まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第七話
| ◇敗北あそばせ予選編◇ | ||
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ギャラリーは、先ほどの3回戦第1試合・『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』対『一二・一四決起部隊』の熱狂から漸く冷めようとしていた。 観客席の半分以上を占拠するグレーの制服に身を包んだ聖ガブリエルの生徒達とて例外ではない。 だが、観客席にいる一部の人間は、いまだ興奮状態にあった。 「ええと、これから3回戦のもう一試合ですよね。『燕(えん)』対『戦場の花嫁』」 お兄さん方の中で、ペンを握ってわくわくしている、セミロングの黒髪の少女は、天文気象部部長であり物書きの端くれ(自称)でもある赤橋園美嬢である。 眼鏡を外したらそこそこ可愛いのだが、眼鏡のせいで、お嬢様というよりは、いじめられっ子の学級委員、といった方がピッタリ来る顔である。 実際、彼女は千恵子と共に、1年桜組のクラス委員も務めている。 「そーだね……で、鷹木先生的には、この試合、どうなの?」 相槌を打ちつつ質問する、結構きれーなお姉さんは、彼女の同級生で某インディーズのボーカル・二階堂瞳さんである。 すると、 「そりゃあもう、ネタだらけですよ」 鷹木きめら(たかぎ・きめら)先生こと赤橋さんは、にっこり笑って断言した。 「『燕』のメンバーが、プロ野球のニュウサンの選手にそっくりなんですよ。特にリーダーの新田(にった)くんなんて、あの選手会会長に瓜二つなんです。で、『燕』の策がIDサバゲーでしょ。古代中国ネタだと思ってたんですけど、これにはやられました。お見事です。相手の『戦場の花嫁』も、あの大ヒット映画『殺れビル』を忠実にコスプレにしてますし、主人公『ザ・花嫁』の100人斬りを髣髴とさせるような全員突撃策……IDサバゲー対100人斬り、これは見ものですよ」 こう一気にまくし立てた園美さんのメモには、今彼女が言った内容のほか、「『ナオえもん』最高。存在自体が笑える。ネタの忠実な再現振りには脱帽」「『燕』は2回戦の相手『黄泉瓜巨神兵(よみうりきょしんへい)』を見事にIDで打ち砕く。アンチジャイ@ンツにはたまらないネタ」「『殿中でござる』で襟維斗高校の動きが停止したのはウケる。今度の敵討ち話で使えないか?」などなど、採取したネタが書き込まれている。 物書きの端くれたるもの、こういったネタ採取は欠かせないのである。 ……園美本人はそう思っている。 なお、プロ野球のニュウサンは乳酸菌飲料を作っている大会社・ニュウサンの所有する球団で、本拠地は東京にある。 「ふ、ふーん、そうなんだ〜……」 半ば呆れたように瞳は相槌を打った。 いつものことだが、やはり園美のネタ採取への情熱には付いていけないようだ。 ちなみに、義晴兄さんは、先ほど「みずえのハンドガンをカスタムしてくる」と言い残して観客席を去っているので、瞳に同情してくれる人はいなかった。 「で、鷹木先生的には、どっちが勝つと思うわけ?」 「そうですね。どっちかっていうと、IDが勝つ気がするんですけど」 と話しているうちに、『燕』と『戦場の花嫁』の顔合わせが終わり、試合開始のホイッスルが鳴った。 が、1分後。 「……って、もう3回戦終わったんですか?」 再び鳴り響くホイッスルの音に、鷹木きめら先生は愕然とした。 「嘘でしょ?」 「は、早かったね〜」 瞳も半ば呆気にとられつつ言う。 「……ひ、瞳さん。これ、ヤバイですよ」 「へ?」 瞳が友人の顔を見ると、彼女は青ざめていた。 「僅か1分で全員でこのフィールドを突っ切って、防御網も完全に破壊……もの凄い機動力ですし、そして、強大な攻撃力です。こちらには細川先輩がいると言っても、機動力では完全に向こうが勝ってます。それに、このスピードじゃ、唯一の対抗手段は弾幕を張ることしかありません。だけど、弾幕を張るのも間に合わないかもしれないし、弾がなくなったら完全に向こうの勝ちですよ……」 園美の分析に、 「た、鷹木先生……嘘でしょ?」 瞳も事の重大さを認識し始めた。 と、 ちゃちゃーんちゃーんちゃんちゃちゃんちゃ ちゃーんちゃん♪ 園美の携帯電話が、「キョーランの天気予報」のテーマを奏でた。 「あ、もしもし」 すぐさま携帯を開く園美。 その着メロを聞いて、 (ボクの名前は狂暴♪ 僕の名前は乱暴♪……って物騒〜。着メロ変えろ、ってこないだ言ったのに) 瞳はちょっと不満げだった。 「ええ、見てました……はい、わかりました。今からすぐ行きます」 短時間で通話を終わらせると、園美は席から立ち上がった。 「どしたの〜?」 「……みずえさんから電話です。今の試合の様子を聞きたいから、すぐに控えテントに来てくれって」 「ふーん、行ってらっしゃい♪」 「……って、付いてきてくれないんですね」 「だって、めんどくさいもーん」 「……わかりました。ここで待っててくださいね」 ため息をつきつつ、園美は控えテントの方角へ去っていった。 その様子をこっそり見ている人物がいるとも知らずに……
「おい、お前、さっきギャラリーで野次ってたな」 千歳の兄・金沢義晴氏は、自分の車を止めた駐車場の前で、学ランを着た10数人の不良に取り囲まれ、絡まれていた。 「何の話だ?」 みずえさんのM19コンバットマグナム用の改造パーツと工具一式を持った義晴兄さんはすっとぼけたが、 「しらばっくれんじゃねーよ!」 「さっき野次ったお前の顔を、はっきり見てんだよ!」 不良どもは一気に剣呑さを増した。 「……お前ら、襟維斗高校か? だったら、俺に絡むのは筋違いだぜ。お前さんたちが負けたのは、運と実力が足りなかったからだ」 義晴兄さんが、自分の台詞にちょっと酔いしれつつこう言うと、 「運と実力がないだぁー?! なめんなよこらあ!」 「ごちゃごちゃうっせーんだよ、このカス!」 2,3人の不良が襲い掛かり、あっという間に義晴兄さんは意識を手放してしまった。 そして、 「……よし、姐御の所まで連れて行け」 という台詞と共に、義晴兄さんの身体は担ぎ上げられ、いずこかへ運ばれていったのである……
