積極的に行動し、皆を引っ張っていく、そんなたくましさを見ているほうが、彼女は好きだ。 秋彦が皆に頼りにされていることが、彼女にとってもうれしいのだ。 しかし。 「……こっちを見てないで、授業に参加しろ」 秋彦にとっては、痛いほどの視線で、落ち着かなかった。 「だって、この程度の実験やる必要がないくらい、あたしが頭良いってこと、秋彦も知ってるでしょ? 何てったって、あたしは師匠の弟子だからね」 「あのなぁ、一応授業態度も成績の一つなんだぞ……」 「それもそうだっけ。それに、秋彦たっての願いじゃあ、しょうがないよね」 秋彦たち以外の生徒は、こんな二人のバカップル……もとい、恋人同士のやりとりを見て、またか、とか思っていた。 二人が一緒に登校してきた当初から、こんな感じである。 常識的な秋彦が、どことなく他人の目を気にしながらも、瑠璃華にはどこか甘い態度で、時には少し厳しくしたり。 瑠璃華は対照的に、他人の目を気にすることなく秋彦にべったりで、朴訥気味に秋彦の言葉を信じる。 もっとも、瑠璃華は転入してからしばらくは、学校を無断欠席していたのだが、それは余談である。 そしてその期間の終わりに、秋彦と瑠璃華が付き合い始めたのだが、それを今は語らないことにしよう。 瑠璃華は手馴れた様子で、薬品を混ぜていく。 瑠璃華はその手の実験には、一日の長があるだけのことはある。 そんな恋人に満足したのか、秋彦は瑠璃華から目を離し、実験に集中してしまったのであった。 そしてその間に瑠璃華は、これまた手馴れた手つきで、余って使わなくなった材料をかき集めて、それをぶつぶつと呟きながら混ぜていた。 だが合成に失敗したのか、突然不満気な顔になり、おもむろに廃液を排水溝へと流し込む瑠璃華。 結果、起こるべくして、事件は起こった。
先生は落ち着いて話をしたのだが、生徒たちは慣れない状況下ゆえにぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていた。 化学室の床は一面水浸しで、足を入れれば足首まで浸かってしまうだろう。 しかもその部屋は地下にあり、換気は出来ても排水はできないことも状況悪化を手助けしていた。 何故そのようになったのかの理由は、いたって簡単。 水道管の破裂である。 ではなぜそのようになったのか? それも、現場に居合わせていない人が乱入しても、一目瞭然であった。 何せ、瑠璃華の近くにある排水溝や水道管の残骸が、妙な焦げと共に存在したからだ。 ……彼女の名誉のため、多くを語るまい。 「明智君。君はわしについてきなさい」 「……はい、怪盗二十……もとい、先生」 苗字で呼ばれたことに腹を立てた瑠璃華だったが、このときばかりは露骨に反論できなかった。
いわゆる、メシ時、という奴である。 秋彦は、いつも食事は保健室で取ることにしている。 なぜそうするかというと、その原因は瑠璃華にあった。
「……」 「おいしい?」 「……ってこれ、麗奈ちゃんが作ったのでしょうが」 「そうだけどさ。で、おいしい?」 「何より、視線が痛い」 今の台詞でわかる人はわかるだろうが、秋彦が瑠璃華に食べさせてもらっているのだ。 まあそのくらいなら、まだ許容範囲である人もいるだろうし、他の生徒たちもそうだったかもしれない。 だがそれ以上に、衝撃的な光景が、秋彦と瑠璃華の間に繰り広げられていたのだ! それは……瑠璃華が秋彦の膝の上に、横になって乗っかっているのであった。 自分の膝の上に超のつくほどの美少女が乗っかっており、お弁当を食べさせてくれるというシチュエーションは、世の男どもが夢にまでみる光景であろう。 だが実際目の前でやられれば、男女問わず、間違いなく引く。 秋彦は、そんな瑠璃華の行動に辟易はしていたが、突き放すような真似は出来なかった。
