五行戦隊センゴクマン!
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「センゴクマン遠征」 ブルシロフ(ロシア陸軍大将)
長身でハンサムな知的無敵輪君や、超絶美人、つややかな黒髪の瑠華。美亜子や真理だって人目を引くには十分な顔立ちだし、エネルギッシュで愛嬌のある淳二と、まるでTVドラマのキャストが移動しているようにも見える。 (もちろん、春樹は付き人だ) 彼らは当然とても目立っていたが、特に周りからの視線を気にする風もなく、指定席のある4号車にて、各々シートに腰を下ろした。 進行方向向かって左側、窓側である「4のA」に美亜子、通路側の「4のB」には淳二、その隣「4のC」に輪、「4のD」は瑠華。 その前の「3のC」は真理が座り、窓際の「3のD」席は春樹だった。 もちろん、春樹と真理はシートを回転させBOX席にしてある。 すると真理と輪、春樹と瑠華が向かい合わせである。 どういう経緯があってこの席の並びになったのか、それは今は語るまい。 ともあれ彼ら6人に共通しているのは、明日の北海道大会に向けた緊張感と闘志、そして朝7時20分という理不尽なまでの早起きを強制する発車時刻に端を発する強烈な眠気だけであった。
『月刊種子島』 400年以上続くという常識外れのミリタリー雑誌である。 ポルトガルの船が種子島に鉄砲をもたらした2年後には、もう創刊されていたという伝説すらある超老舗だ。 もちろん現代においてはもっぱらエアガンやサバイバルゲームを中心に取り扱っている。 その雑誌に先だって開催された北海道大会予選の特集が組まれていたのである。 実際『FANG GUNNERS』はその雑誌の簡単な取材を受け、集合写真を撮られたのであるが、いかんせん『チーム風林火山』に負けたショックの大きさもあり、さほど印象に残ってはいなかった。 が、 「まぁ、まずはこれを見てみろ」 おもむろに輪がその雑誌を取り出し、全員の視線が表紙に注がれるやいなや、いっせいに驚愕の声が上がった。
「広奈?」 「広奈ちゃん?」 「武田…」 「武田さんが」 「なんとまぁ…あの子が」 そう、その雑誌の表紙には広奈の笑顔がでかでかと踊っていたのであった。 「…ちなみに全国紙だ」 輪が勿体つけたように、そう補足した。 「ちょ、ちょっと見して」 淳二が輪から雑誌をふんだくると、ぱらぱらと目次のページを開いた。
「古い雑誌だからな」 もっともらしく輪が解説。 「そういう問題か?」 首をひねる淳二。 「武田さんの特集まであるの? なんか、4組のみんな、買いそうだね」 困ったような表情でそう言ったのは春樹だった。 もちろん内心では(僕も買わなくちゃ。売り切れなきゃいいけど)と思っている。 「しっかし、全国の本屋にこれが並ぶんだぜ。なまらすげぇ」 感嘆の声を上げたのは淳二だ。 すると無表情のまま腕組みをしていた瑠華が、こっくりと頷いた。 「ああ、驚いたな…」 珍しくそんな感想を口にする。 (まったくだ。あの瑠華を驚かせるんだから相当なものだ) 全員一致でそう思ったのも無理はない。 だが、瑠華はそのあとに誰に言うでもなく、ボソッともう一言。 「…まさかオーダーメイドとは」 ずるっ、と全員がシートからずり落ちた。 なかなか見事なこけっぷりであった。 「驚くポイントそこかい」 苦笑しつつ真理がそう言い、淳二を手招き。 「あたしにも見せてよ、惜しくも敗れた『FANG GUNNERS』の記事はないの?」 「えっ? あぁ、あるかな…?」 今度は真理が雑誌をめくる。 程なくそれは見つかった。 北海道大会に進出する全8チームについて書いた特集記事があったのだ。
「当初の予想を覆して…ってのは気に障るけど、美人3人って、なかなか正直な記事を書くじゃないか」 どこか愉快そうな真理。 「でも、なーんか、点数が低いわね」 ちょっと口を尖らせ、美亜子が文句を言う。 「確かにね『チーム風林火山』と比べるとずいぶん…」 そのチーム風林火山についてはこんな感じである。
