投稿小説だぜ

まるえさま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

『ガブリエル様の白き翼の下に〜猫かぶりお嬢さま奮闘記〜』

第二話


◇なんだかおかしな準備編◇

◇1◇


さて、千恵子さんが、ものの見事に殿様の策にかかり、サバゲー大会への参加を承諾してしまった翌日。

「マジッすか?!」

天文気象部の部室で、名越みずえさんは、非常に嬉しそうに叫んだ。

「千歳も千恵も出てくれるんだぁ!」

その余りの興奮っぷりに比例してか、みずえさんの三つ編み、通常比2割増しぐらいでぴーんと張っている。

「ああ」

千歳はこくりと頷いた。

「……そーゆーことになってしもた」

千恵子は昨夜の自分の醜態を思い、複雑な表情を浮かべた。

(なんちゅーことや。うちとしたことが)

「軍略を授ける」という一言で、舞い上がってしまった自分が愚かだったのだ。

冷静に考えれば、あの一言は、自分を舞い上がらせて、思考を止めるための台詞。

そうして自分の思考力を奪っておいて、殿様は千恵子を意のままに動かしたのである。

「敵に冷静な判断をさせてはいけない」、まさに戦術のセオリー通り。

姉から新撰組の衣装を借りるまで、自分はそのことに気付かず……

(ねーちゃんも、「あんたにしては舞いあがってるなー」とか、言うてくれたらええのに。ん……?)

「そうと決まれば、早速装備を決めようぜ」

みずえさん、すっかり上機嫌である。放って置けば、鼻歌のメロディーにあわせてそこら辺をスキップして回っていそうだ。

「……装備って、エアガンとか迷彩服とかかいな」

思考から醒めた千恵子が尋ねると、

「そうそ♪ オレ、『ルパ○三世』の次元の銃。これにする!」

みずえさん、右手の指でピストルを作って、撃つ真似をする。

「……もう決めてるんかいな」

千恵子は友人の余りのはしゃぎっぷりに、呆れたように呟いた。

「……お姉さま方には相談せずともよいのか?」

千歳がみずえに尋ねる。

「あ、平気平気〜。さっき、オスカルに訊いたら、銃は勝手に選んでいい、っつってたぜ」

……みずえさん、生徒会長を、「様」も付けずに「オスカル」呼ばわりしている。

「さよか……」

(勝手に好きなの選べって言われてもなぁ)

千恵子さんはまた考え込んだ。

自分は全然エアガンには詳しくない。

従って、何を基準にエアガンを選ぶべきなのか、さっぱり分からないのだ。

が、

(……こういうときには、情報を漁るに限る)

千恵子の灰色の脳細胞は、あっさりと対応策をはじき出した。

「ほな、ちょっと、ネットで見てみるか」

千恵子はパソコンを立ち上げた。

それから、3人は、千恵子の操るパソコン画面を覗き込んでいた。

「へー、こんなんもあるんだな。リボルバーでも色々種類あるし。あ、ワルサーP38もあるじゃねーか。すげえな」

エアガンのネットショップのサイトを見ながら、みずえが歓声をあげる。

「せやけど、値段高いなぁ。見てみ、このエアガン、10万以上するわ」

値段を見て、千恵子はちょっとため息をつく。

「5桁以上=大金」の黄金の方程式が成立している彼女の脳は、画面に表示されるエアガンの値段に、ちょっとした拒否反応を起こしていた。

「いいじゃん。生徒会と三壺さまから金は出るんだろ? 一番高いの買っちゃえって」

(せやけど……)

実戦で勝つことを考えるなら、それぞれの特性を伸ばすような銃を買った方がいいのではないだろうか。

例えば、“元気なお姉さまナンバーワン”、新聞部部長の細川直子お姉さまなら、記者魂でどんな危険な状況にも突っ込んで行きそうだから、移動時に邪魔にならず、かつ、十分な火力のある銃が適しているだろう。

気配読みの得意な千歳さんなら、茂みに隠れた敵を確実に狙撃できるように、銃にスコープを付けるとよいかもしれない。

各人の個性や能力に合わせてポジションを決め、更にそのポジションで最も威力を発揮する銃を各人に配備する。

(……要するに、『適材適所』や。戦略の基本中の基本やな)

ここまで考えて、千恵子は、

「いや、それは止めた方がよろし」

と答えた。

「うにゃ?」

みずえはちょっと驚いた。そのみずえに視点を合わせて、千恵子は更に続ける。

「……例えば、この『M249 MINIMI MARK2』、値段は高いけど、これを全員が持っている、とするやん。でも、この銃は大きいから、簡単には動かされへん。ということは、うちらの移動力は無いさかい、敵の素早い動きに対応できひん。……値段にこだわって、自分に合わへん高い銃を買うよりは、自分のポジションで一番威力を発揮するように、自分の特性を生かす、もしくは欠点をカバーするような銃を買うた方がええな。もし自分に合った銃があらへんかったら、この色々あるパーツを使って、自分の好みで改造したらええわ」

みずえは目を瞠った。

「……そりゃ、そうだけどさ」

焦ったように言って、

「千恵、お前、どしたの? 昨日は、参加は気が進まないみたいなこと、言ってたじゃねーか?」

「まぁ、そらそやけど……」

千恵子はディスプレイに視線を戻した。

「ただ、出るからには勝ったろう、て思たんよ。ほんで、日本一になって、殿さんに、うちの軍略が進化したことを見せ付けたろ、て」

みずえは無言で千恵子を見た。

滅多に大きな事を言わない千恵子が、この大言壮語である。

相当な自信とやる気があるに違いない。

恐らく、自分の知略の全てを、この大会にぶつける覚悟なのだろう。

(一旦本気になると、怖いんだよなぁ、千恵って……)

「千恵」

不意に、千歳が声を出した。

「何?」

「今、ポジション、ということが出てきたが、それはもう決めているのか?」

千歳さんの声は、普段の落ち着いた響きから、少々高くなっている。

(もし、動き回るような役割になってしまったら……)

顔にこそ出さないが、千歳にはそういう不安があった。

「そやね……」

千恵子はちょっと考えたが、

「女御さんは、いつも突撃取材を敢行しまくってるさかい、アタッカー向きと違う? みずえもアタッカーキャラやろ。大将さんと姫さんは、アタッカーとデイフェンダーの中間的役割でええんと違うやろか。うちは動くのはイヤやさかい、本陣で旗を守って、千歳も本陣の近くで、迫ってくる敵を撃墜する。まぁ、これはあくまで仮。作戦によっては、この役割にはこだわらない」

「……そうか、本陣から動く可能性もあるのか」

その千歳さんの台詞に、

(ああ、なるほど)

