陰陽五行戦記おまけ劇場

五行戦隊センゴクマン!

第二十八話

「センゴクマン野望」


「新しいアイデアを軍隊に注入するとき、最も難しいものは、在来の考え方を追い出すことである」
リデル・ハート(英国、戦略理論家)


◇『新領土総督府』若本君&田中君。昼食風景◇


「ベルゲングリューン。その夕張メロンを1/3+1/6+1/2だけくれ」

「閣下、それは全部よこせ、というのと同じことでは?」

「卿の意見には聞くべき点がある。確かにそう言ったほうがより正確だな…」

ベルゲングリューンこと田中君は嘆息してから、昼食のデザートにと用意してきた夕張メロンを若本君に差し出した。

一応、ライバルとなる『夕張のガンマン』を食ってやるぞ、というゲン担ぎで用意したものであるが、若本君が無類のメロン好きであったため、強奪の憂き目にあったのである。

「うむ、甘くてジューシーだ。それに丸くて大きい…。おかわりだ」

と、かつて無いほどに上機嫌で若本君はメロンを平らげている。

これはチャンスかもしれない…。

田中君はかねてより疑問に思っていた質問を、若本君にぶつけてみた。

「閣下、大変申し上げにくい疑問なのですが、よろしければお答え願いませんでしょうか?」

「何だ言ってみろ。卿とおれとの仲じゃないか」

(メロンを一方的に強奪される仲ですな…)

と、一瞬だけ不満げに思った田中君だったが、そんな様子はおくびにも出さず。

「はっ、閣下が陸別に転校されたのはお父上の転勤によるものだと聞いております。一方で、閣下が『白河英雄伝説』を離れたのは、“カイザー”へ反旗を翻したためだとも」

“カイザー”の一言に、若本君の表情が一変した。

「ほぅ、つまりなにが聞きたいのだ?」

声が冷たい。

田中君は背筋が凍る思いで、それでもかねてからの疑問を何とか音声化した。

「はっ、つまり小官が愚考するに、閣下は転校が決まり、チームを離れざるを得なくなったことで『白河英雄伝説』に対し、あえて反逆者の汚名を着る決意をされたのではないか、と。閣下がかねて言われているように『反逆』したから転校したのではなく、転校が先でその後で『反逆』という形をわざと取られたのでは? そしてその理由は…」

田中君の言葉をさえぎるように、若本君が左手を上げて制止のポーズ。

「ベルゲングリューン…」

「はっ」

「おれの好きな言葉を言ってみろ」

唐突な質問だった。だが、そこに若本君の遠まわしの答えが潜んでいるのだろう。

元々彼の上官は、もったいぶった言い回しやキザっぽい表現が好きな性分だ。

田中君は少し考えて、その答えを口にした。

「涙目で女の子がオドオドしながら言う『ごめんなさい』、でありますか?」

「……そっちじゃないほうだ」

たっぷり5秒ほど静止して、若本君はクールにそう告げた。

否定しなかったところを見ると、確かにそっちも好きな言葉らしい。

「失礼しました。では、『ジークカイザー』でありますか…」

それを聞いて、ようやく若本君は得意の自嘲気味の薄笑いを閃かせ頷いた。

「カイザーは戦いを欲しておられる。昨年、あまりに若くしてカイザーは全国制覇を成し遂げてしまった。大会の後のカイザーの無気力ぶりをおれは見ていられなかった。ゆえに、おれはカイザーに弓をひいて見せたのだ。あの戦争の天才はより強大な敵をこそ欲しておられるがゆえにな…」

(それってつまり、ゆがんだ愛情ってことでは?)

田中君は心中でそう思うしかなかった。

そしてそれを言葉にした瞬間、彼の上官はものすごく図星を突かれて逆ギレしそうである。

そこで、田中君はまったく別の言葉を上官にささげた。

「そうでありますか。では、必ず北海道大会を勝ち抜かねばなりませんな。小官も微力を尽くします」

ああ、なんていい人だろう田中君。

「…ゆがんだ愛情だなぁ、とか思ってなかったか?」

(ぎく)

意外と鋭い若本君である。

「いえ、決して」

「そうか、おれは自分が何のためにサバゲーを始めたのか、長いこと分からなかった。知恵なき身の悲しさだ。だが、今にしてようやく得心がいく。おれはカイザーと戦い、それによって充足感を得るために、サバゲーをしてきたのではなかったか、と」

「閣っ…もごっ」

反論しようとして田中君は夕張メロンで咽喉をふさがれた。

無論、若本君が彼の口に無理やり押し込んだのである。

それは甘くてジューシーだった。



「目標追求において不動であることが何の成果も生まないのは、歴史が教えていることだ。計画の弾力性と同じように『目標の可動性』は、戦いの原則を貫くために必要である」
リデル・ハート(英国、戦略理論家)


