投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第二話


「イクサクニヨロズ困惑」

◇前回までのあらすじ◇


西暦200X年。

人類は、自ら犯した罪により、核の冬を迎えてしまった。

滅亡の危機に立たされる人類。

だがそこに現れた救世主、センゴクマンは、崩壊しつつあった世界を救うべく動き出した。

時を同じくして、絶世の美女、ユキメ姫は、センゴクマンに匹敵する勇者たちを見つけ出したのだ。

「お願い! 私たちの未来を救って!!」

ユキメ姫の純真な願いに触発されて動き出した、新たなる勇者『イクサクニヨロズ』。

もちろん、それを阻止しようとする悪党もいた。

「ひでぶっ!」

「うわらばっ!」

だが、その苦難を乗り越え、『イクサクニヨロズ』は修羅の道を歩み続ける。

「ごめんなさい。あなたたちには平和な世を生きて欲しかった……」

ユキメは、彼らを戦地に立たせてしまうことを嘆く。

「いいえ、我らはユキメ姫の笑顔のために戦っている。ユキメ姫が笑顔でいられる世の中を作りたいのですよ」

『イクサクニヨロズ』は、そうして新たなる戦地へと赴くのであった……。



チサト「(ずがっ)何を書いているんですかっ、ユキメさん!!」

ユキメ「は、チサトちゃん。いつの間に。それに何なの、これは?」

チサト「それはこっちが聞きたいですよ……。それに、ユキメ姫って……」

ユキメ「もしかして……これが噂のこっく○さん……」

チサト「(どげしっ)ユキメさんの妄想ですっ!!」

ユキメ「あじゃぱー!(お星様になる)」

チサト「画面を見るときは、部屋を明るくして、離れて御覧下さいね」

注:上記の文は、本編とは何ら関わりはありませんので、御注意下さい。



◇1◇


岩手県某所。

東北大会in岩手の大会の招待状を貰い、今大会の戦場へと足を運んだ『イクサクニヨロズ』。

本来なら問題なく時が進むのを待つだけだった。

しかし彼らには、皮肉というバターをたっぷりと塗りつけたような、過酷な運命が待ち受けていたのだ。

「……憐君」

と、美奈は後悔と自責の念に駆られて、思わず憐の名前をつぶやいてしまう。

美奈は、千石飽和糸こと本多美亜子の偽者にして、武士道精神とは程遠い、可憐な少女の心を持つ女性である。

だが、ここでは細かいことは割愛する。

「むぅ……」

と、修一は言葉にならないつぶやきを漏らす。

修一は、千石烈度こと真田淳二の偽者にして、忍者ヲタクという特徴を持つ男性である。

やはり、ここでは細かいことは割愛しよう。

「情けないですわね……」

と、麗奈は呆れているようだ。

麗奈は、千石家炉こと武田広奈の偽者にして、お嬢様気質を持つ女性である。

割愛させて頂きます。

「マジで?」

と、秋彦は思わず反芻してしまう。

秋彦は、千石閏こと伊達春樹の偽者にして、不幸なサバゲーマニア……と、いらないところまで本物そっくりな男性である。

以下略。

「何やってるの……」

と、瑠璃華は片手で顔を覆い、麗奈同様にあきれ果てていた。

瑠璃華は、千石万お目付け役こと明智瑠華の偽者にして、明るいラブラブカップルの片割れである。

略。

「すまねぇ……」

と、憐は申し訳なさそうに俯いた。

憐は、千石部落こと直江憐の偽者にして、ホモ&ショタ疑惑で噂される男性である。

……。

「ま、本来ならほめるべき事なんだけど……」

と、最後の一人も、どう対応すればいいのかわからずに、腕を組んで悩む。

彼女は、『イクサクニヨロズ』の恩人にて、空前絶後のトリックスター、ユキメ(源氏名)である。

そんな彼らが、一様にため息を漏らす。

何故、彼らはため息を漏らすのか?

