まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第六話
| ◇殿中でござる予選編◇ |
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お嬢様方はマ@見てのOPに乗せて、いつもの如く華麗にフィールドに登場した。 だが、彼女たちの表情は、一様に固い。 そして異様なのは、観客席をほぼ占拠している聖ガブリエルの大応援団。 「アンシャン・レジームに固執する極悪非道の襟維斗高校を許してはなりません」 「大会本部は礼儀知らずの襟維斗高校を追放あそばせ!」 「オスカル様の正義の鉄槌をお受けなさい」 「襟維斗は聖ルシファーに謝罪なさい」 「全ての襟維斗生に宣戦布告」 「ファイト! オスカル様!」 「襟維斗粉砕!」 「合併反対!」 ……など、襟維斗高校を非難する様々な横断幕やゲートフラッグを掲げていた。 ちなみに、観客席には、襟維斗高校がさっき聖ルシファーの吉良さんに対して行った、6人一斉距離ゼロ射撃の写真が、大きなパネルに納められ、「襟維斗高校の無慈悲な攻撃」という垂れ幕と共に掲げられている。 勿論、パネルの写真を撮影したのは、先程のお茶会の時、何時の間にか消えていた新聞部の直子お姉さまである。 「千恵子ちゃん、襟維斗を倒せ!」 「あんな奴らに、負けちゃダメだ!」 数少ない男性客も、お嬢様方にエールを送っている。 と、
♪ちゃっ ちゃーっ ♪ちゃーちゃちゃちゃちゃちゃっ ちゃーっ オーケストラの奏でる、何とも重苦しい旋律がフィールドに流れた。 今が夜中で、しかも雪が降っているかと錯覚させる程、暗い雰囲気であった。 そして、その陰陰滅滅とした音楽とともに入場してきたのは、江戸時代の火事装束に身を包んだ男達。 リーダー格の男は、黒い陣笠を被り、黒いだんだら模様が染め抜かれた羽織を身に付けている。 他の連中も、マゲヅラを装着した頭に鉢巻を締め、やはり黒いだんだら模様の入った羽織を着ていた。 何故か一人だけ、顔に白粉を塗りたくっている少年がいるのが、謎っぷりを高めている。 (うっわー、何だよこいつら。瞳の言う通り、確かにヤバそうだ) みずえは、陰の気を放出しまくっている相手チームを見て、あきれ返ってしまった。 で、千恵子はと言うと、相手の余りの物々しさに、 (こいつら、アホと違うか?) 最早前に出る気力を失い、千歳さんの蔭に隠れていたりする。 それをめざとく見付け、 「ふっ、見付けたぞ、佐々木千恵子!」 リーダー格の男が叫んだ。 着用しているだんだら模様の羽織の襟には、「東京襟維斗高校一年 大岩倉之助」と記されている。 「我こそは、今年度の“第一回 全国ゴージャス高1統一模試”総合第2位、襟維斗高校一年、大岩倉之助(おおいわ・くらのすけ)!」 「同じく、総合第3位、大岩力(おおいわ・りき)!」 「同じく、総合第4位、片山高英(かたやま・たかふさ)!」 「同じく、総合第5位、小高忠男(おだか・ただお)!」 「同じく、総合第6位、狭間勘兵衛(はざま・かんべえ)!」 「同じく、総合第7位、堀家安衛(ほりえ・やすえ)!」 襟維斗高校の面々の名乗りを聞いて、ギャラリーのお兄さま方がざわめく。 「何だ、“全国ゴージャス高1統一模試”って?」 「思い出した。千駄ヶ谷(せんだがや)塾の全国模試だ。俺も高校の時、学校で受けさせられたよ。懐かしいなぁ」 「ちょっと待て、あれ、全国で20万人くらい受けてたよな?」 「じゃぁ、あいつらは、その20万人の頂点にいる、ってことか?」 「いけすかねーな」 「流石“エリートに一番近い高校”だが、何だってそんな奴らがサバゲーに……」 ギャラリーが不審の念を抱き始めた時、 「ふっふっふ。佐々木千恵子、よくもこの俺から総合第1位のタイトルを掻っ攫ってくれたな。おかげでわれらの担任の麻野(あさの)先生は、責任を取らされて学校を解雇されたのだ」 大岩倉之助くんが、いかにも無念そうな表情で言う。 「“全国模試トップ獲得請負人”と言われた、我等が麻野先生が、たった一度の事故のため、学校を解雇される……麻野先生も我らも、どんなに口惜しかったことか! うっ、うっ、うっ……」 大岩力くん(ちなみに、倉之助の双子の弟)は、これだけ叫ぶと、感極まって涙を流し始めた。 「失意のうちに学校を去られていく麻野先生……その背中を見て、私は誓ったのだ。たとえどんな手段を使っても、佐々木千恵子の首を取る、と」 静かにこう言った片山くんは、拳を握り締める。 「そしてこのサバゲー大会に、佐々木が参加すると分かった時、我らは狂喜乱舞したのだ。あら嬉しや、かように早くお前の首を取る事が出来ようとは……」 小高君が、非常に嬉しそうに舌なめずりする。 