◇決勝リーグ第一試合『FANG GUNNERS』VS『新領土総督府』◇


「ドラゴンゲートより『新領土総督府』の入場でっせ!」

今井さんの名調子で、ステージ上に流れた入場曲は『ワルキューレは汝の男気を愛せり』

帝国軍おなじみの曲である。

その勇壮な調べに乗って登場したのはリーダーの若本君率いる『新領土総督府』の面々である。

そろって帝国軍の軍服を身にまとい、素敵にカスタムした電動ガンを引っさげた6名の若き提督たち。

リーダー:若本君(使用銃、ヘッケラー&コック G3 SG-1 スペシャルカスタム“トリスタン”)

参謀:田中君(使用銃、ごくごくノーマルのヘッケラー&コック G3 SAS)

副将:堀君(使用銃、ヘッケラー&コック G3 A3 カスタム“スキールニル”)

副将:渡部君(使用銃、ヘッケラー&コック G36C カスタム“ガルガファルムル”)

分艦隊司令官:檜山君(使用銃、ヘッケラー&コック MP5 SD5 カスタム“ウールヴルーン”)

分艦隊司令官:咲野君(使用銃、同じくヘッケラー&コック MP5 SD5 カスタム“エイストラ”)

ってことで、田中君以外は皆一様に素敵にカスタムされたいかにも凄腕が持ってそうなエアガンを保持している。

一部エアガンマニアの観客には、特に去年の全国大会優勝時にも数々の強敵を屠ってきた“トリスタン”は垂涎の的である。

もちろんすごいのは銃だけではない。

若本君の勇名は言うまでもないが、そのほかの5名、いやこのチームのメンバー全員は、元々陸別にある“銀河の森サバゲーフィールド”で昔からサバゲーに親しんできた地元の高校生である。

それを全国制覇メンバーの名声と実力で若本君がひとつに束ねて出来たのが『新領土総督府』だ。

したがって、メンバー全員サバゲー経験豊富な名将ぞろいなのである。

とはいえ、派手なパフォーマンスとは元々無縁な6人である。

特に何をするでもなく、ステージ上に出てきて終わり。

いや、一度全員でワイングラスを手にして「プロージット」の掛け声と共に、それを地面に叩きつけて割る、と言うパフォーマンスを試みたことがあるが、掃除が大変だからやめてくれ、と言う大会運営サイドのクレームで中止に追い込まれていたりする。

そんな彼らであるので、残念ながら女の子たちの黄色い声援を浴びることも無い。

さらに陸別と札幌は遠いので、地元からわざわざ応援に駆けつけるような酔狂なファンも一人もいなかった。

ちょっと寂しい。


そして次に皆さんお待ちかねの『FANG GUNNERS』入場の番である。

「宇宙暦マイナス800年…くらい」

今井さんの謎ナレーションとともに、マーラーの交響曲第三番・第一楽章冒頭部のフレーズが流れ出した。

bgm/walk.mid
提供銀英伝音楽館さま。参考までに。

そして、今井さんの謎ナレーションはさらに続く。

「自由北海同盟は銀河帝国の侵略の前に、風前の灯だった。だが、同盟軍を守るため、ついにあの男が立ち上がった。数多の戦場で不可能を可能に変え、寡兵を持って大軍を蹴散らしてきた伝説の男。それではご紹介しましょう! 魔術師リン、ミラクルリン、同盟軍が誇る不敗の名将、リン・ナオウェンリー元帥!!」

というわけで、リン・ナオウェンリーこと、輪君が颯爽とステージ上に現れた。

無論、さっきまでのナオの衣装ではない。

その瞬間、会場が一瞬ざわめいた。

『FANG GUNNERS』のトレードマークといえば、コスプレ。

それも、この『新領土総督府』と戦うのにもっともふさわしい衣装を、きちんと事前に用意してきたのか!

五稜星を白く染め抜いた黒ベレー、襟元にアイボリーホワイトのスカーフを押し込んだ黒いジャンパー、スカーフと同じ色のスラックスに黒いハーフブーツ。

要するに、ごく機能的にデザインされた同盟軍の軍服、それも元帥服である。

さらには、漫画版同様、カッコいいサングラスをかけての登場である。

はっきり言って、見事に似合っていた。

若本君といい勝負、あるいはそれ以上に。

たちまち女性ファンの黄色い声援が飛ぶ。

「きゃー、リン提督〜(はあと)」

「リン提督頑張ってー(はあと)」

ステージ上で輪は、さらにびしっと敬礼してみせる。

世の中やっても、駄目なことばかり〜♪ とか、私が拳銃を撃って、当たると思うかい? とか聞くほうではない。

とにかくカッコいいほうのリン元帥なのだ。

不敗の名将なのである。エンガル・ファシルの奇跡なのである。

…エンガル・ファシルの奇跡ってなんだろう?