千恵子さんは思い当たるものがあった。

このサムライガール、自分の方向音痴で、チームに迷惑を掛けることを危惧しているのだ。

となれば、その危惧を取り除いてやらなければ、チームの士気にも、彼女自身の能力にもマイナス要因となる。

「……うちは、本陣から、旗を狙う敵を狙撃するつもりなんよ。せやけど、一人だけでは、背後から回られた時に危険やん。せやから、千歳には、うちの背後にいる敵、背後に回ろうとして茂みに潜んでる敵を狙撃してもらいたいんよ。それに、うちが動いても、千歳なら本陣を一人で守れると思うねん。せやから、千歳は余り本陣からは動かさへんつもり」

千恵子は、千歳の方向音痴のことには一切触れずに、納得できる理由を説明した。

「わかった……」

千歳が頷いた。声に安堵感がこもっていた。

「おい、千恵、銃は、インターネットで買うのか?」

みずえが質問する。

「いや、ネットでは情報収集だけや。サバゲー雑誌みたいなもんも出てると思うから、それも参考にしようと思う。あとはショップに行って、実際に手に取って、動作を確かめて、それで買うつもりや」

「んー……そりゃ千恵の言うとおりだけど、この辺に、エアガン売ってる所、あんの?」

みずえが素朴な疑問を提出する。

「ちょっと待って……」

千恵子はショップの検索を始めた。

「……うーん、都内にも幾つかあるみたいなんやけど……ああ、でも、店によっては、制服での入店をお断りしています、と書いてある所があるわ。せやけど、どんな店でも、この制服で入ってく、ていうのはヤバいと思うよ」

「……それもそうだなぁ」

みずえが言った。この制服でガンショップに入る所を見付かれば、確かに学校から処分を喰らう可能性がある。

「それに、地域によっては、18歳未満のエアガン購入が禁止されてるさかい、18歳未満の入店はあかん、って所が多いな。うちの歳は、どう頑張っても誤魔化せへんと思うから、私服で行っても入れへん」

そう言う千恵子さん、町を歩いていると、小学校高学年や中学生と間違われる。16歳になった今でも、電車に乗るとき、子供の切符を使っても、駅員さんに全くバレないのだ。

これでは、私服で店に行ったとしても、18歳未満であることがバレバレである。絶対店に入れてくれないだろう。

「そうだよなー……じゃあ、ネットで買う?」

「しかし、一回も試し撃ちせずに買うのはよくない」

「そう、それが問題なんよ……」

三人は沈黙した。

それがしばらく続いて、

「あーあ、こういうの苦手だ!」

みずえが叫んだ。

「場所を変えようぜ。このままじゃ、出るアイデアも出ないぜ」

「……そらそやけど、どこに行く?」

「喫茶店。いい店を知ってんだ」

「……ここから、どのくらい掛かるん?」

「歩いて5分くらい」

「……一息入れるのも悪くないな」

千歳が呟く。顔にこそ出していないが、彼女もこの沈黙が嫌だったらしい。

「わかった。ほな、そこへ行こ」

「よっしゃ、それなら出発」 

言い終わる間もなく、みずえは部室のドアに向かっていた。


◇2◇


学校から5分くらい歩いたところで、みずえが立ち止まった。

「着いた。あの店だぜ」

そう言って、みずえが指差した先には「付け合わせのパスタ」と書かれた看板がある。

「付け合わせの……パスタ?」

「……どういう名前の付け方してんねん、この店」

千歳と千恵子が感想を漏らすと、

「それを言うんじゃねぇ!」

みずえがちょっと怒った。

「んまぁ確かに店の名前は変だけど、でも、中の雰囲気はいいから、オレのお気に入り、って訳。人気投票でも……」

「わかったわかった。わかったさかい、とっとと店入って相談しよう」

千恵子がスタスタ歩き始めた。他の二人もそれに続く。

「いらっしゃい」

千恵子が店に入ると、マスターがぶっきらぼうに言った。

年の頃は30代後半から40代前半。がっしりした体格に、よく日に焼けた肌をしている。

都会の喫茶店よりは、山や海にいる方が似合いだな、と千恵子は即座に思った。

店内は、中央のカウンターと、その右手の窓際の4人掛けのテーブル二つで、合計して15人くらいの客が入れる、と思われる。

天井では大きなプロペラがゆっくり回っている。

♪う〜るさくなると〜ぉ 君が〜いる〜から〜ぁ ちょ〜ぉと黙〜ッてて♪

(♪『Can You Keep Quiet?』……かいな)

BGMは、2,3年前の大ヒットドラマの主題歌。毎週のようにテレビにかじりついて見た記憶がある。

(ふむ、みずえの言うた通り、確かに雰囲気はええわ)

ちなみに、マスターと千恵子以外に人はいない。

「こんちは」

追い付いたみずえが店に入る。千歳も無言でそれに続いた。

「千恵、カウンターでいいだろ?」

みずえが、カウンターの背の高い椅子に腰掛けながら訊く。

「……手ぇ貸してや」

千恵子がこう応じたのは、カウンターの背の高い椅子に、身長の低い彼女一人では登れないからだった。

「……メニューはないのか?」

カウンターの上を探しながら、千歳が訊く。

「ああ、ないぜ」

みずえが答える。

「適当に注文するんだ。……マスター、コーヒーゼリーある?」

すると、

「あるよっ」

マスターが答えた。何となく、声に凄みがある。

「じゃ、それ」

……一分もしないうちに、コーヒーゼリーが出てきた。

「な、こうやって適当に注文するわけ。大抵のモンは出てくるぜ」

コーヒーゼリーにスプーンをめり込ませながら、みずえは言う。

「……へぇ。おもろい店やなぁ」

千恵子が感嘆の声をあげる。

「大抵、ちゅう基準が、どこにあんのかわからんけど……」

千恵子はこう言ってちょっと考えてから、「すんまへん」とマスターに呼び掛けた。

「『めっちゃカルシウム10.8牛乳』と、ホットケーキできますか?」

すると、

「あるよっ」

マスターが答えた。何となく、声に凄みがある。

「へっ?」

千恵子は驚いた。

なぜなら、『めっちゃカルシウム10.8牛乳』は、カルシウムを、100g中に400ミリグラム、つまり普通の牛乳の4倍量含み、おまけに、乳脂肪分10.8%という、普通の牛乳の3倍の濃さを誇る、関西地区限定の牛乳だからだ。

千恵子は関西に帰省している時には、毎日のように『めっちゃカルシウム10.8牛乳』を飲んでいるのだが……。

「ほんなら、その牛乳。ホットケーキは、シロップの代わりに『午後の加糖茶』かけてください」

……5分程して、ミルクの入ったコップと、出来立てのホットケーキが出てきた。

ミルクを一口すする。

「……間違いない。この濃厚な味。忘れもせえへん」

千恵子は頷いた。

次に、ホットケーキにナイフを入れ、切れ端をシロップに絡めて口に運ぶ。

「……うん、これ、加糖茶や。“地球味”午後の加糖茶ってか。やっぱり“まやや”はええこと言うなぁ。おいしい」

千恵子さんは、非常に満足していた。

「……茶をホットケーキに掛けるのか?」

不思議そうに聞く千歳に、千恵子は、

「うん。このお茶、シロップより甘いさかい、こうやってシロップの代わりに、ホットケーキに掛けるのが普通なんよ。これをストレートで飲み干す、ていう人、この人の多い東京中探したかて、まずいてへんやろな」

函館にはいるのだが。

「千歳は何か頼まねえのか?」

「……今考えている」

ちょっと沈黙していた千歳だが、やがて、

「カレイの煮付け」

と呟いた。

千恵子は、千歳の選択にちょっと驚いた。

(カレイの煮つけ? ……ここ、喫茶店なのに、そんな、晩御飯のおかずみたいなもん、あるんかいな?)

