まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第十二話
| ◇大ボケかますわ決勝編◇ |
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「やりましたわ、桐壺さま!」 「ええ、本当に」 直子お姉さまは、美華お姉さまの手を握り、嬉しさを爆発させていた。 「これも、桐壺姫サマに天使サマが降臨されたおかげでゴザイマス!」 ややぎこちない言葉で、みずえさんもお姉さまを称賛する。 「そうですわ! あれは、神のご意思。つまり、わたくしたちを、神が守ってくださっているということ! 優勝も確実ですわ!」 「ええ!」 直子お姉さまとみずえさんが、ヒートアップしたその時。 「浮かれるのは、まだ早うございますわ」 冷たい声が二人に浴びせられた。 振り返ると、作戦参謀の千恵子さんが、冷静な視線で二人を見据えていた。 その横には、千歳さんと真理亜お姉さまが、普段通りの冷静さを保ったまま立っている。 周りが全く騒がしくないため、直子お姉さまとみずえさんのテンションは、急激に下がらざるをえなかった。 「では、作戦を説明致します」 千恵子さんは「たくてぃくす君」を取りだし、自陣の配置を説明し始めた。
「今までの2試合を見ると、相手は、最初は集団で固まって出撃し、その後、おのおのの配置の場所につくようです。しかも、本陣にはリーダーただ一人。ですから、女御さまとみずえさまは、開始直後に丘の裾を回り、本陣に人が少なかったら、本陣を狙ってください」 「「かしこまりました」」 「大将さまは、丘の頂上に急行してくださいませ。そして、敵を本陣に向かわせないよう、頂上から撃ち掛けて、敵を引き付けてくださいませ」 「わかった」 「千歳さまは、この位置で待機してくださいませ。ここは狭いですから、一人でも防衛が可能です。わたくしも後詰します」 「かしこまりました」 「姫さまは、大将さま、千歳さまと連携して、敵を挟撃してくださいませ」 「かしこまりましたわ」 「……さあ、みなさま、最後の試合、存分に戦いましょう!」 千恵子さんは叫んだ。 そして、 「聖ガブリエルのみなさん、タイガーゲートに入ってください!」 大会の実行委員が呼びに来た。 「では、参りましょう!」 「「「「はい!」」」」 メンバーは叫んで、テントを去っていく。 だが、一人だけ、その場から動かない人物がいた。 ご存じ、聖ガブリエルのオスカル様である。 「おちびちゃん、どういうことかね」 納得のいかない顔で、彼女は作戦参謀に問い正そうとしたが、作戦参謀が左の人指し指を口に当てたので、その先を言うのは避けた。 「大将さまのおっしゃりたいことはわかりますわ。しかし、わたくしたちには、この作戦しかないのでございます」 そう言いながら、千恵子さんは、「たくてぃくす君」に何事かを書き付ける。 すると、 「!」 オスカル様の顔色が変じた。
「ドラゴンゲートより、『剣道部!』入場!」 司会のやや緊張した声と同時に、 ♪ちゃーちゃちゃちゃっちゃっちゃっ ♪ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ ♪ちゃーちゃちゃっ ♪ぱぱぱぱん ぱぱぱぱぱぱ ぱぱぱぱん スピーカーから大河ドラマのOPが流れ始め、『剣道部!』の入場が始まった。 何と、先頭には、赤い地に『誠』の金文字が入った旗を押し立て、全員が新撰組コスに身を包んでいる。 ちなみに、控えのメンバーも入っているらしく、ステージには、選手の数の3倍以上の人間がいる。 そんな人々が、二列縦隊で整然と行進してくるのである。 ギャラリーは圧倒されまくりであった。 「続いてタイガーゲートより、『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』入場!」 司会の声と共に、マ@見てのOPが流れ、お嬢様がたの入場である。 その華やかさは、決して『剣道部!』に見劣りはしない。 「千歳お姉さまー!」 「みずえちゃーん!」 「千恵子ちゃん、萌えー!」 「へそ出し……ハァハァ」 「美華ちゅわーん!」 「「「オスカルさまー!」」」 男性客もお嬢様たちも、歓声をあげていた。 だが、その盛り上がりに加わらない一群がいた。 『剣道部!』の面々である。 特に、作戦参謀の吉方と山神、そして控えの竹田の、“お姫さま”に対する視線は厳しかった。 「ふん、君か、佐々木千恵子は! よくもこのわたしを騙したな!」 眼鏡を掛けたおかっぱ頭の竹田が、扇子を振り回しながら大声で言った。 「……乱丸、明秀、あの人、何言ってるの?」 “お姫さま”口調で千恵子さんが無邪気にみずえさんと千歳さんに話しかける。 それだけで、 「千恵子ちゃーん!」 「ハァハァ……」 危ないお兄さんたちが更にヒートアップした。 「私もわかりません」 「痴れ者の戯言でございましょう」 千歳さんとみずえさんも、キャラになりきって返答したので 「きゃーっ!」 「いいぞー!」 観客席から更に歓声が沸き上がる。 「むむっ、このわたしに逆らうか、小娘!」 竹田君が叫ぶと、 「そっちだって小さいよ〜」 千歳さんとみずえさんの蔭に隠れて、突っ込みを入れる千恵子さん。 観客席がどっと笑いに包まれ、それに比例するように、竹田君の顔の引きつり具合いが酷くなった。 「よ、よくも……」 竹田君がエアガンに手を掛けたその時、 「そのくらいにしておけ」 洋装の美男子・吉方利三が竹田に向かってこう言った。 その声に、しぶしぶ構えたエアガンを下ろす竹田氏。 「随分、俺たちを振り回してくれたな。その手際は誉めてやるぜ。だが、そろそろ年貢の納め時だ。覚悟しとけ、チビ」 吉方氏は微笑を見せていたが、その体からは殺気が立ち上っていた。 それに反応し、千歳が一歩前に進み出て、手にした太刀を何時でも抜き放てるように構える。 すると、 「吉方君」 吉方の隣に腕組みして立っていた山神が、にやにや笑いを崩さずに呼び掛けた。 「その武智明秀のコスプレをしているお嬢さん、確か君のファンだったように思いますが」 「……俺のファンだぁ? あんな女が?」 「え? しかしここに、証拠の写真が」 山神は懐から何かを取り出して、吉方に見せる。 そこには、何と、新撰組コスプレをして「トシ様LOVE」とマジックで黒々と書かれた鉢巻きを占めた、千歳が写っていた。 しかも、まだ待機していた太平洋テレビのカメラが、その写真をオーロラビジョンに映したため、 「まぁ……千歳お姉さまが……」 「マジかよ」 観客席はざわついた。 「……誤解だっ」 千歳は叫んだ。 つい最前までの「寄らば斬る」というオーラはどこへやら、可哀想に、彼女の頬は真っ赤になってしまっていた。 そんな彼女を意地悪く見やりながら、 「へぇ、面白え。あんた、俺に惚れたってのか」 ニヤリと笑った。 「千歳さん? まさかあの鉢巻きは君が作ったものなのか?」 「ひょっとして、懸想なさっているお方?」 「まぁ、それでは是非吉方さまにインタビューを!」 梅壺さま、桐壺さま、梨壺さまが即座に反応する。 「……あんな卑劣な男など、懸想する価値もございません!」 (それに、思いを寄せるなら……) 千歳は叫んだが、その声に余裕はなかった。 冷静沈着な彼女にしては、珍しいことである。 その慌てっぷりに、 (何だよ、実は図星なのか?) (まずっ! 千歳が混乱しとる!) みずえ、千恵子は内心驚いたが、やはり機敏に対応したのは軍師さまだった。 「確かに卑劣だよね〜。あたしのお友達に、とっても怖い思いさせたんでしょ〜。許さないんだから!」 “お姫さま”口調でこう決めつけて、吉方君を睨みつける。 「そうだ!」 「千恵子ちゃーん!」 「お兄ちゃんが守ってやるぞー!」 危ないお兄さんたちが更に熱くなる。 その熱狂の中、 「それじゃ、がんばろうね!」 千恵子さんはトドメを放ち、 「「「「おう!」」」」 ガブリエルのプレイヤーばかりでなく、お兄さんたちも拳を天に突き上げた。 そのギャラリーの熱気をちらりと盗み見て、 (ふっ、頃合いやよし) 千恵子さんはほくそえみ、 「じゃ〜ね〜」 スタスタとステージから去っていった。 残りのメンバーもそれに続き、ステージを後にする。 「ちっ、結局あのチビのペースに巻き込まれちまった。しかも、俺が卑劣だとかほざきやがって。まぁ事実だけどよ」 吉方君が舌打ちする。 すると、 「……果たしてそうだろうか?」 山神君がにやにや笑いを崩さずに、吉方が見ているのと同じ方向を向いて話し始めた。 「向こうは我等を卑劣だというが、向こうも酷い手段を我等に使っている。囮を使って我等の目をそらすことは、果たして正当性を持つ行為なのだろうか? それに、あの佐々木さんは、囮として使った赤橋さんに何も知らせないまま、彼女をひどい目にあわせた。それが果たして、友達と名乗る人間のすることなのだろうか?」 折角の正論だったが、 「……って、そういうことは早く言え!」 吉方氏のツッコミが炸裂してしまった。 「……まあいい、この試合は俺たちの勝ちだ。あのチビ、泣かしてやる」 吉方利三、紫英館高校三年、剣道部副部長。 人は彼を、“鬼の作戦参謀”と呼ぶ。