「……ということなのですが」 聖ガブリエルの控えテント。 ダッシュで駆けつけた園美さんは、作戦参謀の前で先ほどの試合の結果を報告していた。 美華お姉さまやオスカル様がいらっしゃるため、完璧に猫を被っての報告である。 と、 「只今戻りました」 次の対戦相手を探っていた新聞部部長が戻ってきた。 「まぁ、ご苦労様でございます。敵の様子は、いかがでございました?」 千恵子さんは、友人と同じように、完璧に猫を被って応対した。 その途端、 「それが……」 うつ向く新聞部部長さん。 「どうなさったの?」 美華お姉さまが声を掛ける。 「……申し訳ございません。敵のテントの警護が厳しく、近付くことすらできませんでしたの」 「まぁ」 美華お姉さまは、優雅に驚かれた。 「それでは、敵の情報は、わからないということでございますのね? どうしましょう……」 おろおろしながらも、おっとりと呟く美華お姉さま。 もう、お嬢様モード炸裂である。 と、 「いいえ、姫さま」 冷静に、先輩を宥めにかかったのは、“おじょうちゃま”であった。 「敵の警護が厳しい、それだけでも、敵が情報漏洩をいかに防ぐか、苦心していらっしゃる、ということがわかりますわ。何か、こちらに知られたくない情報……それは恐らく作戦でしょうけれども……それを隠そうとなさっているのですわ」 「ちょっとお待ちください、千恵子様」 ここで、声を挙げたのはみずえさんである。 「あの敵……国分が丘高校だと思いますが、開会式の時から、全員、フルフェイスゴーグルとカトーマスクを被ったまま、素顔をさらしていらっしゃいません。それだけではございませんわ。試合中も、一言も声を発していらっしゃいませんの。もしかしたら、敵は、正体を知られたくないのではございませんか?」 その発言で、 「そうですわね……」 千恵子さんはちょっと考え込んだ。 と、 「……あの〜、みずえ様、よろしいですか?」 今まで黙っていた園美が声を掛けた。 「はい?」 「千歳様のお兄さま、こちらにいらっしゃらないのでございますか?」 「千歳様のお兄さま」が、義晴兄さんであることを理解するまで、みずえは2秒掛かった。 「……いいえ、こちらにはいらしてないですわ、園美サマ」 「そうでございますか……」 園美は首をかしげた。 「おかしゅうございますわ。千歳様のお兄さま、先ほど、『みずえさまの銃をカスタマイズしに行きます』とおっしゃって、観客席から立たれたのです。3回戦が終わってから、本当に、千歳様のお兄さまとお会いになっていないのでございますか、みずえ様?」 「……ええ、園美サマ」 「ということは、ひょっとすると、これは失踪事件でございますか?」 元気をなくしていた新聞部部長は、今の後輩の会話を聞いて、すっかり本調子を取り戻した。 「し、失踪?」 話の展開に付いていけないみずえさん。 「ええ、そうですわ。……わたくしの事件記者としての勘が、びんびんと警報を発しております。わたくしの父も、常々申しておりますわ。事件は現場で起きているのです!」 知ってか知らずか、『踊る大扁桃腺』の名台詞を口にする直子お姉さま。 「さぁ、赤橋さん。お話しくださいな。義晴様が失踪なさる前の行動を!」 とんでもない話の展開に、 「え、ええ?」 可哀想に、困惑の海の只中に放り込まれた赤橋さんだった。
「俺をどうするつもりなんだ?」 不良達に連行された義晴兄さんは、大会参加チームの控えテント――その中で最も警備の厳しい一つ――に放り込まれた。 「うるせぇんだよ!」 「黙ってろてんだこらぁ!」 「殴られたいのかよてめえ? え?」 義晴兄さんに次々と罵声を浴びせる不良たち。 だが、 「あんたら、黙らんかい」 テントの奥に座った女性が、凄みのある関西弁を吐き出すと、不良達はすぐさま口を閉じ、直立不動の体勢になった。 その女性を一目見て、 「あれ? この声にこの顔って……千恵子ちゃん? いつの間に、こんなに大きくなったんだ? まさか……巨大化機能が付いてるのか?」 印象を素直に口に出した義晴兄さんに、 「んな訳ないがな」 女性は思わず突っ込み返してしまった。 「あれぇ? つーことは……あーっ! 君、ひょっとして千恵子ちゃんのお姉さんの由利子さん!?」 「ま、そーゆーこっちゃな」 女性――佐々木千恵子の姉、由利子――は、にやりと笑った。 すると、金沢義晴氏は、 「いや〜、千恵子ちゃんのお姉さんでしたかぁ。俺、金沢義晴です。千恵子ちゃんのお友達の金沢千歳の兄です。うちの妹がお世話になってます」 突如フレンドリーな態度で、挨拶をし始めた。 そのペースに巻き込まれ、 「あ、こ、こちらこそ……妹がお世話になってます……」 思わず姐御も挨拶を返してしまった。 「あ、そーだ。エアガン、カスタマイズしようか? ハンドガン用のパーツなら今持ってるんだ。ま、この俺が本気になりゃ、10分もかからずにできるぜ」 「あ、ほ、ほな、お願いしようかいな……」 (……って、うちは一体何を言うてるんや?) 佐々木由利子姐さん、通称「姐御」は、思わぬ事態に、自分に突っ込みを入れた。 妹から、聖ガブリエルの内部の様子は聞いて知っている。 だから、先ほど、「よーしよくやった! オスカル!」と、大音声で叫ぶ男の存在を認識した時、これは使えると確信したのだ。 (あれって、千歳ちゃんのにーちゃん……あの場で愛称で生徒会長を呼べるっていうことは、もしかして、生徒会長とつきおうてるんかいな? つーことは、あいつを人質にとったら、生徒会長は動揺するし、勿論千歳ちゃんも動揺するわな……そしたら、うちらにも勝機があるっちゅー話や) だから、由利子姐さんは、実力行使で、義晴兄さんの身柄を確保する、という強硬手段に訴えたのである。 だが、 (せやけど、本当にこれ、千歳ちゃんのにーちゃんなんか? あの仏頂面な子とは打って変わってこの軽さ……こんな軽い奴を、お嬢さまが相手に選ぶもんなんやろか? あたしなら願い下げやけど……) ここにきて、由利子姐さんは悩み始めていた。 