秋彦は、慣れた様子で保健室の扉を開いた。 それと同時に、秋彦の鼻に、強烈なコーヒーの香りが漂った。 耳に飛び込む音は、格闘ゲームの効果音。 「秋彦か」 口に含んでいた白いモノを指の間に挟み、高いとも低いとも捉え難い、中性的な声で秋彦を呼んだ。 「アネゴ……それともアニキ?」 「好きに呼べ」 「じゃあアネゴ」 この人は、生徒たちの間でアニキとかアネゴとか呼ばれる、本名を長巻飛鳥(ながまき あすか)という保健の教諭。 長い髪を、首の後ろで無造作にまとめて、保健の教諭らしく上着として白衣を着ているので、一見しても長髪の男だか男勝りの女だか区別はつかない。 だが性格は、保健の教諭らしからぬものであった。 保健室で喫煙はやらかすし、趣味の一つであるゲームまで持ち込むし、何より教師らしくない口調である。 さらに、生徒に対しても気を置くことなく、非常に不躾な態度をとることが常であった。 しかしその教師らしくない態度は、逆に生徒を惹き付ける要因となり、何気に人気のある先生だ。 コーヒーを奢ってくれたり、ここに来てゲームをするのも黙認したり、何より生徒と同じ目線に立った態度をとってくれるので、この人は慕われているのだ。 「アニキ。喫煙だけはやめてくださいよ。生徒としてのいち意見でもありますけど、他の先生方だって、いい目で見てないんですから」 「わかっているさ。大体、これはハッカだ」 と言うと、飛鳥は再びタバコを模したハッカを、タバコと同様に口に含んだ。 「それに私は、今禁煙中でな。何とかタバコをやめようと、新たな嗜好品を模索中なのだ」 「……で、このやったら匂うコーヒーですか?」 「ふむ、察しがいいな」 (これだけコーヒーの香りが漂ってれば、わかりますって……) 恐らく、よっぽど鼻の利かない人でなければ、この強烈な程の匂いに気づかない人はいないであろう。 「それより、お前一人とは珍しいな。相棒はどうした?」 「そうだな。我も思うが、秋彦殿一人とは、これまた珍しい」 飛鳥の声を補足するように、独特の口調を持つ男子高校生こと修一が、テレビの画面から視線を振り返らせず尋ねた。 「ああ。瑠璃華は化学室で爆発起こしちゃって、今、反省文書かされてる」 その、常識を遥かに逸脱した返答に、保健室の空気が固まった。 飛鳥は、こんな性格でも常識人なのか、今にもずっこけそうな表情で呆れかえっている。 修一は画面を見続けているので表情はわからない。 秋彦は、この固まった空気に気後れすることなく、弁当片手に、テレビ画面が見える位置へと向かう。 画面はちょうど、キャラの選択のときだったようだ。 「にしても、修一がここで格ゲーをするなんて、ちょっと意外だね」 「我とて、我らの中で格ゲィ最強と呼ばれる美奈殿に、負けっぱなしというわけにはいかぬからな。真夜(まよ)殿と練習しているのだ」 真夜は、学ランを着た、黒子研究部所属の高校生である。 いや、それだけならいいのだが、黒頭巾を常に装着し、黒手袋、黒靴下(足袋ではない)という装備で黒ずくめなのだ。 これで両手に人形なら、今流行りのお笑い芸人、マペットパペットそのままであろう。 なお、真夜の素顔を知るものは、片手の指の数もいないという、眉唾物の噂があったりする。 少なくとも、生徒の中には存在しないそうだ。 修一と真夜が、キャラを選択し終えた。 修一はジュンジというキャラを、真夜はブラック・サンダーというキャラを。 「アネゴ。よくブラック・サンダーだしましたねぇ。なかなか40万点なんて取れないし、CPUが無茶苦茶強いって聞きましたよ」 「確かにな。40万点っていうボーダーには、私も苦労したな。だがCPUは、コツさえ掴めば何とでもなる。あと、これがブラック・サンダーの技表だ。マイキャラのユキメもあるがな」 そうこう言っているうちに、ジュンジとブラック・サンダーの戦いは始まった。 ジュンジはとにかく間合いを詰めようと、煙幕を張りながら、間合いを詰めていく。 対するブラック・サンダーは、逆に間合いを取りながら戦いを運んでいこうとする。 有利なのはブラック・サンダー。 全体的な隙の少なさと、相手のガードの崩しやすさで、ジュンジの体力を奪っていった。 だが。 