陰陽五行戦記おまけ劇場

五行戦隊センゴクマン!

第二十九話

「センゴクマン雌伏」


「敵軍が退却すればそれは我々の作戦の失敗だ。敵を捕捉して撃破してこそ勝利といえる」
スヴォロフ(ロシア元帥)


◇イゼル橋回廊。美亜子&瑠華◇


第一試合途中経過その3

戦場を吹く風に、もしも色が付いていたとしたら。

それはきっとここで静寂の青から、激動の赤へと変貌しただろう。

戦いの行方を見守るギャラリーの視線は一人の少女へと注がれている。

まだ、動いてはいない。

しかし、何かが起こるのだと言うことは、誰にでもわかった。

中天を過ぎた太陽の光を受けて、思いっきり濃く入れた紅茶色に輝く美亜子の髪が風に揺れた。

それは獲物を狩るライオンの鬣のようだった。

フェ山回廊での淳二の奇襲により、現在の戦況は『FANG GUNNERS』有利。

輪提督の指示により膠着状態を打破すべく、イゼル橋回廊に瑠華の戦力が差し向けられたところである。

回廊の向こうを窺う美亜子の元に瑠華が到着してまもなく。

「瑠華、敵が引いていくわ」

常人なら何も分からないだろうが、視線の先で起こった戦況の変化を美亜子が伝える。

「うむ」

短く応じる瑠華。無論彼女もまた敵の動きに気づいていた。

瑠華はオーラの動きを見て、そして美亜子は研ぎ澄まされた戦士としての第六感によって。

イゼル橋回廊にて美亜子を足止めしていたのは『新領土総督府』の影のエースである堀君。

極度のナース好き。そして興奮すると目が血走るために、サバゲーをするのにサングラスが必要な男、と揶揄されているちょっとだけ変わったヒト。

その彼が、じりじりと後退していく。

戦場左手側のフェ山回廊では『新領土総督府』主力部隊が敵である『FANG GUNNERS』からの猛攻を受けていた。

自陣は3人、敵は4人。少数で防戦している味方の状況を見て、堀君は自発的にそちらに援護に向かおうとしたのである。

と同時に、当然追撃してくるであろう美亜子に対しての逆撃の体勢も忘れていない。

下手に橋を渡ろうものなら、遠距離からでも堀君はそれを仕留めるつもりで、銃を構えていたのだから!


さて、回廊の向こう側、実はコンビで戦うのは初となる瑠華と美亜子はこの状況にどう応じるか。

「…どうする?」

とりあえず、美亜子の方針を聞いた瑠華。

瑠華としては、より実戦派の美亜子の指針に従うつもりだった。

その超実戦派の美亜子は力いっぱい返答した。

「とーぜん、追いかけて倒す!」

なるほど、それが本多美亜子だ。

元々美亜子の性格はセンゴクマンのお目付け役として瑠華もまたよく知るところである。

その猪突癖にはピンチに陥ることもあったが、それを上回る戦果をあげてきたこともまた事実。

「……そうか」

瑠華は頷いた。

これが輪だったら、リスクを考えて止めにかかるところだろうが、瑠華は相手の自主性を重んじるタイプ。

時間にして数秒の短いやり取りだったが、さしあたってはそれだけで十分だった。


「これ貸す。援護よろしく!」

姿は見えないものの相変わらずこちらに殺気を放ちつつ離れていく堀君の姿を視覚以外の超感覚で捉えつつ、美亜子はとっさに策を練った。

愛用のコルトCAR-15をぽいっ、と瑠華に渡すと、片手にサイドアームの『サムライエッジ“悟郎カスタム”』を持って軽やかに身を翻した。

決断したら即行動。

かつて真理姐さんが身をもって示した策を、今度は美亜子が再現する。

そして美亜子の指示を受けた瑠華も、すかさずCAR-15とウージーサブマシンガンの二挺で援護射撃を行う。

初めてのコンビプレイだが、不思議と息のあった二人である。

草むらの向こうの敵もオーラ視で確認できる瑠華の援護射撃は的確に堀君を襲い、見えない敵からの思いがけないほど正確な射撃に、さすがの堀君も舌打ちするしかない。

「やるな」

橋への逆撃よりも身を隠すことを優先するしかなかった。

銃声は二種類。したがって、姿の見えない堀君に二人が依然としてそこにいると錯覚させることができる。

堀君は構えた銃を一旦降ろし、さらに身を低くしてBB弾をかわすと近くの木の陰に移動した。

時間にして数秒。だが、その隙に!

