投稿小説だぜ

Mituyaさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

偽りのものたち

第一話


「イクサクニヨロズ初陣」

◇1◇


青森県青森市某所。

とある山中。

精悍な身体の上に迷彩服を身にまとい、眼球を保護するゴーグルを頭部に装着した、一人の少年がいた。

彼の名は伊達秋彦。

私立山城高等学校の男子生徒である。

APS−2という、愛用のスナイパーライフルを藪の中で構え、息を殺して獲物を待ち続けている。

(あの人は必ずここに来る。今はオレとあの人の一対一。この状況では、あの人なら必ずフラッグを取りに来る)

どくん、どくん、どくん。

秋彦は息を呑む。

待ちに待った獲物が、彼の前に現れた。

瞬間。

「ヒット!!」

秋彦が放った渾身の一発は、狙い違わず、あの人の心臓の位置を的確に捉えていた。


「いやー強いね、アキ君は」

「そんなことありません。オレが強くなれたのも、皆さんの教え方が良かったからですよ」

がははと秋彦に笑いかける青年は、サバイバルゲームの同士を集うサークルメンバーのリーダーである。

秋彦の周りにも、青年と同様に彼のことを尊敬するかのごとく見つめる、メンバーたちの姿があった。

秋彦は、その視線に恥ずかしさを抱きつつも、嬉しさも隠し切れなかった。

「ははは。謙遜しなくてもいいよ。私たちはかれこれ数年、暇を見つけては、これに没頭していたのに、秋彦君はたったの一ヶ月でこの活躍だ。私たちをいともあっさりとヒットさせるなんて、大したものだよ」

