まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第八話
| ◇大河でフィーバー休憩編◇ |
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で、決勝会場への移動だが、これが手間取った。 三壷様が、義晴兄さんの料理に手間取っているらしく、ちっとも集合場所の予選会場外に姿を見せないのである。 という訳で、1年生と勝本公、そして牛尾さんだけで、先に決勝会場へ向かうことになった。 「この車、可愛いですね〜、牛尾さん」 決勝会場に向かう途中、牛尾さんの車の助手席で、二階堂瞳さんは、運転席でハンドルを操る牛尾さんに話しかけた。 「……そうでしょうか?」 そう言う彼の車は、五十嵐自動車の2ボックスカー“チワワ”。 うるんだ瞳……じゃなくて、可愛いフォルムが大評判の車である。 そのくせ、燃費も良いという、環境とお財布にも優しい“愛いヤツ”であった。 「そうですよ〜。私、将来、車買うとしたら、これがいい〜、って思ってるんです〜。でも、意外ですね。牛尾さん、地味な車に乗ってるのかなー、と思ってたんですけど」 「この車のこの色なら、一番早く納車できる、と自動車屋に言われまして……で、つい……」 そう言う彼の“チワワ”の車体色は、メタリックパステルピンク。 可愛さ爆発、超モテピンク……とは、女性ファッション誌に載った、“チワワ”試乗者のコメントである。 そんな車に、サムライのような執事さんが乗っているのだ。 (牛尾さんって、意外とお茶目〜) 瞳さんは、運転席の牛尾さんの、何かちょっと照れているような顔を見ながら、思わずにんまりしそうになった。 で、もっといいムードを作るべく、口を開いたのだが。 「ぶ……ははははは!」 「何これ、超笑えるわ〜」 その台詞は、後部座席から突如として巻き起こった大きな笑い声に掻き消された。 「な、何この、『南アルプスの少年淳二』の着声……“うにょーん”やて。そんで電話に出るまで、“うにょーん”を連呼……おかしすぎるわ、みずえ」 携帯画面を見ながら、瞳の同級生・佐々木千恵子が、涙を流して笑い転げていた。 「な、面白いだろ!」 笑いながら得意げに言ったのは、同じく瞳の同級生・名越みずえ。 「でも、面白いのはこれだけじゃないぜ。なんとこの別バージョンでは、淳二君がネタ台詞を披露してくれるんだ。しかも10パターンぐらいあって、着信の度に変わるんだ」 みずえは携帯を千恵子の手から取り上げると、なにやら操作を加えた。 すると、 「くっ……は、“ハルとは違うのだ、ハルとは”やて……“愛ゆえに、リンは立たねばならん、愛ゆえに、リンは歩かねばならん”……“諸君、敢えて言おう、クラーラであると!”って……おかしすぎ……」 千恵子さんは、“抱腹絶倒”という四字熟語を、全身で表現していた。 「だろー? ははははは」 「くく……ははっ……おなか苦しい……」 (ムードぶち壊しなんですけど……) 二人の馬鹿じみた笑い声を聞きながら、瞳は心の中で、泣いた。 ちなみに、みずえの隣には、牛尾さんのご主人の孫・金沢千歳もいる。 つまり、この牛尾さんの車には、園美以外の1年生全員が同乗しているのである。 (おじいちゃんの馬鹿っ。何で自分の車にそのちゃんしか乗せないの……) せめて、ちとちゃんとみずちゃんとちえちゃんは、向こうの車に乗せて欲しかった…… 瞳のため息は止まらなかった。
「……で、どうだ、例の仕事は進んでいるのか?」 ハンドルを握ったじいさまは、助手席の赤橋園美嬢に話しかけた。 (何の変哲もない白い車(注:正確にはホワイトパールクリスタルシャイン)ですけど……時代が変わりましたねえ) などと思いつつ、助手席で、物珍しそうに、静かな車内を観察していた園美さんは、突然のじいさまのお言葉に、 「ち、父のですか?」 慌てて言った。 「……詳しくは知りません。でも、最近毎日帰りが遅いですから、きっと一生懸命やってるんだと思います」 「そうか……しかし、余りに遅いと、こちらが困るのだが」 「……って、勝本のおじいさんには、もう関係ないことだと思いますけど?」 赤橋さんは、50歳も年上の元警察庁長官に、突っ込んだ。 「いや何、わしは、後輩たちのことが心配なだけでな」 自分の孫と同じ位の娘のツッコミを、勝本氏は軽く受け流す。 だが、その受け答えに、15歳の少女の顔から、微笑が消えた。 「うっ……うちの家族のことも心配してください! もし、今、父がブチきれたら、“ライトアロー2号”のせいですよ。『またしてもっ!』