「麻野先生のご無念、そして我らが怨み、それを晴らさんがため、我らはこの戦場へとやってきた」 小高君の後を引き継いだ狭間君の白粉で真っ白な顔も、憎しみと、そしていよいよ敵を討てるという嬉しさで極彩色に彩られていた。 「このサバゲー大会まで引きずってきた……引きずって……」 (?) 突然の台詞の中断に、首を傾げる千恵子さん。 「引きずっ……」 狭間君の態度が、急激に変化したのは、その時だった。 彼は突然、懐から、巫女さんが舞うときに使うような鈴を取り出したのである。 そして、 「♪引きずり男で、ございます〜」 ……鈴を鳴らしながら、歌って歩き回り出した。 その余りに唐突な展開に、 「な、何だアレは?」 「おかしいじゃ、あーりませんか」 唖然とするギャラリー。 そんなギャラリーの戸惑いの視線を受けつつも、狭間君は、 「♪引きずり男は、福を呼ぶ〜」 “引き摺り男は福を呼ぶ”と墨で大書された扇子をひらひらさせながら、なおも歌い歩き回る。 ちなみに、彼の袴の裾には、エアガンやらゴーグルやらタライやら、何やら訳の分からないものまでが紐でくくり付けられていて、それらが床に引き摺られてガタガタと音を立てていた。 (わ、笑える……突っ込みたい……) 千恵子さんは、関西人の血の疼きを、必死に抑えていた。 こんな所で突っ込みを入れてしまったら、“低俗者”の烙印を押されてしまう。 という訳で、千歳さんの陰で、必死に笑いをこらえる千恵子さんだった。 「♪引きずり……」 狭間君の謎の歌が、最高潮に達しようとした瞬間。 「俺の出番を取るなー!」 狭間君の隣にいた堀家くんが、狭間君を張り倒した。 見事に地面に倒れる狭間君。 だが、気絶はしていないらしく、彼は、「あへあへ」と、口から謎のうめき声を漏らしていた。 (お、お約束……) 千恵子さんは吹き出しかけたが、学校生活で培った猫かぶり能力を全開にして、お嬢様の仮面が剥がれ落ちるのを阻止した。 千歳さんの背中に顔を埋め、か細く震えている(実は笑いをこらえている)千恵子さんの姿に、 「まぁ、おじょうちゃまが怯えていらっしゃるではございませんか」 「か弱いおじょうちゃまをこのように虐めるとは……許せませんわ。この悪行、我が校の学校新聞に、大々的に書いて差し上げます!」 「諸君らは、礼儀を知らないのか。よくも、抵抗力のない女子をいたぶる事が出来るものだ……」 桐壺姫さま、梨壺女御さま、そして梅壺大将さまは、それぞれ、彼女らなりの方法で、怒りにその身を焦がし始めていた。 「まぁ、佐々木さまがあのように……おかわいそう」 「ひどうございますわ!」 大応援団は、もちろん大憤慨し、 「千恵子ちゃーん!」 「お兄ちゃんが守ってやるぞー!」(?) ギャラリーのお兄さん達もヒートアップしている。 それはともかく、 「ええい、とにかく、俺たちはこのサバゲー大会で、佐々木千恵子を倒して優勝するのだ!」 ステージ上では堀家くんが大声をあげていた。 「幸いに、俺は中学の頃、サバゲーを嗜んだ事がある。実戦でのみ培われる勘と経験……お前には無いものを、俺は持っているのだ。佐々木千恵子、今こそ麻野先生のご無念を思い知り、我等が復讐の刃の前にその首を差し出すのだぁ!」 堀家君は大声で笑った。 だが、 「ふざけんなー!」 「無礼者!」 観客席のお兄さま方からも、お嬢様方で構成される大応援団からも、襟維斗高校に対する非難の声が上がり、 「Bu〜〜〜!」 「Bu〜〜〜!!」 「Bu〜〜〜!!!」 激しいブーイングが巻き起こった。 「……あの、質問しても、よろしいですか?」 完璧にお嬢さまの仮面を被った千恵子さんが、すっと一歩前に出る。 「あの、“全国ゴージャス高1統一模試”というのは、一体何でございますの?」
大岩倉之助が叫んだ。 「自分が総合第一位を取った、“全国ゴージャス高1統一模試”を覚えていないのか!?」 「しらばっくれるなー!」 双子の弟・力も、千恵子さんに向かって怒鳴りつける。 だが、その怒りを笑顔でさらりと受け流し、 「そうおっしゃられても……」 千恵子さんは、困惑した風に言った。 「わたくし、模試を受けた事はございませんの。それに、学校で模試を受けるということもございませんの。どなたか別のお方と、勘違いしていらっしゃるのではないかしら?」 お嬢様の仮面を完璧に被った千恵子嬢は、そう言って微笑んだ。 その可愛らしい笑顔に、 「や、ヤバい……」 「妹萌えー!」 ギャラリーの一部の興奮度が更に高まった。 だが、その微笑みも、襟維斗高校の面々の心を和らげるまでには至らず、 「ふざけた事を申すな!」 「我等が、お前への怒りを心に秘めて、一体どれだけの月日を送ってきたと思っているのだ!」 ダンダラの集団は怒り狂い、あわや千恵子さんに掴みかかろうとする者もいた。 