まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第十一話
| ◇姫対坊主だ決勝編◇ |
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だが、一部、試合が終了しても、穏やかならざる人々がいた。 『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』の1年生たちである。 先ほど、メンバーの一人、細川直子様がもたらした、聖ガブリエル女学院の生徒と、紫英館(しえいかん)『剣道部!』のメンバーとの交際情報。 それが、彼女たちに衝撃を与えたのだ。 なぜならば、『剣道部!』は、東京都大会優勝候補の本命であり、聖ガブリエルにとってのライバルチーム。 しかも、そのメンバーと付き合っている聖ガブリエル女学院の生徒、というのが、こともあろうに、1年生達の同級生である、赤橋園美さんだったからである。 おまけに、追い討ちをかけるように、直子お姉さまは、チームのリーダーである斯波真理亜さまと、1年生の金沢千歳の兄・義晴との交際が成立した、との情報を告げたので、1年ズは混乱し、お姉さまがたから逃げるように、会場の片隅へと移動して行ったのであった。 「園美が、『剣道部!』の奴と……?」 呆然とした表情で、名越みずえが呟く。 「敵ではないか」 憮然として言うのは、金沢千歳。 「っていうか、小説書くのに忙しい、て言うてたんは嘘やったんか」 こんなときでも突っ込みを忘れないのは、佐々木千恵子。 「そーだよな。最近、放課後に遊びに行こうって誘っても、『小説がスランプで書きすすまないんです』『今日は夕食当番だから、スーパーに寄らなくちゃいけないんです』って断られてさあ。あれ、ひょっとすると、デートの言い訳だったんか?」 「かも知れん。ホームページの掲示板にも、『今回はスランプで、全然書き進みませんでした〜』とか『何かいい案ないですか?』とか、木下さんやまさLさんや、格闘王さんに答えてたから、ホンマのことやろ、て思てたんやけど……」 ちなみに、「木下」「まさL」「格闘王」とは、園美、こと鷹木きめらのホームページの常連のハンドルネームの略称で、木下は「木下隆一」、まさLは「まさよLOVE」、格闘王は「深紅の格闘王」の略である。 掲示板にカキコこそしないものの、園美のホームページはしっかりチェックしている二人であった。 まあ、そんなことしなくても、作品の感想なら学校ですぐ言えますしね。 「うーん、全ての方面に嘘を突き通したってわけかよ。気持ちは分からないでもないけど、うちらに内緒っていうのはひどいよな!」 「ホンマやわ。ちょこっとくらい言うてくれたかて……」 と、 「あ、千恵さんにみずえさんに千歳さん」 1年ズが振り返ると、そこにはなんと、噂のご本人が、にこにこ笑いながら立っていた。 「「園美ーーーーーっ!!!」」 みずえは脱兎の如く彼女に駆け寄ると、襟首を掴んだ。 千恵子も彼女に向かって駆けていくと、懐からハリセンを取り出して「すぱーん!」と園美の頭をはたいた。 「な、何するんですか、二人とも……」 弱々しく抗議する園美に、 「お前なあ!」 「水臭いやんか!」 みずえと千恵子は怒鳴り声を浴びせた。 「何で彼氏のこと言ってくれないんだよ! オレ、相談に乗ってやったのに!」 「そうや! ひどいやんか。うちらのこと、信用できんのか?!」 その言葉に、 「……ごめんなさい、千恵さん、みずえさん、千歳さん。平八さんのこと、黙ってて」 園美は項垂れた。 「ホンマやわ。なんで黙ってたん?」 冷静な千恵子が、まだ激昂している。 返答次第では、手にしたハリセンで園美の頭を更にどつこう、という勢いである。 だが、 「……だけど、私が平八さんと付き合ってるって知ったら、千恵さん、どうしてました?」 その台詞に、 「うっ……」 千恵子は部長に言い返すことができなかった。 実は、直子お姉さまから園美の彼氏のことを聞いた瞬間、彼女は(しまった!)と思ったのである。 彼氏に上手く探りを入れさせて、『剣道部!』の情報を手に入れる。 その一手が使えなかったことを、千恵子は悔やんだ。 園美に対して怒りが大きかったのも、その悔しさによるところが大きかったのだ。 そんな千恵子に追い討ちを掛けるように、園美は言った。 「千恵さん、私、打算的な気持ちが入ったら、恋愛ってその時点で成立しないものだと思うんです。恋愛って、相手を自分のいいように利用してやろうって気持ちでするもんじゃないと思うんです。私は、平八さんとの関係を、そんなものにしたくなかった。それに、うちの高校は男女交際禁止だから、もしバレたら退学ですし」 「……かといって、許されることではない」 こう言ったのは、今まで黙っていたサムライガール・千歳であった。 「……それは、どういう意味でですか?」 微笑を絶やさぬまま、園美が尋ねると、 「嘘をついていたことがだ」 千歳は短く返答した。 「……千歳さん、『壁に耳あり障子に目あり』って言うでしょ。もし、私が、みんなに相談しているところに、シスターや先輩が入って来たら、どうするんですか? 実際、そういう事例も過去にありましたし」 (((……あの時のことか))) 1年ズの脳裏に、昨年の晩夏の思い出したくもない出来事がよぎった。 と、 「あ……ここにいたんだ……」 やっと上級生から解放された二階堂瞳さんが、疲れた顔で友人たちの前に現れた。 「瞳、どーしたんだよ、その顔」 「何か、疲れてない? どないしたん?」 みずえと千恵子の質問に、 「あ、あのね、桃井先輩と一色先輩に捕まって、応援歌のパートを付け加えさせられてて……って、そのちゃんは?」 「はい、何ですか?」 園美が反射的に答えると、 「あー、無事だったんだ〜。