それは憐の様子を見ればわかることだった。

憐の右腕に巻かれているのは、包帯。

そして、その右手は白い布で吊り下げられ、動かないように固定されていた。

つまり、右腕の骨折である。

しかも、東北地区大会が始まる時間はあと1時間程しかない。

何故こんなことになったのか。

それは1時間ほど前に遡る。


憐たちが会場についたのは、東北地区大会の開始の2時間前。

開会式までの時間は、特に何をする予定も無かったので、皆は各自で自由行動を満喫していた。

その中、憐と美奈は自由行動を会場の下見に費やすことにした。

実戦派の美奈はともかく、『イクサクニヨロズ』の頭脳担当である憐は、地の利を活かして戦うように作戦を練らなければならない。

そういうわけで、憐は灰色の脳細胞をフルに回転させているのだ。

「……ここは……べき……しか……行動……でも……」

メモ帳片手に、真面目な表情でぶつくさと独り言を言う憐。

傍から見ると、怪しいお兄さんだ。

しかし、このような行動は万国の軍師様がやっていること(たぶん)である。

決して、憐だけがこのようなことをしているわけではないので、その点はお間違いなく。

そしてそんな憐の様子を、頬を赤く染め、熱い視線でじっと見る美奈。

こっちは、今流行り(?)のストーカーそのものである。

愛する人を熱心に眺めるという行為は、全国のストーカーもやっていることなので、その点に関しても注意して欲しい。

「よし、大まかな地形は把握したぞ。作戦の方も、後で皆に説明してやるよ」

「う、うん。わかった、憐君」

メモ帳を閉じて、憐は満足そうに微笑んだ。

憐は、話し方はぶっきらぼうながらも、相当な美男子である。

彼の笑みは、憐の様子を見ていた多くの女性と一部の男性を虜にさせた。

当然、憐に惚れている美奈も例外ではなく、どぎまぎとしてしまう。

「どうした? 俺の顔に何かついてるのか?」

様子がどこかおかしい美奈に、憐は疑問を投げかける。

「ううんっ! 何でもない、何でもないのっ!!」

美奈は、自分が憐の顔を凝視していたことに気づき、顔を真っ赤にさせて、首を大きく横に振った。

(ううっ。憐君が格好よくて、じっと見ていました、なんて言えないよぅ……)

そんな台詞を吐けるのは、よほどのナンパ師しかいないだろう。

「……まぁいいけどよ」

そして、美奈の気持ちをまるで理解していない憐は、あっさりとその件を流す。

憐は『イクサクニヨロズ』きってのにぶちんなのだ。

それはさておくことにして、憐と美奈は次の下見の場所へと移動しようとした。

「さてと、あとは……」

だがその時、憐の言葉は大きな悲鳴にかき消された。

何事かと、憐と美奈は顔を合わせると、すぐさま二人は頷き、悲鳴の元へと駆けていく。

するとそこでは、小さな子どもが大きな木のてっぺんで泣いているではないか。

しかも少年は、木の枝にぶら下がっているだけで、今にも手を離しそうな様子である。

木の根元にいる母親は、この非常事態に、ただおろおろとするだけだ。

野次馬も集まっているのだが、助ける気はないようである。

「うわーーーーーん、お母さーーーーーーん!!」

「みーちゃーーーーーーん、落ち着いてーーーーーーーっっ!!」

息子の悲鳴に、母親はさらに取り乱す。

(あんたが落ち着けよ)

どうも、ユキメの影響からか、錯乱している母親に、心の中でツッコミを入れてしまう憐であった。

とはいえ、緊急事態なのは間違いないので、憐と美奈にも緊張が走る。

(ち。少々危険だが、俺が行くしか……)

「私が行ってくる。憐君は下をお願い」

そう憐に一言告げると、美奈は猿のように木をのぼっていった。

自分が行こうと思っていたところに、美奈のこの発言とこの行動である。

憐は、出鼻をくじかれて、口をぱくぱくとさせるだけであった。

「おおっ」

美奈が木をのぼり始めて間もなく、一部の野次馬から歓声が聞こえた。

それもそのはず。

美奈は迷彩服を着ているとはいえ、下半身はスカートである。

高いところにのぼれば、とうぜん中身は見えてしまう。

一応、アンダースコートをはいているのだが、それでも恥ずかしいのか、僅かに木をのぼる速度が落ちた。

(うう、やっぱりアンスコじゃなくて、スパッツにするべきだったかな……?)

