投稿小説だぜ

松永和泉さま作

『戦え! FANG GUNNERS!』外伝

Nuova Legenda〜新しい伝説〜

第三話


「競馬場にて資金稼ぎの巻」
☆会議のあった日曜日から4日後の木曜日☆

放課後、楠多聞は学校から帰るのに履物を履き替える為に、下駄箱を開けた。

中には手紙が入っていた。

誰からかは、ほぼ見当がついている。

内容も大体わかる。

「今週末の日曜日、西北駅の時計台10時集合。頼りにしてるわよぉん(はぁと)。わ」

「またこれか…」

気が重くなった多聞だった。

☆週末の日曜日 西北駅時計台午前10時☆

集合場所一番乗りは、楠多聞だった。

スポーツ新聞を広げ、競馬欄に目を通しながら、ぼーっと待っている。

「オレハマッテルゼは安田か…誰が乗るんやろな…」

小さな声でぶつぶつ喋っている。

そこへ現れたのが、東雲美幸と神仙寺郁華、30代後半と思しき男性の3人組。

美幸はちょっと地味で落ち着いた格好、郁華はやや派手っぽい格好。

見方によっては、2人とも後ろにいる男性の子供と思われるかもしれない。

「多聞君、エラくオヤヂ臭いねー」

多聞を見つけた郁華が、感心したように言う。

「私らより年下なのにねー」

美幸も同意する。

「ミッキーは騎乗停止か…イケてへんなー」

相変わらずぶつぶつ呟く多聞の後ろへこっそり回りこんだ郁華は、小さい声で一言。

「朝からご熱心な事」

「うわっ!」

ばさっ。新聞が足元に落ちた。

「やっほっ! 今日は私らのために頑張ってねー」

「お、おはようさんです…『私ら』って…チームのためやないんですか?」

バラけた新聞を拾いながら、美幸に応じる多聞。

「もちろん設定金額はあるけど、余ったらみんなでおいしいものでも食べようよ」

美幸はお金は余るもの、と考えているようだ。

「私らのため」とは「余分なお金を稼いでほしい」という事らしい。

「無理難題を仰る…後ろのお方は?」

多聞がやや悲観気味に喋った。

「私のバイト先の店長の川北さん。今日の保護者役。(手で多聞を差して)この子が楠多聞君です」

郁華が後ろの男性を紹介する。

「まぁ、ひとつよろしく。新聞まで買って気合入ってるねぇ」

川北と紹介された男性は、穏やかに語りかけた。

地味なカッコでやや深け顔っぽく見えるが、見た目より若そうな感じがする。

「ところで他の先輩方は?」

多聞は、時間になってもまだ来ていないメンバーが気になって尋ねた。

「朝霧先輩と有馬先輩と若菜ちゃんは、クラブの行事で来れないって」

「だからみんな揃ったから競馬場へ行きましょー」

美幸と郁華が答える。

「あんだけ大見得切っといて、自分らは参加せんのか…ふぅ…」

多聞がやりきれないといった感じで呟く。

この一言は郁華にしっかり聞き取られ、後に大変な事になるのだが…

さて4人は競馬場方面の電車に乗って、迷う事なく競馬場に着いた。

スポーツ新聞か競馬新聞持った人の後ろについていけば、勝手に連れてってくれるからである(爆)。

☆競馬場内☆

仁川競馬場は開催日(馬が走っている日)という事で賑わっていた。

4人は入場料を払って中に入る。

レーシングプログラム(その日のレースの出走馬が載った小冊子)をもらい少し歩くと、パドックが見えた。

「あっ、馬だ馬〜。ぎょうさんおるな〜」

郁華がはしゃぐ。

見様によっては、小学生が馬見て喜んでるようにも見えなくはない…

「ここで走るの? 狭いよー」

美幸がありがちな質問をする。

「ここはパドック言いまして、レースに出る馬の下見所です。馬の毛並みや歩き方で、馬の調子の良し悪しを判断するんです」

多聞が解説する。

「それじゃどの馬が勝ちそう?」

郁華が尋ねる。

「馬に聞いてみないとわかんないねぇ」

とぼけた答えを返す川北。

それができたら誰も苦労はしませんて。

「3番の馬がよさそうに見えるんですが…」

多聞が馬を見ながら呟く。

「3番…なかなか渋いとこつくなぁ。前走は着外やけど、1着とあんまりタイム差ないし、人気ないんはおいしいんかもしれんねぇ」

川北は新聞を見ながら多聞に答える。

「それじゃ、1番人気の6番と3番の馬連1点で」

「馬連1点かぁ。勝負師やなぁ。入れば20倍てとこかぁ」

多聞の買い目を、マークカードにペンで線を入れる川北。

美幸と郁華は既に蚊帳の外。

言葉(競馬用語)が理解できないからである。

川北が窓口で馬券を買っている間に美幸、郁華、多聞はスタンドの前に出る。

ここからだとコースが見渡せる。

「競馬場ってやっぱ広いねー」

感心するようにいう美幸。

「緑のコースって1周どのくらい?」

何故そんな事が気になる郁華?

