五行戦隊センゴクマン!
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「センゴクマン反撃」
モンテキュッコリ(オーストリア、元帥)
コスプレ衣装、入場曲、その他さまざまなネタや寸劇の台本にいたるまで淳二がやりくりしているのだ。 だが、そのことについて、そろそろ輪は後悔し始めていた。 そんな折の出来事である…。
今回淳二はいくつもの入場曲のレパートリーを作ってきており、この試合では、第一試合とは別の音楽で入場することになった。 「やっぱ、敗戦の責任は作戦参謀が取らなきゃな」 なんてことを淳二が言って、輪が槍玉に挙げられたのだ。 「…信賞必罰は武門のよって立つところ、責任を取ることに異存は無いが、何をどうするのだ?」 淳二の指令は単純だった。今回の入場は、輪が先頭で出て行くこと。 ただそれだけ。
「ドラゴンゲートより『FANG GUNNERS』の入場でっせ!」
いかにも楽しげで軽快なイントロが流れだし、輪はステージに足を踏み入れた。 どこかで聞いたメロディなのだが、とっさに思い出せない。 仕方ないので、淳二の指示通り、春樹を従えて、音楽に乗せてすちゃすちゃ歩き出した。 ギャラリーはといえば、この曲に乗せて真っ先に輪が登場したことで、もうこの先の展開が読める人が多数。 笑いのダムは決壊直前。 で、歌が始まった。
お約束のように輪が激昂するが、それはむしろギャラリーをさらに沸かせる効果しかなかった。 「何だとは何だ輪、この日のためにわざわざ広奈ちゃんが歌ってくれたんだぞ」 そう、おちゃらけたアニソンにはもったいないくらいの絶妙な美声は広奈のものだった。 淳二が大会前にこっそり広奈に頼み、カラオケボックス『敦盛』にて録音していたのである。 「そりゃなにか、武田も共犯ということなのかっ」 広奈の名前を出され、輪は怒りよりも、どこか得体の知れない恐怖を感じていたりする。 「ふっふっふ、広奈ちゃん、すげー協力的だったぜ。おかげでオレは2人っきりでカラオケを堪能できたってわけだ」 どーだ羨ましいだろう、とでも言いたげに淳二は胸をそらせた。 「…もはや何も言えん」 そこまで手の込んだ淳二の仕込みに呆れるだけである。 むしろ、喜んで協力したという広奈にこそ、輪は恐れをなしていたりするが…。 (…もしかして、見ているのか?) ギャラリー席を見渡してみると、案の定、5人の勇将と1人の執事を従えこちらをじっと見ていた広奈様と目が合った。 (……やっぱり) 目が合うと、広奈様はにっこりと微笑み、こちらに手を振ってくれた。 この上なくご機嫌麗しいご様子。 輪は頬をひくひくと引きつらせつつ、ぎこちなく広奈から視線をはがした。 (駄目だ、俺にはやはり武田の底が見えない…) 戦う前から自信喪失気味の輪である。 そして、輪の知らぬところでもう一つ、事件が進行していた。 例の辺見悦子、鳥枝杏樹、倉田里子の“リンスリーガールズ”である。 無論彼女らはステージ上の輪を見ていたが、その輪の視線の先、凄まじく清純で美人のお姉さんの姿を発見。 もちろんその人こそ『チーム風林火山』のリーダー、武田広奈様である。 すると、その広奈様、輪に向かって実に嬉しそうに手を振っているではないか。 明らかに超親しげな様子である。 ステージ上の輪のなんともいえない表情といい、明らかにただならぬ関係にあることが予想された。 「見た?」 「見た。怪しいわね」 「あの“あずみあこ”さんはそれらしいこと言ってたけど、ほんとなのかな」 「どういうこと?」 「もしかして、あの人がナオさまの彼女で、ナオさまを追いかける為にこの大会に参加したとか?」 「ありえる…」 「そうなのかな…」 「突撃して聞いてみよっか」 「そうしましょう」 「…うん」