なんて叫びながら、父が勝本のおじいさんのところに殴りこんでもいいんですか?」 なんと、あのじいさまに、必死の形相で食って掛かる。 「……今でさえ、函館の馬鹿メーンマシンのせいで、父にストレスが溜まってるんです。『戦後苦満、瑠蚊、夏目は現場に求婚しろ』とか『子魔蚊菜をつけることにした』とか『はにゅほにゅ〜』とかいう変な声が、いきなりメーンマシンから聞こえてきて、まだ原因がつかめてないもんだから、うちのパパ、本当に忙しいんですよ。ここに更にストレスかけたら、ブチ切れちゃいますよ、ほんとに。お願いですから、パパに、これ以上、ストレスを加えるような真似はしないでくださいね。それが日本警察のためです」 興奮の余り、園美は“父”と言うべきところを、“パパ”と発言してしまっていた。 「分かっておる分かっておる。園美の父さんが開発してくれた、日本警察の、世界に冠たる通信システム。そのバージョンアップを、時間をかけてきっちりやってくれれば、それでいいのだ」 ……説明しよう。 園美の父、赤橋重(あかはし・しげる)は、花菱コンツェルン傘下の、大手通信機器メーカーに勤める技術者。 8年前に、当時の警察庁長官から依頼され、警察の新通信システム“ライトアロー1号”を開発した、その人なのである。 現在は、そのバージョンアップ版“ライトアロー2号”の開発中であった。 で、最初に赤橋氏にシステム開発を依頼した“当時の警察庁長官”が、今園美さんの横でハンドルを握っている勝本信義氏なのだ。 “ライトアロー1号”の開発直後、父が「警察庁の勝本長官から褒められたんだ」と、母に話していたのを、園美は何となく覚えていた。 で、去年、千歳さんの家に遊びに行った時に、じいさまと対面して、幼いときの記憶が蘇ったのであった。 だが、 「……ところで、わしのことは、誰にも漏らしてないだろうな」 「ええ。友達にも千歳さんにも義晴兄さんにも、父以外の家族にも」 「それでよい、それでよい。わしは浮世離れした、マンションの家主。それでいいのじゃ」 ……じいさまと二人きりになる機会を狙って、「もしかして、元警察庁長官の勝本さんですか?」と園美が直撃した時、じいさまはその事実を認めた上で、彼女に厳重に口止めした。 「……千歳と義晴は、わしはこのマンションの管理をしながら暮らしている、と、小さい時から教えられている。身内に地位の高い人間がいると知ると、教育上よろしくないと思ってな。親戚にも、口裏を合わせてもらっているのだ。だから、このことは、誰にも言うではないぞ。これは、わしと園美と園美の父さん、3人だけの秘密にしておこう」 そのとき、じいさまはそう言ったのだった。 それ以来、園美とじいさまは、時々、メールのやり取りをしたり、人目を盗んで二人で話すようになった。 じいさまは、園美の父の仕事、つまり、“ライトアロー”の状況を知りたい、というのが本音のようだ。 だったら、うちの父と直接話したらいいと思いますけど、と一度園美が勝本氏に突っ込んだが、 「園美の父さんと直接コンタクトを取ると、足利君がうるさくてな」 と返され、父の重も、 「その方が気楽でいいな。悪いけど、園美、メッセンジャーを頼まれてくれないか」 と言い、結局、この“伝言役”状態が去年から続いていた。 今も、じいさまが「千歳と千恵子とみずえと瞳は、牛尾の車に乗れ。園美はわしのプリウスに乗ったことがないから、わしが乗せる」と指示したので、それに従う、という形で、急遽じいさまと密談、と相成ったのである。 「……それにしても、この車、本当に静かですね。渓谷をドライブしたら、走りながらでも、川のせせらぎが聴こえるかもしれませんね」 「ふふ、確かにそうかもしれないな。……どうだ、園美、これから一緒に、秩父か箱根に、それを確かめに行くか?」 「あ、いいですよ。今回、私は諜報活動しなくていいですから、これから暇なんです」 園美の笑顔が、とても嬉しそうに輝いた。 すると、 「冗談、冗談」 微笑しながら、勝本氏は言った。 「わしが試合会場に用事があるからな。試合を観戦して、4回戦でミスを犯した馬鹿弟子のサポートをせねばなるまい。事情は分かるが、敵の作戦が想定できなかったとは……まだまだ修行が足りん」 「そうですか……」 園美はそう言って、ため息をついた。 「……心配するな、園美、なるようになる」 「……それが困るんです。最悪の結末に陥った場合が。別の高校を探すか、大検を受けるかしないと……もしかしたら、パパが解雇されるかもしれないし……」 「やれやれ、園美の心配癖がまた始まったか」 殿様は苦笑した。 「……安心しろ。園美の父さんを解雇させるなど、わしがさせん。もし解雇されたら、警察の、いや、日本の通信にとって大きな損失だ。警察で雇うさ。だからなあ園美、お前さんは何も悪いことをしていないのだから、それを忘れず、自分の気持ちに正直に、な……」 力強い殿様の言葉に、 「はい……」 いつもの笑顔を取り戻し、園美は何とか頷いたが、その眉宇のあたりは曇ったままだった。