100mを12秒台で走る美亜子の俊足がイゼル橋回廊を一気に駆け抜ける。

まさしく獲物に飛びかかる獅子の躍動美。

「なっ!?」

堀君が気付いたときにはもう美亜子はイゼル橋を走り抜けていた。

反射的に、狙いもつけずにフルオートで撃つが、猛スピードで駆ける美亜子には当たらない。

回廊を抜けた先に、身を隠せるだけの木の陰を見つけると、美亜子はそこに飛び込んだ。

0.5秒遅れで、美亜子が隠れた木の幹に堀君の射撃が殺到する。

「…くそっ」

まさか、強行突破されるなんて想定外だ。

自分が担当している戦場で、これ以上は好き勝手をさせてなるものか。

堀君は無意識に舌打ち。そしてその目は興奮のせいだろう、すっかり血走っていた。




◇観戦の武田広奈◇


「なるほど、美亜子さんらしい作戦ですわね」

優勝候補ナンバー1の『チーム風林火山』を率いる武田広奈様は、美亜子の猪突を見て、むしろ納得の笑み。

「特に輪さんの制御を受けないとき、美亜子さんはこちらの想定を裏切るほどの動きを見せることがある…」

広奈様は右手を口元に寄せ考え事のポーズをとる。

何度か小さく頷いているが、考えをまとめたのだろう。

「猛禽には、やはり籠が必要ですわね」

“敵将”に対する、それは広奈様の最大限の賛辞の裏返しでもある。




◇マカナ&ピィちゃん@木の上から観戦中◇


「ふにゅ〜〜♪ すごいですぅ、美亜子さん速いですぅ」

マカナは初めて生で見るサバゲーの迫力と『FANG GUNNERS』のメンバーの活躍っぷりにもう夢中。

淳二の奇襲や輪君の的確な指示を一番の特等席から歓声を上げながら見守っている。

「さすが晴明様が見込んだみなさんですぅ」

「ピィピィ♪」

「そうですよねぇ〜」

マカナと鳶の間で会話が成立していた。


◇イゼル橋回廊出口。美亜子VS堀◇


「ふぅ…、間一髪」

木の幹に背中を預け美亜子は会心の笑み。

そう、挑戦無くして成長無し、リスク無くして勝利無しだ。


結局この美亜子の突出により、堀君は主力との合流を諦めるしかなかった。

もう背を見せようものなら一気にフラッグまで走られかねない。

先ほど見せ付けられた美亜子の俊足は、それほどの驚異と映ったのだ。

堀君は後退から一転して今度は美亜子狙いに作戦を切り替える。

愛用のヘッケラー&コック G3 A3 カスタム“スキールニル”を構えなおし、間断なく牽制の射撃を加えつつ距離を詰めていく。

先ほどの疾走で美亜子の手にCAR-15がなかったことを堀君はしっかりと確認していた。

つまり、火力はこちらが上!

そして回廊の向こう側に瑠華がいる状況。援軍は遠い。

「突出したはいいが、孤軍となったな」

むしろこちらが作戦勝ちの局面だ。

『FANG GUNNERS』のエースアタッカーを倒してしまえば、押され気味の戦況も覆るだろう。

災い転じて福となす。後退と見せかけて逆撃。攻守自在。

あるいはこの戦場全体においても、堀君ほど沈着に戦いを進めていた男はいなかったかもしれない。

実のところ、『新領土総督府』において、リーダーの若本君が最も信頼するメンバーは堀君その人である。

北海道の片田舎に、これほどの力量を持つ男がいたとは。

全国大会優勝経験を持つ若本君をしてうならせた、その沈着冷静な名射手。

その彼が、今まさに、本領を発揮しようとしていた。


危うし美亜子!