そう思っていると、

「あるよっ」

マスターが答えた。何となく、声に凄みがある。

「ほんまかいな……」

呆気に取られる千恵子をよそに、

「では、それを」

千歳は冷静に答えた。

……暫くして、出来立てのカレイの煮つけが出てきた。

千歳さん、一口食べて、

「美味しい」

と、頷いた。

「へぇ……」

(凄い喫茶店や)

千恵子は感心した。

そこへ、

「マスター、『地球警備ヲルスバン』のサントラ、ある?」

みずえの声がする。

「……はい?」

サントラ、というのは食べ物ではなくてCDに違いない。それを何故喫茶店で注文するのだろう?

千恵子がその疑問を追及しようとした瞬間、

「あるよっ」

マスターが答えた。何となく、声に凄みがある。

……すぐに、CDが出てきた。

ジャケットには、ヲルスバイクに乗ったヲルスバンと、その脇に立ったキィちゃんのイラストが描かれている。間違いなく、『地球警備ヲルスバン』のサントラのようだ。

「嘘やろ……」

千恵子は、目を丸くしてCDを見る。

「嘘じゃねぇぞ。ほら、正真正銘、おととい発売になった『地球警備ヲルスバン』のサントラだ」

みずえさんは、今買ったばかりのCDを千恵子に突き出す。

「いや、うちは、そういう意味で言うたんと違って、なんで喫茶店でCD売ってんのや、て訊きたかったんや」

「言っただろ、大抵のもんは出てくるって」

みずえは事も無げに答えた。

「オレ、文房具もここで買うし、プレステのソフトもここで買うぞ」

「……さよか」

千恵子は何も言えなくなってしまった。

「……雑誌は置いているのか?」

千歳が訊く。

「ああ、置いてあるな。オレ、週刊ジャン@、買いたい時はここで買ってる」

「サバイバルゲームの雑誌は?」

千歳はみずえに尋ねたつもりだったのだが。

「あるよっ」

マスターが答えた。

……何となく、声に凄みがある。

「マジ?」

これには常連客のみずえも驚いたらしい。

「……えーと、サバゲー専門誌って言うと、『月刊種子島』だけど、マスター、それ、ある?」

「あるよっ」

マスターが答えた。何とな(以下略)。

「「……」」

みずえも千恵子も呆然とした。

「……では、それを」

一人冷静さを保ち得た千歳が、落ち着いて注文する。

……すぐに、『月刊種子島』が出てきた。

「では、見てみるか」

千歳がページを捲ろうとすると、

「あっ、オレも見たい」

「うちも!」

という訳で、真ん中にいた千恵子の前に『月刊種子島』を置いて、3人は仲良く中身を読み始めた。

「何これ。文末が皆『御座候』になってるんやけど」

「ああ、この雑誌、創刊が鉄砲伝来の2年後だから、その名残で、未だに文章が候文なんだよ」

「へぇ〜。そら凄いな。よう400年以上も続いたわ」

よほど感心したのか、千恵子さんは「へぇ〜、へぇ〜」と言いながら、何度も右手で机を叩いた。

「こちらの記事は、全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会の特集記事のようだ。都道府県別に出場予想がしてある」

千歳は候文を余り苦労せずに理解しているようだ。勿論、信義じいさまの教育の成果であることは言うまでもない。

「何々、北海道は『サイレント・ネービーズ』と『地獄のも釧路区』、青森は『チーム不戦勝』で、……茨城が『チーム水戸黄門』、……何だ、これしか書いてねーじゃん。何でだよ?」

みずえさんの疑問に、

「……それらのチーム以外に、前回も出て今年も出そうなチームがないからと違う?」

千恵子さん、あっさり解答。

「どういうことだよ?」

「つまり、サバイバルゲームのチームは、チーム結成とかチーム解散とか、そういう移り変わりが激しい、ということと違うの? 実力派チームでも、一年で解散してしまう、ということがあるんよ、きっと。あと、もう一つ、去年3年生やったチームは、卒業して消えてるやんか。せやから、出場チーム予想がまともに立てられへんのやわ」

「なるほどな。ということは、実力派チームが消える分、オレらみたいに初心者も多く参加してる、てことか」

「……まぁ、初心者ゆうたかて、アーチェリーとか弓道とかの経験者やったらかなりの実力や。初心者いうだけで甘く見るのは危険やな」

「そっかぁ……」

みずえさんは、腕組みをして、椅子に掛け直した。

と、

「右のページは、エアガンの広告だな。欄外に、編集部注として、『このマグナムの使用テストは76頁をご覧遊ばされたく御座候』、と書いてある」

黙って『月刊種子島』を読んでいた千歳さんが言った。

その声に、

「何? マグナム?」

みずえが飛びつく。

「早速見てみようぜ。他のエアガンの使用テスト報告もあるかもしれない」

そのみずえの言葉で、千恵子は急いで76頁を開いた。

「ふむふむ、マグナム特集やて」

「どれどれ……おー、なるほど。だけど、次元様の銃が見当たらないぜ。オレ、それが欲しいんだけど。M19コンバットマグナム」

「あるよっ」

……マスターが答えた。(以下略)。

「「「?」」」

一瞬、顔を見合わせる3人。

「……マスター、ほんと?! あるなら、それ、見せて欲しいんだけど」

……すぐに、M19コンバットマグナムが出てきた。

「ほ、他のエアガンも、あるんですか?」

千恵子がマスターに尋ねると、

「あるよっ」

……マス(以下略)。

「ぶ、ぶっちゃけありえない……」

みずえさんが呟く。

「あ、試し撃ちって出来ます?」

千恵子の質問に、マスターは、黙って店の奥にあるドアを指差した。みずえがM19コンバットマグナムを持ったまま、椅子から急いで降りる。ドアを開けると、庭が広がっている。そこに、試し撃ちが出来るように、的が置いてあった。

