Mituyaさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
偽りのものたち
第五話
| 「イクサクニヨロズ潜伏」 |
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「我に非はない。憐殿が悪い」 まあ、確かに俺が寝坊しちまったのが悪いがよ。 幼馴染の修一と一緒に、俺は遅刻の危機と戦っている。 もう少しで学校に着く、と思ったそんなときだった。 俺の目の前に、お世辞抜きで綺麗、という言葉が似合う女性の顔が飛び込んできた。 ごんっ! 「いたーいっ!」 俺とその女は、ブレーキをかける暇もなく、頭と頭を衝突させてしまった。 思わず俺たちは倒れ伏せてしまう。 「あっ!」 その女は咄嗟に、スカートを隠した。 俺の頭の上で、エクスクラメーションマークを点滅させていたが……。 「見た?!」 「……何を?」 だがやりとりはそれだけで、その女はすぐに立ち上がり、俺たちの前から去っていった。 しかし、あの女とすぐに出会うなんて、そのときの俺たちには想像もつかなかった。 数十分後。 「本多美奈です、よろしく! ……あ、ああっ!! 今朝のパンツ覗き魔!」
ユキメ「チサトちゃ〜ん、物騒」 翔子「今回は、私もだけどね」 ユキメ「え……?」 翔子「で、遺言はあるの?」 ユキメ「(かわいらしく)殺さないで♪」 チサト「カウントスタートと同時にAT○ィールドを展開! 最初からフル稼働、最大戦速でいきますよ!!」 翔子「わかってる。62秒でケリをつける!!」 チサト「発進!!!」 翔子「こンのぉぉぉぉぉぉぉ!!(チサトと翔子でユニゾンキック)」 ユキメ「正義あるところに悪あり……ぐふっ」 チサト「画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さい」
にやりと笑みを浮かべて問い詰めるのは、『イクサクニヨロズ』の生みの親にして、最凶最悪のトリックスター、ユキメ(源氏名)。 そんなユキメに対して、憐の表情は硬い。 「……ユキメさん。『てつはう』っていうチームに関しての情報は?」 「もちろんあるわよ。モンゴル相撲部の6人組。まあそんなことはどうでもいいとして、と。戦術は純攻撃型である、チーム一丸となってのフラッグ奪取一辺倒。でも、絶妙なコンビネーションも相まって、これを打ち崩すのは至難の業、ってとこかしら?」 さすが、情報屋(自称)を名乗っているだけあって、その辺の情報収集は、憐の想像を上回るほどであった。 さらに、憐の聞きたい情報の要点をまとめてあって、聞き返す情報もほとんどない。 まあ強いてあげれば、その詳細だが……。 「まず、前線にいる、ガタイのいい連中3人が盾になって、二人が左右の警戒、そして最後の一人が背後の警戒と撃墜役をこなしているわね。前線の3人は、とにかくリロードが速くって、盾という役割だけじゃなくって、弾幕を張るのにも一役かっている。……まあ百聞は一見にしかず、って言うし、ビデオを見てみる?」 すると、ユキメは一台のノートパソコンを取り出した。 ちなみに、バッグとかも持ち歩いていないのに、どうしてそんなものを持っているのかは最大の謎である。 それは置いておき、パソコンを立ち上げるや否や、噂の『てつはう』の試合が流れてきた。 『てつはう』の方は、ユキメの情報通り、一丸となって突撃するようだ。 相対するチームの方も、『てつはう』の情報を仕入れているのか、一名だけ別行動させて、残りは中央に厚みを加えていた。 「数で押してくる相手には、数で対抗するしかない。そして、足止めを食らわせている最中に、相手のフラッグを奪取する作戦だね」 秋彦の経験からの発言に、憐とユキメは小さく頷いた。 「通常の相手なら、それでも問題ないんだけど……ね」 意味深に、ユキメはつぶやく。 そんなことを話している間に、両チーム同士がぶつかりあった。 それでも『てつはう』は止まるところを知らないかのように、速度を緩めない。 そんなことをすれば、『てつはう』は弾幕の嵐にあうわけで……。 「ヒット!」 パソコンから、不鮮明ながらもその声がした。 しかし、それを見て『イクサクニヨロズ』の全員が驚いた。 僅かな間だが、その間に放たれたBB弾は数百発にも及ぶ。 それなのに、『てつはう』の選手は一人しか倒されなかったのだ。 相対するチームは、すでに2、3人は倒されている。 「ま、まさか……」 憐は、何かに気づいたかのように、声を上げた。 「ちょ、ちょっと、どういうことですの!?」 「……麗奈。お前なら、BB弾がお前に向けて大量に撃たれたらどうする?」 「はぁ? それは当然、塹壕や木の陰に隠れますわよ」 「そう。それが普通だ。だけどこいつらは、隠れる場所もないところを突撃するために、前衛のガタイの良さを利用して、味方を盾としながら突き進んでるんだよ。普通なら、そんな無茶な真似をする奴はいない。