投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第五話半


「イクサクニヨロズ外伝」

◇1◇


『イクサクニヨロズ』が『てつはう』と戦うちょっと前。

ここは会場入り口前の採掘場(何でそんなものがあるんだっ!)。

「ここか。我らがきりタンの肉体と可憐な精神がある場所は」

ナレーション「そう。彼ら『シャイニングきりタンファンクラブ怪人』たちは、きりタンこと直江霧華の魂と肉体を取り戻すべく、『イクサクニヨロズ』のいる戦場へ乗り込もうとしているのだ! 危うし、『イクサクニヨロズ』!」

「俺たちが必ず、きりタンの美の女神すら羨む身体、そして至高ともいえる珠玉の魂を、魔の手から救い出してみせる!」

「ハーイル、きりタン!」

「ジークきりタン、ジークきりタン!」

「青き清浄なる、きりタンの為にぃ!!」

……まあ彼らの見解には、ある程度の誤解があるのだが、その辺はツッコまないで欲しい。

とはいえ、彼らの意気込みは絶大だ。

よく見ると、バックには炎が激しく舞い踊り、さらにはスペードやらクラブやらハートやらダイヤやらが渦巻いているようだ。

まあ、弓や薙刀を持った者や、セーラー服を着てリボンやフープを持った者はいないのだが。

だがそんな、正義の炎が渦巻いていても、それを妨害する悪の組織というのは存在するのであった。

「待ちなさい!」

「誰だ!」

美しく響く女性の声に、リーダーである『シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.3』が思わず声をあげた。

他の怪人たちも、声につられて高台を凝視する。

するとそこには、きりタンには及ばないまでも(怪人主観)、かなりのレベルの美女二人が仁王立ちしていた。

そのうちの一人、アップテール気味のポニーテールにクリーム色のベスト、ブラウス、そして赤を基調としたチェックのプリーツスカートを身につけた女性が、声高々に宣戦布告を述べたのである。

「この世に正義なんて必要ない。この世に悪なんて必要ない。あるのは自己満足という名の偽善のみ。それを正当化しようなんて、悪も正義も風上にはおけないわ! 悪と情報と粘着性の情報屋、イービル・ユキメ(仮名)ただ今参上!」

