まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第二十話
| ◇勝てば官軍! 地区大編◇ |
|---|
|
何だか、いやな感じがする。 星橋高校の二十面相こと、喜多川八郎君がそう思ったのは、サバゲーハイ南関東大会の出場チームの控えテントがある一角に近づいたときだった。 もちろん、自分のことではない。 黒縁の眼鏡をかけ、ガブリエルの制服をきちんと着込んだ可愛らしい少女―― 先日、大林君の姉、明智美津子(あけち・みつこ)に変装し、約10分に渡って大林君をだましおおせたときの変装より、確実に完成度は上だと思う。 しかし、それが見破られているというのか……。 首筋がちくちくするような気がした喜多川君は、後ろを振り返った。 そこにいたのは、自分と同じようにガブリエルの制服を着た、5人の少女である。 だが、彼女たちから立ち上るオーラが、何となく、常人とは違っていた。 「……検索完了。我が校の生徒にあのような者はおりません、麗(れい)様」 左から二番目にいる、黒いノートパソコンを左手で抱えた、眼鏡をかけた小柄な少女が言った。 「ありがとうございます、美津子(みつこ)様。やはり、あの胡乱な者、我が校の生徒ではないのでございますね」 中央に立っている、木刀を握った、容姿端麗な女が、冷たく言い、 「そこの怪しい者!」 喜多川君に向かって呼びかけた。 「……我が校の生徒に変装し、一体何を企んでおりますの?!」 朗々と問いかける様は、まるで舞台上の主演女優のようなオーラを放っていた。 「そ、そんな、変装だなんて。私は、紛れも無く、聖ガブリエル女学院の生徒でございます!」 完璧な女声で、疑惑を否定する喜多川君。 だが、 「聖ガブリエル女学院“高等学校”、聖ガブリエル女学院“中学校”と、何故言えないのでございますか!?」 右から二番目にいる黒髪の女が、持っているムチを振り上げ、地面にたたきつけた。 「正しく我が校の生徒であるならば、きちんと正式の名称を言うはず! それが出来ぬということは、貴女は我が校の生徒ではございません!」 「そう、浩美(ひろみ)さまのおっしゃる通りでございますわ」 一番右に立っていた、黒いショートカットの少女が、指をボキボキ鳴らした。 「我が校の生徒であるかないか……どうでもようございますが、根性をたたき直して差し上げる必要がございますわね……」 ニヤリと笑う少女の笑みは、サディストのそれであった。 「さようでございますわ、あまね様。このう つ く し い千種奈美恵(ちぐさ・なみえ)が、曲がった性根を、真っ直ぐに直して差し上げますわ。おーっほっほっほっほ!」 一番左端の、女子プロレス界を席巻できそうな体格の少女が高笑いした。 顔の造作もよろしくなく、専門用語で、“容貌でCPを稼いでいる”と呼ばれる状態である。 「「「「「さあ、愛のムチを受けてごらんなさい!」」」」」 5人が声を揃えたところで、喜多川君はため息をついた。 「新田麗(にった・れい)、楠木美津子(くすのき・みつこ)、名和浩美(なわ・ひろみ)、結城あまね(ゆうき・あまね)、千種奈美恵(ちぐさ・なみえ)……なるほど、ガブリエルで悪名高い“5人組”って、あなた方のことですか」 呆れ顔で放たれた相手の台詞に、 「わ、我が校の風紀を乱す者を叩き潰す、正義の義軍である私たちを、悪名高い、ですって……」 新田麗が、木刀を握った手をわなわなと震わせた。 喜多川君の台詞に、長い間、礼儀作法を間違えた生徒に、容赦なく折檻を加え、『学校の風紀を守ってきた』彼女のプライドが、傷つけられたようだ。 それは他の4人も同様で、 「よくも……」 「許せない」 「不届き者が」 「悪魔は成敗すべきですわ」 怒りを露にしていた。 「許せませんわ。……皆様、この悪魔を、滅ぼしましょう! これは聖戦です! 敵を殺すことこそが、神のご意思に適うこと!」 「「「「はい!」」」」 ヒートアップした5人組の様子を見た喜多川君は、肩をすくめ、 「やめといた方がいいと思うけど……」 女声で忠告した。 しかし、 「悪魔めえええ、たわけたことを申すでない! 皆様、いきますわよ!」 「「「「はい!」」」」 新田さんの号令一下、5人組は一斉に“悪魔”に襲い掛かった。 「しょうがないなあ……」 喜多川君も、しぶしぶといった感じで、構えた。 「大江山道乃丞(おおえやま・みちのじょう)、参る」