……正確には、その近所に到着した。 2台の車が止まったのは、“東京神田(かんだ)屋”の駐車場。 ここは、全国に何軒かのチェーンがある旅館“神田屋”の東京支店で、3年前に天然温泉を掘り当て、日帰り入浴のプランを始めていた。 特に、名物の五右衛門風呂は、混雑しているときには30分待ちという人気である。 閑話休題。 大人2名と高校生5名が、2台の車から降り立って、その5分後。 「ふーっ、疲れた」 高校生5名は、東京神田屋の312号室の和室で、茶を啜っていた。 「くつろげていい感じ〜」 「ほんとですね。勝本のおじいさんに感謝しなくちゃ」 「そやな、三壷様からも離れられるしな」 説明しよう。 勝本氏は、この東京神田屋に予約を入れ、2部屋を確保した。 そして、そのうちの1部屋を、1年生達の控え室として提供したのである。 「うちら、決勝会場では、三壷様と余り一緒に行動したくないんです。いろいろ見て回りたいし、……第一、三壷様と一緒にいると、お行儀ようしてなあかんから、一緒にいるだけでしんどいんです」 などと、軍略講義の時に、千恵子さんが殿様に訴えたからであった。 で、1年ズは殿様の好意に快く甘えることにした。 もちろん、園美と瞳もそれに便乗している。 「さあさあ、そろそろお昼を食べに行かないと。千恵さん、当てがあるって言ってましたよね」 「うん……でもちょっと待って、うちら着替えるから」 園美に声を掛けられた千恵子は、飲みかけの茶を慌てて喉に流し込むと、大慌てで制服――深緑色のセーラー服――に着替え始めた。 他の1年ズもそれに倣う。 園美と瞳は、グレーのブレザーにスカート、赤いネクタイという姿である。 実は、聖ガブリエルには園美たちが着ている制服と、1年ズが着ている制服の2種類があり、どちらを着るかは基本的には自由である。 ただ、今回は、「グレーのブレザー着用」という指示が生徒たちに出されているため、園美さんたちはそちらを着用している。 3分後、制服姿の1年生達は揃って部屋を出ていた。 昼間の旅館に女子高生がいる、というミスマッチと、その女子高生が、全員平均以上に可愛い、ということで、日帰り入浴の客、特に男性客の視線が、彼女たちに注がれたのであるが、まあそれは置いておこう。
「あ、ここ知ってる〜」 こう言ったのは瞳。 「へ?」 「うん、この間、テレビでやってた。昔ながらのおソバを食べさせてくれるんだって」 それを聞くと、 「ひょ〜、そら楽しみだぜ」 みずえさんが嬉しそうに言った。 「いらっしゃいまし〜!」 「らっしゃ〜い!」 店内に入ると、陽気な女将さん達が5人を出迎えた。 何と、紺地の着物に日本髪という格好である。 この意外なコス攻撃に、 (げ、すげえ) みずえは一瞬でやられてしまった。 「5名様ですか?」 「え、そ、その通りでござる」 「カウンターでよろしいですか?」 「え、か、かしこまってござる」 余りに驚いてしまった為か、女将に答える言葉がおかしい。 それはともかくとして、5人は案内された席に座ると、早速メニューをのぞいた。 「メニュー見ながら注文するのって新鮮だなー」 「何言うてんねん。これが普通や」 謎の台詞を吐く人も散見されたが、やがて、 「オレ、海老天ソバ」(←みずえ) 「あたし、とろろそば」(←瞳) 「うちはかき揚げそばで」(←千恵子) 「山菜そばを」(←千歳) 「えーっと……じゃあ、にしんそば」(←園美) てな感じで注文決定。 程なく、 「へい、お待ち」 5杯のソバが手渡され、5人は箸と口を忙しく動かし始めた。 「やぁん、このとろろ、最高! すっごい滑らか〜」 「この海老天もヤバい! うーん、来て良かったぜ」 「ちょっと色が濃いけど……でも美味しいわ、このツユ」 「そうですね、鰹と昆布が絶妙のバランスです。あーあ、家でもこんな風に作れたらいいのに……」 「……美味しい」 次々に絶賛の言葉を口にしながら、ソバに舌鼓を打つ女子高生たち。 と、 「どうも、ソバと言うものは……」 男の声がした。 女子高生たちがこっそり振り返ると、そこでは、3人の男が、座敷に座ってソバを食べていた。 整った顔だが、眉毛の濃い男、目鼻立ちは整っているが、ゴツイ顔の男…… なんと、この2人、着物に袴姿であった。 その上、髷ヅラまで装着している。 