「……ユキメさん。恥ずかしくないんですか?」

同伴しているチサトがかわいそうになるくらい、二人は目立っていた。

ちなみにチサトの格好は、以前のライダースーツと変わりはない。

だが、いつものおさげを解いているため、かなり親密な人物しか知りえない、艶やかで長い黒髪が露となっていた。

普段は地味な格好で抑えているが、チサトはお世辞抜きで、相当の美人なのである。

「とうっ!」

と、掛け声と同じくしてユキメは高台から、怪人たちの下へと飛び降りた。

スカートなのだが、下にスパッツを着用しているので、ショーツが見える心配はないようだ。

ちなみに、色気に関する文句は受け付けないので、御了承ください。

そんなユキメを見て、ため息混じりでチサトもそれに続く。

だが、ユキメの着地と同時に、その足から、相当に嫌な音が響いたのであった。

「うぎゃあああああっ!! 足が、足がぁぁぁぁぁぁ!!」

ユキメとは対照的に、チサトは着地に成功したらしく、痛がるそぶりは見せない。

とはいえ、精神的にはダメージを受けたのか、ため息は隠せない。

「くぅっ! まさか、飛び降りることを見越して私たちを高台に立たせ、落下ダメージを与えるなんて……。やるわね!!」

どこからどう聞いても、付け足したかのようにしか聞こえない台詞に、やっぱりチサトのため息の濃度は増えていく一方である。

ちなみに、何故かユキメの足にはギプス、そして手には松葉杖が握られていたり。

もちろん、チサトだけでなく、怪人たちも呆れてものが言えないようである。

だが、それは一時のことだった。

突如怪人の頭に、まるでコンピューターが検索をかけているかのように、ユキメとチサトの情報が流れ込んでくる。

その内容に、怪人全員が心なしか青ざめているようだ。

そして怪人の一人が、つぶやくように言葉を漏らした。

「ま、まさか……あんなアホな二人組が……“双剣”のユキメと“神殺し”のチサトだと……?」

その怪人が口にした通り、チサトとユキメの二人は、揃って二つ名を持っている。

ユキメは名の通り、二本の武器を手に、多くの怪人(ただし実際は雑魚のみ)を屠ってきた。

チサトは、ユキメとは多少異なり、噂の範疇なのだが、それでもユキメ以上に多くの幹部を屠ってきたのは間違いない。

そしてこの二人+数人の仲間が、関東支部を崩壊に導いたのである。

閑話休題。

「だ、だが俺たちにはきりタンの祝福がある!! 正義の名の下に、俺たちは負けられない!!」

しかし、ユキメは怪人の言う「正義」という言葉に反応して、ぴくりと眉を動かした。

「……ふん。押し付けがましい「正義」を語るなんて、バカじゃないの?」

明らかに不機嫌な口調のユキメ。

その様子のまま、ユキメは話を続けた。

「「正義」なんてのは、故人が残した偽りの言葉にしか過ぎないわ。勝てば正義、負ければ悪。こんなの常識でしょ? 勝ちもしてないくせに、「正義」なんて、粋がるのも程ほどにしてよね。ま、それでも「正義」を語るなら、私たちは悪でもいいけどね」

言葉を並べていくうちに、ちょっとずつ、いつもの明るさを取り戻していく。

チサトも少し安心したのか、少し表情を崩した。

「そうですね。私たちは信念を持っていますが、正義だの悪だのっていう括りは持ってません。ですから、そちらが「正義」を語っても、問題はありません」

「だけどね……。私たちは、自己満足なだけの正義だったら許してあげたけど、他人に幸せの定義を勝手に押し付けときながら、「正義」を語るなんて、許せない! 悪人である私たちが成敗してあげるわ!」

