投稿小説だぜ

まるえさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』

第十七話


◇俄か探偵?! 地区大編◇
「よう、みずえ! 大丈夫けぇ?」

体調不良から回復し、昼食を買いに、友人たちと会場の外へと抜け出していた名越みずえ(なごし・みずえ)は、後ろから突然声を掛けられた。

「へ?」

無防備な表情で後ろを振り返ると、そこには、和傘を差し、着流しを纏ったお兄さんがたたずんでいる。

「哲ちゃん! 哲ちゃんじゃねーか! 久しぶりだな〜」

驚きの表情で、みずえさんは、清水一家の跡継ぎ・清水哲雄(しみず・てつお)に挨拶した。

実は、この二人は幼馴染。

小さい頃は、哲ちゃんの婚約者であるお蝶とともに、遊び回った仲なのである。

「あ、哲ちゃん! 何か、わかったの〜?」

みずえと一緒に歩いていた二階堂瞳(にかいどう・ひとみ)が、哲ちゃんに尋ねる。

その口調に、親しみがこめられていることに気がついたみずえが、

「? おい、瞳、お前、もしや、哲ちゃんと知り合い?」

瞳に聞いた。

すると、

「うん、そ〜だよ〜。あたしのグランパの命の恩人が、哲ちゃんのひいおじいちゃんとおじいちゃんだから〜。だから、年に一回くらい、会ってたんだよね〜。今日ここで再会して、びっくりした〜」

笑顔でこう返す瞳。

「ウソだろ?!」

「ウソじゃないも〜ん。そう言うみずちゃんは、何で哲ちゃんと知り合いなの?」

「オ、オレはさ、幼馴染。小さい頃は、よく一緒に遊んだぜ。な?」

「そうだったな。懐かしいぜぃ」

みずえの問いかけに、遠い眼になる哲ちゃんである。

「じゃあ、お互い、清水さんと知り合いだった訳ですね。すごい偶然ですね」

黒縁眼鏡をズリ上げながら、みずえと瞳の友人・赤橋園美(あかはし・そのみ)が、やや興奮気味に何回も首を縦に振る。

「そうだな。俺もまさか、みずえと瞳が知り合いだなんて、思ってもみなかったぜぃ」

文学少女の意見に、哲ちゃんも同意する。

「ところで、清水さん。何か、敵チームに関する耳寄りな情報は、入ってきているんですか?」

そう言いながら、さっと愛用のメモ帳(ネタ帳)とボールペンを取り出す園美に、

「哲ちゃんでいいぜぃ。清水さんなんて、堅っ苦しくていけねえや」

清水君、いや、哲ちゃんは、こう言った。

「そ、そうですか? でも、わたし、これが普通なんですけど……まあいいや、じゃあ、哲ちゃん、なにか、敵について、耳寄りな情報は入っているんですか?」

「?」

不思議そうな顔をするみずえに、

「あ、哲ちゃんにね、細川先輩の代役を頼んでるんだ〜。情報収集」

小声で瞳が説明を加える。

その横で、

「ああ、これから対戦しないといけねぇ3チームは、埼玉代表『Shall We SABAGE?』、千葉代表の『キャンプ戦隊アウトドアン』、そして神奈川代表『魏新特選隊(ぎしんとくせんたい)』だぜぃ」

情報責任者が説明を始めた。

「うわあ、ネタだらけですね。埼玉はあの映画のもじりで、千葉は戦隊モノで、神奈川は……よく分かりませんけど。それで、埼玉と千葉はどんなチームなんですか? やっぱり、コスプレしてるんでしょうね?」

((食いつくところはそこかい!))

瞳と哲ちゃんが、心の中で園美にツッコミを入れる。

「……ああ、埼玉は、社交ダンス部員が出場しているらしく、男女ペアが3組の構成。で、ゲームのときも、そのダンスのペアで、つまり、常にコンビを組んで戦ってる。千葉は戦隊モノのコスプレで統一してはいるが、全員突撃していって、一斉射撃を加えるのが必勝パターンだぜぃ。で、問題は、神奈川なんだが……」

ここで、哲ちゃんは声を潜めた。

「星橋(せいきょう)高校って知ってるけぇ?」

「知ってますよ。横浜にある、お坊ちゃん高校。もしかしたら、そこの高校から出ているんですか?」

園美の質問に、哲ちゃんは、無言で頷いた。

「まず、装備にやたらと金が掛かっている。うちの子分の武器に詳しい奴に聞いたら、元のモデルは、フランス軍のFA-MASだろうが、装弾数が増えてるってことだった」

「ふぁ……浜茄子? な、何だよそれ。まさか“なおエモン”に出てくる“なで斬り砲”みたいなやつじゃないだろうな」

みずえさんが質問する。

「そんなやつじゃねえが……本当はFA-MASシリーズの装弾数は、連射用マガジンを付けても300発なんでぃ。それが500発に増えてやがる。そして、サイドアームも、一応、ハンドガンなんだが、結構大きくて、装弾数が60発はあって連射ができるらしい。こんなモデルの銃は、現実にはないらしいな」

「……はあ、新しいタイプの銃を……」

「ていうか〜、サバゲーのために、そこまでする?」

「第一、そのお金はどこから……」

ややあきれたような瞳と園美の発言に、

「筒井コンツェルンって知ってるけぇ?」

と、哲夫は尋ねた。

「知ってますよ。五十嵐コンツェルンと並ぶ、日本の経済を動かす組織の一つ。プリンセスデパートや、プリンセスホテルや、パリーグのプリンセス・ベアーズの親会社ですよね?」

「プリンセスホテルって、サービス悪いわよ〜。絶対、ホテルイガラシの方がサービスいいって〜」

「それはともかくとしてだ、その筒井コンツェルンの総帥の長男が、そのチームのリーダーでぃ。それから、“佐藤弥(さとうや)”の創立者の子孫に、株で大もうけしてる野郎に、全国規模のネットワークを持っている探偵会社の社長の子供に、素性的にはとんでもねぇ奴らばっかりだ」

ちなみに、「佐藤弥」というのは、江戸時代、佐藤弥次郎兵衛(さとう・やじろべえ)という人物が創業した反物問屋から出発した、大手総合商社である。

「……でも、それなら、うちも負けていませんよ。太平洋新聞社長令嬢に、久地紅(くちべに)”の会長令嬢に、“カフェ・ド・リリアン”の社長令嬢ですからね。それに、片桐先輩は華族の血を引いているって話だし……」

“千歳さんは、前警察庁長官の孫ですし”という台詞を、園美は口に出す寸前で押しとどめた。

「そ〜よね〜。うちらは一般庶民だけど、先輩たちはすごいんだから!」

瞳の言葉に、

(いや、みずえだって、あいつらには決して負けねえ血筋なんだが……)

哲夫はこっそり思ったが、そこは突っ込まず、

「それから、気になる点が一つ、いや、二つある。一つは、メンバーの中に、変装の達人がいるってことでぃ」

再び情報を伝え始めた。

「変装の達人……ですか?」

「ああ」

と哲ちゃんは頷いて、

「奴……喜多川八郎(きたがわ・はちろう)って言うんだが、本人の前に立つと、鏡を見てるんじゃねえかと錯覚するほどの変装が得意らしい。おまけに、声色も真似できる。もちろん、女にだって化けられる。神奈川の予選じゃ、敵チームの奴に変装したり、撃墜したはずの奴に変装したりして、敵を混乱させたらしいぜぃ。ちなみに、学校でのあだ名は“星橋の二十面相”」

「それって……何者なのよ〜? へんなの〜」

「まるで、怪盗一家・最上家みたいですね。あだ名まで二十面相ですし」

「だよな。突撃ねーちゃんも、変装が好きだけど、流石にそこまで上手くはねえしな」

与えられた情報に、三者三様の感想を述べるお嬢様方である。

「で、更に問題なのは、リーダーの筒井康介(つつい・こうすけ)が、名うての女好きだってことで……神奈川県大会でも、倒したチームのリーダーの彼女を奪ったり、女性サバゲーマーを公然とナンパしたり……対戦相手の中には、彼女を守るために棄権したって所もあるらしい」

「「「!」」」

お嬢様方に、緊張が走る。

「じゃあ、オレたち、ヤバくない?」

「そうだよね〜。ナンパでしょ。それに、向こうが勝ったらどうなるの〜?」

「リーダーの彼女が奪われるってことは……」

「うちのリーダーは、もちろん、女性ですから……」

「じゃあ、オスカルが奪われるってことかよ!」

みずえが叫んだ。

「ちょっと、それはまずいよ〜」

「そうですよね。斯波先輩には、義晴さんという人がいるのに!」

「だよな。そんなことをされて、義晴兄ちゃんが黙ってるはずがねえ」

ややヒートアップするお嬢様方に、

「ああ、それに関してだがな……実は、その筒井って野郎の嫁の第一候補が、オスカルらしいんでぃ」

哲ちゃんはこう言った。

お嬢様方は、一瞬固まった後、

「ちょっと、それ、信じられない〜」

「そうですよね。そんなエロ男の嫁より、絶対義晴さんと結婚したほうが、幸せですって!」

「だよな。いくら金があったとしても、そんな野郎の嫁にはなりたくねえ」

「ていうか、そんな人、出場停止です、逮捕です」

「そういえばそうだ。何で出場してるんだよ!」

更にヒートアップした。

「どうも、月刊種子島と、神奈川の運営委員会に、多額の金をつかませたらしい。だけど、ネットまでは手が回らなかったらしくて、ネットじゃすごい評判が悪いぜぃ」

「当たり前です。そんな人、わたしたちで、コテンパンにしてあげましょう!」

「そうね〜。斯波先輩を守らないと」

「だよな。義晴兄ちゃんにも、このことを話しておこうぜ!」

お嬢様方3人、すっかり戦意が高揚してしまった。

「よっしゃ、そうと決まれば、行動開始だぜ。昼飯食べ終わったら、あのエロ男を倒すために、訓練開始だ!」

「「おう!」」

……みずえ、園美、瞳は、拳を天に突き上げた。



丁度その頃。

「よう」

奥房総アウトドアランド、キャンプ広場内のコテージ。

その扉を、開けた人物がいた。

ご存知サムライガール、金沢千歳(かなざわ・ちとせ)の兄、義晴(よしはる)である。

「よ、義晴さん……」

友人であり同志でもある畠山美華(はたけやま・みか)さま、そして、生徒会の先輩方、片桐芳乃(かたぎり・よしの)さま・藤原八重子(ふじわら・やえこ)さま・犬養亜紀(いぬかい・あき)さまと、フランス料理のランチを楽しんでいた斯波真理亜(しば・まりあ)は、スプーンの動きを止め、彼の顔を驚いたように見た。

