まるえさま作
『戦え! FANG GUNNERS!』外伝
『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』
第四話
| ◇大長編だよ!予選編◇ |
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控えテントでは、義晴兄さんが待っていた。 「無事切り札も発動したようで、よかったよかった」 「うむ、役に立った。礼を言う」 オスカル様が頭を下げる。 「いいってことよ。こういう機械の改造、俺のシュミだからさ」 笑いながら答える義晴兄さん。 (やっぱり……)(←千恵子) (オスカルは義晴にーちゃんと……)(←みずえ) (まぁ……)(←美華様) (……やはり、わたくしの勘が的中してしまったのですね)(←直子様) 千歳以外のお嬢様方は、この光景を遠巻きに眺めていた。 そして、 「こんなラブラブモード全開の所にはいられない」 という結論に、4人とも達した。 「わ、わたくし、取材に行って参りますわ」 と、新聞部の直子お姉さまが言った。 カメラを握り締めると、瞬く間に走り去って行く。 「オ……お姉さまがた、ワタクシも失礼致しマス」 みずえさんも、その場から姿を消した。 そのいつもとは違う様子に、 (……?) 千歳さんは首を傾げた。 そこへ、 「ち、千歳さま、一緒に試合を観に参りませんか?」 千恵子さんが提案する。 「構いませんが……」 「あー、ちょっと待った」 不意に、義晴兄さんが声を上げた。 「銃を置いていってもらおうか」 ……ここだけ聴くと、どこぞのギャングか強盗の台詞としか思えない。 「……いやです」 千歳はきっぱり断った。 「ちぇっ、何だよ、人が折角スコープを性能のいい奴に取り替えてやろうって言ってるのに」 妹の冷たい態度に、すねる義晴兄さん。 すると、 「……性能のいい?」 意外にも、その言葉に千恵子さんが反応した。 「まぁ、よろしいではありませんか。千歳さまの銃、義晴様に改造なさってもらったらいかがです?」 「……ち、千恵子様」 珍しく、千歳さんが動揺の色を見せる。 それには構わず、軍師千恵子さんは、 「千歳さまの武器の性能が向上すれば、本陣の安全性が高まります。千歳さま、ぜひ、カスタムをなさってくださいませ。わたくしからもお願い致しますわ」 と言ってのけた。 「……かしこまりました」 千歳は渋々頷き、ステアーAUGを持って兄のもとに歩み寄った。 「おう、我が妹よ、ようやくわかってくれたか」 すると、千歳さんは立ち止まった。 (……なっ) 千恵子さんは、思わず身構えた。 千歳さんから、物凄い殺気が立ち上ったのである。 その様子に、 (え……?) “聖ガブリエルの聖女様”こと美華お姉さまは、すっかり脅えてしまった。 (……?) “聖ガブリエルのオスカルさま”こと、真理亜お姉さまも、後輩の只ならぬ様子にいぶかしげな眼を向ける。 (げ) 流石の義晴兄さんも、妹の様子に、冷や汗をかいていた。 そんな兄に、 「分かりました」 千歳は頷いてみせ、さらに兄に歩み寄り、耳元に口を寄せた。 「ですが、もし、変な改造をしたら……」 義晴兄さんの頭は、ガクガクと上下に振られた。 それを見ると、千歳から立ち上っていた殺気は消え、無表情のまま、兄に自らの武器を渡した。 義晴兄さんは、恐怖ですっかり青ざめていた。 そんな兄を一顧だにせず、 「では、参りましょうか」 千歳は(これまた恐怖に顔を青くしている)軍師千恵子さんに言った。 「え、ええ……」 流石の千恵子さんも、被っている猫が剥がれ落ちないようにするのがやっとだった。 「あ、あたくしも、参りますわ……」 美華お姉さまもおずおずと手を挙げられた。 こうして、千恵子と千歳と美華お姉さま、という異色のトリオは、制服に着替えた後、ギャラリーに紛れ込んだ。 千恵子さんが万国の軍師さまの例に漏れず、観戦メモを取りながら、その灰色の脳細胞をフル回転させていたのは言うまでもない。
千恵子さんたちがギャラリーへと向かった、丁度その頃。 新聞部部長であらせられる細川直子お姉さまは、フィールドに紛れ込んでいた。 もちろん、ルールでは、プレイヤー以外の人間がフィールドに入るのは禁止である。 だが、 「戦場報道記者の使命は、戦場の情報を、リアルタイムで得ることですわ」 ……などとおっしゃいつつ、直子お姉さまは、フィールドに入ることを決心したのだ。 低木に化けているのだが、それが妙にはまっていて、完全にフィールドに埋没している。 そこに、 「よし、一旦隠れよう」 プレイヤーの一人が、直子さまの陰に隠れて、アンブッシュし始めた。 「待ってろよ、ゆうちゃん。必ずいいところを見せて、君のハートをゲットしてやる」 などと呟いているプレイヤー。 周りには、プレイヤーと直子さんとの会話を邪魔するものはいない。 (チャンスですわ!) 「あの〜」 直子様は声を掛けた。 が、 「……お、女の声?」 プレーヤーは直子様を無視し、おろおろし始めた。 「敵に女はいなかったはず。ということは……幽霊かぁ!」 プレイヤーは悲鳴を上げて走り去っていった。 「まぁ……」 直子お姉さまは、落胆の溜め息をつかれた後、こうおっしゃった。 「このアングルでは駄目なのかしら?」