だけど、このチームの前衛3人は、まるでロシアの民族人形のように、大きさが違う。その体格差を利用してるんだ」 数百発も撃たれれば、間違いなく前衛に立っている人物は撃墜される。 だが、何発も受けたら「ヒット」ともいえる状況ではないのだ。 そのタイムラグを活かして、後衛が撃墜を行う。 幸い、居場所は銃声により、向こう側が教えてくれるのだ。 その結果、最前線の一人が撃墜されても、向こうの方が物量が減るのが早いのだ。 試合の方は、そのまま『てつはう』が最短距離を突っ走ったため、相手より早くフラッグを奪取する形となったのである。 「……」 これには、一同声を失った。 『イクサクニヨロズ』は実戦経験が、他のチームに比べると少なめだ。 他のチームとの試合経験は『チーム不戦勝』と『ITACO』くらい。 しかも、両チームとも、お世辞にも強いチームとは言えない。 つまり、この試合を見て、まざまざと実力の差を見せ付けられることになったのだ。 じめじめとした、暗い雰囲気の漂う『イクサクニヨロズ』。 だが、それに反して、ユキメの声は明るかった。 「なーに湿気たツラしてんのよ。ちょうどいい機会じゃない。実力のあるチームの力を見て、それを学べばいいのよ」 「そうですよ。あきらめたら、そこで終わりですよ」 「私も、あなたたちとは初顔合わせでそんな大層なことは言えないけど、やれることをやってみなさいって」 ユキメだけでなく、チサトや翔子も励ましてくれた。 それには、誰しも、胸の奥で熱いものがこみ上げてくる。 「どうせ、わざと負けるんだから、今どーこー言ってもしょうがないでしょ?」 だが、ユキメの一言は余計だったらしい。 (そういえば、わざと負けなきゃいけないんだっけ……) そう思った全員の心がクールダウンしていたり。
一同は慌てて……はいないが、試合の準備に取り掛かった。 特に、本日最初の試合でもある憐は、準備に余念がない。 ……と言うより、前回試合で使われた武器二つが、ややユキメに使いやすいように調整されてあったからなのだが。 そんな中、瑠璃華はいつのまにかユキメとチサトの姿が見えないことに気づいた。 思わず瑠璃華は翔子の方を向いて、問いかけた。 「師匠。ユキメさんとチサトさんは?」 「し、師匠!?」 予想だにもしなかった呼びかけに、咄嗟に瑠璃華に聞き返す翔子。 もちろん、弟子にした覚えなどあるはずもない。 狼狽している翔子だが、そんな暇すら与えないかのごとく、瑠璃華は翔子に土下座までしてみせる。 「あれほどの魔法知識に、あたしは感服いたしました。師匠が認めなくても構いません。あたしの心の師匠ですから!」 「か、勝手に決めないでよ! 私だってまだ修行中の身なんだから、弟子なんて取れるほどじゃ……」 「いえ、いいんです! 師匠! あたしはいつまでも師匠の味方です!」 瑠璃華は、翔子の言うことを聞く気はないようである。 師匠、師匠でないという押し問答が続いたが、流石に時間がやばくなったのか、チームの良心、秋彦が話を本線に戻してくれたのであった。 「二人とも、その辺にしておいて……。で、ユキメさんとチサトさんは?」 その時、翔子は言いにくそうな、そして何かをごまかすような表情を浮かべた。 意識はしていないだろうが、人差し指で頬を縦に何度も往復させる。 「あ……ああ、チサトたちね……。ま……多分、金稼ぎ……? そう、金稼ぎよ! チサトったら、愛っていうバカ女にプレゼントを買うって言って聞かないもんだから……」 その、どこか腑に落ちない翔子の発言に、一同が怪訝そうな表情を浮かべた。 しかし、そのことに気づいていない翔子は、さらに矢継ぎ早に説明を続ける。 「と、とはいえ、チサトも玲も、次の試合が終わるまでには戻ってくるって言ってたから……」 一同はユキメの不在で、以前にしでかした出来事を思い出した。 あのときは、相手がよかったものの、酷い目に合わされたと憐たちは思っている。 とはいえ、今回はしっかりとチサトがユキメについているそうだ。 これに安堵してか、一同は二人の不在には目を瞑ることにした。
その、ウグイス嬢の言葉と同時に、一歩一歩足を踏みしめるような、重厚な足音とともに登場する一同。 今回は、特に、というパフォーマンスはなしだ。 理由は大まかに二つある。 一つに、エンターテイナーであるユキメの不在。 基本的に目立ったことが大好き……というわけではないのだが、『イクサクニヨロズ』を恥ずかしい目にあわせるのが好きなようで(笑)、とにかく目立つことをやらせるのだ。 しかし、そんな彼女がいない今、目立ったことをしようとは考えないようだ。 二つに、センゴクマン。 東北大会決勝トーナメントまで勝ち進んだチームが目立てば、当然のように『月刊種子島』の目に付くことは自明の理。 それはつまり、センゴクマンの目に付く危険性が格段にアップすること請け合いなのである。 自分たちそっくりなチームが出場する、とわかれば、警戒するのは当然のことだ。 まあそんなわけで、彼らは目立った真似はさけているのだ。 