陰陽五行戦記おまけ劇場第三弾

SSSSS(スペシャルサイドストーリーショートショート)

★『輪と綾瀬の愛の日々』その3★


今日は休日。輪と綾瀬は函館の西部地区を仲良く散策中。

観光名所でもあるこの一帯は、幕末からの港町である函館ならではの、異国情緒漂うエキゾチックな街並みが売りである。

これまでにも数々の映画の撮影があったり、函館を紹介するポスターや写真なんかで、全国的にもかなり有名なスポットである。

で、綾瀬はといえば、そんな歴史的建造物には目もくれず、街角のクレープ屋さんに目を留めた。

花より団子、文化遺産よりクレープである。

「輪くん、わたしクレープ食べたいな」

「クレープ?」

綾瀬が指差す方向には、非常に可愛らしいピンクの外装のお店が…。

そこからは、明らかに年頃の男の子たちには近寄りがたいオーラが出ていたりする。

クレープなんてのは、婦女子の食べ物。

硬派な軍師キャラ(?)には明らかにミスマッチだろう。

輪の中でそんな判断がなされ、結局綾瀬にはこう言った。

「わかった。そこで待ってるから、買ってきていいぞ。…俺の分はいらないから」

「えっ? 輪くん食べないの?」

意外そうな綾瀬だったが、輪は照れ隠しか、ぶっきらぼうに答えた。

「ああ、いらない。俺が食べても似合わないだろう」

「そんなの気にしなくていいのに…。じゃあ、わたしの一口あげるね」

「そうか…」

結局、綾瀬はひとりで買いに行き、生クリームとチョコレートソースがたっぷりかかったやつを持って帰ってきた。

そして、この上なくハッピーな笑顔で、輪に見せ付けるように食べてみせる。

「おいし〜〜〜☆」

んん〜っ、と目をつぶり、全身で嬉しさを表現。

女の子にクレープ。幸せそのものの取り合わせである。

「そうか、そんなにうまいのか」

なんとなーく、物欲しそうな輪君である。

「すご〜い、これおいし〜〜☆」

ぱくぱく、はむはむ。

いい感じで消費され、小さくなっていくクレープ。

「………むぅ」

いつになったら一口くれるのだろう。

完全に犬と化した輪は、ご主人様が餌をくれるのをパタパタと尻尾を振りつつ、お座りして待っている状態。

そして、クレープも残り三分の一程度の大きさになったところで、綾瀬はようやく輪に差し出した。

「はい、輪くん。一口食べていいよ」

「ああ」

待ってましたとばかり、輪はクレープにかじりついた。

口いっぱいに広がる甘い味。

(うまいじゃないか)

綾瀬が喜ぶ理由がよく分かった。

そして“一口”の約束どおりクレープを噛み切ろうとしたとき、輪の口が異変を察知した。

そう、噛み切ろうとしたところで、端のほうから生クリームが零れ落ちそうになってしまったのである。

(いかん)

慌てて輪は更に口を大きく開けると、端の方を含むようにクレープをかじりなおした。

そして、また噛み切ろうとしたところ、今度はクレープの底のほう、またもや生クリームが零れ落ちそうである。

明らかに内蔵された生クリームの量が過剰なのである。

(まずい)

更に狼狽した輪は、思い切って根本的な治療法を試みた。

そう、クレープをすべて口の中に放り込んでしまうことで、生クリームが零れ落ちるのを防ごうという作戦である。

もごっ。

全部入った。作戦成功。

「ああーっ!」

悲鳴じみた綾瀬の声に、輪は我に返った。

(しまった!)

“一口”の約束が、よりによって…。

「輪くんひどーい、全部食べたぁ〜」

非難轟々。綾瀬は頬を膨らませ、すっかりご立腹である。

「最後のとこ、一番おいしいのに〜」

輪は言い訳をしようにも、口の中一杯のクレープである。

もごもごもご。

(うまい)

味わっている場合じゃないって。

女の子の場合、甘いものの恨みは恐ろしいのである。

輪が食べ終わると、綾瀬がきりっと輪を睨み、ぐっさりと一言。

「輪くんのうそつきー」

「す、すまん。これはだな…」

必死に言い訳を試みようとする輪だが、綾瀬はぷいっと横を向くとこちらに背を向けて、すたすたと歩きだそうという格好。

完全に機嫌を損ねてしまった。

(これはやばい)

失地回復の機会を逃すと、大変なことになってしまう。

危機感が、輪を突き動かした。

「綾瀬!」

輪は後ろから綾瀬の手をつかむと、そのまま強引に綾瀬を引っ張ってクレープ屋に向かう。

「えっ? なに? 輪くん?」

狼狽する綾瀬。

そして輪と手を繋いでいる自分に気づいて、ちょっと頬を染めていたり。

(輪くん、ひょっとして…)

なんとなく、輪のすることが分かった綾瀬は、事態の推移を見守る。

(クレープを買うぐらい、あの技を使うときに比べれば、大して恥ずかしいことはないっ!)

輪君、気合十分。

「いらっしゃいませ」

声をかけてきた店員さんを気迫のこもった目で睨みつけると、輪は勇気を振り絞って注文した。

「チョコクレープ2つ!


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