さて、サバゲーハイ南関東大会も、予定を順調に消化し、終盤に突入していた。 我らがお嬢さま方も、この次の試合が最後の出番である。 相手は千葉県代表『キャンプ戦隊アウトドアン』。 南関東大会が行われている、奥房総アウトドアランドのキャラクターも務めている、いわゆる「ご当地戦隊」である。 「つーか、これっておかしいんと違う? 何で相手が知り尽くしている戦場で闘わなあかんのや。絶対不利やんか」 ガブサバ会の控えテントで、缶入りホットココアを飲みながらぶつくさ言っているのは、ガブサバ会の軍師・佐々木千恵子さんだった。 ちなみに、上級生は“午後のお茶”とやらをしに行き、春山君や長倉君など、サポートメンバーたちも、それぞれ試合を見に行ったので、テント内には、千恵子さんと、彼女の学友の他に人影はなかった。 「高校生っていうのも怪しい話やな。設定上そうなってるかもしれんけど、中の人が陸自の隊員やったり傭兵部隊上がりやったりしたらどうすんねん。大会本部もそこらへん、きちっとしてもらわんとあかんわ。神奈川の変な奴らかて、絶対犯罪者集団なのに、出場が許されてるし……あー、ホンマに腹立ってきた。いっぺんどついたろか、本部長」 日本人形のような可愛らしい容姿に似合わぬ、物騒な台詞を口にする千恵子さんに、 「でもさ〜、今まで負け続けてるよ〜、アウトドアン」 試合結果表を示しながら、冷静に指摘したのは、友人の二階堂瞳であった。 その様子に、彼女の傍にいた赤橋園美、名越みずえ、そして先程チームメイトたちに合流した金沢千歳も、結果表を覗き込んだ。
赤橋園美が、眼鏡をずりあげた。 「何で? ネタに走ってるからか?」 名越みずえが首を傾げると、 「まあそんなところだぜぃ」 突然、男性の声とともに、テントの入り口が開いた。 「哲ちゃん!」 入り口に佇む着流しの少年の姿を見て、名越みずえが口を真ん丸くする。 「話、聞いてたんか?」 流石に怪訝そうに尋ねる軍師千恵子に向かって、 「ん、みずえが『ネタに走ってるからか?』って言った辺りからな」 慌てず騒がずに、哲ちゃんは答えた。 「……それよりも、アウトドアンだぜぃ。あいつら、なぜか毎回、6人で固まって突進するんでぃ。ま、千葉県大会はそれで勝ってたけど、流石に南関東大会でその手は、な」 「ふーん、戦隊モノのお約束だよな。とりあえず最初は全員攻撃、っていうの」 「ですよね〜。ヲルスバンもそうですし」 戦隊モノに多少の知識を持つみずえと園美がため息をつく。 「ふーん。さよか。そんなら、楽勝としか言いようがないなあ……。うちにはMINIMIとシャルルヴィルがあるさかい」 千恵子さんはそう言って、宙を睨んだ。 「? どういうこと?」 二階堂瞳が形のいい眉を歪めると、千恵子さんはメモ帳とボールペンを取り出して、「ええと、このフィールドの地図がこんなんやろ」と、フィールドの地図をさらさらと描き始めた。 「ええか、試合が始まったら、うちらは、こういう風に配置する。姫さんが南岸の奥深くに潜行してこの位置、大将さんが北の丘の上、千歳が本陣の丘の上。ほんで、あと二人は北の丘に、もう一人は南岸のこの位置に配置する」 軍師千恵子は説明を加えながら、完成した地図に、メンバーを表す記号を書き込んでいく。 「へー、さすが千恵だな」 「上手いですねー」 友人たちが、首をそろえて千恵子さんのメモ帳を覗き込む。 その12の視線が集まるペン先を動かしつつ、 「まず、北回りの進路で敵が進軍してきた場合、当然北の丘にいる大将さんたちと交戦する。敵の頭上からの攻撃、しかも弾数に圧倒的な差……勝つのはうちらや」 千恵子は具体的なシミュレーションを始めた。 「うむ」 千歳が頷く。 「南回りの進路で進軍した場合、姫さんに敵をやり過ごしてもらって、背後から攻撃してもらう。そしたら、ほら、この南側のもう一人とはさみ撃ちにできるやろ」 「なるほどなあ、で、千歳が本陣で、MINIMIをぶっ放すってことか?」 「さすがやな、みずえ。本陣にMINIMIを置いとけば、多人数の敵にも十分対応できる。それに、池ルートの進軍も止められるしな。もし、池を通って敵が本陣に攻めてきても、MINIMIで足止めしてるうちに、南岸・北岸の味方を戻らせて攻撃させれば、挟み撃ちにできる……敵がたとえ分散して襲ってきても、攻撃路は全部押さえてある訳やから、自分の持ち場をしっかり守っていれば、必ず敵は倒せる」 断言する千恵子の言葉には、確固たる自信が顔を覗かせていた。 「すっご〜い! 流石ちえちゃん!」 瞳が感激の面持ちで、千恵子に覆いかぶさるように体重を掛けた。 「うわ……瞳、何すんねん。潰さんといて……」 149cmの千恵子は、瞳の思わぬ攻撃に、たちまちノックダウン寸前になる。 「えー? あたしの愛情表現がわかんないの〜?」 「わかるけど止めて。うちを圧死させる気か?」 「わかった〜。