「総合評価10だって。広奈ちゃんのかわいさに目がくらんだのか?」 面白くなさそうにそういったのは淳二だった。 「目がくらんだって、お前や春樹でもあるまいし」 真理が肩をすくめやれやれのポーズ。 「そ、そ、そ、そ、そんな、め、目がくらんだなんて…」 どもりまくって春樹がそう言うのが真理はちょっと面白くない。 「なんだよ、冗談だって。そんなに動揺するなよ」 げしげし。と、肘打ち二回。 「…いや、まぁ、目がくらんだはともかく、なんでこんなにオレらの評価が低いかなぁ。オレの活躍をちゃんと見てなかったからか?」 淳二にしてみれば『FANG GUNNERS』の記事では自分に関する話題が一切出ていなかったのだ。 スナイパー春樹の技量や女性陣の美貌だけが話題になっているのは、なかなか不本意だった。 と、同じく話題にされていない不遇の男が発言した。 「いや、これはある意味チャンスだな」 “軍師”の言葉に何事かと全員の視線が集中する。 「見れば他の地区の代表チームの記事も載っている。これから戦う相手の情報だ。詳しく書いてくれているなら十分役に立つ。逆に俺たちの記事は大した情報量ではない。さらに点数が低ければ敵も油断するだろう。その隙に乗じて勝てばいい」 「なるほどね、ものは考えようか。さすがいいところに目をつけるね」 相槌を打ったのは真理。 「そうだ、戦う前に注意しておくべき敵は何か。それは“先入観”だ。この点で俺たちと戦う相手はすでに不利な態勢にある。俺たちを見くびっていれば好都合。この俺が存分に翻弄してやる」 輪はそう言って口元をにやりとゆがめ、「ふっふっふ」などと小さな笑い声など上げていたりする。 (自分の記事がなかったから不機嫌なのかしら。相変わらずそーゆうとこ子供ね) などと美亜子に分析されているが、当の輪君はそんなことに気付いてはいなかった。
一方4人で向かい合わせの輪、瑠華、真理、春樹は本番に向け、ジェスチャーの練習。 実戦においては敵に見つからないように、声ではなく、ジェスチャーによって仲間と連絡をやり取りする手段が必要である。 これまでにも練習をしてきたが、移動中であっても彼らは弛まぬ努力をしているのである。 「じゃあ、春樹、行くぞ」 「はいっ」 真理が窓のほうを向き、後ろの春樹に向かってジェスチャーをしてみせる。 といってもまるで手話のようにぱっぱっぱっぱと目まぐるしい。 それを見た春樹が同時通訳。 「ええと、“とまれ”“身体を低くしろ”“11時方向”に“敵二人発見”。“私が”“1時方向に進む”“牽制の射撃”を“30秒後”に“スタートする”。“お前”は“10時方向に”“ストーキングする”“そして”“遮蔽物から”“狙撃する”」 「よし正解!」 「凄いな…」 確かに見事な意思の疎通だった。 輪が素直に感心する。 「これは十分切り札になりうる」
くすくす笑いをしつつ、真理が他の3人を促す。 見れば、美亜子と淳二が、いつの間にやらぴたっと肩を寄せ合って仲良く熟睡中…。 淳二はいかにも平和そうに口をぽかんと開け、目元はなんともいえない笑みが形作られていた。 見ているこっちまで幸せな気持ちが伝染してしまうような、見事な寝顔である。 それを見た4人の顔に微笑みが浮かぶ。 (真田君て、寝ているときも僕たちを和ませてくれるなぁ) 春樹の感想である。 で、一方の美亜子はまったく対照的に、口元は堅く引き締められ、寝ていると言うよりは、座禅を組んで瞑想しているような、一部の隙も無い寝顔…。 うかつに近づいたら、それこそいきなり斬りかかられそうである。 (こ、怖い…) いや、それはある意味正しい認識だが、結構失礼だぞ、春樹君。 が、そんな二人が肩と肩を寄せ合い、頭と頭をくっつけて寝ている。 それを見た輪。 (ああも無造作に美亜子と…。淳二のやつ、よほど心を空っぽにして寝ているに違いない) と、妙な感心の仕方をしている。 