まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第十九話
| ◇百花撩乱! 地区大編◇ |
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千葉県、奥房総アウトドアランド。 ここで行われていた、全国高校生サバイバルゲーム選手権大会・南関東地区大会は、全10試合のうち、第4試合までを終えていた。 今のところ、地区優勝に一番近いところにいるチームは、驚くなかれ、我らがお嬢さまがたであった。 第2試合で『剣道部!』に勝利し、第4試合で『魏新特選隊』に辛勝したお嬢様方は、これで2戦2勝。 東京A代表の『剣道部!』は、1戦1敗、埼玉代表の『Shall We SABAGE?』と神奈川の『魏新特選隊』は2戦して1勝1敗、そして、千葉の『キャンプ戦隊アウトドアン』は1戦1敗である。 勿論、今後の勝敗によっては、お嬢様方が優勝できない可能性も大いにあるわけであるが、5チーム中、真っ先に2勝一番乗りを果たしたという事実は大きく、ギャラリーの中には、「もう、ガブサバ会が優勝で決まりじゃない?」という予想を述べる者が大勢いた。 「やっぱさあ、池を使ってきたっていうのが大きかったよな」 「そうそう、それに、あのコスプレも、よく考えたら、池での戦いでは有利な格好だったしさ、やっぱり、千恵子ちゃんは、最初から、池を使うことを考えてたんじゃないのか」 「ありえるな! しかし、千恵たんが体調不良で出場できないとは残念だ」 「でも、さっきはステージに出てたし、ひょっとしたら後で出てくるかも……」 「ああ、千恵子ちゃんのくの一姿……はあはあ……」 ……などと、ギャラリーのお兄さんたちの話は脱線しがちだったのではあるが……。
「うーん、コンビ戦術なあ」 “千恵たん萌え”が渦巻く観客席の中で、腕組みして呟いたのは、お兄さんたちの噂の的であった。 「ああ、そうらしいぜぃ」 と言ったのは、情報収集担当役の清水哲雄である。 作戦参謀は二人とも、チームメンバーの誰にも無断で、観客席で試合を観戦していたのだが、哲ちゃんは、難なく二人を見つけ出していた。 「なるほど、必ず2人で行動するから、こちらも、1ペアに対して2、3人以上はいないと、確実に勝つことができないというわけか」 佐々木千恵子嬢の隣で頷いたのは、臨時作戦参謀・春山純氏。 東京都大会の1回戦で、油断のため、ガブサバ会に敗れ去った彼だが、体調不良で脱落した千恵子の代わりとして、よくガブサバ会に貢献していた。 「……で、どうする?」 春山氏が、千恵子嬢を微笑しながら見やる。 すると、 「簡単や。本陣で迎え撃つ」 佐々木千恵子は、さらりと回答した。 「……なるほど。6対6の状況に持ち込めば、コンビ戦術も意味を成さなくなる、という訳か」 「そうや。のこのこ進撃していったら、敵の思うツボやからな」 つまり、千恵子さんの言いたいのは、こういうことである。 コンビ戦術は、いくつもある進撃路に、敵を分散している状況で、その効果を発揮する。 だから、こちらが一つに固まっていれば、敵は全員、こちらに一斉に掛かってくるしかないのである。 「……せやけど、ここでもう一工夫や。本陣の丘にいるのは4人だけ。あとの二人は、本陣の近くの、敵が射撃ポイントにしそうなところが狙える位置に潜ませて、頃合を見計らって奇襲や。そうしたら、敵の数を一気に減らせる」 千恵子さんの台詞に、 「ふむ……それはいい考えだ」 春山君は頷いた。 彼も、防御策が妥当だろうと思っていたのだが、伏兵を潜ませるまでには、考えが至らなかったのである。 「伏兵は、誰にするんだ?」 「そやなあ。姫さんは確定として、もう一人は、瞳かゲーマー様や。もし、みずえがもう戦っても大丈夫なら、みずえに任せたいんやけど、誰を下ろすかで、一騒動になりそうな気がするし……」 千恵子さんが危惧するには、訳がある。 もし、みずえが戦線に復帰するとして、代わりに下ろされるのは、今回、代理で出場した4人であることは確実である。 だが、“ゲーマー様”こと犬飼亜紀や、“はんなり姉ちゃん”こと片桐芳乃には、「今回は休んでいてください」とは、少々申し上げにくい。 はんなり姉ちゃんの方は兎も角、目立ちたがりのゲーマー様は、恐らく首を縦には振るまい。 となると、ターゲットは、自然と、瞳か園美ということになる。 しかし、瞳の勘の良さは、戦闘時には大いに武器となる。 また、園美も“ジュリエット様”として、ガブリエル応援団の士気を上げるには欠かせない存在だ。 そして、重要なことには、二人とも美人なので、ギャラリー人気も手堅く得られるのである。 (はんなり姉ちゃんか園美か、やろけど……どっちを下ろしたらええかな……?) 軍師様も、即座には決めかねる、複雑な問題がそこにはあった。 「まあええ、とにかく、みずえの体調を見てからや。春山さん、一緒に控えテントにいきましょ。多分、みずえもそこにいるやろし」 「ああ」 春山くんと千恵子さんは立ち上がり、連れ立って、控えテントへと向かった。 だが、千恵子さんは気付かない。 隣で歩いている春山君に、怪しいお兄さんたちからの、羨望の視線が、多数突き刺さっていることに……。
