陰陽五行戦記おまけ劇場

五行戦隊センゴクマン!

第二十六話

「センゴクマン秘密」


◇リンスリーガールズ観戦◇


「ナオさま、大丈夫かな…」

ギャラリー席で、そう不安げにつぶやいたのは、辺見悦子。

もともとは諜報活動が目的で近づいたのに、『富良野防衛家族黒井田家』と妙に仲良くなってしまい、結局作戦を聞き出せなかった、リンスリである。

だが、結果としてそれでよかったんだ、と3人は思っている。

「こうなったら悟郎おじさんにもがんばってほしいけどね」

と、すっかり情が移ってしまった鳥枝杏樹。

「この2チームとも、決勝に進めればよかったのに…」

倉田里子も、同じ気持ちらしい。

そんなリンスリ、大勢のギャラリー、そしてほかにも広奈様や“名無し”など、ライバルたちもこの一戦に注目していた。

決勝リーグに進む最後のチームは、『富良野防衛家族黒井田家』と『FANG GUNNERS』のどちらになるのか。



道北地区優勝『富良野防衛家族黒井田家』

なんといってもこのチームはリサイクルが命で御座候。
中古の電動ガン、故障したエアガン、不要になった迷彩服や捨てられていたゴーグルを綺麗にリストアして使って候。
環境にやさしく、ゲームに強い、そんなチームで御座候。
チームの大黒柱の黒井田悟郎さんはなんと御年50歳(!)。定時制高校に通っているのでこの大会に参加可能なので御座候。
攻撃力:7 リストアしたエアガンを使っている為、爆発的な攻撃力には欠け候。
道具の不利をチームワークで補って候。
防御力:8 本陣を守る大黒柱の悟郎さんを中心に、団結したチームワークで守って候。
機動力:6 じっくり攻めることが多く、その慎重さが勝利を呼び込むようで御座候。
チームワーク:10 守るも攻めるも、チームが一致団結で御座候。
誰かの不利をほかの誰かが必ずカバーするので、隙が見出せないチームで御座候。
作戦能力:7 あらかじめ作戦を立てているというよりは、行き当たりばったりの印象が強いようで御座候。
しかし、そこをチームワークで補って候。
総合評価:8 メンバー間の信頼関係も抜群で、まさに家族のようなチームで御座候。
また、如何にお金をかけずにサバイバルゲームを楽しむか、そのお手本になるで御座候。


「戦略は、時間と空間を有効に使用する科学である。余は前者の使用をより重視する。なぜなら、空間は奪回可能だが、失った時間は永遠に取り返せないからだ」
グナイゼナウ


◇試合開始前(瑠華視点)◇


さて、入場パフォーマンスも終わり、ステージ上での両チームの顔合わせである。

『FANG GUNNERS』は右から、真理、輪、美亜子、淳二、瑠華、春樹の順で整列。

いきなりだが、明智瑠華は困惑していた。

向かい合った敵チーム、『富良野防衛家族黒井田家』のメンバーは6人。

瑠華から見て、右から順に、黒井田悟郎(50歳)、黒井田瞬(17歳)、黒井田穂多(16歳)、笠間譲吉(17歳)、清水敏彦(17歳)、内村ゆい(16歳)、西村滉太(故人) 。


ん?


左端、瑠華の目にははっきり見えていた。

道北大会後、交通事故で亡くなったはずの少年の姿が…。

(哀れな、成仏できず、こんなところまでついてきたのか)