「コースによって微妙にちゃいますけど、大体1700メーター前後です」

レープロ(レーシングプログラム)を見ながら答える多聞。

3人でぼーっとコースを見ていると、川北がやって来た。

「最初なんで、多聞君の買い目も様子見で、1000円買(こ)うといたよ」

そうこうしているうちにファンファーレが鳴り、レースが始まる。

「そのままっそのままっ!」

「6番差せっ!」

欲望を剥き出しにした怒号が飛び交うする中、4人も買った馬に注目する。

結果は1着が3番、2着が6番で多聞の予想が見事的中である。

「やるなぁ、勝負師。馬連で30倍あったから3万円か」

川北が驚いたようにいう。

いつの間にか、多聞の事を「勝負師」と呼んでいる。

「それじゃその2万円を元にして、30万円まで増やさないと…」

一応一人6万円で装備を整える計算なので、それが5人分で30万円、である。

30万円は目標金額なので、その金額まで届くか届かないかは、多聞の予想次第、である。

「それじゃ次のレースで、もうちょっと増やしますか・・・」

「お腹空いたー」

「私もー。腹が減っては戦はできぬ」

多聞が呟いたところを、美幸と郁華が被せるように言う。

あんたら何もしてへんやん。

ちょうど昼時、昼休みで少しレースの間隔が開く。

それを聞いていたのか、川北は財布からお金を出し郁華に手渡す。

「じゃあこれでみんなのお昼買ってきてよ。俺牛丼に半熟玉子つけてね。あとビールも」

突然お金を渡された郁華、牛丼と言われても場所がわからない。

「場所、どこですか?」

「スタンド1階、4コーナー寄りの一番端っこ。行列できてるからすぐわかるよ」

「でも・・・」

「場所知ってますんで、案内しますよ」

多聞助け舟。

「頼むよ。ここで待ってるから」

川北の声を背に受けて、多聞は郁華と美幸を連れて、牛丼屋に向けて歩き出す。

「多聞君さぁ、何でそんなに競馬に詳しいん?」

郁華がおもむろに聞く。

「小学生の頃に競馬場に通ってたからですよ」

「そりゃ10年も通ってれば、この迷宮のような場所にも詳しくなるよね」

美幸が感心したように言う。

「ここやないですよ。広島ですよ。小学生ん時広島に住んでたんです。」

歩きながら多聞は続ける。

「週末にじいさまによく連れてってもらいましたから。6年も馬見てれば、毛づやとか歩様で多少わかりますよ」

「そりゃ6年も馬見てれば、走る馬はわかるのね」

美幸が感心したようにいう。

そんなやり取りをしているうちに牛丼屋に到着。

川北の言ったとおり、行列ができている。

「ぎょうさん人並んでるー。何でこぉーんなに並んでるん?」

行列を見て郁華が呆れたようにいう。

「競馬場のは『牛』しか置いてないからです。あとは『時間』、ですね。ちょうど昼時ですから」

多聞は2人に列に並ぶように促す。

辺りをきょろきょろと見て、落ち着かない美幸と郁華。

多聞は新聞を見ながらじっと待ってる。

あまりに対照的である。

店では弁当のみなので、客の回転は恐ろしいほど速く、思っているほど待たない。

5分ほどであっさり購入。

言いつけのビールも買って、無料のお茶をもらって、川北のいる場所へ戻る。

「買ってきました」

「ご苦労さん。まぁ、食べや」

「ごっつあんですー」

4人は無言で黙々と食べる。

川北と多聞は食べながらも、新聞から視線を離さない。

「6レースはパスして、7レースを買おうと思うんですが」

食べながら川北に尋ねる多聞。

「勝負師もそぉ思うか。俺の勘も7レースを買え、て言うてるな」

ビールを飲みながら新聞を見る川北。

