まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第九話
| ◇踊ろうアミーゴ! 決勝編◇ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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会場傍の駐車場に、一台の黒い車が滑り込んだ。 車種はスズキの“アルトワークス”。 今でも根強いファンの多い、軽自動車である。 そして、 「ふーっ、着いたぜ」 アルトワークスの運転席から出てきたのは、嵐を呼ぶレーサー……ではなく、自称・典型的な大学2年生の金沢義晴兄さんであった。 実は、この車、義晴兄さんがネットオークションで15万円で競り落としたもの。 「運転したいけど、じいさまの車運転してぶっ壊したら、ヤバイからなあ」 という訳で、自動車学校の授業料と車の代金を、自分が塾講師や家庭教師をして稼いだバイト代から捻出したのだった。 バイトと自動車学校に時間を取られ、危うく大学の出席が足りなくなりそうだったということは、義晴兄さんと作者と読者だけの秘密である。 それは兎も角として、義晴兄さんは、今日はじいさまとは別行動を取り、アルトワークスにお嬢様方の銃のカスタム用品を詰め込んでやってきたのであった。 決勝ブロックの会場へも、これで移動した。 本当は、オスカルこと斯波真理亜嬢に、「ヘリコプターに乗っていかないか」と言われたのだが、車を放置しておけないし、それに、色々思うところあって、それは謹んで辞退した。 新聞部部長の細川直子嬢がうるさそうだったし、 (ヘリコプターで移動なんて、そんなセレブなこと、俺には似合わないよな) という思いもある。 一応、金沢家は、江戸時代は、代々勝本の殿様に仕えた家老職、という家柄ではある。 しかし、伊達や毛利といった有名どころなら兎も角、勝本家は1万2000石という小さな大名家だったから、その小大名家の家老職といったって、高が知れている。 実際、金沢家は、今では、つつましく、ごく普通の生活を送っている。 それに引き換え、斯波真理亜嬢は、大会社の会長のご令嬢である。 はっきり言って、自分には不釣合いな相手である。 (ちくしょう、父ちゃんが日本にいたら、少しは相談に乗ってもらえただろうに……) 1年前の春にアメリカの研究所に招かれ、母と共にアメリカに移り住んだ生物研究者の父・義友(よしとも)のことを、兄さんは思い浮かべたが、すぐに頭をぶるぶると振った。 「ま、しゃーないわな」 自嘲とも取れるような響きを持った台詞を呟くと、義晴兄さんは、ここに来る途中にあったスーパーで調達したサンドイッチと「けんチャンの健康牛乳」の紙パックを手に、観客席に向かっていった。 彼が、携帯電話に入っていた着信に気がつくのは、しばらくしてからのことである。
「あ、そうや」 後ろにいたみずえさんと千歳さんに声を掛けた。 「うちらの衣装、予選のときと変えるんやて」 「え、何でだよ?!」 みずえさんは眼を丸くした。 千歳はというと、無反応である。 「何でって……雪の宮さまと花の宮さまが三壷様にそう申し入れたらしい。せやから逆らえん」 「雪の宮と、花の宮が……」 雪の宮と花の宮は、昨年度の三壷様の一人で、現在は「月の宮」と呼ばれる人物と共に、「三宮様」と呼ばれている。 雪の宮の本名は、片桐芳乃(かたぎり・よしの)。 花の宮の本名は、犬飼亜紀(いぬかい・あき)。 現在は実権こそ無いものの、三壷様の先輩なので、三壷様も三宮様には、頭が上がらないのだ。 そんな先輩の命令であれば、1年ズは到底逆らえない。 「格ゲー系のコスかなあ……」 みずえさんは、昨年の晩夏の嫌な出来事を思い出し、暗澹とした気分になった。 「うち、め@か師匠の真似でもさせられるんやろか……」 千恵子さんも、昨年の晩夏の嫌な出(以下略) 「……つまり、神田屋に寄る必要はないということだな」 冷静にこう言えたのは、千歳さんだけだった。 「そ、そういうことやな。このまま直接、会場に行ったらええ」 「んじゃ、とりあえず行こうぜ。控えテント行くのは、第3試合のときでいいだろ? それまで、試合見てようぜ」 「そやな」 「行こう」 1年ズは、直接会場に向かった。 もし、彼女たちが神田屋に寄っていたら、意外な展開になっていたのだが、それはひとまず置いておこう。