遠軽がどこにあるかわからない読者は、地図で調べよう。

そして恒例の自己紹介兼3秒スピーチ。

「リン・ナオウェンリーです。………どうぞよろしく」

すると…、

「リン提督、頑張ってー!」

「負けるな、リン提督!」

「リン提督、大好きです!!」

「私も〜」

「あたしだって、大好き〜!」

えーと、言うまでもないが、リンスリーガールズからの熱烈な応援であった。

それにつられて、会場の女性ファンからさらに黄色い声援が増える。

リン提督、やたらと大人気である。

それを見る若本君の目が、完全に怖いことになっていた。

まさか、ここまでリン提督が女性からの人気を集めていようとは。

それもあの可愛い3人の中学生から、よりによってあんな大声で「大好き〜(はあと)」だと!?

「許せん。絶対に許さんぞ、リン・ナオウェンリー…」

地獄から響くような低音で、おそらくは無意識に若本君が呟いているのを、隣にいる田中君は戦慄の面持ちで見守っていた。

田中君、恐怖で顔が引きつってます。

ああ、リン提督は、踏んではいけない地雷を踏んでしまったのだ…。


そこに、今井さんの謎ナレーションが続く。

「そして、リン提督を補佐する有能で美貌の副官、フレデルカ」

と、基本的にリンと同じデザインである同盟軍の少佐服を着て、瑠華が登場。

佐官服の美女というのは、サバゲーを見に来るお兄さんたちの萌え心を強く捕らえて離さない。

まさにストライクゾーンをジャストミート。10年連続200本安打の偉業達成。

軍服の持つ硬質感に、瑠華の氷の美貌が映え、そりゃぁもう、非常に素敵だった。

美貌の副官というか、イメージ的にはドラマに出てきそうな美人秘書である。

そんな瑠華が、輪の隣にさりげなく並んだ。

美男美女、しかも軍服、これ最強。

ついでに言えば、瑠華はいつものストレートヘアをアップにしてまとめていたため、普段お目にかかれない白いうなじが露出。

それがもう、素晴らしくセクシィ。16歳にしては反則級である。

さすがの輪も、ついつい横に並んだ瑠華をサングラス越しにこっそり眺めてしまうほどである。

いやいや、だめですよ輪君。

瑠華ちゅわんは、今や次に登場するお方のことが、すっかりあれで、あれな感じなんですからねぇ。

「モットーは“伊達と酔狂”。得意技は逃げるフリ。気絶させたら右に出るものはいない薄幸の革命戦士、ハルキィ・ダッテンボロー!」

というわけで、お次に登場は、春樹である。

ちなみに中将の軍服を着用。

一向に軍人らしく見えない風貌だが、不幸の革命を起こすべく、今日もがんばる一話一不幸。

言うなれば不幸レボリューション21。超超超超だめな感じ。

とりあえず、輪の横に並ぶと、決めておいたあの台詞を叫んだ。

「いいか、おれたちは伊達や酔狂でサバゲーをやってるんだ!」

どっちかというと伊達や酔狂でなく“伊達”が“不幸”なサバゲーなのだが細かいことを気にしては革命は成就しないぞ。

ってことで、もう一言世界最強の言葉を続けよう。

瑠華に避けられている(と本人は思っている)今の自分の状況を振り払うように、思い切りよく。

はいどうぞ。

「それがどうしたー!」

その世界最強の言葉に、ディープなファンが、唱和してくれた。

「「くたばれ、カイザー!」」

完璧である。

すっかり『新領土総督府』はアウェー状態である。

なにが新領土だ。蝦夷共和国は立派な独立国だったんだぞ。

…もとい。次。

「リン艦隊が誇るムードメーカー、ハートの撃墜王。マリビエ・カタクラン!」

ほどよく軍服を着崩し、陽気な笑顔で真理姐さん登場。

それだけで沸き起こる大歓声。

「あれ? 気づかないうちにあたしたちの艦隊、勝っちまいそうだぜ!」

軍服を着ながらも瀟洒な雰囲気を見事にかもし出し、真理姐さん一人素敵空間である。

ハートの撃墜王の名にふさわしく、男性ファンのハートをがっちりロックオン。

「白兵戦の達人。『白薔薇の騎士連隊(ロサ・ギガンティア・リッター)』第十三代目連隊長、ホンダー・フォン・ミャーンコップ!」

思いっきり濃くいれた紅茶色の髪をなびかせて、美亜子登場。