よかった〜」 瞳はほっとため息をついた。 「あの変な集団から、うまく逃げられたんだね〜。あたし、やな予感がしたから、心配で、みんなに連絡取ろーとしたんだけど、みんな運転中とかデータ通信中で、電話がつながらなくて〜。仕方ないからメール送ったんだけど、あたしメールに慣れてないからさ〜、本文打つのにだいぶ時間がかかっちゃって……、何とか送ったけど」 彼女の長い台詞に、 「変な集団って、それ、どういうことだよ?」 「みんなと連絡取ろうとしたって、もしかして、うちらも入ってる?」 “乱丸”と“お姫さま”が反応した。 「……って、やだ、もしかして、メール気がついてない? さっき、ケータイに送ったんだけど、そのちゃんが追われてるから助けてください、って」 「……うんにゃ」 「そんなん、入ってないけど」 すると、 「はあ〜、てことは、最初から説明しなきゃいけないの〜?」 瞳はまた盛大にため息をつき、先ほど、蕎麦屋を出てからの出来事を説明し始めた。 また、園美も、自分の体験を手短に語った。 「……なるほどなあ」 話を聞き終えた千恵子さんは、瞳と同じように、盛大にため息をついた。 「要するに、園美をうちと間違えた『剣道部!』の連中が、園美を執拗に追ってたっちゅーことやな?」 「そういうことですね。しかも私のメモ帳を取ろうとするなんて……作戦が、私のメモ帳に書いてあるとでも思ったんでしょうか。メモ帳は予選会場でしか広げてませんから、敵は、予選会場で私を見ているっていうことになりますよね……」 一気に悲劇のヒロインとなった園美が、深刻な表情で呟く。 「つーことは、予選ブロックの会場から、『剣道部!』は、うちらを見張ってた、ってことかよ? それって、『剣道部!』が、千恵のことを、めちゃくちゃ意識してる、ってことになるよな……」 「そーだよね〜。ちえちゃんって、ゴージャス模試でも、可愛(かわい)塾の全国模試でも1位取ったから、そのスジの人には、何気に有名だし〜。だけど、なんでそのちゃんとちえちゃんを間違えるかなあ。全然似てないのに〜」 「だよなあ。この二人の容姿の共通点っていったら、せいぜい髪が黒いぐらいのもんだろ。あとは、同じクラスで、同じクラス委員で、同じ部活ってことぐらい」 「あと、ゴージャス模試受けてる、っていうのも入るよね〜。そのちゃん、現代文だけはちえちゃんより得意だから、国語だけは確か、全国で376位だったよね」 「それ言うなら、千歳も国語は全国で418位だったぜ。千恵より古文と漢文が得意だからな」 「まあ凡人のあたしらには、もう勝手にやっててくれ、ていう感じなんだけどね〜」 「ほんとだぜ。オレなんか、中3の3学期の期末テストの数学、赤点すれすれだったんだぜ。よく高校に進級できたよな〜、って感じでさあ」 「何いってんの。社会は得意じゃん、みずちゃんは。それに体育は100点でしょ〜。あたしなんて、理科が苦痛で苦痛で……」 「お前は音楽で満点じゃんか。音楽の教師が、『何で音楽系の部活に入ってくれないんだ』って、こないだ嘆いてたぞ」 「え〜……部活で音楽やるのやだ〜。気の合う人とやりた〜い」 みずえと瞳が好き勝手なことを言い始める。 ちなみに、聖ガブリエルでは、高1の段階では、現代文・古文・漢文が「国語」という授業にまとめられ、試験はこの3つをあわせて100点という形で行われているため、国語は千歳、千恵子、園美の3人で首位争いが繰り広げられている。 現代文で抜群のセンスを示す園美、祖父母たちの薫陶の結果、「古文漢文なら任せろ」、という千歳、そして、全ての分野で、バランスよく点を稼ぐ要領の良い千恵子。 凡人のみずえや瞳は、既に付いていけないハイレベルの争いが、テストの度に繰り広げられ、そのためか、1年桜組は、国語の平均点が他の組より若干高めになっている。 閑話休題。 ぴーちくぱーちく喋っているみずえと瞳をよそに、 「千恵、一人歩きはするな。私が護衛する。いつ何時、あの不埒な連中に狙われるかわからん」 千歳が千恵子に言った。 「そやな」 千恵子は頷くと、 「あと2試合、死ぬ気で作戦立てるわ……権藤勇武(ごんどう・いさむ)、いや、吉方利三(よしかた・としぞう)と山神慶介(やまがみ・けいすけ)、うちが年下やからっちゅーって、なめたら痛い目にあうで……」 凄絶な笑みを浮かべた。 その裏には、友人たちの度肝を抜く、ある恐るべき計画が隠されているのだが、それは後に話すことにしよう……。
実は、このチーム、半年前にデビューした坊主アイドルグループで、全員高校生である。 彼らがレギュラー出演している太平洋テレビの深夜番組『BOUZな奴ら』の番組企画で、このサバイバルゲーム大会に出場することになったらしい。 「確か、Gプロデューサー、本名は行木治(ぎょうき・おさむ)っていうんだけど、そのプロデューサーが、『BOUZの知名度も上がるし、面白いネタになりそうだし、参加したら?』って言ってさ、先週の番組では、申込書出すところで終わったと思うぜ」 とは、『BOUZな奴ら』をビデオに撮って見ている名越みずえ嬢からの情報だった。 それは兎も角、『BOUZ』の戦術は、アタッカー二人が敵をなぎ倒し、ミドルアタッカーが、打ち漏らした敵を撃墜する、という戦い方が基本。 アタッカー二人は、一人はハンドガンナー、もう一人は、千恵子さんが背負うのにすら苦労している“MINIMI M249 MARK2”を片手で操るという化け物。かたやアンブッシュからの一撃、かたや圧倒的な弾幕という対照的な戦法で、敵を屠っているようだ。 また、ミドルアタッカーは、ミドルアタッカーというよりは、遊軍のようなもので、どこに出没するか全く不明らしい。 しかも、「大木の上に現れ、敵6人全員を10秒で撃墜した」「2mの距離から射撃されても弾が当たらなかった」「カッパの格好をして空から降ってきた」など、予選Cブロックで、既に数々の伝説を作っており、「史上最強のジョーカー」という称号が、ギャラリーから奉られているという、謎の多い男であるようだ。 あとは、スナイパーが一人、ディフェンダーが二人、と、まあまあ平均的なチーム構成と言えるだろう。 という訳で、軍師千恵子さんはこういう作戦を立てた。