と、 「……しかし、流石は千恵子ちゃんのお姉さんだなぁ。千歳の兄であるこの俺を拉致って人質にとるなんて、考えたねぇ」 義晴兄さん、こう言った。 この一言で、 (うっ……うちの作戦、看破されとる。意外と頭の回転はええんやな) 義晴兄さんに平均点以下の点数を付けようとしていた姐御は、彼のことをちょっと見直した。 更に彼は、 「……そうだ、面白そうだから、その話、乗ってやろうか?」 こんなことまで言ったのである。 「……ええんか? もし協力してるのがバレたら、あんたの妹が暴れるのと違うのか?」 「大丈夫大丈夫。由利子ちゃん達さえ喋らなきゃバレっこないって。それに、このテントの周りは由利子ちゃんの舎弟たちがいっぱいいるから、誰も近づけないだろう」 ここで言葉を切ると、義晴兄さんはにっこり笑った。 「心配するな。俺は単に、妹をからかいたいだけだ。由利子ちゃんだって、千恵子ちゃんに勝ちたいんだろ?」 由利子姐さんは一瞬考えたが、 「……ほな、その申し出、受けさせてもらおうかいな」 承諾した。 「よし」 義晴兄さんは頷いた。 「じゃあ、まず手始めに、俺をロープでぐるぐる巻きにしてくれ。そんで、俺の携帯で拘束された俺の写真を撮るんだ。その写真を、1年の子たちに送りつける。千歳に送るのが一番いいが、千歳は携帯を持ってないからな」 「ちょっと待って。写真だけでのうて、あんたのうめき声や命乞いの声も録音して送りつけたらどうや? もし動画も送れる機種なら、声も入った方が雰囲気が出ると思うけど……」 「ナイスアイデアだ由利子ちゃん! よし、頑張って芝居するぜ。……あ、それから、今、由利子ちゃんの衣装を見て思いついたんだが……」 人質と拉致の実行犯は、いつの間にか、意気投合していた。
ちゃーんちゃーん ちゃんちゃーん♪(←半身タイガースの応援歌『カッコーおろし』) ちゃちゃーんちゃちゃんちゃちゃんちゃ ちゃーんちゃん♪(←キョーランの天気予報) 直子お姉さまの取材攻勢が続く中、みずえと千恵子、園美の携帯電話が、一斉に鳴った。 「失礼致します」 園美が制服のポケットから携帯電話を取り出して操作すると、画面に、衝撃の文章が躍った。 「え?!」 「どうなさったの、園美さま?」 作戦参謀が尋ねると、園美は黙って携帯電話を差し出した。 そこには、 『“新選組”のアニキは頂いた 返してほしくば次の試合の出場を棄権しろ』 という文章が書かれ、しかも、ぐるぐる巻きに縛られた義晴兄さんの写真が添付されていた。 メールには動画も添付されているが、園美の機種では動画を再生できなかった。 「……これは、もしかして、脅迫メールというものでゴザイマスか?」 みずえが言うと、 「脅迫メール?☆」 新聞部の直子お姉さまの目が輝いた。 「ちょ、ちょっとごめん遊ばせ……まぁ、何と言うことでしょう、敵は千歳様のお兄さまを人質にとっていらっしゃるわ」 その言葉に、 「まぁ」 「何?」 美華様とオスカル様が眉をひそめ、 「!」 千歳には緊張が走った。 だが、 「学校新聞の号外の1面は、これで決まりですわ! 見出しは、『卑劣! 敵チーム、生徒の兄を人質に取っての脅迫』……ああ、素晴らしくセンセーショナルな記事になりますわ。アンちゃん、おじょうちゃま、赤橋さん、三人で携帯電話の画面をのぞいてくださらない? そう、そう、そのまま……」 事件記者モード全開の梨壺女御さまは、困惑する1年生たちにポーズをとらせると、ばしゃばしゃとカメラのフラッシュをたいた。 「では今度は千歳さん、こちらにおいでになって! 兄を敵の手中に奪われ、怒りに燃えるそのお姿を、カメラに収めますわ」 「お断り申し上げます」 千歳は冷たく断った。 「ま、な、なぜでございますの? わたくしの背後には、事の真相を知りたい全校生徒の知る権利が……」 後輩の思わぬ台詞に慌てる直子様。 しかし、 「私的な事柄を衆目にさらしとうございません。私の兄がさらわれたから、どうしたというのです。例え何があろうと、敵を破るのが武人の務め。兄の身に何が起ころうと、それに惑わされるような私ではございません」 何となく武士っぽい言い回しで、千歳は珍しく長い台詞を吐いた。 「よ、義晴様の身に危害が加えられてもいいというのですか?」 少々青ざめた顔で新聞部の直子お姉さまが呟くように質問なさる。 「構いません。もしそのようなことがあれば、私たちが勝った後で、敵にそれ相応の報いをくれてやります」 「三壺様」に向かって冷静に言い放つ千歳に、 (勇気あるな、お前……)(←みずえ) (時代がずれてるような気がするんやけど……)(←千恵子) (お願いですから、“飛燕”は持ち出さないでくださいね。持ってる時点で、本当は犯罪ですから)(←園美) 1年生たちは様々な感想を抱いた。 が、この剣呑な雰囲気を放ってもおけず、 「あ、あの、もう時間も余りございませんから、わたくしから作戦をご説明申し上げますわ」 作戦参謀が事態の収拾に掛かった結果、 「あ、え、ええ、かしこまりました」 あっさりと梨壺女御様は通常のモードに戻られた。 だが、冷静さを失いつつある人物が今一人いることに、千恵子さんは気がつかなかったのである……
相手は、都立国分が丘高校「戦場の花嫁」。 マリ見@のOPをBGMにお嬢様方が入場した後、 ♪ちゃーんちゃーんちゃちゃーん ちゃーんちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃーんちゃーんちゃちゃーんちゃーんちゃ ちゃーんちゃーちゃちゃーん フィールドに、厳かなパイプオルガンの音色が響き渡った。 歌劇『ローエングリン』の“婚礼の合唱”である。 (あれ? 「殺れビル」のテーマじゃないのか?) 首を傾げる(ムダ)知識の女王・みずえ。 確か3回戦まで、敵チームは、クエンサン・タランチューラ監督の『殺れビル』のテーマで入場していた。 現に、6人のうち一人は、「殺れビル」の主人公「ザ・花嫁」のコスプレ……即ち、日本風の白無垢の花嫁衣裳を身に纏っており、白無垢の左胸には、守り刀ならぬワルサーP38が顔をのぞかせている。 