ガブサバ会の控えテント。 その中で、ちょっと苛立ったように言っているのは、犬養亜紀様であった。 「で、ですが、梅壷大将サマは、すでに“麦姫”でイメージが固定されてしまっています。そこから変えるとなると……」 それに対峙しているのは、猫かぶりの1年ズの一人、名越みずえ。 すっかり体調も回復した彼女は、千恵子さんの予測どおり、二階堂瞳と赤橋園美に付き合って、ガブサバ会の控えテントにやってきていたのである。 ちなみに、金沢千歳は、さきほど、祖父の勝本信義に連れられて、どこかへ去ったままだった。 「でも、仕方ないよ。『戦国武装2』だと、“麦姫”は、女の子らしくなってるじゃん。だから、アンにやれって言ってるんだよ」 「ですが……それは……中等部の方たちが、承知しないのでは?」 「いいじゃないか。どうせ、ウチ校で元ネタが全部分かるのは、あたしとアンぐらいしかいないんだから」 「それは、そうでしょうが……でもワタクシは、お乱のコスがよいのですが……」 などと、ゲーマーコンビが言い合っていると、控えテントの入り口の幕が開いて、参謀コンビが入ってきた。 すると、それを目ざとく見つけた亜紀さまが、 「ああ、ちょうど良かった。えーと、佐々木さん、だっけ?」 早速、可愛らしい参謀に声を掛けた。 「え、あ、はい、さようでございますが……」 不思議そうな表情を作る千恵子さんに、亜紀さまは、 「試合は出られそうなの?」 と、フレンドリーにお尋ねになった。 「いえ、わたくしは、まだ本調子ではございませんので、次の試合も、観客席から観戦しようと考えているのでございますが……」 「そうか。でも、さっきみたいに、ステージ出るのは大丈夫なんでしょ? じゃ、次の試合の選手紹介のとき、“お姫さま”の格好で出てね」 「“お姫さま”って、この間の……」 と千恵子さんが言うと、「そうそう、分かってるじゃないか、話が早くていいねえ」と、亜紀さまは満足げに呟かれた。 「ああ、それから、じゅんちゃんも」 「お、俺も、ですか?」 千恵子さんの隣の春山君が、驚いて自らを指差す。 「当たり前だろ。あのゲーム、キャラが20人以上いるんだから。えーと、誰がいいかなあ……あーそれから、赤橋ちゃん!」 「え? は、はい」 突然指名された赤橋園美が、緊張の面持ちで花の宮さまを見る。 「あんたのロミオ様呼んできて。彼にもコスプレしてもらうから」 「え、へ、平八さんもですか?」 「当たり前だろ。多いほうが派手でいいじゃないか」 (何か説得力がない理由ですね) と園美は思ったが、先輩に逆らうこともできず、臨時コーチを務めている、ロミオ様こと長倉平八(ながくら・へいはち)君を呼びに行った。 「えーとそれから、ひとみんは……」 テントの中に漂う微妙な空気をものともせず、花の宮さまは、次の入場のステージの構成作業に没頭していた。
天ぷらそばの丼とあんみつの小鉢を空にして、金沢千歳(かなざわ・ちとせ)は行儀よく両手を合わせた。 ここは、アウトドアランド内の、大レストラン。 雨宿りを兼ねて入っていた客も、天候回復と共に去り、午後2時になろうとする今の時刻も手伝って、レストラン内には、人影はまばらだ。 「ほう、綺麗に平らげたな」 千歳の向かいで呟いたのは、彼女の外祖父・勝本信義(かつもと・のぶよし)。 普段は65歳とは思えないほど俊敏な身体のキレを見せ、威圧感のあるオーラを放っている彼だが、三色だんごを頬張り、茶を啜っていると、“優しいお父さん”にしか見えない。 ……父親に見える、というのも、ある意味凄いのだが。 「もう、大丈夫そうですね」 パフェを食べながら言ったのは、勝本家の執事・牛尾さん。 この人も、木刀や刀を持てば、数人の暴漢は軽く倒す武芸者である。 だが、スプーンを片手に、大きなチョコレートパフェと格闘している姿は、“甘いもの好きのフードファイター”にしか見えない。 「……はい、全力で戦えます」 千歳はぶっきらぼうに答えた。 「そうか、それは心強い。千恵子にも伝えてやらねばの」 「はい」 「では、観客席に戻るか」 その言葉に、先程から傍に置いていた日本刀を持ち、立ち上がろうとした千歳さんだが、 「ちょ、ちょっと待ってください、殿、私、まだ、これが……」 スプーンでアイスクリームを必死に掬いながら、牛尾さんが言ったので、 「ああ、牛尾がまだだったな。ではもう少し、のんびりしようか」 という殿様の声で、千歳はまた、椅子に座った。 刀は、隣の椅子の上に置く。 「……2試合目は、どうなったのでしょうか」 千歳は呟いた。 「千恵子のことだ、むざむざと負けるようなことはなかろう」 殿様が答えた。 「はあ、しかし、『魏新特選隊』は、かなりの強敵のように聞き及んでおりますが……」 「策士、策に溺れるということもある。向こうの作戦参謀は、驕りやすい性格だから、それを上手くつけば、十分に勝機はあるだろう。完全勝利も夢ではあるまい」 実は、殿様の見込みは、七割程度しか当たっておらず、後ほど、敵の変装を考慮していなかった千恵子さんが、「この、馬鹿弟子がぁぁぁぁっ! 新兵器を投入してそのザマかっ!」と、怒鳴られる羽目になったのだが、それは置いておこう。 「さようでありますか……」 千歳さんは、茶を啜り、月刊種子島で見た、『魏新特選隊』のメンバーの顔を思い浮かべた。 