投稿小説だぜ

松永和泉さま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

Nuova Legenda〜新しい伝説〜

第4話


「県予選にて(その1)」
☆大会前日夕方 某ファミレス☆

前話の楠多聞の「体を張った」資金稼ぎにより、朝霧舞子を除く5人に装備を揃える事ができた。

その後何度か訓練を行い、舞子曰く「これでええんとちゃうかー」と言えるレベルまで達した。

何を基準に「ええ」のかわからないが…

また、訓練の内容も不明である。

ただ作者が、「その辺りの描写を書くのがめんどくさいだけ」、である(自爆)。

「めんどくさい」は言い過ぎなので、「社会人ゆえに細かな描写を書く時間、及び調べる時間がない」という事でお願いしたい。

早くも話が脱線しそうなので、前に進める事にする。

チームの隊長にして唯一の経験者、最年長、メンバーのしつけ係、いろいろな肩書きを持つ舞子の招集で、メンバー全員がいつものファミレスに集まった。

「決戦はいよいよ明日である! 訓練の結果を見せる時が来た!」

いきなりテンション全開の舞子隊長。言葉の語尾の「!」がそれを物語る。

「訓練通りにやれば結果は自ずと見えてくる! 優勝も容易いはずや!!」

ボルテージが一層上がり、自分の言葉に酔ってるようにも見える。

「明日の勝利のために、乾杯しよや。皆コップ持ちぃ」

舞子が各自グラスを持つように促す。もちろん中身はノンアルコールである。

「隊長隊長! 乾杯の音頭を取らせて下さい!」

自ら志願したのは神仙寺郁華である。

「うん、ええよ」

あっさり許可。

「では僭越ながら。グラスを」

郁華はそう前置きして、音頭を取る。

「君の瞳に、困憊!」

「かんぱーい!」

各々グラスを高々と掲げる。

「こんぱい…何で?」

郁華のボケに気付いたのは、東雲美幸だった。

「困りごとに備える心と書いて、困憊。これからのチームの事やん」

「うーん…あながち間違ってないけどね…」

「とりあえず、乾杯や」

若菜がそう言いながら自分のグラスを、隣に座っていた多聞のグラスに当てる。

「明日は頑張って下さいよ」

多聞も言葉を返す。

「お前も頑張れよ」

「…(古っ)」

若菜と多聞が漫才してる向かいで、有馬摩耶が口を開く。

「明日対戦するチームって、どういうとこか聞いてますか?」

「『己を知り、敵を知れば百戦危うからず』、やな」

相手のチームについて少しでも知れば、その対処法が分かるわけである。

試合に出られるという喜びにうかれる事なく、チームの事を考える。

さすが頭の回転が速いだけあります。

しかし舞子の答えは、素っ気なかった。

「何も聞いてへんなー。明日のお楽しみ、っちゅうことでええんちゃう?」

しかしこの言葉からして、多少の余裕が感じられる。

「舞子先輩が言うたセリフて、誰の言葉?」

若菜が多聞に聞く。

「孫子ですよ」

「おー、そいつなら知っとーで。あぐらのまま空中浮遊するヤツやろ。あとは『血のイニシエーション』やっけ?」

「…確かにそれも『尊師』やけど、全然違います!」

またもや即席漫才。

三国志を知ってて、孫子を知らないのはどーなんでしょうか…

程々に騒いだ後、明日に備える為に少し早い目にお開きとなった。

「ほな明日は遅れんよぉにしぃよ。以上、解散!」

「お疲れーっす」

「失礼しまーす」

それぞれバラバラに帰宅してその後のそれぞれの様子。

(舞子の場合)

「試合明日やろ? 訓練の成果を見に行くで」

と突然兄に言われ、「見に来んでええから!」と突っぱねる。

「若菜を吶喊させて、サポートに多聞君をつけて…郁華は足が速いから陽動で…ZZZ」

ゲームを組み立ててるうちに寝てしまった。

(摩耶の場合)

「荷物の準備はこれでよし、目覚ましもセットした。まだ寝るには少し早いから、サバゲーの勉強でも…」

とアンチョコ(『サバイバルゲーム完全マニュアル』なる本)を読む。

どこまでも優等生です。

(若菜の場合)

「いよいよやなー。『あの約束』を実行するためにもがんばろかー」

チームの勝利よりも、自分の目的に走ってます。

ええんかそれで?