そう思って、滉太を見ていると、目が合った。

彫りの深い、日に焼けた健康そうな顔の滉太クン(といっても死んでいるのだが)が、一瞬びっくりした表情を見せると、次に、満面の笑みで瑠華に接近してきた。

《なぁ、ひょっとしてオラのこと見えんのか?》

そうしゃべる声も、瑠華にだけ聞こえるようだ。

もちろん、瑠華は無視を決め込んだ。

ステージ上、両チームが向かい合っているこの状況で、彼と会話を開始したら、電波な女と思われてしまう。

《なぁなぁなぁなぁ、見えてんだべ? 聞こえてんだべ? オラ感激だぁ〜。こんな美人さんに気づいてもらえて。幽霊冥利に尽きるってもんだべ。死んでてよかった〜》

当然、瑠華は無視。

《いやいや、無視しようったって、そうはいかねぇべ。見えてんだべ?》

そう言って瑠華の目の前で、手のひらをヒラヒラ振ってみせる。

やっぱり、瑠華は無視。

《じゃあ、これを食らえ》

今度は、瑠華に顔を近づけると、両手で自分の顔を挟み込み、変形させる。

むにゅ。

常人なら吹きだし、爆笑間違いなしの面白い顔だったが、瑠華の顔面は微動だにしない。

《オラの気のせいだったか? やっぱり見えてないんだべか》

そう言うと滉太クンは、瑠華の目の前で、素早くうつ伏せになり、そのまま首を横に下げ、瑠華を真下から見上げる格好。

瑠華がはいているのは、結構短めのスカートである。

「…っ!」

《絶景! …って、なんだ。スパッツ着用か〜。それじゃ面白くねぇべさ》

そのあまりに露骨なセクハラ行為にさすがの瑠華も、無視を決め込むことができなかった。

瑠華のコスプレ衣装である“マッハ夕張”にはマッハボールと呼ばれる鎖つきの鉄球がオプションでついており、もちろん今もそれを手に持っている。

で、瑠華は小声で呪を唱えた。

『退魔付加・急急如律令』

霊感のある人が見れば、瑠華の持つマッハボールがほんのりと退魔の力を帯びたことがわかっただろう。

で、無言でそれを自分を見上げている滉太クンの顔面めがけ、落とした。

ごいーん。

惜しい、はずれだ。

というか、うまく滉太クンがよけたのだ。

《あ、危ねぇべ。殺す気か?》

すでに死んでいるのだが、それでも直撃を受ければ、強制的に成仏である。

第二撃を浴びせようと、瑠華は鉄鎖を巻きとり、再びマッハボールを手にする。

滉太クンは、すばやく起き上がると、瑠華から離れた。

《やっぱり、ちゃんと見えてるべ。無視はよくないんでないかい? オラ、せっかくコミュニケーションをとろうと思ってんのに》

(時と場所を考えろ)

瑠華は危うく口に出しそうになったが、何とか自制した。

しかし、逆にそんな瑠華の態度が、滉太クンをして調子に乗らせた。

《そこまでオラを無視するなら、考えがあるべ》

すると、滉太クン、今度はさっき春樹が踊った“仕事きっちり踊り”を真似して、コミカルに踊りだしたのである。

もちろん、歌つきで。

《ハァ〜♪ 仕事きっちり♪ ってか?》

「やめろ」

瑠華は怒りを込めた低い声で小さくつぶやいた。

《あれ? なして怒った? さっきは爆笑してたべさ〜》

「醜悪な踊りを、私に見せるな」

瑠華ちゃん、かな〜り、怒り心頭。

《笑うまで踊ってやるべ。ほれほれ、仕事きっちり♪》

逆に滉太クンは絶好調。両チームが向かい合った丁度真ん中で、瑠華にしか見えない踊りをコミカルに踊りまくり。

なぜこんなに腹が立つのか、瑠華は自分でもわからなかった。

ただ、春樹の踊りを馬鹿にされたことがわかると、その怒りを止められなかったのだ。

(伊達を愚弄するな!)

瑠華はぎりぎりと鉄鎖を握り締め、今まさに滉太クンめがけ、マッハボールを投げつけかけたが…。

「瑠華ちゃん。瑠華ちゃん!」

ゆさゆさ。

淳二だった。

「はっ!? な、なんだ真田。どうした?」

淳二はなんとも困惑と不審の入り混じった表情で、瑠華の左側の地面を指差した。



◇試合開始前◇


「おいら、黒井田悟郎、といいます。みなは、悟郎と呼んどります」

悟郎さんの自己紹介は、高校生相手だというのに、腰が低かった。

「あの、黒井田瞬と申します。あ、怪しいものではございません。逃げも、隠れもいたしません」

ちょっと長めの髪、そして細い目は明らかに純朴そのもの。

悟郎さんの息子の瞬くんは、目の前の真理姐、そして美亜子の姿に、どきどきしており、すっかり舞い上がった状態で、自己紹介を終えていた。

おそらく、自分が何を言ったのか、覚えていまい。

「黒井田穂多、です」

その妹の穂多ちゃんは、短くそう言っただけ。

「笠間譲吉っていいます」

これまた朴訥そうなキャラ。

が、5人目は様子が違った。

「清水敏彦ですっ。お目にかかれて光栄です。いや〜、間近で見せていただいて幸せです。この衣装は凄い! この発想はもの凄い。現代への警鐘です。文明社会への強〜烈な風刺です。話には聞いていましたけど、このチームは本当に凄いです。凄いッ〜、あははははははは」

一人だけ超ハイテンション。

ここまでの4人とはあまりにキャラが違う。

ちなみに、この清水敏彦君こそ、亡くなった西村滉太の抜けた穴を補うべく、自ら志願してこのチームに参加した、新人君である。

「何でそんなにテンション高いの?」

いささか圧倒されつつ、ついそんなことを聞いてしまったのは淳二。

「いい〜、質問ですっ!」

そしてびしっと親指を立てて見せると、敏彦くんは、ぺらぺらとしゃべりだした。

「『月刊種子島』で写真を見て以来、『FANG GUNNERS』の皆さんにはずっとお会いしてみたかったんですっ。特に、そこの瑠華さん。僕は、その美しい容姿に制服でウージーをぶっ放すところが、もろにツボでして、よければ後でサイン」

ごいーん。

その瞬間、全員が凍りついた。

思いっきり不機嫌そのものの顔で、瑠華が無言のまま、マッハボールを地面に落としたのだ。

そして、やっぱりむすっとした顔で、ジャラジャラと鎖を巻き取る。

「し、失礼しました…」

さっきまでのハイテンションはどこへやら、敏彦君はすっかりビビってしまった。

すごすごと引き下がる。その落差がむしろ哀れである。

「内村ゆいです」

最後の一人、ショートカットでボーイッシュな、なかなかかわいい子が自己紹介を終えた。


『FANG GUNNERS』の自己紹介も簡潔である。

「リーダーの片倉真理。今日はお手柔らかにお願いします」

そう言ってとびきりの笑顔をプレゼント。

敵チームの若い3人が揃って顔を赤くしている。

「作戦参謀の直江輪だ。あなた方のチームの話を聞いて、かねてから尊敬していた。資金に頼らずに強いチームを作り上げるそのプロセス、たいしたものだと思う。手合わせできて光栄だ」

