まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第五話
| ◇あだ討ちチャンバラ予選編◇ |
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お嬢様方は全員ギャラリーへと移動し、試合を観戦することになった。 今度は、制服には着替えず、コスチュームに身を包んだまま、ギャラリーに現れたので、 「きゃー、オスカルさま!」 「金沢お姉さま!」 「はいからさーん!」 「セーラーのねーちゃーん!」 「メイドさん、こっち向いてくれ!」 「千恵子ちゃーん!」 ギャラリーは歓声に包まれ、一時騒然となった。 が、お嬢様方は、三壺様の家のガードマンさんたちに守られていたため、何事もなく席に座る事が出来た。 と、そこで、 「あら」 腕時計で時刻を確認し、おっとりと呟かれたのは聖ガブリエルの聖女様、畠山美華さまだった。 そして、熱気溢れる会場の中で、こうおっしゃったのだ。 「みなさま、10時ですわ。お茶に致しませんこと?」 ……何の冗談だ? しかし、作者の疑問をよそに、残りの三壺様も、 「では、そうしようか」 「もちろん、喜んでいただきますわ」 かたや凛々しく、かたや元気にお答えになった。 すると、 「ああ、よかった」 美華さまは微笑まれた。 相変わらず、世の男性諸君を全て虜にしてしまうのではないか、という、美しく、気品溢れる笑顔である。 となると、 「ね、一年のみなさまも、一緒にいただきませんこと?」 当然、美華お姉さまの攻撃の矛先は、優雅に1年生たちに向く。 (めんどくさいなぁ) と千恵子は思った。 お茶などしていては、試合が見られないし、三壺様の話し相手をしなければならないので、戦略構築に没頭することも出来ない。 千恵子がそう思って、断ろうとした瞬間、美華お姉さまと視線がぶつかってしまった。 美しい瞳で、じっと自分をご覧になっている美華さま…… (うっ……) ♪どうする、愛野郎〜 千恵子はチワワに見つめられたおじさん状態に陥ってしまった。 「……ここでなら」 千恵子はそう答えざるをえなかった。 「喜んで!」 「……はい」 みずえと千歳もこう返答したので、美華さまは心からの笑顔を3人に向けた。 「ありがとうございます。……では赤松さん、お茶の用意をしてください」 「かしこまりました、美華お嬢様」 どこにいたのか、スーツ姿の男性が現れて、美華さまに一礼して去っていった。 3分後。 ギャラリーに、揃いのスーツに身を包んだの数人の男性が現れた。 そして、ギャラリーの、フィールドが良く見渡せる位置に、テーブルと椅子をセットし始める。 「……お嬢様、お待たせ致しました」 赤松さんが一礼した時には、ギャラリーの真ん中に、大英帝国式のお茶の用意がすっかり整えられていた。 「なお、本日のお勧めは、スコーンとダブルベリーショートケーキとなっております」 「みなさま、ご苦労さま」 お家の秘書さんたちの労をねぎらうと、 「さ、みなさま、カフェ・ド・リリアンの自慢の逸品、どうぞご賞味なさって」 桐壺姫こと美華お姉さまはこうおっしゃった。 実は、美華お姉さまは、全国に店舗を展開する喫茶店「カフェ・ド・リリアン」の社長令嬢。 カフェ・ド・リリアン、通称「リリ−」のお茶とお菓子は、出店していない地域で出店を求める署名運動が起こってしまうほどの人気である。 おまけに、母上は五十嵐コンツェルンと並ぶ大財閥、花菱(はなびし)コンツェルンの創設者一族。 だから、ギャラリーの真ん中に素敵異空間を作り出すことも可能なのである。 ちなみに、オスカルさまの父上は、大手総合商社“久地紅(くちべに)”の会長。 直子お姉さまの父上は、黄泉瓜(よみうり)新聞や朝比奈(あさひな)新聞と部数を競いあっている大新聞、太平洋新聞の社長である。 ……みずえの父が下町で町工場を経営していることや、そして、千恵子の父が某企業に勤めるサラリーマンであることを考えると、いかに三壺様がお嬢様であるかがわかるであろう。 ……え? 千歳ですか? ……しーらない、しーらない、くっくっくっく(?) それはともかく、ギャラリーの一角、というか、ど真ん中で、優雅にお茶会が始まったのである。 「まぁ、このスコーン、美味しゅうございますわ」 「うむ、このアッサムもいつも通り、美味だ」 「ありがとうございます、女御さま、大将さま」 お茶とお菓子に集中し、優雅に会話を交わす三壺様。 (うーん、「リリ−」のケーキとお茶はヤバいんだけど……三壺様と一緒っていうのがなぁ……) ダブルベリーショートケーキを作法通りにいただきながら、窮屈な思いをしているみずえ。 ちなみに、ここでの「ヤバい」というのは、「おいしい」という意味である。 (えーと、うちらの三回戦の相手は……次の試合の勝者とやったな。ほんでこの2チームの、一回戦の詳報はと言うと……) 紅茶を飲みながら、次の試合用の戦略を構築している千恵子。 (……緑茶が飲みたい) 紅茶とスコーンをいただきながらも、こっそり思っている千歳。 6者4様(?)の思いが交錯する中、お茶会は優雅に進められていた。 (あーあ、堅苦しいぜ。これなら、「付けあわせのパスタ」でマスターの美味しいチーズケーキ食べてる方がいいや……ん?) 「あ、お姉さま方」 声を挙げたのは、アンちゃんであった。 「次の試合、聖ルシファーが出場なさいますわ」 その声に、 「まぁ」(←美華様) 「おや」(←真理亜様) 「あら」(←直子様) 三壺様も、フィールドをご覧になった。 「聖ルシファー、一回戦を突破なさったのね」 新聞部の直子さんが、フィールドに視点を定めたままおっしゃる。 「ええ、1回戦の相手は都立山桃(やまもも)高校。新聞部の皆様の情報通り、素晴らしいチームワークで勝利を収められましたわ」 千恵子さん、聖ルシファー(正式には聖ルシファー女子高等学校)『地獄のアーク・エンジェル』の試合内容を要約し、最後にこう付け加えた。 「それに、聖ガブリエルの姉妹校である聖ルシファーの皆様方の、わたくし達に対するライバル意識。これも勝利の原動力となったのではないかと存じます」 その言葉に、 「姉妹校……ですか?」 千恵子の台詞を小耳に挟んだ千歳さんが首を傾げた。 それを見て取った新聞部の直子さん、 「あ……千歳さんは、去年、転入なさったのですよね。でしたら、ご存じないのも無理もありませんわ。聖ルシファーは我が校の姉妹校なのですよ」 説明を加えた。 ちなみに、なぜ姉妹校かというと、聖ガブリエルと聖ルシファーは、設立母体が同じ修道女会だからである。 もちろん、聖ルシファーのチームは全員女子なのだが、コスプレに走った聖ガブリエルとは違い、衣装は森林迷彩服だったので、ギャラリーの萌え度(?)も聖ガブリエルほどには高くなく、余り注目されていない。 だから、一回戦を突破したのも、そう話題になっていない。 「相手は襟維斗高校ですわね」 千恵子さんの呟きに、 「え……」 みずえさんは思わず驚きの声を漏らす。 襟維斗高校といえば、先ほど、東東京高校の参謀・春山君が“一番手強い”と指摘していたチームではないか。 (大丈夫かなぁ、聖ルシファー) そういう不安もあり、みずえさんは、自然とゲーム観戦に集中した。