「いやぁ、ありがとうございましたー」 みずえさんは、先ほど対戦した大東京海軍の皆様と、仲良く一緒の写真に収まっていた。 「やっぱ海軍の夏の制服っていいですよね。かっこいいし、涼しげだし」 使い捨てカメラを手にしたみずえさんが話しかける。 「そういう貴女の衣装も、レトロで素敵です」 大東京海軍のリーダー、藤郷(とうごう)くんが返す。 「それに、あの銃を構えた姿、遠目にもカッコよかったです。写真、望遠ズームで撮らせていただきました〜」 そう言うのは、今回はゲームに参加できなかった政山(まさやま)くん。 「ああ、確かに、敵ながら、君の戦いぶりには舌を巻いた」 阿藤君も、照れくさそうにみずえさんを褒める。 その心からの賞賛の数々に、 「いやぁ、そうですかぁ? 照れちゃいますよぉ」 みずえさんは明るく笑った。 実は、みずえさんは、他のチームの衣装をカメラに収めたいがため、大会に使い捨てカメラを持ち込んだ。 で、他チームの方達と一緒に写真に収まっている。 本来なら、決戦前の大事なひと時、または、敗北して、惨めな気持ちで帰り支度をしている時に、のんきな女の子がテントの中に入って来ようものなら、 「何やってんだ、入るんじゃない」 と、追い返されるのがオチであろう。 だが、みずえさんが入場の時に老若男女問わずに好印象を与えたことと、彼女の人懐っこさがあいまって、追い返されるどころか、他のチームの皆さんも気を許して、すっかりみずえさんと仲良くなっていた。 で、 「あ、一句できましたよ。『グランドに 風受けて立つ 乙女かな』。春山くん、どうかな、これ?」 「……グランドじゃなくてフィールドだよ、の……じゃなかった、四季(しき)先生」 「へぇ、政山さん、雅号持ってるんですね〜。すごいな〜。いつから俳句作ってるんですか?」 「中学に入った頃からですね。俳句雑誌とか新聞にも投稿してますよ。名越さんは俳句は作るんですか?」 みずえさんは、大東京海軍の皆さんと、仲良くおしゃべりしていた。 ちなみに、四季というのは、孤島の研究所から脱出した天才研究者のことではない。念のため。 「……そうそう、私が見るところ、このブロックで一番手強いのは、襟維斗(えりいと)高校だな」 おしゃべりもたけなわとなったころ、参謀の春山くんはみずえさんにこう教えた。 「あの学校は兵法に長じた人間が多い。それに、一回戦を見たところ、連携を密に取りながら、敵を巧みに分断していた。攻撃力も士気も高いし、迂濶には攻撃できないだろうな」 「へー、そうなんですか。気を付けなくちゃ」 みずえさん、素直に聞いた。 「あ、そろそろ行かなくちゃ。それじゃ、これで失礼します」 「おう、じゃーな」 「応援してるぞ!」 去り行くみずえさんに、大東京海軍の皆様が制帽を振る。 それに手を振り返しながら、彼等の見えなくなるところまで走ると、みずえさんは、 「すいませーん」 ……次のテントへと足を踏み入れていた。
美華さまは、熱心に観戦メモを取る千恵子さんの傍らで、悩んでいた。 自分の親友であるオスカルさまは、千歳の兄といつ知り合いになったのだろう? そして、二人が世を忍ぶ仲になったのは、いつなのだろう? そして、それを千歳さんに問い質してもよいのだろうか? 美華さまは、試合そっちのけで、そのことばかりをずっと考えていた。 「……桐壺お姉さま、如何(いかが)なさいました?」 先輩の只ならぬ様子に、隣で観戦していた千歳さんが声を掛けた。 「あ、いえ、……大丈夫ですわ」 慌てて微笑み返す美華お姉さま。 「そうですか……」 千歳さんが、観戦に戻ろうとした瞬間、 「あ、あの、千歳さん」 美華お姉さまは、意を決して口を開いた。 「貴女のお兄様と大将さま、お知り合いなのですか?」 千歳さんは、訝しげな眼を一瞬お姉さまに向けたが、 「……そうです」 一応返答した。 「いつから、でございます?」 「……一月前です」 「千歳さんが、大将さまをお兄様に紹介なさったのですか?」 「……いえ、梅壺お姉さまが、別の方から紹介されて、我が家にいらっしゃいました」 「……え、千歳さんの家に、……でございますか?」 「はい」 その後輩の一言に、 (や、やはり、男女が互いの家に行き来するということは……) 桐壺お姉さまは、衝撃を受けた。 「やはり、その、仲がよろしいのでございますわよね?」 「……それはよく分かりません」 千歳さんは、動揺する先輩の様子に、不審の色を隠せなかった。 (一体、何を訊こうとなさっているのだ?) そういう方面に疎い千歳さんには、桐壺お姉さまの言動が理解できないのだった。 「……で、でも、何かはあったのではないですか? ほ、ほら、手が触れ合ったりとか……」 美華お姉さまは必死だった。 ……この場に直子お姉さまがいたら、「何をなさっているの、桐壺様。押しが足りませんことよ!」と怒られてしまいそうだが、兎に角、普段お淑やかな桐壺お姉さまにしては、大奮戦しているのである。 その甲斐あってか、 「……そう言えば」 千歳さんから、この一言が出た。 「そ、そういえば?」 どきどきなさる美華お姉さま。 そこに、 「私の兄と、握手なさいました」 美華お姉さまの様子を不審に思いつつも、千歳さんの真面目な答えが返ってきた。 すると、 「え?!」 美華お姉さまは、それだけ言って絶句した。 あの生徒会長、全生徒の憧れの的、“聖ガブリエルのオスカル様”と握手…… 美華お姉さまの知る限り、そのような栄に浴した人間は、誰もいない。 (や、やはり、義晴さまと大将さまは……) 試合そっちのけで、そして、千歳さんとの会話もそっちのけで、自らの得た結論に恐れ戦く美華お姉さま。 その様子を、 (一体、どうなさったというのだ?) 千歳は不審な眼で眺めていた。
「えーと、スコープは完了」 『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』のテントでは、義晴兄さんが、妹のステアーAUGに改良を加えていた。 その仕事ぶりを、 「なるほど、カスタムとはそういうものか」 “聖ガブリエルのオスカル様”こと、斯波真理亜さまがご覧になっていた。 「さて、これを長距離用にカスタムするか否か、だ。どうしたもんだろ、オスカル?」 義晴兄さん、相変わらずタメ語で真理亜さまに話しかける。 対する真理亜さまも、 「ふむ……」 義晴兄さんのタメ語、全く気になっていないようである。 「スコープの倍率を上げたことで、近距離の敵により正確にヒットできるようになった。と同時に、遠距離の敵にも、狙いをつけられるようになった。ということは、銃も遠距離の敵が狙えるように、カスタムしておくべきだろう」 「んー……やっぱりそうだよな。よし、遠距離用カスタムもしておこう」 そう言うと、義晴兄さんは、遠距離用カスタムパーツを取り出し、早速取り付け始めた。 その丁寧な仕事振りに、 「丁寧だな」 オスカルが感想を述べる。 「まぁな。俺の妹のエアガンだからな。余計なことはできないってことよ」 ……この義晴兄さんの台詞が、重大な意味を持っていることに、オスカルさまは気付くことができなかった。 そんな会話が交わされつつ、時は過ぎていく……