聖ガブリエルの生徒は、観客席の半分ほどを占めているようだ。 この状態に、Dブロックを見ていなかったお兄さんたちは、その多さに圧倒されているようである。 そして、恐らくは敵のチームも…… (ふっ、まずは先手を取れたな) 千恵子さんは、メモ帳を取り出すと、第1試合『剣道部!』対『鬼兵(きへい)』を見始めた。 試合は中盤に入り、双方互角の戦いを展開している……ように見えた。 だが、個人個人の戦闘力では、『剣道部!』の方が上であった。 という訳で、『剣道部!』は、局地局地で個人戦に持ち込み、『鬼兵』のメンバーを一人ずつ、確実に撃墜していった。 だが、『鬼兵』のリーダー・長谷(はせ)くんが、最後に見せてくれた。 3方から迫った敵に対し、長谷君はまず、懐からハンドガンを抜き出しながら、まず左手にいる山賊まがいの格好をした敵に、続いて正面のサムライコスの敵に向かって、流れるような動作で連続発砲した。 これが見事に命中し、『剣道部!』は、一気に二人を失った。 その間、1秒もない。 「ちぇっ、もうおしまいかよ」 「無念」 『剣道部!』側も信じられないらしく、呆然とした表情で戦場を去っていく。 すさまじい居合い、いや、早撃ちの技である。 続いて長谷君は右手の洋装の敵(さっきの蕎麦屋の吉方氏)に発砲するが、これはかわされる。 だが、吉方氏が一発撃った弾を軽々とかわし、長谷君は一気に吉方との距離を詰める。 「うぬは、捕らえる必要もない。この俺が、あの世に送ってくれるわ!」 吉方は、長谷くんの迫力に負け、その場から一歩も動けない。 長谷君、フリーズコールかと思われたその時、 「吉方さん!」 後方から駆けてきた、子供っぽい侍が、長谷君に向かってエアガンを乱射した。 この奇襲の前に、長谷君はひとたまりもなく、 「ヒット……」 両手を挙げたのであった。 「長谷さんの負け」 ゴーグルの下で、にっこり笑う奥田。 だが、笑えない人が、ギャラリーに一人いた。 (『剣道部!』……やっぱ恐ろしい。あの個人戦への持ち込み方、まるであらかじめ敵の配置を知っていたかのような……ちゅーことは、スパイがいるっちゅーことか? まさか、そこらへんにも……) 千恵子さんは、思わずその辺りをきょろきょろ見回したが、スパイを見つけることは、もちろんできなかった。 (……こりゃ、今のうちらには勝ち目はないな。当たるのが決勝戦で助かったわ。これなら、うまいこと、うちの計画も実行できる)
『PERFECT ASSASINS』は、全員がアンブッシュを得意とし、ハンドガンによる一人一殺がモットー。 『OH! ブギョーズ』は、アタッカーの大丘(おおおか)くんと近山(ちかやま)くんの破壊力で、予選を勝ち抜いてきたチームであるが、残りのメンバーが金にあくどく、相手チームから金をもらい、予選ブロックでは後ろから自チームのアタッカーを攻撃した、という噂も流れていた。 試合開始後、『PERFECT ASSASINS』側は、真っ先に敵チームの後衛4人を全員始末した。 その水際立った手口は、まさに必殺、いや、完璧な暗殺者である。 そして、フラッグをゲットしようとした矢先、本陣に駆け戻ってきた大丘くんと近山くんにそれを阻まれたのである。 6対2の戦いであるが、少数の方は確実に強く、『PERFECT ASSASINS』は迂闊に敵を攻撃できない。 戦況は膠着状態に陥った。 と、 「断ると言っているのがわからないんですかーっ!」 突如、絶叫が聞こえた。 「何でえいったい」 思わずフィールドの近山くんが、声のした方を見やる。 その一瞬の隙を見逃さず、 「ぼしゅっ」 『PERFECT ASSASINS』が、近山くんに渾身の一撃を放つ。 「ヒット……」 これで近山君退場である。 一方、 「……?」 「何や今の?」 「でけえ声だな」 1年ズも、声のした方をちらりと見やったが、ギャラリーのお兄さんたちの身体に阻まれて、様子を窺うことができない。 という訳で、3人ともすぐに観戦に戻った。 『OH! ブギョーズ』は、大丘くんだけになってしまったが、6人の暗殺者たちも、彼の放つ気に圧倒され、迂闊に弾を発射できないようだ。 (これじゃサバゲーじゃなくて、剣道の試合だろ) もっと派手な撃ち合いを期待していたみずえさんは、ちょっとつまらなそうである。 そして、均衡が崩れたのは、約5分後。 しびれを切らした『PERFECT ASSASINS』の一人が、雄たけびを上げながら大丘君に突っかかっていったのである。 大丘くん、慌てず騒がず、そいつに向かって発砲し、撃墜する。 その流れ弾が、『PERFECT ASSASINS』のもう一人に当たり、これで二人目の撃墜である。 だが、そこから『PERFECT ASSASINS』の残り4人が一斉射撃を加えたため、大丘くんも抵抗むなしく撃墜された。 「悪いな、あんたら二人には恨みはないんだが」 『PERFECT ASSASINS』の元締、じゃなかった、リーダーが、大丘くんに声を掛けると、大丘君は「これも合戦の運命(さだめ)」と、微笑を返して去って行った。 ……という訳で、『PERFECT ASSASINS』勝利。 準決勝では、『剣道部!』と当たることになる。
