投稿小説だぜ

松永和泉さま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

Nuova Legenda〜新しい伝説〜

第6話


「県予選にて(その3)」
☆2回戦終了後☆

「相手の土俵でやった割には、あっさり勝っちゃったね」

スタンドで見ていた伊川潤がつぶやく。

「『策士、策に溺れる』ってヤツやろ」

隣に座っている朝霧明志が応える。

「このままトントンと進みそうやけどね」

自分の事のように、嬉しそうに言う潤。

「その前に…」

潤とは対照的にやや重い表情の明志。

「その前に、何?」

「お昼に行こか。『腹が減っては戦はできぬ』や」

戦をしなくても、時間が経てば腹は減る。

そう言われて慌てて時計を見る潤。

正午を少し過ぎた頃である。

く〜。

時計を見ると、急に空腹を感じた潤。

「玉子焼き(明石焼きの事です)が食べたい!」

「この時間は混んでんで…」

「せっかく明石まで来たんやから、玉子焼き!」

譲らない潤。

「せっかくって、近いやん」

「混んでても並んでもいいから!」

何故か玉子焼きにこだわる潤と、混んでて待つのが嫌な明志。

結局明志が折れる形で、魚の棚(うおんたな)へ。

しかしどの店も混んでて、並ばないと入れない状態。

結局、『きむらや』(パン屋じゃありません)に落ち着き、玉子焼きと関東煮(いわゆる『おでん』)を 食す二人であった。



同じ頃。

「よくやった! 感動した!」

一躍有名になったセリフを言う朝霧舞子。

どの辺りに感動したのかよくわからないが、とりあえず勝ち進んだ、という所だろうか。

「これも隊長のお指図のおかげです」

恭しく答えるのは神仙寺郁華。

2試合連続でヒットを重ね、チーム撃墜王の座を虎視眈々と狙っている。

「さて、次は…」

言葉を続ける舞子。

「お腹減りましたー」

厳粛なムードに水を差す小野柄若菜の言葉。

「私も」

舞子と同学年の有馬摩耶も、後輩の若菜に同意する。

「お昼の時間ですけぇ、ご飯にしましょうよ」

チーム最年少にて唯一の男性、楠多聞が舞子に提案。

「『腹が減っては戦はできぬ』、ですよ」

と言いつつ、既におにぎりの包みを開けようとしている東雲美幸。

舞子は隊長という役目柄、チームの事しか頭になかったようで、お昼休みの事をすっかり忘れていたようだ。

「あぁ、そうか。お昼休みやったな。緊張のしっ放しであんまり空腹を感じんけどな…」

しかし体は正直なもので、緊張が解けたせいか舞子は急に空腹を感じた。

「昼ご飯やな。私はちょっとお茶買うてくるから…」

舞子は前もってメンバーに、お昼ご飯は持参するように、と伝えておいた。

お昼時は混雑するので買いに行ったり食べに行ったりすると、時間に間に合わなくなる恐れがあるからだ。

ましてやコスプレしているので、出歩くとそっち系のお兄さんに囲まれかねない。

しかし言った本人が、用意するのを忘れてしまった。

緊張のあまり、と言えば仕方がないかもしれない。

さすがにメンバーの手前、「お昼用意すんの忘れてきたからちっと買うてくるわ」とは言えない。

という訳で、「そこらの自販機で飲み物買うてくる」とぼやかした言い方で、外に出ようとした。

目立たぬようにジャケットを羽織って、少し歩いた時であった。

「朝霧舞子さん、朝霧舞子さん。おられましたら大会本部までお越し下さい」

突然のお呼ばれのアナウンスである。

「えっ? 何や? 折角…」

空腹ではあるが、チームの今後の事かもしれないので無視する訳にはいかない。

「しゃあないなぁ・・・」

外に出ようとしていた足の向きを変え、大会本部に向かった。