後悔先に立たずである。

いや、それ以前に、迷彩服にスカートもどうかと思うのだが。

美奈はそのまま順調に登っていき、木の中程まで到達した、そのときだ。

美奈の奮闘もむなしく、事態が急変したのだ。

「うああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

少年の体力は限界だったらしく、手を滑らして、重力に従い、真下へと落下していく。

幸か不幸か、地面との間に、少年を突き刺すような鋭利な枝はない。

だが、少年を支えるような丈夫な枝もない。

しかも、少年が地面と接するまでの時間は、もうほとんどない。

「ち……くしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

反射的に、憐の身体が動く。

憐は力を振り絞り、不可解な奇声と同時に、少年と地面との間に割り込んだ。

しかし、距離に無理があったため、僅かに間に合わずに、割り込めたのは腕だけであった。

その結果。

「うぎゃああああああっ!!」

腕から発する鈍い音と憐の悲鳴が、その場を包み込んだ。

結局、少年の無事と引き換えに、憐は右腕の骨折という重い枷をつける羽目となってしまったのだ。


◇2◇


「まったく、これだからホモだのショタだの呼ばれるのですわ!」

自分の危険を顧みずに、少年を助けた憐に、麗奈は毒づいた。

「関係ねぇだろーがよ!!」

麗奈の言葉を即座に否定する憐。

確かに、結果的に幼くかわいい男の子を助けることとなっただけであって、決してホモ&ショタではない。

ただし、そう思っているのは憐だけかもしれないが。

「まあまあ、麗奈ちゃん。憐君も、未来ある子どもを助けようとしての、名誉の負傷なんだから、それくらいにしてあげて」

珍しく、ユキメは話をややこしくしないで、諫めようとする。

「……ユキメさんがそう言うならば、仕方ありませんわ」

麗奈も、恩人に対して強く言うつもりはないようで、多少は憮然としながらも、あっさりと引き下がった。

「でも実際に、憐の負傷ってことは、事実上、オレたちは5人で戦うこととなりますよ」

秋彦の一言は、再びこの場に重い雰囲気を残す。

流石にこのような状況では、ユキメも暴走しづらいらしい……。

「ふふ、逆境に耐えようとする少年少女たち。だけどその思いは、人の夢と書いて儚い……イイ」

……前言撤回である。

「それは置いておいて、と。実際、怪我は一日、二日で治るようなシロモノじゃないし、今の憐君は、戦力としては無きに等しいわね」

「同感」

ユキメと修一は非常に現実的な性格をしているので、憐に気を使うことなく、このような事を言える。

修一はともかく、ユキメが現実的か? と思う人もいるかもしれない。

だが実際は、ユキメの方が現実的で、修一の方がユキメを見習っている傾向にあるくらいなのだ。

「……でもね、実は憐君の骨折に対処できる案は二つほどあるの。どう、乗ってみる?」

「いいえ」

ユキメの言葉を聞いた瞬間、過去にユキメがしでかした悪行と、内側から湧き上がる不安感に、一同はその案を即座に拒否したのだが……。

スカッ、ゴロゴロゴロ……。

「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一度聞くわね。二つの案、乗ってみる?」

「いいえ」

スカッ、ゴロゴロゴロ……。

何故かタイミングよく、雷鳴が鳴り響く。

「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一度聞くわね。二つの案、乗ってみる?」

「……はい」

『イクサクニヨロズ』の面々は、拒否し続けても、同じ答えがいつまでも続くような気がして、仕方なしに折れた。

ちなみに現在の天気は快晴。

これをユキメ(作者?)の意図と感じたのは、この場にいる全員であった。

「じゃあ教えてしんぜよう。一つは簡単。私が参加すること」

ユキメがそう言い放った瞬間、一同は露骨に嫌そうな顔をした。

流石に、ユキメにとっても、ここまで露骨な反応は予想外らしく、苦笑せざるを得なかった。

ただユキメの心の中で、「どーせ、私なんか……」的な、非常に黒ずんだオーラが展開されていたことは、誰も知らない。

「……もう一つ。それは憐君の骨折を一瞬で治すことよ」

何とか、ユキメは負の感情を押さえ込み、もう一つの提案を出す。

だがこれは、ユキメ以外の皆にとってあまりにも予想外だった。

憐たちは一様に絶句し、そして目をまんまるにさせる。

(いくら自分たちが非常識な存在だったとしても、そんなことがありえるのか?)