「5番軸で3と8に1万ずつ流して20倍見当で20万、てとこです」

牛丼を食べ終えお茶で一息つきながら喋る多聞。

「なかなか鋭いとこをつくな。まぁ、それでええと思うけどねぇ」

「あのー…取り込み中ですけどゴミ捨ててきます」

川北と多聞の会話に美幸が入る。

「あー、ごめん。それじゃ捨ててきてもらえるかな」

川北は多聞の容器と一緒に美幸に渡す。

「そのまま食後の散歩で、競馬場内を探検してきますけど、いいですか?」

一緒に動いていた郁華は川北に尋ねる。

「あぁ、ええよ。しばらくここにおるから。『気ぃつけて』行きや」

「それじゃ行ってきまーす」

二人はゴミを持ってスタスタと歩いていった。

「これで本気で打ち込めるな」

川北はぼそりと呟く。

『じゃ、この人は今まで本気やなかったんか?』

多聞が心の中で突っ込む。

「ちょっとパドック行ってきますー」

多聞は川北に声をかけてパドックに向かった。

「おいよ。気配がよくて人気なさそうなんがおったらメールしてや」

「わかりました」



その頃美幸と郁華は競馬場のコースの内側にいた。

競馬場の内側にも人がいるからそっちに行ってみよう、という事になったからだ。

内馬場(コースの内側)に向かうトンネルをくぐると、そこは一面の芝生だった。

レジャーシートを敷いてのんびりしている家族連れ、ビールが入っていたと思われる紙コップを2、3個散らかして寝っ転がってる親父などが、点々としてい る。

「内側の方が広くて落ち着けるね」

「けど何もないね。でっかいテレビの裏側だから何も見えないし」

「じゃ、撤収」

そのような会話のあと、美幸と郁華は外側に戻った。



川北は相変わらず新聞とにらめっこしている。

目を瞑って考え事…

「ZZZ…」

居眠りしてるようだった。



多聞はパドックで馬を見ている。

「人気薄で調子のよさそうな馬…おらんなぁ。3番は良さげやけどユーイチやから人気してるし」

周りに聞こえない程度の声で呟いている。

「やっぱこのレースは見送って、次のレースで探すか…ちょっとPRセンター寄って、過去のレース見てこよ」

パドックを後にした多聞は、一人でPRセンターの建物に向かった。



内馬場から外に戻った美幸と郁華は、イベントらしいものが見えたのでそっちに歩いていた。

途中、馬のマスコットの着ぐるみに出くわす。

郁華だけ頭を撫でられた。

「わーい! これで嫌いなにんじんも食べられるようになれるかなー…ってわたしゃ小学生やないって!」

横で美幸が左手で口、右手で腹を抑えて笑いを堪えている。

いつの間に乗り突っ込みを覚えたん?

余談だが郁華はにんじんが嫌いである。やっぱり小学生(笑)。



川北は相変わらず新聞とにらめっこ。

食後の昼寝から目覚めたようだ。

「メールは来んかのー…」

無料のお茶を啜りながら、ぼそりと呟いた。



多聞はPRセンターの中で過去のレースを見ていた。

淀競馬場での第111回天皇賞。ライスシャワー最後の勝利レースである。

しかし一部のコアなファンに語り継がれる伝説のレース、でもある。

余談ですが作者も現地観戦してました(本当に)。

2周目の4コーナー手前でライスシャワーが先頭に立つ。ざわめく観衆。

一番人気のエアダブリンはまだ後方で、馬群に飲み込まれたまま。

そのままゴールまで一気に押し切ろうとするところへ、大外からステージチャンプが豪快に追い込んでくる。

ライスシャワーとステージチャンプ!

2頭がほぼ同時にゴール板を通過する瞬間、ステージチャンプの騎手、エビショーが手を上げ、派手にガッツポーズ!

