まるえさま作
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
外伝「1年ズの華麗なる日々」
| ◇大騒ぎの部会◇ |
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「百合の館」の2階にある天文気象部の部室では、毎週恒例の部会が開かれていた。 「えーと、じゃあ11月の文化祭ですけど、何を発表します?」 と、顔に掛けた黒ブチ眼鏡の位置を修正しながら言ったのは、天文気象部部長の赤橋園美。 温厚篤実という四字熟語がよく似合う、中学3年桜組のクラス委員@文筆修行中である。 「つーか、今から話し合いなんて早すぎねーか? 10月になってからでいーじゃん」 椅子に寄りかかり、めんどくさそうに言うのは、副部長、名越みずえ。 赤毛のアンを髣髴とさせる容貌でありながら、ゲームやホビーにやたら詳しい、歩くマニアック知識辞典である。 この人も、部長と同じ、中3桜組所属である。 「わかってないな、みずえ。こういうことはさっさと終わらせな。10月には中間テストや修学旅行があるから、今からやっとかんと後でしんどうなるわ」 こう切り返すのは、会計、佐々木千恵子。 小さな日本人形を連想させるその姿からは想像できないが、入学以来学年トップの成績をキープする、中3桜組、もう一人のクラス委員である。 「そーそー、あたしも、スタジオ練習とか、ライブの打合せとかあるから、そんなに動けないし〜」 少し中身の残っている2リットル入りペットボトルを弄びながら会計に同意する、部員その1、二階堂瞳。 モデルさんになれそうな容姿の、某インディーズグループのボーカルである。 やはりこの人も中3桜組である。 「私も千恵子に賛成だ」 なぜか部会に参加、剣道部部員の金沢千歳。 今年の4月に中3桜組に転入し、天文気象部メンバーの猫の皮を全て剥ぎ取ってしまった革命者……もとい、サムライガールである。 ちなみに、この部室には、彼女たち中3の5人しかいない。 で、天文気象部の部員は、千歳を除いたこの場にいるメンバーだけである。 昨年度は、三壺様の1人(もちろん、今は三宮様の一人だ)が部長だったので、部長目当ての部員がもっとたくさんいたのだが、彼女が引退すると、潮騒が引くように全員去っていってしまい、そして、新たな部員も獲得できなかったので、結局、この4人しか部員が残らなかったのである。 まぁ、だから、中3の5人で常時部室を占拠という、この封建社会にあってはありえないことも可能なのだが。 閑話休題。 「ちぇっ、わかったよ」 会計と部員その1の反論を、みずえさんはしぶしぶ受け入れた。 「……で、どないすんねん、部長?」 「去年は、地震についての発表でしたよね。ですから今年は、気象関係……例えば異常気象……で行ってみたいと思うんですけど、どうですか?」 一応、天気予報マニアである部長が、にこにこ微笑しながら提案すると、 「えー、それは無しだぜー」 「あんまり関心せんなぁ」 副部長と会計にあっさり反対された。 「えー、駄目ですかぁ? 今年はなんだかやたら暑いし、台風もいつになく日本に上陸してるし、タイムリーだと思うんですけど……」 必死に反論を試みる部長。 「だめだぜそりゃ。台風がやたら日本に来まくってるのなんか、『直江雨続大先生が旅行しまくっているから』で説明つくもん」 ……。 ……と、ともかく、副部長の謎の切り返しに、 「そ、それもそうですね……」 部長はあっさり敗れた。 「……天文関係ではあかんの、園美? ふたご座の流星群、確か今年は新月の夜やし、1時間に50個ぐらい流れるから、話題性も十分やと思うけど」 (パソコンで算出した)データを元に、会計が新たな案を提供するが、 「うーん……でも、何年か前のしし座流星群よりは規模が小さいですから、そんなに話題にはならないんじゃないでしょうか? それに、皆、あの流星群の印象が強いですから、『また同じ話題か』でスルーされそうですよ」 現実的な部長の反論の前に、あえ無く撃沈。 そのまま、 「うーん」 「どうしましょう」 一座を気まずい沈黙が覆った。 この雰囲気に耐えられなくなったみずえが、 「……瞳! 何かネタはないのかよ!」 相変わらずペットボトルを軽く空中に放って遊んでいる部員その1に怒鳴った。 「へ?!」 いきなりご指名を受けた瞳は、驚きのあまり、持っていたペットボトルを力の加減を調節せずに思いっきり放り投げてしまった。 そのまま、ペットボトルは、隣り合って座っている千歳とみずえの方に向かって飛んでいく。 「むっ」 「ありゃ」 自らの方に向かってくるペットボトルを認識した瞬間、千歳とみずえは反射的に身体を動かしていた。
そして、千歳さんが小太刀を抜き放ち、