一方は、森林迷彩服に身を包む女の子たち。 そして、もう一方は、変わったコスプレに身を包んだ少年たちである。 (うっひゃぁ、シブイなぁ) (ムダ)知識の女王・みずえさんがこう思ったのも無理はない。 なぜなら、少年たち、つまり、襟維斗高校のコスプレは、赤穂浪士、俗に言う“忠臣蔵”の討ち入りの衣装だったからである。 着物に袴、そしてだんだら模様の入った黒い羽織。 足元は草履、そして頭にはマゲヅラ。 流石に、腰に大小を佩びていたり、梯子を担いでいたり、門を打ち破る大きな丸太を抱えていたり、ということはなかったが、それでも、“武士コスプレ”としては、Dブロック一番であろう。 (突撃ねーちゃんの話だと、襟維斗高校って、確か全員高1だったよな。チームの名前も『一二・一五決起部隊』だし……開会式でもチラッと見たけど、シブイ趣味してるなぁ。時代劇ヲタクでもいるのか?) みずえさんが首を傾げていると、フィールドでは顔合わせが終わり、プレイヤーがそれぞれの本陣へと 戻っていく。 そして、試合開始のホイッスルが鳴った瞬間、みずえさんは目をみはった。 襟維斗高校のリーダーらしき人物が、懐から太鼓を取り出し、 「どおん、どおん」 と、叩き始めたのである。 その合図で、静かにフィールドへと散っていくメンバーたち。 (……はぁ、そこまで再現するか。襟維斗高校って、勉強だけの進学校だと思ってたけど……コスだけで対決させたら、間違いなく襟維斗の勝ちだな) 妙にコスに感心しているみずえさんの目の前で、急速に事態が展開するまでには、そう時間は掛からなかった。
悲鳴にも似た声が、みずえさんの口から漏れた。 「いかがなさいました、アンちゃん?」 真理亜様、直子様と、楽しく優雅なおしゃべりに熱中していた美華様が、可愛らしい後輩にお尋ねになる。 みずえさんは、フィールドから視線を外さず、 「あれを、ごらん下さいませ……!」 フィールドを指差した。 それで、メンバー全員が、フィールドに注目した。 彼女らの目に映ったのは、襟維斗高校の面々が、聖ルシファーのお嬢様方を巧みに分断している光景。 「バリアント、てーっ!」 「ローエングリン2番、てーっ!」 「ゴットフリート照準、てーっ!」 などなど、『地獄のアーク・エンジェル』も必死の反撃を試みるが、分断攻撃にはなす術も無く、撃墜されていく。 (春山さんの言ってた通りだ……!) 姉妹校のメンバーたちが、次々と撃墜されていく様子を目の当たりにし、みずえさんは息を飲んだ。 と、 「お姉さま方……姉妹校対決は、夢のまた夢になってしまったようですわ」 千恵子さんが言った。 その友人の言葉に、 「何だ……ですって?」 みずえさんは、危うく素を出しそうになった。 「まぁ、それでは困りますわ。折角、学校新聞の増刊号に、聖ルシファーの方々との試合を、大きく載せようと思っておりましたのに」 こうおっしゃったのは、勿論、新聞部の直子お姉さまである。 「……どうしてかね?」 自分が信頼する参謀の、余りに性急な結論に、チームリーダー・斯波真理亜は、その根拠を追求する構えを見せる。 そんなリーダーに、 「……火力には、両者とも、あまり差は御座いません」 千恵子さんは、フィールドから目を離さず、説明を開始。 「そして、聖ルシファーの強みは、強固なチームワークです。ですが、あのように、各々の連絡を絶ってしまえば、チームワークは崩れ、個人戦になってしまいます。恐らく、襟維斗高校は、そのバラバラになった一人一人を、2,3人で撃墜していくでしょう。一人対三人なら、絶対三人の方が勝ちますもの。襟維斗高校の方々は、敵の連絡を断った上で、各個撃破していく、という作戦を取るおつもりですわ」 「なるほど、そうなれば聖ルシファーに勝ち目はない、か……」 “おちびちゃん”の説明に納得なさったオスカル様は、苦々しげに呟いた。 「……それにしても、あのやり様はないでしょう」 千歳さんも、戦局を見ながら、苦々しげに言う。 「あのように敵を追い詰めるとは……」 千歳さんが指差した先では、聖ルシファーの最後の1人(ちなみに名前は吉良さん)が、6人の人間に包囲されていた。 「キラ殿と推察つかまつる。この上は、お見苦しき振る舞いのなきよう、お出会い召されい」 6方向からキラ・ヤマ……じゃない、吉良さんを囲む襟維斗高校の面々。 「くっ……」 吉良さんも、6対1という状況で、突破口を見出せず、 「ひ、ヒットです……」 観念して両手を挙げた。