◇イゼル橋回廊。瑠華◇


さて、当然ながら瑠華もその状況を黙って見ているだけではなかった。

「援護する」

誰に言うともなしに呟くと、決意を新たにウージーとCAR-15を構えなおす…、のではなく、あえてそれを地面に置いた。

そしてホルスターからこれまで一度も使ったことのないサイドアームのグロック26を取り出し、右手に握り締めた。

とにかく、あの美亜子のことだから敵に一瞬でも隙ができれば、それに乗じる事ができるはず…。

そう、だから自分は何らかの意表をつけばいい。


恐れてはいけない。


実戦経験豊富なセンゴクマンの面々やサバゲーのスペシャリストの真理と比べ、どうしても瑠華は戦力として見劣りしてしまう。

実際この北海道大会ではいまだ撃墜数は0のまま。

その瑠華が。

「そういつも、いつまでも、おとなしく隠れていると思ったら、大間違いだ…」

未知の戦力だった瑠華が。

軽やかに黒髪をなびかせて一直線にイゼル橋回廊を駆け抜けた。

先ほどの美亜子のように。


「素人が、猪突しか知らんのか?」


そして堀君は、憎たらしいほどの沈着さで、瑠華を無視した。

正確にはすぐに動揺して瑠華を狙うような、美亜子に隙を見せるようなへまをせず、まずは美亜子に向けてフルオートで牽制の射撃をしつつ、かつ、美亜子からの攻撃を受けない位置に移動した。

それから瑠華に対してゆっくりと銃口を向けた。

セミオートで一発。それで十分だった。


が、


ずるべちっ。


「なにっ!?」


堀君、絶句。


瑠華は、転んだ。

しかも結構派手に。

残像のように瑠華の長い黒髪が空中に広がり、そして地面を覆う。

堀君の放ったBB弾は虚しく瑠華がさっきまでいた空間を通過した。


そう、正確に言えば、堀君の銃口が自分を向いた瞬間、瑠華は思い切ってヘッドスライディングの要領で身を伏せたのだ。

そしてその勢いのまま地面をごろごろ転がる。

しかし、あれは、たぶん結構痛かったはず。


無口、無表情、そして超絶美人の瑠華が見せた、そのキャラクターにはありえない動き。

なるほどあの冷静沈着な堀君も、さすがにちょっと動揺した。

「おいおい…」

動揺ついでに思わず口から漏れるツッコミ。


ガシュン、ガシュン。

瑠華のサイドアームであるグロッグ26が初めて活躍した。

手の中にすっぽり納まるほどのコンパクトなハンドガンは、その大きさゆえにあれだけ派手に転んでもしっかりと瑠華の右手にあった。

そして完全に伏せた状態から、正確な弾道で堀君めがけBB弾を2発発射した。

もちろん、堀君は超一級の名将ゆえ、それにむざむざ当たるような事はない。

素早く身を伏せて、瑠華から見た自分の表面積を小さくすることを忘れない。

そしてこれまた超一級の反応で、スキールニルの銃口を瑠華に向け、わずか0.8秒で狙いを定めて発砲。

完全に伏せた状態の瑠華であったが、しかしそのフルフェイスゴーグルに堀君のBB弾は正確に着弾した。

「くっ、ヒットだ」

驚くべき射撃の腕。

だが、次の瞬間。


堀君の右側頭部、これもフルフェイスゴーグルに美亜子のサムライエッジからの正確な射撃が命中していた。

「…すごい、これ当たる」

悟郎さんのカスタムの凄さを実戦で目の当たりにした美亜子はその精度の向上っぷりにびっくり。

およそ20mの距離でも10センチ四方の的なら平気で狙えそうだ。

なんにせよ、

「ナイスな陽動だったわ」


瑠華の派手な立ち回りは、正しく報われた。


「ヒット!!」

フェ山廻廊で戦う友軍に届くよう、腹の底からの大声で堀君のヒットコールが響く。

明智瑠華、堀練康、戦線離脱。

これで残存兵力は5対3。

しかし、イゼル橋回廊は完全に『FANG GUNNERS』の手に落ちた。

戦局が大きく動く。


第一試合途中経過その4

「運動している部隊のエネルギーは{質量×速度の二乗×戦闘効率値}になるから、スピードが決定的な意味を持つ」
ダグラス・マッカーサー(米元帥)


