投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第四話


「イクサクニヨロズ暗躍」

◇前回までのあらすじ◇


ボク、直江霧華♪

ボクと美奈ちゃん、麗奈ちゃん、そして瑠璃華ちゃんは悪の魔法少女と戦う、正義の魔法少女なの♪

だけど、悪の魔法少女なだけあって、相手はやっぱり悪!

ボクたちの嫌がることばっかりするんだよ!!

でも、ボクたち正義の魔法少女は負けないもん♪

前の戦いで、ボクたちも、悪に対抗するべく、力を手に入れたの♪

おかげで美奈ちゃんは金の魔法少女ミーナ、麗奈ちゃんは土の魔法少女レイ、瑠璃華ちゃんは植物の魔法少女ルリー、そしてボクは水の魔法少女キリになったの♪

そしてボクたちは今、ヴァルクリンドっていう所にいる♪

オババ様は、今にもお陀仏しちゃいそうな声でこう言った♪

「ヴァルクリンドは死者の門。行った者は例外なく死に絶えてしまう。行ってはならぬ、行ってはならぬぞえ。ひっひっひ」

怪しげな人だけど、ボクたちにはとっても優しい人♪

オババ様は、いつもボクたちのことに、気をつかってくれる♪

だけど、正義には犠牲はつきものだよね♪

少なくとも、ボクたちにはその覚悟はある♪

「ほーっほっほ。ケツが青汁のように青ーいお嬢ちゃん。その恥ずかしい色をしたお尻を、丸出しにしながら逃げなかったのは、褒めてあげようかしら」

「お嬢ちゃんたちの勇気を称えて、三回回って「ワン」って言ったら、今までの所業を許すことを考えてあげてもいいわよ。もちろん、考えるだけだけどね。ふふふ……」

この人たちは、ボクたちの宿敵、怪人ユキーメと怪人チサート♪

でも、ボクたちとこの人たちの因縁も、今日で終わりよ!!



チサト「どっかーん!!(おもいっきり振りかぶった拳を、ユキメに直撃させる)」

ユキメ「(吹っ飛ばされながら)た、タメなしギャラクティカ○ァントム……」

チサト「遊びは終わりだ! 泣け、叫べ、そして死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

ユキメ「し……シンクロ率、400%を超えて……(がく)」

チサト「あ、画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さい」


注:上記の文は、本編と微妙(?)に異なりますので、前作を見ることをお勧めします。




◇1◇


青森県代表枠を見事勝ち取った『イクサクニヨロズ』の面々。

一同は、勝利に酔いしれ、安息を楽しんでいた。

憐……もとい、霧華は“直江霧華リサイタル”のアンコール部分も終え、今は休息モードに入り、天使のような笑顔で眠っている。

修一は、ユキメの化粧道具片手に、なにやらユキメと話し込んでいるようだ。

麗奈は、さらなる活躍をするべく、βスペツナズの手入れに余念がない。

で、いつものよーに、秋彦と瑠璃華はラブラブバリアーを展開している。

その中で、美奈は一人、とある人物を待っていた。

そして数十分後。

時刻で言えば、1時ちょっと前。

解毒剤の到着を待ちわび、会場入り口のところでうろうろとしていた美奈が、見慣れた、黒と赤を基調としたバイクを目にした。

それと同時に、美奈の張り詰めていた顔が表情が緩む。

「チサトさん!」

その言葉に、バイクと同色のライダースーツを着た女性は、軽く会釈を交わし、すぐさまそのバイクを停めに行く。

しかし、美奈はそんなチサトの遅々とした行動を待ちきれず、すぐさまチサトの元へと駆け寄り、用件を切り出した。

「解毒剤、持ってるんですよね?! 早く、早く出してください!!」

「はい?」

ヘルメットを脱ごうとしたその矢先にその質問を受け、チサトは小首をかしげた。

ここで補足しておくが、ユキメが解毒剤を持ってくるように、と頼んだ相手はチサトではない。

よって、チサトは何を言われているのかが、さっぱりであった。

しかし、ユキメがつるんでいる相手というのは、大抵がチサトであるため、美奈は当然の事ながら、解毒剤を持ってくる相手を誤解しているのである。

「出さないと……」

そう美奈が告げると、その手には、一瞬にして愛槍“林檎切”……ではなくて、“ホカロン切”が握られた。

そしてその得物を、素早くチサトの喉元へとつきつけた。

幸か不幸か、あたりに人影はない。

「……何のことですか?」

「とぼけないで下さい!!」

命の危機なのにも関わらず、チサトは落ち着いた声で対応した。

だが、チサトの冷静は、同時に美奈のあせりを生む。

「チサトさんも、ユキメさんと同じように、私たちをからかう気なのですか……。ならば、力づくでもっ!!」

「ちょっと……」

美奈は、チサトの言葉を待たず、自らの必殺技のひとつである、裏弐式『獅交殺』を繰り出した。

とはいえ、恩人であるユキメの相棒、ということもあり、手荒な真似は避けたい。

だから美奈は、首に当たらない、ぎりぎりの所を狙って突いた。

一般人ならそれにより、多大な精神ダメージを受け、美奈に対する怯えを生んだだろう。

だがチサトは、避けようともせず、そしてよけないのが至極当然であるような表情で、美奈を見つめていた。

むしろ、このチサトの行為に、美奈が驚く。

「別に、からかってはいませんよ」

命を脅かすほどの脅しをかけたが、チサトの声に、まるで怯えの色は見られない。

「……っ!」

美奈は本能的に、チサトに対して恐怖を感じていた。

平和な時を過ごし、気弱な少女として過ごしていた美奈。

だがこの時だけは、センゴクマンの偽者である、戦士としての美奈が、身体の中で早鐘を打ち、警戒心を露にさせた。

美奈は反射的に、裏弐式『獅交殺』の発展技、裏参式『哮天殺』をチサトに放つ。

しかし今回は、全てが急所を目掛けてだ。

だがチサトは、神速の技とも言えるそれらを両手で軽々といなし、両手でいなしきれなかった攻撃は後ろに飛んでかわす。

「あ、危なかったですね……」

チサトは呆然としながら、そうつぶやいた。

だが美奈は、チサトに呆然とさせる暇は与える気はないようである。

すぐさま足を狙うように、低い所を切り払う。

しかしその一撃も、チサトの先を読むかの如き跳躍で、むなしく空を切るだけだ。

「だから、本多さん……じゃなくて美奈さん。違いますって……」

「その呼び名は……嫌い!!」

美奈を始めとする『イクサクニヨロズ』の面々は、苗字で呼ばれることを、極端に嫌う。

もちろん、自らの元となるセンゴクマンの影響だ。

そのため、チサトの呼びかけのミスは、美奈にとってはまさに、火に油であった。

当然のこと、美奈の攻撃は激化の一途をたどってしまう。

一発目は、脳天を水平に真っ二つにしようとする切りつけ。

しかしそれは囮だ。

本命は二発目以降。

頭の先から股間にかけて垂直に切りつける斬撃。

後退を予測した、心臓目掛けた突き。

そしてとどめには、裏四式『星辰殺』。

殺す気マンマンな連続技である。

これまで全ての攻撃をかわしきっているチサトですら、捌き切るのは難しいだろう。

……だけど、かわしてしまった。

今までの苦労で得た野生の勘と、女の勘と、超人的な身体能力とが混じりあい、TRPGで言えば、サイコロに細工がしてあるのか、と疑いたくなるくらいに、華麗にかわすチサト。