(郁華の場合)

寝る前までテレビを見ていて、ふと閃(ひらめ)く。

その閃きをネットで検索。

「…使える(ニヤリ)。そうと決まれば早速準備せんな」

何を閃いたんやろか?

(美幸の場合)

「あんまり着たくないんやけどなぁ…洗濯するんめんどくさいし…」

といいつつも巫女衣装をかばんに詰める。

会場の男性のハートをがっちり掴むのは、あなたです(多分)。

(多聞の場合)

「なんやかんやでここまで来てしもたなぁ。ここまで来たら、アレやな。『毒を食らわば皿まで』か」

イヤダイヤダと言いつつも、とうとう腹を括ったようです。

☆予選当日☆

予選会場は明石公園内の特設である。

駅から徒歩5分という至極交通の便のよい会場である。

その甲斐あって満員御礼(主催者発表)…とまではいかないが、特設観客席も7割ぐらい埋まっているようである。

そんなこんなでNuova Legendaの控えテントでは…

「あー、緊張すんなー」

全く緊張しているようには見えない若菜である。

「ここまできたら後には戻れないね」

いつもおっとり摩耶が相槌を打つ。

郁華は舞子に耳打ちしている。

「うーん…今からはもう無理やから、次の2回戦やったらええで」

「ホンマですかー! 2回戦に行けるようにがんばろっと。皆もがんばろー!」

何やら秘策の相談をしていたらしい。

「巫女さん巫女さん、必勝祈願のお祈りして下さいよ」

多聞が巫女衣装の美幸を茶化す。

「私んちの神社は『縁結び』と『夫婦円満』がメインやからちょっとね…」

リラックスムードではあるようだ。

「そろそろ時間やから、一言言わしてや」

舞子の言葉に各自が顔を向ける。

「皇国の興廃この一戦にあり。各自一層奮励努力せよ! 以上」

「日本海海戦の『Z旗』ですね」

「気合が入ります」

言葉の意味がわかる摩耶と多聞はそう返したが、若菜、美幸、郁華は一呼吸置いて声を揃えて「頑張ります」。

言葉の意味がわからなかったからだと思われます。

その直後、大会役員が「入場の用意を」、と伝えに来た。

「ほいじゃ、行きますか」

舞子が腰をあげた。



「まだ出てきてへんな。間に合うたわ」

「そんなに急がんでもべっちょないって」

スタンドの空いている席を見つけてそこに座る男女二人。

男女共に20歳ぐらい、男性はいかにも「大学生ですよー」ってな感じ。

女性の方は身長体重ともに標準、髪は肩ぐらい。きれいというよりかわいい系。

「今から舞子のチームが出るみたいやなー」

「やっぱり『兄』としては見届けたい、と?」

「『見届ける』て、死ぬ訳やないんやから。『見に来んな』と言われたが、やっぱ気になるわな」

男性は朝霧舞子の兄である。

名前は「朝霧明志(あさぎりあかし)」。

「もしかして…シスコン?」

女性は明志の彼女、名前は「伊川潤(いかわじゅん)」である。

同じ大学の同回生、同じサークルに所属している。

潤にはサバゲーの知識は、ほとんどない。

「こんな行動をする限りそう思われても仕方ないが、一応否定しとく」

「何その回りくどい言い方」

「ま、ええやんか。黙ってゲーム見よや。そろそろ入場やな」



「巽(たつみ)の方角よりっ、『Nuova Legenda』の入場です!」(ケロちゃん風に)