「まず今回、しなければいけないことは、こちらの丘の奪取でございます。この丘を占領すれば、丘からの突撃路が確保できます。敵には“MINIMI”を片手で操るアタッカーがおりますので、この丘の占領は、大将さまと女御さまにお任せいたします」 「了解した、おちびちゃん」 真理亜お姉さまが凛々しく頷かれた。 「そして、この中央の谷にも、人員を配置いたしまして、敵を待ち伏せます。これは、わたくしとみずえさまで行います。姫さまは、この谷と丘の間から潜行して、敵の背後を取ってくださいませ。丘側にするか、谷側にするかは、姫さまのご判断にお任せいたします」 「かしこまりましたわ」 美華お姉さまが、優雅に頷かれる。 「千歳様は、本陣をお守りくださいませ」 「承知いたしました」 千歳さんが、重々しく首を振る。 「……アタッカー二人を撃墜いたしましたら、女御さまとみずえさまは、敵陣に向かってください」 「了解ですわ」 「カシコマリマシタ」 元気に頷くのは、直子お姉さまとみずえさんのアタッカーコンビである。 「姫さまは、丘の上に上って、大将さまの代わりに丘の占領をお願いいたします。大将さまは、姫さまがいらっしゃいましたら、後詰として、みずえさまと女御さまの援護をお願いいたします」 「……あのー、ちょっとよろしいかしら、おじょうちゃま?」 不意に、こう発言したのは、新聞部の直子お姉さまだった。 「はい?」 「敵方ですが、面白い情報がいくつか入っておりますのよ」 「はあ」 「えーと、まずリーダーの弱点は、女性です。女性の傍にいるだけで、脂汗たらたら、心臓ばくばく、とそれはもう緊張されるようですわ」 「さようでございますか……」 千恵子さんは頷いたが、 (せやけど、そんな心臓ばくばくするほどの接近戦って、サバゲーでは殆どありえへんよな? リーダーは本陣から動かないのがパターンらしいから、フリーズコールも難しいやろし) 心の中では突っ込んでいた。 「それから、作戦参謀は、実は幼い頃、母親と引き離され、寺に養子に入ったという過去があるそうですわ。父親は、さる名家の当主との噂もあるとか……」 (……って、それってサバゲーで役立つやろか?) 「また、アタッカーのハンドガンナーの方は、非常に美男子なので、普段は顔をお面で隠しているそうですわ。お声も素敵だそうですよ」 (顔隠すって……それって不審者やん) 「遊軍の方のご趣味は落語」 (……それがどーした) 「また、もう一人アタッカーの方は、サングラスを外すと、性格が変わるそうですよ? そう、まるで女の方みたいになるそうで……」 そこまで来たところで、 「……ええ加減にしてください!」 とうとう、千恵子の堪忍袋の緒が切れた。 「サバゲーのフィールドで、サングラスを外すという展開になるのですか? サバゲーのフィールドで、落語をやるというのですか? サバゲーのフィールドで、美男子を鑑賞するというのですか? サバゲーのフィールドで、人の過去を暴けというのですか? サバゲーのフィールドで、女性に弱い男性を誘惑しろというのですか? 女御さま、今女御さまのおっしゃったことは、新聞記事の役には立っても、サバゲーの役には立ちませんことよ!」 言葉だけは丁重に、しかし、関西のアクセントで、千恵子はまくし立てた。 「そ、そんな……」 直子お姉さまは、後輩の台詞にショックを受けられた。 「で、ですがまだ続きがありますのよ……」 「続き?」 「スナイパーの方が、予選の2回戦で、フィールドで野点をしたそうです」 「まあそうですか……って、その行動は納得できませんーーーー!」 「ですが、後輩がそう言うものですから……」 「って、それで許されるとお思いですかーーー!」 ……作戦参謀と諜報部の統括者との会話は、漫才状態になっていた。
その後、フィールドでは、ある異変が起きていたのである。 「ふっふっふ、俺は武蔵野ゲリラ怪人。魔王クラーマ様のため、今日も元気でゲリラリラ〜♪ この洗脳BB弾に当たったものはあっという間にクラーマ様の忠実な下僕となるのだ。この精鋭揃いの決勝ブロックの出場者なら、さぞかし優秀な兵士となるだろゲリラリラ〜♪」
すると、フィールドに霧が発生し、みるみるその濃さを増していく。 しまいには、フィールドの視界は、良好な時の半分ぐらいに落ちてしまった。 観客席から、フィールドの様子がよく見えなくなってしまったので、 「おい、これじゃ試合がわからないぞ」 「まぁ、これではオスカル様のお姿が……」 ギャラリーの皆様からも、心配の声が上がる。 だが、その騒ぎをよそに、『武蔵野ゲリラ怪人』は、600発の洗脳BB弾を詰め込んだ違法改造電動ガンを手に、会心の笑みを漏らした。 「ふっふっふ、これが俺の得意技、『きりきりまいまーい』。視界を悪くして優秀な戦士を狩りやすくする、素晴らしい力なのでゲリラリラ〜♪ しかも俺様の特殊な目は、霧の中でも通常と同じような視界が得られるのでゲリラリラ〜♪ そして何と何と、今なら特別機能も付いているのだゲリラリラ〜♪ ふっふっふ、『へーんしん』!」 すると、『武蔵野ゲリラ怪人』を取り巻く霧がいっそう濃くなる。 そして、数瞬の後、霧が晴れ、そこに立っていたのは、 「ナ@ミよん♪」 ……ではなく、『戦国武装』の“踊り子”コスをまとった人影だった。 巫女服のような赤い袴、そして、平安時代の昔から伝わる、重ねの色目を意識した単(ひとえ)。 ……だが、よくみると、袴の長さは毛深い脛の半ばを覆うくらいしかなく、単の色も、何となく薄汚れていた。 その上に、白粉を塗りたくった、不気味な顔が乗っかっている。 桜色で文様の描かれた、純白の唐傘を広げ、肩の上でくるくる回すその姿は、「優美」……ではなく、はっきり言ってしまえば、「醜悪」、そのものであった。 だが、自分のしたことの重大性に気がつかないまま、“踊り子”……もとい、『武蔵野ゲリラ怪人』は、再び高笑いした。 「ふっふっふ。これがオレ様の必殺技。『へーんしん』だ。“踊り子”に変身し、『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』のメンバーを油断させて狩るという、我ながらすばらしい機能なのだゲリラリラ〜♪ やっぱり狩るなら、女の子の方がいいもんなあ。さぁ、優秀な戦士をバリバリ狩って、センゴクマンを撃破するのでゲリラリラ〜♪」
先ほどフィールドを中心にして発生した霧の影響で、このステージにもうっすらと霧が漂っている。 しかし、「運営の都合上、予定通り試合は続行する」ということになってしまい、 (あーあ、作戦変更せんとあかんかなあ) 作戦参謀千恵子は、内心溜め息をついていた。 「なお、顔合わせや試合の様子は、太平洋テレビのご協力をいただき、オーロラビジョンでご覧いただけます」 このアナウンスに、観客席から安堵の溜め息が漏れる。 と、 「ドラゴンゲートより『BOUZ』の入場!」 司会の声とともに、
「般若心経?」 千歳が不審そうな視線で見やった先から、典型的なお坊さんの格好をした男が現れた。 顔から脂汗をたらたら垂らし、動きがぎこちない所を見ると、どうやらこれがリーダーらしい。 続いて、小坊主の格好をした少年が、ちょこまかとついていき、次に、茶坊主スタイルの男がのんびりと歩いてくる。 その後ろに続くのは、典型的なお坊さんスタイルの男だが、顔にフルフェイスゴーグルを付けているため、顔が見えない。 なぜかゴーグルから角が二本出ているのがご愛敬である。 その後ろに、老け顔の琵琶法師と、迷彩服にサングラスの巨漢が続く。 あまり衣装に統一性がないが、全員丸坊主というところで協調性を持たせてある。 が、ある意味異様な素敵異空間を作り出しているのは確かで、 (怖いわこいつら。確か、準々決勝で戦った『明神下SWAT』のメンバー、これで「俺たちが入り込めねぇ領域だ」って恐れをなして、大会一の凄腕スナイパーと噂されてた金方平治(かねかた・へいじ)の奮戦もむなしく破れ去ったらしいな……あーこわ) 作戦参謀千恵子、顔は猫を被りながら、内心はこんなことを思っていた。 と、『BOUZ』側は全員が揃い、ステージの中央に一列に並んだ。 そして、先頭のリーダーが、 「ぼーず!」 一声叫ぶと、決めポーズを作ってしゃがむ。 続いて、 「こぼーず!」 「ちゃぼーず!」 「つのぼーず!」 「びわぼーず」 メンバーたちが決めポーズを作り、リーダーの横に並んでいく。 そして最後に、 「海坊主!」 貫禄ある声とともに、腕組みした迷彩服の巨漢が、リーダーの後ろから、にゅっと現れる。 「坊主アイドルグループ『BOUZ』、準決勝に見参である」 ご丁寧に、スピーカーから、司会の声とは別のナレーションまで入ったが、観客席からはあまり熱の篭っていない拍手が聞こえるのみだった。 それはそうだ。一応番組の一本は持たしてもらっているが、彼らはまだまだ駆け出しで、知名度は低いのだ。 そして、続いてお嬢様方の入場である。 すると、待機していたカメラマンが、先頭のみずえの顔をアップで写す。 ステージ後ろに急遽設置されたオーロラビジョンに大写しになったみずえさんの笑顔(もちろん、カメラ目線)に、 「ラブリー!」 「みずえさまー!」 会場の声援が大きくなる。 他のお嬢様方も、みずえさんと同じように、次々にアップになったので、お兄さんたちもお嬢様方の大応援団も、思わぬサービスに満足であった。 はっきりいって、その熱気は『BOUZ』入場時よりすさまじく、哀れ、坊主アイドルグループの存在感は消えかかっていた。 『BOUZ』大ピンチ! だが、そんな彼らに、救いの女神が現れたのだ。 「すごい……生BOUZ……」 (ムダ)知識の女王、名越みずえである。 その様子に、『BOUZ』の面々も(おや?)という感じで、みずえさんを眺めた。 すると、“林乱丸”コスのみずえさんはいかにも嬉しそうに、 「いやー、感動ですわ」 と言った。 「……『BOUZ』の皆様が、生で見られるなんて。ワタクシ、『BOUZな奴ら』を毎週ビデオにとって拝見させていただいておりますの。番組開始時にも行われる生決めポーズ、そして、Gプロデューサーの生ナレーション……嬉しくて、涙が出そうでございます」 そう一気にまくし立てると、みずえさんは懐から小さいサイズの色紙と黒マジックを取り出し、『BOUZ』に向かってつかつかと歩き始めた。 「あの……もしよろしければ、皆様のサインをいただけないでしょうか?」 その言葉に、 「あ、いや、あの、その」 “坊主”と名乗ったリーダー・SAI−CYOU(さいちょう)が、どぎまぎしながら、意味不明の音声を口からもらした。 きりりとした美形なのだが、脂汗が額に浮いている上、顔が緊張のために引きつっているので、せっかくのイケメンが台無しであった。 「いーよー。ぼく、書いてあげるー」 “小坊主”・Iっ−KYUU(いっきゅう)は無邪気にこう言った。 青々と剃りあがった頭に、くりくりとした眼がとってもキュートで、妹属性を持つ千恵子さんと、好一対になりそうである。 「わても構へん」 “茶坊主”・RI−KYUU(りきゅう)が、間の抜けた表情で、小坊主に同意。 彼ののほほんとした姿を見ていると、見ている人間までのほほんのほほんとしてしまいそうである。 