まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第十八話
| ◇オスカルを守れ! 地区大編◇ |
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「ぐううううう」 腹の虫が、盛大に鳴いた。 一斉に自分に向けられた視線の束で、 「あ……」 聖ガブリエル女学院高等部1年の金沢千歳は、自分が猛烈に空腹であることに気がついた。 「……そ、そういえば、昼食をまだ取っていなかった」 その場にいる人々とは、全然別の方向を向いて、千歳は状況を説明した。 「ほう、そうなのか」 そう答えたのは、千歳の外祖父である、勝本信義(かつもと・のぶよし)。 5年前まで警察庁長官を務め、“史上最強の長官”と恐れられた人物なのだが、千歳はそのことを知らない。 「あ……千歳さん、ずっと寝てたから……」 千歳の同級生で、「ガブサバ会」の臨時メンバーである赤橋園美(あかはし・そのみ)が、顎の下に指を当てた。 眼鏡っ子、ストレートの黒髪、美人、ナイスバディと、男子が萌える要素を相当数所持しているのだが、本人はそのことを否定している。 「あちゃあ……、千歳、うちら、先にご飯、済ませてしもたんやわ」 こてこての関西弁で、申し訳なさそうに言ったのは、同じく同級生で、「ガブサバ会」の参謀・佐々木千恵子。 この少女も、とても愛らしいのだが、その日本人形のような容貌に似合わず、非常な智謀の持ち主でもあった。 「千歳の分を、残しとくべきだったなー。失敗したぜ」 舌打ちしたのは、「ガブサバ会」のアタッカー・名越みずえ。 茶髪に三つ編みという、赤毛のアンを彷彿とさせる容貌なので、黙って立っていればそれなりに魅力的なのだが、生来の元気者なので、“野生化した赤毛のアン”という評判が、無くはない。 「だね〜。それより、ちとちゃん、身体は大丈夫〜?」 「ガブサバ会」臨時メンバーの、二階堂瞳(にかいどう・ひとみ)が、やや間延びした口調で尋ねた。 恵まれたプロポーションに美しい顔、そして歌の才能と美声の持ち主で、カラオケパーティーは、全てこの人の独擅場となる。 「あ、いや、身体は大丈夫そうだ。……多少疲れが残っているが」 突然の質問に、千歳は、慌てて答えた。 「そっか〜」 「ふーん、そしたら、千歳、次の試合は休んどき。ご飯も食べんとあかんしね。ゲームに参加できそうやったら、3試合目から、復帰したらええし」 参謀……というか、ガブサバ会の影の支配者である千恵子さんが、優しく勧める。 「……では、そうしよう」 千歳さんは呟いて、歩き始めた。 と、 「……おいおいおいっ、抜き身のまま、それを持ち歩くなって!」 “清水一家”の跡取り・清水哲雄が、慌てて彼女を止めた。 千歳は、はっとして立ち止まった。 自分の左手には、黒塗りの鞘。 そして右手には、日本刀。 銃刀法違反で逮捕されかねない自分の状態に気がついて、「あ……」と、千歳は小さな声を挙げた。 どうしていいのか分からず、動きを止めた千歳に、 「千歳、とりあえずその刀を収めろ」 外祖父が命じた。 「は、はい」 その言葉に、千歳は素直に従い、刀を鞘に収めた。 制服のスカートのベルトに刀を差すわけにもいかないので、両手でそれを持つ。 「よし。では、どこかの売店に行こうか」 満足げに頷き、踵を返した外祖父の後を、千歳は慌てて付いて行く。 祖父の背中を見ながら歩いているうちに、混乱の極みにあった千歳の心も、だんだん落ち着いてきた。 事ここに至るまでの経過を反芻する。 喜多川(本物)の依頼、本人確認騒動、そして、直江どのに変装した敵、絶体絶命の自分を救った刀。 (はて) 歩きながら、千歳は首を傾げた。 (……この刀、喜多川は、一体どこから持ってきた?)