しかも、質問の内容も微妙だった。 「ナオさまとお付き合いされてるんですか?」 で、広奈様は友好的な微笑みを浮かべ、3人の小さなレディにこう答えた。 「はい、学校でも、それ以外でも、仲良くお付き合いさせて頂いていますわ」 広奈様のお付き合い=友達付き合い。 リンスリのお付き合い=恋人付き合い。 天使のような笑顔でそう言われたものだから説得力抜群。 リンスリはすっかり真に受けてしまった。 なので、そのまま蒼白な顔で引き下がった。 「なんだったのかしら?」 残された広奈様は、不思議そうに首を傾げるばかりである。
今井さんの名調子に乗り、次にスピーカーから流れ出したのは超有名なクラッシックの曲だった。 地鳴りのようなトリルと嵐の吹きすさぶようなアルペジオが交錯し、天馬が黒雲の中を駆けるが如きファゴットとホルンの歯切れのある伴奏が聴衆を一気にこの曲の中に引き込む。 そして、かの有名な勇壮なメロディーが続く。 ちゃっちゃらちゃーんちゃ♪ ちゃっちゃらちゃーんちゃ♪ ちゃっちゃらっちゃーんちゃー♪ ちゃっちゃらっちゃーん♪ そう、R.ワーグナーの代表曲『ワルキューレの騎行』に乗って、道東地区準優勝チーム『地獄のも釧路区』堂々の登場である。
6人とも、ベトナム戦争時のアメリカ軍の格好に統一し、使用する電動ガンはもちろんコルトM16A1ベトナムバージョンだ。 しかも、その電動ガンにはしっかりとM203タイプ・グレネイドランチャーが備え付けてあり、腰にはサイドアームのコルトガバメント。
なかなかの重装備である。 何より特徴的なのは全員の顔。 なんと、泥か何かを塗りつけたかのように、真っ黒にフェイスペインティングしているのである。 そんな顔が6個並んでいるのは、なかなか不気味。 しかも、それが『ワルキューレの騎行』に乗って登場するのだから、その見映えだけで敵を圧倒するチームである。 (おっ、チャーリー・シーンにちょっと似てるやつがいるな) 真理姐さんが目に留めたのはリーダー格の男だった。 顔は真っ黒だが、よく見るとなかなかいい男である。 そんな訳で、そいつは以後、真理姐さんの中でチャーリーと呼称されることに決定。 付け加えると、そのチャーリーは背中に何か筒状のものが入ったケースを背負っていたが、それを目に留めた者は真理姐さんを含め、『FANG GUNNERS』の中には居なかった。 なんといっても音楽と、その黒い顔のインパクトが大きかったためである。
特に自己紹介をするでもなく、友好的な微笑みを浮かべることも無く、その不気味な黒い顔に白い目を爛々と光らせて、『FANG GUNNERS』を威嚇するのみである。 なお、これは蛇足だが、『地獄のも釧路区』のチームメンバーは全員サーフィン部に所属しており、釧路の荒波と戦って鍛えた体は、ムキムキである。 その基礎体力たるや、まさに平均的な米軍陸軍兵士並みなのだ。 ちなみに、『地獄のも釧路区』はAリーグの第二試合で道北地区の優勝チームに僅差で競り勝っている。 道東地区準優勝とはいえ、その実力は相当に高い。 で、さらに悪いことに、道北地区の優勝チームはこの前の第三試合で、なんと!『夕張のガンマン』に勝っちゃったのである。 ってことは、単純に考えると『地獄のも釧路区』は、『FANG GUNNERS』に勝った『夕張のガンマン』に勝ったチームに勝ったわけだから…。 『地獄のも釧路区』>道北地区優勝チーム>『夕張のガンマン』>『FANG GUNNERS』、である。 どうなる『FANG GUNNERS』? これで負ければもう後がない。崖っぷちのバトルである。
フィールドに向かう途中、満を持しての輪君の作戦発表である。 「まず、塹壕戦に対抗する方法は大きく分けて二つしかない。ひとつは戦車や航空機を利用して、歩兵によらずして塹壕を攻略する方法。これはサバゲーでは無意味なので無視する」 「まぁ、サバゲーには戦車も飛行機もないしな、当然だわな」 と、淳二の相槌に頷き、輪はさらに続けた。 「もうひとつが、塹壕にこもる部隊を戦略的に孤立させ、その地点の戦術的価値を無くす方法。つまり、塹壕に立てこもる部隊の目的は何か、それは戦略的に重要なポイントに敵を近づけさせないことだ。