ユキメはそう言い放つと、二本のナイフと一本の刀を取り出した。

「はい、チサトちゃん。久しぶりの得物」

「……? これって、憐さんの“吉祥天”ですか?」

「そ。勝手に拝借させていただきました〜」

ユキメは“吉祥天”を放り投げるようにチサトに渡し、自身の得物である二本のナイフのうちの一本を怪人たちに突きつける。

チサトも久しぶりの得物に、複雑そうな表情を浮かべながらも、左の腰あたりで“吉祥天”を構える。

そんな二人の戦闘モードに気圧されたのか、怪人たちは一、二歩後ずさった。

確かに、噂どおりの気迫に満ちた二人組だった。

しかしそんなことであきらめられないのが、この『シャイニングきりタンファンクラブ』である。

もうちょっと具体的に言えば、「きりタンの為なら死ねる!」のである。

しかも、相手は噂に名高いとはいえ、傍目から見ればどこにでもいる女子高生。

勝てると思い込み、嫌でも戦意が高揚するものだ。

「我が命、きりタンの為にぃぃぃ!!」

そう叫びながら突出する怪人たち。

だが、それこそがユキメの罠であった。

「ぐいっとね♪」

そう言うと、ユキメは一本の縄を真下に引いた。

明らかに、先端の両方ともが重力にしたがって垂れているが、それでも引いたのだ。

そのユキメの動作の直後、二人の前から怪人たちが消えた。

……いや、言葉どおりではないのだが、少なくとも何も知らないチサトにとっては、そう見えた。

何事かと思い、恐る恐る、怪人たちが消えた現場へと近寄るチサト。

そこには、黒く、ポッカリと空いた大きな空洞があった。

もうちょっと具体的に言えば、落とし穴である。

「いやー、数日前のヲルスバンの撮影で、落とし穴のロケがここで行われたらしいから、使わせてもらっちゃった」

てへ、とちょっとぶりっ子気味に、ユキメはチサトに媚を売る。

とはいえ、媚が通用するような人物ではないため、チサトの反応はなかったが。

しかし、それで終わりかというと、それも違う。

奈落を思わせる、大きな縦穴から這い出す人型怪人が5名ほど。

「余と戦う権利があるのは、この5名か……なーんてね♪」

「て……てめぇ。あれだけ深い穴作っといて、底に竹槍仕込むとは、どういう教育受けてるんだ!?」

「ベトナム戦争で使われてる戦術、パンジステークでしょ?」


パンジステーク[ぱんじすてーく]:落とし穴を掘り、底に竹槍などの鋭利なものを仕込んでおくトラップ。


「安心して。槍全部に、即効性の麻痺毒が仕込んであるだけだから」

こういうことをさらりと言ってのけるユキメ。

その時、チサトは改めて思った。

この人を敵に回してはいけない、と。

だが……。

「じゃ、後はチサトちゃんに任せたわ。ヨロピク♪」

そういい残して、スタコラサッサ(死語)とユキメは去っていった。

よく言えば「戦略的撤退」、または「転進」。

しかし実情は「逃げ出した」ということになる。

先ほど、骨折のような仕草をして見せたユキメだったが、今はまるで痛がる様子などないのである。

そう、チサトは同時にこうも思っていた。

この人の味方になってはいけない、と。

そのときのチサトは、ため息とともにに魂が抜けそうなほどであった。

「……もう、ちゃっちゃと済ませますか」

このままでいると、多分気力が上がらないと予想し、さっさと終わらせるべく、左手の親指で鍔を持ち上げた。

すると、鈍く光る刃物が、鞘の中から僅かに顔を出す。

その様子に脅えが生じたのか、怪人たち5名は僅かに後ずさる。

チサトに関する噂の一部が、怪人たちの頭をよぎった。

関東支部で最も強い、と噂高い『人口ドーナツ化怪人』が、この“神殺し”のチサトにやられた、という噂も……。

しかし、彼らには「きりタンを救う」という大義がある。

噂に脅えるわけにはいかなかった。



◇2◇


ここで話をちょっと変えるが、彼らは一様にして、ムキムキマッチョな肉体をベースに、きりタングッズで身を固めている。

だが、個性はあるのだ。

そのうちの一人、きりタングラブを身につけた怪人が、シャドーをしながら名乗りをあげる。

「我こそはきりタン同盟の『クイーン・ザ・スペード』、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.12』!」

「チボデー・クロ○ット?」

そして、身体の周りにきりタンビット(爆)を纏わせた、気障な雰囲気の怪人が続く。

「我こそはきりタン同盟の『ジャック・イン・ダイヤ』、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.11』!」

「ジョルジュ・ド・サン○?」

今度、名乗りを上げたのは、全員より小柄な怪人だ。

「我こそはきりタン同盟の『クラブ・エース』、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.10』!」

「サ○・サイシー?」

もういい加減つらくなってもきたが、次は先ほどとは違って、一番の体格の持ち主である。

「我こそはきりタン同盟の『ブラック・ジョーカー』、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.7』!」

「アルゴ・○ルスキー?」

そして最後に現れる人物こそ、彼らのリーダー的存在である……。

「我こそはきりタン同盟の『キング・オブ・ハート』、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.3』だ!」

「やっぱり、○モン・カッシュなのね……」

何となく予想していたチサトなだけに、気力−10は免れなかったのである。

もちろん彼女に「気合」という精神技能はない。

彼女の持っているのはせいぜい「加速」「集中」「熱血」「不屈」「魂」「覚醒」といったところなのである。

当然気力は下がる一方である。

だがそんなチサトはお構いなし、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人』は、全員が全員、右手をチサトの方に構えていた。

「この魂の炎!」

「極限まで高めれば!」

「倒せないものなど!」

「なにもない!」

「これで、決まりだぁ!」

「俺の心が!」

「真っ赤に燃える!」

「きりタン救えと!」

「轟き叫ぶ!」

「ばぁくねつ!」

「「「「「きりタン、同盟ケェェェェェン!!!!!」」」」」

一連の動作を終えて、脱力しきっているチサトに向けて、気の塊を放出した。

そしてその五つの気の塊は互いに混じりあい、次第に一つとなっていく。

一つとなった気の塊は、そのままチサトを襲う。

どっかーーーーーーーん!!