とはいえ、スカート迷彩服にピンクの迷彩服に忍者服は目立ちすぎである。 だが、相手はそんなのはものともしないほど、目立つ格好であった。 「タイガーゲートより、『てつはう』入場」 ♪た〜んえ〜た〜ん、た〜んえ〜た〜ん、た〜〜んえ〜〜〜〜〜〜♪ ヲルスバンシリーズ、別名ヒゲのヲルスバンと言われた『ターンAヲルスバン』の主題歌と共に現われたる彼らは、なんと……モンゴル相撲の衣装を着て登場したのである。 事前に試合の映像を見ていた『イクサクニヨロズ』と観客席にいた翔子の驚きは半減させられていたのだが、他の観客にはとてつもないインパクトを与えたようである。 なんせ、上半身裸に、股間のところの膨らみが露となっているもっこりパンツ。 しかもなぜか腕だけは生地で覆われているのだから。 もちろん、彩色は派手派手である。 「我らぁぁぁぁぁ、モンゴル相撲部に入部するものはぁぁぁぁぁ!」 「拒まず、でありまぁぁぁぁぁぁぁす!!」 「マネージャーも募集じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ……サバイバルゲームをする場、だというのに、そこだけは異様で素敵な異空間であった。 まあおかげで、『イクサクニヨロズ』が目立たなかったのだが。
それと同時に『イクサクニヨロズ』は一斉に持ち場に移動する。 今回は、満遍なく味方を配置する、ゾーンディフェンスのような陣形である。 ただ、『てつはう』が通るであろう予測ルートには、憐、修一、瑠璃華が近い。 代わりに、麗奈と秋彦は、そのルートから遠く離れた位置に待機している。 そして美奈は、フラッグの付近で待機。 これには理由がある。 まず、この戦いに負けることが前提だ。 それにはまず、中央突破に最も弱いであろう、薄くて広い陣形を敷くことが、もっとも有効(この言葉はちょっとおかしいかもしれないが)だ。 次に、単に負けるだけでは意味がない。 だからこそ、実戦経験の一番少ない憐、アンブッシュ中心の作戦なので前線に立たない修一、そしてディフェンダーなので前線とは無縁の瑠璃華で守りを敷き、彼らに実戦経験をつませなければならない。 タダで転ぶわけにはいかないのだ。 さらにいえば、今回は自主的に、通信機の使用を禁じている。 これらにより、『イクサクニヨロズ』の負ける要素を増やし、なおかつ不利な状況下での対応を身につけようとの魂胆なのである。 「来るかな?」 「来るだろ。あいつらの戦術を見る限り、フラッグまでの最短ルートはここだからな」 唐突ながら、不安そうに話しかけてくる瑠璃華に、自信満々で憐は答える。 「ううん、そうじゃなくて、秋彦」 「はぁ?」 だが、あまりにもこの場にそぐわない発言で、憐はマヌケな返事を返した。 表情にいたっては、デッサン大狂いである。 「だって、ヒロインがピンチになったら、白馬の王子様が助けに来てくれるのが、お約束でしょう?」 そのとき、瑠璃華の目がハートマークになっていた。 要するに、恋する乙女モード爆発なのである。 瑠璃華の目には、すでに白馬の王子化した秋彦が、当社比120%で美化され、優しげな笑みを浮かべている絵しか浮かんでこない。 そして美化バージョン秋彦は、そのまま目を瞑る瑠璃華の唇を……。 ……と、あくまでこれは、瑠璃華の妄想である。 数ヶ月の付き合いもあれば、このモードに入るタイミングもわかる。 毎度毎度の瑠璃華の妄想に、憐は内心嘆息していた。 とはいえ、そんなことをしている暇もないくらい、この試合はすぐに終わることを知っている皆。 決して警戒に手を抜いているわけではない……多分。 なお、秋彦と瑠璃華は未だにファーストキスまでたどりつけていない、いわゆるプラトニックラブな関係である。 とはいえ、その関係から進展するのは時間の問題であろう。 「おっと、妄想はそこまでだぜ」 いち早く物音を察知した憐は、藪の中でヘッケラー&コック MP5 R.A.S.(ラス)を構える。 それにあわせて瑠璃華も同様にウージーを構えた。 緊張な面持ちで道を眺める2人。 それから数秒も経たないうちに、目標が見えてくる。 まあそれも当然といえば当然だ。 何せ、『てつはう』は一直線に相手本陣に向けて走ってくるからだ。 しかも同時に、最前線にいる超大柄な少年、五代雅勝は、相手がいるかも確認しないでバカスカ撃ちまくっている。 「む、無茶するわね……」 「タイミングは前線の弾切れだ。弾幕が薄れたところを叩くぞ」 いくら銃を二丁持っていたとしても、撃ち続ければ数秒と持たずに弾切れするのは当然のこと。 そしてそこを突くのも、戦術の基本と言えよう。 しかし、それだけでは太刀打ちできないのも、憐は熟知している。 そう、あくまで経験をつむための策なのだ。 かちっ、かちっ。 「今だ!」 トリガーを引くことによって、弾切れを確認しているタイミングを見計らい、憐と瑠璃華は遮蔽物から顔を出し、構えていた得物を雨あられと撃ち続けた。 それでも『てつはう』は止まらない。 それどころか雅勝を囮にして、後衛が憐と瑠璃華を狙撃してみせる。 