だから、塹壕を正面から攻略するのではなく、迂回作戦で塹壕にこもる部隊が守っているポイントを先に攻略すれば、あえて塹壕戦を挑まずして勝利を得ることが出来る。たとえば、湾岸戦争ではイラク軍が塹壕を数線にわたり建設したが、多国籍軍は迂回作戦で背後を突くことによって、塹壕を無力化し、最前線部隊を降伏に追い込んでいる。『FANG GUNNERS』は今回これをやる」 「なるほど、敵を全滅させるだけが勝利じゃないってことか。さすがダーリン(はあと)」 真理姐さん、すっかりこのダーリン攻撃がお気に入りらしい。 輪はやはり2秒ほど脱力してから、気を取り直してマップを見せつつ説明開始。 「作戦はこうだ、まず敵は塹壕戦を仕掛けるので、それを受けて立つ。だが、受けて立つのは5人。5人が敵と塹壕戦をしている隙に、1人が大きく迂回して、敵の本陣に侵入してフラッグを奪う。簡単に言えば、今回はそういう策だ。…なにか質問は?」
試合開始後5分ほどして、両チームは上の図のような布陣となり、案の定膠着状態に陥っていた。 そしてここまではほぼ輪の作戦通り。 まず、試合開始と同時に美亜子と真理が真っ先に山ルートに進撃し、頂上付近を押さえて高所の利を得る。 そこに春樹も加えた3人で塹壕戦を挑む敵に対抗する。 ある程度地の利はこちらにあるので、3人でも敵を牽制することができる。 そこで、輪と瑠華がフィールド中央部を徐々に進み、最終的には5人で横一線のラインを構築し、敵に対抗する。 そして、切り札となるのが“忍者”淳二である。 淳二に課せられた使命、それは5人が敵の目を引き付けている隙に、こっそり敵陣に進入し、フラッグを奪う、というものであった。 そのため、試合開始からしばらくは淳二は橋の前にて待機し、両チームが膠着状態に陥ったところで敵陣に向かって隠密裏に進撃する手はずであった。 もちろん、淳二はあくまで切り札。 可能であれば、山の上からの春樹の狙撃で、敵を1人ずつ片付けたかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。 塹壕戦のプロ、という触れ込みは本物で、敵はこちらの射線上に、わずかに銃口をのぞかせる程度。 ほぼ全身を木や岩の陰、茂みなどに巧みに隠し、こちらの狙撃をこの上なく困難なものにしていた。 要するに、春樹がスナイパーライフルで狙おうにも、標的の面積があまりに小さいのだ。 そして、春樹でこの苦戦っぷりなのだから、ほかのメンバーも四苦八苦。せいぜいが牽制程度の射撃を繰り返すだけ。つまり、これが膠着状態というわけだ。 さて、われらが『FANG GUNNERS』の作戦参謀こと、直江輪は悩んでいた。 淳二にGOサインを出したいところだったのだが、敵の数を把握できずにいたのだ。 つまり、6人全員を引き付けた確証があればよいのだが、どうも自分たちの前に5人しかいないように見えるのだ。 見える、といっても敵は巧みに身を隠している、つまり、銃声が5つ分しか聞こえないというのが、輪の判断の基準だった。 (6人目は、本陣にいるのだろうか? それとも、橋ルートから進撃中か? あるいは、あえてこれまで発砲せずにどこかにアンブッシュしているのだろうか) この、姿が見えない最後の1人が、不確定要素となり、心配性の輪は、思い切った決断が出来ずにいたのだった。
クラウゼヴィッツ(独陸軍少将)
「直江、まだか?」 激しく牽制の射撃を繰り返しつつ、そう聞いてきたのは瑠華だった。 まだか、の主語が抜けていたが、それが淳二に対するGOサインのことだと、輪はすぐに分かった。 (催促されるとは、悩みすぎたか…) 膠着状態になって、すでに3分は経過したのだろうか。 このままではいずれ自分たちにヒットされる人間が出てくる。 数が減れば、この膠着状態が一気に崩れて、押し流される危険性もある。 (ええい、儘よ) 思い切って輪は決断した。 で、大声で叫ぶ。 「敵の左翼に射線を集中しろ!!」