「あのー、先程名前を呼ばれた朝霧ですが…」

大会本部に恐る恐る入り、居合わせた係に用件を尋ねる舞子。

「あっ、朝霧さん? さっき身内と名乗る方から電話があって『お兄さんが交通事故に遭ったからすぐに家に戻るように』という事です」

「えっ?」

突然すぎて、状況がまったく飲み込めない舞子。

「私もそう聞いただけですぐに電話が切れちゃって…」

係の人も詳しく聞いていないようだ。

「事が事ですので、一度ご自宅に連絡されるのがいいでしょうね…」

「はぁ…」

状況が理解できないまま、大会本部を後にする舞子。

「交通事故…? 思い当たるんは…」

小声で呟く舞子。

「私がこないだ、加@川バイパスで光らせたんを悔しがって、走って無理したんかなぁ…」

先日、県内の某自動車専用道路にて『ぬゆわ』キロ出して、『道端の箱』に『記念撮影』された。

「妹に負けられない」と人には言えない速さで走って… なのかもしれない。

「いや、ちゃうちゃう。そんな無茶はせえへん。歩いてて車に当たったんかも。意外と抜けてるとこがあるからな…」

そう考えつつ、おもむろに兄明志の携帯に電話を入れた。

普通に考えれば、病院内だと携帯は通じないはずである。

それ以前に、明志自身が電話に出れる訳がない。

しかし、人間取り乱してると何をするかわからない。

「ぷるるるるる…」



「電話鳴ってる」

潤が明志に注意を促す。

「誰やねん。飯の邪魔すんのは」

そう呟いて箸を置き、携帯を取り出す。

「もしもし。ん? どしたん?」



「あれ? 今どこ? 病院ちゃうん? ケガは大した事なかったん?」

舞子は、明志が電話に出た事に驚きを隠せない。

「病院? ケガ? 何言ってんのかよぉわからんねんけど。今はお食事中」

ご飯を中断された事でやや不機嫌な明志。

「いや、さっき、兄貴が事故って病院送りになったって電話があって、電話をしたんやけど…」

「病院送りぃ? そんな目に遭ってへんぞ。誰か違う人の間違い電話やないんか?」

舞子と明志のすれ違いの会話が続く。

「あぁ、そうや。今日は大会やろ? 頑張れよ」

「え? あ、う、うん。頑張ってる」

「飯はしっかり食っとけよ」

そう言うなり電話は切れた。

兄貴はご飯食べてるとこ、って事は病院ではない。

普通に喋ってた、って事は事故ってない。

やっぱり間違い電話やったんや…

兄貴が無事である事を確信すると、急に空腹を感じた。

そういえば、お昼を調達に行くとこやったんやっけ。

ふと時計を見る。

「あ、ちょっとヤバい。急がんな」

舞子は慌てて近くのコンビニへ駆け出した。



「あれ? さっき隊長の名前呼ばれてませんでした?」

そう言ったのは多聞である。

「え? そんなん言うてた?」

若菜の箸を持つ手が止まる。

「そういや何か聞こえたような…」

摩耶も多聞に同意する。

「飲み物買うてくる、って言うてまだ帰ってきてへんし」

「けど本人がいない以上、どうしようもないし…」

続くのは郁華と美幸。

「帰ってきはったら、伝えたらええんちゃいます?」

多聞がこの状況で一番適切、と思われる回答を示す。

携帯で呼び出すという手もあるが、皆は舞子が飲み物を買いに行くだけ、と言って席を離れたのですぐに帰ってくるものと思っている。

「そやね。もしかしたら、アナウンス聞いてて直接行ってるかも知れへん」

郁華が頷く。

「舞子先輩がお呼ばれって事は多分、次の試合の説明やろな」

若菜は手と口、両方動かしながら喋る。

そのため何のアクションもとらないまま、ご飯を食べ続ける隊員達。

「楠多聞さん、楠多聞さん。おられましたら大会本部までお越し下さい」

「!! げほっ、ごほっ」

いきなり名前を呼ばれた多聞は、飲んでいたお茶が気管に入りむせた。