その頬が、若干紅く染まっている。

先の東京都予選以来、彼女と金沢氏とは、生徒たち公認のカップルとなっている。

だが、義晴兄さんは、彼女があの大企業“久地紅”の会長令嬢であることに遠慮してか、真理亜さまのお誘いには、乗ってこないという日々が続いていた。

それゆえ、あの予選以来、メールや電話はするものの、二人はまだ一度もデートしたことがない。

だから、友人や先輩方が同席しているものの、自分の前に義晴兄さんが現れたのが、真理亜にとっては奇跡に近いようなものだったのだ。

だから、

「……あ、悪い、食事中だよな、また後で出直そうか?」

という義晴兄さんの台詞を、

「い、いや、全然構わない。それより、食事をご一緒に……」

真理亜さまは慌てて全力で打ち消した。

「そうか、丁度いい。まだ昼飯を食べてないんだ」

「そ、それはよかった。どうぞ、私の隣に」

真理亜さまは、自分の傍らの空間を指し示した。

その辺りに座っていらっしゃった片桐芳乃さまは、一瞬驚かれたようだったが、すぐに優しい眼で、

「ええ、どうぞ。ここにいらしておくれやす」

と微笑した。

「んー、美華ちゃんの隣にも惹かれるが……」

義晴兄さんは、右手を顎の下に当てて、ちょっと考え込むそぶりを見せたが、

「ま、ここはオスカルの隣だろうな」

と言って、指し示された辺りに向かった。

彼の後ろでは、美華様が、とんでもない台詞に、ナイフとフォークの動きを止めてしまっていた。



「なるほどなあ、そういうわけか。こりゃ、負けられへんな」

おにぎりをパクつきながら、佐々木千恵子(ささき・ちえこ)が言った。

ここは、救護室の病室区域。

千恵子さんの前にあるテーブルには、明らかに数人分はあると思われるサンドイッチとおにぎり、鶏の唐揚げにフライドポテト、それと2リットルペットボトル入りのお茶とオレンジジュース、紙コップに割り箸数膳が、所狭しと並べられている。

折からの雨で、ピクニック広場が使えないため、仕方なく、風雨のしのげるここで昼食を取ることにしたのである。(松木先生の許可も取っている)

フランス料理としゃれ込んでいる先輩方に比べれば、質素な食卓ではあるものの、猫かぶりの1年ズにとっては、皆でピクニック気分が味わえる、気取らない食事の方が、礼儀作法でがんじがらめにされた会食より、はるかに美味しく感じられる。

「そうですよ。もし負けちゃったら、斯波先輩と義晴さんのカップル崩壊ですよ。これをピンチと言わずして何とする、って感じです」

園美はまだ興奮している。

前回の予選のとき、自分と長倉が、カップル崩壊の危機にさらされたので、他人事とは思えないらしい。

「この間の大会の時から、デートは……あ、してねえか。でも、メールや電話はしてるみたいだし、まあまあ順調なんじゃねーの?」

そう言うと、みずえは唐揚げにかじりつく。

「だよねー。お知らせアラーム事件も、イタズラじゃなくて、設計ミスってことで乗り切ったからね」

お茶のカップ片手に、瞳が言う。

「ところで、義晴兄さんには、変態野郎のことは言うたんか?」

「それが、まだなんです。お昼を買いに行った時に探したんですけど、見つからなくて」

園美がため息をつく。

「まあええわ。兎に角、応援団に、変態野郎が大将さんを狙ってることを伝えといて。襟維斗(えりいと)とやった時ぐらいに盛り上げて、敵を威圧するんや」

「なるほど……」

(応援団も作戦のうちか。あのブラスバンドには、度肝を抜かれた)

おにぎり片手に、春山君が呟く。

「さて、問題は作戦や。これは、上手いこと敵を分断せんと、勝ち目がないな。奇襲をどうやって掛けるか……」

「しかし。池という道が開かれた今、池からくる敵にも注意を払わなければならない」

「それは、この島に、誰か配置したらええ。MINIMIを置いといたら、池どころか、島の対岸にいる敵にも脅威になるからな」

「そして、反対側の陣地ならば、本陣にMINIMIを置けば、池からの敵にも対応できる」

「あとは火力をアップして、敵を抑えられるようになったら完璧や。……そや、そのためにも、義晴兄さんを探さんと。とりあえず、電話してみるか」

千恵子さんは、カバンから携帯電話を取り出し、義晴兄さんに電話した。

だが、

トゥルルル、トゥルルル……

「只今、電話に出ることはできません」

コールの後に聞こえた台詞は、機械的だった。

「どないしたんやろ。電池切れとか?」

千恵子が留守電にメッセージを吹き込もうとした、その時。

「純!」

大声とともに、突然出入り口のカーテンが一気に開かれた。

お嬢様方が、一斉にそちらに視線を向ける。

そこには、乗馬服姿の黒髪の美女が突っ立っていた。

だが、どことなく西欧人を思わせるような顔立ちに、超然とした態度、そして服装が、彼女の存在感を際だたせていた。

(何者だ?)

明らかに仲間とは異なる気配に、臥せっていた千歳も起き上がって、様子を窺う。

その視線を浴び続けながら、乗馬服姿の女性はつかつかと春山君に向かって歩み寄り、

「純、よくやった!」

と、いきなり肩を抱いたではないか。

(!)

これには猫かぶり娘たちも度肝を抜かれ、とっさに反応することができなかった。

その場に漂った微妙な空気の中で、

「見事に敵の心理の裏をかいた奇襲だったではないか。嬉しく思うぞ」

と、彼女は右手で春山君の背中をバシバシ叩いた。

(春山さんの彼女かいな? それにしても、年が離れてるような……)

千恵子さんが訝しく思った瞬間、

「ね、姉さん……痛いから止めてくれ」

純くんが弱々しく呟いた。

「お、お姉さん?」

漸く解凍された千恵子さんが問うと、「ん?」と春山君の姉・好子(よしこ)さんは千恵子さんの方を振り向き、

「なっ……おなごが沢山……」

顔面を驚愕で歪ませた。

「……純、お前もしや、ここにいる全員と結婚するつもりか?」

茫然と呟く好子姉さん。

「はぁ?」

千恵子さんは露骨に相手を馬鹿にしたような顔をした。

その他の一年ズも、いきなりのこの発言に、戸惑いを隠せない……というか、発言内容についていけない。

「姉さん、いい加減にしてくれ。ここにいるのは、俺が協力しているガブサバ会の皆さんだ」

春山君が、冷静に姉に説明する。

だが、

「純、もう結婚して、私の元から巣立っていってしまうのか。私は嬉しいが、嬉しいが……悲しい……」

好子姉さんは勝手に妄想し、妄想に溺れ、しくしくと泣き始めた。

(ブ、ブラコン?)