「ほな、控えテントにいこか。衣装のこともあるし、作戦も説明せんとあかん」 「だな」 「んじゃ、行きますか〜」 第2試合の勝敗を見届けて、1年ズは席を立った。 と、千歳が、出口と反対側の方に身体を向け、微動だにしない。 「どないしたん、千歳、出口はこっちやで?」 千恵子が友人の肩を揺する。 だが、千歳は動かない。 「あんた、何見てんの? 早うせんと、三壷さまに怒られるで」 千恵子は千歳が何を見ているのか気になって、ちょっと視線を向けてみたが、人が見えるだけでよくわからない。 だが、千恵子の呼びかけに、千歳もようやく 「あ、ああ」 と返事して、出口へと動き始めた。 「あんた、何してたん?」 千恵子の質問に返ってきた答えは、 「……殺気を覚えた」 とんでもないものだった。 「はあ?」 「殺気? 誰が?」 千恵子とみずえが不審の目を向けると、 「……誰かはわからない。だが、確かに感じた」 千歳は断言した。 「かなんなあ。予選会場で襲ってきた奴らやろか?」 「もうあんなのはごめんだぜ」 「だな」 千恵子、みずえ、千歳の順に発言して、千恵子はふう、とため息をついた。 「まあ、今度襲ってきたら、また返り討ちにするまでや」 ……物騒な発言である。
図の左に本陣をおいて考えると、右翼には丘、左翼には高台がある。 ところがこの高台、どの方角も高さ10mほどの切り立った崖になっていて、登るのは現実的には不可能。 つまり、進撃路は、中央の谷になった部分と、右翼の丘しかないのである。 このことをよく覚えておいて欲しい。 さて、今回の敵は、中央突破が得意のようである。 という訳で、千恵子さんはこんな作戦を説明し始めた。 「今回、敵は予選を全て中央突破で勝ちあがってきております。ですから、我が方はその裏をかき、こちらの丘から突撃いたします」 だが、千恵子さんの手にした“たくてぃくす君”には、全く別の文字が躍り始めていた。 (この会話は敵方に聞かれている可能性が大。こちらに書くのが真の作戦) 「こちらから……でございますか? 人数はいかほど?」 千歳さんが尋ねると、 「千歳さま以外、全員でございますわ」 と、千恵子さんは“たくてぃくす君”に何かを書きながら回答した。 (適当に、敵に聞かせるように、丘からの突撃策の話を続けて下さいませ) 「千歳さん以外、全員でございますか?」 直子お姉さまが驚いたように目を見開く。 「ええ」 「全員で、突撃でございますのね。承知いたしましたわ、おじょうちゃま」 「ワタクシも、承知いたしましたわ」 「私も、承知しました」 などと、メンバー達が話している間に、 (私、大将さま、千歳様は中央のこの位置で敵を迎え撃ちます) 次の指示が“たくてぃくす君”に書かれる。 「しかし、千歳さんだけでは、本陣の守備が手薄ではないかね? 先ほど……義晴さんに、銃をカスタマイズしてもらっていたように思うが、装填弾数のアップはしてもらったのかね?」 「はい。確か、200ほど上がったかと存じます」 「しかし、それだけの弾数でいいものだろうか?」 ここで、次の指示である。 (直子様とみずえさまはこの丘を開始後速やかに奪取し、中央での迎撃と呼応して、中央に溜まった敵を討ち取ってください) 千歳は頷くと、 「予備のマガジンもございますから、大丈夫ではないかと存じますが……」 「果たして、そうだろうか?」 「ワタクシも、そう思いますわ」 (もし、丘から敵が進軍してくるようなことがあれば、そちらから討ち取って下さいませ) 「……千歳様の銃の火力で、充分でございます」 「おじょうちゃま?」 「よろしいの、おじょうちゃま?」 「ええ」 (その場合は中央との連携は考えずとも結構。派手に戦ってくださいませ。みずえさまは、顔合わせの後に、メインウェポンを大将さまと交換なさってください) 「……そうか、なるほど、今回は、この丘を早くに奪取することが、作戦成功の鍵となる。もし、丘に敵がいたとしても、強大な火力を用いるならば、その敵も排除できる……という訳かね?」 「その通りでございますわ」 (姫さまは戦況を見て敵を挟撃できるように機動してくださいませ)