が、その花嫁と腕を組んで歩いて来るのは…… ♪ちゃーんちゃーんちゃちゃーん ちゃーんちゃーんちゃちゃーん ♪ちゃーんちゃーんちゃーちゃーんちゃーんちゃ ちゃーんちゃーちゃちゃーん 「……義晴さん?」 ……紋付の羽織袴を身に付けた男性の顔を見て、オスカル様が目を見開く。 どうやら、相当に驚いたご様子である。 「まぁ」 「あら」 美華様も直子様も、予想外の展開に、驚きの声を挙げる。 「まぁ、あの方、先ほど観客席で大声をあげてらした方ですわ」 「敵と一緒に入場ということは、まさか敵の回し者?」 観客席のお嬢様方も、この事態に、途惑っていた。 一方、 (も、もしかして……ねーちゃん?!) 千恵子さんは、花嫁を見て愕然としていた。 角隠しにその顔は隠れてはいるが、白無垢の花嫁衣裳を纏っているのは、自分の姉、佐々木由利子だったのである。 でもって、姉の後ろに控えている黒いカトーマスクに漆黒の特攻服の男×5は、髪型こそ普段とは変えているが、自分とも顔見知りの姉の舎弟である。 よりによって、予選最終戦の相手が姉であろうとは、千恵子さんも予想していなかった。 (くっ、ねーちゃんなら、義晴兄さんさらってうちらの動揺誘うくらいの強硬手段に訴えかねんわ。せやけど、ここで一緒に入場してこんでも……って、あかんあかん、これこそ敵の術中にはまってる。落ち着け落ち着け) 千恵子さんが内心の動揺と闘っていると、 「……どういうことかね?」 “聖ガブリエルのオスカル様”こと、斯波真理亜様が前に進み出ていた。 その顔には、心なしか、怒りの色が現れているようにも見える。 そんな真理亜様に向かって、 「よっ、オスカル」 気軽に手を挙げて挨拶する義晴兄さん。 だが、次の瞬間、彼は花嫁から強烈な肘打ちを食らっていた。 「あぐあ!」 昔懐かしいうめき声をあげて地面に膝をつく義晴兄さん。 「!」 オスカル様と千歳の顔に、一瞬、電流が走った。 「……こいつはなぁ、姐御の花婿だ」 花嫁花婿の後ろに立っている、モヒカン頭の男(名前は会田(あいだ))が言った。 「花嫁には花婿がつきもんだからなぁ」 モヒカン頭の隣の、リーゼントで決めている男(こいつは上野(うえの))が後を引き取る。 「つう訳で、この男を掻っ攫ってきたってわけよ」 スキンヘッドの男(岡村(おかむら))が、げへへ、と笑い声を漏らす。 「顔はそこそこだが、真面目そうな安全牌じゃねーか。話も分かるしよお」 オールバックでがっちり固めた男(喜久田(きくた))が、げへへ、と笑い声をもらす。 「女の癖に男の格好してやがる奴には、もったいねえからよお」 金髪をトサカのようにツンツンに立てている男(下戸(げこ))が、挑発するように言う。 すると、真理亜お姉さまと千歳さんを取り巻く空気の性質が、一瞬にして変化した。 「義晴さんを誘拐し、挙句にこの私を愚弄するとは……許さん」 オスカル様は、殺気を放ちつつ、特攻服軍団と花嫁を睨みつけた。 「……貴様ら、我が兄を傷つけた報い、百倍にして返してくれる」 千歳さんも、鬼のような形相で凄まじいばかりの殺気を放射していた。 もしこれが時代劇ならば、次の瞬間には剣を抜き放って敵を切り捨て、“そして彼女の通った後には、累々と死屍が折り重なっていたのであった”というナレーションが入ってしまうだろう。 だが、「命あるものを斬るな」という父親の訓戒と、“飛燕”は控えテントにあるという理由により、千人斬り達成への道は歩まずに済んだのである。 ……今が江戸時代でなくて本当によかった。 ……閑話休題。 前線で怒っている二人を見ながら、 (まずいな) 千恵子は焦っていた。 千歳とオスカルが、冷静さを失っているのである。 これでは、敵陣に深入りしすぎて返り討ちにされるということもあり得る。 今回は、攻撃してくる敵を迎撃する手筈になっているのに、これでは飛んで火に入るなんとやら、になりかねない。 いや、それとは別に、このまま睨み合いが続けば、花嫁が千恵子の姉であることがばれてしまう。 もし、姉がキレて関西弁で怒鳴ったりしたら、千恵子さんにも低俗者のレッテルが貼られてしまうかもしれない。 という訳で、この状況に終止符を打つため、軍師は動いた。 殺気立つ千歳さんとオスカル様の前にするすると歩み出て、彼女は可愛らしく笑いながら、姉とその舎弟達にこう言い放ったのだ。 「……折角色々趣向をこらしてくださったようですが、残念ですわ、ちっとも面白くありませんの☆」 「「「「「「!」」」」」」 今度は、特攻服軍団を取り巻く空気が、緊張度を増した。 そこに千恵子さんは、更に追い討ちをかけた。 「フィールドでお待ちしておりますわ、皆様。首を洗ってお待ちになってくださいませね。皆様を一瞬で屍に変えて差し上げますわ(はあと)」 「「「「「……っ!」」」」」 挑発された特攻服軍団の怒りは、一気に頂点に達した。 だが、相手は、彼らの崇拝する“姐御”の妹であるため、普段なら当然何らかの実力行使に出ている彼らも、全く手が出せず、ただ怒りと困惑の視線を千恵子さんに向けることしかできなかった。 「……」 花嫁も、黙って俯いたまま、わなわなと拳にした両手を震わせている。 普段なら、妹をどついていて当然なのだが、こちらもリアクションがない。 (ふっ。目には目を、歯には歯をっちゅー奴や。ハンムラビ法典万歳) 千恵子さんは内心ほくそえんだが、間髪入れずに、 「では、参りましょう、皆様」 にっこり笑って本陣へと向かい始めた。
全長が1m以上あるM249 MINIMI MARK2を律儀に背負いながら、全身の力を振り絞って、千恵子さんはスタスタと本陣に歩いていく。 その有無を言わせない態度に何も言えず、残りのメンバーたちは軍師様にくっついて歩いていった。 その優秀な作戦参謀の背中を見ながら、 (待っていろ義晴さん。必ず救い出す) “聖ガブリエルのオスカル様”は決心を固めていた。 一方、法律を心情的に踏み外しかけたサムライガールは、次第に普段の冷静さを取り戻しつつあった。 (お兄さんのあの様子、脅されているようには見えぬ。……まさか、敵側に進んで加担しているのか? しかし、何ゆえ?)
