Mituyaさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
偽りのものたち
第二話
| 「イクサクニヨロズ困惑」 |
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人類は、自ら犯した罪により、核の冬を迎えてしまった。 滅亡の危機に立たされる人類。 だがそこに現れた救世主、センゴクマンは、崩壊しつつあった世界を救うべく動き出した。 時を同じくして、絶世の美女、ユキメ姫は、センゴクマンに匹敵する勇者たちを見つけ出したのだ。 「お願い! 私たちの未来を救って!!」 ユキメ姫の純真な願いに触発されて動き出した、新たなる勇者『イクサクニヨロズ』。 もちろん、それを阻止しようとする悪党もいた。 「ひでぶっ!」 「うわらばっ!」 だが、その苦難を乗り越え、『イクサクニヨロズ』は修羅の道を歩み続ける。 「ごめんなさい。あなたたちには平和な世を生きて欲しかった……」 ユキメは、彼らを戦地に立たせてしまうことを嘆く。 「いいえ、我らはユキメ姫の笑顔のために戦っている。ユキメ姫が笑顔でいられる世の中を作りたいのですよ」 『イクサクニヨロズ』は、そうして新たなる戦地へと赴くのであった……。
ユキメ「は、チサトちゃん。いつの間に。それに何なの、これは?」 チサト「それはこっちが聞きたいですよ……。それに、ユキメ姫って……」 ユキメ「もしかして……これが噂のこっく○さん……」 チサト「(どげしっ)ユキメさんの妄想ですっ!!」 ユキメ「あじゃぱー!(お星様になる)」 チサト「画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さいね」 注:上記の文は、本編とは何ら関わりはありませんので、御注意下さい。
東北大会in岩手の大会の招待状を貰い、今大会の戦場へと足を運んだ『イクサクニヨロズ』。 本来なら問題なく時が進むのを待つだけだった。 しかし彼らには、皮肉というバターをたっぷりと塗りつけたような、過酷な運命が待ち受けていたのだ。 「……憐君」 と、美奈は後悔と自責の念に駆られて、思わず憐の名前をつぶやいてしまう。 美奈は、千石飽和糸こと本多美亜子の偽者にして、武士道精神とは程遠い、可憐な少女の心を持つ女性である。 だが、ここでは細かいことは割愛する。 「むぅ……」 と、修一は言葉にならないつぶやきを漏らす。 修一は、千石烈度こと真田淳二の偽者にして、忍者ヲタクという特徴を持つ男性である。 やはり、ここでは細かいことは割愛しよう。 「情けないですわね……」 と、麗奈は呆れているようだ。 麗奈は、千石家炉こと武田広奈の偽者にして、お嬢様気質を持つ女性である。 割愛させて頂きます。 「マジで?」 と、秋彦は思わず反芻してしまう。 秋彦は、千石閏こと伊達春樹の偽者にして、不幸なサバゲーマニア……と、いらないところまで本物そっくりな男性である。 以下略。 「何やってるの……」 と、瑠璃華は片手で顔を覆い、麗奈同様にあきれ果てていた。 瑠璃華は、千石万お目付け役こと明智瑠華の偽者にして、明るいラブラブカップルの片割れである。 略。 「すまねぇ……」 と、憐は申し訳なさそうに俯いた。 憐は、千石部落こと直江憐の偽者にして、ホモ&ショタ疑惑で噂される男性である。 ……。 「ま、本来ならほめるべき事なんだけど……」 と、最後の一人も、どう対応すればいいのかわからずに、腕を組んで悩む。 彼女は、『イクサクニヨロズ』の恩人にて、空前絶後のトリックスター、ユキメ(源氏名)である。 そんな彼らが、一様にため息を漏らす。 何故、彼らはため息を漏らすのか? それは憐の様子を見ればわかることだった。 憐の右腕に巻かれているのは、包帯。 そして、その右手は白い布で吊り下げられ、動かないように固定されていた。 つまり、右腕の骨折である。 しかも、東北地区大会が始まる時間はあと1時間程しかない。 何故こんなことになったのか。 それは1時間ほど前に遡る。
