Mituyaさま作
劇場版五行戦隊イクサクニヨロズ
少女が願う未来
第三話
| 「少女の持つ闇」 |
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「えへへ……。じゃじゃーん!!」 「おめでとうございます」 「別にたいしたことはないよ。簡単な筆記だけだったし、実技は楽勝だったしね」 「いえいえ。それでも毎年、試験を落とす方もおります故」 「バイクの免許も取れたし、これでバイトの幅も増えた。もうちょっとだね、借金返済」 「某、いらぬことと思いますが、その借金を、千里様が返済なさるのは筋違いかと、常々思っておりましたが……」 「あはは、そうだね。でも、あんな奴との手切れ金と思えば安い安い。それに、確かにバイトは大変だし、いつもミスばっかりしてるけど、今の私はとても幸せだよ」 「……某がその件に関し、力になれず申し訳ありません」 「いいのいいの。気にしないで」 「ですので、某、千里様がご勉学をなさっておられる間、お祝いにと思い、カラスの巣を見つけ、卵と肉を確保して参りました」 「本当!? それじゃあ今日はご馳走だね」 「千里様。今宵は月が綺麗ですなぁ」 「そうだね……」 「……」 「私たち。ずーっとこうやって、一緒にいられるといいね」 「ええ……」
正確には連れてこられた、ではなくついていった、なのかもしれない。 別に、強制された訳ではないからだ。 相手は人間でない上、明らかに人間が恐怖を感じる、三つの頭を持つ巨大な犬こと、地獄の番犬ケルベロス。 そして容姿こそ人間に近いが、肉感のある皮翼を背中に生やした少女、夢魔サキュバス。 この二人に、威圧的に迫られれば脅迫も同様だったかもしれない。 だが憐たちが、そんな彼らについていくにはもちろん訳がある。 <ランデヴー>のメンバーの中に、憐たちが見知った人がいたからだ。 「えーっと……あんたたちは未来から来た人たちで、そこで私に助けられた、って訳?」 「まあ、要約すれば」 翔子は少し怪訝な表情を浮かべながらも、憐たちの語る世界の話について耳を傾けている。 彼女だけでなく、<ランデヴー>のメンバーも勢ぞろいだ。 先ほどのケルベロス、サキュバスの少女、そして彼らと会ったときに一緒にいた少年、晶。 そして他に、サキュバスの少女とよく似た、色気過多のサキュバス。 狐と狸。 首を脇に抱えた甲冑。 銀髪の少年だが、その背中には純白の羽が生えている天使。 そして純白の着物を丈の短いワンピースのように着ているショートヘアーの少女とウェーブのかかった幼女。 恐らく、妖怪と思われるのは以上の者たちだ。 だがここには人間だと思われる人物も少なからず存在した。 晶を筆頭に、肩にかかる程度の黒髪の少女と、僅かに日本人から離れた顔つきをしているベリーショートの少女。 少なくとも、憐たちの話を聞いているのはそれだけだ。 「でも信じられないのは、私が『サムライガール』の親友だってことよね。確かに私は友達いないけどさ、いくら何でも犯罪者を友達にするほど、私は落ちぶれちゃあいないわよ」 「だけど、師匠が自分で言っていたことなんだけど……」 「……悪いんだけど、その師匠っての、やめてくれる? 私ってさ、ほらまだ未熟だから……」 翔子は、瑠璃華が自分のことを師匠と呼ばれるのに慣れてないのか、少し恥ずかしそうに頬を掻く。 いきなり見ず知らずの美少女に、自分のことを師匠と呼ばれることに違和感があるらしい。 だがそういう翔子の反応に、瑠璃華はきょとんとして見せた。 「くすっ。あたしが始めて師匠にそう言ったときと同じ反応」 憐たちは、見かけがまるで同じだとしても、翔子が千里のように変貌している恐れもあったのだが、今の翔子の反応を見ればやはり同じ人間だ、と改めて認識し直した。 「そういうことじゃなくって!!」 憐たちは安堵した雰囲気が立ちこめ、少し張り詰めていた糸が緩みすぎたきらいがあったが、翔子が注意を自分に向けさせることによって、再び意識を翔子へと戻す。 「そもそも俺たちは、未来から来たことになりはしますが、それが貴方たちの感じる未来かどうかは知りません。現に、俺たちの知る千里さん……貴方たちは『サムライガール』と呼んでいるそうですけど、前科はありませんでしたし」 「パラレルワールドダスな。しかも、かなり俺たちの暮らしに近いもの、ダス」 憐の説明に捕捉を加えるように、晶は一言付け足した。 尻まで届く黒髪を一本の三つ編みにして纏め、チョビ髭を生やす様はちっこいおっさんとしか言い様がないが、学ランを着ているところから、彼は恐らくは少年なのだろう。 「何か、そっちの妹分のコが、俺のことを犯罪者扱いしてくれたダスし、そっちの世界では俺は犯罪者なんダスよな?」 「ああ」 晶は海里に視線を送り、自分の言葉の確証を求める。 海里も、晶の言葉に素直にうなずいた。 「しかし貴様に聞きたい。