「何か悪さでもしたんか?」

若菜がニヤニヤ笑いながら冷やかす。

「特に心当たりはないですけど…」

頭をかきながらうつむく多聞。

「うつむくところが怪しいよね」

郁華も茶化す。

「まぁ、とりあえず行って来ますわ」

そう言うとすぐに立ち上がり、片手で食べかけのお握りを口の中に詰め込み、もう一方の手に持ったお茶で胃の中へ流し込みながら歩いていった。

「楠君、お行儀悪いよ」

多聞の後姿を見ながら摩耶が呟く。

「舞子先輩はわかるけど、多聞君は何やろな?」

「さぁねぇ?」

若菜の問いに郁華が答える。



「えっ? じいちゃんが倒れた? ホンマですか?」

本部の係の人から聞かされて、素で驚く多聞。

「こちらもそう伝えて自宅に戻るように、と言われただけだから」

困惑する本部の係。

「もし、チームで一人抜けた場合、次の試合はどうなるのでしょうか?」

多聞は自分が欠けた状況で、チームの状況を尋ねた。

「不利を承知であれば、そのまま続けても構わんよ」

係の人は、5人でも続行の意志があれば、続行可能であるという。

「とりあえず、自宅に電話してみたらどうやろう?」

「そうしてみます…」

そう提案されて多聞は本部を後にし、倒れた祖父がいる広島の家に電話をかけた。

電話の取次ぎで誰かしらいるだろうし、詳しい事を聞こうと思ったからだ。

ぷるるるる…

がちゃり。

「もしもし」

電話に出たのは老いた男性の声である。

「えっ? じーちゃん?」

多聞は驚いて叫んでしまった。

倒れたはずの祖父が電話に出た?

「何じゃ? オレオレ詐欺ならしごーするでぇ(懲らしめるぞ)

「ちゃうよ。多聞やって」

多聞は慌てて自分の名前を告げた。

「おぉ。多聞か。どうした? 元気にしとーか?」

祖父の声は倒れたと思えないほど元気である。

「倒れたって聞いたんやけど、ぶち(とても)元気そーやね」

「しゃけらもねぇ(とんでもない)。けど、倒れそうにはなったがの」

「え!? いつ?」

多聞は「やっぱり?」と顔が蒼くなっていくのがわかった。

「ありゃあ、スイグンが引退した時かの」

「へ? 水軍、引退? ってあの福山のスイグン?」

多聞の頭の中で「?」マークと馬がぐるぐる走っていく。

「日本最強アラブじゃぞ! 福山の誇りじゃぞ!」

祖父の語気が強くなった。

とても倒れた人とは思えない(実際には倒れてない)。

「日本最強はヨシゼンやって」

「アレも確かに強かったが、福山育ちやないけぇ除外」

「じゃ、じいちゃんの中での最強馬は?」

「ローゼンホーマじゃな。お前の名前も『豊真』と考えておったがの」

「え゛…」

もしそうなってた場合、自分の名前の由来を聞かれて、「馬から」と言えるはずがない。

「さすがに反対されたけどな」

多聞は反対してくれた両親に、ささやかながら感謝した。

「ほいじゃ、じいちゃんは元気なんやね?」

倒れそうになったと言ってはいたが、これだけ元気であれば大丈夫だろう。

多聞は安心した。

「いや、わからん。次に倒れそうになる時は…ユキノホマレの引退の時かの」

「そんな縁起でもない事言いなさんな」

「ところでの、今日のメインは何じゃ?」

「え? 今日は宝塚やからディープ鉄板。相手はアイポッパーとリンカーン、穴でトウカイカムカム」

「そっちやない。福山じゃ」

「じいちゃんの命がかかってるユキノホマレでええんでない?」

(福山のメインって何やった…?)

多聞は思い出せないので適当に答えた。

「やっぱりお前もそう思うか。それじゃったら…(長いので中略)…決まったわい!」

そう言うなり電話は切れた。

誰やねん? 祖父が倒れたってガセネタを吹いたヤツは?