どんなに自分の口で否定しようと、ほめられれば嬉しいものだ。

秋彦は、僅かに口の端が緩む。

「ああそうだ。秋彦君はまだ高校生だったわね」

サークルの紅一点、性格はいいが顔は悪いという代名詞で通っている(無論、本人大否定)女性が、思い出したかのように掌を拳でぽんと叩いた。

「はい。そうですが」

「だったら、はいこれ」

渡されたのは一枚の紙。よく見れば、それは申し込み用紙であった。

「これは、この辺りでやるサバゲーの地方大会の申し込み用紙なんだけど、腕試しでやってみない?」

「やります」

某じいさまの孫の如く、即答であった。


◇2◇


「と、まあこの様なことがありまして、数合わせでいいから、地区大会に参加してくれないかな?」

とある下宿にて、秋彦の仲間である直江憐、本多美奈、真田修一、武田麗奈、明智瑠璃華に自室にて声をかけた。

いや、正確には自室ではなく、男子全員の部屋である。

戸籍はまっとうなものでなく、偽造。

親がいないので文無し同然。

不条理な運命の中、彼らは一つ屋根の下で生活している毎日なのだ。

ちなみに女子全員は、彼らとは別室ながらも、同じ貸しアパート『むつ』の別室で暮らしている。

「え〜と、じゃあデート一日。しかもあたしがエスコートするの。それが交換条件。それであたしは参加してもいいよ」

真っ先に了承してくれたのは秋彦の恋人、瑠璃華であった。

彼女は、現代の大和撫子とも言われるほどの美人なのだが、どこを気に入ったのか、秋彦に御執心で、いつ何時でも彼にべったりである。

そのせいか、秋彦は以前、数多の男性の、恨みがましい視線にさらされ続けたものだ。

だがそんな状態が二ヶ月ほど経つと、おのずと、秋彦と瑠璃華はセットだ、と思われ始めてきたのだ。

周りから公認の仲と認められたので、二人は、ようやくまっとうな日常を手に入れられたところだ。

「おいおい、それっていつも通りじゃないのか?」

「だってあたしはずーっと秋彦と一緒に居たいもん」

「……よくそんなことが真顔で言えるよな」

肩をすくめてそう言った少年は憐。

彼の口調は、ややぶっきらぼうながらも、顔は良い。

だが、なぜか年下の男の子によくモテるという、変わったスキルの持ち主である。

そのため、彼はホモだのショタだのという疑惑がそこらで湧き上がっている、ある意味不幸な美少年なのである。

「ま、俺はいいぜ。バイト休みの間は結構暇だし、何より面白そうじゃねえか」

憐がそう言うと。

「え……。憐君がそう言うなら私も……いいです」

と、美奈。

彼女は、見た目はお姉さま風の、格好いいタイプの美女なのだが、性格は反して内気。

何をしても自信なく、その自信のなさが足かせとなり、行動全般を通して上手くいったためしがない。

しかし、それでも彼女の運動能力は、一般人のそれを遥かに上回るのだが。

「ほーっほっほっほ。わたくしは数合わせなんかになるつもりはなくてよ!?」

高飛車な態度なのは麗奈。

彼女は、学校でも5本の指に入るほどの美人である。

だが、性格はお嬢様で浅はかで負けず嫌いでプライドが高い。

と、性格面でのマイナス要素が強く出ていて、容貌によるアドバンテージを無くし、逆にハンディキャップを背負っているというわけだ。

しかし、美女であっても、それらのマイナス要素に親近感を感じてか、案外同性の友人は多い。

「……我も構わぬ」

小さく呟く修一。

彼は、背はそれほど高くはないが、引き締まった肉体をした青年だ。

彼の、どんなときでも動じることなく淡々と一日を過ごす様は、まるでロボットのようだ。

だけど、彼は仲間の事となると、表情こそ変わらないが人が変わる点と、忍者グッズ集めが大好き、というヲタクっぷり。

それらの点から、人間としての感情は十分あると言えよう。

「じゃ、チーム結成ってことね」

そう言って秋彦の腕に抱きついて幸せそうにする瑠璃華。

秋彦は、断られることを想定していたので、その嬉しい誤算に、表情を崩した。

チーム『イクサクニヨロズ』の結成までの所要時間は、わずか一分に過ぎなかったのであった。


◇3◇


サバイバルゲームを始めるに際し、絶対に必要となる物がある。

それは至極簡単。

エアガンと怪我防止のためのフルフェイスゴーグルである。

衣装に関しては、とある函館在住の面々も無茶苦茶な格好をしているので、問題ない。

……と、言えるかどうかはわからないが、とりあえず大丈夫だということにしておこう。

しかし、先程例をあげた人物たちと、彼らの最大の違いがある。

それは、お金がないことだ。

先程も述べたように、貧乏なので、全員の身を削るようなバイトが、唯一の収入源なのである。

家賃は3人暮らし×2なので、一人につき、一部屋の家賃の3分の1。

学費も各自で捻出している。

さらに食費、光熱費、ガス、電気などで、かなり膨れ上がるものだ。

加えて修一の忍者グッズ集め、麗奈の見栄、といった要因で、さらに出費はかさむ。

緊急用の蓄えこそあるものの、それを、実用性がまるでないエアガン等に使うのには、忍びない。

しかも、エアガンや装備一式を揃えるとなると、4〜5万はかかる。

「うーん、やっぱりれいちゃんの服を、どっかのマニアに売りつけるとか?」

瑠璃華がぼそっと言う。

その言葉に、麗奈の身体がぴくっと震える。

「シュウの忍者グッズを質に入れるってのも、アリじゃねぇか?」

それなら、というように、憐も提案する。

憐の提案に、修一は表情を歪めた。

「それはやめて〜」

「拒否する!」

二人は、当然のことながら、受け入れる気はないようだ

ってなわけで、正確に言えば、修一と麗奈のお金が足りないのだ。

憐の暇つぶしは、基本的にお金のかからない図書館通いと本屋での立ち読み。

美奈はそれにちょこんとついて行ったり、ごくたまに憐の剣術の手合わせをするくらいだ。

瑠璃華は人付き合いはいいが、お金の使い方は案外うまいので、ある程度の金額は残しておける。

そして、秋彦は装備をすでに整えているため、お金は必要ないのだ。

反面、修一は金さえあれば古物商から大量の忍者グッズを集めているため、常に金欠との戦い。

麗奈は常に見栄を張るため、いくらお金があっても足りないくらい出費が激しいのだ。

それでも、修一と麗奈が赤字にならないのは、他の四人以上に切り詰めて働いているからだ、とだけは、付け足しておこう。

「しかしサーバゲイとやらは我の苦無では駄目なのか?エアガーンとやらの代わりにはなるだろう?」

ちなみに修一の言う、サーバゲイとはサバゲーのこと、エアガーンはエアガンのことである。

修一は英語が大の苦手で、どうしても横文字の発音がおかしくなってしまうのだ。

「駄目」

軽くいなそうとする秋彦。

「しからばこの手裏剣は?」

「駄目だってば」

それでもしつこく食い下がろうとする修一。

「さればこの鎖鎌……」

「駄目に決まってるだろーがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

秋彦は、修一のしつこさに、思わず荒い口調で怒鳴った。

「模擬とはいえ、合戦だろう? ならば命のやりとりは死なない程度にしておけば……」

「「物騒なこと言うなぁぁぁぁぁぁ!!」」

流石に、これには秋彦だけではなく憐もツッコんだ。

「第一ルールブックにも、刃物の使用は禁じているように書かれてるっ!!」

「我はまだルルーブクとやらを見てはおらん」

憐と秋彦は再び、感情のままに突っ込みたくなるのだが、あきれ果ててそれすら行う気力まで奪われていた。

お金に関しての議論は、結論の出ないまま、数十分にも続く。

だが、結論を出さなくても、全員にお金のアテがまったくない、と言えば嘘になる。

彼らの保護者の存在だ。

だが、誰もがそれを口にしないのには理由がある。

その人物に恩があるのだ。


二ヶ月ほど前、彼らは気がつけば津軽海峡をミカン箱に入れられ、漂っていた。

彼らは主である魔王クラーマの為に作られ、そして魔王クラーマに終生仕えるはずだった。

だが彼らの創造主はこう言った。

「完全な失敗作だ」

あとは事務的に“産業廃棄物不法投棄怪人”によってぽいっと捨てられたのだった。

なおこれは余談だが、そのとき瑠璃華はなぜか、『津軽海峡冬景色』をプロ並の歌唱力で延々と歌っていたという。

運よく青森県に流れ着いた、その日のことであった。

あまりの空腹とのどの乾きのため、店を襲う寸前だった彼らの目の前に、天使のような女性が現れたのだ。

……少なくとも、その時はそう思っていた。

その彼女のお膳立てによって、偽造ながらも戸籍を手に入れることが出来た。

さらに彼女は、自分が保護者名義になって部屋を借り、彼らに住む場所を与えてくれた。

そして何よりも……。


◇4◇


「話は聞いたわ! お姉様に任せておきなさい!」

「本当ですか! ……って、いつの間にここにいたんですか、ユキメさん!!」

唐突過ぎる出現に思わず、ツッコミ役である(本人大否定)秋彦が声を上げた。

そう、彼女こそが、憐たち全員の命の恩人、裏社会の腕利き情報屋(自称)、唯我独尊で突っ走る、ポニーテールがトレードマークの、自称ユキメ(源氏名)である。

本人曰く、“華の女子高生”らしいのだが、部屋を借りるときの契約書類には、山田花子24歳(独身)と書いていたのでそれも怪しいものだ。

少なくとも見た目はだけなら、スマートで格好いいおねーさんなのだが、それは黙っていればの話である。

「気にしない、気にしない。人間その気になれば成層圏だって気合で乗り越えられるものなんだし」

「無理に決まってますってば」

いい加減、秋彦もツッコミにまわるのがつらくなってきたが、それでもツッコむのは芸人としてのサガか、それとも習性か。

「何言ってるのよ。そんなの当たり前じゃない! 若いんだから、くだらない妄想しちゃ駄目よ」

秋彦は相変わらずのユキメの発言に、こめかみを押さえた。

他の面々も、あまりに突飛な登場と破天荒な性格に、目を丸くさせる他無い。

ユキメは前々から、こういう人なのだ。

「大丈夫。資金くらいなら私が出してあげるわよ。お金は天下の回りもの。悪銭身につかず。取らぬ狸の皮算用って言うしね」

「……って駄目じゃねぇかよ」

「まったくね、憐君」

あははと無邪気に笑うユキメ。6人にとって掴み所のまるでない、そんな彼女の行動に手を焼くのは、いつものことである。

「それはともかくとして、私のお金はあくどい事をして稼いだお金だから、安心して使いなさい。っていうか、使え」