呆れ顔で好子さんを見やる一年ズ。

「あーあ、全く。姉さんはすぐこれなんだから……」

苦虫を噛み潰したような顔で、弟が呟いた。

「……お姉さん、なんか?」

原稿用紙一枚分ほどの突っ込みを辛うじてのどの奥に押し込めて、千恵子さんは、出来る限り平常の声で質問した。

「ああ、名前は好子という。俺が一番末の弟なので、色々気にかけてくれるのだが……俺と一緒にいる女性を、全て俺の許婚(いいなずけ)と勘違いするんだ……」

泣き崩れる姉をちらと見やり、春山君はこう答えた。

「じゃあ、大変ですね。すごくモテるんでしょ? 春山さん」

瞳の言葉に、春山君は黙って微笑した。

と、

「す、すみません!」

突然、病室エリアの入り口のカーテンが開けられた。

1年ズと春山姉弟が訝しく見やると、そこには、息をぜいぜい切らしている少年が立っていた。

年の頃、12,3歳というところだろうか。

「はい、何でしょうか?」

このメンバーの中で一番常識的で人のよい園美が、一同を代表して少年に声を掛ける。

すると、

「え、えーと、変なことを伺いますが、ここに、彼氏や彼女と、今日会った人がいませんか?」

少年は尋ねた。

質問の内容に、一瞬当惑した一同だが、

「え、えーと、私はそうですけど……あの、それが一体何か? 紫英館の新聞部の方ですか?」

答えたのも、園美だった。

すると、

「いえ、違います。僕は星橋高校の大林(おおばやし)っていう者です」

少年が頭を下げた。

その挨拶に、

「「「「「「!」」」」」」

一年ズと春山臨時参謀に、緊張が走った。

「そうか。で、なんの用だ?」

一人悠然と応対するのは、好子姉さんであった。

「は、実は、僕の所属しているチームに、変装で人を混乱させ、恋愛関係を玩び、人を傷つけて楽しんでいる男がおりまして、その悪行を止めるために、追いかけているのです」

好子姉さんから発散されるオーラに圧倒されたのか、大林君は直立不動の体勢で返答した。

「……その男、もしかして、二十面相と呼ばれている、喜多川八郎という人ですか?」

千恵子さんがやや丁寧な口調で問いただすと、大林君は目と口を真ん丸くした。

「そうです。どうして、ご存知なんですか?」

「ま、彼の悪名は、首都圏に鳴り響いていますからね。首都圏の女子高生の間では“星橋ブランドにだまされるな、漏れなく二十面相が付いて来るぞ”って囁かれてます」

千恵子さんは哲ちゃんから情報を得たという事実を伏せ、大林君から得た話から、適当なことをでっち上げた。

こちらが情報収集を行っているという事実は、伏せなければならない。

だが、大林君は、千恵子さんのウソにまんまと騙され、「ああ、そこまで話が広まっているのか……」とため息を付いた。

「ならば話が早い。多分、彼の次のターゲットは、あなたたちです。僕は、彼の悪事を食い止めようと思います」

「あ、悪事って……」

千恵子さんの巧みな台詞回しに付いて行けなかったみずえが声を上げると、

「もちろん、決まってます。ガブサバ会で成立しているカップルを、ぶち壊しに掛かるんですよ」

大林君は断言した。

「「「「「「!」」」」」」

一同の表情が、強張った。

恋愛沙汰が苦手な千歳だけは、何のことやら分からず、首を傾げていたのだが。

「うちのカップルって言うと、私と平八さんと、斯波先輩と義晴さんですけど……」

「えー!? あたしと牛尾さんは〜?」

「え?! 瞳、牛尾さんにコクられたのか?!」

「こ、コクられてはないけど……でもでも〜、大好きだも〜ん(はあと)」

園美、瞳、みずえの大騒ぎをよそに、

(カップル崩壊か……もしやられたら、うちの士気に影響するな。これは阻止せな)

(ここでカップルが崩壊したら、選手の士気に関わるし、俺としても黙って見ていられない。我がほうの負けを回避するには、なんとしても阻止しなければ)

参謀コンビは、似たような思考回路を働かせ、

「「わかりました、協力しましょう」」

同じ台詞を同時に口にしていた。

「皆も、異存はないやろね?」

千恵子さんが一同を見渡す。

「もちろんだぜ」

「当たり前よ〜」

「当然、協力します」

「……よく分からぬが、千恵が言うならば」

「わかった。私も及ばずながら助勢しよう」

好子姉さんまで、こう返答したので、

「……ええんですか、春山さんのお姉さん」

千恵子さんは確認した。

「当たり前だ。この事態は、純の危機でもある。悪事は阻止せねばならん」

みんなの心強い答えに、大林君が、「ありがとうございます」と、軍隊式の敬礼をした。

「えーと……つまり、その二十面相は、恋愛相手に変装してひどいことをして、去っていくんですよね?」

園美が大林君に確認した。

「はい、そうです。前はただ変装して遊んでいただけなのに、最近、そう、サバゲーの神奈川大会に出てから、急に他人の恋愛をぶち壊し始めて……今じゃ、ウチの高校の彼女持ちの生徒は、殆どが失恋のショックで学校に来ていないんです」

「それはひどいな」

春山君が眉を顰める。

「ということは、園美と瞳はここにいるから大丈夫として、あとは義晴兄さんと大将さん、長倉さん、牛尾さん、この4人に、そいつのことを知らせんとあかんね。それと、その4人が本物かどうかも確かめんと」

と言って、千恵子さんはちょっと考え込むそぶりを見せたが、すぐに、「園美!」と友人の名を呼んだ。

「今すぐ、長倉さんの携帯に電話して、居場所を確かめて。それから、千歳、牛尾さんの携帯の番号知ってるか?」

「……ああ、電話すればいいのだな?」

「そうや、頼んだで。それから、義晴兄さんには、みずえが電話して」

「よし来た!」

「……で、大将さんには、うちから電話するわ。ほんで、居場所の確認が取れた人から、皆で本物かどうか、確かめに行く」

「ちょっと待って、哲ちゃんにも探してもらお〜? 若衆さんたちも来てたから、手分けして探してくれると思うよ〜」

瞳の提案に、千恵子は口を閉じた。

なるほど、本人が知らない間に、敵がターゲットに変装していることも、十分に考えられる。

もし、本人が申告した場所と、哲ちゃんの若衆たちが見つけたターゲットのいる場所が食い違っているとしたならば、どちらかが二十面相である可能性が高い。

「せやな。そしたら、瞳、その哲ちゃんっていう人に電話して、4人を探すのを依頼してくれへん?」

「わかった〜。電話してみる〜」

瞳はにっこり笑った。

「ええか、これはうちらの士気に関わる、重大事件や。うちらの手で、なんとしてでも、二十面相の悪事、止めるんや!」

千恵子さんの激に、

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」

テントにいる全員が気勢を上げた。



それから1分後……

♪ちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃちゃー

哲ちゃんの携帯が、某有名宇宙戦艦アニメ映画のテーマソングを奏でた。

「おう! 瞳けぃ!」

相変わらず「清水一家二十八人衆」に周りを固められながら、哲ちゃんは電話に出た。

「な、何ぃ! 喜多川の趣味がカップルの破壊?!」

一旦は叫んだが、すぐに哲ちゃんは声の大きさを押さえた。

「んで、人を探せばいいんだな? え? そんなん気にすんな。で、その4人は? ……金沢義晴、斯波真理亜、長倉平八、何? 牛尾さん? 勝本のとっつぁんの……いや、こっちのことでぃ。その4人を探し出し次第、おめぇの携帯に連絡入れればいいんだな? よし、任しとけ」

哲ちゃんは電話を切ると、二十八人衆を見渡し、

「おい、おめぇら、人探しだ。今すぐこの4人、探し出して俺に知らせるんでぃ!」

いつ取り出したのか、哲ちゃんは、4枚の写真を手にしていた。

金沢義晴、斯波真理亜、長倉平八、そして牛尾さんの写真である。

その中の1枚を見て、

「わ、若、こ、こいつぁ、勝本のとっつぁんの……」

若衆さんたちが、顔色を変えた。

それもそのはず、そこに写っているのは、あの“史上最強の長官”、勝本信義氏の執事・牛尾さん。

5年前に警察を退職したとはいえ、勝本氏の雷名は現在でも極道界に鳴り響いている。

その事務処理で、または、その武技で、壊滅に追い込まれた組の数は、50ではきかない。

清水一家は、一般市民や堅気の企業・団体に手を出すことを原則としてせず、麻薬密売などの汚れたビジネスも一切行っていないため、その行為を警察に黙認されている、という状態なのだが、それでも、一歩道を踏み間違えれば、“その時はこの拳で潰す”と、勝本氏に宣告されている。

だから、哲雄の祖父・謙次郎や哲雄の母・江万子は、「いいか、てめぇら! 絶対に、堅気に手ぇ出すんじゃねぇぞ! 勝本のとっつぁんに清水一家、潰されちまうからな!」と、常日頃、若衆たちに口酸っぱく言い聞かせているのである。

そのため、“勝本のとっつぁん”と言えば、清水一家は全員、反射的に恐怖心を抱くのであった。

「……まさか、勝本のとっつぁんも、来てるのか?」

「いや、だとしても、何でこんなところに?」

ざわめく若衆さんたちを、「てめぇら、静かにしやがれ!」と静まらせておいてから、

「勝本のとっつぁんが来てても、こっちは関係ねぇ。ダチの頼みを断るなんて、清水一家の名折れでぃ! とにかく、てめぇら、その4人、さっさと探し出せ! あ、それから、絶対に堅気に手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

『合点でぃ!』

若衆さんたちは、散っていった。

30秒後。

「若ーっ! 長倉を見つけやした!」

若衆さんの一人、辻の勝五郎(つじのかつごろう)が早速戻ってきた。

「何っ、早ぇな、で、どこだ?!」

「この前のテントで、昼食を取ってやす! 『剣道部!』の面々と一緒です!」

「よし、でかした。おめぇは残りの3人探すの、加勢してやれ!」

「へぃっ!」

勢いよく飛び出していく若衆さんの背中を見ながら、早速哲雄は携帯を取り出していた。



◇ミッション1〜本物の長倉平八を捕捉せよ!〜◇


「早かったね〜」

3分後、千歳、みずえ、千恵子、園美、瞳、春山姉弟、大林君、そして哲ちゃんは、『剣道部!』控えテントの前に集結していた。

「ああ、すぐ目の前にいたからな」

瞳の問いかけに、頷く哲ちゃんである。

「電話でも、ここにいる、と言ってましたから、多分間違いないと思いますけど……」

携帯電話を握り締めながら、園美は不安そうに言った。

「……で、本人確認はどうやってするんだよ、千恵?」

「そやな、とりあえず、園美に長倉はんをテントから出してもらって……ほんで、変装してないか、園美に確かめさせるのが一番やと思うけど」

「……だとよ、園美」

「え、えええっ! わ、わたしがですか?!」

驚く園美の口を、「声がでかいってば」とみずえが後ろから手で塞いだ。

「決まってるだろうが。だって長倉さんは園美の彼氏だろ? 他の女の子が長倉さんに纏わり付くのを、園美は許せるのか?」

「う、うう、そ、それは……」

口ごもる園美の様子を、任務遂行を了解したものと勝手に解釈し、みずえは彼女の口から手を離した。

「ほら、さっさと行けよ」

園美は戸惑ったように立ちすくんでいたが、やがて、控えテントへと歩み寄って行った。

残りの一同は、周辺の茂みや立ち木の蔭に身を隠す。

「よし、出てきた」

千恵子さんが小さく呟いたのは、園美がテントの中に入ってから、30秒もしない時だった。

「……どうしたんだ?」

黒いTシャツにジーンズの長倉君は、彼女に不思議そうに尋ねた。

「あ、あのね、平八さん。今度の敵のチームに、すごい変装の名人がいるらしいんです。それで、そいつが、うちのチームのカップルを、壊すかもしれないって言うから、わ、わたし……その……」