貴様は先ほど、黒川千里のことを“神殺し”と呼んでいたな」 「……それ、どうでもいいことじゃねえダスか? ええと……」 「来栖海里だ」 「じゃあかいちゃんダスな」 「……来栖、もしくは海里と呼べ」 海里は内心、少し驚いていた。 海里のことを、かいちゃん、と今まで呼んだ人間は一人しかいないからだ。 しかもそう呼んだのが、自分たちの世界では犯罪者である人間なのだから、うれしい訳がない。 「じゃあ海里ちゃん。聞くダスが、俺が『サムライガール』のことを“神殺し”と呼んだことに、何の意味があるんダスか?」 「簡単だ。私たちの世界での、彼女の二つ名が“神殺し”の千里。そう、貴様が呼ぶ名だからだ」 「……どんな人なんダスか?」 「さあな。私は裏の世界の護衛、としか聞かされていない。……で、何故貴様が“神殺し”と呼ぶ?」 問い詰められた晶は、一旦軽くため息をつくと、手身近にある椅子に座りこむ。 続いて海里の方を向いた。 その表情は、少しあきれているようだった。 「一月前……くらいダスか。<オリンポス>の神々の長、ゼウスが来日してきたんダスよ」 「は?」 いきなり話が飛んで、海里のみならず、憐たちも、そして知らなかったのか<ランデヴー>の面々も顔をしかめる。 しかも出てきたのが、ギリシャ神話に出てくる神の名前なのだから、疑いたくなるのも無理はない。 「別に、妖怪というのは人の思いから生まれるダスから、神話の神々が現実にいることは不思議じゃねえダスよ。……もっとも、これは数日前に聞いた受け売りなんダスけど」 一瞬視線を大河へと移し、再び視線を海里に戻した。 「で、そのゼウスは神話のとおり、とんでもねぇ好色漢。きっと、日本のかわいい女の子と御戯れでもしたかったんダスな。しかし、そのゼウスが行方不明になったんダスよ。で、その頃妖怪の間で『サムライガール』が賞金首として値を上げてきた。そしてゼウスは『サムライガール』が出没する地帯に足を伸ばした……ここからはもう推測できるダスよな?」 「……千里さんが殺した?」 「そうダス。……秋彦君、だったダスな。もっとも証拠はねえダスが。けど、行方不明になったあたりでゼウスを見かけた人間も妖怪もいねえダスし、ほぼ間違いねえダス。で、そこから俺が勝手に“神殺し”っていう名前をつけただけダスよ」 「マジかよ、晶……」 「マジもマジ。大マジダス」 驚いた様子を見せたのは、ケルベロスもであった。 海里は、実は自分たちの世界での“神殺し”の所以を聞いたことがない。 もっともそれは海里のみならず、ほとんどの人がそうなのだが。 一応悩む素振りは見せるが、まさかこの所以が自分たちの世界でも通用するとは、到底思えない。 と、そこでサキュバスの少女に良く似た、姉と言えば納得するようなサキュバスの女性がぱんぱんと手を叩いた。 「はいはい、情報交換は今は置いといて。せっかくのお客さんなんだし、自己紹介くらいはしましょう」 サキュバスの女性は、憐たちの前に一歩踏み出し、仰々しく会釈をした。 「私は喫茶<ランデヴー>のオーナー夫人、佐藤聖子(さとう せいこ)よ」 少々色気を放出させすぎのように思えるほど色っぽい女性だ。 夫人と自分では言っていたが、到底夫がいるとは思えない若さである。 その容姿と同じく、若い男の性でも奪っているのだろうか、と憐たちは思ってしまう。 そんな聖子を見て、美奈、麗奈、瑠璃華、海里の四人は少しむっとした表情を見せた。 「……やっぱり駄目?」 「「「「駄目っ!!」」」」 憐たちは気づかなかったが、聖子は、まるで蛇が獲物を探るような目で憐たちを見ていたらしい。 男性は決して少なくないだろう<ランデヴー>のメンバーなのだが、きっと飽きたのだろう。 「うちの母親が迷惑をかけちゃったわね。……っと、あたしは佐藤愛(さとう あい)よ」 憐たちが、<ランデヴー>のメンバーの中で三番目に会った、サキュバスの少女が軽く会釈をした。 「愛ちゃんは、うちらの中での強硬派ダス。“神殺し”に対して、激しい憎しみを抱いているダスよ」 「当たり前でしょ!? アイツはヒデを殺そうとしたのよ!!」 がうっ、と晶に向いて吼える愛。 愛は、やはり聖子同様に色気を放出させているが、意識していないようだ。 聖子とは違い、その視線はさっぱりとしており、憐たちに向ける視線は、女性が男性を見る目というよりは友達を見る目に近い。 もっとも少しだけ胸が薄いので、色気を活かしきれていないだけかもしれないが。 「俺は<ランデヴー>古参メンバーの一人、地鳥大河(ちとり たいが)だ」 愛が晶に噛みついている間、ケルベロスがぺこりと器用に会釈をした。 先ほどとは違い、彼は人間の姿とは程遠いため、犬が人の言葉を解することに、憐たちは少しだけ唖然とした。 もっとも、妖怪はそういうものだ、ということですぐに落ち着いたが。 と、そのとき大河の身体が変質していった。 その毛むくじゃらの皮膚は、人間の肌のそれを同じになり、ミシミシと骨格をも変えていく。 