Mituyaさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
偽りのものたち
第三話
| 「イクサクニヨロズ激突」 | ||
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人を殺め、人を殺め、また人を殺める。 そんな、血で血を洗うような毎日が続いていた。 しかしそんな彼らにも、重大な選択を迫られる時が近づいていたのだ。 「シュウ……。俺は……もう……駄目だ。……はぁ……妹の……霧華……を……たの……む……」 「お兄ーーちゃーーーーーーーーん!!!」 兄を殺され、涙を枯れるまで流し、自身を復讐の鬼とさせる霧華。 しかし、それを咎められる人物はここにはいない。 なぜなら彼らも……熱く……そして激しく、復讐に燃えていたからだ。 「“神殺し”のチサト。貴様を……殺す!!」 ……。
チサト「ユキメさ〜ん。何を書いているんですか〜?(猫なで声で)」 ユキメ「それはね〜。(振り向いて)……えへっ(引きつった笑い)」 チサト「そういえば、一つだけ試してみたい技があるんですよね〜(にっこり)」 ユキメ「憐君直伝、戦略的撤た……」 チサト「(言い終わる前に)FIRE! がすっ(右手でフック)ばきっ(左手で裏拳)どかかか……(左手でジャブの連打)破壊力〜!(右手で強烈なアッパー)」 ユキメ「(宙を舞いながら)チサト……。あなたは強かった。しかし間違った強さだった……」 チサト「画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さい」 注:このあらすじは、多少、本編と差異がございますので、前作を御覧になることをお奨めします。
『イクサクニヨロズ』のメンバー全員とユキメが、そこにいた。 なぜなら、今をさかのぼること数分前、ユキメが美奈の攻撃により、頭部に強烈な一撃を受けてしまった為だ。 だが今のユキメの怪我は、額のところに包帯を巻いている程度で、落ち着いている。 しかも、傷口は完全に塞がっており、瘡蓋(かさぶた)こそあるものの、完治している、と言っても問題はない。 確かに、事故の直後は、ユキメの四肢は痙攣することしかできない程の重傷っぷり。 しかも、視点は合わず、血は止め処なく流れ、幻聴まで聞こえるといった始末である。 そんな状態だったユキメなのに、何故、回復がこれほどまでに早いのか? (ギャグキャラの特権だね♪) と、憐……もとい、霧華の考えていることは、強ち間違ってはいないが、実際は違う。 ユキメも憐と同様に、怪しげな薬を使ったのだ。 <接合―未完成>とは違う種類の薬で、<治癒>と呼ばれるもの。 使用することにより、一瞬である程度の怪我を治してしまうという、優れものだ。 しかも、<接合―未完成>とは違い、<治癒>は完成品なので、副作用がないのが、良い所である。 「……というわけでして、今から解毒剤作って、急いで届けて。……はいはい、わかってるって。じゃ、よろしく」 元気になったユキメは、美奈の催促のままに、解毒剤のアテがある人物に電話をかけて、そして切った。 「一時過ぎくらいに、解毒剤が届くそうよ。よかったわね、美奈ちゃん」 「はいっ!」 美奈は、今までで一番力強い返事をユキメにしてみせた。 ユキメもそれに応じるように、にこりと微笑んだ。 「ようやく、ゴタゴタも終わったことですし、さっさと作戦会議をしましょう」 秋彦の一言で、緩みまくった雰囲気が、一瞬にしてきりっとしたものへと変わる。 「あのー」 だがそんな雰囲気に、さくっと横槍を入れる人物がいた。 「何、瑠璃華?」 「これはユキメさんのことなんだけど……」 瑠璃華は怪訝そうな表情で、ユキメを見つめている。 ユキメは、そんな瑠璃華に臆することなく首をかしげながら、にこりと微笑んでいる。 「リザーバーとして、ユキメさんが出るのはいいんだけど、高校生だって保障するものって、あるんですか?」 一同は、瑠璃華の質問にハッとした表情を浮かべる。 「気が付かなかった……」 一応、このサバイバルゲームの大会のルールとして、高校生でなければ出場できない、というものがある。 だが、この年齢不詳、謎だらけの腕利き情報屋(自称)、ユキメ(源氏名)が高校生だという証拠は、一切ない。 つまりは、結局不戦敗になってしまうことを意味している。 そして、そんなことにも気づきもしなかった瑠璃華とユキメ以外は、かすかな希望を打ち砕かれ、がくんと肩を落とした。 しかし、ユキメはニコニコと、笑顔を絶やす気配はない。 「ふふふ、私が高校生だっていう確固たる証拠はないけど、一応学生証くらいは持ち合わせているわ」 怪しげな笑いを浮かべ、ユキメが取り出したのは、一枚の学生証だ。 それを、皆が注目する。 それには、『開道高等学校1年3組、御堂ゆきめ(みどう ゆきめ)』と書かれていた。 だが……そこに貼られていた顔写真は、明らかにユキメのものとは違う。 具体的に言えば、髪の質、色、ボリューム、目の形、位置、鼻、口、輪郭などが違う……というか全部違う。 