コテージ内に、雷声が轟いた。 「ひ、ひええええええ」 藤原家の執事・堀尾久光(ほりお・ひさみつ)は、主人の前に這いつくばった。 「兼定をどこにやったのです! はっきりおっしゃい!」 彼の主人・藤原八重子(ふじわら・やえこ)さまは、怒り収まらず、また雷を落とす。 その様子を、友人の犬養亜紀(いぬかい・あき)、片桐芳乃(かたぎり・よしの)、そして千歳の兄の(よしはる)と斯波真理亜(しば・まりあ)のカップルが、恐る恐るご覧になっている。 「さ、先程、金沢様に変装した暴漢が、煙幕を張ったときまでは、確かにあったんでございます。ですが、それが晴れたら、兼定が失われていたのでございます……そう言えば、煙の中で、誰かがぶつかったような……もしかしたら、そ奴が、持って行ったのやも……」 「もしかしたら、では、なくってよ!」 八重子さまは、堀尾さんを睨みつけた。 「間違いなく、そ奴が持って行ったのです! ……おのれ二十面相、よくも私の兼定を……」 八重子さんが怒りに震えていると、 ♪ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃーんちゃーん ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃーんちゃーん 往年の怪物バラエティー・『何時だよ? 全員集合』の、オープニング曲が流れた。 「あ、電話だ」 義晴兄さんが、ポケットから携帯を取り出す。 「もしもしー? うん、俺ー。で……うん、みんないるぜ。……オッケー、分かった。じゃ、伝えるわ」 電話を切ると、「あ、今、千恵子ちゃん……佐々木さんから連絡。次の試合のミーティングをするから、控えテントに、今すぐ、全員集合! ってことだ」と、義晴兄さんは一同に告げた。 「りょーかい」 「そうか。ありがとう、義晴さん」 「……私も行くわ。久光、兼定のこと、よろしく頼みますよ」 「へ、へへーっ」 再び平伏する堀尾さんの前を、三宮さま、オスカル様、義晴さん、そして、ようやく気絶から覚めた美華さまの足音が、通り過ぎて行った。
雨は既に上がり、せわしなく流れる雲の切れ目からは、早くも青空が覗いている。 その空の下、サバイバルゲーム高校生大会・南関東地区大会は、第4試合・『魏新特選隊』対『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』に移っていた。 だが、観客席には、緊迫したムードが漂っている。 というのは、聖ガブリエルの生徒たちに、「オスカル様が、相手チームの非道な破廉恥漢に、操を狙われている」という情報が流れたからである。 また、危ないお兄さんたちも、既にインターネットなどで、『魏新特選隊』のリーダーが、セクハラ男であることを知っており、「俺たちのガブサバ会に手を出したら承知しない」という気持ちで結束していたからである。 そのため、観客席には、 「星橋高校のどこがお坊ちゃん高校なんだ?」 「プリンセス・ベアーズを皆で非難しよう!」 等々、リーダーの筒井を非難する垂れ幕が掛かっており、 「皆様! 次の相手は、私たちに仇なす星橋高校! 不覚を取らぬよう、私たちの気持ちを、オスカル様にささげようではありませんか!」 と、聖ガブリエルの応援団のリーダー格の生徒が叫んでいた、 そんな中、 「ドラゴンゲートより、『魏新特選隊』入場!」 司会の声とともに、「九頭竜ボール」の「クラーザのテーマ」が流れ出す。 そして、入場してきたのは、男6人。 優男風、片眼鏡(間違っても、スカウターではない)を掛けた容姿端麗な男、やや小太りの男、狐顔の眼鏡を掛けた男、童顔の男、全員がフランス陸軍の迷彩服に身を包んで…… いや、一人だけ、違った。 ぼさぼさの、肩まである長い黒髪の男だけは、白いトレーナーに色の落ちかけたジーンズという、だらしのない格好であった。 一人だけ目立っている彼に、 「あれってもしや、Rのコス?」 観客席がざわつく。 そのざわめきの上に、 「タイガーゲートより、『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』入場!」 司会の声が流れると、ざわめきは歓声に変わった。 「ムーン無いと伝説」のメロディーに乗ってステージに現れる、くの一姿の少女5人、そして着流しのオスカル様に、 「きゃーっ、オスカル様ー!」 「美華ちゅわーん!」 「ひとみーん!」 「ジュリエットさまー!」 聖ガブリエルの生徒たちや、危ないお兄さんたちから声援が飛ぶ。 だが、それだけでは終わらない事態が発生した。 ステージの袖から、更に二人の人物が現れたのである。 