戦乙女を彷彿とさせるチサトの体捌きを見た美奈は、徐々に膨れ上がってくる感情に、ふと気づいた。

(強い人……。こんなに燃えるのって……初めて……)

性格は違っても、美奈はやっぱり、本多美亜子のコピーであった。

「憐君のために死んで下さいっ!!」

戦闘への愉悦と、恋する乙女の激情に任せ、普段の美奈からはまるで想像も出来ないくらい、危ない台詞を言い放つ。

もちろんチサトは死ぬ気なぞ、あるはずもない。

とはいえ、美奈に反撃を加える気もない。

チサト、人生最大の危機の一つであった。

だが、血生臭い雰囲気にならないのはお約束というもので、当然のように、二人の戦いに水を差す人物というのはいるのであった。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。留守を守れと我を呼ぶ。戦友(とも)を守ろうと必死になれど、示す行為は犯罪だ。攻めてばかりが能じゃない。守るばかりが能じゃない。打って、走って、守って、投げて。地球警備……じゃなくて、裏の情報屋ユキメ。ただ今参上!」

と、ユキメは何故か高台に立ち、ポーズもしっかりとって決め台詞を言った。

「打って、走って……って、野球じゃないんですから……」

美奈との真剣勝負の後でありながら、チサトは疲れを見せる様子はないが、精神面の疲れ故に、脱力して見せる。

「ヒロインである、ボクも忘れないでね♪」

ユキメの後ろから、霧華がぴょこっと飛び出した。

「憐君……」

「憐君……ってえええええええええええええええええええっっ!!」

チサトは、驚愕のあまりに、顎の骨が地面に接しそうなくらいに口をあんぐりとさせた。

……この説明には、多少の誇張があるかもしれない。

しかし、それくらいのインパクトはある。

確かに憐は女顔だが、身長と声のおかげもあって、女に見えることはないだろう。

しかし、今ここにいるのは、身長が高すぎるきらいもあるのだが、何処からどう見ても、長身痩躯の女性である。

ひとしきり驚いた後、チサトは白い眼でユキメの方を見る。

「……何やったんですか?」

ややドスの効いた声で、チサトはユキメに聞いてきた。

「何……って、化粧と女装と催眠術よ」

険悪モードなチサトにお構いなしに、ユキメはけろりと答える。

確かにユキメの説明に、間違いは一つもなかった。

「情報屋ユキメ♪ 其は古よりの定めの名♪ 死をつかさどる外道な女♪ 黒きお腹は人類の♪ 不幸の種を守りたもう♪」

「あ、そうそう、美奈ちゃん。解毒剤を持って来るのは、チサトちゃんじゃないからね」

憐……もとい、霧華は、ユキメに無視されたショックで、地面に6の字を書く。

何故6の字なのかというと、「の」では普通過ぎて面白みがないから、だそうだ。

憐……もとい、霧華は「ボクっていらない子なんだ……」などとつぶやきながら、漆黒のオーラを纏っていた。

で、その一方で美奈は、ユキメの言葉に、思わずチサトの方を見た。

んでもって、美奈の顔は、とってもすまなそーな表情をしている。

チサトが目を合わせようとするも、美奈は申し訳なさから、視線を外すほかない。

「ユキメさんの、その誤解を招くような発言のおかげで私は……」

チサトはそう言うと、形容し難い表情で遠くを眺める。

その頃になってようやく、憐とユキメの姿がないことに気づいた、他の『イクサクニヨロズ』の面々は、二人を探しにここへ来た。

これにて、『本多美奈の乱』は終結した。



◇2◇


「チサトちゃん。いつもより来るのが早くない? チサトちゃんのことだから、安全運転で来るだろうとタカを括ってたんだけど」

数ヶ月の付き合いの甲斐あって、チサトの性格を知り尽くしているユキメは、頭の片隅でひっかかっている事を口にした。

対して、チサトはその事を聞かれると、途端に暗い表情を見せた。

それでもそんなチサトに、ユキメは構うことはないようだ。

「……『堕天使なっちゃん』さんと、『Ez−8』っていうクルマのドライバーに勝負を申し込まれて、それで上手く抜け出したつもりだったのですが、その後で『堕天使なっちゃん』さんに追いかけられて……」

ここで回想モードに入ろう。


青森県某所。

詳しくは言えないが、数多くの走り屋たちを育成し続けてきた、日本屈指の難コースと言っておこう。

そこで、『黒い稲妻』vs『堕天使なっちゃん』vs“Ez−8”のドライバーという、最後のはともかく、名のある走り屋たちが、注目する対決が始まろうとしていたのだ。

横一線に並んで、スタートを待つ彼ら。

特に、『堕天使なっちゃん』は、魔王の手先である『奥羽の走り屋怪人』と、全国に名を轟かせている謎のライダーである『黒い稲妻』が相手ということもあり、緊張と興奮で心臓がバクバクと鳴っていた。

だがそれとは対照的に、展開に流された結果ここにいる、『黒い稲妻』ことチサトは、テンションは下がる一方であった。

しかし不幸なことに、それがクールなライダーとしての印象を深め、走り屋としての威圧感を上昇させていたのは、読者だけの秘密だ。

で、チサト以外の二人が緊張している中、スタートの合図となるランプが青を示した。

出始めは、全車横一線。

いや、チサトの愛車“アンノウン”が僅かにリードをとっている。

元々、クルマより重量が少ない上、乗り手の体重があまり重い方ではないことが、スタートの成功要因となったのだ。

「ちっ! でもこれから、化けの皮をはがしてあげるわ!」

と、意気込んだなつめ。

しかしそれは、大甘であった。

それは最初のコーナー、別名『ヘブンズゲート』と呼ばれる、数多くの走り屋たち、そして一般車までも飲み込んだという、ベテランでも手を焼くほどの場所で明らかになった。

なつめですらも、危険回避の為、多少ながら余力を持って曲がろうとしたカーブを、チサトはスピードをほとんど落とさずに、インベタで曲がりきったのだ!