皆が皆、そのように考えた。

センゴクマンの偽者として作られた存在であるゆえに、彼らの存在自体が非常識なのだが、ユキメの提案はそれをも凌駕している。

だが、行動全てが非常識であるユキメのことだ。

皆は、ユキメが何かをしてくれるような気がしてならない。

憐たちの頭に「希望」の二文字が浮かび上がってきたそんなとき、ユキメは懐から一つの小瓶を取り出した。

「知り合いから譲り受けた薬、<接合>……の試作品よ」

「……イヤだっ!!!」

憐は、ユキメが二の句を告げないうちに、断固拒否の姿勢をとった。

「そんなアブねぇ物、誰が飲むかっ!!」

そりゃ、試作品と言われるような薬を飲む、そんな命知らずな人間は、そうはいないだろう。

「とは言っても、私を出場させたくなければ飲むしかないわよー。もしくは、皆の思いを裏切るの?」

ユキメはにんまりと、心底楽しそうな笑みを浮かべる

この選択は、憐にとってはまさしく、究極の選択だった。

まず、憐が薬を飲まなかったケースを考えてみる。

ユキメが出場することとなるので、ユキメが持ち前のトリックスターっぷりを遺憾なく発揮し、美奈たちを巻き込んで負ける可能性が高い。

そして、きっと負けたことを笑いのネタにすることは間違いないだろう。

もしこの場に、ユキメの相棒である生真面目な女性、チサトがいるなら、迷わず彼女をリザーバーとして入れるところだ。

しかし、現在チサトはここにはいない。

ちなみに、ユキメは実際、そのような人間ではないのだが、そのことが分かるのは、まだ先の話。

続いて、薬の実験台になった場合を考えてみる。

上手く行けば、何事もなく、憐が出場できる。

ただし、下手すれば植物人間、最悪、死ぬことすらも考えるべきだ。

もちろん両方断れば、その時点でサバゲーの大会は終わってしまう。

一旦、憐は大きく息を吐き、仲間である美奈たちの方に目を向ける。

その時そこでは、美奈たちが円陣を組み、簡易会議を行っていた。

「どうしよう。憐君はイヤって言ってるよ……」

「戦士たるもの、いつでも死を覚悟しなければならぬのに、しょうもない奴だ」

「でも、ユキメさんを大会に出すということは、わたくしたちにも被害が及ぶ、ということになりますわよ」

「と、いうことはつまり……」

「しょうがないよね……」

結論はあっさりと出てしまった。

美奈たちは一斉に憐の方を向く。

そして憐を見る彼らの目は、怪しげに輝いていた。

そんな彼らと目があった憐は、一瞬で全てを悟った。

ここにいては危険だ、と。

「戦略的撤退っ!!!」

憐は脱兎の如く逃げ出した。

「させるかぁっ!!」

しかし憐は、事前に回りこんでいたユキメに、羽交い絞めにされてしまった。

ユキメは華奢で小柄な見かけのとおりに力が弱く、すぐに羽交い絞めをほどかれてしまうが、それでも器用にまとわりつき、憐を逃がさない。

「死して屍、拾うものなし。すまぬ、憐殿」

逃げるのに手間取る間に、死刑宣告のような雰囲気で徐々に近づく修一。

そしてその手には、<接合―試作品>の小瓶が握られている。

「や……」

憐は、弱々しく首を横に振る。

それでも修一は、歩みを止めず、歩きながら小瓶の蓋を取った。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」



◇3◇


「あははは、お花畑が見えるぅ♪」

やっぱり、試作品は試作品であった。

<接合―試作品>を喉に流し込まれた憐は、副作用の影響で、程なくして精神異常をきたしてしまったのだ。

「いやん♪ ボク、恥ずかしい♪」

澄んだ男の声で、かわいらしく喋る憐。

このような発言をみてもわかるように、すっかり壊れてしまった憐である。

骨折の方は完治したようなので、その点だけは幸いであったが。

「あははは……どうしよう」

ユキメは力なく笑う。

ユキメの顔に、いつもの余裕のある表情はない。

「あはは……って、ユキメさんがしたことでしょう!!」

美奈は珍しく、強気で反論をしてみせた。

青筋も適度にピクピクいっている。

実際には、許可してしまった美奈も悪いのだが、それを気にする様子はないようだ。

恋に狂う女の子は、えてしてこんなものなのだ。(偏見)