一人は、東京東高校の制服に身を包んだ、臨時作戦参謀・春山純。 そして、もう一人は―― 「ち、千恵たん?!」 聖ガブリエルの制服(灰色のブレザー)姿の、作戦参謀・佐々木千恵子であった。 思いがけない彼女の登場に、 「うおー、千恵たんー!」 「ちえちゃん、萌えー!」 「千恵子ちゃん、お兄ちゃんは待ってたぞー!」 危ないお兄さんたちが、ヒートアップした。 「さ、佐々木様が……」 「まあ、これで、我が校の勝利は間違いなし!」 聖ガブリエルの生徒たちも、作戦参謀の復帰に大喜びである。 と、 「久しぶりだな、真理亜」 優男風の少年が口を開いた。 筒井コンツェルン会長の長男、筒井康介その人である。 「……お久しぶりです」 オスカル様、こと、大手総合商社“久地紅”会長令嬢の斯波真理亜様は、視線だけを動かした。 そのやり取りだけで、ステージ上は緊迫した空気に包まれた。 「嫌だなあ。そんな怖い顔して。対戦って言ったって、たかがゲームなんだから、仲良くやろうぜ?」 どこに隠し持っていたのか、紅いバラの花束を右手に持った康介は、肩をすくめて見せ、 「ほら、プレゼントだよ、真理亜。俺の愛をこめて、さ」 と言うと、うやうやしく花束を真理亜に捧げた。 「お引取り下さい。私とあなたとは、知り合いではありますが、親しく言葉を交わす仲ではない」 事務的な口調で答える真理亜さま。 「そうだよ。大体なあ、オスカルには、既に婚約を考える人が……」 亜紀お姉さまが、闖入者に向かって冷たく言い放つが、 「金沢って人のことかい?」 康介は、軽い口調で答えた。 「彼が、あの金沢教授の息子さんだってことは知ってるよ。……だけど、それだけじゃん。実際さあ、そんなやつに、将来性があるの?」 言い終えると、康介は鼻で笑った。 (あの金沢教授って……ちとちゃんのお父さん、有名な人なの?) 対峙しながら、瞳が首を傾げる。 その一方、 「あなたという人は……」 康介の台詞に、真理亜の心証が、一層悪くなった。 だが、それに気付かぬ風を装って、康介は更に、 「その点、俺は違うよ。俺には、筒井コンツェルンの三代目総帥の座に着くことが、既に約束されている。世界の何百分の一かの金と権力は、確実に俺の手元にやってくるのさ。その金沢って人が、幾ら頑張っても、手に出来ないような、ね。だったら、俺と結婚しちゃったほうが、将来楽しく暮らせるよ、真理亜」 「……あなた様と一緒にいるだけで、将来不幸に暮らせそうですわね」 横から皮肉を言ったのは、佐々木千恵子さんである。 「いくら世間的な体裁を繕うことが出来ても、インターネットを、自分の支配下に置くことが出来ると思っていらっしゃるのでございますか? 某掲示板のログと、まとめサイトの印刷ページを、一度あなた様に読んでいただきとうございますわ」 千恵子さんの台詞に、 「そーだ!」 「筒井は切腹しろ!」 「強姦罪で訴えるぞ!」 「不買運動だ!」 「俺、ベアーズの試合見に行かない!」 「プリンセススーパーで買い物もしない!」 インターネットで情報を得ている危ないお兄さん方が、野次を飛ばす。 すると、 「インターネットの不確かな情報に、惑わされているようですね、お嬢さん」 スカウター……じゃない、片眼鏡を掛けた男が、一歩前に進み出た。 彼の名は、佐藤光泰(さとう・みつひろ)。 “佐藤弥”の創立者一族の、直系の子孫である。 「証拠の画像と動画、あなたに電子メールで送りつけて差し上げてもよろしいのですよ? それに、不確かだとしても、そういう噂がインターネットで出回る、という素地がそちらにあることを、反省すべきなのでは?」 千恵子さんが言い返す。 「ふ、そんなことは全部でたらめですよ。画像など、いくらでも改竄の余地がある。今のコンピュータの技術は進んでいますからね。紫髯の竪子の鎧兜を身につけたお嬢さんが、文帝陛下に首を刎ねられる画像だって作成可能です。ましてや、他の画像を作成するなんて、お手の物ですよ」 (ていうか、なんで三国志やねん) 千恵子さんは心の中で突っ込んだが、そこはお嬢様の仮面をかぶり、 「……その例え、感心しませんわね」 と言うに止めた。 と、 「ち、ちえたん……はあはあ……」 狐顔の男・江島行彦(えじま・ゆきひこ)が、千恵子さんに熱い視線を送る。 実は、高校生投資家である江島の裏の顔は、熱烈なアニメオタク。 株で儲けたお金は、レアなアニメグッズに消えていくのである。 特に、妹属性が大のお気に入りなので、千恵子さんのことも、『月刊種子島』でチェック済み。 家には佐々木千恵子の等身大パネルまで飾っている、との噂も、学校内では囁かれていた。 