◇フェ山回廊。若本君◇


戦場に響いた二つのヒットのコール。

特に堀君の声で発せられたそれは、とてつもない凶報となって若本君の耳に届いた。


「堀が、死んだ?」


思わず、呆然と口をついたその言葉。自分自身が発したその一言に、若本君は勝利が遠のいたことを自覚せざるを得なかった。

戦局はまず互角だった。

4対3の劣勢ながら、ほぼ若本君一人で二人分の活躍。

フェ山回廊では輪と淳二相手に田中君が、中央では真理&春樹の元祖『FANG GUNNERS』コンビを渡部君が支え、若本君はその二つの戦場双方に気を配りつつ、的確な援護を繰り返して付け入る隙を与えていなかったのである。

まさに全国大会優勝メンバーの勇名に相応しい大車輪の活躍だった。

が、


「よし、美亜子、フラッグまで走れ!! 全速力だ!!」

大音声で、輪が叫んだ。

そう、イゼル橋回廊を抜けると本陣まで無人の空間が広がっているのみ。

『FANG GUNNERS』にとっては早々に決着をつける大チャンスなのだ。


「そ、総督閣下、いかがなさいますか?」


田中君からの声は血の気が引いていた。彼とて若本君が最も時間をかけて育てた副官なのだ。

その彼をしてもこの状況はあまりに…。

「引くしかあるまい」

若本君はそう吐き捨てた。

本陣を落とされてはすべて終わりだ。

だが、この撤退戦は地獄の様相を呈するだろう。

そして、それもスピード勝負。

「田中、渡部、本陣まで引けっ! ここはおれが支える!」


「閣下…、初めて、私を名前で…」

なぜか感激の面持ちで、それでも的確に輪と淳二に牽制の射撃をお見舞いしつつ、田中君は素早く転進した。

位置的な関係上、田中君が全速力で本陣を目指せばフラッグを取りにくる美亜子に対する牽制の射撃が間に合うだろう。

「閣下、小官が本陣を守ってみせます!」


そして渡部君も真理姐さんと春樹相手に獅子奮迅の撤退戦を演じていた。

タイミングよく若本君の援護射撃も入るので、真理姐さんもなかなか距離を詰められない。

なるほど、よく指揮命令系統が行き届いており、指揮官の意図をきっちり酌んできびきび動く。

強いチームだ。

輪は敵ながらその動きの見事さに感嘆を隠せない。

「見たか淳二。あれが名将の戦いぶりというものだ」

ついつい役名でなく本名で呼んでしまったのは輪も同じ。

「はい、提督。でも早く追撃しないと」

まだキャラクターになりきっている分、淳二のほうが余裕があるようだ。

「ああ、そうだな」

再び不敗の名将の顔になった輪。

仕留めにかかる。


一方の真理と春樹。

「やるなぁ…。どうだダッテンボロー提督。付け入る隙はあったかい?」

「いえ…。これが全国レベルなんですね」

「そうだな。だが、こうじゃなくては面白くない! お前は敵の指揮官を狙え」

「はいっ」

そして真理姐さんもまた勢いよく追撃体勢に入った。

「行くぞっ! 死ぬのが怖くて、生きてられるか!」




◇イゼル橋回廊。瑠華&堀君◇


さて一方そのころ。

すでにヒットコールにより、フィールドからは退場扱いとなった瑠華である。

とはいえ、セーフティゾーンに向かおうにも、激しい転倒を演じた瑠華はしばらく起き上がることができないでいた。

あのときは、痛みを感じるよりもとにかく堀君への牽制が第一だったのだが、役割を終えた今、さすがに瑠華も体中を襲う鈍痛に顔をしかめるしかない。

『打撲治癒・急急如律令』

こっそりと治癒の方術を唱え傷を癒しておく。

とりあえず、起き上がれるくらいには痛みが引いたところで、瑠華に駆け寄る足音。

「…ん?」

首だけ動かして見上げると。

「大丈夫か? かなり激しく転んだようだが、怪我は?」

落ち着いた渋い声だった。

さっきまでは激戦を繰り広げた敵将、堀君だった。

おたがいヒットした状態では敵も味方もない。

スポーツマンシップにのっとった堀君の気遣いだった。

「あ、いや…、大丈夫だ」

ゆっくりと瑠華が身を起こす。

せっかく淳二が準備した同盟軍の軍服も、土とほこりにまみれてだいぶ汚れてしまっていた。

(あとで真田に詫びなくてはな…)