進行役の声と共に、舞子が選んだテーマ曲が流れる。

「『アレ』のテーマ曲やんか。グランツーリスモの頭の曲」

曲を知ってる人間同士が言い合って、会場がざわつく。

まず登場したのが舞子ねーさん。

ミリタリールックでしっかり決めて、手にはAK47とサムライエッジ。

「あのねーちゃん、なかなかやりそーやで」

「ウチのチームにほしいわ」

サバゲー愛好家に高評価である。

そしてステージ中央まで来て一言。

「GTの方やなくて、原曲の方やから」

どちらもあまり大差はないんですけどね…

次は摩耶と郁華、新旧女子高生(女学生)スタイル。

摩耶は上セーラー服、下もんぺ。

郁華は上セーラー服、下スカート。

どこの学校の制服か? というのは話に関係ないので触れないでおく。

「70年前と現代の17歳です」

摩耶のカッコはどう考えても「浮いている」ように思えた。

「ウチのばーさんも戦争前は、あんなカッコでかわいかったのぉ」

「あの娘がもうちょっと髪長かったら、私の若い頃とソックリなのにねぇ」

年寄りに大ウケ(爆)。

観客のお年寄りの中には「本物」のサバゲー(いわゆる『戦争』)を体験した方もおられるようで、多少サバゲーに興味ある方もいるようである。

続いて美幸登場。

白衣、朱袴の巫女さんのカッコ。

手には神楽で使う扇子を持ってる。

「ホンマにこのカッコでサバゲーするんか?」

「この娘に祈祷されたい」

「1時間何ぼやろ?」

会場には妙な熱気が帯びてきた。

最後は若菜と多聞。

空手家と新撰組がそろって入場。

会場中央まで来ると、若菜が突然叫ぶ。

「ええかー? 総司!」

「(お腰の物を指さして)これは『国重』やから『斎藤一』と呼んで下さい」

沖田総司の愛刀『加賀清光』(『菊一文字』はありえないらしいんで)を探していたが見つからず、斎藤一の愛刀『鬼神丸国重』を見つけてきたらしい(もちろ ん模造刀です)。

「ほな、はじめるでー。かかって来い! 歳!」

多聞に向かって構える若菜。

「だから『諾斎(だくさい)』やっちゅうねん。ケガしてもしりませんでー」

若菜に向かって刀を抜き、上段に振り上げる多聞。

多聞は踏み込みながら、若菜に向かって刀を下ろす。

若菜の頭に刀が落ちる瞬間、両手で頭の上の刀を挟む真剣白刃取り!

若菜は両手で刀を挟んだまま腕を捻り、多聞がよろけながら刀から手を離したところを腹に足刀(足の横の部分)蹴り。

「んゲっ!」

多聞たまらずダウン。

「あの空手のねーちゃんすごいで!」

「サバゲーとは全然関係ないけど、何かやりそやな」

若菜と多聞の演舞(若菜曰く『アドリブ』)に沸く会場。

(手加減するて言うといてモロ入った…)