開会式までの時間は、特に何をする予定も無かったので、皆は各自で自由行動を満喫していた。 その中、憐と美奈は自由行動を会場の下見に費やすことにした。 実戦派の美奈はともかく、『イクサクニヨロズ』の頭脳担当である憐は、地の利を活かして戦うように作戦を練らなければならない。 そういうわけで、憐は灰色の脳細胞をフルに回転させているのだ。 「……ここは……べき……しか……行動……でも……」 メモ帳片手に、真面目な表情でぶつくさと独り言を言う憐。 傍から見ると、怪しいお兄さんだ。 しかし、このような行動は万国の軍師様がやっていること(たぶん)である。 決して、憐だけがこのようなことをしているわけではないので、その点はお間違いなく。 そしてそんな憐の様子を、頬を赤く染め、熱い視線でじっと見る美奈。 こっちは、今流行り(?)のストーカーそのものである。 愛する人を熱心に眺めるという行為は、全国のストーカーもやっていることなので、その点に関しても注意して欲しい。 「よし、大まかな地形は把握したぞ。作戦の方も、後で皆に説明してやるよ」 「う、うん。わかった、憐君」 メモ帳を閉じて、憐は満足そうに微笑んだ。 憐は、話し方はぶっきらぼうながらも、相当な美男子である。 彼の笑みは、憐の様子を見ていた多くの女性と一部の男性を虜にさせた。 当然、憐に惚れている美奈も例外ではなく、どぎまぎとしてしまう。 「どうした? 俺の顔に何かついてるのか?」 様子がどこかおかしい美奈に、憐は疑問を投げかける。 「ううんっ! 何でもない、何でもないのっ!!」 美奈は、自分が憐の顔を凝視していたことに気づき、顔を真っ赤にさせて、首を大きく横に振った。 (ううっ。憐君が格好よくて、じっと見ていました、なんて言えないよぅ……) そんな台詞を吐けるのは、よほどのナンパ師しかいないだろう。 「……まぁいいけどよ」 そして、美奈の気持ちをまるで理解していない憐は、あっさりとその件を流す。 憐は『イクサクニヨロズ』きってのにぶちんなのだ。 それはさておくことにして、憐と美奈は次の下見の場所へと移動しようとした。 「さてと、あとは……」 だがその時、憐の言葉は大きな悲鳴にかき消された。 何事かと、憐と美奈は顔を合わせると、すぐさま二人は頷き、悲鳴の元へと駆けていく。 するとそこでは、小さな子どもが大きな木のてっぺんで泣いているではないか。 しかも少年は、木の枝にぶら下がっているだけで、今にも手を離しそうな様子である。 木の根元にいる母親は、この非常事態に、ただおろおろとするだけだ。 野次馬も集まっているのだが、助ける気はないようである。 「うわーーーーーん、お母さーーーーーーん!!」 「みーちゃーーーーーーん、落ち着いてーーーーーーーっっ!!」 息子の悲鳴に、母親はさらに取り乱す。 (あんたが落ち着けよ) どうも、ユキメの影響からか、錯乱している母親に、心の中でツッコミを入れてしまう憐であった。 とはいえ、緊急事態なのは間違いないので、憐と美奈にも緊張が走る。 (ち。少々危険だが、俺が行くしか……) 「私が行ってくる。憐君は下をお願い」 そう憐に一言告げると、美奈は猿のように木をのぼっていった。 自分が行こうと思っていたところに、美奈のこの発言とこの行動である。 憐は、出鼻をくじかれて、口をぱくぱくとさせるだけであった。 「おおっ」 美奈が木をのぼり始めて間もなく、一部の野次馬から歓声が聞こえた。 それもそのはず。 美奈は迷彩服を着ているとはいえ、下半身はスカートである。 高いところにのぼれば、とうぜん中身は見えてしまう。 一応、アンダースコートをはいているのだが、それでも恥ずかしいのか、僅かに木をのぼる速度が落ちた。 (うう、やっぱりアンスコじゃなくて、スパッツにするべきだったかな……?) 後悔先に立たずである。 いや、それ以前に、迷彩服にスカートもどうかと思うのだが。 