ペットボトルを一刀両断。 で、当然の結果として、
その直後、 「……何でこないに物騒なもん持ってんねん!」
……大きなハリセンで。
思いっきり叫んだのは、普段は温厚な部長であった。 その声量たるや、『百合の館』の窓ガラスが割れるんじゃないかと思われるほどである。 「す、すごいすごーい! 何なの今の! ちょーカッコいい!」 興奮する部員その1。 その腹部に、 「カッコいいって言ってる場合じゃないでしょー!」 部長は反射的に正拳パンチを入れていた。 「ぐはぁ」 思わぬ攻撃に、エビのように身を折り曲げてその場に崩れ落ちる瞳。 「い、いた……」 おなかを押さえて床の上に横たわったまま、部員その1は立ち上がることができない。 だが、その様子を無視し、眼前で起こったあまりに非常識な事態により、ぶち切れモードに入ってしまった園美は、副部長と会計と剣道部のエースに、(微笑は絶やさずに)詰め寄った。 「この学校に入ってから、良識を疑う事態には、大分慣れたつもりだったんですけど……今のにはもう、ついていけません。逮捕です。銃刀法違反です。威力業務妨害です。破防法適用です。……さぁ、説明してもらいましょうか、千歳さん、みずえさん、千恵さん。そのぶっそーなグッズの曰く因縁をね」 指を鳴らしながら、怒りのオーラを発しつつ、しかし、微笑みつつ、3人に迫る園美。 ……自分が友達をのた打ち回らせていることなど、全く考えていないらしい。 (こ、これってもしかしてマズい? ていうか、その微笑、お前は瀬田宗@郎か! せめて眼鏡くらい外さないと、ネタがわからないぞ!) (う……こんな園美、初めて見たわ。微笑の仮面の下に、凶暴な本性が隠されていたやなんて……) (できる……!) 場に不釣合いな感想も大量に交えつつ、三人は温厚な友人の豹変に、冷や汗をかきまくりである。 1年ズ(いや、今は中3ズか)、ピーンチ! と、 「貴女(あなた)たち! 何をなさっているの!」 予告無しに、勢いよく開かれた部室のドア。 その前に、高校2年のお姉さまが立っていらっしゃった。 藤原八重子(ふじわら・やえこ)、通称『桐壺尚侍(きりつぼのないしのかみ)』。 理知的な風貌の、生徒会会計……要するに、『三壺様』の一人であった。 瞳も千歳も、この展開を全く予知できなかった。 というのは、瞳は先ほどの部長の一撃のために勘を働かせるどころではなく、千歳さんも、部長の豹変に気を取られ、気配読みどころではなかったからである。 そこに、“礼儀作法の完璧なお姉さまナンバーワン”の称号を持つ桐壺お姉さまの登場である。 瞳の勘と千歳の気配読みという二重の警報装置に守られていると確信し、油断しきっていた中学3年生達は、完全に不意をつかれ、周章狼狽した。 (ま、まずいでこれは!)(←千恵子) (げげげ、『お局』かよ!)(←みずえ) (ひぇ〜……)(←園美) (う……今度は何?)(←瞳) (油断した……不覚!)(←千歳) しかし、パニックに襲われつつも、中学3年生たちは 「「「「「き、桐壺お姉様、御機嫌よう!」」」」」 即座にきちんと猫を被って、完璧な礼儀作法で華麗にお姉さまにご挨拶申し上げた。 が、こんなことで誤魔化される八重子お姉様ではなかった。 「……先ほどの大声は、貴女ですか、赤橋さん?」 いきなりのご指名なのは、園美がクラス委員なので、生徒会で三壺様と顔をあわせる機会があるからであった。 「……も、申し訳ございません、桐壺お姉様」 怒りのオーラを消し、心底すまなそうに謝る園美さん。 しかし、桐壺お姉さまは、仏頂面を崩すことなく、銀縁眼鏡を左手で上げながら、 「……驚いたわ、真面目な方だと思っていたのに。クラス委員にしては、少し落ち着きが足りないようね」 (うっ……) 桐壺お姉さまの棘のある台詞に、園美さんは一言も返せない。 と、 「まあまあ、いいじゃないか、八重っち」 桐壺お姉さまの肩が背後からぽん、と叩かれる。 「あ、亜紀さん。何ですか、その無作法な言葉づかいは。改めなさいと何度も言っているでしょう」 横にいつの間にか立っている威圧的な風貌の友人――生徒会副会長・犬飼亜紀(いぬかい・あき)、通称『梨壺大将(なしつぼたいしょう)』――の言葉に、色をなす桐壺お姉さま。 だが、そんな八重子さんの様子など意に介さない風に、“フレンドリーなお姉さまナンバーワン”の梨壺様は、 「あんたみたく、ねちねち陰湿な攻撃するよりかは、がーっと怒る方がよっぽどましだよ」 しれっと言ってのけた。 「そうどすなぁ」 その背後から現れたのは、片桐芳乃(かたぎり・よしの)、通称『梅壺姫(うめつぼひめ)』。 旧華族の血を引いているのではないかと噂される、お淑やかで色白美人の生徒会長である。 ちなみに彼女、“気品のあるお姉さまナンバーワン”の称号も勝ち得ている。 