もう一人、ワイルド風味が混じったきれいな顔立ちの男は、流石に武士の格好はしていなかったが、南北戦争とか西部劇の映画で出てきそうな、古めかしい黒い洋服を身につけていた。 そんな3人が、ソバを食べているのである。 (おい、ここは客までコスプレかよ) 流石のみずえさんも呆気に取られた。 他のメンバーは、ただただ驚き、箸も動かせない。 そんな女子高生たちの視線の先で 「私に言わせれば、ソバは邪道だ」 眉毛の濃い男が言った。 先程の台詞も、この男の物らしい。 「仕方ないからザルソバにしているが……いやはや、食べられたものではない」 (何だよあいつ、感じワリー) (……そう思うなら来るなっちゅーの) こっそり思うみずえと千恵子。 その思いは洋装の男も同じらしく、眉間に苛立ちの色が見えている。 と、店の入口の引き戸がガラッと開き、 「やあやあ、権藤(ごんどう)さんに、桧木(ひのき)さんじゃないかやー!」 入り口にどーんと立った人物が、嬉しそうにこう言った。 すると、 「……坂元(さかもと)さん!」 今まで黙っていたゴツイ男が、驚きの声をあげた。 「坂元君」 眉毛男も意外そうな顔をする。 「久しぶりだにゃー。東京に出たついでに、サバゲーの東京大会をみちゃろ、と思って来たんじゃが、桧木さんも来とったかにゃー。やっぱ権藤さんの事が気になるんじゃな?」 陽気にこう言う豪快な男――坂元――も、ボロボロの黒の着物に同色の袴、しかもボサボサの長髪はポニテっぽく結わえ、まるで幕末の素浪人である。 お嬢様方は、もはや茫然としていた。 「いや、そういう訳ではないのだが、たまたま東京に出たら、権藤さんに会って」 桧木、と呼ばれた眉毛男が言い訳する。 と、 「ん?」 坂元の目が、ひょい、とお嬢様方の方に向いた。 「……おおっ、こら、みんな揃って可愛いのう!」 感嘆の声を上げたが、お嬢様方はとっさに反応できない。 その間に坂元君は、一番近い席にいた園美さんにつかつかと近寄り、 「おまんらも、サバゲーを見に来たんか?」 気軽に声を掛ける。 「え? ええ、そうですけど」 漸く行動不能状態から脱し、戸惑いつつも、きちんと答える園美さん。 流石は、1年桜組のクラス委員である。 「ほぉかぁ。ほんなら、わしと同じじゃ。わしも、サバゲーを見に来たぜよ」 心底嬉しそうに坂元君は言った。 「おまん、名は何と言うんじゃ?」 「ええと……」 園美が答えようとしたその瞬間、 「あ、いたいた、探しましたよ権藤先生」 また店の入口がガラッと開き、着物に袴の美しい少年が、元気よく入って来た。 そのあとにくっついてきた気弱そうな少年も、やはり着物に袴、月代入りのマゲヅラである。 そして、その後ろには大人びた、やはり武士コスプレの少年が控えていた。 こちらのマゲヅラには月代は入っていないが、日に焼けた、鍛え上げられていそうな身体、眼の目立つゴツイ顔は、まさしく歴戦の兵。 それでいて、真面目そうな雰囲気が漂っている辺りが、また好感が持てる。 と、
なんと、にしんそばをすすっていたはずの赤橋園美が、カウンターの隅に置かれていた天狗のお面を被ったのである。 “天文気象部の良心”の突然の行動に、あの冷静沈着な千歳が、眼を丸くした。 「お、おはん、どーしたんじゃ?」 園美さんと話していた坂元氏も、この展開にビックリし、当然のことながら質問をぶつけた。 「え、あ、あの、す、す、すみません。しゅ、取材なんです、小説の。わ、私、ネットで小説を書いてて、それで、次の作品で、登場人物が、飯屋で話している最中に、お面被って急に踊りだす、ってシーン書こうと思ってまして、それで、今のシチュエーションならぴったりかと思って、で、そこに丁度お面があったから、か、被ってみたんです。ご、ごめんなさい、急に驚かしてしまって」 天狗の面を被った園美さんは、自分の行動目的を慌てて説明し、坂元君の驚きを収めようと必死であった。 「なんや、取材かいな。びっくりしたわ〜」 「……そうだったのか」 「驚かせるなよ。取材なら取材と前もって言ってくれないと」 外野からの1年ズの感想に、 「だ、だめですよう。突然やらないと、取材になりませんから」 園美はこれまた慌てて弁明する。 温厚篤実なクラス委員にしては、珍しい行動である。 「そーかー。わかったにゃー」 坂元君は納得して頷いた。 「じゃけんど、踊らんでええのか? 踊らんと、そのシーンを再現することにはならんじゃろ」 「あ、そ、そ、そうですね……っていっても、私、踊り余り知らないから……」 園美は慌てて立ち上がり、 「あーらえっさっさー」 ドジョウすくいを踊り始めた。 (((……流石、鷹木先生だ))) 小説のためなら、自身の恥も捨て、ネタ採集に没頭する。 1年ズは、園美の取材精神に、全く感服した……というか、あきれてしまった。 「おーおー、面白いのうー」 坂元君は喜んで手を叩いている。 だが、 (ふ〜ん、そういうことか〜……そのちゃんったら、水臭いじゃない〜) 瞳だけは、園美の行動の裏に隠されていた真実を、その勘で見抜いていた。 園美が一通り踊り終わると、 「「「「ブラボー」」」」 1年ズと坂元君は一斉に拍手した。 「ど、どーもすみませんでした」 園美は、天狗の面を被ったまま、ペコリと頭を下げる。 と、 「……あ、いっけない」 腕時計を見て、瞳がさりげなく言った。 「そろそろ戻らなきゃいけないんだった〜。あたしたち、先に戻るね〜。行こう、そのちゃん」 「へ?」 園美はお面の下で、狐につままれたような顔をした。 (も、もうそんな時間なんですか?) だが、部長の疑問を完全に無視して、瞳は自分の鞄と園美の鞄を持ち上げ、 「あたしたちのお金、これで払っといて〜」 と、2000円札を置いて、お面を外した園美の手を引っ張って、店から出て行ってしまった。 「……いやー、びっくりしたぜ」 「ほんまやわ。園美にあんな茶目っ気があるとは思わんかった」 みずえと千恵子はやや興奮気味であった。 「いや−、まっこと、面白かったぜよー。ペンネームは、なんちゅーんじゃ? 今度、読んでみようかのう」 坂元と名乗る男は、愉快そうに笑っていた。 (……) 千歳はまだ、ショックから脱していなかった。 だが、この騒動を完全に無視し、 「ねえねえ権藤さん、こっちに戻ってくださいよ。うちの姉さんがお弁当作ってきて、絶対権藤さんに食べさせるんだって聞かないんですよ」 月代ポニテの少年は、ゴツい侍に、無邪気に訴えた。 「あぁ? そんなもん、野田(のだ)に食べさせとけよ」 洋装の男が邪険に返す。 「だめだめ、野田さんは、真佐代(まさよ)さんと秀美(ひでみ)ちゃんのお弁当食べてますから」 「……両方食っているのか、あいつは」 大人びた少年はこっそり突っ込んだ。 「山神(やまがみ)さんはどうした?」 「ああ、山神さんなら、彼女と一緒に、喫茶店に行きましたよ」 「……あの馬鹿野郎!」 洋装の美男子は、怒り心頭と言った様子で立ち上がり、座卓を蹴飛ばした。 がしゃーん! 派手な音を立てて座卓が倒れる。 「何をするんだね、吉方(よしかた)君」 顔面に蕎麦が直撃した眉毛男が眉毛を顰め、 「おいトシ、これはないだろう」 今の衝撃で飛んで来た蕎麦の丼を頭から被ったまま、ゴツい男が声を荒げる。 蕎麦処「麦松庵」の店内は、何だか大変なことになっていた……。
決勝が行われるフィールドに、異変が起こっていた。 フィールドの一方の側の本陣の近くに、一機のヘリコプターが強引に着陸したのである。 「ちょっと!」 「ここに着陸しないで!」 大会本部の役員たちが、慌ててヘリコプターの着陸現場に駆けつけると、そこには、3人のお嬢様方が立っていらっしゃった。 都立国分が丘高校のセーラー服姿の、細川直子。 黒いメイド服にフリル一杯の白いエプロンを付けた、畠山美華。 そして、白いフランス軍軍服・オスカ@バージョンに身を包んだ、斯波真理亜。 聖ガブリエル女学院の三壷様、揃い踏みである。 「申し訳ない。大会開始に間に合いそうになかったので、やむを得ずヘリコプターを使わせていただいた」 凛々しくおっしゃったのは、やはり、生徒会長の梅壷大将さまであった。 「ヘリコプターは即刻退去させます。あなた方も離れてください。危ないですよ」 梅壷さまがこう言ったとたんに、斯波家所有のヘリコプターの回転翼が勢いよく回り始め、役員たちは慌てて後ずさりした。 そのそばを、梅壷様は何事もなかったかのように通り過ぎ、そのままスタスタと控えテントへと向かって歩き始めた。 その後に、桐壺様と梨壷様も続く。 お嬢様の礼儀作法にかなった華麗な歩行に、大会本部の役員たちは見とれかけたが、回転翼の巻き起こす風がひどくなったのに気がつき、慌てて退避して行った。 「ありがとうございました、大将さま」 美華さまが、優雅に一礼した。 それに続いて、直子さまも「わたくしからも、お礼を申し上げます、梅壷様」と頭を下げた。 「全く、大会本部にはきちんと連絡を入れて、許可を取っていたのに、なぜ咎められるでしょうか? 納得がいきませんわ」 役員の態度に、憤慨する直子さまに、真理亜さまは、 「連絡の行き違いがあったのだろう。役員の方を一概に、責めるわけにもいかない……」 と凛々しく返答された。 「それも……そうですわね」 生徒会長の意見に、頷く梨壷さま。 それを見て、“聖ガブリエルのオスカル様”は、莞爾とした。 「さあ、テントに行こう。そして、直子さまの用意してくださったお弁当をいただこうではないか」
