陰陽五行戦記おまけ劇場

五行戦隊センゴクマン!

第十七話

「センゴクマン解読」



◇プロローグ◇


『全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会』通称“サバゲーハイ”の道南地区予選の翌日、月曜の朝。

「なんだこれ?」

郵便受けに入っていた奇妙な紙に真理は首をひねった。

「どうしたんですか?」

同じ下宿の春樹が聞いてくる。

「見てみろ」

紙を渡す。

そこには手書きの文字が躍っていた。

しかし、ミミズがのたくったあとにさらにナメクジがダンスしたような、そんな字である。

挑戦イ犬!

全田各
ニの前lよよ<もイ到ιτ<れナニナょ。
だカゞ、おれlよ腹シ舌ιナ=。
お前ら全員皿ま⊃L|(ニあげτやゐ。
ヨ日後の正牛、峠lニτイ寺⊃。
カ`ιニ

函館布すべから区1丁目 返っτきナニケツラ径入

「…なんですかこれ?」

「お前、読めるか?」

「いえ…」


「平和とは、悩んでいる期間であり、戦争とは、悩みを解消するために行動する期間である」
フレデリック大王(ドイツの祖)


◇その翌日の放課後、函館市内某所◇


大きな棚にずらりとエアハンドガンや電動ガンが並べられている、一見するとガンショップのような6畳半の部屋。

まったくちっとも女の子らしくなく、壁には「プラトーン」だとか「スターリングラード」といった戦争映画のポスターがぺたぺたと貼っている。

そして棚の中央には『全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会 道南地区予選』の銀メダルがつつましく飾ってあった。

そこになにやら相談している男女合わせて6人の姿。

やっぱり話題は年相応の高校生のそれとは大きくかけ離れていた…。

「なんつーか、嬉しい悲鳴っての? どうする? 今日の段階で3チーム…」

苦笑気味の顔でそう言ったのがこの部屋の住人にして、根っからのサバイバルゲーム好き、センゴクマンをこの道に引きずり込んだ張本人の片倉真理18歳。

猫科の動物を思わせる大きな瞳が印象的な、チャーミングなおねぇさんだ。

「3チームって具体的にどこ?」

どこかワクワクした声の調子で美亜子が聞く。

「えっと、『ザ・ガンマン』『陸自だよ全員集合』『四ナノ6人衆』だ」

それは、『FANG GUNNERS』への練習試合の申し込みをしてきたチームであった。

大会での大活躍のおかげか、終わったあとにもすぐに試合をしたがるチームがいた、というわけである。

「ガンマンとは戦ったけど美亜子ちゃん一人でやっつけちゃったし、残りのチームはまだ戦ったことがない、と。いいじゃん、やろうぜ」

淳二がそう言ってみんなの顔を見るが、反対意見はなさそうである。

「じゃあ、日曜日にこの前の試合会場でやるってことで連絡しておくよ。それで、ちょっと気になるものが…」

そう言って真理が取り出したのはB5サイズの紙だった。

明らかに手書きと分かる汚い文字で何かが書き連ねてある。

「なにそれ?」

美亜子の質問に答えたのは春樹だった。

「下宿の郵便受けに入ってたんです、でも…」

「むっ…」

春樹の言葉が途中だったが、手にとって読もうとした輪が、いきなり絶句している。

「どしたの?」

淳二が聞くと、輪は引きつった顔でそのまま紙を淳二に渡した。

「駄目だ、字が汚くて俺には読めない。…いや、それ以前に字かこれは?」

「あ、そうなんです。僕も片倉先輩も読めなくて…」

「どれどれ…」

今度は淳二が読むことにした。

「『ちょう、せん、ふせ』」

「ちょうせんふせ?」

「読めるのか?」

疑問と驚きが満ちる室内。

「『ぜん、りゃく』って全部略してどうする。ええと『このまえは、よくも、たおして? くれたな。だが、おれは……はらかつ?した』」

どういう意味だろ? って視線で淳二がみんなを見たが、全員いっせいに首を横に振る。

仕方なく、淳二はそのまま続けた。

「『おまえら、ぜんいん、さらまつり、にあげてやる』…皿祭り? 『みっかごの、しょううし、とうげにて、さむらい、つ。かしこ。はこだてしすべからくいっちょうめ、かえってきたケツラけいにゅう』」