驚きのあまり、憐たちは目を離せなくなる。 変質が終わる頃には、不気味なケルベロスの姿はなく、しっかり服を着ている長身の美青年の姿となっていた。 妖怪が人間となる様子を見るのが初めての七人は、目を点とさせて立ちすくんでいた。 「……ん? お前たち、人間に変身することが珍しいのか?」 「……だ、だって初めてですし」 美奈が声を震わせてつぶやく。 もっとも、彼女は恐怖で声を震わせているのでなく、人見知りが激しいからなのだが。 「逆ならあるのだが……」 こちらは、人間を怪人とさせたことのある海里の発言である。 「年齢は……100……いくつだったか、思い出せん」 これまた、憐たちは仰天してしまう。 見かけは明らかに10代後半、多く見積もっても20代前半といったところなのに、既に齢百を越えているのだから。 「まあともかくだ。そこにいる櫻の先祖が、ギリシャで生まれたばかりの俺を連れて、文明開化のときに来日した」 「で、私がその円覚寺櫻(えんかくじ さくら)です。一応人間です」 大河の説明に、櫻と呼ばれた、髪をベリーショートにした少女が挙手をする。 確かにこの人外のメンバーから考えると、彼女が人間だというのが頷ける、まあ人間の特徴をしっかり持った美少女だ。 ただ、この世界の千里だったり、自分たちだったりとのことを考えると、素直に頷くかといったら無理な話。 そもそも、櫻は「一応」と付け足していることに、一同はしっかり気をやっていた。 これも、恩人に巧みな言葉遣いで翻弄し続けられた影響かもしれない。 「ゼウスの血を引いている、と聞いてます。だからきっと、私は人間じゃない……」 聞いてはいない質問だったのだが、櫻は巧みに憐たちの表情を読んだのか、内心質問に思っていることの答えを口にしてくれた。 櫻の整った顔が、少しだけ歪む。 「……あの。先ほど、そちらの髭のお兄さんが言っていた様に、千里さんがゼウスを殺した、っていう疑惑が……」 「あ、その件なら気にしないでください。私、ゼウスという神のことは神話以上のことは知りませんから」 「ま、晶の言うとおり、とんでもない好色爺だ。櫻が同情する必要はないさ」 先ほど、晶が「ゼウスは死んだと思われる」というような発言をしていた際、大河は動揺していた。 が、それは主の血縁が死んで動揺している、という訳ではないらしい。 むしろ、興奮しているように見えた。 「……この件が終わったら、<オリンポス>の王位継承で、櫻を挙げてみるか」 という大河のつぶやきは、誰にも聞き取られなかった。 「じゃあ次は俺ダス。最上晶(もがみ あきら)。脆弱な人間ダスッ。あ、この場にはいねぇダスが、俺の兄貴、最上一義(もがみ かずよし)が奥の部屋にいるダス」 「えーと、その従妹、最上綾(もがみ あや)です。晶お兄ちゃんがまあ色々と迷惑を……」 この妖怪の集いの中にいる人間二人は、やはり<ランデヴー>の中では浮いている。 だがそれは、やはり人間の中で暮らしてきた憐たちにとっては、非常にとっつきやすいものだ。 しかし、この二人に親近感を持つ理由は、他にあった。 まず晶だが、少し滑稽な喋り方は他では見ないものであるが、そんな彼の奥底を見ると、非常にユキメと似る部分が見え隠れしている。 例えば些細なことだが、どんなにシリアスな場面であるとしても、彼はお茶目な行動をやめようとはしない。 だがそれでいて、要所要所はしっかりとしている辺り、憐たちの恩人とかぶるものがあった。 容姿だけで言えば、尻までかかるほどの長さの三つ編みにチョビ髭という、特徴的すぎるもの。 せめて髭を剃ればパッとするように思えるのだが……いや、どちらにせよ160前後の身長では背が低すぎる。 そして綾の方。 こちらは性格面はユキメとは離れているのだが、容姿の部分でユキメに良く似ている。 彼女は、ユキメに妹がいたらこんな感じだろう、と思えるほど肉体的特徴が類似している。 一応、綾に姉がいるかどうかを問いただしてみたら、彼女に兄弟はいない、とさっぱりと答えてくれた。 そして、だからこそ晶や一義を、実の兄のように思っている、とそう付け足してもくれた。 ユキメと似ている容姿だからこそ少し疑ってかかったが、性格面はまったく違うようで、空振りに終わった。 「私……は知っているみたいね。それが本当かどうかは怪しいけど」 そう呟いたのは翔子だ。 「えーと、私は御堂ゆきめ(みどう ゆきめ)。『サムライガール』事件で、急に妹の事が気がかりになって、無理矢理上京してきました。一応妹共々雪女やってます」 「わたし、ゆきめおねーちゃんの妹の氷室夏海(ひむろ なつみ)ーっ」 周囲に冷気を纏う、ショートヘアーの少女と、その妹と言う幼女が続いて話す。 実は一度、憐たちは前者の少女の姿を見たことがあった。 サバイバルゲーム東北大会で見せてもらったユキメの学生証で、ユキメが間違えて差し出した学生証の少女と同じ名前、同じ顔だから。 