「……予選ブロックで、敵の中央突破の速度は、非常に慎重で、緩やかなものだったらしい、という噂を聞いております。ですから、わたくしたちが、このサイドから攻め上がって行っても、悠々フラッグを奪取できます。ですから、千歳様が本陣にいなくても別によろしいのでございますが、念のために本陣に残しておくのでございます。さあ皆様、慎重に進んで、勝利を収めましょう!」 千恵子さんはにっこり笑ってこう言った。 「「「「「かしこまりました」」」」」 メンバーたちは一斉に頷いた。 と、 「ねえ、話はお済みになった?」 不意に、7人目の声がして、メンバーたちは振り返った。 「衣装合わせをしてもらいたいんですけど」 「申し訳ございません、花の宮様」 オスカル様が頭を下げたのは、前年度の梨壷さま、現在の花の宮こと犬養亜紀さまであった。 「まあまあ、亜紀はん、そないに慌てなくてもよろしおすやろ?」 はんなりゆったりの京ことばでこうおっしゃったのは、前年度の梅壷様、現在の雪の宮こと片桐芳乃。 「何言ってんだ。もう時間がないよ。ねえ、おじょうちゃん、もう作戦の説明は終わったんだろ?」 「は、はい」 直立不動の姿勢で答える千恵子。 三宮様は、1年生にとっては、雲の上の人なのである。 「おっけー! じゃあ、皆様こちらにおいであそばせ」 「亜紀はんが選んでくださった衣装どす。サイズも多分あうと思いますけど……」 雪の宮様の台詞に、 (ゲーマー様のチョイスか……) (うち、何になるんやろ?) (……不安だ) 1年ズは暗澹としたが、お姉さまたちの御意向に従うほかなかった。
東京都大会、決勝ブロック第4試合。 司会者の声と@リ見てのOPとともに、最初に現れたのは、金沢千歳嬢だった。 ……なんと、今回は、新撰組のコスプレではなく、『戦国武装』の武智明秀(たけち・あきひで)のコスプレである。 すっきりしたデザインの青紫色の上着に、西洋甲胄をモチーフにしたと思われる白銀の脛当(すねあて)、そして手にしているのは立派な作りの太刀…… ストレートにした髪型と、凛々しい千歳の雰囲気で、結構似合っていた。 「千歳お姉さまー!」 応援団、特に、中等部のお嬢様方の声援が熱い。 次に登場は、名越みずえ。 同じく『戦国武装』の林乱丸(はやし・らんまる)コスである。 中性的な魅力を放っているこのキャラのコスは、いつも元気で活発なみずえさんに、確かにピッタリだった。 紫の着物に同系色の短袴というスタイルだが、短袴は明らかに短い丈で、そこからすらりと伸びる健康的な脚線美は、ギャラリーの視線を惹きつけるには十分だった。 「おい、あのハイカラ、プロポーションも結構いいぞ」 Dブロックからのおっかけ客も、新たな魅力にノックアウト寸前であった。 更に、みずえさんはステージ中央までやってくると、背に負った大太刀(竹光)を抜き、 「勝機ですね、行きます!」 と、決め台詞を放ったので、 「みずえさまー!」 ギャラリーのお嬢様方も、訳がわからないながらも、盛んに拍手を送った。 次に現れたのは、『戦国武装』“お姫さま”のコスプレをした、千恵子さんだった。 ピンクを基調にしたとにかくぷりちいな衣装、そして、白い太ももが露わになりそうなミニスカ風の着物に、 「おおっ?!」 「や、ヤバい」 お兄さん達の視線が釘付けになった。 もともと、お姫さまは、活発で可愛い美少女キャラ。 そのコスプレは、妹属性を持つ千恵子さんによく似合っていた。 「ラブリー、千恵子ちゃん!」 「けん玉回してくれ!」 「萌え〜!」 ギャラリーは、歓声の渦に包まれたのであった。 続いての入場は、新聞部の直子さん。 やはり、衣装は代わり、同じく『戦国武装』の女忍者“陽炎(かげろう)”のコス。 くの一だから新聞部にふさわしい、ということで選ばれた衣装だが、この衣装を見た瞬間、聖ガブリエルのギャラリーは一瞬どよめいた。 なぜなら、ステージに現れた直子お姉さまの衣装は、肩は思いっきり露出、しかも結構大胆なへそ出しルックと、お嬢様校の生徒が着る衣装としては、かなりの大冒険な衣装であったからである。 だが、そこはお嬢様らしい、自然とにじみ出る気品でカバーしたので、お嬢様方も、 「お綺麗ですわー!」 口々に声援を送った。 もちろん、日ごろの取材で運動量が多いからか、直子様の身体は無駄な肉がついておらず、ボディラインが綺麗だったので、 「おい、あの子、超いいぞ!」 「すっげー、顔も身体も最高じゃねーかー」 男性客の興奮は、早くも最高潮に達しかけていた。 次に、『戦国武装』の“踊り子”コスに身を包んだ美華お姉さまが入場。 こちらは今までとは打って変わって、肌の露出は少ない衣装だが、巫女服のような赤い袴、そして、平安時代の昔から伝わる、重ねの色目を意識した優美な単(ひとえ)。 そして艶やかな栗色の髪には、花のかんざしが挿され、美華お姉さまの美しさを更に引き立てていた。 桜色で文様の描かれた、純白の唐傘を広げ、肩の上でくるくる回すその姿は、「優美」という熟語をそのまま体現しており、 「げっ、元ネタよりこっちの方がいい……」 「踊り子たん……」 お兄さん達も息を飲む。 