と、そのとき、千恵子さんと敵チームの間に颯爽と割って入った栗色巻き毛。 「下がりたまえ! 佐々木君に指一本でも触れてみろ。この私と、聖ガブリエルの全校生徒が黙ってはいないぞ」 凛々しすぎる。宝塚もかくやのその威風。 “聖ガブリエルのオスカル様”の声に敵チームも気圧され、一瞬、尻込みする。 千恵子さんの隣で、千歳さんも無言で敵を睨みつける。 二人の男役(?)が睨みをきかせた結果、襟維斗高校の面々は、しぶしぶ、といった感じで、元の位置まで後退した。 「あの、おじょうちゃま?」 そこで助け舟をお出しになったのは、“梨壺女御”こと細川直子さまである。 「はい、何でございましょうか、女御さま」 お姉さまに可愛らしく微笑む千恵子さん。 「我が校では、4月の始業式の日に、学力テストを受けるのが恒例となっておりますわよね。この方たちは、それをおっしゃっているのではないかしら。ほら、あの学力テストは、確か“全国ゴージャス統一模試”を主催する、千駄ヶ谷塾のテストだったでしょう。もしかしたら、わたくしたちが学力テストとして受けているのは、“全国ゴージャス統一模試”なのではないかしら?」 新聞部の直子お姉さまのご説明に、千恵子さんはちょっと考え込んだが、 「……ああ、それなら、筋が合いますわ、女御さま。わたくし達は、学力テストとして、その実、“全国ゴージャス統一模試”を受けていたのでございますね。この方たちがおっしゃっていること、ようやく腑に落ちましたわ」 笑顔でお姉さまに申し上げた。 「ですが……わたくし、自分の全国成績を見ておりませんわ。てっきり、校内だけの試験だと思っておりましたから。校内成績は確認したのでございますけれど」 「だからっ、それが1番なのだ!」 お嬢様方の心洗われる会話にイラついていた片山君が突っ込んだ。 「あら、そうでございましたの? 申し訳御座いません。わたくしったら、ちっとも存じませんでしたわ」 優雅に、そして、おっとりと、突っ込みを受け流す千恵子。 「ですが、画一的で無味乾燥な模擬試験対策や受験勉強よりも、もっと大切なものが、人の成長には欠かせないとはお思いにはなりませんか?」 「な、何のことだ」 唐突な話の展開に、動揺する小高くん。 だが、それを完全に無視し、 「よろしゅうございますか?」 千恵子さんは、飛び切りの笑みで、話を強引に、そしておっとりと進め始めた。 「受験勉強や模擬試験対策というものは、動詞の変化とか積分とか、漢文の文法やらメンデルの遺伝の法則やら、石灰に塩酸を加えた時の化学反応やら力学的エネルギー保存則やら、たくさんの事項を覚えて、使いこなさなければならないのでございますわ。しかし、それを完璧にこなすことができました所で、わたくしたちが得るところのものは、記憶力と忍耐力のみ……これでは、人として欠かすことのできないものを、獲得することが出来ないのでございますわ。例えば、鳥の美しい鳴き声を愛でたり、桜の花の美しさに心洗われたり、名月の美しさを褒め称えたり、紅葉の美しさに心打たれたり、綺麗な雪景色を愛でつつ眺めたりするような風雅な心、困っていらっしゃる方の手助けを進んでしたり、理不尽な理由で虐められたり、不条理な罪を被せられてしまっていたりするような方をかばうような優しさ、思いやり、正義の心、そして、友の良いところを認め合い、悪いところは指摘し、共にお互いを認め、切磋琢磨しあう人間関係……化学反応式やらワ行上一段活用やらDNAから蛋白質が翻訳される過程やらミノフスキー粒子の理論やらをただひたすらに頭に詰め込む受験勉強では、決して得られないものばかりでございますわ。勉学に励むのもよろしゅうございますけれど、将来、人の上に立とうとする人間であるのならば、我がままを抑え、礼儀を守り、能(よ)く人の道を修め、人としての芸術的な感性を磨き、自らが人格的にも能力的にも尊敬を受けるに値する人間になることができるよう日々精進することが、学生であるわたくしたちに課せられた天命でございますわ。そうは思いませんこと?」 千恵子の流れるような弁舌に、 (一体、何を言っているんだろう?) (でもとりあえず、いいことを言っているのは確かだ) ギャラリーのお兄さま方は、完全に呆けたような表情をしていた。 「まぁ」 「素晴らしいですわ」 大応援団は、一様に、学年一位の秀才である千恵子さんに尊敬の眼差しを送っている。 話の内容を理解しているかどうかは、定かではない。 (千恵……お前は何が言いたい?) (いくら時間稼ぎって言ってもよ、これは無理があるんじゃねーか?) 千歳さんとみずえさんは、半ば呆れたように友人を見つめている。 「まぁ、その通りですわ、おじょうちゃま」 「流石おじょうちゃま。