なにせ、美亜子と言えば野生動物並みに危機には敏感である。 たとえ熟睡中でも、ちょっとでも邪な心を持つ輩が近づけば間違いなく目を覚ますだろう。 その美亜子が、(顔は怖かったが)すっかり淳二に身体を預けて寝ているのだ。 「いいコンビだよな、あいつら」 微笑ましいものを見たときの表情で、真理姐さんがそう言う。 「そうだな」 いろいろと思うところはあるものの、輪がシンプルにそう答える。 「…にしても、あいつらを見てたらあたしも眠くなってきた」 そして姐さんは大あくびを一発。 「ふぁ〜〜ぁ、あふ。…寝る」 そう言うと真理は隣に座っている春樹にこう任命した。 「お前、枕な」 「えっ?」 ぱふっ。 問答無用。真理はそのまま春樹の右腕に頭を預けると、目を閉じた。 「あ、あの…」 固まる春樹。 間近にある真理の髪の毛から、ほのかにシャンプーの香りが漂ってくる。 どきどきどきどき。心拍数増加。 頑張れワカゾー状態に陥っている春樹を見、瑠華はなぜか胸がちくりと痛むのを自覚。 (ぬぅ、どうしたのだ私は…) が、瑠華にとっては原因不明の怪奇現象だ。 わけの分からない気持ちに、瑠華は春樹のほうを正視できず、そのまま愁いを帯びた表情で窓の外を凝視し続けた。 そして動いているのは、一人黙々と『月刊種子島』のページをめくり、敵チームの研究に勤しむ輪の姿だけとなった。
山本五十六元帥
車内放送が流れた瞬間、事件は起きた。 外部からの刺激に、ふと美亜子の目が開いてしまったのだ。 そして自分が今置かれた状況をゆっくりと認識する…。 自分の右の耳の辺りに淳二の頭を確認。 ついで、自分がすっかり淳二に体重を預けていることも…。 「…っ!!」 慌てて離れた美亜子だったが、さらに左の腰の辺りに何か違和感を感じてそちらを見た。 ぴとっ。 (……?) 淳二の左手だった。 いつの間にやら淳二は美亜子の腰に手を回して寝ていたのである。 もちろん無意識のうちに…。 「あっ…、こっ…」 見る見るうちに美亜子の眉がつりあがり、顔が般若の様相を呈す。 これが少年漫画なら、美亜子の頭上には雷雲が描写され『ゴゴゴゴゴゴゴゴ…』とでも効果音が書かれていただろう。 何事かとその様子を見た瑠華の目は、美亜子から立ち上る怒りのオーラを確かに捉えていた。 一触即発の暴力衝動の兆候がびりびり伝わってくる。きわめて危険な状況である。 「……ふむ」 が、特に瑠華としてはノーアクションである。 「い、いかん」 ついで、美亜子の危険さをよく分かっている輪が慌てて立ち上がる。 「ん? なんだ?」 「どうしたの?」 真理と春樹もようやく危険な気配を察知したらしい。何事かと起きだした。 そして、ごく間近から放たれる強烈な殺気に淳二が目を開けた。 寝ぼけまなこで、美亜子を見、全員の注目を浴びていることを知ってか知らずか、淳二はにへら、と笑って一言。
立ち上がってスリッパを振り上げた美亜子だったが、その前に輪が素早く割り込んだ。 「静かに。寝ている客もいるんだぞ」 きわめて常識的な一言を浴びせられ、美亜子はなんとか自制に成功した。 輪はその隙に寝ぼけている淳二を無理やり立ち上がらせ、そのまま瑠華の隣に座らせた。 「ふも?」 淳二が良く分からない言語で何か言ったが、輪はきっぱり無視。 ついで、淳二が座っていた席にどっかと腰を下ろす。 とりあえず、トラブルの元凶を引き離す作戦だ。 「ほら、座れ」 そう促すと、美亜子はしばらく淳二を睨みつけていたが、やがて素直に輪の横に座った。 「はぁ、あたしとしたことが、迂闊だったわ」 怒りが収まると今度はしゅんと肩を落とす美亜子。 「それは危うく騒音を撒き散らして他の客の迷惑になりかけたことか? それとも淳二とくっついて熟睡していたことか?」 「両方よ」 美亜子は面白くなさそうな顔でそれだけ言うと、再びスリッパを懐にしまった。 「まぁ、許してやれ。寝ている人間に罪は無い」 輪はかすかな微笑を浮かべつつそう言うと、再び読書に戻った。 