これにはなつめだけでなく、『奥羽の走り屋怪人』も驚きの色を隠せない。

「ばかなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「やっぱ、『黒い稲妻』の噂は伊達……って言ってもハルちゃんじゃないけど、伊達じゃないわね」

なつめの心のギアは、その瞬間から、トップへと切り替わっていた。

RX−78(?)に負けてからというもの、走り屋として再出発したなつめ。

青森に『奥羽の走り屋怪人』がいること、そしてセンゴクマンたちが不在なことを理由に、晴明長官からわざわざ遠征の許可を得たのだ。

もう自分に負けることは許されない。

走り屋としてのプライドが、なつめの力を限界以上に引き上げていた。

それからというもの、一進一退であった。

チサトが僅かなリードを保っているが、なつめはコーナーで差を縮めようと、ブレーキを我慢し、ドリフトを完璧に決める。

それでも一向に差が縮まらないのは、チサトもそれらのテクニックは完璧だからだ。

とはいえチサトはレース経験は割と少ない。

それなのに、これほどの腕前を誇るのは、才能と言えよう。

……チサト自身が望んでいる訳ではないのだが。

ちなみに、『奥羽の走り屋怪人』はというと……。

ちゅどーーーーん!!

ナレーション:「説明しよう! 『奥羽の走り屋怪人』は、相手に抜かされると死んでしまうのだ!」

チサトにスタートダッシュで抜かされ、チサトのテクニックに驚いた時点で、彼は絶命していたのである。

ナレーション:「加えて説明しよう! 『奥羽の走り屋怪人』は、より強い走り屋となるべく、死ぬ条件を軽くされたのだ!」

ガープス的に言うと、弱点で貰えるCPを増やし、それを能力に振り分けた、といったところである。

所詮は脇役。

作者からの扱いも酷いものなのである。

それは置いといて、二人の戦いを続けよう。

そのまま二周目に突入する二人。

依然、チサトが僅かにリードを保っていたが、まだまだチサトの腕は荒削りである。

ほんの僅かずつであるが、なつめが差を詰め始めてきたのだ。

「いけるっ! 『黒い稲妻』に勝てるっ!」

なつめはそう確信し、ほんの僅かだが、真剣な表情が崩れた。

そして、さらに差を縮められる、多数のコーナーがひしめく場所へと差し掛かり、なつめは一層気合が入る。

だがそれは、チサトが最初のコーナーに差し掛かったときだ。

彼女は、本来通るべき場所を通らず、全く別の道を通った。

「……は?」

思わず、誰もいないのに、聞いてしまうなつめ。

ただ間違えただけなら、すぐさまルートに戻り、試合を再開するのが走り屋だ。

しかし、彼女がいくら待とうと、チサトが戻ってくる気配はなかった。


で、その頃チサトは。

「ふぅ〜。一周は走ってあげましたし、あの二人も満足ですよね。さて、余計な手間をとってしまいましたから、急いで会場に行きませんと……」

そう言うと、速度を急激に落とし、法定速度で走り始めた。

彼女の中では、走り屋というのは、一周でも走ってあげれば満足してくれる、という思い込みがあるのだ。

だがチサトは、走り屋という人種の本質というのを誤解していた。

本来、走り屋というのは、勝負にきっちり白黒をつけたがるものである。

しかも、途中で勝負を放棄してしまったこと、それは走り屋のプライドを傷つける行為に等しい。

さらに言えば、チサトはリードを保持しながら試合を放棄している。

つまりは、勝ち逃げである。

そんなことされては、走り屋の逆鱗に触れたというレベルではなく、逆鱗を剣山で思いっきり突き刺したようなものだ。

まして、今のなつめは最高の相手との限界バトルの最中で、過去最大級にテンションが上がっている。

そんなアドレナリンどっぱどぱ状態のまま、おとなしく引き下がれるはずもない。

というわけで、さすがのなつめも、…キレた。

つまり……。

ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

きぃぃぃぃぃっ!!

ぶぉぉぉぉ……!!

チサトは悠々と走っていたが、その音が聞こえた瞬間から、おぞましい程の戦慄を覚える。

彼女が経験した、今までの勘からするとそれは、まるで草食動物がチーターに追われるような感覚に近い。

そして、その勘は、望んでもいないのに当たってしまうである。

「くぉらぁ!! 待てや、このアマぁぁぁ!!!」

今までとは比べ物にならないほどの、大胆なコーナリングで迫る“死神Z”。

その様相は、愛車の名前にふさわしく、まさに死神そのものである。

「死ぬわよぉ〜、アタシのテールランプを見た奴は、みんな死んでしまうわよぉ〜」

「こ、このままじゃ殺されるっ! まどろみの剣を使われて、永遠の眠りにつく羽目になっちゃう!」

しかし、比べ物にならないのは、チサトもであった。

未知の恐怖から逃れようと、信じられないくらいのテクニックを駆使して、愛車“アンノウン”を爆走させる。

その生まれて初めて、本気で逃げているそのスピードは、キレたなつめにも決して負けていない。

モトGP顔負けの『黒い稲妻』の電光石火の走りと、JGTC真っ青のなつめの『死神Z』の執拗な追撃。

…しかし、その両者とも限界を超えた領域でのバトルはギャラリーのいないところで繰り広げられたため、誰一人目撃者はいなかった。

「なぁ、この勝負って、どっちの勝ちだ?」

「一応、『堕天使なっちゃん』が不戦勝、じゃないか?」

「んじゃ2倍か。あ〜あ、『黒い稲妻』に賭けてたのにな〜」

結局二人のレースは、青森を縦断して、岩手まで突入したのであった。



◇3◇


で、そのままチサトは免停覚悟で、全速力で逃げてきたのだ。

後ろから、『堕天使なっちゃん』が来ないことを見ると、上手くまけたらしい。

それが、どれだけすごいことなのかも知らずに……。

「そんなことよりも……」

チサトは心配そうに横目で、柔和な笑みを浮かべている憐……もとい、霧華を見た。

「ボクの名前はキリカ♪ 君の名前はチサト♪ 二人合わせてよ〜かいだ〜♪ き〜みとボクとでよ〜かいだ〜♪」

憐……もとい、霧華は、前フリの後、しっかり天気予報をやるほど、電波の調子は良好であった。

「大丈夫、大丈夫。翔子ちゃんに来てもらうように、頼んでおいたから」

「翔子さんが!?」

ユキメの言葉に、チサトは目をカッと開き、驚いた。

その一方で、聞き慣れない名前に『イクサクニヨロズ』の面々(憐除く)は、思わず顔をしかめる。

「翔子……って誰ですの?」

皆の疑問を、真っ先に切り出したのは麗奈だ。

「前にも言ったと思うけど、魔法学者でマッドアルケミストで社長令嬢でチサトちゃんのお友達」

この台詞の詳細は、『いつわりのものたち イクサクニヨロズ初陣』の ◇12◇を見て頂きたい。

(本当にいたのか……)