「ふむ……」 千恵子さんは観戦メモを取りつつ、戦略構築に没頭していた。 (アタッカーの二人はクルツ、スナイパーはスナイパーライフル、中衛はバズーカ、ディフェンダー2人が……) 観戦しつつ、必死で考える千恵子さん。 (一番問題なんは、バズーカと、あのM60や。どう攻略したらええんやろ) 考えていると、 「千恵さん」 背後から小さく声がかかった。 声の主は、千恵子さんの同級生の赤橋園美である。 ちなみに、千恵子の所属する、天文気象部の部長でもあった。 「次の対戦相手ですけど……」 「何か分かったんか」 千恵子さんの言葉に園美は一つ頷いて、 「まずね、バズーカは300発が6連射できるタイプ。カスタムはしてないです。だけど、ディフェンダーの男の人が持っているM60がすごいの。めちゃくちゃカスタムしてあって、改造してないところは無いんじゃないかってくらい。マガジンも2500発のが4つも付いてるの」 「ふーん、さよか」 平然と相槌を打ったものの、軍師の心中は穏やかではなかった。 M60のカスタムが、予想以上だったからである。 (こら、M60に要警戒、やけど、どないしたらええのかな……) 流石の千恵子さんにも、策が咄嗟に浮かばない。 しかし、その動揺を可愛い顔には出さず、 「……ほんで?」 冷静な態度で、報告を続けさせる。 「……アタッカーの2人だけど、2人とも猪突猛進タイプ。どっちが先に敵を仕留めるか、競争するみたいなことを言ってました。それと、バズーカの人は自分のコスがイヤみたい。アタッカーにからかわれて、反応を楽しまれてました。あと、スナイパーはディフェンダーの女の人に憧れてるみたいで、これは他のメンバーの格好のからかいのネタになってます」 それを聞いて、 「原作通りかいな……原作者が見たら怒りながら添削入れるで」 千恵子さんは溜め息をついた。 「てことは、どないしたらええかいな……」 千恵子さんが思考の海に沈もうとした瞬間。 「はうっ」 千恵子さんの頭が、外からの力により、沈んだ。 「な、今、急に頭が……」 すると、園美が千恵子の頭を指差して、 「あ、千恵さん、鳩」 「は?」 「鳩が頭の上に乗ってるよ」 千恵子は半信半疑で、自分の頭の上に手をやった。 つんつん。 なでなで。 ……。 つんつん。 なでなで。 ……。 「……ほんまや。頭に何か乗っかってる」 と、 「おや、五十右陽香」 不意に、千歳さんが言った。 「い、いとーよーか?」 千恵子さんが訊くと、 「ああ、お祖父様の執事の牛尾さんが飼っている伝書鳩だ」 千歳さん、普通にそう言った。 「……まぁ、可愛らしい鳩。おじょうちゃま、その鳩はどうなさったの?」 やっと妹たちの騒ぎに気が付いた美華お姉さまが質問する。 「気が付いたら、頭の上に乗っておりましたの、女御さま」 即座に猫を被って返答する千恵子さん。 そして、千歳さんは、一人マイペースに、 「園美、陽香(ようか)の脚に付いている手紙を取ってくれないか。お祖父様からの連絡に違いない」 と、小さな声で園美に頼んだ。 鳩……いや、五十右陽香(いとう・ようか)の脚に、手紙の入った筒が結び付けられていることに、ようやく気が付いた園美さんは、それを外して千恵子に渡した。 千恵子が急いで手紙を読み始める。 「ふむ……ふむ……そうや、そう行けば……」 手紙を読みながら、ぶつぶつ呟く千恵子さん。 その、五十右陽香を載せた頭の中で、取るべき戦略が、みるみるうちに形を成していく。 やがて、 「……よし」 千恵子は一つ頷き、呟いた。 「オペレーション“麦刈り”、発動や」
の○太と、平安時代からの○太を助けるためにやって来た、武者型ロボットのナオえもん、ナオえもんの妹のドラみあこ、の○太をいじめるガキ大将のジュンアンと大金持ちの息子のヒロ夫、そして、クラスのアイドルで、の○太の憧れの人でもあるハルカちゃん……と、戦後三大アニメの一つ、『ナオえもん』のコスプレで揃えたチームである。 一回戦では、アタッカーの“ドラみあこ”と“ジュンアン”が敵を薙ぎ倒し、逃げ惑う敵をミドルアタッカーの“ナオえもん”がバズーカで一網打尽にし、捉えきれない敵はスナイパーの“の○太”が撃墜する、という戦いっぷりで圧勝している。 そんな彼らの入場曲は、
ちゃらら ちゃらら ちゃらら ちゃらら ちゃらら ちゃらら ちゃららら♪↓ でっかい“愛”の前立てのついた兜を被った“ナオえもん”の姿に、会場のあちこちから失笑が漏れている。 無論、お嬢様方も、クスクス笑っていた。 それを見て、 (くっ……あんな可愛い子にまで笑われちまった……) “ナオえもん”は激しくブルーになった。 だが、それだけでは済まなかったのである。 練馬銅鑼高校の皆さんが、顔合わせで自己紹介を始めようとした時、 「やめろ」 突然、千歳さんがこう言った。 「ちょっと、なんなのよ、あんた!」 「何言ってんだよ、お前!」 真っ先に自己紹介しようとしていた“ドラみあこ”と“ジュンアン”が抗議する。 「千歳さん?」 「どうなさったの?」 お姉さまがたからも不審の声が挙がる。 が、千歳さんは全く動じずに、こう言ってのけた。 「無駄な自己紹介をするのは止めろと言っている。