一方、事情の良くわからない淳二に、真理が小声で囁いた。 「まぁ、気にするなワカゾー。あのお嬢ちゃんは見かけによらずうぶなのさ」 そう言ってぱちりとウィンクを送ると、再び真理は春樹を枕におやすみモードに戻った。 「……ぅ」 やっぱり春樹が顔を赤くするのを見て、淳二が素朴な疑問を投げかける。 「え、えーと真理先輩。ここに見かけどおりにうぶなのがいるけど、それはいいの?」 「ああ、いいの。あたしは分かってて遊んでるんだから」 「はうぅ…」 春樹は救いを求めるように瑠華のほうを見やったが、ぷいっと視線を逸らされた。 (あう)
腕組みしたまま、真剣な表情でアホなことを考えている淳二。 その視線の先には、先程から青白い顔で何かを必死にこらえている春樹の姿。 (ありゃぁ、酔ったな。完璧に。振り子特急は揺れるからなぁ) が、春樹は寝ている真理の体重を支えている以上、迂闊に席を立てない状況である。 トイレに行って楽になれないため、春樹の顔色は加速度的に悪くなっていく。 生あくび、脂汗、ふらふらと落ち着かない視線…。 「…ん、どうした伊達? 気分でも悪いのか?」 春樹にとって救いの神は瑠華だった。 「よ、酔っちゃって…」 なんとかそれだけ言うと、ようやく真理が起きてくれた。 「なに? お前酔い止め飲まなかったのか?」 そう言いつつ、右手をひらひらと振って、トイレに行けというしぐさを見せる真理。 こくりこくこくこくりこく。 春樹は蒼白な顔で何度も頷き、とてとてと通路後ろ側に消えていった。
戻ってくる様子はない。 真理姐さんは気にした様子もなく、腕組みしたまま、目を閉じている。 自分の疲労回復に専念中といったところ。 が、瑠華はといえば、どうも落ち着かない。 (遅い…、何をしているのだ伊達は…) 無意識に、自分のつややかな黒髪を一房手にとって、それをもてあそんでいる。 古風で秀麗な美貌はいつもの無表情だったが、ほんのわずかだけ焦燥に翳っている。 瑠華がそわそわしているのを見て淳二がこう、声をかけた。 「ハルのやつずいぶん遅いねぇ。…あいつのことだから、リバースしたものがのどに詰まって窒息死してたりして」 もちろん淳二の冗談だったのだが、いかんせん一話一不幸の春樹である。 あんまり笑えない冗談だ。 で、笑えない冗談を笑わない女に言ったもんだから、予想外の反応が戻ってきた。 「分かった。私が様子を見てこよう」 瑠華はすっくと立ち上がり、腰まで届く濡れたような黒髪をなびかせ、すたすたと通路を歩いていってしまった。 なにやら待ってましたとばかりの素早いリアクションだ。 「あらま、あの瑠華ちゃんが…」 それを見て、淳二が呟く。 そして心の中で(瑠華ちゃんでも人の心配することがあるんだ)とちょっと失礼な感想を抱いていたりする。 淳二はいつでも冷静沈着で無表情な瑠華に対して、“冷酷非情な女”ってイメージを持っていたのだが、あながちそうでもないのかもしれない。 そんな事を考えつつ、瑠華のスタイルのいい後ろ姿を見送る淳二。 瑠華の顔を見たお客さんは、皆そろって(どこの女優さんだべ?)ってな表情を浮かべている。 ぽかんと口を半開きにして瑠華を見送る老若男女を見、淳二はちょっと優越感。 (どーよ、綺麗だろ。オレのお友達なんだぜぃ〜) そんな淳二に、後ろから真理の声がかかる。 「どう思うワカゾー? あの別嬪さんは、ちょっとは春樹に気があるんじゃないか?」 青天の霹靂。突然そんな事を言われたもんだから、淳二は目を丸くした。 あの鉄面皮の瑠華に人並みの恋愛感情なんて存在しているのだろうか? ていうか、道行く人が皆振り返る超絶美少女の瑠華が、こともあろうに…。 「うそぉ〜、瑠華ちゃんに限ってまさか…。しかもハルに〜?」 んなわけないっしょ〜、って感じで淳二がひらひらと顔の前で手を振ってみせる。 「まぁ、まだ本人も自分の気持ちに気づいてないかもしれないけどね。…でも“なんか気になる存在”ぐらいには感じてるんじゃない?」 どこか愉快そうな真理の表情。 「にゅ、にゅぅ…」 釈然としないが、そう言われればそうなのかな、と思い始めている淳二。 しかし、思ったところでなんか悔しい今日この頃。 「ところで、真理先輩。なんでそう思ったの?」 真理はチャーミングな微笑みを浮かべ、淳二に顔を近づけてこう囁いた。 「おねぇさんの、勘(はあと)」 どっきーん。 (や、やばい…。真理先輩もかわいいぢゃないの…) 所詮淳二はこういうやつなのである。