も〜、つまんない〜」 ムスッとした顔で、瞳はようやく千恵子から離れた。 と、 「……千恵」 金沢千歳が声を掛けた。 「ん?」 「この南岸の待ち受ける味方の位置だが……川のこちら側にした方がよくないか?」 千歳は、地図上の南側の川の東岸を指差した。 「……なるほどな。『渡河する敵は半ばを撃て』っちゅー奴か。確かに、その方がええわ。ほんなら、南側のもう一人は千歳の言う位置で……せやけど、誰にしよ?」 「オレはイヤだぜ。ていうか、この試合に出たくねえ」 突然のみずえの発言に、千恵子は眼が点になった。 「?!」 「何で、みずちゃん?」 他のメンバーも、驚いたようにみずえを見る。 その中で、みずえの吐いた答えは、 「……だって、オレ、まだ、埼玉の人たちと写真撮ってねーんだもん」 だった。 たっぷり2秒の沈黙の後、 「……なるほどなあ。あんたらしいわ。ええよ、そしたら、顔合わせが終わったら、写真撮りに行き」 千恵子さんは、にやっとして頷いた。 「ち、千恵さん?!」 軍師さまの返答に、園美が慌てる。 「そ、それって、戦力減になりません?」 「大丈夫や。このくらいの相手、みずえが相手するほどでもない。ええよ、行ってき」 お兄さんたちが萌えるその笑顔で、千恵子は優しく言った。 だが、その頭の中には、もちろん彼女なりの計算が働いていた。 今回の試合で、南側ルートで敵が攻撃する場合、それを止めるにはかなりの弾数が必要となる。 特に、渡河途中を撃つ策ならば、弾数の多い銃で一気に敵を仕留めて数を減らした方が断然有利。 そうなると、ハンドガンナーのみずえさんには、見せ場が作りにくいのだ。 「話が分かるなあ、千恵。それじゃ、入場が終わったら、遠慮なく行かせてもらうぜ」 千恵子の頭の中を知ってか知らずか、みずえは笑顔を見せた。 「そうなると、みずえが抜けて、うちも抜けるから、あとの3人は……園美、瞳、ゲーマー様、はんなり姉ちゃんの中から一人抜けるんやけど……まあこれは大将さんと、春山さんにも相談してやなあ……」 千恵子がぶつぶつと呟いていたその時、 「♪らーらーらー ららららー」 某大河ドラマのオープニングテーマのメロディーが流れた。 「ん? 誰からだ?」 携帯電話を取り出したみずえさんが、「げ」と声を上げた。 「どないしたん?」 「うっわ……やっべ、ゲーマー様からだよ。また変なこと考え付いたんじゃねーだろーな」 恐る恐るみずえさんが眺めている携帯電話の着信音は、 「♪愛しきー殿はいずこにー 好みはーツユと聞いてもー」 コーラス部にまで突入していた。 「……でもそれ、みずちゃん、出ないとやばくない?」 瞳が指摘すると、「そうだな。仕方ねえ」と言って、みずえは電話に出た。 「もしもし……はい、そちらに全員で……は?」 みずえの眉が跳ね上がった。 「はあ、それはそうでゴザイマスが……しかしゲー……いえ、花の宮さま、それは……困ります! 浮きます! ……って切りやがった! あの野郎……」 みずえは吐き捨てると、携帯の電源をオフにした。 「あの、どうしたん……ですか?」 園美がやや強張った顔で尋ねると、 「妙なことになりやがった……」 ネタ女王・名越みずえは舌打ちした。
「……何だ、口ほどでもなかったですね」 アウトドアランドの敷地内のどこか。 ガブリエルの制服を着た一人の少女が、手に付いた汚れをはたき落とした。 それは、覆え山道の嬢……ではなかった、大江山道乃丞と名乗った、喜多川八郎君だった。 彼の足元には、5体の人体が無造作に転がっている。 喜多川君が一撃で片付けた、聖ガブリエル女学院で幅を利かせている“5人組”の面々であった。 「お、おのれ……」 木刀を手にした5人組のリーダー・新田麗が、地面に転がったまま、呪詛の声を吐いたが、 「自分が折檻した相手が、どんな痛みや苦しみを受けたか、少しはわかったでしょ。以後、アタシのように正道に立ち返って、真面目に生きなさい」 喜多川君は女の子口調で言い返すと、 「さて、この刀を月の宮さんに渡さないと。さてと、何て言って渡そうかな。“5人組”に盗られたのを取り返した、とか言ったら面白くなるかな」 と、呟きつつ去って行った。