真摯な態度で輪がそう告げ、頭を下げた。

まさか、これから戦う相手から、こういう言葉をかけられるとは思っていなかったのだろう。

『富良野防衛家族黒井田家』のメンバーは揃って、驚きを顔に浮かべ、ついで心底嬉しそうに、メンバー同士で目配せしあった。

自分達をなめてかかる敵を、馬鹿にしてかかる相手をやっつけるのが『富良野防衛家族黒井田家』のカタルシスであった。

それが、いきなり最上級の敬意を持って挨拶をされた。

ある意味拍子抜け。いわば戦う前から、その牙を抜かれたも同然である。

嬉しそうに輪の顔を見返す穂多ちゃんやゆいちゃんに、輪はこれまた無敵スマイルを返す。

二人の女の子は、揃って頬を染めた。

「本多美亜子よ。強いチームと戦うのは、あたしの最高の楽しみ。いい試合を期待するわ」

これまた常になく笑顔過多の美亜子である。

両チームの間に、実にいい雰囲気が形成されつつあった。

「オレは広報部長の真田淳二。チームの衣装は、全部オレが手がけてる。だからというのも変だけど、出来合いの迷彩を買って着ているチームより、皆さんみたいに手作りのチームにとっても共感するんだよね。自分の手で衣装を作る苦労と喜びは、オレも知ってるつもり。よかったら試合後に、その辺のことで語りましょう! 今日はよろしく」

完璧である。もともと見知らぬ人ともすぐに打ち解ける淳二の笑顔は効果てきめん。

「こちらこそ、僕たちからもぜひ。なぁ」

と、瞬君が言うと、

「もちろんですっ、僕はもともと『FANG GUNNERS』さんとお近づきになりたかったんですっ」

清水敏彦君があまりに真剣にそう答えるので、自然両チームから笑い声が漏れた。

完璧に、これから決勝リーグ進出をかけて真剣勝負をするとは思えない空気が流れていた。

まるで、仲のよいチーム同士の交流戦って感じ。


…実はこれ、輪の策である。

『富良野防衛家族黒井田家』の強さの秘密は、コンプレックスを跳ね返そうというその劣等感から来ている事を輪は見抜いていた。

なればこそ、敵チームを賞賛し、劣等感を抱かせず、フレンドリーに接することで、敵の実力を発揮するモチベーションを消してしまう。


試合前。

「ということで、自己紹介では最大限に好意的に振舞ってくれ。一応これは勝つための策ではあるが……」

輪はそこでことさら間を置いた。

「あるが?」

みんなを代表して、淳二が聞く。

「うむ。…まぁ、実際あのチームは尊敬に値するし、これを機に、知己を得るのもいいだろう」


という、一幕があったのである。

だが、ここまでは完璧と思われた輪の策は、一人の美しき無表情女のせいで、破綻の危機にあった。

「………」

瑠華のみ自己紹介しない。

それだけでなく、なにやら両チームの間の何もない中空をにらみつけたまま微動だにしない。

(どういうことだっ。やはり明智には無理だったのかっ)

焦る輪。

「あ、あの、明智さん?」

「………」

(うううぅ、どうしたんだろう。明智さんなんかすっごく機嫌悪そう)

呼びかけたが完璧に無視され、春樹はかなり腰が引けている。

だが、ここでくじけないのが春樹のいいところなのだ。

思い切って、瑠華の肩をぽむと叩こうと、右手を伸ばす。

「明智さ…」

「やめろ」

びくっ。

面白いくらいに春樹が硬直。瑠華の肩に手を置く寸前のまま固まった。

「ど、どうしたの? 何か気に障ることでも?」

すっかりおびえた声で、春樹がそう聞くと、瑠華はどすの聞いた声で、小さく一言。

「醜悪な踊りを、私に見せるな」

「えっ?」

一瞬遅れて、春樹は言われた言葉を反芻。


「醜悪な踊りを、私に見せるな」


醜悪な踊り。

僕の、踊り?

醜悪?

醜悪だったの?

それで、そんなに怒って?

機嫌が悪いのは、僕のせい?

僕の、僕の踊りのせい?

明智さん…。

僕…、僕は…。

…そんな。

…………………………はぅ。


ぱったり。

「ちょっと、ハル?」

「おい、春樹、どうした?」

倒れた春樹の尋常ならざる様子に、美亜子と真理が駆け寄る。

それでもなお、瑠華は春樹が倒れたことにも気付かず、なにやら別の宇宙をにらみつけている。

「瑠華ちゃん、瑠華ちゃん!」

ゆさゆさ。

淳二に呼びかけられ、瑠華はこっちの世界に戻ってきたらしい。

「はっ!? な、なんだ真田。どうした?」

淳二はなんとも困惑と不審の入り混じった表情で、瑠華の左側の地面を指差した。

そこでは、昏倒した春樹を真理と美亜子が介抱しているの図。

「だ、伊達? どうした?」

慌てて瑠華も、介抱の輪の中に加わる。

そんなドタバタを横目で見やり、作戦参謀の輪はため息をついた。

「はぁ、大事な試合の前だというのに何の冗談だ、これは…」



「もし戦略が間違っていたら、戦場でどんなに名将が戦術を駆使して勝利を稼ぎ、兵士が剛勇をふるっても、それが決定的でないかぎり、その効果はむなしいものになる」
マハン(米海軍少将)