「あ、気絶した」 一瞬の隙をついたジュンジがラッシュをかけ、秋彦の言葉どおりに気絶を貰ったのだ。 あとは、超必殺技を食らってジ・エンド。 「……!」 真夜は、無言で何かを叫んでいるようだ。 「我も驚いたな。あれしきのことで、ブラグサダーとやらが気絶をするなどと」 「そっかー。性能が良くても、気絶耐性が低いんだ」 「……」 「連続技を知らない? って言われても、オレたちだってブラック・サンダーの技はよく知らないよ」 「……」 「だな」 ちなみに、真夜は一度たりとも喋ってはいない。 だが修一と秋彦の二人は、まるで真夜と会話しているかのような、スムーズなコミニュケーションが取れていたのであった。 「……いつも思うが、何で真夜の言いたいことがわかるんだ?」 飛鳥は、不思議そうに修一と秋彦の二人に尋ねる。 しかし、返答は予想しなかった……というよりは望んでいた返答とは大きく違っていた。 「……なんとなく、かな?」 「憐殿、美奈殿、麗奈殿、瑠璃華殿も、真夜殿の言いたいことを理解出来るゆえ、誰にでも出来るようなものだと思っていたが、アニキ殿、違うのか?」 「……当たり前だ」 「我々だけなのか、真夜殿?」 「……」 修一の言葉に、首を縦に振る真夜。 果たして、『イクサクニヨロズ』のこの能力は一体何なのか? そして真夜の素顔とは!? 次週をお楽しみ……。 「って、まだ終わってないんだから、勝手に終わらせるな。大体、意味のないフラグを立てるな」 秋彦の言葉どおり、続きは十数行後。
「ごめんごめんれいちゃん。購買で、予想以上に死闘を繰り広げちゃって」 「でも何とか、生ハムメロンパンと、ハヤシパンと、白チョココロネをゲットしたんだよ」 ここは、二年一組の教室の一角。 麗奈とその友人、英子(えいこ)と美子(よしこ)が、昼食風景を繰り広げようとしていた。 ちなみに、もう一人の友人、志衣(しい)は本日、風邪で病欠である。 「……大体、そのまずそうな名前のパンは何ですの?」 「えー、おいしそうじゃない。学校でも1、2を争う名物パンで、これを手に入れるために、毎日のように重傷者が出るくらい人気なんだから」 ちなみに、飛鳥教諭の平穏っぷりを見た賢い読者ならわかると思うが、今日は重傷者が出ていない。 軽症者なら頻出したのだが、それくらいは自分で対処する人ばかりであった。 もとよりこの件に関しては毎日のことなので、重傷者で無い限り、飛鳥は関与するのを拒絶したのであった。 「それにれいちゃんはわかってない!! 白チョココロネは、チョコの代わりに白チョコが入っていて、ビターな味わいが、深みのある甘味へと変わっているんだから!!」 「……それはいいのですけど」 「そしてハヤシパンは、ハヤシさんという人が作成した、カレーパンのカレーがビーフシチューに代わった物で、牛肉が入っていた場合は超ラッキー!!」 「……それなら、ビーフシチューパンにすればいいと思うのですけど」 「最後に生ハムメロンパンは、その名の通り、メロンパンに生ハムが乗っかった、絶妙な仕上がり! 時々、生ハムが腐って、腹痛を起こすのが玉に瑕よ。何て素敵な粗悪品♪」 「……」 英子の熱く、そして無意味な語りに、麗奈は弁当を頬張りながら、無心で聞いていた。 いや、もはや馬の耳状態だったのかもしれないが。 「そもそも二人とも、そんな栄養の偏った生活を送る気がしれませんわ!」 「うーん、栄養が偏るのは否定しないけど、れいちゃんは栄養量を取りすぎだと思う」 ぼそっと漏らす美子。 ちなみに、麗奈が食べる昼食の量は、重箱五段重ねくらいである。 さらに言えば、これでも腹7分目にも届かないそうな。 そこらへんは、武田広奈と大差ない。 「……これでも、あの女よりはかなり少ないですけどね」 「何か言った?」 「こっちの話ですわ」 ……いや、これでも広奈よりはかなり少ないようだ。 大体、重箱五段重ねより、学食のメニューコンプリートの方が難しいのは目に見えているし。 「それより美子さん。わたくしにお話があると、そう聞いたのですけど、何ですの?」 