店から出るや否や、園美さんは抗議の声をあげた。 「そんなに手を引っ張らないでくださいよ。痛いじゃないですか」 「ごめ〜ん☆ ちょっち聞きたいことがあって」 全然反省の色が見られぬ顔で、瞳はにっこりと友人に微笑んだ。 「へ?」 「……そのちゃん、あの人達と、どーゆー関係なの?」 「どーゆー関係、って?」 質問の意味を取りかねて、園美は首を傾げる。 「しらばっくれちゃイヤ〜。今の動揺っぷり、只事じゃなかったもんね」 「動揺って……はあ? 何言ってるんですか。全くそんなことないんですけど」 園美はこう返答したが、瞳は、 「のんのん♪」 人指し指を左右に振って、意味ありげに微笑した。 「それだけじゃないでしょ〜。あたしの勘は誤魔化されないわよ〜」 「何なんですか一体。動揺なんてしてませんよ」 「……さっき、電話してたでしょ」 「……いきなり話が飛びましたよ?」 いつもの微笑を崩さずに園美は突っ込んだが、瞳はそれを無視し、 「……最近そのちゃんの“いい人度”が増してるから、何かあるとは思ってたんだけど……そうか、春が来たんだ〜」 「……瞳さん、熱あるんじゃないですか? 話の筋が飛んでるってば」 「いえいえ、お熱なのはそのちゃん。ねぇ、どんな人なのよ。どこの学校なの?」 「誰がですか」 「だから〜、その、そのちゃんの彼氏」 「は? いませんよそんな人」 「……じゃあ、着歴見せて」 「どういう話の飛び方ですか……しかも、プライバシー侵害ですよ」 抗議する園美。 だが、瞳はあさっての方向を向きながら、 「そのちゃんに電話掛ける人って、うちらと家族ぐらいだよね。だったら見せても、プライバシー侵害にはならないわよね〜」 まるで、遠回しに脅迫しているような口調で言い、 「それとも、何? 親友のあたしに、見せられない理由でもあるとか?」 悪魔的な微笑を園美に向けた。 「……皆に教えてあげてもいいのよ〜。そのちゃんが猫かぶりで、明海(あけみ)ちゃんが見張ってないとパジャマで学校に行きかねない程、服装に無頓着だってこと……てのは冗談だけど〜」 この脅しに、 「親友を自称する人が、随分な脅し方するもんですね。お葬式に誰も来てくれませんよ」 皮肉を言いつつも、 「……仕方がありませんね」 園美は観念した。 勘のいい瞳に、これ以上は隠し通せない。 「いいですか、絶対、誰にも言わないで下さいよ。実は……」 園美が告白しようとした、その時だった。 「いたぞ〜!」 「あいつだ!」 突然、複数の男の声が響き渡った。 「何ですか今の?」 「さぁ?」 首を傾げる少女二人の目に、こちらに向かって駆けてくる数人の男の姿が映った。 オカッパだったりポニーテールだったり、髪型には統一性がないが、全員が薄い水色のブレザースタイルの、学校の制服らしき服に身を包んでいた。 「あの眼鏡を、ひっとらえろ!」 先頭の眼鏡にオカッパ頭の小男が、軍扇を振り回す。 「もしかして……わ、わたし?」 困惑の表情の園美。 「ゆーちょーに言ってる場合じゃないってば! 逃げよう、そのちゃん!」 「は、はい!」 蕎麦処「麦松庵」は、店の外も、何だか大変なことになっていた……。
「……でさ、うちらの今度の対戦相手はどこなんだよ?」 緑茶を啜りながら、みずえさんが作戦参謀に尋ねた。 「あんたなぁ……」 (こんな、人がいるところで言える訳がないやんか) 呆れ顔で千恵子は呟き、鞄の中から携帯電話を取り出すと、親指を目まぐるしく動かし始めた。 程なく、 ♪らーらーらー ららららー みずえさんの携帯電話の着メロ(大河ドラマのテーマ)が鳴った。 そのメロディーに、『麦松庵』の中にいる殆どの人たちが、一斉に音が鳴った方角を見つめたのだが、みずえさんはそれに気がついていない。 (Aブロック代表は『PERFECT ASSASINS』、Bブロックは『明神下SWAT』、Cブロックは『BOUZ』……って) 今度は、みずえさんの、携帯電話を持った手の親指が、凄いスピードで動き始めた。 そして、 ♪かーっこーぉおろーしにぃー さぁーあーあーそぉーおーおーとぉー しばらくして、千恵子さんの携帯の着うた(半身タイガースの応援歌『カッコーおろし』)が、「麦松庵」の店内に鳴り響いた。 (「おい、このBOUZって、まさか太平洋テレビの人気深夜番組『BOUZな奴ら』の、あの『BOUZ』かよ!」……って言われてもなぁ。