投稿小説だぜ

まるえさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』

第十四話


◇連合艦隊? 地区大(ちくたい)編◇

◇午前10時20分。大会開始40分前◇


「……そんなあああ!」

赤橋園美(あかはし・そのみ)は、人目をはばからず絶叫した。

ここは、奥房総アウトドアランドの駐車場である。

彼女は、今日このアウトドアランドで行われる全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会の南関東大会に「聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会」、略して「ガブサバ会」のメンバーとして、急遽出場する予定……だった。

だが、ここにきて、チームメイトの金沢千歳(かなざわ・ちとせ)・名越みずえ(なごし・みずえ)・佐々木千恵子(ささき・ちえこ)が、全員戦闘不能という事態に陥ったのである。

6人のうち、3人を欠いては、補充する人間を探すのも大変だ。

勿論、在校生は今日も応援に来るのだが、生粋のお嬢様方だ、サバゲーなどに手を出すことはしまい。

つまり、「ガブサバ会」は、人数が足りないため棄権、ということになってしまう。

「そ、そんな、そんなことって……」

余りに感情が高ぶった園美さんの中で、何かが切れようとしたその時、

「園美っ!」

遠くから、彼女を呼ぶ声がした。

「へ、平八(へいはち)さん?!」

驚いて振り向いた彼女の視線の先に、想い人の姿があった。

「園美、どうした?」

駆け寄ってくる彼の名前は、長倉平八(ながくら・へいはち)。

紫英館(しえいかん)高校2年で、「ガブサバ会」のライバルチームである「剣道部!」の一員である。

だが、今日は武士コスプレではなく、黒いTシャツ(「改革」という文字は入っていない、念のため)にジーパンという、至って普通の格好であった。

「あ、あのね、平八さん……」

自分の元にやってきた長倉氏の胸に飛び込んだ園美は、今までのいきさつを手短に説明した。

「なんだ、そういうことか。では、聖ガブリエルの中から、誰か探せばよいではないか」

長倉の口から、その場にいる誰もが思ってもいなかった台詞が飛び出したのである。

園美も、友人の二階堂瞳(にかいどう・ひとみ)も、牛尾さんも、ただ呆然として、長倉氏の顔を見るばかりだった。

「長倉君?」

今回の騒動の原因……ではなかった、元警察庁長官・勝本信義(かつもと・のぶよし)氏も、怪訝な顔で長倉氏を見る。

だが、その視線を受けつつも、

「にわか仕込みになるだろうが、俺が新しいメンバーをコーチする。そうすれば、ガブリエルも何とか戦える」

長倉君はきっぱり言い切った。

「……当てがあるの?」

瞳の疑問に、だが彼は、

「知らんっ!」

……余りに気持ちのよい返答だったので、瞳も園美も脱力してその場に崩折れかけた。

しかし、

「……し、しかし、探せばよいのではないか?」

という殿様の発言に、場は動き始めた。

「分かった〜。あたしも参加する〜。戦力になるかどうかわからないけど〜」

瞳が手を挙げた。

「ふむ、そうか。そうするとあと二人だな」

「あ、あとの二人は、三壷様に選んでもらったらどうですか? 三壷様の依頼なら、誰も断れませんから」

園美が提案すると、

「そうだな。もし多すぎたら、わしがその中から参加メンバーを選抜する」

殿様も力強く頷いた。

先ほど「出場辞退しよう」と言ったことは、既に水に流しているらしい。

「じゃあ、これで決まり〜。控えテントに行って、三壷様にお願いしよ〜」

「承知」

「わかりました」

そして、高校生3人は、動き始めた。



◇37分前◇


「だけどさ〜、正直なところ、当てってあるの〜?」

お姉さま方が待つ、控えテントに向かって歩きながら、瞳さんが首を傾げた。

「うーん、どうでしょうかねえ」

園美さんも、歩きながら首を傾げた。

「園美、お前はクラス委員だから、他のクラス、他の学年の人間のことも、少しは知っているだろう?」

長倉氏が、考え込んでいる園美に尋ねるが、

「そう言われても……」

彼女の返答は、良いものではなかった。

「だって、高3は受験があるから、応援には来てないでしょ。高2は生粋のお嬢様ばかり。高1は、……うーん、うちのクラスの人なら頼んだら動いてくれるかもしれないですけど、新田(にった)さんたちがいますからねえ……」

「そ〜だね〜、新田麗(にった・れい)がうるさいもんね〜。ちえちゃんたちがサバゲーに出ることも、しぶしぶ承知したって感じなんでしょ〜?」

瞳が露骨にいやな顔をする。

ちなみに、新田麗というのは、1年藤組の生徒で、家柄もよく、美人であるが、わがままで目立ちたがりという、ある意味「お嬢様」を地で行っている人間である。

これに、楠木美津子(くすのき・みつこ)、名和浩美(なわ・ひろみ)、結城あまね(ゆうき・あまね)、千種奈美恵(ちぐさ・なみえ)という4人がくっついて行動することが多く、全員まとめて「5人組」と呼ばれている。

この5人組、学校全体の風紀委員を自認しており、休み時間は狐のような目で、廊下をうろつきまわっている。

礼儀作法の間違いを見つけると、生徒に容赦なく折檻を加えるという噂もあり、生徒たちやシスターたち、そして教職員たちも、「あそこまでなさらなくても……」と眉を顰めている。