「あ、そーだ」 すっかり忘れていたのか、美子は目をハッとさせ、掌を拳でポンと叩いた。 「ほら、うちの吹奏楽部が今度、大会に出場するじゃない? でもうちって部員少ないからさ……助っ人として参加してくれないかなー、って思って」 麗奈は、性格面は大きく違えど、細かい知識や技術などといったものは大差ない。 もちろん、麗奈も吹奏楽で使えるような楽器を使えるのだ。 当然、弓や歌といった技術も長けている。 そして、麗奈は見栄っ張りで出ずっぱりだ。 加えて言うなら、友人の頼みでもある。 しかし……。 「残念ですけど……わたくし、暮らしが貧窮しておりますの。参加するとなると、練習にも顔を出さなくてはなりませんでしょう? 学校が終わったら、スーパーのタイムサービスを利用したいですし、バイトの時間をこれ以上省くわけにもいかないのですわ」 これは麗奈だけに始まったことではないが、『イクサクニヨロズ』の面々は貧乏だった。 その中でも、服にお金をかけている麗奈は、貧乏が際立っていたのだ。 だからこそ、なるべくお金を使わないように努力しているのも、これまた麗奈だった。 そのお嬢様のような振る舞いと、お金の節約への努力のおかげで、最近は“貧乏お嬢”の二つ名が出来上がりつつある。 「それなら安心して。うちの部は裕福だから衣食住の費用は部費から出るし、さらに練習時間で省かれたバイト代も、部費から捻出してあげるから」 「ほーっほっほっほ……、わたくしのことをポチと呼んでもよろしくてよ!!」 「……れいちゃん。最近、お金が絡むとプライドをなくしてきたよね」 「ってーか、人間としての尊厳くらい持とうよ……」 幸いだか生憎だかは知らないが、英子と美子のツッコミは、麗奈の耳には届かなかった。
手に握りこぶしを作り、麗奈は熱く語る。 そんな麗奈に手を引かれて走る人物は修一。 そしてその後ろから、美奈が走ってついて行く。 「あ、あの、麗奈さん?」 「何ですの?」 麗奈の、どこか有無を言わせない雰囲気に、美奈は多少気圧されていた。 もちろんその間も、走ることををやめたりはしない。 「お一人様1パック50円ですよね?」 「そうですわ」 「私たちって、6人が寝食を共にしていますよね?」 「そうですわ」 「別に、憐君や秋彦君やルリーさんが忙しいわけじゃあないですよね?」 「そうですわ」 「だったら何で、6人で一緒に行かないのですか?」 何故、美奈と修一だけを連れてきたのかが聞きたいようだが、その問いに麗奈は即答した。 「あら、簡単ですわ。卵はすぐに駄目になりますから、いくら大量に買ったところで、無駄になるのは必然。そんなもったいないことは出来ませんし、だからといって毎日毎日卵料理ばかりでは飽き飽きしてしまいますわ。生活に必要な分だけ揃えるのは節約の常識ですから」 指を横に振りながら、「ち、ち、ち」と舌打ちもして、美奈の質問に答えた。 しつこいようだが、その間も走るのをやめたりはしない。 そして、麗奈の語りに、修一が補足を加えた。 「閉店間際が、我らの真の戦場。それゆえ、我々の中で最強と謳われる美奈殿に来ていただいた。オバタリャーンは、我々でも手に余る相手ゆえ……」 「はぁ……」 どこか納得しないような様子で、美奈は心が伴わない返事をした。
「裏百式『覇王七星斬』(徒手ver)!!」 「キャベツが、閉店間際の今なら30%引きなのに〜!!」 「鶏肉の50円引きが〜!!」 「小娘が! あたしたち熟女の力をなめるなよ!!」 「“オバタリアン三連星”と言われたあたしたちの食費節約への意地、見せてやるわ、小娘!」 「ジェット〜〜!」 「ストリ〜〜〜ム!」 「アタ〜〜〜ッ……」 「たぁっ!」 「何ぃ〜〜、あたしを踏み台にしたぁ〜!?」 美奈が最強の敵と戦闘している間。 「ほーっほっほっほ……。美奈さんのおかげで本日は大漁ですわ!!」 「うむ、これなら夕食はご馳走になりそうだな」 「もちろん! 今日は麻婆豆腐で、肉の代わりに大豆を使いますわ!」 「む、あの「スーにございます!」と言われるアレか」 二人は、美奈の様子をまるで気にせず、今日の夕食に思いを馳せていた。 「こっちにも気づいてよぅ……」 もちろん、美奈のことなど気づいていない。 結局、美奈の戦いは閉店まで続いたと言う。