「ホンダー・フォン・ミャーンコップから離れないようにすることね。地面や床に足をつけている限り、あたしほど頼りになるサバゲーマーはいないんだから」

凛々しいお顔をキザっぽく笑みに形作ると、美亜子は軽く敬礼をしてみせる。

歴戦の武人だけがまとえる風格なんかが、びしびし漂ってくる。

その男装の凛々しさに、思わず観衆からもどよめきのようなため息が漏れた。

さて、そうなると残るは淳二だけ。

無論、今回のコスプレ企画の発案者でもあるわけで、演じるキャラはこれしかない。

「リン提督の秘蔵っ子。ジュリアン・ジュンツ」

そう、ご存知ジュリアン・ジュンツである。

イニシャルはJJ。奇妙な冒険をしたり波紋やスタンドを出したりしそうだが、それは世界が違います。

「リン提督は勝算の無い戦いはなさいません」

あくまでジュリアンはいい子キャラなのだ。

さすがの淳二も、あんまり羽目をはずさない。

それでもステージ上に6人そろうと、観客からは惜しみない拍手と歓声が送られた。

がんばれ、負けるなリン艦隊。

北海道の独立と平和は君たちにかかっているのだ。

「そしてナレーションはわたくし、アリッタケ・シャベルヌでした」

どこぞの事務処理の達人のような名前を名乗り、今井さん、これにて役目終了。

無論あらかじめ淳二が原稿を渡してナレーションをお願いしていたことは言うまでもない。

戦いは、戦場に立つ前から始まっているのだ。

ことに観客からの声援でいえば、『FANG GUNNERS』の圧勝である。

これまたお昼休みの間、輪が直々にリンスリーガールズに声援をお願いしていたことも大きいのだが。


さて、こんな入場、およびコスプレをされた以上、『新領土総督府』の面々の心中は穏やかではない。

特に、若本君はいろんな意味で対抗心メラメラ。

最初から輪に対してライバル視していたので、凄い勢いで眼光を飛ばしていたりする。

両チームの顔合わせでは、早くも一触即発。

「…その衣装、どういうつもりだ?」

高校生離れした渋い声を、常より低くし、若本君が輪に問い詰めたのである。

なにせ去年の全国大会優勝メンバーである。

その気迫、オーラは並の人間に出せるものではない。超一級の武人なのだ。

「貴官らを倒すのに、これ以上の格好はないだろう。言うなれば、勝利を彩るための演出に過ぎん」

平然と応える輪。

しかも、輪の表情はサングラスに隠され、読めない。

むしろ、尊大にも思えるような応え方は手袋を投げつけたに等しい。

「なんだ…と?!」

やおら気色ばむ『新領土総督府』の面々。

「残念だが、この勝負『FANG GUNNERS』がいただく。カイザーへの挑戦は我々に任せてもらおう」

輪君、さらに追い討ち。

去年の優勝チームから反逆→独立した若本君の悲願でもある、打倒カイザー。

それを『FANG GUNNERS』に掻っ攫われては、面目丸つぶれである。

「ほう…」

感心したように鼻を鳴らす若本君だったが、はっきり言ってものすごく怒っていた。

横にいる田中君がこっそりと震え上がっているほどに。

ゆがんだ愛情ゆえにその怒りもちょっと手がつけられません、はい。

(うう…、閣下をここまで怒らせて、生きて帰れると思っているのか? だとしたらマンモス哀れなやつ。どうなっても知らんぞ、直江輪…)

いまどきマンモスもないだろうが、さらにその田中君の横。

「ぐぬぬ、許さんぞ、卿ら」

まるで悪の秘密結社の総帥のような悪役声で凄んだのは、渡部君だった。

はっきり言ってこれまた高校生とはとても思えない、口ひげを生やした貧相な中年男である。(見た目が)

すっかり怒り心頭という感じで、頭の上から湯気が出ていたり。

「抑えろ、この場での見苦しい振る舞いはおれが許さん」

だが、若本君がそれを制した。

「ですが…」

なおも、食い下がろうとする渡部君を、横にいた堀君が押しとどめた。

「卿の気持ちもわかるが、我らは副将。ここは総督閣下に従うのが筋であろう」

口ではそう言いながらも“サバゲーをするときサングラスが必要な男”とあだ名される堀君の目は、すっかり血走っていた。

(うう…、怖いぃ)