とりあえず腕を組んで歩きながら考える。

そして一つの結論が出る。

間違い電話。それに違いない。

最初は「祖父危篤」というガセネタに腹も立ったが、久しぶりに祖父と話する事ができて、多聞は間違い電話に少しだけ感謝した。

ふと時計を見る。

「えっ? こんな時間?」

そろそろ次の試合の準備に入る時間である。

他のメンバーも準備を始めているはずである。

控え室に戻る為に駆け出そうとしたその時、視界に一人の女性の姿が入った。

季節外れのコート、片手にペットボトルのお茶、もう一方の手にはおにぎり。

いかにも怪しすぎる格好である。

その女性は、多聞の方向に向かって歩いてくる。

(この人と関わってはいけない)

多聞の頭の中にある第六感が危険信号を出そうとした時、相手は突然駆け出した。

そして多聞のそばに来るなり、声をかける。

「我が隊の隊員やないか。こんなとこで何してん?」

「あ、たいちょ…」

(一見危なそうな)女性は隊長こと朝霧舞子だった。

舞子は歩きながらおにぎりを頬張り、お茶を飲む。

(最近の若いもんは…)

と舞子より若い多聞も、そう思ってしまった。

「そろそろ(むぐむぐ)次の試合の(もぐもぐ)準備をせな(ごくごく)あ かんから(ぱくっ)早よ(もぐもぐ)戻ろ」

口の中に米粒が入っているので、一気に喋られない。

しかも喋るたびにご飯粒が、多聞向かって飛んでくる。

「隊長、歩きながら食べるんは、如何なものか、と…」

「そんな(ごくっ)時間が(むぐむぐ)あったら(もぐもぐ)こ んな事(ごくっ)してへん」

多聞がたしなめても、全く気にしない舞子。

「ところで、次の試合の相手って、どこですか?」

多聞は控え室に向かって歩きながら、おにぎりとお茶を交互に運ぶ舞子に恐る恐る尋ねる。

「次の相手なー、『山芦屋大学付属六麓荘高校(やまあしやだいがくふぞくろくろくそうこうこう)何とかかんとか』ってとこ やった」

「え? あの『六高』ですか? あんなとこがこんな大会に出とぉなんて… 知らなんだ…」

ちょいと解説。

山芦屋大学付属六麓荘高校は、阪神間でダントツの金持ち高校である。

生徒は芦屋・西宮・宝塚の超々高級住宅地に住む、お金持ちのご子息ご令嬢ばかり。

そのため授業料、寄付金も私立大学の医学部並かそれ以上、である。

進学はエレベーター式、就職も親の会社なので偏差値は不明。

六甲山地の中腹にあるため、舞子や多聞の通う六甲山高校とは地図上では近い(が、実際には道がうねっ ていてかなりある)

以上解説おわり。話を元に戻します。

「私も知らんかったわ。あーんな金持ち高校のボンボンにゃ負けられへん。次の試合は絶対勝つから気ィ引き締めや」

舞子はなぜかテンションが高い。

オーラというか気というか、そのようなものが舞子の体から発されている(ように感じる)

「は、はぁ…」

「何やそのショボイ返事は。シャキッとせぇ!」

バシン。

舞子の手が多聞の背中を叩く。

げほっ。

思わず咽る多聞。

(この人にゃかなわんわ…)



その頃舞子と多聞がいない控え室では、

「隊長も多聞君も、呼び出されて戻ってけぇへんなー」

「そのうち帰って来ますよ」

「そのうち、じゃ遅いですって」

若菜が心配するが、いつでもおっとりの摩耶。

「私らだけでも準備しときましょうか?」

待ちきれなくなった郁華は、摩耶に問い掛ける。

「何もせずに待っとくよりはいいよね」

この一言でその場にいたメンバーは、次の試合の準備を始めた。

「あ、ウチの服、どないしょ…」

がっかりした様子で若菜が呟く。

先程の試合で川に入ってずぶ濡れ、空手着なのでほとんど乾いていなかった。

「どないしょかなぁ、一応予備は持ってんやけどなぁ…」

「私の、貸したげよっか?」

若菜の独り言に郁華が応じる。

「えっ? ホン…」

その申し出を二つ返事で受けようとしたが、頭の中で何か拒否反応があって思い留まった。

(ちょっと待て。ウチの体格と郁華の体格は全然合うてない。仮に最初の試合で郁華が着とったセーラー服なんぞ借りたら…)