………。

………。

………。

………。

………。

………。

たっぷり六人分の沈黙が、室内を支配した。

誰一人、意味が分かっていなかった。

ちんぷんかんぷん一休さんである。

「まぁ、気にしないでおこう」

真理がそう言うと全員一斉に頷いた。

こうしてこの紙切れは全員一致で無視されることに決定した。

そして話題は日曜の練習試合のことに移っていた。

「再来週は北海道大会だ。どうせならば日曜はそれに向けての実戦訓練のつもりで戦いたいところだな」

腕組みしたまま、そう言ったのは作戦参謀役の輪。

そう、前回のは『全国高等学校サバイバルゲーム選手権大会 道南地区予選』であり、上位2チームは当然北海道大会へと駒を進めることになるわけである。

『チーム風林火山』と『FANG GUNNERS』は道南地区の代表チームというわけだ。

そして輪は北海道大会でのリベンジに向けひそかに燃えている。

「得意技無くして戦術無し、戦術無くして戦略無し、だ。戦術のバリエーションを広げ、切り札をいくつも用意しておくのが、ここは肝要だと思う」

「と、いうと?」

真理に促され、輪は用意してきた作戦プランを語った。

「一昨日の大会で『FANG GUNNERS』の戦い方、そして各自が目指すべき得意技が見えたと思う。春樹の狙撃を軸に、美亜子の索敵、淳二の隠密接敵、片倉先輩の二挺のクルツによる火力、どれも他のチームにはない強みになっていた。これをさらに伸ばす方向で強化したい。また、多弾数マガジンを用意すれば、俺と明智も防御面での強みが出来る」

「なるほど」

真理の相槌を受け、輪はこうまとめた。

「要するに、また“あの店”の世話になるということだ」



「軍事力を育成するほど儲からないものはない。しかし、軍事力がなければもっと儲からない」
古代ギリシャの格言


◇水曜日の放課後 「ミリタリーのサカイ」カスタム編◇


「…しかし、なんで店に入るだけでこんなに緊張するんだろうな」

苦笑とともにそう言ったのは淳二だった。

「不思議なことにね、そのうち慣れるんだよ」

真理がそう笑ってから先頭を切って店のドアをくぐった。

…やっぱり今井さんは奇抜な格好だった。

「勉強しまっせ、ミリタリーのサカイ〜♪」

(やっぱり歌って踊るのか)

と、5人が思う間もなく、真理があっさりと合いの手を入れる。

「ほんま〜かいな、そうかいな〜♪ ハイッ!」

…照れがない分、非常にさわやかだった。

まぁ、さわやかだからどうということもないのだが…。

「勉強しまっせ、ミリタリーのサカイ〜♪」

「このひと〜嘘は申しません〜♪」

今井さんは真理の合いの手に合わせてさらに歌う。そして踊る。

「勉強しまっせ、ミリタリーのサカイ〜♪」

「エアガン〜買ってサバイバル♪」

それにしてもこの二人、ノリノリである。

(さすがに、場慣れしているなぁ)

…というわけで、恒例の儀式も滞りなく済み、6人は無事店内へと足を踏み入れたのであった。

「まいどおおきに〜。今日はナニをお求めでっか?」

さっそく満面の営業スマイルで、今井さんがそう聞いてくる。

「む……」

「くっ……」

「うにゅ……」

「ぬぅ……」

「えと……」

沈黙する5人。

常人をはるかに超越した3σ外を相手にするにはやはり相当の勇気が要る。

さすがの淳二ですらも、一瞬今井さんとの会話に踏み切るのを躊躇した。

が…。

「ああ、今度のサバゲーハイ全道大会に向けて、チームを強化したいんだ」

というか、人間、慣れというものは恐ろしい。颯爽と今井さんと交渉する真理。

さすがはベテランの貫禄であった。

「ほほぅ、なるほどなるほど」

何度も頷く今井さん。

「で、まずはこいつの…」

そう言って真理は自分のMP5K A4“クルツ”をガンケースから取り出した。

「カスタム用のパーツが欲しい」

“カスタム”の一言に今井さんのスイッチが入った。

突如歌い、踊りだす。

「おお〜っ♪ やっすいじゃん、きっちりじゃん、カスタムじゃん〜♪」

(また歌ってる…)

やっぱり唖然とする5人。

が、今井さんは歌い、踊りながら手際よくクルツ対応のパーツを真理に手渡していく。

「サイレンサー♪ スコープ♪ 数あるじゃん♪ ん〜〜♪ いいじゃん、すんごいじゃん、カスタムじゃん〜♪」

(すごいのはアンタだよ…)

皆が皆そう思ったが、今井さんの歌に口を挟むつわものはいなかった。

いや、一人いた。

「サイレンサーとスコープは要らない。多弾数マガジンを二つ買うよ。両方につけたいんでね」

もちろん、真理である。

「多弾数マガジンでっか? ……。」

一瞬の間。

(あ、なんか考えてる…)