「亜紀はんのおっしゃる通りどす。そへんなに怒らなくてもいいでっしゃろ? ちびっとぐらいお行儀が悪くても、明るくて個性的な子の方が、わたしは好きどす。それに、赤橋はんは、ご自分の組だけではなくて、中3全体をよくまとめてくれています。たった一つのちーとばかしした失策だけで、赤橋はんをけなすのはよくへんわ、八重子はん」 鈴を転がすような美声で、京ことばでのんびりとおっしゃる梅壺さま。 生徒会長にこう言われては、流石の桐壺さまも、下級生を叱るのをやめざるをえなかった。 「……とにかく、もう少し、落ち着いて行動なさいね、貴女方」 そう言って、一同を見渡した桐壺お姉様。 その視線が、千歳さんの上で……正確には、千歳さんが持っている小太刀の上で止まった。 すると…… 「まぁ、この小太刀、相当の業物だわ」 普段滅多に笑顔を見せない桐壺お姉さまの顔が、花が咲くようにほころんだのある。 内心、驚く一同。 しかし、その場にいる全員の驚きの視線が自分に突き刺さっていることを全く意識しないまま、桐壺お姉さまは千歳さんにすすす、と歩み寄り、 「……ちょっと、この小太刀、手に取って拝見してもよろしいかしら?」 「……は、はい」 先輩の、しかも三壺様の命令なので、千歳さんは逆らえずに手にした小太刀を差し出した。 「へぇ……刀身もさることながら、刃紋が気品があって美しいわ。様式からみて、江戸時代中期のものね。……この小太刀、どこで手に入れられたの?」 笑顔で刀身を眺めながら、桐壺お姉さまがお尋ねになる。 「……私が上京するときに、父から餞(はなむけ)に頂戴したものでございます。我が家に伝わる品の一つと聞き及んでおりますが……」 直立不動の姿勢で返答する千歳。 「へー、すごいなこりゃ。抜き身、初めて生で見たよ」 「ほんまに……金沢はんのおもうさん、ええものをくれはったんどすなぁ」 梨壺さまも梅壺さまも桐壺様の側に行き、小太刀を物珍しそうに眺める。 と、 「ん?」 「あら?」 二人の視線が、みずえの手にしたヨーヨーと、千恵子の握り締めているハリセンの上で、それぞれ止まった。 (へ?) (な、なんや?) 途惑うみずえと千恵子。 だが、 「……おいおい、これってもしかして『スケバ@刑事』のヨーヨーじゃないか。懐かしいなぁ。ちょっと貸してくれない?」 「あらあら、ハリセンを東京で見るなんて。探してたんどすわ、これ。ちょっと貸してくれへんやろか」 梨壺様と梅壺様は、それぞれ嬉しそうな顔でみずえと千恵子の傍までやってきた。 困惑の面持ちでヨーヨーとハリセンを差し出すみずえと千恵子である。 「これ、どうしたんだよ?」 「これ、どこで買わはったんどすか?」 絶対権力者の質問に、 「あ、そ、それは、ワタクシが小さい頃に、父が作ってくれたもので……、このプラスチック製の刃は、取り外しがきくのでございますわ」 「そ、それは、わたくしが関西に参りました時のお土産で買ったもので……」 しどろもどろになりつつ答える。 「……ふうん」 「そうどすか」 「そうですね……」 小太刀を鑑賞なさっていた桐壺様も含め、三壺様は思い思いの表情で、それぞれ何か考えていたが、やがて、 「金沢さん、今日はお暇ですか?」 「君、今日は暇?」 「佐々木はん、今日はお暇どすか?」 同時に言った。 「「「は、はい……」」」 困惑の表情で頷く中3ズ。 そんな彼女らに、三壺様は、再び同時にこう言った。 「それなら、帰り支度して、私に付き合ってくれないかしら?」 「んじゃ、とりあえず、荷物まとめて、あたしに付いてきて」 「ほんなら、帰りのお支度したら、わたしの所に来てくれませんやろか?」
「あれ〜? 千歳さんもみずえさんも千恵子さんも、どうしたんですか?」 朝の教室でぐったりしている友人たちを見つけた部長は首を傾げた。 「あのね、土曜日、あの後大変だったみたいよ〜」 彼女にこっそり耳打ちする部員その1。 「ちとちゃんは桐壺様に連行されて、シュミの骨董屋めぐりにつき合わされたんだって。みずちゃんは梨壺様にゲーセンに連れて行かれて、終電まで格闘ゲームやらされて、ちえちゃんは梅壺様に大阪に連れて行かれて、吉@のお笑いライブを見て最終の飛行機でとんぼ返り……」 「骨董を見るのは嫌いではないが……」 「オレも、格ゲーは好きなんだけど……」 「うちも、お笑いは大好きなんやけど……」 (((三壺様と一緒では……))) げっそりした表情で呟く三人を見て、 (……『触らぬ三壺様に祟りなし』ってことですね) 部長の心のネタ帳に、一項目が追加された。
だが、彼女たちの楽しい猫かぶり学園生活に、“三壺様”が再び影を落とすことになろうとは、彼女たちの誰もが予測できなかったのである。
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