どう言って、彼氏に本人確認をすることを了承させるかが分からずに、園美は俯いた。

だが、

「そ、園美!」

……長倉君は、彼女をぎゅっと抱きしめた。

どうやら、園美が泣き出しそうに見えたようだ。

「へ、平八さん……」

「安心しろ、園美っ! そんなことは俺がさせん! お前と俺の仲ではないか!」

園美を、長倉は更に強く抱きしめた。

嬉しさと戸惑いを感じながらも、だが、彼女の理性は、まだ残っていた。

彼氏が、本当に、二十面相の変装ではないことを確かめなくては。

園美は、長倉の左の肩先に乗っている顎を持ち上げ、右腕を長倉の腕の下から抜いて、身体を少し離した。

そして、顔が特殊メイクではないかを確認すべく、自分の顔を長倉の顔に近づけ、右手を長倉の髪の生え際に……

「園美っ!」

長倉が更に強く彼女を抱きしめたのは、彼女の顔が、彼の真正面に来たときであった。

「きゃ……」と叫ぼうとした彼女の口は、柔らかい何かにぶつかって、押し付けられて、開けなくなった。

一瞬の沈黙。

密着する身体を離したのは、どちらが先であったか。

そして、二人は、呆然と、お互いの姿を見た。

(もしかして……)

(今のは……)

((ファーストキ……))

長倉と園美は、二人とも、顔を真っ赤に染めて、立ち尽くしてしまった。



「……あーあー、二人とも、止まっちまったよ」

「もしかして、初めてなのかな〜?」

「……」

茂みの中で、他の面々は、カップルの様子を、呆れたように見ていた。

「……で、結局のところ、長倉は本物なんかいな?」

「さ〜? あの固まりっぷりから見て、本物だと思うけど〜?」

千恵子は瞳に尋ねたが、その回答は、余り満足の行くものではなかったらしい。

「ふむ」

一言呟いた彼女は、立ち上がり、つかつかと、カップルの方に歩いていった。

「園美」

後ろから、声を掛けるが、長倉も園美も、全く反応しない。

次の瞬間。

「いつまでやっとるんや、あんたらー!」

すぱーん! すぱーん!

どこから取り出したのか、千恵子さんは、伝家の宝刀・ハリセンを、長倉と園美の頭に炸裂させた。

「……!」

「ちょっ……!」

突然加えられた衝撃に、バカップルは漸く解凍される。

で、当然のことながら、

「ち、千恵さん! 何するんですか!」

「っおい、何をした?!」

二人の時間を邪魔された被害者は、加害者に詰め寄る。

と、

「おい、長倉、どうした」

「おいおい、長倉さんよぉ、一体どうしたんだ?」

「何の騒ぎですか、長倉さん?」

騒ぎを聞きつけて、『剣道部!』の控えテントから、吉方利三(よしかた・としぞう)・野田右馬之介(のだ・うまのすけ)・山神慶介(やまがみ・けいすけ)が現れた。

すると、

「あら、吉方さま、野田さま、山神さま、ごきげんよう」

千恵子さんは即座に猫を被り、三人に飛び切りの微笑を振りまいた。

無論、ハリセンも、いずこかへ消えている。

「……何か叫んでなかったか?」

形のよい眉を顰めつつ、作戦参謀の吉方が、千恵子さんに尋ねた。

「いえ、別に?」

千恵子さんは微笑して誤魔化したが、吉方は「そうかあ?」と、不信感を露にしていた。

そんな彼に、千恵子さんは急に真顔になって、

「そうそう、あなたがたもお気をつけになった方がよろしゅうございますわ。実は、この会場に、恋愛相手に変装して悪事を働き、恋愛を破綻させるという悪人が出没しているという情報を得たものですから、このお二人にご注意申し上げていたのです。とんでもない変装の名人だそうですから、用心なさったほうがよろしいわ」

と告げた。

「へー、変装の名人? 山咲(やまざき)みたいに?」

野田が、興味深々といった感じで尋ねるが、

「野田さん、それは」

その傍で、山神さんがささやいたので、「おっと」と、口をつぐんだ。

それを隠蔽するかのように、

「……わかりました。ご忠告、ありがとうございます」

山神さんが微笑しながら、千恵子さんに優雅に一礼した。

「……ま、俺にゃ関係ねーけどな」

吉方は、意味ありげに微笑すると、テントの中に戻った。

野田も、吉方の後を追いかけかけたが、その足を止め、長倉の方に向いた。

「……長倉さん、そんな状況だったら、きめら先生が危ないぜ。そばにいてやりなって」

「そうですね。万が一、敵が赤橋さんに変装したら、大変です。そうならないためにも、付いていてあげたほうがよい」

「……でも、長倉さん、長倉さんが変装してるってオチは、ねえよな?」

野田の台詞に、長倉は「何を言う!」と目を三角にした。

「髪を引っ張ってみろ! カツラもマスクも被ってはおらん!」

といって、自分の髪の毛やほっぺたを、力任せに引っ張って見せた。

「わかった、わかった!」

漫才を繰り広げる野田と長倉の傍らで、

「……赤橋さんも、大丈夫ですよね?」

山神さんは、千恵子さんに尋ねていた。

「それは大丈夫ですわ。ほら、髪も皮も本物でしてよ」

「いたっ! 思いっきり髪の毛引っ張ったでしょ、今!」

「あら、ごめんあそばせ」

園美の抗議を、千恵子さんはしれっとした表情で受け流すと、

「……では、わたくしたち、これで失礼致しますわ」

山神君に頭を下げ、長倉と園美のカップルを、半ば引きずるように連行して行った。

――12時35分、長倉平八、本人と確認。



◇ミッション2〜本物の牛尾さんを捕捉せよ!〜◇


続いて、長倉君を加えた一同が向かったのは、牛尾さんがいたという、ピクニック広場の売店である。

その売店が見える所まで道案内をして、

「じゃ、俺は、ここで待ってるぜぃ」

哲ちゃんは、一同に告げた。

「え〜? 一緒に行ってくれないの〜?」

不満顔な瞳に、哲ちゃんは、「余り大勢で行ってもしょうがないだろ。それに、俺は連絡のツナギもやんなくちゃなんねぇし……」と、言い訳する。

いつもと違う消極的な態度に、彼の知り合いである瞳やみずえは、不審を覚えたが、

「ま、いいや、じゃ、行ってくるぜ、哲ちゃん」

片手を挙げると、残りの全員を引きつれ、売店へと向かった。

なるほど、情報の通り、売店の横にある、ピクニックテーブルがたくさん並んでいるエリアに、牛尾さんがいた。

上には屋根があるため、雨を避けてやってきた家族連れや、サバゲー観戦の客たちでごった返している。

ちなみに、その隣には、和服姿の勝本信義公もいた。

本人が先程電話で申告した場所と一致していることもあり、牛尾さんが二十面相の変装ではない確率は高くなった。

だが、念には念を入れなければならない。

「じゃ〜、行ってくるね」

主従から15mほど離れた位置に待機した一同に、瞳はウインクすると、人ごみの中へ消えた。

何秒かして、じいさまが、一同に気がついたようだが、千恵子と園美とみずえが、一斉に人差し指を唇に当てたので、声も掛けず、そのまま、変わりない様子で、牛尾さんと談笑していた。

そして、数十秒後。

「牛尾さ〜ん(はあと)」

勝本家の執事・牛尾さんは、突然、両肩に、重みを感じた。

「?!」

慌てて右肩に手をやると、その上には、彼のものよりもずっと柔らかく、美しい手が載せられていた。

そして、耳元では、

「へっへ〜。気がつかなかった〜。成功〜(はあと)」

先刻、隣に座った美しい少女の、嬉しそうな、美しい声が聞こえた。

暖かい息が、耳朶に触れる。

そして、背中に押し付けられる、この柔らかいものは……。

「……」

数秒後、殿様と、離れた場所で待機していた1年ズたちが見たものは、耳たぶまで真っ赤に染めて、へなへなとその場に崩れ落ちた、牛尾さんの姿だった。

「これ、どうした、牛尾」

「え〜? 牛尾さん、しっかりしてよ!」

慌てて牛尾さんを介抱にかかった瞳と勝本氏を見ながら、

「あー……」

「瞳じゃ、刺激が強すぎたか……」

「ていうか、今回、みんなこのオチなんか?」

こっそりため息をつく、観察者たちであった。

――12時43分、牛尾さん、本人と確認。



◇いんたーばる◇


さて、瞳の観察(?)により、本人と確認された牛尾さん、そして、その主君である勝本公も、瞳や千恵子、大林君の説明を受け、

「わかった、わしらも協力しよう」

「……殿がおっしゃるのなら、私も協力します」

と、二十面相を捕まえること、そして、カップル崩壊を防ぐことに、協力を申し出た。

そして、一同は、哲ちゃんの待つ場所へと戻ってきたのだが……

「!」

ガブサバ会の1年生たちと、春山姉弟、大林君の後ろに続く二人連れを見て、清水哲雄の顔が、一瞬、強張った。

(あ、あいつら、とんでもねぇ奴、連れてきやがった!)