怒る千歳とオスカルを見た瞬間、彼女の第6感が警報を発したのである。 (ヤバい、このままだと、ちとちゃんと斯波先輩が敵陣に乱入して、流血の惨事になっちゃう……) 「どうしよ〜、義晴兄さん……って、『戦場の花嫁』にさらわれてフィールドにいるんじゃない。んも〜、ぜんっぜん役に立たないんだから〜」 先ほど、変な連中に襲われたときに、義晴兄さんがKO負けを喫したこと、そして、先ほど携帯に送りつけられた拘束写真と、「助けてくれ、千歳〜」と情けなく救いを求める動画により、瞳の中で義晴兄さんの株価は続落していた。 「どうしよ〜」 一人悩む瞳だったが、 「……あ」 顔合わせが終わり、本陣へと戻っていく千歳を再び見直した時、何かがひらめいた。 (そーだ♪ ちとちゃんの“飛燕”だけでも、あたしが確保して、ちとちゃんに渡さなければいいんだ。そうすれば、取り返しの付かない事態にはならないよね) 「さてと、控えテント行きますか……ちょっと遠いけど」 瞳は席を立った。 これが、彼女にとって、思わぬ収穫を生むことになるのだが、それはまた後で。
フィールドを一団になって驀進していくであろう「戦場の花嫁」を迎え撃とうというのだ。 ちなみに、右翼にはオスカル様と直子様が、左翼には美華お姉さまとみずえさんが布陣している。 が、開始から2分経ち、 (おかしいな) 千恵子は首をかしげた。 園美によると、相手は今まで全員突撃策、しかも3回戦では開始早々に敵の防御網を破壊して1分で勝利を収めた、とのことだった。 それなのに、相手は2分経っても目の前には現れない。 (作戦を変えてきたな。ねーちゃん、うちらの攻撃を迎え撃つ腹か?) しかし、迂闊に前進すれば、本陣を守るものがいなくなる。 それに、こちらはこのような大きな“みにみ”を背負っているので、機動力に劣り、移動していては敵の攻撃に対処しにくい。 (現状維持。ここを固守) 作戦参謀が方針を確認した、その瞬間であった。 ぼしゅっ、という小さな発射音と共に、 「ヒット……」 オスカル様のヒットコールが、フィールドに響き渡ったのである。 (何やて?!) 千恵子さんは、思わず目を見開いた。
(敵が現れない?) 聖ガブリエルのオスカル様こと、斯波真理亜さまは、なかなか敵が現れないことに苛立っていた。 彼女は、最右翼に位置している。 敵を包み込むように捕捉しなければならないので、陣の中央にいる千歳と千恵子よりも早く敵を見つけなければいけないのだが、敵の姿は一向に見えない。 (早く敵を見つけなければ、こちらが勝てない。義晴さんを救えない……) 焦るあまり、梅壷さまはじりじりと、本来いるべきはずの位置よりも、前へ前へと進んでいた。 と、 「大将さま、突出し過ぎですわ。本陣にお戻りください」 優秀な作戦参謀の声が聞こえた。 (いけない) オスカル様は、踵を返し、作戦参謀の指示に従った。 その直後である。 「ぼしゅっ」 という発射音がしたかと思うと、彼女は背中に被弾していた。 (しまった、深入りし過ぎた!) 「ヒット……」 力なく両手を挙げ、戦場を離脱するオスカル様。 だが、彼女の瞳は、敵の本陣のある方角に、ずっと向けられていた。 (義晴さん……)
(ふっ) オスカルをしとめた「戦場の花嫁」は、ワルサーP38を片手に、にやりと笑った。 (ちょろいもんや。うちも頑張れば、猫被れるんやな) 実は、今回、姐御は3回戦までの全員での突撃策を捨てていた。 まず、自分が先行し、敵を一人ずつ打ち崩していき、浮き足立ったところを、30mほど後ろからついてきている舎弟達に突撃させる、というプランを取ったのである。 で、どうやって、オスカルを打ち崩したかというと…… 「大将さま、突出しすぎですわ。本陣にお戻りください」 アンブッシュしたまま、猫を被って、妹そっくりの声で、オスカルに声を掛けたのである。 オスカルはその声に思いっきり騙され、何の疑いもなく移動を開始した。 その背中を、由利子姐さんは一撃したのである。 「「「「きゃああああああ!!!!」」」」 「「「「オスカル様がー!!!!!」」」」 聖ガブリエルの応援団の悲鳴が、由利子姐さんには心地よかった。 (さてと次は、女御と姫かいな。ん……?)