チサトに直撃したかと思うと、次の瞬間には爆発、そして粉塵が巻き起こる。

「我ら、きりタン同盟拳」

「如何に“神殺し”と言えど」

「かわせるものは」

「なにもない」

「さあ、我らがきりタンの下へ!」

「……させませんよ」

粉塵から、女性の声が響いた。

怪人たちに嫌な汗が流れ落ちる。

倒したはずだと思っていた人物の声がすれば、怪人たちが戦慄を覚えるのも当然だ。

「確かに、当たれば私ではひとたまりもありません。……当たればの話ですが」

粉塵が晴れてきた。

そこには想像の通り、チサトが何事もない様子で突っ立っていた。

怪我どころか、ライダースーツにすら影響はない。

「そうか、なら……質より量で勝負するまで!」

NO.3がそう言うと、チサトを囲むように移動した。

チサト自身、別に囲まれても問題がないのか、動く気配はない。

真っ先に動いたのは、NO.11だった。

「行けっ! きりタンビットォ!!」

NO.11は、自らに纏わりつくビットを、チサトに向けて放った。

……ちなみに、霧華の顔をしたビットでなく、そういう名称の薔薇のビットなので、勘違いの無い様。

「これが、俺の奥の手だ!!」

続いて、NO.7が力いっぱい地面を叩くと、地面が隆起していく。

そしてその隆起はものすごいスピードでチサトに襲い掛かる。

「受けてみろ。俺の、俺のパンチをっ!!」

次に動いたのはNO.12。

接近戦が主体のようで、NO.11とNO.7の援護を受けながら突貫していった。

「天にきりタン、地にクラーマ様! 目にもの見せるは最終秘伝、真・流星きりタン拳!!」

NO.10は、NO.12同様に援護を受けながら攻撃する。

ただし、空中からの攻撃で、攻撃のタイミングはNO.12と重なる。

「俺の心が光って唸る! きりタン救えと輝き叫ぶ! 砕け、必殺! シャァァァァァァァイニング、きりタンフィンガーーーーッ!!」

そしてとどめはNO.3がこなすようで、時間差をつけて突撃してきた。

確かに、必殺のコンビネーションだったかもしれない。

しかし。

「……裏百式『覇王七星斬』!!」

チサトは“吉祥天”を居合いの要領で振り抜いた。

その斬撃は大胆かつ緻密。

ビットを全て叩き落とし、襲い掛かる隆起を軽々と切り捨てる。

もちろん、それとほぼ同時に襲い掛かったNO.12とNO.10も、真っ二つにしそうなほどの勢いでなぎ払った。

もし、NO.3が時間差でこなかったら、恐らく彼もチサトの刀の餌食となっていただろう。

そう思うと、NO.3の冷たい汗は、止まることがなかった。

そんな激しいほどの戦慄を覚えている怪人たちだったが、チサトはあっけらかんと不満を漏らした。

「……やっぱり、美奈さんみたいに、広範囲に攻撃できませんか。得物の長さもありますから、しょうがありませんけど……」

チサトは、NO.3も射程範囲として加えていたようだ。

余談だが、チサトは一度見た技なら、ある程度真似できるほどの眼力の持ち主なのである。

もう一度刀を鞘に戻し、再び居合いの構えを取るチサト。

そんな彼女を尻目に、NO.11とNO.7は倒れ伏せている仲間を見つめていた。

怪人たちは、普通の攻撃では死ぬことはない。

とある条件を満たすか、弱点を攻撃しない限り、死ぬことはありえない。

そうだとしても、チサトはわざと急所を外したようだが、それでもそれは怪人たちの苦しみを長引かせているだけ。