「やりたい放題無茶やって、自分らが三壷・三宮に折檻されんとええけどね」とは、毒舌家の千恵子の弁であるが、生徒たちの礼儀作法が、彼女らのおかげで向上しているという面もあり、教職員たちも、面と向かって彼女たちに注意できないらしい。

あの三壷様・三宮様も、彼女たちに手を焼いているとの噂もある。

閑話休題。

「それにしても、どうしよ〜か?」

「そうですね……」

「ふむ」

ため息しきり3人は、歩きながらも、黙りこくってしまった。

だが、その沈黙は、すぐに破られた。

「あ、もしもし、そこのメガネのお嬢さん!」

素っ頓狂な声が横から掛けられて、園美はちらと振り向いた。

紺色の制服らしき服に身を包み、カメラを持った少年が、こちらに走ってくる。

「メガネのお嬢さんって……わたしですか?」

不思議そうな表情の園美さんの傍まで到達すると、カメラ少年は、

「あなたたちは、もしや、聖ガブリエル女学院の赤橋さんと、紫英館の長倉さんではありませんか?」

と尋ねた。

顔が嬉しそうなのは気のせいだろうか。

「いかにもそうだが……貴殿は?」

長倉君の問いに、二人に向かってカメラを構えようとしていた少年は、はたと気がついて、

「申し遅れました。僕は、東京東(とうきょうひがし)高校新聞部の政山興(まさやま・のぼる)と言います」

自己紹介して、

「いやあ、お二人に早速会えるとは思ってもみなかった」

と、満足げな笑みを漏らした。

「聖ガブリエルと紫英館の恩讐を超えた恋。すばらしい。敵味方に別れてはいるが、恋は全てに打ち勝ちます。人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて地獄に落ちろ、いやあ、この言葉がまさにぴったりだ。久々に、崇高な愛の形を見た思いがします。是非我が校の学校新聞にお二人の恋の顛末を大々的に……」

政山君が台詞をマシンガンのように並べ立てていると、

「興さん! 何してるんだ!?」

後ろから記者の暴走を咎める声が飛んだ。

「は、春山くん?!」

政山君が振り返ると、そこには同じ制服に身を包んだ、精悍な男が立っていて、彼をあきれたように見やっていた。

「興さんは、ちょっと目を離したらすぐにいなくなるんだから、困る。俺たちは取材に来たんじゃない。戦術の研究に来たんだ。それを忘れるなよ」

聖ガブリエルと1回戦で対戦した大東京海軍の参謀・春山純(はるやま・じゅん)は、暴走記者に釘を刺しておいて、3人の方に向かって歩んできた。

「申し訳ない。俺の友人がお邪魔をしてしまって」

一礼する春山君は、流石ジェントルマンらしく、ピシッとした立ち振る舞いである。

「いえいえ。ところで、あなたは?」

「東京東高校2年の、春山純です」

春山君の言葉に、瞳さんは、「ああ!」と、得心したように頷いた。

「“大東京海軍”の参謀さんですよね〜?」

「そうです。あなたの学校とは、1回戦で戦って負けてしまいました」

春山君は苦笑する。

「……戦術の研究に来た、とおっしゃっておられたな」

長倉君が尋ねると、春山君は、「ええ」、と首を縦に振って、

「……実はあの敗北の後、姉に『ばかもーん!』と殴り飛ばされましてね。それで眼が覚めまして、地区大会の各チームの布陣などを研究し始めたのです。来年の大会では優勝するために。今日もその研究の一環でこちらに……」

「好子(よしこ)さんは怖いですもんね〜。必死で勉強しないと、また鉄拳が飛んでくるし……」

政山君が茶々を入れる。

「……興さん、俺は姉さんが怖いから戦術研究を始めたんじゃない。俺が勉強したいと思ったから始めたんだ。だから毎日、夜遅くまで続けられるし、飽きない。あんな馬術狂いの姉さんなんぞ、怖いもんか」

「いつも乗馬に付き合わされて、『姉さんが怖い、馬も怖い』って言ってる癖に……」

「興さん! 言わせておけば〜!」

「だからって叩こうとすることはないだろ! 暴力反対! 言論の弾圧を許すな!」

放置しておけばいつまでも続きかねない二人の会話に、

「あ、あの、作戦研究だったら、もっといい方法がありますよ」

園美さんは無理やり割り込んだ。

少々気弱な彼女にしては、珍しいことである。

「え?」

春山君は直ちに会話、というよりは、政山くんの襟首を掴もうとするのを止め、全身を園美さんにくるりと向ける。

その見事な食いつきっぷりに、園美さんはちょっと戸惑ったが、

「……じ、実際に戦うんです」

「実際に戦う?」

首を傾げる春山君に、

「実はだな……『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』は、相次ぐアクシデントで、現在戦えるメンバーが二人しかいないのだ。それで今、急遽参加メンバーを募っているところなのだ。ちなみにここにいる俺と園美、そして二階堂さんも手伝うことにしている」