「ヒット! 後は任せた」 「ちっ……ヒット!」 わずかなやりとりの間で、憐と雅勝がヒットコールをした。 雅勝はともかく、憐は遮蔽物に隠れるタイミングが僅かに遅れたのだ。 その失態に、憐は歯噛みして悔しがっているようだ。 瑠璃華は何とかヒットを免れたものの、銃声によって、居場所を知られたようだ。 『てつはう』の弾幕が瑠璃華へと集中する。 「……あーん、白馬の王子様〜、あたしの下に来て〜」 瑠璃華の願いが通じたのか、一人のスナイパーと忍者が増援に駆けつける。 だが時既に遅し、であった。 「秋彦、ごめーん……ヒット」 いくら藪に隠れていても、数百発という単位のBB弾が飛び交えば、葉と葉の間から1、2発漏れるのは至極当然のことだ。 「……にゃろう」 だがこの事態に、秋彦の様子が変わった。 「シュウ! ちょっとの間でいい。押さえておけ!」 「御意」 とぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ。 修一が前線を押さえるかのように、P90の弾全てを『てつはう』に向けて放出する。 だがそれでもやはり、『てつはう』が止まる様子は見られない。 つまり、近距離で大量の銃弾を浴びることとなるわけで。 「ひっと……。我、戦場に死す……か」 「モンゴル相撲ばんざ〜い!!」 またしても相打ちだった。 『てつはう』は、あれだけメンバーが固まっていても、やはり撃墜されるのは一人。 確かに、倒すたびに前線の大きさが違ってくるのだが、それでも相手が大柄、もしくは後衛が小柄なのも相まって、まとめての撃墜は難しいようだ。 しかし……。 ぱん、ぱん! 「後は任せました」 「やばいなぁ……」 後衛で狙撃準備をしていた秋彦、そして駆けつけたもう一人のスナイパーである麗奈によって、今大会初の『てつはう』の二人同時撃墜を成し遂げたのであった。 形で言えば、比較的挟撃の形に近い。 北海道在住のサバゲーチーム『四ナノ6人衆』というチームが、これに似たような戦闘ドクトリンを持っているが、それとはちょっと異なる。 と言うものの、『四ナノ6人衆』は、片方を囮として、もう片方が奇襲をかける、という戦術である。 それに対し、麗奈、秋彦の即席ペアの場合は、長距離からの挟撃だからである。 流石にこれに対しては、『てつはう』の弾幕も届かない。 いや、秋田県最強のスナイパー以外は……。 そしてそのスナイパーこそ……。 ぱんっ、ぱんっ! 「……ヒットですわっ!」 麗奈の声が、荒々しげに響く。 そう、『てつはう』のメンバーには、北海道最強とも名高い“大佐”を尊敬し、彼に勝るとも劣らないと言えそうなほどのスナイパーがいたのであった。 『てつはう』の唯一のサバゲー経験者にして、女の子みたいにかわいいと評判の、壱岐直人(いき なおと)。 彼という後ろ楯があってこそ、『てつはう』がこんなにも無謀な戦術を取れるのである。 これで、2対2。 しかし、だからと言って、戦況が膠着するわけではない。 秋彦が素早く引き金を引く。 対する直人もライフルを秋彦へと構えなおし、同じく引き金を引いた。 2発の銃声が、互いの凶弾となる……。 「アカン……ヒットや」 「ごめん、みんな」 結果は、直人の勝利であった。 いや、秋彦の銃弾も、50m近い距離があったのに、直人に直撃する軌道を描いていた。 だが、『てつはう』には盾が存在したのであった。 直人の代わりに、高麗達人(こうり たつひと)が身代わりとなったのだ。 元々負けるつもりで戦いに挑んだ秋彦だったが、その表情はとても悔しそうであった。 所変わって『イクサクニヨロズ』チームのフラッグ付近。 数十発、いや数百発もの銃声を耳にしながら待機している美奈はただ緊張の面持ちで、サイドアームであるサムライエッジを構えていた。 今回はコルトCAR−15を持っていない。 いや、持っていないというよりは、邪魔なので、フラッグの傍に置いているだけだ。 これにも理由がある。 今までの戦いの最中、最も実力をいかんなく発揮した美奈。 その実力を制限するかのように、ユキメに命じられたことがある。 それこそが、コルトのセミオート化である。 「美奈ちゃんは、自身の索敵能力と超人的な身体能力と相まって、回避の面ではまるで問題ないわ。ううん、常人離れしすぎて、武器にもなりえるわね。だけど、まだ攻撃を行う身としてはまだまだ。それで、武器の命中率を上げるべく、少ない弾数で敵に当てるように努力しなさい」 と、ユキメに言われたので「下手な鉄砲数打ち当たる」ではなく、「量より質」を強化する方面で進むこととなったのだ。 そんな状態のコルトを使用するにも、重くて使いにくい。 だから、それよりは軽いサムライエッジを武器として使用することにしたのだ。 息を潜めて待機する美奈のセンサーに、突如敵の反応が割り込んだ。 素早く塹壕から身を乗り出して、敵の位置を確認しようとする。 発見こそ出来たが、相手はかなり遠くで待機している。 これでは、サムライエッジでは届かない。 