デッキの手すりに掴まり、立ったまま景色を眺めていたのだ。 やっぱり顔色は悪いまま…。 「伊達…」 瑠華が呼びかけるとちょっと驚いたように振り返った。 その顔には(なんで明智さんが)と黒マジックで書いてある。 ぱちぱちとまばたき2回。 瑠華はその間無言で春樹の顔色を見、オーラを観察し、健康状態を把握しようと努めていた。 春樹は逆に瑠華の顔を見る。 いつもの無表情に見えるが、最近の春樹は少しだけ瑠華の表情の変化に気付くようになっていた。 今の瑠華の顔は、心配している顔だ。 心配している…、つまり自分のことを気にかけてくれているらしい。 春樹の表情が微妙にほころんだ。 それを見た瑠華の表情も、ほんの少し安心したように思える。 「大事無いか?」 治ったか、とも大丈夫か、とも違う、瑠華独特の言い回しに、春樹が微笑する。 「はい。少し楽になりました」 医師の診察を受ける患者のように、春樹が答える。 「そうか…」 そう言ったきり次の言葉が出てこないのが瑠華の瑠華たる所以である。 とにかく口下手というか、コミュニケーション下手なのだ。 瑠華はやっぱり無表情に見えるが、春樹の目には困っている様子がわかるようになっている。 どう会話を続けたものか、苦悶しているようだった。 だから、春樹の側から切り出した。 「どうもありがとう。心配してくれて」 「ん、ああ。別に…」 そっけない返答だったが、やっぱり春樹には分かった。 どうやら瑠華は照れているらしい。 相手の気持ちが分かるようになると、やおら情が移ってしまうのが春樹だった。 この感覚。小学校の遠足で函館山に登山した際、野生のキタキツネが警戒しながらも春樹の近くまで来てくれたときと同じような…。 そうだ、あの時は確か友達とはぐれ、山中に一人きり。危うく遭難しかけてたっけ…。 「僕、昔から遠足とか、運動会とかのイベントのときって、前の晩興奮して眠れないんだ。それでいつも寝不足。結局ぼーっとしちゃって失敗ばかりだった」 なにやら思い出話を開始した春樹。 だが、瑠華は無表情ながらきちんと聞くそぶり。 なにやらコミュニケーションが成立しつつある。 「昨日もあんまり眠れなくて今日も寝不足なんだ…。試合があるのは明日なのに変だよね。…乗り物酔いって寝不足が一番よくないんだって」 「確かに。そのようだな」 「うん。だから僕は遠足のバスでは必ず一番前に座ってた。でも結局いつも酔っちゃうんだ…」 「なるほど、お前らしいな」 「そうかも。結局今日も同じパターンだし。そうそう、小学校のときの修学旅行の話なんだけど…」 調子に乗った春樹は延々と思い出話に花を咲かせたが、瑠華は飽きもせずにそれを聞いていた。 “他人の思い出話を聞く”という行為自体、瑠華には新鮮な体験だったのだ。 それにどうしてだろう。春樹の声を聞いていると、不思議に落ち着くのだ…。
ナポレオン(仏皇帝)
戻ってこない春樹と瑠華に、真理がそんな事を言った。 「その言い回しだと瑠華ちゃんも具合悪くなったってことになるのでわ。どっちかといえば『呉越同舟』とか?」 「そっちのほうが違うと思う…」 よく分からない慣用句を言い合いつつ、ふと真理が何かに気づいた。 「そーいやさ、春樹のやつ後ろ向きで窓の景色を見てたのがよくなかったんじゃないかなぁ。座席を戻しておけば、これ以上酔わないかも」 「あ、そうかも」 というわけで、真理と淳二が座席を再び回転させた。 で、真理は淳二の隣へ移ってきた。 となれば、春樹と瑠華は隣同士で座ることになる。 