「ユキメさん……これは?」 秋彦は、無表情のまま顔写真を指差し、ユキメに問いかけた。 「ん? ……あ、し、しまったぁぁ!!」 ユキメは自ら取り出した学生証を見て、オーバーリアクションで叫んだ。 こういう状況では、ユキメはどこかわざとらしく見せる傾向にある。 というか、大半は本当にわざとなのだが。 「これは私の後輩の学生証だったっ!!」 ユキメが何故、後輩の学生証を持っているのか、の方が謎である。 慌てて、再度ユキメは懐を調べた。 「本当はこっち」 再びユキメは、先程とは色違いの学生証を取り出した。 今度の学生証に書かれているのは、『開道高等学校3年1組、城戸玲(じょうと れい)』と書かれている。 もちろん、今度の顔写真は、今のユキメそのものだ。
「城戸玲……さんですか。ってことは、これからは玲さん、って呼んだ方がいいのですか?」 「別に今までどおり、ユキメでいいわ」 美奈の問いに、あははと笑いながら手をぱたぱたと振り、ユキメは答えた。 しかし、ユキメは笑い終えた後、不意に真面目な表情を作る。 その変わり様に、一同は僅かに戦慄を覚え、すぐさま真面目モードへと移行した。 「さて作戦会議に戻るけど、現在作戦参謀兼進行役は不在だし、立案、進行の役目を、一番の経験者である秋彦君にお願いするわ」 ユキメは秋彦に対し、かわいく片目をつぶる。 美奈や麗奈や瑠璃華と違って、ユキメはそれほど美人、というわけではなく、活動的で健康的という感じの格好いいタイプだ。 だが、そのウインクは妙に色気に満ちており、思わず秋彦は顔を赤らめてしまう。 もちろん、それを瑠璃華が見逃すはずもないのだが、相手が『イクサクニヨロズ』の恩人である、ユキメということもあり、口を尖らせるだけで文句は言わなかった。 「……こほん。まずはディフェンダーである、麗奈ちゃんや瑠璃華」 秋彦の呼びかけに、麗奈は一瞬だけ目を細め、瑠璃華は再びきりっとした表情を作る。 「二人にはフラッグの傍で待機してもらう。遮蔽物に隠れている相手を瑠璃華が発見、撃墜。麗奈ちゃんは瑠璃華をフォローしてもらいたいんだけど」 だが、その案には二人とも、顔をしかめた。 麗奈は元々が目立ちたがり屋で、ディフェンダーのように華のない役割は嫌いなのだ。 しかも麗奈は、前回の戦いでも、じっとしてられない、というしょーもない理由で、唯一『イクサクニヨロズ』の中でヒットされた人物となっている。 故に、今大会では汚名返上を狙ってるのだ。 そして瑠璃華は、麗奈以上に単純な理由。 単に、秋彦と一緒にいたいだけなのだ。 そんな不満たらたらな二人を説得するべく、ユキメは立ち上がった。 「一番敵が来る可能性が高く、危険なんだけど、この仕事は、誰よりも努力して、チームの中で一番能力のある麗奈ちゃんにしかできないことなの。そんなつらい戦場に、麗奈ちゃんを送るのは私としても忍びないことなんだけど……」 「やります!」 すまなそうに語ったユキメだが、嬉々とした表情で了承した麗奈を見て、一瞬だけ笑みを浮かべた。 麗奈を操るのは簡単だ。 プライドを刺激して、「あなたにしか出来ないこと」というようなことを言えば、それだけで事足りる。 続いて、ユキメは瑠璃華の方を向いた。 「ね、瑠璃ちゃん。戦地に赴く恋人を、健気に見送り、無事に帰ってきた恋人を涙ながらに迎えに行く女、って素敵だと思わない?」 「……わかった。あたしが秋彦の背中を守り、そして無事に帰ってくることを祈ってる!」 瑠璃華はもっと簡単だ。 「秋彦に好かれるような女になりたくない?」というようなニュアンスを混ぜればいいのだから。 催眠術という技能を持ちながらも、ユキメはそれを使わずに人を動かすことが出来る話術を持ち合わせているのだ。 もちろん、数ヶ月の付き合いで、麗奈と瑠璃華の性格を見越してのことでもあるのだが。 「ふふ、わたくしの本当の実力を、相手に知らしめてあげますわ。おーっほっほっほ……」 「成功した暁には、プレゼントとして、ダーリンとの初めてのキス……きゃっ(はぁと)」 いい気になっている麗奈と、妄想にふけっている瑠璃華だが、ユキメにいいようにあしらわれているだけだ、ということを彼女たちは知らない。 しかし、彼女たちが悪いわけではない。 ユキメにかかれば、大の大人ですら赤子の手を捻るかのように操ることが可能なのだ。 「そっちは決まりだね。そして、オレとシュウと美奈ちゃんとユキメさんは攻撃を担当。シュウと美奈ちゃん、ユキメさんでじりじりと前進して、オレが援護にまわるよ」 秋彦は、『たくてぃくす君』に書いてある道の場所の数箇所にマルを書き入れた。 どうやらこの点を守るように前進して、侵入してくる敵を迎撃。 他の点を放置しているのは、フラッグを取りに行く相手は、本陣を守る、麗奈や瑠璃華に担当させるようだ。 「あら、それじゃあ勝ち目は薄いわね」 だがその案に、ユキメは横槍を入れた。 「侵入路を防ぐっていうのは、敵が必ずそこを通るって分かっている場合にのみ有効な作戦よ。