ゴホゴホと咳き込みつつ、腹をさすりながらゆっくり立ち上がる多聞。

「…え〜っと…次のチームの紹介に移って…ええかな…?」

会場に余韻が残る中、進行役が恐る恐る尋ねる。

「あ、ええですよ」

舞子が何事もなかったかのように答える。



「舞ちゃん(舞子の事)のチーム…舞ちゃん以外は色物ばっかりやん…もしかして、ウケ狙い?」

潤は呆れたように言った。

「………」

明志は返す言葉がなかった。



「それでは、坤(ひつじさる)の方角より『神戸陸軍塾』の入場ですっ!」

入場曲(「愚零闘武多 協奏曲」)に合わせてずんずんと男6人が入場してくる。

皆迷彩の上下である。

装備も64式小銃に9ミリ拳銃。自衛隊を意識しているようだ。

会場中央まで来るや一人ずつ自己紹介を始めた。

6人の中で一番背の高い男(180センチぐらいはありそう)が前に出る。

「神戸陸軍塾塾頭の坂村(さかむら)だ」

次に出たのが坂村より二回りほど小柄な男が二人。

「同副塾頭の沢町(さわまち)!」

「同じく副塾頭の菅里(すがさと)!」

続いて残りの3人。

「塾頭補佐の神宮(じんぐう)です」

「同じく補佐の岩田(いわた)」

「秘書の高林(たかばやし)」

6人がそれぞれ肩書きを持っている。

お互いのチームの紹介が終わり、それぞれのフィールドに向かおうとした時に摩耶が一言。

「『副塾頭』と『塾頭補佐』ってどっちが上なんでしょう…」

「どっちでもええんちゃう。そんなん私らの知ったこっちゃない」

舞子がぶっきらぼうに答える。

どっちでもよくなかったのは神戸陸軍塾だった。

摩耶の一言がチームの雰囲気を変えた…

沢町と菅里は揃えて「副塾頭の方が上や」という。

しかし神宮と岩田も黙っていない。

「補佐の方が直属やから上に決まっとお」

秘書の高林は何も言わない。

高林本人も『秘書』という立場で塾頭直属と思っている節がある。

チームの予定や予算などを管理しているからだ。

しかし高林は気が弱いため、4人の口ケンカには入れない。

フィールドに向かいながら、喧々諤々の論戦が始まった。

「おいおい、野郎ばかりのチーム、ケンカしとぉけど大丈夫か?」

会場がざわつく。

「何か、相手のチーム…ウチらとのゲームの前に仲間割れしてますけど…」

若菜が舞子に尋ねる。

「放っとき放っときぃ。私らにゃ関係ないし、あっちが勝手にしとんやから」

舞子はどうでもいいように言い放つ。

(これって、隊長と有馬さんの策なん…? んー、離間の計、か? やとしたら…うわー、恐るべし隊長…)