岡目八目。

傍から見ていた淳二が、今井さんの一瞬のスイッチの切り替えのタイミングを見抜いていた。

と、程なく。

「どてらいどてらいどてらいやっちゃで多弾数マガジン♪ どてらい弾数で度肝抜く♪ どてらいことなら任せとき♪ どてらいどてらいどてらいやっちゃで多弾数マガジン♪」

ぱっちんぱっちん、指を鳴らしつつ今井さんが歌う。

そして歌い終わるとおもむろに多弾数マガジンを取り出す。

「We are 240連射 de、アミ〜ゴ」

(よーわからん)

淳二ですらも理解不能であった。

(注文するたびに歌うのか…)

皆一様に顔が引きつっている。

が、真理は平然としたものである。

「あ、あとスリングも。外れないようにきっちり付けておいて」

真理の放った“きっちり”の一言に再び今井さんのスイッチが入る。

「スリング〜♪ 装着〜♪ 仕事きっちり♪」

なぜか扇子を取り出し、また違う歌を歌い踊る今井さん。

(もう、どうにでもしてくれ…)

5人は匙を投げた。

まぁ、真理が先陣を切ったおかげで5人にある程度の免疫が出来、それによって買い物がスムーズになった一面は否定できない。

その後も、各自のメインウェポン用のカスタムパーツを今井さんは手際よく取り出したが、その間、もちろん歌いっぱなし、踊りっぱなしであった。


というわけで、各自が購入したものを順番に見ていこう。

まず、真理から。

彼女の場合、二挺サブマシンガンの圧倒的な火力をさらに生かすべく、クルツ用の240連射マガジンを二つ。

これで一人でも数人相手に弾幕を張れる様になる。

さらに240連射マガジンになった分、クルツは重くなり両手で使いづらくなるため、スリング(電動ガンを持ち運ぶ際に使用する肩掛けひもの事)を装着した。

これをうまく使えば銃口がぶれるのを防ぎ、片手でも安定した射撃が可能となる。

次に、“忍者”淳二。

淳二の場合、こっそり敵に近づいて気付かれないように仕留める能力、つまり隠密接敵に向いたカスタムが必要である。

となれば、やはり“サイレンサー”である。

サイレンサーとは銃口の部分に取り付けて、BB弾の発射音を消すためのパーツである。

これをつけて音を消すことにより、発射音から位置が特定されるのを防ぐことが出来るようになり、ますます隠密接敵の効果が上がるのである。

さらに、P-90用の300連射マガジンも購入。戦闘持続力も上がっている。

“ニュータイプ”の美亜子の場合は、敵をいち早く発見し、先制攻撃を正確に行うため、スコープを取り付けた。

コルトCAR−15は最初から190連射マガジン装備なので、予備マガジンをひとつ購入したにとどめてある。

また、余ったお金でサイレンサーも装着し、淳二と二人での隠密行動も可能になっている。

これでアタッカー二人の静粛性が強化できた、というわけだ。

続いて、防御の要になる瑠華。

予備バッテリーとUZI用220連射専用マガジンを二つ。

これで延々と弾幕を張り続け、敵を足止めすることが可能となる。

ミドルアタッカーの輪は瑠華と同じ方向性で、とにかく弾数重視。

MP5用240連射マガジンを二つと、やはり予備バッテリーを購入した。

ちなみに春樹に関してだが、彼のスナイパーライフルは最初からカスタム済みなので、今回は何も買わなかった。

せっかく晴明長官がお金を出してくれたのに、気の毒なことである…。



「変化によって勝利を獲得することは、戦いの原則である。敵はそのような将軍を名将と呼んで恐れる」
中国の格言


というわけで、5人分のメインウェポンの強化パーツも購入したところで、輪が全員を集めた。

「さて、それでは最後の買い物をしよう」

「何買うの?」

美亜子がそう聞くと、輪はちょっと嬉しそうにこう言った。

「チームとして最大の“切り札”となるものだ」

「え? なにが切り札になるの?」

首をかしげる5人に、輪は答えを言った。

「迷彩服だ」

「えっ? じゃあ今度はコスプレしないのかよ? あれ巷で大好評だったのにぃ」

淳二が思いっきり不満げに言うと、輪は首を振った。

「まぁ、毎回あれはどうかとは思うが、…ともかくコスプレはしてもいい。だが、それとは別に迷彩服を携帯しておくのが、“切り札”になるんだ」

一同、まだ怪訝そうな顔だったが、輪がじっくりとその作戦の意図を説明すると、やがて納得の笑みを浮かべた。

「よっしゃ、これで今度こそ優勝してやろうぜ」

気合十分にそう言ったのは淳二。

輪の言う“切り札”で一番の重責を担うのが淳二の隠密行動である。