長倉氏が告げた。

「あ、アクシデントって……一体、何があったんですか?」

流石記者らしく、政山君が挙手して質問する。

「えーと、2年の細川さんは、高熱を出して、ドクターストップが掛かったんです。あと、1年の金沢さん、名越さん、佐々木さんは、ここで来る途中で全員気分が悪くなってとても戦える状態じゃなくて……」

園美さんが答えると、

「え、な、名越さんが?!」

政山君は驚愕の表情を見せた。

「……ぼ、僕、協力します! 僕の新聞部としての経験を元に、全身全霊で相手の情報収集に努めます!」

園美さんに掴みかからんばかりの勢いの協力宣言に、

「わかったわかった」

春山君は苦笑する。

「……だがなあ、興さんはスタミナがないから、そんな勢いで情報収集したら、すぐにダウンするぞ。それよりは、スタンドから試合を遠望して、戦闘詳報を書く方が、この方たちのためになると思うな」

「えー、そ、そんな……」

がっかりする政山君。

「春山どの?……」

突然の具体的な台詞に、長倉氏は訝しげに春山君を見た。

そんな長倉氏の眼をまっすぐ見返して、

「……俺も是非、協力させてください。まだまだ修行中の身ですが、俺の智謀の全てを傾けて、作戦を練ります。よろしくお願いします」

春山君はぺこりとお辞儀した。

……もしこの場に千恵子さんがいたなら、

「大丈夫かいな。あんまり、ぱっとせん作戦やったけどなあ」

と、言うかもしれない。

「まあ、でも、うちら、今回は勝ったらあかんから、別にヘタレ参謀でもええか」

と、この事態を了解するかもしれない。

だが、このことが予想外の展開を生み出すことを、ここにいるメンバーは誰も予測できなかった……。



◇30分前◇


「さて、我が方の火力は、予選の時から変わっていないのだな?」

控えテントに向かう途中、臨時作戦参謀の春山くんが園美さんに問いただした。

「……ごめんなさい、わたしもわからないんです。メインの武器自体は変わってないんですけど、どういう改造がされてるかってところまでは、ちょっと。義晴(よしはる)さんだったらわかるかもしれませんけど」

「義晴さん?」

首を傾げる春山くんに、

「金沢さんの兄さんだ」

長倉くんが説明を入れる。

「もしかして、あの、おもいっきりオスカルな人と付き合ってる人ですか?」

と言ったのは政山くんだ。

「そうですよ。よくご存じですね」

「これでも新聞記者の端くれですから」

そう言いきった政山くんに、

(この人、細川先輩と同類……)

初対面ながら、既に瞳さんは彼の本質を見抜いてしまった。

「ふむ、弾数は後で確認するとして、問題はMINIMIだ」

春山くんは戦力分析に没頭していた。

「何故問題なのだ?」

長倉くんが尋ねる。

「あの銃身は異常に長いし重いから、動くのには非常に不便だ。あれは拠点防衛に向いている。だが、俺の作戦上、そういう火器はいらない。それにしても、佐々木さんは都大会の決勝でなぜあれを動かそうと思ったのか……」

そこまで呟いて、春山くんは「おや?」と呟いた。

前方に、趣味の悪いスーツや着流しを着た強面のお兄さん達が屯していたのである。

「何だあれは……」

春山くんの声に、残りの4人も、前方のステキ異空間と化している場所を見やり、

(な、なんですかこの人たち……)(←園美)

(胡乱な奴らだ)(←長倉)

(もしかして、じ、仁義無き戦いですか?!)(←政山くん)

(まさか、腕のいいサバゲーマーをヒット@ンとして引き抜こう、ってことはないよね〜)(←瞳)

4者4様の感想を抱いた。

だが、瞳だけが、その直後、眼を細め、男たちの顔をじっと眺めた。

(あれ……? あのヤ@ザさんたち、何かどっかで見たことがあるような気がする……)

記憶を呼び戻せないもどかしさに、彼女が首をかしげた、そのときだった。

着流しを纏い、強面でがっちりとした身体の若い男が現れたのである。

角刈りは剃りこみもばっちり入っており、どこから見ても堅気の男とは思えない。

だが、その男の顔も、瞳の記憶と一致するような何かがあった。

すると、強面のお兄さん達が、いっせいに道を開け、

「若! どうぞこちらへ!」

と、異口同音にドスの聞いた声で、若い男を招きいれたのである。

その台詞で、瞳の中で記憶と現実が完全につながった。

「……哲ちゃん!?」

瞳の出した大きな声に、若い男のみならず、強面のお兄さんたちも、彼女の方に一斉に顔を向けた。

「……おめぇ、もしかして、二階堂さんトコの瞳けぃ?」

若い男が訝しげに尋ねる。

「そ〜だよ〜! 哲ちゃん、ひさしぶり〜!」

瞳は若い男――哲ちゃん、本名清水哲雄(しみず・てつお)――に、笑顔で大きく手を振った。

「え?」

「二階堂さんの?」

「いやあ、すっかり、別嬪になってるなあ」

若衆たちが驚きの声を上げる中、そして、残された4人の訝しげな視線の中、瞳は哲ちゃんに駆け寄った。

「久しぶりだなあ。すっかり大きくなっちまって。最後に会ったのは、えーと……」

「あたしが小学4年のときの、お正月だよ〜。中学受験の冬期講習やらがあって、小学5年から、お年始いけなくなっちゃったんだよね〜。ごめんね〜哲ちゃん」

……説明しよう。

時は終戦直後までさかのぼる。

瞳の祖父で、現在は香水やお香を扱う専門店・『二階堂』を瞳の父と一緒に経営している二階堂史明(にかいどう・ふみあき)氏は、当時、まだ旧制中学に通う身でありながら、闇市に店を出して、お香や香水を売っていた。