「だ、だから、ヒットです〜」 「ならぬ、ならぬ。もののふならば潔く撃たれて死ねぃ」 ばばばばばばばばば。 「いや〜〜〜」 『一二・一五決起部隊』はあくまでBB弾をヒットさせての勝利に固執している。 そのとき、悲しげな吉良さんの声が届いたか、執拗に攻撃を続けている浪士軍団に向けて、ギャラリーの、お兄さんたちが固まっているエリアから野次が飛んだ。 「こらぁ、勝負はもうついてるだろう! 女の子をいじめるなぁ、このサバざむらいが〜!」 その途端である。 「「「「「「な、何ィィィィィィ!!!」」」」」」 襟維斗高校の6人が、一斉に怒りの形相になった。 そして、 「「「「「「お、お、おおおおおのれーっ!」」」」」」 そのまんま、いきなりぶち切れた6人は、キラ・ナル@、じゃなかった、吉良さんに突進したのである。 「我らを田舎侍と思うて、愚弄するかぁ」 「…えええっ? きゃあっ」 襟維斗高校の一人が、吉良さんの襟首を掴んで、地面に引きずり倒す。 「おい、ありゃなんだ?」 「もう、ヒットなんだろ?」 ギャラリーがざわめく。 「あれは反則では?」 聖ガブリエルの大応援団からも抗議の声が上がり始める。 だが、襟維斗高校の面々はそれを全く無視し、こう言ったのである。 「これも武士の情け。この場で介錯つかまつる!」 「左様、もはやこやつは用済みだ!」 「佐々木の首を取る前に、まずはこやつを血祭りにあげてくれよう!」 「我等が僕(しもべ)に、成り下がれ!」 そして、6人は一斉に吉良さんに向かって射撃した。 しかも、6人が彼女に群がっているため、ほぼゼロ距離射撃に近い。 「ちょ……あれは、反則ではありませんこと?」 みずえさんが憤慨の声を上げる。 「ええ、間違いなくそうですわ」 千恵子さんも同意する。 「ヒットを宣言すれば、宣言した方は即刻セーフティーゾーンへ退避、ということになっているはずです。そして、ヒットを宣言した方に、攻撃を加えてはいけないはず……」 そこまで言って、千恵子さんは、ふとあることを思いつき、 「女御さま!」 新聞部の部長を呼んだ。 ……だが、いつの間にか、直子お姉さまの姿は、その場から消えていた。 (ちっ、あの反則を望遠レンズで撮ってもらって、あとでギャラリーにばら撒こう、と思たのに) 軍師さまが内心舌打ちしていると、 「何と言うことだ」 千恵子さんの隣で、声を挙げた人物がいた。 “あの”生徒会長、梅壺大将、頼りになるお姉さまナンバーワンの斯波真理亜、その人である。 「……看過できん。これが捕虜に対する扱いか?」 人とは違うオーラを纏いながら、生徒会長は、“ヅカモード”に突入していた。 「負けを認めている女子を地面に引き倒し、容赦なく射撃を加えるとは……これが、兵士のすることなのだろうか? これでは、鬼畜にも劣るとも勝らない……」 何時の間にか、真理亜さまの身体は、観客席にひしめく大応援団の方に向いている。 「……諸君、私は今、心に誓った。あの礼儀を知らぬ非紳士的な襟維斗高校は、もはや騎士の風上に置けはしない。私自らの手で、騎士のあるべき姿を教えてやろうではないか!」 すると、ギャラリーのお嬢様方は、すっかり興奮した。 「ええ、その通りですわ!」 「あの襟維斗高校を、叩きのめしてくださいませ!」 「オスカル様に、神のご加護があらんことを!」 「オスカル様に、大天使ガブリエル様のご加護があらんことを!」 「大天使ガブリエル様の名のもとに!」 大きな声で、口々に“聖ガブリエルのオスカル様”に対する賛意を表明する。 (ちょっと待ってくれや……) 千恵子さんは、ギャラリーの様子を見て、ため息をついた。 余りにも、ギャラリーに熱気が渦巻き過ぎているのである。 まぁ、こちらに取っては、戦いやすくなるからよいのだが、一歩下がって冷静に見つめると、お嬢様方は、世間一般の常識から見て、危険なオーラを発していた。 (周りの兄ちゃんら、脅えてるかもわからんな) 千恵子がこっそりギャラリーの男性客に同情。 ギャラリー席が盛り上がっている一方で、フィールドでは、 「次は佐々木の首を取って見せようぞ〜」 「おおーっ」 「勝どきを上げよ」 「「「「「「えい、えい、おー」」」」」」 …などと、『一二・一五決起部隊』が勝利の儀式を行っていたが、その声はオスカルの演説に熱狂するギャラリーの歓声によって、千恵子さんには聞こえていなかった。
みずえさんがこっそり声を掛けた。 「何や?」 「あの相手チームだけどさ、よく聞こえなかったけど、『佐々木がどうのこうの』って言ってなかったか?」 「……言われてみれば」 「だけど、聖ルシファーに、佐々木って苗字の奴はいなかったよな?」 その言葉で、脳内の記憶を検索する千恵子。 「そう言えば、いてへんな」 「おかしくないか?」 「そら、おかしいけど……」 そう言って、千恵子さんは、ちょっと考え込んだが、 「あかんわ。理由がわからへん。みずえは?」 「千恵子が考えても分からない事が、オレに分かるわけないだろ」 「そら、そやな……」 意外と失礼な台詞を口にする千恵子。 「……ちゅーか、そんなことより、これからの作戦を考えんとあかんな。ここやと目立つさかい、うち、テントに戻るわ」 千恵子はそう呟くと、席を立った。 オスカルが目立ちまくっているこの状況では、自分も好奇の視線にさらされ、思う様に行動できないのだ。 それを追って、みずえと千歳もギャラリーを後にする。 その背後で、 「そもそも、襟維斗高校の情け容赦のない戦いぶりは……」 オスカル様が、大応援団に向けた演説を開始していた。
襟維斗高校『一二・一五決起部隊』を探っていた二階堂瞳(にかいどう・ひとみ)は、控えテントに戻って来るなり、千恵子さんにこう言った。 「は?」 怪訝な表情で瞳を見る千恵子。 瞳の身長は170センチもあるので、149センチの千恵子は、自然、モデル体型で、結構きれーなお姉さんである友人を見上げる格好になる。 ちなみに瞳も天文気象部の一員だが、部活動には余り参加せず、音楽三昧の日々を送っている。 「……そんなことしてへんよ」 関西弁で瞳に答える千恵子。 ちなみに現在、梅壺大将さまことオスカルさまは、大応援団を前に襟維斗高校の極悪非道さを非難する演説中、梨壺女御こと直子お姉さまは取材中、桐壺姫こと美華お姉さまは、演説中のオスカルさまに付き添っているため、テント内には1年ズと義晴兄さんしかいない。 「え〜、うそでしょ〜?」 瞳は首を捻った。 「だって、襟維斗のリーダーが、佐々木千恵子の首を取るって、何度も叫んでたよ〜」 「首取るって……」 千恵子の表情に、困惑の色が浮かぶ。 「はぁぁ。何やそら。戦国時代の合戦やあるまいし」 大仰にため息をつく千恵子。 千恵子のノリが悪いので、 「だけどだけど〜」 瞳は少し頬を膨らませた。 「向こうのテント、もう、ヤバ過ぎだよぉ。『佐々木千恵子の首を取ったら、今度は……』えーっと、えーっと……」 「えーっとはいらんよ」 思わず、どこかの鳥さんのように突っ込んでしまう千恵子さん。 「えーっとはいらんよ」 反射的に、千恵子の口調の真似をしてしまう瞳さん。 「いらんっちゅーに」 更に反射的に、突っ込み返す千恵子さん。 「いらんっちゅーに……じゃないじゃない! ああ、あたしなにやってんの?……そうだ、『千石何とか』だ。『千石何とかの首を取る』とか言っててさぁ。