そしてエアガンのカスタムパーツをまったく買わなかった分、春樹は“あるもの”を購入。

これもまた、チームの切り札になること間違いなしである。

「申し込まれていた練習試合は迷彩服の威力を確かめる、ちょうどいい場になるだろう」

輪はそう言って策士の笑みを浮かべた…。



◇木曜日正午◇


『FANG GUNNERS』の面々は当然平日なので学校にて平穏無事な高校生活を謳歌している。

だが、その時間に紺谷ヶ峠に不穏な影が…。

「ふっふっふ、俺様は帰ってきたゲリラ怪人。魔王クラーマ様のお力で見事復活を遂げたのだ〜♪ さぁ、復讐戦の始まりだぜ」

ナレーション:「なんと、フィールドに現れたのは魔王の手先、帰ってきたゲリラ怪人だった。しかし、ここには誰もいないぞ。危うくなし、センゴクマン!」



「平時における訓練死のない訓練は、戦場における戦死のない戦闘と同じで、それは芝居である。訓練は、平時の戦闘であり、戦闘は戦時の訓練である」
ロンメル(独元帥。通称「砂漠の狐」)


◇紺谷ヶ峠・特設サバイバルゲームフィールド◇


『サバゲーハイ道南地区大会』からちょうど一週間後。

大会が行われた特設会場には『FANG GUNNERS』のほか、練習試合の申し込みをしてきた鳥府高校の『陸自だよ全員集合』、函館近未来大学付属ミクロ高校ナノテクノロジー科の『四ナノ6人衆』、さらにリベンジに燃える西部高校『ザ・ガンマン』といったチームが集結していた。

ちなみに、作戦参謀である輪の指示により『FANG GUNNERS』は全員迷彩服姿であった。

これには“早撃ち新撰組”との再戦を熱望していた『ザ・ガンマン』や、セーラー服美少女を見ようと楽しみにしていた『陸自だよ全員集合』『四ナノ6人衆』の両チームから落胆のため息が漏れていた。

まぁ、『FANG GUNNERS』にしてみれば、向こうの勝手な期待に応える義務もないわけだし、あくまでこの練習試合は本番に向けて得意技を強化する場なのである。

ちなみに、そういう理由により、輪は勝敗すら度外視していた。


というわけで、まず最初の試合は、『FANG GUNNERS』対『ザ・ガンマン』による、ハンドガンオンリー戦である。

これも、あえて相手の得意な土俵で戦って実戦経験を積もうという輪の思惑が秘められていた。

ただし、勝敗は度外視といっても、そこは軍師輪君のこと、なんの作戦も無いわけではない。



◇戦力底上げ大作戦その1『迷彩服の威力を確かめよう』◇


試合開始前の作戦会議。

イニシアチブを取ったのは当然“作戦参謀兼強化本部長”(いつの間にか)の輪である。

「さて、相手はハンドガンのプロだ。前回も言ったようにまともに撃ちあったら勝ち目はないだろう」

「…じゃあなんで向こうの挑戦を受けたの? 前は反対したくせに」

そう割り込んだのは美亜子だった。

「理由は単純だ。前回は本番、今回は訓練だ。そしてハンドガン戦のほうが俺の考えている訓練目的にちょうど良いからだ」

「訓練目的?」

「そうだ」

と、ここで輪はいったん言葉を切り、全員が話を聞いていることを確かめると、本題の説明を開始した。

「今回の目的は、各自が迷彩服の効果を実際に確かめることだ。うまく隠れれば、どれくらいまで敵がこちらに気付かないか、あるいはどれくらいまで敵に気付かれないように接近できるのか、そういったことを各自で実験してほしい」

「あ、なるほど、だからハンドガン戦なんだ。あえて接近戦をするために」

ぽむ。真理がそう言って手を打った。

輪はうむと頷き、こう補足した。

「射程の長い電動ガンでの撃ち合いでは、迷彩服の効果が分かりにくいからな」

「ふぅん。で、チームとしての作戦は? なんか考えてるんでしょ?」

まだ完全に納得してない表情で、美亜子がそう聞いた。

「もちろんだ。メインは実験だが、それでも負けてやる義理はない」

「そう来なくっちゃ!」

「でも、どうやって?」

春樹が自信なさげに聞いてきた。

「戦術の基本原則は敵の弱い部分を攻めることにある。それは逆に言えば、こちらが敵よりも優れている部分を生かす作戦を立てること、と同義だ。今回の戦いで我々が敵よりも有利なのは、何度も言っているが、この迷彩服を着ていることだ」

「それで?」

(何を当たり前のことを?)という表情で真理が繰り返した。

輪は気にせず、自信たっぷりに作戦方針を発表した。



「戦史を見れば、多くの名将は、攻勢を取り得る情勢であっても、防勢に部隊を戦略展開して有利な態勢を敷き、不利でもやむをえない攻勢を敵に強要している」
モルトケ(独元帥)


