投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第六話


「イクサクニヨロズ決戦」

◇前回までのあらすじ◇


『てつはう』との戦いを終え、違う運命を歩み始めた『イクサクニヨロズ』。

「ボクもあれくらい大きい胸だったらいいのに……」

霧華は自分の胸の大きさに、コンプレックスを抱いていた。

しかし今は、彼女(彼?)が出る時ではない。

「私の仲間は……バカばっか」

一人の少女は嘆き、苦しみ。

「全軍突撃!」

一人の少女は猪突猛進、いや、猪突盲信している。

「了解!」

もう一人の少女も、突撃隊長と同調していて、作戦のさの字も聞いていない。

そんな新たな同僚とともに戦い、そして勝利し続けた。

だが、そんな彼らに新たに立ちはだかるのは、慣れ親しんだ者たち。

かつての仲間。

同じ境遇の仲間。

身を削りあった仲間。

信念を信じあった仲間。

けれど、今は敵。

憎むべき、敵。

かつての仲間同士の悲しくも切ない戦いが、今始まろうとしていた……。


チサト「(じっと原稿を読み)……」

ユキメ「(チサトをじっと見る)……」

チサト「何か、微妙に違うところもあるようですが、まあ許容範囲内ですね」

ユキメ「(ほっ)ま、まあ私だって、やれば出来るって事よ」

翔子「まったく……。やる気にならなきゃ、やりもしないくせに」

ユキメ「それは否定しない」

チサト&翔子「(即座に)否定しろっ!!」

ユキメ「えー?!」

翔子「まったく……。相変わらず、困った人ね」

チサト「それより、翔子さん」

翔子「……? (何かを思い出し)あ、ああアレね」

ユキメ「私は初めてだけど」

翔子「私もなんだけどね」

チサト「せーの」

ユキメ&チサト&翔子「画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さい!!」



◇1◇


「やった、やった♪ 初めてフラッグ取れた〜♪ 鷹木先生の小説の少女剣士みたいに、ディフェンダーばっかりやってるけど、とれたよ〜♪」

『HERO』の控え室で、一人浮かれているボブカットの少女、森嶋久美。

彼女は、今までディフェンダーしかする機会がなく、ただじっとしているだけで、当然サバイバルゲームの楽しさに触れることはなかったのだ。

それが憐の策により、初めてのフラッグ奪取の役を与えられ、しかも成功したとなれば、浮かれないはずもない。

だがそれに憮然とするのが、久美の同級生で親友の皆瀬葉子と矢島恵美。

「久美さん……?」

静かな様子で、久美の名前をつぶやく恵美。

少し顔に青筋が立っているのは、決して気のせいではないであろう。

「別に言ってくれてもよかったじゃん! 何たって、あたしには隆一さんの加護があるんだから、あたしに任せてくれれば……」

それって要するに、運ですか? とか、葉子の言葉に対し、そう思う秋彦だったり。

しかし、2人は完全に、自分たちの暴走っぷりを棚に上げている。

そんな3人娘に、憐は苦笑するしかない。

「そ、それより、次の作戦を練りませんか?」

秋彦は、少し困ったような表情を浮かべ、全員に言うが。

「全軍突撃!」

「……またそれ?」

本当に何も考えずに、突撃ばかり考える葉子のアホさに、久美は呆れてしまう。

と言っても、それはいつものことなので、もう諦め半分だ。

自分の手腕では、彼女の突撃癖に、どうすることも出来ないようだ。

という訳で、医学の知識のない人間ががんを完治させるに等しい難題を、憐たちにすがるような目で救いを求めていた。

確かに、先ほどは憐の機転により上手くいったが、そうそう何度も通用する奇策ではない。

そして、サバイバルゲームの決勝の相手は、決勝に残るだけあって、突撃だけでは勝てる相手ではないだろう。

つまり、2人の手綱を如何にして握るかが、今回の戦いの鍵となるのは明白である。

しかし。

「……説得の手腕は、あの人の専売特許だよな」

「だね。あの人しか考えられない」

憐と秋彦の言う、あの人、とはもちろんユキメのことである。

言いくるめの技能にかけて、彼女の右に出るものは、その手の訓練を受けた、熟練のネゴシエーターくらいだろう。

何せ、ユキメはその技能で、反応に+2を貰っているくらいだからだ。

わからない人は、ガープスベーシッ○完訳版の79ページを参照だ!

「ふっふっふ。わたくしに任せなさい!」

「れ、麗奈?」

突如、自信ありげに、麗奈はにやけた笑みを浮かべる。

「実は、以前にユキメさんから貰った、裏の世界に伝わるユキメさん直筆の悪の教本『人格操作(せっとく、とお読み下さい)のススメ』を、わたくしは読破したのよ!」

ちなみに、現存しているかもわからない、レア物である。

もちろん、これ一つで全ての人間を操れるという一品なので、一冊数千万という値のつく一品だということは、麗奈が知る由もない。

もし麗奈が手にしていることが公になれば、麗奈は裏の仕事人から狙われることとなるだろう。

そんな品をポンと軽く渡す辺りが、ユキメらしい。

「本当!? じゃあお願いいたします、麗奈さん」

律儀に平謝りする辺り、育ちのよさ……というか常識がなっている久美。

「っとその前に、森嶋さん。皆瀬さんと矢島さんの性格や趣向を聞きたいのですが……」

「え……いいですけど?」

そう言うと、久美はうなりながら首をかしげ、そのまま腕を組む。

すると、その表情は、どんどん複雑になっていた。

どうやら葉子は、フォローの仕様もないほど悪い性格のようである。

「ヨーコは、一言で言えば単純バカかな? 三度のメシより戦うのが好きなケンカバカでもある。他には……」

だがそこで言い淀んで、顔を赤く染めた。

わからない、というより恥ずかしい、といった感じだ。

「……木下隆一っていう人のことを、神様のように尊敬している。その人は、メグの叔父にあたる人で、10年以上前に亡くなってるの」

先ほどまでの雰囲気とはうって変わり、少し鬱っぽく落ち込む。

何か、木下隆一という人物に含むところがあるようだ。

「木下隆一って人、貴女にも関係あるんですの?」

「え、えーっとね……。実は、とあるホームページを見つけて。鷹木さんっていう人が管理者なんだけど、その人のホームページで使ってる私のハンドルネームが、木下隆一っていうの。まあ私はいわゆるネットおなべっていう奴ね。だけどヨーコにもメグにも許可なく、その名前使ったから、これがヨーコにばれたら、こ、殺される……」

「……はぁ、そうなの」

ばらすつもりはないものの、目的の人の弱みでなく、久美の弱みを握ったことに、少し脱力した麗奈だった。

「で、メグは、おしとやかそーに見えて、実はすっごい短気で、キレると手がつけられない。スーパーロボットオタクで、ドリルや金槌が漢の武器だ、とかいつも言ってるっけ。おっぱいミサイルがどうとか、オープンゲェットッとか、「お姉さま、あれを使うわ」とか、ゼンガー様がどうとか、ヘルアン○ヘブンがどうとか、最近は「何でスーパーロ○ット大戦に、ゴー○ンナーが出ないの!?」とか言ってたっけ……」

「ま、まあよくわかりましたわ」

麗奈は心の中で、オタクっぷりが、と付け加えた。

そして、麗奈は記憶にある、『人格操作(せっとく)のススメ』の文を思い返してみる。

「では、まずは皆瀬さんですわね」

で、早速彼女と向き合う一同。

「ん? 何か用?」

「皆瀬さん。貴女の能力、わたくしたちに貸していただけません?」

少しだけ遠まわしに、命令に従うように促す麗奈。

だがその言葉の真意を即座に理解したのか、葉子は露骨に嫌そうな顔をした。

「はぁ!? あたしとやる気?」

(どこをどう曲解すれば、そうなるの!)