その目をまともに見てしまった春樹なんかは、内心で悲鳴を上げていたり…。

「言うは易しだ。卿らの実力、その軍服に見合うほどのものかどうか、見せてもらうぞ」

吐き捨てるように、若本君がそう言うと、因縁をたっぷり残しての顔合わせは終了した。



「おいおい、リン提督、あれでよかったのか?」

心配そうに声をかけたのは真理だった。

「確かに、珍しくあんたから喧嘩を売ったわね」

愉快そうに美亜子が続ける。

「ふむ、相手は超一流の将帥だ。その足元をすくうには、こんな二流の挑発が効果的だろう」

やっぱり平然と輪が応える。

もしかすると、この男、想像以上にコスプレする衣装によってキャラが変わる人かもしれない。

すっかり不敗の名将気分らしい。

「さて、それでは作戦を説明する」

輪の一言で、メンバーを集めての簡易作戦会議が始まった。

「今回の作戦の鍵を握るのは、ジュリアンだ。お前は試合開始後、真っ先にここの小山ルートに進撃してもらう」

手元のマップに書き込みつつ、淳二に指示を出す。

「はい提督、ぼくにフェ山に行けということですね」

補足しておくが、フェ山とは、フィールドで最も標高の高い、小山のことである。

「フェ山…、まぁ、そうだ。その際だが、切り札を出すぞ」

「いよいよあれを使うんですね、提督」

これまたすっかりキャラになりきってジュリアンが嬉しそうに応えた。

「敵は俺たちが同盟軍のコスプレで出てきたことをかなり強烈に印象付けられただろう。試合開始と同時に、やつらはこの同盟軍服を血眼で捜す。だからこそ、この策は威力を発揮するはずだ」

リン提督、自信満々である。

「ははぁ、なるほどねぇ。このタイミングでこいつを投入するための、アレは前フリって訳ね」

カタクラン少佐もリン提督の作戦がほぼ理解できたらしい。

「…ずいぶんと意地の悪い作戦だこと」

「結構。最高の賛辞だ」

リン提督、さらに満足げ。

そして続けざまに指示を飛ばす。

「ミャーンコップ中将には、この橋の防衛をお願いしたい」

「了解、イゼル橋回廊はあたしが守りきって見せるわ」

補足しておくが、イゼル橋とはフィールド西側にかかる橋のことである。

「防衛の際だが、橋の向こうに敵の気配があれば、早めに威嚇射撃を開始してくれ。気配を消す必要はない、存分に殺気を放て。目的はあくまで足止めだ」

「ふ〜ん、せいぜい大軍が来ることを期待するわ…」

リン提督の指示にミャーンコップ中将は少しだけ不満げな表情を見せた。

狭隘なイゼル橋回廊においては、大軍同士の激突は起こりづらい。

だからこそ、そこに同盟軍最強の白兵戦部隊を配置したのが、リン提督の作戦の妙である。

「残るメンバーは基本的に塹壕戦で時間を稼ぐ。俺とフレデルカはここ、カタクラン少佐とダッテンボローはここを担当。ジュリアンの動きを悟られないよう、派手に敵の目を引きつけてくれ」

「はい閣下、わかりました」

「了解♪」

「了解です」

道東地区優勝『新領土(ノイエラント)総督府』

道東地区大会にて圧倒的な強さで優勝した強豪チームで御座候。
なにより、チームのリーダーである若本君は去年の全国大会優勝チームである『白河英雄伝説』のメンバーだった経歴を持つ名将で御座候。
他のメンバーも実力者ぞろい。北海道大会でも優勝候補の最右翼で御座候。
攻撃力:10 『次代の双璧』とも呼ばれる二人の1年生アタッカーを擁し、司令官若本君の完璧な戦術を見事に実現してみせる、統率の取れたチームで御座候。
防御力:10 若本君の指揮能力は防御や、不利な体勢からの後退においてこそ、本領を発揮して候。
機動力:6 速攻による勝利は一度も無く候。常に敵に先手をとらせ、しかる後に反撃して勝利を収め候。
チームワーク:9 若本君の指揮の下、一糸乱れぬ戦いぶりを見せるチームで御座候。
作戦能力:9 若本君の立案による奇策も何度も見せて勝利して候。
総合評価:10 道東地区を無敵の強さで勝ち進んだチームで御座候。
なにしろリーダーの若本君は昨年の全国制覇チーム『白河英雄伝説』の元メンバー。
その強さはすでに全国大会ベスト8レベルとも言われているようで御座候。


「戦争では、すべての行動は、霧の中や、月光の下のような薄暗がりで行われているように見える。それは威容で、しばしば実際の大きさより巨大に映るのだ」
クラウゼヴィッツ(独陸軍少将)