曇った表情をしていた美奈だが。 「っ!」 音こそしなかったのだが、美奈はニュータイプの勘で、素早く身を潜めた。 そのほんの僅か後、相手と、先ほどまで美奈のいた直線状にある木から、ぱんっと小さく乾いた音が響いた。 もし、あそこでよけなければ……。 そう考えると、美奈の血の気がみるみる引いていく。 遮二無二、サムライエッジのトリガーを引くのだが、遠距離に特化したライフルと、まるで改造してないハンドガンでは、戦車に竹槍で挑んでいるものだ。 ……いや、その例えなら、美奈が勝てるかもしれないのだが。 もちろん、コルトCAR−15でも、結果は同じだろう。 「……ここらが潮時ですね」 そして、美奈は両手を高く上げ、降参の意を示した。 『イクサクニヨロズ』敗北。 ただし、同時にこれが全ての始まりであった。
ここに『イクサクニヨロズ』全員と、翔子がじっと待機していた。 怪しげな一室かと思う人もいるだろうが、ごく普通のロッカールームである。 空調も効いているし、狭くもないので、決して不快ではない。 「玲が、ここでしばらく待機してて、って言ってたけど……何やってんのよー!」 翔子から玲と呼ばれているユキメ(まあ、玲の方が本名に“近い”のだが)は、現在行方不明中。 実は、翔子は居場所を知っているのだが、ユキメに口止めされているので、うっかり漏らすこともできない。 「まああの人はいつものことですから」 普段は、キーキーうるさい麗奈も、ユキメのこととなると、すっかりおおらかになってしまう。 というか、怒るだけ体力のムダ、という奴であろう。 しかし、そんな会話は数分と経たずして、扉が開かれた。 部外者ではない。 ユキメとチサトである。 「ごめーん、遅くなって」 ユキメは着替えを済ましており、白のベストにブラウス、それにチェックのスカートといういでたちだ。 まるで学校に通うような格好だが、これがユキメのいつものスタイルである。 もちろん、トレードマークのポニーテールはそのままだ。 「別に気にしてま……あれ?」 平謝りしているユキメに声をかけようとした美奈だったが、視線がチサトへと向き、そのまま凍りつく。 チサトの格好は、黒と赤を基調としたライダースーツに、おさげという格好であるが、これもいつものスタイルだ。 何かを凝視している美奈に、チサトは首をかしげた。 「どうかしましたか?」 「これって……血?」 撥水性のあるライダースーツにこびりついた、赤い液体を見て、美奈はつぶやいた。 それに対して、チサトはハッとした表情を浮かべたあと、顔面蒼白となり。 「あ、あははははははははははははははは!! み、美奈さんたちとファンクラブさんたちの戦いのときに飛んだ血ですよ。そうです。そうに決まってます! あははははははははは……」 「そそそそそそそそ、そうよね。まったく、美奈ちゃんったら、後先考えないんだから〜♪」 明らかに不自然に笑うチサトに、動揺しているのが明らかなほど明るく補足するユキメ。 誰もが、その件に関して探りを入れたかったのだが、ユキメの目は「聞いたら殺すわよ」と訴えているので、あきらめた。 ちなみに、憐は何のことだかさっぱりわかっていない様子である。 まあ例の戦場にいたとはいえ、そのときは憐の隠された人格『霧華』だったからしょうがない。 「そんな話は置いておいて……」 とにかく、強引に話を進めようとするユキメ。 ユキメは動揺しているように見えるが、実は確信犯なんだろう、と全員が思っている。 この人は、楽しいことであれば、他人の不幸ですら利用する人間だから。 ユキメは、天使のような悪魔の笑顔、という銀狼怪奇○ァイルな人なのである。 「憐君、麗奈ちゃん、秋彦君はこの制服。美奈ちゃん、修一君、瑠璃ちゃんはこの衣装に着替えた後、前者は私、後者はチサトちゃんと翔子ちゃんについていくこと」 そう言って差し出されたのは、前者が黒い詰襟の学生服2着と同色を基本としたセーラー服。 後者は……次回に説明しよう。 そして、修一とユキメが一同に簡単な化粧を施し、彼らは新たなる他のチームメンバーとして、一歩を踏み出すのであった。
ここは、福島県代表チーム『HERO』の控え室。 そこにいる、ボブカットで引き締まった肉体をしている痩せ型の少女が怒りを最大に引き出すかのように、腹の底から声を響かせた。 幸い、この控え室は防音効果もあり、他の人に迷惑をかけることはない。 とはいえ、そこにいるメンバーは、その声を間近で聞いているので、耳はキンキンだ。 「ちょっとクミ。何ピリピリして……」 「そんなこと、言ってる場合じゃないってこと、わかってないの?! 私たちは6人だけの急造チームなの。それなのに、「株が大幅下落した。わが宗教存続の危機に陥っているのだ。さらば、宿敵」とか言って、私たちのことはどーでもいいんかい!!」 ピリピリした雰囲気だったが、そこにいたクミと呼ばれた少女の仲間である、ショートカットでぼんきゅっぼんの長身の女性と、ロングヘアの小学生高学年くらいの幼く見える少女の目は笑っていた。 