何か、こう、恨みのオーラが立ち上ってるっていうか? 何かに取り憑かれてるっていうか? 狂気の集団って、ああゆーのを言うんだよ、きっと」 臨時諜報員・瞳の台詞に、その場にいる全員が首をかしげた。 「何それ。千石って、『三@が斬る』の? 現実と虚構をゴッチャにしてるなんて、『エリートに一番近い高校』の生徒とも思われへんな」 一番最初にツッコミを入れたのは、やっぱり関西人の千恵子さんである。 「それに、うちは襟維斗高校に知り合いはいてへんもん。あっこの人とトラブル起こしたこともない」 「ホントかよ?」 千恵子の側にいたみずえが言う。 「ほんまやで。うち、他の人とトラブル起こしたことないもん。恨まれる理由なんてないわ」 千恵子は断言した。 「だけどさ、あの高校、異様に反応したな。『このサバざむらい〜』に。試しに叫んでみたんだが。…もしかすると、俺と話が合うかもしれないぞ」 直子お姉さまの銃をカスタムしながら、義晴兄さんがちょっと嬉しそうに言う。 その台詞に、すかさず反応したのは“ムダ”知識の女王、みずえさんである。 「え、あれ、義晴兄ちゃんだったんだ。この間貸してもらった『何時だよ?』のDVDにあったネタだから、まさかとは思ったんだけど。しかし、ネタに対するお約束として怒ってみせてたんかな?」 でもネタにしては、そのあと本気でひどいことしてたしなぁ、などとみずえさんは義晴兄さんののんきそうな顔を見つつ、釈然としないものを感じていた。 義晴兄さんとしては、自分の振ったネタにあの連中がキッチリ反応してくれた、と思っているのだろうか。あまり危機感を感じていない様子。 「そやねぇ、ホンマに怒り狂ってたなぁ。……ふむ」 そう言ったなり、考え込む参謀・千恵子。 「お兄さん……」 呆れてしまって、言葉も無い妹、千歳。 「あのさぁ、義晴にーさん、今はそういう話じゃ……」 何時の間にか歪んでしまった話の流れを修正しようとした瞳さんだが、不意に台詞を中断し、 「え……?」 首を傾げる。 「どないしたんや、瞳?」 千恵子の質問に、瞳は、視線をテントの出入り口に固定したまま、 「何か、すんごいヤバイ予感がする……」 脅えるように呟いた。 実は、武術の心得はないが、瞳の勘は非常に良い。 その勘の鋭さで、天文気象部のメンバーの窮地を救ったことが何回もある。 「確かに、嫌な気配がする」 気配読みの得意な千歳さんも、瞳に同調する。 その場にいた人間に緊張が走った。 と、不意に、テントの出入り口を作っている布が動いた。 「……佐々木千恵子さんですね?」 現れたのは、森林迷彩服に身を包み、AK−47を構えた少女。 「……いかにも、そうでございますが、貴女様は?」 咄嗟に、猫を被って応対する千恵子さん。 が、 「おーっほほ」 折角の礼儀正しい態度は、高笑いで返された。 「貴女方に名乗る名前など、持ち合わせておりませんことよ!」 そう高らかに宣言すると、少女は再び、「おーっほほほ」と高笑いした。 「佐々木千恵子、魔王クラーマ様の野望達成のために、あなたは邪魔な存在です。この聖ルシファー女子高等学校2年、岩清水一子(いわしみず・かずこ)、リーダーの吉良さまの御為(おんため)、そして魔王クラーマ様の御為に……」 「って、名乗ってるやんかー!!!」 いつの間にか、ハリセンを取り出していた千恵子さんは、脱兎の如く躍り出ると、岩清水さんに渾身のツッコミを入れた。 すると、 「ぐ、ぐはぁ……む、無念……」 岩清水さんはバッタリ倒れた。 そのまま起き上がる様子もない。 「……って千恵、もしかして、殺(や)っちゃったのか?」 何故か周りに刃がつけられたヨーヨーを手に持っているみずえさんが、恐る恐る尋ねる。 ちなみに、「何やその物騒なヨーヨーは!」