しかし……。 「苗字が違うのだが、本当に妹なのか?」 「修一が仰ることもそうですけど、この子は氷室カンパニーの一人娘ではありません? 姉がいるだなんて、聞いたことありませんわ」 修一が言うのは、憐たち全員が感じていたこと。 そして麗奈が言うのは、上流社会にいた経験からの知識である。 「ぶー、違うもん。ゆきめおねーちゃんはわたしのおねーちゃんだもん、広奈おねーちゃん」 「……わたくし、広奈ではなくて、武田麗奈なのですけど」 「ええっ!?」 今の麗奈の発言で驚いたのは、夏海ではなく翔子だった。 彼女もまた、上流社会で生きている身なのだ。 「……広奈に双子の姉だか妹だかがいるだなんて、聞いたことないんだけど」 「五十嵐。どうせ違う世界の住人なんだから、そういう差異があってもおかしくないだろ?」 「地鳥君。……まあ確かにそうなんだけどさ」 ぶつぶつと小声で文句を言う翔子だったが、そんな彼女は忙殺される。 そしてその間にも、ゆきめは事情を説明してくれた。 「氷室カンパニーの社長夫人が私の母さん。でも私は母さんの旦那さんとの血のつながりはないの。夏海とは異父姉妹って訳なのよ。あ、これは秘密ね」 ゆきめは少し苦笑いを浮かべながら、頬を人差し指で掻いた。 ゆきめの言葉には、端的に「両親の遺産を妹だけに相続させたい」という意思が存在する。 それを敏感に察した麗奈は、夏海に微笑んでこう言った。 「優しいお姉さん、ですわね」 「うんそーだよ。だからゆきめおねーちゃんは、パパやママよりも大好き!」 ともかく、この姉妹は仲の良い雪女姉妹だということがわかった。 ただ、雪女の姉妹がこれなのだから、例の社長夫人もそうなのではないか、という疑惑は、彼らの頭の中をよぎることはなかった。 まあそんな疑惑を持ったところで意味はないのだが。 「もうちょっと、ちゃっちゃと進めたいから私が紹介するわ。こっちの天使の格好をした子が、アリエル。妖狐が橘孤月(たちばな こげつ)で、妖狸が裡草月(り そうげつ)。そして、この甲冑がアーサー・フェルディナンド六世」 「「「「よろしく」」」」 聖子が説明したとおりの格好をした者達が、それそれ会釈をして見せた。 そして<ランデヴー>の自己紹介が終わり、流れは憐たち一同へと向く。 憐たちはその流れに、素直に乗ることにした。 「俺は直江憐だ」 「本多美奈です」 「真田修一」 「先ほどもいいましたけど、武田麗奈ですわ」 「伊達秋彦です、よろしく」 「明智瑠璃華。秋彦の恋人です」 「来栖海里」 本音を言ってしまえば、憐たちは彼らに自分たちのことを話す理由なんて存在しない。 下手に情報を与えてしまえば、それだけ自分らが不利になってしまうからだ。 だが、相手がこうも無防備に自己紹介をされては、自分たちもしなければならないように感じてしまう。 一応自分たちの境遇については話したが、傍から聞けばとても信じられるような話でない。 もしそのような出来事に先例があればそれに越したことはないし、なければ笑って聞き流してくれるだろう、そう考えていたからこそ話したのである。 実際には、先例がなかったようなので、自分たちが元の世界に戻る手段はまだ見つかっていない。 「にしても、やっぱりこの者たちが話す三人、五十嵐に『サムライガール』、それにユキメっていう情報屋の三人が気になる所だな」 「でもさ、地鳥君。私はこの人たち知らないし、『サムライガール』には友人が一人もいないって話じゃない。信頼できるの?」 「だから五十嵐。違う世界の住人なんだよ、彼らは」 「あー、一つ捕捉させてもらってもいいですか、師匠、えーと地鳥さん。確かに世界が違うかもしれないけど、師匠は私たちの知る師匠とはほとんど性格が同じだと思う。千里さんもあんな状態とはいえ、誰にでも丁寧に話すところとか、私たちの知る千里さんとほとんど同じだし」 この、瑠璃華の言葉には、<ランデヴー>の面々だけでなく、憐たちのハッとさせられた。 千里という前例があるからこそ、親近感を持つ顔ぶれであれ、警戒せざるをえないのが、今の憐たちの実情だ。 だがここにいる翔子は、多少状況が違うとはいっても、ほとんど憐たちの知る翔子と遜色ない。 そして、憐たちの知る翔子は、間違いなく善人である。 何せ、自分たちに対して金銭を省みずに助けてくれたのだから。 「腹の探りあいになると思ったが、これで決まったな」 「そうですわね、憐さん」 憐たち一同は、互いに顔を見合わせ、深く頷いた。 彼らが出した結論。 それは<ランデヴー>を無償で信じること。 ベルは敵だと言っていたが、翔子が組するという理由だけでも、ベルの言葉が嘘だと確信できたから。 「全てを話しましょう。俺たちが持つ、情報の全てを」 憐は、ここに来てからのことを語り始める。 元の世界での自分たちのことは、既に全て話した。 