激痛にもだえ、そして苦しんでいる仲間を見て、NO.11とNO.7は怒りに身を任せ、突撃していた。

「行くなっ!」

NO.3の言葉に耳を貸さず、チサトに突撃する怪人2人。

「裏弐式『獅交殺』!!」

続いても、チサトは美奈の技を放つ。

高い殺傷能力を持つ突きだが、それでも急所だけは見事に外し、NO.11もNO.7ももだえ苦しんでいる。

「さあ、後は貴方だけ。……退いてください、命までは取りません」

優しげに、そして儚げにチサトはNO.3に向けて言った。

怪人たちの大量の血にまみれながらも、平然としていることと、その実力を持つ彼女は、確かに“神殺し”という名にふさわしい戦闘能力と残虐性を秘めている。

それでも、NO.3は絶望するわけにはいかなかった。

それはあの笑顔のため。

いかに強力で極悪な相手であろうが(怪人主観)、愛した女性(男性?)のために、負けるわけにはいかないのだ。

そのとき、彼の頭に、一条の希望が舞い降りた。

それは圧倒的閃き。

そしてそれは、チサトに対しての攻略となるものであった。

「うおおおおおおおおおっ!!」

やぶれかぶれで、NO.3はエネルギーの塊をチサトに向けて放った。

もちろん、かわされることが前提だ。

それに合わせてNO.3も突撃した。

しかし、チサトはそこでも超人的なことをしでかして見せた。

“吉祥天”を抜き放ち、それを野球選手のように構えたと思うと、エネルギーの塊を打ち返したのだ。

「落○流首位打者剣……。貴方の攻撃は、○坂選手や伊良○選手の球より遅い……」

完全に幽○白書な技だが、実際にやれる奴はそうそういないだろう。

だが、そんな予想外の行動も頭に入っていたのか、NO.3は跳ね返ってくるエネルギーの塊を紙一重でかわしながら突撃を継続させる。

「鞘から抜くときに発生する、数倍の速度で放たれる斬撃こそ、居合いの真骨頂! すなわちお前は、牙をもがれた猛獣に等しい!!」

NO.3の言うとおり、チサトが刀を鞘に戻す暇はない。

「シャァァァァァァァァイニング、きりタンフィンガーーーーーーーッ!」

最大戦速で放たれた攻撃は、当たれば大岩をも砕くであろう。

だが、その攻撃はチサトに届くことは決してなかった。

NO.3の手が届く前に、チサトのつま先がNO.3の顎をクリーンヒットしていたからだ。

ダメージは、“吉祥天”より軽いものの、顎に当たった影響で、脳の活動は一時停滞する。

「私は刀だけが武器ではありませんよ……」

相手が空中に浮いている間に、刀を鞘へと戻し。

「さようなら……」

そして、チサトの抜き放った攻撃は神速をも超える……。

「黒川流剣術『三つ葉葵』!」

のけぞっているNO.3に、全身全霊の力を込めた三連撃をかました。

三つ葉葵の茎をなぞるかのようなその三連撃は、NO.3の意識を断つのには十分すぎた。

彼女が再び刀を鞘にしまうとき、NO.3は力を失い、地面へと倒れ伏せる。

戦いには勝った。

しかし、実際は平和を望む彼女。

チサトの表情は決して明るいものではなかった。



◇3◇


「くっ、まさか『シャイニングきりタンファンクラブ怪人』たちが、“神殺し”のチサトに全てやられてしまうとは!!」

ここは採掘場の一角。

そこにいる一人の人物は、予想外の展開に、激しい苛立ちを感じた。

思わず、歯軋りしてしまうほどに。

そう、この人物こそ、霧華のファンを怪人の姿へと変貌させた張本人なのだ!