第一、侵入してきた相手が、必ずしもフラッグを狙うとは限らないわ」 するとユキメは、道になっていない所に矢印を書き、味方に模した一つのマルを、矢印で挟み撃ちの形にした。 馬鹿正直にひとつの進入路だけ守っていると、いつの間にか別の進入路を通ってきた敵に挟撃される恐れがある、ということだ。 「こーいう展開になったら、確実にアウトだしね」 「じゃあユキメさんは、何かいい案でもあるんですか?」 怪訝そうな顔で、ユキメの顔を見る秋彦。 だがその時、急にユキメの表情が変わり、右耳を右手で抑えた。 突然、何かに耳を澄ませるような姿勢で、ユキメは硬直する。 「ただいまマイクのてすとちゅ〜♪ 聞こえてますか、どーぞ♪ ふっふっふ、やっぱりイタコは電波だぜぃ♪」 意味不明な事を言ったのは、自分自身がすっかり電波な憐……もとい、霧華である。 「…はぁ、憐のやつ、また訳のわからん事を言い出して」 数少ない常識人の秋彦がため息をついた。 「無視するが良かろう」 修一がボソッと呟く。 だが、実のところ憐の発言は、ユキメを内心で、驚かせていたのであるが……。 「ねぇ、秋彦。いつの間に憐って縄抜けしたの?」 瑠璃華は、思わず秋彦の耳元で囁くように聞いてくる。 瑠璃華としては、秋彦だけに聞こえるように話したつもりだったのだが、それは思いのほか、声が大きかったらしく、すぐ傍にいた、修一の耳にも届いていた。 修一としては、憐のことを完璧に縛り、縄抜けなんかとても出来ないようにしたつもりであった。 事実、チサトから直々に習ったときに、自分自身で実践した結果、完璧ならば抜けるはずもない、と確信していたのだ。 だが憐に向けて行われた亀○縛りは、あっさりと縄抜けされてしまったのである。 これには冷静沈着な修一も、プライドをみじん切りにされて、大きくうなだれてしまっていた。 それはともかく、ユキメは修一のアドバイスどおり(?)憐にはリアクションを返さずにいたが、やがてにやりと邪悪な笑みを浮かべた。 「秋彦君、たった今、いい案が出来たわよ」 ユキメのその笑みは、ろくでもないことを考えているときとそっくりだった、と美奈たちは思った。
強いて言えば、ユキメが憐のヘッケラー&コックMP5R.A.Sとタクティカルマスターを借りた程度である。 ユキメの衣装は、憐の迷彩服とサイズが全然一致しなかったので、演出用に用意した服なのだが。 で、そんなこんなで試合が始まった。 ちなみに、まず午前に県の代表を決める、リーグ制の試合を行う。 そして午後に、午前に行ったリーグ戦で、優勝した6チームによるトーナメント制の戦いを行う。 それに優勝したら、優勝チームの県のリーグで二位になったチームが、代わりに、全国大会の県代表として出場することができるのだ。 ともかく、勝ち残るためにはまず、『イクサクニヨロズ』は青森県の代表チームに名乗りを上げなくてはならない。 だがここで、『イクサクニヨロズ』は嬉しい誤算が生じた。 青森県代表を選ぶリーグ戦には、本来『イクサクニヨロズ』を含む4チームが出場するはずだった。 だが今回、そのうちの2チームが出場を辞退した、というのだ。 風の噂……というかユキメ曰く、PTAのおばさま方が、サバイバルゲームという活動に強く反発の意を示し、その結果として高校の方で辞退を申し込む形になったそうな。 恐るべし、PTA。 恐るべし、自分の子どもを守ろうとする母。 ただし、サバイバルゲームというものは、戦争を賛美したり、軍国主義化を煽るようなものではないことを、ここで明記しておく。 「今回の件に関しては、作者が面倒くさい……ゴフゴフッ。……じゃなくて、何も知らず、本質ってのをまるで見ていないくせして、何でもかんでも決め付ける親が悪いのよ」 一瞬、ユキメは言ってはいけないことを言ったような気もするが、気のせいである。 ええ、大いなる気のせいですとも! それはともかく、結局今回も『イクサクニヨロズ』が戦う相手はたったの1チームだけであった。 「これも、ユキメさんの陰謀ね♪」 憐は、未だに電波な状況は治っていない。 そして、修一が隅の方で「我の、縛りの技術では、チサト殿の腕には遠く及ばないのか……」と、落ち込んでいたとかいないとか。 「何でもかんでも、私の陰謀にしないでくれる、憐君〜」 「いや〜ん。ボク、憐じゃなくて霧華って呼んで欲しいの。憐とは違うのだよ、憐とは♪」 「はいはい。じゃあ霧華ちゃん。私のせいにしないでね」 「はーい。ジークユキメ、ジークユキメ♪」 電波な憐を、子どもをあやすかのように扱うユキメは、ある意味ですごい。 ユキメは細かいこと、さらには大まかなことすらも気にするようなタイプではないので、当然といえば当然の結果だが。 そんな暴走状態の憐を残し、気合と共に、彼らは戦場へと赴いた。 「ドラゴンゲートより、『ITACO』入場!!」 そう呼ばれて登場したのは、装束を着た数人の男と巫女さんの服を着た紅一点の女性である。 男たちは奇声をあげながら登場、というおどろおどろしい入場の仕方なのだが、選曲が『怪物くん』という何ともミスマッチな曲のおかげで、観客からは失笑されていた。 