美奈はそのまま順調に登っていき、木の中程まで到達した、そのときだ。 美奈の奮闘もむなしく、事態が急変したのだ。 「うああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 少年の体力は限界だったらしく、手を滑らして、重力に従い、真下へと落下していく。 幸か不幸か、地面との間に、少年を突き刺すような鋭利な枝はない。 だが、少年を支えるような丈夫な枝もない。 しかも、少年が地面と接するまでの時間は、もうほとんどない。 「ち……くしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」 反射的に、憐の身体が動く。 憐は力を振り絞り、不可解な奇声と同時に、少年と地面との間に割り込んだ。 しかし、距離に無理があったため、僅かに間に合わずに、割り込めたのは腕だけであった。 その結果。 「うぎゃああああああっ!!」 腕から発する鈍い音と憐の悲鳴が、その場を包み込んだ。 結局、少年の無事と引き換えに、憐は右腕の骨折という重い枷をつける羽目となってしまったのだ。
自分の危険を顧みずに、少年を助けた憐に、麗奈は毒づいた。 「関係ねぇだろーがよ!!」 麗奈の言葉を即座に否定する憐。 確かに、結果的に幼くかわいい男の子を助けることとなっただけであって、決してホモ&ショタではない。 ただし、そう思っているのは憐だけかもしれないが。 「まあまあ、麗奈ちゃん。憐君も、未来ある子どもを助けようとしての、名誉の負傷なんだから、それくらいにしてあげて」 珍しく、ユキメは話をややこしくしないで、諫めようとする。 「……ユキメさんがそう言うならば、仕方ありませんわ」 麗奈も、恩人に対して強く言うつもりはないようで、多少は憮然としながらも、あっさりと引き下がった。 「でも実際に、憐の負傷ってことは、事実上、オレたちは5人で戦うこととなりますよ」 秋彦の一言は、再びこの場に重い雰囲気を残す。 流石にこのような状況では、ユキメも暴走しづらいらしい……。 「ふふ、逆境に耐えようとする少年少女たち。だけどその思いは、人の夢と書いて儚い……イイ」 ……前言撤回である。 「それは置いておいて、と。実際、怪我は一日、二日で治るようなシロモノじゃないし、今の憐君は、戦力としては無きに等しいわね」 「同感」 ユキメと修一は非常に現実的な性格をしているので、憐に気を使うことなく、このような事を言える。 修一はともかく、ユキメが現実的か? と思う人もいるかもしれない。 だが実際は、ユキメの方が現実的で、修一の方がユキメを見習っている傾向にあるくらいなのだ。 「……でもね、実は憐君の骨折に対処できる案は二つほどあるの。どう、乗ってみる?」 「いいえ」 ユキメの言葉を聞いた瞬間、過去にユキメがしでかした悪行と、内側から湧き上がる不安感に、一同はその案を即座に拒否したのだが……。 スカッ、ゴロゴロゴロ……。 「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一度聞くわね。二つの案、乗ってみる?」 「いいえ」 スカッ、ゴロゴロゴロ……。 何故かタイミングよく、雷鳴が鳴り響く。 「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一度聞くわね。二つの案、乗ってみる?」 「……はい」 『イクサクニヨロズ』の面々は、拒否し続けても、同じ答えがいつまでも続くような気がして、仕方なしに折れた。 ちなみに現在の天気は快晴。 これをユキメ(作者?)の意図と感じたのは、この場にいる全員であった。 「じゃあ教えてしんぜよう。一つは簡単。私が参加すること」 ユキメがそう言い放った瞬間、一同は露骨に嫌そうな顔をした。 流石に、ユキメにとっても、ここまで露骨な反応は予想外らしく、苦笑せざるを得なかった。 