「え?!」 オスカル様から、一番近い位置にいたのは、新聞部の直子お姉さまだった。 「あの、梅壺さまが……?」 (何ということでしょう! このわたくしが、梅壺さま撃墜写真を撮ることが出来なかったとは……) エアガンではなくカメラを片手に握り締め、直子お姉さまは激戦の跡地へと急行した。 だが、戦場と思しき場所には、誰も残っていなかった。 オスカルも戦場から去っていった後で、ただ風が背の高い草を揺らすのみである。 (記者失格ですわ! 梅壺さまを撃墜した敵の写真が撮れないとは……) 口惜しがる直子お姉さま。 と、 「女御様、あちらに敵が」 “おじょうちゃま”の注意が飛んだ。 「え? おじょうちゃま?!」 慌ててエアガンを構え直した直子お姉さまの背中に、 「ぼしゅっ」 BB弾が当たった。 「な……ひ、ヒットでございます」 思わぬ事態に動揺しつつ、直子お姉さまは両手を挙げてフィールドを去らざるを得なかった。 「従軍記者への道は、遠うございますわね……」
「え?」 一方、左翼の美華お姉さまも、この事態に困惑していた。 (どうしましょう、女御さまも大将さまも、撃墜されておしまいになったのですのね……とすれば、こちらは4人。一刻も早く敵を捕捉しなければ……) ウージーSMGを構え、美華お姉さまはメイド服の裾を翻さぬよう、慎重に潜行を開始しようとした。 その時だった。 「姫さま、あぶのうございますわ、伏せて」 “おじょうちゃま”からの指示が飛んだのである。 咄嗟に指示に従う美華様。 だが、あるべきはずの敵からの反応はない。 「おじょうちゃま? どこにいらっしゃるの?」 問い掛けた瞬間、美華お姉さまは背後からの一撃でヒットされていた。 「え……?」 (もしかしたら、これは……) 優雅に立ち上がって両手を挙げる美華様。 「おじょうちゃま?!」
一方。 「え? おじょうちゃま?!」 ぼしゅっ。 「ひ、ヒットでございます……」 沈黙。 「おじょうちゃま? どこにいらっしゃるの?」 ぼしゅっ。 「おじょうちゃま?!」 本陣前にアンブッシュしている千恵子さんの耳にも、一連のヒットコールが届いていた。 (な、何やて? 三壺様がやられた?!) 流石の千恵子も動揺した。 撃墜数は0なのに、こちらは3人も撃墜されている。 あとは本陣のラインを死守して、迫る敵を打ち崩すしかない。 「あかん! みんな、本陣に戻るんや!」 動揺の余り、千恵子は猫を被るのも忘れて怒鳴り、自らも慌てて後退し始めた。 だが、動揺したのは彼女だけではなかった。 この千恵子の台詞を、由利子のものと勘違いした特攻服軍団も、思いっきり動揺したのである。 「いかん!」 「姐御がご立腹だ!」 「皆、本陣に戻るぞ!」 そして、姐御の後方から40mぐらいの距離を置いて付いて来ていた彼らは、慌てて本陣へと帰っていったのである。 (あ、あいつら何してんねん!) 後方の騒ぎを見て、由利子ねーちゃんは目を見張った。 だが、ここで大声で呼び戻してしまうと、自分の位置が割り出されてしまう。 (しゃーない、うちだけで攻撃するか) と、彼女の視界に、茶髪の三つ編みのハイカラさんが映った。 (チャンス!) 由利子ねーちゃんは、みずえさんの後ろに慌てて回りこみ、 「みずえさま、本陣には戻らないで、そのまま待機してくださいませ」 猫を被ってこう言った。 だが。 (この声……千恵にしちゃあドスが効いてるなぁ) みずえは、突然聴こえてきた千恵子の声に首を傾げた。 (それに、千恵、本陣の前からここまで、こんなに速く動けるか? つうことは……) 「逮捕だ、ル@ーン!」 みずえさんは、振り向き様、声のした方に向かって発砲した。 すると、視界には、白い打ち掛けの裾が入った。 (やっぱり、敵かよ!) みずえさんは、もう一度、M19コンバットマグナムの引金を引いた。 それだけでよかった。 次の瞬間には、 「ヒット……」 「戦場の花嫁」が、茂みの中から姿を現し、両手を挙げた。 「うちの負けやわ。やっぱし、友達っちゅーのんは、おいそれと欺けないもんなんやねぇ……」 角隠しの下で、ふっと微笑すると、「花嫁」は戦場から去っていった。 「もしかして……千恵の……姉ちゃん?」 千恵子の家に遊びに行き、一回だけ由利子姐さんに会ったことのあるみずえさんは、ここでようやく、敵が由利子姐さんであることに気がついたのである。 「それならそうと早く言えよ、千恵」 親友に毒づきつつ、みずえは大慌てで本陣へ撤退し始めた。
本陣に戻ってきたみずえさんは、千恵子さんの頭をいきなりたたいた。 「痛っ! 何すんねん」 普段突っ込み役であるだけに、突っ込まれるのには慣れていない千恵子さんは、思わず両手で頭をかばった。
「お前さあ、相手が姉ちゃんならそうと言えよ」 みずえはまだ叩き足りない、といった感じで、口を尖らせている。 その彼女の台詞に、 「何? ではあの花嫁衣裳の女は、千恵の姉上なのか?」 千歳さんも眉を顰めた。 心なしか、その周囲に殺気が漂っているのは気のせいか。 (まずっ! ここで黙ってたことがバレたら、うち、千歳に殺される……) 千恵子さんはこう思い、 「い、言われてみれば、確かに、ねーちゃんや。花嫁衣裳着てたし、うつむいてたから、うち、わからんかったわ……それより、みずえ、さっきのヒットコールは……」 とぼけつつ話題を変えた。 「あ、ああ。オレが姉ちゃんを撃墜したんだ。姉ちゃん、お前の声真似して、偽の指示を出してきたんだ。お前の声にしちゃドスが効いてたから千恵じゃないって分かったんだ」 「うちの声真似……」 一瞬考え込んだ千恵子さん。 「そうか、それでわかった。それなら、三壷様たちの行動にも納得がいくわ。……で、問題は残りの敵や。この人数で打って出るか、それともここを守るか……」 と、 「残りの敵は、お前の声を聞いて、後退した」 千歳が言った。 思わぬ千歳の台詞に、千恵子は思わず「ほんま〜かいなそ〜かいな♪」と歌おうとしたが、慌てて口を噤み、代わりにこう言った。 「うちの声って、あの『みんな本陣に戻れ』ってやつか?」 「ああ。後退するときに、敵が後退していくのが遠目に分かった。頭の数から判断すると、5人だな」 すると、千恵子さんは、会心の笑みを漏らした。 「そうか、わかった。……よし、急いで打って出るで」