いいことをおっしゃいますわ。今のお言葉、学校新聞に載せとうございますわ」 「全くだ。それこそが人としての美しい生き方というもの……」 唯一、納得したように頷いているのは三壺様のみである。 で、 「何だとー!」 唯一怒りに燃えているのは、襟維斗高校ご一行様であるのだが、千恵子さんは相手の様子を完全に無視し、更に言葉を続けた。 「やれご自分の成績が一番だったの、一番でなかったの、と順位に一喜一憂して、大仰に騒ぎたてるのは、それはそれで結構でございますわ。しかし、順位ばかりに捉われていては、それよりも大事なものを見失ってしまうのでございますわ。順位などを気に掛けず、ただ自らをひたすらに磨いていくのが、人であるものの努めではございませんこと? まして、“エリートに一番近い高校”に在学なさり、国を動かすエリートになろうとしていらっしゃる貴方がたなら、なおさらのことでございますわ。このような状態では、わたくし、あなた方が支配なさる40年後の日本が、心配でなりませんことよ」 「う、うぐっ……」 憎き仇敵の言葉に、襟維斗高校の面々は、反論すら出来なかった。 するとそこで、すっと前に歩み出る、白いフランス軍服に身を包んだ男装の麗人。 「……佐々木君の言う通りだ」 凛々しくおっしゃったのは、ご存じ、聖ガブリエルのオスカルこと、斯波真理亜その人であった。 「……己の成績の悪さを他人のせいにする、その余りに幼稚な振る舞い、そして我が校の姉妹校・聖ルシファー女子高等学校『地獄のアーク・エンジェル』に対する、礼儀を欠いた立ち振る舞い……腹立たしいにもほどがある。諸君らは、もはやエリート予備軍でも何でもない。ただの無礼で無知な野獣にしか過ぎない……」 そこで一旦言葉を置くと、オスカル様は右の人指し指を大岩倉之助に突きつけて、 「恥ずかしくないのか、諸君!」 こう言い放った。 「いいぞ、オスカル!」 男性客が叫べば、 「ああ、その通りですわ、オスカル様!」 聖ガブリエルの応援団も賛同の声を挙げる。 そして、 「オ、ス、カル!」 「オ、ス、カル!」 「オ、ス、カル!」 観客席にはオスカルコールが巻き起こった。 「くっ……」 余りに自分達に冷たいギャラリーの様子に、歯ぎしりする大岩倉之助。 そして、孤立無援の彼らに、オスカル様は止めの台詞を放った。 「このような幼稚でもの知らずで無礼な連中に、聖ガブリエルのジャンヌ=ダルク・佐々木君の出馬を願う必要はない。この私自らが、諸君らを迎え撃ってくれよう。武人の、いや、人としてあるべき振る舞いを、とくとわからせてあげようではないか」 「うぉーっ!」 「いいぞぉ!」 「オスカル様ぁ!」 観客席が歓声に包まれる。 「まぁ……」 美華さまは、友人の凛々しい姿に、うっとりと見惚れてしまっていた。 そして、 「武人の、いや、人としてあるべき振る舞いを、とくとわからせてあげようではないか……いいお言葉ですわ。記事に使えそう……」 新聞部の直子様は、“聖ガブリエルのオスカル様”の名台詞を、取材手帳にメモしている。 勿論、合間に、オスカル様の凛々しいお姿を愛用のカメラにせっせと収めるのも忘れてはいない。 「くっ……」 観客席とは対照的に、憂色に包まれる襟維斗高校『一二・一五決起部隊』。 だが、その雰囲気を破ったのは、やはりリーダーの大岩(兄)であった。 「だが、佐々木が作戦を考えないと言うのなら、佐々木の首は我等のものも同然。待っていろ。佐々木の首、必ず貰い受けるぞ!」 「「「「「えい、えい、おーっ!」」」」」 倉之助の声に、残り5人は気勢を揚げた。 「降伏なさい、襟維斗高校!」 「お前らに、サバゲーがわかってたまるかぁ!」 観客席に怒号が渦巻く中、両軍はそれぞれの本陣へと向かったのである。 もちろん、例のごとく、 「大天使ガブリエル様の名のもとに!」 「百合の花のもとに!」 という叫び声が、ひときわ大きく会場に響き渡ったのは言うまでもない。
「あいつら、何をしている……」 会場を見下ろす、八階建てのマンションの屋上で、一人の男が、お嬢様方と襟維斗高校の顔合わせを、苦々しい表情で眺めていた。 「ちんたらちんたらと会話するとは……さっさと佐々木を消滅させなければ、魔王クラーマ様の御為にはならない、と、わかっておるだろうに」 白い着物に、浅葱色の切腹裃を付け、マゲヅラを被った男は、そう言って舌打ちした。