「……だから、ユキメさん。オレたちは、ですね」

こめかみの痙攣がなお一層酷くなる秋彦。

その一方で、お金を受け取る気配のない秋彦に、ユキメは突然、表情を一変させた。

「ひ、ひどい! 私が汗水流して稼いだお金なのに、受け取れないって言うの?」

秋彦の言葉の先を遮るように、涙ながらに訴える。

「悪い事をして稼いだんですよね。私たちは……そんなお金は受け取れません」

しかし、美奈はそんなユキメの訴えを、申し訳なさそうにつっぱねた。

それにしても、元々悪役として作られた人物の台詞とは思えない言葉である。

「がーん」

わざとらしくショックを受け、よよよと泣くユキメ。

「がーん、って、自分で言うものじゃないですし……」

それでも、秋彦は横槍を入れるのは忘れない。

秋彦のツッコミを無視しつつ、ときおりずずずっと鼻水をすする音さえ聞こえてくる。

「……ユキメさん」

流石に良心が咎めたのか、本気で心配する美奈だったが、それを憐が肩を叩いて押し留めた。

「大丈夫。あの人の場合、確実に嘘泣きだ」

「……ちっ。憐君もかわいくなくなったわね」

憐の思ったとおりだったらしく、ユキメは一変した後、舌打ちと同時に邪な目を彼らからそむける。

ちなみに涙は自前である。

女の武器の一つである涙を、ユキメは自由自在に使うことが出来るのだ。

そんなトラブル(漫才?)が続いたが、一人の人物が状況を打破することに成功した。

「あのぅ、ユキメさんが稼いだお金は裏稼業なのは間違いありませんが、まっとうなお金ですよ」

ユキメのフォローをしたのは、いつの間にか、ユキメの後ろに立っていた女性だった。

名前はチサト。

憐たちとは、ユキメと違ってあまり顔をあわせている訳ではないが、一応顔見知りである。

苗字に関しては、ユキメと同等の危険な仕事をしているらしく、明かせないらしい。

そのチサトは、赤と黒を基調としたライダースーツにおさげという格好である。

ユキメ同様に、年齢はわからないが、やや雰囲気に幼さを感じる点で、自分たちと同年代くらいかもしれない、と憐たちは思っている。

そしてチサトは、美奈や秋彦同様に真面目な人物であることを、憐たちは知っている。

少なくとも、嘘八百大法螺吹きのユキメの言葉よりかは、信頼はできるのだ。

「むー、面白くないなぁ。チサトちゃんはその朴念仁さを治したほうがいいと思うんだけど」

「ユキメさんが不真面目すぎるんです!」

チサトが、呆れながらもユキメに怒鳴りつける。

「……それに仕事柄とはいえ偽名が多すぎますよ」

裏の情報屋、ユキメ(源氏名)。

憐たちの恩人は未だ謎に包まれている。


◇5◇


ユキメの説得(漫才?)もあって、一同は資金を貰って、それぞれの武具を購入することにいそしんだ。

お金は6人全員の分を出してくれたので、貯金を削る必要もない。

そのため安心して、より自分に合いそうな武器を探し出すことができる。

憐はヘッケラー&コックMP5R.A.S(ラス)、M92F・タクティカルマスター。

美奈はコルトCAR−15(カーフィフティーン)、サムライエッジスタンダード。

修一はP−90(プロジェクトナインティ)、ワルサーP38ミリタリーモデル。

麗奈はβスペツナズ。

瑠璃華はウージーSMG、グロック26を購入した。

秋彦は、得物であるAPS−2を、より一層、長距離射撃用にカスタムしただけで終わった。

その他にも全員分の迷彩服を購入したのだが、美奈は少女趣味という性格上、かわいくないという理由でパンツルックを嫌い、スカートのタイプを選ぶ。

修一は、自前の忍び装束があると言いはって、折角お金を出してくれるというのに購入を拒否。

そして麗奈はなぜか、さらに自分が目立つように、服のカスタムを要求した。

しかもそんなわがままを、ユキメが笑って許すので、真面目にやりたい秋彦と憐のため息は増えていくのであった。

装備の購入が終わったら、今度は役割を決定するべきだ、と秋彦が提案を出す。

これはユキメやチサトはもちろんのこと、友人である憐たちもさっぱりなので、ほとんどの決定権を秋彦をゆだねさせた。

その結果、憐と美奈がアタッカー、修一がミドルアタッカー、瑠璃華がディフェンダー、麗奈と秋彦がスナイパーを担当することとなった。

ただし、これは大雑把に決めたもの。

作戦によっては、役割を変えるべきだ、と憐は主張。

秋彦もこの主張に、同意した。

ただ、麗奈だけが自分の役割に、不満そうにしていたが。

そして麗奈の不満に気がついた人は、トリックスターな割には人の心を読むのが上手い、ユキメ以外はいなかった。

その後は、秋彦が延々と、サバイバルゲームのルールについて、夜遅くまで語ることとなった。

その頃にはユキメとチサトの二人は姿を消していた。

そして彼らが訓練を重ねて一ヶ月後。

サバゲーのデビュー戦である、地方大会へと足を伸ばしていたのであった。


◇6◇


大会本部が設営されたその場所は、かなりの盛り上がりを見せていた。

今回のサバイバルゲームの大会は高校生で統一されているものだが、本来のサバゲープレイヤーのほとんどは社会人である。

有能なプレイヤーを見極め、そして自チームに勧誘するために来ている、社会人の観客も決して少なくない。

とはいえ本質としては皆、サバイバルゲームを楽しむ愛好者たちだ。

すばらしき戦術と、卓越した戦闘能力をもつ者同士の戦いを楽しみにしているのだ。

「秋彦君、がんばってくれよ」

「応援してるからね。負けたらただじゃおかないんだから」

当然ながら、秋彦のサークルの面々も応援に駆けつけてくれた。

ただ瑠璃華は、親しそうに話しかける女性をむっとした表情で睨みつけて、秋彦の腕を自分の胸へと引き付けるのであった。

まだまだ若い秋彦である。

秋彦は、その感じ慣れない柔らかな感触に顔を真っ赤にさせて、出来る限り穏便に振り払おうとする。

だが瑠璃華は、狼狽する秋彦のことはお構いなし。

秋彦が盗られるのが怖いのか、瑠璃華はより一層、秋彦の腕に強くしがみつくのであった。

(ったくよ。瑠璃華のやつ、人前で恥ずかしくないのか?)←憐

(いいな、ルリーさん。私も憐君に……って何考えてるのよ、美奈!!)←美奈

(ふむ……)←修一

(ふふふ、わたくしの華麗なるデビューをここにいる全員に見せ付けてあげますわ)←麗奈

真面目に困惑してくれる人、電波な考えが頭をよぎる人、何も考えてない人、まったく別のことを考えている人と、その光景に対しては千差万別といった感じである。

「対戦相手もたった1チームだけだ。だけど死ぬ気でやってこい」

「はい……?」

サークルの部長の、1チームだけ、という言葉に秋彦は困惑した。

その疑惑を解消するべく対戦表を見ると……確かに参加チームは、僅か2チームしかなかったのだ。

もちろんだが、その内の一つは『イクサクニヨロズ』である。

「最近はサバゲーもマイナーになっちゃったしねぇ……」

「都会に憧れる若者も増えてるしなぁ……」

「過疎化がひどいし……」

まだ20代のサークルメンバーも、皆ため息を隠せない。

「……じゃあなんでこんなに人が多いんだよ」

憐がぽつりと疑問を口にした。

「それはわたくしの美貌を見に来ているからですわ。おーっほっほっほ……」

そこにいた全員がそれに苦笑するが、実は麗奈の言葉もあながち間違いとは言えなかった。

憐は何も知らない女性と、その気がある男の子にとってもモテモテだ(笑)。

美奈はその気弱な仕草が一部の男性の琴線に触れ、本人の自信のなさとは裏腹に、支持者は多い。

修一はそのストイックさが何とも言えない味をかもしだし、案外もてる。

麗奈は黙ってさえいれば、下地がいいために誰もが惹かれる女性である。

秋彦も、憐や修一に負けておらず、むしろその生真面目さが女性ファンを作っている。

そして瑠璃華は、今はなきヤマトナデシコな容貌と、その明るさが女性としての魅力を最大限に引き出している。

……説明が長くなったが、要は6人とも人気があるのである。

さらに対戦相手の方も、この地方大会では色々な意味で有名なチームだったことも、観客を増やすのに手を貸していた。

そんなこともあって数分後。

「やっほ〜。応援に来たよ〜」

そう言って彼らの方へ女子高生が、一人近づいてきた。

いや後ろに以前見たライダースーツの女性もいるから二人。

先日、唐突にやってきては、すぐいなくなったユキメとチサトである。

「「「「「「ユキメさん!!」」」」」」

皆の返事に、ユキメは手を振った。

ユキメは山城高校指定のセーラー服をきちんと着こなしていた。

どうやってその制服を入手したのかは不明だが、これなら自称女子高生も頷ける。

「ふっふっふ。こんな面白そうなことに首をつっこまずにいられると思って?」

その言葉に、チサトを含めた皆が一様にこう思った。

この人が面白そうって言葉を使うときはろくなことがない、と。

そんな思いを知ってか知らずか、話を続けるユキメ。

「というよりは突っ込ませて下さい」

そして人前で土下座までするのである。

「卑屈だ」

「ユキメさんが、そこまで言うのであれば、わたくしは構いませんことよ」

ぽつりと漏らす瑠璃華。

お嬢様言葉なのはもちろん麗奈だ。

「よし、許可は得たわ。後はみんなをぼこぼこのぐちょぐちょのけちょけちょのぎったんぎったんに……」

「……何をするつもりなんだよ、ユキメさん」

「あらやだなーれんくん。わたしはただみんなのおうえんをしようとおもっただけだよ」

普通に喋れるのに、ユキメの言葉は明らかに棒読みである。

「……ふぅー、私が乱入して阿鼻叫喚の大騒ぎをしようとしている事は、ばれずに済んだみたいね」

「……ユキメさん?」

美奈は、ユキメの漏らした言葉に、裏切られたかのような顔をしている。

美奈という人物は、よく言えば純情、悪く言えばバカ正直なのだ。

「自分で言うなよ……」

美奈とは対照的に、憐は呆れるようにつぶやく。

「はっ! 何故私の考えていることがわかったの?! まさかあなたたちはテレパシーを使えるの!? それともペペロンツィーノ公爵の陰謀だとでもいうの!?」

「……誰やねん。ペペロンツィーノって」

憐は、オリジナルの影響で、北海道の方言を話すならまだしも、何故かありきたりな関西弁でツッコミを入れる。

「ペペロン公爵。あなたはいつまでも、私の邪魔をするというのね。あなたは私の思いには、いつも応えてくれなかったわ。そして今回もあなたは……いいえ! これはきっと恋の試練! さあ憐君、あなたとペペロンとの間で子をもうけて、私に初孫の顔を拝ませなさい!!」