一方、こちらは敵の本陣である。 「おい、会田、このまま待機でいいのかよ」 「いいんだよ。そうじゃねーと、俺たちが殺される」 「だけどよー、さっきのヒットコール、もしかして……」 「ば、馬鹿なこと言うんじゃねえ! あれは千恵子さんだ! 姐御がやられる訳がない!」 特攻服軍団は、色々言いながら、ここで待機していた。 と、 「あんたら、何やってんねん! 皆固まって突進せい! 一気に敵を潰すで!」 彼らの崇拝する姐御の怒鳴り声がした。 「おっと」 「いけねえ」 「早くしないと殺される!」 「皆、行くぜ!」 「うおおおおおお!」 特攻服軍団は慌てて、本陣を出た。 その5秒後。 「ばばばばばばばばばばばばばばばばばば」 彼らの前方、10mぐらいの所から、恐るべき量のBB弾が発射された。 「がはぁ、ヒット!」 「ヒット!」 「ヒット!」 忽ちにして3人が脱落する。 「こ、これは……」 「千恵子さん?」 残った二人が慌てて身を隠そうとすると、 「ばばばばばば」 「ぼしゅっ、ぼしゅっ」 その背後からも、BB弾が飛んで来た。 という訳で、 「ち、ちきしょー、ヒット!」 「ヒット!」 残り二人もあっさりと両手を挙げた。 「試合終了! 『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』、決勝ブロック進出!」 司会の声と共に、ギャラリーに歓声が巻き起こった。
試合が終わった瞬間、特攻服軍団を背後から攻撃していた千歳は、敵前で“みにみ”を怒涛の如く連射していた千恵子に駆け寄った。 「どういうことって?」 内心、びくびくしながら千恵子が聞き返すと、 「なぜ、敵が千恵の指示に従ったのか、ということだ」 千歳はこう言った。 「あ、それ、オレも聞きたい。一体どうしてなんだ?」 千歳と一緒に背後から敵を攻撃したみずえもやってきて、会話に参加する。 「……まあ、うちの声がねーちゃんの声に似てた、ちゅーことやな」 (なんでねーちゃんのこと黙ってた、とか聞かれんで助かった……) 千恵子はホッとしつつ回答を始めた。 「うちの声とねーちゃんの声、電話やと相手に間違えられてしまうほど、よう似てんねん。せやから、ねーちゃんの舎弟たちも、うちがさっき『みんな本陣に戻れ』とか『さっさと突撃しろ』とか言うたんを、ねーちゃんの声と間違えたんよ。多分、さっきのねーちゃんのヒットコールも、うちのヒットコールと勘違いしてたんやと思う。せやなかったら、あんな簡単に、うちの声に騙されへんからな。で、舎弟たちは、『みんな突撃しろ』っていううちの声をねーちゃんの声と間違えて、慌てて突進してきた。ねーちゃんは、舎弟たちにとって絶対的存在やからな。何の疑いもなくうちの偽命令に従って、待機していたうちと、本陣の前にいて、突進してくる自分たちをやり過ごした千歳とみずえに挟撃されて、あえなく全滅、ちゅーこっちゃ」 「なるほど。では、三壷様が撃墜されたのは……」 「それは、ねーちゃんがうちの声真似をして、三壷様に偽の指示を出して、自分が撃墜しやすいように操ったんや。せやから、三壷様が、撃墜されたときにうちのことを呼んだんがその証拠や。ねーちゃんが、この試合まで、1回戦から一言も喋らんかったんは、この作戦を実行するためや。うちがもっと早くに、ねーちゃんが出ることを察知できていれば……」 と、 「ぐはあ……!」 義晴兄さんの呻き声がした。 「あ……義晴兄さんのこと忘れてた。ねーちゃんにひどい目に遭わされてるんやろか」 千恵子が慌てて駆け出そうとすると、 「放っておこう。悪乗りしたに決まっている。あのように怒って、損をした」 「そーそー。義晴兄ちゃん、面白ければそれでいい、って所あるからさ。多分、面白そうだから、あの入場とかに進んで協力したんじゃねえの?」 千歳とみずえはこう言った。 「……それもそやな」 という訳で、1年ズは、控えテントに向かったのである。
一方。 「……あ、今、アナウンスがありました。こっちが勝ったみたい」 4回戦が終わったとき、赤橋さんは、無人の控えテントで携帯電話を開いていた。 黒ブチの眼鏡を掛けたその顔には、にこにこと、まるで周りに春風が吹くかのような微笑が湛えられている。 だが。 「ええっ?」 その顔に、一瞬にして雲が掛った。 「勝っちゃったんですか? そっちも?」 園美さんは、殆ど携帯にかじりつかんばかりになった。 「そんなぁ……どうしましょう……今まで誰にも秘密にしてたのに、もし今バレたら……」 最悪の結末を脳裏に思い浮かべ、ほとんどパニック状態に陥ってしまう園美さん。 「……って、インコの鳴き真似で言わないで下さい! ……うん、今回は、諜報活動はしなくていいんです。それだけが救いですけど……うん、うん、そうですね、それしかないですね」 園美さんは、溜め息をついた。 「……わかりました、平八さん。頑張ってくださいね」 園美さんは電話を切った。 「……あーあ、何でこうなるんだろう…」 (これじゃわたしたち、まるでロミオとジュリエット……) 運命のいたずらに、溜め息の止まらない園美さんであった。 だが、この会話を密かに聞いていた人物がいることに、彼女は気がつかなかったのである。