剛毅な哲ちゃんが慌てるのも無理はない。

なんせ、彼の目に映ったのは、“史上最強の長官”の呼び声高い、前警察庁長官・勝本信義氏の姿であったのだから。

(勝本のとっつぁん、会場に来てやがったか! なんてこった……)

「? 哲ちゃん、どうしたの?」

哲ちゃんの表情を見て、二階堂瞳が不思議そうな顔で尋ねると、哲ちゃんは、慌てて表情を元に戻し、

「あ、あのー、その、後ろにいる人は、誰なんでぃ?」

質問した。

「ああ、あのね、ちとちゃんのおじいさん。さっき、会わなかったっけ?」

「あ、さっき、俺たちは、離れたところにいたから……」

「そういえば、そうだった。考えてみれば、俺も初対面だ」

「私もだな」

口々に言う哲ちゃんと春山姉弟に、

「勝本信義という。以後よろしく」

「牛尾です」

殿様と牛尾さんが自己紹介する。

「東京東高校二年、春山純と申します」

「純の姉の、好子です」

「あ、……清水哲雄……です」

哲ちゃんまで、慣れない標準語で、春山姉弟と一緒に、自己紹介をした。

「実はな、殿さんは、うちの軍略のお師匠さんなんや。『対戦戦国』やらせたら、ホンマ強いねん」

「オレも『戦国武装2』じゃ、じーちゃんに勝てないぜ。“破壊大王”使わせたら、多分日本一だな」

「剣道も強いんですよ、ね」

「それはな、大学を出てから、貸家とマンションの家賃だけで、悠々自適の生活をしていたからな。修行の暇は、いくらでもあったわ」

1年ズの他己紹介に、そして、それに補足する勝本氏の言葉に、哲ちゃんは、混乱していた。

(家賃収入で生活してた? ウソつけ。5年前までサツで踏ん張ってたくせに……それにしても、こいつらがその説明をすんなり受け入れてるのは、どういうことでぃ?)

と、

♪ちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃちゃー

哲ちゃんの携帯が、再び鳴った。

「おう! ……何、金沢の兄ちゃんの場所がわかった? よし、そこに行けばいいんだな」

携帯電話を閉じると、哲ちゃんは、一同を見渡して、今得た情報を告げた。

「金沢さんの兄ちゃんが見つかったぜぃ。駐車場の自分の車の中でぃ」

「……はあ? 携帯に出ないで、アルトの中で何やってんだよ!」

みずえは憤然としたが、

「まあいいや。とにかく行こうぜ。駐車場ってどっちだっけ?」

「その道を真っ直ぐ行って、十字路を右だぜぃ」

という、哲ちゃんの答えを聞くと、スタスタと歩き始めた。

大林君、1年ズ、春山姉弟の順でそれに続く。

哲ちゃんもその場を離れようとしたとき、

「おい、清水の!」

哲ちゃんは硬直した。

声がした方を振り返ると、和服姿の“史上最強の長官”が、自分に手招きをしていた。

まさに蛇に睨まれた蛙。

逆らう訳にも行かず、着流し姿の哲ちゃんは、おそるおそる勝本氏に近づいていった。

「……四代目は元気か?」

意外にも、穏やかな表情の勝本氏の問いかけに、

「あ、へ、へぇ、おかげさんで」

少し安心して、哲ちゃんは答えた。

「そうか。ところでな、一つ頼みがある」

「へ、へぇ」

思いがけない言葉に、再び哲ちゃんが緊張すると、勝本氏は哲ちゃんの傍に近づき、声を潜めてこう言った。

「実はな、わしが警察の人間だったというのは、あいつらには秘密にしてあるのだ。そのつもりで行動してもらいたいのだが、いいか?」

「え、……ひ、秘密って、金沢さんは、とっつぁんの……」

「……外孫だが、その孫にも秘密にしてある。無論、義晴にもだ。身内に権限の大きい人間がいるということを知ると、教育上よくないと思ってな。だから、そのつもりで行動してくれ。頼む」

そう言って、勝本氏は拝む真似をした。

「……が、合点でぃ」

哲ちゃんは、ガクガクと首を縦に振った。

「そうか。ありがたい。では、わしらも行くか」

勝本氏はそう言うと、哲ちゃんの傍を離れた。

「……ところで、相変わらず、物騒なものを持っているのだな」

「あ、い、いや……」

哲ちゃんは、腰に差した胴田貫に目を落とした。

「……まさか、堅気に手ぇ出しちゃいないだろうな」

「め、滅相もねぇ!」

ブンブンと首を横に振る哲ちゃんに、「それでよい」と勝本氏は頷いて、先発隊の後を追い始めた。



◇ミッション3〜本物の義晴兄さんを捕捉せよ!〜◇


さて、小ぶりになってきた雨の中、1年ズ、大林君、春山姉弟、哲ちゃん、そして勝本家の主従という、総勢10人の部隊は、駐車場にある、とある車の近くまでやってきていた。

その車とは、往年の名車、アルトワークス。

義晴兄さんがネットオークションで競り落としたそれは、黒光りするボディで、車が居並ぶ駐車場の中、自らの存在感をアピールしていた。

「……で、どうするんだよ?」

みずえさんが千恵子さんにささやくと、

「そやね、身内に確認してもらうんが一番やね。せやから、殿さんと千歳や。ま、あの二人なら、いくら相手が武術の達人でも、遅れを取ることはないやろ」

「そ、そうだな」

傍にいた哲ちゃんは、やや緊張気味の顔で頷いた。

長ドスや拳銃で武装した30人の極道を、一人で倒したという噂まである“史上最強の長官”なら、相手に倒されることはまずないだろう。

「ほんなら、決まりやな」

と言って、千恵子さんが作戦を祖父と孫に伝えに行こうとした時、

「ちょっと待てよ。オレも行くぜ。取って置きの方法があるんだ」

みずえが手を挙げた。

「何それ?」

「あのな……」

ごにょごにょ。

「……なるほどな。その手も使えるわ。ほんなら、殿さんと千歳と、三人で行って来て」

「わかった」

みずえは頷くと、そのまま千歳と勝本公の傍に駆けて行った。

数十秒そこにとどまっていたが、作戦が成立したのだろう、まもなく3人は、アルトワークスの方へ歩き始めた。

残りの7人は、他の車の陰に隠れ、アルトワークスを囲んだ。

みずえが車内を覗くと、義晴兄さんと思われる人物は、後部座席に座り、何やら手を動かしているようだ。

みずえは、後部座席の助手席側の窓を、こんこん、と叩いた。

「おーい、義晴兄ちゃーん」

呼んでみるが、返事はない。

「義晴兄ちゃんってば!」

更に強く、窓を叩いてみる。

返事は返ってこない。

みずえは舌打ちした。

(……ったくもー。こうなったら、ここでこの手を使うしか……)

大きく息を吸い込むと、みずえは、口をガラスぎりぎりまで寄せて、

「おいっす!」

叫んだ。

すると、

「おいっす!」

車内の義晴兄さんは、律儀に右手を挙げた。

そして、

「おいっす!」

車外にいた千歳も、律儀に右手を挙げた。

その瞬間、

「「「「!」」」」

車を囲んでいたガブサバ会の1年生たちは、一様に目を瞠った。

あの千歳が、「おいっす!」に反応したのである。

「何時だよ? 全員集合」の熱烈なファンである、義晴兄さんのみならず、謹厳実直・冷静寡黙なサムライガールである、あの金沢千歳が、「おいっす!」の声に、右手を挙げたのである。

これが、驚かずにいられようか。

「ち、千歳……」

千恵子のやや緊張した声に、千歳は、はっと我に返った。

「あ、いや……これは……その……」

頬を赤らめた千歳は、決まり悪そうに、下ろした右手と、地面に転がった傘とに、ちらちらと視線をやっている。

(千歳さん、全員集合を見てるんですね……)(園美)

(信じられん、あの千歳が、こないなことするなんて……)(千恵子)

(ちとちゃん、意外とお茶目なんだ〜)(瞳)

(よ、義晴兄ちゃん、千歳まで洗脳してたのか……)(みずえ)

誰もが台詞を口に出せない。

もはや、本題は「義晴兄さんが本物かどうか」から「千歳が『おいっす』に反応した」ということに、すっかり移行していた。

だが、このような状況でも、冷静さを保っている人が、数名いた。

その一人が勝本信義公で、

「おい、義晴、ちょっと外に出ろ」

固まってしまったみずえと千歳の横で、助手席の窓を、バンバン叩いていた。

「なんだよ〜じいさま〜。もうちょっと待っててくれ〜。今、大事なところなんだからさあ……」

右手でドライバーを持ち直した義晴が、後部座席の窓を開けて、首を出した。

「いや、こちらも大事なところなのだ。出ろといったら出ろ」

「え〜?」

「義晴!」

じいさまは、右手で思いっきり助手席のガラスを叩いた。

ばきっ。

「「「?」」」

響いた妙な音に、祖父と孫たちは、助手席の窓ガラスを見た。

じいさまの右手の周り、同心円状に、車のガラスに細かいヒビが入っている。

「……じ、じいさまーーーっ! なんちゅうことを!」

義晴兄さんは、作業を放り出して、慌てて、外に出てきた。

「すまん、つい力が……」

自分に落ち度があるためか、勝本公の声に、いつもの元気がない。

「おい、じいさま、修理代、出してくれよな! オレの大事な愛車なんだから!」

「……この爆発しそうな車に、そんなに執着するのか? 新しいのを買えばよかろう」

「ひ、ヒドい……ちゃんと車検も通してるのに、その台詞はないぜ、じいさま……」

「わかったわかった。で、新しいのを買うのか? これを修理するのか?」

「修理するとかえって高くつきそうだしな……新しいのを買ってくれよ」

「……中古の軽でいいか?」

「できればアルトワークスにしてくれ」

祖父と孫の漫才が繰り広げられる中、

(あちゃあ……)