みずえは、ヒューと口笛を吹いた。

「こいつはすげぇ。いくらでも、試し撃ちが出来るじゃねえか。凄いよマスター! よーし、バリバリ撃つぞ。おい、千歳も千恵もエアガン適当に選んで試し撃ちしろよ」

「ちょっと待って。三壺様呼んでくるわ。お財布が来てくれはらへんと、エアガン買われへんから」

「おっ、それもそうだ。じゃあ、千恵、三壺様を頼むぜ!」

「合点承知!」


という訳で、その後合流した三壺様共々、エアガンの試射を繰り返し、6人の装備が決定した。


使用銃リスト
金沢千歳
ステアーAUGミリタリータイプ AUGは(Armee Universal Gewehr:陸軍汎用ライフル)の略。オーストリアのステアー社が開発したブルパップタイプの、近未来的デザインのアサルトライフル。
ミリタリータイプには2倍のスコープが標準装備されており、初心者でも使いやすい。
ステアーAUGミリタリータイプ
名越みずえ
M19コンバットマグナム S&W社の代表的な357マグナムリボルバーであり、なにより“次元の銃”として有名なモデル。
エアガンとしては東京マルイ自慢の24連射システムを搭載し、リボルバーでありながらBB弾を24連射可能。
ハンドガンナーの武器として、その性能は申し分ない。
M19コンバットマグナム
4インチ
佐々木千恵子
M249 MINIMI MARK2 ベルギーのファブリック・ナシォナール社(FN社)が開発した新世代マシンガン。
分隊支援火器としては、M60の後継機に当たる。
別売の電動給弾BOXマガジンを使用することでナント!2500発もの装弾が可能となり、その火力はフィールドを圧倒するものがある。
…しかし、このマガジンを含めると重量は相当なものになり、小柄な千恵子さんが背負うのはかなり大変。
画像なし
細川直子
コルトXM177E2 M16A1のバリエーションで、ショートバレル付きの小型化モデル。
ベトナム戦争時に長いM16A1を持ち運びにくい通信兵や特殊部隊が使用した。
通信兵=新聞部(?)というわけで、直子さんが使うに相応しいモデルである。
コルトXM177E2
斯波真理亜
ウィンチェスターライフル銃? 本来オスカルが使っている銃はフランス革命時のもので、おそらく“シャルルヴィル (Charleville) M1777”と呼ばれるマスケット銃。
しかしながら、そんなエアガンは発売されていない。
そこで、年代も近く形も似ていたウィンチェスター銃を購入したのだが…。
画像なし。
畠山美華
ウージーサブマシンガン イスラエル製のコンパクトな短機関銃。数々の映画にも登場し、サブマシンガンの代名詞的存在。
某函館のあの人も使っていて、あちらは『セーラー服にウージー』、こちらは『メイド服にウージー』。
どちらに萌えを感じるかは見る人次第(笑)
ウージーサブマシンガン
ここに掲載したエアガンの画像の著作権は、株式会社東京マルイが所有しております。

が、これには「一応」という但し書きが要る。

“聖ガブリエルのオスカル様”こと、斯波真理亜さまの銃が、決まらなかったのだ。

真理亜さまが欲しかったのは“シャルルヴィル (Charleville) M1777”と呼ばれるマスケット銃。

フランス革命時に使われていた、とされるモデルである。

だが、そんなマニアック(?)なエアガン、勿論、どのメーカーも出していない。

流石のマスターも、

「流通してない商品は、置いてないな」

と言うしかなかったのである。

(ってことは、流通してるもんは、全部ある、っちゅうことかいな)

心の中でこっそり千恵子さんが突っ込みを入れる。

「……では、仕方が無い。ウィンチェスターライフルはあるか?」

オスカルさまが質問なさる。

この銃、シャルルヴィルとは違うものの、使われた年代と、銃の外観には、類似点がかなりある。

そして、これはちゃんと商品化されていたので、マスターの返答も「あるよっ」であった。

というわけで、ウィンチェスターライフルをメインウェポンとした真理亜さまだったが、その表情は、どこか不満そうであった。

そして、これが、更なる事件を呼ぶことになる……。


◇3◇


「へー、これがエアガンか」

その日の夕食後。

千歳の兄・金沢義晴氏は、千歳さんが買ってきたステアーAUGミリタリータイプを手にとって、もの珍しそうに眺めていた。

「ふむふむ、銃身はこの長さ。で、弾はここに入ってて……あ、スコープが付いてるな」

「勝手に見ないでください」

台所にいる千歳さんは、振り返らずに言った。

水色の地に散りゆく桜の花をあしらった着物に臙脂(えんじ)色の帯を締め、襷(たすき)を掛け、白いエプロンを付け、彼女は、明日持っていく自分と兄の弁当を作っていた。

彼女は剣の道に精進しながら、きちんと主婦役もこなしているのである。

「いいじゃんか、別に。見られて減るもんでもないし」

義晴兄さんは、スコープをいじりながら言った。

「ふむ、このスコープ、倍率は2倍か。ちょっと弱いなぁ。装弾数80ってのも、少ない気がするなぁ。……千歳、これ、改造していいか?」

「だから、止めて下さいと言っているでしょう」

千歳は、人参のせん切りを中断し、兄の方に身体を向けた。

「改造なんて、お断りです。もし壊れたら、どう責任を取ってくれるのです」

が、義晴兄さんは、抗議する妹に、いぶかしげな目を向け、

「何? お前、そんな心配してるの?」

と言った。

「おい、我が妹よ、この俺様を誰だと思ってるんだ。お前のお兄さまだぞ」

「だから心配なのです!」

珍しく、千歳が大声を上げた。

「去年の冬に修理してくれた包丁研ぎ機は、包丁を入れると変な声がするし、この間作ってくれた電動泡立て器は、スイッチを入れたら変な音楽が流れるし……お兄さんが機械の改造をすると、ろくなことにならないのだから……」

「ふざけたことを言うな! あのどこが変な声なんだ! けんチャンの『愛ーん!』のよさがわからないのか!」

ちなみに、泡立て器にセットされている音楽は、『ほんとに×5ご苦労さん』である。

……義晴兄さん、往年の怪物バラエティー「何時だよ?全員集合」の熱烈なファンでもあった。

「わかりません」

妹の返答は、容赦が無い。

「うるさくて仕方がありません。お料理の邪魔です」

「……何ということでしょう」

義晴兄さんは天を仰いだ。

「……よし、俺の秘蔵のDVDをお前に見せてやる。先々月のバイト代はたいて買った、俺の自慢の一品だ。一本見るだけでも、匠に意識がリフォーム出来るってもんだぜ」

……日本語がどことなくおかしいが、無視する方が無難である。

「見る暇などありません。私は部活があります。学校の宿題もありますし、お料理にお洗濯だって……」

「いーや、見ろ! これは命令だ!」

「いやです」

「見ろ!」

「いやです! 絶対いやです!」

「なに〜ぃ……」

義晴兄さんが、怒り心頭に達したそのとき、

「おいっす!」

玄関でダミ声のおっさんが叫んだ……ではなく、これはインターフォンの音である。

「待機電力が減る」という触れ込みで、義晴兄さんが勝手に改造したのだ。

勿論、声も生ではなく、「何時だよ?全員集合」の昔のビデオテープから義晴兄さんが取ってきたものなのだが、

「「おいっす!」」

兄妹は、某函館のサバゲー集団の如く、律儀に右手を挙げてしまった。

(はっ、しまった……またやってしまった……)