ただユキメの心の中で、「どーせ、私なんか……」的な、非常に黒ずんだオーラが展開されていたことは、誰も知らない。 「……もう一つ。それは憐君の骨折を一瞬で治すことよ」 何とか、ユキメは負の感情を押さえ込み、もう一つの提案を出す。 だがこれは、ユキメ以外の皆にとってあまりにも予想外だった。 憐たちは一様に絶句し、そして目をまんまるにさせる。 (いくら自分たちが非常識な存在だったとしても、そんなことがありえるのか?) 皆が皆、そのように考えた。 センゴクマンの偽者として作られた存在であるゆえに、彼らの存在自体が非常識なのだが、ユキメの提案はそれをも凌駕している。 だが、行動全てが非常識であるユキメのことだ。 皆は、ユキメが何かをしてくれるような気がしてならない。 憐たちの頭に「希望」の二文字が浮かび上がってきたそんなとき、ユキメは懐から一つの小瓶を取り出した。 「知り合いから譲り受けた薬、<接合>……の試作品よ」 「……イヤだっ!!!」 憐は、ユキメが二の句を告げないうちに、断固拒否の姿勢をとった。 「そんなアブねぇ物、誰が飲むかっ!!」 そりゃ、試作品と言われるような薬を飲む、そんな命知らずな人間は、そうはいないだろう。 「とは言っても、私を出場させたくなければ飲むしかないわよー。もしくは、皆の思いを裏切るの?」 ユキメはにんまりと、心底楽しそうな笑みを浮かべる この選択は、憐にとってはまさしく、究極の選択だった。 まず、憐が薬を飲まなかったケースを考えてみる。 ユキメが出場することとなるので、ユキメが持ち前のトリックスターっぷりを遺憾なく発揮し、美奈たちを巻き込んで負ける可能性が高い。 そして、きっと負けたことを笑いのネタにすることは間違いないだろう。 もしこの場に、ユキメの相棒である生真面目な女性、チサトがいるなら、迷わず彼女をリザーバーとして入れるところだ。 しかし、現在チサトはここにはいない。 ちなみに、ユキメは実際、そのような人間ではないのだが、そのことが分かるのは、まだ先の話。 続いて、薬の実験台になった場合を考えてみる。 上手く行けば、何事もなく、憐が出場できる。 ただし、下手すれば植物人間、最悪、死ぬことすらも考えるべきだ。 もちろん両方断れば、その時点でサバゲーの大会は終わってしまう。 一旦、憐は大きく息を吐き、仲間である美奈たちの方に目を向ける。 その時そこでは、美奈たちが円陣を組み、簡易会議を行っていた。 「どうしよう。憐君はイヤって言ってるよ……」 「戦士たるもの、いつでも死を覚悟しなければならぬのに、しょうもない奴だ」 「でも、ユキメさんを大会に出すということは、わたくしたちにも被害が及ぶ、ということになりますわよ」 「と、いうことはつまり……」 「しょうがないよね……」 結論はあっさりと出てしまった。 美奈たちは一斉に憐の方を向く。 そして憐を見る彼らの目は、怪しげに輝いていた。 そんな彼らと目があった憐は、一瞬で全てを悟った。 ここにいては危険だ、と。 「戦略的撤退っ!!!」 憐は脱兎の如く逃げ出した。 「させるかぁっ!!」 しかし憐は、事前に回りこんでいたユキメに、羽交い絞めにされてしまった。 ユキメは華奢で小柄な見かけのとおりに力が弱く、すぐに羽交い絞めをほどかれてしまうが、それでも器用にまとわりつき、憐を逃がさない。 「死して屍、拾うものなし。すまぬ、憐殿」 逃げるのに手間取る間に、死刑宣告のような雰囲気で徐々に近づく修一。 そしてその手には、<接合―試作品>の小瓶が握られている。 「や……」 憐は、弱々しく首を横に振る。 それでも修一は、歩みを止めず、歩きながら小瓶の蓋を取った。 「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