そう思う、皆。

苦笑とも失笑ともつかない、その表情はちょっとマヌケである。

そして、その反応が楽しいのか、ユキメは「あはは」と笑い、チサトは苦笑する。

嘘八百大法螺吹きのユキメのことだから、到底信じられる話ではなかったが、チサトの反応を見る限り、皆は信じざるを得なかった。

そんな時だった。

「まったく……。誤解を生むような説明、やめて欲しいわね」

と、聞き慣れない声が、一同の耳に入る。

声が聞こえた方を見ると、こんな時期、時代には珍しい、若草色の着物を着た高校生くらいの若い女性と、執事らしき初老の男性が、彼らの目に飛び込んでくる。

そのうちの、若い女性の方が、彼らに向けてにこりと微笑んだ。

「初めまして。わたしの名前は五十嵐翔子(いがらし しょうこ)。確かに大会社の社長令嬢だけど、魔法の研究と製薬は、ただの趣味であって、マッドじゃあないから、その点は勘違いしないでね」

「わたくしめが執事の新井(あらい)でございます。この方は『五十嵐コンツェルン』の御令嬢。各自、身分をわきまえ、あまり慣れ慣れしく話しかけぬ様、お願いいたします」

着物を着た女性と初老の男性は、自己紹介の後、軽く会釈をする。

翔子は、会釈をした後に、首をめぐらせて、麗奈と目があったときに、小首をかしげた。

「もしかして、広奈? 何でこんなとこにいるの?」

「……っ!! 何なんですの、この人は!!」

翔子の発言に、憤怒する麗奈。

「広奈」と呼ばれたことが、麗奈のプライドを大きく傷つけたようだ。

だが、そんな麗奈の反応が不思議だったらしく、翔子の方は眉をひそめる。

実は翔子と広奈は、両親の仕事の関係もあり、互いに顔見知りなのだ。

その前提もあり、広奈そっくりの女性がそこにいれば、間違えるのも当然だ。

一触即発の雰囲気が、辺りを包み始めたが、それを阻止しようと、ユキメが仲裁に入った。

「まあまあ。翔子ちゃんも、悪気があって間違えたわけじゃないんだから、許してあげて」

「そうですよ麗奈さん。翔子さんは、我が儘で、負けず嫌いで、自己中心的で、母親には頭が上がらない人ですが、悪い人ではありませんよ」

「……チサト。あんた、何気にエグいこと言ってくれるわねぇ……」

ユキメとチサトの説得もあって、麗奈の怒りのボルテージは急転直下の勢いで下がったが、逆に翔子の怒りは急上昇していった。

だが、友人であるチサトの言葉なのだし、軽く受け流すことにした。

「……で、玲。<接合>を飲ませた相手って?」

翔子は本題に入るべく、ユキメに、単刀直入で聞いてきた。

ちなみに、玲とは「城戸玲」、つまりユキメのことだ。

「あ、うん。この子……実は男の子だけど」

「ふーん」

ユキメは、憐……もとい、霧華を前面に押し出し、翔子は彼(彼女?)を値踏みするかのように、ジロジロと全身を眺めた。

翔子は、どう見ても女性にしか見えない男性を見ても、驚く様子はない。

「いやよ♪ いやよ♪ いやよ、煮詰めちゃいや〜♪」

憐……もとい、霧華は、最近映画化された『キューティーハルー』の歌を一部を口ずさむ。

電波な様子は変わらない彼(彼女?)だが、翔子はそんな様子も興味深いのか、好奇心旺盛な目つきで、さらに憐……もとい、霧華を見る。

「う〜……ボク、この人苦手〜」

流石に電波な彼(彼女?)も、じろじろと見られる行為は嫌なようだ。

しかしそんな文句も受け入れず、失礼承知でさらに見つめる翔子。

翔子の表情は、まるで新しい玩具を見つけた子どものようであった。

診断が終わったのは、それから数十秒後。

「うん、オッケー。新井。『い―6』を持ってきて」

「かしこまりました、翔子お嬢様」

上に立つ人間のオーラを発しながら、翔子は新井に命令する。

どちらかというと、執刀医が補佐に指示を出すような様子の方が近いのだが。

新井は、翔子の指示通りに、リムジンにある翔子専用冷蔵庫の『い―6』という番号の場所にある小瓶を持ってきた。

「この症状は、精神破壊の類の魔法に近いモノがあるわね。しかも、玲の話から考えるに、無理矢理に近い形で飲ませたらしいじゃない? だから、その影響もあって、この子は「霧華」という人格を作り出して、その人格に「憐」という人格を守らせているの。そもそも、あの<接合>には蜘蛛の糸を混入したんだけど、それがかえって魔法物質である『エーテル』を生み出して、その結果、現存物質であるエタノールの中の炭素と『エーテル』が魔法反応……あ、魔法反応ってのはね……」

と得意げに、翔子は、持ち前である魔法学の薀蓄を語る。

薀蓄は、僅か数分の間続けられただけだったのだが、不可解な単語がずらずらと並べられるだけなので、ここでは省略する。

ほとんどの人は、頭の上にエクスクラメーションマークを、しきりに点滅させていたり、口から白いモノが飛び出ていたりしていた。

例外は瑠璃華。

意外や意外、彼女だけは、新しい玩具を手に入れたかのように目を光らせ、翔子の薀蓄を聞いていた。

「……だから、今回使うのは、私特製の気付け薬。これを使えば、一発で治るわよ」

半ば、聞いていなかった『イクサクニヨロズ』だったが、台詞の最後に付け足した翔子の保障に、僅かながら安堵した。

いくら、ユキメの知り合いとはいえ、誰もがいたずら者、というわけではないだろう。

チサトが良い例である。

<接合―未完成>の件もあったので、確実とは言い切れないが、翔子の自信満々な態度は、皆にも安心感をもたらした。

だが、彼らが生粋のトラブルメーカーなのか、誰かから呪いを受けているのか、作者の陰謀か、『イクサクニヨロズ』に平和という文字はなかった。

「俺の心が光って唸る! きりタン救えと輝き叫ぶ!」

と、どこぞの熱血機動戦士のような台詞が、『イクサクニヨロズ』+αの耳に飛び込んできたのだ。

「きりタン」と聞いた時点で、彼らの嫌な予感はすでにピークを向かえていたのだが、御多望に漏れず、その嫌な予感は現実のものとなってしまっていた。

一同が、恐る恐る声が聞こえた方に目を向けると、「霧華(はぁと)」と書かれた鉢巻、「きりタン命!」と書かれたはっぴ、それに「I love きりタン」と書かれた団扇を持った、大肉小背の、30代の男性が立っていたのだ。