その素早さは、3匹の豹が草原を疾駆するが如くである。 そして、千歳さんを連れて、美華お姉さまが急いで本陣を出ていく。 今回の作戦では、速攻が要求されているため、当然の行動であった。 美華お姉さまと千歳さんの姿が消えた方向を、千恵子さんは本陣でじっと見ていた。 (さて、敵さん、どう出てくるやろ) その可愛い顔には、微笑が漂っていた。 しかし、見る人が見れば、その微笑の底に、深い深い闇があることがわかったであろう。 恐らく、敵は最初は防御策を取るに違いない。 いや、ひょっとしたら、何人かは本陣を出ているかも知れない。 とにかく、どのような手を取ろうとも、まず第一の仕掛けを解いてくれなければ困るのだ。 (あんたたちならできるはずや、吉方、山神。このパズル、最初でつまづくようではこっちが困るねん……) 千恵子さんはにやりとした。
アンブッシュしながらフィールドの端を進んできたおかげか、今まで、敵には全く遭遇していない。 「ワタクシは敵の右翼に回り込みます。梨壺女御サマは、このまま待機して下さい。ワタクシが発砲したら、ここから攻め込んで下さいませ」 「心得ましたわ」 アタッカー二人は会話を交すと、二手に分かれた。 みずえさんは、素早く敵の右翼に回り込んだ。 敵には一人も会わない。 そして、攻撃ポイントに到着する。 敵の本陣には、一人しか見えない。 おそらく、あれがリーダーの権藤だろう。 (千恵の言う通りだ。権藤は一人、オレたちは二人。楽勝だぜ) みずえさんはM19コンバットマグナムを構えた。 そして、静かに佇む権藤を狙撃しようとして―― 「ぼしゅっ、ぼしゅっ」 銃声が聞こえたのは、みずえさんが引金を引くより前だった。 (なっ……) 思わぬ展開に、みずえさんは動揺し、咄嗟にその場を動けない。 そして、その隙を見逃すほど、敵側は甘くはなかった。 「ばばばっ」 「ばばばっ」 「ばばばっ」 銃弾が集中的に襲いかかり、みずえさんはあっという間に撃墜されてしまった。 「ヒット……」 (ちきしょー、伏兵がいたのかよ……) みずえさんは悔しそうな表情で戦場を去っていく。 また、直子お姉さまも、銃声を聞き付けて、果敢に敵陣への突撃を開始したが、こちらも敵陣のバリケードの陰に潜んでいた敵の伏兵の集中砲火に遭い、まるで銃弾のシャワーに飛込んでいくような形になり、敢えなく撃墜されてしまった。 こちらも、思ってもみなかった伏兵の存在に、呆然としつつの退場となり、聖ガブリエルは、のっけからアタッカー二人を失うという、苦しい展開を強いられることになったのである。
「ふっ、上手くいったぜ。山咲(やまざき)の情報の通りだな」 バリケードの陰で、作戦参謀・吉方がにやりとした。 「確かに、山咲君の情報がなければ、われらはこうして佐々木千恵子の裏をかくことが出来ませんでした。山咲君の働きは、特筆に価します」 同じく、作戦参謀の山神慶介(やまがみ・けいすけ)が、顔に微笑を湛えながら言った。 ……実は、『剣道部!』、戦いのたびごとに、敵チームの周辺に偵察員を放ち、敵のとる作戦を入手していたのである。 敵の作戦が分かってしまえば、戦略上、その価値は、半減、どころか、ほとんど無価値に等しくなってしまう。 『剣道部!』は、入手した敵の作戦に応じて、自分たちの作戦を完璧に立てることで、今までの戦いを、有利に進めることができたのである。 そして、今回の決勝戦のためには、偵察員の中で一番腕利きである山咲守(やまざき・まもる)を、聖ガブリエル側に放った。 Dブロック予選の段階では、同じく偵察員である今田海(いまだ・かい)という、童顔の大男を派遣していたのだが、佐々木千恵子に一杯食わされてしまったため、急遽、山咲を派遣することになったのである。 山咲はその特徴のない風貌を生かし、大会本部の役員になりすまし、聖ガブリエル側の作戦を全て入手することができた。 彼女たちの作戦のコンセプトは、速攻突撃。 今まで、本陣に権藤を残して攻撃、というパターンを多く取ってきた『剣道部!』側には、まさに寝耳に水の作戦であった。 そこで、彼らは、この作戦の裏をかき、まず、本陣に全員待機してアタッカー二人を迎撃し、その後、総攻撃を開始する、という作戦を立てたのである。 勿論、敵を油断させるため、権藤以外のメンバーは、本陣に設けられたバリケードの陰に、巧妙に隠れる。 そして、聖ガブリエルのアタッカーたちはまんまと罠に引っかかったのであった。 (へっ、いくらあのチビが頭がいい、と言ったって、作戦が丸分かりじゃ、勝負はこっちのもんだぜ) 吉方は狐のような目つきで、はるか聖ガブリエルの本陣を睨みつけると、 「突撃開始だ」 右腕を伸ばし、同じ側の人差し指を、前方に突きつけた。 「「「「応っ!」」」」 『剣道部!』のメンバーたちの叫びが、フィールドに響き渡った。