◇試合開始◇


さて、今回は『FANG GUNNERS』の陣地は赤いフラッグの側である。

ここまでの予選では一度も選ばなかったほうの地形だが、それゆえ若本君にとっても、敵の出方が見えにくい。

したがって、『新領土総督府』としても、あえて奇策を捨て、『FANG GUNNERS』の様子を見ながら戦う作戦を選んだ。

すなわち、『FANG GUNNERS』の初戦で輪君が使った見せたように、3つの進軍ルートを均等に押さえる布陣である。


山ルートには『次代の双璧』とも呼ばれる二人の1年生アタッカー檜山君と咲野君を向かわせた。

道ルートには貧相な中年顔で有名な渡部君を。

池ルートはサバゲーをするときサングラスが必要な男、堀君に一任。

そして予備兵力として田中君を渡部君と堀君の後ろに。

若本君自身は、本陣にて余裕の様子見状態である。

かつて全国を制覇した経験を元に鍛え上げたメンバーたち。その実力を信頼していればこその高みの見物である。

「敵はあの『FANG GUNNERS』だ。どんな手を使ってくるか分からんぞ。各艦隊、進撃スピードを抑えろ。注意を怠るな」

若本君からはそんな指示が飛ぶ。もちろん歴戦の提督たちにはそれ以上の具体的な戦術指令は必要なかった。

各艦隊はそれぞれに慎重に進軍を続けていた。

無論、『FANG GUNNERS』が速攻に出ていたら、即座に対応できるだけの余裕を持ちつつ、当初予定していたポイントに配置に付き始める。

第一試合途中経過その1

真っ先に戦術的衝突の火蓋が切られたのはイゼル橋回廊だった。

堀君が予定のポイントに到着するや、早くも回廊の向こうから牽制の射撃が浴びせられた。

「ふん素人め。遠いわ、間合いも分からんのか」

嘲笑気味に呟いた堀君は即座に理解した。

「なるほど、敵は一人だな。孤軍で回廊の防衛に回され、過剰に反応していると見える。だが…」

だが、それはそれで敵の動きが分かるというものだ…。

堀君は冷静にハンドシグナルで田中君に伝えた。

“回廊に予備戦力は必要なし。卿の戦力は別ルートに回すべし”

それは若本君の知るところとなり、彼は深く頷いた。

いまだ回廊以外で戦端は開かれていない。

つまるところ、『FANG GUNNERS』は防御主体での戦略を選択したと考えられる。

フェ山回廊、および中央ルートを『新領土総督府』軍が侵攻しているが敵の反撃は見られない。

結局のところ、初めて選択した赤いフラッグの陣地での戦いにおいて、『FANG GUNNERS』は『地獄のも釧路区』の先例に倣ったのだろう。

「なるほど、確かにあの戦いなら、そう簡単に負けはしないだろう。だがそれでは興が無さ過ぎるな…」

若本君はそう呟くと、戦略上重要な兵力であるところの、自分自身を前線へと向けたのである。


さて、その頃フェ山回廊では『次代の双璧』が『FANG GUNNERS』の苛烈な牽制射撃を受けていた。

射撃音は5つ。

ただし、やはり間合いは遠いままである。

敵の本陣付近に同盟軍の軍服がちらちらと見え隠れしているがその数は確認できた分で4。

「なるほど、敵の策は塹壕戦か。堅実ではあるが、面白味に欠ける戦いになりそうだな」

実戦のさなかにいるとは思えないほどの冷静な声で、そう呟いたのは檜山君だった。

どんな激戦であっても焦りや無謀さとは無縁のクールな男である。

その沈着さを若本君に買われて一年生ながらレギュラーの座を掴んだ逸材。

無論、チームに対する忠誠心と攻勢面における勇敢さを持ち合わせている。

「では、オレたちの仕事は逆に回廊出口を押さえ、総督閣下の兵力の到着を待つのが良策か。…いささかつまらんな。華々しい功績を立てるチャンスも無さそうだ」

こちらは檜山君と比べると好戦的性格が目立つ咲野君。

自己顕示欲や出世欲は人一倍だが、それに見合うだけの実力を持っている。

また、山岳部にも在籍しており、自称“登山家提督”。

山登りで培ったタフさと地形を読むのに長けているのも持ち味のひとつだ。

二人はさすがに『次代の双璧』と呼ばれるにふさわしい見事な連携を見せ、フェ山回廊の出口に橋頭堡とも呼べるポイントを構築した。

すなわち、かつての『FANG GUNNERS』対『地獄のも釧路区』を攻守ところを変えて再現しつつあった。

若本君はすでに堅牢な塹壕にこもる『FANG GUNNERS』を攻略すべく、兵力を集中しつつあり、渡部君、田中君の兵力が前線に出現し、ダッテンボローやフレデルカにむけて牽制射撃を開始していた。