どうやら、クミのモノマネがそうとう上手かったらしい。 怒りを露にしまくっていた少女だったが、ボルテージも僅かに下がったようで、そこにいるもう一人の青年……というには少し歳をとっているが、その人物に意見を聞いてきた。 「それで、弓削先生はどうするべきだと思いますか? 私やヨーコ、メグよりは、顧問である弓削先生に意見を聞きたいです」 とはいえ目つきはきつく、その口調は不完全燃焼でくすぶっている炎のような、そんな怒りを秘めていた。 「いやー、そのことなんだが……」 弓削先生、本名弓削博之(ゆげ ひろゆき)。 顧問の先生だが、実際は彼女らの高校の先生ではない。 本来は超有名ファンタジー小説家で、クミらの高校に、この大会に出場することを依頼した張本人こそが彼である。 それゆえ、小説書きとしての敬意を表し、先生、と呼んでいるのである。 余談だが、『HERO』というのは、この顧問の名前から取られている。 で、そんな博之は、言葉を濁してクミに切り出した。 「森嶋君。実は、私の知り合いから、緊急で人員を貸していただけることになったのだ。もちろん一時的にだが、このチームのメンバーとしての登録もなされている」 「ちょっと……そんな人、信頼できるのですか?」 クミと呼ばれたボブカットの少女……本名、森嶋久美(もりしま くみ)の表情は、いつも以上に険しくなってきている。 「信頼できるも何も、信頼しなければ、わたくしたちの負けが確定してしまいますわ」 「……」 反論しにくい正論であるため、久美は、小学生と思うほど小さい背丈のメグ……本名、矢島恵美(やしま めぐみ)の言葉にグウの音もでない。 「そーそー。考えるのなんてめんどくさいだけ。気楽にいこーよ」 「……ヨーコは気楽すぎ」 何も考えていない、長身で巨乳のヨーコ……本名、皆瀬葉子(みなせ ようこ)には、しっかり反論できるようだ。 もちろん、口を出すより手を出すタイプなので、一応防御の体勢は欠かさない。 ここで説明しておこう。 彼女らは、戦いを慣わしとする、ヤンキーも恐れる武侠学園高等部の1年生。 この大会に出るに至って、一悶着あったのだが、それは置いておこう。 ボブカットの少女にして、エクスキューショナーの二つ名を持つ唯一の常識人、森嶋久美。 並みのアイドルよりスタイルのいい、ハンマーガールの二つ名を持つケンカ殺法の使い手、皆瀬葉子。 小学生を思わせる小柄な少女にして、サブミッションマスターと、二つ名の通りの柔術の達人、矢島恵美。 そんな3人娘だったが、他の仲間が、株の大暴落の影響で、この場にいないのだ。 その話題で、現在もめているのである。 「ま、それがあたしの性格だからね」 警戒は、幸いにも無駄に終わったようだ。 一般の女子高生どころか、一流のグラビアアイドルですら嫉妬しそうなほど、豊満なバストを突き出して胸を張る葉子。 ちなみに、このナイスバディさには、久美も恵美もうらやましがっていたり。 恵美は、その身長も嫉妬していたりするのだが。 「……で、弓削先生。その人たちは本当に来るのですか?」 「ああ。そろそろ来るはずだが……」 噂をすれば影。 その言葉どおり、次の瞬間、その控え室に、4人の人物が入り込んできた。 一人は、初老の域に入った、ポニーテールの女性。 次に、久美たちの学校で指定された詰襟を着た、そこそこカッコイイ男性。 その次は、やはり同様のセーラー服を着た、さらさらのストレートヘアーが魅力的な、超がつくほどの美少女。 そしてその次は……。 「え……もしかして、さっきライブしてた、確か直江霧……」 「ノォォォォォォォォォォォ!!」 「シャラーーーーーーーーーーップ!!」 久美が、思わず声が漏れたが、それをかき消すかのように、先ほどの男女が大声を出した。 流石に予想外の展開だったので、久美ら以下全員は、目をぱちくりさせるだけだ。 とはいえ、ゆっくり見てみると、久美が思っていた人物とは違うようだ。 そう、最後の人物は、確かにちょっと女顔だが、詰襟を着ているし、胸はない。 身体の線こそ服に隠れているが、確かに男性であったからだ。 そんな考え事をしている久美だったが、その思考は、最後の一人である初老の女性の言葉によって遮られてしまった。 「初めまして、お若いの。私はノリコというものです」 やや声に、年齢による衰えがあるのか、すこししゃがれた声で話すノリコ氏。 「ああ、貴女が……。私は依頼を頼んだ弓削博之と申す者です」 「存じております。依頼の通り、こちらの方で、出来る限り良い人選をしてみました」 すると、少し曲がった腰をかばいながらノリコは、後ろにいる3人の男女を前に出した。 まず、女顔の男性が一歩前に出る。 「六青憐(ろくしょう れん)です。憐、と呼んでくれるとありがたい」 続いて、壮絶美女。 「晴日麗奈(せいか れいな)ですわ。わたくしも、名前で呼んで欲しいですわ」 そして、そこそこいける顔の男性。 「天丸秋彦(てんがん あきひこ)です。右に同じ」 (……変な苗字) 迷わず、久美の頭に浮かんだ言葉がこれである。 