「そんなこと言ったって、私が作った薬じゃないし……」

ユキメの方も、多少責任を感じているのか、反論は歯切れが悪い。

「でも……これをどうしますの?」

美奈とユキメを仲裁するべく、麗奈が話を切り替えた。

しかし、仲裁を置いておいても、憐の件は問題大ありだ。

「我らジオ○公国に栄光あれ〜♪」

何やら怪しげなアニメを思い起こさせる発言をする憐。

今までの威厳ある憐は、ここにはいない。

「そうねぇ。こんな状態で人前に立たせたら、末代までの恥ってものだしね」

一旦、ユキメはため息をついた。

「ま、仕方ない。とりあえずは、憐君の名誉を守るために、変装でもしてもらいましょうか」

ユキメが今度、懐から取り出すのは筆、真紅の口紅、ファンデーションetc……の化粧道具である。

それらを十本の指の間に挟みこむ。

そしてユキメは腕を大きく広げた。

「必殺……」

そして一陣の風が吹く……。

「ストライ○、ルージュッ!!!!」

商標権などに関わりそうな名前の必殺技を叫ぶと同時に、一瞬にしてユキメは憐の横をすり抜けた。

どこぞの活劇なら、居合いによって、ここで相手が倒れるところだが、今回はそうではない。

というか、化粧道具で相手を倒せる人は、そうそういるわけがない。

「そして刻は動き出す……」

ユキメが、「ザ・○ールド」な一言を言った、そのときだ。

憐の顔には、しっかりと化粧が施されていた。

もちろん、口紅やアイシャドウ、ファンデーション、ついでに言えば、マニキュアなんかも完璧である。

さらには憐の着ていた迷彩服は何処かへと姿を消し、代わりに着ているのはノースリーブのブラウスに、クリーム色のミニスカート。

胸もしっかり突き出ている点から、ブラジャー+パットも装着済みだとわかる。

傍目からは、長身でショートカットの美少女の完成である。

憐の面影こそあるが、どう見ても男には見えない格好だ。

「これは、オ・マ・ケ♪」

ユキメは化粧道具を懐に戻し、次に取り出したのはヒモ付き5円玉であった。

そしてそれを憐の前にぶら下げ、左右に振って見せた。

「はい、あなたは女の子のような声しか出せなくなーる。出せなくなーる……」

どうやら、ユキメは催眠術を施しているようだ。

だが通常、催眠術というものは精神を操作するもので、肉体に影響を及ぼすものではない。

当然ながら、こんなことがうまくいくはずがない、と皆が思っていた。

しかし数分後。

「あは♪ ボク、どうしたの?」

憐の声は、見事なストロベリーボイスであった。

ユキメの催眠術は、憐の、男の魅力あふれる声を、かわいい女の子の声に変えてしまったのだ。

「う〜ん、やっぱり電波な憐君は、催眠術も感度が良好ね♪」

心底、楽しそうな表情をするユキメ。

恐るべし、ユキメの催眠術。

「ボクってかわいいの? マンモスうれぴ♪」

なぜかのりピー語の、憐。

しかし、憐の笑顔は反則級にかわいかった。

でも美奈にとって、そんなことはどうでもよかった。

外見も中身も壊れてしまった憐を見て、絶望に打ちのめされた美奈は、その場にどさっと崩れ落ちた。

「憐君が……憐君が……」

美奈の目は、見事に虚ろであった。

「これがボク?」

そんな美奈を尻目に、どこから取り出したのかは不明だが、憐は手鏡を見ながら、頬に指を当て、自分にうっとりとしている。

……実は、深層意識の中で、憐はちょっとだけナルシストの気があったのかもしれない。

「何? この湧き上がるパッションは……。これが……萌えというものですの?」

「これはこれで……いいかも」

怪しげな発言をする、麗奈と瑠璃華。

「……ブルータス、おまえもか……」

そして秋彦は、シーザーの最期の台詞を残し、廃人と化していた。



◇4◇


チームがばらばらになっているのだが、作戦会議は実行される。

で、現在参加しているのは、修一と秋彦とユキメ。

ちなみに他の面子は? と聞かれたら、というと。

美奈は、壊れた憐を見るのに精神が追いつかずに、現在、現実逃避中。

山の中なのに「海が青いですねぇ」とかつぶやいていることから、彼女は精神崩壊一歩手前らしい。

麗奈と瑠璃華は、あんな状態の憐に、保護欲がかきたてられてか、黄色い声を度々上げている。