さて、『戦場の花嫁』の特攻服軍団は、試合終了後、自分たちのセーフティーゾーンで、姐御に平伏していた。 「「「「「も、申し訳ありません、姐御……」」」」」 だが、 「別にええよ」 姐御は、彼らの予想に反して、意外と穏やかだった。 「あんたらは悪うない。うちと同じ策を、向こうが取ってくることを予想できんかったうちの責任や。あんたら、ここまでようやってくれたわ。ご苦労やった」 姐御の温かみのあるこの言葉に、 「「「「「あ、あねごぉ……」」」」」 特攻服軍団は一様に感涙に咽んだ。 「いやあ、いい試合だった」 顔合わせ後、セーフティーゾーンで待機していた義晴兄さんが、腕組みしながら頷いた。 「あそこまで、今まで撃墜者が殆どなかったガブリエルを追い詰めたんだ。頑張ったよ、由利子ちゃん」 「いや、あんたの協力がなかったら、あそこまで簡単に三壷は撃墜できんかったやろな。おおきに、ありがとう」 頭を下げる花嫁に、 「いや〜、ははは。俺は妹をおちょくれればそれでよかったんだ」 笑いながら、頭をかく花婿姿の義晴兄さん。 と、 「義晴さん……?」 その声に振り向けば、花婿の目の前には、花嫁に真っ先に撃墜されてしまった男装の麗人が立っていた。 「よう、オスカル」 気軽に右手を挙げた義晴兄さん。 だが、次の瞬間、 ばちん! 「ぐはあ……!」 義晴兄さんの左頬には、オスカル様の強烈な平手打ちが見事に決まっていた。 「ひ、ひどい。何もいきなり、ぶつこたあないだろう」 ただいまの攻撃により、地面に倒れた義晴兄さんは、オスカルに抗議するが、 「ひどいのはあなただ!」 “聖ガブリエルのオスカル様”は、怒りの形相で彼を睨み付けた。 「今、全部聞かせてもらった。この拉致騒動が、こともあろうに、敵方と共謀した上での芝居だったとは……許さん!」 「す、すまん! 俺はただ、千歳をおちょくろうと思ってだな……」 「たとえそれが理由であろうとも、我が方をいたずらに混乱させた罪は大きい! 私が、私が、どれだけあなたのことを心配したか……」 オスカル様は言い放つと、キッと義晴兄さんを睨んだ。 その瞳は、よく見ると、少し潤んでいる。 「オスカル……」 この子は、自分のために、こんなに怒っているのか? 自分が誘拐されたと思ったために、混乱して、姐御の毒牙にむざむざとかかってしまったのか? 義晴兄さんを、後悔の念が初めて襲った。 「すまん、本当にすまん。俺が悪かった。許してくれ」 地面に這いつくばって、義晴兄さんは心から謝った。 この「軽いにーちゃん」にとっては、珍しいことである。 「……」 オスカルは、答えない。 ただ黙って、彼を見つめている。 「……やっぱり、駄目か?」 「……駄目、とは?」 「その……俺を、許してくれないのか?」 「許すも許さないも……」 オスカル様は、その先を言うのを、少しためらった。 「……あなたが無事でよかった」 「そうか……」 (俺が無事で、良かったのか……) 義晴兄さんは、もう一度、心をこめて頭を下げた。 「……本当に悪かった。俺はこんなヤツだが、ま、今後もひとつ、見捨てないでくれよ」 「我がチームの優秀なメカニックを、誰が見捨てるというのだ」 斯波真理亜嬢は、微笑した。 それは、普段の彼女の微笑みより、穏やかだった。 そして、彼女は無言で手を差し伸べ、義晴兄さんは、その手を掴んで立ち上がった。 なぜか、二人はそのまま動かない。 手を握り締めたまま、見詰め合っている。 そして、そのまま時が過ぎ行くかと思われたその時、 「いつまでやってんねん!」 すぱーん! 姐御のハリセンが、金沢義晴氏の頭にクリティカルヒットした。 「あうち」 一声上げて、不可思議なリアクションをする義晴兄さん。 「何をする!」 オスカル様、姉御と義晴兄さんの間に素早く割り込み、花嫁衣裳の姐御を睨みつける。 だが、それに動じることなく、姐御は、 「あんたら、ここでお手手つないでないでちいちいぱっぱしてないで、とっとと決勝の会場に移動しなはれ!」 関西弁で見事なツッコミを入れ、「ほなな」と言い残して、その場から立ち去って行った。 その台詞に、 「お手手……」 「つないで……?」 真理亜嬢と義晴兄さんは、先ほどの自分たちの行動を脳で反芻し直し、 「「え……?」」 お互い、頬を赤く染めたのであった。
また一方では、 「す、スクープですわ! 本日一番のスクープですわ! しかし、これをどう、記事に書いたらよいのかしら……」 聖ガブリエル女学院高校新聞部部長・細川直子さん(16歳)が、愛用のポロライドと一眼レフのシャッターを切りまくり、 「まあ……」 同高校手芸部部長・畠山美華さん(17歳)が、優雅に驚き、そして友人を暖かく祝福していた。 そして、決勝ブロック会場へ移動するため、予選会場の外で集合していた1年生たち(15〜16歳)と勝本信義公(65歳)、牛尾さん(36歳)は、 「おせーな、オスカルたち」 「まだ義晴兄さんの料理に手間取ってるんやろか」 「あの〜、私、呼んできましょうか?」 「ほっときなよ〜、そのちゃん。あの兄さん、ちえちゃんのお姉さんをナンパしてるんじゃない?」 「……おじい様、おじい様と牛尾さんの車で、私たちだけ、先に決勝会場に参る訳にはいかないでしょうか?」 「そうだな、余り遅くなってもな。牛尾、チームの移動用マイクロバスに乗っている斯波家の方と、話を付けて来てくれぬか」 「承知」 こんな会話をのん気に交わしていた。 彼らが事の真相を知るのは、かなりの時間が経ってからである。
一方その頃。 「はい、そうなんです」 ギャラリーの片隅では、大男が携帯電話を開いていた。 『間違いねえのか?』 「はい」 電話の相手は目の前にいるわけではないのだが、つい背中を折り曲げてしまう大男。 携帯電話を当てたその顔は、図体に似合わず、童顔である。 「この耳で聞きました。隣の娘が『佐々木』と呼ぶのを。観戦しながら、メモをとってましたし」 『……ふーん、そうかい。ということは、佐々木として出てるのは別の誰かで、本物はギャラリーにいるってことだな』 電話の向こうの男は黙りこんだ。 「その可能性もあります。フィールドに出ている佐々木はどう見ても中学生ですから」 『……よし。今田、そのメモを奪い取れ』 「あの〜、……奪うんですか?」 『そうだ。奴のメモには、恐らく俺達の情報も入っている。それを奪い取れば奴らは大混乱。あの学校はガードが固くて、メンバーの名前ぐらいしかわからねぇ。ここまで勝ち上がってくるからにゃ、相当な強敵と見ていいだろう。強い所は自滅させるってのは戦略の基本だ』 「わかりました」 『それから、ガブリエルのメンバーの写真、撮って送ってくれ』 「承知」 さあ、こう言って電話を切った大男の正体は誰なのか? そして、彼の電話の相手とは一体? あまり期待せずに、待て、次回!(爆)
……ちなみに、今までの撃墜数。 千歳:5(プラス喜久田) みずえ:6(プラス由利子ねーちゃん&下戸) 千恵子:5(プラス会田、上野、岡村) 直子お姉さま:2+旗 オスカル様:4 美華お姉さま:0
「決勝ブロックに進出を果たしたお嬢様方。 |