瑠華が内心でそんなことを思っていると、堀君が手を差し伸べた。

「さぁ、立ち上がれるか?」


「………………?」

無表情のまま固まる瑠華。

差し伸べられた手の意味が良くわかっていないらしい。


しかし、反応の薄い瑠華の様子に堀君はまた別の解釈をしたらしい。

「脳震盪を起こしていないだろうな。意識ははっきりしているか?」


「……??」

瑠華は瑠華で、やっぱりきょとんとしたままである。


「失礼」

と、一応断ってから堀君は瑠華の傍らにしゃがみこむと、そのまま瑠華の手をとって自分の肩に回した。

そして瑠華の体を支えて、一緒に立ち上がる。

「む…?」

何がなにやらという感じで、引っ張られるままに立ち上がった瑠華である。

傍から見れば、怪我をした瑠華に堀君が肩を貸してあげている状態だ。

「ともかく、セーフティーゾーンまで行くぞ、歩けるか?」

ことここに至ってようやく瑠華も堀君が何をしようとしたのか理解したらしい。

「大丈夫だ、一人で歩ける」

そう言って堀君から離れようとする。

堀君も、そこは紳士的に瑠華の手を離し、改めて瑠華と向き合った。

「とりあえず、大きな怪我はないか、よかった」

心底ほっとした様子である。

どうやらあの大立ち回りを間近で見たものとして、非常に心配に思っていたらしい。

「ああ…」

瑠華としても、さっきまで死闘を演じていた敵将の思いがけない気遣いに多少面食らった様子。

しかし、戦いを終えた堀君は饒舌だった。

「それにしても、さきほどの二人のコンビネーションは敵ながら実に見事だった。勝ち負けは別にしても、おれも久々に感心したスーパープレイだな」

そう褒めちぎる。

「…そうか」

手放しで賞賛されては、瑠華も悪い気はしない。

なにせ、瑠華としてもあれは一世一代、勇気を振り絞って実行した戦果なのだから。

瑠華の表情がわずかにほころんだのを見て、堀君も笑顔になる。

「『FANG GUNNERS』のことは単なる人気取り狙いのコスプレチームかと思っていたが、認識を改めた。一級の将帥がそろった良いチームだな」

「ああ」

こっくりと瑠華がうなずいた。

自分をほめられるよりも、『FANG GUNNERS』というチームを認めてもらったことが素直にうれしい。

なんだかこんなところで心が通い合った二人。

「さて、それではセーフティーゾーンに向かうとしよう。おれもヴァルハラから戦いの行方を見守りたいところだ」

そう堀君が促し、二人は仲良くフィールドの外に向かう。



さて、そんな仲睦まじい(?)瑠華と堀君の様子をうっかり目撃してしまった不幸な男が約一名。



◇伊達と不幸のハルキィ・ダッテンボロー◇


「えっ!?」

ふと、春樹の視界の左隅に飛び込んできた衝撃映像。

それは、堀君に肩を借りて、起き上がった瑠華の姿だった。

(えっ、あの明智さんがあんな誰かと密着して…、ってそうじゃなくて、もしかして怪我したのかな? 大丈夫かな?)

一瞬なにやら不穏なことを考えてしまった春樹だったが、すぐにその考えを打ち消した。

そして瑠華の怪我を心配。

というか、今は撤退中の渡部君と若本君を真理姐さんと挟撃中なのだが。

それとわかるくらい、春樹の集中力は目の前の敵よりも、瑠華のほうに…。

(なんだろ、なんか明智さんと敵の人、楽しそうに話をしてる…?)

無口、無表情、無感動のあの明智瑠華が、なぜに?

人見知りが相当激しいはずの瑠華であるが、妙に堀君と打ち解けた空気感を醸しているではないか。

(なっ、なんで!?)