バイト場所は、某ハンバーガーショップ。 バイト当初は、とにかくお金がないので、休日をも利用してバイトをみっちりしたものだが、最近は給料も上がり始め、ぽつりぽつりとだが、休日も取れてきた。 「「「いらっしゃいませ〜」」」 と、笑顔で客を迎え入れるのは、憐、麗奈、瑠璃華の三人。 全員が、室内なのにサンバイザーをつけているのは、それがここでの制服だからである。 憐は女顔だが、普通に男性用の制服を着、その類稀なる美貌を駆使して、主に女性客の心を捉えていた。 だが、ときどき男性客が顔を赤くして、憐のことを見つめるのは気のせいであろうか? 瑠璃華はもとより絶世の美女だし、ちょっと笑顔を振りまいただけで、男性客はイチコロだ。 少し媚びるようにすれば、男性客なら何でも頼んでくれそうだが、それはしないようだ。 どうやら秋彦以外の男性に媚びるような真似はしないらしい。 そして最後に麗奈だが、彼女はいつもの縦ロールではなく、さらさらのストレートヘアーであった。 これには深ーい訳がある。 というわけで、回想モードに入ろう。
「麗奈さん、麗奈さん」 「なんですの、店長?」 「君、今日からレジ打ちね」 「あら? ここはレジは三つしかありませんですわよね? 憐さんとみーなさんとルリーさんの三人でいっぱいのはずでしょう?」 「だから、美奈さんは裏方に回ってもらって……」 「わたくしが言うのもシャクですけど、縦ロールのわたくしがレジなんかに立ったら、客が引くのではありませんこと? わたくしはバイト先がつぶれて、路頭に迷いたくありませんわ」 「だーかーら、麗奈さんの髪型を変えてもらいたいのだけど。もちろん応じてくれれば、時給50円アップしよう」 「……仕方ありませんですわね」 ちなみに、麗奈の表情はにやついており、とても「仕方なく」といった雰囲気ではなかった。
当然、絶世の美男子が一人、絶世の美女が二人が店の看板となってくれているので、店の売り上げはうなぎのぼりであった。 しかし、そうなると大変なのは裏方である。 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 妙に気合をいれながら、辺りを駆け回るのは秋彦。 「……」 無言ですばやく黙々と仕事をこなすのは、修一。 「よいしょ」 重い荷物を積極的に運ぼうとするのは美奈。 この中で一番力持ちなのが美奈なので、まあそれは仕方の無いことなのかもしれない。 「きついーっ!! これでこの時給は割りに合わないってばさーっ!!」 秋彦は汗をかきかき、足はがくがくしながら愚痴をこぼすものの、手をとめるような真似はしていない。 そこらへん、このメンバーの中の良心だということを如実に示していたりするのかもしれない。 「にしても、シャクーとやらはどこにあるのだ? やはり漁業市場にでも行かぬ限り、見当たらぬと思うのだが……。仕方ない、我が交渉しに……」 「違う! それはシャークで別名フカとも呼ばれるもので、修一が探すべきはシェイクだ!」 「同じようにしか聞こえぬが……」 同僚の英語力のなさに、秋彦はため息しかつけなかった。 真面目に働くのはいいのだが、生真面目のボケられると、ツッコミも難しい。 もちろん、それでも秋彦は手を止めるような真似はしない。 そんな最中にも、美奈は黙々と仕事をこなす。 調理がまるで駄目な美奈は、パン一つ焼くことも出来ないから、そういう材料を持ってきたりという作業を主としている。 だがそれを差し引いたとしても、異常なほど力仕事が多いと、秋彦は思った。 ふとよぎった疑問は、美奈の雰囲気を見て、胡散霧消してしまった。 猛烈な殺気。 恐らく、憐との恋路の邪魔をされたときとほぼ同質の殺気と思えるものが、美奈から発せられている。 