「勝利を収めるためには、迷彩服の利点を最大に生かせる戦術を選択すればよい。…つまり、守備を固め、敵に気付かれる前に、こちらが敵に気付き、先制攻撃によって倒す、これを目標にする。そこで、アタッカー以外の4人はフィールド中央にてある程度の間隔をあけて横並びになり、敵を待ち伏せ、奇襲する。見つからないためにはどうやって隠れたらいいのか、各自工夫してくれ」

「なるほどね。メインとなる戦術はアンブッシュってわけか」

ようやく納得した表情で真理が頷いた。

「そういうことだ。もし余裕があれば、敵がどれくらいの距離まで近づいたところでこちらに気付くかを試してみてもいい。だが、あくまで先制攻撃で敵を倒すのが最優先だ」

「ん…、了解」

「わかりました」

「……(こくり)」

真理、春樹、瑠華と3人とも理解したので、今度はアタッカーの淳二と美亜子に作戦の説明である。

「では、アタッカーだが、淳二は左、美亜子は右から大きく迂回してこちらに進軍する敵の背後に回る。このとき敵に発見されないのが絶対条件だ。発見されずに後ろを取れたらそれで今回の役目は終わりだ。敵を倒す必要はない。ディフェンダーの訓練のために残しておいてくれ」

「倒す必要がない?」

「おいおい、いいのそれで?」

不満たらたらの二人。だが輪は取り合わなかった。

「繰り返すが、迷彩服を着ることで、どれくらい隠密接敵が容易になるかを確かめるのが今回のアタッカーにとっての目的だ。この場合銃撃戦は二の次だ。…そうだな、それで不満なら完全に敵の背後を取っての『フリーズコール』は許可してもいい」

「ふぅ〜ん、いいわ。やってやろうじゃないの」

「オレだって!」

燃えるアタッカー2人。

(なるほど、これなら2人も真剣にストーキングするわな。なかなか人の使い方が上手い)

そんな3人を見ていた真理がひそかに感心していた。

こうして、試合開始前の作戦会議は、ほぼ輪の思惑通りに進んだ。

今回の目的はあくまで迷彩服の威力を確かめることなのである。

『ザ・ガンマン』は彼らの預かり知らないうちに“実験台”と化したのだった…。



「戦争では、攻撃は最大の防御である。しかし、喧嘩好きでなければ、攻撃は成功しない」
パットン(米陸軍大将)




◇試合開始◇


「勝負よ!」

「望むところだぜ」

と、真っ先に美亜子と淳二がスタートダッシュ。

(競うなよ)