誰が見てもステージチャンプが勝ったと思われた。

が、結果はライスシャワーのハナ差逃げ切り勝ち。

エビショーのガッツポーズ(初GT勝ち)は幻に終わった…

「なるー。これが伝説の『フライングガッツポーズ』か…」

多聞納得。

「パドックに戻ろ。勝負の7レースが始まっとるかもしれんし」

またもパドックに足を向けた。



ターフィー君(馬のマスコット)に馬鹿にされた郁華と、笑いを堪えていた美幸が、あてもなく歩いているとポニーがいた。

「あー、かわいー! あっ! 目が合った!」

はしゃぐ美幸。

「ちょっと乗ってみたいなー」

と羨ましそうに見る郁華。

「向うにあるポニーリンクで乗れますよ。お嬢ちゃんなら大丈夫だと思いますよ」

とポニーを散歩(?)させていた係りのお姉さん。

「…」

項垂(うなだ)れる郁華。

事を察知した美幸が、手を取って連れ出した。

「そろそろ戻ろうよ」

「…うん」

スタンドに向かってとぼとぼ歩く二人。

そこに揃いの服を来た男性数人に取り囲まれた。

「? 何か悪い事でもしたんかな」

美幸はそう思ったが…



「ふとっさーん…しっかりしてぇや…」

川北は力なく呟いた。

買ってた馬券が外れたようだ。

「そろそろ情報が来るはずだが…勝負レースやて言うてたしな」

いつでも対応できるように、携帯を手に持って握り締めた。



「5番の馬は良さげやな。んで8番に流して…3よりも6の方が具合がよさそやな。しかも人気低いし」

周りに聞こえない程度に呟きながら、新聞を見る多聞。

そして携帯を取り出し、ぽちぽちと文字を入れ始めた。



「あなた方は高校生と小学生ですか?」

美幸と郁華は警備っぽい服を来た男の人に尋ねられた。

「え? 二人とも高校生ですが…?」

美幸が答える。

「馬券買った?」

「買ってませんが…」

警備の人の問いかけに、おどおどしながら答える美幸。

「本当?」

なおもしつこく聞く警備の人。

「買ってません!」

噛み付くように答える郁華。

その剣幕に驚いたのか、警備の人は顔寄せ合って相談した後、こう言った。

「馬券買うたらアカンよ」

そして何処かへ去っていった。



「パーンパカパーンパパパーンダダダダン」

携帯の着メロが鳴った。

どうやら関東GTファンファーレっぽい。

「おっ、コーチ屋の情報が来たか。どれどれ…」

川北は携帯の液晶の画面を見ながらマークカードにペンで塗りつぶし、そのカードを持って馬券売り場に歩いていった。



パドックを後にし、川北のいる場所に戻ろうと歩いていた多聞は、美幸と郁華が警備員に絡まれているのを目にした。

「今出て行くんはひっじょーにヤバい…見つかったらもっとまずい…とばっちりを食う…」

美幸と郁華に見つからないように、コソコソと建物の陰に隠れ、警備員が去るのを待った。

そして警備員が立ち去ると同時に、何気ない素振りを装い、美幸と郁華に近づく。

「今の人たち、ナンパですか?」

美幸と郁華は、多聞の姿を見て、いきなりそう言われた。

「なわけないやん! アイツら小学生扱いしやがって!」

「『馬券買ったか?』って聞かれただけで、『買ってない』って言ったらどっか行ったよ」

怒ってる郁華と冷静な美幸。

「それで済んだらいい方ですよ。ひどい時は外に放(ほぉ)り出されますよ」

多聞が説明する。

「で、今の人たちは、何?」

美幸が聞く。

「警備員ですよ。未成年で馬券買ってる悪い子はいねぇがぁー、って探し回ってるんです」

「多聞君悪い子やん」

まだ怒ってる郁華。

「馬券買ってませんよ。馬が好きで見てるだけですやん」

言い訳にしか聞こえない多聞の答え。

「まぁまぁ、とりあえず戻ろうよ」

美幸が2人を促す。

3人は元々いた場所に戻る。

そして3人が川北のいる場所に戻ると同時に、ファンファーレが鳴った。

「勝負師の言いつけ通りに買うたよ。1万ずつやから入りゃ20万になるやろ」

川北は3人が戻ってくるなり、多聞に言う。

2分後には、1人の福沢諭吉が20人に増殖するらしい。