もちろん憐は、というと……。

「最高ですか〜♪ 最高で〜す♪」

と、一部しか掲載が出来ないくらいの電波っぷりである。

おそらくこれ以上先に進んだら、センゴクマンの原作者から、愛の添削が待っていることだろう。

ちなみにユキメの出場の件は、なし崩し的に、既定の事実になってしまった。

「憐殿を黙らせるため、先日、チサト殿から習った、亀○縛りをして見せますか?」

「……頼む」

脱力した状態で、秋彦は修一の行動を承諾した。

というか、もう面倒くさくなって、半ば投げやり気味に承諾した感じである。

(もうボケはいらない。オレみたいな、真面目で良識のある人間を登場させてくれ)

数少ない常識人である憐は、現在ぶっ壊れている。

チサトも、今回に限っていない。

故に、苦労は全て秋彦が背負う羽目となっていた。

「ま、今日の私はおとなしくしてるつもりだし、安心して」

ユキメは悲しみに打ちひしがれている秋彦の心中を悟って、ぽんと肩を叩いた。

「ユキメさん……」

ユキメの気遣いに、ちょっとだけ秋彦の涙腺が緩んだ。

対するユキメも、にこりと笑って秋彦を励ます。

少しだけシリアスになった二人であったが、一方ではシリアスとはまるで無縁の雰囲気である。

「さーるぐーつわー♪ さーるぐーつわー♪ ああ、ボクが汚されちゃうっ♪」

そんな暴走時の憐を、完璧に無視して、しっかり縛り上げる修一。

「「ああん、かわいすぎるっ!!」」

黄色い声をあげて、怪しい世界に浸りまくる麗奈と瑠璃華。

とりあえずは、暴走する人たちを尻目に、秋彦とユキメは二人だけの作戦会議へと移行した。

「今は作戦を練るのではなく、状況把握からにしましょう。どうせ、今の時点で聞いてるのは、私と秋彦君だけなんだし」

ユキメはそう言うと、憐の荷物の中に入っている、携帯型戦略用ホワイトボード『たくてぃくす君』を取り出した。

そしてすかさず、『たくてぃくす君』にマップを書き込む。

マップその1

「……ユキメさん、絵、上手いっすね」

いざ書いてみると、皆の絵と比べ、無茶苦茶上手い。

自称演劇部と言っていたが、実は美術部に属してるのではないか? と思いたくなる程だ。

何をやっても上手な、天才肌のユキメに、秋彦はちょっとだけ嫉妬した。

「ありがと」

秋彦の内心を知ってか知らずか、褒め言葉に対しユキメは素直に礼を言う。

いつもなら、ユキメはここで「もっと褒めて」だの何だのと言って頭に乗るのだが、今回は簡単なやりとりだけで、淡々と進める。

本人の言葉どおり、いつものユキメとは、まるで別人のようだ。

「まず、私たちの初期位置だけど、西側よ。ま、戦術的には東側がベストなんだけど。何でかはわかる?」

「……この池のせいで視野が開けて、西側のチームを、東側のチームが発見しやすいからでしょう」

「そーいうこと。こっちが、いきなり池を占領できれば話は別だけど、そんなの不可能の極みってモンよ」

ユキメは東側のフラッグのところから、池の左端の所までに矢印を書き込む。

「スナイパーとしてのスキルを持つ麗奈ちゃんでも、この程度は届くだろうし、この辺りがデッドラインってとこね。もちろんスナイパーの腕がより高ければ、それは更に広くなるわ」

奇妙な間が、二人の間を駆け抜ける。

荘厳な雰囲気の中、緊張してか、秋彦はごくりと息を呑んだ。

ただし、もう一方の五人は、壊れたり、落ち込んだり、結びに苦戦したり、黄色い声を上げたりなんだりで、息を呑む暇もないほどの、阿鼻叫喚な大騒ぎであるが。

「今度はこっちね」

ユキメは西側のフラッグのところを、ペンで指す。

「こっちも、東側と同様に守りやすい地形になってるわ」

「高低差がかなりありますもんね」

ユキメが言い終わる前に、秋彦がつぶやいた。

「つまり、高い位置にあるフラッグ。そしてそれを守る人も高いところにいる。結果、撃ち下ろしになる」

秋彦は、つぶやいた後も、語るようにして、ユキメに言った。

銃撃に関しては、高いところにいればいるほど、遮るものが少なくなって狙いやすいし、飛距離も伸びる。

つまり、ユキメの言ったとおり、守りやすい地形だということの証明となる。

(ふ。流石はあの子たちの中で、一番サバゲーをやってるだけのことはあるわね)