さて、試合は第9試合、千葉代表『キャンプ戦隊アウトドアン』対東京B代表『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』である。 普通ならここで、 「ドラゴンゲートより、○○入場!」 などという司会者のアナウンスが入る。 だが、最初のアナウンスの声は、その通常の台詞とは、全く異質の、重々しい声であった。 「200×年、レジャーは発展し、人類はアウトドアを通じて、地球環境と共生していた。だがしかし、楽しいアウトドアを、単なる環境破壊の手段へと堕さんとする悪の組織、オーンダンカーが現れた! 地球環境を破壊し、世界を征服しようとするオーンダンカー。だがここに、オーンダンカーの野望を止めるため、ネイチャーガイドのアルバイトをしている高校生たちが立ち上がった。地球環境を守る愛の戦士、彼らの名は、キャンプ戦隊アウトドアン!」 アナウンス終了と同時に、ドラゴンゲートから、炭酸ガスが勢いよく吹き上がった。 そして、その白い靄の中から、色とりどりの戦闘スーツに身を包んだ男女が、バク転や側転をしながら、一人ずつステージに登場する。 そして、6人が出揃ったところで、 「火を使うなら俺の出番さ! アウトドアンレッド参上!」 「森のことなら僕にまかせろ! アウトドアングリーン、推参!」 「気をつけないと水辺は危ないぞ! 水の安全を守るオレの名は、アウトドアンブルー!」 「テントの設営、慎ましやかに安全に! アウトドアンイエローとは、おいらのことさ!」 「はいお待ちどうさま。野外の遊びのことなら私に聞いてね。アウトドアンピンク、参ります!」 「諸君、アウトドアには危険が付き物だ! 漆黒のトラブルバスター、アウトドアンブラック!」 「「「「「「地球環境を守る愛と平和の戦士、キャンプ戦隊アウトドアン、只今参上!」」」」」」 『キャンプ戦隊アウトドアン』は、6人固まって、決めポーズを作った。 それと同時に、彼らの背後では、爆発が起こっていたりする。 「おおー」 「見事だ」 お兄さんたちからは、拍手が上がっているが、大半の観客、特にガブリエルの生徒たちは無表情にその光景を見ていた。 “真理亜様命”の者が大半を占めるこの応援団にとって、対戦相手への好感度を決めるのは、「オスカル様に紳士的な敵かどうか」一点のみ。 折角の凝った演出も、彼女たちには無意味であった。 そして、次には、ガブサバ会入場のアナウンスがあるはず―― 「まっかなー♪」 スピーカーから、実に可愛らしい声が流れた。 「?!」 驚くギャラリー。 がしかし、 「ま、まさかこれは……」 一部のお兄さんたちは、その声の正体にピンと来た。 彼らの視線の先では、白い割烹着と黒い割烹着に身を包んだ女性が、ステージに走り出て来ていた。
「♪はにゅっほにゅ はにゅほにゅっ このイントロで、 「ああ、やっぱり!」 「“はにゅほにゅ”か?! 初代の“はにゅほにゅ”か?!」 お兄さんたちの驚きの中、白割烹着姿の“ほにゅ飽和糸”こと瞳は、マイクを持った。
「♪一条住んで、名は一条 ぶっちゃけありえない (……何であたし、アニソンばっかり歌わなきゃなんないの〜?) 内心ため息をつきつつも、二階堂瞳は、何とか歌詞を覚えた、「ふたりははにゅほにゅ」の主題歌、『DANZEN!まかなははにゅほにゅ』をステージ上で歌い続けた。 全く乗り気ではない歌唱であったが、もともと美声でその上美人、しかもコスプレという3種の神器により、 「はにゅ〜!」 「萌え〜!」 「飽和糸たーん!」 お兄さんたちは明らかにボルテージが上がっていた。 瞳の背後では、“ほにゅ部落”こと花の宮さまが、黒割烹着を着て、謎のダンスを披露している。 (ふっ、あたしの読みがズバリ当たったね) 踊りながら、花の宮さまは、快心の笑みを漏らしている。 そして、瞳の歌は、2番に突入。
「♪たまには井戸端のほほんとおしゃべり してみたい この辺りで、ガブサバ会の残りのメンバーがステージ上に一人ずつ登場し始めた。 『戦国武装』シリーズのコスプレのまま、ステージ中央まで歩いていくと、観客に向かって手を振ったり、にっこり笑ったりする。 その度に、観客席からは歓声やら黄色い悲鳴やらが飛び出した。
「♪明日は明日の飯炊く 家事日々変わんない 最後、お兄さんたちが瞳にあわせて「まっかなー♪」と唱和したのと同時に、ガブサバ会のメンバーは、全員がステージ上に出揃っていた。 ……いや、一人だけ、曲が終わった後に登場した。 水色の襟のセーラー服を着込んだ、黒い髪の少女。 トレードマークのポニーテールを解き、豊かな黒髪を観客にさらした、金沢千歳だった。 手になぜか、「すも@くちいず」と大書された、四角い物体を持っている。 その彼女が、ステージ中央までたどり着くと、満員の観客席に向かって、こう言った。 「ね、……ねえねえ、ジュンくんジュンくん、……す、す@おくちいずはどこだい?」 やや緊張気味の問いかけに、 「……も、もう持ってるでしょ」 観客席から、東京東高校の春山君が、こちらも緊張した声でツッコんだ。 「……」 千歳さんはうつむいた。 「こ、これはまさか……」 「このネタで来たか!」 