と、かなり話が飛躍したことに、心の中で麗奈はツッコミを入れた。

だが同時に、久美が言っていた、三度のメシより戦いが好き、ということの証明にもなっている。

これを使わない手はなかった。

「……ふふふ。わたくしが皆瀬さんとやりあうのもよろしいのですが、貴女はより強い方と戦いたいのでしょう? それならば、わたくしの相手をするのは、とてもいい考えとは言えませんわね」

自分が中心に回っていないと気がすまない麗奈にとって、こんな風に自分を卑下するような発言は、本来、吐き気すら覚えるほどに不本意であった。

だが、この発言によって、相手を自分の思うがままに操作できるとなれば、多少は意志の力で、それを我慢できるというものである。

昔は無理だったかもしれないが、今は悪い見本がいる分、自重が利く。

「そんな、回りくどいやり方はやめてよ。あたしは頭悪いんだからさ」

(自分で言うなよ)

ドロップアウト宣言する葉子に、声に出さないまでも、憐は呆れていた。

「つまり、わたくしたちの指示に従っていただければ、わたくしの知り合いである、強い人物と戦わせてあげます、ということですわ。その方の名前は…」

「名前は?」

葉子は身を乗り出して聞いてきた。いい傾向だ。

いくら相手がバカで、操作が簡単な人間だとしても、上手く事が運ぶことに、麗奈は笑みを浮かべていた。

「名前は、ユキメですわ」

麗奈はきっぱりと言い切った。

ここで、想像もしていなかった人物の名前が出てきて、ずこっと憐と秋彦の2人はこけてしまう。

「おい! ユキメさんの名前を出して、本当に大丈夫なのかよ!」

下手をすると、とんでもない目にあうと思われる人の名前が飛び出し、咄嗟に秋彦が、小さい声ながら、麗奈の耳元で叫んでしまう。

「ユキメさんなら、笑って許してくれますわ」

「ホントかよ、麗奈ちゃん……」

麗奈と秋彦で、そんな会話を小声で交わす。

心配する憐と秋彦の2人をよそに、麗奈は自信満々だ。

最悪のケースを想定するなら、間違いなくユキメが陰湿な手を使い、彼らに報復をするに違いない。

それこそ、再び霧華が降臨するかもしれない。

もしかしたら、第二の霧華の誕生すら危ぶまれる。

だが、最良のケースを考えれば、麗奈の言うとおりに、笑って許してくれるだろう。

これが楽観的な麗奈と、悲観的な憐と秋彦の差だろう。

しかし、フクスイという坊さんは旅に出たまま、盆になっても実家に帰っては来なかった。

覆水、盆に返らず。

言葉の弾丸は、決して口の中に戻ったりはしない。

「ホント!? その人って強いの!?」

「ええ。わたくしたちも武術をたしなんでますが、ユキメさんに勝ったことは一度たりともありませんわ」

ただし、武術ではなく、口げんかで、だが。

「ふっふっふ。あたしの実力を見せ付けてやる。待ってなさい、ユキメとやら!!」

ともあれ、“バカ”なので、麗奈の言葉を疑いもせず、葉子は陥落した。

そして次の関門は、矢島恵美。

だが彼女は、葉子とは違って単純というわけではなく、結構頭はいいらしい。

ただ、極端に短気で、機嫌を損ねると、何かと面倒くさいようだ。

つまり、怒らせてはいけないのである。

「矢島さん」

「……あァン?」

先ほどの口調とはうって変わって、恵美はドスのきいた声で、片眉を吊り上げて睨みをきかせてきた。

それでいて、麗奈のもとにずんずんと近寄り、少し進めばキスすら出来そうな位置まで近づいてくる。

そして恵美の手は、ひたひたと麗奈の頬を叩く。

この変わり様に、麗奈だけでなく、憐や秋彦も戸惑いを隠せない。

「……あかん。メグのやつ、キレモードが発動してる」

『てつはう』との対決のとき、恵美に何も言わなかったのがいけなかったらしい。

こうなってしまうと、彼女を操るどころか、止めるのすら至難となる。

「くっ……。見た目はかわいい女の子なのに、死神すらも目で射抜くほどの睨み。しかも、睨みつける角度も的確で、その恐怖を十二分に引き出していて、オスカー女優顔負けの演技力! しかもそのドスのきいた声で聴覚を刺激しつつ、優しげにわたくしの頬に触れるその指は、かえって恐怖を増大させていますわ!! それでいて、香水による嗅覚へのけん制も忘れない!!! 五感をここまで利用するなんて……恐るべし、矢島さん!!」

ずずっと後退しつつ、つぶやく麗奈。

言わなくてもいいことを言う余裕はあるようである。

しかし、怯むわけにもいかず、麗奈は勇気を振り絞って立ち向かった。

「矢島さん。世の中、3歩進んで2歩下がる。突撃ばかりじゃ、人生の勝者にはなれませんわ!」

まずは、麗奈のけん制ブローから始まった。

だが。

「人生の勝者? 何言ってやがる。わたくしはそんなものに興味はねぇ。四の五の言ってねぇで、素直にわたくしの援護だけしてりゃあいいんだよ。人を影で支える貞淑な女性って……もてるんじゃねぇ?」

見事にカウンターブローとなって、返ってきた。

「あ、危なかったですわ……。そのキューピットが恋人同士を愛の矢で射抜くが如く鋭いその一言。危うく、懐柔させられるところでした……」

本質は、ただの音の集合体であるのにも関わらず、そのカウンターブローは、激しく麗奈の心を揺さぶってくる。

先ほど同様に、物でつる作戦が取れればそうしたいのだが、恵美相手にそうはいかない。

彼女の心を揺さぶるような物って言ったら、レアなスーパーロボットもののDVD、プラモデル……といった物しかないからだ。

だが、麗奈の所持金は、ほとんどない、と言っても過言ではないのだ。

お金のことを考えると、ニーチェの一説「神は死んだ」という言葉が麗奈の脳裏をかすめまくるのだ。

つまり、物ではつれない。

そうした場合には、例の教本にはこうかかれている。

「懐柔策がダメなら、今度は脅迫に移るべきだ。ただし、これには相手が本当に嫌悪していることを調べ上げる、もしくは推測するしかないので、親しい間でなければオススメ出来ない……(一部より抜粋)」

つまり、彼女の弱みを握っていない麗奈では、この戦法はとれないのである。

八方塞、というやつであった。

だが、業を煮やしてか、久美が恵美の前に仁王立ちをして見せた。

「あァ? 久美さんよォ……。初めてフラッグを取った気分はどうですか? なんて、キャハハハハハハ!!」

「……いい加減にしてよ」

「はぁ? 聞こえ……」

「だからいい加減にしろ、って言ってんのよ!! いっつもいっつも真面目にやってる私を尻目に、何でいつもいつもそうやって!! しかも自分の都合の悪いときばっかりキレる風に見せて!! それでいつもいつも私が従うと思ってるの? バッカじゃない!! いいや、バカよ、バカ!!」

相当言いたいことがあったようで、早口でまくしたてる久美であった。

恵美も、一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに体制を立て直す。

「何ィ!? わたくしのやり方に文句があるってェの……」

だが恵美の逆ギレは、言葉として出ることはなかった。

突如恵美の前から久美が消え、気が付けば恵美の後ろに回りこんでいたのだ。

恵美の首をいつでも絞められる体勢で。

「メグがキレるときは、いつも動きが粗雑になること、知らなかった? そして、私の腕、よーく知ってるでしょう? ……落とすわよ」

ドスはきいておらず、むしろ懐柔させるかのような、柔らかな口調で久美は話す。

だが、目は据わっていた。

さらに言えば笑顔なので、傍目から見ていた憐や麗奈や秋彦ですら戦慄していた。

「……お、落とす、って言っても、わたくしを落としたら、トーナメントは……」

「私には関係ないことよ。元々私は、周りに流されて参加させられたタチだしね。あと落とした後、メグの片思いの男の子にキレモードのことを話そうっと。彼、どう思うかな〜?」

「や、やめて、久美さん……」

するとどうだろう。

恵美のキレモードは完全に姿を消し、小動物のような脅えた目で久美を見つめている。

その様子に満足したようで、久美は満面の笑みで手を放した。

それでも彼女の目は笑っていなかった。

これは、ちょっとでもおかしな動きを見せたら……ということだろう。

「い、言うこと聞くからお願い。やめてください。正太さんには話さないで。わたくしを締め上げないで。瑠璃(るり)先輩と百合(ゆり)先輩の近くにわたくしを置かないで。やめて、わたくしは百合じゃない。バックに百合の花を咲かせないで。誤解しないで。わたくしはノーマルなのに……」