元々それは信じられる話ではないだろうし、信じていなかったと憐たちは思っている。 実際はというと、晶を筆頭として信じていたし、何より記録にはそのような人物が存在していたこともあるのだ。 が、憐たちはそのことを知らない。 話し始めて、<摩訶>とベルのところで、聖子が話を一旦止めた。 「ちょっと待って。ベル、って言ったわよね?」 「知ってるんですか、佐藤さん?」 「まあね。でも、その件に関してはアリエル君から聞いたほうが早いわ」 聖子は、アリエルと呼ばれた天使の方を振り向くと、ウインクをして合図した。 それに応じたアリエルは、憐たちの前へと一歩足を踏み出し、会釈をする。 「ベルという者は、僕が属しているネットワーク<ランデヴー>支店のお尋ね者。こちらで言う『サムライガール』と同等の賞金首です」 「で、アリエル君はその悪魔ベルを捕まえるために、こっちへと来たってわけ」 アリエルの言葉からすると、親切丁寧にこの世界の理を教えてくれたあの悪魔が、実は悪人だという。 それには憐、美奈、修一の三人は少し懐疑的で、対して麗奈、海里は納得しているようだ。 ちなみに秋彦、瑠璃華の二人は、ベルから直接話を聞いていなかったこともあり、中立を保っている。 だがここで、ちょっとした疑問を、美奈は感じ取った。 「……賞金? 千里さんが?」 「ええ。『サムライガール』は去年の秋頃から賞金が出て、それから日を追うごとに増額。今じゃ妖怪一の賞金首かもね」 「だけどオーナー。ここで一つ、疑問が生じてくるんダスよなー」 状況はシリアスそのものなのに、晶は楽しそうに、そしてわざとらしく大きな声で呟いた。 憐たちは、晶の言葉を聞き、耳を不良債権が大量に溜まった中小企業の如く傾ける。 ……いやそれは、傾く、だが。 「ふっふっふ、聞いて驚け見て騒げ、ダス! 実は“神殺し”こと『サムライガール』は女の子だったんダス!」 「知ってる! しかもそれは疑問じゃないっ!」 「もちろん、それくらいは予想の範疇ダスよ、憐君」 というか、憐たちはしっかり「自分たちは『サムライガール』の知り合い」だと豪語している。 なのにも関わらず、この男はわかりきったことを平然といい、なおかつその反論を軽々といなす。 小さい身体で、かつ力もないただの人なのに、その心臓には毛でも生えているのだろうか、とも思ってしまう。 「冗談はマイケルだけにしておいて、ダス」 「……つまらんな」 ぼそりと、晶の駄洒落にツッコミを入れる大河だったが、晶は空耳だといわんばかりに、華麗に無視を決め込んだ。 「『サムライガール』が脚光を浴び始めたのは去年の秋頃ダス。ダスが、その存在は去年の四月には確認されていたんダスよ」 「え!? あの快楽殺人鬼が?」 晶の言葉に敏感に反応したのは、千里に激しい悪意を持っている様子のサキュバス少女、愛。 言葉の端々から、千里への悪意がにじみ出ており、それが憐たちにも痛いほど伝わってくる。 「そうダス。しかも“神殺し”に賞金がかけられた件に関しても、疑惑があってダスなぁ。“神殺し”は例の虐殺以前には、一度も人を殺したことがないんダスよ。まずこの点で「『サムライガール』快楽殺人鬼説」が消えてるダス。じゃあ何故賞金がかけられたという点ダスが、これは妖怪を多く殺してるからダス。もちろんそれだけでも、妖怪からしてみれば重罪なんダスが……」 「が? ってことは、罪に問われない理由があるって訳か?」 「憐君は察しがいいダスな。もっとも可能性という理由だけダスが、“神殺し”が殺した妖怪というのが、妖怪の中でも、人間を捕食するような危険因子だったり、人間を滅ぼそうと考えるような奴らだったんダスよ。賞金にかける原因となったのも、地位が高いだけの阿呆の一声。後は“神殺し”の賞金を頂こうと考えた奴らを返り討ち、ダス」 晶は一旦話を区切り、再び彼は立ち上がり、憐たち近くにあるカウンター席にどかっと腰をかける。 体重がやや少なめなのもあり、音はぽすっとかわいらしい音を立てているのだが。 晶はそのまま孤月にお冷を頼み、孤月はそれにぶつくさと文句をいいながらも容易してくれた。 湿らせ程度に水を口に含み、晶は再び口を開く。 「ここで疑問が生じるのが、“神殺し”の殺意ダス。“神殺し”は、妖怪の賞金稼ぎ相手では、素行の悪い奴らしか命をとらなかったんダスよ。実際そこで生き延びた賞金稼ぎは、こう言ったダス。「退いてください。命まではとりません」とね。しかも、彼女が人を助けているところすら目撃されているダスよ。裏も取れてるダス」 「……」 「もちろん、今の“神殺し”から考えたら、信じられる話じゃねぇダスな。今までの俺たちだって、この話をデマと考えていたんダスから」 少し、<ランデヴー>の中がざわつき始めた。 晶が所持している情報は、実は<ランデヴー>内でも知られていないことが多いのだ。 実は晶は、<ランデヴー>の協力者になってから数週間も経っておらず、妖怪との付き合いも同じくらい浅い。 