「ハァ、ハァ、巫女さんじゃ……」 「巫女さんサイコー!!」 「巫女さんマンセー!!」 ……と、これは一部の観客の台詞である。 言わずもがな、この人たちは、選曲や男たちには目もくれず、巫女服によって、より美人に見える紅一点を見つめるだけであった。 巫女服である、この白と赤とが調和した服!(白はどうでもいいけどね) 魑魅魍魎との戦いに明け暮れた結果得た、近づくもの全てを切り裂く、この鋭い目つき!(は、いいとして) 麗奈や瑠璃華には劣るものの、整った顔立ち!(モノアイならベストだよね♪) そして極めつけは、ぴょこっとはねた髪!(そう、これこれ!) 「シャアザ○だね」 何故か、瑠璃華の発言と同時刻、彼女から離れた位置にいる巫女さんが、どんがらがっしゃーん、という盛大な音を立てて転ぶ。 どうしてこんな場所に、ドラム缶につまづいたような音が出たのか、というのは大きな謎であるが。 「……瑠璃華ぁ。お前も、マニアなネタが多くなってきてないか?」 「じゃあ白を強調して、R○−78こと○ンダム?」 「それならオレたちは「オレを踏み台にしたぁ〜!?」とか言わなくちゃいけないじゃないか!」 いろんな意味で、秋彦も毒されているのだが、それは今は関係のないことである。 それは置いておいて、残りの男たちは……あえて描写はするまい。 一言言ってしまえば、普通の男たちであった。 ともかく、観客は巫女さんに銃、というシチュエーションが、琴線に触れたようである。 なお、『ITACO』の面々、男たちの呼び名は『I』『T』『A』『C』『O』。 そして巫女さんはなぜか『TARAK○』であった。 「○ルテナ様ーーーーーっ!!」 「ま○ちゃーーーーーーん!!」 これも、一部の観客の台詞である。 もちろん、『TARA○O』は黒き御手やさくら家とは何ら関わりはない。 とはいえ、『TAR○KO』が怪しげなファンを作ったのは間違いないだろう。 「続いて、タイガーゲートより、『イクサクニヨロズ』入場!!」 対する『イクサクニヨロズ』は、とある有名人の遺影を持っての登場である。 その有名人の名前は、狩谷長助(かりや ながすけ)。 先日亡くなった、有名人である。 『イクサクニヨロズ』の入場曲である“『踊る大扁桃腺』の警視庁登場時の音楽”も相まって、観客からは「ワクさん……どうして……」などと、悲しみに浸る声が漏れ聞こえてくる。 嗚咽も漏れてくることから、ほとんどの人が、彼のファンだったようである。 しかも、『イクサクニヨロズ』の全員が黒い喪服を着て、しかも涙(ユキメは自前、他は目薬で代用)を流して悲しむという、いかにも葬式な雰囲気である。 そんな悲しみが他にも伝わる状況の最中、『イクサクニヨロズ』は全員、メインウェポンを取り出した。 美奈:ババン(フルオートでバーストショット) 修一:ババン(同じくフルオート) 麗奈:バン(セミオートで一発だけ) 秋彦:バン(同じく一発だけ)
修一:ババン(同じくフルオート) 麗奈:バン(セミオートで一発だけ) 秋彦:バン(同じく一発だけ)
本来なら、これは笑いを生むはずなのだが、観客たちは、故・狩谷長助のことを思い出してしまうらしく、観客席から激しい泣き声が聞こえてくるのだ。 ある意味では、ユキメの計らい通り、アピールには成功したのだが、大会にまるでそぐわない、重苦しい雰囲気が周りを包み込んだのであった。
立っていられるのもやっとのこと、と思いたくなるくらいの、重苦しい雰囲気に包まれた観客席。 老若男女問わず、ギャラリーは目頭を熱くさせていて、悲しみに明け暮れていた。 知らない人がこの場にいたら、間違いなく離れたくなるほど、じめじめうじうじとした、そんな状態が続く。 だが、転機はすぐに訪れたのだった。 「そんな気分じゃ、駄目駄目よん♪」 重苦しい雰囲気に、これまたそぐわない、ストロベリーボイスな少女の声が響き渡る。 観客たちが一様に振り向くと、そこには長身でショートカットの美少女が、明るい笑顔を振りまきながら立っていた。 「こんな相撲取りのように重苦しい雰囲気は、知恵と勇気と愛を心に秘めし、美人聡明、良妻賢母、花鳥風月、戦国無双、世界が生んだ奇跡、直江霧華がローン一括返済のように払ってア・ゲ・ル♪」 憐……もとい、霧華が決め台詞を言い、さらに正気だったら恥ずかしくて、到底真似できるはずもないようなポーズをビシッととった。 その風格たるや、どこぞのアニメでよくある美少女のそれである。 そして、対する観客の反応はというと。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 何故か、大好評であった。 「ボクの魔法で、日食のように陰った心を解き放つ♪ 聞いて、ボクの歌!!」 「きりターン!!!」 いつの間にか、愛称すらも出来ている憐……もとい、霧華。 そして憐……もとい、霧華は何処から手に入れたのか、マイク片手に歌いだす。 「愛野郎♪♪ “愛”の前立てなんて もう捨ててしまえ 敵がいるのに〜 笑って戦えな〜い♪ I'm smiling smiling smiling…♪」 憐……もとい、霧華のバックには、何故かミュージシャンがいて、その曲に合わせて演奏してくれる。 演奏が上手いこともあるが、元々、憐は声がかなり良い方であるし、有名な“猛蒸す”の曲である。 その曲と声、そして憐……もとい、霧華のかわいさに、野太い男どものだみ声は、絶え間なく上がる。 その後も、憐……もとい、霧華は延々と歌い続け、結局“直江霧華リサイタル”は昼まで続くことになる そしてそれが後に、憐の災いの元となることも知らずに……。