そんなギャラリーににっこり微笑まれる美華様。 これで、ギャラリーの男性陣は、魂を飛ばされてしまった。 もはや一言も声が出ず、美華お姉様をうっとり見つめるのみである。 恐るべし、キング・オブ・お嬢様。 だが、お兄さん達を更に驚かせたのは、オスカルこと、斯波真理亜さんの新コスだった。 何と、彼女は『戦国武装 闘将伝』の“麦姫(むぎひめ)”のコスで登場したのである。 身体を包む鋼の鎧、身体の線にぴったりとした陣羽織、そして頭には王冠のようなデザインの、美しい兜。 輝く石で華麗に飾られた弓を持ち、遠く虚空を見つめるその姿は、凛々しく、そして、神々しいまでのオーラを放っていた。 「オ、オスカルさま……」 「何と神々しい……」 お嬢様がたの大応援団も、そう言ったきり、言葉もない。 「ヤバい……」 「おれ、射抜かれそう……」 お兄さん達も、麦姫さまの威風に衝撃を食らった。 「やべえよ、このメンツ。千人どころか、1万人位軽く斬っちゃうんじゃ……」 あまりのコスの完成度に、こう呟く人間もいた程である。 とにかく、お嬢様方の入場パフォーマンスは大成功だった。 恐らく真面目なサバゲーマーなら、「この衣装、サバゲーの衣装としてはかなり危ない!」と、みずえ、千恵子、直子の三人にツッコミを入れるだろうが、そのツッコミすら封殺してしまうほどの熱気が、ギャラリー、特に、危ないお兄さんたちの間に渦巻き、聖ガブリエルのファンが増えたことは確実である。 「うまくいったな」 ステージの袖で、衣装を提供した凄腕ゲーマー……じゃなかった、花の宮さまは、1人ほくそえんでいたのであった。
「タイガーゲートより、Fブロック代表『恵(めぐみ)』入場!」 司会の声と共に、 ♪ちゃーちゃっ(ずんちゃ ずんちゃ ずんちゃ) ♪ちゃちゃちゃーちゃっ(ずんちゃ ずんちゃ ずんちゃ) ♪ちゃーちゃっ(ずんちゃ ずんちゃ ずんちゃ) ♪ちゃちゃちゃーちゃっ(ずんちゃ ずんちゃ ずんちゃ) 会場に、軽快なメロディーが流れ始める。 (ま、まさかこれは……) みずえの危惧に違わず、タイガーゲートから、お侍さんや腰元さんが踊りながらステージにわらわらと進み出てくる。 誰も彼も、きんきらきんのド派手衣装に身を包み、きんきらきんのボンボンが先端についたきんきらきんの棒を握り締めていた。 その余りのド派手っぷりに、 (こ、これって、今井家プロデュース?) “お姫さま”千恵子も、思わず息を飲む。 新聞部の直子お姉さまは「まあ、面白いですわね」と感想を漏らしつつ、カメラのシャッターを切っている。 その他のお嬢様方は、不思議そうな目で敵の入場行進を眺めている。 その12の視線の交錯する先には、きんきらきん集団の中心に立つ、恰幅の良いお侍がいた。 (うわ、あのサムライ、松健三馬(まつけん・さんば)そっくりだ) ネタ女王・みずえが驚く間もなく、
曲は『イムケンサンバ』……アホ殿様・井村けんチャンの歌う、メガヒットである。 なお、この芸名、井村が苗字で、けんチャンが名前……ということになっているので、お間違えのないように。 ……ってな無駄知識はともかくとして、早くも観客席では手拍子が始まり、中には踊りだす人もいた。
みずえは突っ込んでいたが、『慌てん坊将軍』で、徳川吉宗を演じている松健三馬似の侍が、陽気な笑顔を振りまきながら踊る、というシチュエーションが新鮮で、 (これはこれで面白いな〜) 新境地を開拓した気分になり、身体はサンバのリズムに乗って動いていた。 ただし、彼女はダンスは苦手なので、踊っているものは『イムケンサンバ』ではなく、まるで盆踊りのようになっていた。
勿論、振りつきである。 で、これに乗らなかった残りの半分は、というと、聖ガブリエルのお嬢様方である。 お嬢様たるもの、人前で変な踊ったり、下品なギャグを言ったりするようなことはないのだ。 ただ、この魔力的なサンバのリズムには勝てないらしく、手拍子をしている者は多かった。 ステージの上にいるお嬢様方は、というと、みずえ以外、ノリが悪かった。 千恵子は、猫かぶりの猫を剥がすまい、と必死になって、踊りだそうとする自分を抑え、直立不動の姿勢を保ちつつ、 (うわ、サヴちゃん似の男がおる。それとは別にフケ顔した男と、真面目そうな男……なるほど、中身は『慌てん坊将軍』やな) 敵軍の観察をしていた。 で、その他のお嬢様方は、『イムケンサンバ』をご存じなかったので、 「「………」」 千歳とオスカルはステージで繰り広げられている踊りを黙って見つめており、 「まあ、こんな面白い入場、2段記事ぐらいで載せてもよいかもしれませんわ」 直子お姉さまは写真撮影に没頭し、 「まあ……」 美華お姉さまは、一言そうおっしゃったきり、ただただこの踊りを見つめていらっしゃったのであった。 ちなみに、『慌てん坊将軍』とは、松健三馬演じる徳川吉宗が『旗本の三男坊・徳山慎之介(とくやましんのすけ)』に身をやつし、町火消しの頭(かしら)・為五郎(ためごろう)や大岡越前、じい、お庭番などと、江戸の町にはびこる悪を倒していく痛快時代劇で、