右手を挙げてから、千歳さんは激しい後悔の念に襲われた。

(何故だ、何ゆえ私はドアホンが鳴るたびに右手を挙げているのだ……)

ナレーション(@−トン@田):「これは“お約束”だ、ということに、未だに気が付いていない千歳であった」

一方、義晴兄さんは、冷静な判断力を取り戻していた。

「……俺が出る」

と言って、ドアホンの受話器を取る。

「はい、どちらさまですか?」

『……千歳さんと同じ部活の、斯波です』

声はそう言った。

「おい、千歳、斯波って人知ってる?」

送話口を手で塞ぎ、義晴兄さんは妹に尋ねた。

「知っているも何も……梅壺お姉さまです」

「マジ?」

義晴兄さんは目を瞠った。

「梅壺って、オスカルって言われてるあの生徒会長だろ? 何てこった。おい、千歳、茶と茶菓子の準備」

「……わかりました」

千歳さんは急いで台所に行った。その間に、義晴兄さんは、エアガンを自室のドアの中に押し込み、洗面所の鏡をのぞきながら、乱れ気味の髪を大急ぎで修復し、玄関のドアを開けた。

「あ、こんばんは」

白いブラウスに、紺色のスラックスを穿いた、斯波真理亜さまが軽く頭を下げた。

(げっ、この髪型にこの顔、マジでオスカルだ)

内心の驚きを巧妙に押し隠しつつ、

「はじめまして。千歳の兄の義晴です。妹がいつもお世話になっております」

義晴兄さんは丁寧に挨拶した。

「ああ、あなたが千歳さんの兄上か。はじめまして。聖ガブリエルの高等部2年、斯波真理亜と申します」

真理亜さまも、挨拶を返される。

「ちょうど良かった。実はあなたに頼みたい事がある」

その言葉に、

「俺に?」

義晴兄さんは首を傾げた。

「……まぁ、こんな所じゃ何だし、上がってくださいや」


「義晴さんは、機械に非常に詳しいそうだな」

ダイニングテーブルに向かい合って座り、千歳が淹れた玉露を一口啜ると、オスカル様は開口一番、こうおっしゃった。

「はぁ……まぁ、多少は」

義晴兄さんは、慎重に回答した。

(……おかしい)

義晴兄さんの側で、お盆を持って突っ立っている千歳さんは、疑問を感じていた。

(お兄さんが機械に詳しいことは、千恵とみずえ、それと園美と瞳にしか、言った事がないはずだが……?)

勿論、この4人が、そのような情報を、他の生徒に漏らすことはない。新聞部の梨壺お姉さまでも、自分たちの家族の情報は、住民票に記載されている情報程度しか知らない。「お嬢さま」の仮面を被っている者、そう簡単に情報は漏らさないのである。

義晴兄さんも不審に思い、

「……でもさ、何で、俺が機械ヲタクだってこと、知ってるわけ? 誰から聞いたの?」

何と、タメ口で、真理亜さまに問い質した。

恐らく、中等部のオスカルファンたちがこの場にいたら、義晴兄さん、袋叩きに遭うだろう。

が、

「……『付け合わせのパスタ』のマスターから」

真理亜さま、普通にこう返した。義晴さんのタメ語、全く気になっていないようである。

「よく、機械の部品を買いにくる、と言っていた」

「ああ、そういうルートかぁ」

義晴兄さんは納得した。

「うん、あの店はよく行く。部品が何でも揃ってるからな」

「エアガンも、改造できるか?」

「うーん、時間さえあれば何とかなるだろうけど」

すると、真理亜さまの表情が、明らかに輝いた。

「そうか、それはありがたい。では、これを見てくれるか」

そう言って、荷物から、ウィンチェスターライフル、そして、もう一丁、銃身の長い銃を取り出す。

それを見るなり、

「……げ、これ、もしや、マスケット銃?」

義晴兄さんは驚きの声を上げた。

「知っているのですか?」

千歳さんが訝しげに兄に尋ねる。

「ああ、この間、TVで見たやつとそっくりだ。確か、フランス革命の時に使われた……えーと、何だったかな」

「Charleville M1777。母が日本に来るときに、実家から持ってきたものだ」

真理亜様は頷いた。

「このライフルを、Charlevilleそっくりにしてもらいたい」

「ん〜と……ちょっと貸してみ」

義晴兄さんは、右手にCharleville(本物)を、左手にウィンチェスターライフルを持ち、両方の銃を見比べた。

……瞳がキラキラ輝いているのは、気のせいだろうか。

やがて、

「ふーん、なるほどな。うん、何とかなるだろう」

大きく頷いた。

「そうか、できるか」

オスカル様の顔には、安堵の表情が浮かんでいた。

「……だが、大分時間が掛かるぞ。大会まであとどれくらいある?」

「一ヶ月後だ」

「そうか、一ヵ月後か……ってことは、外装を改造して、システムも改造して……ふむふむ、材料さえ揃えば、何とか間に合うだろう。よし、引き受けた。大船に乗ったつもりで、待っててくれ」

(「大船」ではなく、「泥舟」では……)

千歳はこっそり思ったが、口には出さなかった。

「ああ、ありがとう、義晴さん」

真理亜さまが右手を差し出した。

「よし、俺のプライドにかけて、最高のカスタムをしてやるぜ」

義晴兄さんは、差し出された手をがっちり握り締めた。

オスカル様、こと生徒会長・斯波真理亜様との握手。それがどんなに凄いことなのか、どれほど学園のお嬢さまがたの羨望を集める出来事か、もちろん義晴兄さんは全く分かっていなかった。

そして、転校生の千歳さんも、目の前で起こったことの重大性を、余り認識していなかったのである……。


◇4◇


その翌日から、訓練が開始された。

的の中心に弾を当てる基本的な練習から始まり、学校の敷地内にある林の中では、ブッシュに隠れている敵を見つける訓練や、逆に敵に見付からないように隠れる訓練、そして3人ずつに分かれての紅白戦が行われた。