お兄さんたちがざわめく。 だが、そのざわめきは、激しい「萌え〜」という叫びにはつながって行かなかった。 「だけど……あの子で勝負したのはいただけないかも」 「確かに、あれは千恵たんがやった方がいい」 「にょろ@ん千恵たん……はあはあ」 お兄さんたちの中でも、このコスプレに対して、冷静な意見が大半を占めてしまったのだ。 他の観客たちは、今のやり取りが何を意味するのか全く分からず、ただただ見守るばかり。 (だから浮くって言ったのに……たく、ゲーマー様のバカ) “ネタ女王”みずえは、舌打ちしたい思いだった。 ネタで勝負するなら、なるべく、同じ種類のものを使うべきだったのだ。 それを、ゲーマー様ときたら、自分が“はにゅほにゅ”コスをしたいばっかりに……。 (幸先の悪いスタートだぜ) “乱丸”コスのみずえは、次の試合に対する不安を拭い去ることができなかった。 また、それと同時に、嫌な予感に、背筋をなで上げられた人物もいた。 “はにゅほにゅ飽和糸”こと二階堂瞳である。 突然、彼女の第6感が、警報を発したのである。 (一体、何〜? 予選みたいなことは、やだよ〜?) 瞳はため息をついたが、いくら考えても、その不安の原因が何なのか、見当が付かなかった。
試合開始と同時に、ガブサバ会は、3手に分かれた。 すなわち、斯波真理亜、片桐芳乃、犬養亜紀の3人が北岸の丘の上に。 金沢千歳が、MINIMIとともに本陣に残留。 そして、畠山美華と赤橋園美が南岸に向かった。 “踊り子”コスの美華さまは、川を越えると、進撃する敵を上手くやり過ごせそうな場所に潜伏した。 ここで、フリーズを狙い、敵を大混乱に落としいれ、川向こうに潜伏する園美とともに、一網打尽にする計画なのである。 美華様が潜伏を始めて、2分もしないうちに、林の方から、足音がした。 (一人、二人、三人……あら? これだけ?) 敵は、6人固まって突進するのではなかったのか。 訝しく思いながらも、敵の3人、アウトドアンピンク・イエロー・グリーンをやり過ごした美華様は、その背後に誰もついてこないことを確認すると、こっそり、敵の後をつけた。 イエロー・ピンク・グリーンは、美華様に全く気がつかず、川べりの茂みにアンブッシュして、前方の川面を窺っている。 前方から攻撃があることを警戒しているようだ。 (今ですわ) 「フリーズあそばせ」 美華様がアウトドアンピンクの背後に回り、フリーズコールしたのと、 「よし、行くわよ」 アウトドアンピンクが立ち上がり、前方に動き始めたのは同時だった。 「そ……そんな……」 フリーズコールを無視され、その場に取り残された畠山美華様の感情は、一気に昂って―― 「せーの……」 「「「トリプル・モッタ……」」」
そして、機関銃の発射音も。 「ヒット!」 「ばかな!」 「そんな……」 必殺技を放とうとしたところに、背後からの不意打ちを受けたアウトドアンピンク、イエロー、グリーンは、信じられない、といった表情で両手を挙げた。 それを見て、 「をーほほほほほほほほほほ!」 “天使の美華ちゃん”は、再びお笑いになった。 「さあ、次はどなた? をーっほほほほほほほほほ!」 地面を蹴った美華様は、常人には有り得ないような速度で、獲物を求め、川べりまでやってきた。 そして――見つけた。 「をーほほほほほほほほほほほほ!」 近いところで響いた謎の笑い声に、東岸でアンブッシュしていた“姐御”こと赤橋園美は、ぎょっとした。 「え?」 声がした方には、生徒会会計の畠山先輩が立っている。 (何でここまで戻ってきてるんですか?) 打ちあわせの内容と異なるその行動に、園美が戸惑っていると、 「をーほほほほほほ、そこにいたのね、正義の鉄槌を下してあげてよ!」 叫びながら、味方であるはずの畠山さんは、赤橋さんに向かって、発砲した。
その迫力に、流石の“天使の美華ちゃん”も、動きを止めた。 美華ちゃんの、会場にいる人々の視線の先で、ブチキレモードに突入した園美は、ゆっくり口を開いた。 ニコニコと、笑いながら。 「何なんですか、一体。味方に警告すらなく、突然攻撃するなんて……いくら先輩でも許せません。裏切りです、下克上です、本能寺です、ルール違反です。さあ、武器を捨てて、謝罪していただきましょうか。今の先輩の、許しがたい暴挙を、ね」 “姐御”園美は、六四式小銃を構えた。 その身体から立ち上るオーラに、数々の戦いを経験してきた千歳も、本陣で思わず身構えた。 だが、そのすさまじい怒りに、全く動じない人がいた。 「をーっほっほっほっほ!」 “踊り子”美華さまである。 「をーっほっほっほっほ! 邪魔する者は容赦しなくってよ!」 