というのも、度重なる東京への空襲により、店は焼失し、『二階堂』を経営していた父も亡くなってしまったからである。

母は気丈にも、焼け跡にバラックを建て、店の再建のために奔走していたが、心労がたたってか、病の床についてしまった。

従業員たちも、戦争中に徴兵されてしまい、行方が知れない。

そこで、史明少年は、僅かに焼け残った店の商品を捌き、母の代わりに『二階堂』再建資金を稼ぐことにしたのである。

だが、初めて闇市で商売をしようとしたその日、史明はならず者たちに絡まれ、無理やり路地裏に連れ込まれた。

そして、殴る蹴るの暴行を加えられ、売上金を奪われて、あわや殺されようかという時に、たまたま通りかかった哲雄の曽祖父と祖父に助けられ、九死に一生を得たのである。

実は、この二人は、あの清水次郎長の孫と曾孫に当たる人物で、東海から関東一帯を仕切る任侠集団「清水一家」の大親分、三代目清水次郎長と、その跡取り。

史明少年が出ていた闇市も、彼らが取り仕切っていたのだ。

史明少年から話を聞いた三代目清水次郎長はいたく同情し、彼のために、闇市の一等地にスペースを確保してやった。

しかも、彼の傍には、彼が二度と危害を加えられないよう、若衆まで配置してくれたのである。

そのおかげで、史明少年の店は繁盛し、昭和25年、『二階堂』の店舗を、戦前と同じ場所に再建することが出来た。

そういういきさつがあるので、史明氏は三代目と四代目を自分の命の恩人、『二階堂』再建の功労者と崇め、正月には必ず清水一家に顔を出して、年始の挨拶をしている。

そして、四代目の孫で、清水一家の現在の跡取りが、瞳の前に立っている哲雄なのだ。

小さい頃は、史明氏に連れられ、瞳もお年始に顔を出していたので、哲雄や若衆たちとも喋る機会があった。

ただ、中学受験の勉強や、授業の関係で、瞳は祖父について清水家に年始に行けなくなり、ここ数年は、哲雄とも顔を会わせていなかった。

哲雄の母・江万子(えまこ)が、『二階堂』の常連なので、互いの消息ぐらいは知っているのだが。

「親分さんやおばさんや、お蝶ちゃん、元気してる?」

「ああ、じいちゃんもおふくろも、お蝶も元気だぜぃ」

「よかった〜。……そう言えば、哲ちゃん、お蝶ちゃんと婚約したんだっけ。まだお祝い言ってなかったよね〜。おめでと〜」

「よ、よせやい、照れるじゃねぇか」

「あっはははは、哲ちゃん、かわい〜」

許婚であるお蝶のことに話が及び、ちょっと慌てた哲雄を、瞳が指差して笑う。

「……それにしても、哲ちゃん、何でここにいるの?」

「いやあ……」

瞳の当然な質問に、哲雄は言葉を濁した。

実は、清水一家の抱える情報屋・ユキメから、「サバイバルゲーム大会に出場するチームの情報を送って欲しい」という要求が来たのだ。

その程度の要求なら、わざわざ哲雄が出張る必要もない。

だが、自身が親しくしている栃木のサバゲーチーム『OK牧場の血統』に、ユキメに流す情報をついでに教えておこう、と思いつき、それなら、自分の目で、出場チームの実力を確かめよう、と考え、奥房総アウトドアランドまでやってきたのである。

ちなみに、幼馴染の名越みずえが、『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』のメンバーとして大会に出場するので、その姿を見ておこう、という目的もあったりする。

だが、みずえのことは兎も角、裏の世界の事情を、一般人の、しかも、『OK牧場の血統』の敵になるかもしれないチームと同じ高校に所属している瞳に教えるわけには行かない。

それで、

「……実はな、知り合いが出場するんでぃ。おめぇ、知らないけぃ? おめぇと同じ高校の、名越みずえ」

と、表向きの理由を説明したのだが、

「え、哲ちゃんって、みずちゃんと知り合いなの?!」

瞳は驚愕した。

「ん? ああ……知り合いけぃ?」

「知り合いどころか、同じ部活の友達……って、ああ!」

瞳は大声を出した。

「? どうしたんでぃ?」

瞳の二転三転する態度に、哲雄は付いていけずに、頭の中が?マークだらけになる。

だが、瞳は、そんな哲雄の様子などお構いなしに、表情を見る見るうちに不安と焦燥で染めてしまった。

「肝心なこと忘れてた〜。あたし、聖ガブリエルのチームに、代理で出場しなくちゃいけないの〜」

「? どういうことでぃ?」

ようやく話を掴みかけた哲雄に、

「あ、あのね〜、みずちゃんが、ここに来る途中でひっどい車酔いになっちゃってさ、動けなくなっちゃったの〜。他の1年の子二人も、車酔いでダウン。しかも、2年の一人が、高熱で出場出来なくなって……だからウチの学校のチーム、今二人しか動ける人がいなくて〜。ウチの学校の生徒に頼めたらいいんだけど、銃を間近に見ただけで貧血起こすっていうお嬢様ばっかりだからダメなの〜。だからあたしが代理で出場することになって〜。作戦立ててくれる人は何とか見つかったんだけど、情報を集める人がいなくなっちゃって〜、ちょっと大変なんだよね〜。でも、頑張る〜」