試合開始と同時に、麗奈と瑠璃華を除いた全員が、指定の位置まで急いで駆け出す。 そして、美奈、修一、ユキメは、中央に位置する高台の、いたる所で待機。 秋彦は南側にある、一番長い道での待機だ。 ここなら、起伏が激しく、遮蔽物が多い戦場でも、秋彦のスナイピング能力が活かせるのだ。 とはいっても、そこに相手が来れば、の話であるが。 「ユキメさんの指示があるまで待機。特に美奈ちゃんは、ね」 「わかってます……」 ユキメがプレゼントした通信機で、秋彦は美奈へと命令を伝えた。 そして指示どおり、今の状況で『イクサクニヨロズ』は待機場所を動くことはなかった。 対して『ITACO』。 こちらは、地の利を活かす、速攻の策を練っていた。 この策は、相手チームにとって、最も好ましくない策なので、想像こそすれど、実際に対処する方法は少ない。 よって、東側チームにとって、速攻というのは上策と言えよう。 「あー、こちら観客席。『スナイパー』は現在、南の遊歩道にて待機。『忍者』と『ポニテ』は中央の高台。『スカート』は、高台に入ったが、死角になっていて、姿は確認できず。『縦ロール』と『ツイン』は動かずに待機している様子。どうぞ」 観客席からも、電波が飛び交う。 そう、『ITACO』は観客席に一人だけ情報屋を置いて、そこから『イクサクニヨロズ』の待機場所を逐一漏らしているのだ! ちなみに、文字通り、スナイパーライフルを所持していることから、秋彦のコードネームは『スナイパー』。 覆面に忍び装束なので、修一のコードネームは『忍者』。 ポニーテールなので、ユキメが『ポニテ』。 迷彩服なのに、スカートをはいているので、美奈が『スカート』。 で、縦ロール、ツインテールなので、『縦ロール』が麗奈、『ツイン』が瑠璃華だ。 「くっくっく。『ITACO』だからといって、最新機器を使わない、と思ったら大間違いだ」 リーダー格である、『I』がにやにやと笑みを浮かべる。 余談だが、『ITACO』は地方大会では辛勝。 イタコなら電波でなければならない、という無茶苦茶で意味不明な理論を『I』が押し通し、今大会から通信機を導入したのだ。 「では、『A』『O』『I』(以下、この三人をアオイと呼ぶ)で、防御が薄い、上翼から攻め込むことにする。『T』『C』『TA○AKO』は相手の突撃に備えて本陣で待機だ。どうぞ」 「「「「「了解」」」」」 敵がいないことで、アオイはすんなりと敵陣へと侵入することが出来た。 敵の位置は、『ITACO』が差し向けた、観客席のスパイによって、簡単に把握出来る。 そのため、たくさん敵が待機している場所へは、行かなければ良い。 いたとしても、アオイは三人、相手は一人。 当然、強引に突破するのは簡単。 もし戦闘中に、敵の増援が来たとしても、本陣で待機している三人を上手く使えば、立て直させるどころか、かえって泥沼化させることも可能なのだ。 退くも攻めるも、『ITACO』の方が一枚上手のようである。 ……少なくとも、今は。 とにもかくにも、アオイは敵陣深くへと潜りこむことに成功した。 「こちら『I』。敵に発見されることなく潜入することに成功した。どうぞ」 「こちら観客席。『忍者』『ポニテ』『スナイパー』は動く気配はありません。『スカート』は、姿を確認できず。どうぞ」 『I』は、内心ほくそえむ。 アオイが戦うであろう相手は、動いていない、『縦ロール』と『ツイン』。 『スカート』はともかく、遠くで待機している『忍者』『ポニテ』『スナイパー』の三人は増援に間に合うはずもない。 そして、アオイの三方向による突撃こそが、『ITACO』の最後の大詰めである。 たとえ、『縦ロール』『ツイン』の二人が、一人一殺出来たとしても、最後の一人がフラッグを奪取できる。 そうなれば、急いで来たとしても『スカート』は間に合わない。 自分の考え出した完璧な作戦に、思わず唇の端が引きつってしまう『I』。 「では、カウントだ。『イクサクニヨロズ』の最期を飾る、な」 危うし、『イクサクニヨロズ』!! 「5、4……」 アオイは電動ガンを握る手に、力がこもる。 「3、2、1……」 そのとき、アオイから遠く離れた位置にいる、ユキメがにやりと笑った。 「0!!」