◇試合開始◇


「よし、所定の位置に付け」

輪君の指示が飛び、早速6人が配置についた。

橋の手前に春樹と瑠華。フィールド中央に真理、その後ろに美亜子と輪、左翼に淳二。

初期配置図

そう、一回戦で『夕張のガンマン』と戦ったときの初期布陣とまったく同じである。

この布陣を取ったのは、ひとつには相手の速攻を警戒してのことである。

というのも、『富良野防衛家族黒井田家』は『夕張のガンマン』との戦いにおいて、思い切って6人全員でフィールドの中央を駆け抜け、速攻でのフラッグ奪取を狙ったのだった。

“名無し”と“大佐”がフィールドの左右に分かれて、進んでいるその間隙を見事に突いて、中央を突破。

もっとも、速攻に気づいた“大佐”が、駆け抜ける6人に何度も狙撃を試みたが、なぜか1発も当たらなかったことも、彼らに味方した。

本陣に残る“賞金首”をはじめとする4人も猛反撃したが、悟郎さんの“神の手”によってチューンされたエアガンの命中精度もあり、6人対4人の戦いは短期で終結し、見事『富良野防衛家族黒井田家』はフラッグを奪取しての勝利を収めたのである。

この戦いを見た輪君は、『富良野防衛家族黒井田家』の作戦立案能力を高く評価し、それゆえあえてこちらも奇策を捨て、オーソドックスな防御中心の陣を構えたのである。

『夕張のガンマン』や『地獄のも釧路区』のような、決まった戦闘ドクトリンを持っているチームなら、策の立てようもあるが、『富良野防衛家族黒井田家』は『FANG GUNNERS』と同じように敵に合わせて作戦を変更するタイプのチームである。

であればこそ、『FANG GUNNERS』の一番オーソドックスで、この地形にマッチした布陣によって敵を迎撃し、個人個人の戦闘力で敵を一人一人倒していくタイプの戦いをすることにしたのである。

実際、もし敵が再び速攻を意図した場合、この防御陣の前に、あっさりと敗退しただろう。

だが、『富良野防衛家族黒井田家』も慎重だった。

今回は、速攻ではなく、本陣に悟郎さんを残して慎重に進撃する作戦。

本陣に残った悟郎さん、かなり心配そうに進撃していく5人を目を細め、口を尖らせつつ見守っている。

が、ついに耐え切れなくなって叫んだ。

「穂多〜。危なくなったら、いつでも、本陣に、帰ってくんだぞ〜」

「父さぁ〜ん」

なぜか、ぶわっっと涙を流しつつ、本陣に駆け戻る穂多ちゃん。

「穂多のやつ、毎度毎度、これで何回目だ?」

兄の瞬君が、やれやれとため息。

「い〜い、質問ですっ」

びしっと親指を立て、清水俊彦君が満面の笑みを見せる。

「道北大会から通算で4回目ですっ。いや〜、お約束の場面とはいえ、いつ見てもいいっ。感動ですっ。荒廃する現代社会への警鐘ですっ」

力説。

「そういうもんか?」


結局、5人が本陣を出て、進撃したのは、それから1分後だった。

その時間が、『FANG GUNNERS』に有利に働いた。

その1分の間に、真理姐さんが所定の位置につくことができたのである。

そして、その位置からだと、敵陣近くの遊歩道はよく見通せる。

その遊歩道を5人が通過したのを、ばっちり確認できたのである。

「敵発見、山側ルートに5人、進撃中」

真理から美亜子へ、美亜子から、輪へ、輪から淳二へ、サインが伝わる。

そして、輪がとっさに包囲策を考案。

まず、淳二にサインで指示。

『淳二、アンブッシュして敵をやり過ごし、背後に回れ』

『了解』

続いて美亜子には直接声をかける。

「美亜子、淳二と挟撃策をとる、タイミングを図って、俺と一緒に敵の足を止めるぞ」

「OK」

さらに真理にもサイン。

『片倉先輩、援護を。4人で敵を包囲します』

『あいよ』

というわけで、迅速に迎撃フォーメーションの用意が整っていく。

さて、真理姐さんは、さらに迎撃の威力をあげるべく、春樹にサインを送る。

『春樹、こっちへ来い』

って、春樹は全然こっちを見ていなかった。

「…ん?」



◇伊達春樹&明智瑠華◇


ステージ上の一件以来、春樹は瑠華に話しかけることが出来なかった。

基本的に悲観的な上に、思い込みが激しい春樹は、あのダンスのせいですっかり瑠華に軽蔑され、嫌われてしまったと思い込んでいたのだ。

にもかかわらず、輪君の作戦だと、瑠華とコンビを組んで、橋の前にて敵を迎撃する布陣である。

ただでさえ『夕張のガンマン』のときに、「下着が見えています事件」で撃墜されたトラウマもあり、この布陣は春樹にとってかなりやりにくい。

その上…。

「伊達、しばらく私から離れていてくれ」


づがーん!