多聞は心の中で、二人の何気ない会話から相手チームを混乱させた事に驚いてしまった。



ここで兵庫大会のレギュレーションを紹介。

フィールドは東西200M×南北100M、西が坤の陣地、東が巽の陣地。

北側はちょっとした小高い山、南側は見通しの悪い森、中央部分は草原で、腰位の高さの草が一面に生い茂り、所々に身を隠せそうな背の高い木が点在。

勝敗は相手陣地内のフラッグを奪取する(フラッグの下にボタンがあり、それを押すとブザーが鳴ってフラッグを奪取した事になる)か、チームが全滅した時点 で決着。

トーナメント方式で負ける事なく勝ち進んでいけば優勝、晴れて県代表となる。

フィールドマップ

「Nuova Legenda」の陣地内。

只今作戦会議中。

10分間の作戦タイム後に試合開始。

「まずは私が中央から出て行く」

舞子が口火を切る。

「吶喊ですか?」

「バンザイ突撃?」

若菜と多聞が異を唱える。

「話を最後まで聞け。私は牽制。その間に若菜と多聞君は、南の林から相手陣地を目指す。もちろん敵を見つけたら撃ってよし」

「了解であります」

「ういっす」

「次に郁華は、速攻で北の丘を奪取。ここ取ったら見通しがええし、睨みを利かせられるからな。もちろん敵を見つけたら撃ってええで」

「わかりましたー」

「摩耶は私のサポート。少し後方からでええから。間違うて私撃ったあかんで」

「はい」

「美幸は陣地守っといて。そのカッコじゃ目立つし動き難かろう。私と摩耶がヤバいなて思たら、前出てきてええから」

「そんな事はないですけど…隊長殿の仰せとあれば致し方ありません」

「こんなもんやろ。何か意見は?」

隊員に指示を出した舞子は、みんなの顔を見回す。

「初めてなんで、朝霧さんにお任せします」

摩耶がそう言うと、他のメンバーも頷いた。

「よっしゃ。最初が肝心やからな。気ぃ引き締めていくで!」

ちょうど作戦タイム終了で、開始の合図を待った。



一方「神戸陸軍塾」の陣地。

こちらも作戦会議中。

のはずだが、先ほどの摩耶の一言でチーム内の雰囲気が険悪である。

リーダーである塾頭の坂村が、「副塾頭も塾頭補佐も身分は同じ」というヒネリのない判断を下してしまい、部下はもめたままである。

縦の繋がり(坂村から各メンバー)はある程度取れるのだが、横の繋がり(メンバー同士)は副塾頭と塾頭補佐、秘書とで全くないに等しい。

副塾頭同士や塾頭補佐同士とでは、意思疎通ができるようだ(秘書は一人なので特に意味なし)。

坂村は大まかな作戦を立てただけで、後は部下に任せる事にした。

横の連携がない以上、綿密な作戦を立てても無駄だと思ったからである。

(もんぺの女学生…敵ながらやる…)

坂村は頭の中でゲームを組立ながら、そう思った。

「ふわっ、はっ、はっくっちゅん!」

その時、舞子の説明をしている最中に、摩耶がくしゃみをした。

「摩耶先輩、花粉症ですか? それとも、風邪?」

若菜が心配する。

「花粉症でも風邪でもなく、大丈夫だから」

摩耶はかわいい仕草で鼻をすすりながら、若菜の気遣いに答える。



「なぁんか相手のチーム、味方同士でいがみ合ってるけど、やる気あンの? って感じ」

潤が明志に言う。

「ゲームの前に仲間割れ…もし立て直したとしても、ある程度のギクシャク感は残るからなー、こらかなり厳しぃやろな」

「これやったら、舞ちゃんとこが勝つやろね」

「まぁ、でも油断はでけへんな。舞子以外は素人に毛が生えた程度やから、舞子がいかに頑張るか、やな」

「あんなカッコでできるんやったら、私もやろかな」

潤はNuova Legendaを見て、そう思った。

「さっきは『色物』て言うてたくせに、えらい変わりようやな」

「やっぱ『セーラー服に機関銃』かなー」

「………」



作戦タイムが終わって、いよいよゲームが始まる時がきた。

Nuova Legendaにとっては初陣である。

試合開始のホイッスルが鳴り、ゲームが始まった。

巽の方角から真っ先に飛び出したのは、若菜だった。

中央へ行くと見せかけて、南の森に駆け込む。

続いて多聞も森に一直線。

「白菜! 付いて来いよ!」

「誰が漬物やねん! 諾斎やっちゅうねん!」

そして舞子が陣地から出て、手頃な遮蔽物を見つけそこに隠れる。

また、摩耶と郁華も舞子の指示に従って、目的の場所へ移動する。

Nuova Legendaのメンバーの動きを見たギャラリーは、

「巫女さんが出てへんで」

「巫女さん出てきてぇや〜」

「いや、自軍の陣地で必勝祈願の舞を舞ってるとみた!」

「俺のためにも舞ってくれ〜」

巫女さんこと美幸は、舞を舞う事なく陣地でじっとしていた。

もちろん神戸陸軍塾も動き出した。

摩耶の何気ない一言(坂村曰く『敵の謀略』)で横の繋がりがなくなってしまい、連携プレーはまず期待できない。

副塾頭と塾頭補佐にはそれぞれ南北から攻めさせ、敵陣を挟み撃ちする作戦に出た。

こうすればいがみ合ってる者同士が一緒に行動して、足の引っ張り合いをしなくて済むからだ。

坂村自身は中央から、少し後ろを高林に援護させつつ、物陰に隠れながら少しずつ進む。

(あんな色物コスプレチームに負けられるかっ!)