「ち、ちえたん、こっち向いて……写真撮らせて……」 エアガンの代わりにカメラを構える江島の狐顔は、すっかりとげとげしさが消えて、だらしが無くなっている。 (ゆ、行彦、アブねえヤツ……) 江島の隣で、やや小太りの羽田翔(はねだ・しょう)が、恐々と友人の豹変振りを見つめていた。 (な、何やコイツ……) 江島の様子を見た千恵子さんの顔が強張る。 咄嗟に春山君が、千恵子さんを庇うように、ステージの前に進み出た。 だが、 「千恵たーん、こっち向いてー。等身大のフィギュアを作りたいんだよー。ツンデレもいいけど、もっとかわいらしく微笑んで〜」 江島は全く気がつかずに、カメラのシャッターを押しまくっている。 この事態に、流石の千恵子さんも、全身を強張らせた。 もはや、佐藤と論戦するどころではない。 と、 「お黙りなさい!」 ステージ上にいる誰のものでもない声が響いた。 その、決して荒々しくはないが、全てを平伏させずにはいられないような声に、会場にいる全員が雷に打たれたような衝撃を受け、発生源に一斉に視線を向ける。 ステージの袖。 理知的な風貌。 銀縁メガネ。 「つ……月の宮様?!」 聖ガブリエルの応援団からも、そして、ステージにいるガブサバ会のメンバーからも、腕組みしてすっくと立っていらっしゃる藤原八重子さまを見て、驚きの声が漏れた。 露骨な千恵子さん攻勢を続けていた江島も、彼女の威風に打たれたか、その場で石化している。 「『魏新特選隊』! もし、真理亜さんを、婚約者としたいのなら、フィールドで、正々堂々と勝負なさい! 我が軍は池に突き出た半島の突端から、池に向かって出撃いたします。あなた方は、その南側の岸から、ホイッスルと共に出撃なさい。そして、リーダーが撃たれた方が負けですわ。騎士道精神に則り、公平な条件で勝負をつければ、真理亜さんも、結婚を承知するのではなくって?」 「お、お姉さま……」 困ったような声を出す斯波お姉さま。 だが、それとは対照的に、 「なるほどね。そうしたら、大義名分も立つってわけか。……面白いじゃねえか。正々堂々と受けてやるぜ」 筒井康介は舌なめずりした。 「そうね、そうなさい。真理亜さん、あなたも異存ないでしょうね」 冷たく後輩に言い放つ月の宮さま。 「は、はい……」 真理亜は、渋々首を縦に振った。 これ以上、お姉さまに逆らえば、どうなるか分からない。 「結構! では、両軍とも、健闘を祈るわ」 「へっへっへ。真理亜。お前を正々堂々とモノにしてやるぜ」 「……卑劣な奴め」 真理亜はそれだけ言って、ステージを後にした。 この展開に、応援席のお嬢様方は、騒然となった。 「お、オスカルさまが……」 「信じられませぬ、この敵の非道さ……」 「アンドレさまがお可哀想……」 生徒たちのめいめい勝手な感想は、やがて、 「「オスカル様ー! 勝って下さいませー!」」 「「アンドレ様のためにも!」」 観客席全体を揺るがす叫びへと変わって行った。 その展開に、 「アンドレ様って……俺のこと?」 観客席にいた義晴兄さんが、恐る恐る自らを指差していたのだが……。
『魏新特選隊』の作戦参謀補佐である羽田翔(はねだ・しょう)は、ステージの袖に引っ込むやいなや、佐藤光泰に詰め寄っていた。 「何ですか、騒々しいですよ、翔君」 片眼鏡の奥にある眼で、羽田を冷ややかに見据えながら、作戦参謀の佐藤が呟く。 整ってはいるが、どこか冷たさを感じさせる顔立ち、そして左眼の片眼鏡(ちなみに伊達)が、まさに切れ者というイメージを作り上げていた。 「ふざけんなよ、佐藤。これじゃあ、全然サバゲーじゃねーじゃないか! 単なる決闘じゃん! それに、普通にサバゲーやったって、勝てる相手なんだぞ、今のガブサバ会は! それなのに……」 対する羽田は、迷彩服に包まれた若干太めの身体を揺らしながら、佐藤に食って掛かる。 迷彩服のせいでよく分からないが、実は、羽田は結構筋肉質の身体をしている。 というのも、フィールドでエアガンを持って、長時間駆け回っても大丈夫なように、日々トレーニングを積んでいるからである。 ちなみに、羽田のサバゲー歴は2年。 この『魏新特選隊』では、最も経験豊富なプレイヤーである。 しかし、 「いいじゃありませんか。あの方式でも、我が軍が勝ちますから」 ベテランプレイヤーに、サバゲー歴1ヶ月半の作戦参謀は、落ち着き払ってこう答えた。 「いや、わかんないぞ。天気が変わって、風向きが、北寄りになってるから、向こうの方が、ちょっと有利だ。もし、射程距離の長いエアガンで一撃されたら……」 「大丈夫ですよ。向こうのエアガンには、この池を越える長さの射程距離はありません。むしろ、我がほうのエアガンが射程距離は長いです。