もう駄目である。とどめである。どうやら顔も見たくないらしいのである。半径10m以内に近寄れないのである。

「は…、はい」

夢遊病者のようにおぼつかない足取りで、春樹は瑠華から離れた。

そして真理姐さんからのサインを見逃したのである。



◇包囲作戦◇


『FANG GUNNERS』の仕掛けた包囲作戦は、見事に成功した。

包囲作戦図

本陣への道は、輪君ががっちり押さえ、その横を美亜子が補強し、敵にプレッシャーをかける。

さらにフィールド中央から真理姐さんが牽制しながら接近を開始。背後に回った淳二が、じりじりと隠密接敵し距離を詰めていく。

数では4対5だが、地理的な優位性を『FANG GUNNERS』が確保しているため、まさに『袋のネズミ』状態。

そんな絶体絶命の『富良野防衛家族黒井田家』メンバーの間で、ある人間ドラマが繰り広げられていた…。


「僕があっちに向かって突撃して敵の目を引き付ける。その隙に、みんなで本陣めがけて走るんだ」

と、自分が犠牲になる事を申し出たのは、ご存知悟郎さんの息子、瞬君。

「駄目、やられるわ」

強い口調でそれをとめようとしたのは、瞬君の彼女(?)のゆいちゃん。

「やられてもいいよ!!!!!」

しかし、ヤケクソ気味の瞬君の大声で、黙ってしまう。

「僕は今までずっとそうなんだ! 敵の前から年中逃げて、向かおうとしないで黙って逃げて、そうやってずっと、生きてきたんだ。そういうやり方、もういやなんだ! だから、コロンつけるのももうやめる。そういうコンプレックスはみっともない。あと、東京はもういい。卒業したんだ。お金もちゃんと返します。だから、だから…」

「おい、なに言ってるのか、わかんなくなってきたぞ」

譲吉君のツッコミで、瞬君は正気に返ったらしい。

「と、とにかく、僕が行くわけで…」

「一緒に行く。絶対一緒に行く!」

意志の強そうな瞳を真摯に瞬君に向けて、ゆいちゃんがきっぱりと言い切った。

「二人でいけば、あそこにいる、“あずみあこ”さんを撃墜できるかもしれないでしょう」

確かにその作戦は上手くいく公算が高かった。

瞬君とゆいちゃんの二人がかりで美亜子をしとめ、残り三人で輪君を攻撃すれば、フラッグまでたどり着く可能性は高い。

しかし、瞬君が茂みから飛び出そうとしたとき、『FANG GUNNERS』の真理姐さんがさらに接近してきた。

二挺のクルツによる牽制射撃を繰り返し、輪と美亜子の布陣の弱いところを見事にフォロー。

それにあわせて美亜子も、輪君寄りに位置を変えて、完璧な防御陣の完成である。

これで、『富良野防衛家族黒井田家』側は策を実行できなくなってしまった。

しかも、ひっきりなしに輪君、美亜子、真理姐さんからの牽制射撃が繰り返され、BB弾が頭上を通り過ぎる。

そして、姿は見えないが、じりじりと淳二が近付いているのだ。

だんだん追い詰められていく『富良野防衛家族黒井田家』。このままでは誰かがやられてしまうのも時間の問題だ。

しかし、うかつには動けない。動けば撃たれる。

この包囲網を突破するには、何か、別の外的要因が…、そう、包囲の外から、別働隊の援護があれば…。


と、そのとき!


「殺(や)るなら今しかねえ〜♪ 殺る、なら、今、しっか、ねぇぇ〜っ♪」

と、歌いながら突撃してくる人影。

人影というか、人間ミノムシ。

ぼろぼろのギリースーツ姿の悟郎さんが、自陣を飛び出し、まさにフィールドの中央を駆けてきたのである。

んで、一度転んだ。

そしてまた立ち上がって、走り出す。

ギリースーツに、泥が付き、さらに薄汚れて、もはや人間なのか、妖怪なのか、判別不能。

あまりに不恰好な、その姿を遠目に確認し、瞬君は一人感動にうち震えていた。

「瞬、穂多〜、待ってろ〜〜」

子供達の絶体絶命の窮地を救おうと、一心不乱に駆けてくる父の姿。

「父さぁぁーーーーん!!!!」

叫ぶ穂多。

そして突如ナレーションモードに突入する瞬君。

「父さん…。あなたは素敵です。あなたのそういうみっともないところを、昔の僕なら軽蔑したでしょう。でも今、僕は素敵だと思えます。人の目も何も一切気にせず、ただひたむきに僕たちを援護すること。思えば父さんのそういう生き方がこのチームをここまで育ててくれたんだと思います。そのことに僕らは今ごろようやく、少しだけ気づきはじめてるんです。父さん。あなたは、素敵です」

瞬君、長々と語っている暇はないぞ。

「いい〜、タイミングですっ。さぁ、いまこそ、悟郎おじさんと呼吸を合わせ、敵のリーダーを挟撃しましょう!」

チームワークなら全出場チームでも一番の『富良野防衛家族黒井田家』。その本領が発揮されようとしていた。

どうする、どうなるこの試合?