筒井康介、佐藤光泰、羽田翔、江島行彦、大林錬太郎…… (そうだ、喜多川の素顔は、一体、どうなっているのだろう) ふと思った。 月刊種子島では、喜多川は、七三分けの、ごくごく普通の顔で写っていた。 だが、それが果たして本当の顔かどうか。 「怪人」と名乗った怪しい奴のように、直江輪に変装することだって可能なのかも…… (直江どの……) 彼の顔を思い浮かべようとすると、千歳は、苦しくなった。 身体に、甘酸っぱいような、せつないような、妙な感覚が走る。 もし、あれが、本物の、直江どのだったら…… 「どんがらがっしゃーん」 突然近くで響き渡った大きな音に、千歳は我に返った。 振り返ると、隣のテーブルと椅子が、派手にひっくり返っている。 その中心で、抹茶色の着物を着た老婆が、腰をさすりながら立ち上がった。 「! 大丈夫ですか?!」 千歳が声を掛けると、 「ええ、ええ、大丈夫ですよ、どうも、ご心配おかけして」 老婆は人懐こい笑顔を浮かべ、腰を曲げ、杖をつきながら、出口へと歩いていった。 「ああ、テーブルを直さないと……」 牛尾さんが立ち上がり、脚を天に突き出したテーブルを元に戻す。 千歳もじいさまも、倒れた椅子を元に戻すのを手伝う。 セッティングを完了すると、牛尾さんは再びパフェの攻略に取り掛かり、祖父と孫は、無言で茶を啜る。 そして、6分後。 「申し訳ありませんでした、殿」 パフェを空にして、牛尾さんが立ち上がった。 「ああ、では行こうか、千歳」 「はい」 千歳は立ち上がろうとして、隣の椅子に置いた刀を掴んで…… いなかった。 「?! 刀が……!」 冷静沈着な千歳には珍しい叫び声に、牛尾さんが彼女に視線を向けた。 「どうしました?!」 「刀が、ない……」 千歳は、テーブルの下を覗き込んでみたり、隣のテーブルを探したりしたが、あの怪人を斬った刀は、影も形もなくなっていた。 「……どこに行ったんでしょう?」 「……まさか、盗まれたのでは?」 「だけど、先程まではあったのです。テーブルがひっくり返るまでは、確かに……どうしましょう」 「あれは、大林……ではない、喜多川八郎という者が持ってきた物ですよね」 「ええ、……返さなければいけないのに、一体どうしたら……」 千歳と牛尾さんが、顔を見合わせていると、 「それなら心配いらん」 自分の席に座ったままの殿様がそう言って、茶を一口啜った。 「「は……?」」 執事も孫も、台詞の意味を取りかねていると、 「なんだ、気付いていなかったのか? 回収に来ていたぞ、さっき。ご丁寧に新しい変装までして、よほど変装が好きなようだ」 殿様は、落ち着き払ってこう言った。 その言葉で、 「あ?!」 「……あのご婦人!」 千歳と牛尾さんが、同時に叫んだ。 確かに、老婦人がテーブルをひっくり返すまでは、刀は千歳の傍にあったのである。 「気がつかなかった……」 「そんな……」 呆然とする孫と執事に、 「まあ、やり方が気に喰わんが、もう刀を返す必要はない。さて、わしらは観客席に移動しようか」 勝本公は言って、席を立った。
さて、試合は第6試合。 埼玉代表『Shall We SABAGE?』と東京B代表『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』の対決である。 「ドラゴンゲートより、『Shall we SABAGE?』入場!」 司会の声とともに、会場のスピーカーから流れ始めたのは、某ダンス映画のテーマ曲。 それにあわせて、舞台の袖から、黒を基調としたコスチュームを纏った男性と、赤いドレスを着た女性が、ステップを踏みながら登場した。 「「?!」」 驚くギャラリーの前で、時には離れ、時には絡みあいながら、ダンスを披露する二人。 実は、彼らは全員が競技ダンス部に所属している。 という訳で、大勢の前でダンスを踊るのにも慣れていた。 女性の胸元まで大胆に開いた妖艶なドレス姿、そしてその下に隠されているであろう豊かなバストに、会場の男性たちから、 「エロい……」 「はあはあ……」 吐息が漏れた。 続いて、黒のパンツに青いシャツの男性と、淡いピンクのドレスの女性が、やはりダンスを披露しながら登場。 この女性も、かなりの巨乳である。 そして、最後に登場した青いハーフパンツに水色のシャツの男性は、黒を基調とするドレスの女性の手を取り、ステージ中央で、くるくると回転させた。 演技の邪魔にならないようステージの端に引き下がっていた4人もステージ中央に集まり、6人で決めポーズを作ると、 「ブラボー!」 「あんたらすごいよ!」 「お見事!」 ギャラリーから歓声が上がった。 競技ダンスとサバイバルゲーム。 サバゲーでは或る意味ミスマッチなのだが、それが受けて、会場、万雷の拍手を6人に送る。 だが、「サバゲーである意味ミスマッチな状況」を作り出すチームは、このチームだけではない。 「タイガーゲートより、『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』入場!」 司会の紹介とともに、まず登場したのは、名越みずえ嬢である。 その姿を視界に捉えた瞬間、 「おおおっ!」 「ハイカラさーん!」 「みずえさまー!」 ガブサバ会の元気娘の復活に、ギャラリーの声援が大きくなった。 もちろん、みずえさんは、『戦国武装』シリーズの林乱丸(はやし・らんまる)コスに身を包んでいた。 