本陣にいる千恵子さんは、みずえさんと直子お姉さまのヒットコールを聞いた瞬間、一瞬にやりとした。 だが、すぐにその笑みを引っ込め、厳しい表情になる。 (さて、うちが千歳の後詰に出向いて、第2ラウンド開始や。せいぜい、楽しんでもらおうやないの) 「どっこいしょ」 千恵子さんは、“M249 MINIMI MARK2”を担ぐと、えっちらおっちら、千歳のいる方角に向かって歩いていった。 「……あーしんど」 途中でこんな台詞が出たのはご愛嬌である。
「ひょー♪ やっぱサバゲーはこうでなくちゃな!」 山賊まがいのスタイルの野田右馬之介(のだ・うまのすけ)が、六四式小銃を抱えて、中央を大喜びで突進していく。 今まで暴れられなかった分を、一気にこの機会にぶつけてしまおう、というのか、突撃のスピードは凄まじい。 「おい、野田! 速過ぎるぞ!」 後ろから声を掛けたのは、新撰組コスプレに身を包んだ“ロミオ様”……もとい、長倉平八(ながくら・へいはち)である。 こちらもかなりのスピードで突撃しているのだが、野田の余りのスピードについていけないようだ。 「長倉さんよお、だーいじょーぶだって! この俺様が突撃するからにゃ、邪魔するものは全てなぎ倒すってこった! へへ♪」 野田が嬉しそうに言った、その時であった。 「ばばばばば」 突如、前方から銃声が響き渡った。 「おっ、お出ましだな♪」 それでも野田は、余裕の動きでアンブッシュする。 長倉もこの銃声で、アンブッシュしながら前進していく方針に切り替え、無事に野田の傍までやってきた。 「……」 二人が茂みの隙間から、こっそり前を覗き見ると、前方20m程の位置に、武智明秀コスプレをした人物がいる。 アンブッシュもせずに、谷を通る道の真ん中に立っているその姿からは、明らかに殺気が立ち上っていた。 と、 「……長倉」 その青年武将が、はっきりとこう言ったのである。 「!」 長倉の顔に、緊張の色が浮かぶ。 それを知ってか知らずか、青年武将――聖ガブリエル女学院高等部1年・金沢千歳――は、更にこう続けた。 「そこにいるのは分かっている。出て来い。そして、私と勝負しろ」 「……私と?」 怪訝な表情を浮かべる長倉。 「……何の罪も無い女子を、風呂場まで覗いて、執拗に追い掛け回す輩と徒党を組んでいるからには、お前を信用する訳にはいかん。園美にお前がふさわしいかどうか、見極めてくれる」 殺気の篭ったその台詞に、長倉は一瞬考え込んだが、 「……承知」 がさっと音を立て、その場に立ち上がった。 「……な、なあなあ、俺とは勝負してくれないの?」 野田も、自分を指差して立ち上がるが、 「……失せろ。さもなくば、瞬殺する」 千歳が殺気をフルパワーで放出したので、怖いもの知らずの野田も、流石にたじろいで、一歩後退する。 「……勝負は、どのように?」 長倉が千歳に尋ねる。 「……背中合わせに立ち、10歩歩いて敵を撃つ。先に撃墜されたほうが負けだ。使用武器はサイドアームのみ」 「……結構」 長倉は六四式小銃を地面に放り捨てた。 千歳もそれに応じて、ステアーAUGを地面に置く。 そして、両者は、道の真ん中に背中合わせに立った。 「す、すげー」 「おいおい、果し合いか?」 野田君のみならず、ギャラリーも固唾を呑んで、背中合わせの二人を見つめる。 千歳はコルトパイソンを、そして長倉は9mm拳銃を構え、辺りに厳しい視線を放つ。 その周囲は、風に巻き上げられた土ぼこりでうっすらと煙っている。 東京都大会決勝戦は、最大の山場を迎えていた……。
ばばばばばっ。 ばばばばばっ。 「ここは一歩も通さない!」 谷を見下ろす丘の頂上では、“聖ガブリエルのオスカル様”こと、斯波真理亜さんが、麓の敵に対して弾幕を張っていた。 その表情は普段と変わりが無いが、その実、その心中は、驚きで満たされていた。 信頼する“おちびちゃん”から、作戦を聞いたとき、真理亜嬢は、 (これでは、負ける危険が大きい!) と思った。 最初にアタッカーで本陣襲撃をかけ、フラッグを奪いに行く策は、確かに敵の意表を付く。 しかし、そこで失敗してしまえば、こちらから、自分たちのメンバーの数を減らすようなものになってしまうのである。 中央の谷の道は、確かに一人でも防衛は可能だし、丘の防備も、自分がいれば恐らく大丈夫であろう。 そして、美華様のフリーズコールは、敵の脅威となりうる。 しかし、相手は紫英館高校の剣道部。 全国でも有名な剣道の強豪揃いの彼らに、フリーズコールが、果たして通用するかどうか。 美華様が撃墜されれば、千歳も、自分も、十分な作戦行動が取れなくなる。 そうなれば、敗北は時間の問題だ。 そう考えた真理亜さまは、皆がステージへと去った後、作戦参謀にその点を問いただした。 すると、作戦参謀は、こう、“たくてぃくす君”に書いたのである。