(なんちゅー破壊力や。あんなんまともに身体にくらったら、うち、死ぬわ)

(器物損壊の現行犯ですよ、勝本のおじいさん……)

(つーか、あれで、自分の手から血が出ねえってところが、流石、勝本のとっつぁんだぜぃ……)

周りの人々は、それぞれ、こっそりため息をついていた。

――12時54分、金沢義晴、本人と確認。



◇ミッション4〜本物のオスカル様を捕捉せよ!〜◇


さて、無事に本人と確認された義晴兄さんは、大林君や千恵子さんから、この事態についての説明を受けた。

「……昼休みの間に、オスカルに新しい銃を作ってやろうと思ったんだ。で、雨が降ってきちゃったから、車の中で作業してたんだよ。だって、お前さんがた、スナイパーがいないだろ? だから、このタイミングでスナイパーライフルを投入したら、面白いかなー、って思ってさ」

「ええ目の付け所やなー。それは面白そうや。せやけど、今はこっちの方が大変なんや。あとは大将さんの本人確認をすればええんだけなんやけど、義晴兄さん、してくれへん?」

千恵子さんの依頼に、

「わかった。じゃ、とりあえず、電話してみるか?」

義晴兄さんはあっさり頷いた。

「それがあかんねん。電話が通じひん。姫さんにも電話してみたんやけど、姫さんも電話に出えへん。二人とも、携帯電話の電源を切ってるみたいや」

「……怪しいな」

春山好子さんが、ポツリと呟いた。

「でも、先輩方は、きっと、都大会のときみたいに、会食してるんだと思います。だったら、携帯電話に出るのはマナー違反だから、という理由で、電源を切っている可能性だって……」

園美さんが反論したとき、

♪ちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃー ちゃちゃちゃちゃー

三度、哲ちゃんの携帯が、鳴った。

「おう! ……オスカルの場所が分かった? で、……何ぃ? それは本当けぇ? わかった、すぐ行くぜぃ!」

電話を切った哲ちゃんは、緊張した表情で、一同を見渡した。

「オスカルが見つかった。この奥のコテージだぜぃ。どうも、修羅場になってるらしいぜぃ。しかも、金沢の兄ちゃん、あんたがいるって言ってきやがった」

『!』

全員に、哲ちゃんの緊張が伝染した。

「……それって、二十面相?」

「間違いなかろう」

「おいおいおい、よりによって、俺に変装してるのかよー」

義晴兄さんが、天を仰いだが、

「こうしちゃいられねえ。オスカルを助けに行かないと」

すぐに、決意を顔に表した。

軽いところのある義晴兄さんの、いつになく真面目な様子に、

「やな」

「怪人……必ず息の根を止めてやる!」

意気上がる一同であった。

「……哲ちゃん、道案内を頼む!」

「合点でぃ!」

哲ちゃんが先頭に立って走り出す。

そのすぐ後ろに義晴兄さんが、そして大林君が、1年ズが、春山姉弟が、勝本家の主従が続く。

事態はまさに正念場を迎えようとしていた。



そのころ、ガブリエル生徒会の役員たちの会食会場では、若衆さんたちが哲ちゃんに報告したように、異常な事態が発生していた。

「ふーん、どうしても、別れたくないってのかい?」

食後のコーヒーを啜りながら、義晴兄さんがオスカル様に尋ねた。

「当たり前だ!」

コーヒーには全く手をつけず、オスカル様は、義晴兄さんに叫んだ。

状況が理解できない。

メインディッシュの皿が片付けられると同時に、金沢義晴は、自分に別れ話を切り出してきたのである。

しかも、その理由というのが、「だって、俺、まだまだ遊びたいもん」という、訳の分からないものだったのだ。

しかも、義晴兄さんは、食事中にも、畠山美華さんにちょっかいを出したり、犬養亜紀様にアプローチしてみたり、自分をはらはらさせる行動ばかり取っていた。

普段の義晴兄さんとは、別人のようなその行動に、真理亜さまは混乱していた。

「……ひどい。あなたは、私の知っている義晴さんではない……」

目にうっすら涙を浮かべながら、オスカル様は奥歯をかみ締める。

そんな彼女に向かって、

「ふーん。じゃ、俺の一面しか知らなかったってことだね」

しれっとして言ってのける義晴兄さん。

「あなた、いい加減にもほどがありますわ」

銀縁メガネを光らせながら、氷よりも冷たい声を出したのは、斯波さんの先輩、月の宮さまこと、藤原八重子(ふじわら・やえこ)さまである。

「……久光(ひさみつ)!」

不意に、八重子さまが、執事の名を呼んだ。

すると、

「はっ!」

どこからともなく、黒いスーツに身を包んだ男性が現れる。

「あれを持ってきて頂戴」

「や、八重子お嬢様、それは!」

「いいから早く!」

「は、はい、只今」

慌てて去っていく執事の背中を見ながら、

「月の宮さま? まさか今、取りに行かせたのは……」

青ざめた顔で、“聖ガブリエルの聖女様”こと、畠山美華さまが声を上げた。

「……決まっているでしょう、美華さん。あの人間のクズ、生かしておけないわ。堪忍袋の緒が切れました」

「そ、それは……」

と言ったなり、美華さまは失神してしまわれた。

その場に崩れる美華様の身体を、

「おい、美華、しっかりしなよ」

後ろにいた花の宮さまこと、犬養亜紀さまが、慌てて支えた。

と、

「お、お嬢様……」

藤原家の執事さんが、長細い紫色の袋を、八重子お嬢様に差し出した。

受け取ると、八重子様は無言で袋の中身を取り出す。

それは、一振りの刀だった。

「つ、月の宮さま……」

ただならぬ気配に、義晴兄さんを睨みつけていた真理亜さまが、ごくりと息を飲んだ。

「この和泉守兼定で、あなたのような小物を斬るなんて気が進まないけれど、仕方がありませんわ。兼定に斬られた事を、誇りに思って死んでいきなさい」

抜刀せずに刀を構え、冷徹な顔で、こう言ってのけた八重子さまは、実は居合の達人だった。

その技のキレの凄まじさを、この場にいる全員が知っている。

義晴兄さんと美華さまを除く全員に、緊張が走った。

「や、八重子お嬢様! 物を斬るならともかく、人を斬れば、申し開きができませんぞ!」

執事さんが慌てて刀を奪おうとするが、

「お黙りなさい久光!」

八重子お嬢様の一喝で、彼は射すくめられたように、その場で動きを止めてしまう。

だが、

「へえ、俺を斬るってのかい。だが、そうなったら、ここにいるオスカルは、どう思うだろうね。やってみたらどうだい」

義晴兄さんは、八重子お姉さまのそんな様子にも動じず、せせら笑うような表情さえ浮かべている。

「お黙りなさい、小悪党。あなたの体より前に、その減らず口から、叩き割ってあげますわよ」

八重子お姉さまの、刀の柄を握る手に力が入った。

その時だった。

「あのー……ちょっと、よろしいどすか?」

修羅場にふさわしくない、おっとりした声が、コテージの中に響いた。

おっとりはんなりしたその口調に、全員が気勢を削がれた。

その視線の先にいて、右手を挙げていらっしゃるのは、前生徒会長、雪の宮さまこと、片桐芳乃(かたぎり・よしの)さまだった。

「義晴さん、ちょっとお聞きしたいことがあるんどすけど」

一歩間違えば血の雨が降るという、この状況下にあって、芳乃さまのお顔には、全く緊張の色が無い。

いつものように、にっこり微笑みながら、義晴兄さんに声を掛けた。

「……なんだい」

「うち、今、ひょいと、あんたはんの、弟さんの名前を、思い出せなくなってしもたんどす。教えてくれませんやろか?」

その場にそぐわない質問に、一同、混乱した。

「……はあ? 弟の名前だあ? ……道晴(みちはる)だよ、道晴」

露骨に嫌そうな表情になりながらも、義晴兄さんが答えたのは、京風美人の芳乃さまの笑顔に負けたからに相違ない。

その笑顔のまま、芳乃さまは、こう言ったのだ。

「そうどすか。おおきに、ありがとうございます。これで、あんたはんが、義晴さんやない、ということが、はっきりしましたわ」

普段と全く変わることのない口調だったので、その場に居合わせた女性の中で、彼女の言葉の意味を、すぐに理解できた人はいなかった。

「……!」

ただ一人、“義晴兄さん”の顔が、怒りに染まった。

「……おい、てめえ、変な言いがかりつけんじゃねえよ」

彼は、身体を、雪の宮さまに向けた。もはやオスカルの姿は、彼の眼中には完全にない。

しかし、雪の宮様は、態度を全く変えずに、いつもの口調でこう返した。

「……言いがかりと違いますえ。義晴さんには、妹さんはいてはるけど、弟さんはいてはりませんもん。さっきから、妹さんの話が、ちいとも出てきませんし、女の子に見境のう声掛けてるばっかりやし、どうもおかしいなあ、と思て、見てましたんや。それにしても、ようできた変装どすなあ。どういう風にやらはったんどす?」

「「「!」」」

雪の宮さまの台詞を聞いているうちに、月の宮さまにも、花の宮さまにも、そして真理亜さまにも、雪の宮さまの言いたいことが、はっきり分かった。

「……なるほどねえ。世の中って広いな。直子より上手じゃんか、その変装」

花の宮さまが軽くため息をついた。

「そう、義晴さんではございませんのね。だったらなおのこと、その化けの皮、斬ってあげますわ」

月の宮さまは、刀を構え直した。

「……」

オスカル様は、黙ったままだった。

信じられなかった。

性格は、その中身は、確かに、義晴のものではない。

だが、その顔は、間違いなく、愛しい人のものであった。

(いったい、……これは?)