ですから、互いに接近しあい、長距離の銃撃戦になった場合、こちらが先に有効攻撃を加えることができます。勝ちは決まったようなものです」 「そりゃあそうかもしれないが……」 羽田は、なおも反論しようとしたが、やめた。 佐藤の機嫌を損ねることを恐れたのだ。 実際、この佐藤は、恐ろしい。 というのは、彼が、「自分の言ったことは、必ずやりとげる」というモットーを、忠実なまでに守っているからである。 このサバゲーチームのスポンサー企業の獲得、迷彩服の特注、装備の特注、フランスから退役軍人をコーチとして招聘…… 実現不能だろうと高をくくり、メンバーが冗談で言ったようなことまで、全て実現させてしまったのは、このやり手の佐藤なのだった。 「でも、相手は、あの佐々木千恵子だぜ。あいつがステージで放つ言葉は、全部フェイクだって、お前、そう言ってたじゃないか。それを……」 精一杯の抵抗を籠めて、羽田はもう一度、方針の転換を求めたが、 「……大丈夫ですよ。幸いというか何というか、行彦が、あの諸葛亮気取りのお姫様の舌を封殺しましたからね。それに、あの眼鏡のお嬢さんの言葉は、ガブサバ会側にも予想外でしょう。あの調子では、康介が二喬(にきょう)を傍に侍らすのも、時間の問題ですね」 微笑を浮かべながら、佐藤光泰はこう言うと、 「ふっふっふ。私より頭のよい人間など、このサバゲーハイには存在しないということを、証明しなければ……自らを“カイザー”などとほざく、成り上がり者を成敗して、サバゲーハイの皇帝を名乗るべきは、大魏皇帝たるこの私ですからねえ……」 片眼鏡を不気味に光らせながら、悦に入っていた。 「……」 (やっぱ、こいつを敵に回したくねえ……) 羽田は身震いした。 ちなみに、彼の後ろでは、 「もし千恵たんを撃墜したら、等身大フィギュアのモデルになってくれるかな……そうしたら抱いて寝るんだ……株で儲けたお金もあるし……」 江島が呟いており、 「真理亜は俺のもんだぜ」 筒井がエアガンを構えてみせながら不敵な笑みを見せ、 「待てー! 20面相!」 「違います、私はRです」 大林君と喜多川君が、いつものように追いかけっこ(というか漫才)を始めている。 (……ああ、佐藤と言い、こうちゃんと言い、ゆっきーに、オーバに、はっちゃんに……オレの友人とは言えども、何でこんな奴らばっかり集まるんだよー!) “常識人”を自称する羽田は、頭を抱えて叫びたくなったのを必死にこらえた。 「……そうだ。勝利を確実なものにするためには、この策を使うべきですね」 「策?」 佐藤の台詞に、羽田は我に返った。 「ええ、康介だけを、池の別ルートで迂回させて進軍させ、残りの私たちは、5人一緒に、正面から突撃するんです。“リーダーが撃墜されれば終わり”というルールですから、ガブサバ会は、5人組から攻撃するか、康介を撃墜するかで迷うはずです。その迷っている間に、斯波さんを集中攻撃……とまあ、こういう訳ですよ」 羽田は、提案された策を大急ぎで検討した。 ……なるほど、自分がガブサバ会のリーダーなら、確かにこれは、一瞬迷う。 「……でも、ほんの2、3秒しか稼げないんじゃないか?」 羽田が疑問を呈したとき、 「なーに言ってんの。俺がいるじゃないの」 筒井がいる方向と反対側から、筒井の声がした。 羽田が声のした方向を振り返ると、そこには、筒井が立っていた。 ……いや、着ている服が、天才探偵Rのコスのままだったので、喜多川が変装した姿だと分かった。 「はっちゃん、お前って本当に20面相だな……」 喜多川の早変わりに慣れている羽田も、彼の変装の見事さに、思わずため息をついたが、 「そうか、それで、こうちゃんの身代わりになるって訳か。それで、あとの全員は、顔を隠して、同じ格好をする、と」 流石に策の飲み込みは早かった。 こうすれば、2,30秒、あるいは、もっと時間を稼げる。 「そういうことです。今回も、喜多川君用のスケルトンフルフェイスゴーグルが役に立ちそうですね……」 佐藤は微笑した。 「ふん、佐々木千恵子、貴女の才覚が姜維どころか、孟達にすら及ばないことを、私が全力で分からせてあげましょう。……行きますよ仲達」 (つうか、仲達って誰だよ) 羽田翔は、心の声で突っ込んだ。
ステージから降りると、千恵子さんは、校内で、最も苦手とする先輩に頭を下げた。 「あのアニメオタクに怯えるなんて、貴女らしくもなかったですけれど、まあ、体調が悪かったということで許してあげます。それに、佐藤という人は、なかなか手ごわそうでしたからね」 眼鏡の位置を直しながら、藤原八重子さまはやや辛口の評価を加えた後、 「それより、あの作戦で、本当にいいのでしょうね?」 後輩に念押しした。 「……私は、大将さまの腕を信じております」 千恵子さんは答えた。 「そうね……私も信じるしかないわ」 月の宮さまは言った。 彼女の頭上では、北からの風が吹き募っていた。