紫の着物に同系色の短袴というスタイルだが、短袴は明らかに短い丈で、そこからすらりと伸びる健康的な脚線美は、ギャラリーの視線を惹きつけるには十分だった。 「やっぱり、美脚だなあ……」 「はあはあ……」 お兄さんたちが興奮している間に、みずえさんはステージ中央までやってきて、背に負った大太刀(竹光)を抜いた。 「乱のすべて、ご覧下さい!」 決め台詞に、 「おおおっ! カッコええー」 「俺、“魔王”になりたい……」 お兄さんたち、更に興奮してしまった。 二番手は、ロミオ様こと、長倉平八と、ジュリエット様・赤橋園美のカップル。 長倉君は“太閤さん”、園美は“姐御”の衣装に身を包んでいる。 “太閤さん”と“姐御”は夫婦という設定なので、まさにこの2人には適したキャラ選択である。 “太閤さん”の衣装は、金ぴかの鎧兜。 長倉君の趣味には合わないのだが、長倉君は(これも武士の務め)と思い、ステージへと進んでいく。 しかし、 (……本当に、私が?) 赤橋園美、未だに最初の一歩が踏み出せないでいた。 すると、 「ほら、何やってんの。赤橋ちゃんの出番だよ」 後ろから、亜紀さまに背中をぽんと押され、園美は半ばよろけるようにステージに登場した。 胸元の大きく開いた、大胆なデザインの、白を基調としたくの一姿には、所々、ゴールドでアクセントが施されている。 そして、太もも丈の紅い網タイツが際立たせる脚線美、着物の裾から垣間見える、形のいいヒップ。 頭には紅い鉢巻を締め、黒いセミロングの髪は、おだんごにして結い上げているので、白い項が、観客たちの視線にさらされていた。 大胆な衣装と、園美の美しさに、観客席がざわめきに包まれる。 「ジュ、ジュリエット様、なんと美しい……」 「ふ、伏兵だ」 「ありえねえ。この学校は、美人しかいないのか?」 「“姐御”……はあはあ……」 数々の称賛の漣(さざなみ)の中を、園美は何とかかき分けて、長倉君の待つステージの中央に到着。 長倉君にも、 「きゃあ、ロミオ様ー!」 などと、聖ガブリエルの応援団席から、結構な量の声援が飛んでいるのだが、園美さんに対する称賛の声は、それを上回っていた。 (な、何なんですか、これ……) 一瞬、唖然とした園美だが、気を取り直し、2本の飛刀を構えて、にっこり、観客に向かって笑い、長倉君と共にポーズを決めた。 「へ、平和のために戦うんさー!」 「うん、あたし、がんばるよ!」 台詞を吐く声は、2人とも、やや緊張気味であったが、 「うおおおおおお! エロかわええええっ!」 「姐御ー!」 「ジュリエット様ー!」 「夫婦して、天下を取っちまえー!」 「がんばれー!」 場内からは歓声と拍手が湧き上がった。 その中で、 「て、天狗……このわ た しの予想を超えるとは……美しい」 と一言言って、ギャラリーに紛れ込んでいた紫英館高校の竹田君が失神したとかしなかったとか……。 かくして、園美は、お兄さんたちにも、一躍有名な存在となってしまった。 3番手は、カップルつながりということで、佐々木千恵子と二階堂瞳が揃ってステージに登場した。 なぜなら、千恵子は“お姫さま”の、瞳は“騎士”のコスプレだからである。 この二人、『戦国武装2』ではカップルという設定になっており、それ故、二人一緒にステージに出てきたのだった。 ピンク系の、ミニスカチックで、とにかくプリティーな着物に身を包んだ千恵子。 一方、青く光る西洋風の鎧に身を固めた瞳。 千恵子の衣装は、妹系属性で売っている彼女にはまさにピッタリだったし、170cmと、女性にしては長身の瞳も、よく鎧を着こなし、貴公子を思わせるような雰囲気を漂わせていた。 まさに似合いの二人。 「藤の花、戦場(いくさば)に散らせはしません」 「信義(しんぎ)のため、某は立たねばならぬ!」 ステージ中央で見得を切った二人に、 「千恵子ちゃん……はあはあ」 「二階堂さまー! ステキー!」 怪しいお兄さんからも、聖ガブリエルのお嬢様がたからも、声援が飛んだ。 続いて登場したのは、雪の宮さまこと、片桐芳乃さま。 “麦姫”の衣装で登場である。 前作とは打って変わって、“麦姫”の衣装は、膝丈の竜胆色の着物に、胸当てをつけただけの軽装で、女らしさを際立たせたものである。 黒い長髪と、白雪のような肌の芳乃さまに、よく似合っていた。 「泰平のため、戦います!」 台詞が関西アクセントになってしまったのは、ご愛嬌だったが、 「かわええええ」 「雪の宮様、なんとお美しい……」 とのため息が、ギャラリーから聞かれたのであった。 そして、美華様はお馴染みとなった“踊り子”のコスプレ。 紅色の襲(かさね)を意識した着物に、青と緑の花があしらわれた帯。 紅牡丹の描かれた唐傘をくるくると回しているそのお姿は、「優美」という熟語をそのまま体現したかのようであった。 「「美華ちゅわーん!」」 「踊り子たーん!」 ギャラリーのお兄さんたちが興奮する。 「ほな、はんなり行きますえ」 雪の宮さまの指導を受けた京ことばが美しい口から零れ落ちると、お兄さんたちは完全に萌え殺されてしまった。 まあ、ここまで完成度が高く、美しいコスプレが続けば、当然の結果であるかもしれない。 そこで登場したのが、“聖ガブリエルのオスカル様”こと生徒会長の斯波真理亜さま。 