千恵子さんは、背伸びして、自分の耳に囁いた。 「しかし、わたくしたちは、今まで、様々な策を使って参りました。このままでは、わたくしたちが全国の皆様の注目を集め、厳しく警戒されてしまいます。この試合で負けても、全国大会には出場できます。それならば、全国大会を見据えた戦いをするべきです」 千恵子さんは、ここで言葉を一旦置いた。 「……ここで負ければ、わたくしには“ボケ参謀”の烙印が押されることでしょう。そうなれば、全国の強豪チームの眼はわたくしたちから離れます。その油断を突いて、全国大会で優勝するのです。大将さま、この負けは、ただの負けではありません。真の勝利を得るための負けでございます」 可愛らしい“おちびちゃん”は、そう言ったのであった。 自分は、この戦いに勝つことしか考えていなかった。 しかし、作戦参謀は、既に全国大会を考えていた。 東京大会決勝の時点でそのことを視野に入れていたその智謀は、真理亜さまにとっては計り知れないものであった。 (……全国大会優勝も、夢ではないかもしれない) ならば、自分の職務は、ここで華々しく戦い、真の作戦の意図を全国の敵たちに気付かせないことである。 「掛かってきたまえ!」 “聖ガブリエルのオスカル様”からの射撃が、更に鋭いものになっていく。
「……」 背中合わせに立った長倉と千歳は、無言のままだった。 二人の周りを、一陣の風が、 「ひょぉぉぉ……ッ」 と音を立て、砂ぼこりを巻き上げながら通りすぎていく。 「……カウントは、そこにいる野田に頼むが、それでよいか?」 長倉が、千歳を振り返りながら尋ねる。 「よかろう」 千歳は全く振り返らずに返答した。 「……野田! カウントしてくれ!」 「わ、わかったぜ」 緊張の度を増している二人の様子にやや気圧されながらも、野田は、 「じゃぁ、いくぜ。いーち、にぃー、さーん、だ……」 きっちりボケようとしたが、 「ぼしゅっぼしゅっぼしゅっ」 次の瞬間、サムライガールのコルトパイソンから、彼に向かって、痛烈な弾丸が飛んできた。 「あうあうあう」 慌てて銃弾を避けた野田に、 「真面目にやれ!」 般若のような顔をした千歳の視線が突き刺さる。 その全身から立ち上る殺気に、今度こそ圧倒され、 「わ、わかったわかった! 真面目にやるから!」 野田は弁解した。 「じゃあ、いくぜ。1、2、3、4、5、6、7、8、9…」 カウントに合わせ、千歳と長倉の距離が、少しずつ離れていく。 両者とも、元いた位置から、まっすぐ前に進んでいく。 そして、 「10!」 次の瞬間、 「「ぼしゅっ」」 振り向き様、ほぼ同時に、千歳と長倉の銃が火を吹いた。 それと同時に、千歳は右に、長倉は左に大きく飛ぶ。 そして、まだ足が地に付かないうちに、 「「ぼしゅっ」」 両者とも、引金を引いていた。 数瞬後。 「「ヒット……」」 千歳も長倉も、両手を挙げていた。 「あ、相撃ち……?」 立ち会い人の野田くんが、息を飲む。 「……いい一撃だった」 千歳が呟いた。 「長倉どののお心、しかと見せていただいた。これなら、園美の相手には申し分ない」 「では、交際を……?」 「……園美をよろしく頼む」 「心得た」 長倉と千歳の間で、武人同士の固き約束が交わされ、二人は静かにフィールドを去っていく。 その直後。 「いやああああ! 千歳さまーーーーっ!」 甲高い絶叫とともに、 「ばばばばばばばばばば」 激しい機銃掃射が決闘の跡地を薙ぎ払った。 その流れ弾をくらい、立ち会い人・野田は敢えなく撃墜された。 代わってフィールドに立ったのは、“おじょうちゃま”こと、佐々木千恵子である。 大きくて重たい“みにみちゃん”を構え、前方を睨み据えたその可愛い顔には、余裕が全く感じられない。 「このわたくしがある限り、ここは一歩も通しません!」 見栄を切って見せた彼女の心中は、実は、台詞とは裏腹な思いで彩られていた。 (さてと、これで封鎖体制は完了や。はた目には、一見合格レベルやけど、大きな穴があるんやなーこれが。その穴を見事に突くか、力で押しきるか。どっちでもええけど、とにかく、見事な勝ちっぷりを見せてくれや、吉方、山神……)