瞳は事情を説明した。

「……というわけだから、ごめん〜、哲ちゃん。話したいことは、たくさんあるんだけど、また今度ってことで〜」

両手を合わせて深々と頭を下げ、瞳がその場を立ち去ろうとした、そのときである。

「待ちねぇ!」

哲雄のドスの効いた声に、思わず瞳はびくっと身体を震わせた。

「情報を集める奴がいねぇのけぃ?」

「う、うん、そうだけど……」

「だったら、手伝ってやるぜぃ」

哲のこの言葉に、

「「「え?」」」

「「若?!」」

若衆たちが色めきたったが、

「ダチが困ってるってのを、見捨てられるかい!」

哲ちゃんは言いきった。

「ホント〜?! ありがと〜哲ちゃん! 哲ちゃんが来てくれれば大助かり〜」

瞳はそう言って、にっこり笑った。

その綺麗な笑顔に、

(べ、別嬪だ……)

(堅気のお嬢さんじゃなかったら……)

強面お兄さんたちが心を動かされていたのだが、まあそれは置いておこう。


「……で、このメンバーが来たって訳?」

『ガブサバ会』の控えテント。

聖ガブリエルのオスカル様こと斯波真理亜(しば・まりあ)嬢、天使のみかちゃん……ではなかった、聖ガブリエルの聖女様こと畠山美華(はたけやま・みか)嬢の前で、ざっくばらんな口調で言ったのは、『三宮様』の一人、花の宮こと犬養亜紀(いぬかい・あき)である。

「「はあ……」」

天幕の隅っこに、並んで立っている園美と瞳は、曖昧な返事をした。

彼女たちの傍には、春山君、政山君、哲ちゃん、長倉君が、落ち着かない様子で突っ立っている。

ちなみに、亜紀の傍には、雪の宮、こと、片桐芳乃(かたぎり・よしの)も、にこやかに微笑しながら立っておられる。

ボーイッシュだがなかなかに整った顔立ちの亜紀、そして平安時代の絵巻物から抜け出たかのような、どこか古風で典雅な雰囲気を思わせる美貌を誇る芳乃。

この二人が並んで立っていると、さながら『源氏物語』の世界を見ているような錯覚に陥ってしまう。

更に、テントの中には、政山くん曰く、“おもいっきりオスカル”な真理亜と、あらゆる層の男性をノックアウトしてしまう美少女の美華がいて、こちらを向いて微笑んでいらっしゃる。

まるで、『ガブサバ会』のテント内だけ、タカラ@カの舞台のようになってしまっているようであった。

もちろん、ガブリエルの生徒は、このような光景にも慣れているのだが、校内の様子を殆ど知らない男性陣は、この『古きよき少女マンガの世界』に、圧倒されていた。

普段なら、カメラを構えているはずの政山くんも、ただ呆然と、「綺麗なお姉さん」たちを見やるのみである。

だが、この「綺麗なお姉さん」たちは、男性陣に、いや、聖ガブリエルの猫かぶり生徒たちにも、強力な爆弾を、さり気なく投げつけたのである。

「……よし、赤橋ちゃん、ひとみん、よくやった。あとの二人は、あたしとよしのっちでいいとして、問題は衣装だ」

「そうどすなあ。一応、衣装はぎょうさん持って来てますけど、ええのがありますやろか?」

「「「「「「!」」」」」」

花の宮・雪の宮さまのこの会話に、園美と瞳、そして少年たちは、声にならぬ声を上げた。

一様に驚きの表情になった少年少女たちを見やりながら、

「あれ〜? 驚かれちゃったよ。でもさ、あたし、サバゲー、一回やってみたくてさ〜。アンがやってるの見てたら、あたしもマシンガン乱射してか・い・か・ん(はあと)って言ってみたくなったのさ」