恵美は、顔を横にふるふると震わせながら、涙目で久美からじりじりと離れていく。

ある意味、『HERO』で一番怖い人物は、久美であった。



◇2◇


「えー、それでは、これから次の対戦で勝利するべく、作戦会議を行いたいと思いますが……」

そこまで言って、憐はメンバーを見渡す。

麗奈や秋彦、久美は真面目に聞いているようだ。

葉子の方も、強い相手と戦える、という条件を持ちかけられたこともあって、さっきとはまるで違い、落ち着いた様子で聞いている。

恵美も真面目に聞いているようだ。

だが、彼女は久美に対する恐怖心が拭えないのか、時々久美を見ては、身を縮こませている。

「そんなに、瑠璃姉と百合姉が嫌? まあ確かに私の愚姉たちだけど」

「だ、だって。あの方たちと一緒にいると、自分の恋愛感が、何か間違っているんじゃないかと思ってしまいそうで……」

「そう思えるなら、まだ救いはあるよ。瑠璃姉と百合姉は(双子同士で愛し合うナルでレズってことで、人間的に)末期だから」

お灸をすえる程度のものだったのだが、効果は覿面(てきめん)すぎたようだ。

当然だが、部外者である憐、麗奈、秋彦はわかっていない。

「はーい憐さん、質問」

「何ですか、森嶋さん?」

「次の対戦相手ってどこのチーム?」

「それは、ここ岩手県のチーム、『義経記』だ。今回初出場だが、地元ということと、選手が思ったより優秀だったようで、決勝まで残ったチームだ」

『イクサクニヨロズ』としての戦闘なら、ユキメが気を利かせて、敵のチームの情報を持ってくるかもしれないが、今回はそれがない。

というのも、今回の潜入は、チームのレベルを上げるためのものであり、勝つためのものでないからだ。

どんな突発的な出来事が起きても、柔軟な思考を維持しつつ、各自臨機応変に対応せよ、ということだ。

もちろん今の説明は、適当、という言葉に装飾を加えただけである。

適当、適度に当たる。

実に都合の良い、いい言葉ではないか。

「それより、憐。あたしたちは何をすればいいの?」

「まずは適正から言って、順を追って何をするかを決めた方がよさそうだな」

突撃という生き方しかしてこなかった葉子は、それ以外の戦い方を知らない。

だから、こういう質問は至極当然と言えよう。

ついさっき、初対面を済ませたばかりなので、本来なら彼女らのベストポジションなんてわかるはずもないであろう。

だが、味方に関しては、ユキメから資料をしっかり貰っているのだ。

「皆瀬さんの足は、攻守に活かせるはずだ。だから、普段は攻め手の援護などをこなしつつ、隙を見て攻めたり守ったりできるミドルアタッカー、もしくは速攻狙いのアタッカーが適任だと思う」

「わたくしは?」

次は、葉子の援護を数多くこなしてきた恵美も、葉子と同様だ。

「経験の点では、皆瀬さん同様にミドルアタッカー。だけど、矢島さんは本当はアタッカーが適任だな。相手の攻撃を先読みするその能力は、間違いなく今回の戦いで使えるはずだから」

「私は? 私は?」

そして、どこかわくわくした様子の久美。

彼女も、暴走機関車たちの存在故、ディフェンダーしかさせてもらえなかった人物なのである。

「ちょっと、資料が少ないから、一概には言えません」

これには、久美はがっくりとした様子である。

「で、俺はアタッカーからミドルアタッカー。麗奈と秋彦はスナイパー。それを踏まえ、皆瀬さん、矢島さんで前線を張る。ただ、突撃は控えるように。矢島さんは、最前線に立つ皆瀬さんを援護しつつ、自身も撃墜を狙うべきかな?」

突撃は出来ないものの、割と満足いく命令だったようで、2人はこくりと頷いた。

「そして、俺と麗奈とアキで援護。森嶋さんは、申し訳ないけど、フラッグを守っていてくれ」

麗奈と秋彦も深く頷き、久美はさらに大きくうなだれた。

だが、急に何かを思い出したのか、久美は目を大きく開いて、手は胸の前で祈りを捧げるようにし、憐の方を向く。

「あ、で、でも、さっきみたいに、フラッグを取れたりは……」

会場は、確かにさっきと同じだ。

だからこそ、次もいけると思い、久美はかすかな希望にすがったのだが。

「無理だな」

憐は無下(むげ)につっぱねた。

「あれは奇策だから、何度も通じるようなものじゃあない。あの時は、相手が相手だったから、通じたんだ。今回のケースだったら、警戒されるのが関の山。柳の下どじょうは2匹もいない」

先ほどの試合は、恐らく『義経記』に見られているだろうから……。

逆を言えば、憐と麗奈と秋彦と久美も、先ほど行われた『義経記』の試合は見ていた。

その対決で七光りをしていた人物こそ、東北最強のアタッカー美奈、忍者修一、そしてアンブッシュキラー瑠璃華であった。

もちろん、他のメンバーも相当な実力者たちばかりだ。

彼らが決勝で相手をするのには相応しい。

「突撃はなしだが、小細工で勝てるような相手じゃない。でも、俺は月並みな励ましなんてするつもりはないからな」

少し、考える時間が必要だったのか、間を取る。

そして憐の口から出た言葉は。

「死ぬ気で行くぞ!」

即席メンバーだというのに、息ピッタリで、彼らは頷いた。

そして最終決戦が始まる。




◇3◇


「ドラゴンゲートより、『HERO』入場」

光る、斬撃突き抜けFly Away〜♪(Fly Away〜♪)
身体中に、広がる戦慄〜♪
馬を、殺(や)られた将門怒って〜♪(怒って〜♪)
怒りを爆発さ〜せる〜♪
呆けた少女の前〜に〜♪
愛野郎い〜たら♪ スリッパで叩いちゃ〜うね〜♪

「どっかの誰かさんが聞いていたら、「な、何の冗談だ!?」とか言いそうだな」

あえて名前は言わず、憐はぼそっと呟いた。

CHA〜LA〜、HEADCHALA〜♪
何〜が起きて〜も〜気分は〜、へのへのカ〜ッパ♪
CHA〜LA〜、HEADCHALA〜♪
胸がば〜ちばちする〜ほど、騒ぐ強い奴♪
CHA〜LA〜、HEADCHALA〜♪
知力9(頭カラッポ)のほ〜が、敏捷力(うで)つめこめ〜る〜♪
CHA〜LA〜、HEADCHALA〜♪
笑顔ウルト〜ラZで、今日も愛愛愛愛愛……♪
「馬鹿、やめろ、痛っ、おいっ、ぐふっ、ぬあっ、くっ、こらっ」

と、そんなテーマが流れると同時に、彼らは入場した。

ただ重厚な雰囲気で花道を歩くだけではない。

チアガールが、チームの応援をするかのような演技を、久美、葉子、恵美はして見せたのだ。

もちろん、登場パターンはあまり作っていなかった憐たちは、アドリブでこなす。

とはいえ、それは中々サマになっている。

でもあくまで引き立て役。

メインの3人娘が大技を披露して、見事決めた瞬間、会場は歓声に包まれていた。

「タイガーゲートより、『義経記』入場」

♪〜♪♪〜〜〜♪

「うお、現在放映している大河ドラマの曲を流してきやがった」

「ターキーは、ターキーはいないの?!」

「つばさくーん!!」

「そりゃあ、ただのターキー&つばさのファンとしての台詞だろ……」

「三馬(さんば)様の薙刀で一刀両断にされたい〜!!」

「でも、ウンナンの南原(みなみはら)さんって、すっごいカミカミなんじゃなかったっけ?」

「上戸綾(じょうと あや)ちゃん、ラブリーで、私的に萌え」

観客席が、何故か騒がしい様子になっているが、気にしないで貰いたい。

チーム名にふさわしい曲選で、『義経記』は登場してきた。

無論、登場シーンは格好良く決める。

まず登場するのは、頭にバンダナを巻いた青年。

地味だが時代がかっている服装だが、その青年はにこりともせず、ストイックな雰囲気をかもし出していた。

そんな彼は、一本の脇差を取り出して、器用に扱って見せる。

ユキメはたまにこのような真似を、ナイフで『イクサクニヨロズ』に見せたことがあったが、これはその応用。

そしてその脇差こそ、憐たちが良く知る『真田角』なのだ。

もちろん、青年の正体は、真田修一その人である。

続いて登場したのは、修一同様に地味な様相をした2人の青年だ。

容姿は互いに全然違うのだが、2人の間にはどこか似た感覚がある。

彼らの名前は、佐藤義則(さとう よしのり)、史郎(しろう)。

だが、2人は兄弟ではないことを追記しておく。

次の人物の登場で、観客は歓声を上げた。

派手な装飾のなされた服。

いや、服というには着込んでいる数がハンパではない。

人、それを十二単と呼ぶ。

そして、それを着ている大和撫子こそ……。

「瑠璃華……」

秋彦のつぶやきの通り、明智瑠璃華その人である。

秋彦は、いつもと違うガールフレンドの様相、振る舞いに激しい動悸を覚えた。

顔は真っ赤に染まり、目線は完全に瑠璃華に集中している。

そのことに気づいた瑠璃華の顔は、他を耐えがたい魅惑で埋め尽くす、そんな笑顔に満ちていた。

観客席では……。

「平安美人ハァハァ……」

ちなみに、「ハァハァ」というのは、風邪をひいていて体調が悪いというのではない。

……何か、観客席には特殊な趣味を持った人、多くありません?