「ちっ、これじゃ、丘を登れねえ」 丘の麓で、洋装の美男子・吉方利三が、頂上を見上げながら舌打ちしていた。 「確かに、敵のシャルルヴィルは2500発装弾の改造版。しかも、敵は丘の上にあるという高みを生かしています。ここにわれらが突入するのは、無謀の極みとしか言いようが無い」 もう一人の作戦参謀・山神慶介の神経質そうな細面にも、きつく皺が寄っている。 だが、深刻な二人の作戦参謀に対して、 「ねえねえ、どうするの? 吉方さん、山神さん?」 月代ポニーテールの奥田聡司は、無邪気に問いかけた。 高校1年生ながら、奥田の戦闘センスは群を抜いている。 おまけに、身体能力もずば抜けているので、予選では6人抜きを2回もやってのけ、『天才サバゲーマー』の名を縦(ほしいまま)にしていた。 「わたしがこの丘を登って、オスカルさんを討ち取っちゃおうか?」 だが、『天才サバゲーマー』のこの台詞に対して、作戦参謀は二人とも、首を横に振った。 「ダメだ」 「いけません、奥田君。敵の銃は連射速度も上がっている。いくら君の技量がずば抜けているからと言って、ここを突破するのはリスクが大きすぎる」 「そういうことだ、聡司。お前は待機してろ」 先輩たちのこの台詞に、 「もー、いつまでたっても子供扱いしてー」 奥田はむくれた。 「だけど、このまんまじゃ、らちが明かないですよー」 「……それもそうだ」 「しかし、谷の通路は佐々木千恵子が、丘は斯波真理亜さんが封鎖している今、われらに残された道はない。2500発のシャルルヴィルと、2500発の“MINIMI M249 MARK2”にどう対応していけばよいのか……。それに、畠山美華さんの動きも気になります」 山神君は、頭を抱え込んだ。 すると、 「……そうか」 洋装の美男子が、大きく頷いた。 「やってみる価値はある。試してみるか」 「何をですか、吉方くん? まさか、3人で丘か谷に突撃するとでも言うのでは……」 山神が気色ばむ。 だが、それを無視して、鬼の作戦参謀・吉方氏はこう言った。 「……あいつらの準決勝を見ただろう。霧の中だったが、BOUZの老け顔の奴と、畠山が、あの崖の上に登っていた。俺たちにもやれないことはない」 すると、 「……なるほど」 山神の眼が、驚きで見開かれた。 「今の敵の配置は、谷に一人、丘の上に一人。恐らくもう一人は、われらの側の奥深くに迫っている。つまり、敵の本陣は、がら空きだ。恐らく、崖からの突撃を、想定していないのでしょう。その裏をかけば、勝機はわれらにあります。吉方くん、われらの取るべき道は、これしかありません」 「へえ……たまには意見が合うんだな」 吉方は山神にニヤリと笑った。 「……わかった、わたしが崖を登って突撃すればいいんだ」 奥田も、出番の到来に、嬉しそうな笑顔を見せる。 「そういうことだ。俺たちはここでオスカルをひきつけておく。お前は崖を登って、向こうに突撃しろ。フラッグを狙うか、あのチビを撃つかは、撃墜数を考えて決めろ。いいか、確実に勝つことを目標にするんだ」 「わかりました」 奥田は嬉しそうな足取りで、崖の方へと消えていった。 「山神さん、あんたは背後を警戒してくれ。畠山を討ち取らなきゃならねえ。ごんちゃんの手を煩わせるわけにはいかねえんだ」 「承知」 二人の作戦参謀は、背中合わせになり、正面と背後の敵に警戒線を張った。
千歳と長倉、そして野田のヒットコールを聞き、彼女はますます厳しい弾幕を張っていた。 だが、それにかかる敵はいない。 丘の麓には、確実に2人の敵がいるのだが、巧妙にアンブッシュして、真理亜さまの弾幕を避けているのだ。 そのくせ、敵は散発的に、真理亜様を狙って攻撃を仕掛ける。 「見苦しい……悪あがきは止めたまえ!」 真理亜様が、引き金に掛ける指の力を、更に強くした、その時だった。
(?!) オスカル様は、射撃を止め、サイドアームのピースメーカーを構えた。 ♪ぷゎ〜〜 ぱぱぱぷゎ〜(↑) ぱぱぷゎ〜〜(↓) 怪しげな音楽と共に、 「ちょっとだけよ〜ん〜♪」 という声は、まだしている。 しかも、自分と非常に近い位置から聴こえる。 オスカル様は、まるでゲーセンの射撃ゲームのように、ピースメーカーを両手でしっかりと構えたまま、自分の立っている所を軸に、左右に回転を掛けた。 だが、怪しい人影は見受けられない。 (一体どういうことだ?) 怪しいメロディーが鳴り響く中、オスカル様は混乱し始めた。 だが、冷静に戦局を判断した人間が、二人だけいた。 ご存知、『剣道部!』の参謀たちである。 「銃撃が止まったぞ」 「チャンスですね、突撃しましょう!」 突然の不可解な事態を勝機と捉え、吉方と山神は、巧みにアンブッシュしながら、丘の上に上がった。 この間、丘の上からの射撃は、全くない。 そして、 「そこまでだ、オスカル!」 挟み撃ちにするような形で、左右から二人が飛び出したとき、 「くっ、この音楽は?」 彼らが見たのは、栗色の巻き毛を振り乱し、混乱の真っ只中にいる、斯波真理亜嬢の姿であった。 そして、彼女の背中に背負われている、背嚢から、 「ちょっとだけよ〜ん〜♪」 ……ドリフの阿藤緑茶(あとう・りょくちゃ)の声が、大音量で放出されていたのであった……。