夜の10時半には布団の中に入ってるから、そんな深夜番組確かめようがないっちゅーに) ♪らーらーらー ららららー (……知らないのかよ! 半年前にデビューしたアイドルグループでさ、全員坊主の格好で、バンド組んで歌ってんの。あー、でも、まだまだ知名度が低いからなー。しかしいつの日か、あの伝説の深夜番組『水@どうでせう』の大泉先生のように全国のお茶の間を支配する……) ♪かーっこーぉおろーしにぃー (……『孫』歌ってた人かいな?) ♪らーらーらー (それは@郎だっちゅーの!) みずえさんと千恵子さんが、携帯電話のメールで漫才を繰り広げていると、 「ね、ねえねえ、ひょっとして、大河ドラマ見てたの?」 月代ポニテのコスプレ美少年が、みずえさんに近寄ってきた。 「あ? ああ、そうですけど」 ちょっと動揺しながらみずえさんが返答すると、 「えー! 嬉しいなー! わたしも大好きなんですよー、あのドラマ」 美少年は、まるで子供のようにはしゃぎ始めた。 「もしかして、そのコス、大河ドラマの……」 「そーそー♪ 似合ってる?」 「似合ってる、ってレベル超えてるって。マジそっくりなんだけど、沖@に」 「ほんとー?」 一気に意気投合してしまう美少年とみずえさん。 だが、彼と彼女の周囲は、不気味な沈黙に包まれていた。 (この客たち、変装してはいるが、全員かなりの……いや、私より確実に強い……しかも、みずえに話し掛けている男、どこかで見たような……)(←千歳) (あの女たち、一体何者だ?)(←洋装の男) (この顔にこのコスプレっちゅーことは、もしかして……)(←千恵子) 傍観者たちの疑念が、一挙に頂点に高まった、その時だった。 「吉方さん!」 がらっと店の戸が開けられて、童顔の大男の姿が現れた。 やはりこの男も、着物に袴姿である。 「どうした今田(いまだ)」 洋装の男が立ち上がる。 「組み合わせが決まりました。我々は第1試合です」 「何だって? じゃあすぐじゃねえか。おい、皆、行くぞ」 美貌の吉方氏の呼びかけに、 「はーい」 「かしこまりました」 「承知」 子供っぽい美少年、気弱そうな月代マゲ少年、大人びた少年の順に、返答が返って来た。 「よし、権藤さん、行くぜ」 「ああ、トシ」 ゴツい侍も立ち上がったその時、 「ああそうだ、お前、例の写真はどうした」 今田、と呼ばれた童顔の大男に、吉方が問いただした。 「あっ……すみません。写真には撮ったんですが……」 「分かったよ。さっさと送ってくれ。とりあえず、控えテントに移動するぜ」 「承知」 そして、コスプレ集団は、どやどやと店を出て行った。 「……い、今のあの集団、やっぱり『剣道部!』や。Hブロックの代表や……」 彼らの姿が見えなくなった直後、千恵子さんは一気にこう言った。 「ふーん……って、どうしたんだよ、千恵。顔が青ざめてるぜ」 友人の異変に気がついたみずえさんが思わず千恵子さんの肩をゆする。 「当たり前やっ。これが青ざめずにいられる訳ないやんか。剣道の強豪・紫英館(しえいかん)高校の剣道部のエースが揃って、やたら個々の戦闘力が高(たこ)うて、やたら控えが大勢いて、ほんで、参謀が二人やろ……今大会ナンバーワンの実力と目されてるチームなんやで」 千恵子さんは青ざめた顔のまま、一気にまくし立てた。 冷静な彼女にしては珍しいことである。 「ま、マジ?」 作戦参謀の普段とは違う様子に、みずえさんも『剣道部!』の手強さを思い知ったようである。 と、 「……そうか」 今まで一言も言葉を発しなかった千歳さんが、納得が行った、というように頷いた。 「みずえに話し掛けていた男、どこかで見たように思ったが、あれは2年前の剣道全国大会に東京都代表で出場して優勝した奥田聡司(おくだ・そうじ)だ」 レアな千歳の長台詞に、 「え、千歳、あのガキと知り合いなん?」 「早く言えよ、そーゆーことは!」 千恵子とみずえが食いつく。 「……知り合いと言うほどではない。開会式で顔を見ただけで、話した事はない」 冷静に返す千歳。 「……って千歳、もしかしてその剣道全国大会に、出場したとか?」 「ああ、群馬県代表で」 「……マジかよ!」 みずえは文字通り飛び上がった。 「……で、成績はどないやったん?」 「準々決勝で、梅壷お姉さまに負けた」 「……つーことは、ベスト16かよ!」 みずえはもう、言葉が後に続かなかった。 「あんたが転校してきた時、『オスカルと闘って敗れて、復讐のために聖ガブリエルに乗り込んできた』っちゅー噂があったけど、嘘やろと思て、特に何にも聞かへんかった。あながち、嘘でもなかったんやね……」 千恵子が信じられないような面持ちで呟くと。 「まあ、そういうことだ」 短く返答して、千歳は緑茶を啜った。 2年前の夏の出来事が、走馬灯のように思い浮かぶ。