ところが、 「ふ……それは遠慮させてもらおう」 “角坊主”RYOU−GEN(りょうげん)が、ムダに美しい声で、こう言ったのである。 右手の甲を顎に当て、さりげなくポーズを決めているが、残念ながら、ゴーグルのせいで魅力が半減である。 「えー、そんな……」 サインをもらえると信じていたみずえさんはがっかりした。 「ちょっと、角坊主さん、かわいそうじゃないの。書いてあげなさいよ」 “琵琶坊主”SEMI−MARU(せみまる)が、横からファンのために助け舟を出す。 よく見れば、細面で顔の造作も整っているのだが、全体的に老けているために、 「@まだくーん! 座布団一枚!」 「心意気がなければ、匠とは呼べないの!」 と叫びたくなった観客も数名いた。 「そーだよー。かわいそーだよー。ほらあー、書こーよー」 小坊主も、UT……じゃなかった、SEMI−MARUに同調する。 すると、やはりムダに美しい声で、角坊主はこんなことを言ったのである。 「いやだ。どうせ書くなら、そうだな……あの“踊り子”さんになら、書いてあげてもいい。私の美しいサインを」 みずえさんは、角坊主の周りに、大輪のバラが何輪も咲き誇っているかのような感覚を覚えた。 (うわー、やっぱ綺麗な声だ。オレですら、うっとりしちまうよ……) 観客席のお嬢様方も、 「まあ、素敵なお声……」 思わず、角坊主の声にうっとりしてしまう。 名指しされた美華お姉さまは 「まあ……」 と言ったきり、何のリアクションもなさらない。 これこそが、真のお嬢様の行動というものである。 と、 「何を言う。あのお嬢さんは、わてが最初に目をつけたんや」 のほほん、としていた茶坊主が、豹変した。 「あのお嬢さんなら、わての茶道をきっと理解してくれはる。一目でわかった。それを角(つの)のような色魔の毒牙に掛ける訳にはいかんのや」 のんびりとしていた表情はどこへやら、きりっとした顔で、角坊主に食って掛かる。 その表情がカッコよくて、 (あれー、茶坊主って、こんなにカッコいいんだ〜。知らなかった) 『BOUZ』ファンのみずえさん、ちょっと茶坊主を見直した。 「何、宗匠(そうしょう)、今、この美しい私のことを、何と?」 角坊主が、愕然とした表情で仲間を見やる。 「おう、何べんでも言うたるがな。お前さんは、色魔や。女ったらしや。女性の敵や」 「お面被って公道歩いてる変質者……ですわ!」 突如、茶坊主の声に第三者の声が重なり、会場中の視線が声の主に集まった。 「……そこのゴーグルを被ったあなた、道でご婦人に抱きついたり、女の子をかどわかそうとしたり、ご乱行を大分重ねられているそうではありませんか。この大会に出ていると言うことは、あなたはまだ高校生。成人前の行動として、許されるものではないですわよね」 “お姫さま”千恵子さんは、左手を腰に当て、右手で剣玉を持ちながら、RYO−GENを冷たい視線で見やった。 「む、むぐう、それは違う。あれは、勝手に向こうから……はっ!」 反論に失敗したRYO−GENを、千恵子さんは鼻で笑い、 「語るに落ちた、というところですわね。さあ、今すぐ罪を告白なさい! さもないと、あのことも、この観衆の皆様方の前で、バラしてさしあげますわよ」 ハッタリの台詞を吐いた。 「おいおい、もっとひどいことやったのか?!」 「まあ、ひどいお方ですわ」 ギャラリーがざわめく。 「き、……君がなぜそのことを知っている!?」 慌てふためくRYO−GENに、千恵子さんはこういってやった。 「ふっふっふ。ここにおわすお方をどなたと心得る! あなた方のレギュラー番組『BOUZな奴ら』の放映局・太平洋テレビとはグループ会社の関係にある、太平洋新聞の社長令嬢・細川直子様であらせられるぞ!」 「……一同、細川様の御前である! 控えおろう!」 思わぬネタにすっかり乗ってしまったみずえさんの台詞により、 「「「「「ははーっ」」」」」 『BOUZ』とギャラリーの大半が、思わずその場に平伏してしまった。 「なんと、対戦相手は親会社の社長令嬢! 思わぬ展開に、『BOUZ』大ピ〜ンチ!」 Gプロデューサーのナレーションが、的確に『BOUZ』の心中を表現していた。 おそらく、番組放映時には、この台詞がテロップとともに流されるのであろう。 「『BOUZ』のRYO−GEN! あなたの犯した罪は、わたくしの取材能力により既に明白。番組をおろされたくなかったら、今ここで敗北を宣言し、わたくしたちに勝ちを譲りなさい!」 “陽炎”コスの直子お姉さま、そうおっしゃって、ポロライドカメラのレンズをRYO−GENに向ける。 「うぬぬ……」 進退窮まったRYO−GEN、大ピンチ! と、 「あのー、ちょっとよろしいですか、細川様?」 スピーカーを通じて、Gプロデューサーが呼びかけた。 「このRYO−GENなんですがね、大変な思いしてきてるんですよ」 「大変な思い?」 直子お姉さまが首を傾げる。 「なんていっても、もの凄い美男子ですから、道行く人が振り返るのは勿論なんですが、中には抱きついたり、無理やりデートに連行しようとしたり、結婚を迫ったりする女の方もおりましてね〜。ですから、お面を被ってるんですよ。今もゴーグルをさせているのは、混乱を避けるためで……」 「そ、そうなんです」 リーダーSAI−CHOUが頷く。 「い、今ここでゴーグルを脱がせれば、ステージに女性の方が大挙して押し寄せ、正常に大会が運営できなくなってしまいます。それでなくてもこのRYO−GEN、声もいいものですから、一度ライブイベントで歌わせたら、失神者が続出してしまいまして、危うく業務上過失傷害で書類送検されるところだったんです」 「だから私は今、キーボードをやっているのだ。