そりゃあ、偽名だから、多少変なのはしょうがないのだが。 そう、この4人こそ、直江憐、武田麗奈、伊達秋彦、ユキメなのである。 憐と秋彦は、髪型こそ変えていないが、試合中はゴーグルを着用していたので、ばれていないようだ。 麗奈はあの特徴的な縦ロールを解き、彼女の髪質そのままのストレートヘアーに変えている。 とはいえ、縦ロールより評価がいいのだが。 そしてユキメの格好が大きく違うが、それはユキメの変装技術によって、それなりの歳の女性になる事だって可能なのだ。 もちろん、ある程度までなら男性になるのも可能だ。 ただ、髪を切るのが嫌なのか、長髪にしかなるつもりはないようだ。 「いやぁ、ノリコさん、と申しましたか? 貴女はお歳を召しても、お美しい」 「あら、嫌ですよ。こんな年寄りをからかって」 「弓削先生……。口説いている場合ですか〜?」 久美の忠告に、博之の手が止まる。 そしてユキメも、頃合良しと踏んだのか、口に手を当てて「ほほほ」と笑い、そのまま部屋から去ってしまった。 しかし、憐、麗奈、秋彦の3人は、嘘をつくのに慣れていないせいか、冷や汗はしばらく止まることはなかった。 そんな3人に気づいてないのか、葉子と恵美は3人のところに歩み寄ってくる。 そして、3人に向けて手を差し出して、2人はにこりと笑いかけた。 「初めまして。あたしは皆瀬葉子。よろしく!」 「わたくしは矢島恵美です。よろしくお願いいたします」 されるがまま、3人は葉子と恵美に対し、握手をした。 その際に、男二人は、どうしても女子高生らしからぬ身長を持つ女性の、これまた女子高生らしからぬ豊満な胸に注目していたり。 ここで瑠璃華がいたならば、間違いなく秋彦の足を踏みつけるか、尻をつねられていたことだろう。 しかし憐は、でれーっとした顔ではなく、かわいげがあって、なおかつうらやましそうな表情で葉子の胸を見つめていた。 「うう〜、胸が大きくていいな〜♪ ボクもあれくらい欲し……って、今、俺は変なことを口走らなかったか?!」 突如、意識が飛んで、不可解なことを喋ったように思えた憐は、即座に麗奈や秋彦に問いかけた。 しかし、麗奈も秋彦も聞いていなかったようで、首をかしげるだけであった。 当然、久美や葉子や恵美も聞いていなかったようである。 それは彼にとって不幸中の幸いだった、と言えよう。
……前回とほとんど変わらない入場のため、省略。 「タイガーゲートより、『HERO』入場!」
迫る、斬撃突き抜けFly Away〜♪(Fly Away〜♪) 「って、なんじゃこりゃあああああああっ!!」 「……九頭龍ボールZの主題歌でしょう?」 まあ、お約束的なやりとりを、麗奈と秋彦でやらかしていたり。 で、そんな物騒な歌の最中登場したのが、数人の美女と美男子。 当然嬌声が上がる上がる。 しかも、それらをさらに引き上げる「学生服」を装備している。 会場は、霧華乱入時程ではないが、萌え萌えな雰囲気が先行していた。 と、そんな一幕があって、すぐさま試合が開始される……と思っていた矢先。 「実は、ここでお知らせがあります」 突如、ウグイス嬢の声が会場のざわめきを制止させた。 「予選と本選で使われた会場数箇所ですが、今回、大会実行委員で現役自衛隊である、上杉祐樹少尉殿から、会場が広すぎる、との通達がありました。その影響で、『てつはう』と『HERO』が使うはずでありました会場を使用することを取りやめ、急遽、会場を変更することとなりました」 当然、この言葉に会場はざわめく。 「しかし、会場のお客様は、オーロラビジョンで御覧になれますので、移動する必要はまったくありません」 「……けど、俺たちは移動しなきゃならないんだよな」 ウグイス嬢の声に、思わず憐のツッコミが入ってしまう。 けど、そんな文句なぞ受け入れられるはずもなく、彼らは新たなる戦いの舞台へと足を踏み入れることとなった。
そこは兵どもの夢の跡……とはちょっと違うかもしれないが、バブルがはじけた影響でこうなったのは間違いないだろう。 そんな、元旅館のような廃墟は、地元の人には心霊スポットとして名高いようだ。 しかし、そんな廃墟を現在、サバイバルゲームの会場として利用しているのだ。 まあそんな場所の2階の一室。 そこに、『HERO』のフラッグが立てられていた。