千恵子の発案で、林の中の訓練では、白の着物に白の袴に下駄、という、動き難く、かつ目立つ服装が使用された。

「やりにくい形で訓練しておけば、本番の時に困る事はないやろ」という考えからである。

何せ、千歳の衣装は、新撰組のコスプレ。

浅葱色の羽織は、フィールドでは、よほど上手に隠れないと目立ってしまう。

それに、千歳の衣装を知ったみずえさんが、「全員コスプレで参加するのがよろしいと存じますわ」と、ミーティングで提案してしまい、それが『三壺様』の同意を得てしまったため、全員、コスプレで戦わざるを得なくなってしまったのである。

が、千恵子が苦悩しているところに、

「よいではないか。目立つ衣装でも、きちんと隠れられればそれでよい」

との、信義じいさまのお言葉があった。

それで、

(それもそや)

千恵子は思い直した。

コスプレでも、きちんと隠れられれば、ゲームに支障はない。

むしろ、コスプレで参加することで、「お遊びのチームだ」と、敵を油断させる事が出来る。

という訳で、みずえ曰く“白装束訓練”が開始された。

最初は皆、着物が目立って、簡単に撃墜されてしまったが、次第に隠れ方のコツを身に付け、訓練も高度になっていった。

勿論、その間、千恵子は勝本のお殿様の所に、訓練で得たデータを持って日参。それを元に各人の戦力を分析したり、軍略を議論したりして、自分の軍略レベルを高めていた。

また、梨壺お姉さまは、新聞部員たちに、都大会に出場するチームのデータを集めさせていた。

梅壺お姉さまも、生徒会長という立場を利用し、鉄の結束を誇る同窓会『百万本の百合の会』に、各地の地方大会の情報を集めてくれるよう依頼した。そうして集まった情報は、全て千恵子の所に上げられ、千恵子と殿様の軍略講座の格好の教材となった。

大会の前日、お嬢様たちと勝本のお殿様は、桐壺お姉さまがチャーターして下さったマイクロバスに乗って、一緒に会場の下見に出かけた。

都大会は、参加チームが多いため、予選は8ブロックに分けて行われ、それぞれのブロックの優勝チームが、決勝ブロックに進むことができる。

参加チーム総数は、124。

その中から全国大会に出られるのは2チームである。

つまり、準決勝に勝てば、全国大会に出られるのであるが、そこにたどり着くには、予選ブロックの4試合、そして決勝ブロックの準々決勝と準決勝、6つの試合に勝たなければならない。

だから、お嬢様たちは、自分たちが参加する予選Dブロックの会場、そして、決勝ブロックの会場、両方を下見した。

もちろん、目標は全国大会優勝。

これ一つなのである。

バスの中では、千恵子と殿様が、下見の結果に基いて、作戦について激論を戦わせた。

その議論に、“聖ガブリエルのオスカル”真理亜さまも、実戦指揮官としての立場から突っ込みを入れる。

“元気なお姉さまナンバーワン”の直子さま、“聖ガブリエルの聖女様”の美華さまはもちろん、千歳やみずえも自分の意見を述べ、議論は白熱した。

……千恵子やみずえは、自分の化けの皮が剥がれないように、多大な努力を必要としたが、ともかく、実り多い軍議になったことは確かである。

そして、大会当日の朝を迎えたのである。


◇5◇


大会当日、午前8時。

お嬢様方がエントリーしている予選Dブロックの会場、多摩川河川敷は、朝から穏やかな晴天に恵まれた。

「只今より、全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会東京都大会、予選Dブロックを開催しまーす!」

司会の声に盛り上がるギャラリー。

その一角、いや、三分の二くらいを占領している、グレーの制服に身を包んだ集団がある。

「いよいよ始まりますことよ」

「ああ、オスカル様……」

……何を隠そう、聖ガブリエルのお嬢様方であった。

本日は土曜日。聖ガブリエルでは、午前中に授業があるのだが、学校は臨時休校になった。

「オスカル様を応援申し上げたい」という、生徒たちの強い要望があったためである。

そうしてギャラリーに詰め掛けたお嬢様たち、その数約七百人。

その殆どがオスカル様こと、生徒会長・斯波真理亜さまの熱烈なファンであった。

まだ入場すらしていないのに、「オスカル様」コールがしばしば巻き起こり、お嬢様集団の周囲は異様な熱気に包まれている。

「すげえな、おい……」

お嬢様集団からは離れた位置にある、出場チーム控えテント。

その前に立ち、ギャラリーを望んだみずえさんは、お嬢様方の熱気に圧倒されていた。

「チアガールもいるし、後ろの列にブラスバンド部も待機してる。垂れ幕まで掛ってるし、まるで高校野球の応援じゃん……」

『必勝聖ガブリエル! 必勝オスカル様!』と書かれた垂れ幕を眺め、みずえさんは呟いた。

と、

「ええやんか、別に」

みずえの右隣に突っ立っていた千恵子が頷いた。

「少なくとも、敵を圧倒する効果はあると思うわ」

実は、応援団を組織するよう、生徒たちに陰で働きかけ、臨時休校にまで持っていったのは、このおじょうちゃまである。

大規模な応援団が加える、敵へのプレッシャーの大きさは、結構馬鹿にならないだろう。そう考えたのだ。

「使えるものは何でも使え」

これが千恵子さんのモットーなのである。

また、臨時休校にしたおかげで、新聞部員や千恵子の友人を総動員して、このブロックのチームはもちろん、同時に開催される他のブロックの情報も、逐一入るように手筈を整えることができた。

実は、このシステムを構築することが、千恵子の真の狙いだったのだが……。

「そろそろ行こう」

テントの入り口から、生徒会長が現れた。

「どきどき致しますわ」

とは、直子様。

「ああ、あたくし、緊張で胸が押し潰されそう…」

とは、美華様。

「しっかりなさって!」

「……ありがとう女御さま」

麗しい友情に満ち溢れた会話が、直子様と美華様の間で始まった。

と、

「おーい、オスカルー!」

遠くから、男性の叫び声がする。

「何でございましょう?」

おっとりと、小首を傾げる美華様。

「さぁ?」

既に手が、ポラロイドカメラに伸びかけている直子様。

二人が不思議に思っていると、とたとた、と人が駆けて来る足音がして、

「あー、ここだここだ」

お嬢様方のテントの前で止まった。

「義晴……サマ?」

みずえが声を上げる。すると、

「あ、みずえちゃんに千恵子ちゃん。お久しぶり〜。元気だったか?」

千歳の兄、金沢義晴は、さわやか度300%(本人談)の笑顔を、妹の友達に向けた。

「まぁ、アンちゃん、おじょうちゃま、お知り合いですか?」

新聞部の直子さんが、後輩に駆け寄る。

「え、ええ、千歳サマのオニイサマですわ」

「まぁ、本当ですの?」

そう言った次の瞬間には、直子さん、義晴兄さんのすぐ側に移動していた。

「はじめまして。わたくし、聖ガブリエル女学院高等部2年の細川直子と申します」

「お初にお目に掛かります。あたくし、聖ガブリエル女学院高等部2年の畠山美華と申します。千歳さんには、いつもお世話になっております」

直子さんと美華さんは、代わる代わるお辞儀をする。

(な、なんちゅー可愛さだ)