そして最後に登場した人物は、頭巾を被った女性と、その女性より小柄な、平安時代くらいの貴族服を着た少年である。

だが次の瞬間、頭巾の女性……美奈は薙刀……ファンクラブ切を取り出し、それを少年の足元に向けて薙いだ。

すると少年は、軽く跳躍し、その薙刀の上に乗るではないか。

まさに、牛若丸と弁慶のやりとりそのものだ。

「ハルカちゃ〜ん♪」

しかし、そんな声援が聞こえた瞬間、牛若丸に模した少年……源遼(みなもと はるか)はがくっとつんのめる。

「ハルカちゃんって言うな!!」

「「キャアッ、の○太さんのエッチ!」って言って〜!!」

今までが上手くいっていただけあって、そんなやりとりは、会場を笑いで埋め尽くしていた。

おかげで、互いに緊張感が吹っ飛び、リラックスした状態で戦いに望めそうだった。


かたかたかた……。

ノートパソコンに、一心不乱に文字を打ち続けるユキメ。

その傍らのベンチに、チサトと翔子はちょこんと座り、エキシビジョンを眺めていた。

「……玲。あんた、何書いてるの?」

「『月刊種子島』の東北大会の原稿。この前の分量だと情報が少なすぎて、逆に怪しまれる結果になっちゃったから、私が原稿を書いて、センゴクマンを騙すように手伝ってあげようかな、って」

翔子の疑問に、軽口を叩いているユキメだが、彼女がキーボードを打ち込む速度はまるで変わらない。

相当、コンピューターをいじっているようだ。

彼女は、今時の女子高生らしからぬスキルを持っているのだ。

……いや、今に始まったことではないのだが。

「でも、このことをあの子たちに教えるつもりはないんでしょう?」

「もちろん♪」

翔子の言葉に、楽しそ〜にユキメは答えた。

「……そんな態度してるから、親の心子知らずなのよ」

「私は人を助ける行為が好きだからやってるだけよ。う〜ん、自己満足♪」

「子どもの未来を守るのは親の義務、じゃないんですか、ユキメさん?」

チサトの言葉に、ユキメは一瞬だけ悩むそぶりを見せたが、次の瞬間には笑みをこぼしていた。

「ま、そーとも言うわね」

何だかんだで、ユキメは『イクサクニヨロズ』には大甘なのである。


そして、親の気持ちを知らない子どもたち。

まだまだ強大な親鳥に守られている雛であることを知らない彼らは、サバイバルゲームの決勝戦に向けて準備をしていた。

憐はただ、迫る敵を倒すために、精神を集中させ。

美奈は、敵として相対する少年に思い焦がれ。

修一は、いつも通り、冷静に命令をこなすだけなので、明鏡止水の心持ちだ。

麗奈は、戦意が高揚しすぎて、笑みが漏れ出ていて。

秋彦は、手持ちのエアガンの整備をすることで、緊張をほぐし。

瑠璃華は十二単の重量により、全身に疲労を感じて、緊張どころではない。

そんな彼らが、ユキメが愛する『イクサクニヨロズ』。

だが、今は倒すべき敵同士なのである。

『HERO』vs『義経記』、開幕。



◇4◇


『HERO』の行動は、憐の思案した作戦通りで始まった。

相手にアドバンテージを取られないように、戦場となるのが予想される1階を占領することが、第一である。

久美をフラッグ付近に残して、葉子、恵美、憐、麗奈、そして秋彦の順に、1階へと足を踏み入れた。

1階は、前回の戦いのときにも説明をしたが、がらんとしたフロアであるが、瓦礫や土嚢が多く、隠れる場所には困らない。

だが占領すれば有利なのは相手も同じだし、条件も同様だ。

ある程度の場所まで来たら、当然美奈たちが潜んでいるはずだ。

それを踏まえて、1階に来たあたりで、憐は皆に注意を呼びかける。

一部、不満はあったが、2人とも聞き入れてくれたようである。

麗奈もいつものように暴走はせず、今回は後衛に徹してくれているようだ。

「さあ。相手はどう来るか……」

「オレが思うに、美奈ちゃんはバリバリの前線を張って、シュウが潜入、瑠璃華がフラッグの守りだと思うけど」

まあ、それは大方間違いではない、と憐は思う。

とはいえ、前回の戦いを見ている限りでは、作戦も見事に決まっていることから、相手も馬鹿ではないと、憐は踏んでいた。

そんな思慮にふけっている憐だったが、それは銃声によってとぎられた。

「敵は数人。ベンケイ子と男2人は確認しましたわ」

葉子の援護をこなしながら、的確に言う恵美。

ちなみにベンケイ子とは、弁慶の格好をした女性のこと。

つまり美奈のことである。

「ちょっと、憐。考えるのは勝手だけど、あたしたちの援護を忘れないでよ!!」

葉子は弾幕を張りながら、文句を言う。

葉子たちが突撃しては策もくそもないので、憐は慌てて援護に入った。

そして3人より後方に位置するのが、スナイパーである麗奈と秋彦。

憐、葉子、恵美の弾幕が途絶えたと思って顔を出した瞬間を狙う、という寸法である。

「! 派手なねーちゃんを確認したよ」

援護をしている最中、葉子が知らせてくれた。

憐も、十二単の裾を視認できたこともあって、葉子の言う人物の正体はすぐに明らかになった。

秋彦が僅かに渋い顔をしたのは言うまでもない。

だが、皆以上に驚いた顔をしたのは、意外にも麗奈だった。

「皆、動いて!!」

麗奈は瑠璃華の所在を聞くや否や、割れたガラス片が振動するほどの甲高い声を出した。

通常、手話をモットーとするこのサバイバルゲームにおいて、声を出すということは、敵に位置を教えるという危険な行為である。

だが、危険を冒してまで、これをしなければならないのには理由があった。

それにいち早くその理由に感づいた憐と秋彦は、すばやく隠れている場所を変更する。

だが、葉子と恵美はそのことには気づいていない。

凶弾が、無骨なアスファルトを経由して、葉子と恵美に襲い掛かる。

「「!!」」

葉子と恵美は危険を察知し、素早く身体をスライドさせたが。

「……ヒットです」

葉子は野性的な反射神経で辛うじてかわしたようだが、恵美は瑠璃華の跳弾にあたってしまったのだ。

呆然としてしまう葉子に対し、経験者である秋彦は恵美のヒットを確認した後、別の土嚢へと移動した際に周囲を確認し、秋彦が訪れると信じているチャンスを待った。

声を出したということは、相手に場所を教える意味もあり、当然に弾幕が集中する。

だがそれは、攻撃に集中しすぎるあまり、自分が狙われていることから気がそれることにもなる。

秋彦の予想通り、一人の男が僅かだが、顔を出した。

そしてそこを逃すほど、秋彦は甘いプレイヤーではなかった。

そしてそこを外すほど、下手なプレイヤーでもなく、秋彦が放ったライフルの凶弾は、男を直撃した。

「合戦に、佐藤という武者が、主君遼の身代わりになって討たれたと、後世に言い伝えられるのは名誉です、ってか?」

とある時代の武将の言葉を引用して、佐藤史郎は退場していった。

ただし、油断していたのは彼一人。

史郎の撃墜以上の結果は得られなかったようだ。

再び、弾幕の張り合い、という押しては引く戦いが続けられた。

瑠璃華の跳弾も、適度に位置を変えてくる憐たちには通用せず、戦闘は膠着状態となる。

とはいったものの、『義経記』は長距離での戦いを得意とする者はおらず、さらに追加で来た美奈、修一、瑠璃華共々その手のスキルは持ち合わせていない。

逆に、長距離からの攻撃を得意とする麗奈、秋彦のいる『HERO』は、強力な援護のおかげで膠着ながらも優位に立っていた。

弾幕に押され、葉子の放った流れ弾が偶然、義則にヒットする。

「合戦に(以下略)」

佐藤義則退場。

と、こんな感じで『義経記』は次第に後方へと追いやられていった。

(ここにいるのは美奈と瑠璃華。他は確認できない。だが、銃声は間違いなく数丁の銃によるものだ。だけど……)