本当はボーカルをやって、この美しい私の声を、日本全国の皆様に聞いてもらいたいのに……うくーっくっくっくっく」 どこかのAIレーサーのような泣き声を出し、うな垂れるRYO−GEN。 霧に包まれた会場は、しん、としてしまった。 と、 「いや、角に情けは無用」 貫禄のある声が、RYO−GENの泣き声を止めてしまった。 どこの世界にも鬼はいるものだ。かわいそうなAI野郎に鬼マスター(兼コーチ)がいるように、この美形(らしい)アタッカーにも、鬼の同僚がいるらしい。 それが、今まで黙っていた最後の一人、“海坊主”KUU−KAI(くうかい)であった。 「この色魔には当然の仕打ち」 ボブサ@プなみの体格、よく日に焼けた肌、つるつるの頭、そしてサングラス、という要素により、KUU−KAIの身体からはそれなりの凄みが放射されていた。 こんな男があの“M249 MINIMI MARK2”を片手で乱射するのだから、臆病な人間はそれを見ただけで逃げ出してしまうかもしれない。 そして、その凄い男が、お嬢様方の方を向き、 「……サインは遠慮させてもらおう」 と言った。 「なぜなら、そなたらは、儂(わし)らに取っては倒すべき敵。サインが欲しくば、儂らを涅槃に導いてみるのだな。もっとも、その前に、お嬢さんも涅槃にいるだろうが」 「「「「「!」」」」」 お嬢様方に、緊張が走った。 だが、一人だけ、この状況に動じていない人物がいた。 「……敵とはいえ、お見事な腕前です」 名越みずえは、“海坊主”に向かってガンを飛ばした。 「だが、私には守るべきものがある。細川様のご恩を受けたこの身、戦場で散らすには惜しくもありません。守るべきものがある限り、負けはしません!」 すっかり元ネタになりきったみずえは、背中の大太刀を抜き放ち、 「死にたくなければ、逃げてください!」 決め台詞を言い放った。 「「「お〜」」」 ギャラリーから、感嘆の声と拍手が送られる。 その拍手の音は、先ほど『BOUZ』がポーズを決めたときより大きかった。 「では、いきましょう」 未だに乱丸モードのみずえさんがくるりと踵を返すのにつられて、『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』の皆様方も、ステージを後にした。 なお、この様子をステージの袖でご覧になっていた花の宮様が「アン、お前やっぱあたしが見込んだだけあるよ!」と、退場してきたみずえの肩をバシバシ連打され、「あれはなんですの?」というお姉さま方の質問に、「あ、あれはその、このキャラになりきったのでゴザイマスデス、はい」と、みずえさんがしどろもどろで回答するという一幕もあったのだが、それは置いておこう。
「よし、顔合わせが終わったぞ」 「では、始めるか」 ギャラリーの一角を占めていた、坊主頭に袈裟の男たちが、合図と共に、般若心経……正式には、般若波羅蜜多心経を唱え始めたのである。 その数、約60名。 実は、この男たち、『BOUZ』の面々が通う私立多摩度胸学院の生徒。 在校生たちが戦うと知り、多摩の山奥から駆けつけてきたのである。 ちなみに、彼らは、予選ブロックの1回戦で、観客席で護摩を焚こうとして、大会本部に止められた、というとんでもない前科があり、その熱の入りようは、ガブリエルの応援団にも負けなかった。 「観自在菩薩、行深般若波羅蜜多事……」 読経の声もよく通るので、ギャラリーを圧してしまっている。 「はははは。切支丹伴天連どもに負けるわけにはいかんのだ!」 ……時代が激しくずれている気がするが、ともかく、その熱気は凄まじい。 それを見た聖ガブリエルの応援団は、焦った。 「まずいことになりましたわ!」 「敵の応援、あれほどのものとは!」 「わたくしたちも、負けるわけには参りません!」 そして、オスカル様のいつもの呼びかけに、 「「「「大天使ガブリエル様の名の下に!」」」」 「「「「「百合の花の下に!」」」」 通常より気合を入れて答えると、
二階堂瞳の手により、2部合唱が4部合唱になったため、メロディーの華麗さが更にアップしている。 この短時間の間に、よく4部合唱をマスターしたと思うが、そこはお嬢様、何とかなるのである!(え?) ともかく、パートも倍、声量もほぼ倍になってしまい、エンドレス状態の応援歌と、 「観自在菩薩、行深般若波羅蜜多事……」 終わりまで行ってもまた最初に戻り、延々と続く読経の声に、 「うるせ〜」 「耳が〜」 「頭が〜」 観客席のほぼ半分を占める一般人たちは、『BOUZ』のフルフェイスゴーグルに装着された小型カメラからの映像を、オーロラビジョンで楽しむゆとりもなく、耳を塞いでいた。
「ふっふっふ。俺の読みが正しければ、この辺で戦闘が繰り広げられるだろゲリラリラ〜♪ その激闘に紛れ込み、魔王クラーマ様の忠実な下僕を一気に増やすのだゲリラリラ〜♪」 と、 「フリーズあそばせ」 武蔵野ゲリラ怪人の背後から、声がした。 「なななっ?!」 武蔵野ゲリラ怪人がちらっと振り返ると、そこには、『戦国武装』の“踊り子”コスに身を包んだ、美しいお嬢様が、ウージーSMGを構えて立っていらっしゃった。 「そんな馬鹿な! 俺様のアンブッシュは完璧なはず!」 ……実は、フィールドを前進中、たまたま後ろを振り返ったとき、美華さまは、ゲリラ怪人の後姿を見つけたのである。 その後姿は、赤い袴に単。 まさに自分が着ている衣装そのものあった。 「あれは……あたくし?」 (こんな方、いらっしゃったかしら?) 不審に思った美華さま、とりあえずフリーズコールをしてみることにして、怪人のバックを取り、 「おとなしく、負けをお認めくださいませ」 と最後通告をお出しになった。 これで、敵がセーフティーゾーンに去ってくれるだろう。 そう思った矢先である。 「ふっふっふ。甘い、甘い、甘いでゲリラリラ〜♪」 突然、振り返った武蔵野ゲリラ怪人は、違法改造電動ガンを、美華さまに向けて構えたのである! 「そこな娘! そんな可愛い姿で凄んでも通用しないのだゲリラリラ〜♪」 薄汚れた着物、野太い声、毛深い脛の見える袴、そして白粉を無意味に塗りたくった顔…… 余りの醜悪さに、美華お姉さまは、甚大なショックをお受けになった。 だが、それを全く無視して、違法改造電動ガンを手にした『武蔵野ゲリラ怪人』は、ニヤリと笑った。 「俺様の読みはすばらしかった。さあ、そこな娘! 洗脳BB弾をくらうのだゲリラリラ〜♪ 覚悟しろゲリラリラ〜♪」 「そ、そんな……」 美華お姉さまは、余りの敵の理不尽さと醜悪さに、感情が一気に昂ぶった。 「ふっふっふ、さあ撃ってやるぞゲリラリラ〜♪」 武蔵野ゲリラ怪人の指が、トリガーにかかろうとした、そのとき。