だがふと、その人物は脳裏に閃くものを感じた。

ここからはチサトの姿が丸見えだ。

しかも、相手からはそうそう見えるような位置にはいない。

その閃きに、その人物はにやりと笑い、懐から一丁の拳銃を取り出した。

もちろんそれをチサトに向けて狙い済ます。

「さらば……“神殺し”のチサト……」 だが。

その弾丸は放たれることはなかった。何かが当って拳銃がはじかれたのである。

「何っ!」

ふと落ちた拳銃の方を見てみる。

そこには、自分の持っている拳銃のほか、大きめのナイフが転がっていた。

「チサトちゃんは、そんなのに当たるようなタマじゃないけど、放ってはおけないよね」

にこりと笑う、ナイフ使い。

その人物には見覚えはあった。

ポニーテールで、どこぞの学校の生徒を思わせる格好。

“神殺し”のチサトと共にいる、“双剣”の……。

「ユキメ……」

「大当たりよ。魔王クラーマ東北支部幹部“怪人作成怪人”さん。呼びにくいから、かいちゃんって呼ぶけど」

かいちゃんは、憮然としたまま、ユキメを睨みつけている。

そんなことはお構いなし、ユキメは話を続けた。

「それにしても、怪人って聞いたから、変な人を思い浮かべてたんだけど、普通の女の子だったのね。ちょっと予想外」

ユキメの言うとおり、かいちゃんはごく普通の女の子だ。

歳は中学生くらいで、ショートカットの美少女。

服は白いワンピースと、これでは人として紛れ込んでいてもわからない。

『シャイニングきりタンファンクラブ怪人』たちを、怪しまれずに変貌させたのも、納得がいく。

「……それはお前たちもだ。“神殺し”なんて、どんなゴツイ女かと思えば、貴様もただの美少女にしか見えないな」

「ありがと、美少女だなんて」

「しかし……すぐにお別れだな」

そこまで言うと、そのかいちゃんは予備のトカレフを取り出し、狙いをユキメに定めた。

「魔王クラーマ様のため、貴様には死んでもらう」

「生憎だけど、私はまだ死ぬわけにはいかないの」

ユキメは両手に大きめのナイフを持ち、それを握り締めた。

とはいえ、剣が銃に勝てる道理はなく、もちろんナイフでも同じだ。

……普通の人物なら。

かいちゃんは、躊躇することなく、トカレフの引き金を引いた。

だが。

「なにっ!」

ユキメは引き金を引くタイミングを計り、かわしたのだ。

弾丸はむなしく空を切り、慌ててかいちゃんは再びトリガーを引こうとする。

だがその二度目の攻撃を放つ前に、ユキメ一気に間合いを詰めていた。

もちろん、近ければ銃を撃つには近すぎ、逆にナイフの間合いとしては最適となる。

「チェックメイトよ」

ユキメはかいちゃんの右肩、左肩から、二本のナイフで袈裟懸け逆袈裟に切り下げた。

純白のワンピースを、かいちゃんの血で赤く染める攻撃。

だがそれだけでは終わらず、ユキメは右手のナイフを思いっきり、突き刺した。

狙いは先ほどの斬撃の交差点である、鳩尾。

技をかけおえたとき、確か技の名前は友人が付けてくれた、とふとユキメは思い出した。

「ジャックナイフ……だったっけな」

あれだけのコンビネーションを受けて立っていられるはずもない。

かいちゃんも例に漏れず、ユキメの言葉が言い終わったとき、仰向けに倒れた。

ただ、意識を断ち切るには不十分だったようで、はっきりとした目線で、呆然と青空を見つめている。

「さあ、東北支部の幹部さん。私たち、裏の世界の犯罪者、魔王クラーマに関することを教えてもらうわよ」

「……断る」

肩で息をしているユキメに、静かに断るかいちゃん。

「……別にいいわ。尋問も出来るけど、私の仕事じゃないし。それに、調べようはいくらでもあるもの」

「一つ聞きたいことがある」

「……何?」

「何故、我らに抗う? 貴様に、クラーマ様や直江霧華とは関係はないはずだ」