有利に戦況を進めている間にも思案していた憐だったが、それは仲間である少女によって、再び思考を遮られる形となってしまった。

「数が少なくなってきたし、あたしはもう突撃するよ。援護して」

一瞬だけ、苦虫を噛み締めたような表情を浮かべた憐だったが、すぐにそれを正す。

突撃の危険性に、憐の中で多少の不安はあったものの、物量で勝てる可能性もある。

憐は割り切ることに決めた。

「仕方ない。皆瀬さんを、3人で援護する形で攻め入ろう」

指揮官の鶴の一声で、葉子は突撃を開始した。

土嚢や瓦礫の影になって、敵の姿は見えない。

だがいると思われる場所を、憐と麗奈が撃ちまくっているためか、敵は顔を出さないでいた。

そこへ、葉子が近づいて撃ちまくる。

……予定だった。

彼女が大きめの瓦礫を乗り越えようとしたその時だった。

瓦礫に隠れていた美奈が、乗り越えようとして重心を崩した葉子の足を、渾身の力で引っぱった。

視線に美奈たちが入り込んだ瞬間に、ウージーSMGを撃つつもりだったのに、唐突な出来事だったこともあって、葉子はなすがままに、うつぶせに倒れてしまう。

困惑した頭を気合で正気に戻し、葉子が慌てて起き上がろうとした矢先。

「フリーズ。お願いします」

美奈の銃口が、葉子のこめかみに突きつけられていた。

葉子の腕は、反射的にシヴザウエルに手を伸ばしていたが、それを握っただけで、ホルスターからは抜けなかった。

バカだの考えなしだのと呼ばれていた葉子だったが、ルールくらいは守るつもりのようで、彼女はしぶしぶ退場していった。

とぼとぼと退場する葉子は、途中で陣形を見たこともあって、バカながら、『義経記』の作戦を把握した。

だが、ヒットされた人物は、プレイヤーに口出しをすることは禁じられているのだ。

そのことに歯がゆさを感じながら、セーフティゾーンへと歩いていった。

で、出鼻をくじかれた形となった憐たちは、戦意をわずかにそがれ、再び膠着した銃撃戦となっていた。

向こうから数丁のエアガンによる激しく銃弾が飛んでくるが、こちらも負けていないし、精度も高い。

(また膠着か。でも、こっちにはスナイパーが2人いる。物量だけじゃ勝てないぜ、美奈、瑠璃華。それに、こっちは3人、そっちは2人……2人だと!?)

ふと、思いつくままに思考の海へと浸っていた憐だったが、その唐突な言葉に、全身に稲妻が走ったかのように閃いた。

2階からの侵入は困難だ。

万一、フラッグへと侵入されたとしても、しんがりは久美に一任してあるので問題はない。

それこそ、蜘蛛の巣にかかった蝶の如き、もしくは飛んで火にいる夏の虫、というやつだ。

だが1階ならどうだろうか。

1階からの侵入路を、憐の頭の中で割り出した。

その結果。

「麗奈、アキ、よけろ!」

ぱん、ぱんっ。

遮二無二、憐は危険な位置にいる2人に注意を呼びかけたのだが、憐の声と同時にエアガンの発射音が響く。

そして憐の注意もむなしく、一人は間に合わなかったようである。

秋彦はワルサーの凶弾が見事に当たっていた。

「ごめん、皆。後は頼む」

秋彦は大きくうなだれ、早々に立ち去った。

麗奈はヒットを免れたとはいえ、憐、麗奈の二人とも、危険な状況には変わりない。

しかも憐と麗奈は、事実上孤立した状況だ。

弾幕は前方と後方に、適度に張っているが、それがいつまで持つかなんて、考えるだけでも絶望的だ。

そしてその時がきた。

かちっ!

憐の弾が、とうとう切れたのだ。

それを合図に攻め込んでくる修一たち。

だが。

とぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ……。

修一には思いもよらない、側面からの攻撃で、表情こそ変えないが、修一はあっけに取られ。

「ヒットー……鍵十字の輩か?」

訳のわからない台詞を残して去る、修一。

もちろん、憐の心の中では(それはヒトラーだ!)という突っ込みも忘れていない。

修一に攻撃を仕掛けたのは、ここにいるはずのないフラッグの守り手、久美だった。

「ふぅ。憐さんの言葉がこっちにまで聞こえて。指揮官が大声あげるだなんて、何かあるかなーって思って」

「も、森嶋さん!? フラッグは……?」

「勝手なことをしてごめんなさい。また戻ります。ピンチだったらまた呼んでね」

髪をなびかせながら振り返って、久美は自軍のフラッグへと戻っていく。

指揮官としては、身勝手な行動は慎んでもらいたいものだが、今回は自分の失策のフォローを完璧にこなしてくれたので、かえってありがたかった。

だからこそ、憐は久美を咎められなかった。

久美のフォローがなければ、彼女が孤軍奮闘しなければならなかっただろう。

てなわけで『義経記』は挟撃に失敗して、再び銃撃戦が始まった。

憐は弾を込めなおして、麗奈と共に弾幕を張り続ける。

そんな中、ある程度のところで、憐はふと現在の状況への違和感を感じた。

「憐さん、どうかいたしました?」

「おかしくないか?」

「?」

「美奈は、ユキメさんから、セミオートで戦うように言われたのに、電動ガンの音は数丁、未だに聞こえてきやがる」

「そういえばそうですわね……。あそこに人がいるとしても、そこにある全自動のエアガンは多く見積もっても3丁ほどですものね」

「多分、考えられるケースとしては、美奈と瑠璃華、それにもう一人……多分ハルカちゃんがあそこで待機してるんだろう。さっき奇襲をかけてきた修一は、P90を持ってなくて、ワルサーで奇襲をかけてきた。美奈はセミオートでのみ戦わなくちゃならないから、P90は持ってないはず。そうなると、瑠璃華がウージーとP90、それにもう一人の電動ガンで弾幕を張ってると思われる」

なおここで補足しておくが、『義経記』のリーダー、ハルカちゃんこと源遼の武器はショットガンであるM3ショーティ。

それ以外、隠し武器も隠し玉もないのである。

だが憐は、そこを読み違えていた。

「……状況だけ説明されても、わたくしは困りますわ」

むっとした表情で、麗奈は憐に聞き返す。

憐はそんな麗奈に気を良くしたのか、納得させるべく口を開く。

「俺たちが撃墜させたのは、修一を含めて3人。向こうにいるのは恐らく3人。つまり、あそこに敵が固まっているんだ。前回みたいに、森嶋さんにフラッグを取りに行かせるのもいいけど、一旦戻る際に1対3になる。これは危険だし、ジリ貧になる。だったらまとめて撃墜する。これに関しては好機というわけだ。というわけで、俺のラスを貸してやるから、一人で弾幕を張っててくれ。俺が後ろから奇襲をかける」

「……って、これじゃあ修一と同じ手じゃない!? こんな策じゃあ、警戒されますわ!」

「同じ策だからいいんだよ。かえって警戒が薄れる」

「……」

納得はいってない様子だが、文句は言わない麗奈。

渋い表情をしていた彼女だったが、信頼できる友人ということもあって、折れることにした。

「仕方ありませんわね。少々しゃくに障りますけど」

そこまで言うと、無理矢理憐のラスを奪い取った。

そしてそのまま美奈たちにむけて自前のスペツナズと、憐から奪ったラスをぶっ放しまくった。

二丁の弾幕で、彼らは麗奈たちの方を向く隙すら与えないようにする。

そしてその隙を突いて、憐は後ろの穴から侵入を試みるのであった。


こちらは『義経記』サイド。

憐は、3人いると踏んだのだが、実は美奈と瑠璃華の2人しかいなかった。

この2人でどうやって弾幕を張ったのか……。

それは後に説明する。

「どうしようみーなちゃん。このままじゃ、ジリ貧だよ」

瓦礫に隠れながら、弱気に問いかける瑠璃華。

秋彦がいないと、いつもの瑠璃華節が炸裂できないようである。

一方の美奈は、非常に落ち着いていた。

何故なのかは、彼女自身もわからない。

だが、美奈の本能が戦場を求めている、とだけ追記しておこう。

「ルリーさん。跳弾は使えないのですか?」

「使えないことはないけど……。でも、憐もれいちゃんもあたしのこの技は知ってるし、さっきからやってるんだけど……」

ここで押し黙る2人。

元々、作戦は他人任せの2人である。

『義経記』のメンバーとして潜入したときも、作戦はリーダーであり、フラッグの守りについている遼に一任していた。

せめて、この2人のどっちかが憐か秋彦だったなら、状況に応じた作戦の一つや二つは考えてくれたに違いない。

だがその2人は敵だ。

ならば、遼の命令を強行するしかない。

彼女らは、常々スナイパーと指揮官の存在が如何に心強いか、を知らされる瞬間であった。

感傷に浸っている彼女らだが、そんな暇すら与えないラスとスペツナズの銃撃が彼女らの前の土嚢を何発も直撃する。

弾幕が一瞬途切れても、弾込めは、熟練のプレイヤー並みに速い。

「これじゃああたしたち動けないよ」

瑠璃華はそう愚痴ったものの、十二単という重い服を着ている状態では、弾幕を張られてなくても動けるものではない。

実際、瑠璃華の肩はこりまくりである。

そんなときだった。

美奈のニュータイプの勘が、唐突に黄信号を点滅させた。

もちろん今まで、この手の勘が外れた試しのない美奈は、第一種警戒態勢を取る。

そしてそれを瑠璃華にも知らせようと思ったとき、美奈の視線に、タクティカルマスターを構えた憐が飛び込んだ。

ぱん、ぱん、ぱんっ!