……どう例えればよいのか、とにかくユキメはシンクロ率400%まで達していた。

まあ使徒を捕食しなかっただけまだマシだったかもしれないが。

だが今回はその暴走を止める勇者がいるのだ。

「○山昇龍覇ーーーっ!!」

龍の如く天へと昇る、そんなチサトの拳がユキメの顎を貫いた。

「ぎゃびりーん!」

そして、ユキメの身体は天高く舞い上り、そしてそのままお星様となってしまいましたとさ。

アン○ンマンやポ○モンなら、敵役の捨て台詞でクライマックスに突入するのだが、今回の場合はそうもいかないようだ。

お星様になったユキメだが、彼女にはギャグの属性があり、ただではやられるはずもなかったのだ。

「あー、死ぬかと思った」

ユキメは、宇宙(そら)への旅を満喫したはずなのに、ピンクのハンカチで手を拭きながら、女子トイレから出てくる。

もちろん、無傷で、である。

「相変わらず、あの人にはついていけねぇ……」

憐の一言が、チサトを含む、皆の気持ちを代弁していたのは言うまでもない。

「……ユキメさんはともかくだ、相手も結構名が知れているチームらしい。油断しないで行くぜ」

憐が皆の表情を見る。

美奈は憐に顔を見られている恥ずかしさから、顔面を真っ赤にし、慌てて俯く。

修一は黙ったままだが、その目は真剣そのものだ。

他の皆も一様に頷いた。

当然ユキメとチサトも……。

「って、何でユキメさんとチサトさんがいるんですか!?」

という秋彦の疑問だが。

「気にしない、気にしない」

ユキメは軽い口調で、その疑問を軽くいなす。

チサトとしても、ここにいてはいけないと思ったのだが、ユキメの存在が必ず皆に迷惑させるはずだ、という先読み故に残ることにしたのだ。

もちろん、ユキメが何処かへ行くのであれば、それについて行くつもりだ。

しかしユキメは、何処かへ行く気はさらさらなさそうだ。

憐たちはユキメの存在に一抹の不安に駆られながらも、時間もないことから、さっさと作戦会議へと移行した。

もちろん指揮するのはリーダーである憐だ。

「まずは状況把握として地の利の活かし方を、秋彦、頼む」

「そうね、計画的な交際をしないと、あっというまにペペロンとの間は子沢山になっちゃうしね。一人目はやっぱりギョルレッペーノよね」

「は?」

思わず、何のことかと瑠璃華が反芻してしまう。

「そして人は生まれ変わるときにこう叫ぶの。ぺぺろ〜ん!!」

そして、ユキメは再び暴走モードに入るのであった。

過去に一度、そんなユキメに、憐が「馬鹿か」とつぶやいて一蹴してしまったことがあった。

だがその時、ユキメは憐と二人にして欲しいと皆に言い残し、憐をとある一室へと連れ込んだ。

数分後、何事もなく二人とも部屋から出てきたのだが、憐の方が、入ったときとは明らかに違う表情を浮かべていた。

そのときの憐は、まるで自分の死期を悟ったかのような、絶望的な顔だったそうな。

その日から、憐はユキメに頭が上がらないのだ。

その時に何があったのかは、憐とユキメしか知らない。

「……杉浦○陽?」

ちなみに、瑠璃華がつぶやいた、こういう台詞とツッコミはアリらしい。

「……まぜっかえさないで下さい、ユキメさん」

瑠璃華のボケはとりあえず置いておいて、秋彦がツッコんでくる。

「ちぇ〜」

ユキメは心底つまらなそうに口を尖らした。

チサトは、ユキメにさらに余計な口出しをさせないために、どこから持ってきたのかは不明だが、猿轡を取り出す。

そしてその猿轡をユキメに手際よく噛ませた。

どうやらこのような状況は、たくさん体験しているらしい。

同じく、ユキメも慣れているせいか、抵抗らしい抵抗はしない。

「……何か、倒錯的な感じですわね」

麗奈が言うのもそのはず。

チサトはユキメの身体をも、荒縄で縛り上げているのだが、その縛り方は何と言うか、奇妙な六角形の形をした縛り方である。

いったいチサトは、どこでそんな縛り方を習ったのだろうか。

「チサト殿も、捕虜に対する拘束の仕方を理解していらっしゃる。ぐるぐる巻きだけでは、いささか不安ですからな」

修一はチサトの縛り方に対し、妙に感心していたりする。

「本当にユキメさんが失礼なことを……」

チサトはユキメを縛り終えた後、ユキメに代わってぺこりと謝った。

「まあ今、その件は置いておきましょう。まずは地形の説明ですね」

エアガン同様、店で買ってきた、携帯型戦略用ホワイトボード『たくてぃくす君』を使って説明をし始めた。

秋彦の説明を簡潔にすると、今回の戦闘の地形は特殊でありながら、いたってシンプルである。

まずは北と南、互いに開けた位置にあるフラッグなのだが、実は僅かに窪んでいて盆地になっている。

そのためフラッグは攻めやすく守りづらい地形なのだ。

そして、その二点を結ぶように、一直線の細い道が通っている。

見ようと思えば、自軍のフラッグのある位置から相手のフラッグを見ることもできそうだ。

そしてその一本道を挟み込むように、やや深めの林や藪臨在している。

「この場合だと、作戦は三つ。一つは林で隠れながらじりじりと進み、林伝いでフラッグを奪取すること。これなら敵の弾が当たりにくい地形だしね。だけど、相手への攻撃も同様に当てにくいし、見つけるのも大変。だから守る場合は、敵の発見が優先事項となるわけだ」

そう言って、秋彦は『たくてぃくす君』で、敵に見立てたマルを書く。

そして森の中央を通るようなルートで、マルから書かれた矢印を、自軍のフラッグのある場所へと導いた。

「これが怖いからね」

秋彦はフラッグの奪取を恐れているようだ。

「そして二つ目は全員一丸となってフラッグを取りに行くこと」

次に、秋彦は『たくてぃくす君』で、自軍に見立てた6つのマルを全部、一本道経由でフラッグへと矢印を書く。

「最後の一つは、敵を全滅させることなんだけど、これに関しては、敵を見つけること自体が大変だろうから、無視して欲しい」

秋彦は、視線で憐に、この先の作戦の原案を要求してきた。

「だが二つ目の策をとる場合は、この道に近い林で迎撃されれば、その時点で一気に不利になる可能性があるわけだ。裏をかければ話は別なんだが……」

それに応じた憐は、『たくてぃくす君』で、東と西にある森に敵に見立てたマルを書いて、それを一本道に向けて矢印を書き入れた後、口に手を当てて悩むそぶりを見せた。

「相手も間違いなく、中央突破には警戒してくるだろう。そうなると前者を選ぶことになるわけだが……」

「憐殿。我ならば林の中を見つからずに忍び込めるのだが……」

と、修一が渋く呟いた。

「本当か?」

「無論だ」

修一は力強く頷く。

「ならば林伝いでもフラッグは奪取できそうだな。他の面々は修一のフラッグ奪取をフォロー出来るように動こう」

麗奈は“フォロー”という言葉に対して、僅かに顔をしかめたが、気づいたのはユキメのみ。

その彼女は、猿轡をされているから喋れるはずもないし、話す気もさらさらない。

「まず、左右の守りとしては、練習で索敵能力の高かった、美奈と瑠璃華を分ける。スナイパーを固めるのも無駄だから麗奈とアキも分けるべきだな。じゃあ俺とシュウを分けるか。で、それを考えると……」

そこで憐は強い視線を近くから感じる。

その視線はまとわりつくようなものではないが、一種の殺気に近い感覚も覚える。

それが誰なのかは憐だけでなく、チームの誰もが知っているが。

恐るべし、恋する乙女。

恐るべし、恋人と一緒にいたい、という執念。

「……アキと瑠璃華、それにシュウ。そして俺と美奈と麗奈が組むことにしよう」

憐の言葉と同時に、瑠璃華から発せられていた殺意の波動が、とたんに消える。

「ちょっと待って」

止めたのは秋彦だ。

「シュウ。木の上を、まるで忍者のように移動できるって聞いたけど、できる? 上方なら誰もが油断するし、何より戦場になっていても、上を狙う奴は、そうそういないし」

「ふむ……できなくもない」

一瞬、悩んだような仕草を浮かべたが、すぐにいつもの修一の表情に戻る。

「なら西の森は、オレと瑠璃華だけでいいと思う。憐と美奈ちゃん、麗奈ちゃんで東サイドに前線を張る。その上で隠密行動と見せかけるのが、西サイドのオレと瑠璃華」

『たくてぃくす君』に書き入れたマークを、一旦全て消す。

そして、東サイドの森に見立てたところに3つのマル、西サイドの森に2つのマルを書き入れた。

3つのマルと2つのマルの正面に、一本の線を引く。

どうやらこの線が前線らしい。

「だけど隠密行動はあくまでフェイク。実際は、オレと瑠璃華で、相手に隠密行動だと悟られないようにしながら、さりげなく前線を張る」

全員にそう言うと、今度は修一の方を向き、それにあわせて、一斉に修一の方を向いた。

「そして本当の切り札がシュウ。戦場となっている、憐たちと相手チームを抜けて、一気にフラッグを奪取する」

修一に見立てたマルを、3つのマルの後ろに置く。

それをやや、前線を迂回させるような経路で矢印を引き、相手のフラッグの方へと導いた。

「秋彦、質問いい?」

「何、瑠璃華?」

「フラッグの近くに人を配置するんじゃないの? そうしてフラッグを守るのが普通だって、練習のとき聞いたから……」

瑠璃華は、フラッグの周りに敵がいるケースを恐れているらしい。

秋彦は、数合わせ程度に誘ったのに、ここまで真面目にやってくれている彼女の気持ちが、とてもうれしかった。

その気持ちに応えてあげようと、秋彦は一人、心の中で強く勝利を誓うのであった。

「今回のケースの場合はフラッグの近くだと敵に発見されやすく、むしろ的になるんだ。逆に、隠れながらフラッグの近くを守るという戦法の方が撃墜されにくく、相手へのけん制になるって訳。わかった?」

うん、と瑠璃華は元気につぶやいた。

「よし、じゃあ秋彦の言った策を使うことにするぜ」

憐の言葉には、誰一人として異論を言う人物はいなかった。

「西サイドはアキと瑠璃華。瑠璃華は一本道からの突撃を注意しつつ、アキのフォロー。そして、瑠璃華が発見した敵を、秋彦の長距離射撃で対処してくれ。無茶はするなよ」

「わかった」

「任せて」

秋彦と瑠璃華は、仲良く同時に返事をした。

「そして東サイドは俺と美奈とシュウと麗奈。近づいてきた相手を俺と美奈と麗奈で適当にする間、シュウは木の上から忍び込む。後は頃合を見計らって、誰かが一本道から突破。相手の攻撃をこちらに向けさせて、後はシュウがフラッグを奪取する」