という千恵子さんの突っ込みが無いのは、1年ズ&義晴兄さんにとって、みずえが危険なヨーヨーを持ち歩いているのが当たり前だからである。 「アホか。こんなハリセンで叩かれたぐらいで、死ぬわけないやんか」 ハリセンを握り締めた千恵子さんが、可愛い顔に怒気を漲らせて言い返す。 「わからねえぞ。余りにビックリして心臓発作起こしたってことも……」 「ちょっと、みずちゃん。そんなこと言ってる場合じゃないって」 みずえの反論を止めたのは、瞳さんである。 「まだいるよぉ、いっぱい。ええと、7,8,9……」 「11人!」 叫ぶなり、千歳さんが、出入り口に掛かっている布を、持っていた小太刀で斬り捨てた。 ちなみに、「何で千歳は小太刀を持ってるのやー!」という千恵子さんの突っ込みが無いのは、やはり、1年ズ&義晴兄さんにとって、千歳が小太刀を持ち歩いているのが当たり前だからである。 ……「当たり前」になってしまう感覚も問題であるが。 それはともかく、 「か、一子……」 「おのれ、佐々木っ」 テントの外には、森林迷彩服を着た女の子と、迷彩服を着た男の子が、怒りの形相で立っていた。 勿論、全員、エアガンを、お嬢様方に向けて構えている。 「ええい、面倒だ。魔王クラーマ様のため、お前たちには死んでもらう。われらの洗脳BB弾を喰らうがよい!」 迷彩服を着た男が、千歳さんを指差して叫ぶ。 だが、次の瞬間、彼のエアガンは、千歳の小太刀の餌食となり、銃身が真っ二つになってしまった。 「な……」 驚愕する男。 間髪入れずに、 「お前ら許さんぜよ!」 みずえさんの危ないヨーヨーが宙を走り、一気に3人の手からエアガンがもぎ取られる。 それが合図だった。 「えーい、面倒だ! 二人まとめて畳んでしまえ!」 エアガンを斬られた男が叫び、大乱闘が始まった。 「やぁっ!」 「たぁ!」 ぴしぃっ! ばきっ! 「ぐはぁ」 千歳が小太刀を振るうたびに、敵のエアガンは、面白いように破壊され、そして、首筋に小太刀の一撃を食らった敵も倒れていく。 「何の因果かマッポの手先……」 ばき! どか! 「な、何と言うことでしょう……」 みずえさんも、意味不明の台詞を呟きつつ、敵のエアガンを叩き落し、手近の敵を殴りつけ、行動不能に陥らせる。 そして、 「今年も勝ちたいんやー!!」 すぱーん! 千恵子さんのハリセンが、風を切って打ち下ろされると、 「ひでぶ!」 「あべし!」 「む、無念で御座います……」 敵は、殺虫剤の直撃を食らった蚊のように、バタバタと地面に倒れていった。 「ま、こんなもんか」 みずえが手を払った時、地面には、男女の身体が折り重なって散乱していた。 「またつまらぬものを斬ってしまった……」 千歳さんが、小太刀“飛燕”を鞘に収めながら呟く。 「つーか、千恵。こいつら、何だったんだろ?」 「さぁ。何か魔王クラーマがどーのって言うてたな」 千恵子さんが、ハリセンの汚れを落としながらみずえさんとの会話を開始する。 「女の子の方は、全員聖ルシファーだけど、あれ、男は、曙澤(あけぼのさわ)高校の生徒だな。確か、一回戦で、襟維斗高校に負けた……」 流石みずえさん、開会式の時に顔を見て、どんな人間がDブロックにいるか、一通り把握していた。 勿論、“コスプレチームとの写真撮影”という目的があったからこそ出来た芸当であるが。 「せやけど、こいつら、一体何やったんやろ。時代劇マニアかいな」 「いや違う、戦隊モノのマニアだぜ。『魔王倉間』って言ってただろ? 時代劇に魔王が出てくるか?」 「何やそら? 『悠々白書』? それなら妖狐やんか」 「オレ、比叡(ひえい)の方が好きだな」 そして、会話がマニアックな方向に繰り広げられようとした瞬間。 「きゃーっ!」 瞳の悲鳴があがった。 「え……」 「瞳?」 慌ててテント内に戻る3人。 「ふ、はははぁ。