「あう〜、ごめんみーなちゃん……」

動く隙を与えず、もしくは服と動揺により動くことの出来なかった瑠璃華は、憐の銃撃により倒れた。

(美奈と瑠璃華だけだと?!)

一瞬だけ憐は驚愕したが、顔には動揺を現さず、次の手へと行動を移す。

瑠璃華の撃墜にタイミングを合わせて、憐と麗奈は美奈を挟んで、攻撃態勢を取る。

背後を取っている憐は、当然射程範囲に入るべく、前進していた。

麗奈は二丁のエアガンを構え、美奈の進行を妨げるように立っている。 並みの相手なら、これでチェックメイトとなっていたはずだ。

しかし、東北最強のアタッカーは伊達ではなかった。

憐に背後を向けたまま、美奈は麗奈に突貫したのだ。

「くっ!」

もちろんそれに合わせて、麗奈は二丁の電動ガンを数百発という単位でぶっ放す。

だがそれは、美奈が事前に高く跳躍していたため、後ろにいる憐を誤って撃墜しないため、BB弾は地面をうちつけるだけだった。

とはいえ、跳んでしまえば一定の軌道を描くだけなので、空中にいる相手に狙いをつけるのは容易となる。

だが、美奈は体操選手の顔負けの宙返りをして体勢を整え、麗奈が武器を構えなおす前にセミオートのコルト、それにサムライエッジを空中にいる間に麗奈に構えていたのだ。

麗奈は空中に狙いをつける前に、美奈のトリガーは引かれていた。しかも接近状態で。

どぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ……。

美奈は二丁の銃で、さらにはセミオートとは思えない連射で、麗奈を狙い撃った。

彼女の早撃ち能力、弾の込めなおしの速度、そして卓越した身体能力を駆使した結果、このような芸当をしてみせたのだ。

なお美奈は、空中にいる間に2、3回は弾込めをしていたりしている。

これだけの連射なら、フルオートのものと間違えても仕方ない。

反撃の暇も与えない弾幕は、数十発という単位で麗奈を撃ちつけていた。

「痛たたたたたたたたた……。……ヒットですわ。みーなさん、後で覚えておきなさい……」

近距離で数十発の弾を受けてしまったこともあって、麗奈の顔には青あざが数箇所出来ていた。

去りながらも、切れ長の目で恨めしそうに美奈を睨みつける麗奈。

だがそんな発言を聞く余力はないようで、美奈は顔色を変えずに、綺麗な着地で体勢を立て直す。

美奈を倒そうとしようとした憐に対しても、麗奈にしたのと同様に、コルトとサムライエッジで弾幕を張り、憐を近寄らせない。

一気に畳み掛けるつもりだった憐だったが、美奈の超人的な身体能力によって、それは阻止されたのであった。

タクティカルマスターしか持たない憐は、美奈に反撃できず、そのまま逃げられてしまった。

姿は見えない。

恐らく、迂闊に動いた憐を狙おうという寸法なのだろう、と憐は思う。

確かに、美奈は瓦礫に潜んでいた。

憐も美奈も、フラッグを狙いに行こうとは思っていたのだが、それは可能性の面で断念せざるを得なかった。

一つに、互いに挟撃にあう可能性があること。

そして二つに、互いに単発の銃しか持っていないことが原因であった。


憐は一旦、本陣に戻ることにした。

現在生き残っているのは、『HERO』は憐と久美。

『義経記』は、美奈と遼。

憐と美奈の戦闘力の差は、圧倒的に美奈に軍配が上がるのは明らかだ。

しかし遼の戦闘力は未知数だし、久美に関しても不明。

だが最前線に立つ美奈は、久美の力を借りない限り、まず勝ち目はない。

とはいえそれを行うと、フラッグががら空きになるのだ。

どちらにしろ、ハイリスクハイリターンである。

しかし、それは相手にも当てはまる。

多少不利だが、決して勝てないというほどではない。

「……どうするべきだと思う?」

不安に駆られて、憐は久美に尋ねる。

「そんな重要なこと、私に尋ねられても……」

「そう……か」

予想の範囲内の返答だった。

憐は、自分は指揮官だ、という自覚はある。

しかし万能ではない、という自覚もある。

だからこそ、重要な局面である今、明確な回答が欲しかった。

でも……返ってきた答えはこれだ。

「悪い。俺に任せろ、ってなことを言ったくせに、こんなこと尋ねちまって」

「別に気にしないでよ。誰だって、自分に対して不安になるもんなんだし」

「……」

「そんなに不安になってるんだったら、私が決断するよ。いいの?」

「ああ……」

「だったら、私と憐さんでフラッグに向けて一気に走り抜ける。後は臨機応変に対処、でいいんじゃない?」

割と慎重派、という久美へのイメージがあった憐としては、久美のあっけらかんとした発言に、開いた口が塞がらなかった。

そんな様子でぼーっとしている憐に、心中察して、にこりと笑って久美は答える。

「ヨーコと同じようなことを言うようだけど、深く考えてもしょうがないよ、この場合」

朱に交われば赤くなる、という諺(ことわざ)をふと思い出した久美。

自分もそれに適応される、と思う久美に対し、憐は久美の言葉に同調をしていた。

(俺は、今まで深く考えすぎてたのかな……)

まるで、直江輪と同じような自分に、腹が立つ。

そしてその後悔を抑えるべく、慎重になりすぎるのをやめた。

答えのない問題は、感覚に頼ればいい。

それが答えの時も多いのだから。

吹っ切れた憐は、行動は速かった。

「それなら、森嶋さんと俺とで、一気に本陣まで突っ走ります。本陣近くで敵を発見したらそれをどちらかが相手して、もう一人が敵陣まで突っ走る。……いいですね」

「了解!」

憐はタクティカルマスターを構え、久美はウージーを構えながら突撃を開始した。

ラスは、麗奈の撃墜と同時に手元から離れている。

武器の火力は乏しいが、それでもカンダタが蜘蛛の糸をたどるかのように、僅かな希望にすがるしかない。

自陣近くの2階には敵はいなかった。

そのまま1階へと降り、曲がろうと思った、そんな矢先。

「憐さん! 先に行って!」

そう合図を残した瞬間、憐は敵陣側の2階へと走っていた。

久美はというと、すぐ近くの土嚢に隠れてウージーを放ちまくる。

すると、久美の想像通り、瓦礫から返ってくるのは数十発のBB弾。

「牛若丸モドキ……ううん、ハルカちゃんだっけ?」

「ハルカちゃんって言うなー!」

久美のつぶやきに、地獄耳的に反応する遼。

どうやら相当嫌な思い出があるらしい。

「さあ始めましょう。私と貴方。憐君ともう一人の決戦を……」

その言葉が合図となり、久美と遼、たった2人の壮絶な撃ち合いが始まった。

2人の戦いを尻目に、憐はひたすら敵陣の真っ只中を歩いていく。

万一に備え、瓦礫に隠れながら進んでいるが、その歩みは速い。

そしてフラッグが近づくにつれて、憐の握り締める拳銃にも力が入る。

冷や汗も流れる。

心臓の鼓動も嫌というほど、大きく聞こえてくる。

曲がり角が見えてきても、通りたくない。

怖い。

でも。

やるからには、逃げたくない。

曲がり角を曲がり終える瞬間、憐はタクティカルマスターを構えた。

そこには。

驚いた表情を浮かべながらも、サムライエッジを構えた美奈が立っていた。

「美奈……」

「憐君……」




久美と遼の対決は、異常な程の弾幕の応戦から始まった。

ショットガンゆえ、出来る限り弾幕の意味をなすように、後退しながらショーティを放つ遼に対し、久美は上手く瓦礫に隠れながら、遼の前へと詰めていく。

もちろんウージーによる弾幕も忘れていない。

(甘いわね。こちとら、毎日のようにウチの学校に格闘家どもがケンカしかけてきてんのよ。そんなミエミエの攻撃、当たるわけないでしょ!)