……

………

「勝負師の言う通りやったなぁ。最後はちょっとヒヤヒヤもんやったけど」

1着6番、2着5番で何とか的中したが、2着と3着との差が僅差で、最後はみんなで「そのままっ! そのままっ!」の大合唱だった。

「これで何ぼになったん?」

唐突に美幸が聞く。

余ったお金でおいしいものを、と考えているのだろう。

「22倍なんで22万円です」

「目標までもう少し。頑張ってよ! 三宮で高級すし食べ放題まで稼いでよ!」

「違うって。芦屋で高級ケーキ食べ放題やって!」

すし派の郁華とケーキ派の美幸が揉めている。

『お金が余ってから考えろよ…』

郁華の一言に、心の中で突っ込む多聞だった。

「勝負師どうする? 次のレースは?」

川北の一言で多聞が我に帰る。

「目標金額まであと8万円なんで、堅いレースを確実に取りたいんで…」

次のレースは、新聞の予想がバラバラ、何が勝ってもおかしくない。

当たれば大きな配当が得られるが、その分予想も難しい。

それを考えて多聞は、次のレースは買わずに見送りたいと言った。

「まぁ、普通に考えればそうなるわな。ほな、他所買うか?」

川北から他所の競馬場のレースを勧められ、慌てて新聞をめくる多聞。

「函館の9レースなら3連複でいけそうです」

「どれどれ…ほーほー、これは堅そうやな。3連複やったら堅(かと)ぉても10倍あるし。ええんちゃう?」

多聞の提案に川北も頷く。

「んじゃ、このレース取ってさっさと帰りましょうか?」

多聞は美幸と郁華に呼びかけたが、返事がない。

横を見ると二人は、いつの間にか肩寄せ合って寝ていた。

「ま、寝といてくれた方が静かでええしな」

多聞はボソッと呟き、新聞に目を凝らす。

「2番4番軸で6と7に1万ずつ流す。どやろ?」

「僕もそう思います」

川北と多聞で意見が一致し、川北はマークカードに線を入れ、建物の中へ買いに行った。

多聞は寝ている美幸と郁華を見ると、眠気を感じた。

「う〜〜〜〜〜っ」

眠気覚ましに腕を挙げて伸びをすると、ターフビジョンで函館9レースの払戻金が出た。

『3連複 2-4-7 1220円』

「おーっ! 当たった! これで目標達成や!」

多聞が声をあげたため寝ていた美幸と郁華が起きてしまった。

「どーしたん? 大きな声出して」

先に美幸が多聞に声をかけた。

「目標金額到達です! んで2万円ほど余りました!」

「でかした! 褒めてつかわすぞ!」

二人の会話に郁華が割り込む。

「あんたいつの人?」

たまらず美幸が突っ込む。

あとは川北が、お金を持って帰ってくるのを待つだけである。

いつまでも競馬場で長居していると、また警備員にナンパされるかもしれない。

そこへ川北が戻ってきた。

当たったのに何故かしょんぼりしている。

「店長、どうしたんですか? 当たったんでしょ?」

様子がおかしい川北を見て郁華が尋ねる。

「さっきのレース…買えんかった…『時間締め切り』で窓口のオバハンに突っ返された…」

「え〜?!」

3人異口同音。

「園田やったら並んでる限り買えるんやけど…ここは冷たい…時間が来たら問答無用や…」

哀愁漂う川北の語り口。

「仕方ないっすよ。次のレースをさっくり取りましょう!」

多聞が励ます。

「そうですよ。すしのために頑張りましょう!」

「ケーキも」

食べ物の事しか頭にない郁華と美幸。

「今からパドックで馬見てきます」

多聞は一人新聞を片手に、パドックへ歩いていった。

「俺も見に行く」

川北も動く。

美幸も郁華も後ろをついていく。

保護者つきなら、警備員に咎められる事もない。

パドックに向かって歩いていると、急に周りがどよめきだした。

川北が気になって振り向くと、ターフビジョンに映し出された払戻金が見えた。

「東京で100万馬券がでたな」

ぼそり。

「いくら買うと100万になるんですか?」

何もわからない郁華が尋ねる。

「100円。100円が100万円になる」

川北が事も無げに言う。