真打ち登場に、お嬢様がたからも、すっかり感覚が麻痺したお兄さんたちからも、大きな声援が飛ぶ。 オスカル様は、“女武者”のコスプレ。 紫を基調とした、西洋風なデザインも取入れた、凛々しい鎧姿は、男装の麗人である真理亜さまには、まさにぴったりだった。 そして、鎧姿に華を添えているのが、稲妻刀。 その名の通り、稲妻の形を模った刀なのである。 「武士(もののふ)の誇り、戦場(いくさば)に示さん!」 オスカル様の凛々しい台詞に、 「「「「きゃああああああ!」」」」 応援団のお嬢様方の声援が大きくなったのは言うまでもない。 最後に登場したのは、春山君と、一連のコスプレの仕掛け人、花の宮さまである。 春山君は“熱血参謀”の、花の宮さまは、“冷徹参謀”の衣装に身を包んでいる。 参謀つながり、ということで、2人揃っての登場と相成った。 “熱血参謀”の衣装は、白を基調とした鎧に、白いマント。 マントの中央にはデカデカと“愛”の一文字が染め抜かれていた。 (愛はないだろう、愛は……) と臨時参謀は渋ったが、 「あかんあかん、しっかりここはコスプレしてもらわんと。“イロモノチーム”色を濃くして、うちらの策謀が全国に知られないようにするんや」 と、千恵子さんに耳打ちされたので、仕方なく着ているという状況である。 一方、“冷徹参謀”の衣装は、白とピンクを配した、膝丈まである派手な陣羽織。 前立ての代わりか、頭には2本の金色の角の飾りがついている。 ちなみに、手にしている大きな白い扇には、“神算無敵”と、墨痕鮮やかに書かれている。 (千恵が冷血になって、背が10cm伸びたら、あのコスプレがぴったりなんだけどなー) 密かに残念がるみずえである。 それでも、流石、コスプレの仕掛け人だけあり、亜紀さまの衣装の着こなしは、それは見事なものであった。 そして、中央まで出てくると、 「……私は戦う! 義の世、築くまで!」 意を決したように叫ぶ春山君。 鋭いが、結構端正な顔と、衣装の着こなしに、 「きゃああああ」 聖ガブリエルの応援団から、それなりに声援が飛ぶ。 亜紀様は、相手チームの皆さんをチラリと見て、一言、こう言った。 「まあ、クズどもには負けんよ」 ニヤリと笑った亜紀様に、 「うおおおおっ、来たー!」 「参謀、憎いぜー!」 「でも、それがイイー!」 熱狂するギャラリーのお兄さんたち。 満足げな亜紀様を見て、 (つーか、これがやりたかっただけか?) みずえはこっそり突っ込んでいた。 その花の宮さま念願の(?)挑発に、相手の『Shall We SABAGE?』は流石に平静ではいられなかったらしい。 「クズ、ですって? そちらこそ、そのゴミのような格好は、どうにかした方がいいんじゃないかしら?」 紅いドレスの村野綾(むらの・あや)が、きっとお嬢様方を睨みつける。 「そこの、忍者娘さん。……子供のクセに、そんな格好をするなんて、背伸びもいいところよ」 村野さんは、黒い髪を掻き揚げた。 その仕草がなんともなまめかしく、男性たちからため息が漏れる。 「あら、貴女様こそ、流行遅れですわ。いまや時代は、私たちみたいな“エロかわいい”。ただのエロでは、乗り越えていけないのよ」 “お姫さま”千恵子が、すかさず、元キャラの口調を真似て反撃した。 「あ、あなた……」 村野さんは、千恵子さんをにらみつけた。 大胆な衣装といい、漂うエロスといい、“悪の女王”にピッタリの雰囲気である。 だが、 「だって、私たち、一番萌え萌えですから?」 千恵子さん、全く臆することなく、更に相手を挑発する。 「!」 咄嗟に声も出ない『Shall We SABAGE?』。 その隙を逃さず、 「みんなも、そー思うよねー?」 “千恵たん”は今度は観客席に向かい、にっこり微笑んでみせた。 「「そーだー!」」 「萌えー!」 「うぉぉぉぉぉ」 “千恵たん萌え”のお兄さんたちが、一斉に叫んだ。 更に、 「女の子が一番たくさんいるのはー!?」 “千恵たん”は、子供向け番組のお姉さんよろしく、観客席に向かって問いかけた。 すると、 「「ガブサバ会ー!」」 お兄さんたちが一斉に答えた。 「一番可愛いのはー?!」 「「「ガブサバ会ー!」」」 今度は、一般客やガブサバ会の応援団も巻き込んで、唱和する声が更に大きくなる。 「次の試合に勝つのはー?!」 「「「「「「ガブサバ会ー!」」」」」」 いつの間にやら、ギャラリーのほぼ全員が、千恵子さんに唱和していた。 中には、拳を突き上げたり、立ち上がっていたりする人もいる。 千恵子さんが、ギャラリーを制圧した瞬間であった。 「ふざけないで! 私たちを甘く見るんじゃないわ!」 村野さんは叫ぶが、その叫び声は歓声にかき消され、しかも、ガブサバ会のメンバーも、それに全く取り合わず、ステージに向かって手を振っていたので、顧みられることはなかった。