どうせすぐに全員私に撃墜されるのだ。秒殺される人間の名など、いちいち覚えていられぬわ」 「……っ!」 敵チーム(脅えてしまった“の○太”を除く)に、一気に緊張が走る。 「千歳さん、やめたまえ!」 後輩の余りに無礼な態度を見かねたオスカルさまが止めに入る。 が、 「梅壺お姉さまは黙っていてください」 逆に千歳さんに言い返されてしまい、黙るしかなかった。 ちなみに、千歳さんは、新撰組コスプレの上に、鉢金を被っている。 鉢金の錣(しころ)は、麻布の上に鎖の網目がかかっている、という作り。 鉢金無しだった一回戦とは異なる、新撰組幹部の完全なコスプレだった。 そんな千歳さんからは、威厳と言うか、存在感というか、常人とは違うオーラが立ち上っていた。 「お姉さま方、お姉さま方が相手をなさる程ではございません。このようなコスプレが似合わぬ奴輩(やつばら)を相手になさっては、お姉さま方の武名を汚すことになります。ここは私一人で結構。全員に天誅を加えます」 その台詞で、 「「うっ…」」 “ナオえもん”と“の○太”が赤面してうつ向いた。 何しろ、“ナオえもん”の格好は、黒い鎧に、でっかい『愛』の前立ての付いた兜。 原作通りの美丈夫が着るなら問題はないが、彼のようにごつい体格の者が着ると、不似合いなことこの上ない。 一方、“の○太”の半ズボンも、このコスプレイヤーのように、鍛え上げられた肉体を持つ者が着ていては、某鑑定士の大先生のおっしゃるように、「いけません中のいけません」なのである。 そのことを自覚していた“ナオえもん”と“の○太”は、千歳さんの口撃……もとい、攻撃で、大きな精神的ダメージを受けた。 一方、 「……っ!」 “ドラみあこ”(これも巨大なカツラ+メチャクチャな厚化粧のため、コスプレが似合っていない)は完全にキレ、 「黙れーっ!」 絶叫しながら、原作通り、スリッパを取りだし、凄い勢いで投げ付けた。 が、原作では、「どこから取り出すかはわからない」とされているスリッパが、“ドラみあこ”の懐から取り出されるのを、千歳さんはしっかり確認できたし、飛んでくる軌道も読めた。 で、当然の結果として、 「ぱし」 「ぱし」 「ぱし」 飛んできたスリッパは、尽く千歳さんの手中に収まっていた。 呆然とする“ドラみあこ”に、 「修行が足りんな」 一言言い捨てると、千歳は、 「こんな歯応えのない奴輩、メインウェポンを使うまでもない」 と呟いて、今まで抱えていたステアーAUGを、無造作に放り捨てた。 そして、サイドアームのコルトパイソン.357マグナムの銃口を練馬銅鑼高校の皆様に向け、千歳さんは、 「……お前はもう、死んでいる!」 止めの一言を放った。 その凄まじいまでの気迫に、練馬銅鑼高校の皆さんは再び甚大な精神的ダメージを喰らい、ギャラリーの男性客たちも凍り付いてしまった。 「あ、あんた、あたしらのこと、散々馬鹿にして……」 「覚えてろ! 後で泣いても知らねぇぞ!」 憤るナオえもん一行に、 「ふん、今宵のコルトパイソンは血に飢えているぞ……」 サイドアームを弄びながら、千歳さんはこう言ってのけた。 最早元ネタが誰なのか、作者にも分からなくなってきている。 「こ、こえーよ、あのねーちゃん……」 「まさに鬼だな……」 こっそり呟く男性客。 「まぁ……」 「なんと凛々しいのでしょう」 応援団の皆さんは、何故か盛り上がっている。 「やり過ぎだよ、千歳ちゃん……」 応援団に紛れて観戦中の赤橋さんは、冷や汗をかいていた。 敵を挑発し、怒らせ、その怒りに更に油を注ぐ。 あんなに怖い千歳は、見たことがない。 そう、まるで人が変わったかのような…… (あれ?) 園美さんは首を傾げた。 (あの、人の痛い所を見逃さず、徹底的に痛め付けるやり口って、もしや……)
顔合わせを終え、本陣へ小走りで戻りながら、千歳さんが参謀に問いただした。 「ある」 同じく小走りしながら、千恵子さんは言いきった。 「敵を怒らせな」 返答がいつものように長くないのは、巨大な“みにみ”を背負って走っているため、余裕がないからであった。 実は、軍師千恵子、千歳さんの背後から、彼女の言うべき台詞を囁いていた。 で、千歳はそれをそのまま復唱していたのである。 つまり、相手を散々罵っていたのは、千歳さんではなく、実際は千恵子さんだったのである。 (あの台詞で向こうさんは怒りに燃えているはずや。せやけど、それがあんたらの命取りや……) 千恵子さんは、オペレーション“麦刈り”の成功を確信していた。
「許せねえ、新撰組。オレたちを虚仮(こけ)にしやがって……このオレが撃墜してやる!」 突進しながら叫ぶ“ジュンアン”。 ……あばら骨が浮き出てしまいそうな位ガリガリに痩せている、身長2m近い身体には、やはり衣装があまり似合っていなかった。 「何言ってんの、新撰組はあたしが殺るに決まってるでしょ!」 そんなジュンアンをクルツで小突く“ドラみあこ”。 二人とも、“新撰組”こと千歳の後ろに、千恵子が隠れていたことに気付いていない。 もちろん、千歳が千恵子の考えた台詞を喋らされていたことも看破していない。 これは、残りの敵たちにも共通している。 要するに、千恵子さんの身長が低すぎて、見えなかったからなのである。 嗚呼、悲しみの140cm台。 ……というのは、千恵子さんが勝手に言っている台詞なのだが。 (暇と興味のある人は、キャラシートで彼女たちの身長をチェックしてみよう!) それはともかくとして、“ドラみあこ”と“ジュンアン”である。 彼らは、かなりのスピードで突進していた。 「うるせえな!」 「あら、文句あんの? あるんだったらサシで勝負よ」 「やだよ。すぐ終わるから」 「あたしの勝ちでね」 「何ぃ!」 原作通り、突進しながらも漫才を繰り広げているところは、コスプレに忠実であると言えよう。 