美奈、修一、麗奈が頷くのを見て、再び秋彦と瑠璃華の方を見る。

「アキは戦闘が始まったと思ったら、できるかぎりでいい。一本道沿いに飛び出してきた相手だったり、西サイドの敵を減らすなりして援護して欲しい。以上だ」

作戦立案

とりあえず、現時点での作戦会議が終わり、皆が思い思いの格好をし始めたその時だ。

あれ、と突然、瑠璃華はすっとんきょうな声を出した。

「チサトさん……でしたっけ。ユキメさんは?」

その問いに、チサトは困ったような表情を浮かべた。

「縄抜けして……逃げちゃいました。しかも捨て台詞まで残して」

「何て言いましたの?」

麗奈がさらに問い詰めると、チサトはため息混じりに、愚痴るようにつぶやいた。

「安心しなさい、悪いことをしに行くだけだから、ですって」

「……それは不安だ」

それは秋彦が言うまでもなく、誰もが思ったことだった。

しかも、自分で「悪いこと」と断言しているあたりが、特にタチが悪い。

さらに、過去に一度もユキメの悪行を止められたケースはない。

対処を考えればいいだけの話、と思うのが普通だが、ユキメは何をしでかすのか、誰にもわからないのだ。

結局、一同はとりあえず忘れることにした。


◇7◇


作戦も決まり、後は開始までの数十分まではフリータイムである。

男たちは、いざというときのための作戦立案に余念がなく、未だに策を練っているようだ。

その間、女たちの方はというと……くつろいでいた。

「ううっ、それにしても寒いことですわね……」

季節としてはそれほど寒くないのだが、ここは高地で、しかも所々に雪が積もっている。

今は天気こそいいが、からっからに乾いた空気と、肌を刺すような寒風が痛い。

「こういう時はダーリンに『寒くないかい?』なーんて上着をかけてもらえたら最高なのに……」

まだ人としての生き方の経験が浅いためか、瑠璃華の恋愛観はベタベタだったりする。

「う〜っ、ホカロンとかないのかしら……」

麗奈は、こういう寒い日が好きではない。

どうしても『津軽海峡冬景色』が頭の中で、鳴り響き、かつての悪夢が蘇ってくるからだ(笑)。

「私は持ってますよ。使いますか、麗奈さん?」

そのとき麗奈は、美奈がマリア様のような慈悲で自分を包んでくれている、そんな妄想にみまわれた。

「使う使う。ごめんなさいね、みーなさん」

うれしそうに、いつもは全開であるプライドをかなぐり捨てて、ありがたそうに頂こうとしたそのときだった。

「ちょっと待ったぁ!! それはあたしにも貰える権利があるはずよ」

横からホカロンに手を伸ばす一つの影。

「え……はい……」

瑠璃華だった。

毅然とした態度なのだが、そんな態度で、寒さでカタカタと震えている様は、滑稽とも取れるだろう。

「何を言うの!? これはみーなさんの一番の友人である、わたくしこそが貰うにふさわしいのよ」

麗奈はプライド全開で、徹底抗戦の意を示す。

「ほほう、みーなちゃんの最高の親友であるあたしより、みーなちゃんとの縁が深いとでも?」

対して、負けず嫌いの意を示す瑠璃華。

「そっちこそ、わたくしとみーなさんの間に入り込める余地があるとでも?」

せっかくの美貌を醜くゆがめ、美女二人がものすごい力でホカロンを引っ張り合っている。

その時何故か、風が吹き荒れる、一本松が立っているだだっ広い草原、という風景に変わっていた、と後に美奈は言う。

「「勝負よ!!!」」

お互いホカロンを掴んだまま、第一ラウンドのゴングが鳴った。

緊迫した雰囲気の中、先制をしかけたのは瑠璃華だった。

「ねぇみーなちゃん。あたしたちはいつもバイトの配属は一緒よね」

彼女らは某ハンバーガー店でバイトしているのだが、美奈と瑠璃華はレジで一緒に働いているのに対して、麗奈はいつもポテトを作っているのだ!

瑠璃華のジャブは思ったよりも深いところに突き刺さり、実際のダメージはないはずなのだが、麗奈は立て膝で相手を睨みつけていた。

それでもホカロンを離さないのは意地か、それとも寒いのがそれほど嫌なのか。

「や、やるわね……。わたくしが一人でポテトを作っている最中に、みーなさんとルリーさんが仲良く肩を寄せ合い、互いに絆を深めるのですわね。でもね、ルリーさん。わたくしとみーなさんは委員会が一緒なのよ!!」

ちなみに麗奈と美奈の委員会は図書委員である。

実際はというと、憐も一緒で、むしろ憐がいたから美奈はその委員会に入ったようなものなのだが。

それはともかく、麗奈の“委員会が一緒なのよ攻撃”は、思いのほか効果は大きかったようである。

先程と同様、ダメージはまるでないのだが、瑠璃華はたまらず背をのけぞらす。

だが、こちらもホカロンを放す気配はないようだ。

「くっ、そういえば、あたしとみーなちゃんの帰宅時間はかみ合わないことが多いっ。そして必然的に、一緒に帰宅することが多くなるみーなちゃんとれいちゃん。あたしには入り込めない関係だわ。出来るっ!」

「あのー……麗奈さん、ルリーさん?」

美奈は、健気にも、二人の愚行を止めようとするのだが、麗奈も瑠璃華も止める気配はまるでない。

「やっぱりこの程度のことじゃ、あたしとみーなちゃんの絆の深さは伝えきれない。仕方ないわ。とっておきを見せてあげるわ」

瑠璃華は不敵に微笑んだ。

「あら、それはこちらの台詞ですわよ」

麗奈も負けじと笑みを浮かべる。

こうして、否応なしに、第2ラウンドが始まった。

「本名、本多美奈。身長167cm、体重52kg、血液型はB型、スリーサイズは上から87、58、84!!」

美奈は「えっ」と声を漏らした。

「そんなのは常識ですわね。好きな食べ物は五島軒のチキンカレー、嫌いな食べ物は納豆、好きなタイプは憐さん、嫌いなタイプは乱暴な人、趣味はウインドウショッピング、好きな教科は体育、嫌いな教科は国語、座右の銘は千里の道も一歩から!!」

美奈は、間髪入れずに「ええっ」と驚きの声を上げる。

「その程度も常識。あたしなんかみーなちゃんの私物や、ロッカーや机に入れっぱなしの物まで、全て言えるわよ!」

「あら、そんなこと自慢にもなりませんわ。ルリーさんはみーなちゃんの机に大切にしまってある日記のことを御存知かしら?」

「当たり前よ! あたしなんて一字一句間違えずに言えるわよ。でもその日記に巧妙に隠されたラブレターのことを、知ってるかしら?」

「甘い! それこそ一字一句間違えずに言えますわ。『憐君こんにちは。季節も変わり始めてきて、過ごしやすくなってきました……(中略)憐君さえよければ、私と付き合って……』(以下原稿用紙3枚分、400字詰め)」

麗奈がそれを全て言い切ったその瞬間、普段は温厚な美奈も……切れた。

その爆裂な殺気を肌身に感じて、言い争っていた麗奈も瑠璃華も、とっさに美奈の方を振り向く。

いつの間にか愛槍“林檎切”(蜻蛉切と同型)をしっかり構え、涙目になってうつむいている美奈がそこにいた。

「麗奈さんも……瑠璃華さんも……嫌いだーーーーーーーーーーーっっ!!!」

その叫びと共に、“林檎切”が神速の斬撃を放ち、瑠璃華と麗奈が引っ張り合っていたホカロンは真っ二つに切断されてしまった。

巻き散る鉄粉、支えを失い左右に倒れる瑠璃華と麗奈。

思いっきりしりもちをついた二人だが、美奈の斬撃がほんの数センチでもずれていたら、指が切断されていたであろうことに気付くと、たちまち青くなった。

恐るべき、美奈の技量。

余談だが、この事件をきっかけに、美奈の槍は“ホカロン切”と名を変えた。

その後、二人に日記の件を問いただしてみると、どうやらユキメがそのことを教えたらしい。

もちろん、美奈はその事に関して文句を言いに行った。

しかし、ユキメの携帯する“憐君のカッコイイ写真♪(盗撮)”によって、軽々と買収されたのであった。

ちなみに、美奈はホカロンを予備としていくつか持っていたのだが、二人の愚行がアダとなり、麗奈と瑠璃華はホカロンを貰うことは出来なかったそうな。

これを人は“自業自得”と言う。


◇8◇


「ドラゴンゲートより『イクサクニヨロズ』登場!!」

イクサクニヨロズの初陣であると同時に、いきなり決勝戦である。

勝てば官軍、負ければ賊軍という言葉があるが、今回のケースはまさにそれだ。

優勝チームのみが、東北地区大会に出場できるのだ。

2チームしか出場していない(笑)青森の地区大会という悲しい運命がゆえである。

かといって、『イクサクニヨロズ』が油断するのか? と言われたら、答えはNO。

憐たちは、参加チームが少ないこともあり、チャンスと見て、優勝だけではなく演出による特別賞まで狙っているのだ。

ちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃー、ちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃーちゃー。

ちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃー、ちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃっちゃーちゃー。

某刑事ドラマを思わせるイントロに合わせ、イクサクニヨロズの面々は登場した。

だがその衣装は店で買った迷彩服ではなく、スーツである。

しかも女性陣までもが男物のスーツだ。

周りから「憐様ーーっ!」とか「美奈お姉さまーっ!」とか黄色い声が上がる。

そんな中で、「寝る前には歯ぁ磨けよーー!!」とか、訳のわからない声を上げる人物がいた。

観客は、不思議そうにしていたが、憐たちは、この変なことを言う元凶の正体をよーく知っていたので、不思議には思わなかった。

それはともかく、今の演出で、彼らの株は確実に上昇したことだろう。

だが彼らの演出はそれだけではなかった。

びしっとしたスーツを一瞬にして脱いだのだ!

するとそこにはサバイバルゲームやりますよ、といわんばかりの迷彩服の若者たちがいた。

……いや、一部は真ピンクで迷彩の意味がなかったり、どこからどう見ても忍者服だったりもするのだが。

ちなみにこれらの演出は、全てユキメの提案で、一瞬にして脱げるスーツもユキメが持ってきたものである。

本人曰く、現役女子高生で現役演劇部のユキメにとって、この手の衣装はお手の物らしい。

過程はどうであれ、演出は大成功に終わった。

「続いて、タイガーゲートより『チーム不戦勝』、どうぞ!」

こちらは……説明が不要なほど地味だった。

一部から「今回は登場早々優勝じゃなくて残念だったな」とか野次が飛んでくる。

それがすべてを物語っている為、『チーム不戦勝』は言い返せるはずもない

ちなみにこのチーム名は、実績から来ている。

他のチームがおらず、青森地区の優勝チームとなり、そのまま全国大会まで行ってしまったという強運、いや豪運の持ち主である。

ただ実力は全くないため、全国大会を一回戦敗退したのはお約束。

数百年続く雑誌『月刊種子島』の評価もボロクソに低い。…というかまともに記事にしてもらえていない。

しかし、そんな相手でも(『イクサクニヨロズ』の面々は『チーム不戦勝』の実績を知らないのだが)試合の始まりは近づき、嫌でも一同の緊張感は高まってくる。

そして試合開始を告げる笛が鳴った。

「一同、指定の位置に散れっ!」

憐の言葉と同時に配置の場所へと向かう一同。

東サイドチームは憐、美奈、修一、麗奈。

西サイドチームは秋彦、瑠璃華。

憐は一本道沿い近くの東サイドの森で待機。

美奈は東サイドの森の中間の辺りで、美奈の能力である、ニュータイプの勘を全開にさせる。

修一は彼らの遥か頭上で待機している。

麗奈は美奈から数歩ほど離れた位置で待機。

そして瑠璃華は一本道と、西サイドの森の中央やや一本道寄りの位置で美奈同様、敵の気配を探っている。

そのすぐ傍で秋彦が待機していた。

初期配置は、作戦通りだったのだが、作戦とは違って戦闘は一向に始まらない。

敵も様子見ばかりで、中々近づいてはこないのだ。

(焦らしているってーのか?)