当然、『HERO』+憐、麗奈、秋彦の3人もそこにいた。 「じゃあ、あたしが突撃するから、メグと憐、麗奈、秋彦は援護して」 「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 いきなり、葉子が突撃宣言をするのに、これまた当然のように、憐が止めようとする。 仲間である久美や恵美が止めようとするはず、と秋彦は思っていたようで、あえて横槍は入れないようだ。 だが。 「わかりました」 秋彦の予想を大きく覆し、恵美はあっさりとGOのサインを出してしまった。 この予想外の展開に、憐、麗奈、秋彦の3人は、マンガのようにこけてしまう。 面食らっていた憐がよく見ると、久美は大きくため息をついていた。 それは、この展開が当たり前で、なおかつ久美が苦労している表れでもある。 思わず、同族として、憐と秋彦は、久美に同情してしまうほどだ。 「ごめんなさい。ヨーコとメグって、人の話を聞かないから、作戦立てても聞いてないし、全然その通りに動いてくれないんです。だから、いつも突撃してるんだけど、でも、それが上手く行くもんだから、調子に乗っちゃって……」 ため息交じりに、3人の耳元で注釈を加えてくれる久美。 メンバーの影響で、いつもピリピリしているのだが、元気のない久美を見ている限り、本当に苦労しているようだ。 「……って言っても、私も経験者じゃないから、作戦を聞いてくれなくてもしょうがないんだけど」 今度は自嘲気味に笑う。 このまま行くと、滝のような涙すら見せられそうな勢いである。 「わかりました。俺が必勝の策を差し上げましょう」 同じ、暴走機関車に振り回される者として通じるところがあったようで、憐が心の底から久美を助けたいと思い、思わずそう言ってしまっていた。 だがそれは麗奈や秋彦も同じのようで、久美の不幸っぷりに共感を覚えているようだ。 「ありがとう……ございます!」 抱き合ったりはしないものの、憐たちと久美の間に美しーい友情が芽生えていたりしたのであった。
「じゃあ、森嶋さん。手筈どおり、お願いします」 「任せて!」 憐がそう言うと、久美は笑顔でサムズアップして見せた。 普段はピリピリして、きつそうな女の子のイメージを覗かせる久美。 だが、その笑顔は歳相応の少女のそれだった。 周りが非常識なおかげで苦労しているだけであって、中身はごく普通の女子高生だなぁ、と憐たちは思っていた。 「じゃあ、メグ、憐、麗奈、秋彦はあたしの援護してね」 「了解です」 言葉こそ発しなかったが、葉子の言葉に頷く3人。 「でも、本当に森嶋さんだけで大丈夫ですの? わたくしたちがサポートなさいませんと……」 「麗奈。その点は心配ない。今まで、『てつはう』は突撃だけでフラッグを奪取したチーム。だから、俺たちはそれまでの足止めになればいい。万に一つ、ばれる心配があるから、こうやって陽動作戦をたてているんだ。それに……」 「それに……?」 「森嶋さんは、皆瀬さん、矢島さんも同様だが、相当な使い手だからな」 やや遠まわしな言い方に、麗奈は首をかしげた。 その拍子にさらさらの髪が肩口に流れ、えもいわれぬフェロモンが大放出である。 そんな麗奈の姿をオーロラビジョンで見ている男どもは、野太い嬌声を上げていたとかいないとか。 少なくとも、やっぱり縦ロールよりは評価はいいようだ。 そうこうしている間に、一同は下のフロアへとたどり着いた。
今回の会場は、上のフロア、下のフロアと分かれている。 上のフロアに両チームのフラッグが置いてあるのだが、場所の関係上、互いにそのフロアからは侵入が出来ないように作られている。 だから、下のフロアを通らなければ、互いのフラッグにはたどり着けないようになっているのだ。 フラッグからフラッグまでのルートはほぼ一本道で、迷うことはない。 だが、それゆえに、敵とぶつかり合うのは必然となっているのだ。 屋内なので、隠れる場所に困ると思われるだろうが、実際には瓦礫が多く、しかも人工的に土嚢もあるので、隠れる場所には困らない。 しかし、そんな場所でも『てつはう』が隠れるはずはなかった。 そして、鉄砲娘、葉子も隠れずに、『てつはう』に立ち向かうのであった。 「行くよ、メグ!」 「任せて!」 恵美は塹壕に隠れながら援護に回り、葉子はそのまま突撃する。 そして、瓦礫と土嚢が散乱するこのエリアで、壮絶な戦いが繰り広げられると、誰もが思っていた。 が。 ピーーーーーーッ! 「試合終了。『HERO』の勝利です」 思いっきり初速度をつけて走ったのに、出鼻を見事にくじかれて、葉子は、野球部からスカウトをされるような、華麗なヘッドスライディングをしてしまった。 恵美の方も、何が起こったのかわからないようで、目をきょとんとさせている。 憐、麗奈、秋彦の3人以外がぼーっとしている間、『てつはう』側から久美がてくてくと歩み寄ってきた。 その表情は、歳相応のかわいらしい女の子の笑顔で、非常に満足そうに憐たちに対して笑みを浮かべていた。 そしてその手には、『てつはう』側のフラッグが握られていた。 「ちょ、ちょっと、どういうことよーーーーーっ!!」 疑問をそのままぶちまける葉子。 作戦の概略は、憐に代わって、こちらで説明しよう。 まず、『てつはう』の戦略は、全軍突撃一辺倒である。 つまり、フラッグの周りには誰もいないのだ。 その間に、久美は窓を伝って侵入。 先ほど、互いにそのフロアからは侵入が出来ないように作られている、と言ったが、それは部屋の中での話。 落下の危険はあれど、久美は外から侵入を試みたのだ。
後は結果の通りである。 『HERO』決勝進出。
かつては仲間同士だった。
終局の時を見よ『イクサクニヨロズ』 |