「我こそは、『きりタンファンクラブ会員No.3』! きりタンの心の叫びを聞きつけてやってきた者だ!」

その時になって、初めて『イクサクニヨロズ』+αは気づいたのだが、現在憐……もとい、霧華は、その会員No.3のすぐ後ろに隠れていた。

「ボクは……憐とは違うもん」

憐……もとい、霧華はぎゅっと、No.3にしがみつく。

憐……もとい、霧華の儚げで、すぐに消え入りそうな声と、保護欲をかきたてられるその行為は、会員No.3にさらなる力を与えるのであった。

「うぉぉぉぉぉぉっ!! この命、きりタンの為にーーーーーっっ!!」

「ハーイル、きりタン!!」

「ジークきりタン、ジークきりタン!!」

「青き清浄なる、きりタンの為にぃぃ!!」

何故かいつの間に、『きりタンファンクラブ会員』が、多く集まっている。

皆が気づいたときには“直江霧華リサイタル”のピーク時のメンバーが全員、勢ぞろいしていた。

ナレーション:「説明しよう! 彼らは霧華の危機を本能的に感じ取り、霧華を守ろうと、すばやく彼女の元へと駆けつけたのだ!」

そして、『イクサクニヨロズ』+αが気づいたときには、すでに憐……もとい、霧華を守る勇者たちは、百数十にも及んでいたのである。

「我らがきりタンの為に、貴様らには死んでもらう!」

「貴様らのような、バカで、ブリっ子で、つるぺたな女には興味はねぇんだよ!!」

「まあ、きりタンと比べられるだけでも、光栄と思うがいい。はははは……!」

人数が集まって、いい気になったのか、ファンクラブたちは言いたい放題に言った。

そしてそれに呼応するが如く、他の会員たちも、馬鹿笑いをしている。

だがそれも数秒のこと。

彼らの表情は、驚くほど引きつった顔と変貌していた。

「バカ……ですって? わたくしのことを?」

ぴくっと、麗奈のこめかみが痙攣する。

麗奈は、センゴクイエローの使う弓と酷似した、“虎爪弓(こそうきゅう)”をどこからともなく取り出し、それをファンクラブたちに向ける。

「ゆるせないよね……」

瑠璃華は、凍てつくような、冷たく鋭い視線をファンクラブたちに向ける。

彼女が取り出したのは、符だ。

彼女は多少だが、陰陽術の心得があるのである。

「力を貸すわ。新井、木刀を!」

翔子は、新井から自前の木刀を受け取り、それを剣道をするかの様に構える。

何故彼女が力を貸すのか?

それは、彼女の胸が抉れるようにないからだ!

「失礼ね! ちょっとくらいならあるわよ!」

文に直接ツッコミを入れる翔子だが、ここでは無視しておこう。

つまり、「つるぺたな女」と罵られた事への腹いせである。

そして、憐の復活を阻止された、美奈はというと。

「私の邪魔をする奴……万死に値する……」

美奈は、表情を変えることなく、ファンクラブたちに向かっていく。

普段、百面相気味な美奈だけに、なおさら怖い。

物騒な台詞と共に取り出すのは、もちろん愛槍“ホカロン切”だ。

百数十vs四。

しかも、その四人は、全て美少女だ。

傍から見れば、結果は明らかだろう。

だが、その四人のオーラは、神をも滅ぼすであろう、そんな禍々しいオーラであった。


注:的確に表現しますと、15禁規定にひっかかってしまう恐れがありますので、一時、音声だけでお楽しみください。


「ほーっほっほっほっほっ……!!」

ひゅん、ひゅん!!

どす、どす。

「うがぁっ!」

「ぐはっ!!」

『火炎剣・急急如律令!!』

ごおおおおおおおおおっ!!

「あぎゃあああああっっ!!」

「うあちゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「裏百式『覇王七星斬』!!」

ぶぉん!!!

ざしゅ、ぷしゃあっ!!

「ぎょへーーーーっ!!」

「あじゃぱーーーーーーっ!!」

「楠流剣術『連針』!」

ががっ、ががっ!!

「うぐっ!」

「がふぅ!」


「……修一君、秋彦君、チサトちゃん。止めなくていいの?」

「理由がない」

「……今のあいつら、怖いっす」

「ある程度経ったら手伝います。ですが、私はもう、揉め事は嫌ですから」

「ずいぶんとドライになったものね」

「そう言うユキメさんも、止める気はないのですか?」

「死にたくないもん。それに、今回のケースは、異常な精神状態になった憐君を救う、という行為を妨害された訳だし、違法性阻却事由の正当な業務にあたるの(刑法35条、法令又は正当な業務による行為は、罰しない)」