ステージを降りると、“熱血参謀”が“お姫さま”に、苦々しい表情で声を掛けた。 「何ですか?」 「……あれはやりすぎなんじゃないのか? 目立ちすぎだぞ」 「うーん……確かに勝ったら、ちょっと、ようないかも」 千恵子さんは軽く唇を尖らせた。 「……でも、“最強ですかー?”って、言わんかっただけ、マシやと思うけど?」 「それはそうだが……」 春山君は呟いた。 もし、「最強ですか」なんて言っていようものなら、本当に勝った場合、「ガブサバ会最強伝説」が作られてしまう。 「それに、もし勝っても、手柄は春山はんのもんにするっちゅう約束やったし、別にええのと違う? さっきのミスのことを、“佐々木千恵子がいらざるお節介をしたおかげで、敵の変装に対する策を考えていなかった”とでも公言しといたら、“驚異の春山戦術”に箔がつくし」 (なんだそりゃ) と春山君は思ったが、「まあ、そうだな……」と頷いた。 と、 「ああ、佐々木さん」 千恵子さんの背後から声を掛ける人物。 それは、先程敵を挑発した、“冷徹参謀”だった。 「はい、何でございましょう」 即座に猫を被った千恵子さんに、“冷徹参謀”はこう言った。 「次の試合、赤橋ちゃんを出すよ」 「は?」 ガブサバ会の参謀は思わず聞き返した。 「決まってるだろ。相手の女王様、やけに赤橋ちゃんにご執心じゃないか。ここは、赤橋ちゃんを出さないと、面白くないって」 「ワタクシも花の宮サマに賛成ですわ」 “林乱丸”コスのみずえさんも、“冷徹参謀”に賛成した。 「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ。姫さまと大将さま、みずえさまは外せないとして、あとのメンバーはどうなるのでございますか?」 「んーと、よしのっちとあたしと赤橋ちゃん。ひとみんを下ろそう」 「!」 千恵子さんは目を見開いた。 勘のよい瞳を下ろすのは、攻撃力を減じることになりはしないだろうか? 「花の宮サマ、すばらしい人選でございますわ!」 亜紀の横で、感激しているみずえを横目で見ながら、千恵子さんは春山君の耳元に口を寄せた。 「……どないする?」 「どうする、と言われても……」 「……瞳は勘がええから、割と戦闘向きなんやけど、園美は、ちょっと……。怒ったら、強うなる気もするけど、あの子、めったなことでは怒らへんからなあ……」 囁きながら、千恵子さんはため息をついた。 春山君の心臓の鼓動が速くなっていることには、全く気がついていないようだ。 「……しかし、伏兵は、名越さんと畠山さんだろう。あとのメンバーは本陣で防御。それなら、攻撃力もそれほどいらないんじゃないか?」 「……そやな」 “熱血参謀”の言葉に、千恵子さんは頷き、花の宮さまに向き直った。 「はい、では、そのように致しましょう。ですが、このことを、大将さまに伝えて、了承を取らなければなりません。一緒にいらして下さいますか、花の宮さま?」 「話が分かるねえ、“お姫さま”。わかった、オスカルのところに行こう」 花の宮さまは、ニヤリとした。 かくして、ようやく、メンバーが決定したのだが、千恵子さんは、一抹の危惧を抱きながら、ギャラリーへと向かった。 園美が、暴走するのではないか、と。
試合開始のホイッスルから5分が経過し、『Shall We SABAGE?』は、イライラしていた。 今までの作戦から考えて、必ず出撃してくるであろうガブサバ会が、全く出撃してこないのである。 「遅いわ、あの人たち」 池の北岸、丘の上に陣取った滝田エリカ(たきだ・エリカ)が、呟いた。 黒いドレスを着た彼女は、とても可愛いかった。 「まあまあ、そー、慌てなくても、ねえ」 滝田さんをなだめたのは、相方の初芝国一(はつしば・くにかず)君、通称“アッセー初芝”である。 なぜかハーフパンツである。 「あと5分、待つことになってたんじゃない?」 「あと5分ね……」 滝田さんは、腕時計をじっと見つめ始めた。 5分後。 「5分経ったわ」 「経ったね」 「敵、来た?」 「来ないね……」 「もう待てない。手はずどおり、行くわよ」 「しゃ、シャーっ!」 前方の茂みに姿を消した滝田さんを、初芝くんは慌てて追った。 ほぼ同時刻、 「もう10分経ったのに、まだ来ないなんて」 池の南岸の林の中に待機していた、高島恵似子(たかしま・えいこ)さんが、エアガンを片手に、待ちぼうけであった。 村野さんの影に隠れてしまったが、この彼女も、巨乳を誇っており、ピンクのドレスのうえからもその張りがはっきりとわかる。 「ああ、まだ来ないな……」 黒のパンツに青いシャツの、西郷雅彦(さいごう・まさひこ)君、通称“ゴルゴ西郷”が、それに応じる。 「10分待っても来ない時は、前に進む、ってことでよかったのよね」 「じゃあ、行くか」 西郷君は、その場で両腕を斜め45度に下げ、左太ももを90度近くまで上げてから、高島さんとともに、慎重に前進し始めた。 そして、西側にある、『Shall We SABAGE?』の本陣では、先程千恵子さんに完敗した村野さんと、その相方の武智清貴(たけち・きよたか)、通称“ローズ武智”が、池の水面を見つめていた。 先程から、ガブサバ会の池からの突撃を警戒し、本陣を守っていたのだが、ガブサバ会が動く気配はない。 しかも、池の北岸や南岸でも、交戦が起こった気配はない。 「こ、これは、ガブサバ会、本陣から一歩も出てこないつもりだな」 「ええ、向こうの本陣で決着をつけるつもりね」 ローズの言葉に、村野さんは頷いた。 「となると、皆の加勢にいった方がいい。今から、南岸からとちゅ……突撃しよう」 やや台詞をかみながらも、武智君が提案すると、 「そうね。ついておいで、下僕」 村野さんは、本陣のある丘を、颯爽と下っていった。