憐が内心焦り気味に考える。

このような状況になると『イクサクニヨロズ』の不安要素が動き出してしまうのだ。

「わたくしをこんなところでじっとさせておくのですか!?」

麗奈が目で憐に訴える。

「ちょっと待てよ、麗奈! 仕方ない。修一、様子を見てこれるか?」

「御意」

ちなみに声を上げれば敵に位置を悟られてしまうので、このやりとりはハンドシグナルで、である。

彼らは、秋彦から教わった合図を、努力の末に習得したのだ。

特に憐の場合は、状況に応じた作戦を考えるので、その場で作戦を知らせるための手段であるハンドシグナルは、強力な武器にもなっているのだ。

修一は、秋彦に言われた、警戒はされにくい頭上から偵察へ行く。

だが数十秒後、彼らは信じられない状況に陥った。

激しい電動ガンの音が聞こえてきたのである。

音がしたのは憐たちの遥か前方、修一が進撃した先である。

しばらくすると音が止む。

それから数十秒後、ヒットはしなかったのか修一は無事戻ってきた。

「ちっ! 何してるんだよシュウ! お前らしくもない」

「否、我は失敗などしてはおらん。むしろ、最初から木の上を警戒されていた」

「なっ!……どういうことだ?」

「わからぬ」

憐たちはしばらく待機していたが、追撃をする気はないようだ。

憐は、口に手を当てて考える。

(シュウを追いかける気はない、ってか。つまり、フラッグを守るための防御の策を練ってやがる訳だな。そうだとしても、上まで警戒するか?)

しかし麗奈は、珍しく熟考して、よりよい答えを導き出そうとしている憐を尻目に、短絡的思考に落ち着いてしまった。

「もう我慢なりませんわ! わたくしが突撃しますから援護なさって!!」

スナイパー兼ディフェンダーなのにも関わらず、麗奈は言葉通り、敵陣に突撃を開始する。

「ちっ、仕方ねぇ。俺と美奈で援護に向かう。シュウは隙を見てフラッグを奪え」

「うん……」

「承知」

だが、まだ秋彦を除く全員は、合図に慣れておらず、彼らも翻訳には時間がかかる。

そしてそのタイムラグが一人の命を容赦なく奪うのであった。

「っ! 何かの間違いよ!」

激しい銃撃戦が繰り広げられて、すぐのことであった。

認めないような口ぶりだったが、すぐ苦々しげに麗奈は言った。

「……ヒットですわ」

「なんで……」

美奈がつぶやいている暇もなく、憐たちにも敵の銃撃が襲い掛かる。

まるで、麗奈が突撃してきたのを合図としたかの如く。

「もしかして……麗奈が突撃するのを見越して……だと?」

「ありえん。麗奈殿の突発的な行動を読んだとでも言うのか?」

憐の言葉を、修一は即座に否定する。

「でも実際、お前が偵察したときも上を警戒されていたし。少なくとも、シュウのことは知ってるかもな」

「あ……でもこの、“陰陽五行戦記おまけ劇場 五行戦隊センゴクマン”の十七話でそんなシーンがあったよ……。だから警戒されることもあると思うよ、憐君。ユキメさんから証拠を貰ったし……」

美奈はどこからともなく、とある小説をコピーした、一枚の紙を取り出した。

そして、それを憐に手渡し、憐と修一はそれを覗き込むように見る。

その小説には、一文だけ、マーカーで目立たせてあった。

そしてそこには『サバゲーでは敵はほとんどの場合茂みに隠れているので、上を注意して歩くプレイヤーはまずいない』と書かれている。

もう少し警戒して見てみると、ユキメの字で『この裏、重要』と、小さく書かれてあった。

書いてあるがままに裏を見てみると、『馬鹿が見る〜』とでかでかと書かれてあったのである。

憐たちは、書いてある通り、見事に馬鹿にされたのだ。

「「あの人か……」」

二人の脳裏にユキメという人物が成し遂げた、今までの悪行が脳裏をよぎる。

確かにユキメならやりかねない。

憐と修一は思わずため息をついたのであった。

その際、コピーされた小説は、ぐしゃりと憐の手によって握りつぶされていた。


◇9◇


そのころ。

観客席では二人の美女、ユキメとチサトがそんな戦いを眺めていた。

そしてユキメは憐たちの方を悲しそうに見て、涙目になってつぶやいた。

「ごめんね、皆。でも人は困難を乗り越えてこそ成長を遂げるものなのよ……。困難を乗り越えられない力は本物じゃないから……」

「何やってるんですか、ユキメさん……」

チサトは呆れるようにつぶやいた。

そう、ユキメこそが『チーム不戦勝』に情報を垂れ流しにした、諸悪の根源である。

そんな彼女の行動に、チサトも白い目でユキメを見てしまう。

しかしユキメは一瞬だけ、真剣な目をすると、チサトの冷たい視線を軽く受け流し、スッと立ち上がった。

「さて、と。私はちょっと用があるから、戻ってきたら戦況の方の報告お願いね、チサトちゃん」

そのころ、『イクサクニヨロズ』東サイドは誰一人戸惑いを隠せなかった。

(そうだとしたら敵はすでに俺たちの情報を手に入れている、ということか。ならば今の俺たちの目的は筒抜けだな)

悔しげに、憐は舌打ちをした。

一瞬、ユキメにどう報復してやろうかとも考えたが、逆に報復されるのが怖いので、その案は即座に却下された。

(なら戦術を変えるしかない。だが人数的には5対6で不利。俺自身はさほど秀でた能力はない、とすると、やはり戦局を大きく変えるのは美奈、修一、秋彦って訳か……。しかしあいつらだけにリスクを伴わせるのは……)

「憐君……どうしたの?」

いつの間にか近づいていた美奈が、憐の耳元でささやいた。

「策……あるの?」

「一応、な。だけど危険が伴いすぎるから……」

憐は、もっと安全な策を練るからちょっと猶予をくれ、と言おうとしたが、美奈はそれを遮るように言う。

「私はやるよ。だって憐君が考えた作戦だもの」

不安が拭えない憐に対して、美奈はそれを打ち消すようににこりと微笑む。

「そうだ。指揮官たるもの兵は駒。いざとなれば、我々を切り捨てる気で行け」

覆面にフェイスゴーグルなので顔は見えないが、修一の目は強く光り輝いていた。

「……ったく、お前らは」

憐は苦笑しながらも、自分のことを信頼している二人の気持ちが嬉しかった。

そのころ西サイド。

麗奈のヒットが聞こえても、こちらは至極冷静であった。

秋彦は、味方がヒットされたとしても、そういう状況は多く経験しているので動じないし、瑠璃華は、そんな肝の据わった秋彦を見ていて、安心しきっているからだ。

しかし彼らは指示通りの援護はしていない。

何故なら、援護をしたくとも、思いのほか相手が森の深くを移動しているからだ。

もちろん、援護できないような位置を教えたのはユキメである。

だけど秋彦は優秀なサバゲーのプレイヤーである。

援護が出来なければ、自分の出来ることをするまで。

そのため秋彦と瑠璃華は、向こうが攻めてこないで、じっとしていることもあり、じりじりと前進した。

「あ、秋彦。敵発見。秋彦の正面12時半と11時の方向かな? 距離としては右の方は30mくらい。左の方は遠いよ。まだ40m以上はある」

瑠璃華はチームの中でも特に目がいい。

美奈は索敵能力に優れる、と言ってもそれは動体視力と危険察知によるものだが、瑠璃華はひたすら視力がいいのだ。

敵意がなくてもぴくっと動くだけで、すぐ見つけてしまうほどだ。

他にも耳や鼻もかなり鋭いため、隠れるのが困難だ、と修一はよくつぶやく。

今回はその能力のおかげもあって、索敵要員としては美奈とともになかなかの活躍。

アンブッシュキラーとなりえているのだ。

そして瑠璃華の索敵能力は、同時に秋彦のスナイパーとしての能力を十分に補佐しているので、この二人は練習でも特に高いコンビネーションを見せていた。

「なっ、ヒット!」

秋彦は、近い方の敵を撃墜した。

たとえ敵が身を隠していたとしても、いる場所さえわかれば、スナイパーにとっては格好の的であった。

二人は、即座に次の相手を狙いやすい位置に移動する。

だが相手もバカではなく、それに気づいて、秋彦たちから狙いにくい場所へと位置を変えた。

「秋彦。あの木の幹、あるでしょ?あそこの黒ずんだところを狙えば跳弾でいけると思う」

瑠璃華が秋彦のスナイパーとしての能力を引き出すのは、何も索敵だけではない。

跳弾による、イレギュラーな弾の当て方までも指示できるほど、瑠璃華の計算能力は高いのだ。

敵を発見して、最高のスナイパーを補佐できる瑠璃華。

そしてそれを実行できるほどの能力を持つ秋彦。

恋人同士という点だけでなく、そのコンビネーションという点からも、瑠璃華は秋彦の最良のパートナーなのだ。

今の二人に、死角はない。

「ひ、ヒット!!」

秋彦たちは、さらに前進を続けた。

そのころ東サイド。

一人目のヒットが聞こえる直前のことだった。

美奈が突撃を開始する。

当然、迎え撃つべく、弾幕を張る『チーム不戦勝』。

美奈は、一旦木に隠れて機会をうかがった。

だが相手は交代交代で、撃つのを止める気配はない。

しかし、美奈に敵の注意を向けさせることこそが、憐たちの最大の狙いであった。

正面に注意をひきつけられ、死角となった上方から、彼らに向かって弾が雹のように降りそそぐ。

「ヒット……」

そしてそのまま敵陣の方へ、本物の忍者顔負けの跳躍能力で木々を渡っていく修一。

「全員戻れ!フラッグを取られるぞ!!」

(今っ!)