若菜は郁華の服を着た自分の姿を想像した。

「…」

若菜の身長は女子高生の平均よりちょい高い程度だが、郁華は平均より低い。

中学生、時には小学生に間違えられるぐらいである。

「うーん…」

郁華の申し出は嬉しいのだが、それを素直に受け入れられない事情がある若菜。

郁華は、その事実(身長差)には気付いていないようだ。

(「体格が合わんから止めとく」なんて言われへんしなぁ…)

若菜の心の中で葛藤が交錯する。

「私のん、貸したげよっか?」

そう声をかけたのは美幸だった。

「へっ?」

「ただ、私と同じカッコになるけどね。それでもええんなら貸したげるよ」

美幸と同じ格好。

若菜は頭の中でその格好を想像する。

(巫女さんかぁ。動きにくそやなぁ。でも裾は捲くってやれば何とかなるんちゃうかなぁ)

「じゃあ、郁華には悪いけど美幸の、借りてもええかな?」

「いいよー。ちょっと待って、今出すから」

そう言って美幸は自分のバッグの中から衣装を取り出す。

「『あの衣装』なら若菜にも似合うって思ってたんやけどね。ちょっと残念」

少しがっかりした口調で郁華が呟く。

(『あの衣装』って、何? またキワモノ系か?)

若菜は一抹の不安を感じた。

「曲はさっきのでいいよねー。巫女一人増えたし」

郁華は登場曲も決めようとする。

「ちょっと待って。やっぱり気合を入れるためにテンションあがるのがええな。やっぱ『ワルキューレの騎行』やな。仕事人の組長の気合が乗り移る!」

曲と聞いて若菜が提案する。

先程の不安はすぐ消えたようだ。

「組長って…」

摩耶が引き攣った声で呟く。

「サンドストーム! アニキも使ってるし。ライトスタンドひとまたぎ!」

美幸も言い出す。

サバゲーとライトスタンドは全く関係ないと思うが…

「そこは『め〜しはワリカン(以下自主規制)』やって」

郁華がダメ出しする。

「お取り込み中ですけど、私もいい?」

喧々諤々三つ巴のテーマ曲合戦に、摩耶が参入する。

「何ですか?」

若菜が尋ねる。

「実は… なんやけど、どう?」

「悪役商会ですやん! これ、いい!」(若菜)

「マジっすか?」(郁華)

「うーん…」(美幸)