「……美奈ちゃん。何で、殺気を放出しながら仕事してんの?」 「……気のせいです」 周りを良く見渡すと、他の同僚が、美奈のどこか刺々しい雰囲気に脅えているような表情を見せていた。 一応憐の方を見てみるが、いつもと変化はない。 第一、レジ打ちなんかしていたら女性が憐に近づくのは当たり前であるし、今までそのことで美奈が殺気を放出させたことはなかった。 では憐と一緒に仕事が出来ないからこうなのか、と考えてみるが、それは否定できない。 ゆえに秋彦は、美奈が麗奈や瑠璃華に嫉妬しているのだろうと、そう考えていた。 しかし。 「恐らく、チサト殿に勝ちたいのであろう。最近、チサト殿に勝つために、毎日訓練を欠かしてはおらぬからな」 小さな声で、修一は秋彦の耳に囁いた。 「……だったら何で、このバイトが関わってくるんだよ、修一!」 「今の美奈殿は、力仕事を主にしているであろう? 我が思うに、それで筋力増強を目論んでいるのだと考えるが」 (鍛錬はいいけど、殺気くらいは消してくれ……) だけど、秋彦はオリジナルと同じく不幸なので、彼の願いは届くことはなかったのであった。
正確にはすでに10時を過ぎているので、もはや夜食と言っても過言ではないのだが。 「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」 全員がそう口をそろえた後、今日の夕食へと箸を伸ばした。 「だぁっ、修一! また人の分勝手に取りやがって!!」 「憐殿。だから言っておるだろうが。この程度を制せないようでは、戦場で勝ち残れはしない、と」 「はい、秋彦、あーん」 相変わらず、騒がしい食事風景であった。 と、そんな他愛もない食事風景が続き、今日という一日が終わりを迎えようとしていた。 「さーて、御飯を食べ終えたら、銭湯だーっ!!」 いや、瑠璃華の言うとおり、まだ彼らの“せんとう”は終わらない。
貸しアパート『むつ』の前に、二人の人物が立っていた。 一人は中老の域に達しようとしていて、白髪が目立ち始めてきた痩身の男性。 もう一人は黒髪のショートカットが活動的でありながら、可憐さをもかもしだす、純白のワンピースを着た小学校高学年から中学生くらいの少女。 男性が先導し、少女が大きい荷物をえっちらおっちらと運び、ついていく。 そんな二人は、『むつ』の一階にある一部屋へと歩いていった。 と、そんなとき。 「あー、いい湯だったーっ!」 どこか親父臭い台詞ではあったが、間違いなく青年の声である。 「憐殿の言うとおりだ。あそこの銭湯は、何気に源泉を使用しているようであるからな」 続いて、古めかしい言葉遣いと思える口調で話す男性。 「にしても、夜遅くまで営業しているだなんて、何て良心的な銭湯かしら。そう思いません、ルリーさん?」 「そうだね、れいちゃん」 向こうからは見えなかったようだが、少女は六人組の男女が階段を上っていくのを見つめていた。 そして少女は、その内の一人にデジャビュを感じたのであった。 「浩二。あの六人組は……?」 「六人組? ああ直江君と本多君と真田君と武田君と伊達君と明智君のことか? もっとも、彼らを苗字で呼んだら怒るだろうがね」 「直江に本多に……だと?」 「ああ」 「そうか……。直江に本多に真田に武田に伊達に明智……か」 少女が、直江憐のことに少し思案を寄せている間、男性は101号室の扉をマスターキーで開けた。 そして浩二と呼ばれた男性は、自分の子どもに向けるような優しげな笑顔で、少女に微笑んだ。 「ここが、今日から海里の家だ」 「すまない、浩二……」 「私と海里は、養子縁組での仲とはいえ、親子だ。だから私のことを名前で呼ぶのはおかしいだろう?」 「……そうだな。すまない、父」 男性の名前は来栖浩二(くるす こうじ)、このアパートの管理人だ。 そして少女の名前は来栖海里(くるす かいり)、浩二の養女となった少女である。 そして。 「奴らが……の言っていた、センゴクマンの……」
「彼らに届くは、一通の手紙。 |