◇伊達春樹&明智瑠華◇


一方その頃。

春樹を蚊帳の外に追いやると、瑠華はきつい目でそいつをにらみつけた。

《おっ、ようやくオラと仲良くしてくれる気になったんだべか》

「そうではない。お前を、調伏する」

完全に本職の顔になって、瑠華はとっておきのマガジンを取り出した。

試合前、こっそりとBB弾に退魔の念を込めておき、それをそのマガジンに詰めておいたのだ。

“マッハボール”がない今、幽霊を祓うための秘密兵器、調伏弾である。

がちょっ。

瑠華の得物であるウージーサブマシンガンにマガジンを差し込むと、そのまま滉太クンに向ける。

「…おとなしく成仏しろ」

そして容赦なくフルオート射撃を開始。

ばばばばばばばばばばばばばば。

《うぎゃー》



◇?◇


「俺は強化型ゲリラ怪人。BB弾で撃たれたぐらいでは、決して死なない体を手に入れた。さぁ、これまでの復讐を果たすときだぜゲリラリラ〜♪」

ナレーション:「なんと、フィールドに突如出現したのは2度の戦死を経て、弱点を克服してきたゲリラ怪人だったのだ。洗脳BB弾を600発も詰め込んだ。違法改造電動ガンを手に、今まさに狩りを始めようとしていた。あやうし、センゴクマン!」

「ふっふっふ、リベンジの始まりだぜゲリラリラ〜♪」

ばばばばばばばばばばばばばば。

「ふっ、流れ弾か。今の俺には、そんなものは効かんのだよ」

べちっ。

当った。

「ふふふっ、当ってもどうということはな…、おおっ!?」

額のど真ん中に当ったBB弾は、驚くべき効果を見せた。

しゅうしゅうと、強化型ゲリラ怪人の額から、白い煙のようなものが立ち上り、その身体が徐々に消滅していくではないか。

「なっ、何だこのBB弾は、なぜだ、なぜ俺の身体がぁぁぁぁぁぁっ…」



ぱったり。



ナレーション:「説明しよう。BB弾なら当たっても平気な強化型ゲリラ怪人も、明智瑠華の放った調伏弾には弱かったのだ」

ちゅどーん。

やがてその身体は塵となり、風に吹かれて消えていく…。

ナレーション:「こうしてセンゴクマンの活躍により、今日もまた悪の芽が摘み取られた。だが、魔王クラーマある限りセンゴクマンの戦いは続く。頑張れ、負けるなセンゴクマン。地球の未来は君たちにかかっているのだ!」


さて、余計な話は、この辺にして、本編に戻ろう。



◇伊達春樹◇


ばばばばばばばばばばばばばば。

「銃声? 敵?」

瑠華のウージーの連射音に、春樹は素早く反応した。

さっきまでは完璧にしょげていたが、春樹の目にすこしだけ生気が戻った。スナイパーとしての能力が一瞬で復活。

フィールドをすばやく見渡した春樹は、確かに敵の姿を発見した。

「殺るなら今しかねえ〜♪ 殺る、なら、今、しっか、ねぇぇ〜っ♪」

歌いながら走る、悟郎さんの姿である。

しかも、このままいけば真理姐さんの背後を取られてしまう。

「撃たなきゃ…」

APS−2スナイパーバージョンを構えると、スコープで悟郎さんを捉え、春樹は無心で発砲した。



◇黒井田悟郎さん◇


ぺちっ。

「ん?」

腹部に何か違和感を感じ、悟郎さんは走るのをやめた。

「あ…、おいら…」

呆然と立ち尽くしたところに、さらに春樹からの2度目の狙撃が命中。

べちっ。

「当たっちまったぁ…」

悟郎さんは、ゆっくりと銃を頭上に掲げた。

「父さぁぁーーーーん!!!!」

またまた叫ぶ穂多。

遠くから聞こえた娘の声に、悟郎さんは暖かく微笑むと、こう呟いた。

「瞬、お前は勝手にやれ。穂多、お前も勝手にやれ。…ヒット」

そして、この試合で最初に、フィールドを去って行った。

「瞬、穂多。おいらにはお前らに遺してやる物が何もない。でも、お前らには、うまく言えんが、遺すべものはもう遺した気がする。金や品物は何も遺せんが、遺すべきものは伝えた気がする…」


さて、去って行く悟郎さんの背中を見つめ、一人猛烈に奮起している男がいた。

「俺もう、息子だと思ってますから」

笠間譲吉であった。

悟郎さんがやられた今、俺がみんなを守ってやる。

そんな決意を固め、包囲網を突破するために、銃を取る。

こんなときのために、これまでつらい訓練を乗り越え、腕を磨いてきたのだ。

と、そんな譲吉の漏らした一言に、思いがけない反応が返ってきた。

「譲ちゃん、それって、どういう意味?」

黒井田穂多、その人である。

「えっ、あ、それは…」

なぜか赤くなる譲吉君。

そこに、したり顔で清水敏彦君が答えた。

「いい〜、質問ですっ。それはつまり、笠間くんは、穂多ちゃんと結婚して、婿い…」

「妹だぞ!」

遮ったのは瞬君だった。

「俺の…、たった一人の、妹だぞ…」

なぜか感極まった様子。兄として、色々と思うところがあるらしい。

やがて、譲吉君は、心を決めたらしく、瞬君に向かって、厳かにこう言ってのけた。

「兄さんと呼ばせてくれ」


戦場で何をやってるんだ、お前ら?