亜紀は悪戯っぽく微笑を浮かべた。

「うちも、いっぺん、マシンガンで敵をばったばったなぎ倒すの、やってみたかったんどす」

対する芳乃も、相変わらず、おっとりのほほんといった感じでこんな台詞を言ってのけた。

ガブリエルの後輩たちも、そして男性陣も、このお姉さんたちの物騒な言葉に、完全に度肝を抜かれ、思考停止してしまった。

「……わかりました。では、メンバーはその6人ということで」

春山君が辛うじて声を絞り出すことが出来たのは、全員が沈黙に陥ってから3秒後だった。

「おっけー♪ じゃあ君、作戦頼むね。えーと確か……」

「は、春山です。春山純です」

「おっけー、じゅんちゃんね。じゃあじゅんちゃん、よろぴく♪」

かるーい口調で春山君を再び思考停止にしておいて、花の宮様は、「さーて、それで話は元に戻るけど、コスプレをどうするかだね」とおっしゃった。

その言葉に反応して、

「あ、あの……」

おずおずと、末席で挙手した人物がいた。

“天文気象部の良心”こと、赤橋園美嬢である。

「何? 赤橋ちゃん?」

「あの……、一つ、質問してもよろしいでしょうか?」

そう言った彼女の声は、若干震えていたが、「いいよ」という花の宮さまのお言葉に、意を決したように口を開いた。

「なぜ、衣装がコスプレでなくてはいけないのですか? 確かに、ネタとしては……じゃない、イベント的には面白いとは存じますけれど、露出部分が多かったり、邪魔な部分がついていたりして、実際の戦闘には不向きと存じます。それに、もう、開会式まで、20分しかございません。それなのに、今から衣装が決められるのですか? ここは、実戦を重視して、迷彩服などにするべきかと存じますが……」

危うく、被った猫が剥がれ落ちそうになったが、落ちそうになるメガネを片手で上げながら、園美はしっかりした口調で、丁寧に、ツッコミを入れる。

流石、千恵子ともに、クラス委員として生徒会で活躍しているだけのことはあった。

「その通りです」

彼女の台詞に、作戦参謀(仮)も頷く。

「前のチームは、訓練してあるだけあり、コスプレでも何とか実戦に対応できました。だが、今回は、未経験者が、あなたを含めて4名もいる。これでは、衣装に戦闘力を殺がれかねません」

「確かに、真面目なサバゲーマーたちの間じゃあ、“ガブリエルの衣装は萌えるけど危険すぎる”って声が結構上がってるようだぜぃ」

情報収集担当者(仮)も、何気に自分のネタの一部を披露しながら、コスプレマニア(仮)を止めに掛かった。 だが。

「……赤橋ちゃん、悪いけどそれは却下」

花の宮様は、周囲からの攻撃に怯むことなく、いつもの調子であっけらかんとおっしゃった。

「なっ……」

この言葉に、目を見開く春山君に、彼女は、

「だって、うちらがコスプレしなけりゃ、会場が盛り上がらないじゃないか。盛り上がったほうが、観客だって楽しいでしょ? この殺風景なサバゲーフィールドを、うちらの衣装と美貌で、華やかなアナザーワールドに変えてやろうじゃないか」

悪びれずに、花の宮さまはこう言ってのけた。

「そうどすなあ。盛り上がったほうがええどすなあ」

雪の宮様も、花の宮様の意見に賛成する。

こうなってしまうと、園美は全く抵抗できない。

何せ、相手は、生徒会長をしのぐ最高権力者。

その意見に逆らうことは、ガブリエルの中で生きていけないことを意味してしまう場合もある。

「……はい、かしこまりました。では、コスプレで結構です」

言いだしっぺの園美が、しおらしく頭を下げたので、春山君も哲ちゃんも、それ以上反論ができなくなり、しぶしぶ口を閉じる。

そんな場の様子に満足したか、

「よし、じゃあ衣装を決めようか。みんなこっちにおいで」

花の宮様は、テントの出入り口に向かって、颯爽と歩き始めた。

その後ろを、反論を封じ込められた少年少女たちが、囚人の連行のような姿で付いて歩いていった。

「さ、ついたよ」

花の宮さまは、駐車場に停めてある1台の車の前で、その足を止めた。

その車とは、巨大なトレーラー。

銀色のボディーが曇り空の下、鈍く光っている。

(なるほど、この車の中に、今回の衣装が入っているというわけか)

(それにしても、トレーラーで持ってくるかな。せいぜい、10着程度しかないと思うけど)

(もう余り時間がないのだが……)

連れて来られた男性陣が、不審そうな目で見やる中、駐車場に、一行の物とは違う足音が、つかつかと響いた。と思うやいなや、トレーラーの背後から、黒い燕尾服を纏った、七三分けの黒髪の男性が現れた。

「芳乃お嬢様、一体何事でしょうか?」

髭を八の字に生やしたその男性は、黒いピカピカした靴の動きを止めると、雪の宮さまに向かって一礼する。

おまけに、手には黒いシルクハットまで持っていた。

(うわ……明らかに執事っぽい)

(ていうか、あの髭は……)

(なんか、どこかで、見たことのあるような……でも、三つ編みがありませんしねえ)