ユキメは、自分の言ったことをしっかり理解している秋彦を見て、にぃと笑った。

「そういうこと。でも東側と違って隠れる場所が多数存在してる。つまり、アンブッシュしやすい地形になってるのよ」

続いてユキメは、フラッグとフラッグとの間にある道のいくつかを、所々マルを加えていく。

「そして、道がかなり分岐しているし、道じゃなくても通れなくはないから、全ての道で待ち伏せして、ドン、ってわけにもいかないと思うわ」

「つまり、守るためにはフラッグの近くに配置しなきゃいけないわけですね」

秋彦の言葉に、ユキメは無言で頷いた。

「そうなると、ディフェンダーの存在が重要になるわけですね」

秋彦はそうつぶやくと、ちらりと瑠璃華の方を見る。

その目は、恋人の身を案じる、それだ。

「ええ。でも役割分担はもうちょっと後でね。今は状況をしっかり把握することが先よ」

ユキメは最後に、マップ全体を強調するために、マップ全体を大きくマルで囲む。

「大きく見れば、高低差が大きく、遮蔽物が数多く点在、道の分岐が多い、ということよ。それを踏まえて、作戦立案といきましょうか」

一区切りついたところで、ユキメはにこりと笑った。

秋彦も、珍しく真面目なユキメに、とても満足そうである。

ただし……。

「ああん、もっと縛ってぇ♪」

憐は未だに暴走モードであった。

おかげで、ユキメの件を差し引いても、秋彦も胃が痛くなるような錯覚に陥ってしまう。

しかし、暴走モードの憐を気にすることなく、修一は最後の仕上げと言わんばかりに、猿轡を女装した憐……。

「ボクのことは霧華(きりか)って呼んで♪」

もとい、霧華に猿轡をして、ミッション終了。

「任務完了。これより、我も作戦会議に参加する」

「わたくしは、もう満足ですわ」

「あたしも、そろそろ秋彦に抱きつきたい気分だしー」

麗奈と瑠璃華も満足そうにして、作戦会議の輪の中へと入っていった。

瑠璃華は、いつも通り、飛びつくように、秋彦の背後から首に抱きついた。

で、その副作用で、秋彦は迷彩服越しに感じるあの柔らかい感触に、顔を真っ赤にさせた。

もちろんのこと、秋彦に抱きついて御満悦な表情を浮かべる瑠璃華は、気づくはずもない。

ある意味で、瑠璃華は魔性の女であった。

そして、最後の一人である美奈は……。

「憐君……あなたは何故憐君なの?」

まだ立ち直ってはいないようである。

虚ろな目は変わることなく、しかも何故か体育座りをしながら遠くを見ているのだ。

ただし、その目には何も映ってはいないであろう。

しかしそんな、奈落の底まっしぐらな美奈に、救いの手を求める人物がいた。

「美奈ちゃーん。今から知り合いに連絡とって、これから解毒剤作ってもらうつもりだから、立ち直りなさーい」

ユキメのその一言は、美奈の精神を復活させるのに、絶大な効果を及ぼした。

美奈は正気を取り戻し、そのまま掴みかかるような勢いで、ユキメの元へと駆け寄った。

というか、がっちりと襟を掴んだ。

「ほ、ほ、ほっ、ほっ……」

「クラーザ?」

「それは烏山明(からすやま めい)先生の書いた、『九頭龍ボール』の敵だ! それに美奈ちゃんは笑ってるわけじゃない!」

瑠璃華の唐突な発言に、秋彦は反射的にツッコんだ。

なお、『九頭龍ボール』とは、女主人公孫美亜子(まごみ あこ)が「オラより強い奴に会いに行く!」などと言う、熱血一直線な格闘漫画である。

その中でもクラーザは、作品中最も有名な敵なのだ。

それは置いておいて、秋彦と瑠璃華の夫婦漫才には耳を貸さず、美奈はユキメを凝視していた。

「本当ですか!?」

美奈は気が動転していたようで、柔道家もびっくりな強さで、そのままきゅっと襟を絞める。

尚、美奈も武術の心得を持ち合わせていることもあり、そりゃもう、完璧にチョークに極まっていた。