久美は、こういう状況に慣れていたこともあって、自然と余裕を持ちながら闘える。

しかも相手の視線、肩の動き、指の動きなんかを見れば、銃の狙いを読めるので、弾が当たる気配もない。

対する遼は、どちらかというと戦う立場にいなかったため、こういう臨戦状態となると逆にもろい。

しかもショットガンというのは散弾銃であるため、接近を試みている久美は、彼にとって苦手なタイプであると言ってもいい。

彼が辛うじて回避してヒットを免れているだけ、いい方と言えよう。

「くそっ!!」

遼はなるべく久美に近寄らせないようにショーティを放ち続けるしかない。

だが彼我の距離は、もう手を伸ばせば届きそうな距離にまであったのだ。

好機と見て、久美はウージーサブマシンガンを間近で放った。

しかし遼はこれを、咄嗟の判断で身体をずらし、辛うじて回避することができた。

もちろん久美の攻撃時の隙は遼の好機でもあり、思わず口元がにやけた。

だが……。

「え……?」

遼は宙を浮いた。

正確には、久美の足が遼の足を刈り取り、バランスを崩した遼はそのまま背中を地面へと叩きつけられていた。

そんな仰向けに倒れた遼に、久美は容赦なくシヴザウエルを突きつけた。

「私の勝ちね」

しかし、折角ここまで勝ち抜いてきたチームのリーダーだけあって、彼は負けるわけにはいかなかった。

咄嗟にホルスターへと手を伸ばし、銃を久美へと構……。

ぱん。

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」




互いの名前を呆然とつぶやく2人。

そのまま数分も経ったんじゃないか、と思えるほど、2人の時間は長かった。

互いに銃口を頭に狙っている2人。

片手で得物を握る2人。

まるで分かたれた恋人同士が、再会したかのような雰囲気だ。

だが2人は敵同士。

どちらかは引き金を引かなければならない。

しかし。

「……私の負け」

美奈は引き金を引くが、かちっという音がするだけだった。

「もう、このサムライエッジ、そしてフラッグ近くに置きっぱなしのコルトにも、弾は残ってないの……」

「美奈……」

銃を下ろし、自嘲気味に微笑む美奈を、憐はどこか呆然とした様子で見つめていた。

1階の銃声も、その頃には止んでいた。

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

とんでもない悲鳴が1階から聞こえた。

それと同時に、廃墟に設置されたスピーカーからウグイス嬢の声が憐と美奈の耳を響かせる。

「『HERO』の勝利です」

美奈の降参と久美が遼を撃墜したことによって、この戦いは幕を閉じたのであった。

ふと、美奈の表情を確認したくて、憐は美奈の方を振り向く。

そんな憐に、美奈はにこりと笑いかけ、それにつられて憐も笑っていた。



◇5◇


「『HERO』の勝利です」

ウグイス嬢の声が、セーフティゾーンに響いた瞬間、葉子は麗奈にかけよった。

「さあ〜! ユキメっていう人はどこにいるの!? っていうか引き渡せー!!」

試合終了の合図もあって、さっきから楽しみにしていた強敵の名を引き合いに出す。

もちろん、それを条件として出した麗奈につかみかかっている葉子だが。

「痛い、痛いですわ!」

だがまるで聞いていない葉子は、麗奈の喉元を掴んでブンブン振り回している。

(こうなったら、ユキメさんの得意技、“忍法空蝉の術返し”……ってダメですわ!)

そりゃあ、自分にダメージが行くのだから、使えるはずもない。

そんなピンチな状態の麗奈だったが、救いの手は存在した。

「……」

無言で、葉子の腕を掴む修一。

見かけは物静かだが、目には焔のようなものが浮かんでいる。

その気迫に飲まれ、葉子は一瞬ひるんだ。

「修一……」

呆然と呟く麗奈<。P> が、次の瞬間に、修一は目を逸らした。

「な、何よ……」

「来た……」

修一の目線は、葉子とは別の方を向いていた。

その視線へと、葉子もそちらを覗く。

すると、視線の先には女子高生くらいの3人組が、セーフティゾーンへと近寄っていた。

葉子は即座に、彼女らの中に噂のユキメがいるのだと理解した。

「おつかれさ……」

「さあ、ユキメ! 私と勝負しろ!」

声をかけようとしたユキメだったが、それは葉子のファイティングスタイルによって阻まれた。

自分を名指しで呼ばれて、ただで済ませる気なんざ、さらさらありゃしないユキメである。

だが、ユキメの目から見た葉子は、明らかに強そうな人のオーラ、というか炎がバックで燃え盛っている。

そんな相手と戦って、ただで済むはずがない。

トラブルの際の、ユキメの機転はすごかった。

「大変ね、ユキメちゃん」

とユキメは言うと、チサトの肩をポンと叩いた。

もちろん、何のことだかさっぱりのチサトは、戸惑うだけである。

ユキメ自身も状況が掴みきれていなかったが、トラブルだということはわかっていたようだ。

そんな訳で、強敵が誰なのか、見事に勘違いしてしまった葉子の目線は、完全にチサトに釘付けとなっている。

「いざ尋常に、勝負!」

「え、え?」

戸惑うチサト。

間合いを計り、いつでも攻撃できる態勢をとる葉子。

そんな中、状況を理解した翔子は、呆れながらユキメにつぶやいた。

「あんた、相変わらずの悪党っぷりねぇ」

「えー? 何のことぉ? わかんないですぅ。ぷんぷん♪」

ユキメは、同性が見たら、ムカツキ度120%なブリッ子っぷりで受け流す。

異性が見たら、少しはかわいいと思うかもしれないが、やりすぎだ。

何せ、少女漫画風に、目に星をきらきら入れているのだから。

まあそんなユキメは放っておこう。

完璧な間合いをとった葉子はそのまま、世界を取れる右ストレートを、状況をまるで理解しておらず、構えすらとってないチサトに放った。

みしっ!

……。

……。

チサトと葉子の腕は交差して、チサトの拳が葉子の頬を貫いていていた。

「あ、あれは噂の交差法……」

瑠璃華は、呆然としてつぶやく。

数倍の威力として返ってきた拳は、葉子の意識を断ち切るのには十分だった。

葉子は身体を支えられるはずもなく、そのままうつぶせの状態で倒れ伏せた。

チサト、修羅の道を嫌でも歩まされる少女。

彼女の受難は、ユキメと付き合う間はまだまだ続く。



◇6◇


朝から始まったこのサバイバルゲームの大会も終わりを向かえ、久美、恵美は優勝者として、トロフィーを受け取っていた真っ最中だった。

なお、葉子はチサトの一撃が響いて、いまだに意識が戻っていない。

「森嶋さんと矢島さん、うれしそうだ」

「だね」

遠巻きから眺めている憐と秋彦は微笑を浮かべていた。

が、そんな憐と秋彦の呟きを聞いていた美奈と瑠璃華は、揃ってむくれていた。

なお、遠巻きから眺めているとはいえ、彼らも入賞を果たしているので、それほど遠くなかったりする。

「……どうした、美奈?」

「瑠璃華?」

「別に……」

「しらないっ!」

まるで自分の気も知らない恋人(もしくは友達以上、恋人未満)の彼に、美奈は不満げな顔を維持したまま目を逸らし、瑠璃華はそっぽを向いた。

そんなラブコメなシーンを見て、修一は相変わらず表情を見せず、麗奈は苦笑していた。

「……この大会を勝ち抜いた彼女らに、拍手〜」

司会の言葉に、手を叩く者もいれば、何かしら名前を叫ぶものもいる。

『HERO』三人娘の美少女二人なのだから、男性の受けがいいのも頷ける。

「ところでリーダーの森嶋久美さん。どうして六人一組なのに、貴女方二人なのですか?」

司会から、意地の悪い質問に、久美は冷や汗たらたら心臓バクバク、視線は見事に明後日の方を見やり、口を開く。

「え、ええとですね。ヨー……皆瀬さんはき、緊張の糸が切れてですね……バッタリと……。三島さんと佐々木兄弟は、急用があると仰ってまして……」

しかし久美の本音は、心の中でしか語られることは無かった。

(い、言える訳ないじゃない!! ヨーコは女の人に殴りにいって返り討ち、三島さんと佐々木君と靖也君は株価の大暴落で教団に戻ったなんて……)