観客席で、義晴兄さんは、軽く自分の頭を叩いた。 実は、彼、オスカル様のシャルルヴィルに、残弾が100発以下になると発動する、お知らせ機能をつけて置いたのだ。 それが、彼の大好きなドリフの「ちょっとだけよ〜ん♪」だったのである。 「謹厳なお嬢様をおちょくってやれ」という悪戯心が働いて、あんな声をつけたのであるが、今日の急激な事態の展開は、それを単なる悪戯というレベルで、片付けてくれそうになかった。 「うーん……しまったなあ……どうやって言い訳しよう……機械の故障と偽って、アラームを別の普通の奴に変えるという手が一番楽ではあるが……うーん……」 試合はそっちのけで、義晴兄さんは、珍しく、深刻に考え込んでいたのであった。 ……頑張れ、若造。
天才サバゲーマー・奥田聡司は、崖を登りきっていた。 丘の上からも、谷からも、自分に気付いた気配は全くない。 そして、慎重に崖を降り、地面に足をつけたとき、 「ヒット」 オスカルの声が聴こえた。 (これでこっちは4人撃墜、向こうは2人しか撃墜してないから……私がフラッグ取っちゃえば確実に勝ちですね) こう計算した奥田君は、大胆にもアンブッシュせずに、しかし、足音を忍ばせて、敵の本陣に向かった。 案の定、本陣には誰もいない。 しかも、谷の方を見ると、佐々木千恵子らしき人影は、『剣道部!』側に向かって必死に弾幕を張っている。 という訳で、奥田君はあっさりとフラッグを引き抜いた。
「え?」 「な、何ですって!」 『剣道部!』側の本陣深くまで迫っていた美華お嬢様、そして、谷で弾幕を張っていた千恵子さんが、驚愕の表情を見せる。 自分たちの本陣を振り返れば、そこでは子供っぽいサムライコスの男が、フラッグを片手に持って左右に振っている。 「フラッグを取られた?! そんな馬鹿な! わたくしと大将さまの守りは、完璧だったはず! それに大将さまが撃墜されてから、このように早く、敵が本陣に到達できるはずは……」 大声で、この展開を否定しようとする千恵子さん。 だが、 「……甘いな、チビ」 千恵子さんが振り返ると、そこには、洋装の美男子が立っていた。 そのそばには、神経質そうなサムライコスの男もいる。 「くっ、あなたたちは、吉方様と山神様! なぜここに!」 「丘を降りてきたんだ。悪いか」 吉方氏は悪びれもせずに返答する。 「……お前さ、崖の方面が、がら空きだってんだ。あのくれえの崖、俺たちなら越えられるさ。もっとも、お前には無理だろうから、天険を頼もうと思ったのも無理はないけどよ。お前、俺たちを散々おちょくった割には、作戦能力がないんだな、見損なったぜ」 「崖……?」 千恵子さんは敵の言葉に、数瞬考えこむそぶりを見せ、 「……!」 眼を見張った。 「なんということでしょう。わたくし、ひどいミスを犯していたのですわね。……皆様、ごめんあそばせ、すべては、このわたくしの責任でございます。わたくしが、作戦を立て間違えたのですわ……」 顔を両手で覆い、千恵子さんはその場に崩れ落ち、しゃくり上げ始めた。 それを見て、 「こらー!」 「千恵子ちゃんをいじめるな!」 「お兄ちゃんが守ってやるー!」 「お前ら許さないぞー!」 ギャラリーの怪しいお兄さんたちが野次を飛ばす。 「ちっ、ギャラリーが騒ぎやがって。今日のところは退散だ」 吉方氏は苦々しげに吐き捨てると、フィールドを後にした。 その後姿をちらりと見ながら、 (……ふっ、作戦成功や) 千恵子は泣くそぶりを見せながらも、にんまりした。 (これでうちの株は下落する。そして全国のサバゲーマーは油断する……勝ったんは、うちや。全国大会で最後に笑うのは、うちや……)
準優勝は聖ガブリエル女学院高校『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』である。 この上位2チームには、自動的に全国大会への出場権が与えられ、2週間後に行われる南関東大会への出場も決定した。 なお、3位は、『PERFECT ASSASINS』を3位決定戦で破った『BOUZ』。 南関東大会で『剣道部!』か『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』が優勝して南関東代表になれば、彼らが東京B代表に繰り上がり、全国大会への出場を得ることになる。 ちなみに、今大会の撃墜王は、『剣道部!』の奥田聡司が獲得した。 その撃墜数は、予選からあわせて22人にのぼる。 