会場に、大きな笑い声が響き渡った。 その余りの声の大きさに、華麗な応援ソングと、よく通る読経が、ぴたっ、と止まった。 「なんだ?」 「何事だ?」 ギャラリーがざわめく間もなく、銃声が響き渡った。 「そ、そんな、この俺様の身体があ……?!」 銃弾の直撃を食らった、武蔵野ゲリラ怪人の身体が、塵と化し、風に吹かれて消えて行く。
『BOUZ』側のアタッカー・海坊主は、“M249 MINIMI MARK2”を抱え、丘を登っていた。 千恵子さんが背負うと、非常に大きく見える化け物電動ガンが、この巨漢が持つと、ただの銃に見えてしまうから不思議である。 しかも、『BOUZ』が結成される前、海坊主は防衛大学校進学を目指しており、サバイバルゲームも中学生の時から嗜んでいた。 そのため、銃の持ち方や、進軍の仕方など、まるで本職のようだった。 今、重要な戦略拠点を奪取するため、海坊主は丘を、敵に見つからないように、素早く、そして慎重に登っていた。 万が一見つかったとしても、このMINIMIの圧倒的火力が敵を一掃し―― 「をーっほほほほほほほほほ!」 「ばばばばばばばば」 突然、笑い声と共に、銃弾の雨を浴びせられ、海坊主は自分がヒットされたのを理解するのに2秒かかった。 「ヒット。任務失敗……」 無表情のまま、両手を挙げ、フィールドを去っていく。 「をーっほほほほほほほほほほ!」 まるで悪魔のような笑い声を聞きながら、 (今、どこから撃った?!) 敵の姿も確認できなかった海坊主は、しきりに首を捻った。
同僚のヒットコールを聞き、谷から進軍していたハンドガンナーの“角坊主”は愕然とした。 海坊主は、攻撃の要である。 それがやられたとなると、こちらの分が悪い。 (くっ、ここは退却するしかないか! あの美しいお嬢さんをヒットして、共に極楽世界に遊ぼうと思っていたのだが……やむを得ない) 角坊主がそう心を決めた瞬間、 「をーっほほほほほほほほほほ!」 「ばばばばばば」 突如、笑い声と共に、銃弾が上から降ってきた。 「こ、この美しい私がヒット? そんな馬鹿な……しかも、今、どこから?」 愕然としつつ、角坊主はフィールドを去って行った。 敵の姿を見なかったのが、角坊主にとって、せめてもの救いであった。
「ふー。やっとついたよ。やっぱり見晴らしがいいねえ」 崖の上で呟いたのは、琵琶坊主、ことSEMIーMARUだった。 ……いつのまにか、衣装がムササビの着ぐるみに変わっている。 実はこの謎行動を取ることで有名な琵琶坊主、今回も謎の行動を取ろうとしていた。 「この崖の上から飛び降りて奇襲したら、敵は絶対降伏するよ」 と、その謎論理の詰まった脳が弾き出したのである。 もちろん、この高さ10mの崖に登るなんて、誰も考えない。 エアガンを持って登るのが大変だし、登った後も、降りるのが大変である。 崖経由で攻撃をかけると、時間がかかってしょうがないのである。 だが、それらの常識も乗り越え、琵琶坊主はここまでやってきた。 ここから奇襲を掛けることができれば、確かに敵も慌てるかもしれない。 ムササビの着ぐるみを着た琵琶坊主は、崖の上で姿勢を正すと、 「へーんしーん!」 なぜか両腕を回し、 「仮面サンダー・モモンガーっ!」 びしっ、とポーズを決めた。 だが、いまだ霧が晴れないため、せっかくの見せ場は観客席からはよく見えなかった。 見えたとしても、注目する人はいなかったであろう。 なぜなら、先ほどからの異様な笑い声で、観客席は動揺していたからである。 「あの笑い声、誰?」 「女には違いないが」 「霧でよく見えませんわ」 「画面にも映らないし」 先ほどから、オーロラビジョンは海坊主と角坊主視点の映像が映り、二人の撃墜の瞬間はばっちり映っていた。 だが、そのどちらにも、撃墜した人間――笑い声の主――は映っていなかったのだ。 あの笑い声は誰が発しているのか。 会場中がその疑問にとらわれ、ざわめいていた。 と、画面が、琵琶坊主視点の映像に切り変わった。 「ふっふっふ。こっから飛び降りてやろうじゃないか。くらいな、あたしのサンダーモモンガー流急降下爆撃・“イチノタニ”!」 そう叫んで、琵琶坊主は崖の上から飛び降りようとして―― 「をーっほほほほほほほほほほ!」 突然、画面一杯に何かの柄が映った。 「ばばばばばばば」 「ひ、ヒット! あーあ、当たっちゃった」 自称・仮面サンダーモモンガーこと琵琶坊主は、あっけなく撃墜された。 撃墜した人間の顔は、やはりオーロラビジョンには映らなかった。 だが、一部の観客、特に、聖ガブリエルのお嬢様方を熱心に見ていたお兄さんたちは、ある可能性に気が付き、それを否定しようと必死になっていた。 「まさか……あの着物の色は……」 「セーラーだろ? セーラーだよな?」 「いや、ハイカラさんだ、ハイカラさんだ!」 多分、今口にしている予測は、間違っているだろう。 だが、正しい予測を口にしてしまったら最後、それが紛れもない現実になってしまいそうだった。 「頼む、誰かハイカラだって断言してくれ!」 お兄さんたちの悲痛な叫びが、ギャラリーから漏れた。