「……それはまことなのか?」



◇4◇


数分後。

皆が止めなかった結果、戦場は死屍累々という、地獄となっていた。

そして、最終的に戦場に立っていたのは、美奈、麗奈、瑠璃華、翔子、そして憐……もとい、霧華だ。

もちろん、修一、秋彦、ユキメは傍観である。

「こ、来ないで!」

憐……もとい、霧華は、美奈や麗奈同様に、自分の武器である愛刀“吉祥天”を取り出し、青眼の構えを取る。

とはいえ、霧華という人格は、憐という人格の精神を守る為だけに作られた存在である。

憐と同じ存在とはいえ、霧華は剣術に関しては素人であった。

良く見ると、剣先が震えている。

「お……お金がほしいならあげます。あげますから……」

「お金はいりません。私が欲しいのは……貴方自身」

顔を真っ赤に染めながら、恐怖に怯える憐……もとい、霧華に対し、美奈はつぶやく。

美奈にとっては、無意識のうちに出た、決死の告白だったかもしれない。

しかし、彼女の手に握られているのは、血塗られた魔槍“ホカロン切”。

否、もはやその槍は“ファンクラブ切”と名を変えている。

そして彼女の全身も、大量の返り血を浴びている。

そんな格好と、今の台詞じゃあ、どう見ても、ホラー映画の殺人鬼にしか見えなかった。

一歩一歩、美奈はにじり寄る。

それにあわせて、憐……もとい、霧華は一歩一歩後ずさる。

美奈が近づけば、憐……もとい、霧華が後退する。

憐……もとい、霧華が後退すれば、美奈が近づく。

そんないたちごっこが、憐……もとい、霧華の恐怖心を、さらに肥大させた。

“吉祥天”を持つ手の震えが、加速度的に増していく。

だが、それではいけない、と意を決したのか、憐……もとい、霧華の顔つきが変わった。

「それでも……ボクは負けないっ!! 食らえ、らぶらぶびーむ(はぁと)」

言葉と同時に、憐……もとい、霧華は美奈に向けてウインクをしてみせた。

ナレーション:「説明しよう! 輪や憐とは違い、霧華の『らぶらぶびーむ』はウインクによって放つ技なのだ!」

ただ、オリジナルや憐と違う点は、愛という文字が出るのではなく、ハートマークで攻撃するところだ。

威力はもちろん、オリジナルとの遜色はない。

『守護結界・急急如律令!』

直撃コースにいた美奈だったが、いち早く危機に感づいた瑠璃華がフォローに回っていた。

おかげで『イクサクニヨロズ』+αの面々に、けが人は出なかったが、彼らの後ろにいた『きりタンファンクラブ』たちは、『らぶらぶびーむ』が直撃していたり。

ただし、「きりタンの為なら死ねる」彼らの表情は、憐……もとい、霧華が放つ『らぶらぶびーむ』を受け、至福に満ちていたとか。

「何てことをするのっ!!」

自分で、この状況を作っておきながら、憐……もとい、霧華は、相手に向かって憤慨した。

「って、お前がやったことだっ!!」

当然のようにツッコミを入れるのは、もちろん秋彦。

「いいえ! 某宇宙警備員が町を壊しても、全ては怪獣のせいになるように、この件もユキメさんたちのせいなの♪」

自分でやった、という自覚はあるようである。

「正義に犠牲はつきものな……の……」

突如、憐……もとい、霧華の表情が固まった。

それと同時に、彼(彼女?)の身体がぐらりと傾いた。

「おいたが過ぎますよ、憐さん」

憐……もとい、霧華の後ろに立っていた人物が、そう言うのとほぼ同時に、憐……もとい、霧華がうつぶせに倒れる。

いつの間にか、憐……もとい、霧華の後ろに立っていたチサトが、頚椎目掛けて手刀を繰り出したのだ。

その一撃は、無防備だった憐……もとい、霧華に見事決まり、彼(彼女?)は気絶する。

「ナイ〜ス、チサトちゃん」

ユキメは、チサト同様に暗躍していたらしく、いつの間にか“吉祥天”を拾っていたようだ。

で、それを片手に、もう片方の手で親指を立てて、チサトを褒める。

チサトの一撃を目の当たりにして、美奈は内心、彼女と戦いたい、という欲求が肥大したが、意思でそれを押し込んだ。

「さあ翔子さん。例の気付け薬を」

「ちょっと待った」

チサトがそのまま、憐……もとい、霧華に解毒剤を飲ませようと、翔子に呼びかけたとき、ユキメが突然止めに入る。

皆がユキメに注目するのを待ってから、ユキメはこう言った。

「それは、憐君の女装を解いてからにしたほうがいいんじゃない?」



◇5◇


それから、修一とユキメの二人で憐の女装を解き、翔子が気付け薬を飲ませたのであった。

憐はそれでもまだ、気を失っていたのだが、瑠璃華の陰陽術の甲斐あって、すぐに目を覚ました。

翔子の推測どおりに、霧華という人格は、憐を守るための人格だったらしく、その間、眠っていた人格である憐は、今までの愚行を何一つ覚えていないようだ。

例え、真実を語ったとしても憐の心を傷つけるだけだろうし、皆は黙っておくことにした。

「憐君は、<接合>っていう薬を飲んだ後気絶しちゃって、それでしょうがなく、ユキメさんが大会に出場することになったの。でも私たちは、青森県の代表に、ちゃんと選ばれたのよ」

と、これは美奈の説明だ。

もちろん、ユキメの添削もあって、説明を多少捻じ曲げているのだが、憐が知る由もない。

「そうか……。ユキメさんが……」

憐は心の中で、劣等感にさいなまれていた。

自分がいなくても勝った。

代役であるユキメで勝った。

それなら自分はいなくてもいいんじゃないか? という思いが、憐の心を埋め尽くしていく。

そんな憐の心中を察していたのは、やはりユキメだった。

「辛気臭い顔してんじゃないわよ。どうせ『俺なんかいなくたって、美人で、スタイル抜群で、運動神経抜群で、頭脳明晰で、太陽のように明るくて、世界中の誰より優しくて、なんでもできる、パーフェクトガールの称号を得た、俺らの恩人、いや救世主様であるユキメ様が代わりにやってくれるから、俺は後ろでちまちま作戦を練ってるだけでいいんだ』とか思ってるんでしょう?」

「ンなこと、思ってるわけねーーーっっ!!!」

憐は、特に自分のことを誇張しているユキメに、心の底からツッコミを入れた。

とはいえ、それ以外の点では強ち間違っていない点に、憐は心の奥底で「な、何の冗談だ!?」とか思ったり。

だが、それは表情に出ていたようで、憐の顔を見て、ユキメはにんまりと邪悪な笑みを浮かべた。

と、思ったら次の瞬間、その笑みは、純真で無垢な笑いに変わり、くつくつと、ユキメは手を当てて笑っていた。

そんなユキメの変化に、憐は最初、怪訝そうな顔をしていたが、次第に表情が崩れ、憐も笑い出した。

「そうそう。その意気よ」

そこで憐は気づいたが、鬱気味だった憐の心のかげりは姿を消していた。

「でも、もう二度と『自分がいなくたって……』的な考えするのはやめなさい。皆、憐君がいないことが不安でしょうがなかったんだから」

はっとして、憐は皆の表情を見た。

美奈は、不安そうな表情を見せていたが、憐を安心させるためか、にこりと微笑む。

修一は相変わらず、むっつりとした表情をしているが、憐を見る目はどこか不安げだ。

麗奈は、態度だけ見ると、憐を心配してる様子はないのだが、細かな仕草が、彼女が冷静さを欠いていることが明らかだ。

秋彦は、どこかほっとした表情で、優しく憐を見る。

瑠璃華も、秋彦の腕に自らの腕を絡めながら、憐を見て微笑んでいる。

(ああ。俺って、こんなにも仲間に恵まれているんだな……)