坂村だけでなく、神戸陸軍塾全員がそう思っていた。



南側の森に身を潜めた若菜と多聞。

常に前に注意しながらすばやく進み、木の陰に隠れる。

「おい、鴨。いいアイデアが浮んだから耳貸して」

「へーへー(好き勝手言いおって…)」


多聞が若菜のすぐ傍に寄る。

ふーっ。

ぞくぞくっ。

「う゛わ゛わ゛っ!」

「しーっ! 大きな声出すな!」

「じゃ、そんな事(耳元に息吹きかける)せんといてください!」

「そんなに耳が弱いなんて知らんかったからなー。ごめん。えーとなー、ごにょごにょごにょ…」

「…んー、何とも言えませんが…どうせ有無を言わせんのですからやりますよ」

「うまい事引きつけてや」

「へーへー」

多聞は一人、木に身を隠しつつ進んでいった。



一方郁華は、北の山に向かってまっしぐら。

学年で五指に入る足の速さを誇る郁華は、銃を担いで山を駆け上がる。

「おー、絶景か…なわけないか」

身を伏せて、木々の間からフィールドを眺めながら呟く。

(んーと、舞子ねーさんは…ええわ。あの人プロやから一人でも何とかできるっしょ)

経験者であってプロやないけどな…

そして敵陣の方角に顔を向けると、神宮と岩田の塾頭補佐コンビがちらちらと見え隠れする。

どうやらこちらに向かっているようだ。

(どうやらあの二人は、こっちに向かっている模様。しかしこちらの存在には気付いていない、と。撃ち頃と見た!)

郁華はそう判断すると、ウージーサブマシンガンを二人が来る方向に構え、トリガーを引く。

ばばばばばっ!

「うわっ? ヒット!」

「えっ? ヒットっ!」

神宮と岩田はある程度気をつけてはいたが、『横からの攻撃』に備えていたため、『前方(山の上)からの攻撃』には無関心だった。

というのも、『こちらの方が早く山を取れる』と思い込んでいたからである。

その思い込みよりも、郁華の足が勝っていた。

さらに高所から低所に向かって撃つため、弾速、飛距離も伸びる。

副塾頭の二人は両手を上げ、フィールド外に去っていった。

「あのセーラー服のちっこいお嬢ちゃん、ごっつ足速いな」

「あんな足場の悪いとこであんだけ速(はよ)お走れんやったら、県大会でもええとこいくで」

ギャラリーもびっくりである。

ちなみに郁華は、足の速さで1年の頃は陸上部からお声がかかっていたが、運動があまり好きではなく、入部を断り続けて向こうが諦めた。

「二人成敗した。まだ来るかもしれんからもうちょい待っとこー」

郁華は身を屈め、敵の動きに注意した。



北側から銃声が聞こえた舞子は、郁華が山を取って何人かヒットさせた事を確信した。

(こんな上手い具合に進むたぁ思わなんだなー。次は…)

舞子は少し後ろにいるはずの摩耶を手招きして呼ぶ。

身をかがめながらやって来る摩耶。

摩耶がすぐ近くまでやって来て、舞子は指示を出す。

「えっとね、郁華が山取ったから次の作戦の指示を伝えて。その作戦は、ごにょごにょごにょ…」

「ふん、ふん。はい、了解。隊長殿」


摩耶はコソコソと、郁華のいる山に向かって駆けて行った。



未だ森の中の空手家と新撰組。

多聞はそろそろと、一人で先行する。

(あんな作戦上手い事いくわけない。引き付ける最中にこっちが撃たれるわ)

若菜の考えた作戦に文句を垂れつつ、少し進んでは木の陰に隠れる。

(しかもこのカッコ、目立つ上にごっつ歩きにくい…)

羽織袴で隠密行動する方が間違っているような…

(…そろそろヤバい感じがするな…)

と多聞の勘が頭の中でそう告げる。その瞬間、

ばばばばばっ!