このときの春樹の心境は非常にわかりやすいものだった。

そう、嫉妬の炎が一瞬で燃え上がる。

そしてそんな醜い自分の心を春樹はすぐに打ち消しにかかる。

(いけない、僕は何を考えているんだろ。そうだよ、いまは戦いの最中なんだ。僕は僕に課せられた役目があるんだ)

そのとおり、春樹はスナイパー。

スナイパーに心はいらぬ。

ただ、石のように動かぬ心で、敵を狙撃するのがその役目。

再び心を戦場に戻す。

と、その瞬間。


カコン。


「…えっ!?」

春樹のゴーグルに、渡部君の放ったBB弾が直撃した。



◇撤退中の渡部君◇


「なんだ、あんな隙だらけのスナイパーは? 罠なのか?」

さて、春樹が瑠華と堀君の様子を遠目に確認して動揺中のところである。

歴戦の勇士である渡部君の目にはそんな春樹が戦場で棒立ちしているのを的確に捉えていた。

しかし、自分はまさに本陣に駆け込もうとしている美亜子の足を止めなければならない。

だが、あんなに隙だらけの敵の姿を前にして、そこを攻撃しないのは武人としての矜持にかかわる。

勝ち負けもそうだが、目前の敵を仕留められるかどうかもまた、渡部君には譲れないポイント。

「ぐぬぅ」

まさしく悪の総帥っぽいうめき声とともに、渡部君は一瞬だけ春樹にヘッケラー&コック G36C カスタム“ガルガ・ファルムル”の銃口を向けた。


ずばばばばばば。


当たったかどうかは確かめなかった。

むしろ渡部君を追撃する真理姐さんの二挺のクルツでの弾幕が迫っていた。

攻撃と防御、そして渡部君はまた不幸なことに美亜子が本陣にフラッグを奪いに走った場合にも備えなければならなかった。

やるべきことと、注意を払うべき敵の数が多い。

堀を仕留めた敵は、いつ本陣に駆け込むのか?

そして渡部君の耳に届いたのは春樹のヒットコールだった。

「ヒット!」

(よし)

自らの戦果を確認しようと渡部君が一瞬だけ春樹に目をやる。


その瞬間、美亜子が意外な場所から唐突に現れた。

第一試合途中経過その5


「真横からだと!?」

驚愕の渡部君。

美亜子は渡部君の死角から飛び出し、そして渡部君の銃口が自分に向くよりも早く、

バシュン!

ほぼゼロ距離に肉薄し、無言でトリガーを引いた。

「ぐぅ…」

むしろあっさりと。

これまで春樹と真理姐さん相手に付け入る隙を与えなかった渡部君は、いとも簡単に冥界の門をくぐった。

「ヒット!!」

悪役声の重低音が戦場に響いた。

もちろん、春樹に気をとられた自分のミスもあるが…、

「…フラッグを狙わずこちらの退路で待ち伏せとは」

渡部君、完敗である。

むしろこの場合は輪の命令を完璧に無視してのけた美亜子の独断専行がうまく転んだ格好。

渡部君は土気色になった顔色のままセーフティーゾーンへと消えていった。


そして美亜子はスピードを上げて、また走った。

今度こそ、フラッグを奪いに。


◇本陣。田中君◇


「間に合ったか!?」

フェ山回廊からこちらも全速で駆け抜けて本陣近くまで戻った田中君だが、どうやらまだ自陣のフラッグに敵が取り付いていないことを確認し、少しだけ安堵のため息を漏らした。

さらに春樹のヒットコール。

「なんとかなるかな?」

ほっとしたのもつかの間。

その後すぐ渡部君のヒットコールが戦場に響いた。

田中君、それを聞いて無意識にうめく。

「あじゃぱー…」

こりゃもう負け確定じゃないか。


元々悲観的な人間に出来ている田中君ゆえ、2対4になってしまった状況を絶望的に捉えることしかできなかった。

だが、落ち込んでいる暇は全くなかった。

なぜなら美亜子が、すっかり調子に乗っている美亜子が、フラッグではなくなぜか自分めがけて全速力で駆けてきたのを目にしたからである。

「な、何じゃそりゃ〜?」


哀れ田中君、気の毒なほど動揺した。

二人の間には土嚢を積み上げてこしらえられたバリケード。

なるほど、全速力でそこに取り付く狙いか?