タイミングを計ったように、美奈がCAR−15を両手で持ち、乱射しながら突撃してきたのだ。 突撃のために、互いに離れていたアオイ。 そのため、全滅という結果にこそならなかったが、『O』はBB弾を全身に受ける羽目となった。 「なんだと……!」 「ごめんなさい……」 続いて、美奈が狙いを定めたのは『A』。 しかし、奇襲のショックから立ち直った『A』と『I』は、素早く銃口を美奈へと定める。 だが、美奈の反応速度は超一流レベル。 『A』と『I』がトリガーを引く直前、美奈はすばやく、適当な藪へと回避したのだ。 ぱん、ぱんっ。 『A』と『I』の攻撃の最中に、二発の乾いた銃声が響いた。 「っく……ヒット」 「まさか……。俺の作戦が……」 呆然とするだけの『A』と『I』。 ま、フラッグのすぐ近くでドンパチやろうとしたのだから、そこの守り手に銃撃されるのは自明の理であった。 「ほーっほっほ。わたくしの腕をもってしてなら当然ですわ!!」 麗奈も、秋彦同様にスナイパーとしての腕は高い。 これだけ近く、しかも美奈を警戒するあまり、敵が麗奈や瑠璃華に対して身を隠していないのだから、麗奈の言葉どおりに当然の結果である。
「どんなに優秀な戦士でも、挟撃されれば脆いもんよ」 にんまりと微笑みながら、ユキメは修一に言った。 「ま、策が漏れ聞こえれば、嫌でも対処が練れるしね」 ユキメは、耳につけている小型通信機を強調させるように、人差し指でポンポンと叩いた。 今回、『イクサクニヨロズ』が取った策はこうである。 作戦会議中に、『ITACO』のテスト電波を、偶然ユキメが傍受。 その際に、いるはずのない『ITACO』の七人目の声を聞いたのだ。 スパイがいることが明らかになったので、まずは七人目である観客席にいるスパイを探り当てる。 これは、ユキメが読唇術を使えた上に、目もよかったので問題はない。 台詞を傍受し、それにあわせて喋っている観客を探すだけでいいからだ。 次に、自分たちの隠れ方。 これに関しては、修一、秋彦、ユキメの三人が、わざとスパイに把握させやすい位置に待機し、防御に力を入れていないように見せていた。 そうすることで、攻撃重視の作戦を練っているように見せかけられるし、不用意な攻撃を誘うことが可能だ。 もしこの三人を、『ITACO』が襲撃しようとしても、修一とユキメは近接しているので襲いづらいし、地形としても不利なので、メリットは少ない。 秋彦を狙おうものなら、広い射程により、近づく前にやられてしまう可能性が高いのだ。 もちろん、不確定要素の一人である美奈は、位置が掴めず、襲撃は不可能。 結果的に、ディフェンダーである麗奈と瑠璃華を襲うこととなったのだ。 そして、注意が修一たち三人に向いている間、美奈は、適当な状況を見計らって中央の高台を抜け出し、本陣潜入中のアオイを追尾していた。 例え、『ITACO』が速攻を決めようとして走り抜けていたとしても、美奈の足ならば容易に追いつける。 でも今回の場合、『ITACO』は慎重に事を進めようとしていたので、アンブッシュしながらの追尾であった。 もし急いでいたとしても、『ITACO』自身の足音で、美奈の足音が消されるので、アンブッシュする必要もない。 後は美奈、麗奈、瑠璃華の挟撃である。 今回、『ITACO』の不幸というと、相手に情報のプロ(自称)がいたことであろう。 ユキメの手にかかれば、素人の電波なんぞ「受け取ってください」と言っているのとほぼ同義なのである。
フラッグの守りは、瑠璃華だけに任せ、麗奈も前線へと繰り出す。 指定の位置のつけば、後は時間との勝負だ。 今回導入されたルールとして、勝ち点がある。 勝てば3点、負ければ0、そして時間制限による引き分けで1だ。 そして青森県代表チームの戦いは、これだけ。 つまり、この結果で全てが決まるのだ。 もちろん引き分ければ2チームとも、勝ち点は1だ。 だが、その際にはもう一つ、影響を及ぼすものがある。 それが撃墜数とフラッグの奪取である。 もし時間制限で、このまま引き分ければ、現時点での撃墜数の差で、否応なしに『イクサクニヨロズ』の勝利が決まる。 「秋彦君、麗奈ちゃんは向こうが突出するまで待機。私か修一君が狙われたら、もう一方が背後を狙うようにする。で、ドンパチがあったら、美奈ちゃん、秋彦君、麗奈ちゃんで突撃を開始してね」 伝えることを伝え、ユキメ自身も敵陣付近で待機した。
(ふふ。強烈な散弾で、一発逆転を狙ってるようだけど、そうは問屋が卸さないわ) 情報を傍受しているユキメは、相手の切り札すらもお見通しだった。 切り札は、遠くの相手にはまるで届かないため、美奈、麗奈、秋彦の三人には当たらない。 『ITACO』の近いところにいる修一とユキメは、挟撃するべく、互いに離れているので、切り札を使うには効率が悪すぎる。 そして、『ITACO』には時間もない。 その結果、『ITACO』は、無謀な突撃を行うしか、手はない。 というわけで、『C』と『T○RAKO』が、池の向こうにいる三人に対して、弾幕を張りながら突撃をかけてきた。 美奈たち三人がいる林へと、大量のBB弾が襲い掛かる。 無謀な突撃とはいえ、二人分の弾幕は、『イクサクニヨロズ』のうちの三人を足止めするには十分だ。 「『C』、『○ARAKO』の両名はそのまま突撃を継続せよ。ただし、伏兵には十分に警戒するべし。