『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』が、腰の刀に手を掛けた時、 「麻野匠(あさの・たくみ)だな」 彼の背後から声が掛かった。 『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』が振り返ると、そこには、黒い着物と、同色の細い縦縞の入った袴を纏った、坊主頭の男が立っていた。 殆ど皺のない野太さを感じさせる顔、そして、着物の上からでもわかる、がっちりとした身体……見た目は、40歳代後半から50歳代前半にしか見えないが、その身体からは、人生経験をそれ以上に重ねたものだけが出すことの出来る、圧倒的なオーラが立ち上っていた。 その背後には、紺一色の着物と袴を身に付けた、精悍な顔立ちの男が控えている。 「ふん」 『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』は、鼻で笑うと、 「人間であった頃は、確かにそう名乗っていたが、今は魔王クラーマ様に新しい名前を授けられている。『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』とは、すなわち私のことだ」 ひとしきり高笑いした。 が、坊主頭の男は全く動じずに、 「……そうか、ならば話は早い。死んでもらおう」 こう宣言すると、手の指をバキバキ鳴らした。 後ろの男も、腰の日本刀を鞘から抜く。 だが、 「ふっ……貴様ら、ここに私一人しかいないと思っているのか?」 余裕の笑みで返す『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』。 そして、彼が指をパチン、と鳴らすと、どこに隠れていたのか、屋上にわらわらと人が出現した。 全員が江戸時代の火事装束に身を包み、髷ヅラを装着した頭に鉢巻を締め、黒いだんだら模様の入った羽織を着ている。 「われらは、私と、そして向こうにいる最も優秀な部下6人。そしてここにいる41人。それが合わさっての怪人なのだ。お前らは2人。一瞬で殺してやろう」 『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』の台詞に、坊主頭の男……金沢千歳さんの外祖父、勝本信義(かつもと・のぶよし)公は、ため息をついた。 「やれやれ。おかしな奴らだ。自分の所轄管内に、こんな奴らが3人も4人も出現しては、あの有能な上杉君が苦労するのも無理もない。まぁ、それに負けず劣らず謎な連中のおかげで、何とかやっているのだろうが……」 ちなみに、『上杉君』と言うのは、裏情報屋でも、現役自衛隊員でもなかった。 「何をぐだぐだ抜かしている!」 『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』が叫ぶ。 「お前ら、やってしまえ!」 「「「おう!」」」 威勢良く叫ぶ『忠臣蔵討ち入り怪人・漆号』〜『忠臣蔵討ち入り怪人・肆拾漆号』を見やり、 「無駄なことを……」 じいさまは呟いた。
本陣に戻ると、みずえさんは不安げに、作戦参謀に尋ねた。 「本当に、これでよろしゅうゴザイマスの?」 「……よろしゅうございますのよ」 千恵子さんは、いつもと変わらぬ笑みで、友人に返答した。 「千歳さまのおじい様の御指示の通り、時間稼ぎは致しましたわ。そして、あとは、かねての作戦通りに展開し、2列縦隊で進んでくる敵をわたくしが掃討する……。これで十分です」 「ですが、あの方たちが、2列縦隊で進んでくるという保証はどこにもゴザイマセンわ。1,2回戦のように、各個分断を図ってこられるかもしれませんのに……」 なおも不安を口にするみずえさん。 が、 「みずえ様。敵の行動パターンが、私と千歳さまのおじい様の予想の通りなら、こちらの思う壺ですわ」 作戦参謀は、そう言ってにっこり笑った。 「それも、そうでございますわね……」 みずえはこれで納得したが。 (……ちゅーか、ホンマにこれでええんかいな?) 実は、千恵子さん自身が、じいさまの指示した作戦が腑に落ちなかった。 各個分断を避けるため、本陣に固まるのはわかる。 だが、じいさまは、なぜ、「敵は2列縦隊で前進してくる」と断言するのだろうか? (問題はその先にもあるけど……まぁよろし。うちは殿さんを信じて、この作戦を実行するまでや) おじょうちゃまは、腹を括り、 「では、皆様、展開なさって下さいませ」 「みにみ」を構えながら、こう言った。 他の五人も無言で頷き、銃を手に取る。 そして、直子お姉さまと千歳さんが右翼に消え、美華お姉さまと真理亜お姉さまが左翼へと去っていった。