1.吉宗が名乗る時に、決まって「徳が……じゃない、徳山慎之介だ」と、本名を名乗りかけてしまう なお、実際の徳川吉宗は、享保の改革を成し遂げ、幕府財政を立て直した功労者の一人であり、このように、お忍びで慌てん坊っぷりを発揮していたという記録を残す資料は現在見つかっていないので、間違っても「徳川吉宗は何将軍と呼ばれたか」というテストの問題に、「慌てん坊将軍」とか「暴れ@坊将軍」とか答えてはいけませんぞ。 ……閑話休題。 さて、敵軍を冷静に観察していた千恵子さんは、あることに気がついた。 敵軍の残り二人のメンバーが見当たらないのである。 (上様がいて、越前がいて、爺がいて、頭がいるっちゅーことは、元ネタの通りやとすると、残り二人は、お庭番……なるほど、ひょっとしたら、あの踊り子たちの中に紛れ込んでるのかもしれんな) 「千歳」 千恵子さんは、背後からこっそり声を掛けた。 「あのバックで踊ってる人らの中に、チームのメンバーっぽい人、おる?」 作戦参謀が小声で尋ねた、その瞬間。 「……」 青年武将の身体から、凄まじいまでの殺気が放出された。 「「「「!」」」」 それまで陽気に踊っていた『恵』の4人が、千歳さんの殺気に反応し、思わず身構える。 バックダンサーたちの中にも、この急激な雰囲気の変化に、踊りをやめてしまうものが出る始末である。 (な、何してんねん!) 千恵子さんは、千歳の目立ちまくる行動に、心の中で突っ込みを入れた。 一般人の千恵子には、今回は殺気は感じられなかったが、千歳のせいで会場が物々しい雰囲気に包まれてしまったのは、彼女にもわかったのである。 と、 「……何のまねだ」 松健三馬似のサムライが、一歩前に進み出て、千歳さんをにらみつけた。 「……戦は真剣勝負だ。バカ騒ぎをしながらするものではない」 千歳さんも殺気を放ちつつ、上様に厳しい視線を送る。 「どっちもどっちだよなあ……」 昼食のサンドイッチをパクつきつつ、観客席に陣取っていた義晴兄さんは突っ込んだ。 だが、そんな外部の事情にはおかまいなしに、 「何だと?!」 上様の表情は、見る見るうちに怒りの色を帯びていった。 もし本当に彼が将軍ならば、「ええい、そこに直れ! 余が切り捨ててくれる!」などと叫びだしそうである。 すると、 「千歳さんの言う通りだ」 横合いから、千歳と上様のにらみ合いに割って入るものがある。 ご存知、聖ガブリエル女学院生徒会長・斯波真理亜さまだ。 「……勝負は真剣になされるべきもの。それはサバイバルゲームとて同じこと。それをバカ騒ぎをしながら戦おうなどとは、サバイバルゲームに対して失礼ではないかね? 諸君も名だたる騎士と自負するならば、戦場における礼儀を弁えたまえ!」 彼女が凛々しく指を上様に突きつけると、 「「「きゃーーーーっ!!!! オスカル様、素敵ー!!!!」」」 「「その通りですわ、オスカル様!」」 ほぼ全員が“オスカルファン”の聖ガブリエルの応援団は、一気にヒートアップした。 その熱気と正比例するかのように、上様の怒りは更に燃え上がり、 「ぬ、ぬぬぬぬ、おのれ、許さん、斬ってくれる!」 エアガンをオスカルに突きつけかけるのを、 「おやめください、上様!」 「越前殿の言う通りじゃ!」 「止しておくんなせえ!」 真面目そうな男、老け顔の男、そしてサヴちゃん似の男が、後ろから羽交い絞めして止めた。 (うわー、開始19分のお約束発動のシーンにそっくりだ。今頃園美、喜んでメモってるだろうなあ) 踊りを止めたみずえは、眼前で繰り広げられるネタを、感心しつつ眺めていた。 「では戦場で会おう、諸君」 オスカル様は会話を一方的に打ち切ると、踵を返して自分たちの本陣の方へと去って行った。 リーダーの行動に、他のメンバーも従わざるを得ず、無言のままステージを後にする。 (なるほどな、敵を怒らせたら、ボロが出んうちにさっさと対決を打ち切る。今回は打ち合せしてなかったけど、とっさに流れをこっちに持っていくなんて、流石やな、大将さん) 作戦参謀は、リーダーの行動に高得点を付けた。 だが、困ったことが一つある。 結局、『恵』の残り二人の顔が分からなかったのである。 それが分からないと、人の頭を闇雲に撃ち、同士討ちという失態を犯しかねない。 (あー、どうしょー) 千恵子さんが困っていると、 「……右から3番目の女と、左から2番目の男だな」 突然、千歳が言った。 「え?」 「……あの二人だけは、私の殺気に気付いていたが、反応せずに平然と踊りを続けていた。相当に出来る奴に違いない」 「さよか……」 千恵子は頷いた。 「ところで……」 千歳は、何事かを作戦参謀の耳にささやいた。