と、彼等の前方30メートルのところに、浅葱色の羽織を着た人物がいるのを、“ドラみあこ”が発見した。 「いたわっ! 新撰組よっ!」 叫ぶなり、“ドラみあこ”はクルツの引金を引いた。 とっさに薮の中に隠れる“新撰組”。 そして、彼女はくるりと踵を返し、一目散に逃げ始めた。 「こらぁ、待て!」 後ろ姿に“ジュンアン”が発砲するが、もともと彼は射撃があまりうまくないので、“新撰組”に弾は命中しない。 一方、遠距離の射撃が不得手なのは“ドラみあこ”も同じ。 結果として、二人は逃げる“新撰組”を追い掛けることになった。 30mばかり走った所で、“新撰組”は振り向きざまに、手にしたハンドガンで追手に発砲した。 慌ててアンブッシュする“ドラみあこ”と“ジュンアン”。 だが、“新撰組”からそれ以上の攻撃はない。 “ドラみあこ”が様子を窺った時には、“新撰組”は彼等に大差を付けて逃げていた。 「こんにゃろ! 待てぇ!」 「卑怯者!」 様々な罵詈雑言を背に受けながらも、なおも“新撰組”は逃げる。 ジュンアンとドラみあこも必死に追撃し、その差を縮めるが、再び“新撰組”が牽制射撃をしたため、また茂みの中に隠れる。 そして、再び追い掛けると、またもや“新撰組”は牽制射撃。 またまた茂みに隠れ、再び立ち上がった“ドラみあこ”と“ジュンアン”の目に、こちらを向いて佇んでいる“新撰組”の姿が映った。 彼我の距離は、40mほどか。 「あ、あんな距離から撃つ気かしら……」 「だけど、あんな距離じゃ、オレらも撃てないぜ……」 「そうね…もう少し近付いてから、一気に……」 ひそひそ声で話し合う“ドラみあこ”と“ジュンアン”。 「OK。じゃアンブッシュしながら前進して……」 そして、二人はそろそろと前に進み始めた。 が、その時……。 「ばばばばばば」 「ぼしゅっ、ぼしゅっ、ぼしゅっ」 背後から突然、発射音が響いた。 (何だ?) 振り返る間はなかった。 後ろから飛んで来たBB弾が、“ジュンアン”の背にぶつかる。 「ちっ、ヒット!」 “ジュンアン”はヒットコールした。 その瞬間、 「ばばばばばば」 前方の“新撰組”も前進し、彼らに向かって銃撃を開始。 残った“ドラみあこ”も、前後からの挟撃には抵抗する術がなく、 「ヒット!」 呆気なく撃墜された。 こうして、“ジュンアン”と“ドラみあこ”は両手を挙げ、フィールドを後にしたのだった……。
敵のヒットコールが響き渡ると、千恵子さんは本陣でほくそえんだ。 「女御さまも姫さまもみずえさまも、うまく千歳さまに変装できたようですわ」 説明しよう。 実は、千恵子さんの指示で、直子お姉さまと美華お姉さま、そしてみずえさんは、ゲームが始まると、新撰組の隊服を羽織り、鉢金を被ったのである。 で、直子お姉さまは、そのまま突出し、“ドラみあこ”と“ジュンアン”の姿を探す。 これは、彼等の性格上、中央突破を図ってくることが簡単に予測できたので、すぐ見付けることができた。 そして、二人が直子お姉さまを発見したと見るや、ひたすら逃走。 千歳さんと同じ身長、髪型を隠す鉢金と錣、新撰組の羽織、そして距離。 これらの要素が、“ドラみあこ”と“ジュンアン”に、直子お姉さまを千歳と思い込ませたのである。 で、二人は復讐に燃え、直子お姉さまを“新撰組”と思い込んだまま追跡。 直子お姉さまの逃げる先には、変装したみずえさんが隠れていた。 そして、その近くまで逃げると、直子お姉さまは追っ手に牽制射撃。 追っ手がアンブッシュした隙に、直子お姉さまに代わり、みずえさんが逃げる。 やはりみずえさんも千歳とほぼ同じ身長なので、敵はみずえさんを千歳と思い込んだ。 で、みずえさんは牽制射撃をして、これまた変装した美華お姉さまにバトンタッチ。 美華お姉さまは千歳さんが見えるところまで敵を誘導すると隠れ、敵の背後に迂回し、敵を追跡してきた直子お姉さまとみずえさんと共に、背後から射撃を掛けた、と言うわけだ。 敵に間を詰められても、同じ格好をした人間がタイミングを合わせ、小刻みに入れ変わることで、その差を広げることができる。 また、敵の意識を前に集中させることにより、後ろの状況に対する警戒をなくしてしまう。 敵を死地に誘い込み、分断し、楽に敵を撃墜する。 それがオペレーション“麦刈り”なのである。 恐らく、この場に司馬仲達がいても、この作戦は見破れないだろう。 ……ちなみに、北海道の某ウルフたちも、北海道大会で似たような作戦を取っている。 (あとはバズーカとM60さえ何とかなれば、うちらの勝ちや……) 軍師千恵子さんは、その可愛い顔に似合わぬ壮絶な笑みを白皙の顔に浮かべた。
「ちっ、何て脚の速さだ、あいつら」 舌打ちしつつも、先行した“ジュンアン”と“ドラみあこ”を追う。 “ドラみあこ”と“ジュンアン”が足で敵陣を掻き回し、算を乱した敵を、自分がバズーカで一網打尽にする。 その作戦手順を確認し、“ナオえもん”は、立ち止まって大きく息を吸い込んだ。 (言いたくない……でも、言わないと、“ドラみあこ”に殺される……) 必死で自分の羞恥心を押さえ、“ナオえもん”は口を開いた。 「てけててん♪(←効果音) いちころバズ〜カ〜」 露骨に嫌な表情をしながらも、何とか、決め台詞と共に、バズーカを構えることが出来た。 だが、その瞬間、 「ばばばばばば」 「ぼしゅっ、ぼしゅっ、ぼしゅっ」 「……ちっ、ヒット!」 「ばばばばばば」 「ばばばばばば」 「ぼしゅっ、ぼしゅっ、ぼしゅっ」 「ヒット!」 前方から、銃声と共に、“ジュンアン”と“ドラみあこ”のヒットコールが聴こえた。 (何っ!) “ナオえもん”は驚愕した。 (アタッカーが、二人ともやられた!) その事実を頭の中で反芻すると、作戦参謀の“ナオえもん”は、必死に戦略を再構築し始めた。 アタッカーを失ったとなると、取るべき作戦は違ってくる。 このバズーカを有効活用し、なるべく多くの敵を一気に討ち取りたい。 