今までただの人間として暮らしてきた訳だから、それは当然なのだが、都会に住む闇を知ってからというもの、そこの住人以上に知識を持っていた。 「お前さ……」 「何ダスか、大河君?」 「そういうこと、俺たちになんで話さないんだよ……」 「一つの理由は、愛ちゃんが露骨に黒川千里を憎んでいるから、ダスな。もし言ったとしても馬耳東風になるのは目に見えてるダス。二つ目に、俺もこの情報を疑わしく思っていたからダス。あまりに、今の彼女との差異が大きいダスからな。で、最後にこれを話す気になった理由ダスが、未来からの協力者の話から、ダス」 「わたくしたち……?」 「そおダス。君らの言う黒川千里、未来の翔子ちゃん、何より、俺が犯罪者ってところがまた、その話の信憑性を高めてるんダスよ」 今の晶の言葉に、妙に納得したのが<ランデヴー>メンバー。 そして疑わしき目で見るのが、憐たち七人。 ただ一人、驚いたような目で晶を見つめているのが、彼の従妹、綾である。 「ま、いつか逮捕状は出ると思っていたダスが、やっぱり勝本のとっつぁんはまだまだ現役でいけるダスよなー」 「……最上さん。質問しますけど、そのように考えている貴方は千里さんがどうして殺人鬼になったと考えているんです?」 秋彦は、晶の論理と知識、さらに性格もあいまって、どうしても少しだけ言葉に尊敬が混じってしまう。 別に秋彦としては普通に喋っているつもりなのだが、ユキメとのやりとりが根強いようである。 「まあ色々とあるんだろうダスが、君らの説を考えると『ご乱心説』ダスかな? 何らかの理由で人間と妖怪に嫌気がさした」 つまり、千里が人間と妖怪を見限った、ということだ。 憐たちは、千里が同級生からいじめを受けていたこともあり、人間を嫌ってもしょうがない、という情報を持っている。 しかも今さっき、晶から聞いた話を真実とするならば、妖怪への信頼なんぞ無きに等しいはず。 「あとは、ベルっつー妖怪の話を聞いて閃いたんダスが、『ベル黒幕説』というのもあるダスよ。ベルがひょっこり出の君らを言葉巧みに操って、俺たちをつぶす。すると邪魔がいなくなって、人間を殺す尖兵たる“神殺し”をこれまた言葉巧みに操るんダスよ」 「晶君の言葉を捕捉させてもらうんだけど、ベルが属してる<摩訶>っていうネットワークって、ウチとの折り合いが悪いのよ。だからベルが、あたしらは『サムライガール』を操ってるー、とか言ったら多分真に受けるだろうし……」 喋りながら、少し苦笑してみせる聖子。 頬をぽりぽりと掻くその仕草と、少しあせったような表情から本当に困っているらしい。 「で、これが俺たちが最後まで持ってた説なんダスが、『都津根鞠男(とつねまりお)説』なんダス」 何だ、その微妙なネーミングはっ、と心の中でつっこむ憐と秋彦であった。 もっとも似たようなツッコミは、昨日の<ランデヴー>での会議内でもあったため、言ったところで晶の受け流し方は完璧である。 言うだけ無駄だったシーンなだけあって、彼らは今日、ほんのちょっぴり幸運なのかもしれない。 「直田一少年の事件簿で、そんな名前を使った事件あったなー」 「あ、やっぱり瑠璃華にはわかった? これってあたしが考えた説」 初めて会ったときもそうだが、瑠璃華と愛は、マニアックなネタで折り合いがいいようだ。 が。 「……ふん、オタクの考えてることって、訳わかんない」 「今時漫画もみない天然記念物には言われたくないわね、翔子」 「そんなの読んでるから、あんたはいつまでもバカなのよ」 「あら? そんなこといったら、漫画を読んでもいないのに成績のよくないあんたはどうなの?」 「……言ったわね、このオタク」 「何のこと、ペチャパイ」 「何よっ!」 「何さっ!」 翔子と愛の二人は、些細なことで喧嘩を始める、ホットなライバル関係である。 この関係は、憐たちの世界でも同じことなのだが、生憎憐たちはこの二人が一緒に揃ったところを見たことが無い。 だから、しっかりした女性という印象のある翔子が、こうもいとも簡単に怒りの感情を見せるのが不思議だった。 「師匠、愛さん……」 「「あんたは黙ってて!!」」 「……仲いいなぁ」 思わず小声で呟いた瑠璃華だったが、これを聞かれていたらきっと激しく否定されていたことだろう。 だが本人たち以外の人は、口にはせずとも同じように思っているので、きっと聞かれていても激しい同意を得られていただけだっただろう。 「まあこの仲良し二人組は置いといてダス」 「「仲良しじゃないっ!!」」 「本当に仲いいなぁ……」 やっぱり、瑠璃華はこれも小声で呟いた。 先ほどとは違って、翔子と愛の二人は、二人の仲がいいことを否定しているので意図的に言わないでおいている。 「で、続きダス。俺たちが最後まで可能性として取っておいた説。それは、黒川千里が持つ、仕込み杖風の刀。