園美の怒りを笑い飛ばすと、美華さまは、ウージーの引き金を引いた。 「くっ……!」 弾丸を避け、慌てて木の蔭に隠れた園美の眼が、怒りで燃え盛った。 「もう許せません。いくら味方といえども、ここで息の根を止めなければ、全軍が総崩れとなるは必定、……我が軍の勝利のため、私は今、鬼になる!」 六四式小銃の引き金を引いた“姐御”の表情からは、笑いが消えていた。 そこにあるのは、怒りに顔を引き攣らせた少女の顔。 余りの怒りの大きさに、鉄仮面の如く顔に張り付いていた笑顔も、弾け飛んでいた。 「をーっほほほほほほほほほほ!」 “天使の美華ちゃん”も、目の前の獲物を仕留めようと、ウージーのトリガーを引く。 素早く遮蔽物に隠れ、機を逃さず攻撃する。 攻撃を仕掛ければ、即座に防御の体制に入る。 暴走しているためか、二人の反応速度は通常より上がり、なかなか弾が当たらず、激しい撃ち合いは、いつ果てるとも知れなかった。
「あらあら」 「……一体、どうなっているのだ?」 亜紀、芳乃、真理亜の三人は、池の対岸で繰り広げられている、激しい応酬と撃ち合いの様子を、立ち止まって窺っていた。 「あの笑ってるのって、美華だよね?」 「ええ、……ほんで、あの怒ってるんは、赤橋はんどっしゃろか?」 「何か、すごいねえ……どっちが勝つんだろ」 南岸を眺め、亜紀と芳乃は喋っていた。 彼女たちにも、信じられないのだ。 「おしとやかなお姉さまナンバーワン」「聖ガブリエルの聖女様」という称号を持つ美華は、普段絶対に怒らないし、あのように暴走することもない。 また、いつもニコニコしていて、真面目なクラス委員である赤橋園美さんも、めったに怒ったりしないのだ。 生徒会長の真理亜もその思いは同じで、南岸で繰り広げられている激闘の様子を窺い知ろうと、首を伸ばしている。 もちろん、観客席にいた者達も、この事態を、驚きの眼で見ていた。 「うおーっ! すげー! 二人とも、種が弾けたのか?!」 「“姐御”対“踊り子”か……ここまで元ネタを再現するなんてなあ」 「ああ、戦う美女……はあはあ」 お兄さんたちは、驚きつつも、美女二人が戦っているというシチュエーションに萌えまくっている。 「桐壺姫さま……一体どうなさったのでしょう?」 「あの温厚な赤橋さまが……」 「神よ、このようなことがあっていいのでしょうか……」 ガブリエルの応援団には、内輪もめが一刻も早く終了して欲しいと、祈るものが続出している。 そして、 「あちゃあ〜、いやな予感は、これだったんだ……」 「す、すごいですねー」 「……まるで、妖怪大決戦やな」 ギャラリーの瞳、政山君、そして千恵子さんは、呆然とフィールドを見下ろしていた。 「……いつも、こうなのか?」 春山君は、隣に座っている哲ちゃんにこっそり尋ねる。 「いや、畠山さんの方は2回目で、きめら先生は、……俺が知ってる限りで3回目……ま、きめら先生の場合、そういう家族だから……」 「……どういう家族なんだ、それ」 「ブチキレると、父ちゃんが警察庁の厳重なセキュリティロックを簡単に解除して、長官室に殴り込んだり、弟が某テニス漫画に出てくるような謎の技を連発してテニスのチャンピオンを負かしちまったり、妹が将棋の真剣勝負で永世名人に勝っちまったり、そういう……」 「大変だな、長倉さんも……」 「ああ……」 低い声で話し合っていた春山君と哲ちゃんは、深い深いため息をついた。 長倉くんが、『剣道部!』の控えテントにいて、この光景を見ていないだけ、まだ幸せかもしれない。 「うわー、面白そ〜。あたし、向こうに行こうかな」 北の丘の上で、能天気に呟く“ほにゅ部落”。 「あ、亜紀はん、それは、危ないのと違います?」 “麦姫”さまは、やや慌て気味に友人を止めた。 「雪の宮さまのおっしゃる通りです、花の宮さま。あのように銃が乱射されているところに近づけば、巻き添えになる可能性も高い……」 後輩である“女武者”こと斯波真理亜さまも、アブない先輩を説得する。 「む〜、分かったよ。誰かがビデオに撮ってるだろうから、それを後で観るよ」 1対2の戦いに、亜紀さまはあっさり降参した。 「それにしても、赤橋ちゃんって、あんなキャラなの?」 「さあ……せやけど、怒ったら怖いのと違います? ほら、去年の秋でしたか、大分怒ってた時が……」 「ああ、あの時の。確か、あの後で、アン連れて、新宿のゲーセンで遊び倒したんだっけ……」 「うちは、佐々木はん連れて、大阪にとんぼ返りしたんでしたな」 「懐かしいなあ……」 「そうどすなあ……」 亜紀様と芳乃さまが、揃って回想に浸っていた、その時だった。