『T』は『忍者』が近くに潜んでいるので、それを即座に迎撃せよ」 観客席にいる、『ITACO』のスパイはそう告げると、再び戦場へと目をやった。 スパイとはいえ、正体はごく普通の人間。 視野にも限界はある。 それ故、死角になっている奥の方は、特に警戒すべき点なのだ。 逆に、視野が行き届く手前側は、多少おざなりでも、敵の姿は目に付く。 さらには、『C』と『TARAK○』も、突撃の際に近くを通るので、もしいたとしても目に付くだろうと、スパイはタカを括っていた。 だが、その慢心がいけなかった。 ユキメは、いないだろうと思われていた所に潜んでいたのだ。 しかも、ユキメのアンブッシュ能力は、『忍者』である修一をも軽くしのぐ程。 『C』と『TARA○O』は、突撃しながらだから、上手く隠れているユキメを、見つけられる訳がない。 スパイはというと、もし警戒していたとしても、遠目なので、絶妙な位置に隠れていたユキメの姿を捉えることは出来はしないだろう。 もちろん、警戒がおざなりになっていたことが、ユキメを発見できなかった大きな要因となっていたのは言うまでもない。 あとは、ユキメが『T』の背後を取って、フリーズコール。 『C』と『TAR○KO』の奮戦もむなしく、がら空きとなったフラッグを取り、試合終了となった。 『イクサクニヨロズ』の圧勝である。 情報の強さを垣間見た戦いであった。 歓喜する『イクサクニヨロズ』の面々を尻目に、ユキメはとあるメモ帳を取り出した。 「流石は憐君ね。まさか、相手が通信機を使ってくる事まで想定するなんて」 そう、ユキメの持っているメモ帳こそが、憐が書き記していた、作戦手帳だったのだ! 例えこの場にいなくても、『イクサクニヨロズ』には憐がいる。 憐が、そして皆がいてこその『イクサクニヨロズ』なのだ。 青森県代表決定。 憐、美奈、修一、麗奈、秋彦、瑠璃華、そしてユキメという、青森最強のチーム。 その名は『イクサクニヨロズ』。
観客席では、未だに憐……もとい、霧華が歌っていた。 「らぶりー、きりタン!!」 観客たちは全員、「I LOVE きりタン」とかかれた団扇を持っている。 ……この観客たちは、何をしにここまで来たのだろうか?
「LOVE LOVE LOVE LOVE ラブビーム 愛 愛 愛 愛 愛野郎!♪ 憐……もとい、霧華は、そんな疑問を感じることなく、とても満足そうに『愛野郎の愛の歌』を熱唱していた。 「続いて、『マイスィート槍ん』を歌いま〜す♪」 ファンの声援に応えるかの如く、憐……もとい、霧華は歌い続けた。 「槍槍ん〜♪ ここで振って 斬れるで〜しょ あやつが〜♪」 さわやかな、朝の出来事であった。
車やバイクで来た人の為の休憩所。 そこに、いつもならユキメとつるんでいるおさげの女性、チサトがいた。 昨日の夜遅くから、愛車である、黒と赤を基調としたバイクをかっとばし、岩手県某所の駅までユキメを送り届け、それからも、ユキメの依頼で必要な資料を取りに行かされ……。 と、簡潔に言えば、パシリにされているのだ。 とはいえ、パシリとは思えないほどの高額な給料をユキメから貰っているので、チサトは文句の一つも言えはしない。 そして今現在、チサトはとある資料をユキメに届けるために、憐たちのいる、東北地区大会の会場まで向かおうとしているところなのだ。 「うーん、この調子だと会場に着くのは1時過ぎになりますかねぇ……」 チサトは地図を見ながら、ブラックの缶コーヒーを喉に流し込む。 苦いのは苦手なチサトだが、それでも眠気を覚ますのには効果絶大だ。 ルートを確認し、中身のない缶をゴミ箱に捨て、準備万端……。 「あ、トイレ行ってませんでした」 ……今度こそ、準備万端。 チサトが、愛車とライダースーツに見事調和している、黒と赤を基調としたヘルメットをかぶったその時であった。 誰かが、白い車をチサトのバイクの横に止めてきたのだ。 そしてその車を降りた人物が、有無を言わさない雰囲気で、チサトに声をかけてきた。 「……貴様、『黒い稲妻』だな? 勝負を申し込みたい。その上で、貴様が負けたらそのステッカーを貰いたい」 チサトに対し、唐突に声をかけてきたのは、緑色のレーシングヘルメットに緑色のレーシングスーツ、といった格好の人物であった。 色を除けば、チサトの格好とよく似ている。 とはいえ、ここは一般道。 はっきり言って、公道でなくサーキットを走るような格好である。 「もちろん、こちらが負けたら、もう二度とここには来ない」 その相手は、チサトの言葉を待つことなく続けた。 「『黒い稲妻』……って、誰かと勘違いしてらっしゃるのではないのですか?」 だがチサトは、『黒い稲妻』という名前は聞いたことがなく、首をかしげながら、逆に相手に訊ね返す。 チサトは一人のときは、なるべく安全運転を心がけているし、今時珍しく、標識に書かれている法定速度すら守っている、良心的なドライバーなのだ。 当然、走り屋に目をつけられることをした覚えはない。 「ふ、とぼけても無駄だ。その、黒と赤を基調としたヘルメット、ライダースーツ、そして製作会社の不明なこのバイク。