突撃開始

相手が早急に指示を飛ばすために叫んだ、敵の言葉を機に二人は動いた。

憐は一本道からフラッグ奪取へと向かって、修一との二段構えにする。

そして敵の追尾は美奈。

ああ見えても、美奈は足がかなり速い。

さらに、美奈の戦闘能力は、憐も高く評価しているほどだ。

一対一の撃ち合いになっても、彼女に敵う人間は、そうそういない。

先程、注意を呼びかけた人物が、憐たちに背を向けて後退していたが、途中で追尾されているのに気が付き、振り向いた。

だが、時既に遅し。

美奈は片手でコルトCAR−15を相手に向けていた。

「フリーズ……お願いします」

美奈がそう言い終えた瞬間であった。

「フリーズ!!」

相手には伏兵がいたのだ。

美奈の真後ろで、電動ガンを構えて背中につきつける。

美奈、絶体絶命!!

だがその危機は一発の銃声によって終結した。

「な、ヒットだと!?」

声をあげたのは美奈ではなく、美奈の後ろでフリーズコールをしていた男。

腹部に痛みが走ったのと同時に、自分がヒットされたのことを理解できたのだ。

「ごめんなさい……」

美奈は右手でコルトCAR−15を前方の相手に構え、そして左手にはサイドアームであるサムライエッジを、フリーズされる前から構えていたのだ。

敵の気配をかぎわける能力を持つ、美奈ならではの荒業である。

このような撃ち方では、もちろん命中なんてしようもないが、これほど近づいていれば話は別。

美奈は、何と二人同時にフリーズコールをしていたのだ。


◇10◇


「ふっふっふ、俺は再生ゲリラ怪人。魔王クラーマ様のため、今日も元気でゲリラリラ〜♪ この洗脳BB弾に当たったものはあっという間にクラーマ様の忠実な下僕となるのだ。俺様を撃墜したあの女ならさぞかし優秀な兵士となるだろゲリラリラ〜♪」

ナレーション:「なんと、フィールドに現れたのはかつて自分を発見した美亜子を、そして美亜子がよけた弾によってやられたことを恨む魔王の手先、ゲリラ怪人の再生版であった。洗脳BB弾を600発も詰め込んだ違法改造電動ガンを手に、今まさに狩りを始めようとしていた。あやうし、『イクサクニヨロズ』! だけど美亜子と美奈を勘違いしているぞ!」

そして当の美奈はというと、先程の戦闘が終わったばかりで、すっかり油断しているのだ。

このまま美奈は再生ゲリラ怪人にやられてしまうのか!

だがそれは一人の人物によって阻止された。

「フリーズ♪」

至極明るい女性の声がすると同時に、再生ゲリラ怪人の背中に冷たいものが突きつけられる。

「なっ……!?」

身じろぎも出来なかった。

少しでも動いたら、命が無いだろう。

さしもの再生ゲリラ怪人ですらそう思うほどの、鋭く冷たい殺気だった。

身体を動かさず、背中越しにその相手を見た。

それはポニーテールで制服姿、いわゆる女子高生である。

再生ゲリラ怪人は初対面なので、その女性がユキメだということを知らない。

一見すれば無邪気な微笑みを浮かべているが、ユキメの目は少しも笑っていない。

「な、何の真似でゲリラリラ……?」

「別に。あなたが美奈ちゃんを狙った。だから殺す。それだけよ」

笑顔を絶やさぬまま、女子高生とは思えない台詞を言い放つ。

「……な!」

「じゃあね。生まれ変わったらいい子になるのよ」

心底嬉しそうに笑うと、もう片方の手に持っているナイフで、容赦なく首を薙いだ。

本来部外者がゲームのフィールドに入ってはいけない。

だが再生ゲリラ怪人は巧妙に隠れすぎていて誰にも気付かれず、しかもユキメはそれに増して隠れるのが上手であった。

そのため誰にも知られないまま、二人の戦いは終結した。

再生ゲリラ怪人は声を上げることもなく、やがてその身体は塵となり、風に吹かれて消えていた。


◇11◇


変わって、ここは観客席。

席を外していたユキメが、もうすぐ試合が終わるころ、ようやく戻ってきた。

「遅かったですね?」

「まぁね。私の知り合いが余計なものを残してくれて、こっちはその人の尻拭いが大変だったのよ。だーかーら、慰めて♪」

「そんなタマじゃないでしょう……」

チサトとしては、むしろこんな人に付き合わされている自分を慰めて欲しい、と思う。

それほどユキメは性格破綻者なのである。

「ちぇー」

ユキメは悔しそうな声とは違い、顔は満面の笑みであった。


そうこうしている間に試合は終わっていた。

相手チームの最後の一人は、拠点付近で善戦していたのだが、いかんせん能力と数が違いすぎた。

結局最後の一人は、秋彦と瑠璃華のコンビネーション攻撃によってあっさりと粉砕された。

初の実戦ということもあり、不安だった一同だが、蓋を開けてみれば、圧勝。

5−0という大差であった。

「わたくしが目立ってませんわ!!」

……これが運命。


◇12◇


試合後、一同は何故か、山城高校の制服である詰襟、もしくはセーラー服に着替えさせられた。

確かに誰もが、移動まで迷彩服を使う気はなかったが、休日に制服というのも珍しい

とはいえ、恩人であるユキメの命令なので、しぶしぶ了承したのだ。

ユキメは大会中に着ていたセーラー服を、そのまま着ている。

チサトはライダースーツではなく、ブレザーだ。

そんな一同が向かった先は、とある高級そうなビルの最上階。

そこの広い和室の一室を借り切り、全員はちょこんと正座していた。

そして部屋には板前さんが……。

「……ユキメさん、これは?」

場違いな感覚を残しながら、瑠璃華はユキメにこの状況を聞いてきた。

「地方大会優勝記念、ってことで寿司を奢ってあげようと思って、ね」

寿司、という言葉に一同は敏感に反応する。

彼らは貧乏暮らしが長いせいもあって、寿司なんてほとんど食べたことなんかないのだ。

あったとしても、給料日にか○ぱ寿司で数皿が限度である。

それが、今はどうだ。

いかにも高級そうな場所で、しかも専任の板前が握ってくれるのだ。

センゴクマン十七話半に書かれているように、『FANG GUNNERS』ですらカラオケが精一杯なのに、打ち上げで食べる料理が、高級料理の“寿司”なのだ。 しかもお金を払う心配はない。

こんなオイシイ話に飛びつかない人がいるだろうか。いやいない(反語)

「場所取りは、チサトちゃんが協力してくれました〜。はい、拍手」

ついついユキメにつられて、皆はチサトに拍手をしてしまう。

ユキメの話によると、チサトの友人には社長令嬢がいるそうだ。

その人のコネを使えるからこそ、このような場所を借りれるのだ。

ただし、チサトはその事について話そうとはせず、全てユキメが言っていることだ。

しかもその社長令嬢は、魔法学者でマッドアルケミスト、とユキメは言う。

当然、眉唾モノである。

「お寿司を食べる前に皆に言いたい事があるけど、いい?」

やや恥ずかしそうに、ユキメが皆に聞いた。

いや、許可しなくても話す予定だったのか、誰も許可をしないまま、ユキメはそのまま続ける。

「私が皆と出会ってからもう三ヶ月かそこらになるわ。出会った当初は、皆はロクに生きることも出来なかったのよね」

憐たちは、その頃の自分たちを思い出し、寿司のことで緩んだ表情を強張らす。

「で、私がそれをサポートして、皆は普通の生活をおくれるようになった。だけど、その時は“生活できる”ようにしただけで、私では“人らしく”は出来なかった。正直、私はその事が不安でならなかったの」