賛成1、どちらでもない2。

しかし、先輩なので無下に反対できない2年生3人(摩耶は3年生)。

反対者がいないので、そのまま採用されてしまった。

「ホンマにええんかな…」

郁華は一抹の不安を感じた。



「…ちゅうわけや」

「はぁ、そっすか」

控え室に戻る途中の舞子と多聞。

時間が迫ってきているにも関わらず、喋りながら歩いている。

ぱっと見、仲のよいカップルに見えなくもない二人を、建物の影から見る一人の女性。

「作戦失敗の模様。次を実行する」

携帯電話で会話しているようだ。

セーラー服を着ているのでどっかの学校の生徒らしい。

外見は10代後半、スタイルは胸がやや目立つが、他の部分はしっかり引っ込んでおりバランスはよい。

髪はロング、眼鏡をかけているが、10人中7人ぐらいは「美人やね」と思うような容貌である。

その女子高生は建物から出ると、舞子と多聞のいる方向へ歩いていった。

そして舞子と多聞の顔が確認できるくらいの距離まで近づいた時、おもむろに口をあけた。

「えーっと…六甲山高校の楠多聞君…だよね?」

顔とギャップの激しいアニメ声。

声のキャラ的には、「お子様」が合いそうである。

「へっ?」

多聞はあっけにとられた顔で、マヌケな声を出す。

「多聞君の彼女?」

舞子は後ろから、多聞の背中を手で突付いて小声で尋ねる。

「ちゃいますよ。てか誰すか? 知り合いすか?」

「見たところ同じ学校ぽいが、知らん」

少しの間小声でのやりとりが続くが、多聞が答える。

「えっ、あっ、そうですけど…?」

やや不安げな声で答える多聞。

「よかった。少しのお付き合い、よろしい?」

お嬢様口調ではあるが、アニメ声なので滑稽に聞こえてしまう。

「今から、ですか?」

「今から」

多聞の問いに即答の女子高生。

「んー…」

考えながら舞子の横顔を盗み見る多聞。

「じゃ、すこ…」

「ダメ」

多聞が答えようとした矢先に、舞子が声を荒げて被せる。

「私たちはあなたに付き合ってる時間がないの。これからやる事がいっぱいあんの。あーんな事とかこーんな事とか」

「あ、あんな事やこんな事って…」

多聞の顔が一瞬引きつる。

しかし女子高生も簡単には引き下がらない。

「いえ、楠君だけにお願いしているのです。あなたには関係ありません」

きつい言葉ではあるが、アニメ声なので柔らかく聞こえてしまう。

舞子もその声に呆れたのか、腕を組んで考える。

「ええわ。じゃ、行ってき。但し、時間までには戻って来いや。やないと、明日から十字架背負って学校生活を送る事んなるから」

「は、はい… じ、十字架…」

舞子の『これ以上ない』温情に、震えながら声を絞り出す多聞。

「じゃ、行きましょ」

女子高生は多聞の腕を取って歩き出した。

「あの顔であの声はちょっとなぁ…」

多聞が半ば強引に拉致され(半分は舞子にも責任はあるが)、一人になった舞子は控え室に向かって歩きながら呟いた。

「それにしても…」

また一人呟く舞子。

「多聞君って、意外と人気やな…」



女子高生は相変わらず多聞の腕を取ったまま歩き続ける。

その後ろを、やや引っ張られる感じで歩く多聞。

女子高生と新撰組。

どう見てもカップルには見えない。

「どこまで行くんですか?」

多聞は尋ねるが、女子高生は答えない。

そしてそのまま歩き、人気のない建物の影のそばに着いてようやく足を止める。

「楠君、次の試合に出るわよね?」

おもむろに尋ねる女子高生。

「試合?」

突然聞かれて、状況が飲み込めない多聞。

「サバイバルゲームの事、ですわ。そこで…」

この人と試合の何が関係あんの?

やはり状況が飲み込めない多聞。

「参加のご辞退をしてもらえるかしら?」

質問の内容がよくわからなかった多聞だが、この言葉でやっと理解した。

「それは無理です。学校生活かかってますし」

即答の多聞。

「もしご辞退されるのでしたら、こちらを差し上げますわ」

そう言うなり女子高生は、スカートのポケットから一枚の紙を取り出す。

「この紙を10枚、合計10万ドラーよ」

「じゅ、じゅうまんどる?」

十万ドルってえと、一ドル120円として… 約12万円?

12万円かー、けど学校で十字架背負って生きるのと比べ…

頭の中で考えながら、女子高生の持っているお札を見る。

本物か? それとも某北の国製の…

後者なら親方日の丸に拉致されて、暗い部屋でカツ丼を食わされて、怖い人に根掘り葉掘り聞かれる事になるのだが…

!?