それを聞いて、淳二が動き出した。 そう、この言葉が、GOサインなのだ。 敵にそれを気付かれぬよう、実際に輪と瑠華も、そして山の上の3人も、ここぞとばかりにフルオートでの集中攻撃をお見舞いする。 これにはたまらず、敵の1番と2番が亀のように身を縮めて遮蔽物の陰に引っ込んでしまう。 (よし、これでいい、こちらの作戦は気付かれないはずだ) 指揮官として一番大事な仕事、つまり作戦のGOサインを出した輪は、今度はその作戦を完璧にするべく、不確実性を消す作業を開始。 すなわち、瑠華に対して、小声でこう指示を出そうとした。 「明智、敵の6人目を探してくれ」、と。 しかし、輪は「明智」と呼びかけ、瑠華を見たところで硬直していた。 輪の視線の先、瑠華は木の幹に背中を預け、片膝をついてマガジンの交換中だった。 で、輪の呼びかけに、身体ごと振り返った。 当然、片膝を立てた状態で、輪に正対したものだから、輪の目に、とっても刺激的な光景が飛び込んできた。 前の試合、春樹が見た、アレである。 「むっ…」 しかし、そこはそれ、綾瀬一筋の輪であるからして、そんな誘惑には負けなかった。 わざとらしいくらい、ぐるんと首を横に回してあさっての方向を向くと、なるべくクールに聞こえるよう、こう言った。 「明智、失礼を承知で忠告させてもらうが、下着が見えている」 「ん…。すまない」 瑠華も、平然と答え、立てていた膝を下ろした。 この2人の場合、このちょっとした事件はそれで終わるはずだった。 だが、少し遅れて瑠華は気付いてしまったのだ。 前の試合の春樹のあの狼狽っぷり、心ここにあらずといった春樹の視線の先に、何が見えていたのかということを。 「あっ…」 やけに可愛らしく聞こえた瑠華の呟きに、何事かと輪が反応する。 「…どうした?」 「はっ? あ、その、なんでもない…」 全然なんでもない風には見えなかった。 ぼんっ、と音がしそうな勢いで、瑠華の顔は真っ赤に染まっていたのだ。 ゴーグル越しにもそれと分かる。羞恥に目を伏せ恥らう乙女(そう、まさしく乙女だ。普段の仏頂面からは考えられない)の姿に、輪はいささか驚いていた。 (あの明智が? このリアクションは予想外だ…) 鬼の目にも涙、ではないが、瑠華の意外な一面に、すっかり輪の目は奪われてしまっていた。 珍しいものを見たとき、やはり普通の人間であればそれに気を取られるものだ。 例えば、めそめそ泣く美亜子、ガハガハと豪快に笑う春樹、無口で暗い淳二、ヒステリックに怒り狂う広奈。 そんな光景が繰り広げられていれば、輪は「何の冗談だ?」と呟きながらやはり対象を注視しただろう。 そこで照れる瑠華である。 しかも、どうやら自分に下着を見られたことで、瑠華が顔を真っ赤にしている。 (俺に見られてそんなに恥ずかしかったのだろうか?) 逆に、自分が照れてしまいそうな、この反応。 (まさか、明智に限って…。俺に恋愛感情など抱いているようには見えなかったが…) お世辞にも輪君は女の子の心理状態に敏感とはいえない。むしろ鈍い。 鈍いながらも、この場合、輪君の直感は正しかった。瑠華は輪に対してはこれっぽっちも恋愛感情を抱いていない。 にもかかわらず、輪は思わず考え込んでしまった。今起きている現象のほうが、真実を雄弁に語っているのではないだろうか、と。 もう一度言う、輪は女の子の心理状態を把握することに関しては、とっても鈍い。 だから、瑠華がひたすら照れ、恥じらいに頬を染める対象が自分ではなく、春樹だということには思い至らないのであった。
すなわち、池の水面に不自然な波紋が広がっていたことと、そこからぬーーーーーーーっっと黒い顔が浮かび上がったことに…。 その黒い顔は白い目を不気味に光らせると、再び水中に沈んだ。 彼(ちなみにチャーリー)の視線の先には、輪と瑠華の姿があった。