やっぱり、試作品は試作品であった。 <接合―試作品>を喉に流し込まれた憐は、副作用の影響で、程なくして精神異常をきたしてしまったのだ。 「いやん♪ ボク、恥ずかしい♪」 澄んだ男の声で、かわいらしく喋る憐。 このような発言をみてもわかるように、すっかり壊れてしまった憐である。 骨折の方は完治したようなので、その点だけは幸いであったが。 「あははは……どうしよう」 ユキメは力なく笑う。 ユキメの顔に、いつもの余裕のある表情はない。 「あはは……って、ユキメさんがしたことでしょう!!」 美奈は珍しく、強気で反論をしてみせた。 青筋も適度にピクピクいっている。 実際には、許可してしまった美奈も悪いのだが、それを気にする様子はないようだ。 恋に狂う女の子は、えてしてこんなものなのだ。(偏見) 「そんなこと言ったって、私が作った薬じゃないし……」 ユキメの方も、多少責任を感じているのか、反論は歯切れが悪い。 「でも……これをどうしますの?」 美奈とユキメを仲裁するべく、麗奈が話を切り替えた。 しかし、仲裁を置いておいても、憐の件は問題大ありだ。 「我らジオ○公国に栄光あれ〜♪」 何やら怪しげなアニメを思い起こさせる発言をする憐。 今までの威厳ある憐は、ここにはいない。 「そうねぇ。こんな状態で人前に立たせたら、末代までの恥ってものだしね」 一旦、ユキメはため息をついた。 「ま、仕方ない。とりあえずは、憐君の名誉を守るために、変装でもしてもらいましょうか」 ユキメが今度、懐から取り出すのは筆、真紅の口紅、ファンデーションetc……の化粧道具である。 それらを十本の指の間に挟みこむ。 そしてユキメは腕を大きく広げた。 「必殺……」 そして一陣の風が吹く……。 「ストライ○、ルージュッ!!!!」 商標権などに関わりそうな名前の必殺技を叫ぶと同時に、一瞬にしてユキメは憐の横をすり抜けた。 どこぞの活劇なら、居合いによって、ここで相手が倒れるところだが、今回はそうではない。 というか、化粧道具で相手を倒せる人は、そうそういるわけがない。 「そして刻は動き出す……」 ユキメが、「ザ・○ールド」な一言を言った、そのときだ。 憐の顔には、しっかりと化粧が施されていた。 もちろん、口紅やアイシャドウ、ファンデーション、ついでに言えば、マニキュアなんかも完璧である。 さらには憐の着ていた迷彩服は何処かへと姿を消し、代わりに着ているのはノースリーブのブラウスに、クリーム色のミニスカート。 胸もしっかり突き出ている点から、ブラジャー+パットも装着済みだとわかる。 傍目からは、長身でショートカットの美少女の完成である。 憐の面影こそあるが、どう見ても男には見えない格好だ。 「これは、オ・マ・ケ♪」 ユキメは化粧道具を懐に戻し、次に取り出したのはヒモ付き5円玉であった。 そしてそれを憐の前にぶら下げ、左右に振って見せた。 「はい、あなたは女の子のような声しか出せなくなーる。出せなくなーる……」 どうやら、ユキメは催眠術を施しているようだ。 だが通常、催眠術というものは精神を操作するもので、肉体に影響を及ぼすものではない。 当然ながら、こんなことがうまくいくはずがない、と皆が思っていた。 しかし数分後。 「あは♪ ボク、どうしたの?」 憐の声は、見事なストロベリーボイスであった。 ユキメの催眠術は、憐の、男の魅力あふれる声を、かわいい女の子の声に変えてしまったのだ。 「う〜ん、やっぱり電波な憐君は、催眠術も感度が良好ね♪」 心底、楽しそうな表情をするユキメ。 恐るべし、ユキメの催眠術。 「ボクってかわいいの? マンモスうれぴ♪」 なぜかのりピー語の、憐。 しかし、憐の笑顔は反則級にかわいかった。 でも美奈にとって、そんなことはどうでもよかった。 外見も中身も壊れてしまった憐を見て、絶望に打ちのめされた美奈は、その場にどさっと崩れ落ちた。 「憐君が……憐君が……」 美奈の目は、見事に虚ろであった。 「これがボク?」 そんな美奈を尻目に、どこから取り出したのかは不明だが、憐は手鏡を見ながら、頬に指を当て、自分にうっとりとしている。 ……実は、深層意識の中で、憐はちょっとだけナルシストの気があったのかもしれない。 「何? この湧き上がるパッションは……。これが……萌えというものですの?」 「これはこれで……いいかも」 怪しげな発言をする、麗奈と瑠璃華。 「……ブルータス、おまえもか……」 そして秋彦は、シーザーの最期の台詞を残し、廃人と化していた。