ガブサバ会も、池の北岸に陣取ったような様子が遠望できる。 そして、ホイッスルが鳴る、30秒前のことだった。 「ぴぴぴぴぴ」 江島行彦の携帯電話が鳴ったのである。 その瞬間、江島の表情が一変した。 「む……買ってた株が上がったか?」 急いでポケットから携帯電話を取り出し、画面を見た江島は、 「な、何だって!」 思わず叫んだ。 「午後から全面安の展開で、平均株価がたったの30分で昨日の終値より1530円も下落だとぉ?! しかも、下がり続けてやがる。ちくしょう、何でだ?!」 江島の台詞に、筒井と佐藤が、思わず振り向く。 「マジかよ?!」 「大暴落ですね、これは」 身内に社長やら会長やらがたくさんいるせいか、これからの景気のことを考え、二人の眉が曇る。 実はこの大暴落は、とあるスジの工作により、別の面々に影響を及ぼすためのものなのであったが、図らずも、『魏新特選隊』にも、影響を及ぼしてしまった。 その別の面々が、どうなったのかは、皆さん、ご承知置きの通りで……ゴホゴホ。 ……閑話休題。 とにかく、江島は一気に焦った。 「こうしちゃいられない。一刻も早く、売り抜けないと。じゃ、俺、抜けるわ」 一言言い捨てると、彼は、池から上がり、エアガンを持って、フィールドの外へと走っていってしまったのである。 たっぷり3秒の沈黙の後、 「……って、おいっ、ゆっきー! ちょっと待てよ! 試合はどうなるんだよ!」 羽田が怒鳴った。 その怒鳴り声に、試合開始のホイッスルが重なる。 そして、更に重なった音がある。 エアガンの発射音だった。 直後、 「そ、そんな! ヒット!」 佐藤光泰が、両手を挙げていた。
羽田は反射的に叫んでいた。 そして、自分が真っ先に池から上がり、木の幹の蔭に身を隠した。 その言葉に、大林君と喜多川君は咄嗟に従った。 筒井のみ、 「う、ウソだろ……?」 池のほとりに、呆然と突っ立っている。 「おい、こうちゃん! 早く下がれってば!」 羽田が更に怒鳴ったのと、筒井の目の前の水面に、エアガンの弾がぶつかったのとが、ほぼ同時だった。 その水音で、はっと我に返った筒井は、慌てて後退し、茂みの蔭に身を隠した。 「どうやらガブサバ会、スナイパーライフルを入れたらしいな」 前方を伺いながら、羽田が舌打ちした。 「スナイパーライフル……」 筒井が呆然と呟く。 「ああ、それも、うちらのエアガンより射程距離の長い奴をな」 羽田は頷きながら、ある可能性に思い至った。 もしかしたら、先程のメガネ女子の台詞も、ガブサバ会の作戦だったのだろうか? 筒井が斯波真理亜を狙っていることは、当然斯波家側では知っているはずである。 その感情を利用して、このような変則的な試合方式を提案したのか? (だけど、ゆっきーの萌え行動は、流石に計算に入ってないだろうし……入ってたとしたら、佐々木千恵子、神だぜ) 羽田が悩んでいると、 「で、どうするの、羽田君?」 筒井顔の喜多川君(ちなみに、特注の迷彩服に服装を既に戻している)が、羽田に尋ねた。 作戦参謀が早々と凶弾に倒れた今、頼れるのは経験豊富な羽田しかいない。 羽田は、脳細胞をフル回転させた。 敵は、ここまで届く射程距離のエアガンを所持している。 だが、だからと言って、約束を破るわけには行かない。 当初の作戦を、実行するしかないだろう。 だが、スタート時に、全員が同じ場所に固まっていては、敵の格好の餌食になる。 「よし、こうちゃん、じゃなかった、はっちゃんは、このまま林を東に迂回して、川のぶつかる辺りから池に入って前進してくれ。俺とこうちゃんとおーばは、林の中を少し西側に進んでから池に入って進軍する」 仲達、ではない、臨時司令官は、作戦参謀が残した作戦を元に、こう命じた。 「わーった」(筒井) 「はーい」(大林) 「わーった」(喜多川) 3人は返事をした。 (佐々木千恵子、ベテランとしての俺の意地、見せてやろうじゃないの) 羽田君は腹を括った。