「店長店長! それくらい高額の馬券を取ってくださいよ! 今すぐ!」

郁華が哀願する。

「簡単に取れたら今頃三宮か芦屋ですよ。できないからここにいるんですよ。ふぅ」

多聞が溜息をつきながら答える。

「次のレースで勝ちそうなお馬さんを探すんやね」

美幸が馬を見ながら言う。

新聞と馬を交互に眺めて、多聞は結論を出す。

「5番8番一点! オッズは…10倍。これで決まりです!」

「勝負師のいう事を信じて、それにするわ。このレースはよぉわからん」

多聞の提案に川北はあっさり頷き、マークカードに線を入れる。

「ついて来(き)。もう離れたらあかんで。ヤツら(警備員)は男連れでもナンパするからな」

川北の言葉に3人は川北の後ろを、金魚のフンのようについて行く。

今回は時間までに間に合った。

ただ窓口かかなり混んでいて、少しヒヤヒヤしたようだが。

4人は外に出てレースが始まるのを待つ。

ファンファーレが鳴る。

ゲートに馬が誘導され、全馬揃ったところでスタート。

8つの瞳が5番と8番の馬を追いかける。

川北「エエ感じや! そのままやで!」

多聞「いいとこおる! こっから伸びれよ!」

美幸「頑張って〜! 私にア@リと高@とツ@ガリのケーキ食べさせて〜!」

郁華「負けたらあかんでー! すしも食べ…」

ぴろぴろぴ〜♪

突然郁華の携帯が鳴った(こんな音じゃないんですが着信音っぽい感じで)。

「ちっ、今からが面白いとこなのに…もしもし…ハイッ!」

突然郁華の口調が変わる。

「えっとぉ、私とバイト先の店長と美幸と多聞君です。えっ? ホンマですか?」

何だか目上の人と話してるっぽい。

「ハイ、ハイ、もうちょっとです。あっ、ちょっと待ってください」

郁華は電話を手で覆って、多聞に向かって喋りだす。

「さっきのレース、当たった?」

「え? あ、ハイ、当たりました。8番5番の馬連が3倍、馬単が12倍で、3万が15万になりました」

突然の郁華の問いに、多聞は何とか答える。

「もしもしっ! たった今目標金額達成しました! ハイッ! ハイッ! わかりました。伝えておきます!」

電話を切った郁華は、多聞に向かって一言。

「今から門出て駐輪場に行って。ある『お方』が待ってるから」

「あるお方?」

「迷わず行けよ、行けば分かるさ! いーちぃ! にぃー! さぁーん! だぁー!!」

郁華が多聞の背中を押す。

「えーと…お金は…?」

「店長が換金したら私が預かっとくから。絶対ごまかしたりしないから」

「失敬するつもりやったんかい!」

『この人は信用でけん』と改めて郁華を見直す多聞であった。

「多聞一等兵、健闘を祈る」

右手を額に当て敬礼する美幸。

どうやら「あるお方」が、誰なのかを知ってるようだ。

「何か嫌な予感がするなぁ…」

そう言いながらも仮にも先輩なので、言いつけを無視するわけにはいかない。

「それじゃ、行ってきます。川北さん、今日はありがとうございました」

頭を下げる多聞。

「お、よくわからんけど、気ぃつけてな」

気さくに返事を返す川北。

多聞は一人門を出て、駐輪場に向かって歩いていった。

多聞の姿が見えなくなるやいなや郁華は、川北に尋ねる。

「店長! 今日稼いだお金はいくらですか?」

「34やな。30いるって言ってたからー、それ差し引いたら4万か」

「んじゃ、その余った4万ですし食べにいきましょうよ!」

「それだけあればケーキもいけるよねー♪」

郁華と美幸の「すしとケーキを食わせろ」口撃が始まった。

「ちょっと待って。4万のうち1万は、俺への謝礼として頂戴しておく。俺がいなきゃ馬券買えんかったし」

換金して34人の諭吉から一人を、川北が懐へ拉致する。

「まだ3万あれば十分ですからいいですよ。それと最初言ってた30万円下さい」

郁華は『ピンハネしやがって』と心の中で悪態をつきつつ、平静に言う。

「ほい、30万。んじゃ、すしとケーキが食べられる三宮でええやろ」

「異議なしです」

郁華と美幸は異口同音。

「ほな、行こか」