だが、若本君自身はいまだ前線にその姿を見せることはなかった。

敵の数がまだ6人全員分確認できていない。

これもまた、『FANG GUNNERS』対『地獄のも釧路区』で輪君が悩んだのと同じ状況であった。

第一試合途中経過その2



「相対的に戦闘力が大きいことが望ましいのは常識である。そして奇襲すれば、戦闘力が小さくても、その不利を逆転し、相対的戦闘力比を決定的に有利にすることも常識である。だからどんな作戦でも、奇襲の要素を持たねばならない。奇襲なしに決定的な時機と場所において、戦闘力が優勢になることは考えられない」
クラウゼヴィッツ(独陸軍少将)


◇次代の双璧◇


「おい、あれを見たか?」

「ああ、一番左にいるのが敵の司令官のようだな。しかも塹壕に伏せて牽制射撃していやがる」

次代の双璧と称される、咲野くんと檜山くんが互いに目配せしあった。

まずは、指揮官を狙うべし。そうすれば指揮系統が混乱した同盟軍を自在に各個撃破できるようになるだろう。

戦功第一位はリン提督を撃墜したものに与えられるはずだ。

「例のアレ、使うならばここしかないと思わないか?」

野心的な瞳をぎらぎらとたぎらせ、咲野君が檜山君に提案を持ちかけた。

「だが、アレは全国大会での切り札、ここでは使うなと総督閣下が…。卿は閣下の指示に背くと言うのか」

一瞬、あの若本君の色の違う両目が怒りに燃え上がる姿を想像し、檜山君は慎重論を唱える。

「落ち着け檜山。まさかオレが本気で若本総督の命令に背く、などと思っているのではないだろうか」

「違うというのか?」

やれやれ単純なやつだな、と咲野君は僚友を揶揄するように内心でほくそ笑んだ。

「オレたちが1年生ながらこのチームのレギュラーの座を得ているのはなぜだ?」

「総督閣下のご恩と、我々自身の武勲によってだ」

「そうだ、多少あざとくても我々は武勲を立てねばならん。敵の指揮官を倒せば、この上ない戦功だ。いいか、オレたちは例のアレを使うんじゃない。たまたま敵の牽制射撃を避けようと、体を転がすだけだ」

「む、むぅ…」

檜山君はうめいた。

果たしてそううまくいくだろうか…。そう思いつつも檜山君は僚友に同調することになる。

確かに戦況は膠着状態だし、さしあたっては他に選択肢もないように思えたからだ。


てなわけで、一気に二人の戦意はヒートアップ。

ここまで封印していたある得意技を出すことになる。

すなわち…、


「そうと決まれば、やって見せる…」

「おとなしく隠れているがいいさ、いくぜ檜山!」

「おう!」

ちゃきーん。

なんと、ここで二人がうつ伏せの構えから一気に体を180度回転させ、仰向けになったではないか。

すると、当然エアガンも180度逆さまの状態になる。

「「逆さポップアップ攻撃!!」」

説明しよう。彼らの必殺技こそ、ポップアップ機能を逆に使い、BB弾にドライブ回転をかけて下に落とす攻撃方法だったのだ。

通常ポップアップ機能は、発射されたBB弾に上方向の回転を与え、弾に揚力を持たせて飛距離を伸ばすことが特徴であるが、エアガンを逆さにして撃つことで、逆にBB弾が“翼君のドライブシュートのように”下向きの弾道を描くようになるのだ。

この変則的な弾道により、遮蔽物に隠れている敵に“上から”BB弾を当てることが可能となるのである。

若本君がこの先の全国大会を勝ち抜くために、この1年生コンビに徹底的に教え込んだ秘策中の秘策。

そして、二人の使用するヘッケラー&コック MP5 SD5 カスタムには逆さポップアップを効率的に行うため、それ専用のポップアップ調整が出来るように改造済みなのだ。

うまくいけば、あっさりとリン提督を仕留めることが出来るだろう。

が、もちろんこの必殺技は諸刃の剣。

完全に仰向けの体勢になるため、近くに敵がおらず、かつ遠方の敵からの狙撃を防ぐ遮蔽物に隠れられるポイントでしか使えないことが弱点である。

てなわけで、リン提督を撃墜するべく、逆さポップアップ攻撃のフォーメーションに入った両提督は、すっかり無防備な姿勢をさらすことになった。

もちろん、周りに敵がいないことを確認したからこその、この体勢なのであるが…。



「奇襲の実行は危険を伴う。しかし、警戒を怠らず、常に敵の油断に乗ずる指揮官は、作戦に成功する可能性が高い」
ツキディデス(アテネ提督)