「お見事ですわ、大将さま」 池の北岸で、桐壺姫さま、こと畠山美華さまは、新しいスナイパーライフルで、敵を見事討ち取った斯波真理亜さまを、うっとりとご覧になっていた。 「ふーん、すごいじゃん、流石オスカル」 花の宮さま、こと犬飼亜紀さまが、感心したように呟く。 実は、ステージ上のやり取りは、羽田君の予測どおり、全て、春山君と千恵子さんが仕組んだもの。 義晴兄さんが新たに作り出した、射程距離の長いスナイパーライフル式ウィンチェスターライフルを、存分に活用して、敵を討ち取ろうという作戦であった。 そのためには、障害物が前方にない所に、敵をおびき出す必要がある。 だから、筒井君の、斯波真理亜嬢に対する執着を利用して、敵をこの位置に持ってくることにしたのである。 佐藤の弁舌と、江島の危なさに、千恵子さんの舌先が凍りかけるというアクシデントがあったものの、ミーティングに参加していらっしゃった月の宮さまのご協力で、作戦も無事成功。 見事、佐藤を撃墜することに成功したのである。 また、もう一人の江島も、場外に出てしまったらしく、ヒットを宣告されていたので、『魏新特選隊』は残り4人ということになる。 「それにしても、引っ込んだまま、出てくるのが遅うございますわね……」 猫を被った赤橋園美さんが、目を細くして前方を見やる。 「そうどすなあ。どないしはったんやろ?」 片桐芳乃さまが、それに同調したとき、池の南岸から、迷彩服姿の男4人が現れた。 だが、その登場の仕方が、少し変わっていた。 筒井らしき人物は、池の東のほうから一人で現れ、残りの三人は、池の西のほうから進んできたのである。 一瞬、オスカル様は、どちらを攻撃しようか迷ったが、 「……筒井、覚悟!」 スナイパーライフルの引き金を引いた。 最初の一発は、筒井らしき男に、見事命中した。 「ヒット!」 筒井が両手を挙げた。 敵のリーダーの撃墜に、 「「「オスカル様ー!」」」 「よっしゃー! 筒井撃墜!」 聖ガブリエルの応援席からも、お兄さんたちが屯する一角からも、歓声が上がった。 「あ、終わりました!」 「ふーん、ザマないね」 フィールドにいる赤橋さんや、亜紀さまも、思わず声を挙げる。 声を出さないまでも、その他のガブサバ会の面々にも、安堵の空気が流れる。 だが、それに同調していない人間が、若干名存在した。 「春山君、佐々木さん、Rのコスをしていた人は、どうなったんですか?」 観客席に陣取って、戦闘詳報を記していた政山興(まさやま・のぼる)君は、隣の席に座っている春山君と、その隣に座っている佐々木さんに尋ねた。 「うん、そういえば、どこかに消えている……」 呟いた春山君の視線の先で、ヒットされた筒井君らしき人物が、セーフティーゾーンへ向かって駆けていく。 だが、これで試合が終わりのはずなのに、フィールドに残った『魏新特選隊』の3人は、未だに、じりじりと北へ進んでいるではないか。 この事態に、千恵子は、見る見る顔を青ざめさせた。 「……あかん! 敵の変装や! まだ筒井は、あの3人の中におる!」 一声叫ぶと、 「園美! 瞳! はよう、あの3人撃墜せい!」 立ち上がった千恵子さんは、フィールドに向かって怒鳴った。 だが、その怒鳴り声は、フィールドに届かなかったようで、ガブサバ会側からの発砲はない。 そして、ついに、山が動いた。 池の中に立っていた、『魏新特選隊』の3人が、北岸に向かって攻撃を開始したのだ。
「ヒット! これってありかよ……」 「あらまあ、ヒットどす」 全く予想もしていなかった攻撃に、ガブサバ会側は、まさに面食らった。 オスカル様の正面に立っていた、園美と亜紀、そして、芳乃が、瞬く間に撃墜された。 「きゃああああああ!」 「雪の宮さま!」 「ジュリエット様がー!」 ガブリエルの応援団が、悲鳴を上げる。 しかも、その瞬間。 「全て僕の計算通りさ」 エリア外に出ようとしていた筒井の顔が、『ENMA CHOU』の主人公・女神正義(めがみ・ライト)の顔に、一瞬で変化していた。 ご丁寧にも、手には、黒い表紙の“閻魔帳”を持っている。 「あ、あれは“エンマ”!」 「じゃあ、あれ、喜多川か?!」 「信じられん! 何て変装だ!」 「いやああ! オスカル様ー!!」 「神よ、このようなことが、あっていいものでしょうか……」 ギャラリーもこの事態に、更に騒然とする。 「しもた……」 観客席から、3人が立て続けに撃墜されたのを見た千恵子さんは、呆然と呟いた。 喜多川が、筒井に変装していたのだ。 そして、「筒井を撃墜した」とガブサバ会を油断させ、その隙に、まんまと自分たちの銃の射程圏内に、ガブサバ会の面々を収めてしまったのだ。 こうなると、残りの3人が、果たして本当に、変装していないのかも、怪しくなってくる。 (うちのせいや……) 千恵子さんは、席に座ると、顔を被ってうつむいた。 「!」 オスカル様は、訳が分からぬまま、茂みに身を隠した。 事態が把握できない。 試合は、終わっているはずではなかったのか。 だが、現に、筒井を撃墜した後も、敵からの攻撃が続いている。 「礼儀知らずめ。よかろう、ならば、全員屠ってくれる!」 