一方、こちらは『恵』の本陣である。 「敵はわれらが中央突破する、その裏をかこうしているのだな」 松健三馬似の上様が、お庭番……すなわち、スパイの男女に向かって、重々しく頷いた。 「はっ、5人が丘から攻め上がる作戦のようでございます」 江戸時代の行商の格好をしたスパイ(男)が、上様に跪いて報告する。 「ということは、われらがその速さよりも早く、中央からフラッグを奪取すればよい。よし、全員中央から突撃だ」 上様が勢いよく宣言したが、 「お待ちください上様!」 爺が慌てん坊の上様を止めた。 「もしわれらの行軍速度より、敵の速度が速かったらどうします!」 「確かに。ここは二手に軍を分けましょう」 大岡越前も爺に賛同した。 「私が丘の方を抑えて、敵の進軍を止めましょう。私一人でも時間を稼げば、悠々中央突破が可能になるでしょう」 と、 「ちょっと待ちねえ」 演歌の大御所・サヴちゃん似の頭が、一人で死地に赴こうとするお奉行さまを止めた。 「あっしも、お奉行さまについて行かせておくんなせえ」 「為五郎どの……」 「この為五郎、武芸はからきしできねえが、お奉行さまの盾ぐらいにはなるでしょう。時間稼ぎのお役に、あっしも立ちとうござんす」 「頭……」 上様も、頭の気持ちに心を打たれている。 と、試合開始のホイッスルが鳴った。 「おっと、試合が始まった」 「……確か、試合が始まったら、報告が入るのであったな?」 「はっ、楓(かえで)が今、敵方に張り付いております」 「よし、では皆のもの、突撃開始だ!」 上様が気合を入れた、その瞬間である。 一発の銃声と共に、 「ヒット……」 遠くから、女性の声が聞こえたのである。
『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』のメンバーは、自分たちの本陣で、試合の開始を静かに待っていた。 ……否、一人だけ、穏やかならぬ人物がいた。 ご存知サムライガール、金沢千歳である。 本陣の近辺に、胡乱な気配を感じた彼女は、気配を読むのに集中し、瞑目していた。 そして、試合開始のホイッスルが鳴った瞬間。 千歳は素早くステアーを構え、気配のする方向に向かって一発の銃弾を放ったのである。 すると、その直後に、 「ヒット……」 江戸時代の町娘風の女が、まさに千歳の銃口の向けられた方角から立ち上がったのである。 自分がヒットされたのが、よほど信じられないらしく、呆然としている。 「ほう……見事なものだ」 オスカル様が凛々しくおっしゃる。 「敵は、あの人だけでございますか?」 千恵子の質問に 「おそらく」 千歳は頷いた。 千恵子はそれを見て、にっこり笑ってこう言った。 「では皆様、手はずどおりに進撃いたしましょう」
そのことに、『恵』の上様は怒っていた。 「お、おのれおのれ、俺の大事なお庭番を……」 なぜか握っていた木の枝が、上様の手の中でぐしゃりと折れる。 「えーい、かくなる上は、余が中央を突破してくれる!」 一声叫ぶと、上様は猛然と、サンバステップを踏みながら、中央へと驀進して行った。 「上様!」 「お待ちください!」 お庭番(男)と爺が、慌てて上様についていく。 なぜかこの二人も、サンバステップを踏んでいた。 この状況に、 「しまった……」 越前は舌打ちした。 一度怒ると、慌てん坊な上様は見境がなくなってしまうのである。 まるで、奉行所の者の手で縄を打たれて自分の前に引き据えられた上様を、呆れたような表情で見やる、開始22分のお奉行さまのように、越前の顔には(またか……)というあきらめの言葉が黒マジックで明記されていた。 「仕方が無い、われわれも上様のあとを追おう」 「合点でい」 大岡越前と頭は慌てて上様の後を追った。 ……サンバステップで。 そして、フィールドには、お庭番の女の子だけが残された…… 「あれ、おかしいな?」 「今、撃墜されたのは、誰だ?」 「人数が合わないよな」 ギャラリーが、ざわめき始める。 今、中央に向かった「恵」のメンバーは5人。 そして、開始直後に撃墜されたのが一人。 だが、まだ「恵」の本陣には、町娘が一人、残っている。 これでは、「恵」側は、7人いることになり、「1チーム6人」という規定から外れていることになる。 「おーい、反則だろこれ!」 お兄さんたちが、野次った直後である。 強い風が、フィールドとギャラリーを襲った。 すると、本陣にいた町娘が、こてん、と倒れた。 「なんだあれ?」 双眼鏡を持っている観客が町娘を観察すると、町娘は仰向けになり、フィールドに倒れていた。 その傍には、日本髪のカツラが転がっている。 そして、その顔は恐怖に歪み、両手を頬に当てて、絶叫しているように…… 「ムンク……」 お兄さんが呟くと、町娘、いや、町娘のダミー人形(ムンク)が、また吹いた風で、ころころころ……と転がったのであった。