あれが実は刀の付喪神で、黒川千里を意のままに操っている、という説ダス」 「確かに、そういえば……」 美奈がうつむいて、この世界で千里と会ったときの事を反芻して思い出してみる。 確かにこの世界の千里は、いつも見ている千里とは違い、髪形は晶のように三つ編みではないし、ライダースーツじゃなくてブレザーだし、何より晶の言うとおりに仕込み杖風の刀を所持していた。 他に違うところと言えば、彼女が愛用している黒を基調としたバイクがないとこぐらいか。 「最上さん……」 「晶でいいダスよ、武田のお嬢ちゃん。最上だと、綾も含まれるダスし」 「わたくしも、武田と呼ばれるのは好ましくありません。ですから、麗奈、で構いませんわ。あ、憐さんたちも名前で読んでいただけると、幸いです」 「本当に、武田広奈とは違うみてぇダスな」 別に、晶は有名な会社の御曹司、というわけでもなさそうだし、そもそも彼は、自分たちの世界では泥棒だということになっているし、しかも本人がそれを認めているようだ。 だが彼は、まるで武田広奈のことを知っているように見える。 仲間の誰もが知らない事を知っていたりする彼は、人間なのに<ランデヴー>の妖怪を含めても、あまりにも異質な存在。 だがそんな彼だからこそ、憐たちは妙な親近感を覚えていた。 「で、続きなのですけど、先ほど貴方は「人間に嫌気がさした」という過程をしましたわよね? それは……」 「恐らく、黒川千里は現状か、それとも過去かに絶望でもしたんだと思うダス」 麗奈の言葉を奪うように、晶は答えを言ってくれた。 「黒川千里はいじめられっ子だったダス。小、中、高と共に、いじめられなかった時はないんダスよ。さらに、彼女の父親がまたとんでもねぇ人物で、ギャンブル、飲酒は当たり前。すぐキレるという、情緒不安定で最低の男だったらしいダスよ。そしてその父親が連れてきた女と再婚し、彼女とその息子にもいじめ抜かれていたらしいダス。これだけでも、黒川千里が人間に絶望するのも無理ねぇダスな」 淡々と話す晶の表情に、常に見せている笑顔は消え、まるで感情全てを捨て去ったような表情が張り付いている。 瑠璃華は思うが、晶の笑顔が仮面なのか、それともこの無表情が仮面なのかわからなくなってしまう。 「しかも、高校一年生からの一年間、アルバイトで生計を立てていたらしいんダスけど、そこでも陰湿ないじめにあい、ほとんどのバイトが3日もたなかったんダス」 <ランデヴー>のメンバーからも同情の色が見えるほど、晶の言う千里は絶望的な境遇だ。 快楽殺人鬼と言い切っていた愛ですら、まるで申し訳なさそうに晶の言葉に耳を傾けている。 憐たちもそうで、自分たち以上に恵まれない境遇を持つ千里に対し、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「これがあくまで現在ダス」 「……まだあるのですか?」 美奈は、出そうになる声を押し殺して晶に聞いた。 心では、これ以上聞きたくなかった。 理性では、さらに千里のことを知り、何とか説得できないかと情報が欲しい。 そんな美奈の心での葛藤は、彼女の感情を切り裂きそうな痛々しさだけが残ってしまう。 「黒川千里は、レイプによって生まれた子ども、って知ってたダスか?」 「!!!」 「今から17年前くらいダスか。当時、日本を騒がせていた連続強姦殺人犯、天草剛三(あまくさ ごうぞう)という男がいたダス。その男は、見事警察に捕まり、そのとき襲われていた少女を保護。そして数年前に死刑され、現在は死んで罪を償ったダス」 「そのときの少女が……」 「大河君、そうダス。黒川千里の母親、黒川香織(くろかわ かおり)ダス。事件からおよそ十ヶ月後、黒川千里を生み、ある男と結婚。それが名目上の、黒川千里の父親ダスな」 <ランデヴー>の中は、まるで音そのものが世界から消え去ったかのように、シンと静まり返った。 張り詰めた空気は、一同の肌をピリピリと刺激し、心がざわつく。 でもその痛みを声に出すことが出来ないので、身体とは裏腹に心が叫んでいた。 「……何でそれを早く言わないのよ!」 沈黙を破ったのは、愛だった。 「愛ちゃん。どうせ、このことを言ったら「所詮、殺人犯の娘は殺人犯」とか言うつもりだったんダスよな?」 「そ、それは……」 「俺は、確定しない情報は伝えないことにしてるダス。しかも、それを歪曲されるのはもっと嫌ダス。……俺だって、事実とは知りながらも、憐君たちの情報がない以前は懐疑的だったんダスし」 言うことを言った晶は、表情を一転して取り戻した。 まるでスイッチ一つで切り替えるように、満面の笑顔を貼り付ける晶。 だがそんな彼の心の奥を知る人が、ここに何人いるのだろうか? 少なくとも、憐たちにはそれを感じ取ることは出来ない。 「さてさて。それはさておき、これからどうするんダスか、大河君?」 「今までなら『サムライガール』の封印、と言いたかったところだったんだが、晶の話を聞いて、そうする気も萎えた」 ここで憐は、千里の封印のことを聞いた。 