オスカル様は、腹ばいになったまま、茂みの隙間から前方を窺った。 とりあえず、前方にいた小太りの男に照準を合わせ、引き金を引く。 数秒後、 「ヒット! やられたー!」 小太りの男・羽田は、そう言って両手を挙げた。 一方、残りのガブサバ会の面々も、奇襲に浮き足立ったものの、落ち着きを取り戻しつつあった。 オスカルにならって、茂みや木の幹に身を隠し、近づいてくる敵を狙撃する。 そして、 「えい!」 瞳が放ったコルトパイソンの弾が、見事に小柄な体格の少年に命中した。 「ヒット! うわーん、ねえさーん……」 大林少年は泣きべそをかきながら、フィールドを去っていった。 だが、未だに、終了のホイッスルは聞こえてこず、今一人、やや痩せ気味の体格の男が、オスカルがいると思しき場所を狙って、発砲を続けている。 と、 「発砲をおやめなさい!」 かわいらしい声がして、ちゃぷん、と水音がした。 なんと、畠山美華様が、エアガンを抱えて、男に向かい、猛然と池の中を歩いていくではないか。 実は、フリーズ狙い専門の美華様は、この試合展開では、自らの技能を生かす場面が全く得られないのだ。 そこで、美華様は、咄嗟に、おとりになることを決意したのである。 「発砲をおやめなさい!」 美華様はなおも進んでいくが、そんなかわいらしい注意で、オスカル様への攻撃をやめる男ではなかった。 だが、美華様が、わずらわしくなったのだろう。美華様に向かって、無造作に、FA-MASを乱射する。 たちまち、美華様は撃墜された。 だが、残されたガブサバ会の二人にとっては、美華様が作ってくれた数秒が、貴重な数秒になった。 「ぼしゅっ」 「ぼしゅっ」 「ぼしゅっ」 瞳の二丁拳銃、そして、オスカル様のウィンチェスターライフルが、男に向かって火を吹く。 そして、 「ヒット! ……ちっ、これじゃもう目立てないじゃないかよ」 少年――実は筒井――が、捨て台詞を残して、フィールドを去っていったのだった。 こうして、ガブサバ会は、『魏新特選隊』に、辛勝したのであった。
終了のホイッスルが鳴り、春山君が、佐々木さんの肩を、ぽんぽん、と叩いた。 千恵子さんは顔を上げた。 「佐々木さん――」 春山君は息を呑んだ。 千恵子さんの目からは、涙が零れ落ちていたのだ。 「佐々木さん、試合は勝ったぞ」 春山君が、もう一度声を掛けると、「勝ったん……?」と千恵子さんは呟いた。 「そうだ。筒井は、最後まで残っていたが、畠山さんがおとりになって撃墜されている間に、二階堂さんと斯波さんが撃墜した」 春山君が戦闘の概要を説明すると、 「うちのせいや……」 閉じた千恵子さんの目から、またぽろりと涙の雫がこぼれた。 「どうしたんだ。試合には勝ったんだぞ」 すると、 「せ、せやかてっ……」 千恵子さんは、大きく頭を振った。 「敵が、変装するかもしれんっていうの、分かってたのにっ、うち、うち、そのこと、作戦立てるとき、考えに、入れてなかったんやもん……瞳と大将さんが、うまいことやってくれたから、よかったけど、姫さんに怖い思いもさせてしもたし、もし負けてたら、大将さんも、義晴兄さんも、傷つける結果になってしもて……参謀失格や、うち……」 しゃくりあげながら喋る千恵子さんの目からは、ぽろぽろと涙が零れていた。 「……そうか。思いがけない展開だったから、そう思うのも、無理はないかもしれない」 春山君は、落ち着いた口調で言った。 「だが、勝負は時の運にも左右されるものだ。今回だって、敵の一人は戦わずに逃げただろう。それに、こちらの損害も大きかったが、勝つことが出来た」 そう言って、春山君は、千恵子さんの左肩に手をそっと置いた。 「佐々木さん。智嚢を絞りつくして、よい作戦を立てれば、時の運は自然とこちらに味方してくれるものだ。今回も、佐々木さんが言うほど、悪い作戦では無かったということだ。俺たちにできるのは、ただ一つ。この教訓を次に生かし、より良い作戦を立てることだ」 ここで言葉を置くと、春山君は、千恵子さんに笑いかけた。 「……心配するな、佐々木さんならできる。何せ、あの激戦区だった東京都大会を、その智謀で勝ち抜いてきたんだから」 「そ、やね……」 千恵子さんは、ようやく頷いた。 だが、一旦零れ落ちた涙は、そう簡単には止まらず、千恵子さんは、まだうつむいたままだった。 そんな千恵子さんの身体を、春山君は抱き寄せて、 「ほらほら、泣くな。天才軍師様の可愛い顔が、台無しだぞ」 あやすように、首筋をそっと叩いていた。 その傍らで、 (え、は、春山君?!) ペンを持ったまま、政山君が凍りついているとは、露知らず……。
「強敵に辛勝したお嬢さま方の次の相手は、ステージの華麗なる花。 |