輪の内心のぼやきはともかく、美亜子はフィールドの右、淳二は左へと消えていった。

「いいね。やっぱアタッカーってのはああじゃないと」

真理は満足そうに笑っている。

「作戦に従うというのが大前提だがな。いくら勇猛な武将でも猪武者では役に立たない」

「大丈夫よ。あの子達、少なくとも馬鹿じゃないし」

「そうだな…(って、あの子達呼ばわり?)」

輪はちょっとびっくりして思わず真理の顔を見た。

真理はゴーグル越しに、あたしの顔に何か付いているか? といった表情を見せ、一言。

「なんだ、色男」

「………いや、別に」

輪は真理が“姉御”と呼ばれている所以をなんとなく分かったような気になった。

「さ、あたしらもアンブッシュしよう」

真理の合図で4人は向かって左側から真理、春樹、瑠華、輪の順番で、大体10m強くらいの間隔を取って適当な茂みや木の陰に隠れた。

隠れるときのコツは、なるべく自分の着ている迷彩服と似たような色合いの場所を選ぶことである。

自分がカメレオンか海底のカレイにでもなったような気分で、4人はそれぞれの配置で息を潜める。

実は普通のサバゲーでは、隠れているときに一番ネックになるのが、長い電動ガンである。

それを目立たなくするために、電動ガンに迷彩のペイントをしたり、布切れを巻きつけたりするのだが、今回はハンドガン戦である。

小さなハンドガンは隠すのも容易で、実は一番アンブッシュに向いている。

サバゲーにおいて、ハンドガンのみで戦うハンドガンナーの愛好者が多いのも、このアンブッシュやストーキングが一番やりやすいからである。

重武装の敵をこっそり忍び寄ってハンドガンのみで倒す。

これこそがハンドガンナー最大の醍醐味である。

その醍醐味の片鱗を今から味わおうとしているのが、アタッカーの二人である。

フィールドの左右の端を慎重に、かつ大胆なスピードで駆け抜け、いち早く敵をやり過ごすのに最適な場所を見つけ、そこに飛び込む。

あとは輪の指示通り、敵が通過したら背後に回りこんで仕留める。

そのためにもこちらの姿が敵から見つかりにくく、逆にこちらはフィールドを広く見渡し、敵の行軍を察知できる位置に陣取ることが肝要である。

というわけで、美亜子は天性の勘で良さそうな草の茂みに隠れ、淳二は木登りを敢行していた。

サバゲーでは敵はほとんどの場合茂みに隠れているので、上を注意して歩くプレイヤーはまずいない。

いわば淳二の作戦は敵の裏をかいたものである。

それも、あまり低いと敵に見つかるだろうから、と4mほど上まで…。

恐らくその姿を美亜子が見たらこう言うだろう。

「さすが、サルね」

だが、木登りの効果はてきめんだった。そうして待つこと数分…。

「おっ、敵発見。2時半の方向に機影見ゆ」

フィールドの中央付近を自称ビリー・ザ・キッドと自称パット・ギャレットが辺りを警戒しながら進んでいくのが手に取るように見えていた。

そしてその背後に忍び寄る美亜子の姿も…。

「うにゅぅ、オレの獲物が…」

淳二が見物していると、美亜子は二人の背後5mほどの木陰までは慎重に移動し、そこで様子を伺っている。

突撃するタイミングを図っているのだろう。


「奇襲の機会を見逃さないことは、軍事的天才の本性である。戦いでは、ただ一度だけ奇襲できる瞬間がある。天才はそれを捕まえる」
ナポレオン(仏皇帝)


と、ふと自称ビリーと自称パットが立ち止まり、何事かを話し始めた。

二人の緊張が緩んだその一瞬の隙に、美亜子が電光のように動いた。

まるで獲物に飛び掛かるライオンのような強烈な殺気。

かなり離れた位置にいる淳二にもびりびりとそれは感じ取れ、いわんや野生の動物をおいておや、驚いた鳥たちが羽ばたいて逃げ出す音が響き渡った。

(美亜子ちゃん、素人相手にそれはやりすぎでは…)

そう、やりすぎだった。

足音を聞き、慌てて振り向く二人。

だが、遅かった。

「フリーズ…」

必殺の気合を込め、腹の底から低く呟かれた美亜子の声は、死神の鎌となって二人の心臓を凍りつかせた。

飢えた猛獣と檻をはさまずに向かい合うような、そんな死の恐怖に二人が硬直する。

ゴーグル越しに美亜子の眼光を浴びせられ、二人はリボルバーを抜くことすら出来ずにいた。

事実上のヒット。美亜子の奇襲は大成功である。

「とっとと両手を挙げて、セーフティーゾーンに行きなさい」

美亜子の声で呪縛が解け、二人はカクカクと首を縦に振ると関節が錆付いたかのようにギクシャクした動きでその場を離れていった。

「さてと、任務完了っと」

それを見届けると、美亜子は年相応の16歳の女の子に戻り、るんる〜ん♪ってな足取りでフィールドの奥へと消えていった。

(なんかなぁー、あんまり迷彩服の恩恵は受けてない感じだな)

迷彩服の利を生かし、こっそり近づいて相手に気づかれずに背後を取るのが本来の目的であるが、美亜子の場合、気付かれても“威圧”で相手を固まらせて乗り切っている。

(まぁ、アレはアレで結果オーライなんだろうけどさ、美亜子ちゃんしか出来ねぇだろうなあ)

木の上でそんな思索にふける淳二。

やがてその木の傍を通った自称ドク・ホリデーを発見、追跡モードに入った。



「奇襲成功の要件は『察知されないこと』と『対応の暇や方法を与えないこと』である。前者は士気の打撃に効果があり、後者は物理的行動を打撃する」
フラー(英陸軍少将)


完璧なアンブッシュをしつつ、敵を待ち構えていた真理が不思議なものを目撃したのはそれから数分が経過してからである。

何が不思議かというと、発見した敵のすぐ背後にぴったりと淳二がくっついているのである。

が、敵はそれに気付いた様子がない。

(なんだありゃ)