不意に、ユキメは真面目な表情をする。

ユキメが滅多にしない、その表情に、一同が見入った。

「だけど皆は私の望むように変わってくれた。“人として”生き、“人として”楽しみ、“人として”他人を思いやる、そんな人に」

“偽者”として作られた、憐たち。

憐たちは、ユキメと出会う前は人らしい扱いなんて受けたことはなかった。

しかし、ユキメは憐たちを“人”として接してくれたのだ。

ユキメは自分では『“人らしく”は出来なかった』と勘違いしているが、ユキメこそが、皆を“本物の人より、人らしく”したのである。

「だから、私は地方大会を優勝した皆に、そして人としての一歩を踏み出した皆にこう言うわ」

その時、ユキメはいつもの笑みでない、心からの笑みを、皆に向けた。

「おめでとう」

そう言って、すぐにユキメはいつもの調子に戻っていった。

皆もユキメの暴走にひっぱられつつも、寿司を心から堪能していた。

だが、彼らが一番堪能していたのは、ユキメの『おめでとう』の一言であった。


◇13◇


そして数日後。

憐たちの元へ、一通の手紙が届いた。

それは、サバイバルゲーム東北地区大会への招待状だったのだ。

不完全燃焼だった者もいたことだし、憐たちに断る理由はない。

さらに数日後、彼らは東北地区大会の会場に赴くべく、電車へと乗り込んだのであった。

東北地区大会に備えるべく、ユキメから貰ったお金の余りでエアガンのカスタムをしたし、全員で猛特訓もした。

だが彼らはカスタムによって、自分たちの得物がよりいっそう、本物のセンゴクマンが持つエアガンに近づいたことを知らない。

ちなみに『イクサクニヨロズ』の中でも特に、今大会の為に努力を惜しまなかったのは、あっさりとやられてしまった麗奈だ。

相当悔しかったのか、自分の感情を、多少は自制できるようになったようだ。

電車の席についた彼らは、ゆりかごのように揺れる車内が心地よく、皆はすぐに眠りに着いた。

……。

……。

……。

……で、目が覚めた彼らの目の前には、名義上の彼らの保護者が立っていた。

いきなりの登場もあって、皆の眠い目が一瞬で覚める。

「「「「「「ユキメさん!!」」」」」」

「よっほー」

今日は流石にせぇらぁ服とはいかないようで、OLが着る様なスーツである。

トレードマークであるポニーテールはそのままだが。

「なんでこの電車に乗り込めたんですか?」

「え……と。ちょっとチサトちゃんに無理言って、バイクで駅までつれてってもらったのよ。もちろんあなたたちがこの電車に乗るのは知ってたし」

裏社会の腕利き情報屋(自称)は伊達ではないようだ。

「まあそんなことよりも、これを見て。あのときの大会当日に発売されたものなんだけど……」

ユキメが持っているのは『月刊種子島』と書かれた雑誌であった。

数百年は続く、伝統ある雑誌で、サバゲーマニアでは結構有名らしい。

ユキメは真面目な顔をして、『月刊種子島』を憐に差し出す。

憐は、いつもとはまるで違うユキメに、一瞬だけ気圧された。

差し出された『月刊種子島』を受け取った憐は、表紙を見て、驚愕する。

「麗奈……いや、縦ロールが無い。別人なのか?」

ページをめくり解説を読む。

「武田……広奈だと……!?」

「それだけじゃないわ。38ページを見て。能力に関してはセンゴクマン第十九話、センゴクマン遠征の73行目の欄を見て。あ、ちなみに行の単位は文字が書いてあるところをカウントしてるから」

言われたとおりそこを開くと、そこにはあまりにも見慣れた顔がいた。

いや、彼らにとっては見慣れたというよりは自分の顔そのもの。

「というと……輪、美亜子、淳二、春樹、それに瑠華ってわけか」

「そう。皆のオリジナルであるセンゴクマンが勢ぞろい(瑠華はセンゴクマンではないのだが)みたいね。なんで武田広奈だけが、別のチームなのかは現在調査中。だけど間違いなく、彼らは残ってくるんじゃない」

センゴクマンが残る。

センゴクマンは、憐たちにとって、鏡の世界の自分の様なもの。

要は、自分自身という最強の相手なのだ。

誰もが本物に追いつきたい、そして追い越したいと思っている。

突如、思いも寄らぬところから現れたライバルは、彼らの闘志に火をつけた。

皆が一様に瞳に熱い炎をたぎらせている。

「『FANG GUNNERS』、『チーム風林火山』……。必ず倒す!!」

「そう、その意気よ。ま、残ってくるなら間違いなく、強豪チームとして見られるから情報は入ってくるし、戦略は簡単に練られるんじゃない? そうでしょ、憐君、秋彦君」

二人とも強い決意を秘め、こくりと頷いた。

「それに、向こうには情報を入れさせないために、『月刊種子島』には私が情報操作しておいたわ。『イクサクニヨロズ』としての情報はほとんどない、もしくはすごく弱い扱いになってるから安心して」

実際、ユキメの言ったとおりに、『イクサクニヨロズ』の評価は洒落にならないくらい低く、憐たちは、ユキメに文句を言いたかったくらいであったが、これはまだ先の話。

「写真のネガや、ビデオのテープの方も私の方で回収しておいたし、これで『FANG GUNNERS』も『チーム風林火山』も私たちを警戒することもないでしょ」

「……助かります」

秋彦は心から素直に礼を言った。

「ま、でも結局は東北地区大会の結果次第ね。ってことだから、はいこれ」

ユキメから全員に渡されたのは超小型の通信機だ。

「ジャミング出来ない新型よ。これは『チーム風林火山』が使っていた手だし、問題はないわ。私の方から状況を逐一伝えるから、試合中はつけておきなさい」

ユキメは、彼らが初めて対面したときと同じ、天使の笑みを浮かべた。

ユキメあってこその『イクサクニヨロズ』

彼女の笑みは、憐たちになくてはならないものとなっていた。

「私が出来ることはこれだけよ。私の気持ちを無視したくないんなら、必ず勝ちなさい」

と、言葉の終わりに付け加えた、ユキメのサムズアップは、皆の気持ちを奮い立たせるのには十分であった。

「珍しくユキメさんが俺たちに味方してくれてる。オレたちは『チーム風林火山』『FANG GUNNERS』に必ず勝つぞ!!」

秋彦が叫ぶ。

「おう!」

憐は握りこぶしを作る。

「御意」

相変わらず冷静な様子だが、瞳の中では炎が燃え盛る修一。

「「うん!」」

見た目のかわいらしさとは違って、力強い返事をする美奈と瑠璃華。

「当たり前ですわ!」

自信満々に答える麗奈。

「珍しくは余計よ……」

皆に対してユキメは不満そうだったが。

かくして東北地区大会への、そして全国大会への強い思いを抱いて今、イクサクニヨロズは出陣をする。

「あ、そうそう。出来れば東北地区の優勝じゃなくて青森県代表チームとして出てくれない? それなら『月刊種子島』に上手く載らないように調節できると思うから、よろしくね」

……士気が僅かに萎えた。


◇終◇



次回予告

「少年は、戦場にいるには優しすぎた。
尊き献身が悲劇を生むのは、或いは戦場の業なのか。
思わぬ危機に見舞われた少年に、悪女は究極の選択を迫る。
自分の命か、それとも友情か。
その決断を終えたとき、少年は新たな自分と出会う。
次回いつわりのものたち第二話「イクサクニヨロズ困惑」

さらなる不幸を乗り越えろ『イクサクニヨロズ』」


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◇メンバーの情報
◇名前◇
城戸 玲(偽名)
ユキメ(源氏名)

◇性別◇
不明

◇一人称、他の5人の呼び方◇
「憐君」「美奈ちゃん」「修一君」「麗奈ちゃん」「秋彦君」「瑠璃ちゃん」「私」
皆からの呼ばれ方は「ユキメさん」

◇学校名と学年◇
公立開道高等学校3年1組

◇容姿◇
ポニーテールの美少女。
人をひきつける雰囲気をも持つ。
ただし、それは玲としての姿で、実際は数百の顔を持ち、老若男女自由自在に変装可能。

◇性格や口癖など◇
暴走気味。なんでもあり、と作者には非常に都合が良い(待て)
最強最悪のトリックスター。
ただし、真面目になれば実力はかなりのもの。
と、昼行灯な気質らしい。
だが、全ては謎に包まれている。
何気に酒に弱い。
口癖「情報は信頼が命なのよ」

◇衣装、使用するエアガンなど装備は?◇
緊急で出られなくなった選手の装備をそのまま。

◇サバゲー暦、大会に参加したきっかけは?◇
まるでなし。きっかけは、面白そうだから、と本人曰く。

◇チームでの役割は?(アタッカー、ディフェンダー、作戦参謀など)◇
リザーバーだがそれは名目上で、本人出る気なし。情報収集役。ジャマーでの情報妨害役。

◇サバゲーでの得意技は?◇
スパイ、ありとあらゆる情報の操作、平気で味方を裏切れること(ただし、最終的に『イクサクニヨロズ』がぎりぎりで勝てるようにする)、本物とまるで同じの声の真似(声質も)、変装、説得、アンブッシュ、アンブッシュ発見、機械操作などと多岐に渡る。

◇愛称、ニックネーム、コードネームなどは?◇
ユキメさん。