男性陣、そして、猫を被った園美と瞳の訝しげな視線の中、

「ああ、土井はん、至急、トレーラーの中の衣装を出してもらいたいんどす」

雪の宮さまは、おっとりとおっしゃった。

「そう、そんで、この子たちとあたしたちに見合う衣装を、見繕って欲しいんだ」

とは、花の宮さまのお言葉であった。

「かしこまりました。ただいますぐに」

その執事らしき八の字髭の人物の返答と共に、巨大トレーラーの荷台の扉がゆっくりと開いた。

その中身は……全て衣装だった。

和服に草履、羽織に袴、ドレスにシューズ、メイド服にエプロン、そしてセーラー服に機関銃……

ありとあらゆる衣装が、ハンガーにかけられ、トレーラーの荷台の中、三列にずらりと並べてある。

その数は、おそらく500を超えている。

「「「「「「……」」」」」」

善良な少年少女たちは、呆けた顔で、ただただこの衣装の山を見やるのみであった。

「よしのっちの集めてる……ていうか、演劇部の衣装さ。よしのっちは、演劇部の部長だったからねえ。無理言って借りてきたんだよ」

花の宮さまの説明にも、少年少女たちは、「「「「「「はあ……」」」」」」と、気のない返事を返すのみであった。

対して、真理亜さまと美華さまは、こんな光景に慣れているのか、特にリアクションはなかった。

やはり、自分自身が軍服マニア、メイド服マニアであるからかもしれない。

「じゃ、早速、着替えてもらおうか。土井さん、女6人で男4人なんだけと、何かいい案ある?」

「さようでございますな。斯波さまはやはり男装でなければなりませんから、実質男女半々ですな。そうなりますと、ガンダムシリーズは使いにくうございますな。“路上ファイター”などの格闘ゲームキャラを織り交ぜるか、“九頭竜ボール”“浪人謙信(ろうにんけんしん)”“ウズマキ”“めんま3/8”“猫般若(ねこはんにゃ)”“零下の焔(ほむら)”“セパレート”などの少年誌もの、あとは“美少女忍者くの一ムーン”“サクラ戦争”“どきどきクリスタル”などの美少女もの、“九頭竜クエスト”“Fin@l F@nt@sy”などのRPGネタがよろしいのではないかと……」

八の字髭の土井執事は、淀みなく返答する。

「んー、そうか。じゃ、衣装が合うのから順に、適当に選んでいこう。じゃ、皆、トレーラーに上がって」

そう言うと、花の宮さまは、トレーラーから降りてきたはしご段を上がり、振り返ると、一同を手招きした。それに応じて、女性陣がはしご段を上がっていく。

それを下で見送っていた男性陣に、「あれ? あんたたちもだよ?」と、花の宮さまが声をおかけになった。

「え? 僕たちもですか?」

驚いてツッコミ返す政山くんに、

「当たり前でしょ。あんたたちもチームの一員なんだから」

と、花の宮様はさも当然であるかのように言った。その言葉で、男性たちもしぶしぶ荷台に上がった。

その荷台兼衣裳部屋の中では、

「あ、罵倒斎(ばとうさい)の衣装、意外とひとみんに合うねえ」

「この巫女衣装は、美華さまに如何でしょうか」

「うーん、無間(むげん)の毛皮は、オスカルには微妙だね。それに、無間は悪役だしさあ」

園美、瞳、美華、真理亜、芳乃、亜紀、そして土井さんが、衣装をとっかえひっかえ、メンバーの身体に合わせて、似合うかどうかを確かめていた。

といっても、中心になって動いているのは、亜紀と土井さんのみ。

芳乃と美華は微笑みながら、亜紀と土井さんのご活躍の様子をご覧になっており、真理亜は渡された衣装を、各所にある鏡の前で、“似合うのか?”と、訝しげな顔をしながら確かめていらっしゃる。

そして、1年生の瞳と園美は、呆然とした顔のまま、次々と衣装を制服の上から当てられ、マニアさんたちのなすがままになっていた。

その様子に、更にあっけに取られる男性陣だったが、

「ほらほら、こっちに来た来た。じゅんちゃん、この紅蓮(ぐれん)様の衣装、身体に当ててご覧」

「ささ、こちらのぼっちゃま、こちらの三刀流剣豪の格好などいかがでしょう」

あっさりと、輪の中に引き込まれてしまった。

で、なんだかんだの騒ぎがあり、衣装が決定したのが、開会式開始の8分前であった。

「ほら、急いで着替えた着替えた」

花の宮さまがハッパをかける中、計10名が、慌てて着替える。

ちなみに、真ん中の衣装ハンガーの列を挟んで右側が男子、左側が女子、と分かれての着替えであった。

だが、衣装の列を挟んで、お互いの声は聞こえるので、

「……なんで演劇部の衣装なのに、コスプレ衣装ばかりなんでぃ?」

「……あ、それは、演劇部の芝居の殆どが、今流行している小説やマンガの焼き直しだからなんです」

「それも、文芸部の手によって、や@い、@りっぽいよーな展開に焼き直されてね〜。見る気も起こらない〜」

「だからわたし、文芸部に入らなかったんです。部誌もあんな感じですからね……」

急いで着替えながらも、こそこそ、男子と女子の間で、こんな会話が交わされていた。

その一方、

「そういえば、細川さんは制服集めが、斯波さんは軍服集めが、畠山さんはメイド服集めが趣味らしいですが……」

「……つまるところ、生徒会のメンバーは、とにかく衣装集めが趣味の人が多いのか?」

「にしても、スケールが違うだろ」

「というか、何もかもが違う……」

男子の中から、こんな呟きもきかれたのであったが、全員、急いで着替えを終え、トレーラーの外に出たのは、開始3分前であった。

「またどうぞ」

という土井さんの一礼に送られる一同だったが、

(もう、勘弁して欲しいぜぃ)

(この衣装、寒いです……)

(このストッキング、一体何なの〜? 素材が普通のストッキングと違うんだけど……)

(……もう二度と来るものか)