「うおっ!」

突然前方から射撃を受けた多聞。

木に隠れていたおかげで当たりはしなかった。

というか、相手の撃った方向は、全くの見当違いだった。

副塾頭コンビも『この森に敵がいる』事はわかっているようだが、どの辺りかまでは把握していないようだ。

一人が撃つ事によって敵を動かし、自分達の都合のいい方向に誘導させようという狙いである。

(この森にワシらがおるんが気付かれたな。もうあの人のスタンドプレーには付き合えん)

そう考えた多聞はフィールドの境界ぎりぎりを進み、そのまま敵からすり抜けようと試みた。

(見つけたら撃つけど、逃したら小野柄さんが何とかしてくれるっしょ)

木の陰に隠れて袴の裾をたぐり上げ、一気に走り出した。

すぐ近くで銃声を聞いた時、若菜は木の上に隠れていた。

多聞が若菜のいる木のすぐ近くまで敵を呼び込んだら、若菜は木の上から敵にフリーズコールをかけるつもりだった。

多聞をダシにして一人おいしいとこを取る、目立ちたがり屋の若菜の考えだ。

「アイツ、ヘマしやがったか。使えねぇな」

そう呟くなり木から降りて、注意深く敵を探す。

さっきの銃声で、多聞がヒットされたと思い込んでいる。

(当初の予定とは違(ちご)たけど、さくっと屠っときますか)

若菜は舌なめずりをして、銃声が聞こえた方向から敵のいる位置を考え、身を潜めつつゆっくりと進む。

さながらヘビが獲物を見つけた仕草にも見える。



山の上で身を潜めている郁華。

森の中で銃声らしきものが聞こえたが、この位置ではどうする事もできない。

少し様子を見ていると、後ろから摩耶がやって来た。

「あれ? 摩耶さん。どーしました?」

「朝霧さんからの次の指示です。ごにょごにょごにょ…」

「ふん、ふん…わっかりました。では行ってきます」


そう言うなり郁華は、敵陣に向かって山を降りていった。

舞子からの指示を伝えた摩耶も、山を下る。



フィールドの中央付近で潜んでいる舞子も動き出した。

すばやく移動して身を隠せそうな場所を転々とする。

中央よりやや南側へ進路を取り、北から移動する郁華への注意をこちらに向ける。

中央と南側の森からの挟み撃ちに遭うかもしれないが、森の方は空手家と新撰組が何とかしてくれるやろう。

そして森の中から銃声が聞こえた。

慌てて身を屈める。被弾なし。

舞子はすぐに銃声のあった方角に、AK47で射撃する。

当たらなくても敵の注意をこちらに引きつけるだけでよいので、牽制の意味の方が強い。

のはずが…

「ヒットぉー!」

森に潜んでいた副塾頭の沢町に当たったようだ。

「どこから撃たれたのかわからん…」

そう呟きながら沢町は両手を上げ、フィールドの外に出て行った。

「よぉわからんけど、ヒットコールが聞こえたから当たったんやな」

舞子は小さな声で呟いてすぐに移動する。



郁華は北側の山を下る。

目指すは敵陣地、フラッグである。

フィールドを大きく迂回して、裏側から入り込む。

舞子の指示である。

下りは木があるため一気に下れないので、そろそろ降りる。

山を下りきりフィールドの境界に沿って大きく回りこむ。

郁華は、敵陣地のフラッグを目指して走りだした。



南側の森にいた多聞は、フィールドの境界に沿って敵陣地を目指す。

射撃に遭った直後に、別の射撃。

すぐに男の声でヒットコール。

(誰が当てたんじゃ? 空手家のねーさんはちゃうやろからやっぱり隊長?)