敵からの牽制射撃が割と近くに着弾した為、ようやく我に返った。 「いかん」 ぼーっとしている暇はなかった。 輪は敵に対してMP5 R.A.S.による牽制を返しつつ、瑠華に再度指示を出そうとした。 「明智、敵の6人目の姿が…」 と、その瞬間、突如池の水面が盛り上がり、輪が探していた6人目(チャーリー)が水中から現れた。 そして、池から飛び上がるようにして岸に上陸すると同時に、輪と瑠華の2人を狙って“M72A1バズーカ砲”から300発のBB弾シャワーを発射したのだ。
「?」 避けようもなかった。
そして2人を中心に、広範囲に降り注ぐ300発のBB弾シャワー。 そう、輪が懸念していた通り、姿の見えなかった6人目がとんでもない事をしていたのだ。 すなわち、試合開始と同時に、真っ先に池に入ってそこに潜み、ゆっくりと池の中を進んで輪と瑠華の背後を取った。 そして必殺の間合いまで接近し、最終兵器とも言うべき300発のBB弾を同時にばら撒けるバズーカを発射、2人まとめて仕留めた、というわけだ。 ちなみに、バズーカは発射口以外をビニール袋で密封し、防水加工済みだった。 サーフィン部のノウハウが戦場で生きていた、というわけである。
輪君、痛恨の失敗。 痛恨も痛恨、代打逆転満塁ホームランを打たれたピッチャーくらいの大打撃。 なにしろ、池からの奇襲作戦に最後まで全く気付けなかった。 こうもあっさり敵の罠にかかってしまうとは、軍師としてあるまじき失態だ。 そして思う、いくらゲームとはいえ、この心情は本当に死に逝くもののそれと変わらないだろう。 すなわち、『これじゃ、死んでも死に切れない』、と。 これで『FANG GUNNERS』は敗北するだろう。またしても自分のミスで。 なにしろ池から上がった6人目が本陣に向かえば、そこは守る人間が誰もいない。 あっさりフラッグを奪われてしまう。 これで決勝トーナメント進出は99%不可能だ。 一瞬の間に輪はそれくらいのことを思い浮かべた。そして死に逝く無念を込め、断末魔の雄たけびのようにして叫んだ。 「ヒットぉぉぉっ!」
瑠華もまた、1回戦に続いて何の力にもなれずに消えることになってしまった。 ちゃんと周りを警戒していれば、たとえ池の中に隠れていようとも、敵のオーラを察知できたはずなのだ。 それなのに… 「…ヒット」
それは、池の反対側を進軍中だった淳二にも、もちろん聞こえていた。 そして、淳二の目が、池から上がってきた敵の姿をしっかり捉える。 (まずい、本陣ががら空きじゃねぇか!) 瑠華と輪がいなくなったことで、こちらの戦線にぽっかりと大穴が開いてしまった。 池から上がった敵が、このままフラッグを奪いに走ったら敗北決定である。 とっさに、淳二は全速力で駆け出した。 すなわち、自分の陣地へと大急ぎで戻ろうとしたのだ。 時を同じくして慌てたのが春樹だった。 敵への牽制に夢中だった真理姐さんや美亜子より少しだけ早く事態を把握。 「この場は頼みます。支えてください」 2人にそう言い残し、これまたとっさに本陣へと駆け戻る。 『FANG GUNNERS』、第一試合に敗北している以上、この試合も負ければ、決勝リーグへの道が断たれてしまう。 とにかく、大ピンチだった。
「ナオさまがっ!」 「ああーっ」 「やられちゃった」 悲鳴じみた声を上げると、今度はチャーリーを攻撃。 「ってか、なにあいつ、ずるいわ。反則よ」 「卑怯です…」 「ナオさま、かわいそう」 哀れチャーリー、せっかくの戦果なのにリンスリにかかってはこうである。 そんなわけで、3人の視線の向かう先はあくまでも輪。 がっくりとセーフティーゾーンに向かう、輪と瑠華を見ながら、リンスリはまたしても想像の翼を広げていた。 「…あのさ、どうしてナオさま、あの女とじゃなくて、あの髪の長い人と一緒に戦ってたんだろう?」 鳥枝杏樹の疑問に、辺見悦子と倉田里子は揃って首を振る。 「そういえば、どうしてなんだろう…」 「…でも見て。ほら、なんか変な雰囲気だよ」 倉田里子の指摘した通り、輪と瑠華はお互い声もかけられない、非常に気まずい雰囲気のまま、無言を貫いていたのだった。 なにせ、やられた原因が原因である。2人とも恥ずかしくて顔向けできないでいるのだ。 「ほんとだ…」 「なんか、怪しい」 3人して同じ感想を抱いたようだった。 要するに、2人を隔てているのは、青春の甘酸っぱい恥じらいの空気。 それがまた、初々しい恋人同士の間に漂うそれと非常に酷似していたものだから、それを見ている3人には非常に疑わしく映っていたのである。 それに瑠華は黙っていれば、広奈に勝るとも劣らない超絶美人だ。 それだけでも警戒に値するではないか。 こうして、リンスリーガールズの中で、瑠華は“もしかしたらナオさまとひそかにデキてるかもしれない要注意女”、と認知されたが、それはまた別のお話。