オスカル様が、考え込んだ、そのときであった。

「オスカル、無事か!」

コテージの入り口から、声がした。

義晴兄さんの。

「?!」

あらぬ方向から響いた愛しい人の声に、オスカル様の視線が入り口に固定された。

そこには、息を切らし、髪を乱した義晴兄さんの姿があった。

「義晴さんが、二人……?」

オスカル様のみならず、同席していたお嬢様方も、入り口にいる男と、オスカル様の隣に座っている男を見比べた。

すると、

「……ちっ、本人が登場したか」

オスカル様の隣の義晴兄さんが、忌々しげに呟いたではないか。

もはや事態は、明らかであった。

「……貴様、何者だ」

オスカル様は、隣にいる、義晴兄さんの偽者を睨みつけた。

「……さあ、誰だろう?」

にやりとした男の台詞に、コテージ内に、再び緊張が走る。

「?! げ、こいつ、ホントに俺にそっくり!」

入り口に突っ立っている義晴兄さんも、真理亜さんの隣の男を、驚きの目で見た。

と、入り口が急に騒がしくなり、

「あっ、見つけたぞ!」

年のころ12,3歳の少年が、コテージの中に駆け込んだ。

「まあ、騒々しいこと! 一体、貴方は?」

礼儀作法に厳しい八重子お姉さまが問いただす。

「……僕は、星橋高校の大林錬太郎(おおばやし・れんたろう)。あの、金沢義晴に変装した男を、追っています。……覚悟しろ!」

大林君は、びしっと義晴兄さん、いや、彼の振りをした二十面相を指差した。

だが、二十面相は、その台詞を、楊(やなぎ)に風と聞き流し、気障な口調でこう言った。

「ふ、この私が追い詰められるとはねえ……」

寸発入れずに、

「息の根を止めてやる!」

言い返す大林くん。

「ふ、それはできない相談だねえ」

二十面相は、ポケットから何かを掴みだし、床に投げつけた。

途端に、盛大に白煙が立ち上がる。

「ごほっ、ごほっ」

「め、目が……」

「な、何も見えない……」

義晴兄さんも、お姉さま方も、煙を気管と目に食らい、行動に移れないでいる間に、

「はっはっは、また会おう、オスカルさん」

どこからともなく、怪人の声が聞こえてきた。

そして、煙が薄れたとき、彼の姿は見えなくなっていた……。



「オスカル!」

煙が薄れ、真理亜の姿を確認すると、義晴兄さんは、真っ先に、彼女の元に駆けた。

「よ、義晴さん……」

緊張の連続で、疲れたのであろう。床にへたり込んでしまった真理亜さまの傍に、義晴兄さんは跪いた。

「すまん、俺が、一緒にいなかったばっかりに、……許してくれ!」

「義晴さん……本物の、義晴さん……?」

「本物に決まってるだろう! ほれ、カツラ取ってみろ、顔の皮を引っ剥がしてみろ、できないだろうが!」

義晴兄さんは、真理亜様の右手を取って、自分の顔まで持っていく。

真理亜さまは、おそるおそる、義晴さんの髪の毛を引っ張ったり、皮膚の感触を確かめたりしていたが、

「……義晴さん!」

両の瞳に生色が蘇るやいなや、義晴兄さんに抱きついていた。

「!? っておい、これは、ちょっと、他の皆さん方の手前、やりすぎなんじゃ……」

と言いつつも、美味しい展開に内心喜んで、彼女をぎゅっと抱きしめる義晴兄さんであった。

一方、その他の大多数の人間にとっては、事態は殆ど好転していなかった。

「ちきしょう、逃げられたか」

外で地団駄を踏んだのは、哲ちゃんである。

「どこや、どこにいったんや、あの男」

ハリセンを手にした千恵子さんも、血眼で辺りを見渡す。

と、

「みんな、こっちですよ!」

遠くで声がした。

それは、大林君だった。

手に、長細いものを持っている。

「……そうか、そっちか! おい、いくぜ、みんな!」

『おう!』

危ないヨーヨーを手にしたみずえさんを先頭に、一同、勇敢な少年探偵の後を、懸命に追いかけたのである。



◇ミッション5 〜恋愛破壊怪人を倒せ!〜◇


一方。

「……困った。千恵たちはどこへ行ったのだ?」

コテージで発生しているこの事態を、全く知らなかった人間が居た。

金沢千歳である。

彼女は今、哲ちゃんやみずえたちを追って、コテージへと向かっていたはずだった。

しかし、体調を崩し、おまけに雨に濡れ、体力を普段より消耗していた千歳は、いつか、走る速度が遅くなり、前を行く人々を見失った。

そして今に至る……。

(これは……迷ったか)

千歳は眉をしかめ、立ち止まった。

迷子になった時は、下手に動かないこと、これが鉄則。

そのうち、誰かが見つけてくれるだろう。

そう考え、千歳はそれまで待つことにした。

「ふう」

無人の東屋の屋根の下に入り、中に置いてあった椅子に座ると、金沢千歳はため息をついた。

先ほどから、雨の中を駆け回っていたので、疲れている。

昼食も食べ損ねているので、余り元気が出ない。

雨に濡れた制服を、ポケットに突っ込んでいたハンカチで拭きながら、

(落ち着いたら、何か買って食べようか)

千歳が考えていると、

「こんなところにいたのか、金沢さん」

突然、声がした。

千歳は動きを止めた。

懐かしい声。

思いがけない声。

そして――

「な……直江どの?!」

千歳は立ち上がった。

東屋の入り口で、こちらを向いて、微笑む美丈夫。

二年ぶりに目の当たりにする、直江輪、その人の姿であった。

「ど、どうしてここに?!」

千歳はすっかり取り乱し、喋る言葉ももつれかけている。

「うむ、試合を見に来たのだ」

「そうでしたか……」

「それと、君を貰いに」

「へ?」

相手の言葉の意味が分からず、聞き返した千歳さんの隣に歩み寄ると、直江どのは突然、千歳を抱きしめた。

「?!」

余りのことに、とっさに反応できない千歳さんの耳元で、

「初めて会った時から君が好きだった……今度いつ会えるか分からないから、……ねぇ、いいだろ?」

「い……いいとは、何が……」

「決まってるじゃないか。君が欲しい」

千歳は混乱していた。

始めから抱きしめられるとは、思いもしなかった。

それに、こんな情熱的に囁かれるなんて……

(な……直江どのの言葉とも思われない……)

顔から火が出てしまいそうに、赤面した千歳は、こう思って、ハッとした。

「敵は、好きな相手に変装できる」

大林君は、そう言っていたではないか。

それに、千歳に連絡もなく、直江どのがこちらにくるのも、解せない。

礼儀正しい直江どのなら、必ず、事前に連絡をくれるはずである。

「直江どの……」

「ん?」

千歳さんの唇を奪おうと狙っていた、“直江どの”の動きが止まった。

「あなたはまことに、直江どのでございますか?」

「?!」

“直江どの”が一瞬、動揺した。

その一瞬の動揺で、千歳は、全てを悟った。

相手のみぞおちに、突きを入れると、千歳は相手から飛び離れた。

「ぐ……?」

床の上で、“直江どの”が呻く。

だが、

「……たわけたことを。直江どのは、そのようにふしだらな殿方ではないわ。貴様は、二十面相とか呼ばれている怪人物だな?」

千歳は、一欠けらの慈悲もない声で、相手に確認する。

すると、

「……ぬはあ、ぬはあ、ぬははは! そこな小娘、よく俺の正体を見破った!」

“直江どの”の口調も、声も、完全に変化したではないか。

「俺は“ダブルコピー怪人”改め、“恋愛破壊怪人”! 筒井康介と喜多川八郎、二人の能力を完全にコピーし併せ持った、まさに最強の怪人なのだ! 見破られたからには、小娘、ただではおかない! お前をさらって、魔王クラーマさまの御前に捧げてやる!」

「?!」

相手の台詞の内容が、千歳には理解できなかった。

(恋愛破壊怪人? 魔王クラーマ? 一体何のことだ?)

だが、恋愛破壊怪人と名乗る、“直江どの”の姿をした男の拳は、千歳に容赦なく襲い掛かってきた。

「く……」

間一髪でかわしたものの、千歳は相手が、かなりの使い手であることを直感した。

加えて、自分は体調不良である。

しかも、小太刀“飛燕”は、救護テントに置いてきてしまっている。

そして、相手の顔は、直江どのの顔、そのものなのである。

いくら声が違っていても、その顔に、身体に、攻撃を加えることを、千歳はためらってしまう。

(く……直江どのにまで変装できるとは、なんと卑劣な敵!)