一応ユキメはか弱い女の子(?)なので、抜け出す技を知っていたとしても、ここまで完璧に入ってしまえば実施は不可能。

『イクサクニヨロズ』を苦しめた悪女も、今となっては、哀れな被害者であった。

「く、くるしぃ……」

「本当ですか!? 本当ですか!? 答えて下さい、ユキメさん!!!」

そんな、危険な状態を加速させるかの如く、美奈は首を絞めたままユキメをぶんぶんと振り回した。

腐っても、センゴクホワイトの偽者。

美奈も腕力はかなりあるほうであった。

ユキメは柔よく剛を制す技と、剛よく柔を制す力によって絞められるという、危篤な状態から抜け出せない。

さらに振り回される際に発するGの影響を受けたおかげで、ユキメはこのとき、賽の河原を垣間見た。

「ちょっと、落ち着け!!」

急いで、危険な状態にあるユキメを救おうとするのは、秋彦と瑠璃華。

緊急事態と判断し、即座に夫婦漫才モードから抜け出していた。

唐突な状況でも、しっかりと連携はとれている。

二人の絶妙なコンビネーションにより、秋彦は美奈の右腕、瑠璃華は左腕をがっちりと掴んだ。

「あ……」

そんな二人の行為に正気を取り戻し、美奈はユキメを掴んでいた手の力を緩める。

だがそれがいけなかった。

まだ加速度がついた状態で放されたユキメは、そのまま、運動の第一法則である慣性の法則に従って、加速度方向へと低い放物線を描き、華麗に宙を舞った。

ずしっ!!

さらに運が悪いことに、ユキメはそこにあった壁に、鈍い音を立てて、したたかに激突する。

全身を強く打ち付けられたユキメは、そのまま力なく壁に背中を預け、座り込んでいた。

「ユキメ……さん……」

狂乱していたとはいえ、美奈は自分のした行為に罪悪感を感じざるを得ない。

思わず口に手を当てて、全身を震わせた。

しかし、修一だけはこのような展開に、強いデジャビュを感じていた。

「否、ユキメさんのこと。恐らくこれは空蝉の術(身代わりの術のことです)! 然らば……!!」

美奈の罪悪感を吹き飛ばすような勢いで、修一は注意を呼びかける。

修一は、ユキメの性格を考慮した上で、女子トイレの方へと目を向けた。

だが、ユキメがハンカチで手を拭いているような様子はない。

というか、ユキメはいない。

「違う? されば……土遁の術!?」

今度は真下を見る。

だがそこにもユキメの姿はない。

ただその代わりに、ユキメを模した、かわいらしい人形がぽつんと置いてあるだけであった。

「ふっふっふ、引っかかったわね」

皆の耳に、ユキメの声が響く。

「これぞ自力で編み出した、“忍法空蝉の術返し”。何とこれは、空蝉の術と見せかけて、実は攻撃を受けた方が本物、っていうすばらしい技なのよ!!」

声が聞こえる方を皆が見てみると、先程と同様に、ユキメは背中を壁に預けた状態でぐったりとしていた。

頭からは血がどくどくと流れ落ち、指先なんかはピクピクとしか動いていない。

声は平然としているが、はっきり言ってかなりヤバイ状態だ。

状況が状況なだけに、ユキメのボケにツッコむ人はいなかった。

“忍法空蝉の術返し”で大ダメージを負い、リザーバーのはずのユキメの出場すら危うい。

大ピンチだ『イクサクニヨロズ』、次回に続く。

遠日公開未定!!


次回予告

「襲い来る苦難に翻弄されし者がいる。
運命に見放され、傷ついた体を横たえし少女がいる。
そして、襲い来るは恐山からの刺客たち。
かすかな希望を奪わんとする敵を前に、少年たちは道を切り開けるか?
悪女という名の気紛れ天使は、誰に対して微笑むのか?
次回いつわりのものたち第三話「イクサクニヨロズ激突」

雄々しき戦場に身を置け『イクサクニヨロズ』」


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