もしも、ここで池から上陸を果たしたチャーリーが『FANG GUNNERS』のフラッグを奪いに走っていたら、『地獄のも釧路区』の決勝リーグ進出が決まっていただろう。 だが、そんな事態にはならなかった。 というのも、チャーリーがいきなり濡れた迷彩服を脱ぎだした為である。 しかもとんでもなく早い脱ぎっぷり。 すわ露出狂? とギャラリーが一瞬ざわめく。 しかし、迷彩服の下に見えたのはムキムキの裸体…、ではなく黒のウェットスーツだった。 それもただのウェットスーツではない。背中に大きく白抜きで『サーフィン最高!』の文字。 「サーフィン最高?」 「なんじゃそれ?」 理解不能の現象に、ギャラリーが一斉に静まり返る。 池からの奇襲という、前代未聞の作戦を成功させたヒーローが、かくも意味不明の行動をとるとは…。 そこまでしてサーフィンの素晴らしさを伝えたかっただろうか?
サーフィンのためなら、戦争も辞さない。
しかし、チャーリーはなんとそのウェットスーツの中からコルトM16A1ベトナムバージョンとM203タイプ・グレネイドランチャー、そしてコルトガバメントを取り出した。 「…どこに収納してたんだ?」 ギャラリーも呆れ、美亜子も真っ青、ナオえもんも形無しの収納術であった。 ってなわけで、迷彩服を脱ぎ捨て、ウェットスーツから銃を取り出したチャーリーがようやく進軍を開始。 しかし、時間にして1分に満たないそのロスが、結果として『FANG GUNNERS』を救うことになった。 淳二は猛ダッシュ中。そして春樹も駆け足で本陣に向かいつつ、1発だけ牽制の弾をチャーリーに向かって放った。 その弾は、チャーリーの鼻先をかすめて、木の幹に当たったが、その足を止めるには十分だった。 とっさに狙撃を警戒して、身を低くし、遮蔽物に隠れたのだ。 (よく分からないけど、助かった…) 少し遅れて、今度は反対側から淳二のP90の銃声が聞こえてきた。 牽制射撃をしながら、猛スピードで本陣付近まで戻ってきたようだ。 チャーリーの謎パフォーマンスは、淳二と春樹の二人に戦線を立て直す時間を与えたわけである。
「敵さん、なかなかやってくれるじゃないの」 ピンチにもかかわらず、真理姐さんは笑顔だった。 ただし、どちらかといえば、壮絶な笑み、である。 「ふん、おもしろいじゃない」 美亜子も、鼻を鳴らして不敵な笑み。 山の上では戦闘的美女2人が、味方がやられたことで超強気モードが発動していたのだった。 輪と瑠華がいなくなったことで、塹壕に潜んでいる5人の敵の射撃は山の上のこちらに集中している。 しかも、牽制射撃しながら、徐々にこちらに近付きつつあった。 そう、瑠華と輪が抜けた戦場の空白地帯に、敵のメンバーのうち、右翼にいた2人が侵入してきたのだ。 すなわち、山の上にいる2人は、徐々に包囲されつつあり、どうしようもないくらいにピンチだった。 そんなBB弾が頭上を乱れ飛ぶ危険極まりない戦場において、真理姐さんが大胆にも自分の持ち場を離れた。 そしてゆっくりと美亜子に近付き、右手に持っていたMP5KA4“クルツ”を差し出した。 「なに?」 「これを使って。この場にあたしがいるように見せかけるんだ。2分でいいから支えて」 「…OK」 美亜子もさすがに戦闘の天才である。天性の勘で、真理のとっさの策を把握したのだ。 「頼むよ」 そう言うと、あっという間に真理は美亜子の視界から消えた。 残った美亜子、驚くべきことに、たった1人で5人の敵相手に、戦線を支え続けたのだった。 右手のコルトCAR-15で右翼の敵を、左手のMP5KA4“クルツ”で左翼の敵を牽制し、敵の目を自分に引き付け続けたのである。 塹壕戦では敵の姿が見えにくいので、当然敵の数を把握するには音が頼り。 断続的に聞こえてくる“クルツ”とCAR-15の銃声は、『地獄のも釧路区』のメンバーを見事にだましていた。 つまり美亜子と真理の2人が相変わらずそこに潜んでいるであろう事を、全く疑わせなかったのである。