美少女二人の礼儀正しく美しく、そして優雅な挨拶に、義晴兄さん、速攻でやられてしまった。

「……せ、拙者、金沢家の嫡男、又次郎義晴とは、俺のことだ」

動揺したのか、あるいは余り慣れていない敬語を使おうとしたのか、日本語がおかしい。

……どこかの男装の麗人のようになってしまっている。

その名乗りを聞いて、

(み、ミドルネーム……)

みずえさんが驚愕の表情を浮かべる。

正確には字(あざな)なのだが。

「まぁ、義晴様とおっしゃるのですね。本日は、妹さまの応援にいらしたのですか?」

新聞部の直子さん、早速取材モードに入る。

「いや、そうじゃ……」

「義晴さん」

不意に、テントの入り口付近から声がした。

そこには、生徒会長・斯波真理亜様が、かすかな微笑みを凛々しい顔に浮かべて立っていらっしゃった。

すると、

「あ、オスカル」

……義晴兄さん、あっさり真理亜さまを「オスカル」呼ばわりした。

もちろん、「さま」という接尾語は付けていない。

周囲に衝撃が走った。

(こ、この方、梅壺さまを愛称で……)(←直子様)

(げげ、オレだって、面と向かって「オスカル」なんて、怖くて呼べないのに……)(←みずえ)

(すごいなぁ、千歳の兄ちゃん。命知らずっちゅうか何ちゅうか……)(←千恵子)

(え……?)(←事態を飲み込めていない美華様)

「オスカル様と親しい」と見られている、この4人すら、この事態に驚いている。

ましてや、ここに、中等部のオスカル様ファンのお嬢様方がいたら、悲鳴と抗議の声が飛び交い、大変な騒ぎになるだろう。

いや、その前に、オスカルさま自身が、千歳の兄という人物の無礼な言動に、激怒なさるに違いない。

が、

「久しぶりだな」

……真理亜さまはこうおっしゃった。

表情は先ほどと変わらない。

そのことに、4人は再び驚いた。

その4人をよそに、

「ああ、久しぶりだな」

オスカル様と義晴兄さんの会話は続いていた。

「……思った通り、衣装はそれか。みずえちゃんから『衣装がコスプレ』って聞いた時、お前さんならそれなんじゃないかって思ってたが、それが当たったよ」

「……中等部の娘たちが作ってくれてね」

「へぇ、よく出来てるじゃん。俺の苦労も報われそうだな……ここじゃなんだ、テントの中に入っていいか?」

「よかろう、入ってくれたまえ」

「……んじゃ、お邪魔するぜ」

義晴兄さんはそう言うと、つかつかとテントの入り口に歩いていき、中に入った。

勿論、側にいた直子さまのことは、完全無視である。

普段の直子さまなら、狙った獲物は何が起ころうとも逃さないのだが、目の前で起こった出来事に衝撃を受け、咄嗟に身体が動かなかったのだ。

“あの”梅壺大将、生徒会長、全生徒の憧れの的、斯波真理亜さまにタメ口である。

しかも、真理亜様が、それをごく当たり前のように受け入れて、平然と会話をなさっているのだ。

この二人、何かただならぬ関係にあるのではあるまいか?

そう、それは例えば……。

直子、みずえ、千恵子、そして美華。4人がそれぞれの顔に、それぞれの表情を浮かべながら、この状況に対する説明を必死に模索していた。

「あの、女御さま、義晴様は……」

黙って事の成り行きを見ていた千恵子さんが、慌てたように質問する。

「もしかして、大将さまに懸想していらっしゃるのでしょうか?」

おっとりとおっしゃたのは美華さま。

「そんな、ワタクシ、信じられませんわ!」

直子お姉さまと同じくらいの興奮度を示しているみずえ。

「……わかりませんわ。ただ、わたくしの事件記者としての勘に、ぴーんと来るものがあるのは確かです。極秘に、内偵を進めますわ。ですから、わたくしがよい、というまでは、皆様方、このこと、誰にもおっしゃってはなりません!」