で、現在参加しているのは、修一と秋彦とユキメ。 ちなみに他の面子は? と聞かれたら、というと。 美奈は、壊れた憐を見るのに精神が追いつかずに、現在、現実逃避中。 山の中なのに「海が青いですねぇ」とかつぶやいていることから、彼女は精神崩壊一歩手前らしい。 麗奈と瑠璃華は、あんな状態の憐に、保護欲がかきたてられてか、黄色い声を度々上げている。 もちろん憐は、というと……。 「最高ですか〜♪ 最高で〜す♪」 と、一部しか掲載が出来ないくらいの電波っぷりである。 おそらくこれ以上先に進んだら、センゴクマンの原作者から、愛の添削が待っていることだろう。 ちなみにユキメの出場の件は、なし崩し的に、既定の事実になってしまった。 「憐殿を黙らせるため、先日、チサト殿から習った、亀○縛りをして見せますか?」 「……頼む」 脱力した状態で、秋彦は修一の行動を承諾した。 というか、もう面倒くさくなって、半ば投げやり気味に承諾した感じである。 (もうボケはいらない。オレみたいな、真面目で良識のある人間を登場させてくれ) 数少ない常識人である憐は、現在ぶっ壊れている。 チサトも、今回に限っていない。 故に、苦労は全て秋彦が背負う羽目となっていた。 「ま、今日の私はおとなしくしてるつもりだし、安心して」 ユキメは悲しみに打ちひしがれている秋彦の心中を悟って、ぽんと肩を叩いた。 「ユキメさん……」 ユキメの気遣いに、ちょっとだけ秋彦の涙腺が緩んだ。 対するユキメも、にこりと笑って秋彦を励ます。 少しだけシリアスになった二人であったが、一方ではシリアスとはまるで無縁の雰囲気である。 「さーるぐーつわー♪ さーるぐーつわー♪ ああ、ボクが汚されちゃうっ♪」 そんな暴走時の憐を、完璧に無視して、しっかり縛り上げる修一。 「「ああん、かわいすぎるっ!!」」 黄色い声をあげて、怪しい世界に浸りまくる麗奈と瑠璃華。 とりあえずは、暴走する人たちを尻目に、秋彦とユキメは二人だけの作戦会議へと移行した。 「今は作戦を練るのではなく、状況把握からにしましょう。どうせ、今の時点で聞いてるのは、私と秋彦君だけなんだし」 ユキメはそう言うと、憐の荷物の中に入っている、携帯型戦略用ホワイトボード『たくてぃくす君』を取り出した。 そしてすかさず、『たくてぃくす君』にマップを書き込む。
「……ユキメさん、絵、上手いっすね」 いざ書いてみると、皆の絵と比べ、無茶苦茶上手い。 自称演劇部と言っていたが、実は美術部に属してるのではないか? と思いたくなる程だ。 何をやっても上手な、天才肌のユキメに、秋彦はちょっとだけ嫉妬した。 「ありがと」 秋彦の内心を知ってか知らずか、褒め言葉に対しユキメは素直に礼を言う。 いつもなら、ユキメはここで「もっと褒めて」だの何だのと言って頭に乗るのだが、今回は簡単なやりとりだけで、淡々と進める。 本人の言葉どおり、いつものユキメとは、まるで別人のようだ。 「まず、私たちの初期位置だけど、西側よ。ま、戦術的には東側がベストなんだけど。何でかはわかる?」 「……この池のせいで視野が開けて、西側のチームを、東側のチームが発見しやすいからでしょう」 「そーいうこと。こっちが、いきなり池を占領できれば話は別だけど、そんなの不可能の極みってモンよ」 ユキメは東側のフラッグのところから、池の左端の所までに矢印を書き込む。 「スナイパーとしてのスキルを持つ麗奈ちゃんでも、この程度は届くだろうし、この辺りがデッドラインってとこね。もちろんスナイパーの腕がより高ければ、それは更に広くなるわ」 奇妙な間が、二人の間を駆け抜ける。 荘厳な雰囲気の中、緊張してか、秋彦はごくりと息を呑んだ。 