日ごろの訓練の賜物か、田中君は動揺しつつも一直線にこちらに向かってくる美亜子にその銃口を向けることに成功した。

何のカスタムもしていない、ドノーマルのヘッケラー&コック G3 SAS。

しかし、猪突してくる相手に命中させるのはそう難しいことでは…。

「おあ!?」

虚を突かれた田中君の奇声が戦場に響く。


美亜子は飛んだ。


美亜子は、さっきの瑠華の戦いぶりをヒントに、自分もまた直線的な攻めを目指したのである。

映画にあるようなワンシーン。 ダイビングヘッド。

その瞬間、確かに田中君から見て美亜子の表面積は限りなく小さくなり、BB弾は悲しいほど当たらなかった。

空中で、そのまま腕を伸ばして美亜子はサムライエッジのトリガーを引く。

投擲された槍のように一直線の美しい姿勢で。

悟郎さんのカスタムによって、さらに命中率が向上したサムライエッジは、この極限状態でも、美亜子に不思議な感触を残した。

すなわち、20mも離れた田中君に対し、手をそのまま伸ばしてデコピンでもするような感覚で。

(当たる!)

自分の腕の一部になったように、このサイドアームの銃口は正確にターゲットを捉えた。

無論当たらずともよかった。

美亜子はそのまま華麗に前回り受身をし、ぴったりバリケードに取り付くことに成功したのだ。

まるで猫のような身軽さ。卓越した運動神経。

田中君の位置から、もう銃撃は届かないはず。

だが、

「ヒット!!!」


予想外の大戦果。

美亜子のカミカゼアタックは大成功だった。

そんな映画のワンシーンのような美亜子のド派手なアクションに、観客席もどよめいた。




◇観戦の武田広奈◇


「さすがにこれは想定外ですわ…」

読みきれない美亜子の動きと、そのでたらめな戦果にさすがの広奈様も唖然。

「早めにスナイピングして退場願いたいものですわね」



◇本陣。本多美亜子◇


ちなみに当の本人はというと、

「は、ははははっ、当たっちゃった。あたし、すっごいかも」

ついつい笑ってしまう。

この試合、美亜子の戦果は、これで3人目だった。

そして指呼の距離にフラッグがある。

これはもう、勝ったも同然だった。

だから…、


「選べ、フラッグを奪って勝つか、このおれと戦い勝利を決めるか」

バリケードの向こうから、美亜子だけに向けた若本君の渋い声が聞こえた。

一体どんな方法を使ったのか?