善良な少年少女たちは、こっそりこんな感想を抱きつつ、ステージへと走って行った。



◇午前11時◇


さて、いよいよ開会式の開始時刻となり、観客席は超満員となった。

「「「オスカル様ー!」」」

盛んに声援を送る聖ガブリエルの生徒は、やはり今回も観客席の半分近くを占めている。

「千恵子ちゃん……」

「武神メイド萌え……」

などと呟く危ないお兄さん方は、ほぼ全員が聖ガブリエルファンであり、中には東京大会から追っかけてきたという者もいる。

また、

「今回、有望な奴いるかなあ」

社会人などで構成されるサバゲーチームのメンバーが、新戦力を探そうとステージを遠望していたり、

「若ー!」

「しっかりー!」

最前列の特等席では、哲ちゃんについてきた清水一家の若衆さんたちが、声援を送っていたりする。

更に、

「がんばれー! ガブリエルー! 剣道部ー!」

観客席には、声援を上げる『BOUZ』のメンバーがいたり、

「『魏新特選隊』……余り応援したくはないが、お前らが勝たないと俺たち全国に行けないんだよ!」

「『Shall we SABAGE?』、俺たちのために頑張れ!」

「ファイトだ、アウトドアン〜! このフィールドはお前らの庭だ! “モッタイナイ・レーザー”ぶちかまして、うちらを全国に連れてってくれ!」

神奈川、埼玉、千葉の2位チームが、自分の県の1位チームを応援しに来ていたりする。

その心中は、なかなかに複雑であろうが。

そして、そのほかにも、ギャラリーには、各県の代表チームから派遣されたスパイが紛れ込んでいるのであるが、その紹介は面倒になったのでここでは省こう。


「東京B代表・『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』入場!」

司会の声と共に、

♪ちゃら ちゃら ちゃららちゃ〜ん

突如として流れたイントロのメロディー。

「おおおおっ」

危ないお兄さんたちから歓声が上がった。

『ムーン無いと伝説』……大人気アニメであり、最近実写版も作られた『美少女忍者くの一ムーン』の主題歌である。

そして、前奏にあわせて、くの一に扮した聖ガブリエルの面々が入場してくる。

瞳が、主人公、くの一ムーン。

園美が、くの一マーズ。

美華が、くの一マーキュリー。

亜紀が、くの一ジュピター。

芳乃が、くの一ヴィーナス。

それぞれ、鬘を被って、髪の長さや色を本物に近づけている。

おまけに、着物はくの一スタイルなので、結構露出度が高い。

くの一たちの後ろには、敵である四天王が控えている。

ちなみに、江戸時代の旅人スタイルの四天王に扮しているのは、長倉、春山、政山、そして哲ちゃんである。

「「おおーっ」」

「四天王まで再現したか。女王様は出てくるのか?」

危ないお兄さんたち、そして、聖ガブリエルの応援団からも、感嘆の声が聞かれる。

流石、放映当時、女の子たちやお兄さんたちに人気を誇ったアニメだけはある。

そして、

♪仮面ね 素顔じゃなくって

マイクを握り締めたくの一ムーンこと二階堂瞳が、初代主題歌の「ムーン無いと伝説」を歌い始めるに至り、客席からは手拍子が上がった。

(くっ、何であたしがアニメの主題歌歌わなくちゃいけないの……)

歌う前はそれほど乗り気ではなかった瞳も、この手拍子に、背中を押されたらしい。

♪泣きたくなるよね ムーン無いと 飛脚も出せない みーんな

だんだん、歌う声にも張りが出て、気合いがこもり始める。

♪だーって 淳二よ どうしよう ハートはマンガだけ

流石、インディーズバンドでボーカルを務めているだけあって、瞳の歌はとても上手かった。

(ふっ、伊達に「覆面女子」のボーカルやってないのよ〜。でも、まさか、あたしの正体に気付いてる人いないよね?)

残念ながら、くの一ムーンのコスプレをしている彼女と、「覆面女子」のボーカルを結び付けて考える人間は、観客席にはいなかった。

♪つーきーのひーかーりに てーらされーて なんーども わたりーあうー

♪正座で また足しびれ 占う 恋のゆーくーえ

♪同じ江戸にうまれたーの みらくる・ろうまんす

♪信じているの みらくる・ろうまんす!

そして、瞳が歌いきったと同時に、ステージの右手から、紫頭巾に、淡い銀色の着流しというスタイルの、すらりとした長身の若者が現れた。

ご存知、聖ガブリエルのオスカル様・斯波真理亜嬢である。

「きゃー、オスカル様!」

「紫頭巾さまー!」

ギャラリーのお嬢様がたが一気に興奮する。

(ふふん、ちょろいもんだよね)

それを見ながら、くの一ジュピター、こと犬養亜紀はほくそ笑んだ。


次回、いよいよ、試合開始!

次回予告

「新生(?)ガブサバ会の最初の対戦相手は、なんと良き好敵手(ライバル)。
思わぬ事態に、会場が険悪なムードに包まれる。
そして、戦線離脱した猫かぶり娘たちに、予想だにしなかった攻撃が!
凄腕のスナイパーを唸らせた、文学少女の一撃とは?
お嬢様方を危機から救った男の正体とは?
そして、金沢千歳の知られざる過去とは?

次回「奇襲逆襲! 地区大編」
『FANG GUNNERS』に負けるな、お嬢さま」


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