とうとう捕まえたぞ」 テントの中では、迷彩服を纏った男が、瞳さんにサイドアームを突きつけていた。 顔を見るに、どうやら、最初に千歳さんにエアガンを斬られた男のようだ。 「そ、その娘を放せ!」 男の足元で、義晴兄さんが叫ぶ。 服が泥まみれになっている所を見ると、どうやら男と一対一で戦って負けてしまったらしい。 「金沢家の嫡男ともあろうお方が、何と無様な……」 呆れたように千歳が呟く。 もう、兄の面目丸つぶれである。 だが、 「ふ、はははぁ。佐々木千恵子。この娘を放してほしかったら、武器を捨てて前に出ろ。さもなくば、このモデルさんみたいにきれーな娘、魔王クラーマさまの侍女として貰い受けるぞ! おーっと、いっとくけどな、これは本物の銃なんだよん♪」 「イヤーっ!」 瞳さんが男の台詞に悲鳴を上げる。 「くっ……」 男を睨みつけ、千恵子さんは歯を食いしばった。 男の理不尽な要求を呑む筋合いは、全く無い。 しかし、このままでは、変な男に、猫かぶり仲間がさらわれてしまう。 (くっ、うちが友達を見捨てられる訳がないやんか……) 作戦参謀が、進退窮まったその時。 ばさっ! 突如、男の背後のテント布が、真っ二つに切り裂かれた。 「な、な、な?」 振り向く男の首筋に、日本刀の渾身の一撃が加えられ、男は呆気なく地面に倒れこむ。 「……牛尾さん!」 テント布の切れ目から、姿を現した壮年の男性を、冷静沈着な千歳さんが、驚きの眼差しで見た。 「間に合ってよかった……」 日本刀を鞘に収めながら、勝本家の執事・牛尾は、安堵のため息をついた。 よく日に焼けた、精悍だが、整った顔。 そして、その身に纏う、紺一色の着物と袴に、日本刀。 これで髷さえ結っていれば、間違いなく、現代に蘇った最後のサムライである。 「お怪我はありませんか?」 ラストサ……ではなかった、執事の牛尾さんは、男と一緒に地面に倒れこんでしまった瞳さんを助け起こした。 「ええ、大丈夫……」 助け起こしてくれた牛尾さんに返答しようとした、瞳さんの視線が、牛尾さんの顔の上で止まった。 (え……!) 「……どうかなさいましたか?」 自分が助け起こした綺麗な女性の不思議な態度に、途惑う牛尾さん。 「い、いえっ、なんでもないです……」 瞳さんも、牛尾さんに負けず劣らず、途惑っていた。 (や、ヤバい。このおじさま、ちょー好みなんだけど……) と、 「牛尾さん、何故ここに?」 二人の戸惑いを無粋にも(?)強制終了させたのは、金沢家の長女であった。 「はい」 すると、あっさりと、通常の無口で無表情なモードに戻ってしまう牛尾さん。 「実は、次の対戦相手は、控えテントに押し入って攻撃を仕掛け、戦力と集中力を削ぐ作戦を取りかねない連中ゆえ、行って守ってやれとの殿の仰せに従いまして……」 「はぁ、そうですか」 (もうちょっと早う、牛尾さんを派遣してくれたらよかったのに……) 面倒くさがり、そして、アクションが不得手な千恵子さんは、こっそりこう思っていた。 「それから、千恵子さん、次の作戦ですが……」 牛尾さんは、懐から封書を取り出して、千恵子さんに渡した。 作戦参謀は、早速開いて中身を読んだが、 (うーん。確かにここまではええんやけどなー) しきりに首を捻っていた。
「下僕たちが、やられただと!」 報告を受けたリーダーは、顔色を変じた。 「おのれおのれ〜」 座っていた床几から立ち上がると、リーダーはそこら辺をひとしきりうろうろした。 「なんと言うことだ。我等が折角従えた下僕達が全滅だと……いやしかし、ここでくじけては、佐々木千恵子撃破はおろか、麻野先生に、そして魔王クラーマさまに忠誠を尽くすこともできん……」
リーダーは、自らの得物であるM4A1を抱え、不気味な笑い声を上げたのだった。
「トラブルも無事に収めたお嬢様方。
『FANG GUNNERS』に、負けるな、お嬢さま」 |