「やぁっ!」 びしいっ! 「あべし!」 「ふん!」 ばきぃ、どかぁ! 「ぐっ……」 「無念……」 ……例のマンションの屋上では、“殿さん”とその執事が、『忠臣蔵討ち入り怪人』達と、大乱闘を繰り広げていた。 牛尾さんは日本刀を使っているが、じいさまは、何と素手である。 で、『忠臣蔵討ち入り怪人』達は、日本刀を振り回しているのである。 常識的に考えれば、前者に勝ち目はないはずなのだが、しかし、勝本家の主従は、常識を超えていた。 今も、じいさまのパンチで、怪人の一人が吹っ飛び、周りにいた2人も、飛んで来た身体の下敷きになって昇天してしまっている。 そして、執事の牛尾さんが刀を振る度に、怪人が一人、また一人と気絶していく。 とにかく、怪人達は、人間二人に一方的に押されていた。 しかも、 「牛尾、殺すなよ。だが、油断するな」 「心得ております」 人間の方には、会話を交わす余裕すらある。 「くっ……」 『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』の顔に、焦りの色が見え始めた。
フィールドでは、じいさまの予言どおり、襟維斗高校の面々……いや、『忠臣蔵討ち入り怪人・壱号』〜『忠臣蔵討ち入り怪人・陸号』が、2列縦隊で、粛々と敵本陣に向けて前進していた。 「ざっ、ざっ、ざっ」 という、草履が地面を蹴る音と、 「ずるずるがたがたがらんがらん」 3列目の右側にいる『忠臣蔵討ち入り怪人・伍号』こと狭間くんが引き摺る、タライなどの謎の物体が出す音以外は、フィールドは無音であった。 (ふっふっふ) 最前列の右側で、『忠臣蔵討ち入り怪人・壱号』こと大岩(兄)はほくそえんでいた。 (聖ガブリエルは、我らの戦い振りを見て、恐らく、モグラのように本陣に固まっているに違いない。それを引きずり出すには……) まず、本陣の近くに着いたら、4人をアンブッシュさせておく。 残り二人は更に前進させ、軽く攻撃を加えては後退、という動作を繰り返させる。 そうすれば、敵側は痺れをきらし、前進してくる人間が出てくるだろう。 そいつをアンブッシュさせておいた4人の射程圏内までおびき寄せて討ち取り、あとは6人全員で敵本陣に強襲をかける。 そうすれば、こちらは6人、あちらは5人以下。 勝機は十分にあるはずだ。 大岩(兄)は、自分の脳裏に描いた完璧な作戦をもう一度反芻すると、にやりと笑った。 そして、彼らがフィールドの真ん中に位置する、少し木が多い地帯に踏み込んだ、丁度その時である。 「このサバ侍〜!」 「このイカざむらい〜!」 「このフナ侍〜!」 観客席の、お兄さん達のいる一角から、野次が飛んだ。 すると…… 「「「「「「お、おのれ……!」」」」」」 6人の顔は、見る見るうちに怒りに染まった。 「ゆ、許せん……」 「兄上……もはや我慢がなりません!」 「ええい! もはや許す事が出来ん!」 怒りにその身を委ねてしまった怪人達は、口惜し涙を目に浮かべ、次々に叫び始めた。
大岩くんも、今まで構築していた作法、いや作戦を、怒りの余りすっかり忘れてこう叫んだ。 「「「「「「えい、えい、おー!」」」」」」 そして、彼らは気勢を上げると、そのまんま仇敵の待つ本陣へと全速力で驀進し始めたのである。
「このサバ侍〜!」 「このイカざむらい〜!」 「このフナ侍〜!」 ギャラリーの野次が届いていた。 すると、本陣で待機している、千恵子さんとみずえさんに、緊張が走る。 (……敵、予定地点に到達) 参謀の千恵子さんは、細い目を更に細めて、フィールドの彼方を見やった。 そして、 「「「「「「えい、えい、おー!」」」」」」 敵の雄叫びが聞こえた。 「げ、デカイ声……ていうか、オレと千恵だけで大丈夫なのか?」 M19コンバットマグナムを構えたみずえさんが、作戦参謀に問い質す。 「うちの弾幕が破られんかったら、な。まぁそんなこと、万に一つもあらへん」 千恵子さんはこう答えた。 (義晴兄さんたちの野次で、敵は思考力を失う……そしたらどうなるか? うちの方に全員向かってくるに決まってるわ) 千恵子さんは、じいさまから授かった作戦を、もう一度おさらいし始めた。 実は、あの「サバ侍」の野次は、ギャラリーに紛れ込んだ義晴兄さんと赤橋さん、そして二階堂さんが飛ばしたものである。 飛ばすタイミングも「敵が木が多いところに入ったら」と決められていた。 そして、彼らが「サバ侍」と呼ばれるとどうなるか…… それは、2回戦の、吉良さんへの攻撃を見れば、おのずと分かる。 つまり、野次によって、お嬢様方は敵の位置を知り、そして、敵の行動を支配してしまったのである。 恐るべき戦略テクニックと言えよう。 あとは、突進してくる敵を、弾幕を張って掃討すればよい。 だが、走っている敵というものは、意外と撃墜しにくい。 武田騎馬軍団に対して、織田鉄砲隊が一方的な勝利を収めた長篠の戦いでも、もし、馬止めの柵が鉄砲隊の前に並べられていなければ、鉄砲隊の狙いは定まりにくくなり、織田軍の一部は討ちもらした武田騎馬隊に蹂躙されていただろう。 馬止めの柵があり、騎馬の敵に狙いがつけやすくなったからこそ、織田鉄砲隊は一方的に武田軍を打ち破れたのである。 (アンブッシュ組には、向こうが来たら攻撃せい、とは言うたけど、それだけでいけるやろか……まさか、今から柵作るわけにもいかんし。まぁ、あきらめるよりしゃあないか) 千恵子さんは、MINIMI M249 MARK2を握る手に力をこめた。 「うおーっ!」 「おのれー!」 早くも、『一二・一五決起部隊』が、こちらに迫ってきつつある。