コソコソと走りながら、そんな事を考える。

(でもこのカッコは走りにくい…)

『新撰組の衣装にする!』なんて言うんじゃなかった。

多聞は今になって後悔した。



フィールドの北側を境界に沿ってコソコソと走る郁華。

(2人ヒットして旗も獲ったら、この試合のMVPはわたしよね〜)

頭の中でそのような事を考える。

(試合が終わったらお立ち台に立って、ヒーローインタビューされるのよね〜)

顔がニヤついている。

もちろんこの試合ではそのような事(MVP表彰やヒーローインタビュー)は、いたしません。

郁華の脳内で、試合後の表彰シーンが再現される。

がさっ、べしゃっ。

上の空で走っていたせいか、足元を取られて転倒。

「痛た…」

ぺちっ。

転倒してすぐにBB弾が、郁華の足に当たった。

「へ…? あ、当たった? あ〜あ、ヒット」

このとき郁華の頭の中で、試合後の風景(栄誉?)が音を立てて崩れていった。

郁華をヒットしたのは、高林だった。

坂村の後方、やや北寄りの位置でアンブッシュしていたが、突然やや斜め後ろの方で、『がさっ』という音が聞こえた。

郁華が転倒した音である。

すぐにサイドアームズのザウエルP220自衛隊バージョンを、音が聞こえた方角に数発打ち込む。

そして『ヒット』の声。

それに気付いた坂村は、左腕だけを高林のいる方に向け、親指を上に立てて『よくやった』のサインをだした。

「やられたらやり返さないと」

ぼそり呟く高林。

3対5。こちらに不利な状況ではあるが、向こうは婦女子ばかり(多聞は・・・?)。

展開次第では十分逆転できるはず。

素早く頭を動かしてこれからの作戦を考える陸軍塾塾頭坂村。

「………!」

名案が浮かんだらしい。

坂村の後方にいる高林にハンドサインで指示を出そうとしたところ、突然陣地のある後方からブザーが鳴った。

「え゛…?」

陸軍塾の陣地が落とされた、つまりフラッグを獲られた事を意味するブザーだった。



陸軍塾の陣地の旗を獲ったのは、多聞である。

袴の裾をたぐり上げて、フィールド沿いをコソコソ〜っと身を潜めながら走って、敵陣を落としたのである。

陣地の裏から回り込み旗の下にあるボタンを見つけ、ラグビーでボールを持ったままトライするように、頭から滑り込んでボタンを押した。

「うおっしゃ!」

多聞思わずガッツポーズ。



「舞ちゃんとこのチームが勝ったん?」

「そやね」

観客席から見ていた伊川潤と朝霧明志が言う。

「相手はまだ3人残ってるけど、それでも?」

「ルールでは、陣地落とされたら何人残っていようが負けは負け」

「ふーん」

「うれしい反面、変な気分やけどね」

「何で?」

「あんな色物チームが、万が一、優勝したらどーするよ」

明志は複雑な表情を浮かべる。

「ええんちゃうん。コスプレしたかわいい女の子のチームが勝ち上がっていけば面白くなるよ。けど私の方がかわいいけどね」

「何か空耳が聞こえたような? 女の子だけやない。男も一人おるで」

「新撰組の子ね。よく頑張りました。きれいでかわいいおねーさんがほめてたって舞ちゃんから伝えといて」

「後で伝えとくわ」



1回戦を終わっての撃墜成績

神仙寺郁華:2

朝霧舞子:1

楠多聞:0(フラッグ奪取)

以下略(笑)

次回予告

「何とか1回戦を突破したNuova Legenda。
『色物』の烙印を押され、別の角度からのファンもつき後に退けない状態に。
次の相手は、舌を噛みそうな長い名前のチーム、らしい。
しかも某アイドルの出身地から来てる、らしい。
相手が誰であろうと、戦って勝つしかない。
次回Nuova Legenda〜新しい伝説〜第5話『県大会にて(その2)の巻』

全国への道は始まったばかり。」


☆あとがき☆

ついにサバゲーです。

レギュレーションは取り立てて特別な項目はなく、まるえ様の東京都大会を参考にさせて頂きました。

アンチョコは多少読みましたけど。

「展開的に無理ありすぎ!」っちゅうツッコミお待ちしてます。


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