先頭は上様、以下、お庭番、爺、大岡越前、頭の順に続く。 なぜ、ほぼ1列なのかというと、谷の幅がやっと二人が通行できるくらいの狭さだったためである。 「ふっ、やはりここにはだれもおらん。このまま本陣まで突っ走るぞ」 サンバステップをせわしなく踏みながら進む先頭の上様の目に、谷の出口付近に佇む、鎧兜に身を包んだ女性が映った。 「やや?」 不審に思う上様。 よく見ると、人影は彼女だけでなく、武智明秀コスの女と、“お姫さま”コスの女もいるようだ。 と、 「行くよ!」 真ん中にいた、“お姫さま”が叫んだ。 すると、 「ばばばばば」 「ばばばばば」 「ぼしゅっ、ぼしゅっ」 「ばばばばばばばばばば」 彼女たちのエアガンから、容赦なく弾が発射される。 「よ、余の顔を見忘れたかああああ!」 先頭にいた上様は、真っ先に撃墜された。 続いて、お庭番が、この状況を理解できぬまま、撃墜される。 「なんじゃと!」 爺も、迎撃しようとするが、弾数増やし済みのステアーAUG、スコーピオンとピースメーカーの2丁銃、そして、2500発連射可能の“みにみちゃん”の圧倒的な火力に、太刀打ちできるはずも無く、撃墜された。 一方、3人が撃墜されているうちに、大岡越前と頭は素早く木の陰に隠れ、弾幕をやり過ごす。 「ここは、この丘に登り、高所を奪取するしか……」 大岡が呟いた直後、 「ばばばばばばばばば」 「ばばばばば」 その丘から、大岡と頭に向かって銃弾が浴びせられた。 丘に回りこんでいた、みずえと直子お姉さまの攻撃である。 さすがの二人も、この挟撃には対応するすべも無く、 「ヒット……」 「ヒット!」 あっけなく撃墜された。 ……お嬢様方、準決勝進出。 ギャラリーに、歓喜の声が響いたのであった。
“聖ガブリエルのオスカル様”が凛々しく呟かれた。 「ええ」 作戦参謀の千恵子さんも頷いた。 実は、「敵軍にスパイがいて、事前に相手の作戦会議の内容を傍受している可能性がある」という情報を受け取っていた千恵子さんは、それを利用して、敵を担ぐことにしたのである。 中央突破が得意な敵に、「丘から総攻撃」という偽の作戦をわざと聴かせることにより、敵の作戦を「中央突破」に決定させてしまったのである。 あとは、中央にやってきた敵を、前方と、側方の丘から挟撃すればよい。 もちろん、敵が兵力を分散させる、ということもありえたが、みずえさんに、機動力の高い、2500発連射可能なシャルルヴィルを持たせたことにより、敵の火力には負けない、という計算があった。 つまり、千恵子さんのミスリードと、正確な読みによって、『恵』は戦う前から負けていたのである。 試合開始後に、敵本陣近くに潜入させたお庭番(女)が、千恵子さんたちの真の作戦を持ち帰っていたならば、『恵』側もまだ作戦の立てようがあったが、彼女の存在を察知した千歳さんにより、その可能性も絶たれてしまった。 そのおかげで、「全員中央突破」に図らずも持っていけた、という幸運も、千恵子さんたちの勝利を確実なものにしてくれたのである。
千恵子さんは、控えテントに戻る途中、小声で呟いた。 「……一試合?」 みずえが首を傾げる。 「そう、全国大会への出場権を得るまで、あと一試合」 千恵子はこう言うと、顔を引き締めた。 「……今度の相手は、『BOUZ』や。本気出していくで。みずえと千歳も、そのつもりでな」 「OK!」 「うむ」 みずえと千歳は頷く。 と、前方を歩いていた三壷様に、新聞部の生徒が駆け寄って、何事かを囁いた。 すると、直子お姉さまが、 「何ですって!」 素っ頓狂な声を上げられた。 「いかがなさいました?」 思わず駆け寄る1年ズ。 すると、その可愛い後輩たちに、直子お姉さまは、「大事件ですわ!」と叫ばれた。 「……1年の赤橋さんが、『剣道部!』の長倉(ながくら)さまと、交際中だそうです!」 「「「…………………はい?」」」 さあ、1年ズを困惑に陥れた、この情報の真相とは? 次回、羅部米変、じゃなかった、ラブコメ編?
「謎の集団に襲われる赤橋園美と二階堂瞳。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||