川北は郁華と美幸を促して競馬場を後にした。



郁華と美幸がすしだケーキだと言い合ってる間、多聞は駐輪場で思いがけない人と会った。

「多聞君。やっほっ!」

「え? 何でおるんですか?」

「何とか間に合(お)うてよかったわ。『これ』の後ろに乗ってや」

「『これ』…ですか。『あるお方』というのは…」

「そ、何を隠そう私の事。『これ』のシェイクダウンで軽く走るから付き合うてや」

「あるお方」が指差したのは、見るからに大型なバイクのリヤシートである。

多聞はとてつもなく嫌な予感がした。

「僕、電車で帰りますから遠慮しときます」

「遠慮せんでええがな。こっから多聞君ちまで30分で送ったげるから。ほれ、これ被りぃ」

と、ヘルメットが渡される。

ちなみに競馬場から多聞邸まで、電車でも軽く1時間以上はかかる。

「いやいや、そこまでして頂かなくても。先輩もお忙しいのに悪いですよ」

「構へんよ。君が私の事を褒めてくれたさかい、そのお礼にねぇ」

口では笑っているが、目は全くと言っていいほど笑っていない。

褒める?? …あ! あの事か!

『あんだけ大見得切っといて、自分らは参加せんのか…ふぅ…』

ぼそりと呟いたこの一言だろう。

心当たりはこれしかない。

『あのアマぁ(神仙寺郁華の事)、しょうもない事チクりやがって』

多聞は心の中で悪態をつくも、時既に遅し。

「あるお方」とは朝霧舞子。

彼女は18歳、大型二輪の免許を持っている(もちろん学校には内緒)。

「それじゃお付き合いしますよ。とことんついていきますよ」

多聞は腹を括る。

「男は度胸! やで。ほな後ろ乗りぃ。しっかり捕まっときや」

『アンタも度胸、やで』とシートに座った多聞は、心の中で突っ込む。

と、バイクが突然動き出し、多聞は振り落とされそうになったので、とっさに何かを掴んだ。

「むにゅっ」

柔らかく暖かい感触が手のひらから伝わる。

「どこ触っとんねんボケぇ! あとで折檻するから覚えとけよ!」

翌日多聞の顔は、おたふく風邪のように頬が腫れていたという…(合掌)

☆あとがき☆

競馬編、ネタらしいネタがないので、競馬場に行ってみたのですが…

京都の淀、愛知の中京、兵庫の仁川、姫路。

取材そっちのけで、自分が楽しんでました(JRAに預けまくりでしたが)。アカンやん。

取材でこの話に役立った事は、あんまりないです。意味ないやん。

話の中で牛丼屋が出ますが、吉野家の事です。

競馬場内の吉野家は牛丼しか置いてません(豚丼とか朝定食等はない)。

しかも大盛りの弁当のみで650円(だったっけ? だったと思う)。

ケーキ屋さんはアンリ・シャルパンティエ、高杉、ツマガリの事です。

どの店も神戸から西宮にかけて有名です(アンリは関東にもありますね)。

アンリはホンマ美味いんですが、私の舌には『ママの選んだ元町ケーキ』が合うようです。

閑話休題。

そんなこんなでお金を工面して、ようやく銃を手にする(まだしてないけど)わけです。

長かったですね。ここまで引っ張ってすみません。

「むにゅっ」を変換したら「無乳っ」とでたIME2000。さすがだ(爆)。

掴めるぐらいなので洗濯板、ではないです、多分。

サイズは…本人に聞かないとわかりません(爆)。

最後にHPこさえました。

http://www17.ocn.ne.jp/~orx-013/index11.htm

たまにしか更新しないんで日記メインで…

次回予告

「やっとの事で資金を手にし、それを元に装備を揃える5人(朝霧舞子は既に揃って る)。
やっとの事でサバゲーを始める5人(朝霧舞子は既に経験者)。
やっとの事で予選に参加するNuova Legenda(朝霧舞子も初参加)。
初めて尽くしの大会で、実力を発揮できるのか?
次回Nuova Legenda〜新しい伝説〜第4話「県大会にて(その1)の巻」

私達の前に道はない、私達の後に道はできる」


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