「戻ってきた二人がこれを見てどういうリアクションをするか、楽しみじゃないか?」 ということらしい。真後ろの特等席から見物である。 「…真理先輩ってワイドショーとか見るの好きでしょ?」 「サバゲーの次に最高の娯楽だな」 「…やっぱり」 要するにゴシップ好きのおばちゃんの発想なのだ。 しかし、しばらく待っても二人が戻ってくる気配は無い。 で、真理は興味の標的を淳二に変更した。 「ところでさ、お前なにか格闘技とかやってるそうだな?」 「えっ? まぁ、真田流古武術って一子相伝の殺人拳の後継者だけど、なして?」 真理はきっちり2秒ほど絶句し、(お前はケンシ@ウか?)と心の中で突っ込みを入れつつ、 「……どこまで本当だ?」 「さぁ?」 「さぁって…」 「聞きたいの? これまで誰にも聞かれなかったから言ったことないけど…」 すると当然のように真理は食いついてきた。 「そうだな。ぜひ聞きたいね」 「えっと、真田流古武術ってのは本当。一子相伝は嘘だけど、かあちゃん直伝だし、兄ちゃんのほかに使い手もいないからあながち間違いでもないかな? 殺人拳ってのも嘘だけど、下手に決まれば殺しかねない技もあるよ。まぁ、格闘技って所詮人殺しの技だし、ものは言いようってだけ」 と、なにやら恐ろしいことを飄々と言う淳二。 センゴクレッドとして数々の怪人を死闘の末に屠ってきた経験が、この若さで暴力の本質を知ってしまった経験が、こんなことを言わせるのだろう。 「ふぅ〜ん。で、実際強いのか?」 真理の疑問に淳二はふるふると首を振った。 「まぁ、一般人に比べればね。でも美亜子ちゃんのほうがずっと強いよ。輪とは…互角くらいかなぁ」 「竹刀ならばお前の勝ちだ。真剣なら多分俺が勝つ」 …何気に聞いていたらしく、輪が口を挟んだ。 「…だな」 それを受けて、頷いて見せる淳二。 「そうね」 なぜか美亜子も。 息のあった問答に、真理は微苦笑を浮かべる。なるほど、この3人は類友なのだ。 とりあえず、気が済んだので別の楽しみを味わうとしよう。 「ちょいと腕の筋肉、見してみ」 「ほえ?」 何事かと淳二が真理の顔を見返すと、好奇心の強い大きな瞳が輝いている。 (やっぱ猫だよなぁ) 逆らっても無駄と思い、淳二は袖をまくって右腕を真理に伸ばした。 「よろしい」 するとなにやら真理はしげしげと淳二の腕を観察し、ふにふにと触診。 「わわっ、くすぐったいって…」 手首からはじまって肩の辺りまで、ひとしきり触診した真理が結論から先に述べた。 「枕にするには、ちと堅いな」 ずるっ。 淳二が思いっきり座席からずり落ちた。 「枕の選定してたんか…」 「ま、それは冗談として」 「…冗談?」 「強いって言う割に、あんまり筋肉が付いていないんだな」 どこか残念そうな真理の声。 彼女がマッチョ好きだということを、淳二は知らなかったが、それでも自分の名誉のため反論を試みた。 「それは甘い見方だよ。格闘技で大事なのはパワーじゃなくて、テクニックとスピード。無駄な筋肉をつけるより、絞り込んで必要最低限にしておくほうが実戦的なわけ。あと長時間動き続けるスタミナも大事だからやっぱりムキムキの筋肉は邪魔なのさね」 「ほぉ」 「たとえば輪なんかも同じだね。あいつの場合は剣道だけど、やっぱり瞬発力が大事だから無駄な筋肉は付いてない。無駄な贅肉も無い。服を着てるとやせてるように見えるけど、実は……脱ぐと凄いわよ」 なぜか最後だけ囁くようなおねえ言葉になりつつ、淳二がそう言った。 「そうなのか…」 真理は一瞬輪を物欲しげな目で見つめた。 ぞわっ。 (ん? なんだ?) その視線を受け、輪が得体の知れぬ寒気を感じたが、それはまた別のお話。 結局、春樹と瑠華が戻ってくるまで、真理と淳二は(なぜか)筋肉談義を繰り広げていた。
(仲の悪い者や敵対する者同士が一つの場所に一緒にいること。また、敵同士が、共通する利害のために協力し合うこと)