「ですけど他の参加者で、六青さんと晴日さんと天丸さんという方々がおりまして、彼らの活躍で決勝戦を勝ち抜いたのでは?」

「はい。ですけど、彼らは急に姿を消しまして……どこにいるんでしょうか?」

一応久美が辺りを見渡すが、彼らの姿は目に飛び込んでは来ない。

否、飛び込んでくるが、彼らだと認知しない。

助っ人三人組がいないとわかった観客は、露骨にブーブーと不満そうであった。

何せ、あのきりタンに似た青年……観客は学生服を着た少女だと思っている……に加え、セミロングで少々きつめのセーラー服美少女が現れないのだから。

秋彦はおまけみたいな存在なので、観客は気にしていない。

哀れ、秋彦。

なお麗奈は、どこぞのティアラを武器にしたりしないし、「月に代わって……」とか言ったりしないし、白い悪魔に乗った人の声で喋るタキシードを着た変態が恋人ではないし、声優は三石琴乃ではない。

で、そんな当の本人たちは。

「だとよ、麗奈」

「……憐さん。自分の魅力に、まだ気づいてないんですの?」

迷彩服にフェイスゴーグルと、サバゲープレイ時のフル装備のまま、軽口を叩き合っていた。

麗奈に関しては、縦ロールに戻しようがなかったので、翔子と同じように髪をまとめているのだが。

『HERO』の前にいるときとさして変わらない格好なのだが、気づいてないようだ。

人の固定観念とは恐ろしいもので、久美たちは、憐のことを“詰襟を着た、霧華に似た少年”、麗奈のことを“セーラー服を着た、セミロングの超絶美少女”、秋彦のことを……秋彦はまあいいか。

とりあえず久美たちはそう思っていたのである。

今の憐たちの姿は迷彩服にフェイスゴーグルなので、久美が思っているような人物ではないと、勝手に思い込んでいるのだ。

補足程度のことだが、作者が秋彦のことをぞんざいに扱いすぎたために、少し秋彦に黒い怨念が纏ったような気がするが、きっと気のせいである。

「続きまして、青森県代表『イクサクニヨロズ』……変わった名前ですねぇ」

気が付けば、他のチームの入賞祝賀は終わっていたようだ。

憐たちは一歩前に出て、観客に向けてお辞儀をした。

「東北大会入賞を果たし、全国大会への切符を手に入れた彼らに、拍手〜」

本当に、読者にとってはつまらないことなのだが、何事もなくサバイバルゲーム東北大会は終結した。

日は暮れ始め、空は赤みがかっていた。

「にしても、いきなり玲……こっちではユキメだっけ? で、ユキメの奴に呼び出しくらって、岩手まで来るとは思わなかったわよ」

「だからそう文句いわないでよ〜、翔子ちゃん。今度ノート貸してあげるからさ、ね♪」

「……まったく、しょうがないわね」

一応、並みの男ならおとせそうなかわいらしさで懇願するユキメだったが、翔子はむしろノートに魅力を感じているようだ。

どこか翔子の口の端が上がり気味なのは、決して気のせいではないだろう。

そんな最中、唐突に翔子の付き人、新井が口を開いた。

「お嬢様。帰宅のお時間でございます。これ以上ここにおられると、奥方様が心配なさるゆえ」

「っと、もうこんな時間だ。明日は学校あるし、お母様を怒らせたくないし、お先に帰らせてもらうわ」

「それでは、お嬢様がご迷惑をおかけいたしました」

「って、こらー新井!!」

翔子は怒って見せるが、そこは熟練の執事なだけあって、動じることなく憐たちに会釈をした。

「また会いましょう、師匠」

「だから、私は師匠じゃないって……」

瑠璃華は、あれだけ翔子が否定しているのに、未だに師匠と言っている。

だが慕われるのは悪い気分ではないため、むくれているのでなく苦笑だ。

リムジンの戸を開ける寸前、後ろを振り返り、翔子は瑠璃華に手を振った。

「またね」

こうしてマッドアルケミストな社長令嬢は去っていった。

「それじゃあ、私たちも行きましょうか、ユキメさん」

「そうね、チサトちゃん」

チサトはどこからともなく取り出したヘルメットをかぶり、器用に髪をヘルメットの中に入れていく。

そしてもう一個、どこからともなく取り出したヘルメットをユキメに投げる。

チサトは愛車「アンノウン」にまたがり、ユキメはその間にもヘルメットをかぶる。

「チサトさん」

と、ユキメがヘルメットをかぶるのに悪戦苦闘しているとき、思い切った表情で美奈がチサトを呼んだ。

「あの……その……」

言いにくいことなのか、美奈はしどろもどろだ。

視線は見事にチサトからはずし、手はどこか落ち着かなくもじもじ。

「あのっ! ……また」

「はい。またお会いしましょう、皆さん」

チサトは、ヘルメットで隠れているものの、笑顔で応えてくれた。

だが、美奈は何故か、しまった、という表情であった。

(今度、組み手しましょう、だなんて言えないよ……)

そのことを、美奈以外誰も知らない。

ヘルメットをかぶり、ユキメも「アンノウン」にしっかりとまたがり、チサトは「アンノウン」のエンジンをふかす。

しばしの別れのときであった。

「皆、じゃねっ。全国大会前に会うと思うけど、カッコイイから言わせて。全国大会で会いましょう!!」

「そういう余計なことは言わんでいい!」

憐が反射的にツッコミを入れるのだが、ユキメはそれを無視して、チサトの背中に片手で掴まりながら振り返り、もう片方の手を振った。

そんな、彼女たちの背中を見て、全員が微笑を浮かべていた。

「さて、俺たちも帰るか」(←憐)

「うん」(←美奈)

「御意」(←修一)

「わかりましたわ」(←麗奈)

「ああ」(←秋彦)

「わかった」(←瑠璃華)

「ちょっと待ってーっ!!」

帰ろうとした『イクサクニヨロズ』を止めて、走り寄って来る少女が一人。

少女は近くまで来ると、乱れた息を整えるため、深呼吸をする。

「本日はありがとうございました。憐さん、麗奈さん、秋彦さん」

流石に私服で、なおかつ顔を隠してないだけあって、少女は3人のことがわかるようだ。

少女……久美はにっこりと微笑んで、頭を下げる。

「気になんかしてはいませんわ」

「そうだ。憐殿たちも楽しめたそうだからな」

で、何故か率先して話し出す修一と麗奈。

憐も秋彦も、話そうとした矢先の行動だったので、二人とも口をぱくぱくさせるだけだった。

もしかしたら、秋彦は心の中で「オレの出番が〜」とか言ってるのかもしれないが、やはり気のせいである。

(これ以上人間関係をややこしくしても、問題ありますしね)

影で、美奈と瑠璃華が怖い顔をしていたが、麗奈が行動していたのでその表情は消えている。

つまりはそういうことだった。

「あの……麗奈さん。また会えるといいですね」

久美はにこりと、彼らに向けて笑いかけた。

彼女としては、永遠の別れに近いものと思ったのかもしれない。

(多分、会えますけどね)

だが、彼らは全国大会に進出できるチームであり、麗奈の思いの通り、再び会えることを、久美は知らない。

だから、麗奈は言葉を選んで、こう言った。

「再び会えるときを、楽しみにしていますわ」

ナレーション「こうして彼らの、東北大会での戦いは終わった。だがこれからが本当の戦いのとき。敵に負けるな、イクサクニヨロズ」


「最近、オレって目立ってないし、ぞんざいに扱われてるよね。オレっていらない子なんだ……」

フォントが小さくなるくらい、漆黒のオーラを纏っている秋彦だったが、まさに秋彦の言うとおりなのかもしれない。

「そんなこと言わないでくれよ……。決勝戦も、オレの見せ場ほとんどないし……。ツッコミも憐がほとんどやってるしさ……」

秋彦に輝ける明日はあるのか、それは読者の慈悲だけが知っている。


次回予告

「彼らの戦いは幕を閉じた。
再び日常へと舞い戻る少年たち。
しかし物語は、全て終わってはいなかった。
光あるところに闇はあり、表あるところに裏はある。
闇であり裏である、そんな彼らのエピローグ。
今、全ての真実が語られる。
次回いつわりのものたち第七話『イクサクニヨロズ余談』

大いなる明日へ飛べ『イクサクニヨロズ』」


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