投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

スペシャルサイドストーリーショートショート


「バレンタインデー・イブ」

二月十三日、夜。

一人の少女が、たくさんのチョコを目の前にじっと立ちすくんでいた。

少女の名前は武田麗奈。

そんな彼女は、セミロングの髪を邪魔にならないようにポニーテールにし、シンプルなエプロンを着ている。

「……やっぱり、一応仲間ですし、渡さなければなりませんですわよね」

片手を口元に当て、うなる麗奈。

「ですけど、わざわざ作って渡すなんて真似、したら修一に誤解されてしまいますし……。そうよ、そう。わたくしと修一は恋人でも何でもないのですのに、何でそんなことをしなければならないのかしら」

誰と会話している訳でもないのに、麗奈は一人で自問自答を繰り返している。

こんなことを繰り返して、もう十数分は経過していたりする。

「そうですわよね!! 所詮、バレンタインデーなんてのは、お菓子を製造する方々の陰謀なのですわ! ……ですけど、義理くらいはさしあげるのが礼儀ってものですわよね……」

チョコを大量に買い込み、何を言っているのだろうというツッコミは無い訳でもないが、そこは乙女の一大事なのである。

素直に、生暖かい目で見守ってあげよう。

そんな、作者の生暖かい気遣いもあったのだが、シナリオというのは進めなければ、読者がマンネリ化してしまうので、進めることにする。

「麗奈さーーん!!」

「れいちゃーーん!!」

麗奈の耳に飛び込んできた、二人の少女の声にはっと意識を取り戻し、素早くチョコを背に庇うようにして隠した。

「な、何ですの、やぶからぼうに?」

「お願い麗奈さん! 私たちにチョコの作り方を伝授してください!」

「あたしたちが作ろうとすると、得体の知れない物体Xが出来上がっちゃうの。お願いっ!!」

麗奈に泣きついてきた少女たちの名前は、本多美奈、明智瑠璃華。

この二人は、超が付くほどの料理下手なのだ。

だからこの場で唯一、料理が出来る麗奈に泣きつくのは当然の事象である。

というか、バレンタインのチョコのことで男性に泣きつく女性はいないか。

「ま、まあよろしいですわ。ちょうど、綾杉さんと宗像さんからチョコを頂いたところですし」

内心、麗奈はにやりと笑った。

美奈と瑠璃華の相談は、彼女にとってもチャンスなのだ。

美奈と瑠璃華に、チョコの作り方を実践して教え、かつそれを言い訳にチョコを渡すことが出来ると思ったからだ。

一応チョコは、バイトの先輩の二人に貰ったことにして。

「え? 小林さんが止めに入らなかったの?」

「た、たまたま綾杉さんと宗像さんだけでしたし」

美奈は純粋にわからず首をかしげていたが、瑠璃華は麗奈の見えない位置でにんまりといやらしい笑みを浮かべていた。

「ふーん……。まあそういうことにしておきましょうか、れいちゃんや」

「……それ、どういう意味ですの?」

「さあ?」

腹の探りあいはその辺りで終わった。

一同は、とりあえず今なすべきことをする。

もちろんチョコ作りの教師役は麗奈である。

「こほん……。ではわたくし指導による、チョコ作りを開始したいと思います。ではみーなさん、ルリーさん。手順はご存知かしら?」

「「はーい、わかりませーん」」

「それは仕方ありませんね。……ええと、生チョコでよろしいのですわよね?」

こくこくと、美奈と瑠璃華は首を縦に振る。

「まずは、チョコを刻みます。……そこに製菓用のチョコが置いてありますわ」

「はーい、先生」

「何ですの、みーなさん」

「刻むのに、アレ、使ってもいいですか?」

「……ご自由になさい」

一瞬だけ、麗奈の頭に頭痛が走る。

麗奈は当然、使い慣れた包丁で細々と刻むのだが、美奈はというと……。

「四式『星辰殺』!」

ざくざくざくざく……。

華麗に薙刀を振るい、チョコを細切れにしていった。

ちなみにこの場は、安アパートのキッチンであり、薙刀を振るうだけでもかなり困難を極める。

それをやってのける美奈はすごいのだが、麗奈と瑠璃華にとっては、ただですら狭い場所で長物振り回している美奈は迷惑以外の何者でもなかった。

「……やっぱり、包丁を使ってくださいません?」

「はい」

チョコをいい感じで刻み終えたら、次の過程へと移行する。

「次に、生クリームを沸騰直前まで温めますわ。その間にバットにはラップを敷いて……いい感じに生クリームが温まってまいりましたわね。で、チョコをその中に入れ、よく混ぜて溶かします。そして、それをバットに流し込み、チョコを平らにします。そして最後に、それを冷蔵庫の中に入れて、二時間程待ちます」

麗奈は説明しながら、手順を一つ一つ見せてくれた。

麗奈の動きはてきぱきとしており、無駄は何一つないように見える。

家事をやりなれた影響だと思った美奈と瑠璃華は、ちょっとだけ罪悪感がよぎったり。

「では各自、作成に入りなさい」

「「イエッサー!!」」

麗奈は、少しだけ高をくくっていた。

それほど難しい作業ではなく、例を挙げるとすれば、瑠璃華が作る薬なんかより、遥かに簡単と豪語できる。

だからこそ、麗奈は軽いまどろみに誘われ、夢の世界へと旅立った。

……そして数分後。

ゆさゆさ。

「……んあ、みーなさん。出来ましたの?」

「やりましたよ、麗奈さん。赤飯が炊けました!!」

すぱーん。

「何を作ってますの!! チョコを作っているのではなくって!?」

麗奈は風林火山と書かれた軍配で美奈の頭を強く叩いていた。

美奈の方は、予想外の一撃に防御が疎かとなり、目から火が飛び出るような痛みを覚えた。

「……風に揺られている森が見えました」

「そーゆーことでなくって!!」

「それにしてもすごいと思うよ、みーなちゃん。私なんて、得体の知れない物体Σが……」

すぱーん。

再び、風林火山と書かれた軍配がひらめく。

「……あたしは火山が噴火しているシーンが見えた」

「アレをどうしたら、そんなものが出来上がりますの!! 手順を説明しなさい、ルリーさん」

「ええっと、チョコを刻んで、バットにラップを敷いて……(自主検閲)……で、そしたら得体の知れない物体Σが……」

「……その(自主検閲)って何ですの?」

「さあ?」

この辺りは、作者に永遠の謎である。

と、聞いてもいないのだが、美奈も作り方を説明してくれる。

「私は、チョコを刻んで、バットにラップを敷いて……(ピー)……で、そしたら赤飯がおいしく炊け……」

すぱーん、すぱーん。

しっかり、風林火山と書かれた軍配で二人の頭を打ち付けた麗奈である。

「ええいっ、もういいですわ!! わたくしがじっくりと見ながら作らせて差し上げます。こうなったら、意地よ!!」


翌日。

女子三人は、力なく倒れこみ、立ち上がる力なんぞ一かけらも見えなかった。

「……みーなさん、ルリーさん」

「「……何?」」

「素直にチョコ、買いなさい」


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