そのためには、敵を固まらせ、そこに一撃を加えた方が断然有利なのである。 地形が平坦、そして木やら茂みやら、遮蔽物がそこかしこにあるこのフィールドで、敵を一箇所におびき寄せる方法はただ一つ。 敵に敢えて本陣を攻撃させ、ある程度の人数が固まった所で、背後からバズーカで一網打尽にすることである。 (では、敵の来ないうちに、本陣近くに隠れよう) “ナオえもん”が踵を返した瞬間、 「ばばっ」 彼の側を、BB弾が風を切って通りすぎた。 (ちっ!) “ナオえもん”は慌ててアンブッシュした。 草の葉の間から、弾の飛んできた方向を窺う。 しかし見通しが効かず、敵の姿を捉えることができない。 視界に入るものといったら、一面に生い茂る草と、前方、30m程離れたところに立っている大木だけである。 銃弾が飛んできた方向に撃ち返すことは、敵に自分の居場所を教えてしまう。 しかも、敵がその場所にいるかどうかはわからない。 かといって、敵が自分の居場所を把握していた場合、ここから移動することは、敵に隙を見せることに等しい。 “ナオえもん”は進退極まった。 仕方なく、その場に留まり、じっと銃弾が飛んで来た方向を窺う。 と、 「フリーズあそばせ」 背後から女性の声。 “ナオえもん”が驚いて振り返ると、そこには、ウージーSMGを構えた、メイド服姿の美しい女性が佇んでいた。 ちなみに、彼我の距離は2mも無い。 (い、いつの間に!) “ナオえもん”は驚愕の極致にいた。 ここで反撃に転じても、銃を構えるより前にこちらがやられることは明白。 「ヒット…」 “ナオえもん”は力なく両手を挙げた。
“ナオえもん”の視界に入っていた大木の上。 そこにいた直子お姉さまは、ホッと一息ついていた。 実は、直子お姉さま、“ジュンアン”と“ドラみあこ”を討ち取ったのを確認すると、すぐさまこの大木に登り、フィールドを俯瞰していたのである。 勿論、セーラー服の上に、森林迷彩服の上着を羽織り、何本かの大きな木の枝で自分の姿をカムフラージュしていたので、遠目には、そこに直子さまがいる、ということは、全く分からなかった。 そこで、直子様は、“ナオえもん”を発見し、彼を足止めさせるために牽制射撃を加えた。 そうすることで、美華様がフリーズコールできるように、アシストしたのである。 本当は、直子様がそのまま射撃を続けた方が“ナオえもん”を早く撃墜できるのだが、1回戦で誤認撃墜をやっておしまいになった美華様の撃墜数を確保するため、直子様は敢えてこのような作戦を取ったのであった。 「さてと次は、ディフェンダーを何とかしなければなりませんわ」 そう独り言を言いつつ、直子さまは素早く大木から降りていった。
『聖ガブリエル女学院サバイバルゲーム愛好会』の本陣では、ちょっとした事件が起こっていた。 オペレーション“麦刈り”のため、本陣を離れていた千歳さんが、いつまで経っても戻ってこないのである。 「一体、どうしたのかね、千歳さんは?」 本陣で待機中の真理亜お姉さまが、傍らの“おちびちゃん”に問いただす。 こうして待機しているだけでも、彼女からは華やかなオーラが立ち上り、それが純白のフランス軍服とマッチし、もう、宝塚に足を踏み込んだしか思えない。 「さぁ?」 千恵子さんは、可愛らしく首を傾げた。 そのことにより、「妹オーラ」が当社比110%で増強され、ギャラリーの男性客の中には、更に興奮している者もいた。 だが、そんな可愛い彼女の心中は、 (何してんねん、千歳は……) 溜め息だらけだった。 オペレーション“麦刈り”の最終段階では、千歳さん本人の姿を、真正面から、敵のアタッカーに見せる必要があった。 正面像だと、遠くからでも顔が分かってしまうから、千歳の影武者では敵にバレてしまい、警戒を抱かせることになる。 また、千歳さんが発する気合いは、やはり千歳本人にしか出せない。 という訳で、オペレーション“麦刈り”には千歳も参加することになったのだ。 もちろん、千歳さんが本陣にいたままだと、彼女を狙った弾が、本陣に待機中の千恵子や真理亜お姉さまに当たってしまう可能性もある。 そこで、千恵子は千歳を、本陣から20mばかり離れた位置に連れて行き、こう言った。 「ええか、この方向に向かって、待機してるんやで。敵の姿が見えても、あんたが気配を察知できる距離までは、攻撃したらあかん。そんで、敵のアタッカーが撃ち取られたら、本陣に戻ってくるんやで」 丁寧に指差しまでして言い含めたのは、もちろん、千歳さんが方向音痴であることを考えてのことである。 本陣とは20mしか離れていないから、千歳も戻って来られるだろう。 千恵子はそう踏んでいたのだが、その考えは甘かったようだ。 (ていうか、たった20mの距離で、どうやったら道に迷えるんや……あーあ) 千恵子は盛大に溜め息をつきたかった。 しかし、軍師たるもの、感情を顔に出してはいけない。 そう思い直し、千恵子は普段と変わらぬ表情で、 「そのうち戻っていらっしゃいますわ。放っておきましょう」 リーダーに申し上げたのである。