すると、妖怪のとある技法で、魔方陣を敷いたり何なりして、なんらかの魔術具に妖怪を封印する、とのことだ。 それを千里に使い、それに使用した魔術具を厳重に封印するつもりだったらしい。 「ともかく、一つ一つ説をつぶしていくことにしよう。ネットワーク<摩訶>へと赴き、ベルの確保。これは元々アリエルの仕事の一つだしな」 大河が尋ねるようにアリエルの方を振り向くと、彼も大河の方を向いてこくりと首を縦に振った。 「あ、一つ調べてみてぇことがあるんダスが」 「何だよ、晶」 「憐君たちが言う、ユキメっていう女性を、俺のちょっとしたコネで調べてみたいんダスよ。あと、ここにカンヅメで、文句を言う子猫ちゃんもいるみてぇだし」 晶がそう言って振り向いたのは、綾。 綾は晶のウインクに顔を赤らめ、恥ずかしそうにそっぽを向く。 「一ついいか?」 挙手をして尋ねたのは、海里。 「お前たちの仲間に、魔王と名乗る奴がいるはずだ。そいつは誰だ?」 「あ、それ多分私」 挙手をして答えた人物は、憐たちにとっても意外だった。 他でもない、憐たちの恩人が一人、翔子だったから。 「もっとも誤解しているようだけど、私は自分のことを<魔術王>と名乗ってるから略して<魔王>。決して魔界の王、て訳じゃないわ」 ふんぞり返って熱く語る翔子。 だが、愛がぽつりと何かを呟き、それを地獄耳で察した翔子は再び愛につっかかる。 そうして、再び二人の言い争いが再燃してしまう。 ともかく、<ランデヴー>に魔王クラーマ存在説は、これにて消滅したのであった。 「えっと、俺とアリエルを含めた戦力になりそうな奴が<摩訶>。晶と綾が御堂じゃないユキメの調査。残りは留守番か」 「大河君。一応<ランデヴー>の守りにも戦力が欲しいからアーサー君は留守番よね。あ、私は一応リーダーとして大河君についていくから」 「オーナー。俺とタヌキも付いていくぜ。な、タヌキ?」 「もちろん!」 と、<ランデヴー>のメンバーは次第に配置が決まっていった。 大河、アリエル、聖子、孤月、草月は<摩訶>。 晶、綾、愛がユキメの調査。 そして櫻、アーサー、ゆきめ、夏海が留守番である。 翔子は少し悩む素振りを見せた後、 「瑠璃華。未来の私が作ったっていうエリクサ、ちょっと気になるから作り方教えてくれない?」 「構いませんよ、師匠」 翔子は瑠璃華と共に、薬の研究を行うことにしたのである。 で、憐たちはというと、憐、美奈、海里が晶と共に、修一、麗奈が大河と共に、そして秋彦は留守番することとなった。 時は既に夕方に近い頃合であった。
髪にこびりついた血がとても気持ち悪く、さっさと洗い流したいから。 勝手知ったる他人の家、っていうものだけど、持ち主不在で鍵もかけられていないから、私は気にしなかった。 家にある女性用のシャンプーやらリンスやらも、勝手に使う。 一応、放っておいても私の髪は艶やかで、変な癖もなく、毛先まで荒れる事は経験上ないんだけど、やっぱりそれなりの対応はしておきたい。 だって私のこの髪は、私が好きだった人たちの誰もが褒めてくれたところだから。 私は身体に染み付いた血を、一生懸命洗い流した。 それでも消えない血の匂い。 それでも落ちない血塗られた腕。 私が自ら望んだ戒め。 後悔はないけど、直視すると鬱になる。 もう少し、もう少しの辛抱だから……。 気が付けば、私はゴシゴシと強くタオルで腕をこすっていたようで、腕は真っ赤になってヒリヒリと痛む。 それでも私は、腕は血で真っ赤になっているような気がしてならなかった。 そんなはずはないのに……。 私はお風呂から出ると、タオルで髪の水分を吸い取らせ、その間に全身をくまなく拭き取った。 そして身体にバスタオルを巻くだけという、少し色っぽい格好でそのまま居間へと移動した。 きっとこんな姿を見たら、龍くんったら叱るんだろうなぁ。 くすくすと笑いながらそんなことを考える私。 私はカバンから二つの位牌を取り出し、両手を合わせた。 位牌に刻まれた名前は、私の祖母の名前と母の名前。 「お母さん、お祖母ちゃん。今日も、たくさんの人を殺してしまいました」 こうやって、お母さんとお祖母ちゃんに今日の出来事を話すのが、私の日課。 「それでね、自衛隊さんが私のことを『サムライガール』だって。おかしいよね。私は侍なんて、強い存在じゃないのに」 そう、私なんて龍くんがいなくちゃ、強くもない存在。 誰からも蔑まれる、そんな弱弱しい存在。 「もうちょっとだよ。あと少し……。あとほんのちょっとで終わる。そう、もう少しなの……。もう少し……なのに」 私の目から、一筋、二筋……ううん、たくさんの水滴が零れ落ちてくる。 ずっと……ずっと殺してきた感情なのに……駄目、ここで負けたら私、先に進めなくなっちゃう……。 「うっうっ……」 お母さん、お祖母ちゃん、龍くん……助けて……。
「彼らは千里を助けるために奔走する。 |