「ねえ、まだ攻撃できないの、オスカル?」 東側、ガブサバ会側の本陣で、リーダーに問いただす人物がいた。 犬養亜紀さまである。 「……待ちくたびれたんだけど」 本来は“突撃姉ちゃん”こと細川直子(ほそかわ・なおこ)さまのメインウェポンであるコルトXM177E2を首の後ろに回して、ゲーマー様は非常に苛立たしげに尋ねた。 退屈な時間が大嫌いで、常に何かをやっていないと気が済まない亜紀さまにとって、この「敵が来るのを待つ」という状況は、拷問に近かった。 「それは……」 リーダーの斯波真理亜さんも、先輩の亜紀お姉さまを前に、咄嗟に説得の言葉を見つけられない。 「まあまあ、亜紀はん、落ち着いて」 前代生徒会長であり、亜紀の友人でもある芳乃さんがたしなめるように言うが、 「でも、よしのっち、これじゃ目立てないよー。折角、あたしがこう、ばったばったと敵をなぎ倒す見せ場をさあ、ギャラリーの皆さんのお目に掛けようと思ってるのに……」 非常につまらなそうな表情で、ぶつくさ言っている亜紀さま。 彼女の忍耐は、もう限界に近づいていた。 「……ねー、もう突撃していい? あたし、退屈で死にそう、ねえ、園美」 「何で、わたくしに話を振るんですか……」 今まで黙っていたただ一人の一年生・赤橋園美がため息を混じらせつつ呟いた。 「だってさあ、ほら、あたしのプティ・スールだし、赤橋ちゃんは」 「やっ、止めてください。わたくしは了承しておりません。それに、あれは『剣道部!』を欺くための方便だったのではございませんか?」 某女子校小説のような趣味のない園美は、真顔でお姉さまに反論する。 「ウソから出た真(まこと)って言葉もあるじゃないか、ねえ園美」 なぜか自分に迫ってきた亜紀お姉さまから、園美は身体を引いた。 「止めて下さい。わたくしには平八さんがいるんです」 「いーじゃん」 「よくありません」 「あ、亜紀はん、余りうるさいと……」 と、 「敵が来たようだ」 オスカル様の一言に、ガブサバ会に緊張が走った。 即座に口論を止め、迎撃体勢を整える一同。 「では、そろそろ……」 オスカル様が、シャルルヴィルの引き金を引こうとした刹那、花の宮さまの口が開いた。 「かかれぇぇぇぇぇ!」 (あれ、今の突撃の合図? でも、この声はゲーマー様だし……) 丘の麓で身を隠したまま、名越みずえは首を傾げた。 突撃合図は、オスカル様のエアガンの音ということになっていたのだが。 すると、 「命をくれえぇぇ!」 花の宮様の叫び声が響き渡った。 (……つーか、キャラ違うだろうが) みずえの突っ込みと呼応するかのように、亜紀さまは、バリケードの上に仁王立ちになり、両腕を胸の前で組み、胸をそらし、 「余がこの国の、王である!」(どーん) 偉そうにポーズを決めて見せた。 本陣で、木やバリケードの陰に身を隠すオスカル様や雪の宮さまは、そんな花の宮様のお姿を、ただただ呆然と見やるばかりである。 「明秀が、好きか?」(にやり) (な、ナニこれ? どうしたんですか?) バリケードの蔭で敵を狙うチャンスをうかがっている園美も、花の宮さまの動きに、頭が全くついていかなかった。 「ははは、さあ撃てぇっ! 撃ってみよぉ! 儂(わし)は死なぬわぁ! 天がこの信永(のぶなが)を、生かしおるのよぉぉ!」 と、 「ぼしゅっ」 飛来した一発の弾丸が、花の宮さまの左胸に命中した。 バリケードから転げ落ちる花の宮様。 「お農(のう)、痛いのう……ヒット」 暴走した花の宮さまは、別キャラになりきったまま、セーフティーゾーンへと去って行った。 (な、何やってんだよゲーマー様は) みずえは舌打ちしたい思いだったが、銃を構え直した。 幸いなことに、敵も(あれ、なんだったんだ?)と言いたそうな顔で、みんな丘の上を見ていて、みずえさんの方に気付いた様子はない。 で、気を取り直して、 「ぼしゅっ」 オスカル様が攻撃を開始したので、みずえさんはスコーピオンの引き金を引いた。 小さな音がして、見事、一番左翼にいた、黒いドレスの女性に弾が命中する。 「うそ、ヒット!」 思わぬ方向からの一撃に、滝田さんは唖然とした表情のまま、フィールドを後にする。 そして、ほぼ同時に、 「フリーズあそばせ」 “天使の美華ちゃん”こと、畠山美華様も、一番右翼にいた高島さんの背後を取っていた。 不意をつかれた高島さんは、抵抗することの無駄を悟って、素直に両手を挙げた。 「え?」 「一体何なんだ?!」 思わぬ攻撃に、動揺する『Shall We SABAGE?』。 そこに、 「堪忍どすえ」 すかさず、雪の宮さまの“みにみちゃん”から、大量の弾が発射された。 「ひっ、ひヒット!」 「しゃ、シャーっ!」 「いっ、命っ!」 奇襲に浮き足立ち、思わず木の陰から出てしまった男性陣が、次々と“みにみちゃん”の餌食になった。 「あと1人!」 ガブサバ会は、村野さんがいると思われる東側斜面に、猛烈な射撃を加える。 伏兵のみずえと美華も、必死に村野さんを探す。 だが、情熱的な赤いドレスをまとった村野さんは、どう隠れたのか、見当たらない。 ガブサバ会側に焦燥感が現れた時、 「勝負よ、忍者さん」 園美の首筋に、何か固いものが突き付けられた。 振り返った彼女の瞳に映ったのは、ギリースーツに身を包んだ、村野さんだった。