「んふーふ♪ はよ来てくれはらへんかなー」 何と、茶坊主“RI−KYUU”が、フィールドで、野立の準備を始めたのである。 「わての茶道を理解してくれはる人と、準決勝でも巡り会うとはなぁ。わては幸せもんや」 鼻唄混じりの台詞を吐きながら、筵(むしろ)を地面に敷き、ナップザックからお茶の道具を取り出す。 フィールドでは火を起こす道具が使えないので、予め沸かしておいたお湯を、魔法瓶から茶釜に注ぐ。 「ああっ、早く来てくれへんかなー、あの唐傘回したお嬢さん……」 顔合わせで美華お嬢様の美しいお姿を一目見た途端、茶坊主の身体を電流が駆け抜けた。 (な、なんて美しい、知性溢れる姿なんや……) たちまちにして、彼は美華お嬢様の美貌に魅せられ、彼女の中に潜む芸術的な感性の高さも見抜いたのである。 それを知った彼は、俄然ハッスルした。 茶坊主は普段はのんびりとしているが、芸術のこと、特に、茶道のことになると、人一倍うるさくなるのである。 自分と芸術について語れそうな美華お嬢様の出現が、その芸術魂に火を付けたのであった。 「ああっ、お嬢さん……」 野立のセッティングを終えた茶坊主は、筵の上で正座し、客の到来を待ち構えていた。 あと少しすれば、あの美しいお嬢様と、芸術を語り合いながらの素晴らしい茶席が実現し―― 「をーっほほほほほほほほほほ!」 突如、悪魔のような笑い声が響きわたり、茶坊主は想像の世界から現実に引き戻された。 顔面に、大量のBB弾が浴びせられる。 だが、彼は見た。 自分が待ちに待っていた美しい人が、高笑いしながら、自分がセッティングした茶席を、めちゃくちゃにしながら通りすぎて行ったのを。 「ヒット……」 呆けたように呟いた茶坊主は、以後一ヶ月、ショックから回復することができなかったそうである。
「くっ、これで二人だけになってしまった。一体何がどうなっているんだ」 坊主が舌打ちする。 「そーだねー」 小坊主はのんきに言った。 「IっーKYUU、お前は作戦参謀だろう。何か策はないのか」 坊主の苛立った台詞を受け、 「うーん…」 小坊主は目を閉じて考え始めた。 ぽくぽくぽく、と木魚の音が聞こえるのは、きっと君の気のせいである。 それはともかく、小坊主はすぐひらめいたらしく、まだ何も書かれていない立て札を荷物の中から取り出し、筆で何かを書き付けた。 それを、すぐそばの遊歩道まで引きずっていき、道の真ん中に立て札をぶすりと刺す。 「ただいまーさいちょーさん、これでもうだいじょーぶだよー」 明るく笑った作戦参謀。 「……何をしたんだ」 「あのねー、『このみち通るべからず』って札を立ててきたんだー」 「そうか、なるほどな……」 (って、道じゃないところから敵が突破してきたらどーするんだ) 内心突っ込んだが、坊主はそれを口にはしなかった。 否定すると、小坊主が「うえーん、母上様……」と泣くことを恐れたのである。 リーダーにふさわしい、心配りであった。 「わーい、これでぼくたちは安全だぞー」 小坊主が喜びの声を上げた、その時。 「をーっほほほほほほほほほほほほほほ!」 今までよりも一番近い所で、あの笑い声が響き、小坊主と坊主はぎょっとした。 「きた、きたよ〜」 おろおろする小坊主を、 「ばか、早くバリケードに隠れるんだ!」 坊主は慌ててバリケードの陰に引きずり込んだ。 これで、何とか迎撃体制が整った。 「よし、銃撃するぞ」 坊主がトリガーに指を掛けた、その時。 「をーっほほほほほほほほほほほほほほほ!」 真後ろであの笑い声がした。 「え」 「なに」 慌てて振り返った坊主と小坊主の頭上に、 「ばばばばば」 という銃声とともに、BB弾と美華お嬢様が降ってきた。 「わーん、ヒット」 「ヒット……」 これで敵二人、あっさり撃墜され、終了を告げるホイッスルが響き渡った。 その音で、地面に華麗に着地した天使のみかちゃんは我に返り、 「まぁ……わたくしは一体何を?」 おっとりと呟かれたのであった。
だが、ギャラリーは騒然としていた。 あのおしとやかで、優美で、美人のキング・オブ・お嬢様が、高笑いしながら、有り得ない身体能力を発揮して、敵6人を全て屠ってしまったのである。 聖ガブリエルの応援団も、そして9分9厘まで、美華ちゃんファンになっていた男性陣も、この事態に、大きな衝撃を受けていた。 また、『BOUZ』の応援団も、この事態に困惑し、もはや経を読めない。 と、 「天使様どす」 不意に、聖ガブリエルの応援団から、すっくと立ち上がった人影があった。 何とそれは、前年度の生徒会長、おっとりはんなり色白美人の雪の宮さま、こと片桐芳乃であった。 最高権威の突然の登場に、聖ガブリエルの生徒は声も出ない。 不気味な静寂の中、雪の宮さまはおっとりと、こうおっしゃった。 「美華はんに、天使が降臨されたんどす。せやなかったら、あないな大活躍、できしません」 すると、 「まぁ……」 「その通りですわ!」 「天使様です!」 聖ガブリエルのお嬢様がたは感極まり、中には十字を切って感謝の祈りを捧げるものも現れた。 また、ショックに打ちひしがれていた男性陣も、 「そ、そうだ」 「あれは、俺たちの美華ちゅわーんではない」 「毘沙門天だ、いや、不動明王か?」 「アテナ降臨だ、それしかない!」 突然降って湧いた「美華ちゅわーんに何かが乗り移った説」に、争って食い付いた。 そして、 「おお……毘沙門天が……」 「み仏のご意思であれば、我等は従うより他ない……」 『BOUZ』の応援団も、何か重大な勘違いをしつつも、この事態を受け入れたのであった。
そして、美華ちゅわーん……もとい、美華お嬢様は、伝説となった……。
「いよいよ決勝戦に駒を進めたお嬢様方。 |