聖ガブリエルの面々の撃墜数(千歳8、みずえ7、千恵子7、直子3+旗、オスカル5、美華6)と比べれば、その凄まじさがお分かりいただけるだろう。 なお、ギャラリーの人気投票によって選ばれる特別賞は、応援団の組織票と、怪しいお兄さんたちの投票により、無事『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』が獲得した。 ステージでポーズを決める彼女たちに、お兄さんたちやオスカルファンたち、そして怪しい生徒たちのカメラのフラッシュが、激しく浴びせられたのは、言うまでもない。 そして、この可愛い女の子6人組の写真が、全国各地の怪しいお兄さんたちを萌えさせてしまい、運営委員会や『月刊種子島』、更に学校にまで問い合わせが殺到する事態になったのであるが、それは置いておこう。
試合会場からの帰り道、プリウスの車内でじいさま、こと勝本信義公が、助手席に座った千恵子さんに語りかけた。 すると、 「……あーよかった」 プリウスのただ一人の乗客である千恵子さんは、安堵の吐息を漏らした。 「殿さんにボロカスに言われたら、どないしょーかと思ってました」 「わしがお前の浅知恵を見破れないとでも思っておったのか?」 ハンドルを操りながら、殿様はニヤリと笑った。 「そーでした」 千恵子は舌をペロリと出して、苦笑いを浮かべる。 「……うちのしたこと、バレてしまうでしょうか? 特に、『剣道部!』に」 「……予選や準準決勝の鮮やかな勝ちっぷりを見ている人間には、不審感を抱かせてしまうかもしれない。しかし、千恵子は実際ボケておるから、まずは心配ないだろう。特に4回戦はひどかった」 「ひどいこと言わはるなぁ。うち、そんなにボケとちゃいます。相手がねーちゃんやと始めからわかってたら、もうちょっとマシな戦いができたのに……」 「そういう台詞は、『対戦戦国』でわしを倒してから言え」 殿様のキツイお言葉に、千恵子さんは 「むう」 と言ったきり黙りこくってしまった。 「……まあ、しかし、今回は合格だ」 殿様は、意気消沈した参謀さんに、優しさの感じられる声で語り掛けた。 「あの状況に、よく対応できたな。わしから礼を言おう」 「……うち、殿さんにお礼言われるようなこと、何かしましたっけ?」 千恵子さんは首を傾げた。 すると、 「いや、なに、こちらのことだ」 殿様は、取り澄ました顔で呟いた。 その様子を見て、千恵子さんは、一瞬不思議そうな表情を見せたが、片眼をつむってみせた。 「……わかりました。これから、日本一目指して頑張ります。精一杯、殿さんを楽しませる試合しますから、殿さんも、どんどん手を出して下さい。ほんで、また軍略をうちに教えて下さいね」 こういって、悪戯っぽく微笑した千恵子さんは、本当に可愛らしかった。 (……よくまぁ、クラーマの手下たちに、この可愛い少女が対応できたものだ) 内心感心していた殿様は、ふと我に帰り、 「よしよし、それでこそ、わしも軍略の教えがいがあるというものだ」 ニコニコと頷いた。 「……同窓会が集めた情報によると、『剣道部!』以外にも、北海道の『チーム風林火山』『FANG GUNNERS』、神奈川の『魏新特選隊』、山口の『チーム騎兵隊』などなど、軍略に長じたチームが沢山ある。千恵子も、そやつらに負けないようにしないとな」 「騎兵隊の人なら、さっき会いましたよ。リーダーの桧木っちゅーセクハラ野郎」 「ほう、既にここまで偵察に来ておったのか……」 ハンドルを操りながら、殿様が感心する。 「はい。それに、高知の坂元って人にも会いましたよ。『チーム坂本竜馬』の。二人とも、『剣道部!』のリーダーの権藤と知り合いみたいやった」 「なるほど。……では余計に、今後の戦略に気を付けなければならないな」 「……せやけど、一番気を付けんとあかんのは風林火山の武田広奈や。あれって、あの“世界の武田”の娘ですよね。うちとは違って、ホンマもんのお嬢様やけど、あの軍略は凄まじい。詳しい情報が入ってきたら、研究せなあかん。それと、南関東大会では『魏新(ぎしん)特選隊』とぶつかる可能性が高いし……」 「南関東大会は、どう戦うつもりだ?」 「本気で戦うつもりはないです。少なくとも、真ん中より下を目指します。あと、ステージは今まで以上に派手にして、単なるコスプレチームになるように努力します」 「ほうほう、それでよい、それでよい。わしの薫陶も、少しは行き届いてきたと見えるな」 ハンドルを操りながら、頷く殿様と、その表情を悪戯っぽく見ている千恵子。 65歳と15歳。50歳差の師弟がその先に見ているものは、日本一の座だ。
何とか全国大会出場を決めたお嬢様方。 |