「穂多のこと、よろしく頼む」

「引き受けた」

良く分からないが、短期間に話はまとまったらしい。



◇伊達春樹&明智瑠華◇


ばばばば、ばばばばば、ばばばばば…。

銃声はなおも続いていた。

しかし、聞こえてくるのはウージーの音だけ。敵の銃声は聞こえない。

瑠華は一体誰と戦っているのだろう。

不審に思ったが、何はともあれ援護に行かないと。

急ぎ春樹は瑠華の元へ。

「明智さん」

瑠華は真剣な表情で、何かを狙って撃っていた。そして春樹の姿を確認すると、瑠華の顔に驚きと動揺が走った。

《チャンス!》

それまで逃げ回るばかりだった滉太クンは、まっしぐらに春樹に突進。

瑠華は慌てて銃を向けるが、射線上に春樹がいるため発砲できない。

「いかん。伊達、よけろ」

は?

「よけるって、なにを?」


きゅぽん。


合体。


「《うははははははっ、こいつの体はいただいた》」

春樹の口から、聞きなれない声が響いた。

「…たわけが」

瑠華としては、それしか言葉が出てこない。

まったく最悪のタイミングで現れて、最悪の事態を招いてしまった。

そして、春樹の体に憑依した滉太クンは、持っていた銃を瑠華に向けた。

「《すまんな。オラも死んじまってるから、手段は選べねぇんだ》」

「手段だと? そこまでしてチームを勝たせたいというのか」

少しだけ、瑠華の口調が変わっていた。

問答無用で調伏する、というモードから、話を聞いて真意を知りたいモードへと。

その証拠に、ウージーの銃口を下ろしたのである。

「《オラは、オラの作ったチームを全国大会に進ませてぇんだ。そのためならオラ、何でもやる。『夕張のガンマン』のスナイパーの妨害や、おめぇだちの邪魔も》」

「“大佐”の不調は、お前のせいだったのか…」

「《オラたちの夢のためだ。それを叶えない限り、オラ死んでも死にきれねェ》」

強い目だ。

元は春樹の顔だが、これまで一度も見たことがないくらい、その顔は決意に満ちた表情をしていた。

もう、後戻りできない、“漢”の顔だった。

見慣れた春樹の、見慣れない表情。文字通り別人の表情。

瑠華は動けなかった。春樹の顔を見つめながら、瑠華は動けなかった。

やがて、ゆっくりと春樹の指が、引き金にかかった。

銃口の先には、瑠華の美しい姿…。

人差し指がゆっくりと、しなやかにトリガーを引いた。



◇包囲網突破◇


「行くぞぉぉぉぉぉーー」

「うわぁぁぁぁぁーーー」

「父さぁーーーーーーん」

「当ってぇぇぇぇーーー」

「いいーー、迎撃ですっ」

…まぁ、何を叫ぶかはともかく、『富良野防衛家族黒井田家』のメンバーは5人同時に飛び出した。

そして、『FANG GUNNERS』の本陣めがけ猛ダッシュ。

ただし、それはあまりにもリスクが大きすぎた。

「やらせんっ」

ばばばばばばばばばばばば。

満を持してそのときを待っていた輪君のMP5 R.A.S.が火を噴いた。

「ヒット。いいーっ、攻撃ですっ。見事な戦術、見事な腕。いや〜、完敗ですっ」

清水敏彦君、撃沈。

びしっと親指を立ててにこっと笑うと、すたすたとフィールドを去っていった。

「…妙な奴だ」

一瞬、輪君も毒気を抜かれるほどであった。

もちろん、美亜子も撃ちまくっていた。

「ふん。突破できるはずないわ。ここにあたしがいる限り」

ばばばばばばばばばばばば。

「ヒット!」

抵抗むなしくゆいちゃんが撃墜された。

美亜子めがけて、何度も撃ったが、巧みに遮蔽物に隠れられたり、それこそ弾が届く瞬間によけられたりして、倒せなかった。

「賞味期限切れ…」

ゆいちゃん、これにて退場。

負けはしたものの、凛とした背中だった。

その一方、背後に回っていた淳二だったが、敵が強行突撃をかけたので、隠密接敵から、背後からの強襲モードへと切り替えた。

ダッシュで一気に距離をつめ、P90のフルオート射撃をお見舞いする。

「後ろが、がら空きだぜ」

ばばばばばばばばばばばば。

輪と美亜子相手に、なかなかの働きをしていた譲吉君も、これにはたまらずヒット。

「駄目だ、ヒット! 穂多ちゃん無事でいてくれ」

銃を頭上に掲げつつ、何気に淳二の射線から穂多ちゃんをかばう位置に移動する譲吉君。

身を挺して、想い人を助けようとする、なんとも好青年な姿であった。

だが、『FANG GUNNERS』側の包囲網はもう一人いた。

その穂多ちゃんを狙って、二挺サブマシンガンのあの人が突撃してきた。

「あと二人っ!」

ばばばばばばばばばばばば。

ばばばばばばばばばばばば。

「きゃあーっ、父さぁーーーーーーん」

穂多ちゃん、願いむなしく真理姐さんに撃たれてしまった。

この試合、よく叫び、よく泣いたがこれにて終幕。

『富良野防衛家族黒井田家』、瞬く間に4人が撃ち減らされ、残るは瞬君一人。

しかし、どういうわけか、『FANG GUNNERS』4人の攻撃が瞬君には当らない。

「当ってません。まだ、当ってません。神かけてまだ当ってません…」

そう喚きつつ、ダッシュする瞬君。

しかし、なぜか逃げ回るが、撃ち返そうとしてない。