百戦錬磨の真理も、これには開いた口がふさがらない。

どうやら淳二は接近して背後を取っても敵が気付かなかったので、そのまま付いてきたらしい。

それを見て、真理も隠れたままその行く末を見守ることにした。

せっかくだから春樹にハンドシグナルを送る。

『敵発見、11時の方向、そのまま待機せよ』

さささっと右手でサインを送ると春樹は了承の頷きを返し、指示通り11時の方向を凝視。

そして、敵と淳二の姿を発見したのか、その口がぽかんと開いた。

驚き、絶句しているらしい。

敵が一歩踏み出すのにタイミングを合わせて淳二も地面に足をつける。

そうして足音を消し、息を殺し、気配を断つ。

真理と春樹が見ている中、まさしく影のような淳二のストーキングが繰り広げられた。

そして、そのまま真理と春樹が隠れている間を通過。

敵は淳二だけではなく、隠れていた二人にすら気付かない。

と、敵が10mほど通り過ぎたところで突如、フィールドに致命的な音が響いた。

「へぅっくちょん」

必死で我慢し、音を殺そうとしたが失敗した、そんなくしゃみ。

…春樹だった。

7時方向、距離10mから聞こえたその音に、慌てて振り返った自称ドク・ホリデー。

しかし、振り返った彼の目と鼻の先に淳二の姿、そして突きつけられたワルサーの銃口。

「わぎゃっ!!」

よっぽどびっくりしたのだろう。

聞くに堪えない醜悪な悲鳴を上げて、彼は腰を抜かした。

「んな、驚かなくても…。あ、フリーズね」

淳二も無事任務完了であった。

そして、残った敵のうち、一人は輪が、もう一人は瑠華がきっちり仕留めていた。

最後に残ったのはやはりリーダーの自称ワイアット・アープ。

そして彼は自陣のフラッグの前にいた。

敵陣にいるのは一人。そして前回6人抜きを阻止した強敵。

これは絶好のリベンジの機会である。

いつの間にかフィールドの端に移動していた美亜子が、満を持して敵陣に乗り込んだ。

彼我の距離は30m。だが、自称アープは腕組みをしたまま動く気配はない。

美亜子もサムライエッジをホルスターにしまったまま、ゆっくりと彼の正面に移動する。

美亜子のホルスターは腰ではなく、左肩から吊り下げていた。

ちょうどスリッパを取り出すときのような位置。これが最適のポジション。

一方の自称アープはごくごく普通のガンベルトを装着し、リボルバーは右の腰。

互いの距離が20mを切った辺りで美亜子の歩みが止まった。

二人の間を風が駆け抜けた。

静まり返ったフィールド。木漏れ日の光。フラッグが風にはためく。

張り詰めた空気。

自称アープの顎の先から汗が一滴落ちる。

じりじりと彼の右手が下がってホルスターの真上で止まる。

そのままの姿勢で1秒、2秒…。

美亜子は微動だにしない。

さらに1秒、2秒…。

◇同時刻◇


美亜子と自称アープが対峙しているその場所から30mほど離れたフィールドの茂みの中。

そこに“何か”いた。

それは完全武装の迷彩服姿の人影。

ナレーション:「なんと、そこにいたのは、木曜日の正午からずーっとここに隠れて『FANG GUNNERS』を待ち続けた“帰ってきたゲリラ怪人”だった」

「…つ、ついに来たか。……………くっ、長かった」

一流のスナイパーたるもの、必殺の一撃を撃ち込むためには、何時間、何日も同じ場所に隠れてスコープをのぞき続けるものである。

“帰ってきたゲリラ怪人”も生まれたときから一流のスナイパーとしてのインプリンティングがなされている。

結局彼は不眠不休のまま『FANG GUNNERS』を待ち続けたのだが、ついに今朝、体力の限界を迎えて気絶していたのだった。

そしてようやく今になってから、待ちに待った獲物の匂いを嗅ぎ付け、再び目覚めたのであった。

が、目覚めたはいいが、彼は固まっていた。

「くっ、腹が減った…、のどが渇いた…。……つーか、動けん。俺様はこのまま死ぬのか? 何も成すことなく、クラーマ様の役にも立てぬまま…」

絶望が彼の脳裏一杯に広がる。

せっかく蘇ったのにこのままでは無駄死にである。

「俺様の人生、これでいいのか?」

自問自答。

答えはもちろん否だ!