「「「かしこまりました」」」

直子お姉さまの言葉に、一同、頷いた。


◇6◇


さて、そうしている間、いよいよお嬢様がたが特設ステージに入場する時間となった。

「ドラゴンゲートより、聖ガブリエル女学院高等部サバイバルゲーム愛好会入場!」

司会の声と共に、会場にはあの大人気お嬢様アニメ『マリ見@』のオーブニングテーマが流れ始めた。

もちろん、これはみずえさんセレクト。

「か弱いお嬢様のイメージを植え付けるには最高やな」という、千恵子のお墨付きである。

それに乗せて、まずステージに出てきたのは千歳さん。

背中に『誠』が染めぬかれた浅葱色の羽織を身に纏っている。

もちろん、着物に袴、草履履きである。

腰の大小の代わりに ステアーAUG を抱えているのが異様だが、きちんとした新撰組コスプレである。

が、今一つ、異様さを醸し出しているのは、彼女の額の鉢巻。

なんと、『トシ様LOVE』とくっきりと記してある。

もちろん、トシ様こと、新撰組副長・土方歳三にお熱なのは、千歳さんではなくて、この衣装の貸し主・佐々木由利子ねーちゃんである。

……実は、この鉢巻、衣装袋の中に、こっそり入っていた。

千恵子が借りた時には気がつかなかったのだが、衣装合わせをする段になって、袋の底から出てきたのである。

鉢巻きを一目見た瞬間、千歳さんは、

「締めない」

と宣言したのだが、

「まぁ、千歳さん、なぜお締めにならないの?」

「お締めになった方が、学校新聞の写真が映えましてよ」

「千歳さん、それも衣装の一部だ。締めたまえ!」

……という、『三壺様』の意見に押し切られ、締めざるをえなかったのだった。

千歳は、この鉢巻を、外したくてしょうがないのだが、『三壺様』には逆らえない。

そのため、千歳さんは、苦々しい表情でステージに現れた。

それでも、

「金沢お姉さま、素敵ですわ〜」

という声援が、応援団、特に中等部のお嬢様方から飛ぶ。

さて、次にステージに登場したのはみずえさん。

紅の矢羽根模様の着物の袖を襷(たすき)でたくし上げ、紫の袴を捌(さば)きながら、颯爽と歩く。

足元は黒い編み上げブーツ。トレードマークの三つ編みにはリボンが結ばれ、完璧に大正女学生だった。

このいでたちには、ギャラリーの隅で小さくなっている男性客も、

「おお、いいじゃん」

「ハイカラさんか」

と、好印象を持った様子。

そんな男性客たちとお嬢様方の視線を受けながら、みずえさんは懐からおもむろに M19コンバットマグナム を取り出した。

銃口を真上の空に向けると、引金を引く。

「ダーン!」と一発、会場に響いた銃声は、観客の度胆を抜いた。

実はこのM19コンバットマグナム、エアガンではなく、火薬式のモデルガン。

みずえさんってば、これがやりたいがために、試合で使うエアガンとは別に、このモデルガンを、わざわざ購入したのである。

呆気に取られているギャラリーを見やると、みずえさんは銃口から立ち上る煙をフッ、と吹き飛ばし、ギャラリーに不敵な笑みを向けた。

「きゃあああ」

お嬢様方は黄色い歓声を上げ、

「おー、いいじゃんいいじゃん」

男性客も拍手する。

みずえさん、瞬く間に会場中の好感をゲットすることに成功した。

次にステージに上がったのは千恵子。

深緑色のブレザーに、深緑と茶色系統のチェックのスカート、茶色の革靴に緑のベレー帽というコーディネートは、聖ガブリエルの制服ではなく、直子お姉さまのセレクト。

実は、直子お姉さまは制服マニア。

「他校への取材活動をやりやすくするため」という理由で集めた制服は、30着は軽く超えている。

千恵子の着ている制服も、直子お姉さまのコレクションのうちの一着だった。

直子お姉さまセレクト服装の上に千恵子ちゃんが背負っているのは、化け物電動ガン 『M249 MIMINI MARK2』

その大きさ、一メートル余り。

ただでさえ小柄な千恵子さんが、更に小さく見える。

……余りの重さと大きさに、よろめいているのは気のせいだろうか。

「おじょうちゃま、大丈夫ですか? 重くはありませんの?」

後ろから、セーラー服(他の高校の制服)に身を包んだ直子お姉さまが駆け寄り、おじょうちゃまに声を掛ける。

すると、千恵子さん、

「いいえ、大丈夫ですわ、お姉さま」

そう言って、微笑んだ。

その健気な様子に、

「か、可愛い……」

ギャラリーの男性客の大半がときめいた。

「オレの妹にしたいよ……」

と口走っている男性もちらほらいる。

恐らく、「妹にしたい選手権in東京都大会」が開かれたら、間違いなく千恵子が一位になるだろう、てな感じである。

それと同時に、直子お姉さまも男性客の熱い視線を受けていた。

元気な所が目立つ直子お姉さまだが、黙って立っていれば、黒髪の印象的な美少女。

そこに、女子高生度当社比3倍のセーラー服である。

持っている銃がサブマシンガンではなく、ベトナム戦争で使われた“突撃銃” コルトXM177E2 である所や、首からポロライドカメラをぶら下げているのが、某函館の女子高生とは異なるものの、

「あの姉ちゃん綺麗だなー」

「あれが彼女ならなぁ」

などという、男性客の呟きが聞かれる。

間髪入れず、ステージに現れたのは美華お姉さま。

何と、黒いメイド服で登場である。

実は、美華お姉さまはメイド服に凝っている。

家のお手伝いさんたちの服を自らコーディネートするだけでなく、自分でもお召しになっている、というこだわりようである。

フリルの沢山付いた白いエプロンに、 ウージーサブマシンガン

このダブルパンチに、心を奪われる男性客が続出。

そして美華お姉さま、ステージ中央にやってくると、ギャラリーの男性客の皆様に、

「ごきげんよう」

挨拶なさった。

その美しい微笑みに、

「や、やべぇ、可愛い……」

「メ、メイド萌え……」

男性客のほぼ全てが、ノックアウトされた。

「やべー、マジ可愛い……」

「オレ、あの子になら撃たれてもいい……」

他のチームの皆さんも、ぼうっとして美華さまを見つめている。

「自分のチームにいたらいいなぁ選手権in東京都大会」が開かれたら、美華さま、間違いなくトップ得票である。

そして、いよいよステージには、真打ち・斯波真理亜お姉さまの登場である。

その凛々しい容姿の上に纏っていらっしゃるのは、かの有名少女漫画の主人公、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ様の出で立ちを忠実に再現した、純白の軍服である。

これは、手芸部の中等部の生徒一同が、この日のために丹誠込めて仕上げた一品である。

抱えていらっしゃるのは、ウィンチェスターライフルを土台とし、 シャルルヴィルM1777っぽく改造した銃。

銃身の先に、ゴム製の銃剣が付いているという念の入れようである。

勿論、作者は義晴兄さん。

本人曰く、「すげぇ切り札になるぞ」ということらしいが……

真理亜様がステージに登場しただけで、

「きゃあ、オスカルさまー!」

「梅壺お姉さまー!」

お嬢様大応援団の興奮は、一気に高まった。

何せ、お嬢様がたの殆どは、オスカルさまこと、真理亜お姉さまの熱狂的なファン。

高一の三人娘はもちろん、真理亜お姉さまとともに「三壺様」のメンバーである、直子お姉さまと美華お姉さまも、彼女たちにとっては前座に過ぎないのだ。

熱狂する応援団の皆さまに向かってオスカルさまは一言、

「ありがとう」

とおっしゃった。

その凛々しさに、

「きゃあああああっ!!」

最高に盛り上がるお嬢様がた。

その様子に、

「な、なんだありゃあ……」

「ちょっと怖いぞ、おい……」

ギャラリーの男性客はじめ、他のチームの皆さんも圧倒されている。

そんな男たちの様子を横目で見ながら、

(ふっ、まずは作戦成功やな)

“おじょうちゃま”千恵子は内心ほくそ笑んでいた。

実は、このハデハデの演出は、千恵子さんの指示によるもの。

華麗なコスチュームで敵を油断させ、応援団の熱狂的な応援でビビらせる。

そうやって、

(……馬鹿でおかしなお嬢様がやってきたぜ)

と、敵に認識させるのが目的である。

もちろん、コスプレでもアンブッシュできるように、訓練は積んであるし、射撃の腕だって、男性に負けるものではない。

あらゆる意味で、そこらの男どもが太刀打ちできるようなお嬢様方ではないのである。

(とりあえずは、決勝まで行く。それまで一戦一戦、全力で戦う!)

“みにみ”の重さに負けそうになりながらも、千恵子さんは闘志を燃やしていた。


次回予告

「いよいよ戦場へと足を踏み入れたお嬢さまがた。
しかし、古来より、戦場とは魔物が棲んでいる所。
行く手を阻むジェントルマンさん達との戦いの最中、
思いがけないトラブルが彼女たちに降りかかる。
お嬢様方を恐慌に陥れた事件とは?
そして、直子お姉さまの決意とは?
次回、「トラブル続きの予選編」

『FANG GUNNERS』に負けるな、お嬢さま」


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