調子に乗って延々と思い出話にうつつを抜かしていた春樹だったが、デッキに出てから30分以上が経過しているのに気づき、瑠華をそう促した。 「そうか。…なかなか有意義な時間だった」 さらりと黒髪をかき上げ、瑠華は満足そうにそうまとめた。 30分以上にわたって誰かと会話を続けたというのは、瑠華にとって自己新記録であった。 おかげで他人と親しげにおしゃべりすることへの抵抗が、少しだけだが低減していた。 春樹のおかげで、瑠華は少しずつ変わっていた。 日々成長しているのは春樹だけではないのだ。 で、その瑠華はささやかな御礼をしようと、思い切って春樹にこんなことを言った。 「伊達、少しの間だけ背を向けてくれ」 何事だろうか、と春樹は疑問に思ったが、瑠華のまなざしが真剣だったので、素直に窓のほうを向いた。 列車の走行音に混じって、低く、かすかに瑠華が何事か呟いている声が聞こえてくる。 そして、春樹の背中にしなやかな瑠華の指が触れた感触。 (えっ? これは…) それは不思議な感覚だった。 瑠華の指が触れた場所から、温かくて、優しい波動が広がっていく…。 それはとても心地よく、寝不足の疲れや乗り物酔いがあっさりと解消していく。 猫背気味の春樹の背筋がびしっと伸び、とろんとしていた目もしゃきっと開いた。 (げ、元気になっちゃったかも!) …どっかのCMのようなフレーズが春樹の心の中で高らかに流れた。 「…ふぅ」 一仕事終えた瑠華の吐息が漏れ、その指が春樹の背を離れる。 すると“きゅぴーん”と春樹が音速で振り返り、不思議な現象を起こした瑠華の手をはっしと握り締めた。 「なっ…、伊達…………」 無表情の中にもあらわな驚きを見せ、瑠華が頬を染めて硬直する。 「明智さん、今何したの? 凄い、魔法みたい…」 春樹は驚きと感激に目を輝かせている。 こういうときの彼は周りが見えなくなることがあり、思わず瑠華の手を握り締めてしまったことも、そして後ろのグリーン車のドアが開いて誰かがデッキに来たことにも気づいていなかった。 「…魔法みたいというか、概念的にはいわゆる魔法そのものなのだが、…ぬ?」 春樹に手を握られたまま、しどろもどろに瑠華が返答していると、グリーン車からやってきた人影が、二人を見て立ちすくんだ。
そこにいたのは超絶美人の瑠華にまったく引けを取らない、もう一人の超絶美少女。 そして春樹の片想いの相手…。 「たっ、武田ひゃン↑」 思わず声が裏返る春樹。 たちまち全身が凍りつき、指一本動かせなくなる。 なんでこんな所に? いや、それよりも、この状況はひょっとしなくても、とんでもない誤解を招いてしまうのでは…。 ざっぱーん!!(←春樹の血の気が一気に引いた音) で、一方の瑠華はといえば、慌てて広奈から視線を逸らすと、無言のまま俯いた。 頬を染め、恥じらいに目を伏せた瑠華の姿は同性の広奈から見てもやたらとセクシィで、匂いたつような色香が漂っていたりする。 そう、その姿は恋する乙女のそれ。 しかも春樹は、そんな瑠華の手を握っているではないか(!) 止まったままの時間が、2秒、3秒…。 やっぱりというか、一番先に立ち直ったのは、広奈だった。 ていうか、この二人のただならぬ様子は広奈の天才的想像力に火をつけるに必要にして十分。 広奈の中では、一瞬のうちに春樹と瑠華のラブストーリーが組み立てられていた。 (すてき) このカップルに対する広奈の第一印象である。 口下手で、不器用で、素っ気無く、でも純粋で、優しさを表に出すのが苦手な瑠華。(←と広奈様は思っている) 生真面目で誠実で、思いやりがあり、逆境にもめげず、けなげで、ひたむきで、やる事成す事うまく行かないけれど、そのかわり他人の弱さも欠点も認め、受け入れ、許すことが出来る春樹。(←これも) この上ない組み合わせではないか。 そう、広奈にとって春樹は、同じセンゴクマンの一員として、幾度と無く共に死線をくぐり抜けた、かけがえの無い大事なお友達。 ただのお友達として、これ以上ないくらい、広奈は春樹を高く評価していたのである。 