ただし、もう一方の五人は、壊れたり、落ち込んだり、結びに苦戦したり、黄色い声を上げたりなんだりで、息を呑む暇もないほどの、阿鼻叫喚な大騒ぎであるが。 「今度はこっちね」 ユキメは西側のフラッグのところを、ペンで指す。 「こっちも、東側と同様に守りやすい地形になってるわ」 「高低差がかなりありますもんね」 ユキメが言い終わる前に、秋彦がつぶやいた。 「つまり、高い位置にあるフラッグ。そしてそれを守る人も高いところにいる。結果、撃ち下ろしになる」 秋彦は、つぶやいた後も、語るようにして、ユキメに言った。 銃撃に関しては、高いところにいればいるほど、遮るものが少なくなって狙いやすいし、飛距離も伸びる。 つまり、ユキメの言ったとおり、守りやすい地形だということの証明となる。 (ふ。流石はあの子たちの中で、一番サバゲーをやってるだけのことはあるわね) ユキメは、自分の言ったことをしっかり理解している秋彦を見て、にぃと笑った。 「そういうこと。でも東側と違って隠れる場所が多数存在してる。つまり、アンブッシュしやすい地形になってるのよ」 続いてユキメは、フラッグとフラッグとの間にある道のいくつかを、所々マルを加えていく。 「そして、道がかなり分岐しているし、道じゃなくても通れなくはないから、全ての道で待ち伏せして、ドン、ってわけにもいかないと思うわ」 「つまり、守るためにはフラッグの近くに配置しなきゃいけないわけですね」 秋彦の言葉に、ユキメは無言で頷いた。 「そうなると、ディフェンダーの存在が重要になるわけですね」 秋彦はそうつぶやくと、ちらりと瑠璃華の方を見る。 その目は、恋人の身を案じる、それだ。 「ええ。でも役割分担はもうちょっと後でね。今は状況をしっかり把握することが先よ」 ユキメは最後に、マップ全体を強調するために、マップ全体を大きくマルで囲む。 「大きく見れば、高低差が大きく、遮蔽物が数多く点在、道の分岐が多い、ということよ。それを踏まえて、作戦立案といきましょうか」 一区切りついたところで、ユキメはにこりと笑った。 秋彦も、珍しく真面目なユキメに、とても満足そうである。 ただし……。 「ああん、もっと縛ってぇ♪」 憐は未だに暴走モードであった。 おかげで、ユキメの件を差し引いても、秋彦も胃が痛くなるような錯覚に陥ってしまう。 しかし、暴走モードの憐を気にすることなく、修一は最後の仕上げと言わんばかりに、猿轡を女装した憐……。 「ボクのことは霧華(きりか)って呼んで♪」 もとい、霧華に猿轡をして、ミッション終了。 「任務完了。これより、我も作戦会議に参加する」 「わたくしは、もう満足ですわ」 「あたしも、そろそろ秋彦に抱きつきたい気分だしー」 麗奈と瑠璃華も満足そうにして、作戦会議の輪の中へと入っていった。 瑠璃華は、いつも通り、飛びつくように、秋彦の背後から首に抱きついた。 で、その副作用で、秋彦は迷彩服越しに感じるあの柔らかい感触に、顔を真っ赤にさせた。 もちろんのこと、秋彦に抱きついて御満悦な表情を浮かべる瑠璃華は、気づくはずもない。 ある意味で、瑠璃華は魔性の女であった。 そして、最後の一人である美奈は……。 「憐君……あなたは何故憐君なの?」 まだ立ち直ってはいないようである。 虚ろな目は変わることなく、しかも何故か体育座りをしながら遠くを見ているのだ。 ただし、その目には何も映ってはいないであろう。 しかしそんな、奈落の底まっしぐらな美奈に、救いの手を求める人物がいた。 「美奈ちゃーん。今から知り合いに連絡とって、これから解毒剤作ってもらうつもりだから、立ち直りなさーい」 ユキメのその一言は、美奈の精神を復活させるのに、絶大な効果を及ぼした。 美奈は正気を取り戻し、そのまま掴みかかるような勢いで、ユキメの元へと駆け寄った。 というか、がっちりと襟を掴んだ。 「ほ、ほ、ほっ、ほっ……」 「クラーザ?」 