もう一度じっくり見る。

漢字で「百怒羅亜」と書かれてある。

その横には三笠(どら焼き)を持つ某猫型ロボットが描かれてある。



「それは何? 人生ゲームのお金ですか?」

これをもらって喜ぶ人間は普通いないであろう。

馬鹿にされていると考えるのが一般的である。

「本物は今持ちあわせてないからこれが代わり。よくできてるでしょ。私がデザインしたのよ」

女子高生はさらりと言う。

賢いのか馬鹿なのかよくわからない。

いや、馬鹿だろう。

「悪いんですが、今お付き合いしてる時間はないんです。人生かかってますから」

こんな紙切れもらってこれからあと2年少々、十字架背負っての学校生活は嫌過ぎる。

あの人(舞子)なだけに本当にやりそうで怖い。

以前頼んでもないのに顔整形されたし。

すぐ治ったけど。

これ以上の深入りは危険だ。

ただでさえ押している時間なので、こんなやり取りは無駄としか思えない。

コマンドは? たたかう・にげる・じゅもん・どうぐ

『にげる』

多聞は逃げ出した。

「あっ」

しかし回り込まれてしまった。

「お金なんていらないのね。じゃ…」

女子高生は手で百怒羅札をクシャクシャに丸めて投げ捨てる。

屑物入れにホールインワン。

「あなたの願い事叶えます、ってのは?」

「何をアニメみたいな…」

多聞は肩を落として呟いた。

「何でも結構ですわよ」

「んーと… ! じゃあ…」

願い事が思いついたのか、手を叩く多聞。

「思いつかれました?」

多聞の言葉を待つ女子高生。

「今すぐ帰って下さい、ってのは?」

その言葉を言うなり、多聞はまたも逃げ出した。

「馬鹿にしてもらっては困ります! 秘技… って、いない!」

女子高生は慌てて追いかけようとしたが、既に視界から消えていた。

「逃げられたか…」

その声はアニメ声ではなく、大人っぽい声だった。



「うまく撒いたか」

肩で息をしながら、控え室に逃げ込んだ多聞。

「遅かったやないの? 何しとったん?」

入るなり若菜に問い詰められた。

「ぜーはー、えーと、ぜーはー、そのカッコは?」

多聞は若菜の衣装を見て驚く。

「さっきの試合で濡れて乾かんから美幸から借りた。観世音菩薩行深般若…」

いきなりお祈りを始める若菜。

「って、それ般若心境やけど…」

若菜に巫女の衣装を貸した美幸が突っ込む。

「で、どうなったの?」

若菜の代わりに郁華が聞く。

「六甲山の制服を着たアニメ声な先輩にとっ捕まりました」

「アニメ声? どんな感じ? 誰役?」

アニメが好きな郁華の目が光る。

「うーん…」

「はいはい。やあっと面子揃ったから次の試合の打ち合わせをするでー」

舞子が隊員達を集める。

「あとでどのアニメの誰役か教えて」

郁華は多聞に小声で囁いた。


次回予告

「頂点まであと少し。次の相手は金持ちチーム。
気合、根性、雑草魂(死語)、萌え(?)はバブリー(死語)に通用するのか?
次回 Nuova Legenda〜新しい伝説〜第7話「県大会にて(その4)の巻」

成せばなる 成さねばならぬ 何事も 成らぬは人の 成さぬなりけり
ここまで来れたのはちょっとビックリ(チームも作者も)」



☆あとがき☆

多聞と多聞の祖父との会話で広島弁が出ておりますが、間違ってるかもしれません。

てか多分間違ってます。

一言で広島弁といいましても、福山(備後地方)と広島(安芸地方)とでは多少違います。

福山は広島東部ですので備後風に喋らねばならないのです。

しかし厳密な違いがわかりませんので「こんな感じでないの?」という具合です。

私自身広島市内に親戚、福山に知人がおりますが、同じように聞こえますし。

まぁ、関西弁といっても京都、大阪、神戸では多少違う、というのと同じです。

アニメ…

我が家は地方なので数週遅れです。

たまに野球中継で時間が遅れます(タイマー録画がずれる事も)。

家にある黒電話(現役です)で「アー@お助けセンター」にが繋がらないものか…
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