きっと春樹ならどんな試練にもめげることなく、それこそ命がけで瑠華を幸せにしてくれるだろう。 瑠華の愛情を裏切るはずは無い。まして瑠華以外の女性に心を奪われるなど絶対にありえない。 ああ、瑠華は、この無口な友人はなんてすてきな恋人を見つけたんだろう。 すでに広奈の頭の中ではウエディングベルが鳴り響き、幸せな二人の上を天使が飛び回っていたりする。 祝賀ムード一色となった広奈、お星様に願いを、とばかり両手を胸の前で組むと、うっとりした声でこう言った。 「式を挙げるときには絶対に招待して下さいね」 早っ! …と突っ込む者はいなかった。 世の中の殿方をころりと蕩かす魅惑の美声。 が、今の春樹にとって、それは死を告げる訃音でしかない。 もはや言い訳や弁解すらも許されず、ただただ木っ端微塵。もはや再起不能であった。
いつの間にやら配置が変わった座席を見ても、眉一つ動かさず、春樹を促して先に座らせる。 心ここにあらずといった感じで、ふらふらと腰を下ろす春樹。 どうしてだか分からないが、それを見て瑠華はとっても悲しい気持ちになった。 無表情のまま、小さくため息。 (リアクション無しかよ〜) (テンション低っ、つまんないの) 後ろでは淳二と真理ががっかりしていた。 そんな2人の不満を知ってかしらずか、瑠華は後ろの4人に向き直ると、抑揚の無い声で一言。 「そこで偶然武田と会った」 「なに?」 「広奈ちゃんと?」 「ふぅん、広奈も乗ってたんだ」 「へぇあの子が」 4人ともちょっとびっくり。 で、すぐに淳二と真理は春樹が呆然としている理由に思い当たった。 (あ〜あ、気の毒に。広奈ちゃんに誤解されたな、こりゃ) (相ッ変わらず、タイミング悪いやつね…) そして二人で目を合わせ、やれやれのポーズ。 なかなか気のあったところを見せている。 「やはり武田も会場の下見に行くつもりなのか?」 こちら、輪は至極真面目に瑠華に質問。 直接のライバルである『チーム風林火山』のリーダーとしての広奈の行動に、とっても興味がある様子。 瑠華は、しばらく考えていたが、こんな返答をした。 「それはよく分からないが、一言だけ、『戦意を高揚させるときは必ず自分を呼べ』というようなことを言っていた」 「…は? どういう意味だ?」 「私にも分からない」 そして、ちらっと春樹のほうを悲しげに見やってから、 「その…、伊達も、それを聞いてから様子が変なのだ。何かの暗号なのか?」
ぶつぶつとあーでもない、こーでもないと呟き続ける輪。 やがて、最も可能性が高いとおぼしき解答を発見した。 「……はっ、まさか俺を混乱させること自体が狙いなのか?」 愕然とする輪に美亜子が呆れ顔でこう漏らした。 「…あんた、戦う前から負けてるわ」
運命の試合開始まで、あと24時間である。
「決意したこと、それはそれぞれの衣装。
新たなるコスで、魅せろ『FANG GUNNERS』」
すいません、思いがけず移動の話だけで一話が終わってしまいました。 まるで旅行記状態です(?) そして前作での次回予告にも関わらず、また、散々期待させたにもかかわらず、コスプレするところまで話が進んでない(^^; その辺のネタは次回へ持越しです。そんなわけで、次回予告はそのまま前作の流用。 代わりにこの話の分の次回予告を18話に新たに書き下ろしてます。要チェックですぞ。 それにしても、今回は実にラブコメでした。もう、キャラが勝手に動くったらないです(笑) ていうか、このサバゲーシリーズは実は瑠華がメインヒロイン? そして本編で大活躍(?)した輪君、今回はあんまり見せ場無し(笑) 逆に今回は春樹が主役です。…ちゃんと見せ場(不幸)あるし。 さて、そんなわけで、お届けしましたセンゴクマン。今回は誰が一番よかったですか? ぜひ掲示板に感想をお寄せくださいませ。
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