千歳は、相手に攻撃を加えることができず、相手の攻撃をかわすことに終始せざるを得なかった。

「ぬははは〜。苦しめ〜、苦しめ〜。貴様の心の傷が深ければ深いほど、俺のエネルギーはびっくり爆発超満タン! ぬははは〜」

相手は、まだまだ余裕があるようである。

(せめて……せめて、棒なりともあれば……)

千歳が思ったとき、

「金沢さーん! これを使って!」

声と共に、後ろから、何かが飛んできた。

千歳は反射的に、そのものを掴んだ。

(?! これは、刀?!)

「ほれ〜、とどめじゃー」

襲ってくる相手を、千歳さんは、咄嗟に、抜き打ちに切った。

「ぐはあ!」

左腕を斬られた怪人が、仰け反る。

攻撃力は強くても、防御は弱いようだ。

千歳の眼は、その刃に吸いつけられた。

今、相手を斬ったというのに、その刀は、まるで何事もなかったかのように、薄曇の光を反射し、静かに光っている。

相当な名刀であることは、間違いあるまい。

(ありがたい! 天の助けだ!)

得物を手にした千歳は勇気百倍、殺気を全身にみなぎらせ、“恋愛破壊怪人”と名乗った男をはったとにらみつけた。

「……魔王の手先ということは、人間ではあるまい! 死ね! この破廉恥漢! 死んで直江どのに詫びるがいい!」

「く……!」

刀を構え直した千歳から逃れようと、男は、脱兎の如く、東屋から飛び出そうとした。

咄嗟に、千歳は、前を横切った怪人の脛を蹴った。

怪人は前のめりに倒れ、入り口のすぐそばにあった水溜りに、顔から突っ込んだ。

怪人が顔を泥だらけにして立ち上がった時には、既に、彼の周りには、数人の追っ手が、おのおの戦闘準備を整えていた。

「ここにいたか、怪人!」

「やあ!」

「覚悟!」

大林君と春山君と長倉君が飛び掛る。

「お前、許さんぜよ!」

みずえさんの危ないヨーヨーが宙を飛ぶ。

「むん!」

牛尾さんの木刀が襲う。

「おらおらおらー!」

哲ちゃんの胴田貫の峰が迫る。

どか!

ばき!

どごん!

ずざっ!

ぼこん!

どかん!

「ぐ……ぐは……」

6人からの一撃を受け、流石の怪人も、立っているのがやっと、という状況に陥る。

「か……かくなる上は……逃亡して……」

最後の力を振り絞り、人垣の切れ目から逃れ出ようとした怪人の前に、二人の人物が立ちはだかる。

史上最強のブラコン姉さん。

そして、史上最強の長官が。

「ふん!」

「はあ!」

好子さんと勝本氏が、息を合わせ、必殺の蹴りとパンチを怪人に叩き込むと、怪人の身体は、30mぐらい吹っ飛ばされ、

「こ、この最強を誇る恋愛破壊怪人の俺様が、そんなバカなー!」

ちゅどーん!

爆発した。


ナレーション:「かくして今日もまた、一つの悪が滅び去った。だが、魔王クラーマある限り戦いは続く。がんばれ、負けるなセンゴクマン」


「へ……?」

「何これ?」

「アトラクションですか?」

「何だったんだ、あれは……」

1年ズと春山君と長倉君は、恋愛破壊怪人とかいう男が爆発したことが、理解の範疇を超えてしまったため、その場に呆然と立ち尽くした。

「9人合わせて1600CPの人間に沈められたのだ、誇りに思え」

好子姉さんは謎の台詞を呟き、

「怪人……あいつ、ドクを誘拐した野郎の仲間だったか!」

哲ちゃんは、爆発の起こった方角を睨みつけ、

「ふむ……思わぬ収穫だったな」

「御意」

勝本家の主従も、意味不明の台詞を吐いていた。

そして、

「ふー、やれやれ。やっとぼくの偽者が退治されたか。ああよかった」

大林君も、気になる言葉を吐きながら、ほっとため息をついていた。

「……へ?」

“ぼくの偽者”という言葉が耳に引っかかった千恵子さんが、大林君の方を向く。

「ぼくの偽者? どういうことや?」

すると、

「あ……しまった」

大林君は舌打ちした。

「まさに千慮の一失。しかし、このままだと大林君が混乱するしなあ……しょうがあるまい。ええと、すいません。実は……」

大林君は、右手を開いて、自分の顔の前で上下させた。

すると、彼の顔が、一瞬で、別人の顔に変わっていた。

「……私が喜多川です」

「え!?」

千恵子さんの叫びに、皆が一斉に振り替えると、そこには、大林君の服を着た別人が立っていた。

髪がぼさぼさ、眼の下にクマ、そして細長の顔……。

「て、天才探偵“R”……?」

大人気ホラー映画『ENMA CHOU』の主人公のライバル役の名前を呟いたのは、やはりネタ女王・名越みずえであった。

「ちょ、ちょっと待て、じゃあ……」

拳を固めた春山君に、

「待ってください春山君。これには訳があります」

天才探偵“R”と寸分違わぬ顔の喜多川氏が、慌てて春山君の拳を押さえつけた。

その意外な力の強さに、春山君の動きが止まる。

そのまま、R、ではなかった、喜多川氏は、事情を説明し始めた。

「実は、神奈川県大会のとき、私は、“ダブルコピー怪人”なる者に、髪の毛を抜かれました。そして、そのダブルコピー怪人は、筒井康介の髪の毛も引き抜いたのです。そして、彼は、髪の毛を自分の髪に埋め込むことによって、私の能力と筒井の能力を得た……即ち、私の変装能力と、筒井の女好きな性格とを併せ持った、“恋愛破壊怪人”に変身したのです。そして彼は、人知れず、次々と、我が校の生徒の彼女を、奪っていきました」

『?』

春山姉弟と1年ズと長倉君は、喜多川氏の語る内容が、全く理解できなかった。

「……なるほど。それで、なぜこの場で、怪人を退治しようと?」

話の続きを促したのは、勝本氏である。

「私も変装の都合上、身体を鍛えていますが、私だけでは、怪人を倒すことはできませんでした。他の生徒に『怪人を倒そう』と協力を求めても、皆、信じてくれません。警察にこんな話をしても、きっと警察は信じてくれないでしょう。そう考えた私は、このサバゲー大会を待っていました。サバゲーの敵チームに、話をうまく持ち込めば、怪人を倒すのに協力してくれるかもしれないと思ったのです。我が校であらかたターゲットを狩り尽くした怪人が、比較的ターゲットの探しやすいこの大会で猛威を振るうことは予想できましたから」

「それで、大林に変装して、ガブサバ会にこの話を持ち込んだって訳か……」

哲ちゃんが呟いた。

「そういうことです。怪人がまず狙うとしたら、都大会で有名になった、斯波さんか、赤橋さんのカップルだろう、そう思いましたからね。それに、ガブサバ会の参謀なら、上手く話に乗るだろうと思ったのです」

「はあ……」

千恵子さんは、ただぼんやり、相槌を打つのみであった。

「しかし、何で大林に変装したんでぃ?」

「大林君の顔は、『月刊種子島』に載ってましたから、皆さん分かるだろうと思ったのですよ。それに、二十面相が二十面相を追っている、なんて、真っ向から言っても、誰も信じてくれませんからね」

“R”は、静かに笑うと、

「……みなさん、ありがとうございました。おかげで、怪人が退治できました」

一礼した。

『……はあ』

訳が分からぬまま、返事をする一同に向かって、

「じゃあ、試合で会いましょう」

笑顔で手を振ると、天才探偵“R”こと、喜多川氏は、その場を立ち去った。



一方その頃……。

「はい、あーん」

本物の大林錬太郎君は、ピクニック広場のパラソルの下で、姉の明智美津子(あけち・みつこ)と一緒に、バニラアイスクリームを食べていた。

「姉さん、美味しい」

「そう?」

「姉さん大好き〜。何でお嫁に行っちゃったんだよ〜」

「あ、こらこら、止めなさい、錬くん。抱きついちゃ、アイスクリームが食べられないでしょ」

一方、

「ちきしょー。アウトドアンピンクもダメか……。何か今回、ナンパ運が悪いなあ。真理亜一本に絞ったほうがいいかなあ」

神奈川県大会で自分が髪の毛を抜かれたことも、そして、この一月近く、自分の学校で怪人騒ぎが起こっていることも、全く知らない筒井康介は、自分の女運の悪さを嘆いていた。

そして、

「……あれ、なんやったんや?」

「さあ?」

「よくわからん」

怪人を退治した(とされる)、1年ズと長倉君と春山姉弟は、「まあ、よいではないか。さあ、さっさと戻って、作戦を立てねばの」という、勝本氏の言葉に、全てを忘れようとしていた。

ただし、

(あれが……あれがもし、本物の直江どのならば……)

千歳だけは、抜き身の刀を下げたまま、有り得ない想像に、心をかき乱されていたのだが。

次回予告

「怪人騒動を収めたお嬢さま方は、ようやく第2試合を迎える。
だが、相手のチームのリーダーの要求は、「オスカルをよこせ」。
フィールドに怒号が渦巻く中、頻発する予想外の事態。
そんな中、例のあの人が再び暗躍し……
ギャラリーを驚愕させた、想定外の出来事とは?
そして、千恵子さんを泣かせた男の正体とは?!

次回、『オスカルを守れ! 地区大編』
『FANG GUNNERS』に負けるな、お嬢さま」


続きを読む 戻る