「え……ヒット!」 「あらまあ……」 「く……ヒット!」 亜紀、芳乃、真理亜は、一瞬のうちに撃墜された。 ……実は、南岸で騒動が起こっている間、北岸にいたアウトドアンの3人(レッド・ブルー・ブラック)が、密かに丘へと進撃していたのである。 そして、この瞬間を狙い、必殺技「モッタイナイ・レーザー」(注:ショーの時はレーザーを発射するのだが、今回は単にエアガンを連射するだけ)を炸裂させたのだ。 この敵の動きに、亜紀と芳乃、そして真理亜も、全く気がつかなかった。 もちろん、原因は、3人とも、南岸の“踊り子”VS“姐御”に、完全に気を取られていたこと。 ガブリエルの上位者のあっけない退場に、しかし、ガブリエルの応援団は全く反応しなかった。 勃発した生徒同士の争いに心を痛め、それ以外のことが、全く眼に入らなかったのだ。 その700人からの悲痛な思いをよそに、 「をーっほほほほほほ!」 「死ねええええええ!」 暴走する美女二人の銃撃戦は、ますますエキサイトしていくのであった。
「許すまじ……」 喜多川君に倒された5人組の面々が、痛む身体をようやく起こせたのは、喜多川君が立ち去ってから、しばらく経ってからのことだった。 「く、このあまね様を赤子のようにあしらうなんて……」 「本当に、憎たらしい悪魔め……」 「今度会ったらタダではおきませんことよ」 結城さん、名和さん、千種さんが呟く中、 「あの悪魔は、オオ柄山道野畳と名乗りました。早速検索して、正体を掴んでみせます」 楠木さんはノートパソコンを抱えてリーダーに報告した。 「すぐにやって頂戴、あの尾麻植山見智野錠とかいう悪魔、成敗しなければ……」 新田さんが憎しみを露にすると、 「ええ、尾上屋真美値の乗」 「OH!柄山間道、絶対に許せない……」 「追柄め……」 残りの面々も、地獄の底から響いてくるような声で、敵に対する呪いの言葉を呟く。 その背後に、強烈な殺気が生じた。 彼女たちは後ろを素早く振り返った。 「貴女方、ここにいらっしゃったのね……ククク……」 そこには、愛刀を構えた、月の宮さまが、立っていた。
バトル開始から、既に5,6分が経過しているが、南岸からのエアガンの発射音は、途絶えることがない。 予選での、“天使の美華ちゃん”の鮮やかな手並みを知っている千歳としては、友人の園美が彼女と互角に戦っているということが、信じられなかった。 (……やはり、園美、できる!) 一度、剣道を指導したことがあるが、本気で修行すれば、めきめき頭角を現すかもしれない。 上手くすれば、自分並みの腕前に……。 (この試合が終わったら、本格的に剣道部の練習に参加するように、園美を説得しよう) この頃、北の丘のガブサバ会メンバーを撃墜した敵が、本陣に迫りつつあったのだが、千歳は全く気がつかなかった。 それだけ、南岸で行われている戦いの様子が、気になったのである。 (しかし……仮にあの戦いに決着がついて、畠山お姉さまが、もしくは園美が、こちらに攻めあがってきたら、どうすればいいのだろう。やはり、撃墜しなければならないのだろうか?) 千歳さんが、疑問に頭を悩ませ始めた、その時だった。
MINIMIの引き金を引く暇も無く、あっけなく千歳は撃墜された。 「……油断した」 呆けたように両手を上げた千歳の眼に、フラッグを引き抜く、アウトドアンレッドの姿が映った。 「試合終了! 『キャンプ戦隊アウトドアン』勝利!」 試合終了を告げるホイッスルが、フィールドに無情に響き渡った……。
「え……?」 「試合終わった?」 ギャラリーは騒然とした。 「美華ちゃんが戦ってる間に?」 「で、勝敗は?」 「我が軍が、負けた……」 「そんなっ!……」 「オスカルさまあああああ!」 危ないお兄さんたちも、聖ガブリエルの応援団も、いつの間にか激変していた事態に、ただただ驚くばかりである。 そして、 「あちゃあ……」 「何やねん、これ……」 観客席で、参謀コンビも頭を抱えていた。 「……まさか、こんなことになるなんて」 「想定の範囲外、というやつやな」 「しかし、これからは、こうなることも考えなければ」 「そやね、園美と姫さんは、一緒にせんようにするわ……」 ため息をつく千恵子さんだが、 「……せやけど、こんなアホな負け方でよかったわ。“ガブサバは自滅する可能性がある”っていうのが分かれば敵も舐めてかかるやろし。カモフラージュや。で、春山さんが、この事態をうちのせいにすれば完璧」 「そう上手く運ぶだろうか」 「運ぶ、いや、運ばせる。そうせな、うちら、優勝できん」 千恵子さんが決意を新たにしていると、携帯電話の着メロがなった。 半身タイガースの応援歌「カッコーおろし」である。 「……あ、殿さん」 『千恵子か。今の試合を見ていたか』 「あ、はい」 『今すぐ、会場近くの焼きそばの屋台まで来い。話がある』 「はあ……」 千恵子は、千歳の祖父からの電話を切って、 「あかん……呼び出しくらった。ちょっと行って来るわ」 春山君に言った。 「……呼び出し?」 「千歳のお祖父さん。これは大目玉やなあ……」 ため息をつきつつ席を立った千恵子の予感は的中し、5分後、 「この、馬鹿弟子があああああ!」 じいさまの怒声が、夕方近くなった空に響いたのであった。