たとえここに死すとも、せめて一人くらいは敵を仕留めよう。

倒れるときは前のめりでありたい。

「そうですよね。クラーマ様…」

まさに無我の境地。

彼は最期の力を振り絞り、洗脳BB弾を600発も詰め込んだ違法改造電動ガンを構えた。

狙いは美亜子。

しかし、死を目前にして明鏡止水の域に達した“帰ってきたゲリラ怪人”には一切の殺気がなかった。

“ニュータイプ”の美亜子ですらも、銃口が向けられていることに気付かない。

ナレーション:「洗脳BB弾が当たれば魔王クラーマの忠実な下僕に成り下がってしまうのだ。危うし、センゴクホワイト!!」



◇再び決闘シーン◇


時間が止まってしまったかのように硬直した美亜子と自称ワイアット・アープ。

先に動いたのは自称アープ。彼は素早くリボルバーを抜いた。

コルトS.A.A.通称ピースメーカー。

S.A.A.(シングルアクションアーミー)のリボルバーは引き金を引くだけでは弾は出ない。

銃を抜くと同時に左手できちんとハンマーを起こし、引き金を引くのはそれからだ。

どれほど訓練したのだろう。

自称アープのそれは、まさに電光石火の早業だった。

ホルスターから銃を抜き、ハンマーを起こし、狙いをつけ、引き金を引き、BB弾が発射されて美亜子の体の中心線めがけ飛んでいく。

コンマ何秒のうちに、それら一連の動作がなされた。

しかし…。

きゅんっ。

と、美亜子の体が残像を残して消える。

むなしく通り過ぎるBB弾。

そして美亜子はサムライエッジの銃口を自称アープに向け、「フリーズ」と言った。

「くっ…、そんなのありかよ」

「あんたの射撃は正確よ。でも、だからこそ読みやすい」

勝ち誇るでもなく、淡々と事実を告げる美亜子の声の響き。

「…参った」

そして自称アープは両手を挙げた。



◇同時刻◇


美亜子のいた場所を通り過ぎたBB弾は、そのまま順調に飛距離を伸ばし、フィールドの茂みの中に飛び込んだ。

そして、今まさに引き金を引こうとしていた“帰ってきたゲリラ怪人”の額にピンポイントで命中。

「ばっ、馬鹿なッ…」

ぽて。

やがてその身体は塵となり、風に吹かれて消えていく…。

ナレーション:「もう一度説明しよう。帰ってきたゲリラ怪人はヒットされると本当に死んでしまうのだ」

「ん?」

一瞬不穏な気配を感じて美亜子が振り向くが、すぐにその気配は消えていく。

美亜子は怪訝そうに眉を寄せた。

「……気のせいだったかな?」

ナレーション:「こうしてセンゴクマンの活躍(?)により、今日もまた悪の芽が摘み取られた。だが、魔王クラーマある限りセンゴクマンの戦いは続く。頑張れ、負けるなセンゴクマン。地球の未来は君たちにかかっているのだ!」

 

◇試合終了◇


こうして『FANG GUNNERS』は、6人の敵を仕留め見事完全勝利を成し遂げた。

ちなみに今回の試合で『FANG GUNNERS』が消費したBB弾は輪と瑠華が使った2発のみ。

敵の『ザ・ガンマン』側に至ってはたった1発であった。

そしてそのたった一発のBB弾が悪の根を摘み取ったことを、しかし誰も知らなかった。



次回、さらに二試合。そしていよいよ北海道大会!

『FANG GUNNERS』の活躍をお楽しみにッ!



次回予告

「 土曜夜八時。それは古き良き団欒の時間。
時代の流れとともにその笑いの価値も次第に見失われていく。
出口の見えぬ今、戻らぬものの大きさを知ったとき、少年たちは何に向かおうとするのか。
次回五行戦隊センゴクマン「センゴクマン集合」

駆け抜ける戦場にギャグをかませ『FANG GUNNERS』」



あとがき春樹


作者です。

待望のセンゴクマンの新作をお届けします。

というか、本編の執筆そっちのけでサバゲー話ばかり書いておりますな。

まぁ、サバゲー熱が冷めるまで本編のほうはもうちょっとお待ちくださいませ。

なにせ、現代を舞台にしてやれ戦略だ、戦術だ、なんて話を書くにはサバゲーは絶好の題材なのです。

おかげで輪君も主役らしくなるし。

なお、作中に出てくる名将たちの珠玉の格言は松村劭氏の『名将たちの戦争学』から引用しております。

というか、この本をはじめ『戦争学』『新・戦争学』『ゲリラの戦争学』といった氏の著書はこの作品を執筆するにあたって実は一番参考になったと思います。

興味のある人は一読をお勧めします。歴史の勉強にもなりますよ。

というか、輪君はこれらの本の愛読者だという裏設定があったりします(笑)


さて、知識探求型多趣味人間の生態の続きでございますが、正月の帰省中暇な時間を利用して映画を見まくりました。

荒野の用心棒、続・夕陽のガンマン、真昼の死闘、アウトロー、ヤングガン、ヤングガン2、ワイルドビル、クイック&デッド、パールハーバー、プライベートライアン、シャンハイヌーン、ラッシュアワー、ラッシュアワー2、チャーリーズエンジェル、機動戦士ガンダム逆襲のシャア、パコダテ人。

といった辺り、後半はともかく、西部劇の数々はかなり作品の参考になりそうです。

ただ、最近一番のヒットは「少林サッカー」。アレは私の笑いのツボをかなり刺激してくれました。

って、作品とはあまり関係ないですけど。


では、続きをお楽しみに。

未だサバゲー未体験のままの(知識は本と映画で仕入れる)作者でした。

2003年1月25日 直江雨続


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