その質問は、ユキメにとっては愚問だった。

考えるまでもない質問に、思わず笑みがこぼれてしまうほどだ。

「親が、子どもの平穏のために戦うのは、当然のことでしょ」

確かに、『イクサクニヨロズ』はセンゴクマンの偽者として生まれいづる者たち。

しかし、彼らはもう一個の人間なのだ。

そして平穏に暮らす彼らを、再び魔王クラーマと関わらせてはいけない、とユキメは思っている。

だからこそ、チサトの力も借りてでも、ユキメは『イクサクニヨロズ』の平穏を守り続ける。

「もう誰も、私のような思いはさせない……」

「ユキメさん!」

真面目な表情でつぶやいていたユキメだったが、チサトの呼ぶ声がして、ふと我に返った。

もちろん、その表情をすぐに消し、いつもの捉えどころのない、にこやかな表情を浮かべる。

「どーしたの、チサトちゃん」

「あの怪人たちは、容貌も、怪我も元に戻りました。何故か、憐さんたちの記憶も消えていましたが……」

だが言いづらいことがあるのか、そこでチサトは押し黙った。

「? まあいいや。それより、この子ね」

そう言うと、ユキメは視線をかいちゃんの方へと向ける。

「この方は?」

「『怪人作成怪人』。通称かいちゃん」

「……女子中学生にしか見えません」

ユキメがふとかいちゃんの様子を見ると、怪我が酷くて気絶しているようだ。

まあアレだけの攻撃を加えれば、それも至極当然かと。

「チサトちゃんも、翔子ちゃんから貰った、<治癒>があるでしょ? 貸して」

「……別に構いませんけど、どうするんですか?」

そういいながらも、しっかりと手持ちの<治癒>を全て渡すチサト。

ユキメに比べて実力はあるので、<治癒>は大量に余っているのも、渡すのを後押ししていた。

「こーするのよ」

そう言うと、その持っている<治癒>全てを、かいちゃんの喉に流し込むではないか!

もちろん、<治癒>の効果は絶大で、血の気は戻り、苦痛を浮かべていた表情も、歳相応の安らかな顔へと戻っていく。

とはいえ、その行為を止めるチサトではなかった。

ユキメもチサトも、敵であれ、救える人物は救ってみせる、が心情なのだ。

これは特にチサトなのだが、そうして良い事例になったことは、一度たりともない。

だけど……救うことは理論ではない。

このことをユキメはいつもこう言っている。

「私が、人を助ける、っていう行為が好きだからやってるだけよ。これは、自分自身を満足させるだけの偽善でしょ?」

確かに、ユキメの言うことには間違いはない。

だがこういう、何の利点も省みず、人を救うことこそ、チサトは本当の善行だと信じていた。

だからこそ、チサトはユキメに手を貸すのだ。

「さーて、後は記憶の改竄ね♪」

「え……? 私の戦った怪人さんと同じで、記憶を失っているのではないのですか?」

「ううん。『シャイニングきりタンファンクラブ怪人』の大元は彼女だから、彼女が倒れたと同時に、『シャイニングきりタンファンクラブ怪人』としての能力と記憶は失われるわ。だけど、彼女を『怪人作成怪人』に変貌させたのは、また別の人物だから、記憶は残ってしまうの」

「はぁ……」

「だから、こうやって5円玉を用意する、ってわけ♪」

こうして、記憶を改竄されたかいちゃんは、人としての人生を歩みだすのであった。

その後、ユキメは血まみれの服を着替え、チサトは血を丁寧にふき取ったのだが、美奈に目ざとく見つけられたのは、また別の話。

さらに別の話なのだが、元きりタンファンクラブの面々は、チサトに対する敵対心だけは残り、数ヶ月の間、彼女を追っかけまわしたという。

「何で私だけ〜っ!!」

何で、って?

それは、チサトが不幸だからさ。



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