まさに、この瞬間こそがジュリアンの飛び出すべきタイミングであった。

突如として、次代の双璧の背後、フェ山の斜面の草むらが動き出し、躍り上がり、寝転んだ両提督の無防備な腹部に対し、立て続けにP90でのフルオート射撃を撃ち込んだのである。

「バカな、こんなバカな話があるか!」

誘いを持ちかけた僚友と、フェ山に潜んでいた敵の両方に対し、檜山君は絶叫した。

不公正だ。総督の命令に忠実であろうとし、それでも僚友の選択を尊重した義理人情の人である自分が、なぜ真っ先に戦場を去らなくてはならないのか。

次の瞬間、檜山君の体を数発のBB弾が直撃し、激しく跳ね回った。

仰向けの無防備な体勢では避けようもなかった。

「…ヒット!」

無論、咲野君も反撃しようと身を起こしたのだが、いかんせん仰向けの体勢からではすべてが遅かった。

「くっ、ヒット、だ…」

せっかく出した必殺技なのにリン提督に一発のBB弾も降らせることが出来ず、咲野君もまたヒットコール。

ジュリアンのフルオート射撃の前に、次代の双璧はあっという間に姿を消すことになった。

そう、試合前の顔合わせのあと、ジュリアンはリン提督のかばんの中に入っていた秘策、ギリースーツを着ていたのである。

まさしく蓑虫のように草や地面に偽装したギリースーツを身につけた“忍者”ジュリアンは試合開始後音速で突っ走りフェ山回廊に突入。

そして敵の目を盗んで自然と一体化。ずっとそこに隠れていたのである。

その状態のまま、奇襲に最適なチャンスを窺っていたというわけだ。

すなわち、これこそが、リン提督の切り札。

あえて敵にフェ山回廊を通過させ、無防備な後背(この場合は仰向けの体)をジュリアンによって奇襲させる策だったのだ。

「やりました、リン提督! フェ山回廊は奪還しました!!」

この戦いの戦功第一はこれでゲットだぜ。

ジュリアンは大喜びで身を翻すと、早速フィールド中央にいる渡部君と田中君めがけ牽制射撃を開始した。

「よし、我々も得意の一点集中砲撃を見せてやろう。ファイア!」

リン提督の命令の元、渡部君に向けてBB弾が降り注ぐ。

戦況はすっかり『新領土総督府』不利。

「小細工をしおって…」

渡部君は怒りに震えつつ、フェ山方面からのジュリアンの射撃と、敵の塹壕からの射撃の両方から逃れるべく、徐々に後退する他なかった。

「見殺しにも出来まい。援護せよ」

若本君と、その檄を受けた田中君が渡部君の退路を開く。


「ふっ、ギリースーツとは。なるほど、わざわざフィールドで目立つ同盟軍の軍服を着たのはこのギリースーツを使うための布石だったわけか。若いあの二人では、その罠にかかったのも無理もないか…」

色の違う両目に、自嘲の色を映しつつ、それでも若本君はまず超一流と言っていい後退を見せていた。

まず、自らの砲火と田中君の擬似突出によってジュリアンを牽制し、その間隙に乗じて渡部君を敵塹壕からの射程外に逃がすことに成功。

機を見て自らもフェ山方面へ機動し、そのまま3人で今度はジュリアンを十字砲火の只中に誘い込もうとしたのである。

無論、黙って若本君のやりたいようにさせる義理はリン艦隊にもない。

リン提督の指示の元、後退した渡部君のいたポイントにカタクラン少佐の部隊を送り込み、二挺クルツの火力で、田中君と渡部君を双方牽制。

さらに、フレデルカをイゼル橋回廊方面に向かわせ、ダッテンボローはカタクラン少佐の援護に回した。

その上で、リン提督自らフェ山回廊に突入し、愛弟子のジュリアンを後方から支える体制をとったのである。

まさに、両指揮官による緊迫した用兵のダイナミズムを堪能できる状況である。

超一級の戦闘にギャラリーもうなる。



こうして、戦闘は次なる局面を迎えた…。


次回予告

「ジュリアンの奇襲により戦況は同盟軍有利。
だが、若本君の巧妙な戦術により、リン提督に危機が迫る。
火花を散らす両雄の戦いは、まだまだ終わらない…。
次回五行戦隊センゴクマン「センゴクマン雌伏」

遅いじゃないか…『FANG GUNNERS』」



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