仲間が、こんなにも自分のことを信頼してくれている。

安心感から、憐はふっと自然に笑みを浮かべた。

「つらいときに、私たち仲間は傍にいるんだから、仲間に頼られながら、頼りなさい。私たちは仲間なんだから、助け合うのは当然でしょ?」

「ええ。そうですね、ユキメさん」

そして『イクサクニヨロズ』は、さらに深い絆で結ばれるのであった。

そんな一幕もあり、彼らは遅めの昼食を取ることにした。

本来なら、大会本部で運営している、高くてまずい食事を取るはずだったのだが、今回に関しては、

「試作品の実験に協力してくれたお礼……というか、お詫びね。それもあることだし、御馳走してあげる」

と、翔子は言った。

そして指をパチンと鳴らすと、リムジンから、謎の黒服の料理人たちが登場するではないか。

彼らは五十嵐家お抱えの料理人である。

腕なんかは、そりゃあもう並大抵ではない。

ジャンクフードやら、コンビニの弁当やらの食事ばっかりしていた、『イクサクニヨロズ』は当然のことながら、歓喜する。

『イクサクニヨロズ』+αが、豪勢な食事を待ち遠しくしているそんな時、ユキメが唐突に口を開いた。

「あ、そーだ。チサトちゃん。例の資料、どうなった?」

「……え……あ、はい。頂きました。これですよね?」

突如呼ばれたことに一瞬困惑したチサトは、慌てて懐から封筒を取り出した。

どこにでもある封筒だが、中には手紙ではなく、写真が入っているようだ。

ユキメはそれを、おもむろに受け取り、皆の前で中身を取り出す。

「北海道大会など、各大会の写真よ。『FANG GUNNERS』や『チーム風林火山』の事が、少しでもわかればいいんだけど……」

その中の何枚かの写真を取り出して、憐は絶句した。

「何だよ、これは……」

まず、呆れたのが、登場シーンである。

“救世主ナオ”、“ミャーマイオニー”、“T田”、“ハルー”、“マッハ夕張”、“U菜”。

よくここまで、コスプレを極めたもんだ、と、呆れると同時に感嘆もしてしまっていた。

「ってーか、アホだろ」

憐の意見も、ごもっともである。

その意見は、皆が思っていることでもあるらしく、反論はない。

憎きライバルとも言えるセンゴクマンだが、彼らに向けて、少しだけアホの烙印を押したのであった。

そして次の写真。

美亜子の衣装が、がらりと代わり、“あずみあこ”。

で、春樹が“の○太”。

「……」

流石のユキメも、呆れ果てて、何も言えない様である。

あの、『イクサクニヨロズ』のエンターテイナーであるユキメを絶句させるとは、『FANG GUNNERS』の広報部長、真田淳二恐るべし!

……いろんな意味で。

「ま、まあこっちは、目立っちゃいけないことだしぃ」

ユキメはどこか言い訳がましい台詞を口にした。

他にも、瑠華のパンチラ写真(春樹視点)とか、青春している輪と瑠華とか、アフロ○び太とか、満面の笑みで手を振る広奈とか、まあとにかく、役に立たない写真がいくつもあったことを記述しておく。

北海道大会の結果も出ている。

とはいえ、かの高名な小説家であるA・N氏が現在執筆中。

北海道大会の結果に関しては、本編をお楽しみください。

皆が『FANG GUNNERS』や『チーム風林火山』の写真を見て話をしているそんな中、ユキメの目に一つの写真が目に留まる。

その写真を見たとき、ユキメは懐かしげな様子で、顔をほころばせた。

そんなユキメの様子に気づいたチサトは、多少怪訝そうな顔をする。

「……ん? あ、この写真ね。東京のとあるチームの写真なんだけど……」

写真の内容が気になったのかと思ったユキメは、その写真をチサトに差し出した。

「……こすぷれチーム?」

「見た感じじゃあ、そうね。『聖ガブリエル女学院』っていう高校のチームなんだけどね、実は私が1年だけいた高校の姉妹校なの。個人的には頑張って欲しいんだけどなぁ」

「その、ユキメさんがいた高校は、出場しないのですか?」

「あははは……。もし出たとしても、一回戦負けよ。基本的にお嬢様ばっかしだから」

今から2年ほど前、ユキメは『西城玲(さいじょう れい)』という名で、その高校に通っていた。

聖ルシファー女子高等学校。

ミッション系の学校で、常にキリストやマリアを崇拝するような学校だ。

だがそれは外面だけの話。

裏に回れば、理事長や教師やPTAや上級生たちが、越後屋の如く、「おぬしもワルよのぉ」と言いたくなる程、悪の中の悪をつくしていたのだ。

その中、たった一年の間で、学校の規律そのものを変える大革命を起こし、過去の規律に執着する高等部の二、三年及び理事長、教師、PTAの数多くを失脚させた張本人こそが、ユキメである。

しかも、そうした理由は「気に食わない人がいたから」である。

とはいえ、ユキメの行動により悪は滅び、現在では清純で聡明な女生徒たちが集う、ミッション系にふさわしい、裏表のない高校となっている。

だが、その事件以来、『西城玲』は『リストラー』と、教職員の間で不名誉な呼び名を手に入れてしまった。 しかし、それと同時に『西城玲』という人物は、伝説の勇者に匹敵するほど、後輩及び同学年の信望は厚い。