極めつけは、車体に貼られている黒い稲妻のステッカー。間違いなく、貴様は『黒い稲妻』だ!!」 「だから私はですね……」 だがその時、相手からはヘルメットで見えないが、チサトはハッとした表情を浮かべた。 確かに、一人のときは安全運転バリバリの良心的なドライバーである。 ただしユキメが絡んだ状況では、速度を出させるために、山奥を通るルートを選ばされていたのだ。 そして、その際に抜かした相手は数知れず。 チサトとユキメの二人を乗せるという、過酷な状況の中で、悠々と抜いていく様は、対戦相手に戦慄を覚えさせた……ということを、チサトは知らない。 だがその前に、何故二人乗りなのにも関わらず、相手を抜けるようなパワーを持ったバイクを、良心的なドライバーであるチサトが持っているのかを説明しなければならない。 事の発端は、こうである……。 日本で五指に入る会社である『五十嵐コンツェルン』が、レース用に、一台のバイクを開発した。 もちろんそのマシンにはスピードを出すために、あらゆる改造を施してあった。 だが、その機体は完成してみればとんでもないじゃじゃ馬で、乗りこなせるものは一人もおらず、結局廃車同然となっていた。 でもそれを救ったのは、現在のチサトの保護者。 その人は誰も乗りこなせないはずのそのマシンを、自分が見込んだ才能の持ち主であるチサトに贈ったのだった。 チサトの腕は確かに衆に抜きん出るものがあった。 その悪魔のマシンを、ありとあらゆるテクニックを駆使し、自在に操ることが出来るのだ。 つまり、そのバイクはチサトを主と認めたのだ。 そんな経緯で、悪魔と呼ばれたマシンは、今現在、チサトの愛車となっている。 それは置いておいて、今回は常識人であるチサト一人。 暴走を煽る危険人物、もうちょっと具体的に言えば、ポニーテールの悪女は、ここにはいない。 チサトとしては、これ以上厄介ごとに首を突っ込むのは勘弁願いたいのである。 幸い、彼女には走り屋としてのプライドはないのだ。 「失礼ですが、お断り……」 「あら、『黒い稲妻』とバトルできるなんて、面白いじゃない?」 やんわりと断ろうとした、チサトの言葉を遮り、一人の美女が名乗りを上げた。 美女の方は、よほど嬉しいのか、笑みを堪えきれないのに対し、チサトは予想外の展開に、がくっとつんのめった。 「今日はラッキーだわ。“獲物”を追っていたら、最近現れた噂のライダー『黒い稲妻』とこんなところで会えるなんて。……それにしても、女の子だったのね。名うての走り屋たちを、あっさりと抜いていくというから、どんなライダーかと思っていたけど」 その人物は、ライダースーツとヘルメットに覆われた、チサトの全身を見ながらつぶやく。 どうやら、名乗りを上げた女性も走り屋のようだ。 格好だけ見れば、白衣を着ているので、化学者や保健室の先生、というイメージが強い。 対するチサトも、本来なら受験生。 学校という場所で、さらにはチサトが制服を着ていたら、多分普通の情景となるはずだ。 でも今はこんな状況である。 緑のドライバー同様、違和感バリバリな美女であった。 「あの、ですね。私はこの件はお断……」 そんな相手に、チサトは精一杯の勇気を振り絞り、断ろうとしたのだが。 「おおっ、あれって紺谷ヶ峠を根城にしていた、無敗の女王『堕天使なっちゃん』じゃねえか!!」 「しかも、あのバイクって“アンノウン”じゃないか! ってことは『黒い稲妻』か!?」 「すげぇ! “死神Z”と“アンノウン”の対決が見られるのか!?」 「でも、あの白いのは無名の奴だよな」 「度胸ある奴だな」 「それにしても変わった名前の車体だな。……Ez……8?」 今度は観客に、チサトの言葉を遮られてしまう。 「ふ。貴様も負けたら、そのステッカーは頂くぞ。『堕天使なっちゃん』とやら」 と、緑のドライバー。 実は、彼こそが魔王クラーマが作り出した怪人『奥羽の走り屋怪人』なのである。 どうせ怪人なんて、やられる運命にあるのでどうでもいいことなのだが(笑) 「いいわよ。でも、アタシに勝てるかしら?」 と、『堕天使なっちゃん』。 そう、晴明長官直属の諜報員である、『堕天使なっちゃん』こと、立花なつめは、センゴクマンがサバゲーで忙しい為、彼らに代わって『奥羽の走り屋怪人』である、緑のドライバーを追っていたのである。 で、ノリノリの二人と正反対に、まったく乗り気でないチサト。 しかし、観客からの熱い視線は、拒否する暇すらも与えないであろう。 「絶対、『堕天使なっちゃん』だ!」 車を熱く支持し続ける人物は、『堕天使なっちゃん』の勝ちを主張する。 「いいや、『黒い稲妻』に決まってる」 バイク派の人物は、『黒い稲妻』の勝ちを確信するかのように語る。 「『堕天使なっちゃん』が2倍、『黒い稲妻』が2.5倍。あの無名の奴が999倍ね」 中には、この戦いで賭けをしようとする者もいた。
「何で私がぁぁぁぁぁっ!!」 チサトの思いとは裏腹に、こちらでも壮絶な戦いが繰り広げられていたのであった。 続きは、次回を待て!
「青森県代表の座を手に入れた『イクサクニヨロズ』たち。 |