そんな瞬君が、いよいよバリケードのところまでたどり着いたとき、彼の目の前に、鬼神が立ちふさがった。

「…その銃は、飾りなの?」

サムライエッジを目の前に突きつけ、美亜子が詰問した。

「僕は…、基本的に…、平和主義者で……」

とたんに泣きそうな顔になる瞬君。

細い目が、さらに細くなり、実に情けない表情を形作る。

「だらしない野郎ね。少しは、戦いなさい! 敵陣の旗を取りたいなら、それくらいの覚悟と、気概くらい持つものよ」

言いつつ美亜子の全身から大迫力の剣呑な殺気が放たれた。

ますます固まる瞬君。

だが、その脳裏には、ある男の姿が浮かんでいた。

チームを作り、地区大会優勝に導き、思い半ばで倒れた、西村滉太。

「滉太兄ちゃん…。僕…」

こんなところで負けるわけにはいかない。

兄ちゃんの夢、みんなの夢、それを叶えずに終わるわけにはいかない。

瞬君の目が戦う気持ちを取り戻したのを見て取り、美亜子は距離をとった。

「さぁ、立ちなさい。そしてあたしと勝負しなさい!」

手に持っていたCAR15を地面に置き、懐のサムライエッジをいつでも抜き撃ちできるように構える。

なにやら最後に来て、美亜子好みの展開に持っていかれたらしい。

輪、淳二、真理姐さんもいつでも瞬君を撃てる、という状態のまま、この場は美亜子の好きなようにさせる構えだ。

瞬君も『FANG GUNNERS』での美亜子の戦いぶりは、ギャラリー席で何度か見ていた。

要するに、西部劇方式の対決を、挑んでいるのだと分かった。

だから、手に持っていたエアコッキングライフルのワルサーMPL(もちろん中古の故障品を直して使っていた)を地面に置いた。

それから立ち上がり、腰のホルスター(手作り)に収まっていた、エアコッキングガン“南部14年式”に手をかけようとして、固まった。

「…あの、コッキングしていいですか?」

「いいわよ」

がちょっ。

スライドを引いて発射準備完了。それを再びホルスターに収め、瞬君は美亜子と正対した。

(兄ちゃん、僕に力をください。父さん、みんな…)

祈るように瞬君は目を閉じ、そして目を開けると同時に無心でホルスターから南部14年式を抜き、美亜子めがけて撃った。

ぼすっ!

「…あっ」

瞬君の手作り迷彩服に、美亜子のBB弾が命中した。

撃ったのと、ほぼ同時だった。

「ヒット、です」

やっぱり駄目だったか、と瞬君は肩を落とした。

(兄ちゃん、許してください。あのころお兄ちゃんが膨らましていた夢を、こんな形で僕はつぶしました。やっぱり僕は…)

だが…。

「…やるわね。あたしもヒットよ」

美亜子も両手を挙げたのである。

「へっ?」

「いい腕してるじゃないの。それに見事なエアガンだわ。このあたしが反応できないなんて…」

口ではそう言いながらも、美亜子は満足そうに微笑んだのであった。


ピピーーッ!!


そしてフィールドに試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。


この試合までの撃墜数。

片倉真理:4(+1)
本多美亜子:4(+2)
伊達春樹:2(+1)
真田淳二:2(+1)
直江輪:1(+1)


◇伊達春樹&明智瑠華◇


引き金を引いても弾は出なかった。

春樹のスナイパーライフルはコッキングしてなかったのだ。

「《あれ?》」

と、そこで試合終了のホイッスル。

「これにて終了。『FANG GUNNERS』決勝リーグ進出でっせ!」

マイクを通して今井さんの声が響いた。

「終わりだ」

どこか、慰めるような調子の瑠華の一言だった。

実際、春樹を見つめる瑠華の目は、穏やかだった。

「《終わったか。オラ…、これで…》」

ゆっくり目を閉じる。

持っていたスナイパーライフルが落ちる。

ぐらりと身体が揺れ、両膝を地面につく。

「伊達っ」

慌てて瑠華が駆け寄る。

ぱったりと倒れそうになった春樹の体を、瑠華は正面から、しっかりと抱きとめる。

ぺったりと座り込んだ春樹を、立ち膝の瑠華が抱きしめる体勢。

春樹の顔は瑠華の胸にうずめられている。

「《ああー、心地いい感触だァ。それに、いい匂いがする》」

春樹の口から漏れた、それが最期の言葉だった。

やがて、ゆっくりと、滉太クンの霊が春樹の体を抜け出し、天に昇っていく。

《色々悪かった。…ありがとう》

最期に瑠華にそう告げ、彼は完全にこの世から消えた。

もちろん彼が取った手段は、必ずしも賞賛されるべきものではなかっただろう。

だが、そこまでして守りたいものが、かなえたい夢があったのだ。


「…強いものだな。人の遺志というのは」

彼が消えた空を見上げながら、瑠華は心からそう思った。


次回予告

「決勝リーグを前に、彼らの前に現れたのは心強い援軍。
だが、それは一話一不幸を襲う更なる不運の前触れでしかなかった。
そして最強のライバルの出現に、輪の運命は?
思いがけないところで、芽生える恋の行方とは?
次回五行戦隊センゴクマン「センゴクマン黎明」

『FANG GUNNERS』の歴史が、また1ページ」


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