とはいったものの、彼女の友人の評価は意外と軽いものである。

「んー、そーだね。れーちゃんはちょっとクールで、流行に疎かったけど、話しやすい人で、正義感も強くて、愛想もよかったよ。でも、敵にだけは回したくないなぁ」

「そうそう。西城さんって“無礼”も知らなくて、「は?」って言ったときの表情なんかサイコーだったよねー」

「アタシが痴漢にあったとき、玲ってば、即座に犯人を見つけてくれて「お前ら許さんぜよ」って痴漢野郎に啖呵切ったときとか、格好よかったよねー」

「ねー」

と友人曰く、こんな感じである。

そんな重いで……じゃなくて思い出に浸っているユキメに、チサトは腑に落ちないことを見つけたので、その事を切り出した。

「……開道高校に転入したのって、今年でしたよね? 二年のときは間は、何処で勉強してたんですか?」

「それは、ひ・み・つ♪」



◇6◇


「そろそろ、県代表の戦いが終わって、東北地区の大会が始まる頃ね」

彼らは、食事の速度こそ変える様子はないが、意識はユキメの方を向く。

「はひは、ほーあへんほほうひひへふほへ(確か、トーナメント方式ですよね)」

口に伊勢海老を詰めながら、憐がつけ加える。

「へんはん、ほひょうひははふいへふはほ(憐さん、お行儀が悪いですわよ)」

麗奈がしてることも、十分行儀が悪いのだが、自分のことは棚に上げている。

ユキメたち部外者にはわからない会話だったが、『イクサクニヨロズ』の六人組には、長い付き合いの事もあって、言いたいことは理解できるのだ。

「……ま、聞くだけでいいから、聞いて」

礼儀作法の“れ”の字も解さない、そんな二人に、ユキメは半ば呆れながらも、彼らに向かって話を続けた。

「前にも言ったと思うけど、既に全国大会への切符は手にしているわけだ。だから、東北地区大会の決勝トーナメントには、一回戦負けをして欲しいの」

『イクサクニヨロズ』の最終目標としては、『FANG GUNNERS』や『チーム風林火山』に勝ち、全国大会に優勝することだ。

その上で、彼らは、『イクサクニヨロズ』の真の戦闘能力という名のカードを、相手に渡すわけにはいかない。

しかも、詳しく書かれると、『イクサクニヨロズ』の存在が、センゴクマンに似すぎていることも明らかになってしまう。

それ故の、ユキメの発言だ。

詳しくは、第一話を参照して欲しい。

「それじゃあ、後は俺たちが負けて、それで終わりってことか?」

憐は、伊勢海老を飲み込んだ後、不服そうにして、ユキメに聞き返す。

「それでもいいなら、いいけど?」

だが、ユキメは奥歯に物がはさまったような答を返した。

そして不敵な笑みを、皆に振りまく。

「……また、何か怪しげなことを考えてるんですか?」

ジト目で睨みつける秋彦。

嫌な予感がしたのは、何も秋彦だけではないようで、この場にいる全員がそう思っていた。

「確かに、まっとうとは言い難いわね」

ユキメのやることなすこと、全てまっとうではないのだが、この場で、あえてその事に触れる人物はいない。

いつものことだからだ。

「でも、貴方たちのレベルアップには、大いに役に立つんじゃない?」

にやりと笑うユキメ。

「……具体的な内容は?」

ユキメの「レベルアップ」という言葉に反応した憐も、彼女同様、にやりと笑う。

周りを見回してみると、『イクサクニヨロズ』の全員が、その言葉に食いついているようである。

もちろん、部外者であるチサトや翔子は、我関せず、という態度だが。

「潜入よ」

簡潔に一言言うと、ユキメはにこりと微笑み、話を続けた。

「私が根回しして、貴方たちが県代表に選ばれたチームの中に潜り込めるようにする。もちろん、補欠の形にしか出来ないけど、私の方で、補欠を出さなくちゃいけない状況にしてるから、その点は安心して」

笑みを崩さないユキメ。

だが、瞳の奥には、邪悪な光が発せられていた。

「ふっふっふ。幸い、ここにマッドな人が……」

「誰がマッドだ、誰が」

翔子は、ぽこり、とユキメの頭を木刀で軽く叩く。

ただ、擬音としては「みしっ」という音でもよかったくらいの「ぽこり」だったが。

「……じゃなくて、怪しげな薬を作るのが趣味の、スレンダーな女性がいることだし、大丈夫よ」

「それを『マッドアルケミスト』って言うんじゃ……」

チサトの横槍をも、翔子はしっかりと木刀でどついて止める。

「ま、細かいことは、企業秘密! センゴクマンたちと戦いたいなら、次の試合に上手く負ける事を考えなさい!」

ともかく、ユキメは数多くの謎を残しながら、皆に、これからの事を考えるように仕向ける。

そして、彼らは東北地区決勝トーナメントの相手である『てつはう』に、如何にして負けるか、の相談を続けるのであった。



◇7◇


戦略を練り終えた数分後。

ここは、数多くの『きりタンファンクラブ』の勇者たちが眠る場所。

もちろん、文字通りの意味だが、多少ながら、本来の意味に近いものがあるかもしれない。

だが、No.3は、全身に切り傷、打ち身、火傷etc……を受けながらも、辛うじて意識を取り戻していた。

「我々には、神(霧華)を救うことも出来ないのか……。うっ……うっ、うっ……」

彼は、その時、愛する者をも守れない自分のふがいなさを嘆く。

その表現としての、嗚咽。

霧華を、もう二度と見られないという悲しさから、彼は涙があふれて止まらなかった。

数年前までは、何処にでもいる青年だった。

そんな彼は、『何時だよ? 全員集合』がとても大好きで、画面に釘付けになって、何度も何度も見た。

ドリフマニアだった彼は、ある時、サバイバルゲームにどっぷりと浸かり込む。

彼にとって、『何時だよ? 全員集合』と同じくらいに、面白かったのだ。

そんな彼に、転機が訪れた。

それが、狩谷長助の死。

当然、ドリフマニアだった彼にとっては、心にポッカリと穴が空く、何ていう表現を軽く超え、心そのものが喪失した感覚を覚えるくらいに、深刻な話だった。

忘れようともした。

だが、『イクサクニヨロズ』のせいで、その悲しみは再び蘇ってしまったのだ。

だけど、悲しみに暮れる彼の前に、女神が現れた。

その名は、直江霧華。

彼女の笑顔は、その穴を地球に優しい天然素材で丁寧に埋めてくれたのだ。

その時彼は、この笑顔を二度と手放すまい、と心に誓ったのだ。

だが結果としてその誓いは、再び、憎き『イクサクニヨロズ』(+α)の、女性四人の手によって、無残に散らされたのだ。

『泣くのは、もうお止し』

「は……この声は!?」

突如、No.3の頭に、小鳥のさえずりのような声が、優しく響く。

『貴方の思い。痛いほどに伝わりました。貴方は……直江霧華さんを守る力が欲しくはありませんか?』

まるで、悪魔のささやきか、と言わんばかりの取引を、No.3に持ちかける。

しかしNo.3のとらえ方は異なり、彼の救世主のような存在のようにしか、感じなかった。

だから、迷うことなく彼は言う。

「ああ。俺は……きりタンを守る力が……欲しい!!」

『そうですか。貴方の思い、しかと承りました。これからは、直江霧華さんの為、そして貴方に力を与えた我が主、魔王クラーマ様の為に力を尽くすがよい』

すると、No.3の容貌が変化していった。

全身の毛という毛が、全て抜け落ち、皮膚が、健康的な褐色となっていく。

さらに、褐色の肌を油らしきものが覆い、てかりのようなものが生じていく。

それだけでは変化は終わらない。

続いて、その肌を盛り上げるかのように、著しく、筋肉が発達したのだ。

その姿は、まるでボディビルダーのそれである。

最後に、服装にも変化が現れた。

きりタン鉢巻、きりタンはっぴ、きりタン団扇、そしてきりタンふんどし(!)を残して、それ以外の装備は全て、姿を消していた。

ここに、“シャイニングきりタンファンクラブ怪人”が誕生した!

“シャイニングきりタンファンクラブ怪人No.3”が、辺りを見回すと、気を失っていた、同じ勇者たちも、その身を“シャイニングきりタンファンクラブ怪人”へと、変貌させている。

「ふふふふ。我らの神、きりタンの為。そして、魔王クラーマ様の為に、この世に再びきりタンの魂を降臨させ、そしてきりタンを世界一のアイドルへと導くのだーーーっ!!」

「ハーイル、きりタン!!」

「ジークきりタン! ジークきりタン!」

「青き清浄なる、きりタンの為に!!」

「流派っ! 直江霧華はぁぁぁっ!」

「王者の風よぉぉぉぉっ!」

「全新っ!」

「系列っ!」

「天破っ!」

「侠乱っ!」

「見よ! アイドルの星は赤く燃えているぅっ!!」

危うし、直江憐。

再び、あの電波少女(少年?)、直江霧華へと変貌してしまうのか?

次回へ続く……のか?


次回予告

少年たちが見つめるのは果てしない光。
その光に向かうため、彼らは敗北を選ぶ。
分かれた道。
しかし、彼らはいつか合間見えることを信じて進み続ける。
そんな少年たちが出会う仲間とは?
次回いつわりのものたち第五話「イクサクニヨロズ潜伏」

未来への道をたどれ『イクサクニヨロズ』


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