彼女は今、本陣に向かって前進中……のはずだった。 しかし、いくら進めど、千恵子と梅壺お姉さまの待つ本陣に辿り着けない。 (はて……どうしたことか) 千恵子に教えられた方向には、進んでいるはずである。 だが、生い茂る草で本陣は見えない。 おまけに、もう100mは歩いたのに、千恵子たちの声が全くしない。 (これは……迷ったか) 千歳は眉をしかめ、立ち止まった。 迷子になった時は、下手に動かないこと、これが鉄則。 ゲームが終れば、チームの誰かが自分を見付けてくれるだろう。 そう考え、千歳はそれまで待つことにした。 辺りに警戒を払いつつ、ステアーAUGを構える。 と、 (殺気!) 千歳は慌てて身を伏せた。 その頭上を、弾が通りすぎていく。 (今の弾は、私を狙ったものだな) 千歳は殺気の生じた方向を睨みつつ、銃を構え直した。 生い茂る草で、視界は奪われている。 千歳さんの第六感に引っ掛かる気配もない。 (下手に動かぬ方が良いな) と千歳が思った矢先、強い風が吹き、周りの草が根元から大きく揺れた。 (っ!) 千歳は衝撃を受けた。 自分の前方、30mほどの位置に、男性がこちらを向いて立っている。 鍛え上げられた肉体に半ズボン、という外観は、恐らく“の○太”であろう。 彼が構えたスナイパーライフルの銃口は、千歳さんに真っ直ぐ向けられていた。 恐らく、先ほどの弾も、彼が発射したに違いない。 相手は、自分の位置をはっきり認識している。 恐らく、上手くいったとしても相討ちになるだろう。 (……むざむざと玉砕するよりは!) 千歳さんが、ステアーAUGのトリガーに指を掛けた、まさにその時。 「スカーレ@ト・@ードル!」 力強い叫びと共に、発射音が響きわたった。 すると、 「ぐはぁっ……」 前方に佇む“の○太”が、のけぞった。 千歳は叫びが発せられた方向を見やった。 フィールドに点在する、そこそこの高さのある木。 その木の股にすっくと立ち、銃を構える一人の大正女学生。 「みずえ……!」 滅多に感情を表に出さない千歳さんの眼差しに、感謝の色が混じった。 その視線の先で、名越みずえさんは、長距離狙撃用として隠し持っていたスコーピオンの銃口の狙いをピタリと定め、弾を発射し続ける。 「スカーレ@ト・@ードル!」 「スカーレ@ト・@ードル!」 引金を引く度にこう叫ぶのは、もはやお約束である。 声色が、某蠍座の聖闘士に似ているのは気のせいだろうか。 「ぐはぁ」 「うう……」 みずえさんの放ったスカーレッ……もとい、BB弾は、“の○太”に尽く命中していた。 だが、 「スカーレ@ト・@ードル!」 「スカーレ@ト・@ードル!」 みずえさんの連続攻撃のために、“の○太”は「ヒット」という言葉を発することができない。 「もう5発も撃ったのに、まだ動けるとは、しぶとい野郎だぜ」 みずえさんは呟き、 「スカーレ@ト・@ードル!」 「スカーレ@ト・@ードル!」 また容赦無く弾を撃ち込み始めた。 「ま、待…」 「スカーレ@ト・@ードル!」 「……い、いや、だか」 「スカーレ@ト・@ードル!」 「ヒ、ヒッ……」 「スカーレ@ト・@ードル!」 「だ、だか……」 “の○太”は既に10発の弾をその身に受けていた。 ヒットコールを言おうとすると、弾が当たるし、もちろん、反撃はできないし…… この不幸っぷり、某函館のスナイパーを彷彿とさせるものがある。 「ちっきしょー……あの野郎、絶対撃墜してやる」 木の上でみずえさんが舌打ちする。 彼女はスコーピオンを構え直すと、再び攻撃を開始した。 「スカーレ@ト・@ードル!」 「スカーレ@ト・@ードル!」 「スカーレ@ト…っ?!」 突如、トレードマークの三つ編みが引っ張られ、みずえさんは危うく木から落ちそうになった。 見ると、お下げの端っこを、鳩がガシガシかじっている。 良く見ると、その足には、手紙らしきものがくくりつけられていた。 「何これ?」 みずえさんは急いでそれを開いた。 そこには、殿様の筆跡で、こう書かれていた。 「“アンタレス”だけで十分だ」
“の○太”のヒットコールを聞き届けたあと、みずえさんは木の上で小さく溜め息をついた。 「要するに、さっさと本陣を攻めろってことだろ」 そう言いながら、みずえさんは敵本陣の方角を見定めようとした。 が、そこに、 「ばばばばば」 響き渡る銃声。 気が付いたときには、みずえさんは被弾していた。 「ヒット!」 みずえさんが大きな声で宣言すると、 「あ……はいからさんが」 「てゆーか、今の、どこから撃った?」 ギャラリーがひとしきりざわめいた。 「……チッ、オレとしたことが」 みずえさんはしぶしぶ木から降りてセーフティーゾーンに向かったが、 (今、どこから撃ちやがったんだ?) 疑問が消えなかった。
「へっ、僕のM60の威力を見たか!」 “ヒロ夫”が自慢気に言い放った。 彼のM60は、遠距離用カスタムはもちろん、連射速度アップ、千恵子のメインウェポンである“M249 MINIMI MARK2”の2500発マガジンを4つ連結、サイレンサーにスコープ、と、ありとあらゆるカスタムがなされていた。 しかも、いざとなれば、100発の弾が一度に発射できるバズーカ仕様カスタムも、特注して施されている。 銃本体とカスタムを合わせて、100万円はかかっているかもしれない。 しかも、コスチュームも、高級ブランドに特注したもの。 ……原作通り、水色の長袖トレーナーにブラウンの半ズボンなのが悲しいところなのだが。 しかし、残念なことに、狸顔の彼には、せっかくのコスプレが余り似合っていなかった。 その隣に佇む、ピンクのワンピースに身を包んだ少女は“ハルカちゃん”。 “ヒロ夫”の言葉には耳を貸さず、ウージーを構えて油断無く前方を見据えていた。 だが、“ハルカちゃん”、美人なのだが、彫りの深い顔立ち。 原作の日本美人とは、ちと趣きが異なっていた。 と、 「ばん」 彼らの前方から、牽制射撃の弾が飛んできた。 「くっ、敵か!撃墜してやる!」 “ヒロ夫”はすぐさま弾幕を張り始めた。 えらい勢いで、弾が遠くに撒き散らされる。 と、彼らから40メートルくらい離れた場所に、浅葱色の着物がちらりと見えた。 ちなみに、方角は2時方向。 「ヒロ夫さん、こっちだ!」 “ハルカちゃん”が指差すと、 「なに〜!」 “ヒロ夫”は指示された方向にM60の銃口を向けた。 が、間髪入れずに、今度は10時方向に人の頭が見えた。 「ヒロ夫さん、あっちだ!」 “ハルカちゃん”の指示で、再び“ヒロ夫”がM60の銃口の向きを変え、撃ちまくった。 すると、5秒も経たずに、また10時方向に浅葱色が見えた。 「ヒロ夫さん、こっちだ!」 