「な、何で……」 青ざめる園美に、 「当たり前じゃない。貴女と私、どちらが真のサバゲーエロス女王か、勝負を付けるまでは、あの馬鹿下僕のようにやられたりはしないわ」 もこもこのギリースーツを着込んだ村野さんは答えた。 「それを、全然色気のない、その格好で言われても……」 園美が軽く皮肉ると、 「う、うるさいわね! 今から脱ぐに決まってるじゃない!」 村野さんはギリースーツを脱ぎ始めた。 この時点で、芳乃さまも真理亜さまも、揃って村野さんの方を向いていた。 一発エアガンを放てば、それでおしまいなのだが、彼女たちも余りの事態に、手を出すことを忘れている。 そして、ギリースーツを脱ぎ捨てた村野さんに、ギャラリーの男性客の視線が釘付けになった。 なんと、彼女が纏っているのは、紅いドレスではなく、紫色を基調とした、露出度の高すぎる和服――要するに、『戦国武装』シリーズの“女王様”のコスプレだったのである。 美しいプロポーション。そして発散されるエロス。 「じょ、“女王様”……」 「どうか、下僕と呼んでください!」 ギャラリーの男性客の一部が、その場に土下座し始めた。 「な、何なんですか、その危険な格好……」 園美は(エロスに負けずに)突っ込むが、 「お黙り! 小娘! 自分のことを棚にあげて何をほざくか! おとなしく勝負を付けなさい!」 女王陛下は、ハンドガンを構えた。 「だ、だからって、そんな訳の分からない論理が成り立つなんて……」
「?! 平八さん?!」 園美が我に返り、ギャラリーを見やると、誰かが大きく手を振っているのが分かった。 きんきらの兜の前立てが、太陽の光を反射している。 「平八さん……」 彼氏の存在を確認した園美の中で、昂った気持ちが急速に鎮まっていった。 「……わかりました」 やや緊張した顔で、園美は頷いた。 「ほほほ、それでいいのよ、小娘」 満足げに頷く村野さん。 どうやら、自分の勝利を確信しているようである。 「では、背中合わせに立って、10歩歩いたら撃ってもらおう」 オスカル様が言った。 「わ、わかりました」 「結構よ」 二人は背中合わせに立った。 「1,2,3,4,5……」 オスカルの声に合わせ、一歩ずつ足を出す二人。 その様子を、ギャラリーも、声援を飛ばさず、真剣に見守っていた。 「6,7,8,9……」 歩きながら、園美は、手にしている9mm拳銃を握り締めた。 (平八さん……) 「10!」 (力を……貸して!) 「「ぼしゅっ」」 二つのハンドガンから、二つの弾が発射された。 一つは、村野さんに向かって。 そして、もう一つは…… 「?!」 村野さんの右前方に立っていた真理亜さまが、その場から飛びのいていた。 自分を狙って、弾が飛んできたのだ。 「卑怯な!」 間一髪凶弾を回避したオスカル様は、一瞬で怒りを爆発させた。 2500発連射可能なシャルルヴィルが、咆哮する。 「許しまへんえ!」 雪の宮さまも、“みにみちゃん”を連射する。 たちまちのうちに、撃墜される“女王様”。 「おっほっほ……今度は負けないわよ!」 あくまでも気高く、そして美しく、村野さんはフィールドを去っていった。 その一方で、 「あ、あの……ヒットです」 園美も両手を挙げていた。 「赤橋君!」 真理亜が悲鳴を上げた。 芳乃も眼を瞠る。 園美も、敵の卑劣な銃弾に倒れてしまったのだろうか? だが、彼女たちの狼狽は、数秒で終わった。 「あ、あの……今の攻撃で、私にも流れ弾が、その……当たってしまって……」 天文気象部の部長が、申し訳なさそうに呟いたからである。 「……」 「……」 「そうどすか……」 ガブサバ会の本陣に、微妙な空気が漂う中、終了のホイッスルが鳴った。
「よしよし、この辺でよいじゃろう」 会場からは少し離れた場所で、こう呟いた人物がいた。 ……喜多川八郎である。 今の彼の格好は、腰の曲がった和服姿の老婆である。 唐草模様の風呂敷包みの他に、いまひとつ、手にしているのは、和泉守兼定。 実は、じいさまの予想通り、ドサクサに紛れ、大レストランで千歳さんから刀を奪ったのは、老婆に変装した喜多川だったのである。 周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、老婆は、道端の深い林の中に入った。 三分後。 「ふーっ。これでオッケー☆」 林の中から出てきた喜多川は、老婆の変装を脱ぎ捨てていた。 黒縁の眼鏡をかけた顔は、老人のものではなく、可愛らしい少女のそれだった。 身に纏っているのは、聖ガブリエル女学院の制服の、グレーのブレザーとスカート。 もちろん、指定のソックスと靴もきちんと履いているし、手には指定のカバンも持っている。 セミロングの髪は頭の下で一つに束ね、背筋をちゃんと伸ばして立っているその姿は、ガブリエルの生徒そのものであった。 「あとは、これを、お局さんに渡さないとなー。どこにいるんだろ」 カバンと兼定を一緒に持ち、ガブリエルの生徒に変装した喜多川君は歩き始めた。 だが、流石の彼も、気がついていなかった。 後方から、何人もの人間が、彼に危険な視線を投げかけていることに……。 さあ、星橋の二十面相・喜多川八郎に迫る危険な影とは?! そして、お嬢さま方の最後の敵の正体とは? 第20話、公開日、未決定!(爆)
「いよいよ最終試合を迎えたお嬢さま方。 |