「フリーズあそばせ」 畠山美華さまは、『一二・一五決起部隊』の背後に回りこみ、フリーズコールをかけていた。 なぜおとなしい美華様がこんな行動に出たのだろうか? ……実は、彼女、一回戦での誤認撃墜を、未だに悔いていたのである。 そのため、 (後ろから攻撃すれば、敵も意表をつかれますから、更に数を減らす事ができますわ。そうすれば、おじょうちゃまたちも迎撃しやすくなるはず……) という考えの元、積極的な作戦行動に出て、敵の背後を取れる位置に潜んでいたのだった。 作戦参謀の千恵子さんの予想をも上回る、美華さまの見事な迂回作戦能力である。 しかし、 「おのれー!」 「思い知れー!」 「麻野先生の仇ー!」 「あへあへ!」 怒りに我を忘れている『一二・一五決起部隊』は、“聖ガブリエルの聖女様”の決死のフリーズコールを無視し、そのまま猛然と走り去っていった。 「そ、そんな……フリーズを宣告したのに、何故あの方達は止まらないの?」 フリーズコールを無視され、自分の存在をないがしろにされた悔しさに、一人戦場で涙を浮かべる美華様。 勿論、ギャラリーのお兄さん達の心に、その美しい泣き顔が、九頭竜クエストの“かいしんのいちげき”並みの衝撃力でヒットしていたのは言うまでもない。 だが、これが悪夢の前兆であることを、ギャラリーも、お嬢様方も、そして、当の美華様自身も、予測できなかったのである……
「麻野先生の仇ー!」 「あへあへ!」 「おんどりゃー!」 思い思いの雄叫びをあげながらこちらに向かって突進してくる襟維斗高校ご一行様。 その様子を見て、 「来たぜ来たぜ」 みずえさんは、口笛をひゅう、と吹いた。 「すげえなぁ。千恵子は、高家って訳ですか。さしずめオレは内匠頭を後ろから羽交い絞め……浅野殿、殿中でござる!……なーんちゃって」 ……その時だった。 本陣に、鬼気迫る形相で突進していた襟維斗高校の面々の動きが、ぴたっ、と止まったのである。
みずえさんは呆気に取られた。 ギャラリーも、この状況に声も無い。 が、冷静だった人は、こんな時でも何人かいる訳で、 「今やっ!」 千恵子さんは「みにみ」の引き金を迷わず引いた。 千歳さんと真理亜お姉さまも、戦局を冷静に判断し、 「思い知れ!」 「悪行の報いを受けたまえ!」 敵の両サイドからエアガンを連射する。 さしもの怪人たちも、3方向からの一斉射撃には敵わなかった。 しかも、動きが止まってしまっているので、アンブッシュも反撃も出来ない。 で、 「ぐはぁ、ヒット……」(←『忠臣蔵討ち入り怪人・壱号』こと大岩(兄)) 「あ、兄上……ヒット……」(←『忠臣蔵討ち入り怪人・弐号』こと大岩(弟)) 「くそっ、われらの本懐が……」(←『忠臣蔵討ち入り怪人・参号』こと片山くん) 「そんな……ヒット……」(←『忠臣蔵討ち入り怪人・肆号』こと小高くん) 「かいーの」(←『忠臣蔵討ち入り怪人・伍号』こと狭間くん) 「何だとぉ……ヒット」(←『忠臣蔵討ち入り怪人・陸号』こと堀家くん) 襟維斗高校の面々……すなわち、『忠臣蔵討ち入り怪人・壱号』〜『忠臣蔵討ち入り怪人・陸号』が、思い思いの断末魔の叫びをあげ、一斉に地面に倒れていた。
だが、それを確認できた者は、このフィールドにも、そして、ギャラリーにも、誰一人としていなかった。 唯一、千歳さんだけが、 (胡乱な気配が……消えた?) 襟維斗高校の面々の変化に、首を傾げていたが…… とにかく、この展開に、 「おおおおお!」 「よくやった!千恵子ちゃん!」 「ああ、素敵ですわ、オスカル様!」 「千歳お姉さま……!」 お兄さん達も、大応援団のお嬢さま達も激しく喜び、歓声がフィールド中に響き渡った。 「よっしゃ!」 「やりましたぁ!」 「さっすが、ちえちゃん!」 野次を飛ばし、千恵子さんの作戦をアシストした義晴兄さんと赤橋さん、二階堂さんも、ハイタッチして喜びを分かち合う。 「すごいです、皆さん。千恵さんの正確な読みも素晴らしいし、咄嗟の事態に対して冷静に対処した千歳さんと斯波先輩、それに、あの顔合わせ……美味しいシーン満載ですねぇ。今のうちに書き止めて……」 小説のHPを持っている園美さんは、そう言ってメモ帳とボールペンを取り出した。 「え、鷹木(たかぎ)先生、ネタ帳持ってきてたの?」 思わずペンネームで友人を呼んでしまう瞳さん。 「当たり前です。いつ思いつくかわからないし……鷹木先生って言うの止めて下さい」 まだまだ続く歓声の中、園美さんは恥ずかしそうに言う。 そして、終了を告げるホイッスルの音が響き渡り、 「よーし、よくやった千歳、オスカル!」 腹の底から快哉を叫んだ義晴兄さんに、次の瞬間、 「え……?」 「あの方、オスカル様を……」 聖ガブリエルの応援席から、大量の訝しげな視線が浴びせられたが、当の本人は全く気付いていなかった。