その指示で再び“ヒロ夫”は銃口の向きを変えた。 「ヒロ夫さん、あっちだ!」 またまた2時方向に、人の頭が見える。 それを認識して、 「……えーい、面倒だ!」 “ヒロ夫”は、自分の身体を中心とし、水平に構えた特注M60を振り回し始めた。 10時方向から2時方向をカバーするように、凄まじいスピードでM60を動かしながら、弾幕を張る。 だが、10時方向と2時方向の敵は、頭をちょこちょこと草の上に出している。 「くっそー……」 “ヒロ夫”は、M60の振り回し速度を上げようとした。 ……できなかった。 もともと、M60の重量は、かなりある。 そこに、2500発マガジンが4つ、サイレンサーにスコープ……と、あらゆるカスタムを施しているため、重さは増している。 そして、かなり重要なことには、“ヒロ夫”には、腕力がなかった。 という訳で、M60の振り回し速度をあげるどころか、M60を持っていられるかどうかが怪しいところまで疲労してしまったのである。 「お、重い……」 歯を食いしばりながら、必死に前方120度の範囲に弾幕を張る“ヒロ夫”。 “ヒロ夫”の状態を知ってか知らずか、前方の二人は、頭を草の上に出す回数が多くなっている。 そして、ついに、破局は訪れた。 「も、もうダメだ……」 その声と共に、“ヒロ夫”の手から、特製M60が滑り落ちた。 運の悪いことに、M60が落ちたところは水溜りだった。 で、 「ばっしゃーん」 派手な水音がしたかと思うと、“ヒロ夫”は足に泥水を浴びていた。 もちろん、特製M60も泥まみれ。 「ぼ、僕のM60が……」 茫然とする“ヒロ夫”。 それを見逃さず、 「ばばばば」 「ばばばば」 前方の二人は一斉射撃を加えた。 「ひ、ヒット……えーん、ママー!」 “ヒロ夫”は、M60を引き摺り、半べそをかきながら去っていった。 「くっ」 “ヒロ夫”を撃墜されたのを見て、“ハルカちゃん”は、すぐさま、前方の敵に射撃を試みようとした。 すると、自分の足が、ふと目に入った。 先ほど、“ヒロ夫”のM60が水溜りに落ちた時の泥水が、白い靴下に掛かってしまっている。 ……それを確認した“ハルカちゃん”は、信じられない台詞を吐いた。 「ふむ、お風呂に入らなければ……お風呂が私を呼んでいる」 そう言って、彼女は、前方にいる敵に、くるりと背を向けた。 そして、そのまま足早にフィールドを去っていく。 「……あ、お帰りになるのでしたら、両手を挙げて下さいませ!」 慌てて叫んだ敵の声に、あっさり“ハルカちゃん”は両手を挙げた。 「お風呂……お風呂はどこだ?」 と言いながら……。 そして、終了のホイッスルが鳴った。
千歳:2(プラス“ヒロ夫”) みずえ:4(プラス“ジュンアン”と“の○太”) 直子お姉さま:2(プラス“ドラみあこ”と“ハルカちゃん”) オスカル様:2 美華お姉さま:0(プラス“ナオえもん”)
千歳が直子お姉さまに連れられて控えテントに戻ると、千恵子さんが駆け寄ってきて囁いた。 「……ああ」 「そうか。話は女御さんから聞いたで。あんた、“ヒロ夫”のあのM60を封じたんやてな」 「……そういうことになるか」 実は、“の○太”が撃墜された後、駆けつけた直子お姉さまに、本陣襲撃を提案したのは千歳さんだった。 勿論、ヒロ夫に広範囲弾幕を張らせる作戦を思いついた張本人は千歳さんなのである。 ……これは、千恵子の考えていた作戦行動には入っていなかった。 「4人撃墜したら、オスカルも前線に出して、総攻撃を掛ける」 というのが、千恵子が脳裏に思い描いていた作戦だったのである。 そこで、彼女は、まずアタッカーのみずえと直子お姉さまが本陣を攻撃し、敵の注意が彼女らに向いている間に、側面からオスカルが大量の弾を撃ちこんで敵の本陣を陥落させる、という指示を出していた。 あの化物M60に対抗するには、2方向からの時間差攻撃で仕留めるしかない、と考えていたのである。 が、現実には、千歳と直子お姉さま二人だけで、あっさりと“ヒロ夫”が撃墜されたのである。 千恵子はその事実に驚いていた。 「……それにしても、敵を疲れさせて銃を取り落としたところを撃墜するて、よう思いついたわ、千歳。あんたは偉い。迷子に耐えて、よう頑張った。感動した」 千恵子は、最大級の賛辞を千歳に贈った。 「……よしてくれ、たいしたことではない」 それに、相変わらず無愛想に答える千歳さん。 が、それには構わず、 「なあなあ、一体どうやって思いついたん?」 軍師千恵子さん、興味津々で千歳に尋ねた。 その無邪気な笑顔から、千恵子さんファンのお兄さま方がノックアウトされるであろう、という「妹オーラ」が、四方八方に放たれている。 そんな友人に、千歳さんはこれだけ言ったのだ。 「……自分の能力とポジションに見合った銃を、彼が使っていなかった、というだけだ」
ギャラリーには、喜びに湧く聖ガブリエルの大応援団を、怨念のこもった眼で見つめる一群の男性たちがいた。 「おのれ、佐々木っ……!」 その中のリーダー格らしい男が呟いた。 「全国1位の称号を得ておきながら、このサバイバルゲームでも勝利を収め続けるとは、許さん……!」 男の目には、濃い怒りの色が見える。 そういえば、彼を取り巻くメンバーからも、怒りのオーラが立ち上っている。 「……よかろう、このオレが、軍略の何たるかを教えてやる。麻野(あさの)先生のご無念、今こそ晴らそうではないか……!」 リーダー格は、ニヤリと笑った。 「……諸君、いよいよ佐々木の首を取る時がやって来た。思う存分、励んでくれたまえ」 「「「「「かしこまってござる!」」」」」 リーダー格に頭を下げるメンバーたち。 彼らは一体何者なのか? そして、彼らが千恵子さんを狙う理由とは? 風雲急を告げる予選第3ラウンド、遠日公開未定!
「予選2試合を無事通過したお嬢様方。
『FANG GUNNERS』に、負けるな、お嬢さま」 |