「それは烏山明(からすやま めい)先生の書いた、『九頭龍ボール』の敵だ! それに美奈ちゃんは笑ってるわけじゃない!」 瑠璃華の唐突な発言に、秋彦は反射的にツッコんだ。 なお、『九頭龍ボール』とは、女主人公孫美亜子(まごみ あこ)が「オラより強い奴に会いに行く!」などと言う、熱血一直線な格闘漫画である。 その中でもクラーザは、作品中最も有名な敵なのだ。 それは置いておいて、秋彦と瑠璃華の夫婦漫才には耳を貸さず、美奈はユキメを凝視していた。 「本当ですか!?」 美奈は気が動転していたようで、柔道家もびっくりな強さで、そのままきゅっと襟を絞める。 尚、美奈も武術の心得を持ち合わせていることもあり、そりゃもう、完璧にチョークに極まっていた。 一応ユキメはか弱い女の子(?)なので、抜け出す技を知っていたとしても、ここまで完璧に入ってしまえば実施は不可能。 『イクサクニヨロズ』を苦しめた悪女も、今となっては、哀れな被害者であった。 「く、くるしぃ……」 「本当ですか!? 本当ですか!? 答えて下さい、ユキメさん!!!」 そんな、危険な状態を加速させるかの如く、美奈は首を絞めたままユキメをぶんぶんと振り回した。 腐っても、センゴクホワイトの偽者。 美奈も腕力はかなりあるほうであった。 ユキメは柔よく剛を制す技と、剛よく柔を制す力によって絞められるという、危篤な状態から抜け出せない。 さらに振り回される際に発するGの影響を受けたおかげで、ユキメはこのとき、賽の河原を垣間見た。 「ちょっと、落ち着け!!」 急いで、危険な状態にあるユキメを救おうとするのは、秋彦と瑠璃華。 緊急事態と判断し、即座に夫婦漫才モードから抜け出していた。 唐突な状況でも、しっかりと連携はとれている。 二人の絶妙なコンビネーションにより、秋彦は美奈の右腕、瑠璃華は左腕をがっちりと掴んだ。 「あ……」 そんな二人の行為に正気を取り戻し、美奈はユキメを掴んでいた手の力を緩める。 だがそれがいけなかった。 まだ加速度がついた状態で放されたユキメは、そのまま、運動の第一法則である慣性の法則に従って、加速度方向へと低い放物線を描き、華麗に宙を舞った。 ずしっ!! さらに運が悪いことに、ユキメはそこにあった壁に、鈍い音を立てて、したたかに激突する。 全身を強く打ち付けられたユキメは、そのまま力なく壁に背中を預け、座り込んでいた。 「ユキメ……さん……」 狂乱していたとはいえ、美奈は自分のした行為に罪悪感を感じざるを得ない。 思わず口に手を当てて、全身を震わせた。 しかし、修一だけはこのような展開に、強いデジャビュを感じていた。 「否、ユキメさんのこと。恐らくこれは空蝉の術(身代わりの術のことです)! 然らば……!!」 美奈の罪悪感を吹き飛ばすような勢いで、修一は注意を呼びかける。 修一は、ユキメの性格を考慮した上で、女子トイレの方へと目を向けた。 だが、ユキメがハンカチで手を拭いているような様子はない。 というか、ユキメはいない。 「違う? されば……土遁の術!?」 今度は真下を見る。 だがそこにもユキメの姿はない。 ただその代わりに、ユキメを模した、かわいらしい人形がぽつんと置いてあるだけであった。 「ふっふっふ、引っかかったわね」 皆の耳に、ユキメの声が響く。 「これぞ自力で編み出した、“忍法空蝉の術返し”。何とこれは、空蝉の術と見せかけて、実は攻撃を受けた方が本物、っていうすばらしい技なのよ!!」 声が聞こえる方を皆が見てみると、先程と同様に、ユキメは背中を壁に預けた状態でぐったりとしていた。 頭からは血がどくどくと流れ落ち、指先なんかはピクピクとしか動いていない。 声は平然としているが、はっきり言ってかなりヤバイ状態だ。 状況が状況なだけに、ユキメのボケにツッコむ人はいなかった。 “忍法空蝉の術返し”で大ダメージを負い、リザーバーのはずのユキメの出場すら危うい。 大ピンチだ『イクサクニヨロズ』、次回に続く。 遠日公開未定!!
「襲い来る苦難に翻弄されし者がいる。 |