「そ、そんな馬鹿な……」 フィールドを遠望し、『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』は茫然としていた。 自分の優秀な部下たちが、あっさりとお嬢様方に撃墜されてしまった光景を、彼は目撃してしまったのである。 「……ええい、不甲斐ない奴らめ!」 怒りを露わにする『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』。 ちなみに、現在、怪人の数は彼を含めて3人にまで減っている。 そして、 「ふん!」 じいさまの回し蹴りにより、 「ぐ……!」 「うわぁ」 一瞬で2人が気絶させられ、とうとう、残っているのは、『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』だけになってしまった。 「おのれ……」 悪鬼のような凄まじい形相で、『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』は腰の刀を抜き放った。 「まだ、終わってはおらん……この私の手で、佐々木を屠り、そして、センゴクマンを……」 刀を構え、血走った目でじいさまと牛尾さんを睨みつけながら呟く。 「観念しろ、麻野」 手の指をバキバキ鳴らしながら、じいさまが言った。 「う……お、おのれー!」 『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』が、じいさまに襲い掛かる。 だが、その一撃を軽々とかわし、 「日本の警察を甘く見るな」 信義公は、『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』に、渾身の右アッパーを放った。 「ぐはぁぁ……」 ちゅどーん。
勝本の殿様は呟いた。 「御意」 牛尾さんが一礼する。 「……それにしても、今の警察庁長官は何をやっておるのだ。こんな奴らを野放しにしておくとは」 「仕方がありません。今まで、魔王クラーマの怪人は、函館にしか出現しておりません。東京での対応が多少遅れるのも無理はないかと……」 「それもそうか……まぁよい、今のことは、後で私から足利(あしかが)君に伝えて、注意を促しておこう。操られていたこやつらも、何とかしなければならないからな」 そう話す殿様の足元には、魔王クラーマから解放された、『忠臣蔵討ち入り怪人・零号』こと、炎の高校教師・麻野匠先生が転がっている。 その顔は、身を苛んでいた妄執から解放され、穏やかなものになっていた。 それは、屋上に倒れている生徒たちにも共通している。 ……一応、全員、軽い打撲と気絶程度のダメージで済んでいる。念のため。 「……千恵子たちは、今回の一件の裏にあるものに気付くかな?」 ふと、勝本の殿様は言った。 「さぁ……魔王に操られていた者と戦ったことですし、気付こうと思えば気付くこともできるかと思いますが……千恵子さんは現実家ですし、『受験ノイローゼで頭がおかしゅうなったんやろ』で納得しているのではないでしょうか」 ここ最近、主人の元に日参する千恵子さんと毎日顔を合わせている牛尾さんは、彼女の口調を真似つつ、推論を述べた。 普段無口な彼にしては、珍しいことである。 「……余り似ておらんぞ」 微苦笑を交えつつ、殿様が突っ込む。 「はっ、恐れ入ります」 慌てて頭を下げる牛尾さんの顔にも、苦笑が閃いた。 「……まぁよい、わしが昔、警察庁長官だったということは、義晴と千歳すら知らないことだ。流石の千恵子でも、そこまでは分かるまい。それを知らなければ、怪人や魔王の存在など、現実味を帯びない」 勝本の殿様……いや、今でも警察内で「史上最強の長官」と恐れられる元警察庁長官・勝本信義どのは、そこで一旦言葉を置くと、 「……ふふ、まだまだ、わしの方が一枚上手、ということだな」 にんまり笑ったのであった。
千歳:4(プラス片山君と狭間君) みずえ:4 千恵子:2(プラス大石(兄)と大石(弟)) 直子お姉さま:2 オスカル様:4(プラス小高君と堀家君) 美華お姉さま:0
「いよいよ予選最終戦まで勝ち上がったお嬢様方。
『FANG GUNNERS』に、負けるな、お嬢さま」 |