輪と、淳二、それに真理の3人に囲まれたはずの若本君が、なぜか本陣近くまで戻っており、しかも美亜子にそんなメッセージを伝えてきていた。

昨年の全国大会優勝メンバーの若本君。

銃に生きてきた武人である彼は、フラッグを奪われての敗戦を良しとせず。

自ら戦って銃に斃れることを望んだ。

そう、美亜子はそれを待っていた。


最強の敵と戦ってこそ、勝利はより彩られる。


「当然! あんたと戦うに決まってるでしょう!」

声のした方向に、そう気合十分の返事をして、美亜子は勢いよくバリケードの横から飛び出した。

一瞬で敵を捕捉。

そしてサムライエッジを撃つ。

若本君もそれは同じ。

「主砲、斉射三連!」

全国大会の激戦を共に戦い抜いた、愛用のヘッケラー&コック G3 SG-1 スペシャルカスタム“トリスタン”が火を吹く。


達人同士の戦いの決着は1秒に満たないうちに訪れていた。

「ヒット!」

「ヒットだ!」

互いに、互いの弾道が避けようのない軌道であることを認識するのが早かったか。

BB弾が命中したと同時に、二人がヒットコール。


「相打ち!」

真理姐さんが思わず叫ぶ。

「ああ、だがこれで勝ちだ」

万一に備え銃を構えていた輪は、ほっとした様子で銃を降ろした。

結局若本君を仕留め切れなかった真理姐さんや、輪もまたその戦いの邪魔はしなかった。

ただその決着を見届け、そしてそのスピードに二度感嘆した。

まったくサバゲー暦一ヶ月の美亜子が全国大会優勝メンバーとこうも見ごたえのある戦いをするとは。

輪の奇策に、淳二の隠密作戦、そして調子に乗ったときの美亜子の破壊力。

このままこのチームはどこまで伸びていくのか。

「これは、全国行けるかも…」

こっそりと真理姐さんは呟き、そしてその言葉の重みを全身で受け止めていた。

ちょっとだけ、震えた。


「いやはや、うちのチームに美亜子ちゃんがいてよかったぜ」

すっかり素の状態に戻った淳二が呆れ半分、喜び半分で独り言。

「ま、でも今回はオレも活躍できたし、いいか」

実際、ここまでの一方的展開になったのも淳二の奇襲が成功したことが大きい。

「今回はアタッカーの力の差がもろに勝敗に直結したな。俺の策がどうこう以前の問題だったかもしれん」

輪君が自嘲気味に総括。


こうして試合終了のホイッスルが吹かれた。

『FANG GUNNERS』決勝リーグ第一試合、勝利!


この試合までの撃墜数。

本多美亜子:8(+4)
片倉真理:4
真田淳二:4(+2)
伊達春樹:2
直江輪:1
明智瑠華:0


◇マカナ&ピィちゃん@木の上から観戦中◇


「ふにゅ〜〜♪ やりました〜。勝ちました〜。すごいですねぇ〜これが鯖芸なんですねぇ…」

すっかり観戦モードのマカナ。特等席での観戦を堪能したようだ。

「次は広奈さんの番ですね。どんな戦いになるんでしょう〜」

楽しい時間はまだまだ続く。

しかし、マカナよ。どうやって降りるんだ?

「ピィピィ♪」

…なるほど。



◇立花なつめ◇


「瑠華があんなに頑張っているとはねぇ。あの姿を見られるなら、来た甲斐があったかな」

白衣の天使、立花なつめ女史もまた、初めて観戦するサバゲーに十分満足していた。

特に、全速力で走ったり転んだり、撃ったり撃たれたりする瑠華の姿は、普段の無表情っぷりから比べてもなるほどそのギャップは凄いものがある。

普段同居していて、瑠華の日常をよく知っているなつめだからこそ、この非日常の瑠華の戦いぶりは、

「う〜ん、これってギャップ萌え?」



◇リンスリーガールズ◇


ハラハラする局面もあったりしたが、ともかく決勝リーグでのこの一勝は大きそうだ。

3人娘はそろって満面の笑み。

「勝ったね〜」

超うれしそうな辺見悦子のロリボイス。

「勝った勝った」

鳥枝杏樹のツインテールが喜びに揺れている。

「よかった、ナオさま」

倉田里子は喜ぶ二人と手を取り一緒にはしゃぐ。

「じゃあ、ナオさまのところに行きましょ。勝利のお祝いをしに」

と、鳥枝杏樹。

「うん。もしかしたらまたなにかお願いされるかもしれないからね」

倉田里子が言ったお願い、というのはさっきの顔合わせのときの輪への黄色い声援のことである。

あれで敵チームの動揺(むしろ敵意)を誘えたのなら、自分たちも『FANG GUNNERS』の役に立てたってことで、それが3人娘にはうれしい。

そしてその3人の祝福を一手に集めている当の本人は、思いがけない大差となった勝利にいささか戸惑い気味に見えた。



◇武田広奈◇


「まぁ美亜子さんの戦果は想定外としても…」

あのギリースーツの策を『チーム風林火山』戦ではなく、ここで投入したこと。

「切り札を出すのが早すぎましたわね。わたくしにその手はもう通用しません」

そして、広奈は、彼女自身の矜持のため。再び必勝の策を練る。

彼女の次の相手は『夕張のガンマン』。

“大佐”と“名無し”。超高校級の二人のエースをどう倒すか。

試合の時間はもうすぐそこまで迫っていた。



次回予告

「決勝リーグ初戦を勝利で飾った『FANG GUNNERS』
しかし当然ながら『チーム風林火山』も黙っていない。
大会No.1スナイパーと最強のガンマンを相手に広奈様の策は!?
そして淳二が企画する次なる入場パフォーマンスとは!
次回五行戦隊センゴクマン「センゴクマン策謀」

俺たちがアイドルだ!『FANG GUNNERS』」



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