「ああ、それは私が考えてですね……」 春山純君は、『月刊種子島』の女性記者に、取材を受けていた。 「なるほど」 女性記者が相槌を打つ。 二十歳そこそこにしか見えないが、魅力的な顔立ちの女性だった。 「……しかし、佐々木さんが余計な手出しをしたせいで、作戦の緻密さは失われた。もし彼女が、2回戦で『敵の変装は考慮しなくていい』と言わなければ、4回戦で、畠山さんと赤橋さんをかち合わせる作戦を進言しなければ、ガブサバ会に完全勝利が得られていたはずだ。もしそうなら、ポイント差で優勝を逃すこともなかっただろう」 春山君は、佐々木さんの策――“驚異の春山戦術”を確立させる――を、忠実に実行していた。 事実、最終戦で、『剣道部!』が『魏新特選隊』を5人撃墜、フラッグ奪取という8対0の完全勝利で飾ったため、3勝1敗で『剣道部!』がガブサバ会に勝敗数で並び、ポイント差で逆転優勝を飾っていた。 もちろん、ギャラリー投票で選ばれる特別賞は、お兄さんたちと応援団の組織票で、ガブサバ会が獲っていたのだが。 「そうですか。つまり、佐々木さんが全ていけなかったということですね」 「そういうことです。彼女も、勉強が足りないということです」 断言する春山君に、女性記者は微笑していた。 だが、その微笑が春山君の心底を見透かした微笑であることに、春山君は気がつかなかった。 そして、その微笑が、以前ガブサバ会を取材した玲と名乗る女性のそれにそっくりであることにも……。
「最強『剣道部!』帝都も全国も制覇で御座候!」 「華麗なるガブサバ会!このコスプレの数々を見るで御座候」 と、『剣道部!』の強さと、ガブサバ会のコスプレに注目したものであった。 表紙を飾ったのも、ガブサバ会の面々の笑顔の写真である。 しかし、千恵子さんと春山君が一生懸命に考え、喋った内容は、一言も記事にされなかった。 (うちの目論見、半分は外れて、半分は当たったか……) 「なかなか上手くいかんもんやなあ……」 学校の天文気象部の部室で、佐々木千恵子さんは、『月刊種子島』を前にしながら呟いた。 「? 何が?」 部室で最新のボクシングゲームをしていた名越みずえさんが、千恵子さんの方を振り返った。 「……ん、いや、あのアホな5人組は消えたけど、うちらが代わりに、先輩に目ぇ付けられてしまったってことや」 千恵子さんは誤魔化した。 彼女の言う通り、新田麗を筆頭とする5人組は、南関東大会の翌日、退学届けを提出し、学校を去った。 正体不明の人物に襲われて全員が重傷を負ったという噂もあったが、ヒステリックな風紀委員がいなくなり、学園は、平和そのものになった。 彼女たちの存在が、生徒も、教職員も、そして生徒会も、鬱陶しかったのである。 そして、学園で、良い意味での注目株となったのが、サバイバルゲームに出場した、天文気象部のメンバーと金沢千歳。 特に、千歳、みずえ、千恵子の三人は、未来の三壷様候補として、生徒たちから、そして、現生徒会執行部からも、期待されるところ大であった。 「確かに」 千歳が茶を啜ったとき、 「千歳さん、おちびちゃん、アンちゃん!」 窓の外から、声がした。 「やばっ、大将さんや」 千恵子が1秒で猫を被り、窓を開けた。 窓の下には、迷彩服を着た、細川直子、畠山美華、斯波真理亜――噂の三壷さまが、エアガンを持って立っていらっしゃった。 「今から練習だ。着替えて下りて来たまえ」 生徒会長の梅壷大将・斯波真理亜さまがおっしゃると、 「はい、只今!」 千恵子さんは慌てて窓から引っ込んで、「おい、練習やて。迷彩服に着替えて下りろって!」と、他の二人に告げた。 「!」 「やっべ!」 三人はカーテンを閉め、猛スピードで着替え始めた。 でも、どんなに急いでいても、エアガンの銃口がぶれないように、ジャングルブーツが足音を立てないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。 「全員、揃いました!」 「よかろう、では訓練を始める」 そして、さわやかなサバゲー用語が、フィールドにこだまする。 聖ガブリエル女学院。ここは戦乙女の園――
|