チャーチル(英首相)
とっさの判断にしては、うまくいった。 美亜子がすばらしい戦いっぷりで敵を誘い出してくれた。しかも、敵は真理がここに居ることに全く気付いていない。 真理姐さんは、ゴーグルの中でにやりと笑みを浮かべると、小さく気合を入れて、猛然とダッシュ。 フィールドの端のほうは身を隠せるが、どうしても遊歩道を通るときに敵にその身をさらすことになってしまう。 であれば、スピード勝負。 一気に遊歩道を横切り、敵が気付かなければ万々歳。気付かれたとしても、あとはフラッグ目指して弾丸のように突き進むだけだ。 しかし、敵も見逃してくれるほど、甘くはなかった。 「いかん、敵だ! フラッグを守れ!」 一番端にいた敵が、真理を発見。 素早く本陣に戻るべく、こちらもダッシュ。 さらにその隣にいた2人も加わり、合計3人が真理を阻止せんと動いてしまったのだ。 だが、慌てて駆け戻ったことで、得意の塹壕戦ではなく、お互い走りながらの射撃戦を余儀なくされた。 で、それこそ、真理姐さんの得意とする分野だった。 あいにく二挺サブマシンガンではなかったが、真理姐さんは全速で走りながらも、その銃口は見事な精度で敵を狙い撃っていた。 もちろん敵が塹壕に潜んでいれば当たるべくもないが、今回は向こうは塹壕を出て全身を真理の前にさらしているのだ。 いわば、陸に上がった河童も同然。 標的が大きければ真理の腕では走りながらでも問題なし。MP5KA4“クルツ”からフルオートで発射されるBB弾は、面白いように当たった。 「なっ、ヒット!?」 「ひ、ヒット」 「ヒット!? んなバカな…」 真理を阻止しようとした3人は、ほんの数秒で立て続けに仕留められてしまった。 これぞサバゲー姐さんの真骨頂だ。 時を同じくして、本陣に向かっていたチャーリーは、巧みなストーキングで背後に回った淳二に討ち取られた。 陸に上がったサーフィン野郎の末路であった。 「ヒット! サーフィン万歳〜っ!!」 結局彼の行動は、最後まで意味が分からなかった。 そして、美亜子は5人に包囲されてなお、1人で戦線を支えていたが、このうち3人が真理に引き付けられた。 つまり、これで1対2。美亜子の力を持ってすれば十分勝負になるのだ。 しかも、今回の美亜子は二挺サブマシンガン。 火力の面でもばっちり対抗可能。怒涛のフルオート射撃により放たれたBB弾の1発が“ラッキー”なことに木の幹にぶつかって跳ね返り、それが遮蔽物の陰にいた敵に命中したのだ。 「ヒット!」 そして最後の1人が春樹の狙撃の前に沈む。 「くそっ、ヒット!」 こうして敵が全滅したのと、真理姐さんがフラッグをゲットしたのはほとんど同時だった。
まさに大どんでん返し。 この試合、ギャラリーを沸かせたのは、立て続けに3人を仕留めフラッグを奪った真理姐さんと、一時的にとはいえ、たった1人で5人を相手に獅子奮迅の活躍をした美亜子に尽きる。 そして、多分いろんな意味で一番インパクトを与えたのはチャーリーなのだが…。 この結果、予選Aリーグは全チーム一勝一敗となった。 ということで、3試合目に勝ったチームが決勝リーグに進むこととなる。
片倉真理:3
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『チーム風林火山』それは『FANG GUNNERS』の最強の敵。
出番を奪われても、頑張れ『FANG GUNNERS』」 |