不意に、千恵子さんの携帯が鳴った。 着メロは『トッカータとフーガ』。 いかにも、不吉な予感のする旋律である。 「ちっ、三壺様からや」 千恵子は瞬時に猫を被ると、電話に出た。 「はい、佐々木でございます。はい、はい、……はい、かしこまりました。では、第3試合の時に作戦をご説明申し上げますわ。はい……え? 衣装を? ……はい、かしこまりました。では、失礼いたします」 電話を切ると、千恵子さんは大きくため息をついた。 「今の、女御さんからやった……うちら、第4試合やて。相手はFブロックの代表『恵(めぐみ)』」 「へえ、じゃあ随分時間があるな。それまでのんびりしようぜ」 「私もみずえに賛成だ」 と、 「……もしや君たちは、聖ガブリエル女学院のプレイヤーかね?」 茶を啜っていた眉毛男が声を掛けた。 「へ? ええ、まあ、そうですけど」 みずえが答えると、 「そうか、君たちがここまで勝ちあがってきたのか。これはひょっとすると、君たちが優勝するかもしれないな」 眉毛男が腕組みして呟く。 「……ご冗談を。私たち、たまたま悪運が強くて勝ち上がっただけですから」 千恵子さんは、にっこり笑ってこう言った。 蕎麦への態度にはムカついたが、この男には、友好的に接した方がいいと判断したのである。 「……そうかな?」 千恵子さんを見て、眉毛男はにやりと笑ったが、 「……申し遅れた。私は山口の『チーム騎兵隊』のリーダー、桧木小太郎(ひのき・こたろう)だ。以後よろしく」 立ち上がって、右手を差し出した。 「私は、聖ガブリエル女学院の佐々木千恵子と申します。こちらこそ、どうぞよろしゅう……」 差し出された手を、千恵子さんはにっこり笑って右手で握った。 普通なら、これで挨拶はおしまいである。 ところが、桧木氏は突然、 「……いや、こういうとき、正式には両手で握手するのだ」 こう言いながら、千恵子さんの右手の上に自分の左手を重ねたのである。 「へ?……はぁ」 眉毛男・桧木氏に言われるまま、千恵子さんは両手で相手の手を握った。 「そして次は、ええと、頬擦りを……」 (はあ?) 千恵子が心の中で、思いっきり怪訝に思ったその時である。 「お、おまん、女の子に何しとるがや!」 蕎麦を大きな音を立てて啜っていた素浪人が、慌てて立ち上がった。 「何とは何だ。正式なエゲレス式ではこうやるのだろう。君もそう言っていたではないか」 千恵子さんを抱きかかえようという体勢になりかけていた桧木氏が、不思議そうな顔で呟いた。 「おまんのは、セクハラじゃ! 第一、斎郷(さいごう)さんとの時は、めちゃくちゃ嫌がっておったくせに」 「仕方がないだろう。仮にも今まで敵同士だった長州と薩摩が相親しむなど、すぐには出来ない」 「あ、あのー、こちらの方は……」 千恵子が尋ねると、 「あ、ああ、わしは、高知の坂元っちゅーモンじゃ。『チーム坂本竜馬』のリーダーじゃ」 素浪人は元気よく自己紹介した。 「は、はあ……聖ガブリエルの佐々木です……どーぞよろしく」 千恵子は頭を下げた。 と、 「千恵、そろそろ行かねば、第1試合が始まってしまう」 時計を見た千歳さんが無粋にも(?)こう言った。 「あ? ああ、せやな。ほな、皆さん、さいなら。また会えるのを、楽しみにしておりますわ」 千恵子さんは再びぺこりと頭を下げ、他の1年ズを促すと、勘定を済ませて「麦松庵」から出て行った。 「あれが、“聖ガブリエルの聖女たち”か……なかなか手強そうだ。全国大会では、当たりたくないな」 客が二人になった店内で、眉毛男が呟いた。 「何言うとるがじゃ。権藤さんたちがおる。こいつらには、あの女の子たちも、なかなか勝てんにゃー」 素浪人・坂元が箸を持ったまま言うと、 「いや、このまま行けば、権藤君と彼女たちが当たるのは決勝戦だ。そして、東京大会は、準優勝チームも全国大会に出場できる……聖ガブリエル、全国大会の台風の目になるかもしれんな」 謎めいた調子で呟くと、 「どれ、私も試合を観に行くかな。報告を送らんと高椙(たかすぎ)と草加(くさか)がうるさい」 と言って、勘定を済ませて店から出て行ったのである。
「待てー! 逃がさんぞ、天狗!」 「きゃーっ! なんなんですか、一体?!」 園美と瞳の逃亡劇は続いていた…… 彼女たち二人の運命は? 彼女たちを追うだんだら集団の真の姿とは? そして、忘れそうだったが、お嬢さま達の準々決勝の結果やいかに? あまり期待せずに、待て、次回!
「新たなる戦場へと足を踏み入れたお嬢様方。
『FANG GUNNERS』に負けるな、お嬢さま」 |